説明

二次電池電極用バインダー、二次電池電極および二次電池

【課題】 バインダーを含むスラリーが相分離を起こすことなく経時安定性に優れ、更に前記バインダーを有する二次電池において高いサイクル特性とレート特性を示す、二次電池電極用バインダーを提供すること。
【解決手段】 本発明に係る二次電池電極用バインダーは、(メタ)アクリロニトリルと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体からなり、前記共重合体が、
(メタ)アクリロニトリル単位の含有量が60重量%以上95重量%以下の成分(A)と、
(メタ)アクリロニトリル単位の含有量が5重量%以上40重量%以下の成分(B)とからなり、
前記成分(A)と成分(B)とが相溶してなることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は二次電池電極用バインダーならびにそれを用いる二次電池電極用スラリー、二次電池用電極および二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
ノート型パソコン、携帯電話、PDAなどの携帯端末の普及が著しい。これら携帯端末の電源として、リチウムイオン二次電池が多く用いられている。携帯端末は、より利便性が求められて小型化、薄型化、軽量化と同時に高性能化が進められている。二次電池の高性能化に向けて、電極、電解液、その他の電池部材の改良が検討されており、特に重要な電極については、電極活物質や集電体そのものの検討の他、電極活物質などを集電体に結着するためのバインダーとなるポリマーの検討が鍵になっている。電極は、通常、水や有機溶媒等の液状媒体にバインダーとなるポリマーを分散または溶解させ、これに電極活物質および必要に応じて導電性カーボン等の導電付与剤を混合して二次電池電極用スラリー組成物を得、このスラリー組成物を集電体に塗布し、乾燥することにより、混合層を集電体に結着させて形成される。
【0003】
二次電池の高性能化には、電池容量、寿命(サイクル特性)および高レートでの充放電容量の維持率(レート特性)の向上が必要である。電池容量は、電極活物質の充填量に強く影響される。また、レート特性は電子の移動の容易さに影響されるので、レート特性の向上には導電付与剤の増量が効果的である。限られた電池空間内で電極活物質と導電付与剤を増量するには、バインダー量を低減する必要がある。しかしながら、バインダーを減量すると電極活物質の結着性が損なわれ、繰り返し充放電によって集電体から電極活物質が剥離してサイクル特性が悪化する。このため、使用量が少なくても電極活物質を強く結着できるバインダーが求められている。
【0004】
従来、リチウムイオン二次電池の正極用バインダーとしてはポリビニリデンフルオライドなどのフッ素含有ポリマーが汎用されている。フッ素含有ポリマーを用いると電極の製造が容易であるが、結着力や柔軟性が不足しているので電池の高容量化やレート特性の向上には困難がある。上記のフッ素含有ポリマーの欠点を改善する方法として、ゴム系高分子バインダーを用いることが提案された(特許文献1:特開平4−255670号公報)。しかし、ゴム系高分子を用いて電極を作成すると結着力や柔軟性は改善し得るものの、電極活物質がゴム系高分子に覆い隠されて電池反応が制限される問題がある。そこで、フッ素系ポリマーとゴム系高分子とを併用する試み、例えば、ブタジエン系ポリマーとの併用(特許文献2:特開平6−215761号公報)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴム(NBR)との併用(特許文献3:特開平9−63590号公報)、アクリル系ポリマーとの併用(特許文献4:特開平9−199132号公報)、水素化NBRとアクリロニトリル・アクリル酸エステル共重合体との併用(特許文献5:特開2003−282061号公報)などが提案されている。
【0005】
また、特許文献6(WO2004/095613)には、N−メチルピロリドン(NMP)に可溶な重合体を与えるエチレン性不飽和単量体と、NMPに不溶な重合体を与えるエチレン性不飽和単量体とを多段重合して得られる重合体からなるリチウムイオン二次電池電極用バインダーが開示されている。NMPに可溶な単独重合体を与えるエチレン性不飽和単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリルおよび非カルボニル性酸素原子に結合するアルキル基の炭素数が6以下のエチレン性不飽和カルボン酸エステルなどが例示され、またNMPに不溶な単独重合体を与えるエチレン性不飽和単量体としては、非カルボニル性酸素原子に結合するアルキル基の炭素数が7以上のエチレン性不飽和カルボン酸エステルなどが例示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平4−255670号公報
【特許文献2】特開平6−215761号公報
【特許文献3】特開平9−63590号公報
【特許文献4】特開平9−199132号公報
【特許文献5】特開2003−282061号公報
【特許文献6】WO2004/095613号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、発明者らの検討によれば、特許文献2〜5に記載のバインダーは、異なる2種のポリマーを機械的に混合して得られたものであるため、ポリマー同士の均一な分散性(相溶性)が必ずしも充分ではないことが分かった。そして、このようなバインダーを用いて得たスラリーは、経時安定性に劣り、約1日の静置で相分離し沈降物が発生し、スラリーの長期保管が困難であること、電池の製造工程の進行に合わせてスラリーを逐次調製する必要があり、工程の円滑化を妨げること、更に、バインダーを構成するポリマーの相溶性が充分ではないため、電極内でバインダーが相分離を起こし、ポリマーが偏析すること、が分かった。更にその結果、電極活物質層の柔軟性が損なわれ、このバインダーを使用した二次電池では、ポリマーの偏析により、レート特性、サイクル特性等の電池特性が経時的に低下するおそれがあることが明らかになった。
【0008】
また、特許文献6に記載のバインダーでは、電解液に対する膨潤性を制御することができ長期サイクル特性は向上するものの、レート特性は十分に向上していない。また、バインダー中にNMP溶解成分と不溶成分とを有し、特性が大きく異なる2つの成分を多段重合していることから、ポリマー同士の均一な分散性(相溶性)が必ずしも充分ではなく、上記と同様な課題が生じることが分かった。
【0009】
従って、本発明は、バインダーを含むスラリーが相分離を起こすことなく経時安定性に優れ、更に前記バインダーを有する二次電池において高いサイクル特性とレート特性を示す、二次電池電極用バインダーを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、経時安定性に優れたバインダーを提供すべく鋭意検討したところ、多段重合により(メタ)アクリロニトリルと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合を行うことで、組成の異なる2種以上の成分からなる、(メタ)アクリロニトリルと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体であって、前記各成分が互いに相溶してなるバインダーが得られ、かつ共重合体の組成を適切な範囲に制御することで、スラリーの経時安定性が顕著に改善されることを見いだした。更に、前記共重合体が高含有量の(メタ)アクリロニトリルを含む成分を少なくとも有することにより、上記成分が導電剤の分散性に優れ、電極内において導電剤を均一に分布させることで、上記バインダーを含む二次電池において高いレート特性を有することを見出し、これらの知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、上記課題を解決する本発明は、下記事項を要旨として含む。
(1)(メタ)アクリロニトリルと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体からなる二次電池電極用バインダーであって、前記共重合体が、(メタ)アクリロニトリル単位の含有量が60重量%以上95重量%以下の成分(A)と、(メタ)アクリロニトリル単位の含有量が5重量%以上40重量%以下の成分(B)とからなり、前記成分(A)と成分(B)とが相溶してなる、二次電池電極用バインダー。
