説明

乾式クリーニング筐体、乾式クリーニング装置及び乾式クリーニングシステム

【課題】フラックス等の汚れは勿論のこと、粘弾性汚れも除去でき、洗浄対象物の範囲を拡大できて使用価値を高められる乾式クリーニング筐体を提供する。
【解決手段】筐体4の開口部18が洗浄対象物20の表面で塞がれた状態で図示しない吸引装置により吸引がなされると、筐体内が負圧となってインレット24のインレット用開口24Aから外気が流入し、旋回空気流30が生じて洗浄媒体5が飛翔する。洗浄媒体5は飛翔しながら洗浄対象物20の表面に衝突する。インレット24の気流噴射口24Bのノズル50からは旋回空気流30を形成する気流よりも流速が大きい圧縮空気流Ar2が噴射され、これにより洗浄媒体5は加速されて高速度で粘弾性汚れ58に衝突する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飛翔する洗浄媒体を洗浄対象物に接触(衝突の概念を含む)させて洗浄する乾式クリーニング装置に関し、詳しくは、洗浄対象物の任意の部位に当てて洗浄することが可能で特にハンディタイプとして好適な乾式クリーニング装置及び該乾式クリーニング装置に用いられる乾式クリーニング筐体、該乾式クリーニング装置を備えた乾式クリーニングシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プリント基板製造におけるフローはんだ槽によるはんだ付け工程において、はんだ付け処理する領域以外をマスクする治具が多く用いられている。このようなマスク治具(ディップパレット、キャリアパレットと呼ばれる)は、繰り返し使用されるうちに、表面にフラックスが堆積して固着しマスクの精度を下げるために、定期的に洗浄する必要があった。
一般的には、このような洗浄は溶剤に浸漬して行うため、大量の溶剤を消費しており、コストアップを避けられず、作業者への負荷も極めて大きい。
浸漬せずに装置内で溶剤を洗浄対象物に噴射する方式も知られているが、溶剤を大量に使用するという点に変わりはない。
【0003】
この問題を解消する技術として、飛翔する洗浄媒体を洗浄対象物に接触させて洗浄する乾式の洗浄装置が知られている。
特許文献1、2には、円筒形の容器の側面に開口部を設け、容器内で圧縮気流の旋回空気流により円周方向に洗浄媒体を飛翔させ、開口部に接した洗浄対象物に洗浄媒体を衝突させる洗浄方法が開示されている。
しかしながらこの方式では、圧縮気流で旋回空気流を形成しているため、開口部から洗浄対象物が離された際に、洗浄媒体が容器外部に漏出するという問題を避けられない。
この問題を解消すべく、特許文献1では開口部に網部材を設けて漏出を防いでいるが、洗浄媒体が洗浄対象物に衝突する際のエネルギーが低下したり、網部材に洗浄媒体が挟まって洗浄能力が低下するなどの新たな問題を抱えている。
特許文献2では、開口部を塞ぐ開閉蓋を設けて漏出を防ぐようにしているが、開口部から洗浄対象物が離された際に開閉蓋を素早く移動させて塞ぐ必要があり、作業者に余計な注意力や労力を強いるとともに、機構的に複雑で操作が難しく、故障しやすいという問題があった。
【0004】
このような状況に鑑み、本出願人は、筐体に吸気手段を接続し、開口部が洗浄対象物で塞がれた状態で通気路を介して筐体外部から内部へ流入する気流により発生する旋回空気流によって薄片状の洗浄媒体を飛翔させるとともに、筐体内に気体や粉塵の通過を許容し且つ洗浄媒体の通過を不可とする、例えば網目状の多孔手段を設けて旋回空気流形成領域で洗浄媒体が留まるようにし、旋回空気流によって洗浄媒体の循環飛翔が継続する乾式クリーニング装置を提案した(特願2010−175687号)。
この乾式クリーニング装置によれば、開口部から洗浄対象物が離されても、通気路が大気圧と同レベルとなって旋回空気流が消失するとともに、吸気による負圧で開口部から外気が筐体内に多く流入するため、筐体内の洗浄媒体は多孔手段に吸着された状態となって筐体内に留まり、開口部からは漏れない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本出願人による上記先願技術は、例えば図16に示すように、吸気手段6によって筐体4の内部を吸引し、筐体4の開口部18を洗浄対象物20に当てて塞ぎ、筐体4の内部を負圧化させてインレット24から外部空気を筐体内に高速で流入させて旋回空気流30を生じせしめ、これによって洗浄媒体5を飛翔させ、開口部18における洗浄対象物20の被洗浄面に衝突させてクリーニングするものである。旋回空気流30はその流路断面積を流路制限部材16により制限されている。
開口部18が塞がれる前は、洗浄媒体5は吸引作用により多孔手段としての分離板14に吸着されて筐体内部に保持された状態となっている。
この構成によれば、作業者が手に持って筐体を移動させることができ、洗浄対象物20の所望の部位をスポット的にクリーニングすることができ、クリーニングの自由度が極めて高い。
【0006】
ところで、注意書き等を表示した紙シールなどが貼られた部品(洗浄対象物)の該紙シールなどは一般的に粘弾性を有する粘着材を介して強固に貼り付けられており、リサイクルする際の除去清掃において、上記本出願人による先願技術を含めた従来の乾式クリーニング装置では、吸引方式、圧縮方式の違いに拘らずその除去が極めて困難であることが判った。
これは、薄片状の洗浄媒体では1枚あたりの質量が小さく、旋回空気流で高速に飛翔しているにもかかわらず運動エネルギーが比較的低いため、洗浄対象物に付着した汚れが粘弾性を持つ場合には、汚れが変形して運動エネルギーを吸収してしまい、削り取られて除去されにくいためである。
これを解決するためには洗浄媒体の飛翔速度、換言すれば洗浄対象物に対する衝突速度を上げる必要がある。
その理由は、除去対象である粘弾性汚れは低速で加えられる力に対しては変形して力を吸収するが、高速の洗浄媒体が衝突した際には、変形量が少なく、固体のように振る舞うため、変形によって洗浄媒体の運動エネルギーを吸収できず、破壊されるからである。例として、高圧で水を高速噴射するウォータジェットが固体を切断できるのもこのような特性によるためである。
【0007】
しかしながら、従来の乾式クリーニング装置では粘着材(粘弾性汚れ)を除去するのに十分な速度を洗浄媒体に与えることはできなかった。
流速を上げるためには、インレットの流路断面積を絞ることが一般的であるが、流路断面積を絞ると流路抵抗が上昇するため、インレットを流れる流量が減少し、その結果筐体内の流量も低下するため、洗浄媒体を量的に十分に飛翔させられず洗浄能力は結果的に低下する。
上記は本出願人による上記先願技術(吸引方式)の場合であるが、圧縮方式においても困難な問題が生じる。
すなわち、インレットの入口に高圧の圧縮空気供給源を接続して加圧すれば、インレットから供給される空気の流速はインレット入口と出口の差圧の平方根に比例して増加するため、インレットから噴出する気流の流速も増加し、高速な旋回空気流を生成することは可能である。但し、実際には空気の圧縮が起こるため、噴射される気流の速度は音速を超えることはない。
しかしながら、高圧をかけると流量を多く消費するため、高速の気流を生むための差圧を維持するためには、気流流出によって圧力低下を起さないようにするための巨大なタンク容量を持つ圧縮空気供給源が必要となり、実用的ではない。
【0008】
本発明は、上記のような現状に鑑みてなされたもので、フラックス等の汚れは勿論のこと、粘弾性汚れも除去でき、洗浄対象物の範囲を拡大できて使用価値を高められる乾式クリーニング筐体及び該乾式クリーニング筐体を備えた乾式クリーニング装置の提供を、その主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記のように、粘弾性汚れを除去するためには、開口部に到達する単位面積あたりの洗浄媒体の数量を維持するとともに単位時間あたりの衝突回数を多くするための流量と、粘弾性汚れを除去し得る流速を同時に確保する必要があるが、両者はトレードオフの関係にあり、流量の確保に主眼をおくと、上記先願技術等の実験で明らかなように、粘弾性汚れの除去困難性を打破するには至らない。
