説明

二酸化炭素改質用触媒、その製造方法、二酸化炭素改質用触媒の担体、改質器、および合成ガスの製造方法

【課題】炭素の析出を抑制しつつ、炭化水素系の原料ガスと二酸化炭素を反応させ、効率的に水素および一酸化炭素を生成させることが可能な二酸化炭素改質用触媒およびその製造方法を提供する。
【解決手段】Ca,SrおよびBaからなる群より選ばれる少なくとも1種類のアルカリ土類金属の炭酸塩と、炭化水素系原料ガスの分解反応を促進する触媒金属と、Ca,SrおよびBaからなる群より選ばれる少なくとも1種類のアルカリ土類金属と、Al,Zr,Fe,WおよびMoからなる群より選ばれる少なくとも1種類の成分を含む複合酸化物とを含有する組成とする。
前記複合酸化物を、AAl24,AZrO3,AFe24,A329,A2WO5,AMoO4(AはCa,SrおよびBaからなる群より選ばれる少なくとも1種類のアルカリ土類金属)とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素系の原料ガスを二酸化炭素改質して、水素および一酸化炭素を含む合成ガスを製造する際に用いられる二酸化炭素改質用触媒、その製造方法、二酸化炭素改質用触媒の担体、炭化水素系の原料ガスを二酸化炭素改質して水素および一酸化炭素を含む合成ガスを得るための改質器、および合成ガスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二酸化炭素は地球温暖化の主要原因物質であることから排出の削減、有効利用が緊急の課題とされている。
【0003】
また、石油精製や石油化学などの技術分野からは種々の炭化水素系ガスが発生するが、必ずしも効率よく種々の物質の原料ガスなどとして利用できておらず、より有効な物質に変換する方法が求められているのが実情である。
【0004】
このような状況の下で、炭化水素を二酸化炭素と反応させて水素および一酸化炭素を含む合成ガスを製造する方法として、還元剤として機能する、メタンなどの飽和炭化水素と二酸化炭素とを触媒の存在下に反応させて、工業的に有用な合成ガスである水素と一酸化炭素に変換する方法(炭化水素の二酸化炭素改質)が知られている。
【0005】
そして、炭化水素の二酸化炭素改質用触媒としてはアルミナなどの基体にニッケルを担持させたニッケル系触媒、ルテニウムを担持したルテニウム系触媒(特許文献1参照)、さらには、アルミナなどの基体にロジウムを担持させたロジウム系触媒(特許文献2参照)などが知られている。
【0006】
しかしながら、ニッケル系触媒を用いた場合には、触媒上に炭素析出を起こしやすく、この炭素析出による活性低下により、安定かつ効率的な装置の運転が困難であるという問題点がある。
【0007】
また、特許文献1に示されているようなルテニウム系触媒は、炭素析出を抑制する作用を持つため、ニッケル系触媒と比較すると炭素の析出が少なく、活性の維持も容易であるが、エチレンなどの不飽和炭化水素が原料中に共存すると、熱的炭素析出および活性の低下が起こりやすく、ルテニウム系触媒が炭素析出抑制効果を持っていても、原料ガス中に含まれる不飽和炭化水素などによって被毒し、活性が低下するという問題点がある。
【0008】
また、特許文献2に示されているような、アルミナなどの基体にロジウムを担持させたロジウム系触媒にも同様の問題点があるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平8−231204号公報
