説明

二次電池用正極組成物、その製造方法及び二次電池用正極組成物を使用した二次電池

【課題】正極活物質の利用率を向上し、以って活物質原料を減じ、かつ低コストかつ軽量化された二次電池を提供する。
【解決手段】格子状集電体に充填され又はシート状集電体に塗布され、金属酸化物を主体とした活物質原料にカーボン及びシリカ多孔体を含有させた混練物の乾燥後かつ未化成状態の嵩密度が2.6×10−1ml/g以上である二次電池用正極組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池用正極組成物、その製造方法及び二次電池用正極組成物を使用した二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、種々の二次電池が知られており、例えば、安価なものとしては鉛蓄電池があり、高エネルギー密度のものとしてはリチウムイオン電池がある。いうまでもなく、安価であることと高エネルギー密度であることを兼ね備えた二次電池が理想的である。特に、蓄電池による発進駆動を行うハイブリッド自動車や電気自動車のような用途では、安価で高エネルギー密度の蓄電池に対する要望が大きい。蓄電池の価格は、その材料コストに最も大きく依存する。例えば、ハイブリッド自動車では、高価なニッケル水素蓄電池が使用されているが、ニッケル水素蓄電池の正極に使われるニッケルや負極に使用される貴金属は非常に高価な材料である。また、リチウムイオン二次電池も高価な材料を用いることを余儀なくされている。
【0003】
一方、従来の鉛蓄電池は、鉛を酸化した鉛粉と言われる活物質原料に希硫酸を添加してペースト状態の組成物とし、このペーストを格子状の集電体に充填して極板を形成する製造方法が一般的である。その後、これを化成することで、正極は二酸化鉛、負極は海綿状鉛と言われる活物質を含むものとなる。これらの活物質は電池が放電されると硫酸鉛(放電活物質)へと変化する。放電活物質への変化に伴い粒子体積が増加するために極板における多孔質構造の孔が小さくなり、電解液の活物質への拡散が困難となる。
【0004】
また、電気的絶縁物である硫酸鉛へ変化することで電気抵抗が増大する。一般的には、硫酸鉛が70%を越えると電気抵抗は急激に増加する。従って、活物質を70%以上放電させること、つまり活物質の利用率を70%以上とすることは、理論的に不可能とされてきた。実際には、放電電流の大きさにも影響されるので、低率放電の利用率は一般的には35%程度、高率放電の利用率は17%程度が現状である。すなわち、理論上利用率は70%程度までとれる訳であるが、通常の使用においては、これには程遠いものとなっている。
【0005】
活物質の利用率を上げるためには、活物質を含む極板の嵩密度、すなわち、多孔度を上げることが必要条件である。
【0006】
鉛蓄電池は、原料が安価である点では好ましいが、活物質の利用率が低いために鉛の使用量を増やさざるを得ず、その結果、他の材料に比べて重量密度の大きい鉛の重量がさらに増えて重量に対するエネルギー密度の低下を招いている。現状の鉛蓄電池のエネルギー密度では、ハイブリッド車や電気自動車には不十分であり使用できない。
【0007】
鉛蓄電池の正極板に関する従来技術としては、例えば特許文献1がある。
特許文献1では、化成効率の優れた鉛蓄電池正極板の製造方法を開示する。
特許文献1について具体的には、正極ペーストが、アンチモンを含まない鉛合金からなる格子体に予め準備した酸化鉛と金属鉛と硫酸鉛の混合物、水、希硫酸および導電材を根練したものであって、導電材として所定の圧力及び温度で処理されたカーボンブラックを鉛1モルに対して2g(0.17モル)以下用いるものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】は、本発明の実施例1によるカーボン量をパラメータとした珪藻土量を変化したときの正極格子へのペースト充填量を示す。
【図2】は、本発明の実施例1によるカーボン量をパラメータとした珪藻土量を変化したときの正極活物質利用率を示す。
【図3】は、本発明の実施例1によるカーボン量をパラメータとした珪藻土量を変化したときの鉛蓄電池容量を示す。
【図4】は、本発明の実施例2による珪藻土量を変化したときの正極活物質利用率を示す。
【図5】は、本発明の実施例2による珪藻土量を変化したときの鉛蓄電池容量を示す。
【図6】は、本発明の実施例4による中空繊維量を変化したときの正極活物質利用率を示す。
【図7】は、本発明の実施例4による中空繊維量を変化したときの鉛蓄電池容量を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
先ず、本発明の実施形態の概要を説明する。詳細については、以下の各実施例にて説明する。
なお、説明に先立って各実施例等以下の説明における用語について定義をする。
・ 二酸化珪素を主体とする多孔体を「シリカ多孔体」又は略して「シリカ」と言う。
・ ガラス質から成る真珠岩を急熱・膨張させて膨らませたパーライトを単に「パーライト」と言う。
本発明による二次電池用正極組成物は、実質的には鉛蓄電池を対象とする。この正極組成物は、活物質原料を主要成分としその他の必要な成分を添加してペースト状の混練物としたものである。このペースト状の混練物を格子状集電体である正極板に充填し、熟成及び乾燥し(未化成状態)、その後この正極板を蓄電池ケースに組み込み、化成工程を行うことにより活物質原料が活物質となり、鉛蓄電池として完成する。従って、本出願の特許請求の範囲及び明細書における「活物質原料」は、未化成状態のものを指す。そして、「活物質原料」とは、化成されて活物質となる目的物である原料をいう。
【0017】
本発明による活物質原料を主体とする正極組成物の混練物は、金属酸化物を主体とした活物質原料と、カーボン及びシリカ多孔体、又はカーボンを含有しないでシリカ多孔体を含有する。また、多孔体としてはシリカ多孔体又は中空繊維(実施例では中空糸と称す。)とする。さらに、シリカ多孔体は珪藻土、パーライト、シラスバルーン又はこれらに類する性質を有するものである。活物質原料は鉛粉とする。そして、格子状集電体に充填され又はシート状集電体に塗布された金属酸化物を主体とした活物質原料に少なくともカーボン及びシリカ多孔体を含有させた混練物の乾燥後かつ未化成状態の嵩密度が2.6×10−1ml/g以上とする。また、カーボンを含有させない上記混練物の場合は嵩密度が2.5×10−1ml/g以上とする。
【0018】
また、嵩密度を向上させるシリカ多孔体は活物質原料に対して7.3モルパーセント以上含有する。なお、混練により生成された正極組成物は、通常、化成前に格子状集電体に充填され、又はシート状集電体に塗布された後、熟成及び乾燥される。
カーボンとしては、例えば、アセチレンブラック又はファーネスカーボンを用いることができ、これらを混合して用いてもよい。
【0019】
本発明による正極組成物の実施例1〜3における混練物は微量の硫酸を含有し、一方、実施例4における混練物は硫酸を含有しない事例を示したが、実施例1〜3において硫酸を含有しなくともよく、また、実施例4において微量の硫酸を含有してもよい。この微量の硫酸は、ペーストの粘性を若干高め該ペーストを格子状集電体に充填し易くするためのもので、電池の基本性能には無関係である。
【0020】
さらに、カーボンを添加する場合上記の混練物に対しポリビニルアルコール(PVA)を含有させる。ポリビニルアルコールは、カーボン等の分散性向上を目的として添加するが、混練物を格子状集電体に充填したときにその付着強度及び正極組成物の形状保持強度を高めることにも寄与する。さらには、正極におけるカーボンの酸化を防止する被覆作用がある。
なお、ポリビニルアルコールを含有させる場合は、カーボンとの混練を容易にすべく、あらかじめPVAに温水を加えて溶解するが、その温水の温度は90℃程度でありPVAの溶解を支援する。以下、PVAを含有する各実施例においてもこのような条件は同様である。
