説明

二軸延伸ナイロンフィルム、ラミネート包材及び二軸延伸ナイロンフィルムの製造方法

【課題】冷間成形用包材等の主要基材として、成形性、強度および耐ピンホール性に優れた二軸延伸ナイロンフィルム、これを含むラミネート包材、及び該二軸延伸ナイロンフィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】Ny6及びMXD6からなるバージン原料と、Ny6及びMXD6を溶融混練してMXD6の融点を233〜238℃とした熱履歴品とを原料として含む二軸延伸ナイロンフィルムであって、当該フィルムの熱水収縮率が3〜20%であり、当該フィルムの引張試験における4方向(MD方向、TD方向、45°方向、135°方向)の破断までの伸び率が70%以上であり、かつ、当該フィルムの前記引張試験における応力−ひずみ曲線において、伸び率が50%となった際の引張応力σと、降伏点における引張応力σとの比である応力比A(σ/σ)が、前記4方向についていずれも2以上の二軸延伸ナイロンフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二軸延伸ナイロンフィルム、ラミネート包材及び二軸延伸ナイロンフィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二軸延伸ナイロンフィルム(以後、ONyフィルムとも言う)は、強度や耐衝撃性、耐ピンホール性等に優れるため、重量物包装や水物包装など大きな強度負荷が掛かる用途に多く用いられている。
【0003】
ここで、従来、深絞り成形や張り出し成形等の成形用の包材に、ナイロンを使用する技術が知られている(例えば、特許文献1,2参照)。
具体的に、特許文献1には、ポリスチレン系樹脂を含有する基材層と、この基材層の両面又は一方の片面に1又は2層以上積層されている機能層とを有する冷間成形用樹脂シートが示されている。そして、上記機能層として、ナイロン樹脂を含有する耐磨耗層を、冷間成形用樹脂シートの表層に設ける構成が示されている。
このような冷間成形用樹脂シートによれば、耐衝撃性に優れかつ保形性を有する冷間成形加工品を得ることが可能となる。そして、ナイロン樹脂を含有する耐磨耗層を表層に設けることで、冷間成形時にシートの表層が損傷することを防止可能としている。
なお、特許文献1にも記載されているように、冷間成形は、熱間成形に比して、加熱装置を不要とし装置の小型化が図れると共に、高速連続成形が可能である点で優れている。
【0004】
一方、特許文献2には、シール層がポリプロピレン樹脂層、中間層が酸素バリアー樹脂層、ナイロン樹脂層及びポリエチレン樹脂層を含み、最外層が吸湿性のある素材からなるシートをラミネートしてなる深絞り成形用複合シートが示されている。
このような深絞り成形用複合シートによれば、中間層にナイロン樹脂層を設けることで、複合シートに機械的強度を付与できる。これにより、150℃程度での深絞り成形時にピンホールが発生することを防止可能としている。
【0005】
【特許文献1】特開2004−74795号公報
【特許文献2】特開2004−98600号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1には、冷間成形用樹脂シートの表層に設けるナイロン樹脂層についての具体的記載がないため、使用するナイロン樹脂層によっては、冷間成形において良好な成形性や強度、耐ピンホール性を示さない場合もある。この場合、シャープな形状の成形品が得られず、また、冷間成形の際にシートにピンホールが発生してしまうおそれがある。
【0007】
また、特許文献2では、ナイロン樹脂層の使用原料について具体的記載はあるものの、ナイロン樹脂層の伸び率等の機械的特性については具体的記載がない。さらに、150℃程度の深絞り成形については言及されているものの、冷間での成形については言及されていない。このため、上記特許文献1と同様、冷間成形により良好な成形品が得られないおそれがある。
【0008】
そこで、本発明の目的は、冷間成形用包材等の主要基材として、成形性、強度および耐ピンホール性に優れた二軸延伸ナイロンフィルム、これを含むラミネート包材、及び該二軸延伸ナイロンフィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の要旨とするところは、以下の通りである。
