説明

二軸配向積層ポリエステルフィルム

【課題】寸法安定性に優れ、磁気記録媒体支持体に利用できるポリエステルフィルムを提供すること。
【解決手段】トリメチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを主たる繰り返し単位とするポリエステルAからなるフィルム層Aと、その少なくとも片面にエチレンテレフタレートおよびエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートからなる群より選ばれる1種を主たる繰り返し単位とするポリエステルBからなるフィルム層Bとが積層された積層フィルムであって、フィルムの製膜方向と幅方向のヤング率の比が1.6〜3.5の範囲である二軸配向積層ポリエステルフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境変化、特に温・湿度変化に対して優れた寸法安定性を発現するポリエステルフィルムに関し、特にデジタルデータなどの高密度記録メディアのベースフィルムに適した二軸配向積層ポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルフィルムは、優れた機械的特性、熱的特性および化学的特性とを有することから、各種用途に用いられており、特に寸法安定に優れることからデジタルビデオ用テープやコンピュータのバックアップ用テープ(以後、データテープという)など磁気記録媒体のベースフィルムとして用いられている。
【0003】
このデータテープは、近年記録密度の高密度化が進み、トラックの幅が非常に狭くなってきている。その結果、データテープの走行または保存の間に生じるわずかな熱的・力学的寸法変化や、データを記録する際と読み取る際の温湿度環境の違いにより、データを読み取る磁気ヘッドとトラックの位置とがずれてしまい、データの再生不良を引き起こす問題点が生じてきた。従って、高密度記録に対応するデータテープには、温湿度といった環境変化や走行時にかかる張力などの応力に対して高い寸法安定性が要求されている。特に記録方式がリニア記録方式のデータテープでは、データテープの幅方向により高い寸法安定性が要求されている。
【0004】
このような、データテープのベースフィルムに用いるフィルムの素材としては、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと称することがある。)やポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート(以下、PENと称することがある。)が用いられてきた。しかし、高密度記録のデータテープに求められる寸法安定性の要求はますます厳しくなっており、それだけでは不十分となってきている。
【0005】
一方で、PETやPENのほかに、ポリエステル素材として、ポリトリメチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート(以下、PTNと称することがある)が知られている。例えば、特許文献1では、PTNの配向フィルムを感熱孔版用途に用いることが提案されている。また、特許文献2および3では、PTNの配向フィルムが良好なガスバリア性および耐光性を持つことが提案されている。しかしながら、これら特許文献1〜3の実施例に具体的に開示されたフィルムを追試してみると、湿度膨張係数が従来のPETやPENと同等程度のものでしかなかった。
【0006】
また、特許文献4では、2,6−ポリトリメチレンナフタレート、2,6−ポリテトラメチレンナフタレート、2,6−ポリペンタメチレンナフタレート、及び2,6−ポリヘキサメチレンナフタレートのいずれかからなるフィルムを磁気記録媒体のベースフィルムに用いることが提案されている。また、その実施例の湿度膨張係数を見ると、幅方向のヤング率が9GPaのPENを用いた場合が6.8ppm/%RHで、幅方向のヤング率を11GPaまで高めた2,6−ポリテトラメチレンナフタレートや2,6−ポリヘキサメチレンナフタレートを用いた場合が5.9〜6.4ppm/%RHとある。そして、ポリエステルフィルムの場合、その方向のヤング率が高いほど、分子鎖がその方向に揃っていて湿度膨張係数が低くなる傾向にあることを勘案すると、特許文献4の実施例からは、同程度のヤング率ならPENと、そのグリコール成分の炭素数を変更したものとでは湿度膨張係数はほとんど変わらないことが理解される。なお、特許文献4は、具体的に2,6−ポリトリメチレンナフタレートでの確認はされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−213947号公報
【特許文献2】特開2001−038866号公報
【特許文献3】特開2000−017159号公報
【特許文献4】特開2007−287312号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、PETやPENからなるフィルムが有する温度変化に対する優れた寸法安定性とヤング率などの機械的特性を具備しつつ、さらに優れた湿度変化に対する寸法安定性をも発現できる、特にデータストレージなどの磁気テープのベースフィルムに適したポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決しようと鋭意研究したところ、PETやPENとほとんど湿度膨張係数について変わらないと思われていたポリトリメチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを、高度に配向させることで、その方向の湿度膨張係数をPETやPENに比べて極めて小さくできることを見出した。
【0010】
しかしながら、PTNのフィルムはPETやPENに比べ小さな湿度膨張係数を発現できるものの、ヤング率などが低下しやすく、また温度膨張係数なども非常に大きくなりやすいという問題があった。
【0011】
