説明

乳癌リスクを評価する方法

尿中のメタロプロテイナーゼ類(MMP)(例えばMMP9)および、ディスインテグリンおよびメタロプロテアーゼ12(ADAM12)が、乳癌を発症する高リスクを有する女性において有意に上昇し、MMP9およびADAM12両方の有無をモニタリングすることが、乳癌リスク評価のための新しい手段を提供することを示す。さらに、MMP9およびADAM12のレベルは、乳癌リスクの独立した予測因子として機能することを示す。さらに、尿中ADAM12レベルの上昇が、ゲイル5年リスクモデルに従うと乳癌のリスクがないと予測された対象において、乳癌リスクの増加を予測することを確認した66、67。したがって、乳癌リスクを評価する方法および医療ケアを指示する方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
相互参照
本出願は、35 U.S.C. §119(e)の下で2005年11月16日に出願された米国仮出願第60/737,281号および2006年9月22日に出願された米国仮出願第60/846,456号の利益を主張する。
【0002】
政府支援
本発明は、部分的に米国国立衛生研究所(NIH)助成金第PO1CA45548号による支援を受けた。米国政府は本発明に対して一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
乳癌は女性の中で最も一般的な癌であり、今日では女性の癌による死亡の2番目の原因となっている。女性がその一生で浸潤性乳癌を発症する確率は、約7人に1人(13.4%)である。世界中で、乳癌は最も一般に診断される癌の1つであり、世界で最も蔓延している癌である。米国癌協会は、米国において2005年に約211,240人の女性が浸潤性乳癌と診断され、この疾患により40,410人の女性が亡くなると予測している。浸潤性乳癌だけで、女性における癌の新しい症例の32%を占める。さらに58,490人の女性が、ごく初期の形態である粘膜内の乳癌と診断される。乳癌から生き延びるためのキーと考えられるのは、早期発見および処置である。しかし、乳癌は「予測できない疾患」と呼ばれてきており、なぜならば、マンモグラフィまたは触診による検出限界程度の非常に小さい病変であっても、既に転移性の疾患へと進行している場合があるからである。
【0004】
マンモグラフィは、現在最も高感度で広く用いられている、乳癌について女性をスクリーニングする方法である。これは現在、乳癌発見の「第一等の標準」であるが、マンモグラフィは完全に信頼が置けるものではない39。確かに、ディジタルマンモグラフィなどの最近の進歩により診断の正確さが増し、乳癌の死亡率の減少に大きな差がもたらされている40,41。しかし、全般的な診断の正確さの点で、マンモグラフィは10〜30%の偽陰性を生じ、マンモグラフィの感度および精度は、高い乳腺密度を有する女性において損なわれている42,43。偽陽性もまた重大な問題である。最近の研究によれば、米国のマンモグラフィ検査者は、全スクリーンの10%を異常と読むが、これらの殆ど全てが偽陽性であると指摘されている44,45。さらに、ほとんどの女性はこれらの手段にアクセスできるが、より高齢で経済的に障害のある女性を含む、多くの真に必要とする人々には、これらの手段は十分に活用されていない46,47。最近の研究によれば、乳房MRIはマンモグラフィより浸潤性乳癌の発見に優れており、マンモグラフィおよび超音波の2倍の感度を有することが示された48。しかし、MRIは高価であり、健康保険会社が常にカバーしているとは限らず、機関によって用いられる技術および結果の解釈にかなりの差が存在する。
【0005】
マンモグラフィへのアクセスは、少数民族の女性、低所得の女性および高齢の女性にとって重大な問題である46,47,49。費用、痛みに対する恐れ、および推奨スクリーニング指針に関する教育の欠如もまた、マンモグラフィの広い使用を制限する要因である50,51。マンモグラフィ検査には、高度な技術を有する人材および、大型で高価な機器の購入と収納、および付随する維持管理と品質保証のコストが必要とされる。これらの要因全ては、特に不利な条件の女性に対してアクセスのしやすさを制限する要因となる。
【0006】
早期発見の制限を考慮し、疾患のリスクを有する女性を識別してリスク低減方策を提供するという目的は、特に魅力的である。乳癌リスク評価は、女性の健康についてのカウンセリングにおいてますます重要な部分となっており、特に、優れた技術が発展して、どの女性が乳癌発症の最も高いリスクを有するかを予測し、癌病巣の発生を予防できるようになるにつれてこの傾向が強い。
【0007】
バイオマーカーの同定は特に、乳癌の発見、予後および処置の改善に関連する。したがって、当分野において、迅速に、容易に、および安全に検出可能な、乳癌リスクの評価のための代替的バイオマーカーに対する必要性が存在している。かかるバイオマーカーは、高い整合率(high rate of compliance)のスクリーニング法をもたらし、引き続いてのモニタリングの必要性の高い対象を識別する。
【発明の開示】
【0008】
発明の概要
我々は、尿中のメタロプロテイナーゼ(MMP類)(例えばMMP9)および、ディスインテグリン(disintegrin)およびメタロプロテアーゼ12(ADAM12)が、乳癌を発症するリスクの高い女性において大幅に増加し、MMP9およびADAM12両者の有無のモニタリングが、乳癌リスク評価のための新しい方法をもたらすことを示す。さらに我々は、MMP9およびADAM12のレベルが、乳癌リスクの独立した予測因子として機能することを示す。さらに、尿中のADAM12レベルの上昇が、ゲイルの5年リスクモデルにより乳癌リスクがないと予測された対象における、乳癌リスクの増加を予測することを明らかにした66、67。これにより、乳癌リスクを評価する方法および医療ケアを指示する方法が提供される。
【0009】
1つの側面において、対象における乳癌リスクを評価する方法が提供され、該方法は、対象からの生体試料中のADAM12の有無およびMMP9の有無を検出する。ADAM12およびMMP9両方の存在は、乳癌リスクの増加を示す。この方法はさらに、対象の病歴の1または2以上の側面を評価することを含んでよく、例えば、年齢、民族性、妊娠歴、月経歴、経口避妊薬の使用、ボディー・マス・インデックス、アルコール消費歴、喫煙歴、運動歴、食生活、乳癌、または他の癌の家族歴であって血縁者の癌診断時の年齢を含むもの、および乳癌、乳房生検、DCIS、LCIS、または異型過形成の個人病歴である。
【0010】
他の側面において、ゲイルの5年リスクモデルに従うと乳癌リスクが低いとみなされる対象における、乳癌リスクを評価するための方法が提供される。1つの態様において、該方法は、ゲイルの5年リスクモデルに従うと乳癌リスクが低い対象からの生体試料中のADAM12のレベルを検出すること、および、このレベルをADAM12の標準レベルと比較することを含み、ここで標準レベルと比較したADAM12レベルの上昇が、乳癌リスクの増加を示す。1つの態様において、ゲイルの5年リスクモデルに従うと乳癌リスクが低い対象は、1.67%未満のスコアを有する。
【0011】
他の態様において、ゲイルの5年リスクモデルに従うと乳癌リスクが低いとみなされる対象における、乳癌リスクを評価するための方法は、ゲイルの5年リスクモデルに従うと乳癌リスクが低い対象からの生体試料中のMMP9のレベルを検出すること、および、このレベルを、MMP9の標準レベルと比較することを含み、ここで標準レベルと比較したMMP9レベルの上昇が、乳癌リスクの増加を示す。1つの態様において、ゲイルの5年リスクモデルに従うと乳癌リスクが低い対象は、1.67%未満のスコアを有する。
【0012】
1つの態様において、ゲイルの5年リスクモデルに従うと乳癌リスクが低いとみなされる対象における、乳癌リスクを評価するための方法は、ゲイルの5年リスクモデルに従うと乳癌リスクが低い対象からの生体試料中のMMP9のレベルおよびADAM12のレベルを検出すること、および、このレベルを、MMP9およびADAM12の標準レベルと比較することを含み、ここで標準レベルと比較したMMP9レベルの上昇およびADAM12レベルの上昇が、乳癌リスクの増加を示す。1つの態様において、ゲイルの5年リスクモデルに従うと乳癌リスクが低い対象は、1.67%未満のスコアを有する。
【0013】
他の側面において、患者における乳癌リスクを評価するための方法が提供され、該方法は、対象から一定期間にわたり定期的に得た複数の生体試料中のADAM12のレベルおよびMMP9のレベルを測定することを含む。次に、前記生体試料中のADAM12の測定レベルおよびMMP9の測定レベルの変化を測定する。時間に伴うADAM12の測定レベルおよび/またはMMP9の測定レベルの上昇が、乳癌リスクの増加を示す。方法はさらに、対象の病歴の1または2以上の側面を評価することを含んでよく、例えば、年齢、民族性、妊娠歴、月経歴、経口避妊薬の使用、ボディー・マス・インデックス、アルコール消費歴、喫煙歴、運動歴、食生活、乳癌、または他の癌の家族歴であって血縁者の癌診断時の年齢を含むもの、および乳癌、乳房生検、DCIS、LCIS、または異型過形成の個人病歴である。1つの態様において、対象の年齢が評価される。
【0014】
他の側面において、患者における乳癌リスクを評価するための方法が提供され、該方法は、対象から一定期間にわたり定期的に得た複数の生体試料中のADAM12のレベルを測定することを含み、次に、前記生体試料中のADAM12の測定レベルの変化を測定する。時間に伴うADAM12の測定レベルの上昇が、乳癌リスクの増加を示す。方法はさらに、対象の病歴の1または2以上の側面を評価することを含んでよく、例えば、年齢、民族性、妊娠歴、月経歴、経口避妊薬の使用、ボディー・マス・インデックス、アルコール消費歴、喫煙歴、運動歴、食生活、乳癌、または他の癌の家族歴であって血縁者の癌診断時の年齢を含むもの、および乳癌、乳房生検、DCIS、LCIS、または異型過形成の個人病歴である。1つの態様において、対象の年齢が評価される。
【0015】
さらに他の側面において、患者における乳癌リスクを評価するための方法が提供され、該方法は、対象から一定期間にわたり定期的に得た複数の生体試料中のMMP9のレベルを測定することを含み、次に、前記生体試料中のMMP9の測定レベルの変化を測定する。時間に伴うMMP9の測定レベルの上昇が、乳癌リスクの増加を示す。方法はさらに、対象の病歴の1または2以上の側面を評価することを含んでよく、例えば、年齢、民族性、妊娠歴、月経歴、経口避妊薬の使用、ボディー・マス・インデックス、アルコール消費歴、喫煙歴、運動歴、食生活、乳癌、または他の癌の家族歴であって血縁者の癌診断時の年齢を含むもの、および乳癌、乳房生検、DCIS、LCIS、または異型過形成の個人病歴である。1つの態様において、対象の年齢が評価される。
【0016】
1つの態様において、生体試料は、血液、組織、血清、尿、大便、痰、血漿、脳脊髄液、乳頭吸引液、または細胞溶解物からの上清である。1つの態様において、生体試料は尿である。
【0017】
他の態様において、乳癌リスクを評価する方法はさらに、対象への癌診断検査の時期および/または頻度、または対象への癌予防的処置の時期および/または頻度を決定することを含んでよい。
【0018】
対象への医療ケアを指示するための方法も提供される。1つの態様において、医療ケアを指示する方法は、対象からの生体試料中のADAM12存在の状態およびMMP9存在の状態を用いて、前記対象における乳癌リスクを評価することを含み、ここでADAM12およびMMP9両方の存在が、乳癌リスクの増加を示し、ここでリスク増加の評価が、第2の検出法を含む医療ケアを指示する。1つの態様において、MMP9存在の状態およびADAM12存在の状態は、それぞれMMP9レベルの変化およびADAM12レベルの変化を検出することにより測定される。
【0019】
1つの態様において、医療ケアを指示するための方法は、ゲイルの5年リスクモデルに従うと乳癌リスクが低い対象からの生体試料中のADAM12のレベルを検出し、このレベルをADAM12の標準レベルと比較することにより、前記対象における乳癌リスクを評価することを含み、ここで標準レベルと比較したADAM12レベルの上昇が、乳癌リスクの増加を示し、ここでリスク増加の評価が、第2の検出法を含む医療ケアを指示する。
【0020】
1つの態様において、医療ケアを指示するための方法は、ゲイルの5年リスクモデルに従うと乳癌リスクが低い対象からの生体試料中のMMP9のレベルを検出し、このレベルをMMP9の標準レベルと比較することにより、前記対象における乳癌リスクを評価することを含み、ここで標準レベルと比較したMMP9レベルの上昇が、乳癌リスクの増加を示し、ここでリスク増加の評価が、第2の検出法を含む医療ケアを指示する。
【0021】
1つの態様において、医療ケアを指示するための方法は、ゲイルの5年リスクモデルに従うと乳癌リスクが低い対象からの生体試料中のMMP9のレベルおよびADAM12のレベルを検出し、このレベルをMMP9およびADAM12の標準レベルと比較することにより、前記対象における乳癌リスクを評価することを含み、ここで標準レベルと比較したMMP9レベルの上昇およびADAM12レベルの上昇が、乳癌リスクの増加を示し、ここでリスク増加の評価が、第2の検出法を含む医療ケアを指示する。
【0022】
第2の検出法は、例えば、マンモグラフィ、早期マンモグラフィプログラム、頻回マンモグラフィプログラム、生検法、超音波、磁気共鳴画像法、電気インピーダンス(Tスキャン)分析、乳管洗浄、ダクタグラム(ductagram)、核医学分析、熱画像法、または前記の任意の組み合わせであることができる。
【0023】
1つの態様において、対象への医療ケアを指示する方法は、対象からの生体試料中のADAM12存在の状態およびMMP9存在の状態を用いて、前記対象における乳癌リスクを評価することを含み、ここでADAM12およびMMP9両方の存在が、乳癌リスクの増加を示し、ここでリスク増加の評価が、乳癌リスク低減法を含む医療ケアを指示する。1つの態様において、MMP9存在の状態およびADAM12存在の状態は、それぞれMMP9レベルの変化およびADAM12レベルの変化を検出することにより測定される。
【0024】
1つの態様において、医療ケアを指示する方法は、ゲイルの5年リスクモデルに従うと乳癌リスクが低い対象からの生体試料中のADAM12のレベルを検出し、このレベルをADAM12の標準レベルと比較することにより、前記対象における乳癌リスクを評価することを含み、ここで標準レベルと比較したADAM12レベルの上昇が、乳癌リスクの増加を示し、ここでリスク増加の評価が、乳癌リスク低減法を含む医療ケアを指示する。
【0025】
1つの態様において、医療ケアを指示する方法は、ゲイルの5年リスクモデルに従うと乳癌リスクが低い対象からの生体試料中のMMP9のレベルを検出し、このレベルをMMP9の標準レベルと比較することにより、前記対象における乳癌リスクを評価することを含み、ここで標準レベルと比較したMMP9レベルの上昇が、乳癌リスクの増加を示し、ここでリスク増加の評価が、乳癌リスク低減法を含む医療ケアを指示する。
【0026】
1つの態様において、医療ケアを指示する方法は、ゲイルの5年リスクモデルに従うと乳癌リスクが低い対象からの生体試料中のADAM12のレベルおよびMMP9のレベルを検出し、このレベルをADAM12およびMMP9の標準レベルと比較することにより、前記対象における乳癌リスクを評価することを含み、ここで標準レベルと比較したADAM12レベルの上昇およびMMP9レベルの上昇が、乳癌リスクの増加を示し、ここでリスク増加の評価が、乳癌リスク低減法を含む医療ケアを指示する。
【0027】
乳癌リスク低減法は、例えば、選択的ホルモン受容体モジュレータの投与、例えば、タモキシフェンもしくはラロキシフェンの投与、または抗血管形成療法であることができる。
【0028】
1つの態様において、ADAM12存在の状態およびMMP9存在の状態の連続モニタリングは、少なくとも年4回、少なくとも2ヶ月に1回、少なくとも2週間に1回、少なくとも週に1回、少なくとも3日毎、または少なくとも毎日実施される。
【0029】
1つの態様において、ADAM12のレベルの連続モニタリングは、少なくとも年4回、少なくとも2ヶ月に1回、少なくとも2週間に1回、少なくとも週に1回、少なくとも3日毎、または少なくとも毎日実施される。
【0030】
乳癌リスク低減方策の治療的有効性をモニタリングするための方法も提供される。1つの態様において、対象からの生体試料中のADAM12存在の状態およびMMP9存在の状態が、前記対象における乳癌リスクの評価に用いられ、ここでADAM12レベルの低下および/またはMMP9レベルの低下が、前記乳癌リスク低減方策が有効であることを示す。生体試料中のADAM12存在の状態およびMMP9存在の状態は、生体試料中のADAM12のレベルまたはMMP9のレベルの変化を検出することにより、測定することができる。
【0031】
他の態様において、乳癌リスク低減方策の治療的有効性をモニタリングするための方法は、a)対象から一定期間にわたり定期的に得た複数の生体試料中のADAM12のレベルおよびMMP9のレベルを測定すること;およびb)ADAM12の測定レベルの変化およびMMP9の測定レベルの変化を測定すること、のステップを含む。時間に伴う、ADAM12の測定レベルの低下および/またはMMP9の測定レベルの低下が、前記乳癌リスク低減方策が有効であることを示す。
【0032】
1つの態様において、ゲイルの5年リスクモデルに従うと乳癌リスクが低い対象からの生体試料中のADAM12のレベルを、該対象における乳癌リスクの評価のために用い、ここでADAM12レベルの低下が、乳癌リスク低減方策が有効であることを示す。他の態様において、ゲイルの5年リスクモデルに従うと乳癌リスクが低い対象からの生体試料中のMMP9のレベルを、該対象における乳癌リスクの評価のために用い、ここでMMP9レベルの低下が、乳癌リスク低減方策が有効であることを示す。さらに他の態様において、ゲイルの5年リスクモデルに従うと乳癌リスクが低い対象からの生体試料中のMMP9のレベルおよびADAM12のレベルを、該対象における乳癌リスクの評価のために用い、ここでMMP9レベルの低下およびADAM12レベルの低下が、乳癌リスク低減方策が有効であることを示す。
【0033】
本発明の他の側面は、対象の処置を指示する方法を含む。1つの態様において、該方法は、対象を、該対象から得た生体試料中のADAM12の存在およびMMP9の存在について検査することを含み、ここで臨床医が結果を検討し、前記生体試料がADAM12の存在およびMMP9の存在について陽性である場合、臨床医は前記対象に適切な医療処置を指示する。1つの態様において、対象から一定期間にわたり定期的に得た複数の生体試料を検査し、該生体試料中のADAM12およびMMP9の測定レベルにおける変化を測定する。MMP9および/またはADAM12レベルの上昇が検出された場合は、臨床医は前記対象に適切な医療処置を指示する。
【0034】
1つの態様において、対象の処置を指示する方法は、ゲイルの5年リスクモデルに従うと乳癌リスクが低い対象を、該対象から得た生体試料中のADAM12のレベルについて検査することを含み、ここで臨床医が結果をADAM12の標準レベルと比較して検討し、前記生体試料が標準レベルと比較してADAM12のレベルの上昇を有する場合、臨床医は前記対象に適切な医療処置を指示する。適切な医療処置は、例えば、第2検出法または乳癌減少処置を含む医療ケアであることができる。
【0035】
1つの態様において、対象の処置を指示する方法は、ゲイルの5年リスクモデルに従うと乳癌リスクが低い対象を、該対象から得た生体試料中のMMP9のレベルについて検査することを含み、ここで臨床医が結果をMMP9の標準レベルと比較して検討し、前記生体試料が標準レベルと比較してMMP9のレベルの上昇を有する場合、臨床医は前記対象に適切な医療処置を指示する。適切な医療処置は、例えば、第2検出法または乳癌減少処置を含む医療ケアであることができる。
【0036】
1つの態様において、対象の処置を指示する方法は、ゲイルの5年リスクモデルに従うと乳癌リスクが低い対象を、該対象から得た生体試料中のADAM12のレベルおよびMMP9のレベルについて検査することを含み、ここで臨床医が結果をADAM12およびMMP9の標準レベルと比較して検討し、前記生体試料が標準レベルと比較してADAM12のレベルの上昇およびMMP9のレベルの上昇を有する場合、臨床医は前記対象に適切な医療処置を指示する。適切な医療処置は、例えば、第2検出法または乳癌減少処置を含む医療ケアであることができる。
【0037】
検査は、対象が居住する国において、または他の国において行うことができ、結果は例えばウェブサイトを介して利用可能であり、または臨床医に送信される。
【0038】
1つの態様において、第2検出法は、マンモグラフィ、早期マンモグラフィプログラム、頻回マンモグラフィプログラム、生検法、超音波、磁気共鳴画像法、電気インピーダンス(Tスキャン)分析、乳管洗浄、ダクタグラム、核医学分析、熱画像法、または前記の任意の組み合わせである。
【0039】
1つの態様において、乳癌低減処置は、ホルモン受容体モジュレータによる処置または抗血管形成療法である。
【0040】
発明の詳細な説明
本発明は、女性の尿中のADAM12およびMMP9両方の存在が、浸潤性乳癌を発症するリスクの増加を指し示す乳房病変の、非常に高い発生率と相関するとの発見に基づく。151人の女性での研究において、乳癌発症リスクの増加に関連する病変の存在について、ADAM12およびMMP9の存在はそれぞれ個別に50〜67%および25〜40%の確率を示す一方で、これら両方の存在は100%の確率を示した。ADAM12レベルの上昇は、ゲイルの5年リスクモデルに従うと乳癌に対して低いリスクを示す対象において、乳癌リスクの増加を示すことも、明らかにされた。
【0041】
したがって、本発明の態様は、対象における乳癌リスクを、対象から得た生体試料中のADAM12の有無およびMMP9の有無を検出することにより、評価する方法を提供する。MMP9およびADAM12両方の存在は、乳癌リスクの増加を示す。1つの態様において、MMP9存在の状態およびADAM12存在の状態は、それぞれMMP9レベルの変化およびADAM12レベルの変化を検出することにより測定する。
【0042】
ADAM12のレベルおよびMMP9レベルはまた、乳癌リスクの独立した予測因子としても機能するため、本発明の態様はさらに、対象における乳癌リスクを、対象からの生体試料中のMMP9のレベルまたはADAM12のレベルを測定することにより、評価する方法を提供し、ここでMMP9レベルの上昇またはADAM12レベルの上昇が、乳癌リスクの増加を示す。
ADAM12レベルおよびMMP9レベルは、対象から一定期間にわたり定期的に得た複数の生体試料において測定することができる。
【0043】
さらに提供されるのは、ゲイルの5年リスクモデルに従うと乳癌リスクが低いとみなされる対象における、乳癌リスクを評価するための方法である。該方法は、ゲイルの5年リスクモデルに従うと乳癌リスクが低い対象からの生体試料中のADAM12のレベルを検出すること、および、このレベルをADAM12の標準レベルと比較することを含み、ここで標準レベルと比較したADAM12レベルの上昇が、乳癌リスクの増加を示す。1つの態様において、方法は、ゲイルの5年リスクモデルに従うと乳癌リスクが低い対象からの生体試料中のMMP9のレベルを検出すること、および、このレベルをMMP9の標準レベルと比較することを含み、ここで標準レベルと比較したMMP9レベルの上昇が、乳癌リスクの増加を示す。1つの態様において、方法は、ゲイルの5年リスクモデルに従うと乳癌リスクが低い対象からの生体試料中のMMP9のレベルおよびADAM12のレベルを検出すること、および、このレベルをMMP9およびADAM12の標準レベルと比較することを含み、ここで標準レベルと比較したMMP9レベルの上昇およびADAM12レベルの上昇が、乳癌リスクの増加を示す。
【0044】
乳癌リスクの評価は、例えば乳房の任意の異常な病変の位置を検出可能な、または乳房の癌性病変の存在を検出可能な第2検出法を必要とする対象を識別する方法を提供する。
本明細書において、「ADAM12」または「ディスインテグリンおよびメタロプロテイナーゼドメイン12」または「ADAMメタロペプチダーゼドメイン12」は、GenbankアクセッションNM_003474、NM_021641、NP_003465、NP_067673(ホモサピエンス)(配列番号1)のADAM12タンパク質を指す。この用語はまた、変種、相同体、対立形質、突然変異体およびこれらの等価物も包含する。ADAM12は細胞接着を媒介することが知られており、シンデカンおよびインテグリン相互作用を介して拡散し、肝臓癌において腫瘍の攻撃性および進行のマーカーとして関与するとされている(Pabic et al. Hepatology. 2003; 37(5):1056-1066)。乳癌におけるADAM12の関与は知られており(Kveiborg et al. Cancer Res. 2005; 65:4754-61.;Thodeti et al. FEBS Lett. 2005; 579:5589-95.;Roy et al. J Biol Chem. 2004; 279:51323-30;WO 05/071387)、非癌性病変を有する対象の尿におけるその存在も知られている(Roy et al. J Biol Chem. 2004; 279:51323-30)。しかし、ADAM12単体でのバイオマーカーとしての有効性は、悪性乳癌についてのみが示されていた。
【0045】
本明細書において、「MMP9」または「マトリックスメタロプロテイナーゼ9」は、Genbankアクセッション番号NM 004994およびNP 004985の、92kDaのゼラチナーゼ(EC 3.4.24.35)を指す。MMP9は、Wilhelm et al. (1989)によって最初に精製され、続いてクローニングおよび配列決定された分泌タンパク質である。Vu & Werb (1998)によるMMP9の概説は、このプロテアーゼについての優れた詳細な情報源および参考文献を提供する。他の分泌MMP類と同様、MMP9は、プロペプチドドメインを含む不活性なプロ酵素または前駆体として放出される。プロ酵素は続いて開裂されて活性酵素を形成する。
本明細書において、用語「目的のタンパク質」は、ADAM12およびMMP9を個別にかまたは一緒にして指す。
【0046】
本明細書において、用語「異型(atypia)」は、「異型過形成」もしくは「AH」、または「異型小葉過形成」もしくは「ALH」、または「異型乳管過形成」もしくは「ADH」と同じ意味で用いられる。異型は、将来の乳癌発症のリスク要因であることが示されており、女性の相対リスクを一般人口のそれの5.3倍に引き上げている。このリスクは、対象が乳癌を有する第一度近親者を有する場合、さらに増加する(10倍のリスク)26〜28。学名にも関わらず、上皮内小葉癌(LCIS)もまた、前駆病変というよりむしろリスク増加のマーカーと考えられている29、30。しかし、LCISはある範囲の状態を含み、多形性変異体などのこれらの小さなサブセットも実際に前駆病変となり得ることが認識されている31、32。LCISの診断率は、調査・疫学および最終結果(Surveillance, Epidemiology, and End Results: SEER)プログラムに加えられた、9つの人口に基づく癌登録の記録によれば、閉経後の女性において1978年から1998年に4倍に増加した29。異型過形成(AH)の診断もまた増加しているようである。異型の率は、この診断が腫瘍登録に要求されておらず、これの診断がSEERデータに記録されていないために、追跡が困難である。1980年代および1990年代に、幾つかの大規模な研究により、AHが良性の乳房生検全体の5%未満を占めることが示された33、34。最近の大規模な一連の歴史的調査では、異型は良性の乳房生検全体の4%を占めていた35。より最近の報告では、異型率は良性の生検の7%に近づいている36。マウント・オーバーン病院における生検結果の追跡では、1997年〜2004年にADHにおいて2倍、およびLCISにおいて3倍の増加が見られた(表A)。これは、少なくとも部分的に、マンモグラフィによるスクリーニングの増加が原因である可能性が高く、何故ならばADHは異常なマンモグラムで最も頻繁に同定されるからである37。乳癌の非常に高い遺伝的リスクを有し、予防的乳腺切除を行った女性からの乳房試料についての最近の前向き研究において、これら高リスク病変が、前記女性の57%に見出されたことは興味深い38。これらのうち、37%は異型小葉過形成(ALH)であり、39%は異型乳管過形成(ADH)であり、25%はLCISであった38。異型は、異常なマンモグラムや身体的所見に対して行われた乳癌生検において、もっとも頻繁に診断されるが、乳頭吸引液、ランダムな乳輪周辺の針吸引および乳管洗浄でも記録され得る
表A.生検結果の変化の傾向
【表1】

