説明

二次電池の電極構造及びその製造方法

【課題】高固形の電極混練物を塗工したときの電極混練物の集電体表面への追従性を向上させ、集電体と電極混練物との接着強度を向上させる。
【解決手段】電極材と溶媒とを混練させたスラリー状の電極混練物を集電体としての集電箔40上に配置し、その電極混練物から溶媒を揮発させて前記集電体上に電極層42A,42Bを形成する二次電池1の電極製造方法である。そして、固形分の異なる高固形分スラリー21A,21Bを複数の貫通孔41を備える集電体の夫々の面上に塗工する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池の電極構造及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から二次電池に使用する電極の製造方法として、乾燥工程での乾燥時間を短縮するため、比較的高固形分の電極混練物(スラリー)を貫通孔のある集電体に塗工するものがある(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平04−282558号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、高固形の電極混練物(スラリー)は集電体の表面への追従性が悪いため、集電体と電極混練物との接着強度が低いという問題点があった。
【0005】
そこで本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので、高固形の電極混練物を塗工したときの電極混練物の集電体表面への追従性を向上させ、集電体と電極混練物との接着強度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、電極材と溶媒とを混練させたスラリー状の電極混練物を集電体上に配置し、その電極混練物から溶媒を揮発させて前記集電体上に電極層を形成する二次電池の電極製造方法である。そして、固形分の異なる高固形分の電極材スラリーを複数の貫通孔を備える集電体の夫々の面上に塗工することを特徴とする。
【0007】
また、電極材と溶媒とを混練させたスラリー状の電極混練物を集電体上に配置し、その電極混練物から溶媒を揮発させて前記集電体上に電極層を形成する二次電池の電極構造である。そして、固形分の異なる高固形分の電極材スラリーを複数の貫通孔を備える集電体の夫々の面上に塗工し、固形分の低い電極材スラリーに含まれる溶剤の拡散現象により、当該溶剤に溶解したバインダーを集電体と両電極層との界面に偏析させるようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
したがって、本発明では、集電体の貫通孔を通して、低固形分の電極材スラリーから高固形分の電極材スラリーへ毛細管現象により溶媒が移動する。この時溶剤に溶解したバインダーも貫通孔を通して移動するため、バインダーを集電体と両電極層との界面に偏析させることができる。このため、バインダーによるアンカー効果により集電体と電極層との接着強度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】リチウムイオン二次電池の概略図。
【図2】本発明の一実施形態を示す二次電池の電極製造工程についての説明図。
【図3】混練工程の説明図。
【図4】使用する集電箔を示す説明図。
【図5】塗工工程の第1段階を説明する説明図。
【図6】塗工工程の第2段階を説明する説明図。
【図7】乾燥工程を説明する説明図。
【図8】プレス工程を説明する説明図。
【図9】得られる電極構造を示す説明図。
【図10】集電箔の変形例を示す説明図。
【図11】本発明の第2実施形態を示す二次電池の電極製造工程についての説明図。
【図12】乾燥・プレス工程を説明する説明図。
【図13】得られる電極構造を示す説明図。
【図14】従来例による電極構造を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の二次電池の電極構造及びその製造方法を各実施形態に基づいて説明する。
