説明

二眼レンズ装置及び二眼レンズ装置付立体撮像装置

【課題】 左右のレンズ部に装着された光学フィルタの偏光角度が異なる状態が発生すると、露出量が左右で異なったり、反射光を除去する割合が異なったりすることがある。
【解決手段】 横並びに配置された2つのレンズ部3L,3Rと、2つのレンズ部で被写体を立体映像として撮像するためにコンバージェンスポイントを調整可能な状態で2つのレンズ部を支持するレンズケース4と、を備えて構成されている。レンズケース4の、2つのレンズ部3L,3Rの被写体側に、その2つのレンズ部の被写体側の全面を覆う円形をなす1個の光学フィルタ5がねじ結合によって着脱可能に装着されるリング部35を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、被写体を立体映像として撮像することができる二眼レンズ装置、及び、その二眼レンズ装置を備えた二眼レンズ装置付立体撮像装置に関する。特に、二眼レンズ装置の付属部品として使用される外付用光学フィルタの取付構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、デジタルカメラ、ビデオカメラ等の撮像装置のレンズ装置においては、レンズの保護や、透過する光を制限する等の目的のために、各種の光学フィルタが使用されている。
従来の、一眼レンズ装置を備えた撮像装置のための光学フィルタの取付構造としては、例えば、特許文献1に記載されているようなものがある。特許文献1には、カメラのレンズ鏡筒の先端に装着されて使用される光学フィルタ及びレンズフードに関するものが記載されている。特許文献1に記載されているカメラは、円筒状のレンズ鏡筒を有する一眼レンズ装置を備えており、そのレンズ鏡筒の先端の内周面に、光学フィルタが着脱可能に装着される鏡筒枠ネジが設けられている。光学フィルタの先端の内周面には雌ネジ溝が設けられており、この雌ネジ溝に螺合可能とされた雄ネジ溝を有するレンズフードがフィルタに対して着脱可能に構成されている。
【0003】
このカメラの一眼レンズ装置においては、レンズ鏡筒の先端に1個の外付用の光学フィルタが着脱可能に装着され、或いは、更に他の光学フィルタを重ね合わせて光軸方向に連結されて着脱可能に構成されている。
このような光学フィルタの使用形態は、二眼レンズ装置及びその二眼レンズ装置を備えた二眼レンズ装置付立体撮像装置においても同様である。
近年、立体撮影(3D撮影)を可能とした二眼レンズ式立体撮像装置が提供されるようになった。この二眼レンズ式立体撮像装置は、従来の一眼レンズ装置の2組を横に並べたような構成を有しており、2つのレンズ装置が所定の間隔(IAD:Inter Axial Distance)をあけて略平行に配置されている。
【0004】
この二眼レンズ式立体撮像装置において、快適な3D立体視を得るためには、配慮しなければならない6つのポイントがある。その1は「垂直方向のずれ」、その2は「画角のずれ」、その3は「明るさ・色の違い」、その4は「回転のずれ」、その5は「正しい視差調整」、その6は「適正な構図」である。このうち、2つのレンズ装置を一体に組み合わせた二眼レンズ式立体撮像装置では、ポイント1〜4については内部機構において解決することができるが、ポイント5及び6については、被写体の構図に応じてその都度綿密な調整が必要となる。
【0005】
また、ポイント5の「正しい視差調整」については、「レンズ装置間の距離」と「クロスポイント(コンバージェンス)の距離」が問題となる。第1の「レンズ装置間の距離」については、一般に、人間の特性を考慮して、人間の両眼の間隔と略等しい約65mmが光軸間隔として設定されている。そして、光学ユニット内で二眼レンズ装置の輻輳角を変えることにより、コンバージェンスポイント(3D映像の基準面)を前後に調整し、画面からの「飛び出し」と「奥行き」をコントロールしている。
【0006】
このような二眼レンズ装置付立体撮像装置においても光学フィルタの必要性は、通常のカメラ(一眼レンズ装置付撮像装置)の場合と同様に有している。その場合に、二眼レンズ装置付立体撮像装置において、前述したような一眼レンズ装置付撮像装置に対すると同様の使用方法を適用すると、次のような問題を生じるおそれがある。
【0007】
図10は、二眼レンズ装置付立体撮像装置の2つのレンズ部101,102における被写体側の先端部を断面して示す説明図である。2つのレンズ部101,102は、互いの光軸O1,O2を略平行にして横並びに配置されており、それぞれのレンズ鏡筒103の先端近傍には物体側レンズ104R,104Lがそれぞれ固定されている。各レンズ鏡筒103の先端部の内周面には雌ねじが設けられており、その雌ねじに螺合される雄ねじを有する光学フィルタ105R,105Lがそれぞれねじ結合されている。
