説明

二室式容器兼用注射器の製造方法及びフロントストッパー

【課題】滅菌性及び生産性が高く、正確な分量の凍結乾燥製剤が充填された二室式容器兼用注射器の製造方法を提供する。
【解決手段】カートリッジ内にエンドストッパーとミドルストッパーとによって溶解液を封止する溶解液封止工程S10と、カートリッジ内に、ミドルストッパーとフロントストッパーとによって凍結乾燥前の注射薬剤溶液を先端側室内に残存する内部気体と共に封止する注射薬剤封止工程S20と、注射薬剤溶液を凍結乾燥製剤とする凍結乾燥工程S30とを設け、凍結乾燥工程S30に、カートリッジを設置した棚と共に外部雰囲気を冷却する冷却処理S31と、該冷却処理S31後に外部雰囲気の圧力を内部気体の圧力よりも低下させてフロントストッパーをカートリッジに対して半打栓状態として凍結乾燥を行う圧力低下処理S32と、凍結乾燥後半打栓状態のフロントストッパーを、カートリッジ内に押し込む密閉処理S33とを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二室式容器兼用注射器の製造方法及び当該二室式容器兼用注射器に使用されるフロントストッパーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、新しく開発される注射薬剤としては、制癌剤、抗癌剤等の他に、難病の治療や予防に使用されるものが多い。これら注射薬剤は高価なものが多く、また、投与作業中の取り扱いに注意をしなければならないものが多い。
これら注射薬剤は保存中の薬効の安定性を重視しなければならないものが多い。よって、注射薬剤における薬効成分を長期にわたって安全に安定して保存すべく、注射薬剤の薬効成分を凍結乾燥させて粉末状にした凍結乾燥製剤を調製し、使用時においてこの凍結乾燥製剤を溶解液や懸濁液(以下、単に「溶解液」と総称する)によって溶解、懸濁することで注射薬剤を調製し、患者に投与する方法を採用している。
【0003】
上記薬効成分を凍結乾燥製剤とするには、溶液に調製した注射薬剤、即ち、注射薬剤溶液をバイアルに充填し、低温、真空の装置の中でバイアルごと凍結乾燥処理を施す。これにより注射薬剤は粉末状の凍結乾燥製剤となり、バイアルをゴム栓とアルミキャップとによって密封することで保存される。そして、患者に対して注射薬剤を投与する際には、凍結乾燥製剤とは別に容器に無菌的に充填された溶解液を、空の注射器により吸引し、バイアルのゴム栓に当該注射器の注射針を穿刺して溶解液をバイアル内に注入する。そして、バイアル内において凍結乾燥製剤を溶解、又は懸濁することで注射薬剤を調製し、この注射薬剤を再度注射器内に吸引することで、初めて患者に投与できる準備が完了することになる。
【0004】
このように、溶解液を容器から注射器へ吸引する作業、この注射器から凍結乾燥製剤が密封されたバイアルに溶解液を注入する作業、バイアル内で調製された注射薬剤を再度注射器に吸引する作業を段階的に行わなければならないため、大変な手間がかかる上、注射薬剤を移し替えている間に注射薬剤や注射器具が細菌や異物等に汚染される危険性が高いと考えられている。
【0005】
このような問題を解決するために開発されたものが二室式容器兼用注射器である(例えば特許文献1参照)。この二室式容器兼用注射器は、カートリッジの先端側にフロントストッパーが嵌入されており、カートリッジ内の中央部に嵌入されたミドルストッパーによって該カートリッジ内部が前後2室に分割されている。なお、このカートリッジにおけるミドルストッパーよりも先端側の部分は、カートリッジの内周の一部が拡径するようにして形成されたバイパス部が形成されている。このミドルストッパーの先端側の前室には、凍結乾燥製剤が充填、封入されており、ミドルストッパーの後端側の後室には溶解液が充填されている。なお、この後室内の溶解液は、カートリッジ内のさらに後端側に嵌入されたエンドストッパーによって封入されている。
【0006】
この二室式兼用注射器を使用する際には、カートリッジの先端側に設けられたフロントアセンブリに注射針を取り付けるとともに、カートリッジの後端側からプランジャーロッドを挿入してエンドストッパーに捩じ込むことで固定する。そして、このエンドストッパーを押し込んでいくと、エンドストッパーとミドルストッパーとの間に封入された溶解液がこれら2つのストッパーとともに前進する。ミドルストッパーがカートリッジにおける上記バイパス部内に入ると、当該バイパス部によってミドルストッパーによる溶解液の密封が解除される。これによって、溶解液はバイパス部を通過して凍結乾燥製剤が充填された前室に流入し、溶解液によって凍結乾燥製剤が溶解されることで、患者に投与される注射薬剤が完成する。