【特許文献2】特開平9−168740号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、炭素の析出を抑制しつつ、炭化水素系の原料ガスと二酸化炭素とを反応させ、効率的に水素および一酸化炭素を生成させる(二酸化炭素改質を行う)ことが可能で、かつ、経済性に優れた二酸化炭素改質用触媒、その製造方法、二酸化炭素改質用触媒の担体、炭化水素系の原料ガスを二酸化炭素改質して水素および一酸化炭素を含む合成ガスを得るための改質器、および合成ガスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の二酸化炭素改質用触媒は、
炭化水素系の原料ガスを二酸化炭素で改質し、一酸化炭素と水素を含む合成ガスを生成するために用いられる二酸化炭素改質用触媒であって、
Ca,SrおよびBaからなる群より選ばれる少なくとも1種類のアルカリ土類金属の炭酸塩と、
炭化水素系原料ガスの分解反応を促進する触媒金属と、
Ca,SrおよびBaからなる群より選ばれる少なくとも1種類のアルカリ土類金属と、Al,Zr,Fe,WおよびMoからなる群より選ばれる少なくとも1種類の成分を含む複合酸化物と
を含有することを特徴としている。
【0012】
また、本発明の二酸化炭素改質用触媒においては、前記複合酸化物が、AAl24,AZrO3,AFe24,A329,A2WO5,AMoO4(AはCa,SrおよびBaからなる群より選ばれる少なくとも1種類のアルカリ土類金属)であることが望ましい。
また、触媒金属としては、Ni,Rh,Ru,Ir,Pd,Pt,Re,Co,Fe,Moなどを用いることが望ましい。
【0013】
また、本発明の二酸化炭素改質用触媒の製造方法は、
炭化水素系の原料ガスを二酸化炭素で改質し、一酸化炭素と水素を含む合成ガスを生成するために用いられる二酸化炭素改質用触媒の製造方法であって、
アルカリ土類金属と、Al,Zr,Fe,WおよびMoからなる群より選ばれる少なくとも1種類の成分とを含む二酸化炭素吸収能のある複合酸化物に、二酸化炭素を吸収させる工程を含むこと
を特徴としている。
【0014】
前記二酸化炭素吸収能のある複合酸化物は、A3Al26,A2ZrO4,A2Fe25,A2WO5,A3WO6,A2MoO5(AはCa,SrおよびBaからなる群より選ばれる少なくとも1種類のアルカリ土類金属)であることが望ましい。
【0015】
また、本発明の二酸化炭素改質用触媒の担体は、
炭化水素系の原料ガスを二酸化炭素で改質し、一酸化炭素と水素を含む合成ガスを生成するために用いられる二酸化炭素改質用触媒の担体であって、
Ca,SrおよびBaからなる群より選ばれる少なくとも1種類のアルカリ土類金属の炭酸塩と、
Ca,SrおよびBaからなる群より選ばれる少なくとも1種類のアルカリ土類金属と、Al,Zr,Fe,WおよびMoからなる群より選ばれる少なくとも1種類の成分を含む複合酸化物と
を含有することを特徴としている。
【0016】
また、本発明の二酸化炭素改質用触媒の担体は、前記複合酸化物が、AAl24,AZrO3,AFe24,A329,A2WO5,AMoO4(AはCa,SrおよびBaからなる群より選ばれる少なくとも1種類のアルカリ土類金属)であることが望ましい。
【0017】
また、本発明の改質器は、炭化水素系の原料ガスを二酸化炭素で改質し、一酸化炭素と水素を含む合成ガスを生成するために用いられる改質器であって、請求項1〜3のいずれかに記載の二酸化炭素改質用触媒と、炭化水素系の原料ガスとを接触させる改質部を具備し、前記改質部において、二酸化炭素改質用触媒と、炭化水素系の原料ガスとを、二酸化炭素の存在下で接触させることにより、一酸化炭素と水素を含む合成ガスを生成させるように構成されていることを特徴としている。
【0018】
また、本発明の合成ガスの製造方法は、請求項1〜3のいずれかに記載の二酸化炭素改質用触媒を用いて、メタンを主たる成分とする原料ガスを二酸化炭素改質し、一酸化炭素と水素を含む合成ガスを生成させることを特徴としている。