前記、一つの工程及び別の工程で生成された混練物を混合して混練したが、前記一つの工程で生成された混練物に、別の工程で生成されるべき混練物の混練前の原料を混合してから混練してもよい。
【0021】
実施例1、3及び4の正極組成物の製造方法は次のとおりである。一つの混練工程では、カーボンを水とともに混練し、生成物を得る。また、他の混練工程では、前記一つの混練工程での生成物に対し活物質原料である鉛粉と、珪藻土(実施例1)、あるいは珪藻土、パーライト又はシラスバルーン(実施例3)又は中空繊維(実施例4)を加えてさらに混練し、混練物を得る。得られた混練物が、上記の正極組成物である。PVAを含有させる場合は、前記一つの混練工程で加える。
【0022】
実施例2の正極組成物の製造方法では、実施例1、3及び4における2種類の混練工程は無く活物質原料である鉛粉を混練し、その後、珪藻土を加え少し混練を継続する。
【0023】
なお、こうして得られた混練物において、未乾燥で格子状集電体に充填できる状態のものを、以下の実施例では「ペースト」を称している。従来の正極組成物では、実施例1のような2つ工程での混練は行っていなかった。本発明の実施例1では、2つ工程の混練工程を経ることによって好適な嵩密度をもつ正極組成物を得ることができた。なお、前記1つの混練工程は、攪拌混合等の手段で置き換えることも可能である。
【0024】
実施例1による正極組成物からなる活物質の利用率は、格子状集電体を用いた場合、0.06アンペアー放電である低率放電(約40時間率放電相当)では約44%〜65%、6アンペアー放電である高率放電(約10分間率放電相当)では約20%〜38%であった。いずれも表1−2参照。低率放電及び高率放電におけるどの放電率においても、従来の鉛蓄電池に比べて利用率が格段に向上した。
低率放電から高率放電において従来技術の比較ペーストNo.1のおおよそ1.3倍〜2倍程度の活物質利用率が得られた。
これらの値は、カーボン量、珪藻土量の配合により変化するので概略値である。
【0025】
また、カーボンを含まない実施例2による正極組成物からなる活物質の利用率は、0.06アンペアー放電である低率放電(約40時間率放電相当)では約38%〜65%、6アンペアー放電である高率放電(約10分間率放電相当)では約18%〜43%であった。いずれも表3−2参照。
実施例3では、多種のシリカ多孔体を用い活物質利用率比較している。0.06アンペアー放電である低率放電(約40時間率放電相当)では概ね54%〜73%、6アンペアー放電である高率放電(約10分間率放電相当)では概ね21%〜29%であった。いずれも表4参照。
中空糸を用いる実施例4の活物質利用率は、0.06アンペアー放電である低率放電(約40時間率放電相当)では約55%〜73%、6アンペアー放電である高率放電(約10分間率放電相当)では約27%〜48%であった。いずれも表5−2参照。
低率放電、高率放電で、従来技術の比較ペーストNo.1に対しそれぞれ、2.1倍程度、2.7倍程度の活物質利用率が得られた。
【0026】
集電体としては、従来通りの格子を用いることが可能であり、あるいは、鉛シートのようなシート状物に正極組成物を塗布することも可能である。格子状集電体に充填する場合は、ある程度の粘性が必要なので、混練媒体である水の量をその他の成分に対して少なく設定してペースト状の混練物とする。一方、シートに塗布する場合は、水の量を多くして粘性を低くしスラリー状の混練物とする。極板に適用する前の混練物がペーストであってもスラリーであっても、本発明の効果は同様に得られる。
従来技術のペーストは鉛粉を硫酸で混練するため、これに加える水の量は厳しく管理する必要があったが、本発明のペーストでは水の量は活物質利用率に影響を及ぼさないため、集電体にペーストを充填し易くすることにおいて柔軟に水量を調整でき、望まれる任意の値をとることができる。
【0027】
格子状集電体にペーストを充填した極板は、基本的には、従来の鉛蓄電池の全用途に用いることができ、しかも同じ電池容量において、より軽量とすることができる。シート状にした極板を用いた鉛蓄電池は、円筒形状の電池を形成できる。その場合、極板をスパイラルに巻くことにより高率放電に優れ、耐振動性の強い電池となる。これは、特にハイブリッド自動車用、電気自動車用として適している。ハイブリッド自動車では、現在、ニッケル水素二次電池やリチウムイオン二次電池が使用されあるいは検討されているが、いずれもコストが高いという問題があった。本発明による鉛蓄電池は、ニッケル水素二次電池やリチウムイオン二次電池より格段に低コストである上、充放電の管理が簡易であるため実用化に適している。
【0028】
以上のように、本発明による正極組成物を用いた鉛蓄電池は、大電流による放電が可能なこと、活物質利用率が高いこと、鉛粉の使用量が少なく低コストであることに加えて、リチウムイオン二次電池やニッケル水素蓄電池に比べて充放電の管理が簡易である。その最適な用途は、自動車用途におけるエンジンと蓄電池のハイブリッド的な使い方である。この用途では、自動車の制動時の回生電力を蓄電池へ充電し、発進時には蓄電池から電力を取り出すことで、ガソリンの消費を節減する。自動車企業では、省エネルギーや排ガス減少により環境的に好ましいことから、現在及び将来的にハイブリッド自動車に注力しており、本発明の産業上の利用性は極めて高いといえる。
【0029】
また、一般的な蓄電池はフロート充電使用されることも多い。これは、停電発生の非常時に蓄電池から負荷へ給電するシステムであり、一般的には10分間率程度で放電されるケースが多い。このような蓄電池として従来の鉛蓄電池と用いると、短時間放電すなわち大電流放電となるので、元々高くない活物質の利用率がさらに低下する。従って、大きな定格容量の鉛蓄電池を用意しなければならず、大きくかつ重いものとなる。本発明の正極組成物を用いた鉛蓄電池は、活物質の利用率が従来の鉛蓄電池の約2倍と高く、かつ大電流による放電が好適で、かつ、利用率が高い分、鉛量が減少し軽量とすることができる。
最近は、インターネットの発展により、データセンタでの鉛蓄電池需要が増し、このような大電流放電での利用率の向上が要望されている。
以下、格子状集電体を用いた鉛蓄電池の正極板に関する本発明の各実施例を説明する。
【実施例1】
【0030】
実施例1では、正極組成物(金属酸化物主体とした活物質原料である鉛粉に種々の物質を添加・混合したもの)であるペーストを製造するにあたり、添加材であるカーボン添加量をパラメータとして主に珪藻土添加量を変化させた場合の活物質利用率等、各種試験結果を説明する。
【0031】
<試料の調製>
表1は、実施例1における試験に供した正極組成物(ペースト状のもの、これを乾燥させたもの又は混練する前の各原料そのものの構成要素を含む。以下同様。)を調製する際の成分組成及び量を示す一覧である。本発明の説明で称するペーストとは、これらの成分を混練した後の、乾燥前のペースト状態の混練物を意味する。
表1において、鉛粉は一定量の200gとして、カーボン量は、3g、6g、9gと量を変え、同一カーボン量内で珪藻土量を変化させ嵩密度を測定する。同一カーボン量において珪藻土量が多くなると嵩密度が大きくなっていき、また、カーボン量が多いほど嵩密度が大きくなることが確認される。なお、カーボン量及び珪藻土量が多くなるにしたがって水の量も増加させる。これは、混練するカーボン量、珪藻土量が多くなるためでありPVAの量もカーボン量に連動して増加させる。また、カーボン量が多くなるに従って珪藻土量添加の上限値が小さくなるようにする。
表1の水の量は、ポリビニルアルコールを溶解するために使用するものと(実施例1、実施例3及び実施例4も同様)、鉛粉を混合するとき(実施例1〜4も同様)に使用するものを含むが水の量は厳密ではなく、混練時のペースト粘度を考慮して適宜注水してもよい。これは、他の実施例でも同様である。
【0032】
表1における「No.」は、ペーストナンバーであり、ペーストNo.1は従来技術で製造されたものである。ペーストNo.2〜16は本発明に係るペーストである。