【0007】
この二室式容器兼用注射器によれば、プランジャーロッドを押し込む動作のみで、カートリッジ内にて凍結乾燥製剤と溶解液とを混合させる作業を行うことができる。したがって、操作が簡便なばかりでなく、混合作業が注射器の中で行われるクローズドシステムであるため、注射薬剤が外気に触れることはなく、細菌や異物による注射薬剤の汚染を回避することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公平4−46152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、上記二室式容器兼用注射器における凍結乾燥製剤をカートリッジ内に充填する作業は、例えば投与すべき凍結乾燥製剤の分量を秤量した上で行なうことになるが、当該凍結乾燥製剤は粉末状であるため液体と比べて精密な秤量が困難であるという問題があった。これらの凍結乾燥製剤は、人体に投与されるという薬剤の性質上、正確な量が充填されることが必須の条件となっている。
【0010】
この点、カートリッジ内に注入した液体の注射薬剤(以下、注射薬剤溶液と称する)に対してカートリッジごと凍結乾燥処理を施すという手法も考えられる。この場合、凍結乾燥処理時は、カートリッジの内外を連通状態として注射薬剤にカートリッジ外部雰囲気を曝す必要がある一方、凍結乾燥処理時以外は、カートリッジ内部の滅菌性を担保すべく、該カートリッジ内部を密封状態として注射薬剤又は凍結乾燥製剤が外部雰囲気との接触を避けなければならない。
【0011】
さらに、凍結乾燥を行う場合には一度の凍結乾燥工程に数十時間を要するため、作業の効率上の観点から、大量のカートリッジに対して同時に凍結乾燥をすることが好ましい。この場合、所定本数の注射薬剤溶液入りのカートリッジが蓄積されるまである程度の時間を要するため、カートリッジへの注射薬剤溶液の注入作業と該注射薬剤溶液への凍結乾燥作業を連続的に行うことができない。したがって、注射薬剤を注入したカートリッジは、ある程度の時間保管できるように密封性の高いものでなければならない。ところが、従来においては、カートリッジに注射剤を注入して密封状態とした後、凍結乾燥処理時のみにカートリッジ内外を連通状態とする技術が確立されておらず、滅菌性の高い二室式容器兼用注射器を生産性高く製造することができないという問題があった。
【0012】
この発明は上記課題に鑑みてなされたものであって、滅菌性及び生産性が高く、正確な分量の凍結乾燥製剤が充填された二室式容器兼用注射器の製造方法、並びに、該二室式容器兼用注射器の製造方法に使用されるフロントストッパーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するため、この発明は以下の手段を提案している。
即ち、本発明に係る二室式容器兼用注射器の製造方法は、カートリッジの後端側に嵌入されたエンドストッパーとミドルストッパーとの間に溶解液が封止され、前記ミドルストッパーと前記カートリッジの先端側に嵌入されたフロントストッパーとの間に凍結乾燥製剤が封止された二室式容器兼用注射器の製造方法であって、前記カートリッジ内に前記エンドストッパーと前記ミドルストッパーとによって前記溶解液を封止する溶解液封止工程と、前記カートリッジ内に、前記ミドルストッパーと前記フロントストッパーとによって凍結乾燥前の注射薬剤溶液を先端側室内に残存する内部気体と共に封止する注射薬剤封止工程と、前記注射薬剤溶液を凍結乾燥させて前記凍結乾燥製剤とする凍結乾燥工程とを備え、該凍結乾燥工程は、
前記カートリッジを設置した棚を含む外部雰囲気を冷却し注射薬剤溶液を凍結するための冷却処理と、該冷却処理後に、前記外部雰囲気の圧力を前記内部気体の圧力よりも低下させることで、前記フロントストッパーを前記カートリッジに対して半打栓状態とし、凍結乾燥する圧力低下処理と、その後半打栓状態の前記フロントストッパーを、前記カートリッジ内に押し込む密閉処理とを備えることを特徴とする。
【0014】
