説明

乳酸菌含有抗ヘリコバクター・ピロリ活性を有する経口剤

【課題】(1)乳酸菌を有効成分とする抗ヘリコバクター・ピロリ活性を有する経口剤、(2)乳酸菌の抗ヘリコバクター・ピロリ活性を増強する方法、及び(3)乳酸菌の抗ヘリコバクター・ピロリ活性増強剤。
【解決手段】乳酸菌、並びにオウレン及びオウバクからなる群より選択される少なくとも1種を併用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳酸菌を有効成分とする抗ヘリコバクター・ピロリ活性を有する経口剤に関する。また、本発明は、乳酸菌の抗ヘリコバクター・ピロリ活性を増強する方法、及び乳酸菌の抗ヘリコバクター・ピロリ活性増強剤にも関する。
【背景技術】
【0002】
古くから消化性潰瘍の第一の成因は胃酸であるとされてきた。その後、ヘリコバクター・ピロリを除菌することによって腫瘍の発生と再発を予防できることが明らかになり、ヘリコバクター・ピロリも消化性潰瘍に深く関与していることが分かってきた。
【0003】
ヘリコバクター・ピロリに起因する消化性潰瘍の治療方法としては、制酸剤、ヒスタミンH2受容体拮抗剤、若しくはプロトンポンプ阻害剤等の攻撃因子抑制剤、防御因子増強剤、又は抗生物質等のヘリコバクター・ピロリ除菌剤等を、それぞれ単剤で或いは組合せて投与することが行われてきた。例えば、プロトンポンプ阻害剤と二種類の抗生物質を用いる三剤併用療法が行われている。この三剤併用療法は、単剤療法において通常使用される投与量に比べると2〜3倍程度の高用量の抗生物質を二種類同時に投与する必要がある。また、有効な治療効果を得るためには1〜2週間程度継続投与する必要がある。除菌率の向上には有用とされるものの、この三剤併用療法は過敏症や下痢等の患者に対して特に過剰な負担を与えるおそれがある。また耐性菌が出現するおそれも指摘されている。
【0004】
そこで近年、人体に対して安全であり、かつヘリコバクター・ピロリの除菌作用を有する物質や除去方法の探索が行われており、乳酸菌を用いる方法が検討されてきた。例えば、これまでにラクトバチルス属に属する乳酸菌(特許文献1および2)の生菌を投与する方法が報告されている。しかしながら満足すべき効果は未だ得られていない。
【0005】
一方、ヘリコバクター・ピロリに対して抗菌的に作用する生薬としてオウレン又はオウバク等が知られている(特許文献3および4)。しかしながら、これらの生薬の抗ヘリコバクター・ピロリ活性は十分なものではなく、治療上有効な抗ヘリコバクター・ピロリ活性を得るためには、高価でかつ苦味が強く服用しづらいオウレン又はオウバクを大量に長期間服用し続けなければならないため、使用者の負担が大きく、臨床応用には難があった。
【0006】
このように、ヘリコバクター・ピロリに対して除菌作用を有する物質を利用する方法が種々検討されているものの、臨床的に応用するには未だ多くの課題が残されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−258549号公報
【特許文献2】特開2001−143号公報
【特許文献3】特開平8−295632号公報
【特許文献4】特開平10−109942号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、乳酸菌を有効成分とする抗ヘリコバクター・ピロリ活性を有する経口剤を提供することを課題とする。また、本発明は、乳酸菌の抗ヘリコバクター・ピロリ活性を増強する方法、及び乳酸菌の抗ヘリコバクター・ピロリ活性増強剤を提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意研究した結果、乳酸菌にオウレン及びオウバクからなる群より選択される少なくとも1種を組み合わせると意外にも乳酸菌の胃内への定着率が著しく向上することを見出した。そして、それ自体単独で投与したとしても抗ヘリコバクター・ピロリ活性をほとんど発現できないほど、ごく少量のオウレン又はオウバクにおいて、このような向上効果を発現することを見出した。
【0010】
このようにして、本発明者らは、乳酸菌にオウレン及びオウバクからなる群より選択される少なくとも1種を組み合わせることにより、抗ヘリコバクター・ピロリ活性が相乗的に増強されることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は次の通りである。
【0012】
1.抗ヘリコバクター・ピロリ活性を有する経口剤
(1−1)乳酸菌、並びにオウレン及びオウバクからなる群より選択される少なくとも1種を含有することを特徴とする、抗ヘリコバクター・ピロリ活性を有する経口剤。
