説明

二段階乳化によるリポソーム製造方法

【課題】ナノサイズの粒径を有し、比較的高い内包率を維持しながら単層(単胞)のものを多く含むリポソームが効率的に得られ、多胞リポソームのほとんど無い、特に水溶性薬剤に適したリポソームの製造方法を提供する。
【解決手段】W1/Oエマルションを調製する一次乳化工程;当該W1/Oエマルションと水性溶媒(W2)とを、0.1μm以上5.0μm以下の細孔径を有する膜を用いて乳化し、W1/O/W2エマルションを調製する二次乳化工程;および当該W1/O/W2エマルションに含まれる有機溶媒を除去することによりリポソームの懸濁液を調製する工程;を有することを特徴とするリポソームの製造方法。上記膜としてはSPG膜が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品、化粧品、食品などの分野で用いられるリポソームの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リポソームは、単層または複数層の脂質二重膜からなる閉鎖小胞体であり、内水相および脂質二重膜内部にそれぞれ水溶性および疎水性の薬剤類を保持できることが知られている。また、リポソームの脂質二重膜は生体膜に類似しているため生体内での安全性が高いことなどから、たとえばDDS(ドラック・デリバリー・システム)用の医薬品などの、各種用途が注目され、研究開発が進められている。
【0003】
これまでにリポソームの製造方法は数多く提案されてきたが、医薬品として承認されうるリポソームを製造できる、コスト的・工業的に優れた汎用的な技術は少ない。水溶性薬剤はリポソームの内水相に含ませることができるが、一般的には良いとされるリポソーム製造方法でも内包率(最終的に得られたリポソーム懸濁液(リポソームおよび外水相)に含まれる薬剤類の総質量に対する、リポソームに内包された薬物類の質量の割合)は20%程度であり、多くの場合、内包されない薬剤はロスとなる。これよりも内包率の高くなるリポソーム製造方法など、たとえば逆相蒸発法、は再現性が悪く、工業的に適さない。また、近年では核酸医薬など注目されているが、単体では生体内で不安定なため、これらを安定化させるキャリアが望まれている。このため、水溶性薬剤を効率的に内包させることができ、かつナノサイズ(好ましくは静脈注射に適する200nm以下)の平均粒径を有するリポソームを製造できる方法が望まれている。
【0004】
なお、日本国内では「ビジュダイン(VISUDYNE)」(登録商標)、「アムビゾーム(AmBisome)」(登録商標)および「ドキシル(DOXIL)」(登録商標)の3種類のリポソーム製剤が市販されている。しかしながら、ビジュダインおよびアムビゾームは、リポソームに内包させやすい疎水性の薬剤を内包するものである。また、ドキシルは、リポソーム形成後に外水相に薬剤を添加し、内外濃度差を利用して薬剤をリポソームに内包するリモートローディング法と呼ばれる方法により、80%以上の高い内包率を達成している。しかし、この方法は、初期は水溶性であるが内水相内で塩を形成することができ、かつリポソームの脂質膜を通過することのできる特殊な低分子水溶性薬剤でなければ用いることはできない。
【0005】
リポソームの粒径を小さくするための工程として、従来からエクストルーダによるサイジングが行われているが、この工程により粒径はナノサイズになるものの、リポソームに内包される薬剤の量は大幅に減少してしまう。
【0006】
非特許文献1では、2段階で乳化したW/O/Wエマルションを液中乾燥し、リポソームを形成するマイクロカプセル化法が提案されている。この方法は他の方法と比較して効率的に薬剤類を内包できるが、得られるリポソームのサイズは大きく、また非特許文献2では水溶性の高い(logPの低い)薬剤類の内包率はあまり向上しないことが報告されている。
【0007】
特許文献1には、2段階の乳化工程を含むリポソーム製剤の製造方法において、リポソームの脂質成分として炭素数がより大きな脂質を用いることにより、薬剤類の内包率を向上させることができることが記載されている。しかしながら、この方法により得られるリポソームはほとんどが多胞リポソーム(多数の非同心の水性小室を内包するもの)で、かつ平均粒径もマイクロメートルサイズであることから、この方法により均一なナノサイズの単層のリポソーム(単胞リポソーム)を得ることは困難である。
【0008】
特許文献2には、W/Oエマルションを多孔質ガラス膜に透過させてW/O/Wエマルションを製造する方法であって、水性乳化剤として所定のエステル化合物を用いることにより内水相内の有用物質の漏洩を抑制する方法が記載されている。しかしながらこの文献には、上記の方法をリポソーム製造に使用することについては何ら具体的に記載されていない。
【0009】
特許文献3には、形成したW/O/Wエマルションからリポソームを製造する方法であって、溶媒をエマルション中から除去しクロスフローろ過にかける方法が記載されている。しかしながら、この方法によって得られるリポソームは多胞リポソームであり、均一なナノサイズの単層のリポソーム(単胞リポソーム)を得ることは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特表2001−505549号公報
