説明

二次電池用セパレータ層及び二次電池

【課題】二次電池のサイクル寿命を向上させることが可能な、新規かつ改良された二次電池用セパレータ層及びこの二次電池用セパレータ層を利用した二次電池を提供する。
【解決手段】上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、正極と負極との間に配置され、複数の第1の気孔が形成された基材と、少なくとも基材と負極との間に配置され、第1の気孔と異なる特性を有する第2の気孔が形成された多孔質層と、第1の気孔及び第2の気孔内に含浸し、少なくとも一部の水素原子がフッ素で置換されたフッ素化エーテルを含む電解液と、を備える、二次電池用セパレータ層が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池用セパレータ層及び二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1〜4に開示されるように、二次電池の一種として、リチウムイオン二次電池が知られている。特許文献1は、リチウムイオン二次電池の電解液に含フッ素化エーテル系溶媒を含める技術を開示する。特許文献2は、電解液にフッ素化環状カーボネートを含める技術を開示する。特許文献3は、電解液にシクロヘキシルフルオロベンゼンやフルオロビフェニルを含める技術を開示する。特許文献4は、電解液にフッ素化溶媒としてメチルノナフルオロブチルエーテルを含める技術を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−211822号公報
【特許文献2】特開2011−034943号明細書
【特許文献3】特開2005−259680号公報
【特許文献4】特開2002−343423号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記の各文献で開示されたリチウムイオン二次電池は、サイクル寿命が十分でないという問題があった。
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、二次電池のサイクル寿命を向上させることが可能な、新規かつ改良された二次電池用セパレータ層及びこの二次電池用セパレータ層を利用した二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、正極と負極との間に配置され、複数の第1の気孔が形成された基材と、少なくとも基材と負極との間に配置され、第1の気孔と異なる第2の気孔が形成された多孔質層と、少なくとも第1の気孔及び第2の気孔内に含浸し、少なくとも一部の水素原子がフッ素原子で置換されたフッ素化エーテルを含む電解液と、を備える、二次電池用セパレータ層が提供される。
【0006】
この観点によれば、第2の気孔の特性が第1の気孔の特性と異なり、かつ、電解液にフッ素化エーテルが含まれる。したがって、この二次電池用セパレータ層を二次電池に適用することで、二次電池のサイクル寿命が大幅に向上する。
【0007】
多孔質層は、正極と基材との間にも配置されてもよい。
【0008】
この観点によれば、サイクル寿命が更に向上する。
【0009】
第2の気孔は、第1の気孔よりも大きくてもよい。
【0010】
この観点によれば、セパレータ層の目詰まりが防止されるので、サイクル寿命が更に向上する。
【0011】
多孔質層の気孔率は、基材の気孔率よりも高くてもよい。
【0012】
この観点によれば、セパレータ層の目詰まりが防止されるので、サイクル寿命が更に向上する。
【0013】
フッ素化エーテルは、2,2,2−トリフルオロエチルメチルエーテル、2,2,2−トリフルオロエチルジフルオロメチルエーテル、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピルメチルエーテル、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピルジフルオロメチルエーテル、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル−1,1,2,2−テトラフルオロエチルエーテル、1,1,2,2−テトラフルオロエチルメチルエーテル、1,1,2,2−テトラフルオロエチルエチルエーテル、1,1,2,2−テトラフルオロエチルプロピルエーテル、1,1,2,2−テトラフルオロエチルブチルエーテル、1,1,2,2−テトラフルオロエチルイソブチルエーテル、1,1,2,2−テトラフルオロエチルイソペンチルエーテル、1,1,2,2−テトラフルオロエチル−2,2,2−トリフルオロエチルエーテル、1,1,2,2−テトラフルオロエチル−2,2,3,3−テトラフルオロプロピルエーテル、ヘキサフルオロイソプロピルメチルエーテル、1,1,3,3,3−ペンタフルオロ−2−トリフルオロメチルプロピルメチルエーテル、1,1,2,3,3,3−ヘキサフルオロプロピルメチルエーテル、1,1,2,3,3,3−ヘキサフルオロプロピルエチルエーテル、及び2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロブチルジフルオロメチルエーテルからなる群から選択されてもよい。
【0014】
この観点によれば、サイクル寿命が更に向上する。
【0015】
電解液は、フッ素化エーテルを、電解液の総体積に対して30〜60体積%含んでいてもよい。
【0016】
この観点によれば、サイクル寿命が更に向上する。
【0017】
電解液は、モノフルオロ炭酸エチレンを含んでいてもよい。
【0018】
この観点によれば、サイクル寿命が更に向上する。
【0019】
電解液は、モノフルオロ炭酸エチレンを、電解液の総体積に対して10〜30体積%含んでいてもよい。
【0020】
この観点によれば、サイクル寿命が更に向上する。
【0021】
電解液は、リチウム塩を1.15〜1.5mol/Lの濃度で含んでいてもよい。
【0022】
この観点によれば、サイクル寿命が更に向上する。
【0023】
本発明の他の観点によれば、正極と、負極と、上記の二次電池用セパレータ層と、を含むことを特徴とする、電極構造体が提供される。
【0024】
この観点によれば、サイクル寿命が向上した電極構造体が提供される。
【0025】
本発明の他の観点によれば、上記の電極構造体を含むことを特徴とする、二次電池が提供される。
【0026】
この観点によれば、サイクル寿命が向上した二次電池が提供される。
【発明の効果】
【0027】
