説明

二酸化チタン繊維の製造方法及び装置

【課題】二酸化チタン粒子を単分散させたコロイド溶液を、基板上で乾燥することにより二酸化チタン繊維を製造する二酸化チタン繊維の製造方法及び装置の提供。
【解決手段】二酸化チタン繊維の製造方法は、二酸化チタン粒子を分散させたコロイド状の溶液を、基板の表面に二酸化チタン膜を形成するように付着させ、二酸化チタン膜を加熱手段7で加熱することにより乾燥する方法において、基板の姿勢を順次変化させ又は上記基板に対して加熱手段7を相対的に順次移動させることによって、前記基板上の二酸化チタン膜の乾燥部位を移動させ、該乾燥部位の移動方向前後位置で二酸化チタン膜の乾燥度合いに一時的な差異を生じさせることにより、乾燥した二酸化チタン膜に移動方向に沿った亀裂を生じさせて二酸化チタン繊維を形成する。上記記載の処置部材を備えたチタン繊維の製造装置1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化チタン粒子を単分散させたコロイド溶液を、基板上で乾燥することにより二酸化チタン繊維を製造する二酸化チタン繊維の製造方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、二酸化チタン粒子を単分散させたコロイド溶液を、当該コロイド溶液と濡れ性のよい基板上で乾燥することにより二酸化チタン繊維を製造する二酸化チタン繊維製造方法は、特許文献1で示されるように既に公知である。
上記特許文献1の二酸化チタン繊維製造方法は、上記コロイド溶液を基板上で乾燥することにより二酸化チタン繊維を製造し、且つ乾燥して得られた二酸化チタン繊維を所定の温度(200℃〜1000℃)で焼成させるものである。また溶液の乾燥工程(すなわち、溶媒の蒸発工程)によりコロイド溶液の濃度が高まるにつれ、二酸化チタン粒子が基板表面に整然と密に充填され二酸化チタン粒子の緻密な充填層を形成し、液面の降下にともなって、液面より上部の基板で二酸化チタン粒子の充填層に等間隔で平行な亀裂を進展させ繊維を形成する。これによりマイクロポア構造またはメソポア構造を有し有効比表面積が大きい繊維を形成するため、単なる円柱状、棒状または円筒状の繊維より吸着性能が向上し、且つ光触媒作用を向上させると共に、剥離問題を生じることなく永続的に固定可能な二酸化チタン繊維を製造しようとするものである。
【特許文献1】特開2004−091315号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
然し、上記特許文献1の二酸化チタン繊維の製造方法は、コロイド溶液中に浸漬した濡れ性のよい基板を水平から傾けてコロイド溶液中に載置した状態で、コロイド溶液の分散媒を蒸発させていくことにより乾燥させるだけなので、液面より上部の基板では二酸化チタン粒子の充填層に等間隔で平行な亀裂を進展させるものの、繊維の形成は蒸散にともなう液面の降下に依存しているものであるため製造効率が悪く、量産をする場合に長い繊維形成には長時間を要すること、及び長時間にわたり溶液を均質に維持する溶液管理、並びに水平から傾けた基板上の溶液を一定の条件のもとに乾燥させる乾燥管理が煩雑になる等の欠点がある。また得られる二酸化チタン繊維の形状や特性にバラツキを生じ易い等の量産上の課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するための二酸化チタン繊維の製造方法及び装置は、第1に、二酸化チタン粒子を分散させたコロイド状の溶液を、基板6の表面に二酸化チタン膜を形成するように付着させ、二酸化チタン膜を加熱手段7で加熱することにより乾燥する方法において、上記基板6の姿勢を順次変化させ又は上記基板6に対して加熱手段7を相対的に順次移動させることによって、前記基板6上の二酸化チタン膜の乾燥部位を移動させ、該乾燥部位の移動方向前後位置で二酸化チタン膜の乾燥度合いに一時的な差異を生じさせることにより、乾燥した二酸化チタン膜に移動方向に沿った亀裂を生じさせて二酸化チタン繊維を形成することを特徴としている。
【0005】
第2に、基板6の端部を二酸化チタン粒子を分散させたコロイド状の溶液に浸漬することを特徴としている。
【0006】
第3に、二酸化チタン粒子を分散させたコロイド状の溶液を収容する容器3内で、水平に対し傾斜させた基板6の少なくとも表面側を上記溶液内に浸漬させて溶液を付着させ、基板6の下端側への液面の相対的下降に伴って、付着した溶液を順次乾燥させることにより二酸化チタン繊維を製造する方法において、前記基板6の傾斜角度を基板6を起立させる方向に変化させることにより、液面を相対的に下降させて乾燥部位を移動させることを特徴としている。
【0007】
第4に、基板6が平板からなり液面に対して基板6を起立方向に順次傾動させることを特徴としている。
【0008】
第5に、基板6が皿状の容器3の底板であり、容器3自体を底板が起立する方向に傾動させることを特徴としている。
【0009】
第6に、容器3に溶液を収容したのち、容器3を乾燥室8に搬入し、乾燥室8内において基板6を起立方向に傾動させることを特徴としている。
【0010】
第7に、乾燥室8内において容器3を移動させながら基板6の傾斜角を変化させることを特徴としている。
【0011】
第8に、二酸化チタン粒子を分散させたコロイド状の溶液を、基板6上に移動方向に交差する方向に近接させたノズル82から排出して供給することを特徴としている。
【0012】
第9に、二酸化チタン粒子を分散させたコロイド状の溶液を、基板6上に塗布することを特徴としている。
【0013】
第10に、内部雰囲気を加熱する加熱手段7及び内部に乾燥対象物を搬入して乾燥後搬出する移送装置2を備えた乾燥室8と、上記移送装置2によって移送され内部に傾斜した基板6を備えると共に、該基板6の表面を浸漬させるように二酸化チタン粒子を分散させたコロイド状の溶液を収容する容器3と、上記乾燥室8内を移動する容器3の基板6を起立させる方向に傾斜角を順次変化させる角度変更装置12とを備えることを特徴としている。