【特許文献2】特開2003−164754号公報
【特許文献3】特表2001−522870号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】J Dispers Sci Technol, 9(1), 1-15 (1988)
【非特許文献2】Int J Pharm, 298, 198-205 (2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、ナノサイズの粒径を有し、比較的高い内包率を維持しながら単層のものを多く含むリポソーム(単胞リポソーム)が効率的に得られ、多胞リポソームのほとんど無い、特に水溶性薬剤に適したリポソームの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は鋭意検討した結果、2段階でW/O/Wエマルションを調製する際の二次乳化工程において、0.1μm以上5.0μm以下の細孔径を有する膜を用いた膜乳化を行うことにより、意外にも上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
すなわち、本発明のリポソームの製造方法は、下記工程(1)〜(3)を有することを特徴とする;
(1)一次乳化工程:有機溶媒(O)、水性溶媒(W1)、および混合脂質成分(F1)を乳化することにより、W1/Oエマルションを調製する工程;
(2)二次乳化工程:上記工程(1)により得られたW1/Oエマルションと水性溶媒(W2)とを、0.1μm以上5.0μm以下の細孔径を有する膜を用いて乳化し、W1/O/W2エマルションを調製する工程;
(3)上記工程(2)により得られたW1/O/W2エマルションに含まれる有機溶媒を除去することにより、リポソームの懸濁液を調製する工程;
ただし、上記一次乳化工程は、さらにリポソームに内包させる物質を添加した上で行ってもよい。
【0015】
前記工程(2)の乳化方法としては、W1/Oエマルションを、0.1μm以上5.0μm以下の細孔径を有する膜を通過させ、水性溶媒(W2)中に液滴として分散させることにより、W1/O/W2エマルションを調製する乳化方法が好ましい。また、前記工程(2)において、W1/Oエマルションを膜乳化して得られたW1/O/W2エマルションを、0.1μm以上5.0μm以下の細孔径を有する膜を通過させる膜処理工程をさらに有することにより、最終的なW1/O/W2エマルションを調製することも好ましい。前記工程(2)の0.1μm以上5.0μm以下の細孔径を有する膜としては、SPG膜を用いることが好ましい。前記リポソームに内包させる物質として医療用の薬剤類を用い、かつ得られるリポソームの平均粒径を50nm以上200nm以下とすることが好ましい。前記工程(2)では、水性溶媒(W2)およびW1/Oエマルション以外にさらに、リポソーム脂質膜を破壊しない水溶性乳化剤または混合脂質成分(F2)の少なくともどちらか一方を用いることが好ましい。
【0016】
なお、本発明における「平均粒径」とは体積平均粒子径を指す。また、W1/Oエマルションやリポソームの体積平均粒子径は、後述する実施例に示したように、それらの溶液をクロロホルム/ヘキサン混合溶媒(体積比:4/6)で10倍に希釈し、動的光散乱式ナノトラック粒度分析計(UPA−EX150、日機装株式会社)を用いて算出される値である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の製造方法によれば、医薬品用としても好適なナノサイズの平均粒径を有し高い内包率を維持したリポソームを効率的に製造できるようになる。しかも、得られるリポソーム中には単層(単胞)のものが多く、多胞リポソームとして残るものの割合が従来よりも著しく減少している。特に二次乳化工程においてSPG膜を用いることにより、コストが安く処理量が多い、工業的に有利な方法とすることができる。また、一次乳化工程をさらにリポソームに内包させる物質(特に水溶性の薬剤類)を添加した上で行った場合には、リポソームに上記のような性状を賦与しつつ従来と同等以上の比較的高い内包率で注射等の医薬品用に適用可能なリポソームを達成することができる。このような本発明のリポソームの製造方法を利用することにより、各種の用途に好適なリポソームの生産性を著しく改善することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
− 製造原料 −
・混合脂質成分(F1)・(F2)
一次乳化工程で用いる混合脂質成分(F1)は主としてリポソームの脂質二重膜の内膜を構成し、場合によっては外膜の構成にも寄与する。混合脂質成分(F2)は主としてリポソームの外膜を構成する。混合脂質成分(F1)および(F2)は、同一の組成であっても、異なる組成であってもよい。
【0019】
