説明

乳酸菌含有抗アレルギー用飲料

【課題】飲料の製造、流通、消費の過程において必然的に生じる長期保存や加熱等の熱履歴において飲料に含まれる乳酸菌の抗アレルギー活性低下が抑制された飲料、および乳酸菌の抗アレルギー活性低下を抑制する方法を提供すること。
【解決手段】抗アレルギー活性を有する乳酸菌の乾燥菌体と乳成分を配合することにより、飲料中の乳酸菌の抗アレルギー活性の低下を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳酸菌含有抗アレルギー用飲料、および乳酸菌の抗アレルギー活性低下を抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
先進国においてアレルギーは最も頻度が高い疾患のひとつである。アレルギー発症機構は通常I型からIV型の4つに分類され、I型、II型およびIV型が食物アレルギーの発症に関与するとされている。一方、花粉症、アトピー性皮膚炎、気管支喘息、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎などの環境アレルギーはI型の発症機構を持つ。
【0003】
I型アレルギーは、アレルゲン特異的IgEの誘導と、ヒスタミンやロイコトリエン等のケミカルメディエーターの放出を特徴とする。B細胞において抗体のクラススイッチが起こり、IgE抗体が産生されるようになるには、IL−4、IL−5、IL−13等のTh2サイトカインを必要とする。実際、アレルギー患者のリンパ球にはTh2細胞が増加していることが分かっている。つまり、外界から侵入したアレルゲンは樹状細胞・マクロファージ等の抗原提示細胞によってその一部をMHC class II分子に結合した状態でT細胞に対して提示され、Th2細胞が活性化・分化する。Th2細胞が放出したTh2サイトカインはB細胞のクラススイッチを誘導し、IgE抗体が産生され、IgE抗体は組織内のマスト細胞や血中の好塩基球表面のFc・Rに結合する。アレルゲンは次回の侵入時にマスト細胞や好塩基球表面に結合しているIgE抗体に認識され、IgE抗体間に架橋が形成される。この刺激を引き金としてマスト細胞や好塩基球がケミカルメディエーターを爆発的に遊離することによって、アレルギーの諸症状が現れる。
【0004】
IgEやケミカルメディエーターを介するアレルギーの予防・治療においては、例えばヒスタミンレセプターにヒスタミンと拮抗的に結合することによって末梢神経からの信号伝達を阻害する抗ヒスタミン剤、ケミカルメディエーターの産生細胞の活性を弱めて症状の軽減を試みる抗アレルギー剤、免疫応答性を弱めることによって炎症を軽減するステロイド剤、アレルゲンそのものを定期的に注射することにより寛容を誘導する減感作療法などがあるが、そのいずれも副作用が問題視されており、効果についても決定的なものがないという問題がある。
【0005】
また、近年、アトピー性皮膚炎や花粉症など、アレルギーに起因すると考えられる体質変化をおこした人が多く見受けられ、社会問題化している。その中でも特に症状が重い患者に対しては、各種薬剤を使用しての治療行為が行われている。しかし、大部分の対象者は本格治療を行うにまでは至っておらず、日常生活をおこなっていく上で、民間療法を含め、対処療法を行って対処しているのが実情であるという問題がある。
【0006】
上記第一の問題に対応する方法として、IgEを抑制するためにTh2サイトカインの産生を調節する方法があり、注目が集まっている。結核菌や溶連菌、乳酸菌などのある種の細菌はTh1免疫を増強することにより、Th2免疫を抑制し、その結果IgEを低下させることが報告されている(非特許文献1、特許文献1)。中でも乳酸菌は、安全性の面から食品などへの応用が容易であり、有用な素材である。しかし一概に乳酸菌といっても全ての乳酸菌にTh1免疫を増強させる強い効果があるわけではなく、有用な株の選択をすることが必須となってくる。抗アレルギー乳酸菌としては、ラクトバチルス・ラムノーサス(L. rhamnosus)LGG株が公知であり、妊婦に摂取させることにより、子供のアトピー性皮膚炎発症が抑制されることが示されている(非特許文献2)。