【0011】
(第1実施形態)
図1は、本実施形態によるリチウムイオン二次電池1の概略断面図である。図1に示すように、リチウムイオン二次電池1は、発電要素2と、発電要素2を収容する外装ケース3と、を備える。
【0012】
発電要素2は、正極4、電解質層としてのセパレータ5、及び負極6を順次積層した積層体として構成される。正極4は板状の正極集電体4aの両面に正極層4bを有しており、負極6は板状の負極集電体6aの両面に負極層6bを有している。なお、発電要素2の最外層に配置される正極4においては、正極集電体4aの片面のみに正極層4bが形成される。
【0013】
隣接する正極4、セパレータ5、及び負極6が一つの単位電池7を構成しており、リチウムイオン電池1は積層された複数の単位電池7をそれぞれ電気的に並列接続して構成される。
【0014】
外装ケース3は、アルミニウム等の金属をポリプロピレンフィルム等の絶縁体で被覆した高分子−金属複合ラミネートフィルムのシート材からなる。外装ケース3は、発電要素2を収納した状態で、ケース外周部が熱融着によって接合される。この外装ケース3には、発電要素2からの電力を外部に取り出すため、外部端子としての正極タブ8及び負極タブ9が設けられる。
【0015】
正極タブ8の一端は外装ケース3の外側にあり、正極タブ8の他端は外装ケース3の内部で各正極集電体4aの集合部に接続する。負極タブ9の一端は外装ケース3の外側にあり、負極タブ9の他端は外装ケース3の内部で各負極集電体6aの集合部に接続する。
【0016】
次に、電極(正極4又は負極6)の一般的な製造方法について簡単に説明する。一般的に電極は、電極材と溶媒とを混練させたスラリー状の電極混練物を集電体(正極集電体4a又は負極集電体6a)に塗工する塗工工程を備える。その後、電極混練物の溶媒を揮発させて固形分100%の電極層(正極層4b又は負極層6b)を形成する乾燥工程、及び電極層を圧縮してその厚さ(嵩密度)を調整するプレス工程を経て製造される。
【0017】
ここで、リチウムイオン二次電池1の製造設備のコストを下げるには、乾燥工程に要する時間を短くして乾燥炉長を短くすることが有効である。そして、乾燥工程に要する時間を短くするには、比較的高固形の電極混練物を集電体に塗工して揮発させる溶媒の絶対量を減らすことが有効である。
【0018】
しかしながら、集電体に塗工する電極混練物が高固形になるほど電極混練物の粘性も高くなり、また、集電体との界面の濡れ性も悪くなるので、塗工時における電極混練物の集電体に対する追従性、ひいては接着性が悪化する。即ち、図14に示すように、バインダー33を溶解した溶剤34が集電体側に偏析せず、電極層と集電体との接着強度が改善されない。このため、充放電が繰返される二次電池としてのサイクル耐久性が改善されない不具合を持つものとなる。また、集電体に対する電極混練物の接着強度が十分でない部分(以下「接着未了部」という。)がバラツキをもって発生することがある。
【0019】
このような接着未了部が存在する状態で乾燥処理が行われると、その後にプレス処理を行っても接着未了部の接着強度を向上させることは難しい。これは、乾燥処理によって集電体上には電極混練物から溶媒を揮発させた固形分100%の電極層が形成されるので、集電体との界面の濡れ性も悪く、プレス(押圧)しても電極層自体が圧縮されるだけで集電体に対する形状追従性が低いからである。その結果、電極層が集電体から剥がれやすくなり、リチウムイオン二次電池の電池性能や耐久性能が低下してしまう。
【0020】
そこで本実施形態では、先ず固形分の異なる電極材スラリーを複数の貫通孔を備える集電体のそれぞれの面から塗工し、その後に乾燥及びプレスする構成とした。これにより、低固形分濃度の電極層側のバインダーが溶解した溶剤の拡散現象による、集電体側及び集電体の貫通孔を通しての高固形分濃度の電極層側への移動により、各電極層の集電体への接着強度を高めるようにした。以下、この本実施形態による二次電池1の電極構造及びその製造方法について説明する。
【0021】