【発明の効果】
【0019】
本発明の二酸化炭素改質用触媒は、Ca,SrおよびBaからなる群より選ばれる少なくとも1種類のアルカリ土類金属の炭酸塩と、炭化水素系原料ガスの分解反応を促進する触媒金属と、Ca,SrおよびBaからなる群より選ばれる少なくとも1種類のアルカリ土類金属と、Al,Zr,Fe,WおよびMoからなる群より選ばれる少なくとも1種類の成分を含む複合酸化物とを含有しており、この二酸化炭素改質用触媒を用いることにより、炭素の析出を抑制しつつ、炭化水素系の原料ガスを二酸化炭素で改質し、一酸化炭素と水素を含む合成ガスを効率よく生成させることができる。
【0020】
すなわち、Ca,SrおよびBaからなる群より選ばれる少なくとも1種類のアルカリ土類金属の炭酸塩(例えばBaCO3)と、AAl24,AZrO3,AFe24,A329,A2WO5,AMoO4(AはCa,SrおよびBaからなる群より選ばれる少なくとも1種類のアルカリ土類金属)で表される複合酸化物(例えばBaAl24)との混合材料を触媒担体とし、これに触媒金属を担持させて二酸化炭素改質用触媒とすることにより、炭素析出量の増大を招くことなく、BaCO3などのアルカリ土類金属の炭酸塩を、単独で担体として用いた場合と比較して高い反応転化率を得ることがことができる。
【0021】
なお、本発明の二酸化炭素改質用触媒は、例えば、800℃〜1100℃の高温において、炭化水素であるメタンと二酸化炭素を流通させることにより、以下の反応を生じさせる場合の触媒として働く。
CH4 ⇒ C + 2H2 (1)
C + CO2 ⇒ 2CO (2)
CH4 + CO2 ⇒ 2H2 + 2CO (3)
なお、メタン(CH4)の二酸化炭素改質反応においては、式(1)のCH4の分解反応および式(2)のCOを生成する反応が進行し、結果として式(3)により二酸化炭素改質反応が表される。
従来のアルミナやシリカなどの酸化物を担体とした触媒や、例えばBaCO3のみを担体とした触媒では、式(1)の反応に比べて式(2)の反応速度が遅れる傾向があり、炭素析出が発生する。
【0022】
これに対し、本発明の二酸化炭素改質用触媒は、上述の触媒に比べて、式(2)の反応を促進する効果があり、主として触媒金属の機能により生起し、促進される、式(1)の反応によって発生した炭素を、式(2)の反応により除去することが可能になり、結果的に炭素析出を抑制することができる。
【0023】
また、本発明の二酸化炭素改質用触媒において、複合酸化物として、AAl24,AZrO3,AFe24,A329,A2WO5,AMoO4(AはCa,SrおよびBaからなる群より選ばれる少なくとも1種類のアルカリ土類金属)を含有させるようにした場合、炭酸塩が焼結することを抑制し、炭化水素系の原料ガスと二酸化炭素から一酸化炭素と水素への反応を促進させることが可能になる。
【0024】
なお、本発明において、炭化水素系原料ガスの分解反応を促進する触媒金属としては、Ni,Rh,Ru,Ir,Pd,Pt,Re,Co,Fe,Moなどを用いることが望ましい。
【0025】
また、本発明の二酸化炭素改質用触媒の製造方法は、アルカリ土類金属と、Al,Zr,Fe,WおよびMoからなる群より選ばれる少なくとも1種類の成分とを含む二酸化炭素吸収能のある複合酸化物に、二酸化炭素を吸収させる工程を経て二酸化炭素改質用触媒を製造するようにしているので、反応の場である触媒表面に前記アルカリ土類金属の炭酸塩相(例えばBaCO3相)を効率よく形成することが可能になり、特性の良好な二酸化炭素改質用触媒を得ることができる。
【0026】