このような特徴の二室式容器兼用注射器の製造方法によれば、注射薬剤溶液が密封されたカートリッジを設置した棚や外部雰囲気を冷却した後、当該外部雰囲気の圧力をカートリッジ内におけるミドルストッパーとフロントストッパーとの間の内部気体よりも低下させることで、これら外部雰囲気と内部気体との間に圧力差を生じさせる。そして、この圧力差がフロントストッパーに作用することで、該フロントストッパーはカートリッジの先端側に向かって移動し、その結果、フロントストッパーがカートリッジに対して半打栓状態となる。これにより、カートリッジ内外が連通状態となるため、冷却された外部雰囲気や棚から熱伝導及び輻射並びに減圧により該注射薬剤溶液を凍結乾燥させることができる。また、凍結乾燥が終了した後には、フロントストッパーをカートリッジ内に押し込むことで注射薬剤溶液が凍結乾燥されてなる凍結乾燥製剤を密封状態にて保持することができる。
【0015】
また、本発明に係る二室式容器兼用注射器の製造方法においては、前記凍結乾燥工程が、前記圧力低下処理と前記密閉処理との間に、前記外部雰囲気を換気する換気処理を備えることを特徴とする。
【0016】
これにより、注射薬剤溶液から蒸発した水分を外部雰囲気から除去することができるため、カートリッジ内部に水分が残存することを避けて、凍結乾燥製剤の品質を高く維持することができる。
【0017】
さらに、本発明に係る二室式容器兼用注射器の製造方法において、前記溶解液封止工程は、前記エンドストッパーが嵌入された前記カートリッジ内における該エンドストッパー上に溶解液を注入し、前記溶解液に空気が含まれないように、前記カートリッジに前記ミドルストッパーを嵌入して前記溶解液を封止し、その後、蒸気による滅菌処理を施す工程であることを特徴とする。
【0018】
これによって、カートリッジ内に確実に溶解液を封止することができ、かつ、溶解液の無菌性を担保することができる。
【0019】
また、本発明に係る二室式容器兼用注射器の製造方法において、前記注射薬剤封止工程は、前記カートリッジ内における前記ミドルストッパー上に前記注射薬剤を注入し、その後、前記カートリッジに前記フロントストッパーを嵌入して、前記注射薬剤を前記内部気体とともに封止する工程であることを特徴とする。
これにより、カートリッジ内に注射薬剤溶液及び内部気体を密封状態で保持することができる。
【0020】
さらに、本発明に係る二室式容器兼用注射器の製造方法は、前記凍結乾燥工程の後に、前記カートリッジにフィンガーグリップとフロントアセンブリを取り付ける組み立て工程を備えることを特徴とする。
これにより、完成した二室式容器兼用注射器を得ることができる。
【0021】
また、本発明に係るフロントストッパーは、上記いずれかの二室式容器兼用注射器の製造方法に使用され、前記カートリッジ内の先端側室内の内部気体と該カートリッジ外の外部雰囲気との圧力差によって、該カートリッジ内における嵌入状態から前記カートリッジの端部における半打栓状態に移動するフロントストッパーであって、前記カートリッジの内径よりも大きな外径を有し、前記カートリッジ内に嵌入された際に外径が弾性収縮して前記カートリッジの内周面に密着する密閉用リブと、該密閉用リブよりも後端側に位置し、前記カートリッジの内径と略同一の外径を有する位置決め用リブと、前記位置決め用リブから前記密閉用リブにわたって形成され、前記半打栓状態時に前記カートリッジの内外を連通させる連通溝とを備えることを特徴とする。
【0022】
このような特徴のフロントストッパーによれば、カートリッジに嵌入された状態においては密閉用リブがカートリッジの内周面と密着することにより、該カートリッジ内の気密液密性を担保することができる。また、カートリッジの内外の圧力差によってフロントストッパーがカートリッジの先端まで移動して半打栓状態となった際には、連通溝によってカートリッジ内外が連通される。これによって、カートリッジ内部の注射薬剤溶液に対して確実に凍結乾燥を施すことができる。また、半打栓状態において密閉用リブがカートリッジ外部に脱出した場合であっても、位置決め用リブはカートリッジ内に入り込んだ状態となるため、フロントストッパーがカートリッジから不用意に外れてしまうことはない。したがって、凍結乾燥工程後の密閉工程を容易に行うことができる。
【0023】
また、本発明に係るフロントストッパーにおいては、前記密閉用リブが、後端側から先端側に向かうに従って漸次拡径するとともに、周方向にわたって延在する傾斜面を備えていることを特徴とすることが好ましい。
