説明

乾式現像パターンの形成方法

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、集積回路装置の製造過程で用いられるレジストパターンを乾式現像によって形成する方法に関し、特に、高解像性の乾式現像パターンの形成方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、IC,LSIなどの集積回路装置の製造には、加工すべき基板上にノボラック樹脂にキノンジアジド化合物を混合したポジ型ホトレジストなどの感放射線樹脂を塗布した上、集積回路装置の回路パターンに応じたパターン形状を形成するために、パターンマスクを介して水銀灯のg線(波長436nm)やi線(波長365nm)を用いて露光し、現像液にて現像するホトリソグラフィー法が用いられてきた。
【0003】しかし、近年では集積回路装置が高度に微細化し、基板上に形成されるべき回路パターンの寸法が1μm以下の領域に入っており、このような寸法領域では、従来のホトリソグラフィー法を使用しても、特に段差構造を有する基板が使用される場合、露光時の入射光の反射の影響や光学系における焦点深度の浅さなどの問題が発生し充分な解像が困難となる問題が発生する。
【0004】このような問題を解決するためには、特開昭61−107346号公報には、従来のホトリソグラフィー法と同様に、水銀灯のg線やi線を用いたりあるいは遠紫外線を用いて回路パターンを露光した後、例えば珪素化合物ガスによる処理によってレジスト層の露光部を選択的にシリル化した後に反応性プラズマ等を用いて異方性エッチングを行う方式が提案されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】上記特開昭61−107346号公報に記載されている方法は、露光部に対して珪素化合物ガスを選択的に拡散させたのち、レジストの官能基との反応によりこれらの露光部に選択的にシリル化層を固定するものである。しかしながら、この固定化されたシリル化層の形状は、露光による入射光の強度分布に影響されてしまう。すなわち、露光部では、ジアゾキノン部位が光反応を生じることで樹脂の珪素化合物ガス透過性が変化するが、その変化した割合の強度分布は入射光のエネルギー分布に比例したものとなる。よってこの露光部位が選択的にシリル化された場合、シリル化層の形状は、入射光のエネルギー分布に近似した形状をしめすことが判る。一方、乾式プラズマエッチング(乾式現像)においては、露光部でのシリル化層が酸化珪素に変化しエッチング工程中に残留することで、これらの部分を効率よく保護することができる。従ってエッチングによって形成されるレジストパターンの寸法はシリル化層の形状に影響される。しかも、この形成されたレジストパターンは以後の工程に大きな影響を与える。
【0006】しかも、形成されたパターン形状が変動した場合、その変動要因を把握することはかなり複雑であり、パターン形成に必要なプロセスパラメーターの設定が困難となる。また、パターン形状の変化の要因が乾式現像条件なのかその他プロセスパラメーターの変動が要因なのか確認することも困難である。
【0007】本発明の目的は、上記特開昭61−107346号公報に提案されている方法における珪素化合物ガスによる露光部の選択的シリル化によるエッチングマスク層の形成に際し、選択的シリル化層の形状を管理し、高解像度の乾式現像パターン形成方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明は、ジアゾキノンと結合させたフェノール系ポリマーを含む乾式現像用レジストを部分的にシリル化して乾式現像パターンを形成する方法において、前記シリル化されたレジストのシリコン含有領域の断面形状を、その表面における幅をL、表面からの最大の厚さをdとしたとき、前記Lとdが0.1≦d/L≦0.7の関係を満足するように形成することを特徴とする。
【0009】ここでd/L<0.1の場合、シリル化層が薄すぎて乾式現像中にシリル化層自体もエッチングされてしまうため正確なパターン形成が不可能となる。
【0010】一方、d/L>0.7の場合、シリル化層の深さに対して、シリル化層上端部のシリル化層が相対的に薄くなるためと考えられるが、乾式現像によってオーバーハング状のパターン形状となり垂直壁を持つパターン形成が不可能となる。
