説明

二光子励起蛍光プローブとその製造方法及び細胞内マグネシウムのリアルタイムモニタリング方法

【課題】細胞内Mg2+のリアルタイムモニタリング方法を提供。
【解決手段】細胞内Mg2+のリアルタイムモニタリング用二光子励起蛍光プローブは、下記化学式1の化合物からなる。Rは、HまたはCHOCOCHである。


・・・(1)さらに、上記二光子励起蛍光プローブの製造方法、及び上記二光子励起蛍光プローブを用いた細胞内Mg2+のリアルタイムモニタリング方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞内マグネシウムのリアルタイムモニタリング用二光子励起蛍光プローブと、その製造方法及びそれを用いた細胞内マグネシウムのリアルタイムモニタリング方法に関するものである。より具体的には、染料の分子量が小さくて細胞内の染色性に優れ、二光子蛍光収率が非常に大きく、細胞内マグネシウムイオンのリアルタイム映像に適した二光子励起蛍光プローブ、その製造方法及びそれを用いた細胞内マグネシウムのリアルタイムモニタリング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マグネシウムイオン(Mg2+)は、細胞内に最も多く存在する二価金属イオンであって、数百種余りの酵素活性調節に関与するだけでなく、細胞の増殖及び死滅のような多くの細胞における過程で重要な役割を担う。このような細胞内マグネシウムイオンを検出するために、多様な膜透過性蛍光プローブが開発されており、それらのうち一部は市販されている(例えば、非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3参照)。それらのうち大部分は、アセトキシメチル(AM)エステルとして用いられるが、これは細胞内で酵素加水分解過程を経て金属イオンプローブに変化される(例えば、非特許文献4参照)。しかし、一光子(OP)蛍光プローブを備えた共焦点顕微鏡は、組職表面(<100μm)近傍のみに使用が制限される。
【0003】
従って、組職内部の深い所での細胞現象を観察するためには、二光子顕微鏡(TPM)の使用が必須である。励起のために2個の近赤外線光子を吸収させるTPMは、一光子顕微鏡に比べてさまざまな長所を有する。具体的には、透過深度の増加(>500μm)、組職自己蛍光(auto-fluorescent)及び自己吸収(self-absorption)の低下、及び光損傷(photodamage)及び光脱色(photobleaching)の減少などである(例えば、非特許文献5、非特許文献6参照)。
【0004】
特に、TPMの高い透過性は、組職のイメージ化において非常に重要である。これは損傷された細胞のような表面処理結果物は、脳の薄片内部に70μm以上延びるためである(例えば、非特許文献7参照)。しかし、現在TPMとして用いられる大部分の一光子蛍光プローブは、小さな二光子励起蛍光部(two-photon action cross sections:φd)を有するために、その用途がTPMのみに限定される。組織のイメージ化に関連する他の限界点としては、標的ミス(mistargeting)の問題がある。これは細胞膜結合プローブにより引き起こされる(例えば、非特許文献8、非特許文献9、非特許文献10参照)。前記細胞膜結合プローブは、細胞内の任意の細胞膜で囲まれた構造内に蓄積されるので、蛍光量子収率が、大抵は細胞質より細胞膜の方が高くなる。そのため、細胞膜に結合されたプローブからの信号をプローブ−Mg2+複合体の信号から分離することが非常に難しいという不都合がある。
【0005】
従って、1)より明るいTPMイメージを得るために、改善したφd値を有し、2)細胞質内プローブと細胞膜結合プローブとをよりよく区分するために、異なる環境下で、より広いスペクトル移動を示す効率的な二光子励起蛍光プローブを開発する必要性がある。
【非特許文献1】The Handbooks-A Guide to Fluorescent Probes and Labeling Technologies, 10th ed, Haugland, R. P. Ed.; MolecularProbes: Eugene, OR, 2005.
【非特許文献2】H. Komatsu, N. Iwasawa, D. Citterio, Y. Suzuki, T. Kubota, K. Tokuno, Y. Kitamura, K. Oka, K. Suzuki, J. Am. Chem. Soc. 2004, 126, 16353-16360.
【非特許文献3】G. Farruggia, S. Iotti, L. Prodi, M. Montalti, N. Zaccheroni, P. B. Savage, V. Trapani, P. Sale, F. I. Wolf, J. Am. Chem. Soc. 2006, 128, 344-350.
【非特許文献4】R. Y. Tsien, Nature 1981, 290, 527-528.
【非特許文献5】W. R. Zipfel,R. M. Williams, W. W. Webb, Nat. Biotechnol. 2003, 21, 1369-1377.
【非特許文献6】F. Helmchen, W. Denk, Nat. Methods, 2005, 2, 932-940.
【非特許文献7】R.M.Williams,W.R.Zipfel,W.W.Webb,Curr.Opin.Chem.Biol.2001,5,603-608.
【非特許文献8】The Handbooks-A Guide to Fluorescent Probes and Labeling Technologies,10thed,Haugland,R.P.Ed.;Molecular Probes:Eugene,OR,2005.
【非特許文献9】J.R.Long,R.S.Drago,J.Chem.Ed.1982,59,1037-1039.
【非特許文献10】K.J.Hirose,Incl.Phenom.Macrocycl.Chem.2001,39,193-209.
【非特許文献11】B.Metten,M.Smet,N.Boens,W.Dehaen,Synthesis 2005,11,1838.
【非特許文献12】J.N.Demas,G.A.Crosby,J.Phys.Chem.1971,75,991.
【非特許文献13】C.Reichardt,Chem.Rev.1994,94,2319-2358.
【非特許文献14】H.A.Benesi,J.H.Hildebrand,J.Am.Chem.Soc.1949,71,2703.
【非特許文献15】H.A.Benesi,J.H.Hildebrand,J.Am.Chem.Soc.1949,71,2703.
【非特許文献16】G.Grynkiewicz,M.Poenie,R.Y.Tsien.J.Biol.Chem.1985,260,3440.
【非特許文献17】G.Grynkiewicz,M.Poenie,R.Y.Tsien.J.Biol.Chem.1985,260,3440.
【非特許文献18】R.Y.Tsien,T.Pozzan,T.J.Rink.J.Cell Biol.1982,94,325.
【非特許文献19】R.Y.Tsien,T.Pozzan,Methods Enzymol.1989,172,230.
【非特許文献20】A.Takahashi,P.Camacho,J.D.Lechleiter,B.Herman.Physiol.Rev.1999,79,1089.
【非特許文献21】J.R.Long,R.S.Drago,J.Chem.Ed.1982,59,1037.
【非特許文献22】K.Hirose,J.Incl.Phenom.Macrocycl.Chem.2001,39,193.
【非特許文献23】The Handbooks-A Guide to Fluorescent Probes and Labeling Technologies,10th ed,; Haugland, R. P. Ed.; Molecular Probes: Eugene, OR, 2005.
【非特許文献24】H. Szmacinski, J. R. Lakowicz, J. Fluoresc. 1996, 6, 83-95.
【非特許文献25】G. Farruggia, S. Iotti, L. Prodi, M. Montalti, N. Zaccheroni, P. B. Savage, V. Trapani, P. Sale, F. I. Wolf, J. Am. Chem. Soc. 2006, 128, 344.
【非特許文献26】I. J. Reynolds, CurrentProtocols in Neuroscience; Wiley: New York; 1998.
【非特許文献27】J. G. Fitz, A. H. Sostman, J. P. Middleton, Am. J. Physiol. (London) 1994, 266, G677-G684.
【非特許文献28】M. R. Cho, H. S. Thatte, M. T. Silvia, D. E. Golan, FASEB J. 1999, 13, 677-683.
【非特許文献29】G. Farruggia, S. Iotti, L. Prodi, M. Montalti, N. Zaccheroni, P. B. Savage, V. Trapani, P. Sale, F. I . Wolf, J. Am. Chem. Soc. 2006, 128, 344-350.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の第1の目的は、生体内に存在する多様な金属の内、特にマグネシウムに対するイオン選択性に優れ、二光子蛍光収率が非常に大きくて細胞内マグネシウムイオンのリアルタイムモニタリングに適した二光子励起蛍光プローブを提供することである。
【0007】
本発明の第2の目的は、前記二光子励起蛍光プローブの製造方法を提供することである。
【0008】
また、本発明の第3の目的は、前記二光子励起蛍光プローブを利用した細胞内マグネシウムのリアルタイムモニタリング方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前記第1の目的を達成するため、化学式1で表される細胞内マグネシウムのリアルタイムモニタリング用二光子励起蛍光プローブを提供する。