(1) ナイロン6(以後、Ny6ともいう)及びメタキシリレンアジパミド(以後、MXD6ともいう)からなるバージン原料と、Ny6及びMXD6を溶融混練してMXD6の融点を233〜238℃とした熱履歴品とを原料として含む二軸延伸ナイロンフィルムであって、当該フィルムを95℃の熱水中で30分間保持した場合における、当該フィルムのMD方向およびTD方向の熱水収縮率が3〜20%であり、当該フィルムの引張試験(試料幅15mm、標点間距離50mm、引張速度100mm/min)における4方向(MD方向、TD方向、45°方向、135°方向)の破断までの伸び率が70%以上であり、かつ、当該フィルムの前記引張試験における応力−ひずみ曲線において、伸び率が50%となった際の引張応力σと、降伏点における引張応力σとの比である応力比A(σ/σ)が、前記4方向についていずれも2以上であることを特徴とする二軸延伸ナイロンフィルム。
(2) 上記(1)に記載の二軸延伸ナイロンフィルムにおいて、前記4方向におけるそれぞれの前記応力比Aのうち、最大となる応力比Amaxと最小となる応力比Aminとの比(Amax/Amin)が、2以下であることを特徴とする二軸延伸ナイロンフィルム。
(3) 上記(1)または(2)に記載の二軸延伸ナイロンフィルムにおいて、当該フィルムの前記引張試験における前記4方向の引張破断強度が、いずれも180MPa以上であることを特徴とする二軸延伸ナイロンフィルム。
(4) 上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の二軸延伸ナイロンフィルムにおいて、前記バージン原料は、60〜85質量部のNy6、及び15〜40質量部のMXD6からなり、前記熱履歴品の含有量が前記原料全量基準で5〜40質量%であることを特徴とする二軸延伸ナイロンフィルム。
(5) 上記(1)ないし(4)に記載の二軸延伸ナイロンフィルムにおいて、前記熱履歴品におけるNy6とMXD6の配合割合は、Ny6:MXD6=60〜85質量部:15〜40質量部であることを特徴とする二軸延伸ナイロンフィルム。
(6) 上記(1)ないし(5)のいずれかに記載の二軸延伸ナイロンフィルムを含むことを特徴とするラミネート包材。
(7) Ny6及びMXD6からなるバージン原料と、Ny6及びMXD6を溶融混練してMXD6の融点を233〜238℃とした熱履歴品とを原料として含む二軸延伸ナイロンフィルムの製造方法であって、前記原料で構成された未延伸原反フィルムに対して、MD方向(フィルムの移動方向)およびTD方向(フィルムの幅方向)のそれぞれの延伸倍率が2.8倍以上となる条件で二軸延伸した後、160〜200℃で熱処理を行い、当該フィルムを95℃の熱水中で30分間保持した場合における、当該フィルムのMD方向およびTD方向の熱水収縮率が3〜20%であり、当該フィルムの引張試験(試料幅15mm、標点間距離50mm、引張速度100mm/min)における4方向(MD方向、TD方向、45°方向、135°方向)の破断までの伸び率が70%以上であり、かつ、当該フィルムの前記引張試験における応力−ひずみ曲線において、伸び率が50%となった際の引張応力σと、降伏点における引張応力σとの比である応力比A(σ/σ)が、前記4方向についていずれも2以上である二軸延伸ナイロンフィルムを形成することを特徴とする二軸延伸ナイロンフィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のONyフィルムによれば、当該ONyフィルムの引張試験における4方向の破断までの伸び率を70%以上とし、かつ、当該ONyフィルムの応力−ひずみ曲線における応力比Aを各方向についていずれも2以上としているので、優れた成形性、強度および耐ピンホール性を有し、特に冷間成形の際にこれらの特性を発揮できる。また、当該ONyフィルムは、95℃の熱水中で30分間保持した場合における当該フィルムの熱水収縮率が3〜20%であるため、成形時に良好な伸び特性を示す。そして、このようなONyフィルムを含んで構成されたラミネート包材によれば、冷間における深絞り成形等の際に、当該ONyフィルムにピンホールが発生することなく、シャープな形状の成形品を製造することができる。また、当該包材は、ONyフィルム中にMXD6が含まれているので、優れた耐熱性を示す。このため、当該包材をONyフィルム層とシーラント層とを積層して構成し、当該包材をシールバーにより加熱してシール処理した場合、包材がシールバーに付着することなく、良好なシール処理が実現できる。さらに、当該包材によれば、ONyフィルム中に熱履歴品が含まれているので、ONyフィルムにおける層内剥離を防止でき、耐衝撃性に優れた成形品を得ることができる。
【0011】
