説明

乳酸菌用培地

【課題】乳酸菌以外の菌の発育を抑制または軽減させることで、乳酸菌と乳酸菌以外の菌を含む試料中から乳酸菌の検出を可能とする簡易検出培地の提供。
【解決手段】ポリエン系抗生物質の抗真菌剤、ポリペプチド系抗生物質およびアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属のアジ化物を含む、乳酸菌を選択的に培養するための培地。さらに、ブドウ糖、ブロモクレゾールパープルもしくは炭酸カルシウム粉末を含む、乳酸菌の存在を検出し得る培地。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳酸菌以外の菌の発育を抑制または軽減させることで、乳酸菌と乳酸菌以外の菌を含む試料中から乳酸菌の選択的な検出を可能とする簡易検出培地を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
乳酸菌は、グラム陽性球菌または桿菌であり、消費したブドウ糖に対し50%以上の乳酸を産生し、カタラーゼ試験陰性・内性胞子形成をせず、運動性はまれに示すものがある細菌である(非特許文献1参照)。具体的な菌種としてはラクトバシルス属、ペディオコッカス属、テトラジェノコッカス属、キャルノバクテリウム属、ヴァゴコッカス属、ロイコノストック属、ワイセラ属、オエノコッカス属、アトポビウム属、ストレプトコッカス属、エンテロコッカス属、ラクトコッカス属細菌が含まれ、従来の乳酸菌検査ではBCP加プレートカウント寒天培地、MRS培地、APT培地、トマトジュース培地等による培養が行われている。しかしながら、これらの培地は、発酵食品の乳酸菌数検査など、乳酸菌以外の雑菌が存在しない条件下での使用が主であり、検体中に乳酸菌以外の菌を含む検体からの乳酸菌検出については、他の菌が乳酸菌の発育を阻害、または発育性状指示薬の反応を阻害することがあり、乳酸菌の検出が困難な状況に遭遇することがしばしばあった。例えば、食品衛生管理上、製造工程環境から拭き取り法などによって検体を採取し、乳酸菌を検出する場合、従来用いられている乳酸菌用培地により培養した場合には、バチルス属細菌や、酵母、グラム陰性桿菌が乳酸菌と同時に発育することにより、乳酸菌の発育が阻害されたり、培地中に含まれる乳酸菌鑑別指示薬等の反応が阻害され、結果として正確な乳酸菌の検出ができないという状況に陥る。
【0003】
これを阻止するために、例えば、BCP加プレートカウント寒天培地にアジ化ナトリウムを10ppm添加する方法(非特許文献2参照)などが文献等で開示されているが、一部のグラム陰性菌やバチルス属細菌は発育が抑制されないため、乳酸菌と乳酸菌以外の菌を含む試料からの乳酸菌の検出方法としては最適な方法ではなかった。また、阻害薬を用いて標的微生物以外の微生物の増殖を阻害して標的微生物を検出する方法についても報告されていたが、乳酸菌のみを選択的に検出する方法については報告されていなかった(特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2003-52393号公報
【非特許文献1】乳酸菌の科学と技術;学会出版センター (1996)
【非特許文献2】乳酸菌実験マニュアル p.15-16;朝倉書店(1992)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、乳酸菌以外の菌の発育を抑制または軽減させることで、乳酸菌と乳酸菌以外の菌を含む試料中から乳酸菌の検出を可能とする簡易検出培地を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、アルカリ金属またはアルカリ土類金属のアジ化物とポリペプチド系抗生物質を同時添加することにより、衛生管理上の乳酸菌検出試験において試料中にしばしば存在するバチルス属細菌、グラム陰性桿菌などの発育が抑制されることを見出し、さらに、ポリエン系抗生物質、シクロヘキシミド、カビサイジン、ミコナゾール、フルコナゾール、ミカファンギン等の抗真菌剤を添加することにより酵母・真菌類の発育を抑制させ、また、乳酸発酵の指標として従来用いられてきたブロムクレゾールパープルと糖を添加した培地にこれらの抗生物質・抗菌剤を添加することで乳酸菌を効果的に検出することが可能となる本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、一定の濃度のアルカリ金属またはアルカリ土類金属のアジ化物とポリペプチド系抗生物質を培地中に同時に添加することで、該濃度のアルカリ金属またはアルカリ土類金属のアジ化物のみ、または、該濃度のポリペプチド系抗生物質のみでは抑制されなかった枯草菌の発育を抑制する事を可能とし、かつ、該濃度のアルカリ金属またはアルカリ土類金属のアジ化物のみでは抑制されなかった緑膿菌等のグラム陰性細菌や、該濃度のポリペプチド系抗生物質のみでは抑制されなかったセレウス菌に対してもその発育抑制を可能としたことを特徴する。
【0008】
また、酵母・真菌類に関しては、これらの菌類は、前記濃度のアルカリ金属またはアルカリ土類金属のアジ化物のみの添加では十分な抑制効果が得られない為に、ポリエン系抗生物質、シクロヘキシミド、カビサイジン、ミコナゾール、フルコナゾール、ミカファンギン等の抗真菌剤を添加することにより、これらの菌類の発育抑制を可能とし、更に乳酸菌以外の微生物に対して十分な抑制を可能とした。
【0009】
本発明は、これら、ポリペプチド系抗生物質、アルカリ金属またはアルカリ土類金属のアジ化物、抗真菌剤を添加することで相乗的および特異的に乳酸菌以外の雑菌の発育を抑制する事を可能とする。本発明は更に、発酵を検出するためのブロムクレゾールパープルと糖を添加した培地を提供する。
【0010】
本発明の態様は、以下のとおりである。
[1] ポリペプチド系抗生物質およびアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属のアジ化物を含む、乳酸菌を選択的に培養するための培地。
[2] さらに、抗真菌剤を含む、[1]の培地、
[3] アルカリ金属またはアルカリ土類金属のアジ化物がアジ化ナトリウムである[1]または[2]の培地、
[4] ポリペプチド系抗生物質がポリミキシンB、コリスチンおよびバシトラシンからなる群から選択される少なくとも1種類である[1]から[3]のいずれかの培地、
[5] 抗真菌剤がポリエン系抗生物質、シクロヘキシミド、カビサイジン、ミコナゾール、フルコナゾールおよびミカファンギンからなる群から選択される少なくとも1種類である[2]から[4]のいずれかの培地、
[6] ポリエン系抗生物質がアムホテリシンB、ナイスタチン、ピマリシン、トリコマイシン、グリセオフルビン、ペンタマイシン、カンディシジン、ハマイシンおよびクロミンからなる群から選択される少なくとも1種類である[5]の培地、
[7] アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属のアジ化物ならびにポリペプチド系抗生物質を両者を混合することによりバチルス属細菌およびグラム陰性菌の発育を阻止するが、乳酸菌の発育を阻止しない濃度で含む、[1]から[6]のいずれかの培地、
[8] アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属のアジ化物ならびにポリペプチド系抗生物質を単独では大腸菌、サルモネラ菌、緑膿菌、セレウス菌、枯草菌の一部の菌の発育を阻止しないが、両者を混合することにより大腸菌、サルモネラ菌、緑膿菌、セレウス菌、枯草菌の発育を阻止し、なおかつ乳酸菌の発育を阻止しない濃度で含む、[7]の培地、
[9] さらに、抗真菌剤を酵母の発育を阻止する濃度で含む、[7]または[8]の培地、
[10] アルカリ金属またはアルカリ土類金属のアジ化物の濃度が5〜200μg/mLであり、ポリペプチド系抗生物質の濃度が1〜100μg/mLである[1]から[9]のいずれかの培地、