これらの混合脂質成分の配合組成は特に限定されるものではないが、一般的には、リン脂質(動植物由来のレシチン;ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジン酸またはそれらの脂肪酸エステルであるグリセロリン脂質;スフィンゴリン脂質;これらの誘導体等)と、脂質膜の安定化に寄与するステロール類(コレステロール、フィトステロール、エルゴステロール、これらの誘導体等)とを中心に構成され、さらに糖脂質、グリコール、脂肪族アミン、長鎖脂肪酸(オレイン酸、ステアリン酸、パルミチン酸等)、その他各種の機能性を賦与する化合物が配合されていてもよい。特にF2には、PEG化リン脂質などDDSとしての機能性の付与に必要な脂質成分を含むことで、リポソーム表面に効率的な修飾が可能となる。混合脂質成分の配合比も、脂質膜の安定性やリポソームの生体内での挙動などの性状を考慮しながら、用途に応じて適切に調整すればよい。
【0020】
・水性溶媒(W1)・(W2)、有機溶媒(O)
水性溶媒(W1)および(W2)ならびに有機溶媒(O)は公知の一般的なものを用いることができる。水性溶媒としては、純水や、浸透圧調整やpH調整に適した塩類や糖類、その他の化合物を添加したものが挙げられる。また、リポソームの用途に合わせて、W1にはゼラチンなどのゲル化剤、デキストランなどの増粘多糖類、キチン/キトサンやポリ−L−リジンなどの荷電性高分子といった物質を封入してもよい。有機溶媒としては、たとえばヘキサン(n−ヘキサン)やクロロホルム、塩化メチレンなどの水と混和しにくいものが挙げられ、これらを単独で使用しても混合して使用してもよい。また、水よりも沸点の低い有機溶媒を使用することが好ましい。
【0021】
・内包させる物質
本発明において、リポソームに内包させる物質(薬剤類と総称する)は特に限定されるものではなく、リポソームの用途に応じて医薬品、化粧品、食品などの分野で知られている各種の物質を用いることができる。
【0022】
薬剤類のうち医療用の水溶性のものとしては、たとえば、造影剤(X線造影用の非イオン性ヨード化合物、MRI造影用のガドリニウムとキレート化剤とからなる錯体等)、抗がん剤(アドリアマイシン、ビラルビシン、ビンクリスチン、タキソール、シスプラチン、マイトマイシン、5−フルオロウラシル、イリノテカン、エストラサイト、エピルビシン、カルボプラチン、イントロン、ジェムザール、メソトレキセート、シタラビン等)、抗菌剤、抗酸化性剤、抗炎症剤、血行促進剤、美白剤、肌荒れ防止剤、老化防止剤、発毛促進性剤、保湿剤、ホルモン剤、ビタミン類、核酸(DNAもしくはRNAのセンス鎖もしくはアンチセンス鎖、プラスミド、ベクター、mRNA、siRNA等)、タンパク質(酵素、抗体、ペプチド等)、ワクチン製剤(破傷風などのトキソイドを抗原とするもの;ジフテリア、日本脳炎、ポリオ、風疹、おたふくかぜ、肝炎などのウイルスを抗原とするもの;DNAまたはRNAワクチン等)などの薬理的作用を有する物質や、色素・蛍光色素、キレート化剤、安定化剤、保存剤などの製薬助剤が挙げられる。
【0023】
− リポソームの製造方法 −
本発明のリポソームの製造方法は、下記工程(1)〜(3)を有し、必要に応じてその他の工程を適宜組み合わせることができるものである。
【0024】
(1)一次乳化工程
一次乳化工程は、有機溶媒(O)、水性溶媒(W1)、および混合脂質成分(F1)を乳化することにより、W1/Oエマルションを調製する工程である。
【0025】
W1/Oエマルションを調製するための方法は特に限定されるものではなく、超音波乳化機、撹拌乳化機、膜乳化機、高圧ホモジナイザーなどの装置を用いて行うことができる。特に手段は限定されないが、平均粒径を広い範囲で制御でき、かつ得られるW1/Oエマルションが単分散性である方法が好ましい。
【0026】
水性溶媒(W1)のpHは3〜10の範囲に選択され、pHの調整には適切な緩衝液を用いればよい。たとえば、混合脂質成分にオレイン酸を用いる場合、pHは6〜8.5とすることが好ましい。
【0027】
一次乳化工程における、有機溶媒(O)に添加する混合脂質成分(F1)の割合、有機溶媒(O)と水性溶媒(W1)の体積比、その他の操作条件は、続く二次乳化工程の条件や最終的に調製するリポソームの態様などを考慮しながら、採用する乳化方法に応じて適宜調整することができる。通常、混合脂質成分(F1)の割合は有機溶媒(O)に対して1〜50質量%であり、有機溶媒(O)と水性溶媒(W1)の体積比は100:1〜1:2である。W1/Oエマルションの平均粒径は、二次乳化工程で用いる膜の細孔径の少なくとも1/2以下のサイズであることが必要であるため、この上限を超えない範囲内で50〜1,000nmが好ましく、50〜200nmであることがより好ましい。
【0028】
本発明では、リポソームに水溶性薬剤類を内包させるために、(i)一次乳化工程の水性溶媒(W1)に水溶性薬剤類をあらかじめ溶解させておき、二次乳化工程終了時点でそれを内包するリポソームが得られるようにする方法、(ii)水溶性薬剤類を内包しない(空の)リポソームを得た後に、そのリポソームが分散している水性溶媒またはそのリポソームの凍結乾燥物を再分散させた水性溶媒に水溶性薬剤類を添加し、撹拌するなどして、リポソームにそれを取り込ませる方法、いずれを用いることもできる。本発明の製造方法では、上記(i)の方法を用いた場合であっても内包率が比較的高く、効率的にリポソームに水溶性薬剤類を内包させることができる。なお、非水溶性薬剤類についても、上記(i)のように一次乳化工程の時点で水性溶媒(W1)あるいは有機溶媒(O)にあらかじめ添加しておくか、上記(ii)のように空のリポソームを得た後に添加することにより、リポソームに内包させることができる。