本発明において、冷間成形とは、樹脂のガラス転移点(Tg)未満の温度雰囲気下で行う成形をいう。かかる冷間成形はアルミニウム箔等の成形に用いられる冷間成形機を用いて、シート材料を雌金型に対して雄金型で押し込み、高速でプレスすることが好ましく、かかる冷間成形によると、加熱することなく型付け、曲げ、剪断、絞り等の塑性変形を生じさせることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明を実施するための最良の形態について詳述する。
〔二軸延伸ナイロンフィルムの構成〕
本実施形態に係る二軸延伸ナイロンフィルム(ONyフィルム)は、Ny6およびMXD6からなるバージン原料と、Ny6及びMXD6を溶融混練してなる熱履歴品とを原料として含む未延伸原反フィルムを二軸延伸し、所定の温度で熱処理して形成したものである。このように未延伸原反フィルムを二軸延伸することで、耐衝撃性に優れたONyフィルムが得られる。
ここで、前記Ny6の化学式を下記の化1に示し、またMXD6の化学式を下記の化2に示す。
【0013】
【化1】

【0014】
【化2】

【0015】
上述のバージン原料とは、通常は、Ny6とMXD6とが互いに混合され溶融混練された履歴を持つ混合原料ではない状態の原料を意味する。例えば、Ny6やMXD6が各々単独で溶融混練された履歴があっても(例えばリサイクル品)、これらが混合され溶融混練されていない場合は、バージン原料である。
バージン原料におけるNy6とMXD6の配合割合は、ONyフィルムの衝撃強度および耐熱性の観点から、Ny6が60〜85質量部、MXD6が15〜40質量部であることが好ましい。なお、バージン原料におけるMXD6が15質量部より少ない場合には、耐熱効果が減り、当該ONyフィルムを適当なシーラントフィルムとラミネートしてラミネート包材を構成し、これをシール処理した際、ラミネート包材がシールバーに付着するおそれがある。また、MXD6が40質量部より多い場合には、衝撃強度が大幅に低下して実用性に乏しくなる。
【0016】
上述の熱履歴品とは、Ny6とMXD6の配合品で、一度押出機を通過したものをいい、本発明については、示査走査熱量計(DSC)でMXD6の融点が233〜238℃、好ましくは235〜237℃の範囲に保持されたものを用いる。なお、この熱履歴品は、本実施形態により得られたONyフィルムをリサイクルしたものでもよい。このような熱履歴品は、Ny6とMXD6の双方に親和性のある相溶化剤として機能するので、かかる熱履歴品をONyフィルムに加えることで層内剥離の発生を防止できる。
ここで、層内剥離とは、ONyフィルムを適当なシーラントフィルムとラミネートした後に冷間成形のような過酷な条件で使用すると、ONyフィルム内で剥離を引き起こす現象をいう。この層内剥離の機構は必ずしも明確ではないが、ONyフィルム内では、Ny6とMXD6が層状に配向しており、その界面で剥離が起こるものと考えられる。
また、熱履歴品におけるMXD6の融点とは、バージン原料と溶融混練される前の状態で測定された融点をいう。熱履歴品におけるMXD6の融点が233℃未満になると、ONyフィルムの衝撃強度が低下する。また、熱履歴品におけるMXD6の融点が238℃以上になると、層内剥離を防止する効果が低くなる。
【0017】
熱履歴品の含有量は、原料全量基準で5〜40質量%であることが好ましい。熱履歴品が5質量%未満では、ONyフィルムをラミネートフィルムとした後に冷間成形のような過酷な条件下で使用すると、層内剥離を起こしやすくなる。また、熱履歴品が40質量%を超えると、ONyフィルムの衝撃強度が低下する。
熱履歴品におけるNy6とMXD6の配合割合は、衝撃強度及び層内剥離防止効果の観点から、Ny6:MXD6=60〜85質量部:15〜40質量部であることが好ましい。なお、熱履歴品におけるMXD6の配合割合が15質量部未満(Ny6の配合割合が85質量部より多い)である場合、ONyフィルムの層内剥離防止効果が低くなる。熱履歴品におけるMXD6の配合割合が40質量部を越える(Ny6の配合割合が60質量部未満)場合、ONyフィルムの衝撃強度が低下する。
【0018】
また、本実施形態に係るONyフィルムは、当該フィルムを95℃の熱水中で30分間保持した場合における、当該フィルムのMD方向およびTD方向の熱水収縮率が3〜20%、好ましくは6〜20%である必要がある。このようにすることで、通常のONyフィルムに比べて成形時の伸び特性に優れたONyフィルムを得ることができ、例えば冷間成形時におけるONyフィルムの破断やピンホールの発生を防止できる。当該フィルムの熱水収縮率が3%未満である場合、通常のONyフィルムに比べて成形時の伸び特性に大差がない。一方、当該フィルムの熱水収縮率が20%を超える場合、ONyフィルムと他のフィルム層とを積層してラミネート包材を構成した場合に、ONyフィルムと他のフィルム層との間で剥離現象(デラミ)が生じるおそれがある。
