説明

乳酸菌を用いた醗酵種の調製方法

【課題】小麦粉、水、並びに乳酸菌及び/又は乳酸菌を含有する醗酵種を混合して醗酵させることを含む醗酵種の調製方法であって、風味豊かなパンを得るための醗酵種の調製方法を提供する。
【解決手段】該乳酸菌としてペディオコッカス属に属する乳酸菌を使用すること、及びアルギニンを混合し醗酵することことを特徴とする方法である。
【効果】本醗酵種を使用してパンを製造することにより、風味豊かなパンを得ることができる。特に、上記醗酵種の調製方法においてさらにアルギニンを混合し醗酵することによって、より風味が改善されたパンを得ることをができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パン用醗酵種とその調製方法、該醗酵種を用いるパン生地とその作成方法及び該パン生地を用いるパンに関する。より詳しくは、乳酸菌を使用するパン用醗酵種とその調製方法、該醗酵種を用いるパン生地とその作成方法及び該パン生地を用いるパンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から風味改善を目的として、乳酸菌を用いて醗酵種を調製し、調製した活性乳酸菌含有醗酵種を生地に添加して醗酵させることによるパンの製造方法が知られている。例えば、乳酸菌を用いて醗酵種を調製する方法を開示する文献として、特許文献1、特許文献2などが挙げられる。
【特許文献1】特許第3180900号公報
【特許文献2】特開2003−79307号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、このような従来の乳酸菌醗酵種を用いて作成したパンは、刺激的な酸臭・酸味が強く、マイルドなサワー風味や香ばしさに欠けていた。また、味覚的にも、旨味・甘味(あまみ)・コク(味わい)に欠けることがあった。
【0004】
そこで、本発明の課題は、乳酸菌発酵種を用いてパンを製造するにあたり、刺激的な強い酸味・酸臭のない、マイルドなサワー風味や香ばしい焙焼香と、味覚的にも旨味・甘味・コク味を有するパンを製造することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、従来の技術に関する上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、ペディオコッカス属に属する乳酸菌を使用して醗酵種を調製することにより、極めて好ましい香ばしさを有するパンを製造できることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は以下の事項に関する。
(1)穀粉、水、乳酸菌及び/又は乳酸菌を含有する醗酵種、並びにオルニチン生成のための基質となるアミノ酸を混合して醗酵させることを含む、活性乳酸菌含有醗酵種の調製方法であって、
該乳酸菌が、ペディオコッカス属に属し、かつ、オルニチン生成能を有する乳酸菌である、上記醗酵種の調製方法。
(2)上記乳酸菌がペディオコッカス・アシディラクティシ又はペディオコッカス・ペントサセウスである、上記(1)に記載の醗酵種の調製方法。
(3)前記オルニチン生成のための基質となるアミノ酸の添加量が醗酵種全体に対して0.05〜4.0質量%である、上記(1)又は上記(2)に記載の醗酵種の調製方法。
(4)前記オルニチン生成のための基質となるアミノ酸がアルギニンである、上記(1)〜上記(3)のいずれか1項に記載の醗酵種の調製方法。
(5)上記(1)〜(4)に記載の方法により調製した活性乳酸菌含有醗酵種。
(6)上記(1)〜(4)に記載の方法により調製した醗酵種を添加することを含む、パン生地の作成方法。
(7)上記(1)〜(4)に記載の方法により調製した醗酵種を含んでなるパン生地。
(8)前記醗酵種の添加量が、前記パン生地に使用する小麦粉の全量に対して1〜45質量%である、上記(6)に記載のパン生地の作成方法又は7に記載のパン生地。