【0029】
(2)二次乳化工程
二次乳化工程は、上記工程(1)により得られたW1/Oエマルションを、細孔径0.1μm以上5.0μm以下、好ましくは0.1μm以上3.0μm以下を有する膜を用いる膜乳化法により、水性溶媒(W2)中に液滴として分散したW1/O/W2エマルションを調製する工程である。
【0030】
上記のような細孔径を有する多孔質膜としては、SPG(Shirasu Porous Glass:シラス多孔質ガラス)膜が好適であり、たとえばSPGテクノ株式会社から購入することができる。
【0031】
この二次乳化工程では、たとえば、W1/Oエマルションを、0.1μm以上5.0μm以下の細孔径を有する膜を通過させ、水性溶媒(W2)中に液滴として分散させることにより、W1/O/W2エマルションを調製することができる。また、上記方法や他の方法による膜乳化でW1/O/W2エマルションを得た後、得られたW1/O/W2エマルションを更に0.1μm以上5.0μm以下の細孔径を有する膜に通過させる膜処理をすることにより、最終的なW1/O/W2エマルションを調製することもできる。この膜処理は1回だけでなく、複数回行うようにしてもよい。また、膜乳化に用いる膜と膜処理に用いる膜とは同じであっても異なるものであってもよく、膜の細孔径も同じであっても異なっていてもよい。膜処理を行うことによりW1/O/W2エマルションの平均粒径の単分散性を向上することができる(粒径分布の広がりを狭くすることに寄与できる)。
【0032】
特に、膜処理に用いる膜の細孔径を膜乳化に用いる膜の細孔径よりも小さくすることにより、膜処理を行うことなく1回の膜乳化でW1/O/W2エマルションを調製する場合に較べて膜への負荷を軽減できる上でより好ましい。エマルションを膜に通過させるために必要な圧力を小さくすることができ、膜の長寿命化に貢献できる上に二次乳化工程に要する処理時間を短縮できるため、リポソームの生産性の向上及び低コスト化にも有利である。
【0033】
二次乳化工程では、水性溶媒(W2)およびW1/Oエマルション以外にさらに、混合脂質成分(F1)からなるリポソーム脂質膜を破壊しない水溶性乳化剤、または混合脂質成分(F2)、あるいはその双方を用いてもよい。特にリポソーム脂質膜を破壊しない水溶性乳化剤を用いることが多胞リポソームを減少できる上で好ましい。界面化学の分野では多くの乳化剤が知られており、代表的には、タンパク質、多糖類および非イオン性界面活性剤などが、水溶性乳化剤として乳化・分散プロセスに用いられている。これら公知の水溶性乳化剤のうちリポソーム脂質膜を破壊しない水溶性乳化剤を適宜選択して用いることができる。このようなリポソーム脂質膜を破壊しない水溶性乳化剤には、タンパク質としてはカゼインナトリウム、多糖類としてはデキストラン、非イオン性界面活性剤としてはポリアルキレングリコール誘導体が例示できる。特に、混合脂質成分(F1)にホスファチジルコリンを配合する場合、カゼインナトリウムのようなタンパク質乳化剤はそのようなリポソーム脂質膜を破壊しない水溶性乳化剤として好ましい。
【0034】
上記水性溶媒(W2)、W1/Oエマルション、水溶性乳化剤および/または混合脂質成分(F2)の混合態様(添加順序等)は特に限定されるものではなく、適切な態様を選択すればよい。たとえばF2が主として水溶性脂質からなる場合、あらかじめそのようなF2および/または水溶性乳化剤をW2に添加しておき、それにW1/Oエマルションを添加して乳化処理を行うことができる。一方、F2が主として脂溶性脂質からなる場合、あらかじめ(W1/Oエマルション調製後)そのようなF2をW1/Oエマルションの油相に添加しておき、それを、必要に応じて水溶性乳化剤が添加されているW2に添加して乳化処理を行うことができる。
【0035】
二次乳化工程における、水性溶媒(W2)に添加する水溶性乳化剤および混合脂質成分(F2)、ないしW1/Oエマルションの有機溶媒(O)に添加する混合脂質成分(F2)の合計の割合、W1/Oエマルションと水性溶媒(W2)の体積比、その他の操作条件は、最終的に調製するリポソームの用途などを考慮しながら適宜調節することができる。通常、水性溶媒(W2)ないし有機溶媒(O)に添加する成分の合計の割合はそれらに対して0.01〜10質量%であり、W1/Oエマルションと水性溶媒(W2)の体積比は1:100〜2:1である。
【0036】
(3)溶媒除去工程
溶媒除去工程は、前記二次乳化工程により得られたW1/O/W2エマルションに含まれる有機溶媒(O)を除去することにより、脂質二重膜を有するリポソームの懸濁液を調製する工程である。
【0037】