本発明は、圧縮方式に比べて洗浄媒体の飛散が無く且つエネルギーロスが小さいという大きな利点を有する吸引方式を基本構成とし、流量・流速の異なる2種類以上の気流を用いて、それぞれに流量と流速を機能分けして担わせ、設備の大型化を招来することなく粘弾性汚れを除去し得る流速を得ることとした。
すなわち、流量を確保するための第1の気流に、これとは異なる少なくとも第2の気流を噴射・合流させて洗浄媒体の飛翔速度を向上させ、粘弾性汚れを削り取ることが可能な飛翔速度を得るというものである。
【0010】
上記着眼の下、本発明は、洗浄媒体を気流により飛翔させ、上記洗浄媒体を洗浄対象物に当てて洗浄対象物の洗浄を行う乾式クリーニング筐体において、上記洗浄媒体を飛翔させる内部空間と、上記洗浄対象物に当接して上記洗浄媒体を上記洗浄対象物に衝突させる開口部と、外部からの空気を上記内部空間へ通す通気路と、上記通気路を介して上記内部空間に導気された空気を吸引することにより上記内部空間に旋回気流からなる第1の気流を生じさせる吸気口と、上記旋回気流により飛翔する上記洗浄媒体の速度を増加させる少なくとも第2の気流を生じさせる噴射口と、上記洗浄対象物から除去された除去物を上記吸気口側へ通過させる多孔手段と、を有していることを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、乾式クリーニング装置において、本発明に係る乾式クリーニング筐体と、上記吸気口に接続される吸引手段と、上記噴射口に接続される噴射気流供給源と、上記洗浄媒体とにより構成されることを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、乾式クリーニングシステムにおいて、本発明に係る乾式クリーニング装置と、上記洗浄対象物を洗浄可能に保持する保持手段と、上記乾式クリーニング装置と上記保持手段のうち少なくとも一方を移動させて上記洗浄対象物の洗浄領域を変える洗浄領域変更手段とを有していることを特徴とする。
【0013】
本明細書における用語の定義は以下の通りである。
本発明における「筐体」とは、内側に旋回空気流を発生させやすい形状の空間を備えた容器状の構造物を示す。旋回空気流を発生させやすい形状とは、気流が筐体の内壁を沿って流れて循環する、連続した内壁を持つ形状であり、より望ましくは回転体形状の内壁または内部空間を備える形状である。
「通気路」とは、気流を一定の方向に流れやすくする手段のことであり、滑らかな内面を備える管形状であることが一般的である。しかしながら、たとえば滑らかな面を持つ、板状の流路制御板などを用いても、気体を面に沿った方向に流れやすくする、整流効果が発現するため、このような形態も含めて通気路とする。
【0014】
また、気流が直線的に流れる形状が一般的であるが、流路抵抗をあまり生じない緩やかなカーブを備えていても整流効果を得ることができる。ただし、特に記載されない場合、通気路の方向とは空気流入口において噴出する気流の方向のことを意味する。
直線の管形状を備え、一方の端部が筐体内壁の空気流入口に接続し、もう一方の端部が筐体外の大気に開放されている空気取り入れ口である通気路を、本発明では「インレット」と呼称する。インレットは一般的に流体抵抗が低く、滑らかな内面を持ち、管の断面は円形、長方形、スリット形状などが用いられる。
【0015】
本発明において、「旋回気流」とは、空気流入口からの流入気流により加速された気流が、筐体の内壁に沿って方向を変えつつ流れ、空気流入口の位置に、循環して戻り、流入気流と合流する気流である。気流を形成する流体が空気の場合には「旋回空気流」と同義である。一般的には、内壁が連続している閉空間内で、内壁の接線方向に向けて気流を流入させることにより発生する。
本発明において、「気流」、「空気流」とは、一般的には、空気による気流のことであるが、帯電抑制剤等を含む雰囲気の概念をも含むものとする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、フラックス等の汚れは勿論のこと、粘弾性汚れも除去でき、洗浄対象物の範囲を拡大できて乾式クリーニング装置の使用価値を高めることができ、洗浄・リサイクルに大きく貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る乾式クリーニング筐体の使用状態を示す側面図である。
【図2】同乾式クリーニング筐体の斜視図である。
【図3】アタッチメント方式のインレットの着脱構成を示す概要断面図である。
【図4】洗浄効果の確認例を示す写真画像である。
【図5】洗浄効果の確認例を示す写真画像である。
【図6】洗浄効果の確認例を示す写真画像である。
【図7】洗浄効果の確認例を示す写真画像である。
【図8】第2の実施形態に係る乾式クリーニング筐体の概要断面図である。
【図9】同乾式クリーニング筐体の変形例を示す概要断面図である。
【図10】第3の実施形態に係る乾式クリーニング筐体の要部の概要断面図である。
【図11】同乾式クリーニング筐体の変形例を示す要部斜視図である。
【図12】第4の実施形態に係る乾式クリーニング筐体の使用状態を示す側面図である。
【図13】第5の実施形態に係る乾式クリーニング筐体を示す図で、(a)はインレットの外側から見た図、(b)は(a)のC−C線での断面図である。
【図14】第6の実施形態に係る乾式クリーニングシステムの概要斜視図である。
【図15】同実施形態における気密カバーの回動構成を示す斜視図である。
【図16】本発明の基本となる乾式クリーニング装置を示す概要断面図である。
【図17】同装置の洗浄動作を示す図である。
【図18】同乾式クリーニング装置の使用状態を示す斜視図である。
【図19】薄片状の洗浄媒体の衝突時のパターンを示す模式図である。
【図20】各洗浄媒体の機械的物性の分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図を参照して説明する。
まず、図16乃至図18に基づいて、本発明の乾式クリーニング装置の基本構成及び機能について説明する。
図16に基づいて、本発明に係るハンディタイプの乾式クリーニング装置2の構成の概要を説明する。図16(a)はA−A線での横断面図、(b)はB−B線での縦断面図である。
乾式クリーニング装置2は、内部に洗浄媒体5の飛翔空間を有する乾式クリーニング筐体(以下、単に「筐体」という)4と、筐体4内を負圧化する吸気手段6とを備えている。
筐体4は、筐体本体部としての円筒形状の上部筐体4Aと、逆円錐形状の下部筐体4Bとから一体として構成されている。ここでの上部、下部は図面上の便宜的呼称であって、実機上の上下とは必ずしも関係はない。
【0019】
下部筐体4Bは、その円錐頂部に吸気口8を一体に備えており、吸引ダクトとして機能する。
吸気手段6は、吸気口8に一端を接続されたフレキシブルな吸引ホース10と、該吸引ホース10の他端に接続された吸引手段としての吸引装置12とを有している。吸引装置12としては、家庭用掃除機、真空モータや真空ポンプ、あるいは流体の圧送により間接的に低圧化ないし負圧化を生じさせる装置などを適宜用いることができる。なお、部材の上面、底面等の上下の位置関係は図面上の基準にすぎない。
【0020】
上部筐体4Aの底面部は、下部筐体4Bの上端部を結合する嵌合凹部4A−1となっており、上部筐体4Aと下部筐体4Bは分離可能となっている。上部筐体4Aの上面4A−2は密閉されている。