乳酸菌を抗アレルギー剤として用いることについては、いくつかの特許公報でも開示されている。例えば、特許文献1には、L.アシドフィルス、L.ブレビス、L.ブフネリ、およびL.カゼイ等の乳酸菌を添加してマウスリンパ球を培養した際のIgE産生量が30ng/ml以下のものを抗アレルギー剤として用いることについて、特許文献2には、ビフィドバクテリウム・インファンティス、ビフィドバクテリウム・ブレーベ、ビフィドバクテリウム・ロンガムおよびビフィドバクテリウム・ビフィダム等のビフィズス菌を特に食物アレルギーを治療するための抗アレルギー剤として用いることについて、および、特許文献3には、エンテロコッカス・フェカリス、ラクトバシルス・ロイテリーなどの乳酸菌をアレルギー性気管支喘息、アレルギー性鼻炎およびアトピー性皮膚炎等のI型アレルギーの抑制剤として用いることについて、それぞれ開示されている。
【0007】
一方で、乳酸菌等がTh1免疫を増強することは、IL−12やIFN−γなどの産生を介してマクロファージやキラーT細胞、NK細胞の細胞性免疫を活性化することを意味し、ウイルスや細菌感染、ガンの発生に対して抵抗することにつながることが分かっている。具体的には、マクロファージが産生するIL−12は、未分化のヘルパーT細胞のTh1細胞への分化、単球・マクロファージ・NK細胞の活性化を通して、外敵・ガンに対する抵抗性を獲得させる。従って、強いIL−12産生を誘導することのできる乳酸菌株は、免疫賦活剤として使用することができることが示唆されている(非特許文献3、特許文献4、特許文献5)。また、特許文献6には強いIL−12産生を誘導することのできる乳酸菌株が抗アレルギー素材として利用可能であることが述べられている。
【0008】
上記第二の問題に対応する方法として、食事によってアレルギーを抑えようとする方法があり、その研究が近年活発に行われている。その結果、例えば、シソ油や魚油、特定の茶ポリフェノール等、種々の飲食品の成分に抗アレルギー効果を見出して、それらを用いた対処が行われている。
【0009】
抗アレルギー効果を有する飲食品の成分として、上述のように特定の乳酸菌にも同様な効果が知られてきており、この乳酸菌を用いたヨーグルトや乳酸菌飲料が、抗アレルギー効果を有する飲食物として一部実用化されている。乳酸菌は安全性の面から食品などへの応用が容易であり、有用な素材として着目されてきた。例えば、乳酸菌を、I型アレルギーの発症に関わるIgE抗体量を減少させてアレルギーの治療と予防を容易にする抗アレルギー剤として、各種乳酸菌を有効成分とする抗アレルギー剤が開示されている(特許文献1、特許文献7)。この種の抗アレルギー用飲食品による予防あるいは治療では、安全で、かつマイルドな条件で摂取することが可能である代わり、毎日継続摂取することが必要であり、尚かつ該継続摂取することが可能な量で効能が発揮されることが必要である。
【0010】
このように様々な形態で実用化されている抗アレルギー飲食物の抗アレルギー活性は、製造、流通、消費の過程において必然的に生じる長期保存や加熱等の熱履歴により、製品中に含まれている抗アレルギー活性を持つ乳酸菌の物性が変化し、活性が低下してしまう。特に、液体に懸濁した状態など、乾燥状態以外の形状では長期保存による活性低下が顕著であった。製品の製造から流通を経て最終的に飲食物として摂取されるまでには一定の期間が必要となるため、従来においては抗アレルギー飲食物の利用が制約を受けてしまう。しかし、長期保存や加熱等の熱履歴による抗アレルギー活性低下に対する対処としては流通期間を短くすることや、賞味期限を短く設定するなどの方策しか取られていない。
【0011】
以上のように、従来の技術では、抗アレルギー活性を持つ乳酸菌の長期保存や加熱等の熱履歴による活性の低下を抑制することは困難であり、抗アレルギー活性維持の観点から賞味期限を短くせざるを得ないなど、産業利用上の制約が大きく、抗アレルギー活性の低下を抑制する方法が強く望まれていた。
【0012】
また、乳酸菌を含むヨーグルト、チーズ、発酵乳等には、原料の一部に脱脂粉乳などの無脂固形分が含まれており、これを発酵した飲食品であるが、嗜好面や栄養面から無脂固形分を利用しているにすぎず、その賞味期限も短い。
【0013】
【特許文献1】特開平9−2959号公報