以上説明したように本発明によれば、二次電池のサイクル寿命が大幅に向上する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施形態に係るリチウムイオン二次電池を示す断面図である。
【図2】同実施形態にかかるリチウムイオン二次電池のサイクル数と放電容量との対応関係を示すグラフである。
【図3】同実施形態にかかるリチウムイオン二次電池のサイクル数と放電容量との対応関係を示すグラフである。
【図4】同実施形態にかかるリチウムイオン二次電池のサイクル数と放電容量との対応関係を示すグラフである。
【図5】同実施形態にかかるリチウムイオン二次電池のサイクル数と放電容量との対応関係を示すグラフである。
【図6】同実施形態にかかるリチウムイオン二次電池のサイクル数と放電容量との対応関係を示すグラフである。
【図7】同実施形態にかかるリチウムイオン二次電池のサイクル数と放電容量との対応関係を示すグラフである。
【図8】同実施形態にかかるリチウムイオン二次電池のサイクル数と放電容量との対応関係を示すグラフである。
【図9】同実施形態にかかるリチウムイオン二次電池のサイクル数と放電容量との対応関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0030】
[リチウムイオン二次電池の構成]
まず、図1に基づいて、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池10の構成について説明する。
【0031】
リチウムイオン二次電池10は、正極20と、負極30と、セパレータ層40とを備える。リチウムイオン二次電池10の充電到達電圧(酸化還元電位)は、例えば4.3V(vs.Li/Li)以上5.0V以下、特に4.5V以上5.0V以下となる。リチウムイオン二次電池10の形態は、特に限定されない。即ち、リチウムイオン二次電池10は、円筒形、角形、ラミネート形、ボタン形等のいずれであってもよい。
【0032】
正極20は、集電体21と、正極活物質層22とを備える。集電体21は、導電体であればどのようなものでも良く、例えば、アルミニウム、ステンレス鋼、及びニッケルメッキ鋼等で構成される。
【0033】
正極活物質層22は、少なくとも正極活物質を含み、導電剤と、結着剤とをさらに含んでいてもよい。正極活物質は、例えばリチウムを含む固溶体酸化物であるが、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵及び放出することができる物質であれば特に制限されない。固溶体酸化物は、例えば、LiMnCoNi(1.150≦a≦1.430、0.45≦x≦0.6、0.10≦y≦0.15、0.20≦z≦0.28)、LiMnCoNi(0.3≦x≦0.85、0.10≦y≦0.3、0.10≦z≦0.3)、LiMn1.5Ni0.5となる。正極活物質の含有量は、活物質層22の総質量に対して85質量%以上96以下質量%であること好ましく、88質量%以上94質量%以下であることが更に好ましい。正極活物質の含有量がこのような範囲のときに、サイクル寿命及び正極20のエネルギー密度が特に向上する。例えば、エネルギー密度については、正極活物質、導電剤、及び結着剤の含有量と、正極活物質層22の密度とを本実施形態で示される範囲とすることで、530Wh/l(180Wh/kg)以上を引き出すことができる。
【0034】
導電剤は、例えばケッチェンブラック、アセチレンブラック等のカーボンブラック、天然黒鉛、人造黒鉛等であるが、正極の導電性を高めるためのものであれば特に制限されない。導電剤の含有量は、正極活物質層22の総質量に対して3質量%以上10質量%以下が好ましく、4質量%以上6質量%以下が更に好ましい。導電剤の含有量がこのような範囲のときに、サイクル寿命及びエネルギー密度が特に向上する。
【0035】
結着剤は、例えばポリフッ化ビニリデン、エチレンプロピレンジエン三元共重合体、スチレンブタジエンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、フッ素ゴム、ポリ酢酸ビニル、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレン、ニトロセルロース等であるが、正極活物質及び導電剤を集電体20上に結着させることができるものであれば、特に制限されない。結着剤の含有量は、正極活物質層22の総質量に対して3質量%以上7質量%以下であることが好ましく、4質量%以上6質量%以下であることが更に好ましい。結着剤の含有量がこのような範囲のときに、サイクル寿命及びエネルギー密度が特に向上する。
【0036】
正極活物質層22の密度(g/cm)は、特に制限されないが、例えば、2.0以上3.0以下であることが好ましく、2.5以上3.0以下であることが更に好ましい。正極活物質層22の密度がこのような範囲のときに、サイクル寿命及びエネルギー密度が特に向上する。なお、密度が3.0g/cmを超えると正極活物質の粒子が破壊されてしまい、破壊粒子間の電気的接触が損なわれる。この結果、正極活物質の利用率が低下するので、本来の放電容量が得られず、分極が起こりやすくなる。さらに、正極活物質は、設定電位以上の電位まで充電された状態となり、電解液の分解や活物質遷移金属の溶出を引き起こし、サイクル特性を低下させてしまう。このような観点からも、正極活物質層22の密度は上記範囲内であることが好ましい。なお、正極活物質層22の密度は、正極活物質層22の圧延後の面密度を正極活物質層22の圧延後の厚さで除算することで得られる。
【0037】
正極活物質層22は、例えば、正極活物質、導電剤、及び結着剤を適当な有機溶媒(例えばN−メチル−2−ピロリドン)に分散させることでスラリーを形成し、このスラリーを集電体21上に塗工し、乾燥、圧延することで形成される。
【0038】
負極30は、集電体31と、負極活物質層32とを含む。集電体31は、導電体であればどのようなものでも良く、例えば、アルミニウム、ステンレス鋼、及びニッケルメッキ鋼等で構成される。負極活物質層32は、少なくとも負極活物質を含み、結着剤をさらに含んでいてもよい。負極活物質は、例えば、黒鉛活物質(人造黒鉛、天然黒鉛、人造黒鉛と天然黒鉛との混合物、人造黒鉛を被覆した天然黒鉛等)、ケイ素もしくはスズもしくはそれらの酸化物の微粒子と黒鉛活物質との混合物、ケイ素もしくはスズの微粒子、ケイ素もしくはスズを基本材料とした合金、及びLiTi12等の酸化チタン系化合物等が考えられる。ケイ素の酸化物は、SiO(0≦x≦2)で表される。なお、負極活物質は、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵及び放出することができる物質であれば特に制限されない。負極活物質の含有量は、負極活物質層32の総質量に対して90質量%以上98質量%以下であることが好ましい。負極活物質の含有量がこのような範囲のときに、サイクル寿命及びエネルギー密度が特に向上する。