上部筐体4Aの底面部における下部筐体4Bとの境界部分には、多孔手段としての多孔性の分離板14が設けられている。分離板14は、パンチングメタルのような穴が空いた板状の部材である。分離板14は、吸引されたときの洗浄媒体5の下部筐体4B側への移動を阻止するものである。図16(a)では分離板14の表示を一部省略している。なお、洗浄媒体5は分かり易くするためにその大きさを誇張表示している。
多孔手段としては、洗浄媒体5を通さずに空気及び粉塵(洗浄対象物から除去された除去物)を通過させる大きさの細孔を多く備える多孔形状であればよく、スリット板や網などを用いてもよく、材質も滑らかな面を備えていれば、樹脂や金属などを自由に選択して良い。
多孔手段は旋回空気流の中心軸と直交する面として配置されている。旋回空気流の中心軸と直交することによって、多孔手段に沿う方向に気流が流れることにより、洗浄媒体5の滞留を防ぐ効果がある。
旋回空気流の減衰を抑えるために、筐体内面は段差、凹凸がなく平滑であることが望ましい。
【0021】
多孔手段は、旋回空気流に沿った面に配置されることにより、表面に吸着した洗浄媒体を再飛翔させることができる。
筐体4の材質は特に限定されないが、異物の付着や洗浄媒体との摩擦による消耗を防ぐために、例えばアルミ二ウムやステンレスなどの金属製が好適であるが、樹脂製のものを用いることもできる。
【0022】
上部筐体4Aの内部中心には、上部筐体4Aの円筒軸を共通の軸とするように、円筒状の流路制限部材16が筐体の一部として設けられ、流路制限部材16の下端は分離板14に固定されている。
流路制限部材16は旋回空気流の流路断面積を絞って流速を向上させる目的で設けられている。流路制限部材16により上部筐体4A内には滑らかな壁面を有するリング状の旋回空気流移動空間(洗浄媒体の飛翔空間)が形成されている。
上部筐体4Aの形状によっては、流路制限部材16の中心軸と上部筐体4Aの中心軸を必ずしも共通にする必要はなく、リング状の空間が確保できていれば偏芯していても良い。
【0023】
上部筐体4Aの側面の一部には、旋回空気流で飛翔する洗浄媒体5を洗浄対象物に接触ないし衝突させるための開口部18が形成されている。
上部筐体4Aは直径に対して高さが極めて小さい円筒形状であり、その高さを形成する側面の一部に開口部18を設けることにより、筐体4全体としては、図16(b)に示すように、開口部18以外の外周部分が洗浄対象物20から大きく逃げる(離れる)レイアウトとなり、洗浄対象物20に対する局所的当接、換言すればピンポイントクリーニングの自由度が高められている。
開口部18は、上部筐体4Aの側面を円筒軸に平行な平断面により切断した形状であり、円筒軸と直交する方向から見て矩形形状をなしている。
【0024】
上部筐体4Aの側面には空気流入口22が形成されており、空気流入口22には、旋回空気流発生手段で且つ通気路としてのインレット24が上部筐体4Aの外方から接続されて上部筐体4Aに一体に固定されている。
インレット24は分離板14に略平行に設定されており、その通気方向は、上部筐体4Aの半径方向に対して傾き、その通気路中心の延長線が開口部18に達するように位置している。
インレット24は、上部筐体4Aの高さ方向に延びる幅を有している。インレット24は上部筐体4Aの高さよりも径又は幅が小さいものを1つ配置してもよく、図2に示したように単体のインレットを高さ方向に複数配置する構成としてもよい。
図16に示すように、開口部18が洗浄対象物20に当接して塞がれると、筐体4内が閉空間としてなり、インレット24から外気が高速で流入し、この高速気流は洗浄媒体5を開口部18へ向けて加速させるとともに旋回気流としての旋回空気流30を生成する。
閉空間が形成された時に生じる旋回空気流は、分離板14上に吸着した洗浄媒体を吹き払い、再飛翔させる効果を有する。
【0025】
開口部18は、開放されたときに、空気流入口22における内圧を、大気圧もしくはその近傍にするために十分な大きさの面積を備える。また、空気流入口22も、開口部18の開放時に大気圧もしくはその近傍になりやすい位置に配置される。
このような構成を備えることにより、乾式クリーニング装置2を洗浄対象物に当てていない間は、空気流入口22が大気圧に近づくことによって、外部との差圧が低下し、その結果流入する気流が劇的に低減する。一方、開口部18から流入する気流は多くなるため、洗浄媒体5が筐体4内から漏れ出ることを防ぐことができる。
また、開口部18が開放されている状態では、閉塞されている場合に比べて流入する気流の総量が2〜3倍になるため、とくに薄片状の洗浄媒体では多孔手段上に吸着されるため、再飛翔せず筐体の外に漏れることがない。これを開口部開放時における洗浄媒体吸着効果という。
【0026】
洗浄媒体5は、薄片状の洗浄片の集合であるが、ここでは薄片状の洗浄片単体としての意味でも用いている。
薄片状の洗浄媒体とは面積が100mm以下の薄片である。また、洗浄媒体の材質はポリカーボネイト、ポリエチレンテレフタラート、アクリル、セルロース樹脂などの耐久性のある素材からなるフィルムであり、厚みは0.02mm以上0.2mm以下である。
但し、洗浄対象物によっては洗浄媒体の厚みやサイズや材質を変えることが効果的な場合もあり、これらの洗浄媒体を使用する場合も本発明の範囲に含まれるため、前記洗浄媒体条件にはとらわれないものとする。
洗浄媒体の材質に関しては、樹脂だけにとどまらず、紙、布などの薄片や、あるいは、雲母などの鉱物、セラミックやガラス、金属箔であっても、薄く軽量で飛翔しやすい形状にすることで使用することができる。
【0027】
上部筐体4Aのリング状の内部空間26は、旋回空気流によって洗浄媒体5を飛翔させて開口部18に対向する洗浄対象物20に接触させる機能を担う空間である。
流路制限部材16の内部空間34は、旋回空気流が作用しない空間である。
【0028】
以上のように構成される乾式クリーニング装置2による洗浄動作(以下、クリーニング動作という)を、図17を参照して説明する。なお、図17では、部材の厚み等を省略し、分かり易くするために静空間としての内部空間34をハッチングで表示している。
図17(b)は、開口部18を洗浄対象物20から離して開口部18を開放し吸気を行っている状態を、図17(a)は、開口部18を洗浄対象物20に当てて閉塞した状態を示している。
クリーニング動作に先立って、洗浄媒体5を筐体4内に供給する。筐体4内に供給された洗浄媒体5は、図17(b)下図に示すように、分離板14に吸い付けられて筐体4内に保持される。
筐体4内は吸気により負圧状態となっているので、筐体外部の空気がインレット24を通して筐体4内に流入するが、このときのインレット24内の流れは流速・流量ともに小さいので、筐体4内に発生する旋回空気流30は洗浄媒体5を飛翔させる強さには至らない。
【0029】
筐体4内に洗浄媒体5が供給・保持されたら、図17(a)に示すように、開口部18を洗浄対象物20の表面のクリーニングすべき部位に当てて閉塞状態にする。
開口部18が塞がれると、開口部18からの吸気が止まるので、筐体4内の負圧は一気に増大し、インレット24を通じて吸い込まれる空気量・流速ともに増大し、インレット24内で整流され、インレット出口(空気流入口22)から筐体4内に高速空気流(以下、「第1の気流」ともいう)となって吹き出す。
吹き出した空気流は、分離板14上に保持されている洗浄媒体5を開口部18に対向する洗浄対象物20の表面に向けて飛翔させる。
上記空気流は、旋回空気流30となって、筐体4の内壁に沿って円環状に流れつつ、一部は分離板14の穴を通って吸気手段6により吸気される。
このように筐体4内を円環状に流れた旋回空気流30がインレット24の出口部に戻ると、インレット24から入り込む空気流が旋回空気流30に合流しつつ加速する。このようにして筐体4内に安定した旋回空気流30が形成される。
【0030】
洗浄媒体5は、この旋回空気流により筐体4内で旋回し、洗浄対象物20の表面に繰り返し衝突する。この衝突による衝撃で、洗浄対象物20の表面から汚れが微小粒状あるいは粉状となって分離する。