図2は、本実施形態による電極製造方法について説明する図であり、図3〜8は、図2に示す各工程を具体的に説明する説明図である。図2に示すように、本実施形態では、混練工程、塗工工程、乾燥工程、及びプレス工程を経て電極が製造される。
【0022】
混練工程では、図3に示すように、混練装置20によって、電極材を溶剤34(NMP)中で混練し、所定のせん断速度において所定の粘度に調整されたスラリー状の電極混練物21(「電極材スラリー」ともいう)を調製する。混練装置としては、遊星式ミキサー、ニーダー、二軸混練機等を用いる。また、混練は電極混練物20が40〜60℃になるように加温して行う。
【0023】
ここで、本実施形態では、製造される電極混練物21は、高固形分濃度の混練物21Aと、低固形分濃度の混練物21Bと、の2種類の混練物を得るように溶媒の量を調節している。具体的には、高固形分濃度の混練物21Aは、せん断速度(シアレート)200〜4000[1/sec]にてせん断をかけた際の混練物の粘度が104〜107[Pa・s]となるように、溶媒の量を調節して調製・混練する。また、低固形分濃度の混練物21Bは、せん断速度(シアレート)200〜4000[1/sec]にてせん断をかけた際の混練物の粘度が104[Pa・s]以上で高固形分濃度よりも小さい粘度となるように、溶媒の量を調節して調製・混練する。
【0024】
ところで、電極混練物21には、正極電極層4を製造する場合に製造される正極混練物と、負極電極層6を製造する場合に製造される負極混練物と、がある。
【0025】
正極混練物を製造する場合は、混練装置20に電極材としての正極活物質31、導電助剤32、及びバインダー33(結着剤)が投入され、これらを溶媒34中で均一に分散させる。この場合に、製造された電極混練物21が高固形の混練物となるように電極材と溶媒の量を調節している。具体的には、電極材の重量パーセント(wt%)が、電極混練物21の70[wt%]〜85[wt%]となるように調節している。こうすることにより、電極層内のネットワークが崩れず、バインダー33が溶解した溶剤34のみが集電箔40の貫通孔41や溝に集中し、電極層と集電箔40との接着強度が大きくできる。
【0026】
負極混練物を製造する場合は、混練装置20に電極材としての負極活物質35、導電助剤36、及びバインダー33が投入され、これらを溶媒34中で均一に分散させる。この場合に、製造された電極混練物21が高固形の混練物となるように電極材と溶媒34の量を調節している。具体的には、電極材の重量パーセント(wt%)が、電極混練物21の65[wt%]〜80[wt%]となるように調節している。こうすることにより、電極層内のネットワークが崩れず、バインダー33が溶解した溶剤34のみが集電箔40の貫通孔41や溝に集中し、電極層と集電箔40との接着強度が大きくできる。
【0027】
正極活物質31は、リチウム金属酸化物などのリチウムイオンを吸蔵・放出する物質である。本実施形態では、正極活物質としてマンガン酸リチウムを使用する。 負極活物質35は、リチウム金属酸化物やハードカーボン、グラファイトなどのリチウムイオンを放出・吸蔵する物質である。本実施形態では、負極活物質としてハードカーボンを使用する。
【0028】
導電助剤32,36は、カーボン材料(カーボン粉末やカーボンファイバ)などの導電性を高める物質である。カーボン粉末としては、アセチレンブラック、ファーネスブラック、及びケッチェンブラックなどの種々のカーボンブラックや、グラファイト粉末を使用することができる。本実施形態では、正極混練物を製造する場合も負極混練物を製造する場合も共に、導電助剤としてカーボンブラックを使用する。
【0029】
バインダー33は、活物質微粒子同士を結び付ける物質である。本実施形態では、正極混練物を製造する場合も負極混練物を製造する場合も共に、バインダー33としてポリフッ化ビニリデン(PVDF)を使用するが、これに限られるものではない。
【0030】
溶媒34は、電極材を溶かす液体である。本実施形態では、正極混練物を製造する場合も負極混練物を製造する場合も共に、溶媒としてN−メチルピロリドン(NMP)を使用するが、これに限られるものではない。
【0031】