【表1】


【表1−2】


【表1−3】

【0033】
<主たる原料の説明>
鉛粉は正極組成物の主たる構成物質である活物質原料であり、酸化度は約75から80パーセントである。カーボンには吸油量160ml/100gのアセチレンブラックを、ポリビニルアルコール(株式会社クラレ製)は重合度2400を用いた。吸油量にはDBP吸油量を示す。これはカーボン100グラムあたりに吸液されるジブチルフタレートの量を示すものである。
【0034】
<製造方法>
珪藻土はケイソウ殻と言われるものを焼成・精製したもので、シリカ成分からなり、約1μ程度の微細な孔を有する多孔体であることから、極板の嵩密度の向上に寄与できると考えた。また、シリカである故に耐酸性や耐酸化性に優れている。ここでは、珪藻土として、ラヂオライト#300を用いた。正極板(正極組成物)の性状を示す要素として、嵩密度、活物質利用率及び電池容量の関係を調べた。嵩密度の制御はカーボンと水量によっておこなった。嵩密度については表1に記載した。
【0035】
まず、ポリビニルアルコールを温度約90℃の温水で溶解し、溶解が完了した時点でポリビニルアルコールの濃度が6%程度の水溶液を製造する。溶解させている間は水分が蒸発しないように、溶解させる容器にラップなどのようなシートで容器の上部を覆う。
このポリビニルアルコール水溶液にカーボンを加えて30分間程度混練し、その後、該混練物に鉛粉200gを混合し、微量の硫酸(表1における硫酸1.3g)とカットファイバー0.3gを添加して25分間程度混練した後、珪藻土を添加し、さらに5分間程度混練を継続した。ただし、この30分間、25分間及び5分間程度の混練時間はおおよその目安であり、特に最後の5分間の混練は珪藻土の量により変動する。また、珪藻土の添加時期も前後してもよい。すなわち、珪藻土は、ポリビニルアルコール水溶液にカーボンを加えて混練するときに混合してもよい。または、その後の工程で鉛粉を混合するときに珪藻土を混合してもよい。
本発明との比較用として作製した従来技術によるペーストNo.1は表1の量に従って、単純に混練したものであり、純硫酸として、11グラムを含有している。
【0036】
このようにして作製したペーストを厚さ3.7ミリメートルの格子状集電体に充填して、その後、湿度98パーセント、温度45℃で24時間熟成し、その後、60℃で24時間乾燥して、正極未化板を形成した。以後、正極組成物であるペーストが格子集電体に充填され熟成・乾燥されたもの、さらには化成されたものを総称して正極活物質若しくは活物質又は正極板若しくは極板という。
【0037】
次に、正極組成物の特性を示すために、未化性の極板について、嵩密度を測定した。嵩密度の測定方法を表2に示す。

