説明

二軸船尾双胴型船舶

【課題】船尾形状の工夫により推進効率および輸送効率が向上させられた二軸船尾双胴型船舶を提供する。
【解決手段】船尾に設けられているスケグ12と、プロペラ2201を駆動して推進力を生じさせるポッド推進器220とを備えた二軸船尾双胴型船舶において、モーター74によりインペラ73を回転駆動して経路72内に水の流れを形成することにより、スケグ12と船底20により形成された傾斜を成したトンネル状凹部14外表面の船首側端付近に設けられている境界層吸込口70から境界層の水を吸込み、吐出口71から吸い込んだ水を吐出することにより、トンネル状凹部14における境界層の剥離が生じることを防いで、船体抵抗の増大を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二つのスケグと二つのプロペラとを備えた二軸船尾双胴型船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、船舶分野においても燃料代の高騰やエネルギー、環境問題の高まりから各種の省エネルギー化の実現方法が検討されている。船舶の運航方法や港湾等のインフラを除く船舶そのものを省エネルギー化する方法としては機関の効率アップや船型の改良がある。この船型の改良の一環として船尾におけるプロペラ等の推進器とこの推進器に関連して周辺の船型を工夫したいくつかの先行技術が存在する。
【0003】
特許文献1は、ツイン・スケグを備えた船舶において、そのスケグ下部を船体の中央線から外側に折曲させることにより、スケグ部の抵抗を低減し、航行時の推進性能を向上させることができるとする技術思想を開示する。
【0004】
しかし、この技術は単純に、スケグ形状の工夫により船舶の推進時の船尾上昇流を利用した推進力の向上とスケグ部の抵抗を低減させるということを目して思考されているのみで、トンネル部の工夫による船舶の推進効率、輸送効率の向上を念頭においているものではない。
【0005】
特許文献2は、ツイン・スケグを備えた船舶において、左右のスケグの外側と内側に水平方向のフィンを設置することにより、各スケグ部の内外両側に生じる船尾流れのうちの上昇流を遮ることなく下降流を弱めるように整流させ、下降流に起因する圧力損失を低減させて船体抵抗を低減させることができるとする技術思想を開示する。
【0006】
しかしこの技術思想は、船尾流れの下降流の整流による船体の圧力損失を低減させる思想であり、トンネル部の工夫による船舶の推進効率の向上に関したものではない。
【0007】
特許文献3は、双胴船の左右の船胴間に形成されたトンネル状凹部の後端部に、船体の縦揺れを抑制するための可動式フィンを備え、同フィンへ流入する水の流れを加速すべく、上記トンネル状凹所がその幅を船首部から船尾部へ向かって漸減するように形成されている減揺フィン付き双胴船を開示する。
【0008】
しかし、この技術は、船体の縦揺れを減少させることを目的としたものであり、船舶の推進効率の向上に関したものではない。
【0009】
特許文献4は、船尾部で左右の船体部分の底面にそれぞれ設けられた取水口と、同取水口から船尾端のウォータージェットノズルへ到るダクトと、同ダクト内に介在されたインペラとからなるウォータージェット推進装置を備えた双胴型ウォータージェット推進船に関する技術を開示する。
【0010】
しかし、この技術は、取水口よりも内側方において、気泡流案内用凹溝を設ける構成により、リフトファンによりエアクッション室に圧縮空気を圧入して船体を浮上させながら航走している際に、ウォータージェット推進装置の取水口に漏洩気泡流が取込まれることを防止することを意図するものであり、本願発明とは課題が異なる。
【0011】
特許文献5は、左右舷に一対の細長い側壁を有する双胴船型の形状を持ち、双胴間の少なくとも船首尾端に可撓性材料で作られたシールを備え、双胴船体の船首尾シールで囲まれたエアクッション室に高圧空気を蓄えることにより船体重量の大部分を支持し、その推進装置としてフラッシュタイプのウォータージェットを装備している側壁付き空気圧支持型船舶に関する技術を開示する。
【0012】
しかし、この技術は、双胴船体の両側壁内面に昇降式仕切板フェンスにより、エアクッション圧力を低下させて船体を沈めることなく、ウォータージェットの水取り入れ口からの空気吸い込みの防止を意図するものであり、本願発明とは課題が異なる。
【0013】
特許文献6は、ウォータージェット推進装置に関し、積載量に影響されずに推進力を得ることを目的として、ポンプケーシングの吐出管に設けた切換弁を作動させることにより、加圧水を噴射する噴出口を切換える技術を開示する。
【0014】
しかし、この技術は、貨物の積載状態による喫水線の変化に影響されずに効率よく船舶を航行させることを意図するものであり、本発明とは課題が異なる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2007−223557号公報
【特許文献2】特開2006−341640号公報
【特許文献3】特開昭61−105292号公報
【特許文献4】特開平7−81550号公報
【特許文献5】特開平7−156791号公報
【特許文献6】特開平9−39888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、二つのスケグと二つのプロペラとを備えた二軸船尾双胴型船舶において、特にスケグ間のトンネル部を工夫することにより輸送効率および推進効率が向上させられた二軸船尾双胴型船舶を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
請求項1に記載の本発明の二軸船尾双胴型船舶は、船尾に二つのスケグを有し複数のプロペラが二軸で駆動される二軸船尾双胴型船舶において、二つの前記スケグ間に形成される傾斜を成したトンネル部の外表面に設けられた境界層吸込口と、前記境界層吸込口から水を吸引する吸引手段と、前記吸引手段により吸引した水を吐出する吐出口と、前記境界層吸込口より吸い込んだ水を前記吐出口に送る経路を備えたことを特徴とする。