【0039】
結着剤は、正極活物質層22を構成する結着剤と同様のものでもある。正極活物質層22を集電体21上に塗布する際に、増粘剤としてカルボキシメチルセルロース(以下、CMC)を結着剤の質量の1/10以上同質量以下で併用してもよい。増粘剤を含めた結着剤の含有量は、負極活物質層32の総質量に対して1質量%以上10質量%以下であることが好ましい。増粘剤を含めた結着剤の含有量がこのような範囲のときに、サイクル寿命及びエネルギー密度が特に向上する。
【0040】
負極活物質層32の密度(g/cm)は、特に制限されないが、例えば1.0以上2.0以下であることが好ましい。負極活物質層32の密度がこのような範囲のときに、サイクル寿命及びエネルギー密度が特に向上する。負極活物質層32は、例えば、負極活物質、及び結着剤を適当な溶媒(例えばN−メチル−2−ピロリドンや水)に分散させることでスラリーを形成し、このスラリーを集電体31上に塗工し、乾燥させることで形成される。なお、負極活物質層32の密度は、負極活物質層32の圧延後の面密度を負極活物質層32の圧延後の厚さで除算することで得られる。
【0041】
セパレータ層40は、セパレータ40aと、電解液43とを含む。セパレータ40aは、基材41と、多孔質層42とを含む。基材41は、ポリエチレン及びポリプロピレン等から選択される材料で構成され、多数の第1の気孔(細孔)41aを含む。なお、図1では、第1の気孔41aが球形となっているが、第1の気孔41aは様々な形状をとりうる。第1の気孔41aの孔径は、例えば0.1〜0.5μmの範囲内で分布している。第1の気孔41aの孔径は、例えば、第1の気孔41aを球とみなした時の直径、即ち球相当径である。第1の気孔41aは、例えば自動ポロキシメータAutoporeIV、島津製作所株式会社によって測定される。この測定装置は、例えば、第1の気孔41aの孔径分布を測定し、さらに、分布が最も高い孔径を代表値として測定する。なお、基材41の表面層に存在する気孔41aの孔径は、例えば、走査型電子顕微鏡JSM−6060 日本電子株式会社によっても測定可能である。この測定装置は、例えば、表面層における第1の気孔41aの各々について孔径を測定する。
【0042】
基材41の気孔率は、例えば38〜44%となる。基材41の気孔率がこのような範囲のときに、サイクル寿命が特に向上する。基材41の気孔率は、第1の気孔41aの総体積を基材41の総体積(基材41の樹脂部分及び第1の気孔41の総体積)で除算することで得られる。基材41の気孔率は、例えば自動ポロキシメータAutoporeIV、島津製作所株式会社によって測定される。基材41の厚さは、6〜19μmであることが好ましい。基材41の厚さがこのような範囲のときに、サイクル寿命が特に向上する。
【0043】
多孔質層42は、基材41と異なる材料、例えばポリフッ化ビニリデン、ポリアミドイミド、及びアラミド(芳香族ポリアミド)等から選択される材料で構成され、多数の第2の気孔(細孔)42aを含む。なお、図1では、第2の気孔42aが球形となっているが、第2の気孔42aは様々な形状をとりうる。
【0044】
第2の気孔42aは第1の気孔41aと異なる。具体的には、第2の気孔42aの孔径及び気孔率が第1の気孔41aの値よりも大きくなる。即ち、第2の気孔42aの孔径は、例えば1〜2μmの範囲内で分布している。第2の気孔42aの孔径は、例えば、第2の気孔42aを球とみなした時の直径、即ち球相当径であり、例えば、走査型電子顕微鏡JSM−6060 日本電子株式会社によって測定される。この測定装置は、第2の気孔42aの各々について孔径を測定する。
【0045】
なお、多孔質層42に適用されるポリフッ化ビニリデンとしては、例えば、株式会社クレハ製KFポリマー #1700、#9200、#9300等が考えられる。ポリフッ化ビニリデンの重量平均分子量は約50万〜100万となる。多孔質層42は、自ら合成しても良いし、既存のものを購入するようにしてもよい。
【0046】
セパレータ40aの気孔率は、例えば39〜58%となる。セパレータ40aの気孔率がこのような範囲のときに、サイクル寿命が特に向上する。ここで、セパレータ40aの気孔率は、第1の気孔41a及び第2の気孔42aの総体積を、セパレータ40aの総体積(基材41の樹脂部分及び第1の気孔41aと、多孔質層42の樹脂部分及び第2の気孔42aとの総体積)で除算することで得られる。セパレータ40aの気孔率は、例えば、自動ポロキシメータAutoporeIV、島津製作所株式会社によって測定される。セパレータ40aの気孔率が基材41の気孔率よりも大きいので、多孔質層42の気孔率、即ち第2の気孔42aの気孔率は、基材41の気孔率、即ち第1の気孔41aの気孔率よりも高いと言える。
【0047】
多孔質層42の厚さは、1〜5μmであることが好ましい。セパレータ40aの総厚さ、即ち基材41の厚さと多孔質層42の厚さとの総和は、10〜25μmとなることが好ましい。多孔質層42やセパレータ40aの厚さがこれらの範囲となる場合に、サイクル寿命が特に向上する。また、図1では、多孔質層42は基材41の表裏両面、即ち正極20側の面と負極30側の面との両方に設けられるが、少なくとも負極30側の面に設けられればよい。リチウムイオン二次電池のサイクル寿命を向上させるという観点からは、多孔質層42は、基材41の表裏両面に設けられることが好ましい。
【0048】
なお、基材41の透気度(JIS P8117で定義される透気度)は、特に制限されないが、例えば250〜300sec/100ccであることが好ましい。セパレータ40aの透気度は、特に制限されないが、例えば220〜340sec/100ccであることが好ましい。基材41及びセパレータ40aの透気度がこれらの範囲となる場合に、サイクル寿命が特に向上する。基材41及びセパレータ40aの透気度は、例えば、ガーレー式透気度計G−B2 東洋精器株式会社によって測定される。
【0049】
セパレータ40aは、例えば、多孔質層42を構成する樹脂及び水溶性有機溶媒を含む塗工液を基材41に塗工し、その後、樹脂の凝固及び水溶性有機溶媒の除去等を行なうことで形成される。
【0050】