以上により、正極電極層を構成するための高固形分濃度の正極電極混練物21A、及び、低固形分濃度の正極電極混練物21Bと、負極電極層を構成する高固形分濃度の負極電極混練物、及び、低固形分濃度の負極電極混練物と、の4種類の混練物を準備できる。なお、正極4及び負極6の製造ロットに応じて、集電体4a,6aの両面に塗工する高固形分濃度及び低固形分濃度の電極混練物21A,21Bを製造するようにしてもよい。例えば、正極4の製造工程においては、正極電極層を構成するための高固形分濃度及び低固形分濃度の正極電極混練物21A,21Bを製造し、負極6の製造工程においては、負極電極層を構成するための高固形分濃度及び低固形分濃度の負極電極混練物を製造するようにする。
【0032】
以下の工程では、正極4及び負極6のいずれも、同様の工程により製造することができる。このため、正極集電体4aである集電箔40に高固形分濃度及び低固形分濃度の電極混練物21A,21Bを塗工する場合について説明し、負極集電体6aである集電箔に高固形分濃度及び低固形分濃度の電極混練物を塗工する場合の説明を省略する。また、得られる電極層についても、負極層6b・正極層4bのいずれにも適用できるため、高固形分濃度の混練物21Aによる場合を「電極層42A」、低固形分濃度の混練物21Bによる場合を「電極層42B」とする。
【0033】
塗工工程では、混練工程で製造された高固形分濃度の電極混練物21Aを押出し成形により集電体4aとしての集電箔40の搬送方向と平行に押し出し、図5に示すように、集電箔40の一方の表面に塗工する。次いで、集電箔40の他方の表面に低固形分濃度の電極材スラリー21Bをダイコーターにて、図6に示すように、塗工する。使用する集電箔40は、図4に示すように、径10μm以上の貫通孔41を複数(多数)備えており、正極4にあっては、例えば、厚さ10〜40μmのアルミニウム(Al)箔が使用され、負極6にあっては、例えば、厚さ:10〜40μmの銅(Cu)箔が使用される。また、高固形分濃度及び低固形分濃度の電極混練物21A,21Bの塗工成形の目標厚さは、例えば、正極混練物においては厚さ80〜180μmとなるようにし、負極混練物においては厚さ40〜100μmとなるようにする。
【0034】
高固形分濃度の電極混練物21Aを押出し成形により押し出して塗工するのは、高固形分濃度の電極混練物21Aは集電箔40に対する形状追従性が低いため、集電箔40の搬送方向と垂直に押し出して塗工しようとすると、塗工中に電極混練物21Aが切れてしまう虞があるからである。
【0035】
また、塗工手順として、予め貫通孔41を設けた集電箔40の一方の面に高固形分濃度の混練物21Aによる電極材スラリーを押出成形した後、低固形分濃度の混練物21Bによる電極材スラリーを集電箔40の他方の面に塗工している。これにより、図9に示すように、集電箔40の貫通孔41を通して形成される両電極層42A,42B界面において、低固形分濃度の電極層42B側から高固形分濃度の電極層42A側へ、バインダー33が溶解した溶剤34が拡散現象により移動する現象を生じる。
【0036】
その結果、電極層42A,42B界面近傍のバインダー33の量が増大し、集電箔40の両面のアンカー効果が促進され、低固形分濃度の電極層42Bと集電箔40との決着力及び集電箔40と高固形分濃度の電極層42Aとの結着力が大きくなる。更に、電極層42A,42B内のバインダー33が集電箔40側に多く存在する傾斜構造となるため、各電極層42A,42Bと集電箔40との界面接着強度も上がる。しかも、片面への高固形分濃度の電極材スラリーの塗工成形後に、乾燥工程を経ることなく、成形面を裏返したり傾けたりして、もう一方の面に低固形分濃度の電極材スラリーを成形でき、電極4,6の製造工程を簡略化できる。
【0037】
この塗工工程は、同極同士で集電箔40を挟む電極構造、即ち、正極電極層・集電箔40・正極電極層若しくは負極電極層・集電箔40・負極電極層となる電極構造について説明している。しかしながら、異極同士で集電箔40を挟む電極構造、即ち、正極電極層・集電箔40・負極電極層となる電極構造であってもよい。その場合においては、正極電極層若しくは負極電極層のいずれか一方を高固形分濃度の電極材スラリーによる塗工成形とし、前記いずれか他方を低固形分濃度の電極材スラリーによる塗工成形とする。