【0008】
いま、図10において、各物体側レンズ104R,104Lに入射される光の入射角をφ°、撮像面Fに対する左レンズ部101の撮像面をFLとし、右レンズ部102の撮像面をFRとすると、左右の撮像面FL,FR間において重複面FCが発生する。立体映像は、左右の撮像面FL,FRを重ね合わせることによって得られるため、左撮像面FLで得られる重複面FCと、右撮像面FRで得られる重複面FCとは、同一又は実質的に同一の撮像面であることが好ましい。なお、符号C1は右レンズ部101の光軸、符号C2は左レンズ部102の光軸を示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−272163号公報
【0010】
しかしながら、光学フィルタの種類によっては、そのフィルタを使用する目的を達成できない場合が生じる。例えば、光学フィルタとして偏光フィルタを使用した場合に、2つの偏光フィルタ間において、フィルタ枠に設けたねじの始端とその枠に固定されたフィルタの偏光角度が異なる場合である。かかる場合には、左右のレンズ部101,102に装着された光学フィルタ105R,105Lの偏光角度が異なる状態が発生し、これにより、露出量が左右で異なったり、反射光を除去する割合が異なったりすることがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
解決しようとする問題点は、二眼レンズ装置付立体撮像装置の2つのレンズ部に個別に光学フィルタを装着して使用すると、光学フィルタの種類によってはその目的を達成することができず、却って、撮像面を悪くしてしまうという点である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本出願の二眼レンズ装置は、横並びに配置された2つのレンズ部と、2つのレンズ部で被写体を立体映像として撮像するためにコンバージェンスポイントを調整可能な状態で2つのレンズ部を支持するレンズケースと、を備えて構成されている。レンズケースの、2つのレンズ部の被写体側に、その2つのレンズ部の被写体側の全面を覆う円形をなす1個の光学フィルタがねじ結合によって着脱可能に装着されるフィルタ装着部を設けた。
【0013】
本出願の二眼レンズ装置付立体撮像装置は、被写体を立体映像として撮像することができる二眼レンズ装置と、その二眼レンズ装置が着脱可能に装着される撮像装置本体と、2つの撮像素子ユニットと、を備えて構成されている。撮像素子ユニットは、二眼レンズ装置または撮像装置本体に取り付けられ、撮像素子を有する。
二眼レンズ装置は、横並びに配置された2つのレンズ部と、その2つのレンズ部で被写体を立体映像として撮像するためにコンバージェンスポイントを調整可能な状態で2つのレンズ部を支持するレンズケースと、を有している。そのレンズケースの、2つのレンズ部の被写体側に、その2つのレンズ部の被写体側の全面を覆う円形をなす1個の光学フィルタがねじ結合によって着脱可能に装着されるフィルタ装着部を設けた。
【発明の効果】
【0014】
本出願の二眼レンズ装置及び二眼レンズ装置付立体撮像装置によれば、レンズケースに光学フィルタをねじ結合によって装着すると、2つのレンズ部の被写体側の全面が、円形をなす1個の光学フィルタによって覆われる。そのため、2つのレンズ部が常に1個の光学フィルタで覆われることから、2つのレンズ部間において、常に同一の光学フィルタの効果を享受することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本出願の二眼レンズ装置の実施の形態の一例を示す外観斜視図である。
【図2】図1に示す二眼レンズ装置の特性を説明する説明図である。
【図3】図1に示す二眼レンズ装置を調整リング側から見た側面図である。
【図4】図1に示す二眼レンズ装置に係るレンズユニットの外観斜視図である。
【図5】図4に示すレンズユニットのレンズ鏡筒と撮像素子ユニットの側面図である。
【図6】各種の撮像素子サイズ用に物体側レンズを設計した際の物体側レンズの直径を示すグラフである。
【図7】各種の撮像素子サイズ用に撮像素子ICマウント基板を設計した際の撮像素子ICマウント基板の寸法を示すグラフである。
【図8】図1に示す二眼レンズ装置を使用した二眼レンズ装置付立体撮像装置の実施の形態の一例を示す側面図である。
【図9】図1に示す二眼レンズ装置に1個の光学フィルタを装着した状態の要部を断面した説明図である。
【図10】先行技術に係る二眼レンズ装置の2つのレンズ部に2個の光学フィルタを個別に装着した状態の要部を断面した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