(1−2)オウレンの投与量が成人1日当り原生薬換算で10mg〜200mgである(1−1)に記載の経口剤。
(1−3)オウバクの投与量が成人1日当り原生薬換算で40mg〜720mgである(1−1)又は(1−2)に記載の経口剤。
(1−4)乳酸菌がラクトバチルス属に属する乳酸菌である(1−1)〜(1−3)のいずれかに記載の経口剤。
【0013】
2.乳酸菌の抗ヘリコバクター・ピロリ活性を増強する方法
(2−1)乳酸菌にオウレン及びオウバクからなる群より選択される少なくとも1種を体外において併用することを特徴とする、乳酸菌の抗ヘリコバクター・ピロリ作用を増強する方法。
(2−2)オウレンの投与量が成人1日当り原生薬換算で10mg〜200mgとなるようにオウレンを併用する(2−1)に記載の方法。
(2−3)オウバクの投与量が成人1日当り原生薬換算で40mg〜720mgとなるようにオウバクを併用する(2−1)又は(2−2)に記載の方法。
(2−4)乳酸菌がラクトバチルス属に属する乳酸菌である(2−1)〜(2−3)のいずれかに記載の方法。
【0014】
3.乳酸菌の抗ヘリコバクター・ピロリ活性増強剤
(3−1)オウレン及びオウバクからなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含有することを特徴とする、乳酸菌の抗ヘリコバクター・ピロリ活性増強剤。
(3−2)オウレンの投与量が成人1日当り原生薬換算で10mg〜200mgとなるように使用される(3−1)に記載の増強剤。
(3−3)オウバクの投与量が成人1日当り原生薬換算で40mg〜720mgとなるように使用される(3−1)又は(3−2)に記載の増強剤。
(3−4)乳酸菌がラクトバチルス属に属する乳酸菌である(3−1)〜(3−3)のいずれかに記載の増強剤。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、オウレン及びオウバクからなる群より選択される少なくとも1種を乳酸菌と併用することにより、乳酸菌の抗ヘリコバクター・ピロリ活性を増強することができる。特に、投与量がそれ自体単独で投与したとしても抗ヘリコバクター・ピロリ活性をほとんど発現できないほどごく少量のオウレン又はオウバクにおいて、乳酸菌の抗ヘリコバクター・ピロリ活性を増強することができる。すなわち、従来行われてきたヘリコバクター・ピロリの除菌効果を期待して、高価でかつ苦味が強く服用しづらいオウレン又はオウバクを大量に長期間服用する必要がなく、臨床的に応用可能な経口剤とすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
1.抗ヘリコバクター・ピロリ活性を有する経口剤
本発明の抗ヘリコバクター・ピロリ活性を有する経口剤は、乳酸菌、並びにオウレン及びオウバクからなる群より選択される少なくとも1種を含有することを特徴とする、抗ヘリコバクター・ピロリ活性を有する経口剤である。
【0017】
抗ヘリコバクター・ピロリ活性とは、ヘリコバクター・ピロリに対して抗菌作用(antibacterial activity)を示すことをいう。本明細書において「抗菌」とは、菌の生育を阻害することを意味する。これに対して、本明細書において「除菌」とは、菌を除いて減らすことを意味する。
【0018】
ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)は、ヒト及び動物の胃内に存在するらせん状グラム陰性桿菌である。抗ヘリコバクター・ピロリ活性は、抗生物質等の抗菌剤の効力を検定、及び定量するために通常行われる抗菌力検定によって評価することができる。抗菌力は、例えば、ヘリコバクター・ピロリの生育を阻害する有効濃度限界である最小生育阻止濃度(minimal inhibitory concentration、MIC)を従来法により決定すること等によって検定することができる。このような検定法としては、例えば、稀釈検定法(dilution assay method)、又は寒天平板拡散法(agar diffusion method)等が挙げられる。寒天平板拡散法としては、例えば、カップ法(cup method;円筒平板法 cylinder plate methodともいう)、又は円形濾紙法(paper disk method)等が挙げられる。
【0019】