(9)上記(8)に記載のパン生地を用いて製造したパン。
(10)上記(1)〜(4)に記載の方法により調製した醗酵種をパン生地に添加することを含む、パンの作成方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明により活性乳酸菌含有醗酵種を調製し、これを添加および混捏して醗酵させたパン生地を焼成すると、独特の香ばしさを有する、風味が良好なパンを製造することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
1つの観点において本発明は、穀粉、水、乳酸菌及び/又は乳酸菌を含有する醗酵種、並びにオルニチン生成のための基質となるアミノ酸を混合して醗酵させることを含む、醗酵種の調製方法であって、該乳酸菌が、ペディオコッカス属に属し、かつ、オルニチン生成能を有する乳酸菌である、上記醗酵種の調製方法である。
【0009】
本発明で使用する乳酸菌はペディオコッカス属に属し、かつオルニチン生成能を有する乳酸菌であれば特に種類を問わないが、高度のオルニチン生成能を有するペディオコッカス属に属する乳酸菌が好ましい。ここで、オルニチンとはアミノ酸の1種であり、オルニチン生成能とは、乳酸菌が醗酵によって特定のアミノ酸を基質としてオルニチンを生成する能力のことである。オルニチン生成の基質となるアミノ酸としては、好ましくは、例えばアルギニンが挙げられる。ペディオコッカス属に属する乳酸菌としては、例えば、ペディオコッカス・アシディラクティシ(Pediococcus acidilactici)、ペディオコッカス・ペントサセウス(Pediococcus pentsaseus)、ペディオコッカス・ハロフイラス(Pediococcus halophilus)、ペディオコッカス・セレビジェ(Pediococcus cerevisiae)、ペディオコッカス・ダノムサス(Pediococcus damnosus)、ペディオコッカス・デキストリニカス(Pediococcus dextrinicus)、ペディオコッカス・ホマリ(Pediococcus homari)、ペディオコッカス・イノピナタス(Pediococcus inopinatus)、ペディオコッカス・パルバラス(Pediococcus parvulus)、等が挙げられるが、中でもペディオコッカス・アシディラクティシおよびこれと微生物分類上近縁の関係にあるペディオコッカス・ペントサセウスが好ましく、特に、高度のオルニチン生成能を有するペディオコッカス・アシディラクティシが最も好ましい。また、本発明の乳酸菌は、単独で使用することも、複数種を組み合わせて使用することもできる。
【0010】
本発明の醗酵種を調製するために使用する乳酸菌として、乳酸菌自体を使用して醗酵種を調製することもできるし、乳酸菌を含む材料(例えば醗酵種)を使用して醗酵種調製することもできる。例えば、乳酸菌含む単離培養菌体(例えば、集菌した菌を寒天培地で培養して複数のコロニーを得、それぞれのコロニーを寒天培地での培養を繰り返すことにより得られる菌体)、醗酵液、醗酵物、これらの乾燥粉末、元種、その他、またこれらの1種以上を、醗酵種の原料として使用することができる。
【0011】
本発明の醗酵種を調製するために使用する穀粉は、特に限定されず、小麦粉、ライ麦粉、大麦粉などが挙げられ、これらを併用することもできる。このうち、パン用穀粉として最もポピュラーなのが小麦粉であるが、小麦粉としても、強力粉、中力粉、薄力粉、荒挽粉、全粒粉、デュラム粉等を使用することができ、また、複数種の小麦粉を併用することもできる。
【0012】
本発明の醗酵種を調製するために使用する水の量も特に限定されず、穀粉と水との構成割合は従来当業界において用いられてきた割合を用いることができる。例えば、穀粉に対して50〜150質量%の水を使用することができる。
【0013】