これにより、密閉用リブがカートリッジから完全に脱出する前に連通溝によってカートリッジ内外が連通状態となった場合であっても該密閉用リブの弾性及び傾斜面によって、密閉用リブのカートリッジからの脱出を促すことができる。このように密閉用リブがカートリッジ内部から脱出することで、該密閉用リブがカートリッジの先端に載置されるため、半打栓状態時のフロントストッパーの安定性を向上させ、凍結乾燥を確実に行うことができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の二室式容器兼用注射器の製造方法及びフロントストッパーによれば、注射薬溶液を凍結乾燥させる際のみ、カートリッジ内外を容易に連通状態とすることができるため、滅菌性及び生産性が高く、正確な分量の凍結乾燥製剤が充填された二室式容器兼用注射器を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施形態に係る二室式容器兼用注射器の概略構成図である。
【図2】(a)はフロントストッパーの側面図、(b)はフロントストッパーを後端側から見た図である。
【図3】実施形態に係る二室式容器兼用注射器の製造方法のフローチャートである。
【図4】溶解液封止工程を説明する図である。
【図5】注射薬剤封止工程を説明する図である。
【図6】凍結乾燥工程を説明する図でである。
【図7】半打栓状態のフロントストッパーを説明する側面図である。
【図8】凍結乾燥後の密閉処理工程を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。まず、実施形態に係る二室式容器兼用注射器の製造方法により製造される二室式容器兼用注射器(以下、単に「容器兼用注射器と称する」)1について図1を用いて説明する。
【0027】
図1に示すように、容器兼用注射器1は、カートリッジ2と、その先端側(図1における上側)に取り付けられたフロントアセンブリ3と、カートリッジ2の後端側の外周に嵌着された合成樹脂製のフィンガーグリップ4と、カートリッジ2内に先端側から順に嵌入されたフロントストッパー5、ミドルストッパー6及びエンドストッパー8とを備えている。
【0028】
また、フロントストッパー5とミドルストッパー6との間には凍結乾燥製剤Sが封入されており、ミドルストッパー6とエンドストッパー8との間には溶解液Lが封入されている。なお、カートリッジ2におけるミドルストッパー6の配置箇所の先端側には、該カートリッジ2の内周面の一部が拡径するようにして形成されたバイパス部2aが設けられている。
【0029】
上記凍結乾燥製剤Sは、注射薬剤溶液(薬効成分)Mに凍結乾燥処理を施すことで粉末状に調製したものであり、上記溶解液Lはこの凍結乾燥製剤Sを溶解又は懸濁して注射薬剤溶液を再調製するために使用されるものである。
【0030】
この容器兼用注射器1においては、図示しないプランジャーロッドによりエンドストッパー8を先端側に向かって押し込んでいくと、エンドストッパー8とミドルストッパー6との間に封入された溶解液Lがこれらエンドストッパー8及びミドルストッパー6とともに前進する。そして、ミドルストッパー6がカートリッジ2における上記バイパス部2aに至ると、当該バイパス部2aによってミドルストッパー6による溶解液Lの密封が解除される。これによって、溶解液Lはバイパス部2aを通過して凍結乾燥製剤Sが充填された側に流入し、この溶解液Lによって凍結乾燥製剤Sが溶解されることで、患者に投入される注射薬剤が完成する。これにより、注射薬剤を患者に投与可能な状態となる。
【0031】
ここで、フロントストッパー5の構成についてより詳細に説明する。
フロントストッパー5は、図1に示すように、カートリッジと同様の中心軸線Oを有する略円筒形状をなしており、例えばブチルゴム等の薬液に耐食性を備えた医療用ゴムから成形されている。
【0032】
このフロントストッパー5は、図2に示すように、その外周面に後端側から先端側に向かって順に、位置決め用リブ5a、第一密閉用リブ5b及び第二密閉用リブ5cが形成されている。これら位置決め用リブ5a、第一密閉用リブ5b及び第二密閉用リブ5cは、フロントストッパー5の外周面が拡径するようにして形成されており、即ち、周方向全域にわたって延在するリブ状をなしている。
【0033】
位置決め用リブ5aの外径は、カートリッジ2の内径と略同一に設定されている。第一密閉用リブ5b及び第二密閉用リブ5cの外径は、カートリッジ2の内径よりも大きく設定されている。このような第一密閉用リブ5b及び第二密閉用リブ5cは、弾性縮径することによってカートリッジ2内に嵌入され、これら第一密閉用リブ5b及び第二密閉用リブ5cがカートリッジ2の内周面に密着することによって、該フロントストッパー5よりも後端側の気密液密性が担保される。
【0034】