また、ヘリコバクター・ピロリの活性は、文献(THE LANCET、第1174乃至1177頁、1987年。日本消化器病学会雑誌、第93巻、第8号、第530乃至536頁、1996年。)記載の13C尿素呼気試験法(UBT法)を用いることによっても評価することができる。この方法は、ヘリコバクター・ピロリのウレアーゼ活性により尿素が分解されて呼気中にCO2が排出されることに基づき、13Cでラベルした尿素の投与前の被験者の呼気中の13Cの値を基礎値として、投与後一定時間経過後の被験者の呼気中の13Cの増加率Δ13C(単位:‰:質量千分率)から、胃内ヘリコバクター・ピロリ活性を測定しようとするものである。
【0020】
本発明において、乳酸菌は、抗ヘリコバクター・ピロリ活性を有するものであればよく、形態としては生菌体、湿潤菌、乾燥菌等が適宜使用可能である。なお、本明細書において「乳酸菌」とは、糖の乳酸発酵を行う、グラム陽性であって胞子を形成しない細菌の総称を意味する。例えば、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、ペディオコッカス(Pediococcus)属、及びリューコノストック(Leuconostoc)属等の球菌、並びにラクトバチルス(Lactobacillus)属、及びビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属等の桿菌等が挙げられる。抗ヘリコバクター・ピロリ活性という点では、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、及びビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属等の桿菌が好ましい。その中でもラクトバチルス(Lactobacillus)属がより好ましい。ラクトバチルス(Lactobacillus)属に属する乳酸菌としては、例えば、アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、カゼイ(Lactobacillus casei)、ガッセリ(Lactobacillus gasseri)等が挙げられる。抗ヘリコバクター・ピロリ活性という点では、ガッセリ(Lactobacillus gasseri)が好ましい。
【0021】
オウレン(Coptidis rhizoma)及びオウバク(Phellodendri cortex)としては、通常薬剤として配合されるものであればよく、生薬末、又は生薬抽出物を使用することができる。
【0022】
本発明において使用される生薬末、及び生薬抽出物は、特に限定されないが、例えば、従来から医薬分野若しくは食品分野等で使用されてきたもの、又はそれを改変したものを使用できる。そのような生薬末、又は生薬抽出物としては、例えば、漢方方剤として薬用に用いられてきたものが挙げられる。生薬末としては、市販品をそのまま使用してもよいし、それを加工してから使用してもよい。例えば、乾燥刻み加工品をそのまま用いてもよいし、さらに細かく粉砕した粉末状の乾燥品を用いてもよい。
【0023】
本明細書において「生薬抽出物」とは、まず生薬を刻む又は粉砕し、その後、常温又は加温下に溶剤により抽出するか又はソックスレー抽出器等の抽出器具を用いて抽出することにより得られる各種溶媒抽出液、その希釈液、その濃縮液、又はその乾燥末を意味する。溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、グリセリン等のアルコール類、含水アルコール類、クロロホルム、ジクロルエタン、四塩化炭素、アセトン、酢酸エチル、ヘキサン等の有機溶媒類等を用いることができる。なお、これらは単独あるいは組み合わせて用いることができる。
【0024】
本発明の抗ヘリコバクター・ピロリ活性を有する経口剤は、オウレン又はオウバクの投与量がそれ自体単独で投与したとしても抗ヘリコバクター・ピロリ活性をほとんど発現できないほどごく少量であっても乳酸菌の抗ヘリコバクター・ピロリ活性を増強することができるため、従来のオウレン又はオウバクを有効成分とする抗ヘリコバクター・ピロリ剤に比べるとその使用量を節約できるという利点を有する。
【0025】
本発明においてオウレンの投与量について特に上限はないものの、オウレンの投与量が例えば成人1日当り原生薬換算で10mg〜200mgであれば、乳酸菌の抗ヘリコバクター・ピロリ活性を増強させるとともに、オウレンの投与量を大幅に削減できるため好ましく、抗ヘリコバクター・ピロリ活性を増強させる点からは、オウレンの投与量が成人1日当り原生薬換算で20mg〜80mgであることがより好ましく、20mg〜40mgであることがさらに好ましい。
【0026】