W1/O/W2エマルションからの溶媒除去の方法は、定法に従い加温や減圧によってW1/O/W2エマルションの溶媒を溜去できるが、これに限定されない。用いる溶媒種に影響されるが、溶媒が突沸することのない条件範囲が設定され、温度条件は0〜60℃の範囲が好ましく、0〜25℃がより好ましい。また、減圧条件は溶媒の飽和蒸気圧〜大気圧の範囲内に設定されることが好ましく、溶媒の飽和蒸気圧の+1%〜10%の範囲内に設定されることがより好ましい。異なる溶媒を混合して用いる場合、より飽和蒸気圧の高い溶媒種に合わせた条件が好ましい。また、これらの除去条件は、溶媒が突沸しない範囲で組み合わせてもよく、例えば、熱に弱い薬剤を使用する際は、より低温側でかつ減圧条件で溶媒を溜去することが好ましい。溶媒除去にはW1/O/W2エマルションの攪拌が無くともよいが、攪拌をしたほうがより均一に溶媒除去が進む。また、気液界面を広くすることで、溶媒除去にかかる時間を短縮することができる。
【0038】
本発明の製造方法により最終的に得られるリポソームには、多胞リポソームがほとんど含まれることなく、その平均粒径を50〜1,000nmの間で制御することができる。特に平均粒径が50〜200nmのリポソームは、毛細血管を閉塞するおそれがほとんどなく、またがん組織近辺の血管にできる間隙を通過することもできるため、医薬品等として人体に投与されて使用する上で好都合である。
【実施例】
【0039】
(カルセイン内包率の測定方法)
リポソーム水溶液(1mL)全体の蛍光強度(Ftotal)を分光光度計(U−3310、日本分光株式会社)により測定した。次に0.01M,CoCl2トリス塩酸緩衝液30μLを加えて水性溶媒(W2)に漏出したカルセインの蛍光をCo2+により消光することで、ベシクル内の蛍光強度(Fin)を測定した。さらに、カルセインを加えないでサンプルと同じ条件でベシクルを作製し、脂質自身が発する蛍光(Fl)を測定した。内包率は下記式より算出した;
内包率E(%) = (Fin−Fl)/(Ftotal−Fl)×100。
【0040】
(シタラビンの内包率の測定方法)
超遠心装置で固形分(リポソーム)を分離(デカント)し、上澄と固形分をそれぞれHPLCで定量した。HPLCカラムとしてVarian Polaris C18-A (3μm, 2x40 mm)を用いてアッセイされた。内包されていない当該化合物と内包されている当該化合物の絶対値から、シタラビンの内包率を算出した。
【0041】
(体積平均粒径の測定方法)
リポソーム水溶液をクロロホルム/ヘキサン混合溶媒(体積比:4/6)で10倍に希釈し、動的光散乱式ナノトラック粒度分析計(UPA−EX150、日機装株式会社)を用いて体積平均粒径を算出した。
【0042】
(多胞リポソームの観察方法)
くぼみのあるスライドガラスを用いてリポソーム水溶液25μLのプレパラートを作成し、正立顕微鏡(Axio Imager.A1、カールツァイス社製)の明視野条件で観察し、多胞リポソームの個数を測定した。
【0043】
実施例1
(一次乳化工程によるW1/Oエマルションの製造)
ホスファチジルコリン含量が95%である卵黄レシチン「COATSOME NC-50」(日油株式会社製)0.3g、コレステロール(Chol)0.152gおよびオレイン酸(OA)0.108gを含むヘキサン15mLを有機溶媒相(O)とし、カルセイン(0.4mM)を含むトリス−塩酸緩衝液(pH8、50mmol/L)5mLを内水相用の水分散相(W1)とした。50mLのビーカーにこれらの混合液を入れ、直径20mmのプローブをセットした超音波分散装置「UH−600S」(株式会社エスエムテー製)により、25℃にて15分間超音波を照射し、乳化処理を行った。得られたW1/Oエマルションの室温下での平均粒径は247nmであった。
【0044】
(二次乳化工程によるW1/O/W2エマルションの製造)
上記一次乳化工程により得られたW1/Oエマルションを分散相として、SPG乳化法によるW1/O/W2エマルションの製造を行った。SPG膜乳化装置(SPGテクノ社製、商品名「外圧式マイクロキット」)に直径10mm、長さ20mm、細孔径2.0μmの円筒形SPG膜を用い、装置出口側に外水相溶液(W2)である3%のカゼインナトリウムを含むトリス−塩酸緩衝液(pH8、50mmol/L)を満たしておき、装置入口側から上記W1/Oエマルションを供給して、W1/O/W2エマルションを製造した。膜乳化に必要とした圧力は約25kPaであった。
【0045】
(有機溶媒相の除去によるリポソームの製造)
上記二次乳化工程により得られたW1/O/W2エマルションを蓋のない開放ガラス製容器に移し替え、室温下で約24時間攪拌し、ヘキサンを揮発させた。微細なリポソーム粒子の懸濁液が得られ、この粒子内にはカルセインが含まれていることが確認された。得られたリポソームの室温下での平均粒径は233nm、カルセイン内包率は71%であり、多胞リポソームは確認されなかった。
【0046】
実施例2
二次乳化工程で細孔径5.0μmのSPG膜を使用し、膜乳化に必要とした圧力は約10kPaであること以外は、実施例1と同様の操作を行った。微細なリポソーム粒子の懸濁液が得られ、この粒子内にはカルセインが含まれていることが確認された。得られたリポソームの室温下での平均粒径は244nm、カルセイン内包率は70%であり、多胞リポソームは3個であった。
