説明

乾電極及びその作製方法

【課題】従来の問題点を解決する乾電極及びその作製方法を提供する。
【解決手段】生体の生体電気信号を計測する乾電極を、弾性変形可能な薄さに形成した異方性導電材料からなり、一方の端面が生体の皮膚に接触する電極部11と、電極部11の他方の端面に接続され、一方の端面から得られた生体電気信号を伝送する配線部12と、一方の端面を除く電極部11の外周と配線部12の外周を被覆する絶縁部14と、絶縁部14の外周に設けられ、外部からの電磁波の侵入を防止するシールド部とから形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体の生体電気信号を測定する乾電極及びその作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人体を対象とする脳波計測では、ペーストや電解液等のウェット材料を利用した電極が汎用されている(非特許文献1参照)。又、ウェット材料を不要とする電極も提案されている(非特許文献2、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4216884号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】“Electro-Cap International, Inc.”、[online]、[平成21年12月28日検索]、インターネット< http://www.electro-cap.com/>
【非特許文献2】“ペーストレス電極ヘルメット”、[online]、[平成21年12月28日検索]、インターネット<http://www.bfl.co.jp/products/catalog/ElectrodeHelmet_20071116HEL.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の電極には、次のような問題点がある。
【0006】
(1)ウェット材料を利用した電極
ペースト、ゲル、電解液等のウェット材料を利用した電極は、計測中に生じるウェット材料の形質変化やウェット材料を塗布した装着部位における痒みやアレルギー発症等が原因で、長時間に渡る計測が困難であり、又、計測対象者が限定されていた。更に、脱着後には頭皮等に塗布したウェット材料の除去と洗浄作業が不可欠であり、装着と脱着に時間を要する等の問題があった。
【0007】
(2)ウェット材料を不要とする電極
ウェット材料を不要とする電極は、非特許文献2や特許文献1に見られるように、見た目の悪さや、使用時の体位に制限(例えば、寝ているときには使用できない)等が原因で、普及に至っていない。又、単に導電性材料を利用した電極もある。これらは、頭部の形状に追従して十分密着できない、髪の毛によって頭皮に十分密着できない等が原因で、安定した計測状態を保持できず、実用化には至っていない。
【0008】
(3)アーチファクト(ノイズ)の軽減
電極や配線周囲の電磁場等により、アーチファクトが混入することがある。
【0009】
(4)電極と配線の接続部分の強度
頭皮へより密着させるための応力や何らかの外力が加わった場合、電極と配線の接続部分が断線することがある。
【0010】
(5)空間分解能(電極インピーダンス)の調整
計測部位の空間分解能は、接触する頭皮との電極インピーダンス値が概ね20kΩ以内となる電極の接触面積に依存していた。ところが、従来の電極の接触面積は固定値であって、適切な電極インピーダンス値を保持しつつ、必要に応じて、接触面積を調整することが困難であった。
【0011】
本発明は上記課題に鑑みなされたもので、従来の問題点を解決する乾電極及びその作製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決する第1の発明に係る乾電極は、
生体の生体電気信号を計測する乾電極であって、
弾性変形可能な薄さに形成した異方性導電材料からなり、一方の端面が前記生体の皮膚に接触する電極部と、
前記電極部の他方の端面に接続され、前記一方の端面から得られた生体電気信号を伝送する配線部と、
柔軟な絶縁材料からなり、前記一方の端面を除く前記電極部の外周と前記配線部の外周を被覆する絶縁部と、
前記絶縁部の外周に設けられ、外部からの電磁波の侵入を防止するシールド部とを有することを特徴とする。
【0013】
上記課題を解決する第2の発明に係る乾電極は、
上記第1の発明に記載の乾電極において、
前記電極部と前記配線部との間に、前記一方の端面から得られた生体電気信号を増幅するプリアンプを設けたことを特徴とする。
【0014】
上記課題を解決する第3の発明に係る乾電極は、
上記第1又は第2の発明に記載の乾電極において、
前記配線部の前記電極部との接続面積を調整することにより、前記生体の皮膚と接触する前記電極部の接触面積を調整したことを特徴とする。