【0019】
本実施形態において、ONyフィルムの4方向(MD方向、TD方向、45°方向、135°方向)における引張破断までの伸び率、応力比A、および引張破断応力は、当該ONyフィルムについて引張試験(試料幅15mm、標点間距離50mm、引張速度100mm/min)を実施し、これにより得られた応力−ひずみ曲線に基づいて求める。
ここで、上記引張試験により得られる応力−ひずみ曲線としては、例えば図1に示すものが挙げられる。
図1において、縦軸はONyフィルムの引張応力σ(MPa)を示し、横軸はONyフィルムのひずみε(ε=Δl/l、l:フィルムの初期長さ、Δl:フィルムの増加長)を示す。ONyフィルムの引張試験を実施すると、ひずみεの増加に伴い、引張応力σが略一次関数的に増加し、所定のひずみεにおいて引張応力σの増加傾向が大きく変化する。本発明ではこの点(ε、σ)を降伏点として定義している。そして、ひずみεが更に増加すると、これに伴い引張応力σも増加し、所定のひずみεに至ると、フィルムが破断する。このような応力−ひずみ曲線を、1つのONyフィルムにつき4方向(MD方向、TD方向、45°方向、135°方向)取得する。
【0020】
本実施形態に係るONyフィルムでは、上記引張試験における4方向(MD方向、TD方向、45°方向、135°方向)の破断までの伸び率が、70%以上である必要がある。つまり、図1の応力−ひずみ曲線のように、フィルム破断時のひずみεが0.7以上であることが必要である。これにより、ONyフィルムがバランス良く伸びるようになり、ラミネート材としたときの絞り成形性が良くなる。なお、上記4方向のうちいずれか一方の伸び率が70%未満である場合は、冷間での深絞り成形等の際にフィルムが破断し易くなり、良好な成形性が得られない。
この際、これらの4方向の伸び率のうち最大伸び率を最小伸び率で除算した値が2.0以下であればより好ましい。これにより、ONyフィルムがさらにバランス良く伸びるようになる。
また、ONyフィルムの4方向の伸び率が75%以上で、かつ、これら4方向の伸び率のうち最大伸び率を最小伸び率で除算した値が2.0以下であれば、より一層優れた成形性が得られるため望ましい。
【0021】
本実施形態に係るONyフィルムでは、例えば図1に示す応力−ひずみ曲線において、伸び率が50%(ひずみε=0.5)となった際の引張応力σと、降伏点における引張応力σとの比である応力比A(σ/σ)が、前記4方向についていずれも2以上、より好ましくは2.2以上である必要がある。これにより、冷間での深絞り成形等におけるピンホールの発生を確実に防止でき、シャープな形状の成形品を製造できる。なお、いずれか一方向での応力比Aが2未満であれば、偏肉が悪く局所的に薄くなり、フィルムが破断する場合がある。
この際、これら4方向におけるそれぞれの応力比Aのうち、最大となる応力比Amaxと最小となる応力比Aminとの比(Amax/Amin)が、2.0以下より好ましくは1.8以下であることが望ましい。これにより、冷間成形時にフィルムがバランス良く伸び、均一な厚みの成形品を製造できる。なお、Amax/Aminが2.0を超えると偏肉が悪く局所的に薄くなり、フィルムが破断する場合がある。
【0022】
さらに、本実施形態に係るONyフィルムは、例えば図1に示す応力−ひずみ曲線において、4方向における引張破断強度(σ)が、それぞれ180MPa以上であることが好ましい。これにより、十分な加工強度を得ることができ、冷間での深絞り成形等の際にONyフィルムがより破断し難くなる。この際、4方向での引張破断強度のうち最大強度を最小強度で除算した値が2.0以下であれば、バランスに優れた加工強度を得ることができるため好ましい。
さらに、ONyフィルムの4方向における引張破断強度が200MPa以上であり、かつ、4方向での引張破断強度のうち最大強度を最小強度で除算した値が1.8以下であれば、よりバランスに優れた加工強度を得ることができるため好ましい。
【0023】
〔ONyフィルムの製造方法〕
以上のようなONyフィルムは、上述したNy6及びMXD6からなるバージン原料と熱履歴品とを所定の混合比で含んだ原料からなる未延伸原反フィルムに対して、MD方向およびTD方向のそれぞれの延伸倍率が2.8倍以上となる条件で二軸延伸した後、160〜200℃で熱処理することで得られる。
二軸延伸方法としては、例えばチューブラー方式やテンター方式による同時二軸延伸あるいは逐次二軸延伸を採用できるが、縦横の強度バランスの点で、チューブラー法による同時二軸延伸により行うことが好ましい。