【0012】
(2)前記共重合体における前記成分(A)と、前記成分(B)との比率が、20:80〜80:20(重量比)である(1)に記載の二次電池電極用バインダー。
【0013】
(3)(メタ)アクリロニトリルの含有量が60重量%以上95重量%である単量体組成物(A)と、(メタ)アクリロニトリルの含有量が5重量%以上40重量%である単量体組成物(B)とを多段重合することを特徴とする(1)に記載の二次電池電極用バインダーの製造方法。
【0014】
(4)前記多段重合が、前記成分(A)を主たる生成物とする重合工程と、前記成分(B)を主たる生成物とする重合工程とを含むものである(3)に記載の二次電池電極用バインダーの製造方法。
【0015】
(5)(1)又は(2)に記載の二次電池電極用バインダー、電極活物質、および溶媒を有する二次電池電極用スラリー。
【0016】
(6)(1)又は(2)に記載の二次電池電極用バインダー及び電極活物質とからなる電極活物質層が、集電体に積層されてなる二次電池電極。
【0017】
(7)正極、電解液、セパレーター及び負極を有する二次電池であって、
前記正極又は負極が、(6)記載の二次電池電極である二次電池。
【発明の効果】
【0018】
本発明のバインダーは、組成の異なる2種以上の成分からなる、(メタ)アクリロニトリルと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体であって、前記各成分が互いに相溶してなり、かつ該共重合体の各成分の組成が特定範囲に制御されてなるため、バインダーを含むスラリーの経時安定性に優れる。
【0019】
したがって、かかるバインダーを用いて製造した電極用スラリーは、長期間保管しても相分離を起こしにくいため、大量生産及び長期保管が可能であり、電池の製造工程の進行が円滑になり、また得られる電池の品質も一定化する。また製造された電極内においてもバインダーの相溶状態が安定して維持されるため、電極活物質層の柔軟性、結着性や、レート特性、サイクル特性等の電池特性が経時的に劣化することもない。
【0020】
更に、前記共重合体が、高含有量の(メタ)アクリロニトリルを含む成分を少なくとも有することにより、上記成分が導電剤の分散性に優れ、電極内において導電剤を均一に分布させることで、上記バインダーを含む二次電池において高いレート特性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に本発明を詳述する。
1.バインダー
本発明の二次電池電極用バインダーは、組成の異なる2種以上の成分からなる、(メタ)アクリロニトリルと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体であって、前記各成分が互いに相溶してなる。
【0022】
ここで、(メタ)アクリロニトリルとは、アクリロニトリルおよびメタアクリロニトリルの両者を含む意味で用いられる。すなわち、(メタ)アクリロニトリルは、アクリロニトリルあるいはメタアクリロニトリルのいずれか一方であってもよく、また両者を同時に含むものであってもよい。同様に、(メタ)アクリル酸エステルとは、アクリル酸エステルおよびメタアクリル酸エステルの両者を含む意味で用いられる。(メタ)アクリル酸エステルも同様に、アクリル酸エステルまたはメタアクリル酸エステル共重合体のいずれか一方であってもよく、また両者を同時に含むものであってもよい。
【0023】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、および側鎖に官能基を有する(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。中でも、(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく、非カルボニル性酸素原子に結合するアルキル基の炭素数が1〜18である(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましい。アルキル基の炭素数が上記範囲内であることにより、導電剤の分散性に優れ、高いレート特性を示す。
【0024】
非カルボニル性酸素原子に結合するアルキル基の炭素数が1〜18である(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ノニル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸シクロヘキシル、およびアクリル酸イソボルニルなどのアクリル酸アルキルエステル;
メタアクリル酸メチル、メタアクリル酸エチル、メタアクリル酸n−プロピル、メタアクリル酸イソプロピル、メタアクリル酸n−ブチル、メタアクリル酸t−ブチル、メタアクリル酸n−ヘキシル、メタアクリル酸2−エチルヘキシル、メタアクリル酸オクチル、メタアクリル酸イソデシル、メタアクリル酸ラウリル、メタアクリル酸トリデシル、メタアクリル酸ステアリル、およびメタアクリル酸シクロヘキシルなどのメタアクリル酸アルキルエステルが挙げられる。
【0025】
これらの中では、炭素数1〜18である(メタ)アクリル酸アルキルエステルがより好ましく、より好ましくは炭素数2〜12の(メタ)アクリル酸アルキルエステルであり、特に好ましくは(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシルである。これらの(メタ)アクリル酸アルキルエステルを用いることにより、スラリー安定性、電極の柔軟性に優れ、かつ高いレート特性を示す。
【0026】
側鎖に官能基を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、アクリル酸2−メトキシエチルおよびメタアクリル酸2−メトキシエチルなどのアルコキシル基を有する(メタ)アクリル酸エステル;アクリル酸−2−ヒドロキシエチルおよびメタアクリル酸−2−ヒドロキシエチルなどのヒドロキシル基を有する(メタ)アクリル酸エステル;アクリル酸グリシジルおよびメタアクリル酸グリシジルなどのエポキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル;などが挙げられる。
【0027】
本発明のバインダーを構成する上記(メタ)アクリロニトリルと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体は、組成の異なる2種以上の成分からなる。すなわち、(メタ)アクリロニトリル・(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、(メタ)アクリロニトリル単位の含有量が60重量%以上95重量%以下の成分(A)と、(メタ)アクリロニトリル単位の含有量が5重量%以上40重量%以下の成分(B)とからなる。
【0028】
本発明において成分(A)は、(メタ)アクリロニトリル単位を60重量%以上95重量%以下含有する。成分(A)における(メタ)アクリロニトリル単位の含有量が、上記範囲であることにより、導電剤の分散性に優れ、電極内において導電剤を均一に分布させることができ、さらに本発明のバインダーを含む二次電池において高いレート特性を示すことができる。成分(A)における(メタ)アクリロニトリル単位の含有量は、好ましくは65重量%以上90重量%以下であり、更に好ましくは70重量%以上85重量%以下である。成分(A)における(メタ)アクリロニトリル単位の含有量が、上記範囲であることにより、高いレート特性を示しながらもスラリーの経時安定性に優れる。
【0029】
成分(A)は、(メタ)アクリロニトリル単位以外にも前述の(メタ)アクリル酸エステル単位や後述の(メタ)アクリロニトリル及び(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能な単量体単位を含んでいてもよい。中でも、(メタ)アクリル酸エステル単位を含んでなることが好ましい。
【0030】