【特許文献2】特開平10−309178号公報
【特許文献3】特開2000−95697号公報
【特許文献4】特開平7−228536号公報
【特許文献5】特開2002−80364号公報
【特許文献6】特開2005−137357号公報
【特許文献7】特開2004−26729号公報
【非特許文献1】臨床免疫、1999年、第32巻、454頁;インターナショナル・アーカイブス・オブ・アレルギー・アンド・イムノロジー、1998年、第115巻、278頁
【非特許文献2】ランセット、2001年、第357巻、1076頁
【非特許文献3】キャンサー・イムノロジー・イムノセラピー、2000年、第49巻、157頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の課題は、飲料の製造、流通、消費の過程において必然的に生じる長期保存や加熱等の熱履歴において、飲料に含まれる乳酸菌の抗アレルギー活性低下が抑制された飲料、および乳酸菌の抗アレルギー活性低下を抑制する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、飲料を長期保存した場合、または加熱処理を行った場合の乳酸菌の抗アレルギー活性変化について鋭意研究する中で、乳酸菌と乳成分、特に無脂固形分を飲料中に併存させることにより、通常、長期保存や加熱等の熱履歴によって低下する乳酸菌の抗アレルギー活性が、より安定的に維持されることを見出し、発明を完成するに至った。
【0016】
本発明の特徴は、要約すると以下の通りである。
(1)抗アレルギー活性を有する乳酸菌乾燥菌体と乳成分を配合した飲料。
(2)乳成分が無脂固形分である、(1)に記載の飲料。
(3)無脂固形分が脱脂粉乳である、(2)に記載の飲料。
(4)脱脂粉乳を0.1〜15重量%の範囲で配合した、(3)に記載の飲料。
(5)乳酸菌が、ラクトバチルス・パラカゼイKW3110株、ラクトバチルス・プランタラムKW4110株、ラクトバチルス・パラカゼイKW3925株、ラクトバチルス・パラカゼイKW3926株、ストレプトコッカス・サリバリウスKW3210株、およびそれらの派生株からなる群から選択される、(1)〜(4)のいずれかに記載の飲料。
(6)乳酸菌乾燥菌体が死菌体である、(1)〜(5)のいずれかに記載の飲料。
(7)乳酸菌乾燥菌体を飲料100mlあたり10〜1011個の範囲で配合した、(1)〜(6)のいずれかに記載の飲料。
(8)密封容器入りである、(1)〜(7)のいずれかに記載の飲料。
(9)抗アレルギー活性を有する乳酸菌乾燥菌体と乳成分を飲料に配合する、乳酸菌の抗アレルギー活性低下を抑制する方法。
(10)乳成分が無脂固形分である、(9)に記載の方法。
(11)無脂固形分が脱脂粉乳である、(10)に記載の方法。
(12)脱脂粉乳を0.1〜15重量%の範囲で配合する、(9)〜(11)のいずれかに記載の方法。
(13)乳酸菌が、ラクトバチルス・パラカゼイKW3110株、ラクトバチルス・プランタラムKW4110株、ラクトバチルス・パラカゼイKW3925株、ラクトバチルス・パラカゼイKW3926株、ストレプトコッカス・サリバリウスKW3210株、およびそれらの派生株からなる群から選択される、(9)〜(12)のいずれかに記載の方法。
(14)乳酸菌乾燥菌体が死菌体である、(9)〜(13)のいずれかに記載の方法。
(15)乳酸菌乾燥菌体を飲料100mlあたり10〜1011個の範囲で配合する、(9)〜(14)のいずれかに記載の方法。
(16)密封容器に入れる、(9)〜(15)のいずれかに記載の方法。
【0017】
本明細書において「乳成分」とは、牛乳、山羊乳、羊乳などの獣乳に含まれる成分をいい、乳脂肪分、無脂固形分などが含まれる。
【0018】
「無脂固形分」とは、牛乳、山羊乳、羊乳などの獣乳から水分を除去した乳固形分からさらに乳脂肪分を除去したものをいう。
【0019】
「脱脂粉乳」とは、脱脂乳(獣乳からほとんどの乳脂肪分を除去したもの、牛乳の場合、無脂固形分8.0%以上、乳脂肪分0.5%未満)を乾燥したものをいう。厚生省乳等省令では、牛乳の脱脂粉乳は、乳固形分95.0%以上、水分5.0%以下と規定されているが、脱脂乳を乾燥したものであるので、脱脂粉乳の乳固形分の大部分は無脂固形分である。