また、位置決め用リブ5aと第一密閉用リブ5bとの間には、これら位置決め用リブ5a及び第一密閉用リブ5bよりも小径となる第一谷部5dが形成されており、第一密閉用リブ5bと第二密閉用リブ5cとの間には、これら第一密閉用リブ5bと第二密閉用リブ5cよりも小径となる第二谷部5eが形成されている。
【0035】
さらに、上記第一密閉用リブ5bの外縁は、中心軸線Oを含む断面において、該中心軸線Oの径方向外側に向かって凸となる円弧線状をなしており、これによって、第一密閉用リブ5bには、後端側から先端側に向かうに従って中心軸線Oの径方向外側に漸次拡径するとともに、中心軸線Oの全周にわたって延在する傾斜面5fが形成されている。なお、本実施形態においては、この傾斜面5fが中心軸線Oを含む断面において円弧線状をなしているが、これに限定されず、中心軸線Oに対して傾斜する直線状をなしていてもよい。
【0036】
そして、本実施形態のフロントストッパー5には、その外周面に後端側から先端側に向かって延在する連通溝5gが周方向に等間隔をあけて複数(本実施形態では4つ)形成されている。これら連通溝5gは、フロントストッパー5の後端、即ち、位置決め用リブ5aから第一密閉用リブ5bにわたって形成されており、即ち、連通溝5gは、フロントストッパーの後端及び径方向外側に向かって開口している。
なお、本実施形態においては、上記連通溝5gは、第一密閉用リブ5bの中心軸線O方向略中央まで延びており、さらに、側面視において略矩形状をなしている。
【0037】
次に、上記構成の容器兼用注射器1の製造方法について、図3のフローチャートを参照して順を追って説明する。この製造方法は、主として溶解液封止工程S10と、注射薬剤封止工程S20と、凍結乾燥工程S30と、組み立て工程S40とを備えている。
【0038】
まず、図4(a)に示すように、後端側にエンドストッパー8が嵌入されたカートリッジ2を準備する(S1)。そして、このエンドストッパー8を備えたカートリッジ2に対して、溶解液封止工程S10が施される。なお、溶解液封止工程S10は、クリーンルームR1内で行われる。
【0039】
この溶解液封止工程S10においては、まず、カートリッジ2の先端側を上方に向けた状態で、当該カートリッジ2内部に溶解液Lを注入する(S11)。この際、カートリッジ2内部の後端側がエンドストッパー8に閉塞されていることにより、溶解液Lがカートリッジ2の内部においてエンドストッパー8上に注入されることになる。
【0040】
続いて、カートリッジ2の先端側からミドルストッパー6を嵌入し(S12)、溶解液Lを当該ミドルストッパー6とエンドストッパー8との間に封止する。この作業は、ミドルストッパー6が嵌入されるカートリッジ2内部の空気を吸引しながら、即ち、カートリッジ2内部を真空状態としながら行われる。これによって、ミドルストッパー6とエンドストッパー8との間に空気が入り込んでしまうことを回避し、図4(b)に示すように、これらミドルストッパー6とエンドストッパー8との間に溶解液Lのみを封止することができる。即ち、このようなバブルフリー充填を施すことによって、ミドルストッパー6とエンドストッパー8との間の溶解液Lに気泡が混入してしまうことを回避しているのである。
そして、このように溶解液Lが封止されたカートリッジ2に対して高圧蒸気滅菌を施す(S13)。これによって、溶解液封止工程S10が完了する。
【0041】
次に、上記のように溶解液Lが封止されたカートリッジ2に対して、注射薬剤封止工程S20が施される。この注射薬剤封止工程S20も、上記溶解液封止工程S10と同様、クリーンルームR1内で行われる。
この注射薬剤封止工程S20においては、カートリッジ2の先端側を上方に向けた状態で、当該カートリッジ2内部に注射薬剤溶液Mを注入する(S21)。この際、カートリッジ2内部の中心軸線O方向略中央がミドルストッパー6に閉塞されていることにより、図5(a)に示すように、注射薬剤溶液Mがカートリッジ2の内部においてミドルストッパー6上に注入されることになる。
【0042】
続いて、図5(b)に示すように、カートリッジ2の先端側からフロントストッパー5を嵌入し(S22)、注射薬剤溶液Mを当該フロントストッパー5とミドルストッパー6との間に注射薬剤溶液Mを封止する。この際、注射薬剤溶液Mとともに、カートリッジ2のフロントストッパー5とミドルストッパー6との間には、クリーンルームR1内の気体も封止され、即ち、カートリッジ2内には注射薬剤溶液Mと内部空気Aとが封止される。これによって、注射薬剤封止工程S20が完了する。
【0043】