成分(A)中の(メタ)アクリル酸エステル単位の含有量は、成分(A)全量に対して5重量%以上40重量%以下が好ましく、更に好ましくは10重量%以上35重量%以下であり、特に好ましくは15重量%以上30重量%以下である。成分(A)中の(メタ)アクリル酸エステル単位の含有量が、上記範囲に含まれることにより、高いレート特性を示しながらもスラリーの経時安定性に優れる。
【0031】
成分(A)中の(メタ)アクリル酸エステル以外のその他の共重合可能な単量体単位の含有量は、成分(A)全量に対して好ましくは20重量%以下、さらに好ましくは1〜10重量%である。成分(A)中の(メタ)アクリル酸エステル以外のその他の共重合可能な単量体単位の含有量が、上記範囲に含まれることにより、各単量体単位が示す上述の効果を発揮できると共に、本発明の効果であるバインダー及びスラリーの経時安定性に優れ、得られるバインダーのサイクル特性・レート特性共に優れる。
【0032】
本発明において成分(B)は、(メタ)アクリロニトリル単位を5重量%以上40重量%以下含有する。成分(B)における(メタ)アクリロニトリル単位の含有量が、上記範囲であることにより、成分(A)との相溶性に優れ、また本発明のバインダーを含む二次電池用電極の柔軟性に優れる。成分(B)における(メタ)アクリロニトリル単位の含有量は、好ましくは10重量%以上30重量%以下であり、更に好ましくは15重量%以上25重量%以下である。成分(B)における(メタ)アクリロニトリル単位の含有量が上記範囲であることにより、高いバインダーの相溶性とスラリーの経時安定性を示しながらも電池内において耐電解液性に優れる。
【0033】
成分(B)は、(メタ)アクリロニトリル単位以外にも前述の(メタ)アクリル酸エステル単位や後述の(メタ)アクリロニトリル及び(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能な単量体単位を含んでいてもよい。中でも、(メタ)アクリル酸エステル単位を含んでなることが好ましい。
【0034】
成分(B)中の(メタ)アクリル酸エステル単位の含有量は、成分(B)全量に対して60重量%以上95重量%以下が好ましく、更に好ましくは70重量%以上90重量%以下であり、もっとも好ましく75重量%以上85重量%以下である。成分(B)中の(メタ)アクリル酸エステル単位の含有量が、上記範囲に含まれることにより高いレート特性を示しながらもスラリーの経時安定性に優れる。
【0035】
成分(B)中の(メタ)アクリル酸エステル単位以外のその他の共重合可能な単量体単位の含有量は、成分(B)全量に対して好ましくは20重量%以下、さらに好ましくは1重量%以上10重量%以下である。(メタ)アクリル酸エステル以外のその他の共重合可能な単量体単位の含有量が、上記範囲に含まれることにより、各単量体単位が示す上述の効果を発揮できると共に、本発明の効果であるバインダー及びスラリーの経時安定性に優れ、得られるバインダーのサイクル特性・レート特性共に優れる。
【0036】
本発明の二次電池電極用バインダーにおいて、前記共重合体における成分(A)と、前記成分(B)との比率は、重量比で、20:80〜80:20であることが好ましく、更に好ましくは30:70〜70:30、特に好ましくは40:60〜60:40である。前記共重合体における成分(A)と、成分(B)との比率が上記範囲であることにより、成分(A)と成分(B)とが高い相溶性を示し、スラリーの経時安定性にも優れ、得られた二次電池のサイクル特性・レート特性共に優れる。
【0037】
バインダーを構成する(メタ)アクリロニトリルと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体全量に対する(メタ)アクリロニトリル由来の単量体単位の含有量は、好ましくは30〜70重量%、さらに好ましくは40〜60重量%であり、また(メタ)アクリル酸エステル由来の単量体単位の含有量は、好ましくは70〜30重量%、さらに好ましくは60〜40重量%である。本発明のバインダー中の(メタ)アクリロニトリル由来の単量体単位及び(メタ)アクリル酸エステル由来の単量体単位の含有量が上記範囲であることにより、耐電解液性に優れ、かつバインダーを含む二次電池の出力特性に優れる。
【0038】
また前記(メタ)アクリロニトリルと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体には、(メタ)アクリロニトリル単位および(メタ)アクリル酸エステル単位に加えて、その他の単量体単位が含まれていてもよい。
【0039】
その他の共重合可能な単量体単位としては、共役ジエン由来の単量体単位、多官能不飽和カルボン酸エステル由来の単量体単位、不飽和カルボン酸由来の単量体単位および芳香族ビニル化合物由来の単量体単位が挙げられる。
【0040】
共役ジエン由来の単量体単位を構成するために用いられる共役ジエンとしては、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−エチル−1,3−ブタジエン、2−クロル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、および2,4−ヘキサジエンなどが挙げられる。これらの共役ジエンの中でも1,3−ブタジエンが好ましい。共役ジエン単位を含有させることで、バインダーの柔軟性を制御できる。
【0041】
多官能不飽和カルボン酸エステル由来の単量体単位を構成するために用いられる多官能不飽和カルボン酸エステルとは、2以上の炭素−炭素二重結合を有するカルボン酸エステルである。多官能不飽和カルボン酸エステルの具体例としては、ジエチレングリコールジアクリレート、1,3−ブチレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールアクリレート、1,4−ブタンジオールアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールアクリレート、1,9−ノナンジオールアクリレート、およびポリエチレングリコールジアクリレートなどジアクリル酸エステル類;トリメチロールプロパントリアクリレートなどのトリアクリル酸エステル類;エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、およびポリエチレングリコールジメタクリレートなどのジメタアクリル酸エステル類;トリメチロールプロパントリメタクリレートなどのトリメタアクリル酸エステル類;が挙げられる。かかる単量体単位を含有させることで、バインダーの電解液に対する膨潤が抑制され、得られる電池の長期保存特性が改善されることがある。
【0042】
不飽和カルボン酸由来の単量体単位を構成するために用いられる不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタアクリル酸、クロトン酸およびイソクロトン酸などの不飽和モノカルボン酸;マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、メサコン酸、グルタコン酸、およびイタコン酸などの不飽和ジカルボン酸;が挙げられる。中でも、不飽和モノカルボン酸が好ましい。不飽和カルボン酸単位を含有させることで、バインダーの結着性が向上することがある。
【0043】
芳香族ビニル化合物由来の単量体単位を構成するために用いられる芳香族ビニル化合物としては、スチレン、α−メチルスチレン、およびβ−メチルスチレンなどが挙げられ、スチレンが好ましい。芳香族ビニル単位を含有させることで、バインダーの結着性が向上することがある。
【0044】
バインダーを構成する(メタ)アクリロニトリルと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体全量に対するその他の共重合可能な単量体単位の含有量は、好ましくは20重量%以下、さらに好ましくは1〜10重量%である。(メタ)アクリロニトリルと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体中のその他の共重合可能な単量体単位の含有量が、上記範囲に含まれることにより、各単量体単位が示す上述の効果を発揮できると共に、本発明の効果であるバインダー及びスラリーの経時安定性に優れ、得られる二次電池のサイクル特性・レート特性共に優れる。
【0045】
