説明

乾燥とろろ芋食材とその製造方法

【課題】生の状態でのとろみ等の独特の食感を維持し、有効成分の破壊や変質も抑えることができる乾燥とろろ芋食材とその製造方法を提供する。
【解決手段】自然薯等の生のとろろ芋を、スライスして低温乾燥させ、粉末にしたものである。乾燥温度は、生の状態での成分が変質しない15℃以下の温度であって、凍結しない温度範囲で、湿度が15%〜1%で行う。特に、生のとろろ芋が凍結しない氷温で乾燥させると良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自然薯等のとろろ芋を乾燥させて食材とした乾燥とろろ芋食材とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、日本原産の自然薯に代表されるとろろ芋は、とろみなどの独特の食感や栄養価の高さから、古くから多くの料理法が存在し、日本人に親しまれてきた。
【0003】
特にとろろ芋のネバネバ成分であるムチンは、タンパク質と多糖類が結合した粘性物質であり、ヒトの粘膜の表面を覆っている成分と同じで、気管や食道、胃腸の表面もムチンで保護されている。従って、ムチンには、粘膜の損傷を防いだり、ウイルスの粘膜からの侵入を防ぐ効果がある。さらに、とろろ芋に含まれるディオスコランは、抗インフルエンザ活性成分であり、ウイルスに対する感染抑制機能があり、血糖値を下げる効果もあることが分かってきた。
【0004】
しかし、これらの成分は熱に弱く、加熱して調理すると破壊されたり変質してしまうものであった。これは、従来よりとろろ芋は生で摺り下ろしたものを食するのが一般的であったこと考えると、加熱することなく食するのが、科学的な成分分析が行われなくても、昔からの日本人の知恵であったと言える。
【0005】
一方、野菜の長期保存や取り扱いの容易性等から、野菜を乾燥させて保存や流通させる方法が考えられ、例えば特許文献1に開示されているように、一定の厚さにスライスした野菜や果物等を35℃以下にして熱風で乾燥させる乾燥方法が提案されている。また、特許文献2には、乾燥野菜の製造方法として、ライスした野菜を50〜65℃の温風で乾燥させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−180053号公報
【特許文献2】特開平7−184536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
自然薯等のとろろ芋は、長期間の保存が難しく、通常の保存方法は、温度が3℃で湿度を80〜90%にして貯蔵しているが、一冬を保存して持たせるのが限度であった。一方、とろろ芋をそのまま冷凍にすると、細胞壁が破壊されたりして、独特の食感が損なわれてしまうので、冷凍保存は不可能である。摺り下ろしたものを冷凍保存することも試みられているが、風味や食感の変化により4週間程度であった。
【0008】
一方、乾燥させてスライス状や粉末状にして保存する方法も考えられるが、従来の乾燥方法では、特許文献1,2に開示されているように、乾燥温度が高く、とろろ芋の上記有効成分は熱に弱いので、上記有効成分が破壊されたり変質したりしてしまい、食感も大きく損なわれてしまうものであった。
【0009】
一方、凍結乾燥させて保存する方法もあるが、上記のように凍結による細胞壁の破壊や変質、食感の変化が問題となり、事実上できないものであった。
【0010】
この発明は、上記背景技術の問題点に鑑みてなされたものであり、生の状態でのとろみ等の独特の食感を維持し、有効成分の破壊や変質も抑えることができる乾燥とろろ芋食材とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明は、生のとろろ芋を適宜の大きさ及び厚さに切り、生の状態での成分が変質しない15℃以下の温度であって、凍結しない温度範囲で乾燥させる乾燥とろろ芋食材の製造方法である。前記生のとろろ芋は、適宜の厚さにスライスして乾燥させ、粉末にする乾燥とろろ芋食材の製造方法である。
【0012】
前記乾燥工程は、温度が15℃〜−3℃、好ましくは温度10℃〜−3℃で、より好ましくは7℃〜−1℃で、湿度が15%以下、好ましくは湿度10%以下の雰囲気で行うものである。さらに、前記乾燥工程は、生のとろろ芋を、凍結しない氷温で乾燥させるものでも良い。
【0013】
またこの発明は、生のとろろ芋を、その独特の成分が変質しない15℃以下の温度であって、凍結しない温度範囲で乾燥させて成る乾燥とろろ芋食材である。前記とろろ芋を、スライスして低温乾燥させたものや、低温乾燥後に粉末にしたものである。前記とろろ芋は、特に自然薯が好適である。
【発明の効果】
【0014】
この発明の乾燥とろろ芋食材とその製造方法は、生の状態でのとろみ等の独特の食感を損なうことなく乾燥させることができ、長期間の保存が可能であり、特にムチンやディオスコラン等の有効成分の破壊や変質もきわめて少なく、水を加えて乾燥状態から戻すと、生のとろろ芋と同様の食感を有し、上記有効成分もそのまま存在するものである。
【0015】
特に、凍結しない氷温前後の低い温度で乾燥させることにより、風味や粘性が損なわれず、低温で乾燥することにより、その間に芋の中の酵素によりデンプンが少しずつ糖化して、食味も向上するものである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】この発明の一実施形態の乾燥とろろ芋食材とその製造方法を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、この発明の一実施形態について説明する。この実施形態の乾燥とろろ芋食材は、生で食することができるもので、この実施形態のとろろ芋粉末10は、自然薯や長芋、銀杏芋、捏芋等のとろろ芋12を、適度な細かさに粉砕し乾燥したとろろ芋粉末10である。とろろ芋粉末10の平均粒径は、10〜1000μm程度の粒子であり、適宜消費者の好みの食感に合わせて粒度を設定すればよい。
【0018】
次に、この乾燥とろろ芋食材の製造方法について説明する。図1は、乾燥とろろ芋食材の製造工程を示した概略図で、先ず、自然薯や長芋、銀杏芋、捏芋等のとろろ芋12を、厚さ1〜5mm程度にスライスする。次に、スライスした生のとろろ芋スライス13を、乾燥工程で粉砕可能な乾燥状態、例えば水分含有率が3%以下、好ましくは1%以下に乾燥させる。乾燥は、温度と湿度が精密にコントロールされた乾燥室14で行う。乾燥室14内の温度は15℃〜−3℃、好ましくは温度10℃〜−3℃で、凍結しない温度範囲、より好ましくは7℃〜−1℃で行う。特に、生のとろろ芋12が凍結しない氷温で乾燥させると良い。湿度は、15%〜0.1%、好ましくは10%以下の雰囲気で乾燥を行う。
【0019】
さらに、湿度や温度のムラをなくすために、乾燥室14の空気を循環させ、とろろ芋スライス13を載置した乾燥用テーブル16も、コンベア等により移動式にすると良い。乾燥時間は、とろろ芋スライス13の量や厚みで異なるが、通常は、数〜十数時間程度で乾燥が完了する。これにより、とろろ芋スライス13の細胞壁が破壊されず、ムチンやディオスコラン等の有効成分が変質したり破壊されたりせず、風味やうまみ成分の飛散もない。
【0020】
この後、低温で乾燥したとろろ芋スライス13を粉末にするため、適度な細かさに粉砕する。粉砕工程では、粉末の平均粒径が10〜1000μm程度で良く、粒子が大きすぎても小さすぎても、調理後の食感が例えば摺り下ろしたものと異なる。従って、調理法によりとろろ芋粉末10の粒子径を調整すると良い。
【0021】
この後、このとろろ芋粉末10を、適宜に袋詰め等の包装を施して商品とする。包装形態は、袋詰めや筒状の容器に入れても良く、1食分ずつ包装しても良い。また、調味料と一緒に包装し、調理時に容易に混合できるようにしても良い。
【0022】
この乾燥とろろ芋食材の調理方法は、とろろ芋粉末10を水で戻すことにより、摺りおろした直後のとろろ芋と同様のとろみのある状態となり、良好な食感を維持した状態のとろとして調理及び食することができる。
【0023】
この実施形態の乾燥とろろ芋食材とその製造方法によれば、とろろ芋粉末10の食材の細胞壁が不必要に破壊されたり損傷したりすることが防止され、とろろ芋としての風味を残したまま確実に乾燥され、保存性が良く、ムチンやディオスコラン等の有効成分も破壊されずに存在し、とろろ芋としての高栄養価を維持し、容易においしく食することができる。特に、乾燥して粉末状とすることにより、とろろ芋の用途が増加し、長期間の保存が可能であり、保存食としても利用可能であり、とろろ芋の付加価値を高め、販路も広げることができるものである。
【0024】
なお、この発明の乾燥とろろ芋食材は、上記実施形態に限定されるものではなく、製造工程において、図1に示すように、とろろ芋スライス13の状態で包装して、保存又は販売しても良い。乾燥したとろろ芋スライス13を調理する際に、適宜の細かさに粉砕して、水で戻し調味料を入れてとろろ汁等に調理しても良い。その他、低温乾燥の温度や湿度の調整は、適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0025】
10 とろろ芋粉末
12 とろろ芋
13 とろろ芋スライス
14 乾燥室
16 乾燥用テーブル