また、本発明においてオウバクの投与量について特に上限はないものの、オウバクの投与量が例えば成人1日当り原生薬換算で40mg〜720mgであれば、乳酸菌の抗ヘリコバクター・ピロリ活性を増強させるとともに、オウバクの投与量を大幅に削減できるため好ましく、抗ヘリコバクター・ピロリ活性を増強させる点からは、オウバクの投与量が成人1日当り原生薬換算で40mg〜200mgであることがより好ましく、40mg〜120mgであることがさらに好ましい。
【0027】
なお、本明細書において「原生薬換算」とは、生薬抽出物の量を、当該生薬抽出物を調製するのに必要な原生薬の量として表したものを意味する。
【0028】
特にオウレン及びオウバクを併用する場合、抗ヘリコバクター・ピロリ活性を増強させる点からは、オウレンの投与量が成人1日当り原生薬換算で10mg〜200mgであることが好ましく、20mg〜80mgであることがより好ましく、20mg〜40mgであることがさらに好ましく、オウバクの投与量が成人1日当り原生薬換算で40mg〜720mgであることが好ましく、40mg〜200mgであることがより好ましく、40mg〜120mgであることがさらに好ましい。
【0029】
本発明の抗ヘリコバクター・ピロリ活性を有する経口剤は、ヘリコバクター・ピロリに対する抗菌作用を示すことから、ヘリコバクター・ピロリを除菌することにより治療又は症状の進行が緩和され得るあらゆる症状に対して適用することができる。そのような症状としては、例えば、いわゆるヘリコバクター・ピロリ感染症(Hericobacter pyroli infection)として知られる慢性活動性胃炎(慢性胃炎)、胃ポリープ、MALT(マルト)リンパ腫(mucosa-associated lymphoid tissue lymphoma)、胃・十二指腸潰瘍(gastric and duodenal ulcer)、及び胃癌等が挙げられる。
【0030】
本発明の抗ヘリコバクター・ピロリ活性を有する経口剤は、通常、経口投与される。例えば、経口投与用の医薬組成物の形態で使用される。経口投与用の医薬組成物の形態で使用される場合、その形態は特に限定されないが、例えば、固形製剤であってもよく、液剤であってもよい。固形製剤としては、例えば、錠剤、顆粒剤、細粒剤、丸剤、カプセル剤、及びチュアブル剤等が挙げられる。液剤としては、例えば、シロップ剤、懸濁液、及び乳剤等が挙げられる。
【0031】
製剤の調製に際しては、製剤の種類に応じて従来用いられている成分を使用することができる。固形製剤の調製に際して使用される成分としては、例えば、賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、崩壊補助剤、保湿剤、及び界面活性剤等が挙げられる。これら成分の具体例としては、例えばそれぞれ以下のものが挙げられる。
賦形剤:デンプン、乳糖、ショ糖、コーンスターチ、結晶セルロース、カルボキシメチルセルロース、軽質無水ケイ酸、精製白糖、バレイショデンプン、マンニトール、キシリトール、ソルビトール、エリスリトール、トレハロース、デキストラン、デキストリン、ブドウ糖、粉糖
結合剤:ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルエーテル、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、アラビアゴム、トラガント、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、クエン酸カルシウム、デキストリン、ペクチン、アルファー化デンプン、アルギン酸ナトリウム、カルボキシビニルポリマー、寒天、ハチミツ
滑沢剤:ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸、ショ糖脂肪酸エステル、タルク、ポリエチレングリコール、コロイドシリカ、軽質無水ケイ酸、硬化ナタネ油、硬化ヒマシ油、グリセリン脂肪酸エステル、フマル酸ステアリルナトリウム、安息香酸ナトリウム、L-ロイシン、L-バリン
崩壊剤:コーンスターチ、バレイショデンプン、部分アルファー化デンプン、カルボキシメチルスターチナトリウム、カルメロース、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、低置換度ヒドロキシプロピルメチルセルロース、結晶セルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、デンプン
崩壊補助剤:酸化マグネシウム、酸化カルシウム、クエン酸ナトリウム、塩化マグネシウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム
保湿剤:グリセリン、デンプン、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1、3−ブチレングリコール
界面活性剤:グリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルケニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルケニルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリグリセリン脂肪酸エステル
液剤の調製に際して使用される成分としては、例えば、溶剤、溶解補助剤、界面活性剤、懸濁化剤、及び緩衝剤等が挙げられる。これら成分の具体例としては、例えばそれぞれ以下のものが挙げられる。
溶剤:水(注射用水を含む)、エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール
溶解補助剤:エタノール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、D−マンニトール、コレステロール、トリエタノールアミン、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム
界面活性剤:ステアリルトリエタノールアミン、ラウリル硫酸ナトリウム、レシチン、モノステアリン酸グリセリン
懸濁化剤:ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース
緩衝剤:リン酸塩、酢酸塩、炭酸塩、クエン酸塩
固形製剤及び液剤にはともに、必要に応じて、保存剤、可溶化剤、乳化剤、分散剤、増粘剤、可塑剤、吸着剤、香料、着色剤、矯味剤、矯臭剤、甘味料、防腐剤、又は抗酸化剤等を配合することができる。
【0032】
本発明の抗ヘリコバクター・ピロリ活性を有する経口剤は、製剤の形態に応じて、例えば、混和、混練、造粒、打錠、コーティング、滅菌処理、若しくは乳化等の従来汎用されている方法を用い、又はこれらを適宜組み合わせて用いることによって製造できる。
【0033】
2.乳酸菌の抗ヘリコバクター・ピロリ活性を増強する方法
本発明の乳酸菌の抗ヘリコバクター・ピロリ作用を増強する方法は、乳酸菌にオウレン及びオウバクからなる群より選択される少なくとも1種を体外において併用することを特徴とする方法である。
【0034】
「体外において併用する」とは、乳酸菌、並びにオウレン及びオウバクからなる群より選択される少なくとも1種を、体外において互いに共存させることにより、これらがほぼ同時に体内へ投与される状態にあらかじめしておくことをいう。例えば、乳酸菌、並びにオウレン及びオウバクからなる群より選択される少なくとも1種を、体外において互いに混合しておくことが挙げられる。なお、ここでいう「共存させる」には、体内に同時に又は逐次に投与することを記載した指示書を添付して、又は黙示的にそのことを示しつつ同一梱包内に共存させることも含まれる。
【0035】
既に説明した通り、オウレンの投与量が成人1日当り原生薬換算で10mg〜200mgであれば、乳酸菌の抗ヘリコバクター・ピロリ活性を増強させるとともに、オウレンの投与量を大幅に削減できるため好ましく、抗ヘリコバクター・ピロリ活性を増強させる点からは、オウレンの投与量が成人1日当り原生薬換算で20mg〜80mgであることがより好ましく、20mg〜40mgであることがさらに好ましい。したがって、本発明の乳酸菌の抗ヘリコバクター・ピロリ作用を増強する方法においても、オウレンの投与量が上の範囲内となるように乳酸菌に併用することが好ましい。
【0036】
またこれも既に説明した通り、体内へと投与する際にオウバクの投与量が成人1日当り原生薬換算で40mg〜720mgであれば、乳酸菌の抗ヘリコバクター・ピロリ活性を増強させるとともに、オウバクの投与量を大幅に削減できるため好ましく、抗ヘリコバクター・ピロリ活性を増強させる点からは、オウバクの投与量が成人1日当り原生薬換算で40mg〜200mgであることがより好ましく、40mg〜120mgであることがさらに好ましい。したがって、本発明の乳酸菌の抗ヘリコバクター・ピロリ作用を増強する方法においても、オウバクの投与量が上の範囲内となるように乳酸菌に併用することが好ましい。
【0037】