【0014】
第11に、容器3が平板からなる底板と周壁6aとを備え、底板が基板6を兼ねたことを特徴としている。
【0015】
第12に、容器3が移送装置2に載置される固定ベース9に、移送方向と略直交する方向の揺動支点26により上下揺動自在に軸支されてパレット4を構成することを特徴としている。
【0016】
第13に、角度変更装置12が移送装置2の移送方向に沿って乾燥室8内に設置され、移送方向のガイド面を有するレール状の傾斜ガイド29と、容器3の揺動側に設けられ容器3の移送に伴って、上記ガイド面に沿って案内され基板6の傾斜角を変更する従動ガイド28とによって構成されることを特徴としている。
【0017】
第14に、乾燥室8の乾燥対象物搬入側に移送装置2に容器3をストックして順次供給する搬入側ストッカ13を設け、乾燥対象物の搬出側に移送装置2により搬出された乾燥後に、前記容器3を順次ストックする搬出側ストッカ14を設けてなることを特徴としている。
【0018】
第15に、搬入側ストッカ13の上部又は搬入側ストッカ13と乾燥室8の搬入口56との間に、二酸化チタン粒子を分散させたコロイド状の溶液を容器3に供給する溶液供給部18を設けたことを特徴としている。
【0019】
第16に、容器3を搬入側から搬出側に順次移送すべく移送装置2を駆動するアクチュエータと、容器3を移送装置2に移送するために搬入側ストッカ13を待機姿勢に作動させるアクチュエータと、移送装置2側から容器3を順次受け取るべく排出側ストッカ14を待機姿勢に駆動するアクチュエータと、各アクチュエータを制御する制御装置22とをそれぞれ設けたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0020】
上記のように構成した二酸化チタン繊維の製造方法及び装置は次のような効果を奏する。基板の姿勢変化又は加熱手段に対する相対移動によって、乾燥した二酸化チタン膜に移動方向に沿った亀裂を繊維状に生じさせて二酸化チタン繊維を形成する製造方法にしたことにより、均質な二酸化チタン繊維を簡単且つ能率よく連続的に製造することができる。
また基板に対する上記溶液の供給は、基板を溶液に浸漬させることにより溶液の付着を簡単に行なうことができる。また当該溶液を基板の移動方向に交差する方向に近接させたノズルから供給するか、又は基板に塗布するようにすると、溶液量を二酸化チタン膜を形成するだけ基板に供給すればよいので、溶液を無駄なく効率よく付着させることができる。
【0021】
二酸化チタン粒子を分散させたコロイド状の溶液を収容する容器内で、水平に対し傾斜させた基板の少なくとも表面側を上記溶液内に浸漬させて溶液を付着させ、基板の下端側への液面の相対的下降に伴って、付着した溶液を順次乾燥させることにより二酸化チタン繊維を製造するに、前記基板の傾斜角度を基板を起立させる方向に変化させることにより、液面を相対的に下降させて二酸化チタン膜を形成しながら順次乾燥させることができる。その結果移送方向に沿う亀裂を生じさせ、亀裂によって生じる繊維の上端側と下端側の厚さを略一定とした均一な二酸化チタン繊維を簡単且つ能率よく形成することができる。
【0022】
基板が皿状の容器の底板であり、容器自体を底板が起立する方向に傾動させることにより、容器内に溶液を収容し溜めた状態で底板の起立する方向への傾動によって、溶液の付着量を一定にし均一な厚さの二酸化チタン繊維の形成を促進すると共に、基板に対する溶液の供給を行い易くすることができる。
【0023】
容器に溶液を収容したのち、容器を乾燥室に搬入し、乾燥室内において基板を起立方向に傾動させることにより、容器に収容した溶液を乾燥室内で基板の起立傾動によって、基板に対する溶液の付着を順次一定にしながら乾燥させるので、二酸化チタン繊維の形成を簡単且つ速やかに行うことができる。
【0024】
内部雰囲気を加熱する加熱手段及び内部に乾燥対象物を搬入して乾燥後搬出する移送装置を備えた乾燥室と、上記移送装置によって移送され内部に移送方向の前後いずれかの方向に傾斜した基板を備えると共に、該基板の表面を浸漬させるように二酸化チタン粒子を分散させたコロイド状の溶液を収容する容器と、基板に付着した二酸化チタン粒子を乾燥させるために、上記乾燥室内を移動する容器の基板を起立させる方向に傾斜角を順次変化させる角度変更装置とを備える製造装置としたことにより、上記基板の傾斜角度を基板を起立させる方向に変化させて、液面を相対的に下降させて乾燥を行うことができ、均質な二酸化チタン繊維の量産製造を能率よく簡単に行うことができる。また比較的短い乾燥工程を以って均質な繊維を連続的に製造することができるので、製造装置の小型化を図り製造コストを低減することができる。
【0025】
容器が平板からなる底板と周壁とを備え、底板が基板を兼ねた構成とすることにより、角度変更装置によって容器を起立させる方向に傾斜角を簡単に変化させることができ、基板の角度変更構造を簡単で廉価な構成にすることができる。また溶液の供給並びに繊維形成後の容器の清掃や整理等のメンテナンス作業を行い易くすることができる。
【0026】
容器が移送装置に載置される固定ベースに、移送方向と略直交する方向の揺動支点により上下揺動自在に軸支しパレットを構成したことにより、容器をパレットの固定ベースを介して移送装置に安定よく載置することができ、基板の傾動を精度よく行い二酸化チタン繊維の形成を均質にすることができる。
【0027】
角度変更装置が移送装置の移送方向に沿って乾燥室内に設置され、移送方向のガイド面を有するレール状の傾斜ガイドと、容器の揺動側に設けられ容器の移送に伴って、上記ガイド面に沿って案内され基板の傾斜角を変更する従動ガイドとによって構成したことにより、乾燥室内で容器を移送しながら、角度変更装置によって基板の傾斜角度を順次大きくする方向に精度よく変化させ、液面を相対的に下降させて形成される二酸化チタン膜を順次乾燥させるので、均質な二酸化チタン繊維の量産製造を簡単且つ確実に行うことができる。