ここで、「二軸船尾双胴型船舶」とは、水表面下に沈んで水と直接接する下部船体(胴)が船首では単胴であるが船尾では細長く左右二つに平行している二つのスケグを持つ船舶で、左右の各スケグの中心軸上付近に推進手段を少なくとも一つずつ、合計二つ以上備えたものをいう。二軸船尾双胴型船舶とすることにより、船体の安定性が増すためより幅広な船型にでき、積載スペースも増すことができる。
「スケグ」とは、船底部から垂直方向に伸ばされた「ひれ」状の構造物である。スケグという呼称を有しないものであっても、おおよそプロペラの前方にあり、船舶の前進に伴う針路安定化を図る同等の船舶形状あるいは造作であればこれに含まれる。
「プロペラ」とは、エンジンやモーター等推進手段の出力を船舶の推進力へと変換するための装置であり、たとえば推進力を得るための複数枚のブレード(羽根)・ブレードを支持するとともにシャフトからの出力を伝えるハブ・その他の部品を備えて構成されるものでよい。
「複数のプロペラが二軸で駆動される」とは、一つの回転軸に複数のプロペラを備えているのではなく、複数のプロペラがそれぞれ別の駆動軸により回転されるものであることをいう。
「境界層」とは、船舶が進行する際、船体の摩擦の影響を受けて遅くなる領域をいう。すなわち、水のように粘性の大きい流体では、粘性を無視した完全流体の理論が大体あてはまる領域の他に、物体表面の近くにある速度勾配が大きく粘性が無視できない領域があり、これを境界層という。
「境界層吸込口」は、境界層の水を吸い込むものであればよく、境界層の水および境界層以外の水を吸い込むものも含まれる。また、境界層吸込口は、境界層の水を全て吸い込むものが好ましいが、境界層の水のうち、二軸船尾双胴型船舶の抵抗に対する影響が特に大きいトンネル部の外表面近傍の水のみを吸い込むものであっても良い。
【0018】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の二軸船尾双胴型船舶において、前記経路から分岐して前記境界層吸込口より吸い込んだ水を船体内に送る分岐経路を備えたことを特徴とする。
【0019】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の二軸船尾双胴型船舶において、前記経路および/または前記分岐経路の水の量を制御する水量制御手段をさらに備えたことを特徴とする。
【0020】
請求項4に記載の発明は、請求項2あるいは請求項3に記載の二軸船尾双胴型船舶において、前記分岐経路を経て他に送られる水を前記船体内で冷却水として利用したことを特徴とする。
【0021】
請求項5に記載の発明は、請求項1から請求項4のうちのいずれか1項に記載の二軸船尾双胴型船舶において、前記境界層吸込口が前記トンネル部の入口部付近に設けられたことを特徴とする。
ここで、「トンネル部の入口部」とは、船底と二つのスケグにより形成されるトンネル部を構成する面のうち、船底の船首側端をいう。
請求項6に記載の発明は、請求項1から請求項5のうちのいずれか1項に記載の二軸船尾双胴型船舶において、前記境界層吸込口の幅寸法を前記トンネル部の略幅寸法に設定したことを特徴とする。
ここでトンネル部の「幅寸法」とは、船尾に設けられている二つのスケグ間に形成されたトンネル部の船幅方向の寸法をいう。
【0022】
請求項7に記載の発明は、請求項1から請求項6のうちのいずれか1項に記載の二軸船尾双胴型船舶において、二つの前記プロペラがポッド推進器に備えられたものであることを特徴とする。
ここで、「ポッド推進器」とは、紡錘型の中空容器の中に電動機を備えてプロペラを電力によって回転させる推進器あるいは機械式Zドライブなども指し、スケグと推進手段の位置関係をある程度自由に設定できる推進手段である。
【0023】
請求項8に記載の発明は、請求項1から請求項7のうちのいずれか1項に記載の二軸船尾双胴型船舶において、前記トンネル部の外表面が水平方向に対して成す傾斜角の角度が15度以上であることを特徴とする。
【0024】
請求項9に記載の発明は、請求項1から請求項8のうちのいずれか1項に記載の二軸船尾双胴型船舶において、前記吐出口を少なくとも二個備えており、この二個の前記吐出口から吐出される前記水の量を変化させることにより前記二軸船尾双胴型船舶の操船を行うことを特徴とする。
請求項10に記載の発明は、請求項9に記載の二軸船尾双胴型船舶において、前記経路中に二つの前記吸引手段が備えられており、この二つの前記吸引手段を制御することにより二個の前記吐出口から吐出される水の量を変化させることを特徴とする。
請求項11に記載の発明は、請求項9に記載の二軸船尾双胴型船舶において、前記境界層吸込口から前記吐出口までの経路中に前記吸引手段により形成された流れを変化させる可動部を備えており、この可動部を制御することにより二個の前記吐出口から吐出される水の量を変化させることを特徴とする。
ここで「流れを変化させる可動部」とは、たとえば経路中に設けた二個の吐出口から吐出される水の量の比を変化させるベーン状(案内羽根状)の可動部、二個の吐出口から吐出される各々の水の量を制御する弁など、およそ吸引手段以外をもって流れを変化させる可動部を有した構造すべてをいう。
【0025】
請求項12に記載の発明は、請求項1から請求項11のうちのいずれか1項に記載の二軸船尾双胴型船舶において、二軸で駆動される前記プロペラの回転方向を、前記船尾双胴型船舶を前記船尾側から見て、左側に位置する前記プロペラを時計回りに、右側に位置する前記プロペラを反時計回りに設定したことを特徴とする。
【0026】
請求項13に記載の発明は、請求項1から請求項12のうちのいずれか1項に記載の二軸船尾双胴型船舶において、前記プロペラの回転中心を前記スケグのセンター軸からそれぞれオフセットを持たせて位置設定したことを特徴とする。
ここで、「スケグのセンター軸」とは、たとえば当該船舶においておよそスケグと呼べる部分を、船舶の進行方向に垂直な平面で切断した断面形状の中心付近を、スケグの上方から下方まで結んだ線のように、スケグの断面中心付近を貫く軸のことである。