分離した汚れは、分離板14の穴を通って吸気手段6により筐体4の外部へ排出される。
筐体4内に形成される旋回空気流30は、その旋回軸が、分離板14の表面に直交しており、旋回空気流30は分離板14の表面に平行方向の気流となる。
このため、旋回空気流30は分離板表面に吸い着けられた洗浄媒体5に、横方向から吹き付けて洗浄媒体5と分離板14の間に入り込み、分離板14に吸い付けられている洗浄媒体5を分離板14から引き剥がして再度飛翔させる効果が生じる。
また、開口部18が塞がれて上部筐体4A内の負圧が増大して、下部筐体4B内の負圧に近くなるため、洗浄媒体5を分離板14の表面に吸い付ける力も低下して、洗浄媒体5の飛翔がより容易になる効果が生じる。
旋回空気流30は、一定の方向に気流が加速されるため高速の気流が生成しやすく、洗浄媒体5の高速飛翔運動も容易となる。高速で旋回移動する洗浄媒体5は、分離板14に吸い付けられにくく、洗浄媒体5に付着した汚れが、遠心力により洗浄媒体5から分離され易い。
【0031】
図18に上述した乾式クリーニング装置2によるクリーニングの実際的な例を示す。
洗浄対象物は前述したフローはんだ槽工程で用いられるディップパレットであり、符号100で示す。
ディップパレット100には、マスク開口部101、102、103が開口しており、これらマスク開口部の穴周辺にフラックスFLが堆積・固化している。この堆積・固化したフラックスFLが除去すべき汚れである。
図18に示すように、下部筐体4Bの根元部(吸気口8部位)を手HDで握り、吸気状態で、筐体4の開口部18を被クリーニング部位に押し当てる。
開口部18が被クリーニング部位に押し当てられる以前は、筐体4内は吸気され、洗浄媒体5は分離板14に吸い付けられているので、開口部18は下方を向いているものの、筐体4内から洗浄媒体5が外部へ漏れることは無い。
勿論、開口部18が被クリーニング部位に押し当てられた以後は、筐体内が気密状態となり、洗浄媒体の漏れ出しはない。
【0032】
開口部18を被クリーニング部位に押し当てると、インレット24による流入気流が急増し、筐体4内に強い旋回空気流30を発生させ、分離板14に吸い付けられた洗浄媒体5を飛翔させ、ディップパレット100の被クリーニング部位に付着固化したフラックスFLに衝突させてフラックスFLを除去する。
クリーニング作業者は、上述の如く下部筐体4Bの根元を手HDに持ち、ディップパレット100に対して移動させて、被クリーニング部位を順次移動させ、付着・固化したフラックスFLを全て除去することができる。
図18の状態では、ディップパレット100のマスク開口部101の周辺部がクリーニングされ、マスク開口部102、103の周辺部がクリーニング途上である。
被クリーニング部位に対して開口部を移動させる時に被クリーニング部位から開口部18が離されても、前述の洗浄媒体吸着効果により、洗浄媒体5が筐体内から漏れ出さないため、洗浄媒体数が維持され、洗浄媒体量の減少によるクリーニング性能の低下は生じない。
【0033】
洗浄媒体5は、繰り返し使用される間にクリーニング部位に対する衝突による衝撃により次第に破壊され、クリーニング部位のディップパレット100から除去したフラックス(汚れ)と共に、吸引装置12に吸引回収されるため、乾式クリーニング装置を長時間使用していると、筐体内に保持された洗浄媒体の量が減少する。
このような場合は、新しい洗浄媒体群を筐体4内に補給する。
【0034】
図1乃至図3に基づいて、本発明の特徴部分(図16乃至図18では不図示)についての第1の実施形態を説明する。なお、上記基本構成と同一部分は同一符号で示し、要部のみ説明する(以下の他の実施形態において同じ)。
図2に示すように、本実施形態における吸気口としてのインレット24は、筐体内に第1の気流を流入させる本来のインレット機能を有するインレット用開口24Aと、第1の気流とは流量・流速が異なる第2の気流を筐体内に噴射させるための噴射口としての気流噴射口24Bとがそれぞれ複数一体に形成されている。
図1に示すようにインレット用開口24Aと気流噴射口24Bは隔壁24Cを介して区画されており、各気流噴射口24Bにはノズル50が挿入されている。
ノズル50は、フレキシブルな圧縮空気供給チューブ52で圧縮空気供給源としてのコンプレッサ54に接続されている。ノズル50とコンプレッサ54との間には、手動で開閉されるバルブ56が設けられている。
図1では、インレット用開口24Aに対して、気流噴射口24Bが旋回空気流の旋回方向上流側に配置されているが、逆に気流噴射口24Bが下流側に配置されていても同様の効果を得ることができる。
【0035】
ノズル50は、内径2.5mm、外径4mmの大きさであり、気流噴射口に差し込んで4本並んだ構成となっている。インレット用開口24Aの開口断面形状は6×4(mm)の長方形であり、全体として4つ並んだ構成となっている。
したがって、第1の気流の流路断面積は、24×4=96mm、第2の気流の流路断面積は、(2.5÷2)×3.14×4≒19.6mmとなる。
【0036】
本装置の使用方法を説明する。
まず、吸引装置12を稼働させて洗浄媒体を筐体内に取り込み、洗浄対象物20で開口部18を塞いでインレット用開口24Aからの取り込み気流(第1の気流Ar1)により旋回気流30を発生させる点は従来と同様である。
本実施形態では、さらに、バルブ56を開き圧縮空気を開口部18に向けて噴射する。
気流噴射口24Bから噴射される第2の気流Ar2(圧縮気流)は、開口部18の洗浄対象物20に突き当たる飛翔軌跡と略平行に噴射される。換言すれば、開口部18に向く旋回空気流30の接線方向と略平行に噴射される。
第2の気流Ar2の供給流量は少なくとも吸引装置12の吸引量以下で、なおかつ流速が第1の気流よりも大きいことが望ましい。このような構成により、旋回空気流30によって飛翔した薄片状の洗浄媒体5が、さらに圧縮空気の噴射によって加速され、開口部18を通って洗浄対象物20の粘弾性汚れ58に衝突する。
第2の気流Ar2による流速は、旋回空気流30の加速にも寄与する。
【0037】
洗浄媒体5は洗浄対象物に衝突した後、旋回空気流30によって筐体内を循環し、再加速されて繰り返し洗浄対象物に衝突する。本実施形態の構成では第2の気流Ar2は第1の気流Ar1と同方向に噴射されるので、旋回空気流30自体も、圧縮空気である第2の気流Ar2によってより早く旋回し、洗浄媒体の循環速度が向上する。
このため、衝突速度が上がるとともに単位時間あたりの洗浄媒体衝突数も向上するため、洗浄能力が大幅に向上する。
本装置の特徴は圧縮空気(第2の気流Ar2)による加速と、取り込み気流(第1の気流Ar1)による旋回空気流を併用する点にある。圧縮空気を用いた気流は、オリフィスを絞ることで早い流速を得ることはできるが、流量を大きくすることは限界があり、洗浄媒体を飛翔させる十分強い旋回空気流を生成させるには不向きである。
一方、筐体内の負圧による取り込み気流はその逆で、流速は圧縮空気ほど早くはないが、大きな流量を得ることができ、強い旋回空気流を生成させやすい。
【0038】
したがって、本装置では、取り込み気流から生まれる旋回空気流30によって洗浄媒体5を飛翔させ、圧縮空気の噴射により洗浄媒体5を加速するものである。
このため、圧縮空気による気流の噴射速度は、旋回空気流の速度以上であるものとする。ここで、「旋回空気流の速度」とは、インレット24と開口部18の間の領域を除いた、筐体内の流路における流速の平均値と定義する。
筐体内の流路が回転体形状であれば、インレット24からの取り込み気流と旋回空気流が合成されるインレット24と開口部18の間の領域以外では、流速はほぼ一定の値になることが観測されている。