【0020】
また、本明細書において「熱履歴」とは、飲食品の製造、流通、消費等の過程において、その飲食品が経た温度変化の履歴を意味する。例えば、飲食品の製造、流通、消費等の過程では、低温での2ヶ月以上の保存、常温での1ヶ月以上の保存、50℃以上の温度で行われる殺菌操作、UHT殺菌、ホットベンダーにおける商品展示、飲食時の加熱などが行われる。
【0021】
「乳酸菌の抗アレルギー活性低下」は、「熱履歴」により引き起こされ、加熱または長期保存によって引き起こされる場合も含む。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、製造から流通、消費までの過程において長期保存や加熱等の熱履歴を経る飲料、特に、流通過程において高温での保存を必要とするなどの保温状態であっても効果を保持する抗アレルギー用飲料を提供できる。本発明により、飲料中の乳酸菌の抗アレルギー活性低下を抑制することができるので、実際に飲んだ場合に、より効果的な抗アレルギー作用を得られることが期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の飲料は、抗アレルギー活性を有する乳酸菌乾燥菌体と乳成分を配合したことを特徴とする。
【0024】
乳酸菌乾燥菌体と乳成分を配合させる飲料は、特に限定されないが、好ましくは牛乳、乳飲料、清涼飲料(例えば緑茶や紅茶などの茶系飲料、コーヒー、炭酸飲料、果実エキス入り飲料、野菜エキス入りジュース、ニアウォーター、スポーツ飲料、ダイエット飲料、ジュースなど)などが挙げられる。
【0025】
本発明に用いられる乳成分は、乳脂肪分、無脂固形分などを含む。本発明には無脂固形分が好ましく用いられる。無脂固形分は、タンパク質、炭水化物、カルシウムなどのミネラル、ビタミンBなどのビタミン類などを含む。無脂固形分は水溶液として利用可能であればよく、その形態は液状、粉末状等を問わない。従って無脂固形分を含む、生乳、部分脱脂乳、脱脂乳、加工乳などや、これらの濃縮液、クリーム状に加工したもの、乾燥させて顆粒状や粉末状、固体状にしたもの等でもよい。本発明においては脱脂粉乳が好ましく用いられる。
【0026】
無脂固形分または脱脂粉乳を飲料に配合する量は、特に限定されず、飲料の種類や原料などによって調整することができ、適宜目的とする濃度に設定すればよい。配合量は、飲料を100重量%としたときに好ましくは0.1〜15重量%、より好ましくは0.5〜3.0重量%の範囲である。無脂固形分または脱脂粉乳が0.1重量%未満であると、活性低下を抑制する効果が期待できず、15重量%を超えると、飲料としての香味に悪影響を与えるおそれがある。また、飲料に予め無脂固形分または脱脂粉乳が含まれる場合も、上記範囲になるように配合すればよい。例えば、牛乳の無脂固形分は8.0%以上であるが、該無脂固形分と配合する無脂固形分とを合わせて、15重量%を超えない範囲になるようにすればよい。
【0027】
また、豆乳、大豆タンパク質など乳タンパク質と類似した物性特性を呈する原料も無脂固形分の代わりに用い得る。
【0028】
本発明に用いられる抗アレルギー活性を有する乳酸菌は、乾燥菌体であることを要する。食品製造において、ヨーグルトなどのように原料を乳酸菌で発酵してそのまま食品とする場合、食品の保存が利かないこと、あるいは高い抗アレルギー活性を有する乳酸菌を得ることが難しいこと、またはそのような乳酸菌を含有する食品を得ることが難しいことなどが問題として挙げられる。
【0029】
しかし、本発明に用いられる乳酸菌は、分別培養された後、乾燥されたものであるので、保存期間が長く、様々な用途に使用することができる。また、培養条件を最適化して、目的とする高い抗アレルギー活性を有する乳酸菌菌体を得ることが比較的容易である。
【0030】
また、抗アレルギー活性を有する乳酸菌の乾燥菌体が死菌体の場合は、生菌体よりも物性の変化が少なく、さらにハンドリングの向上などの優位な特性を有する点で好ましい。
【0031】