そこで、本発明者らは、PTNの高度に配向させた方向に極めて小さな湿度膨張係数を発現できる特性を活かしつつ、幅方向および製膜方向のヤング率を向上させるべくさらに研究した結果、エチレンテレフタレートまたはエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを主たる繰り返し単位とするポリエステルと積層し、かつフィルムの製膜方向と幅方向のヤング率の比を極めて大きくすることで、特定の方向に温度膨張係数と湿度膨張係数が小さく、しかも実用上必要な機械的特性を有する二軸配向積層ポリエステルフィルムが得られることを見出し、本発明に到達した。
【0012】
かくして本発明によれば、トリメチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを主たる繰り返し単位とするポリエステルAからなるフィルム層Aと、その少なくとも片面にエチレンテレフタレートおよびエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートからなる群より選ばれる1種を主たる繰り返し単位とするポリエステルBからなるフィルム層Bとが積層された積層フィルムであって、フィルムの製膜方向と幅方向のヤング率の比が1.6〜3.5の範囲である二軸配向積層ポリエステルフィルムが提供される。
【0013】
また、本発明によれば、本発明の好ましい態様として、全フィルム層Aの合計厚みと全フィルム層Bの合計厚みの比が、1:5〜5:1の範囲であること、フィルム層Bのガラス転移温度(TgB)が、フィルム層Aのガラス転移温度(TgA)よりも10〜30℃の範囲で高いこと、フィルムの製膜方向と幅方向のいずれかのヤング率が、5〜13GPaの範囲にあること、フィルムの幅方向のヤング率が5〜13GPaの範囲にあり、磁気記録媒体のベースフィルムに用いられることのいずれかを具備する二軸配向積層ポリエステルフィルムも提供される。
【発明の効果】
【0014】
従来のPETやPENからなるフィルムに比べ、温度変化に対する優れた寸法安定性とヤング率などの機械的特性を具備しつつ、さらに目的とする方向により優れた湿度変化に対する寸法安定性を具備させることができる。そのため、データストレージなどの磁気テープのベースフィルムに極めて好適なポリエステルフィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明におけるポリエステルAは、トリメチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを主たる繰り返し単位とするポリエステルである。ここでいう「主たる」とは、全繰り返し単位のモル数を基準として、80モル%以上を意味する。本発明におけるポリエステルAは、本発明の目的を損なわない範囲で、それ自体公知の共重合成分を共重合しても良い。共重合する場合は、通常全酸成分のモル数を基準として、20モル%以下、更に10モル%以下が好ましい。
【0016】
また、本発明におけるフィルム層Aは、上記ポリエステルAを主成分とし、本発明の目的を損なわない範囲で、ポリエステルAのほかに、他の樹脂や機能剤などを、フィルム層Aの重量を基準として、20重量%以下、さらに10重量%以下の範囲で含有させてもよい。特に、磁気記録媒体のベースフィルムに好適に用いられてきたPENに比べ、PTNはガラス転移温度(以下Tgと称する場合がある)が低くなりやすいので、例えばポリエーテルイミドなどガラス転移温度を高められるような成分を共重合したり、ブレンドしたりすることは好ましい。ポリエーテルイミドをブレンドする場合は、フィルム層Aの重量を基準として、0.05重量%以上20重量%以下が好ましく、特に0.05重量%以上10重量%以下、さらに0.05重量%以上5重量%以下が特に好ましい。上記上限を超えると非晶性のポリエーテルイミドのために延伸性が著しく低下する。また上記下限以下ではポリエーテルイミドのTgを高める効果を十分に発揮できなくなる。
【0017】
本発明におけるポリエステルAの固有粘度(I.V.)は、0.5〜1.2dl/g、さらに0.6〜1.0dl/g、特に0.6〜0.8gl/gの範囲にあることが好ましい。I.V.が下限より下回ると、PTNのフィルム製膜において結晶化が問題になり、均一な延伸が困難になる。他方、I.V.が上限を超えると、高分子鎖の絡み合いにより延伸時の応力が大きすぎて、均一な延伸が困難になる。このような好ましい範囲のI.V.を有するPTNは、溶融重合および固相重合法によるI.V.調整によって合成可能となる。
【0018】
本発明におけるポリエステルBは、エチレンテレフタレートおよびエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを主たる繰り返し単位とするポリエステルである。ここでいう「主たる」とは、全繰り返し単位のモル数を基準として、80モル%以上であることが好ましい。本発明におけるポリエステルBは、本発明の目的を損なわない範囲で、それ自体公知の共重合成分を共重合しても良い。特に、より環境変化に対する寸法安定性を向上させる観点から、国際公開2008/096612号パンフレットに記載された6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分、6,6’−(トリメチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分および6,6’−(ブチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分などを共重合することは好ましい態様である。なお、共重合する場合は、通常全酸成分のモル数を基準として、20モル%以下、更に10モル%以下が好ましい。
【0019】
また、本発明におけるフィルム層Bは、上記ポリエステルBを主成分とし、本発明の目的を損なわない範囲で、ポリエステルBのほかに、他の樹脂やそれ自体公知の機能剤などを、フィルム層Aの重量を基準として、20重量%以下、さらに10重量%以下の範囲で含有させてもよい。特に、後述のPTNを一方向に高度に配向させやすいことから、フィルム層Bのガラス転移温度(TgB)は、フィルム層Aのガラス転移温度(TgA)よりも高いことが好ましく、例えばポリエーテルイミドなどガラス転移温度を高められるような成分を共重合したり、ブレンドしたりすることは好ましい。ポリエーテルイミドをブレンドする場合は、フィルム層Bの重量を基準として、0.05重量%以上20重量%以下が好ましく、特に0.05重量%以上10重量%以下、さらに0.05重量%以上5重量%以下が特に好ましい。上記上限を超えると非晶性のポリエーテルイミドのために延伸性が著しく低下する。また上記下限以下ではポリエーテルイミドのTgを高める効果を十分に発揮できなくなる。