洗浄が終了したら、まずバルブ56を閉じて圧縮空気の供給を停止し、しかる後に吸引装置12を稼働させたまま、開口部18を洗浄対象物20から引き離す。洗浄媒体5の飛翔・吸着効果により、洗浄媒体5は漏れたり落下したりせずに筐体内の分離板14上に保持される。
【0039】
本実施形態では、圧縮空気流量(第2の気流Ar2の流量)が300l/min、吸引装置12による吸引流量が950l/minであった。流速は、圧縮空気供給チューブ52及び吸引ホース10に気流流量計を接続して計測した。したがって、外気からの取り込み流量(第1の気流Ar1の流量)は、650l/minである。
流路断面積と流量より、気流の流速はインレット用開口24Aの内部で約113m/s(第1の気流Ar1)、圧縮空気流の噴出口付近の噴出速度は約250m/s(第2の気流Ar2)と計算できる。噴出後は、周りの空気を引き込んで拡散し、また多くの乱流を発生させるため、噴出口から離れた位置の流速を理論的に求めるのは困難であるが、一般的には減速する。
【0040】
この条件で洗浄媒体をクリーニング筐体内で飛翔させたところ、樹脂製の電子複写機外装に残留した粘着材を約30秒で除去することが可能になり、効果が確認された。
高速度カメラによる計測によると、洗浄媒体5は圧縮空気供給がない状態では20〜25m/sの速度で洗浄対象物20に衝突していることが確認された。
一方、圧縮空気(第2の気流Ar2)を導入した場合は、洗浄媒体5は60〜75m/sで衝突することが確認された。すなわち、第2の気流Ar2を導入することにより、洗浄媒体5の飛翔速度を約3倍向上させることができる。
薄片状の洗浄媒体としては、本実施形態では厚み0.1mmで、鉛筆硬度がH、耐折性が24のTACフィルムを用いた。特許文献3に記載されているように、耐折性が45以下なことにより、洗浄媒体が厚みを維持したまま折れて新たなエッジが形成されるため、連続で使用しても汚れを削る能力が低下しない。
【0041】
第2の気流を導入することによる本発明の洗浄効果の確認例を図4乃至図7に写真画像として示す。図4〜図6は今までの方式では除去できなかった粘着性の洗浄対象物の除去が可能になった例、図7は洗浄時間を短縮できた例である。
図4は、ポリイミド製ベルトにコーティングされたゴム皮膜を洗浄対象物とした例である。
第1の気流のみではこの汚れは除去できなかったが、第2の気流を導入する構成では、約20秒でゴム皮膜が除去され、下地(ベルト)が露出した。
図5は、金属部品に塗布された塗膜を洗浄対象物とした例である。第1の気流のみではこの汚れは除去できなかったが、第2の気流を導入する構成では、約20〜30秒で塗膜を除去できた。
図6は、ABS製コピー機外装カバーに付着した紙基材シールを洗浄対象物とした例である。第1の気流のみではこの汚れは除去できなかったが、第2の気流を導入する構成では、1箇所(開口部当接箇所)において、約20秒で紙デカールを分離できた。
図7は、長さ30mmの金属製のクリーニングローラに熱融着した、厚みが約1mmの固着トナーを洗浄対象物とした例である。図7(上)は初期の状態である。
従来の第1の気流のみを使用する方法では、全体を除去するのに30分程度の時間を要し、しかも完全に除去できず一部の領域に固着が残留していた。
図7(下)に示すように、第2の気流を導入する構成では、約10分でローラ表面全体の除去ができた。
【0042】
第1と第2の気流の条件に応じた洗浄結果を表1に示す。評価結果は、○が異物の洗浄が可能であることを示す。◎は○よりも短時間で洗浄が完了することを示す。逆に△は洗浄能力はあるが、異物の除去速度が遅く実用的でないことを示す。×はまったく洗浄能力がないことを示す評価である。
【0043】
【表1】

【0044】
条件(2)は第1の気流のみを使用した場合であるが、第2の気流を噴射する圧縮空気供給チューブをインレットから引き抜いて稼働させたため、流速はほぼ同一であるが流量が増している。
一方、(3)の条件では、第2の気流のみを稼働させるために、圧縮空気供給チューブ以外のインレットをアルミテープで完全に塞いで、筐体内の負圧による流入である第1の気流を0にして稼働させている。
その結果、第1の気流と第2の気流を使用した場合は、固着フラックスに対してはより高速で除去可能になり、従来手法である第1もしくは第2の気流単独では十分に除去できなかった粘着材も除去できるようになった。
噴射気流として圧縮空気気流のみで旋回気流を発生させて、吸引なしで薄片状洗浄媒体を飛翔させる場合と、本発明の違いを述べると、圧縮空気による気流のみで旋回気流を発生させる場合は筐体内部が陽圧になりやすく、薄片状洗浄媒体が開口部の境目から漏れやすくなるという問題点がある。
本発明の構成では吸引により筐体内を負圧に保っているため、洗浄媒体は漏れにくい。さらに、圧縮空気による気流のみを筐体に供給する場合、一般的に噴射気流は、噴射口径を絞ることにより流速を早くすることができるが、それに応じて流量が少なくなる。少ない流量の気流ではすぐにエネルギーが減衰してしまい、噴射口径に比べて圧倒的に大きい広い流路面積をもつ旋回気流流路に、強い旋回気流を生むことができない。
しかし負圧による吸引力によって、インレットから外気を取り込み、気流噴射口から流速が相対的に遅くても流量が大きい気流を噴射させることにより、強い旋回気流を生じさせることができる。
強い旋回気流で搬送された洗浄媒体は、高速の気流で再加速されて洗浄対象物に高速で衝突し、強い異物除去効果を発生させることができる。
【0045】
本実施形態では筐体に固定されたインレット24の気流噴射口24Bにノズル50を差し込む構成としたが、図3に示すように、インレット用開口24Aと気流噴射口24Bとを一体に備え、筐体に固定されたインレットフレーム60に着脱自在なアタッチメント62としてもよい。
アタッチメント62には鍔状のストッパ62aが形成されており、インレットフレーム60に差し込むだけで所定位置に固定することができる。
気流噴射口24Bの挿入径を変えたアタッチメント62を複数用意し、それぞれに対応した噴射口径のノズル50を差し込んで使用することにより、洗浄媒体5の種類や洗浄対象物20の種類に応じて、洗浄能力の最適化を図ることができる。
図3に二点鎖線で示すように、ノズル50を固定したアタッチメント62としてもよく、気流噴射口24B自体を、圧縮空気供給チューブ52の接続口を有するノズルとして形成してもよい。
また、気流噴射口24Bを有しないアタッチメント62を用意することにより、圧縮空気の使用の有無を容易に切り替えることができる。
【0046】
本実施形態ではバルブ56が開状態と閉状態の2段階であるものとしたが、バルブに流量調節手段を備え、多段階で圧縮空気噴射量を制御し、洗浄性能もしくは洗浄対象物母材へのダメージを調整できるようにしてもよい。バルブによる流量調整は、ノズル50での噴出流速の調整を意味する。
圧縮空気の流量としては、上記のように筐体内から吸引装置12によって吸引できる吸気量以下である必要がある。吸気量以上の空気を筐体内に導入すると、吸引装置12が空気を吸引しきれずに筐体内が大気圧もしくは陽圧になる。すなわち、吸引装置12による筐体内の負圧状態が破れる。筐体内が陽圧である場合は、筐体が吸い付かないため、開口部18と洗浄対象物20を密着させることが困難になる。
また、陽圧になると、開口部18と洗浄対象物20の間から内容物を押し出す力が生じるため、そこに洗浄媒体5が入り込みやすい。薄片状の洗浄媒体5は楔状に挟まり、開口部18を覆い隠して洗浄の妨害をしたり、洗浄媒体5の漏れを引き起こすために望ましくない。
吸気量は吸引装置12の吸引力および、分離板14の圧損によって決定される。
また、圧縮空気による噴射口付近の流速は、吸引によって生じた旋回空気流の速度以上であることが望ましい。これは、旋回空気流の速度以下では洗浄媒体を加速することができないためである。
【0047】
図8及び図9に第2の実施形態を示す。
本実施形態では、気流噴射口をインレットとは異なる位置に配置したことを特徴とする。