乳酸菌は、抗アレルギー活性を有するものであれば特に限定されず、ラクトバチルス属、ストレプトコッカス属、ラクトコッカス属、ロイコノストック属、エンテロコッカス属等のいずれの乳酸菌をも使用することができる。具体的には、ラクトバチルス・アシドフィルス、ラクトバチルス・ブレビス、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・デルブリュッキイ、ラクトバチルス・ファーメンタム、ラクトバチルス・ヘルベティカス、ラクトバチルス・ケフィア、ラクトバチルス・パラカゼイ、ラクトバチルス・プランタラム、ラクトバチルス・ラムノーサス、ラクトバチルス・サリバリウス、ストレプトコッカス・サーモフィルス、ラクトコッカス・ラクティス、ラクトコッカス・プランタラム、ラクトコッカス・ラフィノラクティス、ロイコノストック・ラクティス、ロイコノストック・メセンテロイデス等が挙げられる。
【0032】
乳酸菌の例およびその入手先を、表1、表2および表3に示す。本発明においては、全ての菌株をKWで始まる番号にて識別しているが、これら試験株は独自で単離したもの、市販乳製品で使用されているもの、公的機関等から入手したもの等があるために便宜上統一した識別名を付したものであり、それぞれのKW株と入手由来との関係は表1、表2および表3の通りである。なお、表1および表2の「入手先」において、「JCM」は理化学研究所微生物系統保存施設を、「IFO」は前財団法人発酵研究所(現在は、独立行政法人製品評価技術基盤機構 生物資源センター(NBRC))を表す。
【0033】
【表1】

【0034】
【表2】

【0035】
【表3】

【0036】
以上の表のうち、特に高い抗アレルギー活性を有する乳酸菌は、ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)KW3110株、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)KW4110株、ラクトバチルス・パラカゼイKW3925株、ラクトバチルス・パラカゼイKW3926株、ストレプトコッカス・サリバリウス(Streptococcus salivarius)KW3210株、およびそれらの派生株であり、これらを本発明に用いることが好ましい。
【0037】
例えばラクトバチルス・パラカゼイ(L. paracasei)KW3110株は、L. casei L14株として、日本乳業技術協会から入手することができる。なお、日本乳業技術協会の記載によれば、L14株はL. caseiとの記載があるが、本発明者らがQUALICON社製リボプリンターを用いたRFLP(Restriction Flagment Length Polymorphism)およびAFLP(Amplified Flagment Length Polymorphism)を用いて解析したところ、当該株はL. paracaseiと判断されたため、本発明においてはL. paracaseiと記載した。L. paracasei KW3110は、上記のとおり日本乳業技術協会から入手することができるが、さらに、特許微生物の寄託のためのブダペスト条約に基く国際寄託当局である、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(〒305−8566 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に、FERM BP−08634として寄託されている(寄託日:2004年2月20日)。また、L. paracasei KW3110の派生株は、FERM BP−08635として同特許生物寄託センターに寄託されている。
【0038】
また、L. plantarum KW4110株はL. plantarum JCM1149株として、L. paracasei KW3926株はL. paracasei JCM8132株として、JCM(理化学研究所微生物系統保存施設)から入手することができ、および、L.paracasei KW3925株はL. paracasei NRIC1917株として、NRIC(東京農業大学)から入手することができる。
【0039】