【0047】
本明細書において、「生体試料」は、対象から、好ましくはヒトの対象から得た生体物質の試料を指し、組織、組織試料、細胞試料、例えば組織生検、例としては吸引生検、ブラシ生検、表面生検(surface biopsy)、針生検、パンチ生検、切除生検、直視下生検、切開生検または内視鏡生検、および腫瘍試料を含む。生体試料はまた、生体液試料であってもよい。1つの態様において、生体試料は尿である。しかし、血液、血清、血漿、唾液、脳脊髄液、乳頭吸引液、および細胞溶解物からの上清もまた用いることができる。
【0048】
本発明の態様はまた、本発明の方法における生体試料の分離株(isolate)の使用も包含する。本明細書において、生体試料の「分離株」(例えば、組織または腫瘍試料の分離株)は、試料から分離され、誘導され、抽出され、精製されまたは単離された、物質または組成物(例えば生体物質または組成物)であって、好ましくは生体試料に付随する望ましくない組成物および/または不純物または汚染物のないものを指す。
【0049】
本明細書において、「組織試料」は、例えばヒトなどの対象の無傷組織から得たかまたは取り出した組織の一部、断片、部分、分節、または画分を指す。1つの態様において、組織試料は哺乳類の組織である。
本明細書において、用語「対象」または「患者」は、一般に哺乳類を指す。
1つの態様において、生体試料は、タンパク質またはmRNA、例えばADAM12タンパク質、ADAM12mRNA、MMP9タンパク質、MMP9mRNAの分解の防止について処置される。分解を阻害または防止するための方法は、限定することなく、生体試料のタンパク質分解酵素阻害剤またはRNA分解酵素阻害剤による処置、生体試料の凍結処理、または生体試料を氷上に置くことなどを含む。好ましくは、分析の前に、生体試料または分離株は、タンパク質またはmRNA、例えばADAM12タンパク質、ADAM12mRNA、MMP9タンパク質、MMP9mRNAの分解を防止する状態で定常的に維持する。
【0050】
本明細書において、用語「乳癌リスクの増加」は、一般の人口のそれに比べて増加した乳癌リスクを指すために用いる。乳癌リスクの増加を有するとされる人は、乳癌の発症についてモニタリングが必要である。乳癌リスクの増加を有するとされる人は、乳癌リスクのマーカーの継続的な存在についてモニタリングすること、新しい乳癌リスクマーカーの発生についてモニタリングすること、または乳癌リスクマーカーの存在の発見が必要である。乳癌リスクマーカーは本発明のタンパク質およびリスクの遺伝子マーカーを含み、後者は限定なく、BRCA1およびBRCA2、乳癌の家族歴、喫煙習慣または過去の喫煙習慣、アルコール消費および当業者に知られている他の乳癌リスクのマーカーを含む。
【0051】
本明細書において、MMP9およびADAM12の有無またはADAM12のレベルの「連続モニタリング」は、1回より多く、例えば年4回、2ヶ月に1回、毎月、2週間に1回、週に1回、3日毎または毎日、試料中に、MMP9またはADAM12の有無を検出すること、またはADAM12のレベルを測定することを指す。連続モニタリングは、当業者が必要と判断する一定の間隔で、定期的に測定することを含む。
【0052】
本明細書で用いる用語「標準レベル」は、癌を有さないと考えられる「正常」または「健康」な対象から得た1または2以上の生体試料から決定された、ADAM12またはMMP9のベースライン量を指す。標準の人口に対してあるレベルが確立されると、検査した生体試料の結果を既知の標準レベルと直接比較することができる。例えば、ベースラインは少なくとも1つの対象から、好ましくは複数対象(例えばn=2〜100以上)の平均から得てよく、ここで該1つの対象または複数対象は、癌の前歴は有さないものとする。
【0053】
本明細書において、用語「標準レベル」はまた、乳癌リスクについてモニタリングすべき対象において決定された、ADAM12またはMMP9のベースライン量も含むことを意図する。例えば、対象の試料中のADAM12またはMMP9の量を、正常対象者らから得た標準レベルと直接比較する必要はなく、むしろ、前記対象から一定期間にわたって得た複数の生体試料中に存在するADAM12またはMMP9レベルの変化を測定することができ、例えば、比較に用いる標準レベルは、前記対象から得た最初の生体試料中で測定されたADAM12またはMMP9のレベルである。ある期間中のADAM12またはMMP9の測定レベルの上昇は、乳癌リスクの増加を示す。代替的に、乳癌リスク低減方策の治療的有効性を試験する場合、時間に伴うADAM12および/またはMMP9の測定レベルの低下は、乳癌リスク低減方策が有効であることを示す。
【0054】
本明細書において、「一定期間」は、数日、数週間、数ヶ月または数年の期間を含むことを意図する。複数の生体試料は、一定期間にわたって対象から得る;すなわち、対象からの生体試料を時間にわたって定期的に、様々な間隔で得る。生体試料は、任意の間隔で対象から得ることができる。例えば、生体試料は、数週間、数ヶ月または数年の間毎日採取することができる。代替的に、生体試料は、週に1回、週に2回、週に3回、週に4回、週に5回、または週に6回、数週間、数ヶ月間または数年間にわたって得ることができる。1つの態様において、生体試料は3ヶ月の期間、週に1回得る。1つの態様において、生体試料は、数ヶ月または数年の期間、月に1回得る。
【0055】
比較のために、測定すべき生体試料中のADAM12またはMMP9のレベルは、ベースライン標準レベルの決定に用いたものと同じ種類の(同じ生体源から得た)ものである。例えば、本発明の1つの態様において、ADAM12のレベルは、尿中のADAM12タンパク質のレベルを測定することにより、測定する。したがってベースライン標準レベルは、正常で健康な対象からの、尿中のADAM12タンパク質のレベルを測定して決定する。他の態様において、ADAM12のレベルは、組織試料中のADAM12mRNA転写物の量を測定することによって測定し、したがってベースライン標準レベルは、正常で健康な対象からの、組織試料中のADAM12mRNA転写物の量を測定することにより、決定する。
【0056】
本明細書において、ADAM12またはMMP9の測定レベルの、標準レベルと比較した「上昇」とは、試料中のADAM12またはMMP9の量または濃度が、ADAM12またはMMP9の標準レベルに比べて、対象の生体試料中で十分に大きいことを意味する。例えば、標準レベルに比較した測定レベルの上昇は、検出可能な、任意の統計的に有意な上昇であってよい。かかる上昇は、限定なく、標準と比較して約1%、約10%、約20%、約40%、約80%、約2倍、約4倍、約8倍、約20倍、または約100倍もしくはそれ以上の上昇を含んでよい。本明細書で用いる用語「約」は、ある数値からプラスおよびマイナス10%の範囲を指す。
【0057】
ADAM12およびMMP9の検出
発現レベルの測定を含む、ADAM12およびMMP9の検出は、本明細書に記載のように、当業者に知られた任意の方法で行うことができ、これには限定することなく、ゲル電気泳動、クロマトグラフィ技法、イムノブロット解析、免疫組織化学法、酵素に基づく免疫学的検定、質量分析、高圧液体クロマトグラフィ、表面プラズモン共鳴、光バイオセンサー、および/または抗体およびタンパク質アレイを含む(Ausubel, F. A. et al., eds., 1990, Current Protocols in Molecular Biology. Greene Publishing and Wiley-Interscience, New York, USA, Chapter 10;Myszka and Rich 2000, Pharm. Sci. Technol. Today 3:310-317)。
【0058】
1つの態様において、抗体または抗体等価物を用いて、生体試料中のADAM12およびMMP9タンパク質を検出する。他の態様において、ADAM12およびMMP9の発現を検出する他の方法、例えばmRNA転写物の解析により発現を測定するなどが用いられる。mRNAの測定は、例えば生体試料が腫瘍または組織試料の場合に好ましい。1つの態様において、ADAM12の検出に用いる方法は、MMP9の検出に用いる方法と異なる。例えば、MMP9はザイモグラフィにより検出でき、ADAM12はウェスタンブロットにより検出できる。
【0059】
1つの態様において、本発明の方法は、対象の生体試料中の他の分析物のための検出方法と、例えば他のmRNAまたはタンパク質または小分子、例えば癌リスクに関連する他のマーカー、例えば乳癌リスクの増加に関連する他のマーカー、例えば癌に関連する他のマーカーのための検出方法と同時に実施してもよい。
【0060】
mRNAのレベルを検出するための方法は当業者に知られている。例えば、RNA転写物の検出は、ノーザンブロッティングにより行うことができ、ここでRNAの調製は変性アガロースゲル上で行って、好適な支持体、例えば活性セルロース、ニトロセルロースまたはガラスもしくはナイロン膜などに移す。次に、標識された(例えば放射標識された)cDNAまたはRNAを調製物にハイブリダイズし、洗浄し、オートラジオグラフィなどの方法により分析する。目的のmRNA、例えばADAM12やMMP9などの、既知の配列に基づきハイブリダイゼーション用のプローブを生成する方法は、当業者に知られている。
【0061】
RNA転写物の検出はさらに、既知の増幅法を用いて行うこともできる。例えば、以下の方法も本発明の範囲内である:mRNAをcDNAに逆転写した後にポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)を行うこと、または、米国特許第5,322,770号に記載のように、1つの酵素を両方の段階で用いること、または、R. L. Marshall, et al., PCR Methods and Applications 4: 80-84 (1994)に記載のように、mRNAをcDNAに逆転写した後に対称ギャップリパーゼ連鎖反応(symmetric gap lipase chain reaction:RT−AGLCR)を行うこと。ADAM12のmRNA転写物を検出するための1つの適した方法は、参考文献Pabic et al. Hepatology, 37(5): 1056-1066, 2003に記載されており、これの全体は参照として本明細書に組み込まれる。目的遺伝子の既知の核酸配列に基づき増幅用のプライムを生成する方法は、当業者に知られている。
【0062】
本明細書で利用可能なその他の既知の増幅法は、限定することなく、PNAS USA 87: 1874-1878 (1990)およびNature 350 (No. 6313): 91-92 (1991)に記載のいわゆる「NASBA」または「3SR」技法;刊行の欧州特許出願(EPA)第4544610号に記載のQ−ベータ増幅;鎖置換増幅(G.T. Walker et al., Clin. Chem. 42: 9-13 (1996)および欧州特許出願第684315号に記載);およびPCT刊行物WO 9322461に記載の標的媒介増幅を含む。
【0063】
In situハイブリダイゼーション可視化もまた用いることができ、ここで放射標識アンチセンスRNAプローブを生検試料の薄い切片とハイブリダイズし、洗浄し、リボヌクレアーゼで開裂し、オートラジオグラフィ用に感光乳剤に暴露する。試料はヘマトキシリンで染色して、試料の組織学的組成を明らかにし、好適な光フィルターを用いた暗視野画像化により、現像された乳剤を示す。ジゴキシゲニンなどの非放射性標識を用いてもよい。
【0064】
代替的に、mRNA発現はDNAアレイ、チップまたはマイクロアレイ上で検出することができる。例えばADAM12またはMMP9などの目的の遺伝子に対応するオリゴヌクレオチドをチップ上に固定し、これを次に、対象から得た検査試料の標識された核酸とハイブリダイズする。正のハイブリダイゼーションシグナルは、例えばADAM12またはMMP9などの目的の遺伝子に対する転写物を含む試料に得る。DNAアレイを調製する方法およびそれらの使用は、当分野によく知られている。(例えば米国特許番号第6,618,6796号、第6,379,897号、第6,664,377号、第6,451,536号、第548,256号;U.S. 20030157485およびSchena et al. 1995 Science 20: 467-470;Gerhold et al. 1999 Trends in Biochem. Sci. 24, 168-173;およびLennon et al. 2000 Drug discovery Today 5: 59-65;これらはその全体が参照として本明細書に組み込まれる)。遺伝子発現の連続分析(SAGE)も実施することができる(例えば米国特許出願20030215858)。
【0065】
mRNAレベルをモニタリングするため、例えば、mRNAを検査すべき生体試料から抽出し、逆転写して、蛍光で標識したcDNAプローブを生成する。例えばADAM12またはMMP9などの目的のcDNAにハイブリダイズすることができるマイクロアレイを、次に、標識したcDNAプローブでプローブし、スライドを走査して蛍光強度を測定する。この強度がハイブリダイゼーション強度および発現レベルと相関する。
【0066】
例えばADAM12またはMMP9などのタンパク質もまた検出することができ、これには、生体試料が血液または尿などの液体試料である場合に、タンパク質レベルを測定すること、タンパク質活性を測定することを含む。1つの態様において、例えばADAM12やMMP9などのタンパク質は、生体試料を、このタンパク質またはこのタンパク質の断片に特異的に結合する抗体ベースの結合部分と接触させることにより検出する。次に抗体−タンパク質複合体の形成を検出し、これを測定してタンパク質レベルを示すことができる。
【0067】
用語「抗体ベースの結合部分(antibody-based binding moiety)」または「抗体」は、免疫グロブリン分子および免疫グロブリン分子の免疫学的に活性な決定基(determinant)を含み、例えば、例えばADAM12やMMP9などの目的タンパク質に特異的に結合する(免疫反応する)抗原結合部位を含む分子である。用語「抗体ベースの結合部分」は、例えば任意のアイソタイプ(IgG、IgA、IgM、IgEなど)の全抗体を含むことを意図し、例えばADAM12やMMP9などの目的のタンパク質に特異的に結合するこれらの断片も含む。抗体は、従来技術を用いて断片化することができる。したがって、この用語は、あるタンパク質と選択的に反応可能な抗体分子の、タンパク質分解技術により開裂された分節、または遺伝子組み換え技術により調製された部分を含む。かかるタンパク質分解および/または遺伝子組み換え断片の非限定的な例は、Fab、F(ab’)2、Fab’、Fv、dAbsおよびペプチドリンカーにより接合されたVLおよびVHドメインを含む一本鎖抗体(scFv)を含む。scFvは共有結合または非共有結合で結合されて、2または3以上の結合部位を有する抗体を形成することができる。したがって、「抗体ベースの結合部分」は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、または抗体の他の精製調製物および組換え抗体を含む。用語「抗体ベースの結合部分」はさらに、ヒト化抗体、二重特異性抗体、および抗体分子に由来する少なくとも1つの抗原結合決定基を有するキメラ分子を含むことを意図する。好ましい態様において、抗体ベースの結合部分は検出可能となるように標識される。
【0068】
「標識抗体」は、本明細書において用いる場合、検出可能な手段により標識された抗体を含み、これには限定することなく、酵素的に、放射活性物質により、蛍光的に、および化学発光により標識された抗体を含む。抗体はまた、検出可能なタグ、例えばc−Myc、HA、VSV−G、HSV、FLAG、V5またはHISなどにより標識することもできる。
抗体ベースの結合部分を、例えばADAM12やMMP9などの目的タンパク質の検出のために用いる本発明の方法において、生体試料中に存在する目的タンパク質のレベルは、検出可能に標識された抗体が発するシグナルの強度に相関する。
【0069】
1つの態様において、抗体ベースの結合部分を、抗体を酵素に結合することにより検出可能に標識する。酵素は次に、その基質に暴露されるとその基質と反応して、例えば分光光度分析により、蛍光分析により、または可視的手段により検出可能な化学的部分を生成する。本発明の抗体を検出可能に標識するために用いることができる酵素は、限定はされないが、リンゴ酸脱水素酵素、ブドウ球菌のヌクレアーゼ、デルタ−V−ステロイドイソメラーゼ、酵母アルコール脱水素酵素、アルファ・グリセロリン酸デヒドロゲナーゼ、トリオースリン酸イソメラーゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、アスパラギナーゼ、ブドウ糖酸化酵素、β−ガラクトシダーゼ、リボヌクレアーゼ、ウレアーゼ、カタラーゼ、グルコース−VI−リン酸脱水素酵素、グルコアミラーゼ、およびアセチルコリンエステラーゼを含む。化学発光は、抗体ベースの結合部分を検出するのに用いることができる別の方法である。
【0070】
検出はまた、他の種々の免疫学的検定の任意のものを用いて行ってもよい。例えば、抗体を放射活性物質で標識し、この抗体をラジオイムノアッセイを用いて検出することができる。放射性同位体は、ガンマカウンターもしくはシンチレーションカウンターを用いる方法などにより、またはオートラジオグラフィにより、検出することができる。本発明の目的に特に有用な同位体は、H、131I、35S、14Cおよび好ましくは125Iである。
【0071】
抗体を蛍光化合物で標識することもできる。蛍光標識された抗体を適切な波長の光に暴露すると、その存在が蛍光により検出できる。最も一般的に用いられる蛍光標識化合物は、CYE染料、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、フィコエリセリン(phycoerytherin)、フィコシアニン、アロフィコシアニン、o−フタアルデヒド(o-phthaldehyde)およびフルオレスカミンである。
抗体はまた、例えば125Euまたは他のランタニド系などの蛍光発光金属を用いて、検出可能に標識することができる。これらの金属は、ジエチレントリアミン5酢酸(DTPA)またはエチレンジアミン4酢酸(EDTA)などの金属キレート基を用いて、抗体に結合させることができる。
【0072】
抗体はまた、これを化学発光化合物にカップリングすることにより、検出可能に標識することができる。化学発光抗体の存在は、化学反応過程の間に生じる発光の存在を検出することにより決定される。特に有用な化学発光標識化合物は、ルミノール、ルシフェリン、イソルミノール、セロマチックアクリジニウムエステル(theromatic acridinium ester)、イミダゾール、アクリジニウム塩およびシュウ酸エステルである。
上記のように、例えばADAM12やMMP9などの本発明のタンパク質は、例えば酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、免疫放射分析(IRMA)、ウェスタンブロッティング、または免疫組織化学分析などの免疫学的検定によって検出することができ、これらの各々は、以下にさらに詳細に記載される。ELISAまたはRIAなどの免疫学的検定は非常に迅速に行うことができ、より一般に好ましい。抗体アレイまたはタンパク質チップもまた用いることができ、例えば米国特許出願第20030013208A1号、第20020155493A1号、第20030017515号、および米国特許第6,329,209号、第6,365,418号を参照のこと;これらはその全体が参照として本明細書に組み込まれる。
【0073】
免疫学的検定
「ラジオイムノアッセイ」は、例えば放射活性物質などにより標識された形態の抗原を用いて、抗原の濃度を検出および測定する技法である。抗原に対する放射性標識の例は、H、14Cおよび125Iを含む。生体試料中の、例えばADAM12やMMP9などの抗原の濃度は、生体試料中の抗原を、例えば放射活性物質で標識した抗原と、該抗原に対する抗体への結合について競合させることにより測定する。標識抗原と非標識抗原の間の競合的結合を保証するために、標識抗原は抗体の結合部位を飽和するのに十分な濃度で存在する。試料中の抗原の濃度が高いほど、抗体に結合する標識抗原の濃度は低くなる。
【0074】
ラジオイムノアッセイにおいて、抗体に結合した標識抗原の濃度を決定するため、抗原−抗体複合体を遊離の抗原から分離しなければならない。抗原−抗体複合体を遊離の抗原から分離するための1つの方法は、抗原−抗体複合体を抗アイソタイプ抗血清で沈殿させることによる。抗原−抗体複合体を遊離の抗原から分離するための他の方法は、抗原−抗体複合体をホルマリン殺菌された黄色ブドウ球菌(formalin-killed S. aureus)で沈殿させることによる。抗原−抗体複合体を遊離の抗原から分離するためのさらに他の方法は、「固相ラジオイムノアッセイ」を行うことによるものであり、ここで抗体は、セファロースビーズ、ポリスチレンウェル、ポリビニルクロリドウェル、またはマイクロタイターウェルに(例えば共有結合で)結合される。抗体に結合した標識抗原の濃度を、既知の濃度の抗原を有する試料に基づく標準曲線と比較することにより、生体試料中の抗原の濃度を決定することができる。
【0075】
「イムノラジオメトリックアッセイ」(IRMA)は、抗体試薬が放射活性物質で標識されている免疫学的検定である。IRMAには、例えばラビット血清アルブミン(RSA)等のタンパク質への結合の技法などによる、多価の抗原複合体の産生が必要である。多価の抗原複合体は、1分子あたり少なくとも2つの抗原残基を有していなければならず、該複数の抗原残基は、少なくとも2個の抗体の抗原への結合を許容するために十分離れた距離になければならない。例えば、IRMAにおいて、多価の抗原複合体はプラスチック球体などの固体表面に付着することができる。非標識「試料」抗原および放射活性物質で標識された抗原に対する抗体を、多価の抗原複合体で被覆された球体を含む試験管に加える。試料中の抗原は、多価の抗原複合体と、抗原抗体結合部位について競合する。適切なインキュベーション期間の後に、非結合反応物を洗浄により除去し、固体相上の放射活性の量を決定する。結合した放射活性抗体の量は、試料中の抗原の濃度に反比例する。
【0076】
最も一般的な酵素免疫学的検定は、「酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)」である。ELISAは、標識された、例えば酵素結合された形態の抗体を用いて、抗原の濃度を検出および測定するための技法である。ELISAには異なる様式があり、これらは当業者に知られている。ELISAについて当分野で知られた標準の技法は、”Methods in Immunodiagnosis,” 2nd Edition, Rose and Bigazzi, eds. John Wiley & Sons, 1980;Campbell et al., “Methods and Immunology”, W. A. Benjamin, Inc., 1964;およびOellerich, M. 1984, J. Clin. Chem. Clin. Biochem., 22: 895-904に記載されている。
【0077】
「サンドイッチELISA」では、例えば抗ADAM12や抗MMP9などの抗体を、例えばマイクロタイタープレートなどの固相に結合させ、例えばADAM12やMMP9などの抗原を含有する生体試料に暴露させる。次に固相を洗浄し、結合しなかった抗原を除去する。次に、例えば酵素結合などで標識された抗体を、結合抗原がもし存在する場合はこれに結合させ、抗体−抗原−抗体サンドイッチを形成させる。抗体に結合可能な酵素の例は、アルカリフォスファターゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、ルシフェラーゼ、ウレアーゼ、およびβ−ガラクトシダーゼである。酵素結合抗体は基質と反応して、測定可能な発色反応産物を生成する。
【0078】
「競合ELISA」では、抗体を、例えばADAM12やMMP9などの抗原を含有する試料とインキュベーションする。次に抗原−抗体混合物を、例えばADAM12やMMP9などの抗原で被覆した、マイクロタイタープレートなどの固相と接触させる。試料中により多くの抗原が存在するほど、固相に結合可能な遊離の抗体は少なくなる。例えば酵素結合などで標識された二次抗体を、次に固相に加えて、固相に結合した一次抗体の量を決定する。
【0079】
「免疫組織化学分析」では、組織切片を、特定タンパク質について、分析するタンパク質に特異的な抗体に該組織を暴露することにより検査する。次に抗体を、タンパク質の存在およびその量を決定する多数の方法の中の任意の方法により可視化する。抗体を可視化するために用いる方法の例は、例えば、抗体に結合する酵素、例えばルシフェラーゼ、アルカリフォスファターゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、またはβ−ガラクトシダーゼなどを介するか、または例えばDAB/基質クロマゲン(chromagen)などの化学的方法である。
【0080】
他の技法も、例えばADAM12やMMP9などの本発明のタンパク質を検出するために用いてよく、本開示に基づき実施者の選好に従って行う。かかる技法の1つはウェスタンブロッティング(Towbin et al., Proc. Nat. Acad. Sci. 76:4350 (1979))であり、ここでは、好適に処理された試料をSDS−PAGEゲル上に流した後、ニトロセルロースフィルターなどの固体支持体に移す。次に、検出可能に標識された、例えば抗ADAM12や抗MMP9などの抗体を用いて、例えばADAM12やMMP9などのタンパク質のレベルを検出および/または評価することができ、ここで検出可能な標識からのシグナルの強度が、存在するADAM12やMMP9などのタンパク質の量に対応する。レベルは、例えば濃度測定などにより定量することができる。
【0081】
さらに、例えばADAM12やMMP9などのタンパク質は、例えば以下のような質量分析を用いて検出することもできる:MALDI/TOF(飛行時間型)、SELDI/TOF、液体クロマトグラフィ質量分析(LC−MS)、ガスクロマトグラフィ質量分析(GC−MS)、高速液体クロマトグラフィ質量分析(HPLC−MS)、キャピラリー電気泳動質量分析、核磁気共鳴分析、またはタンデム質量分析(例えば、MS/MS、MS/MS/MS、ESI−MS/MSなど)。例えば米国特許出願第20030199001号、第20030134304号、第20030077616号を参照のこと;これらは本明細書に参照として組み込まれる。
【0082】
質量分析法は当分野に知られており、タンパク質などの生体分子を定量および/または同定するために用いられている(例えばLi et al. (2000) Tibtech 18:151-160; Rowley et al. (2000) Methods 20: 383-397;および Kuster and Mann (1998) Curr. Opin. Structural Biol. 8: 393-400を参照)。さらに、単離されたタンパク質の少なくとも部分的なデノボ配列決定が可能な質量分析技法も開発された。Chait et al., Science 262:89-92 (1993);Keough et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 96:7131-6 (1999);Bergman, EXS 88:133-44 (2000)における概説。
【0083】
ある態様においては、気相イオン分光光度計が用いられる。他の態様においては、レーザー脱離/イオン化質量分析を用いて試料を分析する。現代のレーザー脱離/イオン化質量分析(LDI−MS)は、2つの主要な変法で実施することができる:マトリックス支援レーザー脱離/イオン化(MALDI)質量分析、および表面増強レーザー脱離/イオン化(SELDI)である。MALDIにおいては、分析物をマトリックスを含有する溶液と混合し、この液体1滴を基板表面に載せる。マトリックス溶液は生体分子と共結晶化する。基板を質量分析計に挿入する。レーザーのエネルギーを基板表面に当てると、これが、生体分子を大きく断片化することなく脱離およびイオン化させる。しかし、MALDIには分析ツールとしての限界がある。これは試料を断片化する手段を提供せず、マトリックス材料は検出に干渉することがあり、特に、低分子量の分析物の場合にこの傾向がある。例えば、米国特許第5,118,937号(Hillenkamp et al.)および米国特許第5,045,694号(Beavis & Chait)を参照のこと。
【0084】
SELDIにおいては、基板表面を修飾して、これが脱離過程に積極的に関与するようにする。1つの変法においては、表面を、目的のタンパク質を選択的に結合する吸収剤および/または捕獲試薬で誘導体化する。他の変法においては、表面を、レーザーを当てた場合に脱離しないエネルギー吸収分子で誘導体化する。他の変法においては、表面を、目的のタンパク質を結合し、レーザーが適用されると壊される光分解性結合を含有する分子で誘導体化する。これらの各方法において、誘導体化剤は一般に、試料が適用される基板表面の特定位置に局在している。例えば、米国特許第5,719,060号およびWO 98/59361を参照のこと。2つの方法は、例えばSELDI親和性表面を分析物捕獲のために用い、マトリックス含有液体を捕獲した分析物に加えてエネルギー吸収材料を提供することにより、組み合わせることができる。
【0085】
質量分析計に関する追加の情報については、例えばPrinciples of Instrumental Analysis, 3rd edition., Skoog, Saunders College Publishing, Philadelphia, 1985;およびKirk-Othmer Encyclopedia of Chemical Technology, 4.sup.th ed. Vol. 15 (John Wiley & Sons, New York 1995), pp. 1071-1094を参照のこと。
マーカーや他の物質の存在の検出には、一般にシグナル強度の検出が関与する。これは次に、基板に結合したポリペプチドの量および特徴を反映することができる。例えばある態様において、第1試料と第2試料のスペクトルからのピーク値のシグナル強度を比較して(例えば、視覚的に、コンピュータ解析により、等)、特定の生体分子の相対量を決定することができる。Biomarker Wizardプログラム(Ciphergen Biosystems, Inc., Fremont, Calif.)などのソフトウェアプログラムも、質量スペクトルの解析の支援に用いることができる。質量分析計およびこの技術は、当業者に知られている。
【0086】
当業者であれば、質量分析計の任意の要素、例えば脱離源、質量分析器、検波等、および種々の試料調製物を、本明細書に記載されているかまたは当分野で知られている、他の好適な要素または調製物と組み合わせられることを理解する。例えば、幾つかの態様において、対照試料は例えば13Cなどの重原子を含んでよく、これによって検査試料が、同じ質量分析のランの中で既知の対照試料と混合されることが可能となる。
【0087】
1つの態様においては、レーザー脱離飛行時間型(TOF)質量分析計を用いる。レーザー脱離質量分析法において、マーカーが結合した基板を吸気システムに導入する。イオン源からのレーザーにより、マーカーが脱離してガス相にイオン化される。発生したイオンはイオン光学装置によって制御され、次に飛行時間型質量分析計において、イオンは短い高電圧の電界を通って加速され、高真空チャンバー内に流れ込む。高真空チャンバーの遠い端部において、加速されたイオンは異なる時刻に高感度の検出器表面に当たる。飛行時間はイオンの質量の関数であるため、イオン形成とイオン検出器のインパクトの間に経過した時間を用いて、特定の質量電荷比の分子の有無を同定することができる。
【0088】
幾つかの態様において、第1または第2試料中に存在する、1または2以上の生体分子の相対量を、プログラム可能なデジタルコンピュータのアルゴリズムを部分的に実行することにより決定する。アルゴリズムは、第1質量スペクトルと第2質量スペクトルにおける少なくとも1つのピーク値を識別する。次にアルゴリズムは、質量スペクトルの第1質量スペクトルのピーク値のシグナル強度を、第2質量スペクトルのピーク値のシグナル強度と比較する。相対シグナル強度は、第1および第2試料中に存在する生体分子の量を示す。既知の量の生体分子を含有する標準物を第2試料として分析することができて、第1試料中に存在する生体分子の量のさらに優れた定量を提供する。ある態様においては、第1および第2試料中の生体分子の同一性もまた決定することができる。
