説明

二酸化塩素を安全かつ効率的に任意の濃度を任意の時間で生成する方法

【課題】 殺菌・消臭に有用な二酸化塩素は、安定性に問題があったため、大規模な施設では機械的装置を使用せねばならなかった。一方、少量を作成する場合は安全性に乏しい強酸を作成するか、反応性に乏しい弱酸を用いて作成する以外なかった。
本発明は、この問題を解決するために、機械的装置を用いず、安全性の高い物質のみを用い、任意の濃度の二酸化塩素を任意の時間で生成する方法を提供する。
【解決手段】 二酸化塩素の生成において粒子径を制御した無水コハク酸および無水マレイン酸を用いて二酸化塩素の濃度と発生に要する時間を制御する方法。および、これらの物質を安定して保管するために化学的乾燥剤を用いる方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細菌・ウイルス・悪臭物質・カビおよび藻の除去・水の異臭味の除去・水の二価金属イオンの除去の各用途において用いる二酸化塩素を安全かつ簡便に生成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
【非特許文献1】”Alternative Disinfectants and Oxidants Guidance Manual”EPA148p
【特許文献1】特開2007−1807
【特許文献2】特開2006−297174
【特許文献3】特開2006−297314
【特許文献4】特開2007−99568
【特許文献5】特開2000−185908
【特許文献6】特開2002−220207
【特許文献7】特開2007−217239
【特許文献8】特開2002−370910
二酸化塩素は強力な酸化剤として漂白、殺菌、ウイルス不活化、殺藻、除鉄、除マンガン、水の異臭味の除去など広範な用途で利用されて来た。しかし、このように有用な用途を有する二酸化塩素であるが、実用的な側面において問題があった。
【0003】
ガスとしての二酸化塩素は物性として爆発性、毒性、光、熱に対する分解性があるため、ガスとしてそのままでは運搬できない。また、比較的安定性の高い二酸化塩素溶液についても、濃度の維持が難しく、そのためアメリカ環境保護局、アメリカ食品医薬品局、厚生省などにおいても、実際に使用する箇所で二酸化塩素を発生させることを定めている。
【0004】
その結果、比較的大規模な水量を処理する場合においては、二酸化塩素溶液の生成装置が数多く開発され多くの知見が示されている。(特許文献1から特許文献6参照。)
【0005】
しかし、これら発生装置の多くは基本的に以下の化学反応式1から化学反応式7のいずれかの反応を機械的に制御し行うものである。(非特許文献1参照。)
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

【化7】

【0006】
しかし、二酸化塩素の用途はこのような機械的な装置による大規模な水処理に限らず、より多様な局面で利用価値がある。従って、より柔軟な運用を可能にする技術の開発が求められていた。その例として、亜塩素酸塩と多孔性物質を混合することによって、多孔性物質の持つ除湿および調湿機能により二酸化塩素ガスの除放性を担持させるといった技術(特許文献8参照。)が提案されている。
しかし、この方法はあくまでも限定的な空間内における二酸化塩素ガスを除放させる方法にとどまり、内容物に不溶性の多孔性物質を多量に含むため水系において溶解させて使用するといったことは困難である。
【0007】
また、類似のものとして亜塩素酸塩および酸の固形物と保持した水分を除放しうる固形剤を含むに酸化塩素発生組成物(特許文献7参照。)も提案されている。しかしこの方法で想定されている酸では、有効な二酸化塩素の生成に多大な時間を要し、迅速な二酸化塩素の生成が求められる状況下では用いることができず、また、水系において溶解させるといった用途にも対応できず。あくまでも空間内における消臭、防カビといった用途を想定しているに過ぎない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以下に記載の亜塩素酸塩とは亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸カルシウム、亜塩素酸バリウム、亜塩素酸リチウムなど亜塩素酸アルカリ金属塩一般を総称するものとする。
【0009】
また、酸はカルボン酸、カルボン酸無水物、無機酸など一般的なルイス酸を総称するものとする。
【0010】
メッシュはJIS規格に基づく。
【0011】
水処理に用いられて来たという歴史的経緯から二酸化塩素による処理は、従来、取扱いの上で危険な塩素や塩酸、硫酸といった物質を用いる方法が典型的であった。このような強酸や塩素ガスは高い反応性により効率的な二酸化塩素の生成が可能である変面、取扱いが危険であるため、安全性を保つため次亜塩素酸塩、酸化剤、亜塩素酸塩を別々の槽に用意し、各液を水で希釈しつつ反応槽に分注し二酸化塩素溶液を生成する装置、あるいは亜塩素酸塩と塩酸を同様に反応槽において反応させ二酸化塩素溶液を生成する装置が利用されて来た。
【0012】
しかし、このような装置では必然的に導入に伴う経済的な負担が多大になり、かつ、薬剤に伴う設備への悪影響といった問題があった。しかも、このような装置での対処が有効な設備は、大規模な数百トン以上の水量を有する設備であった。
【0013】
一方、例えば医療器具・調理器具・室内器物表面・閉鎖空間・数十トン規模の水の殺菌、ウイルスの不活化、異臭味の除去・消臭など比較的小規模かつ柔軟な運用が求められる用途では上記のような装置を用いた方法ではコスト的に合わず、装置自体も画一的な処理しかできないため非実用的であった。
【0014】
他方で、このような柔軟な用途に供することができる二酸化塩素発生剤については、ゲルまたは固形剤の成型によって二酸化塩素ガスの除放性を担持させた固形物や粉末などが提案されている。
【0015】
しかし、この種のものは量の多い水量の処理には経済的なコストおよび二酸化塩素の発生効率の点から実用は困難であり、多くの場合空間内の消臭に用いられているに過ぎない。特に多孔性物質を含有させて保存性を保持させている場合は、不溶性の沈殿物が形成されるなど質的にも水処理において使用することは困難であった。
【0016】
つまり、本発明が解決する課題とは、機械的な装置で強酸や塩素を用いた時に近い高い反応性を確保しつつ、使用や廃棄、さらには未反応時に水系内などに残留したとしても問題のない安全な活性剤を用い、化学的素養のない者でも容易に取扱いが可能であり、しかも処理対象となる施設の規模の大小を問わず、必要とする二酸化塩素濃度を実用的な時間で生成させる方法である。
【課題を解決するための手段】
【0017】
まず本発明において安全性とは、食品衛生法上に定める用法以下の配合量で目的となる効果を発揮させることができることを意味する。具体的には主剤と酸との選択において、酸に関しては使用制限のない安全な酸を用い、亜塩素酸塩については、処理対象に対して0.5g/L以下の量で有効な効果を得られることを意味する。
【0018】
次に反応性とは、二酸化塩素が細菌またはウイルスに対して、十分な効果を得られる濃度。すなわち濃度(mg/L)x時間(分)による効果の指標(CT値)において1以上の値を示すこと。具体的には、1分後に1mg/Lの濃度を得ることができる反応性を確保することである。これは例えば温浴施設のように数トンから数十トンの規模でも、器物への噴霧や清拭などといった数ミリリットルから数リットルといった少量に対しても、任意に対応できることを意味する。
【0019】
作業性の向上とは、実際に使用する状況の如何を問わず、任意の濃度を任意の時間で生成することを可能にすることを意味する。具体的には1〜5000mg/Lの濃度を任意の量に対して任意の時間で、化学的素養のない者でも簡便に作成できることである。
【0020】
従来の知見はいずれも、二酸化塩素の発生における本質的な効率、安全性、作業性を追求した物ではなく、単に二酸化塩素の産業上の応用性を求めた物であった。発明者はこの問題を鑑み上記観点から最も有用な活性剤を求めることを主眼とした。 上記観点から発明者は、以下にあげる各種有機酸について詳細な検討を行った。
【0021】
検討を行ったのは以下の物質である。クエン酸、フマル酸、マロン酸、ステアリン酸、ピルビン酸、フタル酸、リンゴ酸、マレイン酸、アコニット酸、シュウ酸、コハク酸、酢酸、プロピオン酸、アスコルビン酸、乳酸、安息香酸、酒石酸、ケイ皮酸、イタコン酸、スルファミン酸、無水酢酸、無水クエン酸、無水フタル酸、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水安息香酸、
【0022】
以上の各物質において二酸化塩素の発生量を質量比で比較した結果、無水コハク酸、無水マレイン酸に関して上記安全性、反応性、作業性の各観点から有用な結果を得ることが出来た。最も重要な点は、コハク酸およびマレイン酸について無水物であることである。しかもこの2種の無水カルボン酸においてのみ真に有用な結果を得られる。従来の知見で列挙される例えばクエン酸などの有機酸とこの無水コハク酸や無水マレイン酸では30分以内の反応性において、20倍程度の反応性の違いがある。精製水500g水温10℃に亜塩素酸ナトリウム80%含有の粉末3gを溶解し上記物質をそれぞれ10gを加えた後の二酸化塩素濃度を測定した。測定にはDPDグリシン法を用いHACH社二酸化塩素濃度測定器を使用した。その結果をまとめたものが[表1]である。
【表1】