バージン原料を構成するNy6とMXD6は、いずれもペレット状のものをドライブレンドして使用することが好ましい。また、熱履歴品にもペレット状のものを使用することが好ましい。例えば、本実施形態により得られた二軸延伸ナイロンフィルムを細かく切断・圧縮してペレット状としてもよい。これにより、熱履歴品を、Ny6のペレット及びMXD6のペレットと好適にドライブレンドすることができる。
【0024】
具体的には、本実施形態のONyフィルムは、次のようにして製造できる。
まず、Ny6ペレット、MXD6ペレットおよびペレット状熱履歴品を押出機中、270℃で溶融混練した後、溶融物をダイスから円筒状のフィルムとして押出し、引き続き水で急冷して原反フィルムを作製する。
次に、例えば図2に示すように、この原反フィルム11を一対のニップロール12間に挿通した後、中に気体を圧入しながらヒータ13で加熱すると共に、延伸開始点にエアーリング14よりエアー15を吹き付けてバブル16に膨張させ、下流側の一対のニップロール17で引き取ることにより、チューブラー法によるMD方向及びTD方向の同時二軸延伸を行った。この際、MD方向およびTD方向のそれぞれの延伸倍率が2.8倍以上である必要がある。延伸倍率が2.8倍未満である場合、衝撃強度が低下して実用性に問題が生ずる。
この後、この延伸フィルムをテンター式熱処理炉(図示せず)に入れ、160〜200℃で熱固定を施すことにより、本実施形態のONyフィルム18を得ることができる。
【0025】
〔ラミネート包材の構成〕
本実施形態のラミネート包材は、上記したONyフィルムの少なくともいずれか一方の面に、1層あるいは2層以上の他のラミネート基材を積層して構成されている。具体的に、他のラミネート基材としては、例えばアルミニウム層やアルミニウム層を含むフィルム、シーラント層等が挙げられる。
一般に、アルミニウム層を含むラミネート包材は、冷間成形の際にアルミニウム層においてネッキングによる破断が生じ易いため冷間成形に適していない。この点、本実施形態のラミネート包材によれば、上記したONyフィルムが優れた成形性、耐衝撃性および耐ピンホール性を有するため、冷間での張出し成形や深絞り成形等の際に、アルミニウム層の破断を抑制でき、包材におけるピンホールの発生を抑制できる。したがって、包材総厚が薄い場合でも、シャープな形状かつ高強度の成形品が得られる。
また、当該包材は、ONyフィルム層中にMXD6が含まれているので、優れた耐熱性を示す。このため、当該包材がシーラント層を備えている場合、当該包材をシールバーにより加熱してシール処理した際に当該包材がシールバーに付着することなく、良好なシール処理が実現できる。
さらに、当該包材によれば、ONyフィルム層中に熱履歴品が含まれているので、冷間成形等の際にONyフィルム層内で剥離現象が生じることなく、耐衝撃性に優れた成形品を得ることができる。
【0026】
本実施形態のラミネート包材は、ONyフィルムと他のラミネート基材との全体の厚みが200μm以下であることが好ましい。かかる全体の厚みが200μmを超える場合、冷間成形によるコーナー部の成形が困難となり、シャープな形状の成形品が得られないおそれがある。
【0027】
本実施形態のラミネート包材におけるONyフィルムの厚さは、5〜50μm、より好ましくは10μm〜30μmであることが望ましい。ここで、ONyフィルムの厚さが5μmよりも小さい場合は、ラミネート包材の耐衝撃性が低くなり、冷間成形性が不十分となる。一方、ONyフィルムの厚さが50μmを超える場合、ラミネート包材の耐衝撃性の更なる向上効果が得られず、包材総厚が増加するばかりで好ましくない。
【0028】
本実施形態のラミネート包材に使用するアルミニウム層としては、純アルミニウムまたはアルミニウム−鉄系合金の軟質材からなるアルミ箔を使用することができる。この場合、アルミニウム箔には、ラミネート性能を向上する観点から、シランカップリング剤やチタンカップリング剤等によるアンダーコート処理、あるいはコロナ放電処理等の前処理を施してから、ONyフィルムに積層することが好ましい。
このようなアルミニウム層の厚さは20〜100μmであることが好ましい。これにより、成形品の形状を良好に保持することが可能となり、また、酸素や水分等が包材中を透過することを防止できる。
なお、アルミニウム層の厚さが20μm未満である場合、ラミネート包材の冷間成形時にアルミニウム層の破断が生じ易く、また、破断しない場合でもピンホール等が発生し易くなる。このため、包材中を酸素や水分等が透過してしまうおそれがある。一方、アルミニウム層の厚さが100μmを超える場合、冷間成形時の破断の改善効果もピンホール発生防止効果も特に改善されるわけではなく、単に包材総厚が厚くなるだけであるため好ましくない。