2つのレンズ部の被写体側の外側を覆うことができる円筒状の筒軸部からなるフィルタ装着部をレンズケースに設け、そのフィルタ装着部に装着される1個の光学フィルタで2つのレンズ部の被写体側の全面を覆うことができるようにする。これにより、2つのレンズ部間において、1個の光学フィルタによる同一のフィルタ効果を常に享受することができる二眼レンズ装置及び二眼レンズ装置付立体撮像装置を、簡単な構成によって実現した。
【実施例】
【0017】
図1乃至図3は、本出願の実施の形態の一例を示すもので、被写体を立体映像として撮像することができる二眼レンズ装置である。この二眼レンズ装置1は、2つのレンズ部3L,3Rを有するレンズユニット2と、このレンズユニット2が収納されるレンズケース4と、を備えて構成されている。更に、二眼レンズ装置1には、光学フィルタ5とレンズフード6が、構成部品或いは付属品として備えられている。
【0018】
レンズユニット2は、図4に示すような構成を有している。図4は、本実施例の二眼レンズ装置1に係るレンズユニットの実施の形態の一例を示すものである。レンズユニット2は、左レンズ部3L及び右レンズ部3Rからなる2つのレンズ部3L,3Rと、ベースプレート7と、カバープレート8等を備えて構成されている。2つのレンズ部3L,3Rは、円筒状の筒体からなるレンズ鏡筒11と、このレンズ鏡筒11内に固定又は移動可能に支持された複数枚のレンズ及びプリズムとを有し、同一の構成部品によって同一構造に構成されている。各レンズ部3L,3Rにおける最も被写体に近い側に配置されたレンズが物体側レンズ12である。
【0019】
2つのレンズ鏡筒11,11に支持された左右のレンズ系は、夫々の光軸を略平行にして横並びに配置されており、後述するコンバージェンスリングの回転操作により左右のレンズ部3L,3Rのクロスポイント(コンバージェンス)の調整が可能に構成されている。2つのレンズ鏡筒11,11の後端には、所定形状に形成された配線パターンを有する結合部材14がそれぞれ取り付けられている。各結合部材14には、各レンズ系の光軸に一致させて貫通穴が設けられている。この結合部材14には、2つの撮像素子ユニット9L,9Rが取り付けられる。
【0020】
図5に示すように、2つの撮像素子ユニット9L,9Rは、それぞれ撮像素子が搭載された3つの撮像素子ICマウント基板18と、色分離合成プリズム15を有している。色分離合成プリズム15は、結合部材14の貫通穴の外側であってその光軸上に配置される。この色分離合成プリズム15は、レンズ鏡筒11から入射した光を、R(赤色)、G(緑色)、B(青色)に分光する。そして、色分離合成プリズム15には、3つの撮像素子ICマウント基板18が配置されている。
【0021】
3つの撮像素子ICマウント基板18は、それぞれ略正方形をなす平板状に形成されている。3つの撮像素子ICマウント基板18には、R光、G光、B光に対応した撮像素子が搭載される。撮像素子としては、例えば、CMOS(相補性金属酸化膜半導体)イメージセンサやCCD(電荷結合素子)等を適用することができる。
【0022】
なお、本例では、2つの撮像素子ユニット9L,9Rにそれぞれ3つの撮像素子を設けた例を説明したが、これに限定されるものではない。例えば、撮像素子を1つだけ設けて、レンズ鏡筒11から入射した光を分光せずに、1つの撮像素子で光を受光してもよい。
【0023】
2つのレンズ鏡筒11,11の外周には、半径方向外側に突出するVブロック状に形成された支持ブロック16,16が設けられている。これらの支持ブロック16,16を介して2つのレンズ部3L,3Rが、ベースプレート7上に位置調整可能に取り付けられている。ベースプレート7は長方形をなす平板状の部材からなり、このベースプレート7にカバープレート8が複数の固定ねじ17によって着脱可能に締め付け固定されている。カバープレート8は、2つのレンズ鏡筒11,11の上方を覆う上面部8aと、この上面部8aの左右両側に連続して下方に延在された左右の側面部8b、8bからなり、各側面部8bの下端が固定ねじ17でベースプレート7の側端面に固定されている。
【0024】
レンズケース4は、図1〜図3に示すような構成を有している。即ち、レンズケース4は、四角形をなす筒状に形成されたケース本体21と、このケース本体21の前面の開口部を閉じるように取り付けられるフロント部材22とからなり、固定ねじ38によって着脱可能に締め付け固定されている。ケース本体21の内部には、レンズユニット2を収納するための空間部からなるユニット収納部が設けられている。ユニット収納部の所定位置にレンズユニット2を収納すると、フロント部材22の略中央部に設けた横長の開口部24から左右のレンズ部3L,3Rの2つの物体側レンズ12,12が露出される。