醗酵種の固形物濃度は、乳酸菌発酵を十分に行わせ、本発明の効果を顕著に得るため、好ましくは1〜40重量%、より好ましくは10〜30重量%、さらに好ましくは15〜25質量%である。例えば、固形物が多すぎると醗酵が緩慢になり醗酵に長時間を要することとなり、固形分が少なすぎると乳酸菌発酵に必要な固形物由来の栄養素が不足したり、醗酵に適したpH緩衝能を充分に得られないおそれがある。
【0014】
本発明の醗酵種の原料として、少なくとも穀粉、水、乳酸菌(及び/又は乳酸菌を含有する醗酵種)及びオルニチン生成のための基質となるアミノ酸を用いるが、それ以外の材料を添加することもできる。該アミノ酸としては、アルギニンが好ましい。この際のアルギニンの添加量としては、醗酵種全体の重量の0.05〜4.0重量%とすることが望ましい。アルギニンの添加量が多すぎるとかえってオルニチン生成反応の阻害が起こるおそれがあり、少なすぎるとオルニチンの生成量が不十分となる。
【0015】
他に添加できる材料としては、特に限定はないが、当業界において使用される製パン用原料、例えば、塩、糖類、油脂、脱脂粉乳等の乳由来原料、モルト、イースト、増粘剤等、本発明の目的・効果を妨げない限り、それぞれを必要に応じて適宜量添加することができる。これらの材料は単独で使用することもできるし、また、2種以上を併用することも可能である。中でも、醗酵種の原料として乳製品、糖類を適宜量添加することが望ましい。特に、乳酸菌が糖類を資化することによって、乳酸菌発酵が促進され、本発明の効果が顕著になるため好適である。糖類としては、特に限定されないが、例えば、ブドウ糖、果糖、ショ糖、麦芽糖、乳糖、はちみつ、その他のものを挙げることができ、これらの糖類を1種又は複数種組み合わせて用いることができる。該糖類の含有量としては、該液状醗酵種を構成する小麦粉に対して1〜10質量%が望ましい。
【0016】
1つの態様において本発明は、穀粉と水と乳酸菌とを混合して醗酵させることを含む醗酵種の調製方法である。また、1つの態様において本発明は、穀粉と水と乳酸菌を含有する醗酵種とを混合して醗酵させることを含む醗酵種の調製方法である。さらに、1つの態様において本発明は、穀粉と水と乳酸菌と乳酸菌を含有する醗酵種とを混合して醗酵させることを含む醗酵種の調製方法である。
【0017】
したがって、本発明の「醗酵種の調製」として、(1)最初の醗酵種(当業界において、初種、親種、一番種などと呼ばれ、本明細書においては初種という)の調製(「種起こし」という)、(2)種起こしにより得られた初種を用いた醗酵種の調製(「種継ぎ」という)、及び、(3)種継ぎした醗酵種を用いた1回又は複数回の醗酵種の調製(「種継ぎ」という)のうち、いずれか一つの工程又は二つ以上の工程を含む態様を挙げることができる。ここで、本明細書において「種起こし」とは最初の醗酵種の調製を意味し、「種継ぎ」とは、種起こしした初種を用いた醗酵種の調製と、種継ぎした醗酵種を用いた1回又は複数回の醗酵種の調製とのそれぞれを含む意味である。
【0018】
具体的には、例えば、種継ぎを行わないで、醗酵種を調製する場合、初めの種起こしのみを行って醗酵種を調製することになる。また、種起こし及び種継ぎを合計5回行って醗酵種を調製する場合、初めの種起こしを行った後に、種継ぎを4回行うことになる。さらに、種起こし及び種継ぎを合計10回行って醗酵種を調製する場合、初めの種起こしを行った後に、種継ぎを9回行うことになる。これらはすべて本発明の態様に含まれることはいうまでもない。
【0019】
例えば、種起こしの際に乳酸菌を添加する形態としては、乳酸菌からなる、又は、乳酸菌を含んでなる単離培養菌体、醗酵液、醗酵物、これらの乾燥粉末、その他のうちの1種又は2種以上を添加してもよく、また、このような人工的に培養した乳酸菌ではなく醗酵種を構成する穀粉に付着している自然菌を利用することもできる。
【0020】