【特許請求の範囲】
【請求項1】
生のとろろ芋を適宜の大きさ及び厚さに切り、生の状態での成分が変質しない15℃以下の温度であって、凍結しない温度範囲で乾燥させることを特徴とする乾燥とろろ芋食材の製造方法。
【請求項2】
前記生のとろろ芋を適宜の厚さにスライスして乾燥させる乾燥工程と、乾燥させたとろろ芋スライスを粉末にする粉砕工程とを有する請求項1記載の乾燥とろろ芋食材の製造方法。
【請求項3】
前記乾燥工程は、温度が10℃〜−3℃で、湿度が15%以下で行うものである請求項2記載の乾燥とろろ芋食材の製造方法。
【請求項4】
前記乾燥工程は、生のとろろ芋が凍結しない氷温で乾燥させる請求項3記載の乾燥とろろ芋食材の製造方法。
【請求項5】
生のとろろ芋を、その独特の成分が変質しない15℃以下の温度であって、凍結しない温度範囲で乾燥させて成ることを特徴とする乾燥とろろ芋食材。
【請求項6】
前記とろろ芋を、低温乾燥後に粉末にしたものである請求項5記載の乾燥とろろ芋食材。
【請求項7】
前記とろろ芋を、スライスして低温乾燥させたものである請求項5記載の乾燥とろろ芋食材。
【請求項8】
前記とろろ芋は、自然薯である請求項5乃至7のいずれか記載の乾燥とろろ芋食材。


【図1】
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【公開番号】特開2012−228189(P2012−228189A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−97033(P2011−97033)
【出願日】平成23年4月25日(2011.4.25)
【出願人】(591041163)
【出願人】(511079171)
【出願人】(511079425)
【Fターム(参考)】