【0025】
レンズケース4の右側面にはグリップ部25が設けられ、レンズケース4の左側面には調整リング26が設けられている。グリップ部25は、使用者が片手で握るに都合の良い形状及び大きさを有する突起部からなり、図示しない押えバンドが取り付けられるバンド取付部27a,27bが設けられている。更に、グリップ部25には、広角及び望遠調整を行うことができる揺動式の広角/望遠スイッチ28が設けられている。広角/望遠スイッチ28の一端を連続して押圧することによりその押圧量に応じて広角調整が進められ、他端を連続して押圧することによりその押圧量に応じて望遠調整が進められる。
【0026】
調整リング26は、ズーム調整のためのズームリング31と、フォーカス調整のためのフォーカスリング32と、コンバージェンス調整のためのコンバージェンスリング33とによって構成されている。ズームリング31とフォーカスリング32とコンバージェンスリング33は、それぞれ入れ子式構造により組み合わされて同軸的に回動可能とされていて、しかも、互いに独立して正・逆方向へ回動自在に構成されている。更に詳しく説明すると、ズームリング31は、調整リング26において最も外周側に配置された回動部であり、フォーカスリング32は、ズームリング31の内側に配置された回動部である。そして、コンバージェンスリング33は、フォーカスリング32の内側に配置された回動部である。
【0027】
このように3つのリングを配置することにより、使用者(ユーザ)は、操作しているリングの位置関係と共にリングの外径から調整対象を感覚的に知ることができ、これにより、操作性の向上を期待することができる。なお、ズームリング31とフォーカスリング32の外周面には滑り止め用のローレットが設けられ、コンバージェンスリング33の端面には同じく滑り止め用のローレットが設けられている。
【0028】
ケース本体21の前面に取り付けられるフロント部材22は、円筒状をなすリング部35と、このリング部35の内側に展開された端面部36と、リング部35をケース本体21に固定するためのベース部37とを有している。端面部36の略中央部には、レンズユニット2の左右の物体側レンズ12,12を露出させるために横長に形成された開口部24が設けられている。ベース部37は、リング部35の直径方向両側に突出する突起部として形成されており、このベース部37に設けた挿通孔に挿通される複数の固定ねじ38によってフロント部材22がケース本体21に一体的に固定されている。
【0029】
フロント部材22のリング部35の内周面には、光学フィルタ5をねじ結合により着脱可能に連結するための雌ねじ39が設けられている。この光学フィルタ5の雌ねじ39の形状、大きさ、ピッチ等は適宜に設定することができるが、市販されている光学フィルタに適用されている規格サイズの雄ねじに対応する規格サイズの雌ねじが好ましい。リング部35が、フィルタ装着部の一具体例を構成している。光学フィルタ5は、適度な直径で形成された円形のフィルタ部41と、このフィルタ部41に嵌合されるリング状の枠体部42とによって構成されている。枠体部42は、フィルタ部41の一面側に突出するリング状の筒軸部42aを有しており、この筒軸部42aの外周面に、リング部35に設けた雌ねじ39と螺合可能な雄ねじ43が設けられている。
【0030】
光学フィルタ5としては、各種のものを適用可能であるが、本開示においては、形状による分類では円形フィルタに限定され、また、取り付け規格による分類ではねじ式に限定される。一方、材質による分類では、ガラスフィルタとプラスチックフィルタが適用可能である。また、フィルタの効果による分類では、偏光(PL)フィルタ、減光(ND)フィルタ、シャープカット(SC)フィルタ、色彩強調効果用フィルタ、色温度変換(LB)フィルタ、色補正(CC)フィルタ、赤外線フィルタ、レンズ保護用フィルタ等を適用できる。更に、光学フィルタ5として、ホワイトバランス取得用フィルタ、変則反射除去(DR)フィルタ、ソフトフィルタ、クロスフィルタ等も適用することができる。
【0031】
なお、シャープカットフィルタとしては、紫外線カット(UV)フィルタ、白黒用コントラスト調整フィルタ、白黒用整色フィルタ、赤外フィルム用フィルタ、HFグラス等を挙げることができる。また、色補正フィルタとしては、蛍光灯(FL−W)フィルタ、TV画面撮影用(TV−CC)フィルタ等を挙げることができる。ソフトフィルタとしては、デュート、ソフトン、フォギー等を挙げることができる。更に、クロスフィルタとしては、スノークロス、サニークロス、バリクロス等を挙げることができる。
【0032】