[11] アルカリ金属またはアルカリ土類金属のアジ化物の濃度が50〜100μg/mLであり、ポリペプチド系抗生物質の濃度が1〜16μg/mLである[10]の培地、
[12] 抗真菌剤の濃度が1〜200μg/mLである[2]から[11]のいずれかの培地、
[13] 抗真菌剤の濃度が2〜80μg/mlである[12]の培地、
[14] 5〜200μg/mLのアジ化ナトリウムおよび1〜100μg/mLのポリミキシンBを含む[1]から[10]のいずれかの培地、
[15] さらに、1〜200μg/mLの抗真菌剤を含む[14]の培地、
[16] 培地のpHが6.0〜7.5である[1]から[15]のいずれかの培地、
[17] さらに、少なくともブドウ糖ならびにブロモクレゾールパープルもしくは炭酸カルシウム粉末を含む培地であって、特異的に培養した乳酸菌による乳酸発酵を検出することにより乳酸菌の存在を検出し得る[1]から[16]のいずれかの培地、
[18] [1]から[17]のいずれかの培地を用いて、乳酸菌を選択的に培養する方法、ならびに
[19] [17]の培地を用いて、乳酸菌を選択的に培養し、乳酸菌の存在を検出する方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の方法により、バチルス属細菌、酵母・真菌類、グラム陰性細菌の発育を抑制し、環境中から乳酸菌を効果的に検出する培地・方法を確立することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の乳酸菌と乳酸菌以外の菌を含む試料中から乳酸菌の検出を可能とする培地は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属のアジ化物とポリペプチド系抗生物質、抗真菌剤を含むことを特徴とする。また、本発明の方法は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属のアジ化物とポリペプチド系抗生物質、抗真菌剤を、糖の発酵を検出することのできる培地に添加することを特徴とする。
【0013】
本発明の培地の一形態として、一定濃度のアルカリ金属またはアルカリ土類金属のアジ化物とポリペプチド系抗生物質を含む培地が挙げられ、該培地を用いることにより、セレウス菌や枯草菌を含むバチルス属細菌、グラム陰性桿菌等の細菌の発育を阻止することができる。また、一定濃度の抗真菌剤をさらに含む培地が挙げられ、該培地を用いることにより、酵母、真菌の発育をも阻止することができる。
【0014】
本発明において、乳酸菌以外の細菌の発育を阻止するとは、他の菌が増殖することによって起こり得る、乳酸菌の発育の抑制や発育性状指示薬の反応の阻害が起きない程度に乳酸菌以外の細菌の発育を阻止することをいう。従って、乳酸菌以外の細菌の発育を阻止するとは、該細菌を完全に殺菌することをいう場合もあれば、細菌が生存しているが増殖せず、培養開始時と培養終了時の細菌の個数が変化しないように処理することをいう場合もある。ここで、乳酸菌の発育性状指示薬とは、例えば、乳酸発酵により低下した培地のpHを測定し得るpH指示薬をいう。
【0015】
アルカリ金属またはアルカリ土類金属のアジ化物は、高濃度では乳酸菌の発育を阻止するが、乳酸菌の発育を阻止しない濃度範囲で、バチルス属細菌、グラム陰性菌や酵母の発育を阻止する。ポリペプチド系抗生物質は高濃度では乳酸菌の発育を阻止するが、乳酸菌の発育を阻止しない濃度範囲で、グラム陰性菌の発育を阻止する。単独では一部のバチルス属細菌およびグラム陰性細菌の発育を阻止しない濃度のアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属のアジ化物およびポリペプチド系抗生物質を混合して用いた場合、単独では発育が阻止されないバチルス属細菌およびグラム陰性細菌の発育を広く阻止するようになる。