【0011】前記Lとdを0.1≦d/L≦0.7とするためには、シリル化層の形成に際して、横方向(L)および深さ方向(d)へのシリコンの拡散速度を制御することにより達成できる。即ち、横方向へのシリコンの拡散速度はレジストのプリベーク条件および露光後の加熱処理条件により制御できる。また深さ方向へのシリコンの拡散速度は、シリル化条件で制御することができる。従って、これらの条件を適宣選択することにより、0.1≦d/L≦0.7となるようにシリル化層形状を制御することができる。
【0012】なお、上記プリベーク条件としては、通常、温度50〜140℃、時間10秒〜10分間程度である。また露光後の加熱処理条件としては、温度90〜200℃、時間10秒〜10分程度である。さらにシリル化条件としては、通常、温度90〜200℃、時間10秒〜10分程度である。
【0013】本発明で使用するレジスト材料としては、ジアゾキノンと結合させたフェノール系ポリマー、好ましくはノボラック樹脂が使用でき、さらにこのフェノール系ポリマーを、アルキル基,アリール基またはハロゲン原子によって置換されていてもよいフェノール,ナフトールおよびそれらの誘導体と、ハロゲン原子で置換されていてもよい脂肪族または芳香族アルデヒドとの縮合物、好ましくは低級アルキル基で置換したフェノール誘導体と脂肪族アルデビドとの縮合物、フェノール基がアリール基、またはハロゲン原子で置換されていてもよいポリ(ビニルフェノール),ビニルフェノールとエチレン性不飽和化合物との共重合体等とを混合使用することができる。
【0014】本発明においては、上述したレジスト材料を酢酸エチル,プロピレングリコールモノエチルアセテートなどのエステル系溶媒、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶媒、トルエン、キシレンなどの芳香族系溶媒に溶解させてレジスト溶液とした後、スピンコート法などの通常の方法によりシリコンウェハーなどの半導体基板またはアルミニウムなどの金属基板上にレジスト溶液を塗布し、プリベーク処理によりレジスト膜を形成する。
【0015】その後、紫外線,遠紫外線,電子線,軟X線などの放射線を照射し、次いでシリル化剤で処理することにより、放射線照射部分中にシリル化剤を拡散させシイル化剤を固定化する。
【0016】次いで、この固定化したシリル化層をマスクとして、酸素プラズマなどを用いた乾式現像を行うことにより、レジストパターンを形成する。
【0017】シリル化剤としては、例えばテトラクロロシラン、トリメチルクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、メチルトリクロロシラン、トリメチルブロモシラン、トリメチルヨードシラン、トリフェニルクロロシラン、ヘキサメチルジシラザン、1,1,3,3−テトラメチルジシラザン、ヘプタメチルジシラザン、ヘキサフェニルジシラザン、1,3−ビス(クロロメチル)−1,1,3,3−テトラメチルジシラザン、N−トリメチルシリルイミダゾール、N−トリメチルシリルアセトアミド、N−トリメチルシリルジメチルアミン、N−トリメチルシリルジエチルアミン、ヘキサメチルシランジアミン、N,O−ビス(トリエチルシリル)アセトイミド、N,N′−ビス(トリメチルシリル)尿素、N,N′−ジフェニル−N−(トリメチルシリル)尿素等を挙げることができる。シリル化剤による感放射線性樹脂層の処理温度は、感放射線性樹脂層の組成と使用されるシリル化剤の種類および処理時間によって決められ、好ましくは0〜250℃の間で選択することができ、より好ましくは90〜200℃である。
【0018】
【作用】乾式現像(反応性イオンエッチング)後のレジストの断面形状は、現像前のシリル化層の断面形状に影響され、シリル化層を特定の断面形状にすることで、垂直壁を持ったレジストパターンを形成することが可能となる。シリル化層の観察法の一例を述べる。まずシリル化処理を実施した試料を劈開し、その劈開面に等方性の酸素プラズマを照射して、表面に露出しているシリコンを酸化シリコンに変化させ、電子顕微鏡で観察する。この際、酸素プラズマに接触させる際の条件、特にプラズマを発生させる高周波出力値、使用する酸素流量および処理時間を広範囲に変化させても、シリル化層の形状に変化が無いことが確認された。よって、上記方法によりシリル化層の形状の確認が可能であることがわかった。