なお、光学フィルタは、着脱自在に構成することなく、レンズユニット2と一体に設ける構成とすることもできる。また、光学フィルタは、市販品のものを用いることなく、専用の光学フィルタを設ける構成とすることができることは勿論である。
【0033】
一般に、人間の両眼の間隔は、成人の平均が65mm程度と言われており、この両眼の間隔がレンズユニット2の2つのレンズ部3L,3Rの光軸間隔(IAD:Inter-Axial Distance、「視差」とも言う。)に相当する。そして、左右のレンズ部3L,3Rの視線(光軸)を少し内側に向けて被写体を見ることにより立体感を得ることができ、この左右のレンズ部3L,3Rの光軸が交差する点が輻輳点と言われている。輻輳角は人間の寄り眼の角度に相当し、その視線は少し内側に向いている。
【0034】
この場合に、IAD(光軸間隔)を成人の視差65mmよりも狭くすることにより、3D撮影領域を広くすることができる。リグ式3Dカメラ(HD カメラ)では、IAD=0〜70mmであった。これに対して、2つのレンズ部を一体型とした立体撮影カメラでは、IADと「レンズ(F値)及び撮像画面」は相反する関係にある。
IADを小さな値にすると、「レンズ部(物体側レンズ)の直径G、プリズム寸法、撮像素子サイズ、撮像素子のICパッケージ寸法、撮像素子ICマウント基板寸法T」を小さくする必要があり、レンズ(F値)は暗くなり、S/N画質は低下する。これに対して、この場合における立体撮像領域は広くなる。
これとは逆に、IADを大きな値にすると、「レンズ部(物体側レンズ12)の直径G、プリズム寸法、撮像素子サイズ、撮像素子のICパッケージ寸法、撮像素子ICマウント基板18寸法T」を大きくすることができ、レンズ(F値)は明るくなり、S/N画質は向上する。これに対して、この場合における立体撮像領域は狭くなる。
【0035】
そこで、IAD(:Y)の値は、
30<Y<60(単位:mm)の範囲内で設定することが好ましく、1m付近の比較的近距離から好適な立体映像を得るためには、IADを45mm程度に抑えることが好適である。
【0036】
次に、図6を参照して好適な立体映像を得るために必要な物体側レンズ12の直径G及び撮像素子のサイズについて説明する。
図6は、各種の撮像素子のサイズ用に物体側レンズ12を設計した際の物体側レンズ12の直径を示すグラフである。図6に示すグラフの条件は、倍率10倍、F2.8、広角側の画角はフルサイズ換算で40mm程度である。
【0037】
上述したように、良好な立体映像を撮影するためにIADを45mm程度に抑えることが求められている。そのため、物体側レンズ12の直径Gも45mm以下にすることが好ましい。したがって、図6に示すように、物体側レンズ12の直径Gを45mm以下の場合、撮像素子のサイズを2/3インチ以下に抑える必要があることがわかる。
【0038】
また、ASP−Cサイズや35mmフルサイズの撮像素子を用いた場合、物体側レンズ12の直径Gは、100mm以上となる。そして、直径Gが100mm以上の物体側レンズ12をレンズ部3L,3Rに用いた場合、IADの大きさは、100mmを超える。そのため、立体撮像領域が狭くなり、好適な立体映像を得ることができない。
【0039】
次に、好適な立体映像を得るために必要な撮像素子ICマウント基板18の寸法T及び撮像素子のサイズについて図7を参照して説明する。
図7は、各種の撮像素子のサイズ用に撮像素子ICマウント基板18を設計した際の撮像素子ICマウント基板18の寸法Tを示すグラフである。
【0040】
図7に示すように、撮像素子のサイズが1/3インチと、1/2インチの場合、撮像素子ICマウント基板18の寸法Tは、大きな差異が生じない。しかしながら、撮像素子のサイズが1/2インチより大きくなると、撮像素子のサイズの変化にしたがって撮像素子ICマウント基板18の寸法Tが大きくなることがわかる。
【0041】
ここで、図4に示すように、撮像素子ICマウント基板18は、光軸と直交する方向に横並びに配置されたレンズ部3L,3Rの後方に配置されている。そのため、撮像素子ICマウント基板18は、隣合う撮像素子ユニット9L,9Rの撮像素子ICマウント基板18と干渉しないように配置される。そのため、撮像素子ICマウント基板18の寸法Tが大きくなると、2つのレンズ部3L,3Rの間隔も大きくなる。
【0042】
また、上述したように、良好な立体映像を撮影するためにIADを45mm程度に抑えることが求められている。そのため、撮像素子ICマウント基板18の寸法Tも45mm以下にすることが好ましい。したがって、図7に示すように、撮像素子ICマウント基板18の寸法Tを45mm以下の場合、撮像素子のサイズを2/3インチ以下に抑える必要があることがわかる。