【0015】
上記課題を解決する第4の発明に係る乾電極の製造方法は、
生体の生体電気信号を計測する乾電極の製造方法であって、
一方の端面が前記生体の皮膚に接触する電極部を、異方性導電材料を用いて、弾性変形可能な薄さに形成し、
前記電極部の他方の端面に、前記一方の端面から得られた生体電気信号を伝送する配線部を接続し、
前記一方の端面を除く前記電極部の外周と前記配線部の外周を、柔軟な絶縁材料からなる絶縁部で被覆し、
前記絶縁部の外周に、外部からの電磁波の侵入を防止するシールド部を設けることを特徴とする。
【0016】
上記課題を解決する第5の発明に係る乾電極の製造方法は、
上記第4の発明に記載の乾電極の製造方法において、
前記電極部と前記配線部とを接続する際、前記電極部と前記配線部との間に、前記一方の端面から得られた生体電気信号を増幅するプリアンプを設けることを特徴とする。
【0017】
上記課題を解決する第6の発明に係る乾電極の製造方法は、
上記第4又は第5の発明に記載の乾電極の製造方法において、
前記電極部と前記配線部とを接続する際、前記配線部の前記電極部との接続面積を調整することにより、前記生体の皮膚と接触する前記電極部の接触面積を調整することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、乾電極として、薄く柔軟な異方性導電材料からなる電極部を用いるので、計測対象者を限定せずにより長期間に渡る計測を実現でき、あらゆる体位での装着と計測が可能となる。又、電極部が柔軟であり、更に、絶縁部やシールド部を設けるので、アーチファクトを除去し、断線を防止して、安定した計測状態の保持が可能となる。又、電極部と配線部との接続部分の面積を調整すれば、空間分解能(電極インピーダンス)の調整が可能となる。又、ウェット材料が不要となるので、ウェット材料の除去や洗浄作業を不要とし、装着及び脱着に時間を要する時間を省略し、装着及び脱着時の不快感等を軽減できる。又、電極部を薄くしたので、頭部装着時の外見がよくなり、又、装着の状態を隠すこともできる。その結果、従来技術と比較して、日常環境において、より長期間に渡る脳波計測が実現可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る乾電極の作製方法を説明する図である。
【図2】図1に続き、本発明に係る乾電極の作製方法を説明する図である。
【図3】図2に続き、本発明に係る乾電極の作製方法を説明する図である。
【図4】図3に続き、本発明に係る乾電極の作製方法を説明する図であり、本発明に係る乾電極を示す図でもある。
【図5】本発明に係る乾電極の変形例を示す図である。
【図6】本発明に係る乾電極の他の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る乾電極及びその作製方法について、図1〜図6を参照して説明を行う。なお、ここでは、一例として、人体の脳波を測定することを前提に説明を進めるが、本発明に係る乾電極は、人体の脳波に限らず、人体や動物等の生体の生体電気信号の測定にも適用可能である。
【0021】
(実施例1)
最初に、本実施例の乾電極の作製方法を、図1〜図4を参照して説明を行う。
【0022】
まず、柔軟な異方性導電材料を円柱形状に形成して、電極部11を作製し、配線部12の電極部11への接続部分12aを、電極部11の径に見合う大きさ(例えば、同等の大きさ)に形成する(図1参照)。電極部11の一方の端面の径、つまり、頭皮と接触する部分の径は、電極間インピーダンスが20kΩ以内となるように設定されており、例えば、0.5cm〜1cm程度である。又、電極部11は、頭部の形状に追従し、毛髪等を避けて、頭皮に十分に密着することができる程、柔軟であり、市販されている異方性導電ゴム、異方性導電シート等が利用可能である。
【0023】
なお、電極部11は、必ずしも円柱形状でなくてもよく、三角柱、四角柱等の多角柱形状でもよく、その場合には、配線部12の接続部分12aも、電極部11の端面の形状と同等の形状に形成する。又、必要に応じて、電極部11と配線部12との間に、ボルテージフォロワーや初段アンプ等のプリアンプ13を設置してもよい(図1参照)。
【0024】
次に、円柱形状の電極部11の他方の端面に、導電性接着剤等を用いて、配線部12の接続部分12aを接着する(図2参照)。これにより、電極部11と配線部12とを電気的に接続する。
【0025】
次に、円柱形状の電極部11の周囲を、頭皮と接触させる端面を除いて、柔軟な絶縁材料からなる絶縁部14で被覆する(図3参照)。絶縁部14としては、例えば、シリコーン、ポリウレタン、エナメル、ボンド、パリレン、ポリイミド、SU−8、ゴム等が適用可能である。
【0026】