【0028】
乾燥室の乾燥対象物搬入側に移送装置に容器をストックして順次供給する搬入側ストッカを設け、乾燥対象物の搬出側に移送装置により搬出された乾燥後に、前記容器を順次ストックする搬出側ストッカを設けたことにより、複数の容器を纏めて搬入側ストッカにストックでき、ストックした容器を移送装置に順次供給し乾燥工程後の容器を搬出側ストッカに順次纏めてストックできるため、繊維製造の自動化をすることができると共に、容器取扱い上の利便性を高めることができる。
【0029】
搬入側ストッカの上部又は搬入側ストッカと乾燥室の搬入口との間に、二酸化チタン粒子を分散させたコロイド状の溶液を容器に供給する溶液供給部を設けたことにより、搬入側ストッカから移送装置により乾燥室に搬入する直前で溶液の供給を行うことができる。また搬入側ストッカに対する容器のストックを簡単にすることができる。
【0030】
容器を搬入側から搬出側に順次移送すべく移送装置を駆動するアクチュエータと、容器を移送装置に移送するために搬入側ストッカを待機姿勢に作動させるアクチュエータと、移送装置側から容器を順次受け取るべく排出側ストッカを待機姿勢に駆動するアクチュエータと、各アクチュエータを制御する制御装置とをそれぞれ設けた構成にすることにより、二酸化チタン繊維の量産製造を省力的且つ経済的に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。図1は本発明に係わる二酸化チタン繊維製造装置1の全体構造を示す正面図であり、図2は図1の平面図である。図3は図1の左側面図で、図4は図1の右側面図である。図5は図1の移送装置2の構成を示す左側面図である。図6は移送装置2によって移送される容器3を有するパレット4及び角度変更装置の構成及び作用を示す正面図である。図7は容器3の基板6及びパレット4の実施形態を示す正面図であり、図8は図7の平面図で、図9は底面図で、図10は図7の左側面図であり、図11は図7の右側面図である。図12は別実施形態に係る製造装置1の全体構造を示す斜視図である。図13はさらに別実施形態に係る製造装置1の全体構造を示す正面図である。
【0032】
この二酸化チタン繊維の製造装置1は装置本体11の略中央部に、内部雰囲気を加熱する加熱手段7と、後述する乾燥対象物としての溶液を収容する容器3を備えるパレット4を移送装置2により搬入して乾燥後搬出する乾燥室8を設けている。上記移送装置2は移送方向の前後いずれかの方向に傾斜した基板6を移送することができ、この実施形態では基板6の表面を濡らすように溶液を収容する容器3を備えた複数のパレット4を載置し、乾燥室8内で移動する容器3の基板6を起立させる方向に傾斜角を順次変化させる角度変更装置12を備えている。
【0033】
また移送装置2は前後側を乾燥室8の前後両側に延長させており、前側(乾燥対象物搬入側)に容器3をストックして順次繰り出し供給する搬入側ストッカ13と、後側(乾燥対象物搬出側)に乾燥室8から移送搬出された容器3を順次収納してストックする搬出側ストッカ14とを接続自在に備えている。
そして、移送装置2の乾燥対象物搬入側には、搬入側ストッカ13から容器3を備えたパレット4を移送装置2に供給するパレット供給装置16を設けている。また乾燥対象物搬出側には、移送装置2から容器3を搬出側ストッカ14に搬出供給するパレット搬出装置17を設けている。
【0034】
移送装置2の上方で搬入側ストッカ13と乾燥室8との間には、二酸化チタン粒子を分散させたコロイド状溶液を容器3に供給する溶液供給部18を配置しており、該溶液供給部18は供給管19から移送中のパレット4の容器3に対し、上方から溶液を自動的に充填供給することができる。
そして、製造装置1は装置本体11の正面側に、上記移送装置2,加熱手段7,搬入側ストッカ13,搬出側ストッカ14,パレット供給装置16,パレット搬出装置17等の各作業部が備えるアクチュエータを作動制御する制御装置22を設けている。即ち、制御装置22は搬入側ストッカ13から移送装置2への移送と、乾燥前後の容器3の乾燥室8に対する搬入及び搬出、搬出側ストッカ14への移送と、容器3への溶液の供給等を設定されたプログラムよる自動運転又は手動操作運転を行うことができる。
【0035】
上記のように構成される製造装置1は、溶液を収容する容器3内で水平に対し傾斜させた基板6の少なくとも表面側を上記溶液内に浸漬させて溶液を付着させ、付着溶液による二酸化チタン膜を順次乾燥させることにより二酸化チタン繊維を製造する方法をとることができ、このとき前記基板6を角度変更装置12によって傾斜角度を基板6を起立させる方向に変化させることにより、基板6に対して液面を相対的に下降(乾燥部位を移動)させて乾燥を早め、二酸化チタン繊維の量産製造を容易にすると共に、生産コストを低減することができる。
【0036】
以下製造装置1の各部の構成及び作用について詳述する。先ず図7〜図10を参照し容器3及びパレット4について説明する。この容器3は平面視で方形状の皿体としており、凹入形成された平板からなる底板が基板6を兼ねており、該基板6の外周に周壁6aを立設した構成となっている。尚、図示例の容器3は縦横330ミリ程度の方形状となし且つ深さを20ミリ程度とし、内部に530g程度の溶液を収容するようにしている。
パレット4は移送装置2に載置可能な固定ベース9に、容器3を移送方向と直交する方向の揺動支点により上下揺動自在に軸支し、移送装置2による移送中にパレット4の基板6を後述する所定の搬送角を有して傾動変化させ乾燥室8内での乾燥を行い易くしている。
【0037】
即ち、パレット4は固定ベース9に対し、容器3を移送方向上手側に設ける回動軸26に上下揺動自在に軸支し、且つ移送方向下手側にコイル状のスプリングからなる緩衝部材27を設けている。