一方、バチルス属細菌およびグラム陰性細菌の発育を広く阻止する濃度で両者を混合して用いても、乳酸菌の発育を阻止しない場合がある。本発明においては、このようにバチルス属細菌およびグラム陰性細菌の発育を広く阻止するが、乳酸菌の発育を阻止しないような濃度でアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属のアジ化物およびポリペプチド系抗生物質を混合して用いればよい。すなわち、本発明の培地は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属のアジ化物とポリペプチド系抗生物質が相乗的に作用して、バチルス属細菌およびグラム陰性細菌の発育を広く阻止する。さらに、本発明においては、酵母、真菌類の発育を阻止するために、抗真菌剤が用いられる。抗真菌剤も酵母、真菌類の発育を阻止するが乳酸菌の発育を阻止しない濃度範囲で用いられる。
【0016】
アルカリ金属のアジ化物として、アジ化リチウム、アジ化ナトリウム、アジ化カリウム、アジ化ルビジウム、アジ化セシウム、アジ化フランシウム等が挙げられ、アルカリ土類金属のアジ化物として、アジ化カルシウム、アジ化バリウム等が挙げられる。ポリペプチド系抗生物質として、ポリミキシンB、コリスチン、バシトラシン等が挙げられ、これらの抗生物質の1つ以上を添加すればよい。抗真菌剤として、ポリエン系抗生物質、アゾール系抗真菌剤、キャンディン系抗真菌剤、シクロヘキシミド、カビサイジン等が挙げられ、これらの中から1つ以上を添加すればよい。ポリエン系抗生物質としてアンフォテリシンB、ナイスタチン、ピマリシン、トリコマイシン、グリセオフルビン、ペンタマイシン、カンディシジン、ハマイシン、クロミン等が、アゾール系抗真菌剤としてミコナゾール、フルコナゾール、イトラコナゾール等が、キャンディン系抗真菌剤としてミカファンギン等が挙げられる。また、カビサイジンは、Streptomyces gougerotiiに属する菌培養液から抽出した抗生物質であるが、その他の微生物由来の真菌類に対する抗生物質も用いることができる。
【0017】
それぞれの培地に添加する濃度は、乳酸菌以外の発育を阻止するが乳酸菌の発育を阻止しない濃度であり、微生物を用いた発育阻止試験を行うことにより容易に決定することができる。例えば、乳酸菌以外の発育を阻止しようとする細菌に対する最小発育阻止濃度(MIC)以上の濃度で用いればよい。また、乳酸菌の発育が阻止されない濃度である限り、乳酸菌以外の細菌を死滅させる濃度である最小殺菌濃度(MFC)以上の濃度で用いてもよい。例えば、アルカリ金属またはアルカリ土類金属のアジ化物が5〜200μg/mL、好ましくは50〜100μg/mL、ポリペプチド系抗生物質が1〜100μg/mL、さらに好ましくは1〜50μg/mL、さらに好ましくは1〜20μg/mL、さらに好ましくは1〜16μg/mL、抗真菌剤が1〜200μg/mL、好ましくは1〜100μg/mL、さらに好ましくは2〜80μg/mL、さらに好ましくは2〜40μg/mL、さらに好ましくは2〜20μg/mLである。ポリペプチド系抗生物質や抗真菌剤の有効濃度は、種類や組合わせによって異なってくることがある。それぞれの種類における有効濃度、組合わせにおける有効濃度は、乳酸菌と他の菌を混合培養する際にポリペプチド系抗生物質および抗真菌剤を添加し培養して、乳酸菌以外の発育を阻止するが乳酸菌の発育を阻止しない濃度を決定することができる。用いるポリペプチド系抗生物質の種類や他の薬剤との組合わせによっては、ポリペプチド系抗生物質の濃度は、1〜8μg/mL、好ましくは1〜4μg/mL、さらに好ましくは1〜2μg/mLあるいは2〜4μg/mLであり、用いる抗真菌剤の種類や他の薬剤との組合わせによっては、抗真菌剤の濃度は、1〜8μg/mL、好ましくは1〜4μg/mL、さらに好ましくは1〜2μg/mLあるいは2〜4μg/mLである。ポリペプチド系抗生物質を高濃度で、例えば4μg/mL以上添加した場合、乳酸菌の発育が若干弱くなることがあるが、発育が阻止されない限り、乳酸菌の検出は可能であり、ポリペプチド系抗生物質は、例え、乳酸菌の増殖に影響を与えたとしても乳酸菌の検出が可能な濃度範囲で用いることができる。