【0010】
本発明は、前記第2の目的を達成するため、細胞内マグネシウムイオンのリアルタイムモニタリング用二格子吸収プローブの製造方法を提供する。

【0011】
前記製造方法は、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド・HClと、4−ジメチルアミノピリジンと、化学式2及び3で表わされる化合物とを反応させる段階を含む細胞内マグネシウムイオンのリアルタイムモニタリング用二光子励起蛍光プローブの製造方法を提供する。

【0012】

【0013】
本発明の一実施形態によれば、前記化学式2で表わされる化合物は、メチルブロモアセテート、NaHPO、NaI及び化学式4で表わされる化合物を反応させて製造することができる。

【0014】
本発明の更なる実施形態によれば、前記化学式4で表わされる化合物は、CHNH・HCl、Na、NaOH、HO及び化学式5で表わされる化合物を反応させて製造することができる。
【0015】


【0016】
本発明の他の実施形態によれば、前記化学式5で表わされる化合物は、化学式6で表わされる化合物と共にHBrを反応させて製造することができる。
【0017】


【0018】
本発明は、前記第3の目的を達成するため、前記二光子励起蛍光プローブを観察対象となる細胞内に注入した後、該二光子励起蛍光プローブから放出される二光子励起蛍光をイメージ化する段階を含む細胞内マグネシウムのリアルタイムモニタリング方法を提供する。
【0019】
本発明の一実施形態によれば、前記二光子励起蛍光によるイメージは、500〜620nmの範囲の波長を用いて得ることができる。
【0020】
本発明の更なる実施形態によれば、下記数式1を用いて細胞内マグネシウムイオンの濃度を定量的に測定することもできる。
【0021】
[Mg2+]=K[(F−Fmin)/(Fmax−F)] ・・・(数式1)
数式1において、Kは、本発明による二光子励起蛍光プローブのマグネシウムイオンに対する解離定数であり、Fは、測定された二格子蛍光強度であり、Fmin及びFmaxは、それぞれ最小蛍光強度及び最大蛍光強度である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、添付した図面及び実施形態を参照して、本発明をより詳細に説明する。
【0023】
本発明による細胞内マグネシウムのリアルタイムモニタリング用二光子励起蛍光プローブは、二光子蛍光収率が非常に大きいため、細胞を染色する染料の量を顕著に減らすことができる。また、染料の分子量が小さく、細胞内への染色性が非常に優れているため、細胞内マグネシウムイオンのリアルタイムイメージングに適するという特性を有する。
【0024】
本発明は、具体的には、化学式1で表される細胞内マグネシウムのリアルタイムモニタリング用二光子励起蛍光プローブを提供する。
【0025】


【0026】
化学式1における2−アセチル−6−(ジメチルアミノ)ナフタレン部分は、二光子発色団として機能し、o−アミノフェノール−N,N,O−トリ酢酸部分は、Mg2+に対する選択的結合部位として機能する。本発明による二光子励起蛍光プローブは、Mg2+と複合体を形成する場合に、強い二光子励起蛍光(Two-Photon Excited Fluorescence:TPEF)を放出する。前記複合体は、溶媒環境の極性によって非常に異なる波長範囲の光を放出するために、相異なる検出ウインドウ(detection windows)を用いることで細胞膜−結合プローブと前記複合体とを容易に区分することができる。
【0027】
一方、化学式1で表わされる化合物において、Rは、HまたはCHOCOCHであり得るが、RがCHOCOCHである場合、本発明による二光子励起蛍光プローブの細胞透過度をさらに向上させることができる。

【0028】
本発明はまた、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド・HClと、4−ジメチルアミノピリジンと、化学式2及び化学式3で表わされる化合物とを反応させて化学式1で表わされる化合物を製造する段階を含む細胞内マグネシウムのリアルタイムモニタリング用二光子励起蛍光プローブの製造方法を提供する。
【0029】