1つの態様において、例えばADAM12やMMP9などの本発明のタンパク質は、MALDI−TOF質量分析により検出される。
【0089】
その他の分析
例えばADAM12やMMP9などのタンパク質レベルはまた、例えば活性を測定する方法などの他の生物学的検定法で測定することができ、これには限定することなくザイモグラフィを含む。ザイモグラフィは当業者によく知られた検定法であり、以下に記載されている:Heusen et al., Anal. Biochem., (1980) 102:196-202;Wilson et al., Journal of Urology, (1993) 149:653-658;Hernon et al., J. Biol. Chem. (1986) 261: 2814-2828;Braunhut et al., J. Biol. Chem. (1994) 269: 13472-13479;Moses et al., Cancer Research 58, 1395-1399, April 1, 1998;米国特許出願第 08/639,373号;および米国特許第 6,037,138号および第6,811,995号。これらは本明細書にその全体が参照として組み込まれる。
【0090】
生体試料中のADAM12およびMMP9を検出する方法はまた、表面プラズモン共鳴(SPR)の使用を含む。かかる検定法において、ADAM12またはMMP9を結合する抗体は、検出可能に標識される必要はなく、また特定のポリペプチドに結合する二次抗体なしで用いることができる。例えば、ADAM12またはMMP9に特異的な抗体を適切な固体基板に結合し、次に試料に暴露してもよい。ADAM12またはMMP9の基板上の抗体への結合は、表面プラズモン共鳴現象を用いて検出することができ、結合により表面プラズモン共鳴の強度における変化が生じ、これを定性的または定量的に、適切な計器、例えばBiacore装置(Biacore International AB, Rapsgatan, Sweden)により、検出することができる。光学バイオセンサーも、本発明の態様における使用が意図される。
【0091】
SPRバイオセンシング技術は、生体分子の脱離および同定のために、MALDI−TOF質量分析と組み合わせられてきた。BIA−MSのチップに基づくアプローチにおいては、例えばADAM12またはMMP9抗体などのリガンドをチップの表面に共有結合で固定する。試料からのタンパク質はチップ上を通り、関連物がリガンドにより結合される。洗浄ステップの後、溶出されたタンパク質をMALDI−TOF質量分析法により解析する。システムは完全自動化プロセスであってもよく、複合生体液および細胞抽出物中に、低レベル〜フェモトモル以下のレベルにおいて存在するタンパク質を、検出および特徴づけることに応用可能である。
【0092】
抗体
本発明において用いるための抗体は、商業的供給源から入手することができる。抗MMP抗体はOncogene Sciences, Cambridge, Mass.から入手可能である。代替的に、抗体は、例えばADAM12またはMMP9などの全長ポリペプチド、またはポリペプチドの一部に対して、産生することができる。ADAM12抗体を産生するための方法は、PCT刊行物WO 97/40072または米国出願第2002/0182702号に開示されており、これらは本明細書に参照として組み込まれる。
【0093】
本発明において用いるための抗体は、抗体を産生する標準の方法を用いて、例えばモノクローナル抗体の産生により、産生することができる(Campbell, A.M., Monoclonal Antibodies Technology: Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology, Elsevier Science Publishers, Amsterdam, the Netherlands (1984);St. Groth et al., J. Immunology, (1990) 35: 1-21;および Kozbor et al., Immunology Today (1983) 4:72)。抗体はまた、タンパク質の抗原部分を用いて、当業者に知られている方法により、例えばファージ提示ライブラリなどの抗体ライブラリをスクリーニングして容易に得ることもできる。例えば米国特許第5,702,892号(U.S.A. Health & Human Services)およびWO 01/18058((Novopharm Biotech Inc.)は、バクテリオファージ提示ライブラリおよび、抗体結合ドメイン断片を産生するための選択方法を開示している。
【0094】
個人病歴の測度
対象の乳癌発症リスクを評価する、付加的な要因も用いることができる。特に、年齢、民族性、妊娠歴、月経歴、経口避妊薬の使用、ボディー・マス・インデックス、アルコール消費歴、喫煙歴、運動歴、食生活を含む複数の要因を、本方法の予測精度を改善するために用いることができる。血縁者の癌の既往歴および血縁者が癌と診断された年齢も、重要な個人病歴の測度である。乳癌を予測する解析において、個人病歴の測度を、MMP9の存在およびADAM12の存在についてのマーカーデータと共に含むことは、殆ど全ての癌が、個人の遺伝子と遺伝子が作用する環境との間の動的な相互作用からもたらされるとの理解に基づいている。1つの態様において、対象の年齢を、乳癌リスクの評価に含める。
【0095】
乳癌リスクをモニタリングする方法
本発明の態様はまた、対象に医療ケアを指示する方法も提供する。1つの態様において、該方法は、対象から生体試料を得ること、および該生体試料中のADAM12の有無およびMMP9の有無を検出することを含み、ここで該生体試料中のADAM12およびMMP9両方の存在の検出が、第2の検出法を含む医療ケアを指示する。1つの態様において、MMP9存在の状態およびADAM12存在の状態は、それぞれMMP9レベルの変化およびADAM12レベルの変化を検出することにより、測定される。
1つの態様において、対象からの生体試料中のADAM12存在の状態およびMMP9存在の状態は、独立して、対象における乳癌リスクの評価に用いる。
【0096】
他の態様において、医療ケアを指示する方法は、対象における乳癌リスクを以下により評価することを含む:ゲイルの5年リスクモデルに従うと乳癌リスクが低い対象からの生体試料中のADAM12のレベルを検出すること、およびこのレベルをADAM12の標準レベルと比較すること、ここで標準レベルと比較したADAM12のレベルの上昇が、乳癌リスクの上昇を示し、ここでリスク増加の評価が、第2の検出法を含む医療ケアを指示する。代替的に、MMP9レベルまたはMMP9とADAM12の両方を測定することができ、ここでレベルの上昇は、乳癌リスクの増加を示す。
1つの態様において、乳癌リスクの評価に際し、第2の検出ステップを実施する。
【0097】
第2の検出ステップは、限定することなく、対象において乳癌を検出または診断する方法および、例えば異型やLCISなどの病変を検出する方法を含む。任意の種々の追加の検出または診断ステップを用いてよく、例えば、マンモグラフィ、超音波、MRI、乳房の電気インピーダンス(Tスキャン)分析、熱画像法または任意の他の画像法、生検、臨床検査、ダクトグラム(ductogram)、乳管洗浄、核医学分析、例えばシンチマンモグラフィ、乳房の熱画像法または任意の他の方法である。1つの態様において、国際出願WO 05/071387 “Methods for diagnosis and prognosis of cancers of epithelial origin” の方法を用いる。
【0098】
1つの態様において、検出レジメンは、乳癌リスク増加の評価に際して対象に指示され、例えば、定期的マンモグラフィレジメン、例えば年1回、または6ヶ月、4ヶ月、3ヶ月、もしくは2ヶ月に1回;早期マンモグラフィレジメン、例えばマンモグラフィ検査を25歳、30歳もしくは35歳から始めること;1または2以上の生検処置、例えば40歳から始める定期的生検レジメンである。
【0099】
多数の遺伝子マーカーが乳癌と関連している。これらのマーカーの例は、癌胎児性抗原(CEA)(Mughal et al., 249 JAMA 1881 (1983))、MUC−1(Frische and Liu, 22 J. Clin. Ligand 320 (2000))、HER−2/neu(Haris et al., 15 Proc Am Soc Clin Oncology- . A96 (1996))、uPA、PAI−1、LPA、LPC、RAKおよびBRCA(Esteva and Fritsche, Serum and Tissue Markers for Breast Cancer, in BREAST CANCER, 286-308 (2001))を含む。1つの態様において、BRCA1、BRCA2または他の癌遺伝子マーカーまたは乳癌マーカーの任意の組み合わせについての遺伝子型解析を用いて、対象における乳癌リスクのさらなるモニタリングを行うことができる。
さらに、乳癌リスクのモニタリングを、個々の対象においてADAM12およびMMP9の状態を追跡することにより行ってもよい。例えば、ADAM12の状態が陰性でMMP9の状態が陽性である対象に対し、ADAM12の状態の変化およびMMP9の状態の変化を、時間にわたりこの対象においてモニタリングしてもよい。
【0100】
乳癌を予防する方法
本発明の態様はさらに、対象に医療ケアを指示する方法を提供し、ここで対象は、乳癌リスクの低減のための医療ケアを指示される。例えば、対象からの生体試料中のADAM12およびMMP9両方の存在の検出により、乳癌リスクを低減する医療ケアが指示される。1つの態様において、対象からの生体試料中のADAM12存在の状態およびMMP9存在の状態は、それぞれ独立して、対象における乳癌リスクの評価に用いられる。
【0101】
1つの態様において、対象からの生体試料中のADAM12存在の状態およびMMP9存在の状態を、対象における乳癌リスクの評価に用い、ここで対象の乳癌リスク増加の評価に際し、乳癌リスク低減のための医療ケアが指示される。1つの態様において、MMP9存在の状態およびADAM12存在の状態は、それぞれMMP9レベルの変化およびADAM12レベルの変化を検出することにより、測定する。
【0102】
1つの態様において、ゲイルの5年リスクモデルに従うと乳癌リスクが低い対象からの生体試料中のADAM12レベルを検出し、このレベルをADAM12の標準レベルと比較して、標準レベルと比較したADAM12レベルの上昇が、乳癌リスクの増加を示し、リスク増加の評価が、乳癌リスク低減法を含む医療ケアを指示する。代替的に、MMP9レベルまたはMMP9とADAM12の両方を測定することができ、ここでレベルの上昇は、乳癌リスクの増加を示す。
【0103】
乳癌リスク低減法は、予防的処置を含む。例えば、予防的処置は、乳癌に付随する状態が生じるかまたは進行する確率を減少させるために、処方または適用される。これらの処置は、時に乳癌の治療用であり、時に乳癌の進行を遅延、緩和または停止させるものである。乳癌の発症を緩和するかまたは予防する、任意の既知の予防的または治療的処置を、処方および/または適用することができ、これには以下を含む:選択的ホルモン受容体モジュレータ、例えばタモキシフェン、ラロキシフェンおよびトレミフェンなどの選択的エストロゲン受容体モジュレータ(SERM);ホルモンの産生を防ぐ組成物、例えば、副腎でのエストロゲンの産生を防ぐアロマターゼ阻害剤であって、例えばエクセメスタン、レトロゾール、アナストロゾール、ゴセレリン、およびメゲストロール;他のホルモン療法、例えば酢酸ゴセレリンおよびフルベストラント;抗体などの生物反応修飾物質、例えばトラスツズマブ(ヘルセプチン/HER2);外科手術、例えば腫瘍摘出手術および乳房切除術;転移を遅延または停止する薬剤、例えばパミドロン酸二ナトリウム;および代替的/補完的医薬、例えば鍼治療、指圧療法、灸療法、気功、レイキ、アユルベーダ、ビタミン類、ミネラル類、およびハーブ類、例えばレンゲ根、ゴボウ、ガーリック、緑茶、および甘草。
【0104】
A.タモキシフェン
非ステロイド性抗エストロゲン剤のタモキシフェン(NOLVADEX)は、クエン酸タモキシフェンとして提供される。クエン酸タモキシフェン錠剤は、10mgまたは20mg錠剤として利用可能である。10mg錠剤の各々は15.2mgのクエン酸タモキシフェンを含み、これは10mgのタモキシフェンに相当する。不活性な成分として、カルボキシメチルセルロースカルシウム、ステアリン酸マグネシウム、マンニトールおよびデンプンを含む。
クエン酸タモキシフェンは、トリフェニルエチレン誘導体のトランス異性体である。化学名は、(Z)2−[4−(1,2−ジフェニル−1−ブテニル)フェノキシ−N,N−ジメチルエタンアミン 2−ヒドロキシ−1,2,3プロパントリカルボキシレート(1:1)である。クエン酸タモキシフェンは、分子量563.62を有し、pKa’は8.85、平衡溶解度は、37℃の水中で0.5mg/mL、37℃の0.02NのHClでは0.2mg/mLである。
【0105】
クエン酸タモキシフェンは、動物試験系において強力な抗エストロゲン特性を示す。作用の正確な機構は明らかになっていないが、抗エストロゲン効果は、乳房などの標的組織での結合部位についてエストロゲンと競合する、その能力に関連する可能性がある。タモキシフェンは、ジメチルベンズアントラセン(DMBA)により誘発されるラットの乳房癌腫の誘発を阻害し、ラットのin situでのDMBA誘発性腫瘍の退縮を引き起こす。このモデルにおいて、タモキシフェンはエストロゲン受容体に結合することにより、その抗腫瘍効果を発揮するようである。
【0106】
タモキシフェンは、経口投与後迅速に代謝される。放射標識(TIC)タモキシフェン20mgを投与された女性における研究では、投与用量の約65%が2週間で身体から(殆どが大便経由で)排出されることが示された。N−デスメチルタモキシフェンは、患者の血漿に見出される主要な代謝産物である。N−デスメチルタモキシフェンの生物活性は、タモキシフェンのそれと類似しているようである。4−ヒドロキシタモキシフェン、およびタモキシフェンの側鎖第一級アルコール誘導体が、血漿におけるマイナーな代謝産物として同定された。
【0107】
20mgを1回経口投与した後に、40ng/mLの平均のピーク血漿濃度(35〜45ng/mLの範囲)が、投与の約5時間後に現れた。タモキシフェンの血漿濃度の低下は2相性であり、最終排出半減期は約5〜7日である。N−デスメチルタモキシフェンの平均のピーク血漿濃度は15ng/mL(10〜20ng/mLの範囲)である。10mgのタモキシフェンを1日2回、3ヶ月間患者に長期投与すると、タモキシフェンの平均定常血漿濃度が120ng/mL(67〜183ng/mLの範囲)、およびN−デスメチルタモキシフェンの平均定常血漿濃度が336ng/mL(148〜654ng/mLの範囲)となる。20mgのタモキシフェンを1日1回、3ヶ月間投与すると、タモキシフェンの平均定常血漿濃度が122ng/mL(71〜183ng/mLの範囲)、およびN−デスメチルタモキシフェンの平均定常血漿濃度が353ng/mL(152〜706ng/mLの範囲)である。治療の開始後、タモキシフェンの定常濃度は約4週間後に、およびN−デスメチルタモキシフェンの定常濃度は約8週間後に達成され、この代謝産物についての半減期が約14日であることを示唆する。
乳癌患者に対して、推奨される日用量は20〜40maである。20mg/日を超える投与量は、分割した用量で(朝および夜)与えるべきである。しかし、予防的な投与量はこれより少なくてもよい。
【0108】
B.ラロキシフェン
塩酸ラロキシフェン(EVISTA(商標))は、化合物のベンゾチオフェンクラスに属する選択的エストロゲン受容体モジュレータ(SERM)である。化学的表示はメタノン、[6−ヒドロキシ−2−(4−ヒドロキシフェニル)ベンゾ[b]チエン−3−イル]−[4−[2−(1−ピペリジニル)エトキシ]フェニル]−ヒドロクロリドである。塩酸ラロキシフェン(HCl)は、実験式C2827NOS・HClを有し、これは分子量510.05に相当する。ラロキシフェンHClは、ごく僅かに水に溶解するオフホワイト〜淡黄色の固体である。
ラロキシフェンHClは、経口投与用の錠剤の剤形で供給される。各錠剤は60mgのラロキシフェンHClを含み、これは遊離塩基55.71mgのモル当量である。
【0109】
不活性成分は、無水ラクトース、カルヌバ(carnuba)ワックス、クロスポビドン(crospovidone)、ED&C Blue No. 2アルミニウム・レーキ、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ラクトース一水和物、ステアリン酸マグネシウム、修飾した医薬品グレーズ(modified pharmaceutical glaze)、ポリエチレングリコール、ポリソルベート80、ポビドン、プロピレングリコール、および二酸化チタンを含む。
ラロキシフェンの生物学的活性は、エストロゲンのそれと同様、エストロゲン受容体への結合を通して媒介される。臨床前データは、ラロキシフェンが、子宮および乳房組織におけるエストロゲンの抑制因子であることを示す。予備的臨床データ(30ヶ月にわたる)は、EVISTAが、子宮および乳房組織に対してエストロゲン様効果を欠くことを示唆している。
ラロキシフェンは、経口投与後に迅速に吸収される。経口量の約60%が吸収されるが、プレシステミック(presystemic)グルクロニド抱合は広範である。ラロキシフェンの絶対バイオアベイラビリティは2.0%である。血漿濃度およびバイオアベイラビリティの平均最大値に到達するまでの時間は、ラロキシフェンとそのグルクロニド代謝産物の、全身相互変換および腸肝循環の関数である。
【0110】
30〜150mgの範囲のラロキシフェンHClの単回投与量を経口投与した後の、見かけの容量分布は2.348L/kgであり、投与量に依存しない。
ヒトにおけるラロキシフェンの生体内変換および配置(disposition)を、14C標識ラロキシフェンを経口投与後に決定した。ラロキシフェンは迅速に初回通過代謝されて、グルクロニド抱合体類:ラロキシフェン−4’−グルクロニド、ラロキシフェン−6−グルクロニド、およびラロキシフェン−6,4’−グルクロニドとなる。その他の代謝産物は検出されず、ラロキシフェンがチトクロームP450経路によって代謝されないことの強力な証拠を提供した。非抱合のラロキシフェンは、血漿中の総放射標識物質の1%未満を構成する。ラロキシフェンとグルクロニド類の血漿濃度曲線の最後の対数線形部分は、通常は平行である。これは、ラロキシフェンとグルクロニド代謝産物類の相互変換とも整合する。
【0111】
静脈内投与後、ラロキシフェンは肝血流量に近い速度で排出される。見かけの経口クリアランスは、1時間当たり44.1L/kgである。ラロキシフェンおよびそのグルクロニド抱合体は、可逆的全身代謝および腸肝循環により相互変換され、これによって経口投与後のその血漿排出半減期を27.7時間に延長する。
ラロキシフェンの単回経口投与からの結果は、複数回投与の薬物動態を予測する。長期投与後に、クリアランスは1時間当たり40〜60L/kgの範囲である。ラロキシフェンHClの投与量を増加すると(30〜150maの範囲)、血漿中の時間濃度曲線(AUC)下の面積は、比例的増加をやや下回る増加となった。ラロキシフェンは主に大便に排泄され、0.2%未満が不変のまま尿中に排泄される。ラロキシフェンの投与量の6%未満は、グルクロニド抱合体として尿中に排出される。
【0112】
推奨投与量は60mgの錠剤を1日1個であり、これは食事に関係なく任意の時刻に投与してよい。
予防的処置はまた、血管形成阻害薬の投与を含んでよい。血管形成阻害薬は、限定なく、アンギオスタチン、AVASTIN(登録商標)(ベバシズマブ)、アレステン、カンスタチン、コンブレタスタチン、エンドスタチン、NM-3、スロンボスポンジン、ツムスタチン、2−メトキシエストラジオール、ビタキシン、ZD1839(イレッサ)、ZD6474、OSI774(TARCEVA(登録商標)/エルロチニブ)、CI1033、PKI1666、IMC225(ERBITUX(登録商標)/セツキシマブ)、PTK787、SU6668、SU11248、HERCEPTIN(登録商標)(トラスツズマブ)、およびIFN−α、CELEBREX(登録商標)(セレコキシブ)、THALOMID(登録商標)(サリドマイド)、ロシグリタゾン、ボルテゾミブ(VELCADE(商標))、ビスフォスフォネート・ゾレンドロネート(ZOMETA(登録商標))、およびIFN−αを含む。
【0113】
乳癌リスク低減方策の治療的有効性をモニタリングするための方法もまた提供される。例えば、対象からの生体試料中のADAM12存在の状態およびMMP9存在の状態が、前記対象における乳癌リスクの評価に用いられ、ここでADAM12レベルの低下および/またはMMP9レベルの低下が、前記乳癌リスク低減方策が有効であることを示す。代替的に、ゲイルの5年リスクモデルに従うと乳癌リスクが低いとされる対象における、上昇したADAM12レベルの低下が、該対象に対する前記乳癌リスク低減方策が有効であることを示す。1つの態様において、ゲイルの5年リスクモデルに従うと乳癌リスクが低いとされる対象における、上昇したMMP9レベルの低下が、該対象に対する前記乳癌リスク低減方策が有効であることを示す。1つの態様において、ゲイルの5年リスクモデルに従うと乳癌リスクが低いとされる対象における、上昇したADAM12レベルの低下および上昇したMMP9レベルの低下が、該対象に対する前記乳癌リスク低減方策が有効であることを示す。
【0114】
検出キット
本発明はまた、MMP9およびADAM12の検出用の市販キットに関する。該キットは、当業者に知られた任意の形態であることができ、ADAM12およびMMP9の検出のために本明細書に記載された1または2以上の方法を実施するのに有用である。該キットは、生体試料中のADAM12およびMMP9の検出用の1または2以上の分析を行うために必要な試薬を、全てではないにしてもその多くを供給する点で便利である。さらに、分析は、キットに含まれている1つの標準または複数の標準についても同時に行うのが好ましく、これらは例えば、所定量の例えばADAM12やMMP9などのタンパク質または核酸、および標準レベルであり、これによって検査結果を定量または確認することができる。
【0115】
キットは、例えばADAM12やMMP9などのタンパク質を検出する手段を含んでおり、これは例えば、このADAM12やMMP9などのタンパク質に選択的に結合する抗体もしくは抗体断片、または前記タンパク質をコードするcDNAの合成を可能にするDNAオリゴヌクレオチドプライマーのセット、またはmRNAの発現、例えばADAM12mRNAやMMP9mRNAなどの発現を検出するDNAプローブである。検出キットは、標準の二抗体結合様式に選択的に処方されており、ここでは例えば、1つのADAM12特異的抗体が対象試料中のADAM12を捕捉し、他のADAM12特異的抗体を用いて、捕捉したADAM12を検出する。検出キットの他の好ましい処方においては、1つのMMP9特異的抗体が対象試料中のMMP9を捕捉し、他のMMP9特異的抗体を用いて、捕捉したMMP9を検出する。例えば、捕捉抗体は固相に、例えばアッセイプレート、アッセイウェル、ニトロセルロース膜、ビーズ、ディップスティック(dipstick)、または溶出カラムの成分などに固定される。第二の抗体、すなわち検出抗体は、通常は、熱量測定剤または放射性同位体などの検出可能なラベルで標識される。
【0116】
1つの態様において、キットは、尿試料中の、ADAM12やMMP9などの目的タンパク質を検出する手段を含む。特定の態様において、キットは、「ディップスティック」と、その上に固定された、ADAM12やMMP9など目的タンパク質に特異的に結合する抗ADAM12や抗MMP9などの抗体もしくは断片を含む。特異的に結合されたADAM12やMMP9などの目的タンパク質は、次に、例えば、熱量測定剤または放射性同位体などにより検出可能に標識された第二抗体を用いて、検出することができる。
【0117】
他の態様において、検出キットは、限定はされないが以下の技法を用いることもできる:競合および非競合アッセイ、ラジオイムノアッセイ(RIA)、生物発光および化学発光検定、蛍光定量検定、サンドイッチ検定、イムノラジオメトリックアッセイ、ドットブロット、ELISAを含む酵素結合検定、マイクロタイタープレート、表面プラズモン共鳴、光バイオセンサー、および免疫細胞化学法。各キットについて、検定の範囲、感度、精度、信頼性、特異性および再現性は、当分野に知られた方法により確立されている。
1つの態様において、検出キットは、他のバイオマーカー、例えば乳癌マーカー、乳癌リスクマーカーなどを検出する手段も含んでよい。
上記の検出キットはさらに、使用説明書も提供する。
本明細書に引用した全ての参考文献は、本明細書にその全体が参照として組み込まれる。
【0118】
例1:尿のバイオマーカーは、乳癌リスクを評価する新規な非侵襲的方法を提供する
方法
研究対象集団
対象は、ベス・イスラエル・ディーコネス医療センター、マウント・オーバーン病院、およびダナ・ファーバー癌研究所の手術を行う診療所、放射線腫瘍診療所、および内科的腫瘍診療所において、研究に参加するよう求められた。正常で健康な年齢を適合させた対照は、定期的なマンモグラムのスクリーニングのためにブリガム・アンド・ウィメンズ病院を訪れている、慢性の医療上の問題および乳房の病状がなく、マンモグラムの読取りが正常で、投薬を受けていない女性から集められた。全ての参加者は、尿を提供する際に詳細な病歴フォームに記入した。妊娠中および授乳中の女性は研究から除いた。リスクスコアは、修正ゲイルモデルを用いて計算した66,67
【0119】
尿試料の採取および処理
尿の採取は前に記載の通りに実施した。試料は無菌容器に採取し、直ちに−20℃に凍結した。尿は、臨床材料に関する機関の生命倫理指針にしたがって採取した。分析の前に、尿は、Multistix 9 Urinalysis Strips (Bayer, Elkhart, IN)を用いて、血液および白血球の有無について検査し、血液または白血球を含む試料は除外した。尿のクレアチニン濃度は、市販のキット(Sigma, St. Louis, MO)を用いて、製造業者のプロトコルに従って決定した。尿のタンパク質濃度は、ウシ血清アルブミンを標準として用い、ブラッドフォード法により決定した。尿試料は148人の女性(AHを有する女性44人、LCISを有する女性24人、健康対照80人)から得た。
【0120】
ザイモグラフィ
尿試料は、我々の研究室で開発した調製方法(米国特許番号第08/639,373号)を用いて処理し、ザイモグラムを用いて電気泳動および分析した。30μlの各尿試料を、基質ゲル電気泳動(ザイモグラフィ)により、前に我々が報告したように、ゼラチンを基質として用いて分析した。MMPの同定は、免疫ブロット解析により単一特異性抗体を用いて検証した。
【0121】
ウェスタンブロット分析
同量のタンパク質(20μg)をSDS−PAGEにより減圧下で分離した。分離したタンパク質は、電気泳動によりニトロセルロース膜(Schleicher & Schuell, Keene, NH)に移し、前に記載のように処置した。標識タンパク質は、強調化学発光(Pierce Chemical Company, Rockford, IL)により視覚化した。ヒトADAM12に対するポリクローナル抗体であるrb122とS−18(sc-16526, Santa Cruz Biotechnology, CA)を、それぞれ1μg/mlと2μg/mlの濃度で用いた。標識タンパク質は、強調化学発光(Pierce Chemical Company, Rockford, IL)により視覚化した。帯域強度は、UN-SCAN-IT(商標)(Silk Scientific, Orem, UT)のソフトウェアデジタイザ技術により解析した。MMPの分析はザイモグラフィを用いて行い、ADAM12の分析は単一特異性抗体による免疫ブロットおよび続く密度測定(DU)を介して行った。
【0122】
マンモグラムの評価
米国放射線医学会(ACR)の乳房画像報告およびデータシステム(BI−RADS)は、マンモグラフィによる結果のコミュニケーションの改善および、対象へのケアの質の改善のためにモニタリング結果を提供するとの目的で開発された。評価のカテゴリーは次の通りである。BIRADS1は、マンモグラム陰性を示す。コメントすべき点はない。乳房は対称的で、塊や、構築的障害(architectural disturbance)またはカルシウム沈着の疑いは存在しない。BIRADS2は良性の所見を示す。BIRADS3は、おそらくは良性の所見を示すが、短い間隔での経過観察が推奨される。このカテゴリーに分類される所見は、良性である確率が非常に高い(≧98%)。これらは経過観察中に変化することは予想されないが、放射線専門医はその安定性の確認を望むであろう。BIRADS4は異常の疑いを示し、生検を考慮すべきである。より最近、このカテゴリーは、疑いのレベルの増加に応じて(弱〜中程度)、a、bおよびcにさらに分割された。BIRADS5は悪性腫瘍を高度に示唆し、適切な対処が必要である。BIRADS0は、追加の画像評価が必要な場合に用いられる。
乳腺密度分類は、次のうちの1つとして記載される:1.殆ど完全に脂肪、2.散在性で線維腺性の密度、3.不均質な密度、または4.きわめて高密度。マンモグラムは、米国放射線医学会(ACR)標準の乳房画像報告およびデータシステム(BI−RADS)を用いて評価した。
【0123】
統計解析
尿のMMP類は、AH、LCISおよび正常対照の間で、カイ二乗検定を用いて比較した。ボンフェローニ調整比較(Bonferroni-adjusted comparison)による分散分析(ANOVA)を用いて、3群の間でのADAM12レベルの違いを評価した68。逆向き選択手順(backward selection procedure)を用いた逐次多重ロジスティック回帰分析を適用して、4つのMMP類、連続変数としてのADAM12、年齢およびゲイルスコアを考慮し、統計的有意性の評価用の尤度比検定(LRT)を用いて、AHおよびLCISを対照群から識別する予測因子(predictor)を決定した69。有意な予測因子のためのオッズ比および95%信頼区間(CI)を、厳密法を用いて決定し、AHの尤度をADAM12レベルとゲイルの5年リスクスコアの関数として推定するための確率曲線を、最終多変量モデルの回帰パラメータ(傾きと切片係数)を用いて導いた70。受信者動作特性(ROC)曲線解析を適用して、AHを正常から識別するための、ADAM12、ゲイルスコアおよびこれらの組み合わせの診断的精度を評価した71。統計解析には、SPSSソフトウェアパッケージ(version 14.0, SPSS Inc., Chicago, IL)を用いた。P<0.05の両側値を統計的に有意とした。検出力分析を推測的に行い、最小のサイズとして、AHおよびLCIS群それぞれに24人の対象、および80人の対照が、以下の差の検出において90%の検出力(a=0.05、b=0.20)を提供することを示した:すなわち、二項Zテストを独立部分72に用いて、対象および対照の間に各MMPの正の発現における20%の差を検出すること、および、ANOVA(version 6.0, nQuery Advisor, Statistical Solutions, Saugus, MA)を用いて、試験群の間に平均ADAM12レベルにおける30%の差を検出すること。
【0124】
結果
148人の女性(ALH/ADHを有する対象44人、LCISを有する対象24人を、健康対照80人と比較)において、MMP9およびADAM12の尿中の発現を調査した。
MMP9、MMP2、MMP9/NGAL複合体およびADAM12は、調査した対象の大半の尿中に一貫して検出された。MMP9の代表的なザイモグラムおよびADAM12のウェスタンブロットを、図1に示す。
対象の大半は40歳以上の白色人種であった(表1)。異なる群の間に、喫煙または飲酒の習慣について有意な差は認められなかった(表1)。調査したほとんどの女性は喫煙の経験がないか、または喫煙を止めていた。同様に、重度の飲酒をする女性は非常に少なかった。
【0125】
正常対照の96%、LCISの女性の63%、および異型の女性の38%において、マンモグラムの読取りはBIRADSスコアは1または2で正常であった。全正常対照において、マンモグラムがBIRADS4または5(悪性腫瘍を疑うか、または高度に示唆するスコア)と読み取られた者はおらず、異型の女性の52%およびLCISの女性の37%は、マンモグラムがBIRADS4または5と読み取られた(表1)。
ゲイルスコアの計算値は、正常対照においてその平均の乳癌リスクと整合して5年リスクの中央値で1.0であり、異型の対象において中央値リスク3.8と上昇していた(表1)。
表1.研究群の特徴
【表2】