また、二酸化炭素吸収能のある複合酸化物が、A3Al26,A2ZrO4,A2Fe25,A2WO5,A3WO6,A2MoO5(AはCa,SrおよびBaからなる群より選ばれる少なくとも1種類のアルカリ土類金属)である場合、二酸化炭素を吸収させる工程で、確実に、Ca,SrおよびBaからなる群より選ばれる少なくとも1種類のアルカリ土類金属の炭酸塩(例えばBaCO3)と、AAl24,AZrO3,AFe24,A329,A2WO5,AMoO4で表される複合酸化物を含む、特性の良好な二酸化炭素改質用触媒を得ることができる。
【0027】
また、本発明の二酸化炭素改質用触媒の担体は、Ca,SrおよびBaからなる群より選ばれる少なくとも1種類のアルカリ土類金属の炭酸塩と、Ca,SrおよびBaからなる群より選ばれる少なくとも1種類のアルカリ土類金属と、Al,Zr,Fe,WおよびMoからなる群より選ばれる少なくとも1種類の成分を含む複合酸化物とを含有しているので、これに触媒金属を配合することにより、本発明の二酸化炭素改質用触媒を容易かつ確実に得ることができる。
【0028】
また、本発明の二酸化炭素改質用触媒の担体において、上記複合酸化物が、AAl24,AZrO3,AFe24,A329,A2WO5,AMoO4(AはCa,SrおよびBaからなる群より選ばれる少なくとも1種類のアルカリ土類金属)である場合、触媒金属を配合するだけで、特性の良好な二酸化炭素改質用触媒を得ることが可能な担体を提供することが可能になる。
【0029】
また、本発明の改質器は、改質部において、本発明の二酸化炭素改質用触媒と、炭化水素系の原料ガスとを、二酸化炭素の存在下で接触させるようにしているので、炭素析出を抑制しつつ、効率よく一酸化炭素と水素を含む合成ガスを生成させることが可能になり、炭化水素系の原料ガスから、有用性の高い合成ガスを得ることが可能になるとともに、二酸化炭素の有効利用を図ることも可能になる。
【0030】
また、本発明の合成ガスの製造方法のように、本発明の二酸化炭素改質用触媒を用い、メタンを主成分とする原料ガスの二酸化炭素改質を行うことにより、メタンを主成分とする原料ガスから効率よく一酸化炭素と水素を含む合成ガスを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施例にかかる合成ガスの製造方法を実施するのに用いた試験装置の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下に本発明の実施例を示して、本発明の特徴とするところをさらに詳しく説明する。
【実施例1】
【0033】
[二酸化炭素改質用触媒の製造]
(1)二酸化炭素改質用触媒Aの製造
BaCO3とAl23を、モル比3.0:1.0となるように秤量し、さらに2重量%の割合となるようにNiOを加えて混合した。
次に、この混合物にバインダーを加えて直径2〜5mmの球状に造粒した。得られた造粒体を空気中にて1100℃、1hの条件で焼成し、Ba3Al26とNiOの混合体を得た。
【0034】
この混合体を、20%CO2、80%N2気流中にて、700℃、1hの条件で焼成することにより、BaCO3,BaAl24,NiOの混合体である二酸化炭素改質用触媒Aを得た。
【0035】
なお、焼成前後の試料重量変化およびXRD測定結果から、混合体はBa3Al26の全てがBaCO3とBaAl24へと分解し、結果としてBaCO3とBaAl24のモル比が2.0:1.0の混合体である二酸化炭素改質用触媒Aが得られることを確認した。
【0036】
また、上述のNiOは、少なくともその一部が炭化水素系の原料ガスの二酸化炭素改質反応の工程で還元され、炭化水素系原料ガスの二酸化炭素改質を促進する触媒金属として機能するものである。
【0037】
(2)二酸化炭素改質用触媒Bの製造
BaCO3とZrO2を、モル比2.0:1.0となるように秤量し、さらに2重量%のNiOを加えて混合した。