電解液43は、電解質であるリチウム塩(例えばヘキサフルオロリン酸リチウムLiPF)と、少なくとも一部の水素原子がフッ素で置換されたフッ素化エーテル(HFE)とを含む。電解液には、モノフルオロ炭酸エチレンが含まれていてもよい。なお、リチウム塩としては、ヘキサフルオロリン酸リチウムの他、LiBF、LiClO、LiSOCF、LiN(SOCF)、LiN(SOCFCF)、LiC(SOCFCF、LiC(SOCF、LiI、LiCl、LiF、LiPF(SOCF)、LiPF(SOCF等が考えられる。
【0051】
ヘキサフルオロリン酸リチウムの濃度は、1.15〜1.5mol/Lであることが好ましく、1.3〜1.45mol/Lであることがより好ましい。ヘキサフルオロリン酸リチウムの濃度がこのような範囲のときに、サイクル寿命が特に向上する。
【0052】
フッ素化エーテルは、エーテルの水素をフッ素に置換することで、耐酸化性が向上したものである。このようなフッ素化エーテルは、2,2,2−トリフルオロエチルメチルエーテル(CFCHOCH)、2,2,2−トリフルオロエチルジフルオロメチルエーテル(CFCHOCHF)、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピルメチルエーテル(CFCFCHOCH)、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピルジフルオロメチルエーテル(CFCFCHOCHF)、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル−1,1,2,2−テトラフルオロエチルエーテル(CFCFCHOCFCFH)、1,1,2,2−テトラフルオロエチルメチルエーテル(HCFCFOCH)、1,1,2,2−テトラフルオロエチルエチルエーテル(HCFCFOCHCH)、1,1,2,2−テトラフルオロエチルプロピルエーテル(HCFCFOC)、1,1,2,2−テトラフルオロエチルブチルエーテル(HCFCFOC)、1,1,2,2−テトラフルオロエチルイソブチルエーテル(HCFCFOCHCH(CH)、1,1,2,2−テトラフルオロエチルイソペンチルエーテル(HCFCFOCHC(CH)、1,1,2,2−テトラフルオロエチル−2,2,2−トリフルオロエチルエーテル(HCFCFOCHCF)、1,1,2,2−テトラフルオロエチル−2,2,3,3−テトラフルオロプロピルエーテル(HCFCFOCHCFCFH)、ヘキサフルオロイソプロピルメチルエーテル((CFCHOCH)、1,1,3,3,3−ペンタフルオロ−2−トリフルオロメチルプロピルメチルエーテル((CFCHCFOCH)、1,1,2,3,3,3−ヘキサフルオロプロピルメチルエーテル(CFCHFCFOCH)、1,1,2,3,3,3−ヘキサフルオロプロピルエチルエーテル(CFCHFCFOCHCH)、及び2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロブチルジフルオロメチルエーテル(CFCHFCFCHOCHF)からなる群から選択される。即ち、フッ素化エーテルは、これらの物質のいずれか1つから構成されていてもよいが、これらの物質の混合物であってもよい。フッ素化エーテルの体積比は、電解液43の総体積に対して30〜60体積%が好ましく、35〜50体積%がより好ましい。フッ素化エーテルの体積比がこのような範囲のときに、サイクル寿命が特に向上する。
【0053】
モノフルオロ炭酸エチレンの体積比は、電解液43の総体積に対して10〜30体積%が好ましく、15〜20体積%がより好ましい。モノフルオロ炭酸エチレンの体積比がこのような範囲のときに、サイクル寿命が特に向上する。
【0054】
なお、電解液には、各種の添加剤(負極SEI(Solid Electrolyte Interface)形成剤、界面活性剤等)を添加してもよい。このような添加剤としては、例えば、炭酸ビニレン、炭酸ビニルエチレン、炭酸フェニルエチレン、コハク酸無水物、リチウムビスオキサラート、テトラフルオロホウ酸リチウム、ジニトリル化合物、プロパンスルトン、ブタンスルトン、プロペンスルトン、3−スルフォレン、フッ素化アリルエーテル、フッ素化アクリレート等が考えられる。添加剤の添加量は、電解液の総質量に対して、0.01〜5.0質量%であることが好ましい。添加剤の質量比がこのような範囲のときに、サイクル寿命が特に向上する。
【0055】
ジニトリル化合物は、例えば、スクシノニトリル及びアジポニトリル等である。フッ素化アリルエーテルは、例えば、(2H−パーフルオロエチル)−2−プロペニルエーテル、アリル−2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロペンチルエーテル、ヘプタフルオロ−2−プロピルアリルエーテル等である。フッ素化アクリレートは、1H、1H−ペンタフルオロプロピルアクリレート、2,2,3,3−テトラフルオロプロピルアクリレート等である。
【0056】
[リチウムイオン二次電池の製造方法]
次に、リチウムイオン二次電池10の製造方法について説明する。正極20は、以下のように製造される。まず、正極活物質、導電剤、及び結着剤を上記の割合で混合したものを、有機溶媒(例えばN−メチル−2−ピロリドン)に分散させることでスラリーを形成する。次いで、スラリーを集電体21上に形成(例えば塗工)し、乾燥させることで、正極活物質層22を形成する。なお、塗工の方法は、特に限定されない。塗工の方法としては、例えば、ナイフコーター法、グラビアコーター法等が考えられる。以下の各塗工工程も同様の方法により行われる。次いで、プレス機により正極活物質層22を上記の範囲内の厚さとなるようにプレスする。これにより、正極20が製造される。
【0057】
負極30も、正極20と同様に製造される。まず、負極活物質及び結着剤を上記の割合で混合したものを、有機溶媒(例えばN−メチル−2−ピロリドン)に分散させることでスラリーを形成する。次いで、スラリーを集電体31上に形成(例えば塗工)し、乾燥させることで、負極活物質層32を形成する。次いで、プレス機により負極活物質層32を上記の範囲内の厚さとなるようにプレスする。これにより、負極30が製造される。
【0058】