【0126】
我々の結果は、MMP9およびADAM12が、LCIS(共にp<0.001)とADH/ALH(MMP9、p=0.004;ADAM12、p<0.001)両方に対する、独立した予測因子であることを示す。
【0127】
ROC曲線解析
ADAM12の強度単位(DU)に基づき、ROC曲線下の面積は0.94であり、これはADAM12が、乳癌を正常から識別する優れたマーカーであることを示す。存在の有無のデータを用いると、感度は0.949(95%CI:0.827〜0.994)であり、特異性は0.792(95%CI:0.580〜0.929)である。感度/[1−特異性]として決定される陽性検査(LR+)についての尤度比は4.6であり、ある女性が検査で陽性であれば、そうでない場合に比べて異型またはLCISを有する確率が4倍以上高くなることを示す。
【0128】
ロジスティック回帰
ロジスティック回帰を行って、ADAM12とMMP類との組み合わせが診断の精度を改善するかどうかを決定し、その結果、MMP9とADAM12が、LCIS(共にp<0.001)およびADH−ALH(MMP9、p=0.004;ADAM12、p<0.001)両方に対する、独立した予測因子であることが明らかにした。
【0129】
最尤推定
最尤推定を用いて、種々の可能性のある検査結果についてのLCISまたはADH−ALHの確率を求めた:尿中MMP9およびADAM12の陽性結果はLCISの100%確率に関連し、MMP9陰性およびADAM12陽性はLCISの50%確率に、MMP9陽性およびADAM12陰性はLCISの40%確率に、MMP9とADAM12両方に陰性はLCISの0%確率に関連する。同様に、ある女性の尿がMMP9とADAM12の両方に陽性であれば、ADH−ALHの確率は100%であり、MMP9陰性およびADAM12陽性ではADH−ALHの確率は67%であり、MMP9陽性およびADAM12陰性ではADH−ALHの確率は25%であり、MMP9とADAM12両方が陰性であればADH−ALHの推定確率は0%である(表2)。
表2.最尤推定
【表3】