【0038】
乾燥工程では、塗工工程において塗工された電極混練物21A,21Bを、図7に示すように、約100[℃]に設定した乾燥装置50に約5分間投入し、電極混練物21A,21Bから溶媒を完全に揮発させて固形分100%の電極層42A,42Bとする。電極混練物21A,21Bから溶媒が完全に揮発されることにより、バインダー33の集電箔40側への偏析を促進させることができる。その結果、電極層42A,42B界面近傍のバインダー量が増大し、両面間のアンカー効果がより一層促進され、低固形分濃度電極層42B・集電箔40・高固形分濃度電極層42Aとの結着力が大きくなる。更に、電極層42A,42B内のバインダー33が集電箔40側に多く存在する傾斜構造が一層強くなるため、電極層42A,42Bと集電箔40との界面接着強度が上がる。
【0039】
プレス工程では、乾燥工程で乾燥された電極層42A,42Bを、図8に示すように、プレス装置40によって表裏両面から押圧し、電極層42A,42Bの厚みを調整する。このとき、電極層42A,42Bの集電箔40側にはバインダー33が偏析されているので、プレス装置40によって押圧された電極層42A,42Bはバインダー33を介して集電箔40に押付けられて集電箔40の表面に追従しながら圧縮変形する。そのため、このプレス工程において、集電箔40と電極層42A,42Bの接着強度を更に一層向上させることができる。
【0040】
ところで、前記した本実施形態による電極製造方法においては、使用する集電箔40に形成する複数(多数)の貫通孔41として、径10μm以上を備えるものについて説明した。この貫通孔41の径は、電極材を構成している、正(負)極活物質35及びそれに付随する導電助剤36の入り込みは阻止するものの、バインダー33(結着剤)の入り込みは許容する大きさに設定することが、電極層42Bの塗膜品質を維持するために重要である。
【0041】
このためには、貫通孔41の直径として、正(負)極活物質35及びそれに付随する導電助剤36の体積粒度分布D50粒径以下の径、例えば、20μm以下の円筒形とすることが望ましい。このように設定することにより、溶剤34及びそれに溶解したバインダー33(結着剤)の貫通孔41を通しての高固形分濃度の電極層42A側への偏析を許容でき、且つ、正(負)極活物質35及びそれに付随する導電助剤36の貫通孔41への入込みを阻止できる。
【0042】
また、集電箔40への貫通孔41の配列は、集電箔40の混練物の塗工範囲において、貫通孔41の開口表面積の総和が1〜30%となるよう、集電箔40面内に均等整列にして分布させることが望ましい。これにより、溶剤34及びそれに溶解したバインダー33(結着剤)の貫通孔41を通しての高固形分濃度の電極層42A側への偏析を集電箔40の混練物を塗工する範囲において均一とでき、電極層42Aと集電箔40との接着強度をより大きくできる。
【0043】
また、貫通孔41として、円筒形のものに代えて、図10に示すように、貫通孔41の少なくとも一部が3次元の貫通孔41Aで構成してもよい。このようにすると、溶剤34に溶解したバインダー33(結着剤)の貫通孔41Aへの係合をより一層強くでき、電極層42A,42Bの集電箔40へのアンカー効果をより大きくできる。
【0044】
本実施形態においては、以下に記載する効果を奏することができる。
【0045】
(ア)電極材と溶媒とを混練させたスラリー状の電極混練物を集電体としての集電箔40上に配置し、その電極混練物から溶媒を揮発させて前記集電体上に電極層42A,42Bを形成する二次電池1の電極製造方法である。そして、固形分の異なる高固形分スラリー21A,21Bを複数の貫通孔41を備える集電体の夫々の面上に塗工することを特徴とする。 したがって、集電体の貫通孔41を通して、低固形分の電極材スラリー21Bから高固形分の電極材スラリー21Aへ毛細管現象により溶媒が拡散移動する。この時溶剤34に溶解したバインダー33も貫通孔41を通して移動するため、バインダー33を集電体と両電極層42A,42Bとの界面に偏析させることができる。このため、バインダー33によるアンカー効果により集電体と電極層42A,42Bとの接着強度を向上させることができる。また、電極層42A,42B内のバインダー33が集電体側に多く存在する傾斜構造となるため、電極層42A,42Bと集電体との界面接着強度が上がる。
