説明

二次電池及びその製造方法

【課題】信頼性の高い二次電池を提供する。
【解決手段】本発明によると、少なくとも電極活物質と水系バインダとを含む活物質層が集電体の表面に保持された構成の二次電池であって、集電体における活物質層を備える表面は、算術平均粗さRaが凡そ0.3μm〜1μmの第1凹凸62aと、該第1凹凸62aの表面に形成された算術平均粗さRaが凡そ0.01〜0.2μmの第2凹凸62bとを有する二次電池が提供される。この電極は、算術平均粗さRaが0.3μm〜1μmの第1凹凸62aを有する集電体を用意すること、少なくとも前記電極活物質と前記水系バインダと水系溶媒とを混合してなる水性ペーストのpHを凡そ10〜13に調整すること、前記pHを調整された水性ペーストを前記集電体の表面に塗布して活物質層を形成すること、を含む製造方法により製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は二次電池とその製造方法に関する。
【0002】
本明細書において「二次電池」とは、繰り返し充電可能な電池一般をいい、例えば、リチウム二次電池(典型的にはリチウムイオン二次電池)、ニッケル水素電池等のいわゆる蓄電池を包含する。
【背景技術】
【0003】
リチウムイオン二次電池は、ニッケル水素電池等の二次電池は、ニッケル水素電池等の他の二次電池に対して、比較的高容量かつ高出力を実現できる。このため、特に、車両の駆動輪に連結されたモータを駆動させる電源(車両搭載用電源)として重要性が高まっている。
【0004】
リチウムイオン二次電池は、一つの典型的な構成として、リチウムイオンを可逆的に吸蔵及び放出し得る電極活物質を主成分とする電極活物質層(具体的には、正極活物質層及び負極活物質層)が電極集電体の表面に保持された構成の電極を備えている。
【0005】
電極活物質層は、例えば、ペースト状組成物を正極集電体に塗布し、乾燥させ、さらに必要に応じて圧延することによって、電極集電体の表面に形成されている。ここで、ペースト状組成物にはスラリー状組成物が包含される。
【0006】
例えば、正極活物質層は、予めリチウム遷移金属複合酸化物等の正極活物質を高導電性材料の粉末(導電材)及び結着材等とともに適当な溶媒中で混合して正極活物質層形成用のペースト状組成物を調製しておく。そして、この組成物を正極集電体に塗布することによって正極活物質層を形成している。このような電極においては、集電体と活物質層の密着性が高まることで電極の集電性が向上し、リチウムイオン二次電池の充放電サイクル特性が良好となる。反対に、集電体と活物質層の密着性が悪いと電極の集電性が低下する。
【0007】
かかる電極における集電体と活物質層との密着性を高めるための従来技術としては、例えば、特許文献1が挙げられる。特許文献1に開示の技術では、アルミニウム箔からなる集電体の表面の平均粗さRaが0.3μm以上1.5μm以下、最大高さRyが0.5μm以上5.0μm以下となるように粗面化処理を施すことが開示されている。特許文献1によれば、かかる構成によって、集電体の表面積が増大し、活物質層と集電体との密着性を高められるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−162470号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、二次電池では、集電体に塗工した活物質層は、充放電に伴い膨張収縮を繰り返す。また、車両(典型的には自動車、特にハイブリッド自動車、電気自動車)の動力源として用いられる二次電池は、家庭用の電気機器などに比べて極めてハイレートでの充放電を繰り返し、かつ、長期の使用が想定されている。車両の動力源として用いられる二次電池では、ハイレートでの充放電が繰り返されるため、集電体に塗工した活物質層は大きな膨張収縮を繰り返す。このため、車両駆動用電池では、特に、集電体に塗工された活物質層が集電体から剥がれ易い。これに対し、特許文献1に開示されているように、集電体の表面の平均粗さを規定するだけでは十分な密着性が得られない場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る二次電池は、集電体と、集電体の表面に保持された活物質層とを備えている。ここで、活物質層は、電極活物質と水系バインダとを少なくとも含んでいる。そして、活物質層を保持した集電体の表面に、算術平均粗さRaが0.3μm〜1μmの第1凹凸を有している。さらに、第1凹凸の表面に、算術平均粗さRaが0.01μm〜0.2μmの第2凹凸を有している。
【0011】
ここで、「電極活物質」とは、二次電池において電荷担体となる化学種(例えば、リチウムイオン二次電池ではリチウムイオン)を可逆的に吸蔵及び放出(典型的には挿入及び離脱)可能な物質をいう。また、「水系バインダ」とは、上記電極活物質とともに活物質層を形成する組成物であって、水に溶解又は分散する物質をいう。
【0012】
かかる二次電池によれば、集電体表面のより大きな第1凹凸の表面に、より微細な第2凹凸が存在している。第1凹凸と第2凹凸で形成される複雑な界面によって、集電体と活物質層とは機械的に強固な接合形態で結合されうる。これにより、集電体と活物質層との剥離強度が高く、集電性が向上して充放電サイクル特性(代表的には、容量維持率)に優れた二次電池が実現される。
【0013】
この場合、例えば、第2凹凸の算術平均粗さRaは0.01μm以上であり、かつ、第1凹凸の算術平均粗さRaの10%以下であってもよい。第1凹凸と第2凹凸の関係がこのような形態であると、集電体と活物質層は、機械的により強固な結合が可能となる。
【0014】
以下、上記の特殊な凹凸形態についてさらに説明する。本発明に係る集電体の活物質層を備える表面(断面)の粗さ曲線は、波形として見た場合に、低い周波数成分と大きな振幅を持つ大まかな第1凹凸と、この第1凹凸の表面に形成される高い周波数成分と小さな振幅を持つ微細な第2凹凸とから構成される。この第1凹凸はうねり成分と見ることもできる。本発明においては、このような第1凹凸と第2凹凸からなる表面形態を、算術平均粗さRa及びRaで表わしている。
【0015】
ここで、「算術平均粗さ」は、対象表面の粗さ曲線からその平均線の方向に基準長さLだけを抜き取り、この抜取り部分の平均線から測定曲線までの偏差の絶対値を合計し、平均した値である。算術平均粗さは、適切な表面粗さ測定器機で対象となる表面(断面)の粗さ曲線を得て、粗さ曲線から表面粗さを表すパラメータを計算することで測定できる。