次に、この混合物にバインダーを加えて直径2〜5mmの球状に造粒した。得られた造粒体を空気中にて1300℃、1hの条件で焼成し、Ba2ZrO4とNiOの混合体を得た。
【0038】
この混合体を、20%CO2、80%N2気流中にて、700℃、1hの条件で焼成することにより、BaCO3,BaZrO3,NiOの混合体である二酸化炭素改質用触媒Bを得た。
【0039】
なお、焼成前後の試料重量変化およびXRD測定結果から、混合体はBa2ZrO4の全てがBaCO3とBaZrO3へと分解し、結果としてBaCO3とBaZrO3のモル比が1.0:1.0の混合体である二酸化炭素改質用触媒Bが得られることを確認した。
【0040】
また、この二酸化炭素改質用触媒Bでも、上述のNiOは、少なくともその一部が炭化水素系の原料ガスの二酸化炭素改質反応の工程で還元され、炭化水素系原料ガスの二酸化炭素改質を促進する触媒金属として機能するものである。
【0041】
(3)二酸化炭素改質用触媒Cの製造
BaCO3とFe23を、モル比2.0:1.0となるように秤量し、さらに2重量%のNiOを加えて混合した。
次に、この混合物にバインダーを加えて直径2〜5mmの球状に造粒した。得られた造粒体を空気中にて1100℃、1hの条件で焼成し、Ba2Fe25とNiOの混合体を得た。
【0042】
この混合体を20%CO2、80%N2気流中にて、700℃、1hの条件で焼成することにより、BaCO3,BaFe24,NiOの混合体である二酸化炭素改質用触媒Cを得た。
【0043】
なお、焼成前後の試料重量変化およびXRD測定結果から、混合体はBa2Fe25の全てがBaCO3とBaFe24へと分解し、結果としてBaCO3とBaFe24のモル比が1.0:1.0の混合体であるの二酸化炭素改質用触媒Cが得られることを確認した。
【0044】
また、この二酸化炭素改質用触媒Cでも、上述のNiOは、少なくともその一部が炭化水素系の原料ガスの二酸化炭素改質反応の工程で還元され、炭化水素系原料ガスの二酸化炭素改質を促進する触媒金属として機能するものである。
【0045】
(4)二酸化炭素改質用触媒Dの製造
BaCO3とWO3を、モル比2.0:1.0となるように秤量し、さらに2重量%のNiOを加えて混合した。
次に、この混合物にバインダーを加えて直径2〜5mmの球状に造粒した。得られた造粒体を空気中にて1100℃、1hの条件で焼成し、Ba2WO5とNiOの混合体を得た。
【0046】
この混合体を20%CO2、80%N2気流中にて、750℃、1hの条件で焼成することにより、BaCO3,Ba329,NiOの混合体である二酸化炭素改質用触媒Dを得た。
【0047】
なお、焼成前後の試料重量変化およびXRD測定結果から、Ba2WO5の全てがBaCO3とBa329へと分解し、結果としてBaCO3とBa329のモル比が1.0:2.0の混合体であるの二酸化炭素改質用触媒Dが得られることを確認した。
【0048】
また、この二酸化炭素改質用触媒Dでも、上述のNiOは、少なくともその一部が炭化水素系の原料ガスの二酸化炭素改質反応の工程で還元され、炭化水素系原料ガスの二酸化炭素改質を促進する触媒金属として機能するものである。
【0049】
(5)二酸化炭素改質用触媒Eの製造
BaCO3とMoO3を、モル比2.0:1.0となるように秤量し、さらに2重量%のNiOを加えて混合した。
次に、この混合物にバインダーを加えて直径2〜5mmの球状に造粒した。得られた造粒体を空気中にて1100℃、1hの条件で焼成し、Ba2MoO5とNiOの混合体を得た。
【0050】
この混合体を20%CO2、80%N2気流中にて、1000℃、1hの条件で焼成することにより、BaCO3,BaMoO4,NiOの混合体である二酸化炭素改質用触媒Eを得た。
【0051】