【0043】
なお、画質の低下を防ぐために、撮像素子のサイズは、1/4インチ以上が好ましい。よって、物体側レンズ12の直径G、撮像素子ICマウント基板18の寸法T及び得られる画質を考慮すると、撮像素子(:X)の大きさは、1/4<X<2/3(単位:インチ)とする。
好ましい値の組み合わせとしては、例えば、レンズIAD=45mm、撮像素子=1/2インチの場合を実施例として挙げることができる。
【0044】
このように、IADを、成人の視差65mmよりも狭い「30<Y<60」に設定し、撮像素子に「1/4<X<2/3」のものを適用することにより、立体撮像領域が広く且つ高画質の立体撮像を得ることができる。この立体撮像装置は、一般大衆が使用する民生用の撮像装置としても適用可能であるが、業務用の撮像装置として適用することにより、最も効果的に目的を達成することができる。
【0045】
次に、光学フィルタ5のサイズについて説明する。
また、光学フィルタ5をサイズの点から述べると、その直径S(図1参照)は、物体側レンズ12の2個分よりも大きい直径である必要がある。そのため物体側レンズ12の直径Gによって制限を受けることから、物体側レンズ12の直径Gを考慮したサイズのものを選択する必要がある。市場において、一般に提供されている光学フィルタのフィルタ径Sは、49mm、52mm、55mm、58mm、62mm、67mm、72mm、77mm、82mmである。また、プロ用大口径サイズフィルタとして、86mm、95mm、105、112mmのものも提供されている。
【0046】
これら市販の光学フィルタの存在を考慮すると、フロント部材22のリング部35における雌ねじ39のサイズを決定することにより、特別なサイズの光学フィルタを特注して製造することなく、安価な市販品を使用することが可能となる。また、上述したように、IAD(:Y)の値は、30<Y<60(単位:mm)の範囲内で設定することが好ましい。そのため、光学フィルタ5としては、フィルタ径Sが67mmから112mmのサイズに設定される。
【0047】
例えば、2つのレンズ部3L,3Rの物体側レンズ12,12の直径Gを30mm、レンズ鏡筒11の外径を40mm、2つのレンズ部3L,3Rの中心間の距離(IAD:Inter-Axial Distance、「視差」とも言う。)を45mmと設定することができる。この場合、光学フィルタ5のフィルタ径Sとしては、77mmから112mmまでのサイズのものを採用することが可能である。しかしながら、フィルタ着脱時の作業性、被写体から得られる立体映像に対するケラレやフレア等を考慮すると、82mmから105mmまでの範囲内の光学フィルタ5を使用することが好ましい。
【0048】
図2及び図9は、左右のレンズ部3L,3Rの光線図を説明するものである。図2において、符号45Rは右側の撮像素子ユニット9R(図4参照)の枠部分、45Lは左側の撮像素子ユニット9L(図4参照)の枠部分である。45Cは2つの枠部分45R,45Lが重なり合う重合部分を、それぞれ示している。また、符号FRは右側の撮像素子ユニット9R(図4参照)の撮像による撮像面、FLは左側の撮像素子ユニット9L(図4参照)の撮像による撮像面、FCは2つの撮像面FR,FLが重なり合う重合面を、それぞれ示している。本開示によれば、2つのレンズ部の物体側レンズ12,12が1個の光学フィルタによって覆われているため、異なるフィルタ特性を発生させることなく、2つのレンズ部に常に同じフィルタ効果を付与することができる。なお、図9において、符号C1は右レンズ部3Rの光軸、符号C2は左レンズ部3Lの光軸を示す。また、符号φは、左右のレンズ部3L,3Rの各物体側レンズ12,12に対する光の入射角を示す。
【0049】
図1に示すレンズフード6は、本開示の二眼レンズ装置1に用いて好適なレンズフードの一実施例を示すものである。このレンズフード6は、光の入射を制限する環状に連続された遮光部6aと、この遮光部6aの背面側を覆う背面部6bと、背面部6bの中央部に設けられたリング状をなす固定部6cとを有している。固定部6cには止めねじ47が取り付けられている。レンズフード6の固定部6cは、レンズケース4のリング部35又は光学フィルタ5の枠体部42に着脱可能に嵌合され、止めねじ47の締め込みによってレンズフード6がレンズケース4側に締め付け固定される。
【0050】
レンズケース4のケース本体21及びフロント部材22、並びに、レンズフード6の材質としては、例えば、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂)やPOM(ポリアセタール)その他のプラスチックを適用することができる。しかしながら、ケース本体21等の材質としては、これらプラスチックに限定されるものではなく、例えば、アルミニウム合金、ステンレス鋼、スチール鋼その他の金属を用いることもできる。