【0016】
ここで、第1凹凸の算術平均粗さRaを算出するには、例えば、第1凹凸に比べて高い周波数成分と小さな振幅を持つ微細な凹凸(第2凹凸に相当する凹凸)を無視するとよい。また、第1凹凸の表面に形成される高い周波数成分と小さな振幅を持つ微細な第2凹凸の算術平均粗さRaを算出するには、例えば、第2凹凸に比べて、第1凹凸に相当するうねりを無視するとよい。
【0017】
ここで開示される二次電池の好ましい一態様では、上記水系バインダは、フッ素系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレンからなる群から選択される少なくとも一種のバインダであってもよい。これらの水系バインダーを用いることで、集電体の表面に保持される活物質層を均質なものとすることができる。
【0018】
ここで開示される二次電池の好ましい一態様では、上記集電体は、アルミニウム又はアルミニウム合金で形成されている。このような集電体を用いれば、上記の特殊な凹凸形態を形成することができる。
【0019】
上記電極活物質は、各種の負極活物質又は正極活物質であり得る。そして、ここで開示される二次電池用電極における好ましい一態様は、正極活物質である。なかでも特に、層状構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物を主体に構成される正極活物質が挙げられる。
【0020】
また、本発明に係る二次電池の製造方法は、少なくとも電極活物質と水系バインダとを含む活物質層が集電体の表面に形成された二次電池の製造方法である。かかる方法は、算術平均粗さRaが凡そ0.3μm〜1μmの第1凹凸を有する集電体を用意すること、少なくとも前記電極活物質と前記水系バインダと水系溶媒とを混合してなる水性ペーストのpHを凡そ10〜13に調整すること、前記pHを調整された水性ペーストを前記集電体の表面に塗布して活物質層を形成すること、を包含する。
【0021】
本発明に係る二次電池の製造方法は、以下の工程A〜工程Cを含んでいる。
工程Aは、算術平均粗さRaが凡そ0.3μm〜1μmの第1凹凸を有する集電体を用意する工程である。
工程Bは、少なくとも電極活物質と水系バインダと水系溶媒とを混合し、pHが凡そ10〜13に調整された水性ペーストを用意する工程である。
工程Cは、工程Aで用意された集電体の表面に、工程Bで用意された水性ペーストを塗布することによって、集電体の表面に、電極活物質と水系バインダとを含む活物質層を形成する工程である。
【0022】
この場合、算術平均粗さRaが凡そ0.3μm〜1μmの第1凹凸を有する集電体に、pHを10〜13に調整した上記水性ペースト(ペースト状組成物も含む)を塗布することで、第1凹凸の表面に前述の算術平均粗さRaが0.01〜0.2μmの第2凹凸を形成することができる。
【0023】
すなわち、算術平均粗さRaが0.3μm〜1μmの第1凹凸を有する集電体に水性ペーストを塗布することによって、集電体の第1凹凸の表面が水性ペーストによって腐食され、第1凹凸の表面にさらに微細な第2凹凸が形成される。この場合、活物質層を形成する工程(集電体に水性ペーストを塗布する工程)において、第2凹凸の凹凸が形成されるが、この場合、水性ペーストは、第1凹凸と第2凹凸で形成される集電体の複雑な界面に密に馴染むので、集電体と活物質層とが機械的に強固に結合する。
【0024】
これにより、集電体と活物質層との剥離強度が高く、集電性が向上して充放電サイクル特性(代表的には、容量維持率及び寿命)に優れた二次電池を提供することができる。ここで提供される二次電池は、集電体と活物質層との剥離強度が高いことから、良好な集電性と容量維持率を示すものであり得る。この場合、水系バインダは、フッ素系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレンからなる群から選択される少なくとも一種を用いてもよい。また、集電体は、アルミニウム又はアルミニウム合金で形成されていてもよい。
【0025】
また、電極活物質は、各種の負極活物質又は正極活物質であり得て、より好適には正極活物質である。そして、ここで開示される製造方法における好ましい一態様は、上記電極活物質は、層状構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物である。このような層状構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物は、水系溶媒中にリチウムイオンが溶出することにより概ねpH10以上のアルカリ性を呈するものが得られ易い。従って、上記水性ペーストのpHを10〜13にすることが容易になる。
【0026】
このような二次電池は、例えば自動車等の車両に搭載される電池として好適である。従って本発明によると、ここで開示される何れかの二次電池を備える車両が提供される。このため、特にハイレート充放電が要求される車両に搭載されるモータ駆動のための動力源(電源)として使用される電池として適した性能を備える。従って、本発明によると、ここで開示される二次電池(典型的にはリチウムイオン二次電池)を備えた車両が提供される。特に、該リチウムイオン二次電池を動力源(典型的には、ハイブリッド車両又は電気車両の動力源)として備える車両(例えば自動車)などが好適に提供される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】一実施形態に係る電極製造装置の概略構成を模式的に示す説明図である。
【図2】一実施形態に係る正極集電体の表面粗さを模式的に示す説明図である。
【図3】一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の外形を模式的に示す斜視図である。
【図4】図3中のIV−IV線に沿う縦断面図である。
【図5】実施例における90度はく離接着強さ試験方法を説明する図である。
【図6】本発明に係るリチウムイオン二次電池を備えた車両(自動車)を模式的に示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事項は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0029】