【0019】電子顕微鏡観察で得られたシリル化層の断面形状の一例を図1に示す。基板1上に形成したレジスト2の表面におけるシリル化層3の幅をL、その最大深さ(中央部の深さ)をdとした時、d/Lの値が特定の範囲内にある断面形状を有するシリル化層が形成された場合にのみ、乾式現像後のレジストパターンが垂直壁を有する形状を示す。ここで、d/L値の測定方法について述べる。まず、シリル化層を形成した試料を劈開して縦断面を露出し、バレル型エッチング装置を用い、高周波出力100〜500w,酸素流量300〜500SCCM,処理時間1〜10分間の範囲で露出した断面を酸素プラズマに曝し、シリコンを酸化させる。上記範囲内であればシリル化層の形状に変化は無い。なお、シリル化層の幅Lは、シリル化層の両端においてシリル化層の厚みが0.01μm以下になる箇所をシリル化層の端部とした際の両端部間の長さである。
【0020】
【実施例】以下に実施例によって本発明を詳細に説明する。
【0021】実施例1レジスト材料として6−ジアゾ−5,6−ジヒドロ−5−オキソ−1−ナフタレンスルホン酸クロライドとノボラック樹脂(p−t−ブチルフェノールとホルムアルデヒドとの縮合物)との部分縮合生成物からなる樹脂を使用した。この樹脂を、プロピレングリコールモノエチルアセテートに溶解し30重量%溶液を調製した。スピンコーターを用い、この溶液を4000rpmの回転速度でシリコンウェハー上に回転塗布した。さらに、ホットプレート上で、120℃,90秒間のプリベークを行い、膜厚1.5μmのレジスト膜を得た。次に波長435nm,レンズ開口数(NA)=0.54の紫外線露光装置を用い750mJ/cm2 の露光量で所定のパターンを露光した。次に、露光後の加熱処理を150℃で3分間、300mmHgの減圧下で行い、その後、ヘキサメチルジシラザンの蒸気中で、150℃で1分間のシリル化処理を行った。次に、マグネトロン方式のエッチング装置を用い、高周波出力1.0kw,酸素流量70sccm,基板冷却温度−20℃の条件下で、反応性イオンエッチングによる乾式現像処理を行った。現像によって形成されたレジストパターンを、電子顕微鏡(SEM)で観察した結果、最小解像寸法0.4μmのライン アンド スペース パターンが正確に形成されていた。形成されたパターンの中から断面形状を0.6μmパターンについて測定したところ、パターン上部と下部の寸法比が1.0であり、パターン上部と下部との寸法差の無い垂直壁を有していることが判った。次に、乾式現像前の試料と同一条件で形成した試料を用意し、バレル型エッチング装置を用い、高周波出力500w,酸素流量500sccmの条件下で6分間のエッチング処理を行い、シリル化された部位を部分的に酸化シリコンに変化させ、SEM観察できるようにした。図1はSEM写真によるシリル化層の形状を模写した図である。シリル化層中央部の最高深さdと、シリル化層両端部の長さLの比は、d/L=0.19であった。なお、図1において、シリル化された部分3の幅は0.6μmより大きいが、乾式現像後は0.6μmのライン アンドスペースパターンとなる。
【0022】実施例2実施例1と同一のレジスト材料を用い、プリベークを90℃で1分間行い、紫外線露光装置の露光量を350mJ/cm2 に設定し、露光後の加熱処理を160℃で120秒間行い、シリル化を160℃で2分間行った以外は実施例1と同一条件でレジストパターンを形成した。乾式現像によって形成されたパターンは0.4μmまで正確に解像した。さらに、0.6μmパターンについて観察したところ、パターン上部と下部との寸法差の無い垂直壁を有していた。また、乾式現像前のシリル化層の形状を実施例1と同一の方法で観察したところ、d/L=0.66であった。
【0023】実施例3〜6実施例1と同じレジスト材料を用い、プリベーク条件,露光後の加熱処理温度よび処理時間,シリル化温度,シリル化時間を表1のように変更した点を除いて、実施例1と同様にして実験を行った。結果を表1に示す。
【0024】実施例7レジストとして、クレゾールとホルムアルデヒドノボラック樹脂と6−ジアゾ−5,6−ジヒドロ−5−オキソ−1−ナフタレンスルホン酸クロライドとノボラック樹脂(クレゾールとホルムアルデヒドとの縮合物)との部分縮合生成物からなる樹脂を使用した。この樹脂を、プロピレングリコールモノエチルアセテートに溶解し30重量%溶液を調製した。実施例1と同じ条件で形成したレジスト膜は、1.6μmの厚さを有していた。以後、プリベーク条件,露光後の加熱処理温度および処理時間,シリル化温度,シリル化時間を表1のように変更した点を除いて実施例1と同様にして実験を行った。結果を表1に示す。