上記のように、本発明の基本構成では、インレット24から供給される「流量は多いが流速は比較的低い気流」によって、筐体内に旋回気流を生じさせ、洗浄媒体を飛翔させる。
洗浄媒体の加速は、気流噴射口のノズルから噴射される圧縮気流が行うため、インレットの方向は必ずしもクリーニング筐体の開口部を向いている必要はない。
この観点から、本実施形態では、外気取り込み専用としてのインレット24による気流方向を、洗浄対象物20の面に対して略垂直方向とし、ノズルを兼ねる気流噴射口64を、筐体外周面のインレット24とは異なる位置に配置してその気流を開口部に向くようにしている。
旋回空気流30によって飛翔した薄片状の洗浄媒体5は、気流噴射口64から開口部18方向に噴射される高速の圧縮気流によって加速され、開口部を通過して洗浄対象物に高速で衝突し、洗浄対象物の表面に付着もしくは固着した異物(粘弾性汚れを含む)を除去する。
【0048】
図8では気流噴射口64を筐体外周面に配置したが、旋回空気流30によって飛翔した洗浄媒体5を開口部18へ向けて加速することができればその位置は限定されない。
例えば図9に示すように、流路制限部材16内に開口部18へ向けて圧縮空気を噴射するように設けても、洗浄媒体5の加速をアシストすることができる。
【0049】
図10及び図11に第3の実施形態を示す。
上記実施形態では、バルブ56の開閉はオペレータが手動で開閉する方式であるが、洗浄作業が終了して洗浄対象物20から開口部18を離す前にバルブ56を閉め忘れした場合には、引き続いて気流噴射口から圧縮空気が供給されているため、吸引装置12による分離板14への洗浄媒体5の吸着が阻害され、開口部18から筐体外方へ飛散する懸念がある。
本実施形態では、この問題を解消することを目的としている。
上部筐体4Aの外周面における開口部18の周囲には、矩形状に厚肉部4A−3が形成されており、厚肉部4A−3の下面側には、中空で変形量の大きいシール部材で且つ可変部材としてのゴム製のパッキン66が全周に亘って固定されている。
パッキン66の内部における厚肉部4A−3の下面の少なくとも一箇所には、圧縮されると通電する接触センサ68が設けられている。
接触センサ68は、気流噴射口と圧縮空気供給源54との間に上記手動方式のバルブ56に代えて配置された電磁弁70を制御する制御手段72に接続されている。
【0050】
図10(a)に示すように、パッキン66が洗浄対象物20から離れている場合、あるいは洗浄対象物20の表面に軽く接触している状態では接触センサ68はオフの状態にあり、電磁弁70は開かれない。
開口部18が洗浄対象物20に押し付けられると、図10(b)に示すように、パッキン66が変形して洗浄対象物20の表面と開口部18との間が気密状態にシールされ、洗浄開始に良好な状態となる。
パッキン66の変形に伴って接触センサ68がオンし、制御手段72によって電磁弁70が開かれる。パッキン66が軽めに接触した段階で吸引装置12による筐体内負圧化作用が生じるので、接触センサ68がオンする前に旋回空気流30が生じる。
旋回空気流30の発生から僅かな時間遅れて接触センサ68がオンし、圧縮空気流(第2の気流Ar2)が噴射される。これにより、旋回空気流30が生じて洗浄媒体5が飛翔する前に無駄な圧縮空気流が噴射されることが防止される。
【0051】
洗浄作業が終了し、洗浄対象物20から開口部18を離す段階では、上記とは逆にパッキン66によるシール状態が完全に解除される前に接触センサ68がオフして圧縮空気流の噴射が遮断される。
このため、開口部18を洗浄対象物20から離したときに圧縮空気流の噴射によって洗浄媒体5が開口部18から筐体外に漏れることが防止される。
このように圧縮空気流の噴射の開閉を自動にすることにより、作業者の操作忘れを確実に防止できる。
本実施形態では、長方形形状の開口部18の4辺にそれぞれ接触センサ68を配置しており、全ての接触センサ68が通電したときだけ、電磁弁70を開放して圧縮空気を供給する制御を行うようにしている。
このようにすれば、筐体の持ち方によって一部分がシールされていない状態で圧縮空気流が噴射されて洗浄媒体5が漏れる懸念を高精度に解消することができる。
本実施形態によれば、洗浄対象物20に対する開口部18のシール機能と、圧縮空気流噴射の最適なオン・オフを同時に実現することができる。
【0052】
図11は別の洗浄媒体漏れ防止構成を示している。
開口部18の下面には、厚肉部4A−3に固定される固定筒74と、可動筒76とからなる可変部材としての洗浄媒体漏出防止手段80が取り付けられている。
固定筒74と可動筒76との間には図示しない付勢部材が配置されており、可動筒76は外力が作用しない状態では下方に向けて付勢力で突出する。
固定筒74の側面には外気流入孔74aが多数形成されており、可動筒76の下面(先端面)が洗浄対象物20に当てられて筐体が押圧されると、可動筒76内に固定筒74が進入して外気流入孔74aが塞がれ、開口部18はシールされた状態となる。外気流入孔74aは洗浄媒体5を通過させない大きさに設定されている。
可動筒76の下端縁にはマイクロスイッチ82が配置されており、洗浄媒体漏出防止手段80が圧縮されるとオンして圧縮空気流が噴出される。
【0053】
洗浄が終了して筐体が移動すると、可動筒76と固定筒74とが離れて行き、接触センサ68がオフして圧縮空気流の噴出が停止される。
本実施形態では、固定筒74の移動に伴って外気流入孔74aから開口部18内に外部気流が入りこむため、開口部18近傍に存在する「負圧による吸引力の影響を受けにくい」洗浄媒体5を筐体内に押し込む作用があり、洗浄終了後の開口部18からの洗浄媒体5の漏れ防止機能をより一層高めることができる。
可動筒76の下面にはシール機能を高めるために軟質材を設けることが望ましい。
【0054】
図12に第4の実施形態を示す。
吸引装置12の不測の吸引力低下など、種々の原因により吸引力が低下して筐体内の負圧が洗浄媒体の漏れ防止に必要なレベルを下回った場合には、第2の気流の影響が顕在して洗浄媒体の漏れが懸念される。
本実施形態ではこれを防止することを目的としている。
図12に示すように、筐体4には、筐体内部の気圧を検知する気圧検知手段としての微差圧センサ40が設けられ、ノズル50とコンプレッサ54との間には噴射気流量調整手段としての電磁弁70が設けられている。微差圧センサ40と電磁弁70は制御手段75に接続されている。
微差圧センサ40は大気圧と筐体内部の気圧の差を電流値に変換して制御手段75へ出力する。制御手段75は電流値を観測し、差圧が一定のスレッシュを下回って0に近づくと、電磁弁70を絞る方向に制御して圧縮空気(第2の気流)の流入量を減らす。このようなフィードバック制御により、筐体内を一定値以下の負圧に保つことができる。
筐体内の負圧をセンサでモニタすることにより、吸引力が低下して、漏れ防止に必要な負圧が出ていないときは、噴射空気(第2の気流)を停止、もしくは供給量を下げる制御を行うことができる。これにより、より確実に洗浄媒体の漏れを防止できる。
【0055】
図13に第5の実施形態を示す。
本実施形態では、図2に示す構成と同様に、第1の気流を生じさせる吸気口と、第2の気流を生じさせる噴射口とがインレット24に一体に形成されている。
第2の気流を生じさせる気流噴射口は、圧縮空気供給源54にウレタンチューブ52で接続された4つの噴射ノズル55によって形成されている。
各噴射ノズル55A、55B、55C、55Dはそれぞれ、インレット用開口24A、24B、24C、24D内に固定されている。
噴射ノズルと圧縮空気源との間には独立して開閉制御することができる電磁弁70をそれぞれの噴射ノズルごとに備えている。電磁弁70は図示されない制御手段に接続されており、任意の噴射ノズルの噴射を停止・開始させることができるようになっている。