次に、クリーンルームR1内にて、上記の溶解液封止工程S10及び注射薬剤封止工程S20を経たカートリッジ2がタブ(図示省略)に収納される。当該タブ内には、複数のカートリッジ2を保持可能なネストが設けられており、溶解液封止工程S10及び注射薬剤封止工程S20を経たカートリッジ2が順次タブ内に収納されていく。そして、所定の数のカートリッジ2が蓄積された時点で、タブが密閉され、即ち、複数のカートリッジ2が密閉収納される(S2)。
【0044】
そして、上記のように複数のカートリッジ2が収納されたタブは、凍結乾燥機室R2に移送され、当該凍結乾燥機室R2内にてタブが開封される(S3)。このように、移送時にタブ内に密閉収納されていることにより、カートリッジ2の滅菌性を保持することができる。
【0045】
続いて、凍結乾燥機室内R2において凍結乾燥工程S30が行われる。この凍結乾燥工程S30は、カートリッジ2の先端側が上側を向くように該カートリッジ2が配置された状態で行われる。
この凍結乾燥工程S30においては、まず、凍結乾燥機室R2内の温度、即ち、カートリッジ2を設置した棚及び外部雰囲気を冷却する冷却処理S31が行われる。なお、この外部雰囲気冷却処理においては、カートリッジ2を設置した棚温度及び外部雰囲気を−40℃以下、好ましくは−50℃まで冷却することが好ましい。これによって、カートリッジ2内の溶解液L及び注射薬剤溶液Mが凍結する。
【0046】
そして、カートリッジ2を設置した棚や外部雰囲気が十分に冷却された後、凍結乾燥機室R内を減圧させることによって当該外部雰囲気の圧力を低下させる圧力低下処理S32が行われる。この際、外部雰囲気の圧力の値は、カートリッジ2内のミドルストッパー6とフロントストッパー5との間における内部気体Aの圧力よりも十分に低下させられる。これによって、カートリッジ2内に嵌入されているフロントストッパー5には、内部気体Aと外部雰囲気との圧力差が作用し、即ち、図6の左側に示すように、フロントストッパー5に対してカートリッジ2の先端側(上方側)に向かっての圧力Pが作用する。
【0047】
このようにフロントストッパー5に圧力Pが作用することで、該フロントストッパー5は上方に向かって、即ち、カートリッジ2の先端側に向かって移動する。そして、フロントストッパー5がカートリッジ2の先端に達すると、詳しくは図7に示すように、第一密閉用リブ5b及び第二密閉用リブ5cがカートリッジ2内から脱出するとともに、連通溝5gがカートリッジ2外部に露出することで、該連通溝5gを介してカートリッジ2の内外が連通状態となる。即ち、フロントストッパー5がカートリッジ2に対して半打栓状態となることにより、カートリッジ2内外の圧力が平衡状態となる。これによって、フロントストッパー5に作用した圧力Pが消失するため、該フロントストッパー5の移動は、位置決め用リブ5aで制止され、カートリッジ2の先端にて停止する。
【0048】
また、フロントストッパー5がカートリッジ2の先端まで移動した際には、位置決め用リブ5aはカートリッジ2の内部に嵌入された状態にあり、また、第一密閉用リブ5bは弾性収縮が解消されたことにより拡径し、カートリッジ2の先端部2bに載置された状態となる。
【0049】
そして、図6の中央に示すように、注射薬剤溶液Mの水分が連通溝5gを介して外部へと放出され、しばらくこの状態で放置することによって、図6の右側に示すように、注射薬剤溶液Mが凍結乾燥製剤Sへと変化する。
【0050】
その後、凍結乾燥機室R2内を、予め定められた水準の純窒素(例えば、約800mbar)で換気する換気処理S33を行う。これによって、凍結乾燥機室R2内の水分が除去されるとともに、カートリッジ2内に連通溝5gを介して純窒素が充填される。
【0051】
続いて、密閉処理S34を行う。ここでは、図8の左側に示すように、凍結乾燥機室R2におけるカートリッジ2の上方に設置された棚板100を、水平状態に維持したまま下方に移動させる。これにより、複数のカートリッジ2におけるフロントストッパー5にそれぞれ棚板100を当接させ、該フロントストッパー5をカートリッジ2内に押し込む。そして、このようにカートリッジ2内に押し込まれたフロントストッパー5は、図8の中央に示すように、カートリッジ2内外の圧力差によって下方に移動し、最終的には、図8の右側に示すように、フロントストッパー5の配置箇所として適した箇所に位置することになる。
【0052】
その後、組み立て工程S40として、カートリッジ2の先端側にフロントアセンブリ3を装着するとともに、後端側にフィンガーグリップ4を装着することで、図1に示すような容器兼用注射器1が完成する。