【0020】
本発明におけるポリエステルBの固有粘度(I.V.)は、0.5〜1.2dl/g、さらに0.6〜1.0dl/g、特に0.6〜0.8gl/gの範囲にあることが好ましい。I.V.が下限より下回ると、ポリエステルBのフィルム製膜において結晶化が問題になり、均一な延伸が困難になる。他方、I.V.が上限を超えると、高分子鎖の絡み合いにより延伸時の応力が大きすぎて、均一な延伸が困難になる。このような好ましい範囲のI.V.を有するポリエステルBは、溶融重合および固相重合法によるI.V.調整によって合成可能となる。
【0021】
ところで、本発明の二軸配向積層ポリエステルフィルムは、前述のポリエステルAからなるフィルム層Aと、その少なくとも片面に前述のポリエステルBからなるフィルム層Bとを積層し、フィルムの製膜方向と幅方向のヤング率の比を1.6〜3.5という範囲にしたことを特徴とする。すなわち、フィルム層Aによって湿度膨張係数を低減し、他方フィルム層Bによって、ヤング率などの機械的特性の低下と温度膨張係数の増大とを抑制できたものである。また、単純にこれらのフィルム層AとBとを積層しただけでは、両フィルム層のよいところと悪いところとをそれぞれ足し合わせただけでしかないが、さらにフィルムの製膜方向と幅方向のヤング率の比を1.6〜3.5という範囲にすることで、ヤング率の高い方向について、温度膨張係数を低く抑えつつ、湿度膨張係数を小さくできたのである。そのため、ヤング率の比が上記下限未満では、特定の方向に温度膨張係数と湿度膨張係数とをともに小さくすることは困難になり、他方上限を超えると、ヤング率などの機械的特性を両方向に具備させるのが困難になる。好ましいフィルムの製膜方向と幅方向のヤング率の比は、1.8〜3.2、さらに2.0〜3.0の範囲である。
【0022】
また、具体的なフィルムの製膜方向と幅方向のヤング率としては、ヤング率の高い方向が、その方向の温度膨張係数と湿度膨張係数とを低くしやすい点から、4.0〜13.0GPaの範囲、さらに6.0〜12.0GPaの範囲にあることが好ましい。他方、ヤング率の低い方向は、その方向の機械的特性を実用に耐えうるように維持しつつ、それに直交する方向の温度膨張係数と湿度膨張係数とを低くしやすい点から2.0〜8.0GPa、さらに3.0〜7.0GPaの範囲にあることが好ましい。
【0023】
なお、これらのヤング率の関係は、温度膨張係数や湿度膨張係数が小さくしたい方向が、その用途で求められる方向になるように調整すればよい。例えば、磁気記録媒体のベースフィルム、特に磁気テープのベースフィルムに用いられる場合、フィルムの幅方向がヤング率の高い方向で、そのヤング率が5〜13GPaの範囲にあることが好ましい。
【0024】
また、前述のとおり、フィルム層Aによって湿度膨張係数を低減し、フィルム層Bによってヤング率などの機械的特性を維持することから、全フィルム層Aの合計厚みと全フィルム層Bの合計厚みの比は、1:5〜5:1の範囲であることが好ましい。さらに好ましい全フィルム層Aの合計厚みと全フィルム層Bの合計厚みの比は、1:2〜2:1の範囲である。
【0025】
ところで、一般的にフィルム面内に極めて高度に分子鎖が配向された方向を存在させることで、フィルムの当該方向における湿度膨張係数を低くできるが、ポリエステルAはこうした高度に配向された方向において、ポリエステルBに比べてより湿度膨張係数を極めて小さくでき、驚くべきことに負の湿度膨張係数にすることも可能である。そのため、フィルム層Bでヤング率などの機械的特性を維持しつつ、一方向にフィルム層Aの分子鎖をより高度に配向させることが必要である。そのため、前述のようなヤング率の比の関係を具備させなければならないが、さらにフィルム層Bのガラス転移温度B(TgB)は、フィルム層Aのガラス転移温度(TgA)よりも、10〜50℃高いことが、よりフィルム層Aの配向を一方向に高度に配向させやすいことから好ましい。これは、TgBがTgAよりも高いことで、例えば幅方向にフィルム層Aをより高度に配向させつつ、製膜方向と幅方向にフィルム層Bを配向させようとしたとき、製膜方向の延伸温度を高くしつつ、幅方向の延伸温度を低くするような条件を採用することで、フィルム層Bは両方向にある程度配向させつつ、フィルム層Aは幅方向に優先的に配向するような条件が採用できるからである。他方、フィルム層Bのガラス転移温度が上記上限より高い高分子の場合、フィルム層Aのガラス転移温度との差が大きくなりすぎるため、フィルムを延伸した際にフィルム層Aの分子鎖が配向しない状態で延伸される現象(流動延伸)が生じてしまう。そのような観点から、好ましいTgB−TgAは15〜45℃、さらに20〜40℃の範囲である。なお、製膜方向にフィルム層Aをより高度に配向させたい場合は、製膜方向の延伸温度を低くし、幅方向の延伸温度を高くすればよいことは容易に理解されるはずである。
【0026】
そのような観点から、フィルム層Bはエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを主たる繰り返し単位とするポリエステルか、エチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とするポリエステルにポリエーテルイミドなどガラス転移温度を高くするような成分を共重合またはブレンドしたものが好ましい。
【0027】
つぎに、本発明の二軸配向積層ポリエステルフィルムの好ましい態様について、さらに詳述する。
本発明におけるフィルム層Aは、DSCで測定したガラス転移温度が、70℃以上、さらに75℃以上であることが、耐熱性や寸法安定性の点から好ましい。このようなガラス転移温度は、ガラス転移温度を下げるような成分の割合を制御することで調整できる。なお、通常副生物の少ないホモのPTNであれば、ガラス転移温度は80℃程度であり、よりガラス転移温度の高いものとするには、前述のようにポリエーテルイミドなど、Tgをあげる目的でそれ自体公知の他の共重合成分を共重合したり、ブレンドしたりしても良い。なお、仮にフィルム層Aの重量を基準として、20重量%のポリエーテルイミドをPTNにブレンドすると、動的粘弾性を測定した場合の損失正接において、Tgを約25%高温にすることが可能である。