このような構成において、4つある噴射ノズルのうち、一つの噴射ノズルを停止し、他の3つの噴射ノズルを稼働させ、停止する噴射ノズルを定期的に切り替える制御を行う。
すると、噴射が停止した領域においては筐体内での気流速度が低下するため、噴射中の領域と比較して相対的によどみ状態になり、気流速度が速い領域で飛翔していた洗浄媒体が吹き寄せられて集まる。
定期的に噴射を停止するノズルを切り替えることにより、洗浄媒体の集まる位置が切り替えに追随して変動する。このような現象を利用することで、筐体が横方向に長い形状であっても、特定の位置に洗浄媒体が滞留して、洗浄ムラが発生することを防ぐことができる。
すなわち、噴射気流が作用する領域を変動させることにより、洗浄媒体を散らして偏りを防ぎ、洗浄品質のムラを防ぐ効果がある。筐体を旋回流軸方向に幅を広げた際に、特に有効である。
【0056】
図14及び図15に第6の実施形態(乾式クリーニングシステム)を示す。
本実施形態では、ローラに固着したトナーの洗浄装置への応用例を示す。電子印刷機内では多数のローラが使用されるが、たとえば定着ユニット内のローラでは熱と圧力によりトナーが非常に硬く固着して、従来の薄片状洗浄媒体を用いた洗浄では除去しきれないという問題があった。
本実施形態では、固着したトナーを除去し、ローラ部品を再利用することができる。
本実施形態に係る乾式クリーニングシステムは、図示しないシーケンサによって駆動される洗浄領域変更手段としてのリニアモータ85と、洗浄対象物としてのローラ86を回転させるモータ87と、電磁弁70と、吸引装置12と、乾式クリーニング筐体4と、図示しない圧縮空気供給源等を備えている。
乾式クリーニング筐体4は、気流噴射口を一体に備えたインレット24を有し、リニアモータ85によって駆動されるブラケット89上に保持されている。
乾式クリーニング筐体4の開口部はローラ86の形状に合わせて曲率がつけられた加工をされており、さらにクリーニング筐体内を負圧にするために、気密カバー90がローラを挟み込むように配置されている。
筐体内に洗浄媒体を投入し、吸引装置12を稼働させて、電磁弁70を開き、圧縮空気流を開口部に向けて噴射することにより、ローラの表面を洗浄する。
さらにクリーニング筐体4をローラ86の軸方向に沿って直線運動させ、ローラ86はモータ87によって回転させることにより、ローラ全面を洗浄することができる。図14において、符号92は保持手段としてのチャックを示している。
図15に示すように、気密カバー90は筐体外周面に固定された支持軸94に回動自在(開閉自在)に支持されている。
【0057】
上記各実施形態では、第1の気流をアシストして洗浄媒体の旋回飛翔速度を増加させる気流として第2の気流(圧縮空気流)のみを例示したが、第2の気流に加え、さらに第2の気流とは異なる気流を付加して洗浄媒体の旋回飛翔速度を増加させるようにしてもよい。
【0058】
洗浄媒体の材質特性や大きさは洗浄対象物の汚れの種類に応じて適宜選択されるが、フラックス等の膜状の付着物を除去するのに適した洗浄媒体について説明する。
図19は、薄片状の洗浄媒体5の衝突時のパターンを示す模式図である。
塑性変形し易い洗浄媒体の場合、図19(c)で示されるように洗浄媒体の端部の変形が大きくなり、接触面積の増大や衝撃力の緩和が起こる。この結果、衝突時の端部における接触力が分散されてしまい、洗浄能力が低下してしまう。そのため膜状の付着物に対する食い込み量が低下し、洗浄装置の洗浄効率が低下してしまう。
延性破壊する洗浄媒体の場合も、図19(d)で示されるように洗浄媒体の破面端部の塑性変形が大きくなり、接触面積の増大や衝撃力の緩和が起こる。この結果、衝突時の端部における接触力が分散されてしまい、洗浄能力が低下してしまう。そのため、膜状の付着物に対する食い込み量が低下し、洗浄装置の洗浄効率が低下してしまう。
これに対し、脆性破壊する洗浄媒体では洗浄媒体の破面端部の塑性変形が小さいため、端部における接触力の分散が生じにくい。
また、洗浄媒体の端部に膜状の付着物が付着しても脆性破壊を繰り返すことにより、新たな端部を形成し続けることが可能であり、洗浄効率が低下することはない。
【0059】
脆性材料としては、例えばガラス片、セラミック片、アクリル樹脂、ポリスチレン、又はポリ乳酸等の樹脂フィルム片等が挙げられる。
洗浄媒体に折り曲げられる力が繰り返し加わることで洗浄媒体が破壊される。本発明では、洗浄媒体が脆性であるか否かを耐折性によって定義している。
耐折性52以下の脆性材料である洗浄媒体を用いると、洗浄媒体が繰り返し衝突することによって発生するバリが洗浄媒体に残留せずに折れて分離されて排出される(図19(b)参照)。バリが残留しないため洗浄媒体のエッジが維持される。
さらに、洗浄媒体が耐折性10未満の脆性材料である場合、洗浄媒体はバリが発生する前に中央から折れて新しいエッジを生じさせる(図19(a)参照)。
これにより、洗浄媒体のエッジが維持される効果がある。洗浄媒体のエッジが維持されることにより洗浄媒体の衝突時の食い込み量が低下しないため、洗浄媒体の固着膜除去能力が径時劣化しないという効果がある。
【0060】
ここででの洗浄媒体の薄片状とは0.02mm以上0.2mm以下の厚みを備え、面積100mm以下のものと定義する。
鉛筆硬度とはJIS K−5600−5−4に準拠した手法で計測したものであって、評価した薄片状の洗浄媒体に傷、へこみが付かない最も硬い鉛筆の芯番のことを意味する。
また、耐折性とは、JIS P8115に準拠して計測したものであり、薄片状の洗浄媒体をR=0.38mmで135度に曲げる動作を繰り返し、破損にいたるまでの往復回数を意味する。
【0061】
[実施例]
ここではフラックスが付着した、ガラス繊維入りエポキシ樹脂製のパレットを洗浄対象物のサンプルとして使用した。パレットは、フローはんだ槽によるはんだ付け工程の際に、PCBの半田付けしない領域をマスクするために用いられている。このようなマスク治具は繰り返し使用されることによりフラックスが膜状に厚く堆積するため、定期的にフラックスを除去する必要がある。固着したフラックスの鉛筆硬度は2Bである。また膜厚は0.5〜1mmである。
洗浄装置は図1に示した乾式クリーニング筐体を備えた乾式クリーニング装置を用いた。クリーニング装置には、真空度20Kpaの吸引能力を備える吸引手段を使用し、フラックスを固着させたパレットを用意し、開口部面積45×60mmの領域を1サンプル単位として、3秒かけて洗浄した。洗浄媒体は各2gを使用した。使用した薄片状洗浄媒体と洗浄結果を表2に示した。
同表における判定記号は次の通りである。
×:ほとんど汚れが取れない。
△:一部洗浄残りがある。
○:ほぼきれいになっている。
◎:非常にきれいになっている。
−:洗浄媒体が消耗して、すべて洗浄槽内から排出されてしまう。
【0062】
各洗浄媒体の物性として、耐折性および鉛筆硬度を表2に示す。
表2の初期洗浄能力の判定結果より、洗浄媒体の鉛筆硬度がフラックスの鉛筆硬度2B以下であればほとんどフラックス汚れが取れない。これは、衝突した際に、膜状のフラックス汚れに洗浄媒体が食い込めないためである。
洗浄媒体は、気流によって飛翔し洗浄対象に繰り返し衝突する。衝突によって洗浄媒体にはダメージが蓄積され、破損または変形などの劣化をおこす。
また、各洗浄媒体の機械的物性(耐折性及び鉛筆硬度)の分布を図20に示す。
【0063】
表2及び図19に基づいて、洗浄媒体の劣化パターンを再度具体的に説明する。洗浄媒体の耐折性が10未満であるガラス、アクリル1(表中では丸数字で表示:以下同じ)、アクリル2、COC(ポリオレフィン)の場合、図19(a)に示したように衝突の衝撃によって、洗浄媒体の中心付近で破断する。このとき、破断面は新しいエッジとなりフラックスに食い込むため、固着除去能力は低下しない。