【0023】
主剤と活性剤の比率は1:0.1〜10の範囲に目的に応じて設定することができる。あまりに短時間に高濃度の二酸化塩素が発生した場合、逆に作業性を阻害するため5分後から30分後に実用的な濃度の二酸化塩素を得ることを目的とする場合、主剤に対する活性剤の比率は1:1〜3の範囲であることが望ましい。
【0024】
本発明における二酸化塩素の発生においては、活性剤の水に対する溶解速度が反応速度に影響を及ぼす。本発明で発見した無水コハク酸、無水マレイン酸は水和することにより、コハク酸およびマレイン酸へと変化するわけであるが、無水物でないこれらカルボン酸においては迅速な二酸化塩素の発生は望めない。
従って、これらカルボン酸無水物が水に溶解し水和する速度を制御することで二酸化塩素の発生濃度と発生までに要する時間を制御することが可能となる。
【0025】
具体的には、亜塩素酸塩とこれらのカルボン酸無水物の接触面積を最大化させると同時に溶解速度を最小化させた時、最も短時間で高い濃度の二酸化塩素溶液を得ることが可能となる。
【0026】
例えば、10℃から40℃の水温において無水コハク酸を40〜80メッシュに調整し亜塩素酸塩と反応させた時、もっとも最短で二酸化塩素濃度を得ることができる。また、40℃の水温の場合は無水コハク酸を10メッシュから40メッシュに調整した時に迅速な二酸化塩素の発生が得られる。一方同じ40℃の水温で100メッシュに調整した場合は、反応速度が低下する。また粉末の粒度を100メッシュ以上の微細に調整した場合、ほとんどの量が水に浮かび反応性もむしろ低下する。錠剤型に成型する場合は100メッシュから200メッシュに活性剤を微細な粉末にすることで発生効率の高い二酸化塩素発生剤を作ることが出来る。以下に示す[表2]は水温および活性剤の粒度を調整した際の二酸化塩素発生濃度の変化を測定したものである。水温10℃および水温40℃の500gの精製水に亜塩素酸ナトリウム3gを溶解させた後、10メッシュから100メッシュまでに調整した無水コハク酸10gを加え二酸化塩素濃度を測定した。測定はDPDグリシン法を用いHACH社の二酸化塩素測定器を用いた。
【表2】