また図示例のパレット4は、移送方向下手側で左右の周壁6aから外側方に突出させる支持軸28aに従動ガイドとしてのローラ28を回転自在に軸支しており、該ローラ28が移送装置2の左右に沿って設けられる傾斜ガイド(ガイドレール)29のガイド面に載って転接するとき、容器3を回動軸26を支点に上動させて底板を兼ねる基板6を移送方向に向かって上向きに傾斜せしめ、溶液乾燥傾斜角を変化させながら移送を行うことができる。
【0038】
尚、本実施形態の容器3は、固定ベース9に設ける基板6を容器となるように構成したが、例えば図7に点線で示すように、容器3を単一なトレー状となし、当該容器3を周壁6aに着脱自在に載せるように構成してもよい。この場合には容器3はパレット4から簡単に取り外すことができるので、容器3の清掃や取り扱いを簡単にすることができる。また上記容器3は耐熱性材料で形成することにより、繊維製造工程で用いたものをそのまま焼成工程用の容器として利用することができる。
【0039】
また基板6はコロイド溶液に対し濡れ性の良い金属基板,サファイヤ基板,セラミック等であることが望ましく、分散媒が水の場合にはガラス基板、分散媒がアルコールの場合にはガラス基板やプラスチック基板(ポリプロピレンなど)を用いることが好ましい。ここで濡れ性とは、溶液の基板に対しての濡れが良好であることを意味し、現象論的には、液滴が基板上で「はじかない」ことをいう。濡れ性がよいとは、殆どの場合、表面張力が大きくない関係ということができる。
【0040】
次に製造装置1について図1〜図6を参照し説明する。この製造装置1はパレット4を乾燥室8に搬入して乾燥後搬出する移送装置2を、スノコ状の無端帯コンベアとしてパレットを安定載置する広幅にしており、搬送面側を水平状態となして乾燥室8内をパレット4を載置した状態で毎分5ミリ程度の緩速度で移送させるように構成している。
この移送装置2は装置本体11の前後端部に軸支される張設輪31,32と、非搬送側で駆動輪33と複数の転輪33aに巻き掛け、且つ上記張設輪31,32の間に図示しないコンベアガイドを設け、移送装置2を移送水平状態を保持するように支持し、載置されるパレット4を安定姿勢で振動させることなく移送することができる。
【0041】
また移送装置2が備える図6で示す角度変更装置12は、その傾斜ガイド29を装置本体11側からコンベアに沿わせて構成している。これにより移送装置2はパレット4を載置した状態で移送するとき、角度変更装置12によって基板6の傾斜角を変化させて基板6に付着した溶液(二酸化チタン膜)の乾燥を促進し、二酸化チタン繊維の形成を速やかに且つ均質に行うようにしている。
即ち、実施形態による角度変更装置12は、乾燥室8内に移送装置2の移送方向に沿って設置され、移送方向のガイド面を有するレール状の傾斜ガイド29と、容器3の揺動側に設けられ容器3の移送に伴って、上記ガイド面に沿って案内され基板6の傾斜角を変更する従動ガイド(図示例ではローラ)28とによって構成している。
【0042】
図示例の傾斜ガイド29は、1000ミリ程度の全長とした乾燥室8内に沿設しており、ガイド面の傾斜角は乾燥室8の入口付近における入口傾斜角αを0.33度程度となし、出口付近での出口傾斜角θが1.49度程度になるように全体を傾斜させて設置している。また傾斜ガイド29の両端には上り傾斜面と下り傾斜面を一連に形成し、ローラ28を傾斜ガイド29へスムーズに誘導し、また乾燥室8から搬出されたパレット4の容器3のスムーズな下降ガイドを行うようにしている。
これにより角度変更装置12は、パレット4が乾燥室8中を移送される乾燥初期から乾燥終期に至る間に、容器3の基板6を起立させる方向に0.348°/h程度の緩やかな上向き角度変化量を付与している。これにより傾斜ガイド29はローラ28を転接させ基板6の傾斜角を順次変化させ、付着溶液で形成される二酸化チタン膜をより均一な厚みとし、後述する乾燥室8内の各ゾーン毎に設定された温度による乾燥を受けさせるので、溶液の速やかな乾燥と二酸化チタン繊維の製造を均質に行わせることができる。
【0043】
尚、実施形態の容器3は平板からなる底板と周壁6aとを備え、底板が基板6を兼ねた構成とすることにより、角度変更装置12によって容器3を起立させる方向に傾斜角を順次変化させることができるので、基板6の角度変更構造を簡単且つ廉価にすることができるが、別体の平板で形成した基板6を容器3内の溶液に浸漬させた状態で角度変更装置12によって傾動させることもでき、この場合は容器3を固定した状態で、基板6の表面に溶液を付着させて二酸化チタン繊維を製造することができる。
【0044】
また移送装置2の前部上方に設置されるパレット供給装置16は、その先端を搬入側ストッカ13の上方でパレット幅の略中央部に臨ませるように延設しており、搬入側ストッカ13から繰り出されるパレット4を移送装置2に中継移送する。
即ち、図示例のパレット供給装置16は、装置本体11側からチェンフレーム41とモータ42とを移送装置2の上方に臨ませて設けており、チェンフレーム41の先端に軸支される従動スプロケット43とモータ42が有する駆動スプロケット44とに、搬入爪46を所定の間隔を有して複数突設したチェン47を巻き掛けた構成としている。
【0045】
一方パレット搬出装置17は乾燥室8の後部に設置しており、先端部を搬出側ストッカ14の上方でパレット幅の略中央部に臨ませるように延設しており、乾燥室8から送り出されるパレット4を移送装置2からパレット搬出装置17に継送して格納することができる。このパレット搬出装置17は前記パレット供給装置16と同様な駆動及びチェン張り構造としており、このチェン47にも前記搬入爪46と同様な爪形状の搬出爪46aが設けられ、該搬出爪46aをパレット4に係合させて、移送装置2からパレット搬出装置17内に収納することができる。
【0046】