乳酸菌は、培地で培養することにより調製することができる。培養に用いる培地は、前記乳酸菌が生育可能な培地であればどのようなものでも利用可能であり、獣乳、脱脂乳、乳性ホエー、MRS培地、GAM培地、BL培地、Briggs Liver Brothや合成培地などを用いることができる。培養温度は20℃から50℃、好ましくは25℃から42℃とすることができる。また、培養時間は3時間から96時間とすることができる。培養終了後の培地を必要に応じて処理することにより本発明に用いる乳酸菌とすることができる。具体的には、培養終了後の培地から遠心分離、ろ過等により集菌して菌体のみとしたものをスプレイドライ乾燥菌体としたもの、凍結乾燥菌体としたものが挙げられる。本発明に用いる乳酸菌は、前記乳酸菌菌体に加え、他の成分を含むことができる。他の成分としては、賦形剤等の添加剤、および後述する培地の成分等を挙げることができる。
【0040】
乳酸菌の具体的調製例を以下に示す。
(乳酸菌KW3110株菌体の調製)
乳酸菌の培養には、培養用培地(グルコース1%、酵母エキスS(キリンフードテック(株))1%、MgSO・7HO 50ppm、MnSO・5HO 50ppm)を使用する。前培養は、乳酸菌KW3110株を培養用培地10mlに接種し、37℃で20〜24時間静置して行う。本培養は、前培養液0.6mlを120mlの培養用培地に接種し、200ml容ファーメンター(モデルBMJ−25、エイブル社)を用いて、28℃にて培養する。通気量は0.12L/分、攪拌速度は500rpmとする。pHは25% NaOH溶液を用いてpH4.5以下にならないように制御する。培養は48時間行う。
【0041】
培養終了後、8500Xg、10分間の遠心分離により、菌体を集菌する。30mlの滅菌蒸留水に懸濁し、8500Xg、10分間の遠心分離により、菌体を集菌する。この洗浄操作を3回繰り返し、培地由来成分を除去する。洗浄菌体を、10mlの滅菌水に懸濁し、オートクレーブにて100℃、30分間処理した後、凍結乾燥する。以上の方法により、最終的に乳酸菌乾燥菌体50〜70mgが得られる。得られた乳酸菌菌体の抗アレルギー活性を確認する(後述の実施例を参照)。
【0042】
乳酸菌乾燥菌体を飲料に配合する量は、100mlあたり10〜1011個の範囲であることが好ましい。乳酸菌が、飲料100mlあたり10個未満であると、抗アレルギー効果が期待できなくなり、1011個を超えると、菌体の沈殿量が多くなり、飲料としての質の低下を招くおそれがある。
【0043】
飲料のpHはとくに限定されないが、好ましくはpH3.0〜6.8、より好ましくはpH3.5〜3.9の範囲である。
【0044】
飲料の製造に際しては、通常の飲料の処方設計に用いられる糖類、果汁等、食品添加物(酸味料、甘味料、安定剤、香料など)のいずれも使用することができる。飲料の製造に関しては、既存の参考書、例えば「改訂新版ソフトドリンクス」(株式会社光琳)等を参考にすることができる。製造された飲料は、密封容器、例えばペットボトル、缶、紙パックなどに入れ、長期保存したり、流通経路に載せて販売することができる。
【0045】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【実施例1】
【0046】
脱イオン水に菌体濃度が0.038重量%(100mlあたり約3.8×1010個に相当)になるように乳酸菌Lactobacillus paracasei KW3110株乾燥菌体(加熱死菌:キリンフードテック(株)より入手)を添加し、これを乳酸菌含有水(1)とした。(1)に脱脂粉乳を2.8重量%加えたもの(2)、(1)にペクチンを0.3重量%加えたもの(3)、(1)に大豆多糖類を0.25重量%加えたもの(4)を用意し、希硫酸を用いてpHを3.5〜3.9に調製した。サンプル(1)〜(4)を定法通りUHT殺菌し、ペットボトルにそれぞれ3本ずつホットパックした。3本のうち1本は50℃で11日間、1本は60℃で3日間、残り1本はペットボトル充填後5℃で1日保存した。
【0047】
保存後の飲料15mlより8000回転、10分間の遠心分離を行い、乳酸菌を沈殿させた。上清を除いた後PBS(−)にて菌体を再懸濁し、同様の遠心操作を繰り返し、最終的に溶媒がPBS(−)に置換された乳酸菌懸濁液を得た。サンプル(2)については脱脂粉乳が共沈してくるので、遠心後に適度な強さで遠心管を振ることにより脱脂粉乳のみを懸濁させた後に上清を除いた。サンプル(1)〜(4)の乳酸菌PBS(−)懸濁液の濁度を測定することで懸濁液中の菌体の濃度を算定した。