【表2】


未化成正極組成物の嵩密度は次式で算出される。
未化成正極組成物の嵩密度=未化成正極組成物の体積/未化成正極組成物の重量
=(D−B)/(C−A)
表1に従って作製したペーストNo.2〜16の15種類の、カーボン量及び珪藻土量と正極集電体である格子への該ペーストの充填量の関係を図1に示す。
図1には、3種類(カーボン量、3g、6g、9g)のプロット列とこれを結ぶ線があり、これがカーボン量をパラメータとしている。
横軸は珪藻土量の変化であり、カーボン量3gでは珪藻土量4g〜31gのプロット6点、カーボン量6gでは珪藻土量4g〜26gのプロット5点、カーボン量9gでは珪藻土量4g〜20gのプロット4点となる。
縦軸は、嵩密度の変化に伴う格子へのペーストの充填量を表す。単位はいずれもgであり絶対値である。珪藻土やカーボンの添加量が増加すると、充填量が減少することがわかる。従来技術である比較ペーストNo1は、充填量が最も多い。
表1のとおり、カーボン量(3g、6g、9g)により、珪藻土量の上限値は、それぞれ31g、26g、20gとしているが、図1でこれが確認できる。これは珪藻土が嵩高いことと、カーボンの吸油量が大きいために表1の嵩密度欄に示したように、比較ペーストNo.1と比較して嵩高い正極組成物となっていることを意味している。したがって、特許請求の範囲における嵩密度の下限値は、表1におけるカーボン量3g、珪藻土量4gに基づく嵩密度0.26ml/gとする。
嵩高い正極活物質であることは、鉛粉の使用量が当然物理的に減少するということである。
なお、正極組成物の充填量は図1に示される充填結果であり、表1はペースト原料の調合及び嵩密度を示すため、充填量は表1には記載していない。
【0038】
表1により作製された各ペーストを格子に充填した正極板1枚の両側に微細ガラス繊維セパレータを当接し、さらにその外側に1枚づつ負極板を当接した。なお、負極板は従来技術を用いたものである。このような構成とすることで、活物質の理論容量は負極が大過剰となり、目的とする本発明の正極活物質の利用率を評価できる。該極板群を電槽に挿入し、電槽と極板群の隙間はABS樹脂製スペーサで埋めた。電槽に比重1.223の希硫酸を注入して正極理論容量の300パーセントの電気量を流して化成をおこなった。化成後の電解液の比重は1.320とした。
【0039】
次に、正極活物質利用率の算出と鉛蓄電池の容量(Ah)を測定するために容量試験(放電試験)をおこなった。容量試験は0.06アンペアー放電と6アンペアー放電の2種類とした。0.06アンペアー放電は約40時間率相当、6アンペアー放電は約10分間率放電相当である。それぞれの放電終止電圧はセル当たり、1.7ボルトと1.2ボルトとした。温度は25℃である。
カーボン量をパラメータとした珪藻土量の変化について、低率である0.06アンペアー放電および高率である6アンペアー放電の正極活物質の利用率の測定結果を図2及び表1−2に示す。
【0040】
前述したように、原料である鉛粉は主体が酸化鉛であるが、酸化されていない金属状態の鉛も含む。酸化鉛が電解液の硫酸と反応して、化成により正極活物質である二酸化鉛に変化する。このようにしてできた二酸化鉛が活物質とみなされている。すると、元来含まれていた金属鉛を活物質とみなすかどうかは議論の分かれるところである。ここでは、原料に元来含まれていた金属鉛も活物質となったとして、放電における活物質の利用率を計算した。
つまり、極板に充填された鉛粉の重量をEとすると、
F=E×239/223×(1/4.463)
ここで、Fは鉛粉が化成によりすべて二酸化鉛に変化したと仮定した場合の容量、つまり理論容量であり、239は二酸化鉛(PbO)の分子量、223は酸化鉛(PbO)の分子量であり、4.463は二酸化鉛がすべて放電して硫酸鉛に変化したと仮定した場合に、1アンペアーアワー(Ah)を放電するに必要な二酸化鉛量である。活物質の利用率(%)は
活物質の利用率(%)=正極の放電容量/F×100
として算出することができる。本発明の利用率を表す各図にて活物質の利用率を表す場合は、この百分率表記をする。
なお、本明細書においては、利用率を表す各表にて活物質の利用率を表す場合は、
活物質の利用率=正極の放電容量/F
としてパーセント(%)表記はしない。ただし、表4は%表記である。
本発明において化成後は全て二酸化鉛になるとして計算したが、実際には、化成後の二酸化鉛は85%程度であることが一般的であるので、前述した活物質の利用率に100/85を乗じた値が実質的な利用率となる。
【0041】
表1−2は表1に従い本発明のカーボン量、珪藻土量の各配合における活物質利用率の測定・算出を記載したものである。図2は表1−2をグラフ化したものであり、カーボン質量をパラメータとして、それぞれ3g、6g、9gの場合において、珪藻土質量を最小4gから最大31gまで変化させたグラフであり、横軸が珪藻土量の変化を表す。縦軸は活物質利用率(%)である。
なお、表1−2において示される活物質利用率は百分率(%)表記ではなく率のみである。図2の縦軸で示される活物質利用率は百分率(%)表記である。他の実施例(実施例4を除く)についても表で示す利用率は百分率(%)表記ではなく、他の実施例の各図の縦軸で示される利用率は百分率(%)表記である。
図2において、
(1)グラフ上部のプロット群◆(カーボン3g)、■(カーボン6g)、▲(カーボン9g)が本発明の低率放電(0.06アンペアー放電)の正極活物質利用率であり、
(2)グラフ下部のプロット群◇(カーボン3g)、□(カーボン6g)、△(カーボン9g)が本発明の高率放電(6アンペアー放電)の正極活物質利用率である。
(3)珪藻土量0gが従来技術の比較ペーストNo.1であり、低率放電プロット●、高率放電プロット○である。
図2において、