【0030】

【0031】
望ましくは、化学式2で表わされる化合物は、化学式4で表わされる化合物、メチルブロモアセテート、NaHPO及びNaIを反応させて製造することができる。
【0032】


【0033】
望ましくは、化学式4で表わされる化合物は、化学式5で表わされる化合物、CHNH・HCl、Na、NaOH及びHOとを反応させて製造することができる。
【0034】


【0035】
また、化学式5で表わされる化合物は、化学式6で表わされる化合物とHBrとを反応させて製造することができる。
【0036】


【0037】
参考までに、下記反応式1には、化学式6で表わされる化合物から、化学式1で表わされる化合物を製造する典型的な反応を示す。
【0038】


【0039】
前述したように、細胞透過度の向上のために、反応式1のRは、Hの代りにCHOCOCHに置換されうるが、望ましくは、このような置換過程は、RがHである化学式1で表わされる化合物とブロモ酢酸エチル及びトリエチルアミンとを反応させることで実行される。
【0040】
一方、本発明は、また前記二光子励起蛍光プローブを観察対象となる細胞内に注入した後、該二光子励起蛍光プローブから放出される二光子励起蛍光をイメージ化する段階を含む細胞内マグネシウムのリアルタイムモニタリング方法を提供する。
【0041】
特に、後述するように、前記二光子励起蛍光によるイメージを500〜620nmの範囲の波長を用いて得る場合には、細胞膜に結合された二光子励起蛍光プローブによる発光寄与度を最小化しながら、細胞内に遊離状態で存在するMg2+イオンのみを選択的に測定することも可能である。
【0042】
また、本発明による細胞内マグネシウムのリアルタイムモニタリング方法は、従来の技術とは異なって、細胞内マグネシウムの定性的分析だけではなく、これを定量的に測定することも可能であり、望ましくは、細胞内マグネシウムイオン濃度の測定は、下記数式1によって行われる。
【0043】
[Mg2+]=K[(F−Fmin)/(Fmax−F)] ・・・(数式1)
数式1において、Kは、本発明による二光子励起蛍光プローブのマグネシウムイオンに対する解離定数であり、Fは、測定された二光子蛍光強度であり、Fmin及びFmaxは、それぞれ最小蛍光強度及び最大蛍光強度である。
【0044】
以下、本発明を実施例を通じてより詳細に説明するが、下記実施例は、本発明の範囲を制限するためのものではなく、本発明の理解を助けるためのものとして記載されたものである。
【実施例】
【0045】
[製造例1]本発明による二光子励起蛍光プローブの製造
本製造例によって本発明による二光子励起蛍光プローブである化学式7で表わされる化合物を製造した。
【0046】


【0047】
[製造例1.1]6−アセチル−2−ヒドロキシナフタレン(化学式8)の製造


【0048】
酢酸(100mL)中の6−アセチル−2−メトキシナフタレン(10.4g、52mmol)溶液に、48%のHBr(43.0g、0.53mol)を添加し、混合物を得た。前記混合物を100℃で12時間撹拌した。過量の酢酸を真空乾固し、残留物を酢酸エチルに溶解させた後、希釈NaHCO及び塩水で洗浄した。これによって分離した有機層をMgSOで乾燥させ、真空中で溶媒を除去した。最終生成物は、酢酸エチル/ヘキサン(1:1)を溶離液として用いるカラムクロマトグラフィーによって精製した。
【0049】
収量7.2g(74%);融点173℃;IR(KBr):3,362、1,664cm−1H NMR(300MHz、CDCl):d8.41(d、1H、J=2Hz)、7.99(dd、1H、J=9、J=2Hz)、7.87(d,1H、J=9Hz)、7.70(d、1H、J=9Hz)、7.20(d、1H、J=2Hz)、7.18(dd、1H、J=9、J=2Hz)、5.70(br s、1H)、2.71(s、3H).Anal.Calcd.for C1210:C、77.40;H、5.41.Found:C、77.52;H、5.46。
【0050】
[製造例1.2]6−アセチル−N−メチル−2−ナフチルアミン(化学式9)の製造


【0051】
前記製造例1.1で製造された化学式8で表わされる化合物(6.5g、35mmol)、Na(13.3g、70mmol)、NaOH(7.0g、0.17mol)及びHO(200mL)の混合物をスチールボム反応器(steel‐bomb reactor)内に入れてMeNH・HCl(14.2g、0.17mol)を添加して混合した後、該混合物を140℃で48時間撹拌した。得られた生成物を濾過によって収集し、水で洗浄した後、クロロホルム/酢酸エチル(50:1)を溶離液として用いるフラッシュカラムによって精製した。引き続き、メタノールを用いた再結晶によってさらに精製した。
【0052】
収量5.9g(85%);融点181℃;IR(KBr):3,347、1,663cm−1H NMR(300MHz、CDCl):d8.30(d、1H、J=2Hz)、7.93(dd、1H、J=9、J=2Hz)、7.72(d、1H、J=9Hz)、7.63(d、1H、J=9Hz)、6.91(dd、1H、J=9、J=2Hz)、6.77(d、1H,J=2Hz)、4.17(br s、1H)、2.97(s、3H)、2.67(s、3H).Anal.Calcd.for C1313NO:C、78.36;H、6.58;N、7.03.Found:C、78.32;H、6.56;N、7.08。
【0053】
[製造例1.3]6−アセチル−2−[N−メチル−N−(カルボキシ)アミノ]ナフタレン(化学式10)の製造