図3に示すような構成でも乾電極として利用可能であるが、本実施例では、頭皮への密着性を向上させるため、電極部11の厚さを薄くしている。具体的には、被覆した絶縁部14と共に、電極部11の厚さを、弾性変形可能な程度に薄くした(図4参照)。この厚さとしては、頭皮に密着でき、折れ曲がり等による断線や亀裂等が生じない厚さが望ましく、0.2mm〜1cm程度がよい。そして、頭皮と接触する端面を除いて、絶縁部14の外周、配線部12の外周には、アーチファクトの混入を防止するシールド配線(シールド部;図示省略)を設けた。以上の手順により、本実施例の乾電極を作製している。
【0027】
上記手順により作製した本実施例の乾電極を用いて、計測を行う際には、当該乾電極の上部から頭皮側の方に押し付け、ヘアバンド、カチューシャ、ベルクロテープ、ストッキングバンド等で固定するようにして、計測を行っている。
【0028】
続いて、前述した従来の問題点の各々について、これらを解決する本実施例の乾電極での特徴を具体的に説明する。
【0029】
(1)ウェット材料を利用した電極の問題点について
ウェット材料の形質変化や塗布部位における痒みやアレルギー発症等を回避するため、ウェット材料を不要とした乾電極を利用する。具体的には、頭皮との接触材料として、異方性導電材料からなる電極部11を利用する。
【0030】
本実施例では、異方性導電材料からなる電極部11を接触材料とすることにより、ウェット材料の使用が不要な乾電極となるので、計測中のウェット材料の形質変化がなくなり、痒みやアレルギー等の発症を軽減でき、より長期間に渡る計測を実現することができる。又、ウェット材料での痒みやアレルギー等の発症を軽減できることから、計測対象者を限定することなく、脳波測定が可能となる。更に、脱着後に、頭皮等に塗布したウェット材料の除去と洗浄作業を不要とし、装着及び脱着に時間を要する時間を省略でき、又、装着及び脱着に伴う不快感等を軽減できる。
【0031】
(2)ウェット材料を不要とする電極の問題点について
見た目、装着性、頭部への密着性を良くするため、乾電極の厚さを、弾性変形可能な程度に薄くした。
【0032】
従来のウェット材料を不要とする電極は、ヘルメット状のもの等であり、見た目が悪かった(特許文献1、非特許文献2参照)。本実施例では、薄い乾電極の利用により、頭部装着における外見がよくなった。又、帽子を被る等して、装着の状態を隠すこともできる。又、薄い乾電極の形状によって、従来のヘッドバンドや脳波キャップと併用することができる。又、薄い乾電極の利用は、使用時の体位に制限を設けず、あらゆる体位において、その装着と計測が可能となる。
【0033】
又、頭部の形状に追従して十分に密着できない、髪の毛によって頭皮に十分に密着できない等の課題については、弾性変形可能な程薄い乾電極を上部からプレスすることで、十分に密着することが可能となる。これにより、安定した計測状態を保持することができる。
【0034】
更に、頭皮への密着性をより高めるため、図4に示した乾電極を、図5や図6に示すような構成としてもよい。
【0035】
具体的には、図5に示すように、電極部11の中心部等に貫通孔11aを設け、この貫通孔11aを用いて、外部から頭皮を吸引することで、頭皮への密着性をより高めることも可能である。
【0036】
又、図6に示すように、下面に多数の凸部15aを有する圧着部15を形成し、圧着部15を電極部11の上部に貼り付け、圧着部15の上部からプレスすることにより、頭皮への密着性をより高めることも可能である。
【0037】
(3)アーチファクトの軽減の問題点について
漏れ電流やアーチファクトの混入を防止、軽減するため、不要な露出部分となる部分、つまり、頭皮と接触する端面以外の電極部11の導電部分を、全て柔軟な絶縁部14で被覆した。又、乾電極の周囲に存在する電磁場等によるアーチファクトの混入を防止、軽減するため、絶縁部14、配線部12の外周上又は外周面にシールド配線を施し、このシールド配線の内側に、計測された脳波信号を伝送する配線(電極部11及び配線部12)を設ける構成とした。
【0038】
本実施例では、絶縁部14で被覆することにより、電極部11への漏れ電流やアーチファクトの混入を防止、軽減することができる。又、絶縁部14、配線部12の外周上又は外周面にシールド配線を設けることにより、周囲に存在する電磁場等によるアーチファクトの混入を防止、軽減することができる。
【0039】
更に、計測部となる電極部11と配線部12の間に、ボルテージフォロワーや初段アンプ等のプリアンプ13を設置した場合には、計測信号を増幅して、安定させることができる。
【0040】
(4)電極と配線の接続部分の強度の問題点について
応力(頭皮へより密着させるための応力)や外力による電極部11と配線部12との接続部分の断線を防止するため、電極部11として、柔軟な異方性導電材料を利用した。このように、柔軟な材料利用することにより、強度と応力を有する構成とした。