以下、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池を説明する。ここでは、まずリチウムイオン二次電池の正極を説明する。ここで、正極は、正極集電体と、正極活物質層とを備えている。
【0030】
≪正極集電体≫
正極集電体は、従来のリチウムイオン二次電池(典型的にはリチウムイオン二次電池)の正極に用いられている集電体と同様、導電性の良好な金属からなる導電性部材が好ましく用いられる。例えば、アルミニウム、ニッケル、チタン、鉄等を主成分とする金属又はその合金を用いることができ、より好ましくは、アルミニウム又はアルミニウム合金である。正極集電体の形状については特に制限はなく、リチウムイオン二次電池の形状等に応じて様々なものを考慮することができる。例えば、棒状、板状、シート状、箔状、メッシュ状等の種々の形態であり得る。典型的にはシート状のアルミニウム製の正極集電体が用いられる。
【0031】
≪正極活物質層≫
正極活物質層は、上記正極集電体の表面に形成されている。正極活物質層には、正極活物質と、水系バインダが含まれている。
【0032】
≪正極活物質≫
正極活物質としては、本発明の目的を実現し得る性状の正極活物質である限りにおいて、その組成や形状に特に制限はない。典型的な正極活物質として、リチウム及び少なくとも1種の遷移金属元素を含む複合酸化物が挙げられる。例えば、コバルトリチウム複合酸化物(LiCoO)、ニッケルリチウム複合酸化物(LiNiO)、マンガンリチウム複合酸化物(LiMn)、あるいは、ニッケル・コバルト系のLiNiCo1−x(0<x<1)、コバルト・マンガン系のLiCoMn1−x(0<x<1)、ニッケル・マンガン系のLiNiMn1−x(0<x<1)やLiNiMn2−x(0<x<2)で表わされるような、遷移金属元素を2種含むいわゆる二元系リチウム含有複合酸化物、或いは、一般式:
Li(LiMnCoNi)O
(式中のa、x、y、zはa+x+y+z=1を満足する実数)
で表わされるような、遷移金属元素を3種含むいわゆる三元系リチウム含有複合酸化物でもよい。
【0033】
また、上記正極活物質として一般式がLiMAO(ここでMは、Fe,Co,Ni及びMnから成る群から選択される少なくとも1種の金属元素であり、Aは、P,Si,S及びVから成る群から選択される元素である。)で表記されるポリアニオン型化合物も挙げられる。
【0034】
ここで本発明においては、後で詳しく説明する通り、電極活物質を含む水性ペーストのpHを10〜13に調整するとの観点から、正極活物質は、層状構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物であるのが好ましい。例えば、上記のLiCoO、LiNiO、LiMnO、或いは遷移金属元素を3種含むニッケル・コバルト・マンガン系のような三元系リチウム含有複合酸化物である。
【0035】
このような正極活物質を構成する化合物は、例えば、従来公知の方法で調製し、提供することができる。例えば、原子組成に応じて適宜選択されるいくつかの原料化合物を所定のモル比で混合し、当該混合物を適当な手段によって焼成する。これにより、正極活物質を構成する化合物として適当な酸化物を調製することができる。また、焼成物は、適当な手段で粉砕、造粒及び分級するとよい。これにより、所望する平均粒径及び/又は粒径分布を有する二次粒子によって実質的に構成された粒状の正極活物質粉末を得ることができる。なお、正極活物質(リチウム含有複合酸化物粉末等)の調製方法自体は本発明を何ら特徴付けるものではない。
【0036】
また、本実施形態に係る正極に形成される正極活物質層に導電材を含ませる場合には、導電材は、特定のものに限定されることはなく、従来この種の二次電池で用いられている各種の導電材を用いることができる。例えばカーボン粉末やカーボンファイバー等のカーボン材料が導電材として用いられる。カーボン粉末としては、種々のカーボンブラック(例えば、アセチレンブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラック)、グラファイト粉末、等のカーボン粉末を用いることができる。これらのうち一種又は二種以上を併用してもよい。
【0037】
≪水系バインダ≫
さらに、本実施形態では、正極活物質層を形成する組成物として水性ペースト(典型的にはペースト状又はスラリー状に調製された組成物、以下、正極活物質層形成用ペーストともいう。)を用いる。このため、本実施形態に係る正極に形成される正極活物質層に含まれる水系バインダ(結着材)としては、水に溶解又は分散するポリマー材料を好ましく採用することができる。
【0038】
水に溶解する(水溶性の)ポリマー材料としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース(MC)、酢酸フタル酸セルロース(CAP)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)等のセルロース系ポリマー;ポリビニルアルコール(PVA);等が例示される。
【0039】
また、水に分散する(水分散性の)ポリマー材料としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のビニル系重合体;ポリエチレンオキサイド(PEO)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重含体(PFA)等のフッ素系樹脂;酢酸ビニル共重合体;スチレンブタジエンゴム(SBR)等のゴム類等が例示される。
【0040】
なお、本発明においては、活物質層の形成(典型的には塗工)の容易性の観点から、水系バインダとしてはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系樹脂、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)を用いるのがより好ましい。
【0041】
また、「水性ペースト」とは、電極活物質の分散媒として水又は水を主体とする混合溶媒(水系溶媒)を用いた組成物を指す概念である。該混合溶媒を構成する水以外の溶媒としては、水と均一に混合し得る有機溶媒(低級アルコール、低級ケトン等)の一種又は二種以上を適宜選択して用いることができる。