【0029】
なお、本発明を実施するための最良の構成などは、以上の記載で開示されているが、本発明は、これに限定されるものではない。すなわち、本発明は、主に特定の実施形態に関して説明されているが、本発明の技術的思想および目的の範囲から逸脱することなく、以上述べた実施形態に対し、材質、数量、その他の詳細な構成において、当業者が様々な変形を加えることができるものである。
したがって、上記に開示した材質、層構成などを限定した記載は、本発明の理解を容易にするために例示的に記載したものであり、本発明を限定するものではないから、それらの材質などの限定の一部若しくは全部の限定を外した名称での記載は、本発明に含まれるものである。
【0030】
例えば、本実施形態では、二軸延伸方法としてチューブラー方式を採用したが、テンター方式でもよい。さらに、延伸方法としては同時二軸延伸でも逐次二軸延伸でもよい。
また、ONyフィルムには、必要な添加剤を適宜添加することができる。このような添加剤として、例えばアンチブロッキング剤(無機フィラー等)、はっ水剤(エチレンビスステアリン酸エステル等)、滑剤(ステアリン酸カルシウム等)を挙げることができる。
さらに、上記実施形態では、ONyフィルムにアルミニウム層やシーラント層等を積層したラミネート包材を例示したが、これに限定されず、本発明のラミネート包材としては、さらに帯電防止層や印刷層、バリア層、強度補強層などの種々の機能層を積層したものも挙げられる。
【実施例】
【0031】
次に、実施例及び比較例により本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明はこれらの例によって何等限定されるものではない。
[実施例1,2]
(延伸フィルムの製造)
Ny6ペレット及びMXD6ペレットをそれぞれ70質量部及び30質量部の割合で混合したものに対して、すでに一度、この配合比で溶融混合してペレット化した熱履歴品(MXD6の融点が236℃のもの)を原料全量に対して10質量%配合した。このドライブレンド品を押出機中、270℃で溶融混練した後、溶融物をダイスから円筒状のフィルムとして押出し、引き続き水で急冷して原反フィルムを作製した。
なお、MXD6の融点は、パーキンエルマー社製示差走査熱量測定装置(DSC)を用い、昇温速度10℃/minで50℃から280℃まで昇温を行って測定した。いずれもファーストランにおける値を融点とした。
Ny6として使用したものは、宇部興産(株)製ナイロン6〔UBEナイロン 1023FD(商品名)、相対粘度 ηr=3.6〕であり、MXD6として使用したものは、三菱ガス化学(株)製メタキシリレンアジパミド〔MXナイロン 6007(商品名)、相対粘度ηr=2.7〕である。
また、Ny6とMXD6の配合割合を、それぞれ70質量部と30質量部とし、40φEX、シングルスクリュー(株式会社山口製作所製)を用い、270℃で押出したものを熱履歴品とした。
次に、図2に示すように、この原反フィルム11を一対のニップロール12間に挿通した後、中に気体を圧入しながらヒータ13で加熱すると共に、延伸開始点にエアーリング14よりエアー15を吹き付けてバブル16に膨張させ、下流側の一対のニップロール17で引き取ることにより、チューブラー法によるMD方向及びTD方向の同時二軸延伸を行った。この延伸の際の倍率は、MD方向では3.0倍、TD方向では3.2倍であった。
次に、この延伸フィルムをテンター式熱処理炉(図示せず)に入れ、200℃で熱固定を施して、本実施例1に係る、厚さ15μm、3.4%の熱水収縮率を有したONyフィルム18を得た。
実施例2に係るONyフィルム18は、以上の実施例1の製造動作のうち、熱履歴品の配合割合を原料全量に対して20質量%とし、延伸フィルムをテンター式熱処理炉により160℃で熱固定した点以外は、同様の条件で製造している。この実施例2の熱水収縮率は19%で、フィルム厚さは15μmであった。
【0032】
[評価方法]
(引張試験)
ONyフィルム18の引張試験は、インストロン社製5564型を使用し、試料幅15mm、チャック間50mm、100mm/minの引張速度で実施した。ONyフィルム18のMD方向/TD方向/45°方向/135°方向のそれぞれについて測定を行った。各方向について得られた応力−ひずみ曲線に基づいて、各方向での破断伸び率(%)と、これら破断伸び率のうちの最大値と最小値との比率と、各方向での応力比A(A=σ/σ、σ:伸び率50%での引張応力、σ:降伏点での引張応力)と、これら応力比Aのうちの最大値Amaxと最小値Aminとの比率とを求めた。