【0041】
本実施例では、電極部11として、柔軟な異方性導電材料を利用することにより、上部から圧力をかけた場合でも、柔軟な電極部11が配線部12への圧力を吸収・分散し、断線の可能性を低減することになる。
【0042】
(5)空間分解能(電極インピーダンス)の調整の問題点について
柔軟な異方性導電材料からなる電極部11を利用した乾電極では、直上の配線部12の接続部分12aの面積を調整することで、硬い接続部分12aにより柔軟な電極部11を弾性変形させて、必要に応じて、頭皮との接触面積を調整することができる。その結果、空間分解能(電極インピーダンス)の調整が可能となる。
【0043】
以上説明してきたように、従来技術では、簡易に又長期に渡って脳波測定することが困難であったが、本実施例の乾電極では、異方性導電材料からなる電極部11を頭皮との接触材料に利用したので、計測中に材料が形質変化せず、又、痒みやアレルギー等の発症を軽減でき、計測対象者を限定せずにより長期間に渡る計測を実現できる。又、電極部11は柔軟であるので、その接触部が頭部の形状に追従して十分に密着することができ、あらゆる体位での装着と計測が可能となる。
【0044】
又、電極部11が柔軟であり、更に、絶縁部14やシールド配線を設けたので、アーチファクトを除去し、断線を防止して、安定した計測状態の保持が可能となる。又、電極部11と配線部12の接続部分12aとの面積を調整すれば、頭皮との接触面積を調整して、空間分解能(電極インピーダンス)の調整が可能となる。又、ウェット材料が不要な乾電極であるので、ウェット材料の除去や洗浄作業を不要とし、装着及び脱着に時間を要する時間を省略し、装着及び脱着時の不快感等を軽減できる。又、電極部11を薄くしたので、頭部装着時の外見がよくなり、又、帽子等を被るなどして、装着の状態を隠すこともできる。
【0045】
このようにして、従来技術と比較して、日常環境において、より長期間に渡る脳波計測が実現可能である。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、生体の生体電気信号、特に、人体の脳波を測定する乾電極に好適である。
【符号の説明】
【0047】
11 電極部
11a 貫通孔
12 配線部
13 プリアンプ
14 絶縁部
15 圧着部
15a 凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体の生体電気信号を計測する乾電極であって、
弾性変形可能な薄さに形成した異方性導電材料からなり、一方の端面が前記生体の皮膚に接触する電極部と、
前記電極部の他方の端面に接続され、前記一方の端面から得られた生体電気信号を伝送する配線部と、
柔軟な絶縁材料からなり、前記一方の端面を除く前記電極部の外周と前記配線部の外周を被覆する絶縁部と、
前記絶縁部の外周に設けられ、外部からの電磁波の侵入を防止するシールド部とを有することを特徴とする乾電極。
【請求項2】
請求項1に記載の乾電極において、
前記電極部と前記配線部との間に、前記一方の端面から得られた生体電気信号を増幅するプリアンプを設けたことを特徴とする乾電極。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の乾電極において、
前記配線部の前記電極部との接続面積を調整することにより、前記生体の皮膚と接触する前記電極部の接触面積を調整したことを特徴とする乾電極。
【請求項4】
生体の生体電気信号を計測する乾電極の製造方法であって、
一方の端面が前記生体の皮膚に接触する電極部を、異方性導電材料を用いて、弾性変形可能な薄さに形成し、
前記電極部の他方の端面に、前記一方の端面から得られた生体電気信号を伝送する配線部を接続し、
前記一方の端面を除く前記電極部の外周と前記配線部の外周を、柔軟な絶縁材料からなる絶縁部で被覆し、
前記絶縁部の外周に、外部からの電磁波の侵入を防止するシールド部を設けることを特徴とする乾電極の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の乾電極の製造方法において、
前記電極部と前記配線部とを接続する際、前記電極部と前記配線部との間に、前記一方の端面から得られた生体電気信号を増幅するプリアンプを設けることを特徴とする乾電極の製造方法。
【請求項6】
請求項4又は請求項5に記載の乾電極の製造方法において、
前記電極部と前記配線部とを接続する際、前記配線部の前記電極部との接続面積を調整することにより、前記生体の皮膚と接触する前記電極部の接触面積を調整することを特徴とする乾電極の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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