【0054】
前記製造例1.2で製造された化学式9で表わされる化合物(4.5g、23mmol)、メチルブロモアセテート(5.2g、34mmol)、NaHPO(4.8g、34mmol)及びNaI(1.4g、9.2mmol)の混合物をMeCN(150mL)中に入れて、N下で18時間還流させた。得られた生成物を酢酸エチルで抽出し、塩水で洗浄した後、クロロホルム/酢酸エチル(30:1)を溶離液として用いるフラッシュカラムによって精製し、中間体を得た。
【0055】
収量5.2g(83%);融点92℃;IR(KBr):1,754、1,671cm−1H NMR(300MHz、CDCl):d8.32(d、1H、J=2Hz)、7.92(dd、1H、J=9、J=2Hz)、7.80(d、1H、J=9Hz)、7.64(d、1H、J=9Hz)、7.08(dd、1H、J=9、J=2Hz)、6.88(d、1H、J=2Hz)、4.23(s、2H)、3.74(s、3H)、3.21(s、3H)、2.67(s、3H);Anal.Calcd.for C1617NO:C、70.83;H、6.32;N、5.16.Found:C、70.88;H、6.35;N、5.10。
【0056】
前記中間体(2.0g、7.4mmol)及びKOH(0.8g、14mmol)の混合物をエタノール/HO(50/10mL)に入れて5時間撹拌した。得られた結果物である溶液を氷水(100mL)で希釈し、5℃未満の濃塩酸(aq)をpH3までゆっくり添加した。結果物である沈澱を収集し、蒸溜水で洗浄した後、メタノールを用いた再結晶によって精製した。
【0057】
収量1.6g(84%);融点158℃;IR(KBr):2,906、1,739、1,678cm−1H NMR(400MHz、CDOD):d8.39(d、1H、J=2Hz)、7.86(dd、1H、J=9、J=2Hz)、7.84(d、1H、J=9Hz)、7.64(d、1H、J=9Hz)、7.18(dd、1H、J=9、J=2Hz)、6.93(d、1H、J=2Hz)、4.27(s、2H)、3.19(s、3H)、2.65(s、3H);13C NMR(100MHz、CDOD):d=199.3、173.2、149.8、138.2、130.9、130.9、130.8、126.4、125.7、124.1、116.0、105.5、53.5、38.7、25.4ppm;Anal.Calcd.for C1515NO:C、70.02;H、5.88;N、5.44.Found:C、70.08;H、5.79;N、5.45。
【0058】
[製造例1.4]本発明による二光子励起蛍光プローブ(化学式7)の製造


【0059】
前記製造例1.3で製造された化学式10で表わされる化合物(0.50g、1.9mmol)及び1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド・HCl(0.44g、2.3mmol)の混合物をジメチルホルムアミド(DMF)(20mL)に入れて混合した後、20分間撹拌した。攪拌後の前記混合物に、化学式11で表わされる化合物(0.71g、2.1mmol)及び4−ジメチルアミノピリジン(0.033g、0.29mmol)を添加してN下で12時間撹拌した。下記化学式11で表わされる化合物は、公知の方法(例えば、非特許文献11参照)で製造した。
【0060】


【0061】
攪拌後の生成物を酢酸エチルで抽出し、MgSO上で乾燥させた後、真空中で溶媒を除去した。最終生成物は、クロロホルム/酢酸エチル(1:1)を溶離液として用いるカラムクロマトグラフィーによって精製した。メタノールを用いた再結晶によってさらに精製することで白色固体を得た。
【0062】
収量0.64g(58%);融点120℃;IR(KBr):3,264、1,754、1,663cm−1H NMR(300MHz、CDCl):d8.35(d、1H、J=2Hz)、8.15(s、1H)、7.96(dd、1H、J=9、J=2Hz)、7.86(d、1H、J=9Hz)、7.69(d、1H、J=9Hz)、7.35(d、1H、J=2Hz)、7.12(dd、1H、J=9、J=2Hz)、7.05(d、1H、J=2Hz)、6.84(d、1H、J=9Hz)、6.80(dd、1H、J=9、J=2Hz)、4.68(s、2H)、4.16(s、4H)、4.09(s、2H)、3.77(s、3H)、3.69(s、6H)、3.22(s、3H)、2.68(s、3H);Anal.Calcd.for C3033:C、62.17;H、5.74;N、7.25.Found:C、62.22;H、5.76;N、7.16。
【0063】
これによって得られたエステル(0.5g、0.86mmol)を前記製造例1.3に記載されたような方法によって加水分解した。前記加水分解の結果物である沈澱を収集し、蒸溜水で洗浄した後、メタノール−CHCl−石油エーテルからの結晶化によって精製した。
【0064】
収量0.32g(69%);融点148℃;IR(KBr):3,271、2,905、1,747、1,663cm−1H NMR(400MHz、CDOD):d、8.38(d、1H、J=2Hz)、7.84(d、1H、J=9Hz)、7.83(d、1H、J=9Hz)、7.63(d、1H、J=9Hz)、7.22(s、1H)、7.18(dd、1H、J=9、J=2Hz)、7.03(dd、1H、J=9、J=2Hz)、6.97(d、1H、J=2Hz)、6.85(d、1H、J=9.0Hz)、4.61(s、2H)、4.22(s、2H)、4.06(s、4H)、3.20(s、3H)、2.62(s、3H);13C NMR(100MHz、CDOD):d=199.2、174.3、171.1、169.7、150.2、149.9、138.0、135.9、133.3、130.9、130.8、130.7、126.3、125.8、124.0、120.0、116.2、113.8、107.1、105.8、65.3、56.4、54.3、39.1、25.2 ppm;Anal.Calcd.for C2727:C、60.33;H、5.06;N、7.82.Found:C、60.31;H、5.12;N、7.78。
【0065】
[製造例1.5]本発明による二光子励起蛍光プローブ(化学式12)の製造