次に乾燥室8について図1,図2,図5を参照し説明する。この乾燥室8は内部雰囲気を加熱する加熱手段(ヒータ)7を移送装置2に沿って上下に配置していると共に、装置本体11内に容器3に向けて加熱エアーを供給するブロア52を設置し、該ブロア52に通ずるノズル53を前記各ゾーン毎に臨ませて設けている。また乾燥室8はカバー54で覆われており、乾燥室8の前後面のカバーに移送装置2の搬送面側を通しパレット4の搬入及び搬出をさせる搬入口56と搬出口57を形成している。
【0047】
この構成により、乾燥室8は移送装置2を介し内部にパレット4を搬入して乾燥後搬出することができ、加熱手段7及びブロア52によって内部雰囲気を溶液に好適な乾燥環境となし、また蒸散される水分を換気排出し溶液の乾燥効率を促進するようにしている。
また実施形態の乾燥室8は、全長を1000ミリ程度としこの間を略等間隔で3ゾーンに区画し、各ゾーンの加熱(乾燥)温度を、搬入側の第1ゾーンAでは130℃程度とし、中間の第2ゾーンBでは120℃程度とし、搬出側の第3ゾーンCでは130℃程度にしている。これにより機外に臨む搬入搬出での降温を抑制し各ゾーンを平均的温度となして均質な乾燥を行うようにしている。尚、ブロア52から送りだされる送風温度は110℃程度としており、加熱手段7による温度調整により各ゾーン毎の温度を設定調節している。
【0048】
次に搬入側ストッカ13及び搬出側ストッカ14について説明する。搬入側ストッカ13は、パレット4を上下段に収納自在とする棚を形成したストッカ58を、機体フレーム59に設置したリフタ61に載置し昇降可能に設置している。上記ストッカ58は4本の支柱フレーム58aを棚を形成する横フレーム62によって連結することにより平面視でコ字状に形成され、そのコ字状の開放部位をパレット供給装置16側に対面させてセットすると、最上段の横フレーム62を移送装置2始端部の高さと同等又はやや上位となる高さに位置決めすることができる。
【0049】
上記構成により、搬入側ストッカ13はストッカ58の各棚にパレット4を収納した状態で、図示例のように最上段の棚に収納されたパレット4をパレット供給装置16先端直下に臨ませることができる。そして、パレット供給装置16のチェン47が移送方向に回動することにより、パレット4の適所即ち実施形態では容器3を形成する周壁6aに搬入爪46を係合させてパレット4を移送方向に回動している移送装置2の上に搬入する。
またパレット供給装置16は移送装置2の移送速度より高速に設定されており、パレット4は所定の位置まで移送され搬入爪46がパレット4から離脱すると、以後は移送装置2による低速度によって移送され、次いでパレット4は移送初期において溶液供給部18による溶液の供給を受けて乾燥室8に搬入移送される。
【0050】
また第1のパレット4の搬入移送を完了し且つ移送装置2の始端部側が次位のパレット4を搬入可能状態にするとき、当該状況の検出又はプログラム制御によってリフタ61を作動せしめ、第2のパレット4をパレット供給装置16の直下に臨ませ搬入姿勢位置に停止させることができる。これによりパレット供給装置16によって第2のパレット4を移送装置2に供給することができ移送装置2による移送が開始される。このとき第1のパレット4と第2のパレット4との間及び後続のパレット4との間に、所定の移送間隔Kを有し搬入,移送,搬出を連続的に行うことができる。
【0051】
一方搬出側ストッカ14は搬入側ストッカ13と同様な構成で作業を行うようにしており、重複する構造説明は省略するが、当該搬出側ストッカ14はパレット搬出装置17の後部に対しストッカ58の開放部を対面させてセットしている。そして図4で示すようにストッカ58は、作業初期位置をリフタ61によって最上昇させた位置で待機させるようにしており、ストッカ58の最下段の棚は、移送装置2終端部の高さと同等又はやや下位となる高さに位置決めされる。
これにより搬出側ストッカ14は、パレット搬出装置17の搬出爪46aに係合移送されるパレット4を、前記最下段の横フレーム62で形成される棚内に速やかに収納することができる。
【0052】
次いで上記第1の収納作業を完了すると、ストッカ58はリフタ61の一段下降作動によって第2の棚にパレット4を収納することができる収納姿勢位置に待機させるので、同様な作業によって収納作業を連続して行うことができる。尚、図示例のリフタ61はパンタグラフ型のリンク機構をアクチュエータ(図示せず)によって伸縮作動させる例を示したが、ストッカ58を油圧又は空圧で作動させるシリンダ機構或いは支柱フレーム58aに沿わせたネジ棒を回動させるネジ機構となしストッカ58を昇降作動することもできる。
【0053】
次に移送装置2の前部側に設置される溶液供給部18について説明する。図示例の溶液供給部18は二酸化チタン粒子を分散させたコロイド状溶液を、搬入側ストッカ13から移送装置2に安定載置されて角度変更装置12に至る容器3に供給する構成としており、液こぼれのない溶液供給を速やかに行うことができる。
この実施形態における溶液供給部18は、二酸化チタンゾルを収容するタンク18aと、二酸化シリコンゾルを収容するタンク18bと、水を収容するタンク18cを備え各ゾルと水を、例えば超音波発生装置付きの混合タンク18dで混合させることにより、二酸化チタン粒子を単分散させたコロイド状溶液となし、移送中のパレット4の容器3に上方からノズル19によって、上記溶液を1バッチ必要量毎に自動的に供給するようにしている。
【0054】
上記各溶液は経済的な量産を指向する上で市販されているものを使用しており、例えば1バッチ必要量当たり二酸化チタンゾルは固形分量を6.36g程度含む31.78gの20%溶液とし、二酸化シリコンゾルは固形分量を4.64g程度含む23.22gの20%溶液として、これに477.96g程度の水を加えて混合した532.96g程度の溶液となるように設定している。即ち、この製造装置1では1個の容器3に供給収容される1バッチ必要量の溶液は、11gの固形分量を含む532.96g程度とし、全量に対する固形分量が2%程度の溶液濃度となるようにしている。
【0055】