【0042】
次に、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の製造方法について、図1及び図2を参照しながら説明する。ここでは、特に正極の製造方法を説明する。ここで、正極の製造方法は、以下の工程A〜工程Cを含んでいる。
工程A:算術平均粗さRaが0.3μm〜1μmの第1凹凸62aを有する集電体62を用意する。
工程B:少なくとも電極活物質と水系バインダと水系溶媒とを混合し、pHが10〜13に調整された水性ペーストを用意する。
工程C:工程Aで用意された集電体62の表面に、工程Bで用意された水性ペーストを塗布することによって、集電体62の表面に、電極活物質と水系バインダとを含む活物質層を形成する。
【0043】
≪工程A≫
具体的には、工程Aでは、算術平均粗さRaが0.3μm〜1μm(0.3μm≦Ra≦1.0μmの第1凹凸62aを有するアルミニウム製のシート状正極集電体62(電極集電体)を用意する。より好ましくは、Raは0.5μm以上(0.5μm≦Ra)、さらには0.7μm以上(0.7μm≦Ra)であり、さらにはRaは0.9μm以下(Ra≦0.9μm)であることが好ましい。正極集電体62の厚さは、第1凹凸62aを含めた状態で凡そ10μm〜30μm程度とすることができる。
【0044】
≪工程B≫
次に、工程Bでは、正極活物質(例えばコバルト酸リチウム粒子)と、導電材(例えばグラファイト)と、水系バインダー(例えばPTFE)とを所定の水系溶媒(例えばイオン交換水)に分散させて、水性ペースト(即ち正極活物質層形成用ペースト)を調製する。必要であれば、分散剤等の添加材を加えることもできる。ここで、水性ペーストは、pHを概ね10〜13の範囲内となるよう調整する。
【0045】
水性ペーストにおいては、正極活物質を構成するリチウムイオンが水系溶媒中に溶出する。これにより、水性ペーストは自ずとアルカリ性を呈する。正極活物質が層状構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物である場合では、特にpHの調整を行うことなく、水性ペーストのpHは概ね10〜13の範囲内となる。
【0046】
また、例えば、正極活物質がスピネル構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物である場合は、水性ペーストのpHは9〜10程度にとどまる。このように水性ペーストのpHが十分に大きくならない場合には、例えば、水酸化リチウムを加える等して水性ペーストのpHが10〜13の範囲となるように調整するとよい。また逆に、水性ペーストのpHが13を超過するような場合には、水性ペースト中にCOを吹きこむ等してpHが凡そ10〜13の範囲となるよう調整するとよい。
【0047】
≪工程C≫
図1は、工程Cを具現化した電極製造装置200を示す図である。図1に示すように、電極製造装置200は、概略的には、巻出ロール205、ペースト塗布部220、乾燥炉225及び巻取ロール210を備えている。電極製造装置200は、正極集電体62を巻出ロール205から送り出し、ペースト塗布部220において、調製した水性ペーストを正極集電体62上に塗布する。上記ペースト塗布部220において水性ペーストを塗布する方法としては、従来公知の方法と同様の技法を適宜採用することができる。ペースト塗布部220では、例えば、スリットコーター、ダイコーター、グラビアコーター等の適当な塗付装置を使用することによって、正極集電体62上に上記の水性ペーストを好適に塗布することができる。
【0048】
ここで、水性ペーストが塗布された正極集電体62の表面の第1凹凸62aは、図2(a)及び(b)に示すように、アルカリ性を示す水性ペーストによって腐食され、さらに微細な第2凹凸62bが形成される。なお、ここで、図2中の(a)は、正極集電体62の表面の第1凹凸62aを描写している。図2中の(b)は、第1凹凸62aに形成された微細な第2凹凸62bを描写している。図2の(a),(b)は、それぞれ模式的に描写しており、実際の第1凹凸62a、第2凹凸62bの形状を必ずしも正確に描写していない。
【0049】
ここで、水性ペーストは、正極活物質からリチウムイオンが水系溶媒中に溶出するので、アルカリ性を呈する。工程Cにおいて、水性ペーストが金属製の正極集電体62に塗布されると、正極集電体62表面において水性ペーストが触れた部分にアルカリによる腐食が起こる。そして、上記第1凹凸62aの表面に算術平均粗さRaが凡そ0.01μm〜0.2μmの微細な第2凹凸62bが形成される。この際、かかる微細な第2凹凸62bは、水性ペーストが正極集電体62を腐食させることによって形成される。なお、第1凹凸62aと第2凹凸62bの表面粗さの関係では、微細な第2凹凸62bの算術平均粗さRaは0.01μm以上でかつRaの10%以下の大きさであることが好ましい。
【0050】
このため、水性ペーストは微細な第2凹凸62bの内部にまで行き渡る。また、水性ペーストは、正極集電体62に塗布された領域において、かかる微細な第2凹凸62bを形成する。この際、正極集電体62に予め第1凹凸62aが形成されているので、第1凹凸62aのうねりに沿って第2凹凸62bが形成される。この結果、水性ペーストは、第1凹凸62aに第2凹凸62bが重なった複雑な表面形状に沿って正極集電体62と接する。
【0051】
次に、図1に示すように、水性ペーストが塗布された正極集電体62は、テンションローラ215によって一定のテンションが加えられた状態で乾燥炉225内へと送り出される。そして、乾燥炉225において正極集電体62上に形成された水系溶剤の蒸発及び水性ペースト(正極活物質層形成用ペースト)の乾燥を同時に実施する。乾燥温度は、バインダの融点以下が望ましく、50℃〜150℃程度であり、好ましくは70℃〜90℃である。また、乾燥時間は40秒〜300秒程度であり、好ましくは50秒〜80秒である。このように、水性ペーストが第1凹凸62aと第2凹凸62bのスケールの異なる凹凸に十分に行き渡った状態で乾燥し活物質層64を形成する。このため、より広い表面積で正極集電体62と活物質層64が接することとなる。
【0052】