【0028】
また、本発明におけるPTNは、DSCで測定した融点が、190〜230℃の範囲、さらに190〜225℃の範囲、特に195〜225℃の範囲にあることが製膜性の点から好ましい。融点が上記上限を越えると、溶融押出して成形する際に、流動性が劣り、吐出などが不均一化しやすくなるため生産性は悪化する。一方で、上記下限未満になると、製膜性は優れるものの、芳香族ポリエステルの持つ機械的特性などは損なわれやすくなる。
【0029】
本発明の二軸配向積層ポリエステルフィルムは、フィルム層A(A層)とフィルム層B(B層)とを有していればよく、それらをA層/B層として積層した2層フィルム、A(B)層/B(A)層/A(B)層として積層した3層フィルム、A(B)層/B(A)層/A(B)層/B(A)層として積層した4層フィルム、A(B)層/B(A)層/A(B)層/B(A)層/A(B)層/として積層した5層フィルム、さらにそれらの層数を増やした多層フィルムであってもよいし、本発明の効果を損なわない範囲で、他のフィルム層やコーティング層などを積層したものでも良い。例えば、本発明の二軸配向積層ポリエステルフィルムの表面に厚み1〜50nmの水溶性または水分散性高分子、あるいは溶剤可溶性高分子などからなるコーティング層を積層することは好ましい態様である。特に、本発明の二軸配向積層ポリエステルフィルムは、フィルム層AとBとで、組成の異なるポリエステルを用いており、各層の配向に違いが生じることから、延伸性を高めやすく、また剥離や配向差によるカールを抑えやすいことから、合計のフィルム層の層数が8層以上の多層フィルムであることが好ましく、特に10〜1000層、さらに20〜200層の多層フィルムであることが好ましい。なお、前述の全フィルム層Aの合計厚みと全フィルム層Bの合計厚みは、このように複数のフィルム層AやBがある場合に、それらの厚みを合計したものである。
【0030】
ところで、本発明の二軸配向積層ポリエステルフィルムは、平滑性と層構成を簡便に調整しやすいことから、表裏で表面粗さが異なる積層構造であることが好ましい。特に、磁気記録媒体の走行耐久性や、磁気ヘッドとの走行性の良化、あるいは、巻き取り性などハンドリング性の向上のため、表面粗さが粗い側の表面を構成するフィルム層は不活性粒子を含有させることが好ましい。なお、本発明でいう不活性粒子とは、無機または有機の粒子で、フィルムを形成するポリマー中で本発明の効果を損なうような化学的反応を起こさないものをいう。また、磁気記録テープのベースフィルムに用いるときは、記録特性を損なうような電磁気的影響を与えないものであることが好ましい。このような不活性粒子としては、それ自体公知のものを好適に使用でき、例えば球状シリカ粒子、球状の架橋ポリスチレン粒子、球状のシリコーン粒子などが好適に挙げられる。
【0031】
本発明の二軸配向積層ポリエステルフィルムに含有させる不活性粒子の好ましい平均粒径および含有量は、用途やフィルムの積層構造によって異なるが、例えば磁気記録テープのベースフィルムに用いる場合、以下のようなものが好ましい。
【0032】
まず、磁性層側の表面のフィルム層に含有させる不活性粒子の平均粒径は、0.005〜0.5μmが好ましく、より好ましくは、0.01〜0.3μm、さらに好ましくは0.03〜0.2μm、最も好ましくは0.05〜0.15μmである。含有量は、磁性層側の表面のフィルム層の重量を基準として、0.001〜1重量%が好ましく、より好ましくは0.005〜0.5重量%、さらに好ましくは0.01〜0.3重量%、最も好ましくは0.01〜0.2重量%である。一方、磁性層を形成しない側の表面のフィルム層に含有させる不活性粒子は、2種類以上のサイズの異なる不活性粒子(不活性粒子1と2)を用いることが好ましい。そのため、不活性粒子1の平均粒径は、0.05〜2μmが好ましく、より好ましくは、0.1〜1μm、さらに好ましくは0.2〜0.6μmである。また、不活性粒子2の平均粒経は、0.01〜0.3μmが好ましく、さらに好ましくは0.03〜0.2μm、最も好ましくは0.05〜0.15μmである。また、不活性粒子1の含有量は、磁性層を形成しない側の表面のフィルム層の重量を基準として、0.001〜1重量%が好ましく、より好ましくは0.005〜0.5重量%、さらに好ましくは0.01〜0.3重量%、最も好ましくは0.02〜0.2重量%である。また、不活性粒子2の含有量は、磁性層を形成しない側の表面のフィルム層の重量を基準として、0.001〜1重量%が好ましく、より好ましくは0.005〜0.5重量%、さらに好ましくは0.01〜0.3重量%、最も好ましくは0.02〜0.2重量%である。
【0033】
また、本発明の二軸配向積層ポリエステルフィルムは、磁気記録媒体のベースフィルムに用いる場合、磁性層を形成する側の表面にあるフィルム層は、0.5μm以上、さらに1.0μm以上の厚みを有することが、他のフィルム層に含有される不活性粒子による突き上げによる表面の平坦性低下を抑えやすいことから好ましい。なお、本発明の二軸配向積層フィルムの厚みは、用いる用途に応じて適宜選択すればよく、特に制限されないが、磁気記録媒体のベースフィルムに用いる場合、3〜6μm、さらに3.5〜5μm、特に4〜4.8μmの間にあることが好ましい。
【0034】
本発明の二軸配向積層ポリエステルフィルムは、本発明の効果を損なわない範囲で、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃剤、顔料、染料、脂肪酸エステル、ワックスなどの有機滑剤などが添加されていてもよい。
【0035】
つづいて、本発明の二軸配向積層ポリエステルフィルムの製膜方法について説明するが、本発明はこの方法に制限されるものではない。