本発明においては、(メタ)アクリロニトリルと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体中にガラス転移温度が25℃以下の成分が含まれることが好ましい。具体的には、成分(A)と成分(B)の少なくとも一方のガラス転移温度が、25℃以下であることが、高い柔軟性を有する電極が得られる為に好ましい。前記ガラス転移温度は、25℃以下であることが好ましく、更に好ましくは15℃以下、特に好ましくは−5℃以下である。
【0046】
なお、(メタ)アクリロニトリルと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体中の成分(A)及び成分(B)のガラス転移温度は、(メタ)アクリロニトリルと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体のガラス転移温度を測定することで求めることができる。2つの成分のガラス転移温度が大きく異なる場合は、2つの異なるガラス転移温度を測定することができる。2つの成分のガラス転移温度が近い場合は、1つのガラス転移温度として測定され、成分(A)、成分(B)共にほぼ同じガラス転移温度であることを示している。
【0047】
なお、(メタ)アクリロニトリルと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体中の各成分のガラス転移温度は、前記に例示した単量体およびその含有量を適宜に組み合わせることによって調整可能である。
【0048】
本発明において、バインダーを構成する成分(A)はテトラヒドロフランに不溶な成分であり、成分(B)はテトラヒドロフランに可溶な成分である。
【0049】
従って、本発明のバインダー中の各成分中の(メタ)アクリロニトリル単位の含有量は、上記特性を用いて測定することができる。具体的には、バインダーをTHFに溶解させて、THF可溶分とTHF不溶分とに分離し、THF不溶分、THF可溶分、それぞれを、H−NMR、13C−NMR等で共重合組成を分析することにより求める。
【0050】
本発明の二次電池電極用バインダーを構成する(メタ)アクリロニトリルと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体は、上記のような組成の異なる2種以上の成分からなり、前記各成分が相溶してなる。ここでいう相溶とは、上記のような組成の異なる2種以上の各成分からなる(メタ)アクリロニトリルと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体がポリマー溶液状態では均一に混ざり合い、ポリマー溶液よりフィルムを作製した際にはミクロ相分離状態をとることをいう。ここで、(メタ)アクリロニトリル・(メタ)アクリル酸エステル共重合体における、ポリマー溶液での相溶状態は、後述の電極用スラリー中に用いられるN−メチルピロリドン(以下、「NMP」と記載することがある。)に溶解させた際のポリマー溶液のヘイズ値により確認できる。また、ポリマー溶液より作製したポリマーフィルムのミクロ相分離状態は、透過型電子顕微鏡(以下、「TEM」と記載することがある)などにより確認できる。本発明においては、(メタ)アクリロニトリルと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体をNMPに溶解させたポリマー溶液のヘイズ値が5%以下、ポリマー溶液から作製したフィルムのTEM画像においてドメインが200nm以下である場合に、ポリマー成分が相溶していると判断する。
【0051】
本発明のバインダーは、上記のように、組成の異なる2種以上の(メタ)アクリロニトリルと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体が相溶してなり、かつ該共重合体の組成が特定範囲に制御されてなるため、経時安定性に優れる。したがって、かかるバインダーを用いて製造した電極形成用スラリーは、長期間保管しても相分離を起こしにくいため、大量生産及び長期保管が可能であり、電池の製造工程の進行が円滑になり、また得られる電池の品質も一定化する。また製造された電極内においてもバインダーの相溶状態が安定して維持されるため、電極層の柔軟性、結着性や、レート特性、サイクル特性等の電池特性が経時的に劣化することもない。
【0052】
本発明の二次電池電極用バインダーは、上記の組成、性状を有する限り、その製法は特に限定はされないが、ポリマー成分が均一に相溶してなるバインダーを得る上では、特に多段重合法を採用することが有利である。
【0053】
具体的には、(メタ)アクリロニトリルの含有量が60重量%以上95重量%である単量体組成物(A)と、(メタ)アクリロニトリルの含有量が5重量%以上40重量%以下である単量体組成物(B)とを多段重合する。本発明において、多段重合とは、単量体組成物の一部をまず重合し、引き続いて種類および/または混合比の異なる単量体組成物を添加して重合することをいう。「引き続いて」重合するとは、前段の重合工程において単量体が残存した状態、すなわち重合転化率が100%にならない時点で次段の重合を行うことをいう。
【0054】
多段重合は、重合系内の単量体組成、重合条件などの異なる二段階以上の重合工程を含む。本発明では、二段階または三段階で行うことが好ましく、特に二段階で行うことがより好ましい。四段階以上で行うと、工程が煩雑になり生産性が低下するおそれがある。以下、多段重合を二段階で行いバインダーを調製する工程について説明する。
【0055】
二段階で重合を行う場合は、前記成分(A)を主たる生成物とする重合工程と、前記成分(B)を主たる生成物とする重合工程とを含む多段重合であることが好ましく、成分(A)を主たる生成物とする一段目の重合工程と、引き続いて成分(B)を主たる生成物とする二段目の重合工程とを有する多段重合であることが、最終的に得られる共重合体の反応率が高いためにより好ましい。以下の説明では、一段目の重合で主として成分(A)生成し、二段目の重合で主として成分(B)を生成する場合について述べる。
【0056】
一段目における重合では、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸エステルおよび必要に応じその他の単量体成分を重合系に供給し、主として成分(A)生成する。一段目の重合系に供給される単量体組成物(単量体組成物(A))は、上述の成分(A)に含まれる単量体組成物から選ばれる。同時に過硫酸カリウムなどの重合開始剤を供給し、60℃程度に加温して単量体組成物(A)を重合し、主として成分(A)を生成する。一段目の重合工程における単量体組成物(A)の重合転化率は、好ましくは60〜97重量%、より好ましくは65〜97重量%、さらに好ましくは70〜95重量%である。一段目の重合工程における重合転化率が所定値に到達した時点で、成分(B)の単量体組成にほぼ等しい単量体組成物(B)を重合系に供給し、重合を継続する。単量体組成物(B)は、上述の成分(A)に含まれる単量体組成物から選ばれる。二段目の重合工程における単量体組成物(B)の重合転化率は、好ましくは90重量%以上、より好ましくは95重量%以上である。
【0057】
重合系内に供給される、単量体組成物(A)と単量体組成物(B)との重量比(A/B)は、前記成分(A)と成分(B)との重量比にほぼ等しく、単量体組成物(A)/単量体組成物(B)は、20/80重量%〜80/20重量%、好ましくは30/70重量%〜70/30重量%、さらに好ましくは40/60重量%〜60/40重量%、である。
【0058】