なお、焼成前後の試料重量変化およびXRD測定結果から、Ba2MoO5の全てがBaCO3とBaMoO4へと分解し、結果としてBaCO3とBaMoO4のモル比が1.0:1.0の混合体であるの二酸化炭素改質用触媒Eが得られることを確認した。
【0052】
また、この二酸化炭素改質用触媒Eでも、上述のNiOは、少なくともその一部が炭化水素系の原料ガスの二酸化炭素改質反応の工程で還元され、炭化水素系原料ガスの二酸化炭素改質を促進する触媒金属として機能するものである。
【0053】
(6)二酸化炭素改質用触媒(比較例)Fの製造
比較のため、アルカリ土類金属の炭酸塩と、触媒金属とを含有するが、アルカリ土類金属と、Al,Zr,Fe,WおよびMoからなる群より選ばれる少なくとも1種類の成分を含む複合酸化物を含有しない二酸化炭素改質用触媒Fを以下のようにして作製した。
【0054】
BaCO3にNiOを2重量%となるような割合で加えて混合した。
次に、この混合物にバインダーを加えて造粒し、直径2〜5mmの球状の造粒体を得た。この造粒体を空気中において、900℃、1hの条件で焼成し、BaCO3とNiOの混合体である二酸化炭素改質用触媒(比較用の触媒)Fを得た。
【0055】
なお、造粒体の焼成前後の重量変化およびXRD測定結果から、得られた二酸化炭素改質用触媒Fが、BaCO3とNiOの混合体であることを確認した。
【0056】
また、この二酸化炭素改質用触媒Fでも、上述のNiOは、少なくともその一部が炭化水素系の原料ガスの二酸化炭素改質反応の工程で還元され、炭化水素系原料ガスの二酸化炭素改質を促進する触媒金属として機能するものである。
【0057】
(7)二酸化炭素改質用触媒(比較例)Gの製造
BaCO3とAl23をモル比1.0:1.0となるように秤量し、さらに2重量%の割合でNiOを加えて混合した。
次に、この混合物にバインダーを加えて直径2〜5mmの球状に造粒した。得られた造粒体を空気中にて1000℃、1hの条件で焼成し、BaAl24とNiOの混合体である二酸化炭素改質用触媒(比較用の触媒)Gを得た。
【0058】
なお、造粒体の焼成前後の重量変化およびXRD測定結果から、得られた二酸化炭素改質用触媒Gが、BaAl24とNiOの混合体であることを確認した。
【0059】
(8)市販のメタン改質用触媒Hの準備
比較のため、NiOとアルミナを主成分とする市販のメタン改質用触媒Hを準備した。
【0060】
[二酸化炭素改質試験および特性の評価]
上記の触媒A〜Hを用いて、炭化水素系の原料ガスの二酸化炭素改質試験を行った。
図1に示すように、外部にヒーター2を備えた内径22mm、長さ300mmのステンレス製の反応管1に、上記のようにして製造した二酸化炭素改質用触媒3を50cc充填し、ヒーター2により900℃に加熱し、反応管1の入口4から25NL/hの割合で、メタンと二酸化炭素の混合ガス(CH4:CO2=1:1(容積比))を原料ガスとして8時間流通させた。
【0061】
試験中は反応管1の出口5から得られたガスを分析装置に導入し、ガス濃度を測定した。また試験終了後は二酸化炭素改質用触媒3を取り出し、ふるい分けを行うことで析出した炭素を回収した。
【0062】
さらに、試験終了後の触媒のXRD測定を行い、結晶相の同定を行った。
表1に、得られたガス組成、試験終了後に回収された炭素粉末の重量、試験後の結晶相を示す。なお市販触媒Hでは試験開始から1h程で析出した炭素により反応管が閉塞したため、表1には閉塞に至るまでの1hにおける試験結果を示している。
【0063】
【表1】

【0064】
表1に示すように、本発明の要件を満たす実施例の触媒A〜Eでは、メタンのCOおよびH2への高い転化率が得られることが確認された。