【0018】
培地としては、BCP加プレートカウント寒天培地、MRS培地、APT培地、トマトジュース培地、GYP白亜寒天培地等の乳酸菌検査に用いられる培地を用いることができ、これらの培地に上記のアルカリ金属またはアルカリ土類金属のアジ化物とポリペプチド系抗生物質、抗真菌剤等を添加すればよい。また、pHは、6.0〜7.5、好ましくは6.5〜6.9である。
【0019】
好ましくは、50〜100μg/mLアジ化ナトリウム、1〜100μg/mLポリミキシンB、1〜200μg/mL抗真菌剤、あるいは50〜100μg/mLアジ化ナトリウム、1〜16μg/mLポリミキシンB、2〜20μg/mL抗真菌剤をBCP加プレートカウント寒天培地に添加し、pHを6.7±0.2に調製した形態である。
【0020】
尚、培地pHの測定は、半導体センサpHメーター(例えば、新電元社 pHBOY-P2)を用い、培地が固化したのちに、細分化した培地片をセンサ部に圧着させることで計測する。
【0021】
本発明の培地は、バチルス属細菌に対する発育阻止濃度範囲と乳酸菌に対する発育支持濃度範囲とが互いに重複し、かつ、一部のバチルス属細菌・酵母に対する発育阻止濃度範囲と乳酸菌に対する発育阻止濃度範囲とが一部重複するアルカリ金属またはアルカリ土類金属のアジ化物と、グラム陰性細菌に対する発育阻止濃度範囲と乳酸菌に対する発育支持濃度範囲とが互いに重複し、かつ、一部のバチルス属細菌に対する発育阻止濃度範囲と乳酸菌に対する発育阻止濃度範囲とが一部重複するポリペプチド系抗生物質と、酵母に対する発育阻止濃度範囲と乳酸菌に対する発育支持濃度範囲とが互いに重複する抗真菌剤とを、酵母、バチルス属細菌、グラム陰性細菌の発育を実質的に阻止するが、乳酸菌の発育を支持するような関係力価濃度を以って含有してなる乳酸菌簡易検出用培地である。
【0022】
さらに、本発明の培地は、乳酸菌の存在を示す乳酸発酵を検出する試薬を含んでいてもよい。このような試薬として、ブドウ糖、ショ糖、乳糖、マンニット、果糖等の糖、ブロムクレゾールパープル等のpH指示薬が挙げられ、糖は0.1〜40g/mL、好ましくは1g/mLで、ブロムクレゾールパープルは0.002〜1g/Lの濃度で添加すればよい。ブロムクレゾールパープルの代わりに、乳酸菌の発酵により産生された酸によるpHの低下を測定し得る他のpH指示薬を用いることもできる。ブロムクレゾールパープルを含む培地としては、BCP加プレートカウント寒天培地が挙げられる。また、炭酸カルシウムの粉末を加えた培地も用いることができる。このような培地としては、例えば、GYP白亜寒天培地が挙げられる。
【0023】
本発明の培地に、乳酸菌が存在し得る試料を添加し、37℃で48〜72時間培養することにより、乳酸菌以外の微生物は発育できないので、死滅する。培地に糖及びブロムクレゾールパープルを添加しておいた場合、発酵により産生される酸により培地のpHが下がりpH指示薬であるブロムクレゾールパープルの色が紫から黄色に変色することにより、乳酸菌の存在を検出することができる。また、培地に炭酸カルシウムの粉末を加えた場合、不溶性の炭酸カルシウムの白濁が乳酸菌のコロニーの周りでは、生成した乳酸によって溶かされ、きれいなクリヤー(透明)ゾーンを生じるので、乳酸菌の増殖を検出することができる。
【実施例】
【0024】
以下、実施例を挙げて更に詳細に説明するが、本発明の本質はアジ化物と抗生物質の相乗効果を利用した乳酸菌検出培地であり、以下の内容は単に本発明を実施するための最良の組成、添加量であり、本発明は以下の実施例だけに限定されるものではない。
【0025】
〔実施例1〕
アジ化ナトリウムのみを培地に添加した場合、ポリミキシンBのみを培地に添加した場合、双方を同時に添加した場合の菌の発育を比較した。従来乳酸菌の菌数測定で用いられているBCP加プレートカウント寒天培地に、アジ化ナトリウムとポリミキシンBを添加し、細菌の発育を観察した。