(4)低率放電活物質利用率はカーボンおよび珪藻土が増加するにつれて増加し、カーボン6g、珪藻土14gで極大値、約65%を示し、その後減少したが従来技術であるペーストNo.1より格段に高い値を示した。
(5)高率放電ではカーボンおよび珪藻土が増加するにつれて活物質利用率は増加し、カーボン量9g、珪藻土約量20gで約38%で活物質利用率の極大値を示した。
(6)高率放電において、サンプル平均ではカーボン量6g、珪藻土約量26gが活物質利用率が高い。
(7)低率放電の活物質利用率の極大値である嵩密度は0.37ml/g(表1のペーストNo.10)。
(8)高率放電の活物質利用率の極大値である嵩密度は0.44ml/g(表1のペーストNo.16)。
なお、活物質利用率の具体的数値は、表1−2参照。
従来の製造方法処方より成る比較ペーストNo.1と比べて、本発明のペースト全体として、いずれも高い利用率となり、低率および高率放電とも最大でおおよそ2倍の活物質利用率となった。
なお、従来技術の正極活物質である比較ペーストNo.1は、カーボン量が0gであり珪藻土量が0gの横軸に示される。これは、後述する図3(鉛蓄電池容量グラフ)も同様。この従来技術の正極活物質利用率は、表1−2及び図2に示されるように、
(9)低率放電で33.0%、34.5%
(10)高率放電では15.8%、17.6%である。
このように、本発明のカーボン量3g、珪藻土量4gである最低限の嵩密度における活物質利用率においても表1−2及び図2から判るよう、低率放電及び高率放電においても従来技術の正極活物質利用率を上回っている。
よって、前述したように、このカーボン量及び珪藻土量の配合における嵩密度0.26ml/g(表1参照)を本発明の正極活物質利用率を好適とする本発明の嵩密度の下限値として特許請求の範囲に記載した。
なお、発明のカーボン量3g、珪藻土量4gにおける嵩密度の下限値と正極活物質利用率に対する従来技術であるペーストNo.1の嵩密度と正極活物質利用率の比を計算すると以下のようになる。
(1)嵩密度比・・・0.26(本発明)/0.24(従来技術)=1.08
(2)低率放電利用率比・・・0.440/0.338=1.30
(3)高率放電利用率比・・・0.202/0.167=1.21
このように、従来技術に対する本発明の比が、嵩密度比よりも、活物質利用率比の方がが大きい。これは、仮に本発明の嵩密度と従来技術の嵩密度が同一値であるとしても、本発明の方が従来技術より活物質利用率が高くなることも考えられる。
なお、上記(2)、(3)の活物質利用率は、2サンプル平均値である。
【0042】
表1に示した嵩密度を対比してわかるように、従来技術の比較ペーストNo.1の嵩密度は0.24ml/gであったのに対して、試験に供したNo.2から16のペーストは0.26ml/gから0.44ml/gと高い値を示した。つまり、カーボンと珪藻土により高い嵩密度となったことが、高い利用率に繋がったと判断される。
比較した従来ペーストNo.1の嵩密度0.24ml/gよりも高い嵩密度であれば、従来ペーストよりも高い利用率となることを意味する。
【0043】
嵩密度が小さいと多孔性が小さく、活物質が放電するのに必要な硫酸電解質を極板外からより多く供給する必要があるが、嵩密度が大きいと多孔性が大きく、活物質の近傍により多くの硫酸電解液を保持できるため、より放電しやすくなるので、図2に示すように高い利用率を示す結果となったものである。
利用率は電池のエネルギー密度を向上させるためには、絶対に必要な項目である。また、利用率が高ければ、電池の活物質原料(鉛粉)を少なくすることができるので、コストダウンとしての意味も大きなものがある。
【0044】
前述したように、利用率は極めて重要な要素であるが場合によっては、電池の絶対容量が欲しいという場合もあるかも知れない。カーボン質量(g)及び珪藻土質量(g)と鉛蓄電池容量(Ah)の関係について、低率放電である0.06アンペアー放電と高率放電である6アンペアー放電の鉛蓄電池容量を表1−3及び図3に示す。
図3は表1−3をグラフ化したものであり、表1−2における利用率を表す正極活物質と同じものを使用している。このため正極活物質利用率に対する鉛蓄電池容量(Ah)を対比できる。
図3は表1にしたがいカーボン質量をパラメータとし、それぞれ3g、6g、9gの場合において、珪藻土質量を離散的に4gから最大31gまで変化させたグラフであり、グラフ上部のプロット群◆、■、▲が低率放電であり、グラフ下部のプロット群◇、□、△が高率放電である。
低率放電での容量は正極ペーストNo.1を下回るものもあった。嵩密度が大きい場合は、活物質原料である鉛粉が相対的に少なくなるので、利用率が高くても取り出せる容量が減少したものである。それに対して、高率放電容量は試験をした全範囲において、従来技術の比較ペーストNo.1よりも高い値となり、カーボンや珪藻土の添加量が異なっても、ほぼ一定の容量となった。
高率放電では、いかに効率良く大電流で放電するかで電池の価値を評価する。本発明の鉛蓄電池では、活物質に混在するカーボン及び珪藻土に鉛蓄電池の電解液である希硫酸を多量に含むため、活物質の近傍にある電解液が直ちに活物質に供給されるため大電流特性がよい。従来技術の正極活物質では活物質である鉛のみであるため、活物質の外部の電解液から供給されるため大電流放電特性が悪い。
したがって、大電流特性を重視するとカーボン量と珪藻土量を増加した正極組成物は正に好適である。
【実施例2】
【0045】
実施例1ではカーボンと珪藻土で極板の嵩密度を上げたが、珪藻土のみの効果を評価するために、表3に示す内容の正極組成物での試験を行なった。
表3は試験に供した各正極ペーストの組成物一覧であり、各ペーストの嵩密度も記載している。
表3において、カーボンは存在しないため珪藻土量をその分多くしている。No.1のペーストは表1と同一の従来技術であり、No.17〜23は珪藻土量を変化した本発明のペーストである。