「センター軸からそれぞれオフセットを持たせて位置設定した」とは、一般的には推進手段のプロペラの回転軸とスケグのセンター軸は一致する形が取られているところ、船舶の推進効率の向上を企図してプロペラの駆動軸の中心をスケグのセンター軸からずらして設置したことをいう。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、トンネル部に設けられた境界層吸込口から境界層の水を吸い込むことにより、傾斜を成したトンネル部の外表面から境界層が剥離することを抑制できる。これにより、境界層が剥離して通常とは逆方向の流れが形成されることを抑制し、抵抗の増加を抑えることができる。したがって、二軸船尾双胴型船舶の推進性能の向上を実現することができる。
【0028】
経路に分岐経路を備えた構成とすれば、分岐経路から取り入れた水を種々の用途に用いることができる。
また、水量制御手段を備えた構成とすれば、経路と分岐経路へ水を分配する比率を調整することができる。したがって、経路と分岐経路における必要量に応じて、水を供給することが可能となる。
また、境界層吸込口から取り込んだ水を冷却水として用いる構成とすれば、冷却水を取り込むための構成を別に設ける必要が無くなる。トンネル部から取り込まれた水は、水表面近傍の水と比較して、気泡含有量が少なく温度も低いことから、この水を用いることにより冷却効率が良好となる。
また、境界層吸込口がトンネル部の入口部付近に設けられた構成とすれば、船底の傾斜が急激に変化することから境界層の剥離が生じやすい領域において、境界層を吸い込むことができる。したがって、トンネル部の外表面から境界層が剥離することを効果的に抑制することができる。
また、境界層吸込口の幅寸法をトンネル部の略幅寸法に設定すれば、トンネル部全体にわたって境界層を吸い込むことができるから、トンネル部の外表面から境界層が剥離することを効果的に抑制することができる。
【0029】
二つの前記プロペラをポッド推進器に備えられたものとする構成、すなわち二軸船尾双胴型船舶をポット推進器により駆動する構成とすれば、プロペラを駆動する構造物を小さくすることができるから、プロペラ前方の構造物による伴流への悪影響を抑制することができる。
【0030】
また、トンネル部の外表面が水平方向に対して成す傾斜角の角度を15度以上とした構成とすれば、船底の傾きの始点を従来のものよりも船尾側とすることが可能となる。これにより、二軸船尾双胴型船舶の積載量を大きくして、その輸送効率を向上させることができる。
【0031】
また、吐出口を二個備え、これらから吐出される水の量を変化させる構成とすれば、たとえばポッド推進器や操舵手段を操作することなく、二軸船尾双胴型船舶を操船することができる。
【0032】
また、二軸で駆動されるプロペラの回転方向を、船尾双胴型船舶を前記船尾側から見て、左側に位置するプロペラを時計回りに、右側に位置するプロペラを反時計回りに設定した構成とすれば、トンネル部に形成された上昇流をプロペラのカウンターフローとして有効に利用することができるから、二軸船尾双胴型船舶の推進効率を向上させることができる。
【0033】
また、プロペラの回転中心をスケグのセンター軸からそれぞれオフセットを持たせて位置設定する構成とすれば、プロペラがその回転面で受けるカウンターフローのベクトル量の総和を大きくして、トンネル部に形成された上昇流をプロペラのカウンターフローとして有効に利用することができるから、二軸船尾双胴型船舶の推進効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の実施の形態1の二軸船尾双胴型船舶の船尾部付近をその中心付近において前後方向に切断した状態を模式的に示す断面図
【図2】本発明の実施の形態1の二軸船尾双胴型船舶を後方から見た構成の概略を示す模式図
【図3】本発明の実施の形態1の二軸船尾双胴型船舶のトンネル状凹部を船底側から見た状態の概略を示す模式図
【図4】本発明の実施の形態2の二軸船尾双胴型船舶(例その1)のトンネル状凹部を船底側から見た状態の概略を示す模式図
【図5】本発明の実施の形態2の二軸船尾双胴型船舶(例その2)のトンネル状凹部を船底側から見た状態の概略を示す模式図
【図6】本発明の実施の形態3の二軸船尾双胴型船舶を後方から見た構成の概略を示す模式図
【図7】本発明の実施の形態4の二軸船尾双胴型船舶(例その1)の船尾部付近をその中心付近において前後方向に切断した状態を模式的に示す断面図
【図8】本発明の実施の形態4の二軸船尾双胴型船舶(例その2)の船尾部付近をその中心付近において前後方向に切断した状態を模式的に示す断面図
【図9】本発明の実施の形態4の二軸船尾双胴型船舶(例その3)の船尾部付近をその中心付近において前後方向に切断した状態を模式的に示す断面図
【図10】従来の二軸船尾双胴型船舶の船尾部付近をその中心付近において前後方向に切断した状態を模式的に示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明は、二軸船尾双胴型船舶において、スケグ間のトンネル部に設けた境界層吸い込み装置により、最大の輸送効率を得ることを目的とする。
二軸船尾双胴型船舶のスケグと船底により規定される空間をトンネル部と呼ぶが、このトンネル部の外表面の水平方向に対する傾斜角は船体の抵抗と推進性能に大きく関与する。そして、外表面の傾斜角が約15度を超えると、船体の抵抗が増加し、20度以上では境界層の剥離による抵抗の増加が顕著になる。またトンネル部において生じる速い水の流れ(上昇流)がトンネル部の上部を抜けて水表面近くまで運ばれることから、この速い水の流れをプロペラによって回収すること、すなわちプロペラのカウンターフローとして利用することができない。
そこで、トンネル部に境界層吸込口を設け、境界層の水を吸込むことにより、境界層の剥離を防止し、抵抗の増加を抑制する。また、プロペラの回転方向や位置を工夫し、トンネル部において生じる速い水の流れを利用し、水の流れのエネルギーをプロペラにより効率良く回収可能なものとする。さらに吸い込んだ境界層の水を2箇所から吐出することにより、航海中の操舵としての利用も可能とする。また、吸い込んだ水を分岐経路により分流し、船体内での利用を可能とする。
【0036】