これは、表1にも示すように、試験後の触媒ではNi成分が金属として存在しており、BaCO3またはBaCO3と複合酸化物の混合物の表面に存在する金属Niがメタン分解を促進しているものと考えられる。
【0065】
なお、Ni以外にも、メタン分解に有効なRh,Ru,Ir,Pd,Pt,Re,Co,Fe,Moなどを金属として担持させた場合にも同様の効果が得られる。
【0066】
また、表1に示すように、BaCO3と複合酸化物との混合材料を触媒担体として用いた触媒A〜Eの場合、市販のメタン改質用触媒Hの場合に比べて炭素析出量が減少する。
【0067】
なお、結晶相がBaCO3とNiである比較例の触媒Fでも炭素析出量は少ないがCOおよびH2への転化率が低く、また、結晶相がBaAl24とNiである比較例の触媒Gでは、COおよびH2への転化率は高いが、炭素析出量が多くなることが確認された。
【0068】
上述の結果より、Ca,SrおよびBaからなる群より選ばれる少なくとも1種類のアルカリ土類金属の炭酸塩(試料Aでいえば、BaCO3)と、AAl24,AZrO3,AFe24,A329,A2WO5,AMoO4(AはCa,SrおよびBaからなる群より選ばれる少なくとも1種類のアルカリ土類金属)(試料Aでいえば、BaAl24)で表される複合酸化物との混合材料を触媒担体として用い、これに触媒金属を担持させた触媒を用いることにより、炭素析出量の増大を招くことなく、BaCO3を単独で担体として用いた場合と比較して高い反応転化率が得られることが確認された。
【0069】
また、触媒製造工程においては、Ba成分(あるいはCa成分、Sr成分)が過剰(CO2吸収が可能)な複合酸化物を合成した後にCO2との反応によりBaCO3相(あるいはCaCO3相、SrCO3相)を形成することにより、反応の場である触媒表面にBaCO3相(あるいはCaCO3相、SrCO3相)を効率よく形成することが可能になり、好ましい。
【0070】
なお、本発明は上記の実施例に限定されるものではなく、二酸化炭素改質用触媒の製造方法や、二酸化炭素改質用触媒を構成するアルカリ土類金属や上記複合酸化物の種類、触媒金属の種類や含有割合、本発明の二酸化炭素改質用触媒を用いる場合の改質反応の具体的な条件などに関し、発明の範囲内において、種々の応用、変形を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0071】
上述のように、本発明によれば、炭素の析出を抑制しつつ、炭化水素系の原料ガスと二酸化炭素を反応させ、効率的に水素および一酸化炭素を生成させる(二酸化炭素改質を行う)ことが可能な二酸化炭素改質用触媒を提供することが可能になり、それを用いることにより効率よく水素および一酸化炭素を含む合成ガスを製造することが可能になる。
したがって、本発明は、二酸化炭素改質用触媒の分野および水素および一酸化炭素を含む合成ガスを製造したり、それを用いたりする種々の技術分野に広く適用することが可能である。
【0072】
また、下水の処理工程において、メタンと炭酸ガスを、概略メタン:二酸化炭素ガス=6:4の割合で含有する、いわゆる「消化ガス」と呼ばれるガスが発生する場合があるが、このガスから不純物を除去し、二酸化炭素ガスを補充して、メタンと二酸化炭素ガスの割合を1:1とすれば、二酸化炭素改質が可能であり、このような分野にも本発明を利用することが可能である。
【符号の説明】
【0073】
1 反応管
2 ヒーター
3 二酸化炭素改質用触媒
4 反応管の入口
5 反応管の出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素系の原料ガスを二酸化炭素で改質し、一酸化炭素と水素を含む合成ガスを生成するために用いられる二酸化炭素改質用触媒であって、