重合開始剤としては、慣用の成分、例えば、アゾ系重合開始剤[例えば、アゾビスニトリル(例えば、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)などの2,2’−アゾビスブチロニトリル類;2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)などの2,2’−アゾビスバレロニトリル類;2,2’−アゾビス(2−ヒドロキシメチルプロピオニトリル)などの2,2’−アゾビスプロピオニトリル類;1,1’−アゾビスシクロヘキサン−1−カルボニトリルなどの1,1’−アゾビス−1−シクロアルカンニトリル類;4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)などのアゾビスシアノカルボン酸など)、アゾニトリル(例えば、2−(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリルなどのアゾブチロニトリル類;2−フェニルアゾ−4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリルなどのアゾバレロニトリル類など)など];パーオキサイド系重合開始剤[例えば、シクロヘキサノンパーオキサイド、3,3,5−トリメチルシクロヘキサノンパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイドなどのケトンパーオキサイド類、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレートなどのパーオキシケタール類、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジハイドロパーオキサイドなどのハイドロパーオキサイド類、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3などのジアルキルパーオキサイド類、ベンゾイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイドなどのジアシルパーオキサイド類、ビス(t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネートなどのパーオキシカーボネート類、t−ブチルパーオキシベンゾエート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサンなどのパーオキシエステル類など有機過酸化物;過酸化水素、過硫酸塩(過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなど)などの無機過酸化物など]が例示できる。このような重合開始剤は、一種又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0059】
重合開始剤の使用量は、特に制限されず、例えば、モノマーの合計100重量部に対して、0.1〜10重量部、好ましくは1〜5重量部程度である。
【0060】
重合温度としては、通常、50℃〜120℃、好ましくは60℃〜90℃程度の範囲から選択できる。なお、重合反応は、不活性ガス(例えば、窒素ガス、ヘリウムガス)雰囲気中で行うことができる。
【0061】
重合溶媒は、水であってもよく、また有機溶媒であってもよい。有機溶媒は1種類とは限らず、複数種類の有機溶媒による混合溶媒としてもよい。具体的には、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、tert−ブチルアルコール等の炭化水素系アルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等の炭化水素系ケトン類、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル、メチルtert−ブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル等の炭化水素系エーテル類、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等の環状脂肪族炭化水素系エーテル類、アセトニトリル等のニトリル類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸tert−ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル等の炭化水素系エステル類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素等の塩化炭化水素類、1,1,2−トリクロロ−1,2,2−トリフルオロエタン(R−113)、1,1,1−トリクロロ−2,2,2−トリフルオロエタン(R−113a)、1,1−ジクロロ−1−フルオロエタン(R−141b)、3,3−ジクロロ−1,1,1,2,2−ペンタフルオロプロパン(R−225ca)、1,3−ジクロロ−1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパン(R−225cb)等のフッ化塩化炭化水素類、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−トリデカフルオロヘキサン、1,1,1,2,2,3,3,4,4−ノナフルオロヘキサンなどのフッ化炭化水素類、メチル−2,2,3,3−テトラフルオロエチルエーテル等のフッ化炭化水素系エーテル類、2,2,2−トリフルオロエタノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロパノール、2,2,3,3−テトラフルオロプロパノール、2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロペンタノール等のフッ化炭化水素系アルコール類が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0062】
このような多段重合により、ポリマー成分が均一に相溶してなる本発明のバインダーが得られる。
【0063】
本発明のバインダーの重合方法は特に限定されず、乳化重合法、懸濁重合法、分散重合法、または溶液重合法などの公知の重合法が採用できる。中でも、乳化重合法が好ましい。
【0064】
また、本発明のバインダーを形成する(メタ)アクリロニトリルと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体は、有機溶媒に溶解しうる。ここで、有機溶媒とは溶液重合により得られた重合体液をそのまま使用する場合には、重合溶媒を意味し、また溶媒置換して使用する場合には、置換溶媒を意味する。
本発明の目的を阻害しない範囲であれば、本発明のバインダーに、PVDF、PTFEやゴム質重合体などの従来のバインダーを併用することは可能である。
【0065】
2.二次電池電極用スラリー
本発明の二次電池電極用スラリーは、上記二次電池電極用バインダー、電極活物質、および溶媒を含んでなる。
【0066】
リチウムイオン二次電池正極用の電極活物質(正極活物質)は、リチウムイオンの吸蔵放出可能な活物質が用いられ、無機化合物からなるものと有機化合物からなるものとに大別される。
【0067】
無機化合物からなる正極活物質としては、遷移金属酸化物、遷移金属硫化物、リチウムと遷移金属とのリチウム含有複合金属酸化物などが挙げられる。上記の遷移金属としては、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo等が使用される。
遷移金属酸化物としては、MnO、MnO、V、V13、TiO、Cu、非晶質VO−P、MoO、V、V13等が挙げられ、中でもサイクル安定性と容量からMnO、V、V13、TiOが好ましい。
【0068】
遷移金属硫化物としては、TiS、TiS、非晶質MoS、FeS等が挙げられる。
【0069】
リチウム含有複合金属酸化物としては、層状構造を有するリチウム含有複合金属酸化物、スピネル構造を有するリチウム含有複合金属酸化物、オリビン型構造を有するリチウム含有複合金属酸化物などが挙げられる。
【0070】
層状構造を有するリチウム含有複合金属酸化物としてはリチウム含有コバルト酸化物(LiCoO)、リチウム含有ニッケル酸化物(LiNiO)、Co−Ni−Mnのリチウム複合酸化物、Ni−Mn−Alのリチウム複合酸化物、Ni−Co−Alのリチウム複合酸化物等が挙げられる。
【0071】
スピネル構造を有するリチウム含有複合金属酸化物としてはマンガン酸リチウム(LiMn)やMnの一部を他の遷移金属で置換したLi[Mn3/21/2]O(ここでMは、Cr、Fe、Co、Ni、Cu等)等が挙げられる。
【0072】
オリビン型構造を有するリチウム含有複合金属酸化物としてはLiXMPO(式中、Mは、Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Mg,Zn,V,Ca,Sr,Ba,Ti,Al,Si,B及びMoから選ばれる少なくとも1種、0≦X≦2)であらわされるオリビン型燐酸リチウム化合物が挙げられる。