これにより溶液濃度2%程度の1バッチ溶液で、製造装置1による乾燥により二酸化チタン繊維を従来の収率(54.0%)より格段に高い、収率70.5%以上で製造することができた。
尚、この製造装置1を使用し上記溶液濃度を設定する乾燥実験において、溶液濃度を2%程度以下にした場合は効率的に繊維化せず収率が低くなり、また溶媒濃度を2%程度以上にした場合は繊維を形成するものの細くて脆くなり実用困難なものであった。また溶媒濃度2%の溶液を乾燥工程において、角度変更装置12を使用せず基板6の傾斜角を1.33度に維持したまま乾燥させると、収率が低くなる上形成される二酸化チタン繊維は、基板6の上端側が薄く下端側が厚く不均一な厚さと繊維強度にムラを生ずるものであった。
【0056】
次に以上のように構成される製造装置1による二酸化チタン繊維を製造する作業について、制御装置22によって予め設定された制御運転による作業態様について説明する。先ず製造装置1を運転開始すると、加熱手段7及びブロア52によって乾燥室8内雰囲気を設定温度にし、移送装置2及びパレット供給装置16が作動し、該パレット供給装置16が作業待機姿勢にある搬入側ストッカ13の第1の棚からパレット4を移送装置2に受け渡し、移送初期において前記給液位置で容器3に溶液供給部18から前記コロイド状溶液を供給する。
【0057】
次いで容器3に溶液を収容したパレット4が傾斜ガイド29側に移送され、移送装置2の始端部に次位のパレット4が順次送り込まれることにより、図2で示すように乾燥室8内に3個分のパレット4が移送間隔Kを有して順次乾燥工程に移行する。次いで上記乾燥によって形成された二酸化チタン繊維を収容したパレット4は、移送装置2及び傾斜ガイド29による移送が解除され、パレット搬出装置17により搬出側ストッカ14に順次収納され、一連の繊維製造作業が完了される。
【0058】
従って、上記構成からなる製造装置1は移送装置2によるパレット4の移送速度を緩やかにしたとしても、乾燥室8内で複数の容器3を同時に移送しながら連続的に乾燥させて繊維を形成し順次回収するので、二酸化チタン繊維の多量生産を簡単に行うことができる。
そして、上記のような乾燥工程を経て繊維を形成した容器3は、搬出側ストッカ14に所定数を纏めて保管されるので、次位の焼成工程への移行を行い易くすることができ、また一括保管された繊維を纏めて焼成炉に搬入して焼成することができるため、バッチ的処理される焼成作業を能率よく行うことができる。
【0059】
また上記焼成工程では乾燥によって形成された二酸化チタン繊維は、600℃〜1000℃の温度で焼成するようにしており、これにより固化を促進させアナターゼ型の二酸化チタン繊維を製造することができ、製造装置1で製造した二酸化チタン繊維の触媒活性を高めることができる。
尚、前記したように容器3に供給された溶液は、基板6の起立方向の傾動にともなう効率のよい乾燥によって繊維化される。
【0060】
そして、乾燥室8内で乾燥を行なう際に、乾燥室8内に全長にわたって定めた前記複数のゾーン毎の雰囲気温度と緩やかな移送速度によって、溶液の加熱蒸散を促進しながら基板6の傾斜角度を基板6を起立させる方向に変化させて、液面を相対的に下降移動させることにより基板6に付着した二酸化チタン膜を順次乾燥させることができる。これにより乾燥室8内では、容器3の基板6が傾斜を起立させる方向に徐々に大きく変化するので、傾斜の変化毎に付着液の液際が順次下降することになり、該液際の上方に所定の厚さを有する一定薄層の二酸化チタン膜を形成することができ、形成された上方の二酸化チタン膜側のものから順次乾燥する際に、乾燥部位の前後において乾燥度合の差を生じ、移送方向に沿う亀裂を生じさせる。またこのとき移送にともない傾斜が徐々に大きくなることで二酸化チタン膜は、亀裂によって生じる繊維の上端側と下端側の厚さが略一定となり、均一な二酸化チタン繊維を簡単に形成することができる。
【0061】
この結果、本発明による製造装置1では従来のバッチ方式で製造するものより各段に高い、日量111g程度以上の生産量を確保することができた。そして、得られた繊維は平均長さが190ミリ以上,平均幅193μm,平均厚さ81μm程度である。さらに、略全量のものが繊維長さが均一であり取り扱い性よく、また焼成後の繊維も十分な強度を有して製造することができた。
【0062】
また上記繊維を水道管に設置される浄水用のカラム内に浄水部材として挿入充填して使用した場合に、水道水の吐出圧である0.3MPaに十分に耐えることができた。さらに触媒活性は、光触媒性能評価試験による結果、NOx分解率100%を達成する優れた二酸化チタン繊維にすることができた。
そして、上記のような製造方法を行なう製造装置1は、均質な繊維を比較的短い乾燥工程を以って連続的に製造することができるため、装置の小型化を図ることができ製造コストを格段に低減することができた。
【0063】
次に図12,図13に示す本発明の別実施形態に係る二酸化チタン繊維の製造方法及び装置について説明する。尚、前記実施形態のものと同様な構成及び作用については説明を省略する。先ず図12に示す製造装置1は、二酸化チタン粒子を分散させたコロイド状の溶液を、傾斜させた基板6の表面に均一な厚みの二酸化チタン膜を形成するように付着させ、二酸化チタン膜を加熱手段7によって加熱し乾燥する際に、上記基板6と加熱手段7を順次相対移動させることによって、加熱部を相対的に変化させ、該加熱部の移動方向前後位置で二酸化チタン膜の乾燥度合いの差異を生じさせることにより、乾燥した二酸化チタン膜に移動方向に沿った亀裂を繊維状に生じさせて二酸化チタン繊維を製造することができる。
【0064】
この製造装置1は、移動する帯状の基板6を構成する移送基板装置63と、該基板6の下端側に溶液を供給付着させる溶液供給部18と、基板6によって形成された二酸化チタン繊維を上端から受けて焼成させる焼成部64と、該焼成部64で焼成された焼成二酸化チタン繊維を回収する繊維回収部66とからなる。