【0047】
実施例3
(一次乳化工程によるW1/Oエマルションの製造)
実施例1と同様の脂質組成を含む混合溶媒(ヘキサン:ジクロロメタン=8:2)15mLを有機溶媒相(O)とし、カルセイン(0.4mM)を含むトリス−塩酸緩衝液(pH7.4、50mmol/L)5mLを内水相用の水分散相(W1)とした。50mLのビーカーにこれらの混合液を入れ、実施例1と同様の乳化処理を行った。得られたW1/Oエマルションの室温下での平均粒径は207nmであった。
【0048】
(二次乳化工程によるW1/O/W2エマルションの製造)
上記一次乳化工程により得られたW1/Oエマルションを分散相として、SPG乳化法によるW1/O/W2エマルションの製造を行った。実施例1と同様の膜乳化装置に細孔径1.0μmのSPG膜を用い、装置出口側に外水相溶液(W2)である3%のカゼインナトリウムを含むトリス−塩酸緩衝液(pH7.4、50mmol/L)を満たしておき、装置入口側から上記W1/Oエマルションを供給して、W1/O/W2エマルションを製造した。膜乳化に必要とした圧力は約10kPaであった。
【0049】
(有機溶媒相の除去によるリポソームの製造)
上記二次乳化工程により得られたW1/O/W2エマルションを密閉容器に移し替え、500mbarの減圧室温条件下で約4時間攪拌し、次いで180mbarの減圧室温条件下で約18時間撹拌し、溶媒を揮発させた。微細なリポソーム粒子の懸濁液が得られ、この粒子内にはカルセインが含まれていることが確認された。得られたリポソームの室温下での平均粒径は203nm、カルセイン内包率は49%であり、多胞リポソームは確認されなかった。
【0050】
実施例4
一次乳化工程で、高圧ホモジナイザー(ナノマイザー、吉田機械興業社製)を用いて100MPaの圧力条件で乳化処理を行い、二次乳化工程で、細孔径0.5μmのSPG膜を用いた以外は、実施例3と同様の操作を行った。得られたW1/Oエマルションの室温下での平均粒径は127nmであり、得られたリポソームの室温下での平均粒径は123nm、カルセイン内包率は53%であり、多胞リポソームは1個であった。膜乳化に必要とした圧力は約20kPaであった。
【0051】
実施例5
脂質として、ホスファチジルコリン含量が80%である卵黄レシチン「PL−100M」(キューピー社製)0.3g、コレステロール(Chol)0.152gおよびオレイン酸(OA)0.108gを使用した以外は、実施例3と同様の操作を行った。得られたW1/Oエマルションの室温下での平均粒径は232nmであり、得られたリポソームの室温下での平均粒径は237nm、カルセイン内包率は62%であり、多胞リポソームは確認されなかった。膜乳化に必要とした圧力は約10kPaであった。
【0052】
実施例6
有機溶媒相(O)に混合溶媒(ヘキサン:酢酸エチル=2:1)を用い、有機溶媒除去の減圧条件を180mbar、22時間とした以外は、実施例3と同様の操作を行った。得られたW1/Oエマルションの室温下での平均粒径は189nmであり、得られたリポソームの室温下での平均粒径は197nm、カルセイン内包率は42%であり、多胞リポソームは6個であった。膜乳化に必要とした圧力は約10kPaであった。
【0053】
実施例7
二次乳化工程で細孔径5.0μmのSPG膜を使用したこと以外は、実施例3と同様の操作を行った。得られたW1/Oエマルションの室温下での平均粒径は203nmであり、得られたリポソームの室温下での平均粒径は210nm、カルセイン内包率は46%であり、多胞リポソームは1個であった。膜乳化に必要とした圧力は約2kPaであった。
【0054】
実施例8
二次乳化工程で細孔径0.2μmのSPG膜を使用したこと以外は、実施例4と同様の操作を行った。得られたリポソームの室温下での平均粒径は120nm、カルセイン内包率は40%であり、多胞リポソームは2個であった。膜乳化に必要とした圧力は約25kPaであった。
【0055】
実施例9
(一次乳化工程によるW1/Oエマルションの製造)
ジパルミトイルホスファチジルコリン(COATSOME MC-6060、日油株式会社製)0.25g、コレステロール(Chol)0.152gを含む混合溶媒(ヘキサン:ジクロロメタン=8:2)15mLを有機溶媒相(O)とし、カルセイン(0.4mM)を含むトリス−塩酸緩衝液(pH7.4、50mmol/L)5mLを内水相用の水分散相(W1)とした。50mLのビーカーにこれらの混合液を入れ、実施例1と同様の乳化処理を行った。得られたW1/Oエマルションの室温下での平均粒径は219nmであった。
【0056】
(二次乳化工程によるW1/O/W2エマルションの製造)
上記一次乳化工程により得られたW1/Oエマルションの有機溶媒(O)にジパルミトイルホスファチジルグリセロール(COATSOME MG-6060LA、日油株式会社製)0.05gをさらに添加したものを分散相として、SPG乳化法によるW1/O/W2エマルションの製造を行った。実施例1と同様の膜乳化装置に細孔径1.0μmのSPG膜を用い、装置出口側に外水相溶液(W2)である3%のカゼインナトリウムを含むトリス−塩酸緩衝液(pH7.4、50mmol/L)を満たしておき、装置入口側から上記W1/Oエマルションを供給して、W1/O/W2エマルションを製造した。膜乳化に必要とした圧力は約10kPaであった。