まず、本発明の二軸配向積層ポリエステルフィルムを製造するためのポリエステルAおよびポリエステルBは、それ自体公知の方法で製造できる。具体的には、PTNの場合、2,6−ナフタレンジカルボン酸もしくはその低級アルキルエステルとトリメチレングリコールとを、エステル化反応もしくはエステル交換反応させて、さらに所望の固有粘度になるまで重縮合反応させればよい。この際、エステル化反応、エステル交換反応または重縮合反応の反応速度を高めるために、それ自体公知の触媒を好適に使用でき、固相重合などを用いても良い。
【0036】
また、本発明の二軸配向積層ポリエステルフィルムを製造するため、ポリエステルBにPENを用いた場合、PENはそれ自体公知の方法で製造できる。具体的には、2,6−ナフタレンジカルボン酸もしくはその低級アルキルエステルとエチレングリコールとを、エステル化反応もしくはエステル交換反応させて、さらに所望の固有粘度になるまで重縮合反応させればよい。この際、エステル化反応、エステル交換反応または重縮合反応の反応速度を高めるために、それ自体公知の触媒を好適に使用できる。
【0037】
このようにして得られたポリエステルAおよびポリエステルB、さらに必要に応じてそれらに不活性粒子やポリエーテルイミドなど加え、溶融状態でフィードブロックにてそれらを積層し、ダイからシート状に回転している冷却ドラム上に押出し、未延伸積層シートを作成する。
【0038】
そして、得られた未延伸積層シートを、製膜方向(または幅方向)にフィルム層Aのガラス転移温度(Tg)+20℃以上からTg+70℃以下、さらに好ましくはTg+50℃〜Tg+70℃の範囲で、2.0〜4.0倍、さらに好ましくは2.5〜3.5の延伸倍率で延伸を行ない、その後、幅方向(または製膜方向)に、フィルム層AのTg+70℃を上限とした範囲で、3.0〜7.0倍、さらに好ましくは4.0〜6.0の延伸倍率で延伸を行なえばよい。このような延伸方向によって延伸温度に違いを持たせることで、フィルム層Aを幅方向(または製膜方向)に配向させることが可能であり、幅方向の湿度膨張係数および高弾性率が奏される。なお、詳細な延伸条件は、実際に目的とする湿度膨張係数およびヤング率が決まれば、それに応じてその方向により高い延伸倍率の条件で延伸をしたり、延伸温度を低くすること、またはそれと直交する方向の延伸倍率を低くしたり、延伸温度を低くするなどして、湿度膨張係数を低くしたり、ヤング率を高めたりといった調整ができる。
【0039】
もちろん、本発明の二軸配向積層ポリエステルフィルムは、上述のような延伸工程を経た後、弛緩、定長もしくは緊張化で、熱固定処理を行うことが好ましく、その温度は160〜180℃の温度で熱固定処理を行うことが、その後の寸法安定性をより高められることから好ましい。
【0040】
このようにして得られた本発明の二軸配向積層ポリエステルフィルムは、目的とする方向の湿度膨張係数を極めて低いものとすることができ、例えばリニア記録方式のデータテープのベースフィルムに用いれば、磁気ヘッドとの湿度変化による幅方向のトラックの位置がずれる、いわゆるトラックズレによるエラーが極めて低いデータテープとすることができる。
【0041】
なお、このようなデータテープは、本発明の二軸配向積層ポリエステルフィルムの一方の面に、磁性層を形成するための磁性層用塗液を塗布および乾燥することで製造できる。もちろん、必要に応じて、ベースフィルムと磁性層との間に、磁性層の厚みを薄くするための非磁性層を形成したり、磁性層を形成しない側に、データテープとしたときの走行性を向上させるためのバックコート層を形成したりしても良い。
【実施例】
【0042】
次の実施例に基づき、本発明の実施形態を説明する。
<測定方法>
(1)固有粘度(I.V.)
得られたポリエステルの固有粘度は、35℃でのオルソクロロフェノールを溶媒として用いて測定した。
【0043】
(2)ガラス転移温度および融点
ガラス転移温度および融点はDSC(TAインスツルメンツ株式会社製、商品名:Thermal analyst2100)により試料量10mg、昇温速度20℃/minで測定した。
【0044】
(3)ヤング率
得られた配向フィルムを試料巾10mm、長さ15cmで切り取り、チャック間100mm、引張速度10mm/分、チャート速度500mm/分の条件で万能引張試験装置(東洋ボールドウィン製、商品名:テンシロン)にて引っ張る。得られた荷重―伸び曲線の立ち上がり部の接線よりヤング率を計算する。
【0045】
(4)温度膨張係数(αt)
得られた二軸配向フィルムを幅方向が測定方向となるように長さ12mm、幅5mmに切り出し、真空理工製TMA3000にセットし、窒素雰囲気下(0%RH)、60℃で30分前処理し、その後室温まで降温させる。その後25℃から70℃まで2℃/minで昇温して、各温度でのサンプル長を測定し、次式より温度膨張係数を算出する。なお、測定方向が切り出した試料の長手方向であり、5回測定し、その平均値を用いた。
αt={(L60−L40)}/(L40×△T)}+0.5
ここで、上記式中のL40は40℃のときのサンプル長(mm)、L60は60℃のときのサンプル長(mm)、△Tは20(=60−40)℃、0.5は石英ガラスの温度膨張係数(×ppm/℃)である。
【0046】
(5)湿度膨張係数(αh)
得られた配向フィルムを幅方向が測定方向となるように長さ12mm、幅5mmに切り出し、真空理工製TMA3000にセットし、30℃の窒素雰囲気下で、湿度20%RHと湿度80%RHにおけるそれぞれのサンプルの長さを測定し、次式にて湿度膨張係数を算出する。なお、測定方向が切り出した試料の長手方向であり、5回測定し、その平均値をαhとした。
αh=(L80−L20)/(L80×△H)
ここで、上記式中のL20は20%RHのときのサンプル長(mm)、L80は80%RHのときのサンプル長(mm)、△H:60(=80−20)%RHである。
【0047】
(6)二軸配向積層ポリエステルフィルムおよび各フィルム層の厚み
積層フィルムを層間の空気を排除しながら10枚重ね、JIS規格のC2151に準拠し、(株)ミツトヨ製ダイヤルゲージMDC−25Sを用いて、10枚重ね法にて厚みを測定し、1枚当りのフィルム厚みを計算する。この測定を10回繰り返して、その平均値を1枚あたりの積層フィルムの全体の厚みとした。