また、初種を基礎として(元種として)1回、又は初種から出発して(初種の少なくとも一部を最初の元種として)複数回、若しくは繰り返し無数に種継ぎを行う場合、それぞれの種継ぎにおいて、乳酸菌を添加する形態として、元種に含有される乳酸菌や、種継ぎの際に添加する醗酵種を構成する穀粉に付着している自然菌を利用することができ、また、液状醗酵種中の菌数、醗酵条件、菌の増殖の早さ、求める最終醗酵状態等の事情に応じて、前記単離培養菌体、醗酵液、醗酵物、これらの乾燥粉末、その他のうちの1種又は2種以上を添加することもできる。
【0021】
本発明の醗酵種は、初種でも、又は初種から出発して種継ぎをした継ぎ種でも、醗酵種として直ちにパンの製造に使用することができる程度まで培養して醗酵させておくことが望ましい。このためには、初種及び継ぎ種ともに、液状醗酵種の醗酵終了後のpHを4.0以下となるまで醗酵させることが望ましく、3.8以下となるまで醗酵させることがより望ましく、3.5〜3.7となるまで醗酵させることがより一層望ましい。
【0022】
1つの観点において本発明は、上記の醗酵種の調製方法により調製した活性乳酸菌含有醗酵種である。さらに、1つの観点において本発明は、上記の醗酵種の調製方法により調製した活性乳酸菌含有醗酵種をに添加することを含む、パン生地の作成方法である。
【0023】
パン生地の作成方法は特に限定されず、本発明は、当業者に公知のあらゆるパン生地の作成方法に適用することができる。例えば、本発明は、ストレート法、中種法、ノータイム法、短時間製法等に適用可能である。また、本発明のパン生地の作成方法は、醗酵種の添加する工程以外にも、当業者に公知のあらゆる工程を含むことができる。
【0024】
本発明の醗酵種の添加時期も特に限定されず、本発明の醗酵種がパン生地中にある程度均一に混合されていればよい。例えば、パン生地の混捏工程で醗酵種をパン生地に添加することが好ましく、また、パン生地の混捏工程のどの段階で添加してもよい。例えば、ストレート法においては生地混捏工程において醗酵種を添加することができる。また、中種法においては、該醗酵種生地を中種の混捏工程と本捏工程のどちらか一方又は両方で添加することができるが、中種のイースト醗酵を十分に行うことができ、風味豊かなパンを製造できることから、本捏工程で醗酵種を添加することが好ましい。また、醗酵種の添加方法等も特に限定されない。
【0025】
1つの観点において本発明は、本発明の醗酵種の調製方法により調製した活性乳酸菌含有醗酵種を含んでなるパン生地である。
醗酵種の添加量は、本発明の効果をより顕著なものとするために、パン生地に構成する穀粉全量に対して好ましくは1〜45質量%、より好ましくは1〜40質量%、さらに好ましくは1〜35質量%、最も好ましくは5〜35質量%添加することができる。多すぎると生地がダレてしまい、少なすぎると本発明の効果が不十分となるためである。
【0026】
また、1つの観点において本発明は、上記のパン生地を用いて製造したパンである。本発明のパン生地は、あらゆるパンの製造に適用することができ、例えば、食パン、フランスパン、菓子パン、バンズ、コーヒーケーキ、蒸しパン、ピザ、ドーナツ、スイートロール、ロール、ペストリー、デニッシュペストリー等の各種パンの製造に用いることができる。中でも、本発明は食パンやフランスパンの製造に好適である。さらに、本発明は、本発明の方法により調製した醗酵種をパン生地に添加することを含むパン生地の作成方法である。本発明の醗酵種の調製方法により調製した活性乳酸菌含有醗酵種を添加して醗酵させたパン生地を焼成すると、独特の香ばしさを有するパンを製造することができる。パンの焼成工程における加熱温度は、特に限定されないが、150〜300℃が好ましく、170〜240℃がさらに好ましい。
【0027】
以下の理論に拘束されるものではないが、本発明の醗酵種を使用して製造したパンは、以下の作用により独特の香ばしさという極めて好ましい効果を得ているものと推測される。
【0028】