【0073】
上記活物質の中でも、リチウム含有ニッケル酸化物(LiNiO)、Co−Ni−Mnのリチウム複合酸化物、Ni−Mn−Alのリチウム複合酸化物、Ni−Co−Alのリチウム複合酸化物等のニッケル含有の活物質を用いることが好ましい。前記ニッケル含有の活物質は、本バインダーとの結着性に特に優れ、高いレート特性が得られる。
【0074】
有機化合物からなる正極活物質としては、例えば、ポリアニリン、ポリピロール、ポリアセン、ジスルフィド系化合物、ポリスルフィド系化合物、N−フルオロピリジニウム塩などが挙げられる。正極活物質は、上記の無機化合物と有機化合物の混合物であってもよい。本発明で用いる正極活物質の粒子径は、電池の他の構成要件との兼ね合いで適宜選択されるが、負荷特性、サイクル特性などの電池特性の向上の観点から、50%体積累積径が、通常0.1〜50μm、好ましくは1〜20μmである。50%体積累積径がこの範囲であると、充放電容量が大きい二次電池を得ることができ、かつ電極用スラリーおよび電極を製造する際の取扱いが容易である。50%体積累積径は、レーザー回折で粒度分布を測定することにより求めることができる。
【0075】
負極用の電極活物質(負極活物質)としては、グラファイトやコークス等の炭素の同素体が挙げられる。前記炭素の同素体からなる活物質は、金属、金属塩、酸化物などとの混合体や被覆体の形態で利用することもできる。また、負極活物質としては、ケイ素、錫、亜鉛、マンガン、鉄、ニッケル等の酸化物や硫酸塩、金属リチウム、Li−Al、Li−Bi−Cd、Li−Sn−Cd等のリチウム合金、リチウム遷移金属窒化物、シリコン等を使用できる。負極活物質の粒径は、電池の他の構成要件との兼ね合いで適宜選択されるが、初期効率、負荷特性、サイクル特性などの電池特性の向上の観点から、50%体積累積径が、通常1〜50μm、好ましくは15〜30μmである。
【0076】
電極活物質と上記バインダーの量の割合は、電極活物質100重量部に対し、バインダーが、通常0.1〜30重量部、好ましくは0.2〜20重量部、より好ましくは0.5〜10重量部である。バインダーの量がこの範囲であると、得られる電極は集電体と電極活物質層と、および活物質層内部での結着力に優れ、かつ、内部抵抗が小さくサイクル特性の優れる電池を得ることができる。
【0077】
本発明の二次電池電極用スラリーは、電極活物質および上記バインダーの他に、必要に応じ、増粘剤、導電材、補強材、分散剤、レベリング剤、電解液添加剤などの各種の機能を発現する添加剤を含有させることができる。
【0078】
増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース系ポリマーおよびこれらのアンモニウム塩並びにアルカリ金属塩;(変性)ポリ(メタ)アクリル酸およびこれらのアンモニウム塩並びにアルカリ金属塩;(変性)ポリビニルアルコール、アクリル酸又はアクリル酸塩とビニルアルコールの共重合体、無水マレイン酸又はマレイン酸もしくはフマル酸とビニルアルコールの共重合体などのポリビニルアルコール類;ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、変性ポリアクリル酸、酸化スターチ、リン酸スターチ、カゼイン、各種変性デンプンなどが挙げられ、好ましくはカルボキシメチルセルロースのアンモニウム塩並びにアルカリ金属塩が用いられる。これは上記増粘剤がスラリー作製時に活物質の表面を均一に覆いやすいため、活物質間の接着を向上させる効果があるためである。増粘剤としては、上記以外に、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体水素化物も用いることができる。
【0079】
増粘剤の配合量は、電極活物質100重量部に対して、0.5〜2.0重量部が好ましい。増粘剤の配合量がこの範囲であると、塗工性、集電体との密着性が良好である。
【0080】
導電材としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンブラック、グラファイト、気相成長カーボン繊維、およびカーボンナノチューブ等の導電性カーボンを使用することができる。導電材を用いることにより、活物質同士の電気的接触を向上させることができ、二次電池に用いる場合に放電レート特性を改善することができる。導電材の配合量は、電極活物質100重量部に対して通常0〜20重量部、好ましくは1〜10重量部である。
【0081】
補強材としては、各種の無機および有機の球状、板状、棒状または繊維状のフィラーが使用できる。補強材を用いることにより強靭で柔軟な負極を得ることができ、優れた長期サイクル特性を示すことができる。補強剤の配合量は、電極活物質100重量部に対して通常0.01〜20重量部、好ましくは1〜10重量部である。前記範囲に含まれることにより、高い容量と高い負荷特性を示すことができる。
【0082】
分散剤としてはアニオン性化合物、カチオン性化合物、非イオン性化合物、高分子化合物が例示される。分散剤は用いる電極活物質や導電剤に応じて選択される。電極用スラリー中の分散剤の含有割合は、電極活物質の総量100重量部に対して0.01〜10重量部であることが好ましい。分散剤量が上記範囲であることによりスラリーの安定性に優れ、平滑な負極を得ることができ、高い電池容量を示すことができる。
【0083】
レベリング剤としては、アルキル系界面活性剤、シリコン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、金属系界面活性剤などの界面活性剤が挙げられる。前記レベリング剤を混合することにより、塗工時に発生するはじきを防止したり、電極の平滑性を向上させることができる。電極用スラリー中のレベリング剤の含有割合は、電極活物質の総量100重量部に対して、好ましくは0.01〜10重量部である。レベリング剤が上記範囲であることにより電極作製時の生産性、平滑性及び電池特性に優れる。
【0084】
電解液添加剤としては、電極用スラリー中及び電解液中に使用されるビニレンカーボネートなどを用いることができる。電極用スラリー中の電解液添加剤の含有割合は、電極活物質100重量部に対して、好ましくは0.01〜10重量部である。電解液添加剤が、上記範囲であることによりサイクル特性及び高温特性に優れる。その他には、フュームドシリカやフュームドアルミナなどのナノ微粒子が挙げられる。前記ナノ微粒子を混合することにより電極用スラリーのチキソ性をコントロールすることができ、さらにそれにより得られる電極のレベリング性を向上させることができる。電極用スラリー中のナノ微粒子及の含有割合は、電極活物質100重量部に対して、好ましくは0.01〜10重量部である。ナノ微粒子が上記範囲であることによりスラリー安定性、生産性に優れ、高い電池特性を示す。
【0085】
さらに、本発明の二次電池電極用スラリーには、電池の安定性や寿命を高めるため、トリフルオロプロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、カテコールカーボネート、1,6−ジオキサスピロ[4,4]ノナン−2,7−ジオン、12−クラウン−4−エーテル等が使用できる。また、これらは後述する電解液に含有せしめて用いてもよい。
【0086】
二次電池電極用スラリーにおける有機溶媒の量は、電極活物質やバインダーなどの種類に応じ、塗工に好適な粘度になるように調整して用いる。具体的には、電極活物質、バインダーおよび他の添加剤を合わせた固形分の濃度が、好ましくは30〜90重量%、より好ましくは40〜80重量%となる量に調整して用いられる。
【0087】
電極用スラリーは、二次電池電極用バインダー、電極活物質、必要に応じ添加される添加剤、およびその他の有機溶媒を、混合機を用いて混合して得られる。混合は、上記の各成分を一括して混合機に供給し、混合してもよいが、導電材および増粘剤を有機溶媒中で混合して導電材を微粒子状に分散させ、次いで二次電池電極用バインダー、電極活物質を添加して、さらに混合することがスラリーの分散性が向上するので好ましい。混合機としては、ボールミル、サンドミル、顔料分散機、擂潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、ホバートミキサーなどを用いることができるが、ボールミルを用いると導電材、電極活物質の凝集を抑制できるので好ましい。