洗浄媒体の素材の耐折性が10以上52以下のTAC1、TAC2、PI2においては、図19(b)に示したように、中央付近では破断せず、衝突の衝撃でエッジにバリが発生し、そのバリだけが破断する。洗浄媒体の厚みが維持されるため、洗浄媒体がフラックスに食い込み、除去する効果が維持される。
洗浄媒体の素材の耐折性が65以上である場合、洗浄媒体は衝撃によって折れず、エッジ部分が塑性変形する。
図19(c)は、塑性変形してエッジが潰れて端部がだれる様子を図示しており、PI1がこのような挙動を示す。
図19(d)は、塑性変形によりエッジがカールする様子を図示しており、SUS、PS1、PS2、PE、PET、TPXがこのような挙動を示す。
図19(c)や図19(d)の例に示した洗浄媒体は、エッジが塑性変形することにより、エッジがだれ、衝突時の衝撃力が緩和されてしまうために、表2に示したように複数サンプル処理後に洗浄能力が大きく低下する。
これらの結果により、膜状に固着したフラックスの除去に対しては、まずフラックス以上の鉛筆硬度を備え、かつ耐折性が0以上52以下の脆性材料の洗浄媒体を用いると、良好な結果が長時間安定して得られることがわかる。
【0064】
本実施例に挙げた数値の根拠として、表2、表3に、各洗浄媒体の耐折性数値の範囲を示す。
表2、表3に示したように耐折性の平均値や最小値が0である薄片状洗浄媒体(ここでは、ガラス、COC、アクリル2)は、折れに対して極めて脆い素材であり、表2に示したように非常に短時間で消耗してしまうため、ランニングコストが高くなる。
また、良好な洗浄特性を示したPI2の最大耐折性は52である。
したがって、洗浄媒体の耐折性が1以上52以下であると、長時間良好な洗浄能力を維持できる。
また、図19(a)のような脆性破壊を示す洗浄媒体のうちで、最大の耐折性数値はアクリル1製洗浄媒体における9であった。したがって0以上9以下の耐折性数値を示す洗浄媒体は、図19(a)に示した脆性破壊が発生し、10以上52以下の洗浄媒体は図19(b)に示した脆性破壊が発生すると分類できる。
また、耐折性最小値が0を示したアクリル2製の洗浄媒体は、きわめて脆く、表2に示したように長時間の使用に耐えない。一方耐折性最小値が1であるアクリル1製の洗浄媒体は、表2に示したように長時間洗浄能力を維持することができた。
【0065】
【表2】

【0066】
【表3】

【0067】
表2に示した各洗浄媒体の耐折性平均値から、より確実にフラックス等の膜状の付着物を除去するには、膜状の付着物以上の鉛筆硬度を備え、且つ、2以上45以下の耐折特性を有している洗浄媒体を用いることが望ましい。
【符号の説明】
【0068】
5 洗浄媒体
6 吸気手段
8 吸気口
14 多孔手段としての分離板
16 流路制限部材
18 開口部
20 洗浄対象物
24 通気路としてのインレット
24B、64 気流噴射口
54 圧縮空気供給源
56 圧縮空気流量調整手段としてのバルブ
62 アタッチメント
68 スイッチとしての接触センサ
72 制御手段
Ar1 第1の気流
Ar2 第2の気流
【先行技術文献】
【特許文献】
【0069】
【特許文献1】特開平4−83567号公報
【特許文献2】特開昭60−188123号公報
【特許文献3】特開2010−279947号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗浄媒体を気流により飛翔させ、上記洗浄媒体を洗浄対象物に当てて洗浄対象物の洗浄を行う乾式クリーニング筐体において、
上記洗浄媒体を飛翔させる内部空間と、
上記洗浄対象物に当接して上記洗浄媒体を上記洗浄対象物に衝突させる開口部と、
外部からの空気を上記内部空間へ通す通気路と、
上記通気路を介して上記内部空間に導気された空気を吸引することにより上記内部空間に旋回気流からなる第1の気流を生じさせる吸気口と、
上記旋回気流により飛翔する上記洗浄媒体の速度を増加させる少なくとも第2の気流を生じさせる噴射口と、
上記洗浄対象物から除去された除去物を上記吸気口側へ通過させる多孔手段と、
を有していることを特徴とする乾式クリーニング筐体。
【請求項2】
請求項1に記載の乾式クリーニング筐体において、
第2の気流の流量は、上記内部空間の負圧状態を維持する流量以下であることを特徴とする乾式クリーニング筐体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の乾式クリーニング筐体において、
第2の気流は、上記洗浄媒体が上記旋回気流によって上記開口部の洗浄対象物に突き当たる飛翔軌跡と略平行に噴射されることを特徴とする乾式クリーニング筐体。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1つに記載の乾式クリーニング筐体において、
上記噴射口が上記通気路と一体に形成され、第2の気流が第1の気流と略平行に噴射されることを特徴とする乾式クリーニング筐体。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれか1つに記載の乾式クリーニング筐体において、
上記噴射口と上記通気路とが一体に形成され、筐体に対して着脱自在なアタッチメントとしてなることを特徴とする乾式クリーニング筐体。
【請求項6】
請求項1乃至3のいずれか1つに記載の乾式クリーニング筐体において、
上記噴射口が上記旋回気流の内周側に設けられていることを特徴とする乾式クリーニング筐体。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1つに記載の乾式クリーニング筐体と、上記吸気口に接続される吸引手段と、上記噴射口に接続される噴射気流供給源と、上記洗浄媒体とにより構成されることを特徴とする乾式クリーニング装置。
【請求項8】
請求項7に記載の乾式クリーニング装置において、
上記噴射気流供給源と上記噴射口との間に、第2の気流の流量を調整可能な噴射気流量調整手段を有していることを特徴とする乾式クリーニング装置。
【請求項9】
請求項8に記載の乾式クリーニング装置において、
筐体内部の気圧を検知する気圧検知手段と、筐体内部の気圧を一定値以下に維持するように上記噴射気流量調整手段を制御する制御手段とを有していることを特徴とする乾式クリーニング装置。
【請求項10】
請求項7乃至9のいずれか1つに記載の乾式クリーニング装置において、
上記洗浄対象物に対する筐体の押圧力を介してオン・オフするスイッチを有し、上記洗浄対象物に対する筐体の押圧力が作用しないときには上記スイッチによって上記噴射気流供給源による第2の気流の供給を遮断することを特徴とする乾式クリーニング装置。
【請求項11】
請求項10に記載の乾式クリーニング装置において、
上記開口部に設けられ、上記洗浄対象物に対する筐体の押圧力で変形ないし変位する可変部材を有し、該可変部材の変形ないし変位動作に伴って上記スイッチが動作することを特徴とする乾式クリーニング装置。
【請求項12】
請求項7乃至11のいずれか1つに記載の乾式クリーニング装置において、
上記噴射口を複数備え、各噴射口を任意に開閉制御する制御手段を有することを特徴とする乾式クリーニング装置。
【請求項13】
請求項7乃至12のいずれか1つに記載の乾式クリーニング装置と、上記洗浄対象物を洗浄可能に保持する保持手段と、上記乾式クリーニング装置と上記保持手段のうち少なくとも一方を移動させて上記洗浄対象物の洗浄領域を変える洗浄領域変更手段とを有していることを特徴とする乾式クリーニングシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2012−187568(P2012−187568A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−226127(P2011−226127)
【出願日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】