【表3】


【表3−2】


【表3−3】


<主たる原料の説明>
金属酸化物を主体とした活物質原料である鉛粉は活物質の主たる構成物質で、酸化度は約75から80パーセントである。カーボンには吸油量160ml/100gのアセチレンブラックを、ポリビニルアルコール(株式会社クラレ製)は重合度2400を用いた。珪藻土として、ラヂオライト#300を用いた。
【0046】
<製造方法>
まず、表3に示される質量の鉛粉と水に微量の硫酸(表3における硫酸1.3g)を添加して40分間混練し、その後に珪藻土を添加し、さらに混練を5分間継続して行なった。ただし、珪藻土を最初から混合してもよい。また、混練時間40分はおおよその目安であり、特に最後の5分間の混練は珪藻土の量により変動する。
【0047】
比較用として作製した正極ペーストNo.1は表3の量に従って、単純に混練したものであり、純硫酸として、11グラムを含有している。このペーストは、表1のものと同一である。
【0048】
このようにして作製したペーストを厚さ3.7ミリメートルの格子状集電体に充填し、湿度98パーセント、温度45℃で24時間熟成し、その後60℃で24時間乾燥して正極未化板を形成した。
【0049】
この正極板1枚の両側に微細ガラス繊維セパレータを当接し、さらにその外側に1枚づつ従来技術の負極板を当接した。このような構成とすることで活物質の理論容量は負極が大過剰となり、目的とする正極の活物質利用率を評価できる。該極板群を電槽に挿入し、電槽と極板群の隙間はABS樹脂製スペーサで埋めた。電槽に比重1.223の希硫酸を注入して、正極理論容量の300パーセントの電気量を流して、化成を行なった。化成後の電解液の比重は1.320とした。
【0050】
次に、正極活物質利用率の算出と鉛蓄電池容量を測定するために容量試験(放電試験)を行なった。容量試験は0.06アンペアー放電と6アンペアー放電の2種類とした。
0.06アンペアー放電は約40時間率相当、6アンペアー放電は約10分間率相当の放電である。それぞれの放電終止電圧はセル当たり、1.7ボルトと1.2ボルトとした。温度は25℃である。
【0051】
0.06アンペアー放電と6アンペアー放電の正極活物質利用率を表3−2及び図4に示す。図4の横軸において珪藻土が0gにプロット(低率放電のプロット◆及び高率放電のプロット■)される利用率は比較ペーストNo.1の値を示す。
図4は表3−2をグラフ化したものであり、本発明においては表3の珪藻土質量を4g〜43gまで離散的に変化したときの正極活物質の利用率を示す。
なお、グラフ上部のプロット群◆が低率放電であり、グラフ下部のプロット群■が高率放電である。低率放電の活物質利用率は珪藻土の添加量が多くなるにつれて増加し、珪藻土量37gで極大値65%を示した。
一方、高率放電の利用率は珪藻土を多く添加するほど単調増加し珪藻土量43gで最大値約43%を示した。まだ、珪藻土量を増加して、活物質利用率を上げる余地があると考えられる。
以下、表3−2のデータを参照して考察する。
従来技術の比較ペーストNo.1では、
(1)低率放電利用率が、33.0%、34.5%(平均33.8%)
(2)高率放電利用率が、15.8%、17.6%(平均16.7%)
従来技術のペーストNo1.では、高率放電利用率は低率放電利用率に比べて、
(3)16.7%/33.8%=0.49・・・(高率放電利用率/低率放電利用率)
となる。
表3及び表3−2における本発明のペーストNo.23の珪藻土43gを添加した活物質利用率において、高率放電利用率/低率放電利用率を求める。
(4)42.5%/58.3%=0.73・・・(2サンプル平均値)
低率放電利用率に対する高率放電利用率の比率が0.73と大きく、高率放電に適していることが判る。
表3及び表3−2における本発明の珪藻土37gを添加したペーストNo.22と従来技術のペーストNo.1との低率放電時及び高率放電時の利用率を比較する。
(5)63.7%/33.8%=1.9・・・低率放電時のサンプル平均における比
(6)38.4%/16.7%=2.3・・・高率放電時のサンプル平均において比
なお、表3−3及び図5に示される鉛蓄電池容量(Ah)の珪藻土量37gにおいて、低率放電時の本発明と従来技術の鉛蓄電池容量は互角であり、高率放電時の鉛蓄電池容量は本発明の方が若干大であり、このように、ほぼ同等の鉛蓄電池容量を有して、かつ、正極活物質利用率が2倍程度も大きいという試験結果は、従来では、絶対に有り得ないことである。
なお、表3−3は表3の正極組成物において鉛蓄電池容量を求めたものであり、図5は表3−3をグラフ化したものである。
【0052】
表1−2、表1−3からそれぞれ生成される図2、図3のグラフと、表3−2、表3−3からそれぞれ生成される図4、図5のグラフ結果より、本発明のペーストの鉛粉200gに対する珪藻土の添加量が4g以上であれば低率放電時及び高率放電時の正極活物質利用率及び鉛蓄電池容量を比較ペーストNo.1よりも高くできることが判る。
鉛粉200gが酸化鉛150gと金属鉛50gの混合物の場合、それぞれのモル数、150/223=0.673モルと50/207=0.242モルの和からなり、0.673+0.242=0.915モルであり、珪藻土4gは4/60=0.0667モル。したがって、鉛粉に対する珪藻土のモル数は、0.0667/0.915=0.729となる。ただし、酸化鉛の分子量は223、金属鉛の分子量は207、珪藻土の分子量は60である。
これを1つの計算式で表して計算すると下式となる。
(4/60)/(150/223+50/207)=0.0729・・・酸化鉛75%