以下、図面を参照して本発明を実施するための形態について説明する。なお、以下では本発明の目的を達成するための説明に必要な範囲を模式的に示し、本発明の該当部分の説明に必要な範囲を主に説明することとし、説明を省略する箇所については公知技術によるものとする。
【0037】
(実施の形態1)
まず、従来の二軸船尾双胴型船舶の問題点について説明する。図10は、従来の二軸船尾双胴型船舶の船尾部付近をその中心付近において前後方向に切断した状態を模式的に示す断面図である。同図に示すように、二軸船尾双胴型船舶では、水表面L下のトンネル状凹部514を囲んでいる船体501の船底520は、船尾部513向かって高くなるように急激に傾斜している。このため、船底520における水の流れに乱れが生じ、抵抗が増加することから、推進性能上不利となる。
特に、図10に示した船底520の水平方向に対する傾斜角ψが15度となるくらいから抵抗が増加し始め、傾斜角ψが20度以上となると境界層の剥離による抵抗の増加が顕著になる。図10で太い破線を用いて示したように、船底520付近の水の流れが、船底520からより遠い領域の水の流れとは反対方向の流れとなることを境界層の剥離という。
【0038】
図1は、本発明の実施の形態1の二軸船尾双胴型船舶の船尾部付近をその中心付近において前後方向に切断した状態を模式的に示す断面図であり、図2は、本発明の一実施形態に係る二軸船尾双胴型船舶を後方から見た構成の概略を示す模式図である。同図に示すように、船体1の船尾部13の水表面L下に、一対のスケグ11・スケグ12、これらのすぐ後ろにそれぞれ設けられている一対のポッド推進器210・ポッド推進器220が備えられている。そして、これら一対のポッド推進器210・ポッド推進器220は、それぞれプロペラ2101・プロペラ2201を備えており、このプロペラの回転により推進力を発生する。また、後に説明する吐出口71からの水の吐出によっても推進力を生じる。
そして、本実施形態の二軸船尾双胴型船舶が推進する際、スケグ11、スケグ12および船体1の船底20で囲まれている船尾部13付近のトンネル状凹部14内において、図2中に破線の中抜き矢印で示した船尾部13方向(図2の手前方向)への強い上昇流Fが発生する。
【0039】
スケグ11およびスケグ12には推進軸などが貫通しないことから純粋に流体力学的観点から最大の推進効率を得るためにその形状を決定でき、具体的にはプロペラにカンターフローを与えるようなひねりを与えることが可能となる。具体的には、スケグ11およびスケグ12の後部は内側に向かってひねられている。すなわち、図2に想像線(二点差線)で示した、ひねられていない場合(適宜、「元のスケグ11’」および「元のスケグ12’」という。)よりも内側にその後部が位置するようにスケグ11およびスケグ12が形成されている。このひねりにより形成される流れをも利用し、プロペラ2101およびプロペラ2201による推進力をさらに向上させることが可能となる。
【0040】
図1は、図2のC1―C2軸に沿って切断した状態を示すが、同図に示すように、本実施形態の二軸船尾双胴型船舶は、境界層吸込口70、吐出口71、経路72、インペラ(吸引手段)73およびモーター(吸引手段)74を備えている。また、インペラとモーターは目的が海水の吸引であることから一般の流体ポンプでも代用できる。経路72に設けられたインペラ73をモーター74により回転させることによって、境界層吸込口70から吐出口71への水の流れを形成し、境界層の水を境界層吸込口70から経路72に吸い込んで、吐出口71から後方に吐出することができる。また、トンネル状凹部14の外表面が水平方向に対して成す傾斜角ψが15度以上に設定されている。
【0041】
境界層吸込口70は、トンネル状凹部14の入口付近に設けられている。このため、トンネル状凹部14の入口付近(図中のA1)において、水の粘性により船底20に近い側の流れが遅くなっている境界層の水を取り除くことができる。この結果として、トンネル状凹部14内に船底20の傾斜角ψに沿って、速度における均一性の高い水の流れ(図中のA2、A3)を形成することができる。このことにより、トンネル状凹部14における境界層の剥離を防止し、抵抗の増加を抑制することができる。この結果として、トンネル状凹部14における船底20の傾斜角ψを15度以上とすることが可能となり、積載容量が大きく輸送効率の高い二軸船尾双胴型船舶を実現することができる。また、船尾部13に設けられているスケグの取り付け部付近に設けた吐出口71から水を後方に吐出することにより、二軸船尾双胴型船舶の推進力を向上させることができる。
なお、境界層吸込口70は、本実施の形態のようにトンネル状凹部14の入口付近に設けられていることが好ましいが、必ずしもこの部分に設けられる必要はない。境界層吸込口70は、境界層の水を取り除く機能を果たせばよいから、トンネル状凹部14入口よりも船首側、または船尾側に設けることとしてもよい。また、境界層吸込口70は、複数個に分割して設けたり、複数段に設けることも可能である。ただし、剥離防止の効果とともにプロペラ2101・プロペラ2201に対する剥離の影響面を考慮すると、少なくともプロペラ2101・プロペラ2201の軸線以下すなわちプロペラの回転軸よりも下方に境界層吸込口70が設けられることが好ましい。
【0042】
図3は、本実施の形態の二軸船尾双胴型船舶のトンネル状凹部14を船底20側から見た状態の概略を示す模式図である。同図においては、向かって左側が船首側、右側が船尾側、上側が左舷側、下側が右舷側であり、手前側が船舶の航行時において下方となる側、奥側が上方となる側である。同図に示すように、境界層吸込口70はトンネル状凹部14入口に、トンネル状凹部14の幅寸法と等しい幅で形成されている。これにより、トンネル状凹部14の入口において、その幅方向の全体の境界層を吸い込むことができるから、抵抗の増加を効果的に抑制することができる。なお、スケグ11およびスケグ12の後部は、図3に想像線で示すように、元のスケグ11’およびスケグ12’が内側に向かってひねられた形状を成している。
【0043】