【0048】
乳酸菌のin vitroにおける抗アレルギー活性はマウス脾臓リンパ球と混合培養を行った際に、培地中に放出されるIL−12量を測定することによって行った。6−10週齢BALB/cマウス(チャールズリバー)を解剖し、脾臓からリンパ球を調製した。脾臓リンパ球を10%となるようにFCS(ロシュ)を添加したRPM11640(SIGMA)培地で細胞濃度が2.5×10cells/mlになるように懸濁した。乳酸菌を上記培地に0.5μg/mlになるように添加し、24時間、37℃、CO濃度5%で培養した。遠心分離にて培養上清を回収し、Opt EIA ELISA Set(ベクトン・ディッキンソン)を用いてIL−12生産量を測定した。
【0049】
図1にサンプル(1)〜(4)から分離した菌体の抗アレルギー活性を示す。乳酸菌のみ添加した(1)では、50℃で11日保存した場合や、60℃で3日保存した場合に、製造翌日に分離した菌体に対して抗アレルギー活性がそれぞれ80%、60%程度に低下していた。それに対して脱脂粉乳を添加した(2)では活性の低下が抑制され、ほぼ100%を維持していた。一方、ペクチンや大豆多糖類を加えた(3)、(4)では、乳酸菌のみを加えた(1)と同程度もしくはそれ以上の活性低下が起こった。
【0050】
以上の結果から、乳酸菌と脱脂粉乳を併存させることにより、加熱による乳酸菌抗アレルギー活性の低下が大幅に抑制されることが確認された。また、50℃や60℃に加熱した状態での保存する加速試験は一般に長期保存をした場合の飲食品への影響を推定する方法として広く用いられている。このことから、乳酸菌と脱脂粉乳を併存させることにより、50℃や60℃で熱履歴に対してのみならず、より低い温度で長期保存した場合にも、抗アレルギー活性の低下が抑制されることが容易に推察できる。
【実施例2】
【0051】
上記実施例の結果を受けて、以下のように実際に飲料を調製し、より低い温度で長期保存した場合の本発明の効果を確認した。
【0052】
実施例として、脱脂粉乳2.8重量%に乳酸菌KW3110株乾燥菌体を0.038重量%(100mlあたり約3.8×1010個に相当)添加し、香味の調整としてグラニュー糖、ペクチン、大豆多糖類、クエン酸、クエン酸ナトリウム、香料を用いて飲料2を調製した後、定法通りUHT殺菌し、ペットボトルにホットパックした。
【0053】
次に比較例として、再公表2004−096246号公報の実施例15(スポーツドリンクの製造)に記載されているように、グラニュー糖、クエン酸、クエン酸ナトリウム、香料に乳酸菌KW3110株乾燥菌体を0.0143重量%(100mlあたり約1.43×1010個に相当)添加し、飲料1を調製した後、定法通りUHT殺菌し、ペットボトルにホットパックした。
【0054】
得られた飲料を35℃の条件で0ヶ月、1ヶ月または2ヶ月保存し、保存後、実施例1と同様の方法で菌体分離およびIL−12を指標とした活性測定を行った。
【0055】
図2に飲料1および2から分離した菌体の抗アレルギー活性を示す。飲料1では0ヶ月保存時の活性と比べた場合、1ヶ月では22%程度、2ヶ月の菌体では75%程度活性が低下していた。それに対して、脱脂粉乳が併存している飲料2では、2ヶ月保存後の活性低下が20%程度に抑制されていた。
【0056】
以上の結果から、加速試験の結果から予測されたとおり、実際に2ヶ月という長期間の保存においても、乳酸菌と無脂固形分である脱脂粉乳を併存させることにより、乳酸菌抗アレルギー活性の低下が抑制された。また、飲料1および2はいずれも満足できる香味を持つ飲料の処方であるので、実施例1のように脱イオン水に乳酸菌と脱脂粉乳を添加した場合のみならず、実際の飲料に脱脂粉乳が併存する場合にも乳酸菌抗アレルギー活性低下抑制効果が得られることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0057】