一方、フィルム層(A)およびフィルム層(B)の厚みは、フィルムの小片をエポキシ樹脂にて固定成形し、ミクロトームにて約60nmの厚みの超薄切片(フィルムの製膜方向および厚み方向に平行に切断する)を作成する。この超薄切片の試料を透過型電子顕微鏡(日立製作所製H−800型)にて観察し、その境界からフィルム層(A)とBの厚みを求めた。
【0048】
(7)不活性粒子の平均粒径
添加する不活性粒子の平均粒径および相対標準偏差は、JIS Z8823−1に準拠する遠心沈降法で得られる粒度分布から得られる数平均値を平均粒径とした。
【0049】
[実施例1]
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル100重量部と1,3−プロパンジオール60重量部およびテトラブチルチタネート0.08重量部を使用し、エステル交換反応を行った。次いで高真空下で重縮合反応を行ない、固有粘度が0.62dl/g、ガラス転移温度が81℃のポリトリメチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート(PTN−1)を得た。
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルとエチレングリコールでエステル交換反応を行ない、次いで高真空下で重縮合反応を行ない、固有粘度が0.63dl/g、ガラス転移温度が117℃のポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート(PEN−1)を得た。
上記原料を十分乾燥した後、2台の押出機に供給し、PTN−1は260℃で溶融押出し、PEN−1は300℃で溶融押出して、49層のフィードブロックで溶融樹脂を積層させたのち、静電印加キャスト法を用いて表面温度50℃のキャスティングドラムにて冷却固化し、未延伸フィルムを作製した。このとき、PEN−1とPTN−1の流量を、表1に示す厚さ比になるように調整し、PTN−1を24層に、PEN−1を25層にそれぞれ均等に分け、両表面層がPEN−1からなるフィルム層になるように溶融状態で交互に積層した。この未延伸フィルムを、115℃の予熱ロールを通して、延伸温度を130℃で製膜方向に2.0倍延伸し、つづいて製膜方向に直交する方向(幅方向に)に延伸温度130℃で5.8倍の倍率で逐次二軸延伸をした後、一旦冷却し、160℃で熱処理を施した。こうして延伸された厚み10μmの二軸配向フィルムをワインダーで巻き取り、PTNとPENからなる積層配向ポリエステルフィルムを得た。
得られた積層配向ポリエステルフィルムの特性を表1に示す。
【0050】
[実施例2]
幅方向の延伸温度を130℃から140℃に変更し、幅方向の延伸倍率を4.8倍に変更して、厚みを10μmになるように調整したほかは、実施例1と同様にして積層配向ポリエステルフィルムを得た。
得られた積層配向フィルムの特性を表1に示す。
【0051】
[実施例3]
製膜方向の延伸温度を130℃から145℃に変更し、幅方向の延伸温度を130℃から135℃に変更し、製膜方向の延伸倍率を2.0倍から3.0倍、幅方向の延伸倍率5.8倍から4.5倍に変更して、厚みを10μmになるように調整したほかは、実施例1と同様にして積層配向ポリエステルフィルムを得た。
得られた積層配向フィルムの特性を表1に示す。
【0052】
[実施例4]
幅方向の延伸倍率5.8倍から5.0倍に変更して、厚みを10μmになるように調整したほかは、実施例1と同様にして積層配向ポリエステルフィルムを得た。
得られた積層配向フィルムの特性を表1に示す。
【0053】
[実施例5]
表1に示す厚み比になるようにPTN−1とPEN−1の流量を調整し、幅方向の延伸温度を140℃、延伸倍率を5.4倍に変更して、厚みを10μmになるように調整したほかは、実施例1と同様にして積層配向ポリエステルフィルムを得た。 得られた積層配向ポリエステルフィルムの特性を表1に示す。
【0054】
[実施例6]
表1に示す厚み比になるようにPTN−1とPEN−1の流量を調整し、幅方向の延伸温度を140℃、延伸倍率を5.3倍に変更して、厚みを10μmになるように調整したほかは、実施例1と同様にして積層配向ポリエステルフィルムを得た。
【0055】
[実施例7]
製膜方向の延伸倍率を2.0倍から3.5倍、幅方向の延伸倍率5.3倍から5.8倍に変更して、厚みを10μmになるように調整したほかは、実施例6と同様にして積層配向ポリエステルフィルムを得た。
得られた積層配向フィルムの特性を表1に示す。
【0056】
[実施例8]
実施例1で作成したPTN−1とPEN−1とを十分乾燥した後、2台の押出機に供給し、PTN−1は260℃で溶融押出し、PEN−1は300℃で溶融押出して、2層のフィードブロックで溶融樹脂を積層させたのち、静電印加キャスト法を用いて表面温度50℃のキャスティングドラムにて冷却固化し、未延伸フィルムを作製した。このときPEN−1とPTN−1の流量は表1に示す厚み比になるように調整した。この未延伸フィルムを、115℃の予熱ロールを通して、延伸温度を130℃で製膜方向に2.0倍延伸し、つづいて幅方向に延伸温度125℃で5.3倍の倍率で逐次二軸延伸をした後、一旦冷却し、160℃で熱処理を施した。こうして延伸された厚み10μmの二軸配向フィルムをワインダーで巻き取り、PTNとPENからなる積層配向ポリエステルフィルムを得た。
得られた積層配向ポリエステルフィルムの特性を表1に示す。
【0057】
[実施例9]
製膜方向の延伸温度を130℃から140℃に変え、幅方向の延伸倍率5.3倍から5.4倍に変更して、厚みを10μmになるように調整したほかは、実施例8と同様にして積層配向ポリエステルフィルムを得た。
得られた積層配向フィルムの特性を表1に示す。
【0058】
[実施例10]
製膜方向の延伸温度を130℃から140℃に変え、幅方向の延伸温度を125℃から150℃に変更し、延伸倍率5.3倍から5.2倍に変更して、厚みを10μmになるように調整したほかは、実施例8と同様にして積層配向ポリエステルフィルムを得た。
得られた積層配向フィルムの特性を表1に示す。
【0059】
[実施例11]
幅方向の延伸温度を125℃から150℃に変更し、延伸倍率5.3倍から5.4倍に変更して、厚みを10μmになるように調整したほかは、実施例8と同様にして積層配向ポリエステルフィルムを得た。