【0053】
以上のような容器兼用注射器1の製造方法によれば、凍結乾燥工程S30にて、注射薬剤溶液Mが密封されたカートリッジ2を設置した棚や外部雰囲気を冷却した後、当該外部雰囲気の圧力をカートリッジ2内におけるミドルストッパー6とフロントストッパー5との間の内部気体Aよりも低下させることで、これら外部雰囲気と内部気体Aとの間に圧力差を生じさせる。そして、この圧力差がフロントストッパー5に作用することで、該フロントストッパー5はカートリッジ2の先端側に向かって移動し、その結果、フロントストッパー5がカートリッジ2に対して半打栓状態となる。これにより、カートリッジ2内外が連通状態となり、さらに減圧されるため該注射薬剤溶液Mを凍結乾燥させることができる。
【0054】
ここで、凍結乾燥工程S30には、例えば数十時間を要してしまうため、作業の効率上の観点から、大量のカートリッジ2に対して同時に凍結乾燥をすることが好ましい。この場合、所定本数の注射薬剤溶液M入りのカートリッジ2が蓄積されるまである程度の時間を要するため、カートリッジ2への注射薬剤溶液Mの注入作業と該注射薬剤溶液Mへの凍結乾燥を連続的に行うことができない。したがって、注射薬剤溶液Mを注入したカートリッジ2は、ある程度の時間保管できるように密封性の高いものでなければならない。
【0055】
この点、本実施形態においては、凍結乾燥工程S30前までは、カートリッジ2内部の密封状態を担保することができる一方、注射薬剤溶液Mを凍結乾燥させる際のみカートリッジ2内外を容易に連通状態とすることができるため、滅菌性及び生産性が高く、正確な分量の凍結乾燥製剤が充填された二室式容器兼用注射器を製造することが可能となる。
【0056】
また、注射薬剤溶液Mを凍結乾燥させた後、換気処理S33を行うことによって、該注射薬剤溶液Mから蒸発した水分を外部雰囲気から除去することができるため、カートリッジ2内部に水分が残存することを避けて、凍結乾燥製剤Sの品質を高く維持することができる。
【0057】
さらに、凍結乾燥工程S30の最後に密閉処理S34を行い、フロントストッパー5をカートリッジ2内に押し込むことで、注射薬剤溶液Mが凍結乾燥されてなる凍結乾燥製剤Sを密封状態にて確実に保持することができる。
【0058】
また、本実施形態のフロントストッパー5によれば、カートリッジ2に嵌入された状態においては第一密閉用リブ5b及び第二密閉用リブ5cがカートリッジ2の内周面と密着することにより、該カートリッジ2内の気密液密性を担保することができる。また、カートリッジ2の内外の圧力差によってフロントストッパー5がカートリッジ2の先端まで移動して半打栓状態となった際には、連通溝5gによってカートリッジ2内外を連通とすることができる。これによって、カートリッジ2内部の注射薬剤溶液Mに対して確実に凍結乾燥を施すことができる。
【0059】
また、半打栓状態において第一密閉用リブ5b及び第二密閉用リブ5cがカートリッジ2外部に脱出した場合であっても、位置決め用リブ5aはカートリッジ内に入り込んだ状態となるため、フロントストッパー5がカートリッジ2から不用意に外れてしまうことはない。したがって、凍結乾燥工程S30における密閉処理S34を確実に行うことができる。
【0060】
さらに、第一密閉用リブ5bが、傾斜面5fを備えているため、該第一密閉用リブ5bがカートリッジ2から完全に脱出する前に連通溝5gによってカートリッジ2内外が連通状態となった場合であっても、該第一密閉用リブ5bの弾性及び傾斜面5fによって、第一密閉用リブ5bのカートリッジ2からの脱出を促すことができる。このように第一密閉用リブ5bがカートリッジ2内部から脱出することで、該第一密閉用リブ5bがカートリッジ2の先端に載置されるため、半打栓状態時のフロントストッパー5の安定性を向上させることができる。
【0061】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明の技術的思想を逸脱しない限り、これらに限定されることはなく、多少の設計変更等も可能である。
【符号の説明】
【0062】
1 容器兼用注射器
2 カートリッジ
2a バイパス部
2b 先端部
3 フロントアセンブリ
4 フィンガーグリップ
5 フロントストッパー
5a 位置決め用リブ
5b 第一密閉用リブ
5c 第二密閉用リブ
5d 第一谷部
5e 第二谷部
5f 傾斜面
5g 連通溝
6 ミドルストッパー
8 エンドストッパー
S10 溶解液封止工程
S20 注射薬剤封止工程