飲料に含まれる乳酸菌の抗アレルギー活性を、長期保存や加熱等の熱履歴があっても維持することができるので、アレルギー疾患の予防、改善効果を高く保持する機能性飲料の開発に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】加速試験における乳酸菌抗アレルギー活性(相対活性)を示す。
【図2】乳酸菌含有飲料と、脱脂粉乳および乳酸菌含有飲料における乳酸菌抗アレルギー活性(相対活性)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗アレルギー活性を有する乳酸菌乾燥菌体と乳成分を配合したことを特徴とする飲料。
【請求項2】
乳成分が無脂固形分であることを特徴とする、請求項1に記載の飲料。
【請求項3】
無脂固形分が脱脂粉乳であることを特徴とする、請求項2に記載の飲料。
【請求項4】
脱脂粉乳を0.1〜15重量%の範囲で配合したことを特徴とする、請求項3に記載の飲料。
【請求項5】
乳酸菌が、ラクトバチルス・パラカゼイKW3110株、ラクトバチルス・プランタラムKW4110株、ラクトバチルス・パラカゼイKW3925株、ラクトバチルス・パラカゼイKW3926株、ストレプトコッカス・サリバリウスKW3210株、およびそれらの派生株からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の飲料。
【請求項6】
乳酸菌乾燥菌体が死菌体であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の飲料。
【請求項7】
乳酸菌乾燥菌体を飲料100mlあたり10〜1011個の範囲で配合したことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の飲料。
【請求項8】
密封容器入りであることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の飲料。
【請求項9】
抗アレルギー活性を有する乳酸菌乾燥菌体と乳成分を飲料に配合することを特徴とする、乳酸菌の抗アレルギー活性低下を抑制する方法。
【請求項10】
乳成分が無脂固形分であることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
無脂固形分が脱脂粉乳であることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
脱脂粉乳を0.1〜15重量%の範囲で配合することを特徴とする、請求項9〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
乳酸菌が、ラクトバチルス・パラカゼイKW3110株、ラクトバチルス・プランタラムKW4110株、ラクトバチルス・パラカゼイKW3925株、ラクトバチルス・パラカゼイKW3926株、ストレプトコッカス・サリバリウスKW3210株、およびそれらの派生株からなる群から選択されることを特徴とする、請求項9〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
乳酸菌乾燥菌体が死菌体であることを特徴とする、請求項9〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
乳酸菌乾燥菌体を飲料100mlあたり10〜1011個の範囲で配合することを特徴とする、請求項9〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
密封容器に入れることを特徴とする、請求項9〜15のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−112214(P2009−112214A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−286456(P2007−286456)
【出願日】平成19年11月2日(2007.11.2)
【出願人】(000253503)キリンホールディングス株式会社 (247)
【出願人】(507045904)キリンヤクルトネクストステージ株式会社 (5)
【出願人】(391058381)キリンビバレッジ株式会社 (94)
【Fターム(参考)】