特に、本実施形態では、塗布工程において、正極集電体62の第1凹凸62aが水性ペーストによって腐食され、第1凹凸62aの表面にさらに微細な第2凹凸62bが形成される。この際、第2凹凸62bは水性ペーストに接触することによって形成されるので、水性ペーストが第2凹凸62bの微細な凹凸に密着した状態で乾燥工程に送られる。このため、水性ペーストが乾燥することによって形成される正極活物質層64と、正極集電体62をより強固に結合させることができる。
【0053】
なお、上記乾燥する方法としては、余分な揮発成分を除去できるものであれば特に限定されない。例えば、熱風装置、各種赤外線装置、電磁誘導装置、マイクロ波装置等の適当な乾燥装置を使用することができる。
【0054】
図1に示すように、正極集電体62上に正極活物質層64が形成された正極シート66(正極)は、巻取ロール210に巻き取られる。なお、正極シート66は、必要に応じてプレス(圧縮)してもよい。プレス(圧縮)方法としては、従来公知のロールプレス法、平板プレス法等の圧縮方法を採用することができる。これにより、正極活物質層64の厚さを調整することができる。正極活物質層64の厚さを調整するにあたり、膜厚測定器で該厚みを測定し、プレス圧を調整して所望の厚さになるまで複数回圧縮してもよい。
【0055】
上記製造方法によって得られた正極シート(正極)66は、正極集電体62と活物質層64の界面形態がスケールの異なる2通りの凹凸により形成されている。好適には、正極活物質層64を保持した正極集電体62は、算術平均粗さRaが凡そ0.3μm〜1μmの第1凹凸62aを有し、さらに、第1凹凸62aの表面に、算術平均粗さRaが凡そ0.01μm〜0.2μmの第2凹凸62bを有する。かかる第1凹凸62aと第2凹凸62bで構成される複雑で、かつ広い表面積で、正極集電体62と正極活物質層64とが接することになる。正極集電体62と正極活物質層64の間に、より高い密着性及びより強い接着性を確保することができる。
【0056】
次に、上記正極を使用して構築されるリチウムイオン二次電池の一形態を説明する。まず、上述した正極(正極シート66)と組み合わせて使用するのに適する負極、セパレータ等について説明する。負極は、従来と同様の構成をとり得る。かかる負極を構成する負極集電体としては、例えば、銅材やニッケル材或いはそれらを主体とする合金材を用いることが好ましい。負極集電体の形状は、正極の形状と同様であり得る。典型的にはシート状の銅製の負極集電体が用いられる。
【0057】
負極に形成される負極活物質層に含まれる負極活物質としては、リチウムを吸蔵及び放出可能な材料であればよく、例えば、黒鉛(グラファイト)等の炭素材料、リチウム・チタン酸化物(LiTi12)等の酸化物材料、スズ、アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)、ケイ素(Si)等の金属もしくはこれらの金属元素を主体とする金属合金からなる金属材料、等が挙げられる。典型例として、黒鉛等から成る粉末状の炭素材量が挙げられる。例えば、黒鉛粒子を好ましく用いることができる。
【0058】
負極に形成される負極活物質層には、上記負極活物質の他に、例えば上記正極活物質層に配合され得る一種又は二種以上の材料を必要に応じて含有させることができる。そのような材料として、上記の正極活物質層の構成材料として列挙したようなバインダ(結着材)及び分散剤等として機能し得る各種の材料を同様に使用し得る。なお、バインダについては水系のものに限定されることなく、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等の溶剤系バインダを用いることもできる。
【0059】
本実施形態に係る負極は、負極活物質と結着材等とを従来と同様の適当な溶媒(水、有機溶媒等)に分散させてなるペースト状の組成物(以下、負極活物質層形成用ペーストという)を調製する。調製した該負極活物質層形成用ペーストを負極集電体に塗布し、乾燥させた後、圧縮(プレス)することによって、負極集電体と該負極集電体上に形成された負極活物質層とを備える負極を作製することができる。
【0060】
また、正極と負極とともに使用されるセパレータとしては、従来と同様のセパレータを使用することができる。例えば、樹脂からなる多孔性シート(微多孔質樹脂シート)を好ましく用いることができる。かかる多孔性シートの構成材料としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン等のポリオレフィン系樹脂が好ましい。
【0061】
特に、PEシート、PPシート、PE層とPP層とが積層された二層構造シート、二層のPP層の間に一層のPE層が挟まれた態様の三層構造シート等、の多孔質ポリオレフィンシートを好適に使用し得る。なお、電解質として固体電解質もしくはゲル状電解質を使用する場合には、セパレータが不要な場合(すなわちこの場合には電解質自体がセパレータとして機能し得る。)があり得る。
【0062】
電解質としては、従来からリチウムイオン二次電池に用いられる非水系の電解質(典型的には電解液)と同様のものを特に限定なく使用することができる。かかる非水系の電解質は、典型的には、適当な非水溶媒(有機溶媒)に電解質として機能し得るリチウム塩を含有させた組成を有する。上記電解質には、従来からリチウムイオン二次電池に用いられるリチウム塩を適宜選択して使用することができる。
【0063】
かかるリチウム塩として、LiPF、LiClO、LiAsF、Li(CFSON、LiBF、LiCFSO等が例示される。かかる電解質は、一種のみを単独で、又は二種以上を組み合わせて用いることができる。特に好ましい例として、LiPFが挙げられる。上記非水溶媒として、エチレンカーボネート(EC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)等のカーボネート類が例示される。かかる非水溶媒は、一種のみを単独で、又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0064】
以下、上記正極シート(正極)66を備えるリチウムイオン二次電池の一形態を図面を参照しつつ説明するが、本発明をかかる実施形態に限定することを意図したものではない。即ち、本実施形態に係る正極が採用される限りにおいて、構築されるリチウムイオン二次電池の形状(外形やサイズ)には特に制限はない。電池外装ケースが角型形状、円筒形状等の形状でもよく、或いは小型のボタン形状であってもよい。また、外装がラミネートフィルム等で構成される薄型シートタイプであってもよい。以下の実施形態では角型形状の電池について説明する。