【0046】
(イ)固形分の異なる高固形分の電極材スラリーは、固形分の高い電極材スラリー21Aを複数の貫通孔41を備える集電体である集電箔40の一方の面上に塗工し、その後に、固形分の低い電極材スラリー21Bを複数の貫通孔41を備える集電体の他方の面上に塗工する。このため、固形分が低い電極材スラリー21Bは集電体の貫通孔41による凹凸に追従して集電体になじみ、固形分の低い電極材スラリー21Bに含まれる溶剤34の貫通孔41を通しての拡散現象による浸透を容易とする。そして、当該溶剤34に溶解しているバインダー33を固形分の高い電極層42Aとの界面(集電体の貫通孔)に偏析させることができる。
【0047】
(ウ)集電体に設ける複数の貫通孔41は、電極材スラリーの堆積粒度分布D50粒径以下の直径を備える円筒形としている。このため、集電体の貫通孔41への電極材(バインダー33以外の固形分)の入り込みを減少でき、電極層42Bの塗膜品質が安定して向上する。
【0048】
(エ)固形分の異なる高固形分の電極材スラリー21A,21Bを複数の貫通孔41を備える集電体の夫々の面上に塗工した後、乾燥されることにより、バインダー33が電極層42A,42Bと集電体との界面に偏析しやすい。
【0049】
(第2実施形態)
図11〜図13は、本発明を適用した二次電池の電極構造及びその製造方法の第2実施形態を示し、図11は本実施形態による電極製造方法について説明する図、図12は真空下での乾燥・プレス工程を示す図、図13は得られる電極構造を示す図である。本実施形態においては、真空下で一定時間保持して電極層に含まれる気泡を脱泡処理する構成を第1実施形態に追加したものである。なお、第1実施形態と同一装置には同一符号を付してその説明を省略ないし簡略化する。
【0050】
図11において、本実施形態の電極の製造方法では、混練工程、塗工工程の後工程において、真空槽51内の真空雰囲気中で乾燥工程・プレス工程を実施して電極を製造する。前記混練工程、塗工工程は、第1実施形態と同様に実施される。
【0051】
真空雰囲気中での乾燥工程・プレス工程においては、塗工工程において塗工された電極混練物21A,21Bを、図12に示すように、真空槽51内の真空雰囲気中で一定時間保持して電極混練物21A,21Bに含まれる気泡を脱泡処理する。これにより、電極材スラリーの塗工(成形)時に集電箔40の貫通孔41内で気泡を含んで空孔となる場合でも、含まれる気泡が真空雰囲気により混練物21A,21Bの表面側に移動され混練物21A,21B表面から雰囲気中に離脱させることができる。そして、空孔となっていた領域には、空孔に代わってバインダー33が溶解した溶剤34により充満される。
【0052】
このため、バインダー33が溶解した溶剤34の貫通孔41内への拡散及び貫通孔41を通しての高固形分濃度の電極層42Aと集電箔40との界面への拡散が促進される。この結果、溶剤34に溶解されているバインダー33の貫通孔41内への偏析及び貫通孔41を通しての高固形分濃度の電極層42Aと集電箔40との界面への偏析が促進される。従って、同時に実行される乾燥により、電極混練物21A,21Bから溶媒34を完全に揮発させて固形分100%の電極層42A,42Bとした場合に、貫通孔41内への偏析及び貫通孔41を通しての高固形分濃度の電極層42Aと集電箔40との界面への偏析したバインダー33が存在することとなる。
【0053】
その後、乾燥された電極混練物の電極層42A,42Bを、プレス装置40によって表裏両面から押圧し、電極層42A,42Bの厚みを調整する。このプレスにより、図13に示すように、押圧された電極層42A,42Bはバインダー33を介して集電箔40に押付けられて集電箔40の表面に追従しながら圧縮変形する。