また、境界層吸込口70から吸い込んだ水を、破線で示した経路72中に設けられたインペラ73およびモーター74により、船体1(図2参照)の船尾部13に設けられている吐出口71から後方に吐出して推進力を向上させることができる。
ただし、吐出口71の主たる機能は、境界層吸込口70から取り込まれた水を吐出することであり、ウォータージェット推進機構の吐出部のように、主な推進力を発生させることではない。このため、インペラ73およびモーター74は、吐出口71から吐出される水の出力がポッド推進器210・ポッド推進器220による推進力よりも小さくなるように設定される。具体的には、ポッド推進器210・ポッド推進器220の出力を100%とすると、好ましくは3〜10%、最大でも30%程度の出力が得られるよう、吐出口71、インペラ73およびモーター74が構成される。
【0044】
以上のように、本実施の形態の二軸船尾双胴型船舶は、トンネル状凹部14に設けられた境界層吸込口70から境界層の水を吸い込むことにより、トンネル状凹部14において境界層の剥離が生じることを抑制して抵抗の増加を抑えることができる。この結果として、トンネル状凹部14における船底20の傾斜角ψを15度以上とすることが可能となるから、積載容量が大きく輸送効率の高い二軸船尾双胴型船舶を実現することができる。
【0045】
(実施の形態2)
実施の形態1において説明したとおり、本発明の二軸船尾双胴型船舶は、境界層吸込口から吸入した境界層の水を吐出口から吐出することにより、抵抗を低減し推進力および輸送効率が向上させられたものである。以下では、吐出口を二個とし、二個の吐出口から吐出される水の量を変化させることにより、船体に回転モーメントを与えて航海中の微小操舵の代替とする実施形態について説明する。なお、実施の形態1において説明した部材については、本実施の形態では説明を省略する。
【0046】
図4は、本実施の形態の二軸船尾双胴型船舶(例その1)のトンネル状凹部14を船底20側から見た状態の概略を示す模式図である。右、左、上、下、手前、奥の関係については、図3において説明したものと同じである。同図に示すように、本実施の形態の二軸船尾双胴型船舶は、船尾部13側から見たときに中心となる部分より右の船尾および左の船尾に各1つずつの吐出口を設けた構成であり、具体的には、船尾部13に吐出口71Aおよび吐出口71Bを備えている。この配置により、スケグ11、12の後方にできる流体の滞留域を減らすことができ、抵抗が減少すると同時に、トンネル状凹部14の上昇流を加速し、プロペラの回転方向に対してよりカウンターフローを強めることができ推進効率が一層向上する。
【0047】
さらに、経路72の吐出口71Aおよび吐出口71Bの付近には、インペラ73Aおよびインペラ73Bが設けられており、モーター74Aおよびモーター74Bにより回転を変化させて、吐出口71Aおよび吐出口71Bから吐出される水の量をそれぞれに変化させることができる。このように、境界層吸込口70から吐出口71Aおよび吐出口71Bまでの経路72中に設けられている二つの吸引手段であるモーター74A・インペラ73Aおよびモーター74B・インペラ73Bを制御することにより、吐出口71Aおよび吐出口71Bからの水の吐出量を変化させることができる。すなわち両者の吐出量を異なるものとすることにより、二軸船尾双胴型船舶に回転モーメントを与えて航海中の微小操舵の代替とすることができる。これにより、ポッド推進器を操舵する必要がなくなりそれに起因するキャビテーションや騒音の問題を抑制することができる。
【0048】
吐出口71Aおよび吐出口71Bは、二軸船尾双胴型船舶に回転モーメントを与えて航海中の微小操舵の代替とすることにより操船するためのものである。このため、吐出口71Aおよび吐出口71Bは、必ずしも船尾部13から後方に水を吐出する位置に設ける必要はない。しかし、これらを船尾部13に設ける構成とすれば、軸船尾双胴型船舶の推進力を向上させることができる。
例えば、境界層吸込口70から吸引した水の後方への吐出は、船尾部13から後方に吐出する構成としなくとも、船側や、船底等から行う構成としてもよい。ただし、船舶の推進性能を向上させるためには、トンネル状凹部14において境界層が剥離することを防止して抵抗を低減させる作用と、抵抗を低減させるために吸引した水を後方に吐出することにより船舶を推進させる作用をいずれも奏するように、水を吐出する方向(ベクトル)は、船舶の後方に向いていることが好ましい。
【0049】
船体に回転モーメントを与える効果は、進行方向に対して真横方向に水を吐出するときに大きくなる。通常、真横に水を吐出するような操船状態は、速度が極めて遅く境界層の剥離が問題にならない状態であるが、境界層の剥離を防止するために吸引した水を、低速時の操船にも使う場合には、真横に水を吐出する構成を採用することも可能である。
上述のとおり、吐出口を設ける位置、個数および水の吐出方向は、推進力の向上効果と回転モーメントの付与効果とを考慮して適宜設定すればよい。
【0050】
吐出される水の量を変化させるための構成は、特に限定されるものではないが、上述したもの以外としては、例えば図5に示す構成が挙げられる。同図は、本実施の形態の二軸船尾双胴型船舶のトンネル状凹部14を船底20側から見た状態の概略を示す模式図である。なお、右、左、上、下、手前、奥の関係については、図3において説明したものと同じである。同図に示した構成では、インペラ73の回転により形成された水の流れを変えるためのベーン状(案内羽根状)の可動部75、座75Aおよび座75Bが、経路72中に設けられており、境界層吸込口70から吐出口71までの経路72中に設けられた可動部75を制御することにより、インペラ73およびモーター74により形成された経路72中の水の流れを変化させる構成としている。
【0051】
図5中に一点鎖線で示したように、この可動部75の方向を変化させることにより、二つに分かれた経路72Aにおける吐出口71Aへの水の流れ、および経路72Bにおける吐出口71Bへの水の流れを制御して、吐出口71Aおよび吐出口71Bからの水の吐出量を変化させることができる。具体的には、可動部75の面の経路72の流れに対する方向を変化させることにより、経路72Aと経路72Bへの水の流れる量を変化させ、吐出される水の量の比を変化させることができる。また、可動部75の回動可能な端部を、座75Aと係合させることにより経路72Aを閉塞させることができ、座75Bと係合させることにより経路72Bを閉塞させることができる。