【0057】
(有機溶媒相の除去によるリポソームの製造)
上記二次乳化工程により得られたW1/O/W2エマルションを密閉容器に移し替え、500mbarの減圧室温条件下で約4時間攪拌し、次いで180mbarの減圧室温条件下で約18時間撹拌し、溶媒を揮発させた。微細なリポソーム粒子の懸濁液が得られ、この粒子内にはカルセインが含まれていることが確認された。得られたリポソームの室温下での平均粒径は231nm、カルセイン内包率は70%であり、多胞リポソームは確認されなかった。
【0058】
比較例1
二次乳化工程で細孔径7.0μmのSPG膜を使用し、膜乳化に必要とした圧力は約7kPaであること以外は、実施例1と同様の操作を行った。微細なリポソーム粒子の懸濁液が得られ、この粒子内にはカルセインが含まれていることが確認された。得られたリポソームの室温下での平均粒径は255nm、カルセイン内包率は70%であったが、多胞リポソームは58個とやや多かった。
【0059】
比較例2
二次乳化工程で細孔径10.0μmのSPG膜を使用し、膜乳化に必要とした圧力は約5kPaであること以外は、実施例1と同様の操作を行った。微細なリポソーム粒子の懸濁液が得られ、この粒子内にはカルセインが含まれていることが確認された。得られたリポソームの室温下での平均粒径は277nm、カルセイン内包率は68%であったが、多胞リポソームは170個とかなり多かった。
【0060】
実施例10
(混合溶媒による一次乳化工程によるW1/Oエマルションの製造)
ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)「COATSOME MC-6060」(日油株式会社)0.25g、コレステロール0.152g、およびジパルミトイルホスファチジルグリセロール(DPPG)「COATSOME MG-6060LA」(日油株式会社)0.25gを含む混合溶媒(ヘキサン/ジクロロメタン=8/2)15mLを有機溶媒相(O)とし、カルセイン(0.4mM)を含むトリス−塩酸緩衝液(pH7.4、50mM)5mLを内水相用の水分散相(W1)とした。50mLのビーカーにこれらの混合液を入れ、φ20mmのプローブをセットした超音波分散装置(UH−600S、株式会社エスエムテー)により、25℃にて15分間超音波を照射し乳化処理を行った。上記方法に従って測定したところ、この一次乳化工程で得られたW1/Oエマルションは体積平均粒径約212nmであった。
【0061】
(二次乳化工程によるW1/O/W2エマルションの製造)
上記一次乳化工程により得られたW1/Oエマルションを分散相として、SPG乳化法によるW1/O/W2エマルションの製造を行った。まず、膜乳化装置に実施例2と同様の細孔径5.0μmのSPG膜を用い、装置出口側に外水相溶液(W2)である3%のカゼインナトリウムを含むトリス−塩酸緩衝液(pH7.4、50mmol/L)を満たしておき、装置入口側から上記W1/Oエマルションを供給して、W1/O/W2エマルションを製造した。膜乳化に必要とした圧力は約10kPaであった。
【0062】
つづいて、得られたW1/O/W2エマルションを分散相として、膜乳化装置に実施例4と同様の細孔径0.5μmのSPG膜を用い、装置出口側に外水相溶液(W2)である3%のカゼインナトリウムを含むトリス−塩酸緩衝液(pH7.4、50mmol/L)を満たしておき、装置入口側から上記W1/O/W2エマルションを供給して膜処理を行い、最終的なW1/O/W2エマルションを製造した。この膜処理に必要とした圧力は約5Paであった。
【0063】
(有機溶媒相の除去によるリポソームの製造)
上記二次乳化工程により得られた最終的なW1/O/W2エマルションを密閉容器に移し替え、20℃・500mbarの減圧条件下で約8時間攪拌し、次いで20℃・180mbarの減圧条件下で約8時間撹拌し、段階的に溶媒を揮発させた。得られたリポソーム懸濁液の粒子内にはカルセインが含まれていることが確認された。得られたリポソームの平均粒径は190nmであり、カルセイン内包率は62%であった。多胞リポソームは確認されなかった。
【0064】
実施例11
(一次乳化工程によるW1/Oエマルションの製造)
ホスファチジルコリン含量が95%である卵黄レシチン「COATSOME NC-50」(日油株式会社製)6.0g、コレステロール(Chol)3.04gおよびオレイン酸(OA)2.16gを含む混合溶媒(ヘキサン:ジクロロメタン=8:2)300mLを有機溶媒相(O)とし、カルセイン(0.4mM)を含むトリス−塩酸緩衝液(pH7.4、50mmol/L)100mLを内水相用の水分散相(W1)とした。実施例4と同様の一次乳化工程の処理を行った。得られたW1/Oエマルションの室温下での平均粒径は135nmであった。
【0065】
(二次乳化工程によるW1/O/W2エマルションの製造)