【0065】
なお、以下の図面において、同じ作用を奏する部材、部位には同じ符号を付し、重複する説明は省略することがある。また、各図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は、必ずしも実際の寸法関係を反映するものではない。
【0066】
図3は、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池を模式的に示す斜視図である。図4は、図3中のIV−IV線に沿う縦断面図である。図3及び図4に示すように、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池10は、上記の構成材料(正負極それぞれの活物質、正負極それぞれの集電体、セパレータ等)を具備する電極体50と、該電極体50及び適当な非水系の電解質(典型的には電解液)を収容する角型形状(典型的には扁平な直方体形状)の電池ケース15とを備える。
【0067】
ケース15は、上記扁平な直方体形状における幅狭面の一つが開口部20となっている箱型のケース本体30と、その開口部20に取り付けられて(例えば溶接されて)該開口部20を塞ぐ蓋体25とを備えている。ケース15を構成する材質としては、一般的なリチウムイオン二次電池で使用されるものと同様のものを適宜使用することができ、特に制限はない。例えば、金属(例えばアルミニウム、スチール等)製の容器、合成樹脂(例えばポリオレフィン系樹脂等、ポリアミド系樹脂等の高融点樹脂等)製の容器等を好ましく用いることができる。本実施形態に掛かるケース15は例えばアルミニウム製である。
【0068】
蓋体25は、ケース本体30の開口部20の形状に適合する長方形状に形成されている。さらに、蓋体25には、外部接続用の正極端子60と負極端子70とがそれぞれ設けられており、これらの端子60,70の一部は蓋体25からケース15の外方に向けて突出するように形成されている。また、従来のリチウムイオン二次電池のケースと同様に、蓋体25には、電池異常の際にケース15内部で発生したガスをケース15の外部に排出するための安全弁(図示せず)が設けられている。安全弁は、ケース15内部の圧力が所定レベルを超えて上昇したときに、開弁してケース15の外部にガスを排出する機構を備えていれば特に制限無く使用することができる。
【0069】
本実施形態では、図4に示すように、リチウムイオン二次電池10は、捲回電極体50を備えている。電極体50は、捲回軸が横倒しとなる姿勢(すなわち、上記開口部20が捲回軸に対して横方向に位置する向き)でケース本体30に収容されている。電極体50は、長尺シート状の正極集電体62の表面に正極活物質層64が形成された正極シート(正極)66と、長尺シート状の負極集電体(電極集電体)72の表面に負極活物質層(電極活物質層)74が形成された負極シート(負極)76とを2枚の長尺状のセパレータシート80とともに重ね合わせて捲回し、得られた電極体50を側面方向から押しつぶして拉げさせることによって扁平形状に形成されている。
【0070】
また、捲回される正極シート66において、その長手方向に沿う一方の端部には正極活物質層64が形成されずに正極集電体62が露出している、他方、捲回される負極シート76においても、その長手方向に沿う一方の端部は負極活物質層74が形成されずに負極集電体72が露出している。そして、正極集電体62の上記露出している端部に正極端子60が接合され、上記扁平形状に形成された捲回電極体50の正極シート66と電気的に接続されている。同様に、負極集電体72の上記露出している端部に負極端子70が接合され、負極シート76と電気的に接続されている。なお、正負極端子60,70と正負極集電体62,72とは、例えば、超音波溶接、抵抗溶接等によりそれぞれ接合され得る。
【0071】
上記構成の捲回電極体50を構成する材料及び部材自体は、正極としてここで開示される正極(ここでは正極シート66)を採用する以外、従来のリチウムイオン二次電池の電極体と同様でよく特に制限はない。
【0072】
正極シート66は、上述したようにして作製される。一方、負極シート76は、長尺状の負極集電体(例えば長尺状の銅箔)72の上に負極活物質層74を形成することによって作製される。即ち、負極活物質(例えばグラファイト)と結着材(例えばPVDF)とを有機溶媒(例えばNMP)に分散させてなる負極活物質層形成用ペーストを調製する。調製した該ペーストを負極集電体72に塗布し、乾燥させた後、圧縮(プレス)することによって負極活物質層74が形成される。なお、負極活物質層74の形成方法自体は、従来と同様でよく本発明を特徴付けるものではない。このため詳細な説明は省略する。
【0073】
本実施形態では、上記作製した正極シート66及び負極シート76を2枚のセパレータ(例えば多孔質ポリオレフィン樹脂)80とともに積み重ね合わせて捲回する。これにより、得られた捲回電極体50の捲回軸が横倒しとなるように、ケース本体30内に捲回電極体50を収容する。そして、適当な支持塩(例えばLiPF6等のリチウム塩)を適当量(例えば濃度1M)含むECとDMCとの混合溶媒(例えば質量比1:1)のような非水電解液を注入する。その後、ケース本体30の開口部20に蓋体25を装着し封止することによって本実施形態のリチウムイオン二次電池10を構築することができる。ケース本体30の開口部20の封止は、例えば、ケース本体30に蓋体25を溶接するとよい。この場合、溶接は、例えばレーザ溶接で行なうとよい。
【0074】
上述した実施形態では、図2に示すように、正極活物質層64を保持した正極集電体62の表面に、算術平均粗さRaが凡そ0.3μm〜1μmの第1凹凸62aを有し、さらに、第1凹凸62aの表面に、算術平均粗さRaが凡そ0.01μm〜0.2μmの第2凹凸62bを有している。このように、第1凹凸62aと第2凹凸62bは、リチウムイオン二次電池の正極に対して適用されている。かかる形態は、正極に限定されず、例えば、リチウムイオン二次電池の負極に対しても適用することができる。また、上述した実施形態では、リチウムイオン二次電池10を例示したが、本発明は、リチウムイオン二次電池に限られず、ニッケル水素電池等の二次電池の電極(正極及び負極)に対しても適用することができる。