Ca,SrおよびBaからなる群より選ばれる少なくとも1種類のアルカリ土類金属の炭酸塩と、
炭化水素系原料ガスの分解反応を促進する触媒金属と、
Ca,SrおよびBaからなる群より選ばれる少なくとも1種類のアルカリ土類金属と、Al,Zr,Fe,WおよびMoからなる群より選ばれる少なくとも1種類の成分を含む複合酸化物と
を含有することを特徴とする二酸化炭素改質用触媒。
【請求項2】
前記複合酸化物が、AAl24,AZrO3,AFe24,A329,A2WO5,AMoO4(AはCa,SrおよびBaからなる群より選ばれる少なくとも1種類のアルカリ土類金属)であることを特徴とする、請求項1記載の二酸化炭素改質用触媒。
【請求項3】
前記触媒金属が、Ni,Rh,Ru,Ir,Pd,Pt,Re,Co,Fe,Moからなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1または2記載の二酸化炭素改質用触媒。
【請求項4】
炭化水素系の原料ガスを二酸化炭素で改質し、一酸化炭素と水素を含む合成ガスを生成するために用いられる二酸化炭素改質用触媒の製造方法であって、
アルカリ土類金属と、Al,Zr,Fe,WおよびMoからなる群より選ばれる少なくとも1種類の成分とを含む二酸化炭素吸収能のある複合酸化物に、二酸化炭素を吸収させる工程を含むこと
を特徴とする二酸化炭素改質用触媒の製造方法。
【請求項5】
前記二酸化炭素吸収能のある複合酸化物が、A3Al26,A2ZrO4,A2Fe25,A2WO5,A3WO6,A2MoO5(AはCa,SrおよびBaからなる群より選ばれる少なくとも1種類のアルカリ土類金属)であることを特徴とする、請求項4記載の二酸化炭素改質用触媒の製造方法。
【請求項6】
炭化水素系の原料ガスを二酸化炭素で改質し、一酸化炭素と水素を含む合成ガスを生成するために用いられる二酸化炭素改質用触媒の担体であって、
Ca,SrおよびBaからなる群より選ばれる少なくとも1種類のアルカリ土類金属の炭酸塩と、
Ca,SrおよびBaからなる群より選ばれる少なくとも1種類のアルカリ土類金属と、Al,Zr,Fe,WおよびMoからなる群より選ばれる少なくとも1種類の成分を含む複合酸化物と
を含有することを特徴とする、二酸化炭素改質用触媒の担体。
【請求項7】
前記複合酸化物が、AAl24,AZrO3,AFe24,A329,A2WO5,AMoO4(AはCa,SrおよびBaからなる群より選ばれる少なくとも1種類のアルカリ土類金属)であることを特徴とする、請求項6記載の二酸化炭素改質用触媒の担体。
【請求項8】
炭化水素系の原料ガスを二酸化炭素で改質し、一酸化炭素と水素を含む合成ガスを生成するために用いられる改質器であって、
請求項1〜3のいずれかに記載の二酸化炭素改質用触媒と、炭化水素系の原料ガスとを接触させる改質部を具備し、前記改質部において、二酸化炭素改質用触媒と、炭化水素系の原料ガスとを、二酸化炭素の存在下で接触させることにより、一酸化炭素と水素を含む合成ガスを生成させるように構成されていること
を特徴とする改質器。
【請求項9】
請求項1〜3のいずれかに記載の二酸化炭素改質用触媒を用いて、メタンを主たる成分とする原料ガスを二酸化炭素改質し、一酸化炭素と水素を含む合成ガスを生成させることを特徴とする合成ガスの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−29846(P2010−29846A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−149530(P2009−149530)
【出願日】平成21年6月24日(2009.6.24)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】