セパレータ40aは、以下のように製造される。まず、多孔質層42を構成する樹脂と、水溶性有機溶媒とを5〜10:90〜95の質量比で混合することで、塗工液を製造する。ここで、水溶性有機溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルアセトアミド(DMAc)、トリプロピレングリコール(TPG)等が考えられる。ついで、この塗工液を基材41の両面または片面に1〜5μmの厚さで形成(例えば塗工)する。次いで、塗工液が塗工された基材41を凝固液で処理することで、塗工液中の樹脂を凝固させる。ここで、塗工液が塗工された基材41を凝固液で処理する方法としては、例えば、塗工液が塗工された基材41を凝固液に含浸させる方法、塗工液が塗工された基材41に凝固液を吹きつける方法等が考えられる。これにより、セパレータ40aが製造される。ここで、凝固液は、例えば、上記の水溶性有機溶媒に水を混合させたものである。水の混合量は、凝固液の総体積に対して40〜80体積%が好適である。次いで、セパレータ40aを水洗、乾燥することで、セパレータ40aから水及び水溶性有機溶媒を除去する。
【0059】
次いで、セパレータ40aを正極20及び負極30で挟むことで、電極構造体を製造する。多孔質層42が基材41の一方の面にのみ形成されている場合、負極30を多孔質層42に対向させる。次いで、電極構造体を所望の形態(例えば、円筒形、角形、ラミネート形、ボタン形等)に加工し、当該形態の容器に挿入する。次いで、当該容器内に上記組成の電解液を注入することで、セパレータ40a内の各気孔に電解液を含浸させる。これにより、リチウムイオン二次電池が製造される。
【0060】
以上により、本実施形態によるリチウムイオン二次電池10によれば、多孔質層42に形成された第2の気孔42aの特性が基材41に形成された第1の気孔41aと異なっている。さらに、電解液43は、フッ素化エーテルを含む。したがって、リチウムイオン二次電池10は、サイクル寿命を大幅に向上させることができる。即ち、多孔質層42により、電極近傍の電解液が強固に保持される。多孔質層42により、セパレータ40aが電気化学的に分解されることが防止される。フッ素化エーテルにより、電解液43が電気化学的に酸化分解されることが防止される。これらの要因により、サイクル寿命が大幅に向上するものと推定される。
【0061】
さらに、多孔質層42は、基材41の表裏両面に形成されることもできる。この場合、サイクル寿命が更に向上する。
【0062】
さらに、第2の気孔42aの孔径は、第1の気孔41aの孔径よりも大きいので、堆積物によるセパレータ40aの目詰まりを防止することができる。これにより、サイクル寿命が向上する。
【0063】
さらに、多孔質層42の気孔率、即ち第2の気孔42aの気孔率は、第1の気孔41aの気孔率、即ち基材41の気孔率よりも大きいので、この点においても、堆積物によるセパレータ40aの目詰まりを防止することができる。これにより、サイクル寿命が向上する。
【0064】
さらに、フッ素化エーテルは、2,2,2−トリフルオロエチルメチルエーテル、2,2,2−トリフルオロエチルジフルオロメチルエーテル、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピルメチルエーテル、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピルジフルオロメチルエーテル、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル−1,1,2,2−テトラフルオロエチルエーテル、1,1,2,2−テトラフルオロエチルメチルエーテル、1,1,2,2−テトラフルオロエチルエチルエーテル、1,1,2,2−テトラフルオロエチルプロピルエーテル、1,1,2,2−テトラフルオロエチルブチルエーテル、1,1,2,2−テトラフルオロエチルイソブチルエーテル、1,1,2,2−テトラフルオロエチルイソペンチルエーテル、1,1,2,2−テトラフルオロエチル−2,2,2−トリフルオロエチルエーテル、1,1,2,2−テトラフルオロエチル−2,2,3,3−テトラフルオロプロピルエーテル、ヘキサフルオロイソプロピルメチルエーテル、1,1,3,3,3−ペンタフルオロ−2−トリフルオロメチルプロピルメチルエーテル、1,1,2,3,3,3−ヘキサフルオロプロピルメチルエーテル、1,1,2,3,3,3−ヘキサフルオロプロピルエチルエーテル、及び2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロブチルジフルオロメチルエーテルからなる群から選択される。実施例に示されるように、フッ素化エーテルがこれらの物質である場合、サイクル寿命が大幅に向上する。
【0065】
さらに、電解液43は、フッ素化エーテルを、電解液43の総体積に対して30〜60体積%含むので、この点においてもサイクル寿命が大幅に向上する。
【0066】
さらに、電解液43は、モノフルオロ炭酸エチレンを含むので、この点においてもサイクル寿命が大幅に向上する。
【0067】
さらに、電解液43は、モノフルオロ炭酸エチレンを、電解液43の総体積に対して10〜30体積%含むので、この点においても、サイクル寿命が大幅に向上する。
【0068】
さらに、電解液43は、ヘキサフルオロリン酸リチウムを1.15〜1.5mol/Lの濃度で含むので、この点においても、サイクル寿命が大幅に向上する。
【実施例】
【0069】
次に、実施例を説明する。なお、以下の各実施例における各パラメータ(例えば孔径)は、上述した装置により測定された。本発明者は、多孔質層42とフッ素化エーテルとの組み合わせの効果を確認するために、以下の実施例1〜3に係るリチウムイオン二次電池10と、比較例1に係るリチウムイオン二次電池を製造した。
[実施例1]
実施例1では、リチウムイオン二次電池10を以下のように製造した。正極20については、まず、固溶体酸化物Li1.20Mn0.55Co0.10Ni0.1590質量%、ケッチェンブラック6質量%、ポリフッ化ビニリデン4質量%をN−メチル−2−ピロリドンに分散させることで、スラリーを形成した。次いで、スラリーを集電体21であるアルミニウム集電箔上に塗工し、乾燥させることで、正極活物質層22を形成した。次いで、プレス機により正極活物質層22をプレスすることで、正極活物質層22の密度を2.3g/cmとした。これにより、正極20を製造した。
【0070】
負極30については、人造黒鉛96質量%、ポリフッ化ビニリデン4質量%をN−メチル−2−ピロリドンに分散させることで、スラリーを形成した。次いで、スラリーを集電体31であるアルミニウム集電箔上に塗工し、乾燥させることで、負極活物質層32を形成した。次いで、プレス機により負極活物質層32をプレスすることで、負極活物質層32の密度を1.45g/cmとした。これにより、負極30を製造した。