【0066】
前記製造例1.4で製造された化学式11で表わされる化合物(0.15g、0.28mmol)、ブロモメチルアセテート(0.34g、2.2mmol)及びEtN(0.22g、1.7mmol)の混合物をCHCl(5ml)に入れてN下で15時間撹拌した。真空中で溶液を除去し、粗生成物を酢酸エチル/ヘキサン(3:1)を溶離液として用いるカラムクロマトグラフィーによって精製した。引き続き、メタノールを用いた再結晶によってさらに精製することで白色固体を得た。
【0067】
収量0.12g(58%);融点104℃;IR(KBr):3,257、1,754、1,708、1,663cm−1H NMR(400MHz、CDCl):d8.35(d、1H、J=2Hz)、8.18(s、1H)、7.97(dd、1H、J=9、J=2Hz)、7.87(d、1H、J=9Hz)、7.70(d、1H、J=9Hz)、7.34(d、1H、J=2Hz)、7.15(dd、1H、J=9、J=2Hz)、7.05(d、1H、J=2Hz)、6.89(dd、1H、J=9、J=2Hz)、6.84(d、1H、J=9Hz)、5.80(s、2H)、5.75(s、4H)、4.71(s、2H)、4.18(s、4H)、4.09(s、2H)、3.23(s、3H)、2.66(s、3H)、2.09(s、6H)、2.07(s、3H);13C NMR(100MHz、CDCl):d=197.9、170.1、169.7、169.7、168.0、167.7、150.1、149.2、137.3、135.9、133.0、132.4、131.6、130.3、127.0、126.7、125.3、121.0、116.7、114.1、107.8、107.7、79.5、77.4、65.9、59.6、53.7、40.4、26.7、20.9、20.8ppm;Anal.Calcd.for C363915:C、57.37;H、5.22;N、5.58.Found:C、57.32;H、5.31;N、5.52。
【0068】
[実施例1]吸光スペクトル測定
上述したように製造された化学式13で表わされる化合物に対する吸光スペクトルをHewlett−Packard8453ダイオード整列スペクトロメーター上で測定し、蛍光スペクトルを、1cm標準石英セルを備えたAmico−Bowman series2発光スペクトロメーターを用いて測定した。蛍光量子収率は、公知の方法(例えば、非特許文献12参照)によって、Coumarin307を用いて測定した。
【0069】
図1は、化学式13で表わされる化合物の一光子吸収及び発光スペクトルである。多様な溶媒中における化学式13で表わされる化合物の最大発光波長(λmax(1))及び最大蛍光波長(λmaxfl)を表1に示す。
【0070】
【表1】

【0071】
図1(a)、(b)及び表1から分かるように、溶媒極性が増加するにつれて大きな深色移動が観察されるという点は、本発明による化合物が極性プローブとして非常に有用であるということを示唆する。
【0072】
[実施例2]Mg2+濃度変化による吸光度変化測定
図2(a)及び図2(b)は、化学式7で表わされる化合物のMg2+濃度変化に対するスペクトル反応を示すグラフである。図2(a)から分かるように、Trisバッファ溶液(10mM、pH7.05)中の化学式7で表わされる化合物にMg2+を添加した時、吸収スペクトルには軽微な変化が観察された。これとは対照的に、Mg2+濃度が増加するにつれて蛍光度は急激に増加した(図2(b))。これはおそらく、金属イオン複合体による光誘起電子移動(PET)過程が遮断されるためである。100mM Mg2+の存在下で、蛍光度向上因子は、17個観測された。
【0073】
一方、ほぼ同一の結果が二光子過程に対しても観察された。図2(c)は、多様な濃度のMgCl(0〜100mM)存在下での二光子蛍光スペクトルである。さらに、図3(a)乃至図3(c)には、Ca2+(0−1000μM)存在下での化学式7で表わされる化合物に対する一光子吸収スペクトル(図3(a))、発光スペクトル(図3(b))及び二光子蛍光スペクトル(図3(c))をそれぞれ図示した。
【0074】
[実施例3]ベネシ−ヒルデブランドプロット(Benesi‐Hildebrand Plot)
化学式7で表わされる化合物のMg2+及びCa2+に対する複合体形態は、ベネシ−ヒルデブランドプロット分析法(非特許文献14参照)によって決定した。蛍光変化は、化学式7で表わされる化合物(L)と金属イオン(M)との間の1:1複合体形成によってのみ誘導されるという前提下で、総プローブ濃度及び蛍光強度は、[L]=[L]+[LM]及びF=φ[L]+φML[ML]と定義される。ここで、[L]及び[M]はそれぞれ総濃度であり、[L]及び[LM]はそれぞれL及びMの平衡濃度であり、φ及びφMLは遊離形態(free forms)及び複合形態の化学式7で表わされる化合物に対する蛍光量子収率である。もし、[M]が[L]より格段に大きい値を有すれば、ベネシ−ヒルデブランド式は、下記数式2で表わすことができる。
【0075】


【0076】
化学式7で表わされる化合物と金属イオンとの間で、1:1の金属とプローブとの複合体が形成されるならば、数式2によるデータのベネシ−ヒルデブランドプロットは線形となる(非特許文献15参照)。図4(a)及び図4(b)は、それぞれ化学式7で表わされる化合物のMg2+及びCa2+に対する結合において、1/(F−Fmin)vs1/[Mg2+]のプロットである。前記プロットが線形であることから、1:1複合体が形成されるということが分かる。
【0077】
[実施例4]解離定数の決定
pH7.05である24℃、100mM KCl及び20mM NaClの溶液中のMg2+−EGTAに対する解離定数(K)を、WinMAXC(C. Patton, Stanford University, Palo Alto, CA)プログラムを用いて計算し、計算値は略28mMであった。前記溶液中の遊離[Mg2+]水準は、K=28mMであるMg2+−EGTA緩衝溶液によって調節した(非特許文献16参照)。
【0078】
Mg2+−化学式7で表わされる化合物複合体に対するKを決定するために、24℃でHClを用いてpHを7.05に調整した、10mM Tris、100mM KCl、20mM NaCl及び1mM EGTAからなる溶液3.0mL中に、化学式7で表わされる化合物2μMを添加した後、蛍光スペクトルを記録した。引き続き、前記溶液1.5μlを廃棄し、化学式7で表わされる化合物2μM、103.6mMのMgCl、4.6mMのEGTA及び10mMのTrisを含み、pHが7.05である溶液1.5μlと置き換えた後、スペクトルを記録した。
【0079】
前者の溶液は1mMの遊離EGTAを含むが、後者の溶液は100mMの遊離Mg2+を含むため、99.95:0.05(v/v)の混合により、0.05mM遊離Mg2+の溶液となった。
【0080】
さらに、0.05mM遊離Mg2+となった溶液に対して、同様に1.5μl、3.0μl、6.0μl、6.0μl、6.0μl、6.5μl、15μl、15μl、61μl、63μl、128μl、365μl、420μl及び970μlの順に該溶液を廃棄し、該廃棄と同量の高Mg2+濃度溶液と置き換えることによって、0.1mM、0.2mM、0.4mM、0.6mM、0.8mM、1.0mM、1.5mM、2.0mM、4.0mM、6.0mM、10mM、21mM、32mM及び54mMの遊離Mg2+の溶液を得た。
【0081】
100mM KCl及び30mM MOPS中のpH7.2でのCa2+−EGTAに対する解離定数(K)は、前述したように計算し、その値は略144nMであった。多様な[Ca2+]を含む一連の補正溶液(calibration solutions)は、2種類の溶液(10mM KEGTAを含む溶液A及び10mM CaEGTAを含む溶液B)を多様な比率で混合することで得た。但し、50〜1000mM濃度はCaClを添加することで得た(非特許文献17、非特許文献18、非特許文献19、非特許文献20参照)。2種類の溶液は共に100mM KCl及び30mM MOPSを含み、pH7.2となるように調整された。
【0082】
化学式7で表わされる化合物とMg2+との間に1:1金属−リガンド複合体が形成される場合、その平衡状態は下記数式3で表される。