【0025】実施例8実施例1と同一のレジスト材料を用い、プリベークを90℃で1分間行い、紫外線露光装置の露光量を175mJ/cm2 に設定し、露光後の加熱処理を110℃で2分間行い、シリル化を、1,1,3,3−テトラメチルジシラザンの蒸気中で110℃で4分間のシリル化処理を行った以外は、実施例1と同様にして行った。乾式現像によって形成されたパターンは、0.4μmまで正確に解像した。さらに、0.6μmパターンについて観察したところ、パターン上部と下部との寸法差の無い垂直壁を有していた。また乾式現像前のシリル化層形状を実施例1と同一の方法で観察したところ、d/L=0.20であった。結果を表1に示す。
【0026】実施例9レジスト材料として、6−ジアゾ−5,6−ジヒドロ−5−オキソ−1−ナフタレンスルホン酸クロライドとノボラック樹脂(m−クレゾールおよびp−クレゾールとホルムアルデヒドとの縮合物)との部分縮合生成物からなる樹脂を使用した。この樹脂を、プロピレングリコールモノエチルアセテートに溶解し、30重量%溶液を調製した。次にプリベークを120℃で90秒間行い、紫外線露光装置の露光量を150mJ/cm2 に設定し、露光後の加熱処理を170℃で3分間行い、シリル化を170℃で4分間行った以外は実施例1と同様にして行った。乾式現像により形成されたパターンは0.4μmまで正確に解像した。さらに、0.6μmパターンについて観察したところパターンの上部と下部との寸法差の無い垂直壁を有していた。また、乾式現像前のシリル化層形状を実施例1と同一の方法で観察したところ、d/L=0.38であった。結果を表1に示す。
【0027】比較例1〜3実施例1と同じレジスト材料を用い、プリベーク条件,露光後の加熱処理温度および処理時間,シリル化温度,シリル化時間を表1のように変更した点を除いて実施例1と同様にして実験を行った。結果を表1に示す。また比較例1のシリル化部分の形状を図2に示す。
【0028】
【表1】


【0029】表1に示すように、d/Lの値が0.1以上かつ0.7以下の実施例1〜7では、乾式現像後のレジストパターンは垂直な側壁を有する。これに対し、d/Lの値が0.7より大きい比較例1〜3では、乾式現像後のレジストパターンは、オーバーハングの形状となっている。
【0030】
【発明の効果】本発明によれば、高解像度でレジストパターンを形成でき、さらに断面形状が垂直なレジストパターンを形成できるので、超微細かつ高密度なLSIの製造に有効である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例におけるシリル化部分を示す図である。
【図2】比較例におけるシリル化部分を示す図である。
【符号の説明】
1 シリコンウェハ
2 レジスト
3 シリル化された部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ジアゾキノンと結合させたフェノール系ポリマーを含む乾式現像用レジストを部分的にシリル化して乾式現像パターンを形成する方法において、前記シリル化されたレジストのシリコン含有領域の断面形状を、その表面における幅をL、表面からの最大の厚さをdとしたとき、前記Lとdが0.1≦d/L≦0.7の関係を満足するように形成することを特徴とする乾式現像パターンの形成方法。

【図1】
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【図2】
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【特許番号】第2940250号
【登録日】平成11年(1999)6月18日
【発行日】平成11年(1999)8月25日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−225841
【出願日】平成3年(1991)9月5日
【公開番号】特開平5−45893
【公開日】平成5年(1993)2月26日
【審査請求日】平成9年(1997)11月13日
【出願人】(000004178)ジェイエスアール株式会社 (3,320)
【参考文献】
【文献】特開 平2−20869(JP,A)
【文献】特開 平1−186934(JP,A)
【文献】特開 平2−93463(JP,A)
【文献】特開 平2−213850(JP,A)
【文献】特開 平2−127645(JP,A)
【文献】特開 平2−1857(JP,A)
【文献】特開 平2−52357(JP,A)
【文献】特開 昭61−107346(JP,A)
【文献】特開 平3−19310(JP,A)