【0071】
セパレータ40aについては、アラミド(シグマルドリッチジャパン株式会社商品 Poly[N,N‘−(1,3−phenylene)isophthalamide])と水溶性有機溶媒とを(5.5:94.5質量%)の割合で混合することで、塗工液を製造した。ここで、DMAcとTPGとを50:50の質量比で混合したものを水溶性有機溶媒とした。
【0072】
一方、基材41に多孔質ポリエチレンフィルム(厚さ13μm、気孔率42%)を用いた。ついで、塗工液を基材41の両面に2μmの厚さで塗工した。次いで、塗工液が塗工された基材41を凝固液に含浸させることで、塗工液中の樹脂を凝固させた。これにより、セパレータ40aを製造した。ここで、水とDMAcとTPGとを50:25:25の割合で混合したものを凝固液とした。次いで、セパレータ40aを水洗、乾燥することで、セパレータ40aから水及び水溶性有機溶媒を除去した。
【0073】
次いで、セパレータ40aを正極20及び負極30で挟むことで、電極構造体を製造した。次いで、電極構造体を試験容器に挿入した。一方、炭酸エチレン(EC)、炭酸ジメチル(DMC)、及びHCFCFOCHCFCFH(ダイキン工業株式会社製D2)を15:35:50の体積比で混合した溶媒に、ヘキサフルオロリン酸リチウムを1.15mol/Lの濃度となるように溶解することで、電解液を製造した。次いで、試験容器内に電解液を注入することで、セパレータ40a内の各気孔に電解液を含浸させた。これにより、評価用のリチウムイオン二次電池10を製造した。
【0074】
[実施例2]
セパレータ40aを以下のように製造した他は、実施例1と同様にして評価用のリチウムイオン二次電池10を製造した。即ち、ポリアミドイミド(ARKEMA社 MS1700)と水溶性有機溶媒とを(5:95質量%)の割合で混合することで、塗工液を製造した。水溶性有機溶媒は実施例1と同様である。
【0075】
一方、基材41に多孔質ポリエチレンフィルム(厚さ19μm、気孔率40%)を用いた。ついで、塗工液を基材41の一方の面に1μmの厚さで塗工した。次いで、塗工液が塗工された基材41を凝固液に含浸させることで、塗工液中の樹脂を凝固させた。これにより、セパレータ40aを製造した。凝固液は実施例1と同様である。次いで、セパレータ40aを水洗、乾燥することで、セパレータ40aから水及び水溶性有機溶媒を除去した。
【0076】
[実施例3]
セパレータ40aを以下のように製造した他は、実施例1と同様にして評価用のリチウムイオン二次電池10を製造した。即ち、ポリフッ化ビニリデンと水溶性有機溶媒とを(6.5:93.5質量%)の割合で混合することで、塗工液を製造した。水溶性有機溶媒は実施例1と同様である。
【0077】
一方、基材41に多孔質ポリエチレンフィルム(厚さ16μm、気孔率41%)を用いた。ついで、塗工液を基材41の両面に2μmの厚さで塗工した。次いで、塗工液が塗工された基材41を凝固液に含浸させることで、塗工液中の樹脂を凝固させた。これにより、セパレータ40aを製造した。凝固液は実施例1と同様である。次いで、セパレータ40aを水洗、乾燥することで、セパレータ40aから水及び水溶性有機溶媒を除去した。
【0078】
[比較例1]
セパレータとしてポリエチレンフィルム(旭化成株式会社製HIPORE ND420)をそのまま用いたほかは、実施例1と同様にして、評価用のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0079】
表1に、実施例1〜3に係るセパレータ40a及び比較例1に係るセパレータの特性を示す。
【0080】
【表1】

【0081】
なお、表1中の孔径は、セパレータ全体の孔径分布を示す。表1中の気孔率及び透気度も、セパレータ全体に対する値を示す。実施例2、3の気孔率が比較例1よりも低いのは、実施例2、3の基材41は、比較例1のセパレータよりも気孔率が低くなっているためである。
【0082】
[評価]
実施例1〜3に係るリチウムイオン二次電池10と、比較例1に係るリチウムイオン二次電池とのそれぞれについて、室温(25℃)下でサイクル特性評価(充電電圧4.65V、放電終止電圧2.00V)を実施した。本実施形態のサイクル特性評価では、充電電圧から放電終止電圧まで放電してから、充電電圧まで充電するサイクルを1サイクルとする。放電容量の測定は、TOSCAT3000 東洋システム株式会社により行われた。なお、印加電流は、1サイクル目が0.27mA/cmであり、2〜200サイクル目では2.7mA/cmである。即ち、1サイクル目の印加電流は、2サイクル目以降の印加電流よりも小さい。1サイクル目は、負極にSEIを形成する必要があるので、充放電をゆっくりと行う必要があるためである。その結果を図2に示す。図2によれば、比較例1は、サイクル数の増加に伴い、放電容量が初期値から大きく低下するのに対し、実施例1〜3は、サイクル数が増加しても、放電容量が初期値に近い値に維持される。即ち、実施例1〜3は、比較例1よりも非常に優れたサイクル寿命を示す。このように、セパレータ40aに多孔質層42を含め、かつ、電解液にフッ素化エーテルを含めることで、サイクル寿命が大幅に向上する。また、多孔質層42を基材41の片面よりも両面に設けたほうが、サイクル寿命を向上させることができる。
【0083】
本発明者は、多孔質層42とフッ素化エーテルとの組み合わせの効果を更に詳細に確認するために、実施例4〜8に係るリチウムイオン二次電池10と、比較例2〜3に係るリチウムイオン二次電池を製造した。本発明者は、実施例1の電解液を以下の表2に示す組成に変更したほかは、実施例1と同様にして、実施例4〜8に係るリチウムイオン二次電池10と、比較例2〜3に係るリチウムイオン二次電池を製造した。
【0084】
【表2】

【0085】
[評価]
実施例4〜8に係るリチウムイオン二次電池10と、比較例2〜3に係るリチウムイオン二次電池とのそれぞれについて、サイクル特性評価(充電電圧4.65V、放電終止電圧2.00V)を実施した。その結果を図3に示す。図3によれば、実施例4〜8は、比較例2〜3よりも非常に優れたサイクル寿命を示す。このように、セパレータ40aに多孔質層42を含め、かつ、電解液にフッ素化エーテルを含めることで、サイクル寿命が大幅に向上する。また、炭酸エチレンをモノフルオロ炭酸エチレンに置換することで、サイクル寿命が向上する。さらに、ヘキサフルオロリン酸リチウムの濃度を高くすることで、サイクル寿命が向上する。さらに、炭酸エチルメチルをジフルオロ酢酸メチルエステルに置換することで、サイクル寿命が向上する。さらに、スクシノニトリルを電解液に添加することで、サイクル寿命が向上する。