【0026】
【表1】

【0027】
ポリミキシンBのみを添加した場合には枯草菌の発育を抑制するためには4μg/mLの添加量が必要である。また、4μg/mLのポリミキシンBを添加した場合には、乳酸菌ds-01株の発育にも影響がでる。
【0028】
アジ化ナトリウムのみを添加した場合には枯草菌の発育を抑制するためには200μg/mLの添加量が必要である。また、200μg/mLのアジ化ナトリウムを添加した場合には、乳酸菌の発育にも影響がでる。
【0029】
アジ化ナトリウムとポリミキシンBを組み合わせることで乳酸菌への影響がない状態で、枯草菌の発育を抑制することが可能となった。また、アジ化ナトリウム、ポリミキシンBそれぞれ単独では抑制されなかったセレウス菌やその他のグラム陰性桿菌についても完全に抑制することが可能となった。
【0030】
〔実施例2〕
従来乳酸菌の菌数測定で用いられているBCP加プレートカウント寒天培地に、アジ化ナトリウムとポリミキシンB、アムホテリシンBを添加し、細菌の発育を観察した。
【0031】
50μg/mLアジ化ナトリウムと2μg/mLポリミキシンB、4μg/mLアムホテリシンBを添加した培地に、ラクトバシルス・カゼイ(乳酸菌1)、ラクトバシルス・アシドフィルス(乳酸菌2)、大腸菌、サルモネラ、緑膿菌、バシルス・セレウス、枯草菌、酵母をそれぞれ1×106cfu/mLに希釈した菌液を1μLずつ接種し、37℃、72時間培養した場合の発育状況を比較した。
【0032】
【表2】

【0033】
乳酸菌以外の菌については完全に発育を抑制し、乳酸菌のみが発育し、培地を黄変させた。
また、実施例1にて発育が抑制されていなかった酵母についても、アムホテリシンBを添加したことによりその発育が抑制された。
【0034】
〔実施例3〕
従来乳酸菌の菌数測定で用いられているBCP加プレートカウント寒天培地に
アジ化ナトリウム(NaN3):50μg/mL
ポリミキシンB :4μg/mL
を添加し、さらに、各濃度の抗真菌剤(フルコナゾール)を添加し、各種細菌の生育を比較した。
【0035】
ラクトバシルス・カゼイ(乳酸菌1)、ラクトバシルス・アシドフィルス(乳酸菌2)、大腸菌、サルモネラ、緑膿菌、バチルス・セレウス、枯草菌、酵母1、酵母2をそれぞれ1×106cfu/mLに希釈した菌液を1μLずつ接種し、37℃、72時間培養した場合の発育状況を比較した。
【0036】
【表3】

【0037】
表3に示すように、フルコナゾール濃度が10〜80μg/mLの範囲で乳酸菌以外の菌の増殖を抑制しつつ、乳酸菌を培養することが可能であった。特にフルコナゾール濃度が20μg/mL以上では、乳酸菌以外の菌の増殖は完全に抑えられた。
【0038】
〔実施例4〕
基礎培地:自社調製(BCP加プレートカウント寒天培地組成からL-システインを抜いた)培地に、
アジ化ナトリウム(NaN3) :50μg/mL
アムホテリシンB(AMPH-B) :4μg/mL
を添加し、さらに、各濃度の抗真菌剤(ポリミキシンB)を添加し、各種細菌の生育を比較した。
【0039】
ラクトバシルス・カゼイ(乳酸菌1)、ラクトバシルス・アシドフィルス(乳酸菌2)、大腸菌、サルモネラ、緑膿菌、バチルス・セレウス、枯草菌、酵母1、酵母2をそれぞれ1×106cfu/mLに希釈した菌液を1μLずつ接種し、37℃、72時間培養した場合の発育状況を比較した。
【0040】
【表4】

【0041】
表4に示すように、ポリミキシンB濃度が16μg/mLで乳酸菌以外の菌の増殖を完全に抑制しつつ、乳酸菌を培養することが可能であった。すなわち、ポリミキシンBの濃度が16μg/mLで本発明が実施可能であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリペプチド系抗生物質およびアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属のアジ化物を含む、乳酸菌を選択的に培養するための培地。