得られた積層配向フィルムの特性を表1に示す。
【0060】
[実施例12]
実施例1で作成したPTN−1とPEN−1とを十分乾燥した後、2台の押出機に供給し、PTNは260℃で溶融押出し、PENは300℃で溶融押出して、3層のフィードブロックで溶融樹脂を積層させたのち、静電印加キャスト法を用いて表面温度50℃のキャスティングドラムにて冷却固化し、未延伸フィルムを作製した。このときPEN−1とPTN−1の流量は、表1に示す厚み比になるように調整し、PTN−1からなるフィルム層の両面に同じ厚みのPEN−1からなるフィルム層が位置するように積層した。この未延伸フィルムを、115℃の予熱ロールを通して、延伸温度を135℃で製膜方向に2.0倍延伸し、つづいて幅方向に延伸温度135℃で6.0倍の倍率で逐次二軸延伸をした後、一旦冷却し、160℃で熱処理を施した。こうして延伸された厚み10μmの二軸配向フィルムをワインダーで巻き取り、PTNとPENからなる積層配向ポリエステルフィルムを得た。
得られた積層配向ポリエステルフィルムの特性を表1に示す。
【0061】
[実施例13]
テレフタル酸ジメチルとエチレングリコールでエステル交換反応を行ない、次いで高真空下で重縮合反応を行ない、固有粘度が0.59dl/g、ガラス転移温度が78℃のポリエチレンテレフタレート(PET−1)を得た。
そして、実施例1で作成したPTN−1と上記PET−1とを十分乾燥した後、2台の押出機に供給し、PTN−1は260℃で溶融押出し、PET−1は280℃で溶融押出して、3層のフィードブロックで溶融樹脂を積層させたのち、静電印加キャスト法を用いて表面温度50℃のキャスティングドラムにて冷却固化し、未延伸フィルムを作製した。このときPET−1とPTN−1の流量は、表1に示す厚み比となるように調整し、PTN−1からなるフィルム層の両面に同じ厚みのPET−1からなるフィルム層が位置するように積層した。この未延伸フィルムを、90℃の予熱ロールを通して、延伸温度を100℃で製膜方向に2.0倍延伸し、つづいて製膜方向に直交する方向(幅方向に)に延伸温度110℃で5.0倍の倍率で逐次二軸延伸をした後、一旦冷却し、160℃で熱処理を施した。こうして延伸された厚み10μmの二軸配向フィルムをワインダーで巻き取り、PTNとPETからなる積層配向ポリエステルフィルムを得た。
得られた積層配向ポリエステルフィルムの特性を表1に示す。
【0062】
[実施例14]
実施例1で作成したPTN−1と実施例13で作成したPET−1とを十分乾燥した後、2台の押出機に供給し、PTNは260℃で溶融押出し、PETは280℃で溶融押出して、49層のフィードブロックで溶融樹脂を積層させたのち、静電印加キャスト法を用いて表面温度50℃のキャスティングドラムにて冷却固化し、未延伸フィルムを作製した。このとき、PET−1とPTN−1の流量を、表1に示す厚さ比になるように調整し、PTN−1を24層に、PET−1を25層にそれぞれ均等に分け、両表面層がPET−1からなるフィルム層になるように溶融状態で交互に積層した。この未延伸フィルムを、90℃の予熱ロールを通して、延伸温度を100℃で製膜方向に3.0倍延伸し、つづいて幅方向に延伸温度110℃で5.5倍の倍率で逐次二軸延伸をした後、一旦冷却し、160℃で熱処理を施した。こうして延伸された厚み10μmの二軸配向フィルムをワインダーで巻き取り、PTNとPETからなる積層配向ポリエステルフィルムを得た。
得られた積層配向ポリエステルフィルムの特性を表1に示す。
【0063】
[実施例15]
実施例13で作成したPET−1に、組成物の重量を基準として、5重量%となるようにポリエーテルイミド(GE社製ウルテム1010(ガラス転移温度:215℃))をブレンドして、(PET−2)を作成した。
そして、実施例1で作成したPTN−1と上記PET−2とを十分乾燥した後、2台の押出機に供給し、PTN−1は260℃で溶融押出し、PET−2は280℃で溶融押出して、49層のフィードブロックで溶融樹脂を積層させたのち、静電印加キャスト法を用いて表面温度50℃のキャスティングドラムにて冷却固化し、未延伸フィルムを作製した。このとき、PET−2とPTN−1の流量を、表1に示す厚さ比になるように調整し、PTN−1を24層に、PET−2を25層にそれぞれ均等に分け、両表面層がPET−2からなるフィルム層になるように溶融状態で交互に積層した。この未延伸フィルムを、90℃の予熱ロールを通して、延伸温度を100℃で製膜方向に3.0倍延伸し、つづいて幅方向に延伸温度110℃で5.5倍の倍率で逐次二軸延伸をした後、一旦冷却し、160℃で熱処理を施した。こうして延伸された厚み10μmの二軸配向フィルムをワインダーで巻き取り、PTNとPET組成物からなる積層配向ポリエステルフィルムを得た。
得られた積層配向ポリエステルフィルムの特性を表1に示す。
【0064】
[実施例16]
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルと6,6’−(エチレンレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸ジエチルエステルとエチレングリコールとでエステル交換反応を行ない、次いで高真空下で重縮合反応を行ない、固有粘度が0.63dl/gの6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分を全酸成分の70モル%となるように共重合したPEN−2を得た。このPEN−2をPEN−1と6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分が全酸成分の15モル%となるようにブレンドして、ガラス転移温度が114℃のPEN−3を作成した。