【0130】
統計解析
ADAM12については、AHおよびLCISを有する女性はそれぞれ平均レベルで20.7±16.8および14.7±6.9DUを有することが単変量解析により示され、これらはボンフェローニ調整付きANOVA(共にp<0.001)により決定された正常対照の値(2.1±2.8DU)より有意に高い。正常対照のADAM12レベルの中央値は0であった。AH群とLCIS群の間には、ADAM12レベルの平均値または中央値において互いに有意な差はなかった(P>0.20)(表3A)。MMP9陽性の個人の割合には、正常対照とAHまたはLCISと診断された女性との間に、有意な差があった(自由度2度において、ピアソンのカイ二乗=6.17、P<0.05)。
【0131】
逐次多重ロジスティック回帰分析により、継続したADAM12のレベル(p<0.0001)、MMP9陽性(P=0.02)、および年齢(P=0.04)は、AHと診断された女性を対照から識別する、それぞれ独立した予測因子であることが示された(表3B)。AHを対照から識別するADAM12の調整オッズ比は1.4であり、10単位の増加の各々は、個人が正常な健康対照であるよりもAHを有することに対して28倍(1.410)増加したオッズ比と関連することを意味している。これは、97%に増加した確率と等価であり、ここで確率=オッズ/(1+オッズ)=28/29である。バイナリのMMP9解析について、MMP9が陰性である対象に比べて、陽性である個人は、推定で5倍高いAHを有するリスクを有する(オッズ比=5.1、95%信頼区間=1.4〜17.9)。MMP2、MMP9/NGAL、およびMMP>150kDaを含む試験された他の変数は、AHについて予測できなかった(全てP>0.05)。
表3A.正常対照および対象研究群についての尿中ADAM12レベルの単変量解析
【表4】