【0033】
(絞り成形性)
ONyフィルム18を含むラミネート包材の絞り成形性を評価した。
具体的には、まず、実施例1,2に係るONyフィルム18を表基材フィルムとし、L−LDPEフィルム〔ユニラックス LS−711C(商品名)、出光ユニテック(株)製、厚さ120μm〕をシーラントフィルムとして、両者をドライラミネートすることによりラミネート包材を得た。なお、ドライラミネート用の接着剤としては、三井タケダケミカル製のタケラックA−615/タケネートA−65の配合品(配合比16/1)を用いた。また、ドライラミネート後のラミネート包材は、40℃で3日間エージングを行った。
このようにして作製した各ラミネート包材について、平面視長方形(5mm×10mm)の金型を用いて、冷間(常温)で深絞り成形を実施した。この深絞り成形を各ラミネート包材のそれぞれについて10回ずつ実施し、ピンホールやクラックなどの欠陥の発生数を調べた。欠陥の発生数が10回中0回である場合は◎、1〜2回である場合は○、3〜5回である場合は△、6回以上である場合は×として評価した。
【0034】
(層内剥離性)
上述の絞り成形性評価と同様にしてラミネート包材を作製し、このラミネート包材から15mm幅の短冊状試験片を切り出し、その端部を手で数cmほど界面剥離を行い、表基材フィルム(ONyフィルム18)とシーラントフィルムとに分離した。その後、各々のフィルム片を引張り試験機(インストロン万能試験機 1123型)にセットして、300mm/minの速度でラミネート部分の剥離試験を行った(90度剥離)。
剥離試験の最中に表基材フィルム内部で層内剥離が生ずると剥離強度が急激に減少するため、そのような挙動が発現したか否かで層内剥離発生の有無を判別できる。例えば、剥離試験の開始時は、剥離強度が7N/m程度であったものが、剥離試験の途中で急激に1〜2N/m程度に減少すれば、層内剥離が生じたと判断できる。
そして、表基材フィルム内部で層内剥離の挙動を示さないものを○、層内剥離の挙動を示したものを×として評価した。
【0035】
(耐シール性)
上述の絞り成形性評価と同様にしてラミネート包材を作製し、このラミネート包材に対してシール処理を実施した。シール処理では、シールバーの温度を200℃に設定し、シール幅を5mmとし(テフロン(登録商標)テープの貼付無し)、シール時間は10秒とし、シールバーの圧力は2kg/cmとした。ラミネート包材の耐シール性は、上記条件でシール処理を施した際に、包材がシールバーに付着しなかったものは○、包材がシールバーに付着したものは△、包材がシールバーに付着して外観が白化したものは×として評価した。
【0036】
[比較例1]
上記の実施例1の製造動作のうち、熱履歴品の配合割合を原料全量に対して15質量%とし、延伸フィルムをテンター式熱処理炉により210℃で熱固定した点以外は同様にして、比較例1に係るONyフィルム18を製造した。この比較例1の熱水収縮率は2.8%で、フィルム厚さは15μmであった。
【0037】
[比較例2]
上記の実施例1の製造動作のうち、原料にNy6のみ使用し、延伸フィルムをテンター式熱処理炉により195℃で熱固定した点以外は同様にして、比較例2に係るONyフィルム18を製造した。この比較例2の熱水収縮率は5%で、フィルム厚さは15μmであった。
【0038】
これら比較例1,2についても、実施例1,2と同様にして評価試験を行った。
表1に、実施例1,2および比較例1,2についての構成原料、熱履歴品含有率、熱処理温度、熱水収縮率およびフィルム厚さをそれぞれ示す。表2に、実施例1,2および比較例1,2のそれぞれについての引張試験結果を示す。表3に、実施例1,2および比較例1,2のそれぞれについての絞り成形性、層内剥離および耐シール性の評価結果を示す。
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

【0041】
【表3】

【0042】
[評価結果]
表1に示すように、実施例1,2に係るONyフィルム18は、比較例1,2と比較して、絞り成形性、層内剥離および耐シール性のいずれについても優れている。
一方、比較例は、上述の条件を満たしていないため、いずれも、ONyフィルム18の物性に問題がある。具体的には、比較例1は、TD方向および45°方向の応力比Aが2未満であるため、絞り成形性に劣る。また、比較例2は、原料にMXD6を含まないため、耐シール性に劣る。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、冷間成形用包材等に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の実施形態に係るONyフィルムに対して引張試験を行った際に得られる応力−ひずみ曲線の一例。