上記一次乳化工程により得られたW1/Oエマルションを分散相として、SPG乳化法によるW1/O/W2エマルションの製造を行った。SPG膜乳化装置(SPGテクノ社製、商品名「高速ミニキットKH-125」)に直径10mm、長さ125mm、細孔径1.0μmの円筒形SPG膜を使用すること以外は実施例4と同様にして、W1/O/W2エマルションを製造した。膜乳化に必要とした圧力は約10kPaであった。
【0066】
(有機溶媒相の除去によるリポソームの製造)
上記二次乳化工程により得られたW1/O/W2エマルションを密閉容器に移し替え、500mbarの減圧室温条件下で約4時間攪拌し、次いで180mbarの減圧室温条件下で約18時間撹拌し、溶媒を揮発させた。微細なリポソーム粒子の懸濁液が得られ、この粒子内にはカルセインが含まれていることが確認された。得られたリポソームの室温下での平均粒径は140nm、カルセイン内包率は53%であり、多胞リポソームは確認されなかった。
【0067】
比較例3
二次乳化工程で、直径10mm、長さ125mm、細孔径10.0μmの円筒形SPG膜を使用し、膜乳化に必要とした圧力は約5kPaであること以外は、実施例11と同様の操作を行った。微細なリポソーム粒子の懸濁液が得られ、この粒子内にはカルセインが含まれていることが確認された。得られたリポソームの室温下での平均粒径は134nm、カルセイン内包率は65%であったが、多胞リポソームは220個とかなり多かった。
【0068】
実施例12
水分散相(W1)に、カルセイン(0.4mM)に代えて、シタラビン(4mM)を溶解させた以外は、実施例1と同様の操作を行った。得られたリポソームの室温下での平均粒径は168nm、内包率は32%であり、多胞リポソームは確認されなかった。
【0069】
実施例13
水分散相(W1)に、カルセイン(0.4mM)に代えて、シタラビン(4mM)を溶解させた以外は、実施例2と同様の操作を行った。得られたリポソームの室温下での平均粒径は200nm、内包率は33%であり、多胞リポソームは確認されなかった。
【0070】
比較例4
水分散相(W1)に、カルセイン(0.4mM)に代えて、シタラビン(4mM)を溶解させた以外は、比較例2と同様の操作を行った。得られたリポソームの室温下での平均粒径は195nm、内包率は30%であったが、多胞リポソームは201個とかなり多かった。
【0071】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程(1)〜(3)を有することを特徴とする、リポソームの製造方法;
(1)一次乳化工程:有機溶媒(O)、水性溶媒(W1)、および混合脂質成分(F1)を乳化することにより、W1/Oエマルションを調製する工程;
(2)二次乳化工程:上記工程(1)により得られたW1/Oエマルションと水性溶媒(W2)とを、0.1μm以上5.0μm以下の細孔径を有する膜を用いて乳化し、W1/O/W2エマルションを調製する工程;
(3)上記工程(2)により得られたW1/O/W2エマルションに含まれる有機溶媒を除去することにより、リポソームの懸濁液を調製する工程;
ただし、上記一次乳化工程は、さらにリポソームに内包させる物質を添加した上で行ってもよい。
【請求項2】
前記工程(2)が、W1/Oエマルションを、0.1μm以上5.0μm以下の細孔径を有する膜を通過させ、水性溶媒(W2)中に液滴として分散させることにより、W1/O/W2エマルションを調製する工程であることを特徴とする請求項1に記載のリポソームの製造方法。
【請求項3】
前記工程(2)が、前記膜を用いた乳化により得られたW1/O/W2エマルションを、0.1μm以上5.0μm以下の細孔径を有する膜を通過させる膜処理工程をさらに有することを特徴とする請求項1または2に記載のリポソームの製造方法。
【請求項4】
前記工程(2)の膜としてSPG膜を用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のリポソームの製造方法。
【請求項5】
前記リポソームに内包させる物質として医療用の薬剤類を用い、かつ得られるリポソームの平均粒径を50nm以上200nm以下とすることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のリポソームの製造方法。
【請求項6】
前記工程(2)において、水性溶媒(W2)およびW1/Oエマルション以外にさらに、リポソーム脂質膜を破壊しない水溶性乳化剤、または混合脂質成分(F2)の少なくともどちらか一方を用いることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のリポソームの製造方法。
【請求項7】
前記リポソームが単胞リポソームであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のリポソームの製造方法。

【公開番号】特開2010−248171(P2010−248171A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−58904(P2010−58904)
【出願日】平成22年3月16日(2010.3.16)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】