すなわち、本発明者らは、本発明に使用するペディオコッカス属に属する乳酸菌に1つであるペディオコッカス・アシディラクシが高いオルニチン生成能を有することを見出している。一方、本発明者らは、醗酵種中の乳酸菌により生成されたオルニチンを含んだパン生地を焼成すると、パン焼成時のメイラード反応によりオルニチンが独特の香ばしさを生じる芳香性の化合物に転換されることも見出している。ただ、単にオルニチンをパン生地に添加した場合には単一の芳香成分のみ付与されるにすぎず、焼成したパンの風味が人工的なものとなってしまう。したがって、ペディオコッカス属に属する乳酸菌を使用して醗酵種を調製し、かかる醗酵種を使用してパンを製造すると、独特の香ばしさを有する風味の改善されたパンを得ることができる理由としては、本発明の特定の乳酸菌を使用し、かつオルニチン生成の基質となるアミノ酸を添加することにより、乳酸菌発酵により他の乳酸菌発酵生成物とともにオルニチンが生成され、さらに、そのオルニチンがパン焼成時のメイラード反応により芳香性の化合物に転換されるとともに、他の乳酸菌発酵生成物の焼成香などと相まって、焼成後のパンに独特の好ましい香ばしさが付与されることによると推測される。
【0029】
また、前述したとおり、パン生地に、メイラード反応により芳香性の化合物に変化するオルニチンのような化合物を単に添加しても、パンの風味を改善することは難しい。というのも、パンが有する風味は、単一の芳香成分のみによって得られるものではなく、他の乳酸菌発酵生成物を焼成することにより生じる複数の芳香成分と相まって得られるものであるため、単一の化合物をパン生地に添加したとしても焼成したパンの風味が人工的なものとなってしまい、パンの風味を全体として改善することは難しいからである。
【0030】
このように、本発明は、特定の乳酸菌の特異的な代謝によって特定の醗酵生成物(オルニチン)を生成させ、パン焼成時のメイラード反応によりその醗酵生成物を基質として芳香性の化合物が生成し、その芳香性の化合物が付与され、これが他の乳酸菌発酵生成物の焼成香などと相まってパンの焼成香と風味を向上させることにより、独特の香ばしさという極めて好ましい効果を得ていると考えられる。
【実施例1】
【0031】
醗酵種の製造
小麦粉95質量%、水100質量%、アルギニン0.4質量%、及び、麦芽糖3質量%の混合液に、ペディオコッカス・アシディラクティシの菌体108個/mlを20質量%添加し、温度10℃〜37℃程度で、静置条件下で24時間培養させて醗酵種を調製した(表1参照)。培養後は、4℃で冷蔵保管した。
【0032】
【表1】

【0033】
調製された醗酵種はpH4.1だった。また、調製した醗酵種をO−フタルアルデヒド法で分析すると、オルニチンが313ppm検出され、アルギニンはほとんど検出されなかった。この結果から、醗酵種に添加したほぼ全てのアルギニンは、ペディオコッカス・アシディラクティシの醗酵によるオルニチン生成反応の基質として消費されたと考えられる。
【実施例2】
【0034】
実施例1で調製した醗酵種を使用したフランスパンの製造方法
小麦粉100質量%、水66質量%、イースト2質量%、イーストフード0.5質量%、食塩2.3質量%、及び、モルト0.5質量%に、実施例1で調製した醗酵種15質量%を添加し、この混合物を低速で6分間、中速で7分間ミキシングしてパン生地を作成した。その後、このパン生地を27℃で50分間静置し、パンチングした後さらに20分間静置してねかした。この生地を250gずつに分割し、さらに30分間静置してねかした。その後、パン生地を成形して温度28℃、湿度82%RHにてホイロ中で65分間最終醗酵させた後、200〜240℃で32分間焼成し、フランスパンを製造した。原料配合および製造工程を以下にまとめる。
【0035】
【表2】

【0036】
【表3】

【0037】
このようにして得られたフランスパンを官能評価したところ、酸味がほとんど感じられず、コクを主体とした焼成香の強い風味があった。特に、得られたフランスパンには、粉臭さや「つん」とした醗酵臭がほとんどなく、ナッツをローストしたときに感じられるような、特徴的な甘い香りを有していた。