またこれも既に説明した通り、特にオウレン及びオウバクを併用する場合、抗ヘリコバクター・ピロリ活性という点からは、オウレンの投与量が成人1日当り原生薬換算で10mg〜200mgであることが好ましく、20mg〜80mgであることがより好ましく、20mg〜40mgであることがさらに好ましく、オウバクの投与量が成人1日当り原生薬換算で40mg〜720mgであることが好ましく、40mg〜200mgであることがより好ましく、40mg〜120mgであることがさらに好ましい。したがって、本発明の乳酸菌の抗ヘリコバクター・ピロリ作用を増強する方法においても、オウレン及びオウバクを併用する場合は、オウレン及びオウバクの投与量が上の範囲内となるように乳酸菌に併用することが好ましい。
【0038】
この他の事項については、既に説明した本発明の抗ヘリコバクター・ピロリ活性についての説明と同様であるため省略する。
【0039】
3.乳酸菌の抗ヘリコバクター・ピロリ活性増強剤
本発明の乳酸菌の抗ヘリコバクター・ピロリ作用増強剤は、オウレン及びオウバクからなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含有することを特徴とする、増強剤である。
【0040】
本発明の抗ヘリコバクター・ピロリ作用増強剤は、例えば、乳酸菌を含有する抗ヘリコバクター・ピロリ活性を有する経口剤に対して添加することにより用いることができる。また、例えば、反対に本発明の抗ヘリコバクター・ピロリ作用増強剤に対して乳酸菌を含有する抗ヘリコバクター・ピロリ活性を有する経口剤を添加することにより用いることもできる。
【0041】
既に説明した通り、オウレンの投与量が成人1日当り原生薬換算で10mg〜200mgであれば、乳酸菌の抗ヘリコバクター・ピロリ活性を増強させるとともに、オウレンの投与量を大幅に削減できるため好ましく、抗ヘリコバクター・ピロリ活性を増強させる点からは、オウレンの投与量が成人1日当り原生薬換算で20mg〜80mgであることがより好ましく、20mg〜40mgであることがさらに好ましい。したがって、本発明の抗ヘリコバクター・ピロリ作用増強剤においても、オウレンの投与量が上の範囲内となるように使用されることが好ましい。
【0042】
またこれも既に説明した通り、体内へと投与する際にオウバクの投与量が成人1日当り原生薬換算で40mg〜720mgであれば、乳酸菌の抗ヘリコバクター・ピロリ活性を増強させるとともに、オウバクの投与量を大幅に削減できるため好ましく、抗ヘリコバクター・ピロリ活性を増強させる点からは、オウバクの投与量が成人1日当り原生薬換算で40mg〜200mgであることがより好ましく、40mg〜120mgであることがさらに好ましい。したがって、本発明の抗ヘリコバクター・ピロリ作用増強剤においても、オウバクの投与量が上の範囲内となるように使用されることが好ましい。
【0043】
またこれも既に説明した通り、特にオウレン及びオウバクを併用する場合、抗ヘリコバクター・ピロリ活性という点からは、オウレンの投与量が成人1日当り原生薬換算で10mg〜200mgであることが好ましく、20mg〜80mgであることがより好ましく、20mg〜40mgであることがさらに好ましく、オウバクの投与量が成人1日当り原生薬換算で40mg〜720mgであることが好ましく、40mg〜200mgであることがより好ましく、40mg〜120mgであることがさらに好ましい。したがって、本発明の抗ヘリコバクター・ピロリ作用増強剤においても、オウレン及びオウバクをいずれも含有する場合は、オウレン及びオウバクの投与量が上の範囲内となるように使用されることが好ましい。
【0044】
この他の事項については、既に説明した本発明の抗ヘリコバクター・ピロリ活性を有する経口剤についての説明と同様であるため省略する。
【実施例】
【0045】
以下に実施例及び比較例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の例にのみ限定されるものではない。
【0046】
1.実施例:本発明の抗ヘリコバクター・ピロリ活性を有する経口剤の調製
実施例1〜18として、表1及び2に示す配合割合にしたがい、第15改正日本薬局方製剤総則「散剤」の項に準じて経口剤を製した。なお、各乳酸菌は生菌体を常法により凍結乾燥し、菌数を約1×1011CFU/gに調製したものを用いた。
【0047】
2.比較例:比較対照抗ヘリコバクター・ピロリ活性を有する経口剤の調製
比較例1〜7として、表1及び2に示す配合割合にしたがい、第15改正日本薬局方製剤総則「散剤」の項に準じて経口剤を製した。なお、各乳酸菌は生菌体を常法により凍結乾燥し、菌数を約1×1011CFU/gに調製したものを用いた。
【0048】
試験例1:スナネズミをモデルとした抗ヘリコバクター・ピロリ活性の評価