【0083】
ここでL及びMは、それぞれ化学式7で表わされる化合物及びMg2+である。
【0084】
総プローブ及び金属イオン濃度は、それぞれ[L]=[L]+[LM]及び[M]=[M]+[LM]と定義され、[L]及び[M]の値が与えられる場合にKは、下記数式4または数式5で表わされる。
【0085】


【0086】

【0087】
ここで、Fは、測定された蛍光強度であり、Fminは、最小蛍光強度であり、Fmaxは、最大蛍光強度である。数式5による適正曲線(図5(a))に最もよく符合されるK数値を商用のエクセルプログラムによって計算した(非特許文献21、非特許文献22参照)。
【0088】
また、二光子過程に対するK数値を決定するために、780nmの波長及び1230mWの出力に設定し(焦点平面からおおよそ10mWに該当)、モードロックされたチタン−サファイアレーザー光源(Coherent Chameleon、90MHz、200fs)によって励起されるDM IRE2 Microscope(Leica)を用いてTPEFスペクトルを得た。TPEF適正曲線(図5(b))を得て、これを数式5に近似した。
【0089】
前述した過程によってMg2+及びCa2+に対する一光子過程における解離定数を測定した結果、それぞれ1.4±0.1mM及び9.0±0.3mMである。これはMg2+及びCa2+に対する二光子過程における解離定数である1.6±0.1mM及び11±1mMと非常に類似した数値であった。この結果は、一光子過程及び二光子過程の両過程において、結合が進行する類似したメカニズムが作動するということを意味する。
【0090】
[実施例5]金属陽イオンに対する選択性測定
図6(a)は、化学式7で表わされる化合物の他の金属陽イオンに対する選択性を表わす図である。化学式7で表わされる化合物は、Mg2+、Ca2+、Zn2+及びMn2+に対しては中〜強反応を示すが、Fe2+、Cu2+及びCo2+に対しては遥かに弱い反応を示す。化学式7で表わされる化合物の金属イオン選択性は、既存のMgG及びMag−Fura−2(非特許文献23参照)に対して報告されたものと類似したものである。
【0091】
一方、遊離Mg2+の細胞内濃度(0.1〜6.0mM)は、Ca2+の細胞内濃度(10nM〜1μM)より遥かに高く、キレート化可能なZn2+は、特定領域を除いて存在しないために、前記化学式7で表わされる化合物は、Ca2+及びZn2+による干渉なしにMg2+を検出することができる。さらに、図6(b)で示すように、化学式7で表わされる化合物及び化学式7で表わされる化合物−Mg2+は、生物学的に関連性あるpH範囲内でpH変化に敏感ではないという特性を有する。
【0092】
[実施例6]常用プローブとの二光子スペクトル特性比較
緩衝溶液中の化学式7で表わされる化合物、MgG及びMag−fura−2と、Mg2+との複合体に対する二光子スペクトル特性を図7に比較して図示し、下記表2には各プローブに対する鉱物理学的特性を列挙した。
【0093】
【表2】