【0075】
以下、具体的ないくつかの実施例として、上述した製造方法によって二次電池(ここではリチウムイオン二次電池)を構築し、その性能評価を行った。
【0076】
<サンプル1>
正極は、以下の手順で作製した。
まず、以下に示す配合で正極活物質、導電材及び増粘剤を水に分散した後、結着材をPTFEが2重量部となるように加えることによって、正極水性ペーストを作製した。また、ここで作製された正極水性ペーストのpHは、12.5であった。
正極活物質:リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物 100重量部
導電材:デンカブラック粉末 4重量部(固形分重量)
増粘剤:カルボキシメチルセルロース 1重量部(固形分重量)
結着材:PTFEの水分散体 2重量部(固形分重量)
【0077】
次に、正極集電体62として厚さ15μmで算術平均粗さRaが0.5μmのアルミニウム箔を用意し、上記の正極水性ペーストを上記正極集電体62の両面に所定量塗布した後、95℃で1分間乾燥した。乾燥後、該塗布物をプレスして正極活物質層64を備える正極シート66を作製した。正極シート66について、図5参照。
【0078】
負極は、図示は省略するが、以下の手順で作製した。
負極活物質として天然黒鉛を用い、バインダとしてのスチレンブタジエンゴム(SBR)、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)との質量比が98:1:1となるように秤量する。次に、秤量されたこれら材料をイオン交換水に分散させて負極活物質層形成用ペーストを調製した。そして、該ペーストを厚さ10μmの銅箔の両面に所定塗布して乾燥した後、プレスして負極シートを作製した。
【0079】
非水電解液には、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とエチルメチルカーボネート(EMC)との体積比3:5:2の混合溶媒に1mol/LのLiPFを溶解させたものを用いた。
【0080】
上述したように得られた正極シートと負極シートとは、二枚のセパレータシート(ポリプロピレン製多孔質セパレータ)と共に重ね合わせて捲回して捲回電極体を得る。そして、得られた捲回電極体を扁平形状に押しつぶし、上述した非水電解液とともに円筒型の容器に収容して、理論容量1000mAhのリチウムイオン二次電池を構成した。
<サンプル2>
集電体として、算術平均粗さRaが0.84μmのアルミニウム箔を用いた以外は、サンプル1と同様にして電池を構成した。
<サンプル3>
サンプル1と同様に正極水性ペーストを作製した後、当該ペーストにCOを吹きこんでpHを10〜11(ここでは、pH10.6)に調整した以外は、サンプル1と同様にして電池を構成した。
【0081】
<サンプル4>
集電体として、算術平均粗さRaが0.12μmのアルミニウム箔を用いた以外は、サンプル1と同様にして電池を構成した。
<サンプル5>
集電体として、算術平均粗さRaが1.4μmのアルミニウム箔を用いた以外は、サンプル1と同様にして電池を構成した。
<サンプル6>
サンプル1と同様に正極水性ペーストを作製した後、ペーストにCOを吹きこんでpHを10より低く調整した(ここでは、pH9.3)以外は、サンプル1と同様にして電池を構成した。
<サンプル7>
サンプル1と同様に正極水性ペーストを作製した後、ペーストに水酸化リチウムを加えてpHを13より高く調整した(ここでは、pH13.7)以外は、サンプル1と同様にして電池を構成した。
【0082】
上記で得られた実施例及び比較例の正極水性ペーストのpHと、集電体からの正極活物質層の剥離強度、得られた電池の電池容量を測定し、下記表1に示した。また、正極の断面をSEMで観察し、正極集電体62の表面に形成された、より微細な凹凸(第2凹凸62b(図2参照)に相当する凹凸)についての表面粗さRaを測定し、併せて下記表1に示した。
【0083】
なお、サンプル5は、用いた集電体の算術平均粗さRaが1.4μmと大きすぎ、正極水性ペーストの塗工重量が安定せず、適当な正極を得ることができなかった。また、サンプル7は、用いた正極水性ペーストpHが高すぎ、正極水性ペーストの塗布により集電体の腐食が大きく塗工重量が安定せず、適当な正極を得ることができなかった。
【0084】
図5は、90度はく離接着強さ試験方法を示す図である。正極剥離強度は、図5に示したように、90度はく離接着強さ試験方法(JIS K 6854−1)に準じて測定した。ここで、試料120は、正極シート66の片面の正極活物質層64に、日東電工製の粘着テープ105(No.3303N)を貼り、幅15mm×長さ120mmの大きさに切り出す。切り出した試料120は、一端から40mmだけ粘着テープ105を剥がしておく。次いで、ステージ115に日東電工製両面テープ(No.501F)を貼る。この両面テープ110上に、粘着テープ105を下にして上記試料120を貼りつける。次に、試料120の剥がした40mmの部分をチャック125に固定する。そして、ステージ115に対して90°でチャック125を引っ張り、引っ張り荷重を測定する。チャック125の引っ張りには、ミネベア製万能試験機を用いた。引張り速度は、20m/minで行った。得られた引張り荷重(N)は、試料120の幅(15mm)で除して、剥離強度N/mを求めた。
【0085】
また、電池容量の測定は、各電池に対し、2Aで4.1Vまで充電し、2Aで3.0Vまで放電するサイクルを、25℃にて1000サイクル行った後、電池横領を測定し、初期に対する充放電サイクル後の容量維持率を算出した。なお、容量維持率は、「1000サイクル後の放電容量」/「初回の放電容量」×100(%)とした。
【0086】
【表1】

【0087】
表1のサンプル4及びサンプル5に示される通り、Raで表わされる集電体に設けられる大きな凹凸が大きすぎても、小さすぎても、正極活物質層の剥離強度の高い電極は得られないことが分かった。そして、サンプル6及びサンプル7に示される通り、たとえ大きな凹凸のRaが適切な範囲であっても、Raで表わされる細かい凹凸が適切な大きさでないと、正極活物質層の剥離強度の高い電極は得られないことが分かった。
【0088】