【図2】前記実施形態に係るONyフィルムを製造する二軸延伸装置の概略図。
【符号の説明】
【0045】
11 原反フィルム
16 バブル
18 延伸フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナイロン6(以後、Ny6ともいう)及びメタキシリレンアジパミド(以後、MXD6ともいう)からなるバージン原料と、Ny6及びMXD6を溶融混練してMXD6の融点を233〜238℃とした熱履歴品とを原料として含む二軸延伸ナイロンフィルムであって、
当該フィルムを95℃の熱水中で30分間保持した場合における、当該フィルムのMD方向およびTD方向の熱水収縮率が3〜20%であり、
当該フィルムの引張試験(試料幅15mm、標点間距離50mm、引張速度100mm/min)における4方向(MD方向、TD方向、45°方向、135°方向)の破断までの伸び率が70%以上であり、かつ、
当該フィルムの前記引張試験における応力−ひずみ曲線において、伸び率が50%となった際の引張応力σと、降伏点における引張応力σとの比である応力比A(σ/σ)が、前記4方向についていずれも2以上である
ことを特徴とする二軸延伸ナイロンフィルム。
【請求項2】
請求項1に記載の二軸延伸ナイロンフィルムにおいて、
前記4方向におけるそれぞれの前記応力比Aのうち、最大となる応力比Amaxと最小となる応力比Aminとの比(Amax/Amin)が、2以下である
ことを特徴とする二軸延伸ナイロンフィルム。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の二軸延伸ナイロンフィルムにおいて、
当該フィルムの前記引張試験における前記4方向の引張破断強度が、いずれも180MPa以上である
ことを特徴とする二軸延伸ナイロンフィルム。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の二軸延伸ナイロンフィルムにおいて、
前記バージン原料は、60〜85質量部のNy6、及び15〜40質量部のMXD6からなり、
前記熱履歴品の含有量が前記原料全量基準で5〜40質量%である
ことを特徴とする二軸延伸ナイロンフィルム。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の二軸延伸ナイロンフィルムにおいて、
前記熱履歴品におけるNy6とMXD6の配合割合は、Ny6:MXD6=60〜85質量部:15〜40質量部である
ことを特徴とする二軸延伸ナイロンフィルム。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の二軸延伸ナイロンフィルムを含むことを特徴とするラミネート包材。
【請求項7】
Ny6及びMXD6からなるバージン原料と、Ny6及びMXD6を溶融混練してMXD6の融点を233〜238℃とした熱履歴品とを原料として含む二軸延伸ナイロンフィルムの製造方法であって、
前記原料で構成された未延伸原反フィルムに対して、MD方向(フィルムの移動方向)およびTD方向(フィルムの幅方向)のそれぞれの延伸倍率が2.8倍以上となる条件で二軸延伸した後、160〜200℃で熱処理を行い、
当該フィルムを95℃の熱水中で30分間保持した場合における、当該フィルムのMD方向およびTD方向の熱水収縮率が3〜20%であり、
当該フィルムの引張試験(試料幅15mm、標点間距離50mm、引張速度100mm/min)における4方向(MD方向、TD方向、45°方向、135°方向)の破断までの伸び率が70%以上であり、かつ、
当該フィルムの前記引張試験における応力−ひずみ曲線において、伸び率が50%となった際の引張応力σと、降伏点における引張応力σとの比である応力比A(σ/σ)が、前記4方向についていずれも2以上である二軸延伸ナイロンフィルムを形成する
ことを特徴とする二軸延伸ナイロンフィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−45015(P2008−45015A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−221052(P2006−221052)
【出願日】平成18年8月14日(2006.8.14)
【出願人】(500163366)出光ユニテック株式会社 (128)
【Fターム(参考)】