実施例1〜18、及び比較例1〜7として調製された各経口剤を、ピロリ菌感染モデルスナネズミに対して投与し、それぞれについて抗ヘリコバクター・ピロリ活性を評価した。なお、以下、ヘリコバクター・ピロリを「ピロリ菌」ということがある。
【0049】
(1)ピロリ菌感染モデルスナネズミの作製
次のようにしてピロリ菌液を調製した。ヘリコバクター・ピロリ(ATCC43504株)の菌液を10%非働化ウマ血清添加ブルセラ培地中に1%(V/V)接種する。接種後、8%CO2濃度の炭酸ガスインキュベーター中で、37℃で24時間振盪培養した液を感染菌液とした。
【0050】
感染菌液0.5mL(約1×109CFU/mL)を、接種前18時間絶食させておいたスナネズミに経口接種し、その後、4時間絶食、絶水させた。用いた感染菌液の菌量(CFU/mL)は6.25%馬脱繊維血液加Brucella Agarで測定した。
【0051】
(2)抗ヘリコバクター・ピロリ活性を有する経口剤の投与
ピロリ菌接種2週間後より、ピロリ菌感染モデルスナネズミ(N=6/群)に対して各経口剤を1日2回(朝及び夕)、経口ゾンデ及び注射筒を用いて強制経口投与した。経口剤の投与量(mg/kg/day)は、週1回測定したスナネズミの体重(kg)に基づいて算出した。これを2等分して1日2回投与した。
【0052】
(3)採血及び解剖
4週間の経口剤投与終了後1日飼育した後、ピロリ菌感染モデルスナネズミを18時間絶食させ、ジエチルエーテル(和光純薬製)麻酔下で心臓より注射筒を用いて全採血し、安楽死させた。採血後、左腹部を切開して胃を無菌的に摘出した。摘出した胃を大湾部に沿って切開し、刺激を与えないように開いた。
【0053】
(4)ピロリ菌及び乳酸菌の生菌数の測定
摘出した胃にリン酸緩衝液を10mL加え、ガラスホモジナイザーで破砕した。破砕液をリン酸緩衝液で適宜希釈し、その0.1mLを以下の選択培地及び条件下でそれぞれ培養を行い、形成したコロニー数をカウントした。カウントしたコロニー数に希釈倍率を掛け生菌数とした。
(ピロリ菌)
選択培地:ヘリコバクター・ピロリ寒天培地(日水製薬株式会社)
培養条件:炭酸ガスインキュベーター内で37℃、5〜6日間培養
(乳酸菌)
選択培地:MRS寒天培地(関東化学株式会社)
培養条件:インキュベーター内で37℃、1〜2日間培養
【0054】
(5)抗ピロリ菌効果(%)及び乳酸菌定着率(%)
測定したピロリ菌及び乳酸菌の生菌数にもとづいて、各経口剤の抗ピロリ菌効果(%)及び乳酸菌定着率(%)を算出した。
【0055】
抗ピロリ菌効果については、比較例1〜4及び実施例1〜14の経口剤は比較例5の値を100とした場合、実施例15及び16の経口剤は比較例6の値を100とした場合、また、実施例17及び18の経口剤は比較例7の値を100とした場合について、それぞれ値を算出し、以下に基づいて判定した。
★:抗ピロリ菌効果140%超
◎:抗ピロリ菌効果120%超140%以下
○:抗ピロリ菌効果100%超120%以下
×:抗ピロリ菌効果100%以下
また、乳酸菌定着率については、比較例1の値を100として、比較例2〜7及び実施例1〜18の値を算出した。
【0056】
【表1】

【0057】
【表2】

【0058】
比較例2〜4が示す通り、オウレンを1日あたり20mg/kg、及び/又はオウバクを1日あたり120mg/kg投与したとしても、ピロリ菌感染モデルスナネズミにおいて抗ピロリ菌効果はほとんど見られず、乳酸菌を1日あたり100mg/kg投与した比較例5と比べて2割にも満たなかった。
【0059】
それに対して、比較例2と同量のオウレンを1日あたり乳酸菌100mg/kgとともに投与した実施例2では、抗ピロリ菌効果が高まり、比較例5と比べると2割以上高まった。また、このとき乳酸菌の胃内への定着率も増加していることが分かった。このような傾向は、オウレンを1日あたり10〜200mg/kg投与した実施例1〜6においても同様に見られた。このことは、オウレンを添加することにより乳酸菌の胃内への定着率が増加する結果、乳酸菌の抗ピロリ菌効果が増強されることを示している。
【0060】
また、比較例3と同量のオウバクを1日あたり乳酸菌100mg/kgとともに投与した実施例8では、オウレンと同様に抗ピロリ菌効果が高まり、比較例5と比べると2割以上高まった。また、このとき乳酸菌の胃内への定着率も増加していることが分かった。このような傾向は、オウバクを1日あたり40〜720mg/kg投与した実施例7〜10においても同様に見られた。このことは、オウバクを添加することにより乳酸菌の胃内への定着率が増加する結果、乳酸菌の抗ピロリ菌効果が増強されることを示している。
【0061】