S30 凍結乾燥工程
S31 冷却処理
S32 圧力低下処理
S33 換気処理
S34 密閉処理
S40 組み立て工程
L 溶解液
M 注射薬剤溶液
S 凍結乾燥製剤
O 中心軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カートリッジの後端側に嵌入されたエンドストッパーとミドルストッパーとの間に溶解液が封止され、前記ミドルストッパーと前記カートリッジの先端側に嵌入されたフロントストッパーとの間に凍結乾燥製剤が封止された二室式容器兼用注射器の製造方法であって、
前記カートリッジ内に前記エンドストッパーと前記ミドルストッパーとによって前記溶解液を封止する溶解液封止工程と、
前記カートリッジ内に、前記ミドルストッパーと前記フロントストッパーとによって凍結乾燥前の注射薬剤溶液を内部気体ととも封止する注射薬剤封止工程と、
前記注射薬剤溶液を凍結乾燥させて前記凍結乾燥製剤とする凍結乾燥工程とを備え、
該凍結乾燥工程は、
前記カートリッジの外部雰囲気を冷却する外部雰囲気冷却処理と、
該外部雰囲気冷却処理後に、前記外部雰囲気の圧力を前記内部気体の圧力よりも低下させることで、前記フロントストッパーを前記カートリッジに対して半打栓状態とする圧力低下処理と、
半打栓状態の前記フロントストッパーを、前記カートリッジ内に押し込む密閉処理とを備えることを特徴とする二室式容器兼用注射器の製造方法。
【請求項2】
前記凍結乾燥工程が、
前記圧力低下処理と前記密閉処理との間に、前記外部雰囲気を換気する換気処理を備えることを特徴とする請求項1に記載の二室式容器兼用注射器の製造方法。
【請求項3】
前記溶解液封止工程は、
前記エンドストッパーが嵌入された前記カートリッジ内における該エンドストッパー上に溶解液を注入し、
前記溶解液に空気が含まれないように、前記カートリッジに前記ミドルストッパーを嵌入して前記溶解液を封止し、
その後、高圧蒸気滅菌処理を施す工程であることを特徴とする請求項1又は2のいずれか一項に記載の二室式容器兼用注射器の製造方法。
【請求項4】
前記注射薬剤封止工程は、
前記カートリッジ内における前記ミドルストッパー上に前記注射薬剤溶液を注入し、
その後、前記カートリッジに前記フロントストッパーを嵌入して、前記注射薬剤溶液を前記内部気体とともに封止する工程であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の二室式容器兼用注射器の製造方法。
【請求項5】
前記凍結乾燥工程の後に、前記カートリッジにフィンガーグリップとフロントアセンブリを取り付ける組み立て工程を備えることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の二室式容器兼用注射器の製造方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の二室式容器兼用注射器の製造方法に使用され、前記カートリッジ内の内部気体と該カートリッジ外の外部雰囲気との圧力差によって、該カートリッジ内における嵌入状態から前記カートリッジの先端における半打栓状態に移動するフロントストッパーであって、
前記カートリッジの内径よりも大きな外径を有し、前記カートリッジ内に嵌入された際に外径が弾性収縮して前記カートリッジの内周面に密着する密閉用リブと、
該密閉用リブよりも後端側に位置し、前記カートリッジの内径と略同一の外径を有する位置決め用リブと、
前記位置決め用リブから前記密閉用リブにわたって形成され、前記半打栓状態時に前記カートリッジの内外を連通させる連通溝とを備えることを特徴とするフロントストッパー。
【請求項7】
前記密閉用リブが、後端側から先端側に向かうに従って漸次拡径するとともに、周方向にわたって延在する傾斜面を備えていることを特徴とする請求項6に記載のフロントストッパー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−34912(P2012−34912A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−178974(P2010−178974)
【出願日】平成22年8月9日(2010.8.9)
【特許番号】特許第4638553号(P4638553)
【特許公報発行日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【出願人】(000122184)株式会社アルテ (28)
【Fターム(参考)】