【0086】
実施例1〜8及び比較例1〜3については、以下のような所見も得られた。比較例1に係るリチウムイオン二次電池10について充放電を繰り返すと、粒子状の物質が電極上に堆積する。この堆積物は、有機物と無機物との混合物になっている。比較例1では、この堆積物がセパレータの気孔に入り込むことで、セパレータが目詰まりを起こす。セパレータが目詰まりを起こすと、電解質の移動が妨げられる。
【0087】
また、比較例2〜3によるリチウムイオン二次電池について充放電を繰り返していくと、各電極の表面に粘性の高い物質が電極上に堆積する。この堆積物は、有機物成分がリッチとなっている。比較例2〜3においても、堆積物がセパレータの気孔に入り込むことで、セパレータが目詰まりを起こす。
【0088】
一方、実施例1〜8においても、比較例1と同様に、粒子状の堆積物は析出する。しかし、基材41の表裏面(少なくとも裏面)には、基材41よりも孔径及び気孔率が大きい多孔質層42が形成されている。したがって、実施例1〜8では、比較例1〜3よりもセパレータ40aが目詰まりを起こしにくい。
【0089】
したがって、比較例1〜3のサイクル寿命が実施例1〜8よりも劣っている原因の一つとして、堆積物によりセパレータが目詰まりを起こすということが考えられる。
【0090】
本発明者は、フッ素化エーテルの好適な体積比を確認するために、実施例9〜17に係るリチウムイオン二次電池10と、比較例4に係るリチウムイオン二次電池を製造した。本発明者は、実施例1の電解液を以下の表3に示す組成に変更したほかは、実施例1と同様にして、実施例9〜17に係るリチウムイオン二次電池10と、比較例4に係るリチウムイオン二次電池を製造した。
【0091】
【表3】

【0092】
適正範囲欄の◎はより好ましい範囲、○は好ましい範囲を示す。適正範囲欄内の記号は、後述する評価に基づくものである。
【0093】
[評価]
実施例9〜17に係るリチウムイオン二次電池10と、比較例4に係るリチウムイオン二次電池とのそれぞれについて、サイクル特性評価(充電電圧4.65V、放電終止電圧2.00V)を実施した。その結果を図4に示す。図4によれば、実施例11〜17は、比較例4よりも非常に優れたサイクル寿命を示す。このように、セパレータ40aに多孔質層42を含め、かつ、電解液にフッ素化エーテルを含めることで、サイクル寿命が大幅に向上する。
【0094】
さらに、実施例13〜15は他の実施例よりもサイクル寿命が優れており、実施例11、12、16、17は、実施例9、10よりも優れている。これらの実施例によれば、フッ素化エーテルの体積比は、電解液43の総体積に対して30〜60体積%が好ましく、35〜50体積%がより好ましいことがわかる。
【0095】
本発明者は、モノフルオロ炭酸エチレン(FEC)の好適な体積比を確認するために、実施例18〜25に係るリチウムイオン二次電池10を製造した。本発明者は、実施例1の電解液を以下の表4に示す組成に変更したほかは、実施例1と同様にして、実施例18〜25に係るリチウムイオン二次電池10を製造した。
【0096】
【表4】

【0097】
適正範囲欄の◎はより好ましい範囲、○は好ましい範囲を示す。適正範囲欄内の記号は、後述する評価に基づくものである。
【0098】
[評価]
実施例14、18〜25に係るリチウムイオン二次電池10のそれぞれについて、サイクル特性評価(充電電圧4.65V、放電終止電圧2.00V)を実施した。その結果を図5に示す。図5によれば、実施例14、20〜24は、非常に優れたサイクル寿命を示す。このように、セパレータ40aに多孔質層42を含め、かつ、電解液にフッ素化エーテル及びモノフルオロ炭酸エチレンを含めることで、サイクル寿命が大幅に向上する。
【0099】
さらに、実施例14、22は他の実施例よりもサイクル寿命が優れており、実施例20、21、23、24は、実施例18、25よりも優れている。これらの実施例によれば、モノフルオロ炭酸エチレンの体積比は、電解液43の総体積に対して10〜30体積%が好ましく、15〜20体積%がより好ましいことがわかる。なお、図5には、実施例19のグラフが示されないが、これは、ヘキサフルオロリン酸リチウムが電解液に十分に溶解しなかったためである。
【0100】
本発明者は、ヘキサフルオロリン酸リチウムの好適な濃度を確認するために、実施例26〜34に係るリチウムイオン二次電池10を製造した。本発明者は、実施例1の電解液を以下の表5に示す組成に変更したほかは、実施例1と同様にして、実施例26〜34に係るリチウムイオン二次電池10を製造した。
【0101】
【表5】

【0102】
適正範囲欄の◎はより好ましい範囲、○は好ましい範囲を示す。この適正範囲欄内の記号は、後述する評価に基づくものである。
【0103】
[評価]
実施例22、26〜34に係るリチウムイオン二次電池10のそれぞれについて、サイクル特性評価(充電電圧4.65V、放電終止電圧2.00V)を実施した。その結果を図6及び図7に示す。図7は、図6の一部(即ち放電容量が90〜100mAhとなる範囲)を拡大して示したものである。図6及び図7によれば、実施例22、28〜33は、非常に優れたサイクル寿命を示す。このように、セパレータ40aに多孔質層42を含め、かつ、電解液にフッ素化エーテル及びモノフルオロ炭酸エチレンを含めることで、サイクル寿命が大幅に向上する。
【0104】
さらに、実施例22、30、31は他の実施例よりもサイクル寿命が優れており、実施例28、29、32、33は、実施例26、27、34よりも優れている。これらの実施例によれば、ヘキサフルオロリン酸リチウムの濃度は、1.15〜1.5mol/Lであることが好ましく、1.3〜1.45mol/Lであることがより好ましい。
【0105】
また、本発明者は、表5に示す濃度範囲のヘキサフルオロリン酸リチウムを溶解できる電解液の組成について実験を行ったところ、以下の所見を得た。即ち、モノフルオロ炭酸エチレンの体積%が10以上30以下、かつ、フッ素化エーテル(種類は問わない)の体積%が0より大きく60以下であれば、ヘキサフルオロリン酸リチウムが電解液に溶解した。したがって、モノフルオロ炭酸エチレン及びヘキサフルオロリン酸リチウムの体積比は、これらの範囲内であることが好ましい。
【0106】