【0027】
また、主剤と活性剤を単純に混和しただけでは、反応し二酸化塩素が発生してしまい保存が困難であった。そこで発明者は化学的乾燥剤を主剤と活性剤の合計に対して重量比当量加えることで長期間保存することが可能となることを発見した。
【0028】
使用する化学的乾燥剤は無水塩化カルシウム、無水硫酸ナトリウム、無水硫酸マグネシウム、五酸化二リン、酸化カルシウム、のいずれか複数または1つを任意に選択することができるが、実用性が高く安価に利用できるものとして無水塩化カルシウムと無水硫酸マグネシウムを利用することが望ましい。
【発明の効果】
【0029】
本発明によって、従来の機械的な二酸化塩素の発生装置は不要となった。この発明により室内の空間や器物を殺菌、ウイルス不活化、消臭といった日常的な衛生管理に用いる手軽な二酸化塩素溶液を簡便に得ることも、数十トン〜数百トンの水の殺菌、ウイルス不活化、異臭味の除去を行うことも可能となり、これにより二酸化塩素の従来の問題点は根底から払拭され、幅広い産業分野において低いコストで手軽に利用することができるようになった。
さらに、1tの水量であっても本発明の配合に従えば、わずか10g程度で処理が可能となり大幅な省スペース、省力、コストの削減が可能となる。
しかも、反応前の各物質はいずれも安定かつ安全な物質であるので、二酸化塩素溶液を保存するといった場合にに生じる、刺激臭や爆発性とも無縁であり、かつ低コストでの安定した流通が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【実施例1】
【0030】
空間の殺菌、ウイルスの不活化、消臭に有効なミスト状で使用する二酸化塩素溶液を作成する場合、1Lの水に亜塩素酸ナトリウムを0.5g、無水コハク酸を0.3g加えた。10分後の二酸化塩素濃度は約10mg/Lとなった。
得られた二酸化塩素溶液を高分子化合物に吸着膨潤させ、メチルメルカプタン、トリメチルアミン、トルエンの各物質について脱臭効果を測定したものを以下[表3]に示す。試験はにおい袋(有限会社ミヤコビニル加工所)にゲル化した検体5gを加え、ヒートシールを施した後、空気3Lを封入し、トリメチルアミン、メチルメルカプタンについては50ppmとなるように添加し、トルエンについては100ppmになるように添加した上で、ガス検知管(株式会社ガステック)を用いて濃度を測定した。空試験については検体を入れずに同様の操作を行い濃度を測定した。
【表3】

【実施例2】
【0031】
1tの浴槽におけるレジオネラ菌対策を実施した、1tの水量に対して亜塩素酸ナトリウムを5g、無水コハク酸を10g、無水クエン酸を5g投入し、10分後二酸化塩素濃度を測定した結果、二酸化塩素濃度は約1mg/Lとなった。実施した浴槽においては浴槽では処理前30CFU/mlのレジオネラ菌が検出されていたが、処理後の浴槽では不検出であった。
【実施例3】
【0032】
二酸化塩素発生剤を作成する場合、亜塩素酸ナトリウム2.5g、無水クエン酸0.5g、無水塩化カルシウム3.0gを均一に混合しアルミ蒸着袋に密封する。得られた二酸化塩素発生剤を5Lの水に加えたところ10分後の二酸化塩素濃度は約10mg/Lであった。
上記二酸化塩素溶液を用いて岩盤浴における拭き取り検査を実施したものが表4である。
【表4】

【実施例4】
【0033】
亜塩素酸ナトリウム0.5g、無水コハク酸0.5g、無水塩化カルシウム1.0gを均一に混合して得られた二酸化塩素発生剤を、2Lの水に加えて得られた二酸化塩素溶液を用いてネコカリシウイルスを用いた不活化試験を実施した結果を表5に示す。
その結果、以下の表5に示す通り優れた不活化効果を得た。
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜塩素酸塩による主剤(以下主剤)と、粒子径を10メッシュから200メッシュに制御した無水コハク酸を混合することで二酸化塩素の発生を制御することを特徴とする二酸化塩素の生成方法
【請求項2】
主剤と、粒子径を10メッシュから200メッシュに制御した無水マレイン酸を混合することで二酸化塩素の発生を制御することを特徴とする二酸化塩素の生成方法
【請求項3】
「請求項1」と「請求項2」に記載の試薬を複数混合することを特徴とする二酸化塩素の生成方法
【請求項4】
「請求項3」に保存剤として化学的乾燥剤を使用することを特徴とする粉末または錠剤の形態を特徴とする二酸化塩素の生成方法

【公開番号】特開2009−249274(P2009−249274A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−120008(P2008−120008)
【出願日】平成20年4月2日(2008.4.2)
【出願人】(508133053)有限会社クリーンケア (4)
【Fターム(参考)】