同様に、鉛粉200gを酸化鉛160gと金属鉛40gの混合物として計算すると、下式となる。
(4/60)/(160/223+40/207)=0.0732・・・酸化鉛80%
したがって、鉛粉に対する珪藻土のモル数を百分率で表すと、鉛粉の酸化鉛含有率が75%の場合、7.29モル%、鉛粉の酸化鉛含有率が80%の場合、7.32モル%、となる。
これらを平均して、珪藻土は鉛粉に対して、7.3モルパーセント以上添加すれば、従来技術の比較ペーストNo.1よりも高い利用率と容量を発揮できるということである。よって、特許請求の範囲では、鉛粉に対する珪藻土含有のモル数を7.3モル%とした。これは、実施例1にも適用できる。すなわち、表1における珪藻土4gとカーボン3gを添加した例である。
【0053】
上記、実施例2の珪藻土のみを添加した場合の正極活物質利用率及び鉛蓄電池容量は、カーボンも添加した実施例1の正極活物質利用率及び鉛蓄電池容量とほぼ同等(ただし、実際には、カーボンも添加した実施例1の方が、カーボンの嵩密度が寄与する分、正極活物質利用率及び鉛蓄電池容量が少し大であるが。)であり、本発明の正極活物質利用率は従来技術のペーストNo.1の正極活物質利用率を上回り、鉛蓄電池容量においても上回って高性能化されたことを確認できた。
カーボンは鉛粉より廉価であり、珪藻土はカーボンよりさらに廉価であり低コスト鉛蓄電池を実現できた。また、実施例2ではポリビニルアルコールを使用する必要もなく製造工程も簡素化できるため、さらに低コスト化された鉛蓄電池を実現した。
また、本発明の各実施例において、最大の正極活物質利用率が従来技術のペーストNo.1の正極活物質利用率のおおよそ2倍となるため、鉛量をおおよそ1/2程度に減じることができた。
従来、鉛蓄電池は取り扱いが簡単で、安全(リチウムイオン二次電池などと比較して火災の危険がない。)かつ大容量の蓄電池を提供してきたが重量が大きいことが最大の欠点であった。鉛蓄電池を大容量設備するデータセンタなどでは、床加重が問題が問題となっていた。
本発明においては、これら全てを解決し上記のとおり理想的な鉛蓄電池を実現したものである。
【実施例3】
【0054】
前述した珪藻土はシリカ多孔体の1種類と言える。シリカ多孔体としては各種の種類や品種が存在するので、それについて活物質利用率を試験した。
<主な原料の説明>
金属酸化物を主体とした活物質原料である鉛粉は活物質原料の主たる構成物質で、酸化度は約75から80パーセントである。カーボンには吸油量160ml/100gのアセチレンブラックを、ポリビニルアルコール(株式会社クラレ製)は重合度2400を用いた。シリカ多孔体は表4に示すものを試験した。
珪藻土は孔の違いや粒子の大きさ(ラヂオライトの各グレード)、メーカーの違い(スピーディックスとダイカライト)あるいは天然に産出するものなので、生産地の違いについて、外国産のもの(セルピュアS65とセルピュアS300)を試験した。また、ガラス質岩石を膨張粉砕して多孔性としたパーライト、さらにはガラス質岩石を膨張させたシラスバルーンについて、試験をした。これらはいずれも二酸化珪素を主体とする材料である。
これら多種多様なシリカ多孔体の一覧とこれを添加した試験結果を表4に示す。
表4は、シリカ多孔体の種類と、これに対応する活物質利用率(%)を主として記載されており、活物質原料への添加材であるカーボン3g、温水63mlに溶解されたポリビニルアルコール0.1gは表4において省略されているが、実際にはこれらが含まれる。
【0055】
<製造方法>
まず、カーボン3gを90℃程度の温水63mlに対するポリビニルアルコール0.1g割合のポリビニルアルコール水溶液で、30分間混練し、その後、該混練物に鉛粉加え、微量の硫酸(表4における硫酸1.3g)を添加して25分間混練した後、各種のシリカ多孔体を1種類づつ14g添加し、さらに5分間混練を継続した。これを各シリカ多孔体毎におこなう。
ただし、この30分間、25分間及び5分間程度の混練時間はおおよその目安であり、特に最後の5分間の混練は各シリカ多孔体の量により変動する。また、各シリカ多孔体の添加時期も前後してもよい。すなわち、各シリカ多孔体は、ポリビニルアルコール水溶液にカーボンを加えて混練するときに混合してもよい。または、その後の工程で鉛粉を混合するときに各シリカ多孔体を混合してもよい。
このようにして作製したペーストを厚さ3.7ミリメートルの格子状集電体に充填して、その後、湿度98パーセント、温度45℃で24時間熟成し、その後、60℃で24時間乾燥して、正極未化板を形成した。
【0056】
この正極板1枚の両側に微細ガラス繊維セパレータを当接し、さらにその外側に1枚づつ従来技術の負極板を当接した。このような構成とすることで、活物質の理論容量は負極が大過剰となり、目的とする正極の利用率を評価できる。該極板群を電槽に挿入し、電槽と極板群の隙間はABS樹脂製スペーサで埋めた。電槽に比重1.223の希硫酸を注入して、正極理論容量の300パーセントの電気量を流して、化成をおこなった。化成後の電解液の比重は1.320とした。
【0057】
次に、正極活物質利用率算出のために容量試験(放電試験)を行なった。容量試験は0.06アンペアー放電と6アンペアー放電の2種類とした。0.06アンペアー放電は約40時間率相当、6アンペアー放電は約10分間率相当の放電である。それぞれの放電終止電圧はセル当たり、1.7ボルトと1.2ボルトとした。温度は25℃である。
試験に供した正極組成物と結果を表4に示す。
なお、表4においては活物質利用率を%で表している。表4の備考欄に「シリカに水を含ませて添加」と記載したもの以外は、シリカに水を含ませないで添加している。