【0054】
そのため、電極層42A,42B内のバインダー33が集電箔40側に多く存在する傾斜構造となるため、電極層42A,42Bと集電箔40との界面接着強度が上がる。しかも、集電箔40の貫通孔41に偏析したバインダー33によるアンカー効果による接着強度が加算されるため、電極層42A,42Bと集電箔40との接着強度をより一層向上させることができる。
【0055】
本実施形態においては、第1実施形態における効果(ア)〜(エ)に加えて以下に記載した効果を奏することができる。
【0056】
(オ)固形分の異なる高固形分の電極材スラリー21A,21Bを複数の貫通孔41を備える集電体としての集電箔40の夫々の面上に塗工した後、真空雰囲気に予め設定した時間投入する。このことにより、電極材スラリーの塗工(成形)時に空孔となっている集電箔40の貫通孔41にバインダー33が溶解した溶剤34が移動しやすくなり、電極層42A,42Bの集電体に対するアンカー効果が促進される。更に、電極層42A,42B内のバインダー33が集電体側に多く存在する傾斜構造とでき、電極層42A,42Bと集電体との界面接着強度が向上する。
【符号の説明】
【0057】
4a 正極集電体(集電体)
4b 正極層(電極層)
6a 負極集電体(集電体)
6b 負極層(電極層)
21 電極混練物、電極材スラリー
33 バインダー
34 溶剤
40 集電箔(集電体)
41 貫通孔
42A,42B 電極層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極材と溶媒とを混練させたスラリー状の電極混練物を集電体上に配置し、その電極混練物から溶媒を揮発させて前記集電体上に電極層を形成する二次電池の電極製造方法であって、
固形分の異なる高固形分の電極材スラリーを複数の貫通孔を備える集電体の夫々の面上に塗工することを特徴とする二次電池の電極製造方法。
【請求項2】
前記固形分の異なる高固形分の電極材スラリーは、固形分の高い電極材スラリーを複数の貫通孔を備える集電体の一方の面上に塗工し、
その後に、固形分の低い電極材スラリーを複数の貫通孔を備える集電体の他方の面上に塗工することを特徴とする請求項1に記載の二次電池の電極製造方法。
【請求項3】
前記集電体に設ける複数の貫通孔は、電極材スラリーの堆積粒度分布D50粒径以下の直径を備える円筒形であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の二次電池の電極製造方法。
【請求項4】
前記固形分の異なる高固形分の電極材スラリーを複数の貫通孔を備える集電体の夫々の面上に塗工した後、真空雰囲気に予め設定した時間投入することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一つに記載の二次電池の電極製造方法。
【請求項5】
前記固形分の異なる高固形分の電極材スラリーを複数の貫通孔を備える集電体の夫々の面上に塗工した後、乾燥されることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一つに記載の二次電池の電極製造方法。
【請求項6】
電極材と溶媒とを混練させたスラリー状の電極混練物を集電体上に配置し、その電極混練物から溶媒を揮発させて前記集電体上に電極層を形成する二次電池の電極構造であって、
固形分の異なる高固形分の電極材スラリーを複数の貫通孔を備える集電体の夫々の面上に塗工し、固形分の低い電極材スラリーに含まれる溶剤の拡散現象により、当該溶剤に溶解したバインダーを集電体と両電極層との界面に偏析させるようにしたことを特徴とする二次電池の電極構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−3949(P2012−3949A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−138053(P2010−138053)
【出願日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】