サンプル1〜3の正極は、集電体の表面に適切な表面粗さRaの大きな凹凸と、さらに適切な表面粗さRaの微細な凹凸とが存在し、正極活物質層は複雑な界面形態で強固に集電体と結合されていることが確認できた。
【0089】
また、pHが高い正極ペーストを集電体に塗布すると集電体の塗布面が腐食される。その腐食の程度は正極ペーストpHに依存する。この際、pH10〜13程度で適切な表面粗さRaが安定して得られ易い。そして正極ペーストのpHを適切な範囲に調製することで、特別な粗面化加工を必要とすることなく、第2凹凸62bに相当する、適切な表面粗さRaの微細な凹凸を集電体の表面に形成できる。
【0090】
ここで開示された二次電池(サンプル1〜3)は、正極活物質層64を保持した正極集電体62の表面に、算術平均粗さRaが凡そ0.3μm〜1μmの第1凹凸62aを有し、さらに、第1凹凸62aの表面に、算術平均粗さRaが凡そ0.01μm〜0.2μmの第2凹凸62bを有する。この場合、容量維持率が大幅に向上される。これは集電体と電極活物質層との密着性が向上したことに由来するものと考えられる。また、ここで開示された二次電池により、リチウムイオン二次電池のハイレート特性、急速充放電特性等が向上されることが予想される。すなわち、上記形態では、第2凹凸62bの存在により、正極集電体62と正極活物質層64とが微細に密着し、接触面積が広くなる。このため、正極集電体62と正極活物質層64の剥離強度が向上するとの効果だけでなく、正極活物質層64と正極集電体62の間の電荷の移動に要する抵抗も低減するものと考えられる。
【0091】
以上、本発明を好適な実施形態により説明してきたが、こうした記述は限定事項ではなく、勿論、種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0092】
ここで開示される技術によると、集電体の特別な粗面化処理を必要とせずに、集電体と電極活物質層とが強固に結合された二次電池を提供することができる。この二次電池は、集電体と活物質層の密着性に優れ、さらに接触面積が増大されているため、性能低下(例えば容量維持率の低下)が抑制された、耐久性のよいリチウムイオン二次電池等の二次電池を提供することができる。従って、本発明によると、図6に示されるように、かかるリチウムイオン二次電池10(当該電池10を複数個直列に接続して形成される組電池の形態であり得る。)を電源として備える車両1000(典型的には自動車、特にハイブリッド自動車、電気自動車のような電動機を備える自動車)を提供することができる。
【符号の説明】
【0093】
10 リチウムイオン二次電池
15 電池ケース
20 開口部
25 蓋体
30 ケース本体
50 捲回電極体
60 正極端子
62 正極集電体(電極集電体)
64 正極活物質層(電極活物質層)
66 正極シート(正極)
70 負極端子
72 負極集電体(電極集電体)
74 負極活物質層(電極活物質層)
76 負極シート(負極)
80 セパレータ
105 粘着テープ
110 両面テープ
115 ステージ
120 試料
125 チャック
200 電極製造装置
205 巻出ロール
210 巻取ロール
215 テンションローラ
220 ペースト塗布部
225 乾燥炉
1000 車両

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体と、
前記集電体の表面に保持された活物質層と
を備え、
ここで、
前記活物質層は、電極活物質と水系バインダとを少なくとも含んでおり、
前記活物質層を保持した前記集電体の表面に、算術平均粗さRaが0.3μm〜1μmの第1凹凸を有し、さらに、
前記第1凹凸の表面に、算術平均粗さRaが0.01μm〜0.2μmの第2凹凸を有する、二次電池。
【請求項2】
前記第2凹凸の算術平均粗さRaは0.01μm以上であり、かつ、前記第1凹凸の算術平均粗さRaの10%以下である、請求項1に記載された二次電池。
【請求項3】
前記水系バインダは、フッ素系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレンからなる群から選択される少なくとも一種のバインダである、請求項1又は2に記載された二次電池。
【請求項4】
前記集電体は、アルミニウム又はアルミニウム合金で形成されている、請求項1から3までの何れか一項に記載された二次電池。
【請求項5】
前記電極活物質は、層状構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物である、請求項1から4までの何れか一項に記載された二次電池。
【請求項6】
請求項1から5までの何れか一項に記載された二次電池を備える車両。
【請求項7】
算術平均粗さRaが0.3μm〜1μmの第1凹凸を有する集電体を用意する工程Aと、
少なくとも前記電極活物質と前記水系バインダと水系溶媒とを混合し、pHが10〜13に調整された水性ペーストを用意する工程Bと、
前記工程Aで用意された前記集電体の表面に、前記工程Bで用意された前記水性ペーストを塗布することによって、前記集電体の表面に、前記電極活物質と前記水系バインダとを含む活物質層を形成する工程Cと
を包含する、二次電池の製造方法。
【請求項8】
前記水系バインダは、フッ素系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレンからなる群から選択される少なくとも一種のバインダである、請求項7に記載された二次電池の製造方法。
【請求項9】
前記集電体は、アルミニウム又はアルミニウム合金で形成されている、請求項7又は8に記載された二次電池の製造方法。
【請求項10】
前記電極活物質は、層状構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物である、請求項7から9までの何れか一項に記載された二次電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−54871(P2013−54871A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−191133(P2011−191133)
【出願日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】