さらに、比較例4と同量のオウレン及びオウバクをいずれも1日あたり乳酸菌100mg/kgとともに投与した実施例12では、それぞれ単独で投与した場合(実施例2及び実施例8)に比べて著しく抗ピロリ菌効果が高まり、比較例5と比べると6割以上も高まっていた。また、このとき乳酸菌の胃内への定着率も増加していることが分かった。同じような傾向は、オウレンを1日あたり20〜80mg/kg、オウバクを1日あたり40〜720mg/kg投与した実施例11〜14においても同様に見られた。また、オウレン及びオウバクを1日あたり計60mg/kg投与した実施例11は、1日あたりそれを上回る80mg/kgのオウレンを単独で投与した実施例4における抗ピロリ菌効果を遙かに上回っていた。同様に、実施例11は、1日あたりそれを上回る120mg/kgのオウバクを単独で投与した実施例8における抗ピロリ菌効果を遙かに上回っていた。乳酸菌の胃内への定着率についても同様の傾向が見られた。このことは、オウレン及びオウバクを併用して添加することにより、乳酸菌の胃内への定着率、ひいては乳酸菌の抗ピロリ菌効果がオウレン及びオウバクの相乗作用によりいずれも増強されることを示している。
【0062】
比較例6、7、実施例15〜18に示すとおり、ラクトバチルス・アシドフィルスに代えて、ラクトバチルス・ガッセリ又はエンテロコッカス・フェカリスを用いた場合も同様に抗ピロリ菌効果および乳酸菌の胃内への定着率を向上させることができた。
【0063】
試験例2:ヒトを対象とした抗ヘリコバクター・ピロリ活性の評価
実施例1〜14、比較例1及び5として調製された各経口剤を、スナネズミへの投与量からヒトへの投与量に換算して、ヒトに1日3回(食間)、4週間投与した(実施例19〜32、比較例8及び9)。乳酸菌、並びにオウレン及びオウバクの投与量(mg/body/day)を表3及び4に示す。
【0064】
動物への投与量からヒトへの投与量の換算については、薬理効果と薬物動態の種差を考慮し、「CRCテキストブック 日本臨床薬理学会認定CRCのための研修ガイドライン」に基づいて行った。具体的には、丸ごとの動物(スナネズミ)への投与量Xmg/kg/dayを、ヒトへの投与量Xmg/body/dayとして換算した。これを3等分して1日3回投与した。その後、文献(THE LANCET、第1174乃至1177頁、1987年。日本消化器病学会雑誌、第93巻、第8号、第530乃至536頁、1996年。)記載の方法に従い、13C尿素呼気試験法を実施して、抗ヘリコバクター・ピロリ活性を評価した。なお、測定機器はオートサンプラーUBiT-AS10(大塚電子)を用いて測定した。その結果、上記のスナネズミをモデルとした場合と同様の抗ピロリ菌効果が見られた。
【0065】
【表3】

【0066】
【表4】

【0067】
以下、表5〜8に実施例と同様の効果を奏する処方例を示す。各成分の配合量は成人1日服用量を示し、常法に従い製した。各乳酸菌は生菌体を常法により凍結乾燥し、菌数を約1×108〜11CFU/gに調製したものを用いる。
【0068】
【表5】

【0069】
【表6】

【0070】
【表7】

【0071】
【表8】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸菌、並びにオウレン及びオウバクからなる群より選択される少なくとも1種を含有することを特徴とする、抗ヘリコバクター・ピロリ活性を有する経口剤。
【請求項2】
オウレンの投与量が成人1日当り原生薬換算で10mg〜200mgである請求項1記載の経口剤。
【請求項3】
オウバクの投与量が成人1日当り原生薬換算で40mg〜720mgである請求項1又は2記載の経口剤。
【請求項4】
乳酸菌がラクトバチルス属に属する乳酸菌である請求項1〜3のいずれかに記載の経口剤。
【請求項5】
乳酸菌にオウレン及びオウバクからなる群より選択される少なくとも1種を体外において併用することを特徴とする、乳酸菌の抗ヘリコバクター・ピロリ活性を増強する方法。
【請求項6】
オウレン及びオウバクからなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含有することを特徴とする、乳酸菌の抗ヘリコバクター・ピロリ活性増強剤。

【公開番号】特開2010−235515(P2010−235515A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−85352(P2009−85352)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000186588)小林製薬株式会社 (518)
【Fターム(参考)】