【0088】
本発明の二次電池電極用スラリーの粒度は、好ましくは35μm以下であり、さらに好ましくは25μm以下である。スラリーの粒度が上記範囲にあると、導電材の分散性が高く、均質な電極が得られる。
【0089】
3.二次電池電極
本発明の二次電池電極は、金属箔などの集電体に本発明の二次電池電極用スラリーを付着させたものである。かかる二次電池電極の製造法としては、例えば、上記のスラリーを集電体に塗布し、乾燥する方法などがあげられる。電極には、電極活物質が集電体表面に形成されたバインダー中に分散して固定される。
【0090】
集電体は、導電性を有するものであれば限定されないが、通常、アルミ箔や銅箔などの金属箔が使用される。金属箔の厚さは特に限定されないが、通常1〜50μm好ましくは1〜30μmである。集電体の厚さが薄過ぎる場合は、機械的強度が弱くなり、破断、皺よりが発生しやすいといった生産上の問題を生じる場合があり、厚過ぎる場合は、電池全体としての容量が低下する傾向となる。集電体は、電極活物質層との接着強度を高めるため、その表面が粗面化処理されたものが好ましい。粗面化方法としては、機械的研磨法、電解研磨法、化学研磨法などが挙げられる。機械的研磨法においては、研磨剤粒子を固着した研磨布紙、砥石、エメリバフ、鋼線などを備えたワイヤーブラシ等が使用される。また、電極活物質層との接着強度や導電性を高めるために、集電体表面に中間層を形成してもよい。
【0091】
スラリーの集電体への塗布方法は特に制限されない。例えば、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、ハケ塗りなどによって塗布される。塗布する量も特に制限されないが、有機溶媒を除去した後に形成される電極活物質層の厚さが通常0.005〜5mm、好ましくは0.01〜2mmになる程度の量である。乾燥方法も特に制限されず、例えば温風、熱風、低湿風による乾燥、真空乾燥、(遠)赤外線や電子線などの照射による乾燥が挙げられる。乾燥条件は、通常は応力集中が起こって電極活物質層に亀裂が入ったり、電極活物質層が集電体から剥離しない程度の速度範囲の中で、できるだけ早く液状媒体が揮発するように調整する。
【0092】
更に、乾燥後の集電体をプレスすることにより電極を安定させてもよい。プレス方法は、金型プレスやカレンダープレスなどの方法が挙げられる。
【0093】
本発明の二次電池電極は、高い密度であることが好ましい。高い密度であるほど本発明の効果が高く得られる。電極の密度は、用いる活物質材料とその混合比によって決まるが、例えば正極活物質であるLiCoOを用いて、その混合比が90重量%以上である場合においては、3.7g/cc以上の密度であることが好ましい。電極密度が高くなるほどレート特性は悪化する傾向にあるが、本発明のバインダーを用いることにより高いレート特性を維持することができる。
【0094】
4.二次電池
本発明の二次電池は、上記の本発明の二次電池電極を有する二次電池である。より詳細には、上記の二次電池電極および電解液と、従来公知のセパレータおよび電池容器等の部品とを組み合わせて得られる。具体的な製造方法としては、例えば、正極と負極とをセパレータを介して重ね合わせ、これを電池形状に応じて巻く、折るなどして電池容器に入れ、電池容器に電解液を注入して封口する方法が挙げられる。また必要に応じてエキスパンドメタルや、ヒューズ、PTC素子などの過電流防止素子、リード板などを入れ、電池内部の圧力上昇、過充放電の防止をする事もできる。電池の形状は、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型など何れであってもよい。
【0095】
電解液としては、有機溶媒に支持電解質を溶解した有機電解液が用いられる。支持電解質としては、リチウム塩が用いられる。リチウム塩としては、特に制限はないが、LiPF、LiAsF、LiBF、LiSbF、LiAlCl、LiClO、CFSOLi、CSOLi、CFCOOLi、(CFCO)NLi、(CFSONLi、(CSO)NLiなどが挙げられる。中でも、溶媒に溶けやすく高い解離度を示すLiPF、LiClO、CFSOLiが好ましい。これらは、二種以上を併用してもよい。解離度の高い支持電解質を用いるほどリチウムイオン伝導度が高くなるので、支持電解質の種類によりリチウムイオン伝導度を調節することができる。
【0096】
電解液に使用する有機溶媒としては、支持電解質を溶解できるものであれば特に限定されないが、ジメチルカーボネート(DMC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、メチルエチルカーボネート(MEC)などのカーボネート類;γ−ブチロラクトン、ギ酸メチルなどのエステル類;1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフランなどのエーテル類;スルホラン、ジメチルスルホキシドなどの含硫黄化合物類;が好適に用いられる。またこれらの溶媒の混合液を用いてもよい。中でも、誘電率が高く、安定な電位領域が広いのでカーボネート類が好ましい。用いる溶媒の粘度が低いほどリチウムイオン伝導度が高くなるので、溶媒の種類によりリチウムイオン伝導度を調節することができる。
【0097】
電解液中における支持電解質の濃度は、通常1〜30重量%、好ましくは5重量%〜20重量%である。また、支持電解質の種類に応じて、通常0.5〜2.5モル/Lの濃度で用いられる。支持電解質の濃度が低すぎても高すぎてもイオン導電度は低下する傾向にある。用いる電解液の濃度が低いほど重合体粒子の膨潤度が大きくなるので、電解液の濃度によりリチウムイオン伝導度を調節することができる。
【0098】
(実施例)
以下に、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。尚、本実施例における部および%は、特記しない限り重量基準である。
実施例及び比較例中の評価は以下の条件にて行った。
【0099】
<バインダー特性:相溶性の評価>
得られた重合体のNMP溶液のヘイズ値をデジタルヘイズ計にて測定した。
また、得られた重合体のNMP溶液を120℃10時間窒素雰囲気下で乾燥し、重合体のポリマーフィルムを作製し、ミクロ相分離状態を透過型電子顕微鏡により観察した。重合体のNMP溶液のヘイズ値が5%以下かつTEM画像のドメインの大きさが200nm以下である場合に、重合体が相溶していると判断した。
【0100】
<スラリー特性:スラリー安定性>
直径1cmの試験管内に、得られた電極用スラリーを高さ5cmまで入れ、5本ずつ試験サンプルとする。前記試験サンプルを机上に垂直に設置する。設置した電極用スラリーの状態を10日間観測し、下記の基準により判定する。2相分離が見られないほどスラリー安定性に優れることを示す。
A:10日後にも2相分離がみられない。
B:6〜10日後に2相分離がみられる。
C:2〜5日後に2相分離がみられる。
D:1日後に2相分離がみられる。
E:3時間以内に2相分離がみられる。
【0101】
<電極特性:柔軟性>
電極を幅1cm×長さ5cmの矩形に切って試験片とする。試験片の集電体側の面を下にして机上に置き、長さ方向の中央(端部から2.5cmの位置)、集電体側の面に直径1mm のステンレス棒を短手方向に横たえて設置する。このステンレス棒を中心にして試験片を電極活物質層が外側になるように180度折り曲げる。径の異なるステンレス棒をそれぞれ用いて、試験片の電極活物質層の折り曲げた部分について、ひび割れまたは剥がれの有無を観察し、下記の基準により判定する。径が小さいステンレス棒への捲きつけにおいて、ひび割れがないほど、電極が柔軟性に優れることを示す。
A:1mmのステンレス棒への捲きつけで割れなし
B:1.5mmのステンレス棒への捲きつけで割れなし
1mmのステンレス棒への捲きつけで割れあり
C:2mmのステンレス棒への捲きつけで割れなし
1.5mmのステンレス棒への捲きつけで割れあり
D:2.5mmのステンレス棒への捲きつけで割れなし
2mmのステンレス棒への捲きつけで割れあり
E:3mm以上のステンレス棒への捲きつけで割れなし
2.5mmのステンレス棒への捲きつけで割れあり
【0102】
<電池特性:サイクル特性>