【比較例1】
【0038】
実施例2において、パン生地作成時に実施例1で調製した醗酵種を添加しないこと以外は、配合・工程とも同様の方法でフランスパンを製造した。
得られたフランスパンは、実施例2のフランスパンと比較すると、香りが弱く、やや粉臭があり、つんとした醗酵臭が感じられた。
【実施例3】
【0039】
実施例1で調製した醗酵種を使用した食パンの製造方法
小麦粉70質量%、水42質量%、イースト2質量%、及び、イーストフード0.1質量%の混合物を、低速で3分間、中速で2分間ミキシングし、得られた生地を28℃で4時間醗酵させ、中種生地を調製した。
【0040】
得られた中種生地に、小麦粉30質量%、砂糖5質量%、食塩2質量%、及び、実施例1で調製した醗酵種35質量%を添加して、低速で3分間、中速で2分間ミキシングした。次いで、油脂5重量%を加え、さらに低速で2分間、中速で3分間、高速で4分間ミキシングし、本捏生地を調製した。
【0041】
得られた本捏生地を28℃で20分間静置してねかし、220gずつに分割して球状に丸めて成形し、25〜28℃にて20分間静置してねかした。その後、球状生地をガス抜きし成形してプルマン型に入れ、温度38℃、湿度85%で70分間ホイロした後に、200℃で28分間焼成し、食パンを製造した。原料配合および製造工程を以下にまとめる。
【0042】
【表4】

【0043】
【表5】

【0044】
【表6】

【0045】
このようにして得られたフランスパンを官能評価したところ、酸味がほとんど感じられず、コクを主体とした焼成香の強い風味があった。特に、得られたフランスパンには、粉臭さや「つん」とした醗酵臭がほとんどなく、ナッツをローストしたときに感じられるような、特徴的な甘い香りを有していた。
【比較例2】
【0046】
醗酵液に添加する菌株としてペディオコッカス・アシディラクティシに代えてラクトバチルス ポンティスを使用した以外は、配合、工程とも実施例3と同様の条件で、食パンを製造した。
【0047】
得られた食パンは、実施例3の食パンと比較すると、香ばしい焼成香がなく、乳酸醗酵に起因する酸味が強く感じられた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
穀粉、水、乳酸菌及び/又は乳酸菌を含有する醗酵種、並びにオルニチン生成のための基質となるアミノ酸を混合して醗酵させることを含む、活性乳酸菌含有醗酵種の調製方法であって、
該乳酸菌が、ペディオコッカス属に属し、かつ、オルニチン生成能を有する乳酸菌である、上記醗酵種の調製方法。
【請求項2】
上記乳酸菌がペディオコッカス・アシディラクティシ又はペディオコッカス・ペントサセウスである、請求項1に記載の醗酵種の調製方法。
【請求項3】
前記オルニチン生成のための基質となるアミノ酸の添加量が醗酵種全体に対して0.05〜4.0質量%である、請求項1又は2に記載の醗酵種の調製方法。
【請求項4】
前記オルニチン生成のための基質となるアミノ酸がアルギニンである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の醗酵種の調製方法。
【請求項5】
請求項1〜4に記載の方法により調製した活性乳酸菌含有醗酵種。
【請求項6】
請求項1〜4に記載の方法により調製した醗酵種を添加することを含む、パン生地の作成方法。
【請求項7】
請求項1〜4に記載の方法により調製した醗酵種を含んでなるパン生地。
【請求項8】
前記醗酵種の添加量が、前記パン生地に使用する小麦粉の全量に対して1〜45質量%である、請求項6に記載のパン生地の作成方法又は請求項7に記載のパン生地。
【請求項9】
請求項8に記載のパン生地を用いて製造したパン。
【請求項10】
請求項1〜4に記載の方法により調製した醗酵種をパン生地に添加することを含む、パンの作成方法。