【0094】
1)すべてのデータは、10mM Tris緩衝溶液中から(100mM KCl、20mM NaCl、1mM EGTA、pH7.05)、50mMのMgCl・6HO存在下及び不存在下で測定された。
【0095】
2)一光子吸収及び発光スペクトルのλmax
3)二光子励起スペクトルのλmax
4)蛍光量子収率、±10%
5)10−50cms/光子(GM)中のピーク二光子断面、±15%
6)二光子活動断面
7)不検出。二光子励起蛍光強度が余りにも微弱であり断面を正確に測定できない。
【0096】
8)DMF中において、φ=0.32±0.02
9)非特許文献24参照
図7及び表2の結果から、従来の通常的なプローブよりも、本発明による化合物を用いる場合に、さらに明るいTPMイメージが得られることが分かる。
【0097】
[実施例7]本発明による二光子励起蛍光プローブを用いた細胞観察
Hep3B細胞をペニシリン/ストレプトマイシン及び10%ウシ胎児血清(FBS)を添加したDulbecco’s modified Eagle’s medium(DMEM)中で培養した。前記培養は、37℃ COインキュベータ中で行った。Hep3B細胞は、無血清培地で3回洗浄され、その後、化学式13で表わされる化合物−Mg2+複合体2μMと共に、37℃で30分間、無血清培地中で培養された。前記Hep3B細胞を無血清培地で3回洗浄し、無血清培地中で15分間さらに培養した後、観察した。
【0098】
化学式13で表わされる化合物で標識されたHep3B細胞の二光子蛍光顕微鏡イメージは、×100オイル物体、穿孔数(NA)=1.30を有するスペクトル共焦点及び多光子顕微鏡(Leica TCS SP2)を用いて得た。二光子蛍光顕微鏡イメージは、モードロックされたチタン−サファイアレーザー光源(Coherent Chameleon、90MHz、200fs)として波長780nmでプローブを励起させることで得た。360〜620nm、360〜460nm及び500〜620nmの範囲の波長でイメージを得るために、信号を400Hzスキャン速度で9ビット、512×512ピクセルとして収集するために内部PMTが用いられた。
【0099】
図8(a)乃至図8(c)は、化学式13で表わされる化合物で標識されたHep3B細胞のTPMイメージである。Tris緩衝溶液中の化学式7で表わされる化合物−Mg2+の蛍光量子収率(φ=0.58)及びDMF中の化学式13で表わされる化合物の蛍光量子収率(φ=0.32)は、Tris緩衝溶液中の化学式7で表わされる化合物の蛍光量子収率(φ=0.04)及び化学式13で表わされる化合物の蛍光量子収率(φ=0.07)より遥かに大きいために(表2)、細胞から発光されたTPEFは、大部分が細胞内の化学式7で表わされる化合物−Mg2+複合体または細胞膜結合プローブに起因したものである。DMF中の化学式13で表わされる化合物は、後者に対する立派なモデルであり、これはλmaxfl数値が類似しているためである(図8(d)参照)。このような説明に対する追加的な証拠は、2mMエチレンジアミンテトラ酢酸存在下の10μMカルシマイシン処理以後に化学式13で表わされる化合物−Hep3B細胞から放出される無視できるほどのTPEFによって示され、前記TPEFは、100mM MgCl存在下の10μMカルシマイシン処理によって増加する。さらに、360〜620nmの範囲の波長で収集されたイメージは、集中地点(intense spot)及び明るい部位を表わし、このとき、TPEF最大値は、λ=440nm(符号21で示す線)及び498nm(符号22で示す線)で表われる(図8(d))。
【0100】
表2から分かるように、Tris緩衝溶液中で測定された発光スペクトルと比べると、青色バンドは顕著に青色−移動されたが、赤色バンドはほぼ同一であった。2種類のスペクトルは、それぞれ、439nm(図8(d)の符号23で示す線)及び488nm(図8(d)の符号24で示す線)、426nm(図8(d)の符号25で示す線)及び498nm(図8(d)の符号26で示す線)で最大値を有する2種類のガウス関数(Gaussian functions)で近似することができる。分離されたスペクトルのピーク位置は類似しており、これはプローブが異なる極性を有して2種類の領域に存在することができるということを意味する。さらに、集中地点は、励起状態の寿命が3.3nsであり、これは2.2nsに集中された寿命分布曲線の最上端より遥かに長いものである。このような結果から、本発明によるプローブは2種類の相異なる環境中に存在し、このうちさらに極性が強いものは細胞内に(短寿命を有する赤色発光)、極性が弱いものは細胞膜に結合されて(長寿命を有する青色発光)存在することが推測できる。
【0101】
本発明による二光子励起蛍光プローブを用いる場合、細胞膜結合プローブから起因する誤差は、細胞内の化学式7で表わされる化合物−Mg2+複合体からのTPEFを測定することにより最小化することができる。図8(d)に示すように、分離されたガウス関数中で短波長バンド(符号23で示す線)は、λが500nmで基線にまで減少する。従って、細胞膜結合プローブから発光されたTPEFはλ>500nmでは無視できるほどである。一方、DMF中の化学式13で表わされる化合物をモデルとして用いる場合には、500nmを超える発光バンドの尾部分は誤差を誘発することもあるが、λ>500nmでの尾部分領域は、全体発光バンドの約5%であるため、重要な考慮事項にならない。結果的に、500〜620nmで収集されたTPEFイメージは、均等に分布する一方、短波長である360〜460nmを用いて収集されたTPEFイメージは集中地点を見せる。従って、500〜620nm範囲の波長を用いる場合には、細胞膜結合プローブによる寄与度を最小化しながらMg2+イオンを測定することができる。
【0102】
[実施例8]細胞内遊離Mg2+イオン濃度の測定
休止状態の細胞内遊離Mg2+イオン濃度を下記数式1によって測定した。
【0103】
[Mg2+]=K[(F−Fmin)/(Fmax−F)] ・・・(数式1)
ここで、Kdは、本発明による二光子励起蛍光プローブとマグネシウムイオンとの解離定数であり、Fは、測定された二光子蛍光強度であり、Fmin及びFmaxは、それぞれ最小蛍光強度及び最大蛍光強度である。
【0104】
最小蛍光強度(Fmin)の測定は、2mMのEDTA存在下で10μMカルシマイシンを用いて細胞内Mg2+を枯渇させることで決定し、最大蛍光強度(Fmax)は、100mM MgCl存在下で10μMカルシマイシンを用いて測定した(非特許文献25、非特許文献26参照)。
【0105】
図9(a)乃至図9(c)は、それぞれ、化学式13で表わされる化合物(2μM)で標識されたHep3B細胞の二光子蛍光イメージ(Fの測定、図9(a))、2mMのEDTA存在下で10μMカルシマイシンを処理した後、化学式13で表わされる化合物(2μM)に標識されたHep3B細胞の二光子蛍光イメージ(Fminの測定、図9(b))、及び100mM MgCl存在下で10μMカルシマイシンを処理した後、化学式13で表わされる化合物(2μM)に標識されたHep3B細胞の二光子蛍光イメージ(Fmaxの測定、図9(c)である。
【0106】
休止状態のHep3B細胞において、測定された細胞内ガラスMg2+イオンの濃度は、0.65±0.10mMであり、このような数値は、既存文献に報告されたものとよく一致する値である(例えば、非特許文献27、非特許文献28参照)。
【0107】
近年開発されたプローブである2,3−ジシアノヒドロキノン(DCHQ)を用いてTPMによって細胞内マグネシウムイオンを定性的に分析した結果は報告されている(非特許文献29参照)。しかしながら、TPMによる細胞内遊離Mg2+の定量的な測定は、本発明が最初の例である。
【0108】
[実施例9]マウス海馬スライスのイメージ化
本発明による二光子励起蛍光プローブが組職の深層観察に有用であるという点を立証するために、生後3日のマウスから得た海馬スライスを37℃で30分間5μMの化学式13で表わされる化合物と共に培養した。図10(a)は、新生児マウスの海馬スライスの明背景イメージ(brightfield image)であり、歯状回同様に、CA1及びCA3領域の拡大図である(10倍)。図10(b)は、同一の倍率のTPMイメージであり、100〜300μmの深さで、同一領域にMg2+が分布することが分かる。一方、前記CA3領域の場合、Zn2+が発光に寄与した可能性を排除することはできないが、同一の領域をさらに高い倍率で観察した図10(c)及び図10(d)を参照すれば、CA1領域の錐体ニューロン層でMg2+分布が観察され、このような領域には、Zn2+がほとんど存在しないという点を勘案すれば、本発明による二光子励起蛍光プローブがMg2+に対して高い選択性を有するということが分かる。さらに、図10(d)を参照すれば、本発明による二光子励起蛍光プローブは、深層組職内部の核に存在するMg2+までも探知することができるという点が分かる。
【0109】
本発明による二光子励起蛍光プローブは、上述した装置によると、細胞内マグネシウムイオンのリアルタイムイメージングに非常に適する。これはMg2+に対する二光子励起蛍光(TPEF)において、17倍以上の向上効果を示し、これは従来の通常的なプローブに比べて7倍以上の高い数値である。従って、細胞を染色する染料の量を顕著に減らすことができる。また、染料の分子量が小さくて細胞内への染色性に非常に優れ、深層組職内部に存在するMg2+のモニタリングにも非常に適し、細胞内Mg2+を定性的だけでなく、定量的にも測定できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1】本発明による二光子励起蛍光プローブに対する一光子吸収スペクトル(a)及び発光スペクトル(b)を測定した結果を示すグラフ。
【図2】本発明による二光子励起蛍光プローブのMg2+濃度変化に対する一光子吸収スペクトル(a)、発光スペクトル(b)及び二光子蛍光スペクトル(c)のグラフ。
【図3】本発明による二光子励起蛍光プローブのCa2+濃度変化に対する一光子吸収スペクトル(a)、発光スペクトル(b)及び二光子蛍光スペクトル(c)を示すグラフ。
【図4】それぞれ本発明による二光子励起蛍光プローブのMg2+(a)及びCa2+(b)に対する結合において、1/(F−Fmax)vs1/[Mg2+]のプロットを示すグラフ。
【図5】本発明による細胞内マグネシウムのリアルタイムモニタリング方法において、数式5による適正曲線を示すグラフ(a)及び二光子励起蛍光適正曲線(b)を示すグラフ。
【図6】本発明による二光子励起蛍光プローブのMg2+以外の他の金属陽イオンに対する選択性(a)、及びpH変化による蛍光強度(b)を示すグラフ。
【図7】本発明による二光子励起蛍光プローブとMg2+との複合体及び従来技術によるプローブとMg2+との複合体に対する二光子スペクトル特性を比較図示した図面。
【図8】Hep3B細胞を本発明による二光子励起蛍光プローブに標識した後、360〜620nm(a)、360〜460nm(b)及び500〜620nm(c)の波長を用いて得た二光子顕微鏡写真。
【図9】それぞれ本発明による二光子励起蛍光プローブに標識されたHep3B細胞の二光子蛍光イメージ(a)、2mMのEDTA存在下で10μMカルシマイシンを処理した後、本発明による二光子励起蛍光プローブに標識されたHep3B細胞の二光子蛍光イメージ(b)及び100mM MgCl存在下で10μMカルシマイシンを処理した後、本発明による二光子励起蛍光プローブに標識されたHep3B細胞の二光子蛍光イメージ(c)。
【図10】新生児マウスの海馬スライスを本発明による二光子励起蛍光プローブで染色した後観察した10倍倍率の明背景イメージ(a)、10倍倍率の二光子顕微鏡観察写真(b)、40倍倍率の二光子顕微鏡観察写真(c)及び100倍倍率の二光子顕微鏡観察写真(d)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式1で表される化合物からなることを特徴とする、細胞内マグネシウムのリアルタイムモニタリング用二光子励起蛍光プローブ。