【0051】
図8は、本開示の二眼レンズ装置1を備えた二眼レンズ装置付立体撮像装置の一実施例を示す業務用のビデオカメラ50を示すものである。このビデオカメラ50は、撮像装置本体51と、二眼レンズ装置1とを備えて構成されている。撮像装置本体51は、プラスチックやアルミニウム合金等によって形成された外装ケース52と、この外装ケース52の内部に収納された制御装置等を備えている。外装ケース52には、外部機器との接続のための各種のインタフェース群、各種の操作ボタン群、ハンドル53、表示部54、バッテリーアダプタ、メモリーカードスロット等が設けられている。インタフェースとしては、例えば、デジタル映像及びデジタル音声の入出力、アナログ映像及びアナログ音声の入出力、制御用の入力、モニタ出力、ヘッドホン出力等がある。バッテリーアダプタは、図示しないバッテリーが着脱可能とされている。
【0052】
外装ケース52の主に側面には、操作ボタン群の一部、表示部54、及びメモリーカードスロットが配置されている。操作ボタンとしては、例えば、電源ボタン、録画ボタン、再生ボタン、早送りボタン、戻りボタン、シャッタボタン、その他がある。表示部54は、撮像中の映像や記録済の映像、或いは各種の機能選択や設定操作のためのユーザインタフェース等の表示に用いられ、外装ケース52の側面において、2軸方向に回動自在に設けられている。表示部54としては、例えば、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ等を用いることができる。メモリーカードスロットは、半導体記録媒体であるメモリーカードの着脱が可能とされており、このメモリーカードに対してデジタル映像データの記録や再生を行うことが可能となっている。
【0053】
ハンドル53と操作ボタン群の他の一部は、外装ケース52の上面に設けられている。ハンドル53は、ユーザがビデオカメラ50を支え持つための部位であり、このハンドル53の前部にマイクロホン55が取り付けられている。また、外装ケース52の内部には、CPU(中央処理装置)等の制御回路、信号処理回路、エンコーダ回路等が収納されている。
【0054】
本開示の二眼レンズ装置1によれば、図9等に示すように、2つのレンズ部3L,3Rの前に1個の光学フィルタを配置する構成とした。そのため、2つのレンズ部に対して個別に光学フィルタを装着する先行技術に係る装置のように異なるフィルタ特性を発生させるおそれがなく、2つのレンズ部に常に同じフィルタ効果を付与することができる。
【0055】
なお、本開示は以下のような構成も取ることができる。
(1)
横並びに配置された2つのレンズ部と、
前記2つのレンズ部で被写体を立体映像として撮像するためにコンバージェンスポイントを調整可能な状態で当該2つのレンズ部を支持するレンズケースと、
を備え、
前記レンズケースの、前記2つのレンズ部の被写体側に、当該2つのレンズ部の被写体側の全面を覆う円形をなす1個の光学フィルタがねじ結合によって着脱可能に装着されるフィルタ装着部を設けた
二眼レンズ装置。
(2)
前記フィルタ装着部は、内周面にねじ部を設けた円筒状の筒軸部からなる
前記(1)に記載の二眼レンズ装置。
(3)
前記筒軸部のねじ部は、市販されている光学フィルタに設けたねじ結合用の雄ねじが螺合可能な雌ねじを有する
前記(2)記載の二眼レンズ装置。
(4)
前記フィルタ装着部には、フィルタ径が67mmから112mmまでの範囲内の光学フィルタが装着される
前記(1)から(3)のいずれかに記載の二眼レンズ装置。
(5)
被写体を立体映像として撮像することができる二眼レンズ装置と、
前記二眼レンズ装置が着脱可能に装着される撮像装置本体と、
前記二眼レンズ装置または前記撮像装置本体に取り付けられ、撮像素子を有する2つの撮像素子ユニットと、
を備え、
前記二眼レンズ装置は、
横並びに配置された2つのレンズ部と、
前記2つのレンズ部で被写体を立体映像として撮像するためにコンバージェンスポイントを調整可能な状態で当該2つのレンズ部を支持するレンズケースと、
を有し、
前記レンズケースの、前記2つのレンズ部の被写体側に、当該2つのレンズ部の被写体側の全面を覆う円形をなす1個の光学フィルタがねじ結合によって着脱可能に装着されるフィルタ装着部を設けた
二眼レンズ装置付立体撮像装置。
(6)
前記フィルタ装着部には、フィルタ径が67mmから112mmまでの範囲内の光学フィルタが装着される
前記(5)に記載の二眼レンズ装置付立体撮像装置。
(7)