±値は平均±SD。DU=濃度単位、IQR=四分位範囲、ADAM12=ディスインテグリンおよびメタロプロテアーゼ、LCIS=上皮内小葉癌。
ADAM12レベルは、平均値はボンフェローニ調整付きANOVAを用いて、中央値はマンホイットニーU検定を用いて比較した。
†正常対照との比較について、P<0.001
【0132】
表3B.異型過形成および上皮内小葉癌を予測する変数についての多変量ロジスティック回帰分析
【表5】

CI=信頼区間。MMP2、MMP9/NGAL、およびMMP>150を含む他の変数は、統計的に有意ではなかった(P>0.05)。
【0133】
LCISの予測因子を評価した場合に、ロジスティック回帰分析は、AHに対するものと同一の有意な多変量予測因子を示し、これらは、ADAM12(p<0.0001)、MMP9(p=0.014)、および年齢(P=0.05)を含む(表3B)。これらの変数は、正常対照からLCISを有する女性を識別するための独立した情報を提供し、ここでADAM12で調整したオッズ比は1.6であり、各10単位の増加が、個人が正常な健康対照であるよりもLCISを有することについての、110倍(1.610)増加したオッズ比と関連することを意味している。これは、99%を超える増加した確率と等価である。MMP9が陰性と検査された個人に比べて、MMP9が陽性である女性は、13倍高いLCISのリスクを有する(オッズ比=13.8、95%信頼区間=1.7〜110.7)。MMP2、MMP9/NGAL、およびMMP>150kDaを含む他の変数は、LCISについての有意な予測因子ではなかった(全てP>0.05)。
【0134】
ロジスティック回帰分析により、ADAM12の異なる間隔に基づいてAHおよびLCISの確率を推定するための非線形式を導いた。これらはAH(LRT=58.4、P<0.0001)およびLCIS(LRT=53.3、P<0.0001)について高度に有意であった。対照および、AH(図2A)またはLCIS(図2B)の診断を有する対象についての実験データは、各群について棒グラフで示され、それぞれの間隔のADAM12レベルの女性の割合を反映している。正常者と比較した、AHまたはLCISの診断の確率を示す理論曲線を、各図のADAM12の間隔に従って示したが、対象と対照の間には明確な識別が示されている。
【0135】
図2Aに示すように、対照の57%およびAHを有する対象の7%のみが、0濃度単位のADAM12レベルを有し、一方、AHを有する対象の75%および対照の4%のみが、10DUを超えるレベルを有する。AHの予測確率は、ADAM12レベルが0の個人について7%であり、5〜10DUレベルの個人については40%であり、10〜20DUのADAM12レベルの個人については85%であり、20DUを超えるレベルの個人については95%である。これに対して、図2Bに示すように、対照の57%およびLCISを有する対象の4%のみが、0濃度単位のADAM12レベルを有し、一方、LCISを有する対象の殆ど80%および対照の4%のみが、10DUを超えるレベルを有する。LCISの予測確率は、陽性ADAM12レベル<2DUの個人について<5%であり、5〜10DUレベルの個人については52%であり、10〜20DUのADAM12レベルの女性については85%であり、20DUを超えるレベルの女性については97%の確率である。
【0136】
次に尿中ADAM12レベルを、臨床的情報を反映するゲイルの5年リスクスコアと多重化した67。1.67%未満のゲイルスコアは低リスクと考えられ、一方、1.67%以上のスコアは乳癌発症の高リスクである。多重ロジスティック回帰分析は、ADAM12レベル(LRT=19.92、P<0.0001)を、対照からAHを識別する有意な予測因子として同定した。このモデル化アプローチの結果は、ゲイル5年リスクが高い場合と低い場合それぞれに、ADAM12レベルの増加に伴ってAHの確率が増加するのが見られる(図3)。例えば、ゲイルスコア≧1.67%の女性に対して、ADAM12レベルが2DUではAHの確率は90%であり、ゲイルスコアで低リスクである<1.67%の女性に対しては、確率は基本的に0%である。一方、低リスクゲイルスコア<1.67%の女性においては、AHの確率は、中程度に高いADAM12レベル(例えば、12DU以上のレベル)から増加し始める。例えば、低リスクのゲイル5年スコア<1.67%のこのサブ群の女性において、ADAM12レベルが14および15DUは、それぞれ50%および75%の確率に関連する。ゲイル5年スコア<1.67%で、ADAM12レベルが16DU以上の個人では、AHの推定確率は90%以上である。
【0137】
同様に、継続するADAM12レベルのみのROC解析によれば、ROC曲線下の面積0.914により、AHを有する女性を正常対照から識別する、優れた識別能が示される。尿中のADAM12レベルはまた、曲線下の面積(AUC)0.950により、LCISを有する女性を正常対照から識別する、優れた識別能も提供する。任意の試験について最大AUCは1.0であるため、これらのスコアは尿中ADAM12レベルの大きな予測力を示す。
【0138】
尿中ADAM12レベルを、ゲイル5年リスクスコアが提供する臨床情報と多重化した場合、さらなるROC解析により、最適な組み合わせはゲイル+0.15×ADAM12(AUC=0.996)であることが示される。したがって、最大性能は、ADAM12およびゲイルリスクスコアの両方を一緒に用いる場合に得られる。この組み合わせ指標の最適カットオフは2.8である。2.8のカットオフを用いる場合、この組み合わせの感度は0.976(42のAHケース中、41ケースを正しく分類)であり、特異性は0.977(44の対照中43を正しく分類)である。その結果、このADAM12−ゲイルの組み合わせ指標を我々の集団に用いれば、ただ1つのみの擬陽性(1つの対照は組み合わせ指標が2.95であり、2.8を超えている)およびただ1つの擬陰性(1人の女性は組み合わせが2.3であり、2.8のカットオフを下回る)が生じる。
【0139】
乳癌の高リスクを有する女性を識別するための、代替となる改善された方法の開発は、強化された研究分野である。我々は、バイオマーカーとしてMMP類に焦点を当てることを選択したが、これは、これらが乳癌進行の初期のステージにおいて役割を担っているからである。この研究において、我々は、生検により異型過形成および上皮内小葉癌が証明された対象における、尿中MMP類および尿中ADAM12の発現を観察した。異型および上皮内小葉癌(LCIS)の両方は、リスク増加の病理学的指標として認識される。乳癌リスク低減法の選択肢が改善されるにつれて、乳癌発症の増加リスクを有する女性の正確な識別が、ますます重要となっている。我々の結果は、尿中のバイオマーカーADAM12およびMMP9が、AHおよびLCISの高度に有意な予測因子であることを示す。
【0140】
MMP類は、腫瘍の増殖、転移、および腫瘍の微環境の再構築において重要な役割を果たすマトリックス分解酵素である。免疫組織化学的研究により、乳房腫瘍においてMMP発現レベルの上昇が示され9〜11、乳房腫瘍抽出物が、活性なMMP類を含むことが示された。MMP9レベルの上昇は、乳癌患者の血漿中において報告されている12。我々は、機能的尿中MMP類が、ルイス肺癌腫瘍細胞を皮下に移植されたマウスの尿中に、ザイモグラフィ(基質ゲル電気泳動)により検出できることを最初に観察した。ザイモグラフィは、電気泳動の分離により酵素活性を表示し、個々のマトリックス分解成分をゲル上に視覚化することを可能とする。重要なことには、これらのオリジナルデータは、MMP類が、そのサイズに関わらず、担癌宿主中の尿の収集系を通って濾過され、膀胱に生物活性形態で貯蔵され得ることを示唆している。この驚くべき結果は、MMP類が、膀胱から遠い部位に腫瘍を担持する個体の尿中に存在する可能性が高いことを示している。腫瘍によるMMP類の過剰産生は、血管およびリンパ系と通信して、他の体液、例えば血液または尿などにおいて、MMP活性のレベルの上昇をもたらす可能性がある。この可能性は、腫瘍により過剰産生される他の調節分子、例えば血管形成ペプチドbFGFなどのレベルを、癌を有する対象の体液中で測定し、疾病の状態の独立した予測因子であることを示した、前の証明と整合している13,14。我々は続いて、この仮説をさらにヒト対象において試験した。
【0141】
我々は、無傷のMMP類が、乳癌の対象の尿中に検出できること、およびこれらの尿中MMP類は疾病状態の予測因子であることを報告した。我々の最初の報告以降、尿中のMMP類が腫瘍性疾患の状態を予測するとの我々の所見を支持する、多くの独立した研究が公表されている5,15〜22
【0142】
続いて我々は、MMP類が、癌の増殖および進行における初期の臨界的事象である、血管形成の表現型への切り換えに必要であることを示した23。さらに、我々は最近、新規な高分子量の尿中MMPを、MMP9/NGAL複合体(好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン)として同定した。我々は、尿中MMP発現を大規模な対象において試験し、疾病が進行するにつれて、対象の尿中にMMP類の大幅な増加が見られることを示した。我々はまた、乳癌の対象の尿に最も頻繁に見られるMMP種が、92kDa種(MMP9)であることも観察した。興味深いことには、これらの乳癌の対象の尿に検出されるMMP類の同定の分析により、MMP2(72kDaゼラチナーゼ)の大幅な減少を明らかにしたが、これは、高い頻度でMMP2を検出した、膀胱および前立腺癌の対象についての我々の別の研究結果とは対照的である。このことは、これらの対象の尿中における異なるMMP種の存在に基づく、特定の腫瘍の「指紋」が存在する可能性を示唆する。
【0143】
これらの所見および尿中疾病マーカーへの我々の興味に基づいて、癌の対象の尿に存在するタンパク質を同定するため、およびこれらの存在が疾病の状態に関連するかどうかを決定するためのバイオマーカー識別イニシアチブを確立した。ごく最近、我々は、乳癌の対象の尿中にADAM12(ディスインテグリンおよびメタロプロテイナーゼ(a disintegrin and metalloproteinase))を単離し同定した24。ADAM12は、MMP類に関連する糖タンパク質ファミリーの一部である。ADAM12の発現の増加は、乳房、直腸および肺の癌腫組織で既に報告されている25。我々はADAM12について基質特異性を確立し、この酵素がゼラチン、IV型コラーゲンおよびフィブロネクチンを分解できるが、I型コラーゲンまたはカゼインは分解できないことを示したが、これは、この酵素が、腫瘍性疾患の特徴であるECMの再構築に役割を果たしていることを示唆する。我々はまた、尿中のADAM12が、乳癌の対象において疾病の進行とともに、また疾病のステージに相関して、大きく増加することも示した。ADAM12は、正常対照においては検出されないか、または非常に低いレベルで存在し、異型およびLCIS、および浸潤性癌の対象において増加した。ADAM12の最高レベルは、転移性の疾患において観察された24
【0144】
ここで我々は、乳癌疾患の進行についてのこれら2つの強力な指標、MMP9およびADAM12の複合について報告する。尿中のMMP9およびADAM12の結果が複合され、両者が共に陽性である場合、乳癌発症の既に証明されたリスク因子である、異型およびLCISとの間に高度に有意な相関が見られる。
【0145】
異型は、将来の乳癌発症についての主要なリスク因子であり、一般人口と比べて女性の相対的リスクを5.3倍増加させる。このリスクは、対象が、乳癌を有する第一度近親者を持つ場合にさらに増加する(10倍のリスク)26〜28。学名にも関わらず、LCISもまた、前駆病変というよりむしろリスク増加のマーカーと考えられている29、30。しかし、LCISはある範囲の状態を含み、多形性変異体などのこれらの小さなサブセットも実際に前駆病変となり得ることが認識されている31、32。LCISの診断率は、調査・疫学および最終結果(Surveillance, Epidemiology, and End Results: SEER)プログラムに加えられた、9つの人口に基づく癌登録の記録によれば、閉経後の女性において1978年から1998年に4倍に増加した29。異型過形成(AH)の診断もまた増加しているようである。異型の率は、この診断が腫瘍登録に要求されておらず、これの診断がSEERデータに記録されていないために、追跡が困難である。1980年代および1990年代に、幾つかの大規模な研究により、AHが良性の乳房生検全体の5%未満を占めることが示された33、34。最近の大規模な一連の歴史的調査では、異型は良性の乳房生検全体の4%を占めていた35。より最近の報告では、異型率は良性の生検の7%に近づいている36。マウント・オーバーン病院における生検結果の追跡では、1997年〜2004年にADHにおいて2倍、およびLCISにおいて3倍の増加が見られた(表A)。これは、少なくとも部分的に、マンモグラフィによるスクリーニングの増加が原因である可能性が高く、何故ならばADHは異常なマンモグラムで最も頻繁に同定されるからである37。乳癌の非常に高い遺伝的リスクを有し、予防的乳腺切除を行った女性からの乳房試料についての最近の前向き研究において、これら高リスク病変が、前記女性の57%に見出されたことは興味深い38。これらのうち、37%は異型小葉過形成(ALH)であり、39%は異型乳管過形成(ADH)であり、25%はLCISであった38
表8.生検結果の変化の傾向
【表6】