【0052】
経路72中の水の流れを変化させる構成としては、図5に例その2として示したように、途中から2方向に分岐した経路72A、72Bのうち任意の経路を閉塞または、その経路幅を狭くすることができるよう、他端が回動可能となるように一端が枢支された板状体により可動部75を構成するものが挙げられる。この構成の他、経路72A、72Bのそれぞれに、経路幅を閉塞またはその広狭を調整することができる弁を設けたものを挙げることができる。
【0053】
以上のように、本実施の形態の二軸船尾双胴型船舶は、船尾の左右に各1つずつの合計二個の吐出口を備えており、この二個の吐出口から吐出される水の量を変化させることにより操船を行うことができるものである。
ただし、本実施の形態では、船尾部13に後方に向けて吐出口71Aおよび吐出口71Bを複数設ける構成としたが、この構成に加えて、船側にも吐出口を複数個設けることも可能である。例えば、船尾に二個、船側に二個の計四個の吐出口を設けることができる。この場合、(1)航行中は船尾の二個と、船側の二個とをいずれも後方に向けた状態で吐出し、(2)航行中の方位変更時は、状況に応じて、船尾の二個あるいは、船尾の二個と船側の二個を組み合わせて、吐出量を変更し、(3)入港時等の低速時には、船尾の二個を止め船側の二個の方向を切り替えかつ吐出量制御するなど、吐出口から吐出される水の吐出量を制御する方法には各種のバリエーションが考えられる。
【0054】
(実施の形態3)
実施の形態1において説明したとおり、本発明の二軸船尾双胴型船舶は、境界層吸込口70で境界層を吸い込むことにより、トンネル状凹部14において境界層が剥離することを防止するものである。境界層の剥離を防止することにより、トンネル状凹部14の抵抗を抑制することができる。さらに、境界層吸込口70を設けたことにより、トンネル状凹部14における速い水の流れである上昇流F(図2参照)を推進力の向上に利用するために適したものとする効果をも奏する。
そこで、以下では、プロペラの回転方向や位置を工夫し、この上昇流Fを利用して、推進力を向上させる実施形態について説明する。なお、実施の形態1または2において説明した部材については、本実施の形態では説明を省略する。
【0055】
図6は、本発明の一実施形態に係る二軸船尾双胴型船舶を後方から見た構成の概略を示す模式図である。同図に示すように、船体1の船尾部13に、一対のスケグ11・スケグ12、これらのすぐ後ろにそれぞれ設けられている一対のポッド推進器210・ポッド推進器220が備えられている。
それぞれ×で示すプロペラ2101の軸芯線2101Aとスケグ11のセンター軸11Aとの隔たりをオフセット2Aと、プロペラ2201の軸芯線2201Aとスケグ12のセンター軸12Aとの隔たりをオフセット2Bと、それぞれ表記している。
【0056】
図6に矢印で示したように、ポッド推進器210のプロペラ2101と、ポッド推進器220のプロペラ2201とは反対方向に回っている。より具体的には、ポッド推進器2101は後方から見たときに時計回り、プロペラ2201は後方から見たときに反時計回りとなっており、いわゆる内回りの回転となっている。このため、ポッド推進器210は、図中に一点鎖線を用いた円で示したプロペラ2101の回転面の右半分の領域R1において、上昇流Fをカウンターフローとして用いることができる。同様に、ポッド推進器220は、図中に一点鎖線を用いた円で示したプロペラ2201の回転面の左半分の領域L2において、上昇流Fをカウンターフローとして用いることができる。なお、カウンターフローとは、プロペラの回転方向と逆方向の水の流れをいい、このカウンターフローを利用することにより、プロペラが水を回転させることによるロスを低減し、その推進力を向上させることができる。また、スケグ11およびスケグ12の後部は、図6想像線で示される元のスケグ11’およびスケグ12’を内側にひねった形状を成している。
【0057】
ポッド推進器210およびポッド推進器220をスケグ11およびスケグ12の中心軸からオフセットさせて所定の位置に臨ませるには、それぞれを船底20と連結するための連結部が必要となる。この連結部を縦方向に設けると、トンネル状凹部14における上昇流Fにさらされることにより大きな摩擦抵抗を生ずる原因となるから、推進効率を低下させることになる。
そこで、図6に示すように、本実施の形態の二軸船尾双胴型船舶では、ポッド推進器210およびポッド推進器220を、スケグ11およびスケグ12の横方向に連結することにより、連結部の表面積を小さくし、上昇流Fに連結部がさらされることによる摩擦抵抗の減少を実現している。
【0058】
すなわち、ポッド推進器210は、スケグ11の内側(後方から見たときに右となる側)に設けられたポッドストラット(連結部)21を介してスケグ11に連結されており、ポッド推進器220は、スケグ12の内側(後方から見たときに左となる側)に設けられたポッドストラット(連結部)22を介して、スケグ12に連結されている。ポッド推進器210にオフセットを持たせて臨ませる位置は、通常船底20よりもスケグ11に近い。このため、ポッド推進器210をスケグ11の内側に連結することにより、船底20に縦方向に連結した場合と比較して、ポッドストラット21を小さくすることができる。すなわち、ポッドストラット21がスケグ11の横方向に連結されることにより、結果としてその表面積をきわめて小さく設定できる。また、ポッド推進器210とスケグ11との間は、ポッド推進器210およびと船底20との間よりも上昇流Fの流れが遅い。これらのことは、他方のポッド推進器220をスケグ12の内側に連結するポッドストラット22についても同様である。
【0059】
したがって、ポッドストラット21およびポッドストラット22をスケグ11およびスケグ12の横方向に設けることにより、表面積を極めて小さいものとして構成しかつ流れの遅い部分に配置することができる。これにより、オフセットさせたポッド推進器210およびポッド推進器220を船体1に連結する、ポッドストラット21およびポッドストラット22が、上昇流Fにさらされることに起因する抵抗を小さくすることができる。