前記レンズ部における最も被写体に近い側に配置された物体側レンズの直径は、45mm以下に設定される
前記(5)または(6)に記載の二眼レンズ装置付立体撮像装置。
(8)
前記撮像素子が搭載される撮像素子ICマウント基板における前記2つのレンズ部が並ぶ方向の長さは、45mm以下に設定される
前記(5)から(7)のいずれかに記載の二眼レンズ装置付立体撮像装置。
(9)
前記撮像素子のサイズは、2/3インチ以下に設定される
前記(5)から(7)のいずれかに記載の二眼レンズ装置付立体撮像装置。
【0056】
以上説明したが、本開示は前記実施例に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲内で各種の変形実施が可能である。前述の実施例では、業務用ビデオカメラに適用した例について説明したが、民生用ビデオカメラ、その他の撮像装置に適用できることは勿論である。
【0057】
上述した実施の形態例では、二眼レンズ装置に撮像素子ユニットを設けた例を説明したが、これに限定されるものではなく、撮像装置本体に撮像素子ユニットを設けてもよい。
【符号の説明】
【0058】
1…二眼レンズ装置、 2…レンズユニット、 3L,3R…レンズ部、 4…レンズケース、 5…光学フィルタ、 6…レンズフード、 9L,9R…撮像素子ユニット、 11…レンズ鏡筒、 12…物体側レンズ、 18…撮像素子ICマウント基板、 21…ケース本体、 22…フロント部材、 26…調整リング、 33…コンバージェンスリング、 35…リング部(フィルタ装着部)、 41…フィルタ部、 42…枠体部、 50…ビデオカメラ(二眼レンズ装置付立体撮像装置)、 51…撮像装置本体、 52…外装ケース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
横並びに配置された2つのレンズ部と、
前記2つのレンズ部で被写体を立体映像として撮像するためにコンバージェンスポイントを調整可能な状態で当該2つのレンズ部を支持するレンズケースと、
を備え、
前記レンズケースの、前記2つのレンズ部の被写体側に、当該2つのレンズ部の被写体側の全面を覆う円形をなす1個の光学フィルタがねじ結合によって着脱可能に装着されるフィルタ装着部を設けた
二眼レンズ装置。
【請求項2】
前記フィルタ装着部は、内周面にねじ部を設けた円筒状の筒軸部からなる
請求項1記載の二眼レンズ装置。
【請求項3】
前記筒軸部のねじ部は、市販されている光学フィルタに設けたねじ結合用の雄ねじが螺合可能な雌ねじを有する
請求項2記載の二眼レンズ装置。
【請求項4】
前記フィルタ装着部には、フィルタ径が67mmから112mmまでの範囲内の光学フィルタが装着される
請求項1に記載の二眼レンズ装置。
【請求項5】
被写体を立体映像として撮像することができる二眼レンズ装置と、
前記二眼レンズ装置が着脱可能に装着される撮像装置本体と、
前記二眼レンズ装置または前記撮像装置本体に取り付けられ、撮像素子を有する2つの撮像素子ユニットと、
を備え、
前記二眼レンズ装置は、
横並びに配置された2つのレンズ部と、
前記2つのレンズ部で被写体を立体映像として撮像するためにコンバージェンスポイントを調整可能な状態で当該2つのレンズ部を支持するレンズケースと、
を有し、
前記レンズケースの、前記2つのレンズ部の被写体側に、当該2つのレンズ部の被写体側の全面を覆う円形をなす1個の光学フィルタがねじ結合によって着脱可能に装着されるフィルタ装着部を設けた
二眼レンズ装置付立体撮像装置。
【請求項6】
前記フィルタ装着部には、フィルタ径が67mmから112mmまでの範囲内の光学フィルタが装着される
請求項5に記載の二眼レンズ装置付立体撮像装置。
【請求項7】
前記レンズ部における最も被写体に近い側に配置された物体側レンズの直径は、45mm以下に設定される
請求項6に記載の二眼レンズ装置付立体撮像装置。
【請求項8】
前記撮像素子が搭載される撮像素子ICマウント基板における前記2つのレンズ部が並ぶ方向の長さは、45mm以下に設定される
請求項6に記載の二眼レンズ装置付立体撮像装置。
【請求項9】
前記撮像素子のサイズは、2/3インチ以下に設定される
請求項6に記載の二眼レンズ装置付立体撮像装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−215807(P2012−215807A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−194623(P2011−194623)
【出願日】平成23年9月7日(2011.9.7)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】