【0146】
異型は、異常なマンモグラムや身体的所見に対して行われた乳癌生検において、もっとも頻繁に診断されるが、乳頭吸引液、ランダムな乳輪周辺の針吸引および乳管洗浄でも記録され得る。乳癌リスクを評価するためのより信頼性が高く、より非侵襲性で、より安価なアプローチが必要とされる。マンモグラフィは、現在最も高感度で広く用いられている、乳癌について女性をスクリーニングする方法である。これは現在、乳癌発見の「ゴールドスタンダード」であるが、マンモグラフィは完全に信頼が置けるものではない39。確かに、ディジタルマンモグラフィなどの最近の進歩により、診断の正確さが増し、乳癌の死亡率の減少に大きな差がもたらされている40,41。しかし、全般的な診断の正確さの点で、マンモグラフィは10〜30%の偽陰性を生じ、マンモグラフィの感度および精度は、高い乳腺密度を有する女性において損なわれている42,43。偽陽性もまた重大な問題である。最近の研究によれば、米国のマンモグラフィ検査者は、全スクリーンの10%を異常と読むが、これらの殆ど全てが偽陽性であると指摘されている44,45。さらに、ほとんどの女性はこれらの手段にアクセスできるが、より高齢で経済的に障害のある女性を含む、多くの真に必要とする人々には、これらの手段は十分に活用されていない46,47。最近の研究によれば、乳房MRIはマンモグラフィより浸潤性乳癌の発見に優れており、マンモグラフィおよび超音波の2倍の感度を有することが示された48。しかし、MRIは高価であり、健康保険会社が常にカバーしているとは限らず、機関によって用いられる技術および結果の解釈にかなりの差が存在する。
【0147】
マンモグラフィへのアクセスは、少数民族の女性、低所得の女性および高齢の女性にとって重大な問題である46,47,49。費用、痛みに対する恐れ、および推奨スクリーニング指針に関する教育の欠如もまた、マンモグラフィの広い使用を制限する要因である50,51。マンモグラフィ検査には、高度な技術を有する人材および、大型で高価な機器の購入と収納、および付随する維持管理と品質保証のコストが必要とされる。これらの要因全ては、特に不利な条件の女性に対してアクセスのしやすさを制限する要因となる。
【0148】
現在、タモキシフェンは乳癌リスク低減のための、唯一のFDA承認剤である。LCISの病歴を有する女性に対してはリスクを56%低減し、異型乳管過形成の病歴を有する女性に対して、タモキシフェンはさらに大幅に、リスクを86%低減する52。一般に良好に耐容されるが、タモキシフェンは付随する毒性を有し、これには子宮内膜癌、脳卒中、肺動脈塞栓症、および深部静脈血栓の、特に50歳以上の女性におけるリスクの増加を含む52。そのため、他の治験、とりわけSTAR治験(タモキシフェンおよびラロキシフェンの研究)が、高リスクの女性に対するより良好な医療オプションを同定するために行われている53,54。STAR治験(タモキシフェンおよびラロキシフェンの研究)は、浸潤性乳癌のリスクの低減を評価するように設計された治験において、2つの薬剤を直接比較するものである55,56。ラロキシフェンは、第二世代選択的エストロゲンモジュレータ(SERM)であり、現在骨粗しょう症の予防用として分類されている薬剤であり、これは、子宮内膜腺上皮の最小の刺激と共に、抗エストロゲン特性を持つことが示された。NSABPにより実施されたこの5年間の研究は、ゲイルの相対リスクを少なくとも1.67%有する、閉経後の女性19000人が参加して設計された。STAR治験は、浸潤性乳癌をもっともよく低減する治療法を決定し、各薬剤についてのリスク便益プロファイルを、子宮内膜癌、心臓疾患、骨折およびクオリティオブライフを含むエンドポイントと共に確立するであろう。STAR治験でのデータ収集は終了し、結果は2006年に利用可能となる予定である。さらに、期待できる新しい薬剤、例えばエストロゲンシンセターゼ阻害剤などが、可能性のある乳癌リスク低減剤として現在その評価が行われている57〜60
【0149】
現在、原発性の乳房病変の存在を高信頼度で検知するため(スクリーニング)、臨床経過のモニタリングのため、およびより攻撃的療法から利益を受けることができる患者のサブセットはどれかを決定するために利用できる臨床的マーカーは、十分ではない。ゲイルモデル62、クラウスモデル62、およびBRACAPROモデル63などの数学的モデルは有用ではあるが、信頼できるバイオマーカーは、乳癌のリスクを識別し乳癌の進行を追跡するための、もっとも望ましい方法である。最近、癌の診断およびモニタリング用のバイオマーカーとして、MMP類への興味が高まっている64,65。非侵襲的な尿試験により乳癌リスクを評価する本方法は、非常に魅力的である。尿タンパク質の評価は、マンモグラムより非侵襲的で、扱いやすく、安価であり、多くの女性にとってより耐容されやすく、スクリーニング用としてより準拠しやすいはずである。これは、マンモグラフィで変化が現れるか、または乳房に塊が現れるより前にリスク低減努力を開始するために、用いることができる。
【0150】
我々のデータは、尿中のADAM12およびMMMP9が、乳癌リスクマーカーであるAHおよびCLCISの予測因子であることを明らかに示す。ADAM12レベルは、AHまたはLCISを有する女性を正常対照から識別する、優れた識別子を提供する。ADAM12レベルをゲイルのリスクスコアと複合すると、得られたリスク指標は、ゲイルモデルのみにより低リスクと分類された女性について、正常対照とAHとをより正確に識別する(感度0.976、特異性0.977)。この尿中バイオマーカーアプローチは、マンモグラフィで変化が現れるか、または乳房に塊が現れるさらに前に、初期のリスク低減努力から便益を受ける対象を識別するために、用いることができる。
以下および本明細書中に引用された参考文献は、その全体が参照として本明細書に組み込まれる。
【0151】
参考文献
【表7】