【0060】
また、プロペラ2101の回転面の左半分の領域L1の大部分は、スケグ11とポッドストラット21の後ろの水の流れが遅い領域に位置している。また、プロペラ2201の回転面の右半分の領域R2の大部分も同様に、水の流れが遅い領域に位置している。このため、上昇流Fをカウンターフローとして利用することができない領域では、オフセットさせたことによる影響をほとんど受けることがない。したがって、プロペラ2101の軸芯線2101Aをスケグ11のセンター軸からオフセットさせることにより、上昇流Fによる悪影響を受けることはほとんどない。このことは、プロペラ2201についても同様である。
したがって、プロペラ2101およびプロペラ2201をオフセットさせることにより、上昇流Fをカウンターフローとして用いることができるから、推進力が大幅に向上することとなる。
【0061】
また、スケグ11およびスケグ12の後部をプロペラ2101およびプロペラ2201の回転方向と逆方向に(内側に)ひねることにより、一層カウンターフローを強め、推進力をさらに向上できる。すなわち、スケグ11およびスケグ12は、その後部において、トンネル状凹部14を構成する内側面のうち、軸芯線2101Aおよび軸芯線2101Aより下方にある部分の幅が、船首側から船尾部13側に行くにしたがって徐々に狭くなるように形成されている。このため、トンネル状凹部14をスケグ11およびスケグ12の内側面に沿って船首から船尾方向へ流れる水により、図6中に太い鎖線矢印で示した方向の水の流れを形成することができる。このように、スケグ11およびスケグ12をひねることにより、太い実線で示したプロペラの回転方向とは反対方向への水の流れを形成することが可能となる。この結果、カウンターフローとして、上昇流Fに加えて、スケグ11およびスケグ12のひねりにより形成される流れをも利用することができる。したがって、プロペラ2101およびプロペラ2201による推進力をさらに向上させることが可能となる。
【0062】
また、傾斜角の角度を15度以上とした場合、吸引手段および境界層吸込口を備えていなければ、トンネル部における水の流れは減速されやすくなる。しかし、境界層吸込口から境界層を吸い込むことにより、トンネル部における水の流れを制御し、プロペラに対するカウンターフローとして利用するのに適した水の流れとすることができる。このように、境界層吸込口を設けることにより、従来利用することができなかった傾斜角の角度を15度以上とした場合であっても、トンネル部の流れを利用して、二軸船尾双胴型船舶の推進力を向上させることができる。
これにより、船尾部13付近の船底20の傾きに起因する上昇流Fを推進力の向上に利用することができるから、船底20の斜度を大きくすることが可能となる。したがって、船尾部13付近の船底20の傾きの始点を従来よりも後ろにずらして、二軸船尾双胴型船舶の積載量を大きくすることができる。
【0063】
推進手段としてポッド推進器を用いる場合、船底にスケグを形成することにより、推進抵抗が高くなる。このため、ポッド推進器を備えた船舶においては、従来、推進力の向上を目的としてスケグが設けられることはなく、もっぱら船舶に直進性を付与する手段として用いられていた。本発明の発明者は、スケグをプロペラに対するカウンターフローを生成する手段として利用することにより、二軸船尾双胴型船舶の推進力が向上することを見いだした。特に、ポッド推進器は、位置設定の自由度が高い。このため、スケグのセンター軸から十分なオフセットを持たせてプロペラの回転中心を配置することができる。したがって、スケグを設けてトンネル部を形成し、プロペラをスケグのセンター軸からオフセットを持たせて所定位置に配置することにより、スケグによる抵抗増大を補償する以上の推進力向上効果を得ることが可能となる。
【0064】
上述した推進力向上効果は、二つのスケグ間に形成されるトンネル部に境界層吸込口を設けることにより確実に実現可能なものとなる。また、この構成を採用することにより、トンネル状凹部における船底の傾斜角ψを15度以上として、推進力の向上と積載量の増大を併せて実現することができる。
船底の傾斜角ψを20度以上とすると、積載量を増大させる効果をより期待することができ、境界層の剥離も大きくなるところから境界層吸い込みの効果もより顕著となる。さらに船底の傾斜角ψを30度以上とすると、積載量を増大させる効果を一層期待することができ、境界層の剥離もさらに大きくなるところから境界層吸い込みの効果も一層顕著となる。
【0065】
以上のように、本実施の形態の二軸船尾双胴型船舶は、プロペラ2101およびプロペラ2201をスケグ11およびスケグ12のセンター軸からオフセットさせることにより、推進効率を向上させたものである。また、ポッドストラット21およびポッドストラット22を、スケグ11およびスケグ12の横方向に備えていることから、これらが上昇流Fにさらされることによる摩擦抵抗を最小限とすることができる。
【0066】
(実施の形態4)
上述した実施の形態1から3において説明したとおり、本発明の二軸船尾双胴型船舶は、境界層の剥離を防止するために境界層を吸い込む境界層吸込口70を備えている。この境界層吸込口70から取り込まれた水の経路72にシーチェストを設け、分岐させて利用する実施形態について説明する。なお、上述した実施の形態において説明した部材については、本実施の形態では説明を省略する。
【0067】
図7は本実施の形態の二軸船尾双胴型船舶(例その1)の船尾部付近をその中心付近において前後方向に切断した状態を模式的に示す断面図である。同図に示すように、本実施の形態の二軸船尾双胴型船舶は、水表面L下の境界層吸込口70の取り込み口付近に分岐経路76を設けている。この分岐経路76の入り口には、格子状のシーチェスト77が設けられている。分岐経路76から水が取り込まれる際、併せてゴミ等の異物が取り込まれることをシーチェスト77により防止することができる。なお、格子状のシーチェストは、境界層吸込口70部に形成してもよい。