実施例1で作成したPTN−1と上記PEN−3とを十分乾燥した後、2台の押出機に供給し、PTN−1は260℃で溶融押出し、PEN−3は300℃で溶融押出して、49層のフィードブロックで溶融樹脂を積層させたのち、静電印加キャスト法を用いて表面温度50℃のキャスティングドラムにて冷却固化し、未延伸フィルムを作製した。このとき、PEN−3とPTN−1の流量を、表1に示す厚さ比になるように調整し、PTN−1を24層に、PEN−3を25層にそれぞれ均等に分け、両表面層がPET−2からなるフィルム層になるように溶融状態で交互に積層した。この未延伸フィルムを、115℃の予熱ロールを通して、延伸温度を130℃で製膜方向に2.5倍延伸し、つづいて幅方向に延伸温度130℃で6.0倍の倍率で逐次二軸延伸をした後、一旦冷却し、160℃で熱処理を施した。こうして延伸された厚み10μmの二軸配向フィルムをワインダーで巻き取り、PTNと共重合PENからなる積層配向ポリエステルフィルムを得た。
得られた積層配向ポリエステルフィルムの特性を表1に示す。
【0065】
[比較例1]
実施例1で作成したPTN−1を十分乾燥した後、1台の押出機に供給し、260℃で溶融押出し、静電印加キャスト法を用いて表面温度50℃のキャスティングドラムにて冷却固化し、未延伸フィルムを作製した。このPTN−1の未延伸の単層フィルムを製膜方向に110℃で4.0倍、幅方向に110℃で3.0倍延伸して、一旦冷却し、160℃で熱処理を施した。こうして延伸された厚み10μmの二軸配向フィルムをワインダーで巻き取り、PTNの配向ポリエステルフィルムを得た。
得られた配向フィルムの特性を表1に示す。
【0066】
[比較例2]
製膜方向の延伸倍率を2.0倍から3.5倍、幅方向の延伸倍率を5.8倍から4.5倍に変更し、厚みが10μmになるように未延伸フィルムの厚みを調整したほかは、実施例1と同様にしてPTNの二軸配向フィルムを得た。
得られた積層配向フィルムの特性を表1に示す。
【0067】
[比較例3]
製膜方向の延伸温度を130℃から150℃に変更し、製膜方向の延伸倍率を2.0倍から4.0倍、幅方向の延伸倍率5.4倍から4.8倍に変更して、厚みを10μmになるように調整したほかは、実施例8と同様にして積層配向ポリエステルフィルムを得た。
得られた積層配向フィルムの特性を表1に示す。
【0068】
[比較例4]
製膜方向の延伸倍率を2.0倍から3.0倍、幅方向の延伸倍率6.0倍から4.8倍に変更して、厚みを10μmになるように調整したほかは、実施例11と同様にして積層配向ポリエステルフィルムを得た。
得られた積層配向フィルムの特性を表1に示す。
【0069】
[比較例5]
実施例1で作成したPEN−1を十分乾燥した後、1台の押出機に供給し、300℃で溶融押出し、静電印加キャスト法を用いて表面温度50℃のキャスティングドラムにて冷却固化し、未延伸フィルムを作製した。このPEN−1の未延伸の単層フィルムを、製膜方向に150℃で4.0倍、幅方向に145℃で4.0倍延伸して、200℃で熱処理を施した。こうして延伸された厚み10μmの二軸配向フィルムをワインダーで巻き取り、PENの配向ポリエステルフィルムを得た。
得られた配向フィルムの特性を表1に示す。
【0070】
[比較例6]
実施例13で作成したPET−1を十分乾燥した後、1台の押出機に供給し、280℃で溶融押出し、静電印加キャスト法を用いて表面温度30℃のキャスティングドラムにて冷却固化し、未延伸フィルムを作製した。このPET−1の未延伸の単層フィルムを、製膜方向に100℃で4.0倍、幅方向に120℃で3.0倍延伸して、200℃で熱処理を施した。こうして延伸された厚み10μmの二軸配向フィルムをワインダーで巻き取り、PETの配向ポリエステルフィルムを得た。
得られた配向フィルムの特性を表1に示す。
【0071】
【表1】

【0072】
上記表1中のPTN−1はポリトリメチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート、PEN−1はポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート、PET−1はポリエチレンテレフタレート、PET−2はポリエーテルイミドをブレンドしたポリエチレンテレフタレート、PEN−3は6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸を共重合したPEN、MDは製膜方向、TDはフィルムの幅方向を表す。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の磁気記録媒体支持体は、特にデータストレージ用の高密度記録の磁気テープに好ましく用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリメチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを主たる繰り返し単位とするポリエステルAからなるフィルム層Aと、その少なくとも片面にエチレンテレフタレートおよびエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートからなる群より選ばれる1種を主たる繰り返し単位とするポリエステルBからなるフィルム層Bとが積層された積層フィルムであって、フィルムの製膜方向と幅方向のヤング率の比が1.6〜3.5の範囲であることを特徴とする二軸配向積層ポリエステルフィルム。
【請求項2】
全フィルム層Aの合計厚みと全フィルム層Bの合計厚みの比が、1:5〜5:1の範囲である請求項1記載の二軸配向積層ポリエステルフィルム。
【請求項3】
フィルム層Bのガラス転移温度(TgB)が、フィルム層Aのガラス転移温度(TgA)よりも10〜50℃の範囲で高い請求項1または2のいずれかに記載の二軸配向積層ポリエステルフィルム。
【請求項4】
フィルムの製膜方向と幅方向のいずれかのヤング率が、5〜13GPaの範囲にある請求項1〜3のいずれかに記載の二軸配向積層ポリエステルフィルム。
【請求項5】
フィルムの幅方向のヤング率が4〜13GPaの範囲にあり、磁気記録媒体のベースフィルムに用いられる請求項1〜4のいずれかに記載の二軸配向積層ポリエステルフィルム。

【公開番号】特開2012−45760(P2012−45760A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−188303(P2010−188303)
【出願日】平成22年8月25日(2010.8.25)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【Fターム(参考)】