【0152】
【表8】

【0153】
【表9】

【0154】
【表10】

【0155】
【表11】

【0156】
【表12】

【0157】
【表13】

【図面の簡単な説明】
【0158】
【図1】Aはザイモグラムを示す図である。尿中MMP類は、乳癌を発症するリスクがある女性の尿中に存在する:MMP2(ゼラチナーゼA)、MMP9(ゼラチナーゼB)、MMP9/NGAL複合体および高分子量MMP種は、ゼラチンザイモグラフィによってヒトの尿中に検出可能な、主要なMMP種である。Bはウェスタンブロットを示す図である。ADAM12は、AHまたはLCISと診断された、正常対照より大幅に高いレベルで乳癌を発症する増加リスクの女性の尿に存在する。ADAM12の68kDa活性形態は、ADAM12特異的抗体を用いる免疫ブロット分析によりヒトの尿に検出される、主要な種である。帯域の強度を、UN-SCAN-IT(商標)(Silk Scientific, Orem UT)ソフトウェアデジタイザー技術を用いて解析し、DUに変換した73
【0159】
【図2A】ADAM12レベルについて正常対照と比較した、AHの確率を示す理論曲線を示す。
【図2B】ADAM12レベルについて正常対照と比較した、LCISの確率を示す理論曲線を示す。実験データは、x軸上の各間隔内のADAM12レベルを有する各群の女性の割合を表わす、ヒストグラムで示す。ロジスティック回帰分析により、ADAM12レベルの上昇と、AHの確率(自由度1でLRT=58.4、P<0.0001)およびLCISの確率(自由度1でLRT=53.3、P<0.0001)の増加の間に、高度に有意な非線形な関係が示される。対照のほぼ60%がADAM12レベルが0であり、一方AHと診断された女性の75%および、LCISと診断された女性の80%が、10濃度単位より大きいADFAM12レベルを有した。
【0160】
【図3】AHの尤度を予測する、ADAM12レベルとゲイルスコアを用いた複合値を示す確率曲線である。ゲイルリスクのサブ群の曲線は多重ロジスティック回帰分析により導かれ、ADAM12レベルとゲイルスコアがそれぞれ独立して、AHの異常の診断を予測することが確認された。低リスクのゲイル5年スコアである<1.67%を有する女性が、同時にADAM12レベル<12濃度単位を有する場合、該女性はAHの低い予測確率を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における乳癌リスクを評価するための方法であって、
(a)対象からの生体試料中のADAM12の有無を検出すること;および
(b)前記対象からの生体試料中のMMP9の有無を検出すること;
を含み、ここでADAM12およびMMP9両方の存在が、乳癌リスクの増加を示す、前記方法。
【請求項2】
対象における乳癌リスクを評価するための方法であって、
(a)対象から一定期間にわたり定期的に得た複数の生体試料中のADAM12のレベルおよびMMP9のレベルを測定すること;および
(b)前記生体試料中のADAM12の測定レベルおよびMMP9の測定レベルの変化を測定すること;
を含み、ここで時間に伴うADAM12の測定レベルおよび/またはMMP9の測定レベルの上昇が、乳癌リスクの増加を示す、前記方法。
【請求項3】
生体試料が、血液、組織、血清、尿、大便、痰、脳脊髄液、乳頭吸引液、血漿、および細胞溶解物からの上清からなる群から選択される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
生体試料が尿である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
対象の病歴の1または2以上の側面を評価することをさらに含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
1または2以上の側面が、年齢、民族性、妊娠歴、月経歴、経口避妊薬の使用、ボディー・マス・インデックス、アルコール消費歴、喫煙歴、運動歴、食生活、乳癌、または他の癌の家族歴であって血縁者の癌診断時の年齢を含むもの、および乳癌、乳房生検、DCIS、LCIS、または異型過形成の個人病歴、からなる群から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
対象の病歴の1または2以上の側面が、対象の年齢である、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
対象への癌診断検査の時期および/または頻度を決定することをさらに含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項9】
対象への癌予防的処置の時期および/または頻度を決定することをさらに含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項10】
対象への医療ケアを指示するための方法であって、請求項1または2に記載の方法によって対象における乳癌リスクを評価することを含み、ここでリスク増加の評価が、第2の検出法を含む医療ケアを指示する、前記方法。
【請求項11】
第2の検出法が、マンモグラフィ、早期マンモグラフィプログラム、頻回マンモグラフィプログラム、生検法、超音波、磁気共鳴画像法、電気インピーダンス(Tスキャン)分析、乳管洗浄、ダクタグラム(ductagram)、核医学分析、熱画像法、または前記の任意の組み合わせである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
対象への医療ケアを指示するための方法であって、請求項1または2に記載の方法によって対象における乳癌リスクを評価することを含み、ここでリスク増加の評価が、乳癌リスク低減法を含む医療ケアを指示する、前記方法。
【請求項13】
乳癌リスク低減法が、選択的ホルモン受容体モジュレータの投与である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
選択的ホルモン受容体モジュレータが、タモキシフェンである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
選択的ホルモン受容体モジュレータが、ラロキシフェンである、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
乳癌リスク低減法が、抗血管形成療法の適用である、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
ADAM12存在の状態およびMMP9存在の状態の連続モニタリングが、少なくとも年4回、少なくとも2ヶ月に1回、少なくとも2週間に1回、少なくとも週に1回、少なくとも3日毎、または少なくとも毎日実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
乳癌リスク低減方策の治療的有効性をモニタリングするための方法であって、ここで対象からの生体試料中のADAM12存在の状態およびMMP9存在の状態が、前記対象における乳癌リスクの評価に用いられ、ここでADAM12レベルの低下および/またはMMP9レベルの低下が、前記乳癌リスク低減方策が有効であることを示す、前記方法。
【請求項19】
生体試料中のADAM12存在の状態およびMMP9存在の状態が、前記生体試料中のADAM12レベルまたはMMP9レベルの変化を検出することにより測定される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
対象における乳癌リスク低減方策の治療的有効性をモニタリングするための方法であって、
a.対象から一定期間にわたり定期的に得た複数の生体試料中のADAM12のレベルおよびMMP9のレベルを測定すること;および
b.ADAM12の測定レベルの変化およびMMP9の測定レベルの変化を測定すること;
を含み、ここで時間に伴う、ADAM12の測定レベルの低下および/またはMMP9の測定レベルの低下が、前記乳癌リスク低減方策の有効性を示す、前記方法。
【請求項21】
ゲイルの5年リスクモデルに従うと乳癌リスクが低い対象における、乳癌リスクを評価するための方法であって、
(a)ゲイルの5年リスクモデルに従うと乳癌リスクが低い対象からの生体試料中のADAM12のレベルを検出すること;および
(b)ステップ(a)で決定されたレベルを、ADAM12の標準レベルと比較すること、
を含み、ここで標準レベルと比較したADAM12レベルの上昇が、乳癌リスクの増加を示す、前記方法。
【請求項22】
ゲイルの5年リスクモデルに従うと乳癌リスクが低い対象が、1.67%未満のスコアを有する、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
生体試料が、血液、組織、血清、尿、大便、痰、脳脊髄液、乳頭吸引液、および細胞溶解物からの上清からなる群から選択される、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
生体試料が尿である、請求項21に記載の方法。
【請求項25】
対象への癌診断検査の時期および/または頻度を決定することをさらに含む、請求項21に記載の方法。
【請求項26】
対象への癌予防的処置の時期および/または頻度を決定することをさらに含む、請求項21に記載の方法。
【請求項27】
対象への医療ケアを指示するための方法であって、請求項21に記載の方法によって対象における乳癌リスクを評価することを含み、ここでリスク増加の評価が、第2の検出法を含む医療ケアを指示する、前記方法。
【請求項28】
第2の検出法が、マンモグラフィ、早期マンモグラフィプログラム、頻回マンモグラフィプログラム、生検法、超音波、磁気共鳴画像法、電気インピーダンス(Tスキャン)分析、乳管洗浄、ダクタグラム(ductagram)、核医学分析、熱画像法、または前記の任意の組み合わせである、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
対象への医療ケアを指示するための方法であって、請求項21に記載の方法によって対象における乳癌リスクを評価することを含み、ここでリスク増加の評価が、乳癌リスク低減法を含む医療ケアを指示する、前記方法。
【請求項30】
乳癌リスク低減法が、選択的ホルモン受容体モジュレータの投与である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
選択的ホルモン受容体モジュレータが、タモキシフェンである、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
選択的ホルモン受容体モジュレータが、ラロキシフェンである、請求項30に記載の方法。
【請求項33】
乳癌リスク低減法が、抗血管形成療法の適用である、請求項29に記載の方法。
【請求項34】
対象からの生体試料中のADAM12のレベルが、少なくとも年4回、少なくとも2ヶ月に1回、少なくとも2週間に1回、少なくとも週に1回、少なくとも3日毎、または少なくとも毎日検出される、請求項21に記載の方法。
【請求項35】
乳癌リスク低減方策の治療的有効性をモニタリングするための方法であって、ここでゲイルの5年リスクモデルに従うと乳癌リスクが低い対象からの生体試料中のADAM12のレベルが、前記対象における乳癌リスクの評価に用いられ、ここでADAM12レベルの低下が、前記乳癌リスク低減方策が有効であることを示す、前記方法。
【請求項36】
対象の処置を指示する方法であって、対象を、該対象から得た生体試料中のADAM12の存在およびMMP9の存在について検査することを含み、ここで臨床医が結果を検討し、前記生体試料がADAM12の存在およびMMP9の存在について陽性である場合、臨床医は前記対象に適切な医療処置を指示する、前記方法。
【請求項37】
対象の処置を指示する方法であって、ゲイルの5年リスクモデルに従うと乳癌リスクが低い対象を、該対象から得た生体試料中のADAM12のレベルについて検査することを含み、ここで臨床医が結果をADAM12の標準レベルと比較して検討し、前記生体試料が標準レベルと比較してADAM12のレベルの上昇を有する場合、臨床医は前記対象に適切な医療処置を指示する、前記方法。
【請求項38】
適切な医療処置が、第2検出法を含む医療ケアである、請求項36または37に記載の方法。
【請求項39】
第2の検出法が、マンモグラフィ、早期マンモグラフィプログラム、頻回マンモグラフィプログラム、生検法、超音波、磁気共鳴画像法、電気インピーダンス(Tスキャン)分析、乳管洗浄、ダクタグラム(ductagram)、核医学分析、熱画像法、または前記の任意の組み合わせである、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
適切な医療処置が、乳癌減少処置である、請求項36または37に記載の方法。
【請求項41】
乳癌減少処置が、ホルモン受容体モジュレータまたは抗血管形成療法による処置である、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
対象における乳癌リスクを評価するための方法であって、
a.対象から一定期間にわたり定期的に得た複数の生体試料中のADAM12のレベルを測定すること;および
b.前記生体試料中のADAM12の測定レベルの変化を測定すること;
を含み、ここで時間に伴うADAM12の測定レベルの上昇が、乳癌リスクの増加を示す、前記方法。
【請求項43】
対象における乳癌リスクを評価するための方法であって、
a.対象から一定期間にわたり定期的に得た複数の生体試料中のMMP9のレベルを測定すること;および
b.前記生体試料中のMMP9の測定レベルの変化を測定すること;
を含み、ここで時間に伴うMMP9の測定レベルの上昇が、乳癌リスクの増加を示す、前記方法。
【請求項44】
対象の病歴の1または2以上の側面を評価することをさらに含む、請求項42または43に記載の方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【公表番号】特表2009−515556(P2009−515556A)
【公表日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−541371(P2008−541371)
【出願日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際出願番号】PCT/US2006/044684
【国際公開番号】WO2007/059313
【国際公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【出願人】(596115687)チルドレンズ メディカル センター コーポレーション (25)
【出願人】(301033259)ベス・イスラエル・ディーコネス・メディカル・センター,インコーポレイテッド (11)
【Fターム(参考)】