上記移送基板装置63は、基板6を平坦な無端帯状のベルト6bとしており、該ベルト6bは駆動輪66と従動輪67に巻き掛け、移送面側を平坦な板状のガイド部材68によって支持する構成にしている。そして、移送基板装置63は溶液供給部18と焼成装置64との間において、ベルト6bからなる基板6の移送面を前記実施形態のもと同様な上向きの傾斜角を有するように斜設し、移送面に沿って加熱手段7を設けている。
【0065】
溶液供給部18は供給管19から供給される溶液を収容する供給容器71内に、上記移送基板装置63のベルト6bの下端側を浸漬させている。
焼成部64は移送基板装置63から受けた二酸化チタン繊維を繊維回収部66に向けて移送する焼成移送装置72と、焼成移送装置72によって移送中の二酸化チタン繊維を焼成する焼成装置73とから構成される。この焼成移送装置72は耐熱性を有する平坦な無端帯状のベルト74を駆動輪76と従動輪77に巻き掛けて、移送面側を平坦な板状のガイド部材74aによって支持した構成としている。
図示例の繊維回収部66は、焼成移送装置72から送り出される二酸化チタン繊維を巻き取って回収する巻取ドラム78を用いた構成としている。
【0066】
上記のように構成される製造装置1は、供給容器71内に浸漬される移送基板装置63のベルト6bが、回動にともない基板6の表面に溶液を付着させて傾斜方向に向けて移送することができる。このとき付着溶液は液際を上方から下方に向けて下降させ供給容器71内に戻すので、基板6の表面に一定の層厚で二酸化チタン膜を形成でき、二酸化チタン膜は移送される間に加熱手段7によって乾燥が促進され、上方側のものから順次乾燥させることができ、亀裂をベルト方向に生じさせて前記実施形態のものと同様に二酸化チタン繊維を形成することができる。そして、ベルト6bの終端から二酸化チタン繊維を焼成移送装置72のベルト74に連続的に継送する。
【0067】
次いでベルト74上の二酸化チタン繊維は移送中において、焼成装置73により焼成され焼成された二酸化チタン繊維となり繊維回収部66で連続的に回収される。
以上のように製造装置1は、基板6と加熱手段7を順次相対移動させることによって、加熱部を相対的に変化させ、該加熱部の移動方向前後位置で二酸化チタン膜の乾燥度合いの差異を生じさせることにより、乾燥した二酸化チタン膜に移動方向に沿った亀裂を繊維状に生じさせて、長い二酸化チタン繊維を簡単且つ連続的に能率よく製造することができる。
【0068】
次に図13で示す製造装置1について説明する。この製造装置1は移送基板装置63を平坦な帯板状の基板6を回動軸79を中心に回転する径大なドラムとして構成している。上記移送基板装置63はドラム上部に加熱手段7等を備えた乾燥室8を構成している。そして、乾燥室8より回転方向上手側に溶液供給部18を設置し、且つ乾燥室8より回転方向下手側に基板6に摺接するスクレーパ81を備えた繊維回収部66を設置している。
図示例の溶液供給部18は移送基板装置63の下部を溶液に浸漬させる供給容器71を前記実施形態のものと同様に設けており、これにより移送基板装置63の回転にともない基板6の表面に溶液を付着させる。
【0069】
上記のように構成される製造装置1は、供給容器71内に浸漬される移送基板装置63の基板6が、回動にともない基板6の表面に溶液を付着させて湾曲ドラムの傾斜方向に向けて移送することができる。このとき付着溶液は液際を上方から下方に向けて下降させ供給容器71内に戻すので、基板6の表面に一定の層厚で二酸化チタン膜が形成され、移送される間に加熱手段7によって乾燥を促進し、回転方向(移送方向)下手側のものから順次乾燥させ、亀裂をドラム回転方向に生じさせて前記実施形態のものと同様に二酸化チタン繊維を形成することができる。従って、均質で長い二酸化チタン繊維を簡単且つ能率よく製造することができる。
【0070】
また前記各実施形態の移送基板装置63に対する溶液の供給手段は、供給容器71による浸漬付着手段の他に例えば図13で示すような、基板6の全幅上に移動方向に交差する方向に近接するノズル82を設けると、溶液を基板6に無駄なく供給することができる。即ち、この場合のノズル82は溶液供給部18の供給管19に基板6の全幅にわたり溶液を均一に付着させるノズル形状にすることにより、二酸化チタン膜を形成するに足る必要量の溶液を基板6の所定位置に供給することができるため、浸漬させる手段に比して溶液を無駄にすることなく且つ溶液の沈殿拡散等の管理を省力化でき簡単にすることができる。
【0071】
また溶液供給部18は上記の他に、基板6上に溶液を塗布する刷毛(図示せず)を用いて二酸化チタン膜を形成することも容易に行うことができる。この場合には振動する刷毛に対して溶液を連続的に供給すると、溶液の節約と二酸化チタン膜の形成管理を簡単にすることができる。
尚、上記ドラム回転方式の移送基板装置63は、幅方向の延長が容易であり繊維の量産に好適であると共に、多角形ドラムにすることができ、当該多角形で形成される平坦な基板6の長さ毎の繊維長を有する二酸化チタン繊維を簡単且つ連続的に製造することができる等の特徴がある。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明に係わる二酸化チタン繊維の製造装置の全体構造を示す正面図である。
【図2】図1の平面図である。
【図3】図1の左側面図である。
【図4】図1の右側面図である。
【図5】図1の乾燥室の構成を示す左側面図である。
【図6】角度変更装置の構成と作用を示す正面図である。
【図7】パレットの構成を示す正面図である。
【図8】図7の平面図である。
【図9】図7の底面図である。
【図10】図7の左側面図である。
【図11】図7の容器を下降させ水平にした状態を示す右側面図である。
【図12】本発明の別実施形態に係る製造装置の全体構造を示す斜視図である。
【図13】本発明のさらに別実施形態に係る製造装置の全体構造を示す正面図である。