さらに、本発明者は、以下の所見も得た。即ち、フルオロ炭酸エチレンの体積%が30を超え、フッ素化エーテル(種類は問わない)の体積%が60を超え、かつ、電解液の液温が20℃未満であると、モノフルオロ炭酸エチレンが析出した。したがって、電解液の液温は20℃以上であることが好ましい。
【0107】
本発明者は、好適なフッ素化エーテルの種類を確認するために、実施例35〜45に係るリチウムイオン二次電池10を製造した。本発明者は、実施例1の電解液を以下の表6に示す組成に変更したほかは、実施例1と同様にして、実施例35〜45に係るリチウムイオン二次電池10を製造した。
【0108】
【表6】

【0109】
適正欄の◎は、より好ましいフッ素化エーテル、○は好ましいフッ素化エーテルを示す。この適正欄内の記号は、後述する評価に基づくものである。
【0110】
[評価]
実施例30、35〜45に係るリチウムイオン二次電池10のそれぞれについて、サイクル特性評価(充電電圧4.65V、放電終止電圧2.00V)を実施した。その結果を図8及び図9に示す。図9は、図8の一部(即ち放電容量が88〜99mAhとなる範囲)を拡大して示したものである。図8及び図9によれば、実施例30、35〜45は、非常に優れたサイクル寿命を示す。このように、セパレータ40aに多孔質層42を含め、かつ、電解液にフッ素化エーテル及びモノフルオロ炭酸エチレンを含めることで、サイクル寿命が大幅に向上する。
【0111】
さらに、実施例30、36、37、39、42、44、45は他の実施例35、38、40、41、43よりもサイクル寿命が優れている。これらの実施例によれば、より好ましいフッ素化エーテルは、HCFCFOCHCFCFH、H(CFOCHCF、CFCFCHO(CFH、CFCFCHOCHF、CFCHFCFCHOCHF、H(CFCHOCFCHFCF、CCHOCFCHFCFであることがわかる。
【0112】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0113】
10 リチウムイオン二次電池
20 正極
30 負極
40 セパレータ
41 基材
41a 第1の気孔
42 多孔質層
42a 第2の気孔
43 電解液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と負極との間に配置され、複数の第1の気孔が形成された基材と、
少なくとも前記基材と前記負極との間に配置され、前記第1の気孔と異なる第2の気孔が形成された多孔質層と、
少なくとも前記第1の気孔及び前記第2の気孔内に含浸し、少なくとも一部の水素原子がフッ素原子で置換されたフッ素化エーテルを含む電解液と、を備える、二次電池用セパレータ層。
【請求項2】
前記多孔質層は、前記正極と前記基材との間にも配置される、請求項1記載の二次電池用セパレータ層。
【請求項3】
前記第2の気孔は、前記第1の気孔よりも大きいことを特徴とする、請求項1または2記載の二次電池用セパレータ層。
【請求項4】
前記多孔質層の気孔率は、前記基材の気孔率よりも高いことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の二次電池用セパレータ層。
【請求項5】
前記フッ素化エーテルは、2,2,2−トリフルオロエチルメチルエーテル、2,2,2−トリフルオロエチルジフルオロメチルエーテル、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピルメチルエーテル、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピルジフルオロメチルエーテル、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル−1,1,2,2−テトラフルオロエチルエーテル、1,1,2,2−テトラフルオロエチルメチルエーテル、1,1,2,2−テトラフルオロエチルエチルエーテル、1,1,2,2−テトラフルオロエチルプロピルエーテル、1,1,2,2−テトラフルオロエチルブチルエーテル、1,1,2,2−テトラフルオロエチルイソブチルエーテル、1,1,2,2−テトラフルオロエチルイソペンチルエーテル、1,1,2,2−テトラフルオロエチル−2,2,2−トリフルオロエチルエーテル、1,1,2,2−テトラフルオロエチル−2,2,3,3−テトラフルオロプロピルエーテル、ヘキサフルオロイソプロピルメチルエーテル、1,1,3,3,3−ペンタフルオロ−2−トリフルオロメチルプロピルメチルエーテル、1,1,2,3,3,3−ヘキサフルオロプロピルメチルエーテル、1,1,2,3,3,3−ヘキサフルオロプロピルエチルエーテル、及び2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロブチルジフルオロメチルエーテルからなる群から選択されることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の二次電池用セパレータ層。
【請求項6】
前記電解液は、前記フッ素化エーテルを、前記電解液の総体積に対して30〜60体積%含むことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の二次電池用セパレータ層。
【請求項7】
前記電解液は、モノフルオロ炭酸エチレンを含むことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の二次電池用セパレータ層。
【請求項8】
前記電解液は、前記モノフルオロ炭酸エチレンを、前記電解液の総体積に対して10〜30体積%含むことを特徴とする、請求項7記載の二次電池用セパレータ層。
【請求項9】
前記電解液は、リチウム塩を1.15〜1.5mol/Lの濃度で含むことを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の二次電池用セパレータ層。
【請求項10】
正極と、負極と、請求項1〜9のいずれか1項に記載の二次電池用セパレータ層と、を含むことを特徴とする、電極構造体。
【請求項11】
請求項10記載の電極構造体を含むことを特徴とする、二次電池。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−37905(P2013−37905A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−173307(P2011−173307)
【出願日】平成23年8月8日(2011.8.8)
【出願人】(590002817)三星エスディアイ株式会社 (2,784)
【Fターム(参考)】