【0068】
図8は本実施の形態の二軸船尾双胴型船舶(例その2)の船尾部付近をその中心付近において前後方向に切断した状態を模式的に示す断面図である。同図に示すように、本実施の形態の二軸船尾双胴型船舶は、境界層吸込口70の取り込み口付近に設けられている分岐経路76内に、水量制御手段として、インペラ78およびモーター79を備えている。
分岐経路76内の水量は、インペラ78を回転させるモーター79により制御することができる。また、経路72内の水量は、インペラ73を回転させるモーター74により制御することができる。このように、経路72および/または分岐経路76の水の量は、モーター74およびモーター79の制御により実現することができる。
【0069】
図9は本実施の形態の二軸船尾双胴型船舶(例その3)の船尾部付近をその中心付近において前後方向に切断した状態を模式的に示す断面図である。同図に示すように、分岐経路76の入り口に、水量制御手段として、水の流れを変えるためのベーン状(案内羽根状)の可動部80を備えた構成とすることもできる。可動部80により、境界層吸込口70から取り込まれた水を可動部80の角度を変化させて、経路72および/または分岐経路76の水の量を制御することができる。
上記した二軸船尾双胴型船舶の例その1、例その2、例その3において、分岐経路76を経て他に送られる水を船体1内で冷却水として利用することが可能である。冷却水として利用する場合、水表面Lよりも相当下方の船底近傍に位置する境界層吸込口70より水を吸い込むため、水表面L近傍で吸い込む場合と比較して、吸い込んだ水の中の波や船舶の航行に伴い発生する気泡の混入量は極めて少ない。このため、境界層吸込口70近傍の水温が水表面Lの水温よりも低いこととも相俟って、船体1内の主機関や補機等の冷却を効率良く行うことが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、大型船舶をはじめとして、小型船舶に対して利用可能であり、さらに、造船業、海運業をはじめとした海事産業全般のみならず、環境面においても広く社会全般に対して大きな有益性をもたらすものである。
【符号の説明】
【0071】
2A、2B オフセット
11、12 スケグ
11A、12A センター軸
210、220 ポッド推進器
2101、2201、 プロペラ
2101A、2201A プロペラ軸心
70 境界層吸込口
71、71A、71B 吐出口
72、72A、72B 経路
73、73A、73B インペラ(吸引手段、水量制御手段)
74、74A、74B モーター(吸引手段、水量制御手段)
75 可動部
76 分岐経路
77 シーチェスト
78 インペラ(水量制御手段)
79 モーター(水量制御手段)
80 可動部(制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船尾に二つのスケグを有し複数のプロペラが二軸で駆動される二軸船尾双胴型船舶において、
二つの前記スケグ間に形成される傾斜を成したトンネル部の外表面に設けられた境界層吸込口と、前記境界層吸込口から水を吸引する吸引手段と、前記吸引手段により吸引した水を吐出する吐出口と、前記境界層吸込口より吸い込んだ水を前記吐出口に送る経路を備えたことを特徴とする二軸船尾双胴型船舶。
【請求項2】
前記経路から分岐して前記境界層吸込口より吸い込んだ水を船体内に送る分岐経路を備えたことを特徴とする請求項1に記載の二軸船尾双胴型船舶。
【請求項3】
前記経路および/または前記分岐経路の水の量を制御する水量制御手段をさらに備えたことを特徴とする請求項2に記載の二軸船尾双胴型船舶。
【請求項4】
前記分岐経路を経て他に送られる水を前記船体内で冷却水として利用したことを特徴とする請求項2あるいは請求項3に記載の二軸船尾双胴型船舶。
【請求項5】
前記境界層吸込口が前記トンネル部の入口部付近に設けられたことを特徴とする請求項1から請求項4のうちのいずれか1項に記載の二軸船尾双胴型船舶。
【請求項6】
前記境界層吸込口の幅寸法を前記トンネル部の略幅寸法に設定したことを特徴とする請求項1から請求項5のうちのいずれか1項に記載の二軸船尾双胴型船舶。
【請求項7】
二つの前記プロペラがポッド推進器に備えられたものであることを特徴とする請求項1から請求項6のうちのいずれか1項に記載の二軸船尾双胴型船舶。
【請求項8】
前記トンネル部の外表面が水平方向に対して成す傾斜角の角度が15度以上であることを特徴とする請求項1から請求項7のうちのいずれか1項に記載の二軸船尾双胴型船舶。
【請求項9】
前記吐出口を少なくとも二個備えており、この二個の前記吐出口から吐出される前記水の量を変化させることにより前記二軸船尾双胴型船舶の操船を行うことを特徴とする請求項1から請求項8のうちのいずれか1項に記載の二軸船尾双胴型船舶。
【請求項10】
前記経路中に二つの前記吸引手段が備えられており、この二つの前記吸引手段を制御することにより二個の前記吐出口から吐出される水の量を変化させることを特徴とする請求項9に記載の二軸船尾双胴型船舶。
【請求項11】
前記境界層吸込口から前記吐出口までの経路中に前記吸引手段により形成された流れを変化させる可動部を備えており、この可動部を制御することにより二個の前記吐出口から吐出される水の量を変化させることを特徴とする請求項9に記載の二軸船尾双胴型船舶。
【請求項12】
二軸で駆動される前記プロペラの回転方向を、前記船尾双胴型船舶を前記船尾側から見て、左側に位置する前記プロペラを時計回りに、右側に位置する前記プロペラを反時計回りに設定したことを特徴とする請求項1から請求項11のうちのいずれか1項に記載の二軸船尾双胴型船舶。
【請求項13】
前記プロペラの回転中心を前記スケグのセンター軸からそれぞれオフセットを持たせて位置設定したことを特徴とする請求項1から請求項12のうちのいずれか1項に記載の二軸船尾双胴型船舶。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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