【符号の説明】
【0073】
1 製造装置
2 移送装置
3 容器
4 パレット
6 基板(底板)
6a 周壁
7 加熱手段
8 乾燥室
12 角度変更装置
13 搬入側ストッカ
14 搬出側ストッカ
22 制御装置
26 揺動支点
28 従動ガイド(ローラ)
29 傾斜ガイド
82 ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化チタン粒子を分散させたコロイド状の溶液を、基板(6)の表面に二酸化チタン膜を形成するように付着させ、二酸化チタン膜を加熱手段(7)で加熱することにより乾燥する方法において、上記基板(6)の姿勢を順次変化させ又は上記基板(6)に対して加熱手段(7)を相対的に順次移動させることによって、前記基板(6)上の二酸化チタン膜の乾燥部位を移動させ、該乾燥部位の移動方向前後位置で二酸化チタン膜の乾燥度合いに一時的な差異を生じさせることにより、乾燥した二酸化チタン膜に移動方向に沿った亀裂を生じさせて二酸化チタン繊維を形成する二酸化チタン繊維の製造方法。
【請求項2】
基板(6)の端部を二酸化チタン粒子を分散させたコロイド状の溶液に浸漬する請求項1の二酸化チタン繊維の製造方法。
【請求項3】
二酸化チタン粒子を分散させたコロイド状の溶液を収容する容器(3)内で、水平に対し傾斜させた基板(6)の少なくとも表面側を上記溶液内に浸漬させて溶液を付着させ、基板(6)の下端側への液面の相対的下降に伴って、付着した溶液を順次乾燥させることにより二酸化チタン繊維を製造する方法において、前記基板(6)の傾斜角度を基板(6)を起立させる方向に変化させることにより、液面を相対的に下降させて乾燥部位を移動させる請求項1又は2の二酸化チタン繊維の製造方法。
【請求項4】
基板(6)が平板からなり液面に対して基板(6)を起立方向に順次傾動させる請求項3の二酸化チタン繊維の製造方法。
【請求項5】
基板(6)が皿状の容器(3)の底板であり、容器(3)自体を底板が起立する方向に傾動させる請求項3又は4の二酸化チタン繊維の製造方法。
【請求項6】
容器(3)に溶液を収容したのち、容器(3)を乾燥室(8)に搬入し、乾燥室(8)内において基板(6)を起立方向に傾動させる請求項3又は4又は5の二酸化チタン繊維の製造方法。
【請求項7】
乾燥室(8)内において容器(3)を移動させながら基板(6)の傾斜角を変化させる請求項8の二酸化チタン繊維の製造方法。
【請求項8】
二酸化チタン粒子を分散させたコロイド状の溶液を、基板(6)上に移動方向に交差する方向に近接させたノズル(82)から排出して供給する請求項1の二酸化チタン繊維の製造方法。
【請求項9】
二酸化チタン粒子を分散させたコロイド状の溶液を、基板(6)上に塗布する請求項1又は8の二酸化チタン繊維の製造方法。
【請求項10】
内部雰囲気を加熱する加熱手段(7)及び内部に乾燥対象物を搬入して乾燥後搬出する移送装置(2)を備えた乾燥室(8)と、上記移送装置(2)によって移送され内部に傾斜した基板(6)を備えると共に、該基板(6)の表面を浸漬させるように二酸化チタン粒子を分散させたコロイド状の溶液を収容する容器(3)と、上記乾燥室(8)内を移動する容器(3)内の基板(6)を起立させる方向に傾斜角を順次変化させる角度変更装置(12)とを備える二酸化チタン繊維の製造装置。
【請求項11】
容器(3)が平板からなる底板と周壁(6a)とを備え、底板が基板(6)を兼ねた請求項10の製造装置。
【請求項12】
容器(3)が移送装置(2)に載置される固定ベース(9)に、揺動支点(26)により上下揺動自在に軸支されたパレット(4)を構成する請求項10又は11の二酸化チタン繊維の製造装置。
【請求項13】
角度変更装置(12)が乾燥室(8)側と容器(3)側との間に設けられ、移送装置(2)の移送方向に沿った移送方向のガイド面を有する傾斜ガイド(29)と、容器(3)の移送に伴って上記ガイド面に沿って案内され基板(6)の傾斜角を変更する従動ガイド(28)とによって構成される請求項10又は11又は12の二酸化チタン繊維の製造装置。
【請求項14】
乾燥室(8)の乾燥対象物搬入側に容器(3)をストックして移送装置(2)に順次供給する搬入側ストッカ(13)を設け、乾燥対象物の搬出側に移送装置(2)により搬出された乾燥後の前記容器(3)を順次ストックする搬出側ストッカ(14)を設けてなる請求項10又は11又は12又は13の二酸化チタン繊維の製造装置。
【請求項15】
搬入側ストッカ(13)の上部又は搬入側ストッカ(13)と乾燥室(8)の搬入口(56)との間に、二酸化チタン粒子を分散させたコロイド状の溶液を容器(3)に供給する溶液供給部(18)を設けた
請求項14の二酸化チタン繊維の製造装置。
【請求項16】
容器(3)を搬入側から搬出側に順次移送すべく移送装置(2)を駆動するアクチュエータと、容器(3)を移送装置(2)に移送するために搬入側ストッカ(13)を待機姿勢に作動させるアクチュエータと、移送装置(2)側から容器(3)を順次受け取るべく排出側ストッカ(14)を待機姿勢に駆動するアクチュエータと、各アクチュエータを制御する制御装置(22)とをそれぞれ設けた請求項10,11,12,13,14又は15の二酸化チタン繊維の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−179536(P2009−179536A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−21592(P2008−21592)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、独立行政法人科学技術振興機構、独創的シーズ展開事業(独創モデル化)、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(500099618)山建プラント株式会社 (4)
【Fターム(参考)】