得られたリチウムイオン二次電池を用いて、それぞれ20℃で0.1Cの定電流で4.3Vまで充電し、0.1Cの定電流で3.0Vまで放電する充放電サイクルを行った。充放電サイクルは100サイクルまで行い、初期放電容量に対する100サイクル目の放電容量の比を容量維持率とし、下記の基準で判定した。この値が大きいほど繰り返し充放電による容量減が少ないことを示す。
A:80%以上
B:75%以上80%未満
C:70%以上75%未満
D:50%以上70%未満
E:50%未満
【0103】
<電池特性:レート特性>
測定条件を、定電流量2.0Cに変更したほかは、前記サイクル特性の測定と同様にして、各定電流量における放電容量を測定した。0.1Cでの電池容量に対する2.0Cでの放電容量の割合を百分率で算出して充放電レート特性とし、下記の基準で判定した。この値が大きいほど、内部抵抗が小さく、高速充放電が可能であることを示す。
A:65%以上
B:60%以上65%未満
C:55%以上60%未満
D:50%以上55%未満
E:40%以上50%未満
F:40%未満
【0104】
(実施例1)
<重合体−1の作製>
攪拌機付きオートクレーブに、アクリロニトリルを70部、ブチルアクリレート27部およびグリシジルメタクリレート3部からなる成分(A)100部と、イオン交換水1200部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム15部及び過硫酸カリウム0.9部を入れ、十分に攪拌した後、60℃に加温して一段目の重合を開始した。重合転化率が70%に到達した時点で、二段目の単量体としてアクリロニトリルを15部、ブチルアクリレート82部、グリシジルメタクリレート3部からなる成分(B)を、前記単量体組成物(A)の等量である100部添加して反応を継続した。二段目の重合転化率が95%以上になった時点で冷却して重合を停止した。ついで、総重量の3倍のN―メチルピロリドン(NMP)を加え、エバポレーターで水分を蒸発させ、固形分が6%の重合体−1のNMP溶液を得た。重合体−1の低温側のガラス転移温度と相溶状態を評価した。結果を表2に示す。
【0105】
<正極用スラリーの作成>
リチウム含有コバルト酸化物系の活物質(品名:セルシードC−10N、日本化学工業)100部に対し、バインダー1.2部(固形分相当)および導電剤としてアセチレンブラック2部を混合し、更にN−メチルピロリドンを固形分濃度が80%になるように混合させてプラネタリーミキサーで混合して正極用スラリーを調製した。
【0106】
<正極の製造>
上記正極用スラリーをコンマコーターで厚さ20μmのアルミ箔上に、乾燥後の膜厚が120μm程度になるように塗布し、60℃で20分間乾燥後、150℃で2時間加熱処理して電極原反を得た。この電極原反をロールプレスで圧延し、密度が3.7g/cm、銅箔および正極活物質層の合計厚みが100μmに制御された正極極板を作製した。作製した正極極板の柔軟性を測定した。その結果を表2に示す。
【0107】
<電池の作製>
得られた正極極板を直径15mmの円形シートに切り抜いた。この正極の正極活物質層面側に直径18mm、厚さ25μmの円形ポリプロピレン製多孔膜からなるセパレーター、負極として用いる金属リチウム、エキスパンドメタルを順に積層し、これをポリプロピレン製パッキンを設置したステンレス鋼製のコイン型外装容器(直径20mm、高さ1.8mm、ステンレス鋼厚さ0.25mm)中に収納した。この容器中に電解液を空気が残らないように注入し、ポリプロピレン製パッキンを介して外装容器に厚さ0.2mmのステンレス鋼のキャップをかぶせて固定し、電池缶を封止して、直径20mm、厚さ約2mmのリチウムイオン二次電池を製造した。作製したリチウムイオン二次電池について、電池特性を評価した。その結果を表2に示す。
【0108】
(実施例2〜7および比較例1)
重合体溶液を調製する際、成分(A)及び成分(B)を構成する単量体、並びにこれらの重量比を表1に記載のように変更した以外は、実施例1と同様の操作を行った。評価結果を表2に示す。
【0109】
(実施例8)
正極用スラリーを作製する際に、正極活物質としてCo−Ni−Mnのリチウム複合酸化物系の活物質(品名:セルシードNMC613、日本化学工業社製)を用いたほかは、実施例1と同様の操作を行った。評価結果を表2に示す。
【0110】
(比較例2)
ポリアクリル酸n−ブチル(ガラス転移点温度が−55℃)50部と、ポリフッ化ビニリデン(ガラス転移点温度が−40℃)50部とをNMPに溶解し、固形分濃度6%の重合体溶液を得た。実施例1において、重合体溶液として重合体−1のかわりにポリアクリル酸n−ブチルとポリフッ化ビニリデンの混合溶液を用いた他は、実施例1と同様の操作を行った。評価結果を表2に示す。
【0111】
【表1】

【0112】
なお、表1中、「AN」はアクリロニトリル、「BA」はアクリル酸n−ブチル、「2EHA」はアクリル酸2−エチルヘキシル、「GMA」はグリシジルメタクリレート、を表す。
【0113】
【表2】

【0114】
本発明によれば、実施例1〜実施例8に示すように、バインダーを構成する(メタ)アクリロニトリルと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体の成分(A)及び成分(B)中に含まれるそれぞれの(メタ)アクリロニトリルの含有量が本願所定の範囲にあると、スラリーの安定性、電極の柔軟性が良好であり、レート特性、サイクル特性等の電池特性に優れた二次電池が得られることが分かる。また、実施例の中でも、成分(A)中の(メタ)アクリロニトリルの含有量が70〜85重量%にあり、成分(B)中の(メタ)アクリロニトリルの含有量が15〜25重量%の範囲にあり、かつ成分(A)と成分(B)の比率が重量比で40:60〜60:40にあるバインダーを用い、かつ電極活物質としてCo−Ni−Mnのリチウム複合酸化物系を用いた実施例8は、スラリー安定性、電極柔軟性及び電池特性の全てにおいて最も優れている。
【0115】
一方、重合体成分の相溶性に劣るもの(比較例1)、2種のポリマーを混合したもの(比較例2)では、スラリー安定性、電極柔軟性及び電池特性の全てが著しく劣る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリロニトリルと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体からなる二次電池電極用バインダーであって、
前記共重合体が、
(メタ)アクリロニトリル単位の含有量が60重量%以上95重量%以下の成分(A)と、
(メタ)アクリロニトリル単位の含有量が5重量%以上40重量%以下の成分(B)とからなり、
前記成分(A)と成分(B)とが相溶してなる、二次電池電極用バインダー。
【請求項2】
前記共重合体における前記成分(A)と、前記成分(B)との比率が、重量比で20:80〜80:20である請求項1に記載の二次電池電極用バインダー。
【請求項3】
(メタ)アクリロニトリルの含有量が60重量%以上95重量%である単量体組成物(A)と、
(メタ)アクリロニトリルの含有量が5重量%以上40重量%である単量体組成物(B)とを多段重合することを特徴とする請求項1に記載の二次電池電極用バインダーの製造方法。
【請求項4】
前記多段重合が、前記成分(A)を主たる生成物とする重合工程と、前記成分(B)を主たる生成物とする重合工程とを含むものである請求項3に記載の二次電池電極用バインダーの製造方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の二次電池電極用バインダー、電極活物質、および溶媒を有する二次電池電極用スラリー。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の二次電池電極用バインダー及び電極活物質とからなる電極活物質層が、集電体に積層されてなる二次電池電極。
【請求項7】
正極、電解液、セパレーター及び負極を有する二次電池であって、
前記正極又は負極が、請求項6記載の二次電池電極である二次電池。

【公開番号】特開2011−76916(P2011−76916A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−228326(P2009−228326)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】