・・・(1)
(式中、Rは、HまたはCHOCOCHである。)
【請求項2】
化学式1で表される化合物からなる細胞内マグネシウムイオンのリアルタイムモニタリング用二光子励起蛍光プローブの製造方法であって、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド・HClと、4−ジメチルアミノピリジンと、化学式2で表わされる化合物と、化学式3で表わされる化合物とを反応させる段階を含むことを特徴とする二光子励起蛍光プローブの製造方法。



・・・(1)
(式中、Rは、HまたはCHOCOCHである。)



・・・(2)



・・・(3)
【請求項3】
前記化学式2で表わされる化合物は、メチルブロモアセテートと、NaHPO、NaIと、化学式4で表わされる化合物とを反応させて製造されるものであることを特徴とする請求項2記載の二光子励起蛍光プローブの製造方法。



・・・(4)
【請求項4】
前記化学式4で表わされる化合物は、CHNH・HCl、Na、NaOH、HO及び化学式5で表わされる化合物を反応させて製造されるものであることを特徴とする請求項3記載の二光子励起蛍光プローブの製造方法。



・・・(5)
【請求項5】
前記化学式5で表わされる化合物は、化学式6で表わされる化合物と共にHBrを反応させて製造されるものであることを特徴とする請求項4記載の二光子励起蛍光プローブの製造方法。



・・・(6)
【請求項6】
請求項1記載の二光子励起蛍光プローブを観察対象となる細胞内に注入し、該二光子励起蛍光プローブから放出される二光子励起蛍光をイメージ化する段階を含むことを特徴とする細胞内マグネシウムのリアルタイムモニタリング方法。
【請求項7】
前記二光子励起蛍光プローブは、波長が500〜620nmの範囲で励起されることを特徴とする請求項6記載の細胞内マグネシウムのリアルタイムモニタリング方法。
【請求項8】
数式1を用いて前記細胞内マグネシウムイオンの濃度を定量的に測定することを特徴とする請求項6に記載の細胞内マグネシウムのリアルタイムモニタリング方法。
[Mg2+]=K[(F−Fmin)/(Fmax−F)] ・・・(数式1)
(式中、Kは前記二光子励起蛍光プローブとマグネシウムイオンとの解離定数、Fは測定された二光子蛍光強度、Fmin及びFmaxはそれぞれ最小蛍光強度及び最大蛍光強度である。)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−292453(P2008−292453A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−25643(P2008−25643)
【出願日】平成20年2月5日(2008.2.5)
【出願人】(505176556)コリア ユニバーシティ インダストリアル アンド アカデミック コラボレイション ファウンデーション (29)
【Fターム(参考)】