【請求項2】
さらに、抗真菌剤を含む、請求項1記載の培地。
【請求項3】
アルカリ金属またはアルカリ土類金属のアジ化物がアジ化ナトリウムである請求項1または2に記載の培地。
【請求項4】
ポリペプチド系抗生物質がポリミキシンB、コリスチンおよびバシトラシンからなる群から選択される少なくとも1種類である請求項1から3のいずれか1項に記載の培地。
【請求項5】
抗真菌剤がポリエン系抗生物質、シクロヘキシミド、カビサイジン、ミコナゾール、フルコナゾールおよびミカファンギンからなる群から選択される少なくとも1種類である請求項2から4のいずれか1項に記載の培地。
【請求項6】
ポリエン系抗生物質がアムホテリシンB、ナイスタチン、ピマリシン、トリコマイシン、グリセオフルビン、ペンタマイシン、カンディシジン、ハマイシンおよびクロミンからなる群から選択される少なくとも1種類である請求項5記載の培地。
【請求項7】
アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属のアジ化物ならびにポリペプチド系抗生物質を両者を混合することによりバチルス属細菌およびグラム陰性菌の発育を阻止するが、乳酸菌の発育を阻止しない濃度で含む、請求項1から6のいずれか1項に記載の培地。
【請求項8】
アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属のアジ化物ならびにポリペプチド系抗生物質を単独では大腸菌、サルモネラ菌、緑膿菌、セレウス菌、枯草菌の一部の菌の発育を阻止しないが、両者を混合することにより大腸菌、サルモネラ菌、緑膿菌、セレウス菌、枯草菌の発育を阻止し、なおかつ乳酸菌の発育を阻止しない濃度で含む、請求項7記載の培地。
【請求項9】
さらに、抗真菌剤を酵母の発育を阻止する濃度で含む、請求項7または8に記載の培地。
【請求項10】
アルカリ金属またはアルカリ土類金属のアジ化物の濃度が5〜200μg/mLであり、ポリペプチド系抗生物質の濃度が1〜100μg/mLである請求項1から9のいずれか1項に記載の培地。
【請求項11】
アルカリ金属またはアルカリ土類金属のアジ化物の濃度が50〜100μg/mLであり、ポリペプチド系抗生物質の濃度が1〜16μg/mLである請求項10記載の培地。
【請求項12】
抗真菌剤の濃度が1〜200μg/mLである請求項2から11のいずれか1項に記載の培地。
【請求項13】
抗真菌剤の濃度が2〜80μg/mlである請求項12記載の培地。
【請求項14】
5〜200μg/mLのアジ化ナトリウムおよび1〜100μg/mLのポリミキシンBを含む請求項1から10のいずれか1項に記載の培地。
【請求項15】
さらに、1〜200μg/mLの抗真菌剤を含む請求項14記載の培地。
【請求項16】
培地のpHが6.0〜7.5である請求項1から15のいずれか1項に記載の培地。
【請求項17】
さらに、少なくともブドウ糖ならびにブロモクレゾールパープルもしくは炭酸カルシウム粉末を含む培地であって、特異的に培養した乳酸菌による乳酸発酵を検出することにより乳酸菌の存在を検出し得る請求項1から16のいずれか1項に記載の培地。
【請求項18】
請求項1から17のいずれか1項に記載の培地を用いて、乳酸菌を選択的に培養する方法。
【請求項19】
請求項17に記載の培地を用いて、乳酸菌を選択的に培養し、乳酸菌の存在を検出する方法。

【公開番号】特開2006−81536(P2006−81536A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−34089(P2005−34089)
【出願日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【出願人】(591125371)デンカ生研株式会社 (72)
【Fターム(参考)】