【表4】


表4の結果は試験ロットの違いもあるので、おおまかに評価した方が良い。
各種のシリカ多孔体について、試験したが、低率放電利用率は54から73パーセント、高率放電利用率は21から29パーセント程度であり、これらいずれも従来技術であるペーストNo.1の活物質利用率を上回っている。これはシリカ多孔体の多孔度が類似しているためと考えられる。
【実施例4】
【0058】
ペーストに添加する多孔体として、実施例1及び実施例2の珪藻土、実施例3の珪藻土、パーライト及びシラスバルーン以外に、中空繊維(表5、表5−2及び表5−3においては中空糸と記載)について、試験を行なった。
表5は試験に供した正極組成物の一覧である。ペーストNo.1は実施例1、2と同様なものである。本発明のペーストは、No.24〜29である。

【表5】


【表5−2】


【表5−3】


<主たる原料の説明>
金属酸化物を主体とした活物質原料である鉛粉は活物質の主たる構成物質で、酸化度は約75から80パーセントである。カーボンには吸油量160ml/100gのアセチレンブラックを、ポリビニルアルコール(株式会社クラレ製)は重合度2400を用いた。中空糸は中央部に孔を有する繊維で、繊維の側部には0.1から0.25μ程度のスリットが開いている。これを活物質に添加した場合、電解液を中央の孔に貯えることができ、放電や充電では側部スリットを介して、電解液を移動させることが可能である。
【0059】
<製造方法>
まず、ポリビニルアルコールを温度約90℃の温水で溶解し、溶解が完了した時点でポリビニルアルコールの濃度が6%程度の水溶液を製造する。溶解させている間は水分が蒸発しないように、溶解させる容器にラップなどのようなシートで容器の上部を覆う。
このポリビニルアルコール水溶液にカーボンを加えて30分間程度混練し、その後、該混練物に鉛粉200gを混合し、カットファイバー0.3gを添加して25分間程度混練した後、さらに中空糸を添加して5分間混練を継続した。ただし、この30分間、25分間及び5分間程度の混練時間はおおよその目安であり、特に最後の5分間の混練は中空糸の量により変動する。また、中空糸の添加時期も前後してもよい。すなわち、中空糸は、ポリビニルアルコール水溶液にカーボンを加えて混練するときに混合してもよい。または、その後の工程で鉛粉を混合するときに中空糸を混合してもよい。
比較用として作製した正極ペーストNo.1は表5の量に従って単純に混練したものであり、純硫酸11グラムを含有している。
【0060】
この正極板1枚の両側に微細ガラス繊維セパレータを当接し、さらにその外側に1枚づつ従来技術の負極板を当接した。このような構成とすることで活物質の理論容量は負極が大過剰となり、目的とする正極の利用率を評価できる。該極板群を電槽に挿入し、電槽と極板群の隙間はABS樹脂製スペーサで埋めた。電槽に比重1.223の希硫酸を注入して、正極理論容量の300パーセントの電気量を流して、化成をおこなった。化成後の電解液の比重は1.320とした。
【0061】
次に、正極活物質利用率と鉛蓄電池容量を求めるために容量試験(放電試験)を行なった。容量試験は0.06アンペアー放電と6アンペアー放電の2種類とした。0.06アンペアー放電は約40時間率相当、6アンペアー放電は約10分間率相当の放電である。それぞれの放電終止電圧はセル当たり、1.7ボルトと1.2ボルトとした。温度は25℃である。
【0062】
表5−2、表5−3は、それぞれこの試験で得られた正極活物質利用率、鉛蓄電池容量を示す。図6は表5−2をグラフ化したものであり、表5における本発明のペーストNo.24からペーストNo.29について、図6における上部プロット群■、□(利用率大)により低率0.06アンペアー放電の利用率が示され、図6における下部プロット群■、□(利用率小)により高率6アンペアー放電の利用率が示される。
また、図7は表5−3をグラフ化したものであり、表5における本発明のペーストNo.24からペーストNo.29について、図7における上部プロット群■、□(容量大)により低率0.06アンペアー放電の鉛蓄電池容量が示され、図7における下部プロット群■、□(容量小)により高率6アンペアー放電の鉛蓄電池容量が示される。
表5における従来技術のペーストNo.1は、図6におけるプロット◆、◇により低率0.06アンペアー放電の利用率が示され、図6におけるプロット■、□高率6アンペアー放電の利用率が示される。
また、表5における従来技術のペーストNo.1は、図7におけるプロット◆、◇により低率0.06アンペアー放電の鉛蓄電池容量が示され、図7におけるプロット■、□高率6アンペアー放電の鉛蓄電池容量が示される。
表5−2及び表5−3、図6及び図7において、正極活物質利用率および鉛蓄電池容量とも比較ペーストNo.1に比較して、高い値を示した。特に、本発明のペーストによる正極活物質利用率は低率、高率ともに従来技術である比較ペーストNo.1のおおよそ2倍程度であった。
珪藻土の材質の密度は中空糸に対して約2倍であるので、中空糸の利用率の試験結果である表5−2を実施例1の珪藻土を使用した結果である表1−2と比較すると、たとえばカーボン3g、中空糸9g(ペーストNo.24)の例で比較して、両者の体積を揃えると、中空糸9gは珪藻土約18gに相当する。
中空糸添加の低率放電利用率は約55パーセント(表5−2参照。図6では最左端・上部のプロット)、高率放電利用率は約28パーセント(表5−2参照。図6における最左端・下部のプロット)であるのに対して、実施例1の珪藻土添加の低率放電利用率は約56パーセント(表1−2では珪藻土量20gを代用。図2では中央部・上部のプロット◆(珪藻土量20g))、高率放電利用率は約28パーセント(表1−2では珪藻土量20gを代用、図2では中央部・下部のプロット◇(珪藻土量20g))と、ほぼ一致する。つまり、材料の違いはあっても、嵩密度が同じであれば、利用率はほぼ同じであると考えられる。
【0063】
正極活物質にカーボンとシリカ多孔体あるいは中空糸を添加して、混練物ペーストとすることで、該活物質の利用率は大幅に増加した。この試験により、嵩密度を上げる多孔性を有する物質は普遍的に活物質利用率の向上に大きく寄与することが判明した。それで中空糸を添加した正極組成物を使用することでも活物質利用率が従来技術のペーストNo.1のほぼ2倍となり、鉛粉原料をほぼ1/2に減じることが可能であるということが判った。
鉛粉原料を減らせることは、そのまま蓄電池のコストの低減として有効であり、エネルギー密度を大幅に向上できることがわかった。これにより、従来使用されていた蓄電池の軽量化が可能であり、同時に、自動車ハイブリッド蓄電池としての可能性が明確となった。利用率の大幅な向上が100年近くの間できなかったが、本発明によりそれが始めて可能となった。その工業的価値は極めて高いものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
格子状集電体に充填され又はシート状集電体に塗布され、金属酸化物を主体とした活物質原料にカーボン及びシリカ多孔体を含有させた混練物の乾燥後かつ未化成状態の嵩密度が2.6×10−1ml/g以上であることを特徴とする二次電池用正極組成物。
【請求項2】
前記カーボンをポリビニルアルコール水溶液で混練して生成された第1の混練物に、前記活物質原料及び前記シリカ多孔体とが混合され混練されて生成される混練物であることを特徴とする請求項1に記載の二次電池用正極組成物。
【請求項3】
前記カーボンと前記シリカ多孔体とをポリビニルアルコール水溶液で混練して生成された第1の混練物に、前記活物質原料を混合して混練することで生成される混練物であることを特徴とする請求項1に記載の二次電池用正極組成物。
【請求項4】
金属酸化物を主体する活物質原料にカーボン及びシリカ多孔体を含有させた混練物から成ることを特徴とする二次電池用正極組成物。
【請求項5】
前記カーボンをポリビニルアルコール水溶液で混練して生成された第1の混練物に、前記活物質原料及び前記シリカ多孔体とが混合され混練されて生成される混練物であることを特徴とする請求項4に記載の二次電池用正極組成物。
【請求項6】
前記カーボンと前記シリカ多孔体とをポリビニルアルコール水溶液で混練して生成された第1の混練物に、前記活物質原料を混合して混練することで生成される混練物であることを特徴とする請求項4に記載の二次電池用正極組成物。
【請求項7】
格子状集電体に充填され又はシート状集電体に塗布され、金属酸化物を主体とした活物質原料にシリカ多孔体を含有させカーボンを含有しない混練物の乾燥後かつ未化成状態の嵩密度が2.5×10−1ml/g以上であることを特徴とする二次電池用正極組成物。
【請求項8】
金属酸化物を主体とした活物質原料にシリカ多孔体を含有させカーボンを含有しない混練物から成ることを特徴とする二次電池用正極組成物。
【請求項9】
前記活物質原料に対して前記シリカ多孔体を7.3モルパーセント以上含有させた混練物であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の二次電池用正極組成物。
【請求項10】
前記混練物に含まれる前記シリカ多孔体は、珪藻土、パーライト又はシラスバルーンであることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の二次電池用正極組成物。
【請求項11】
前記混練物は微量の硫酸を含むことを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の二次電池用正極組成物。
【請求項12】
金属酸化物を主体する活物質原料にカーボン及び中空繊維を含有させた混練物から成ることを特徴とする二次電池用正極組成物。
【請求項13】
前記カーボンをポリビニルアルコール水溶液で混練して生成された混練物に、金属酸化物を主体とした活物質原料及び前記中空繊維とが混合され混練されて生成されることを特徴とする請求項12に記載の二次電池用正極組成物。
【請求項14】
カーボンと中空繊維とをポリビニルアルコール水溶液で混練して生成された混練物に、前記活物質原料を混合して混練することで生成されることを特徴とする請求項12に記載の二次電池用正極組成物。
【請求項15】
前記カーボンをポリビニルアルコール水溶液で混練して生成された第1の混練物に、前記活物質原料及び前記シリカ多孔体とが混合され混練されて生成される混練物であることを特徴とする二次電池用正極組成物の製造方法。
【請求項16】
前記カーボンと前記シリカ多孔体とをポリビニルアルコール水溶液で混練して生成された第1の混練物に、前記活物質原料を混合して混練することで生成される混練物であることを特徴とする二次電池用正極組成物の製造方法。
【請求項17】
前記混練に含まれる前記シリカ多孔体は、珪藻土、パーライト又はシラスバルーンであることを特徴とする請求項15又は16に記載の二次電池用正極組成物の製造方法。
【請求項18】
前記混練物には微量の硫酸を含ませることを特徴とする請求項15〜17のいずれかに記載の二次電池用正極組成物の製造方法
【請求項19】
請求項1〜14のいずれかに記載の二次電池用正極組成物を使用し又は請求項15〜18のいずれかに記載の二次電池用正極組成物の製造方法によって生成された二次電池用正極組成物を使用することを特徴とする二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−200042(P2009−200042A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−11819(P2009−11819)
【出願日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【出願人】(504296415)株式会社エヌ・ティ・ティ・データ・イー・エックス・テクノ (57)
【Fターム(参考)】