説明

二重反応区域プロセスを用いる酢酸からのエチレンの製造

酢酸からエチレンを選択的に生成させる方法は、第1の反応区域内において、酢酸及び水素を含む供給流を、昇温温度において、好適な水素化触媒を含む第1の触媒組成物と接触させて、エタノール及び酢酸エチルを含む中間体混合物を生成させ;次に、第2の反応区域内において、中間体混合物を好適な脱水及び/又は分解触媒上で反応させてエチレンを生成させる;ことを含む。80%を超えるエチレンの選択率が達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、同じ表題の2008年7月31日出願の米国特許出願12/221,138に基づくものであり、ここにその優先権を主張し、その開示事項は参照により本明細書中に援用されるものとする。
【0002】
本発明は、一般に酢酸からエチレンを製造する方法に関する。より詳しくは、本発明は、第1の反応区域において第1の触媒組成物を用いて酢酸を水素化し、第2の反応区域において第2の触媒によって水素化中間体を脱水又は分解して、高い選択率でエチレンを生成させることを含む方法に関する。
【背景技術】
【0003】
酢酸をエチレンに転化させる経済的に実現可能なプロセスに対する必要性が長い間感じられている。エチレンは、種々の工業製品のための重要な商業的供給原料であり、例えば、エチレンは次に種々のポリマー及びモノマー製品に転化させることができる。天然ガス及び原油の変動する価格は、通常製造される石油又は天然ガスを原料とするエチレンのコストの変動の原因となり、このために石油の価格が上昇している際には、エチレンの代替源に対する必要性が益々大きくなる。
【0004】
エチレンを、気相中、150〜300℃の温度範囲において、ゼオライト触媒上で種々のエチルエステルから製造することができることが報告されている。用いることができるエチルエステルのタイプとしては、ギ酸、酢酸、及びプロピオン酸のエチルエステルが挙げられる。例えば、Cognionらの米国特許第4,620,050号(ここでは選択率が許容できるものであると報告されている)を参照。
【0005】
Kniftonの米国特許第4,270,015号においては、一酸化炭素と水素の混合物(合成ガスとして一般に知られている)を、2〜4個の炭素原子を有するカルボン酸と反応させてかかるカルボン酸の対応するエチルエステルを生成させ、これを次に石英反応器内において、約200℃〜600℃の範囲の昇温下で熱分解してエチレンを得る2工程プロセスを含むエチレンの製造が記載されている。このようにして製造されるエチレンは、不純物として他の炭化水素、特にエタンを含む。ここではまた、純粋なプロピオン酸エチルを460℃において熱分解することによって、エタンの濃度は5%に近い高い値に到達する可能性があることも報告された。より重要なこととして、エステルの転化率及びエチレンの収率は、非常に低いと報告されている。
【0006】
Schreckの米国特許第4,399,305号においては、E.I. DuPont de Nemours & Co.によってNAFIONの商標で市販されているペルフルオロスルホン酸樹脂から構成される分解触媒を用いて酢酸エチルから高純度のエチレンを得ることが記載されている。
【0007】
他方において、MalinowskiらのBull. Soc. Chim. Belg. (1985), 94 (2), 93-5においては、シリカ(SiO)又はチタニア(TiO)のような担体材料上で不均質化されている低原子価チタン上で酢酸のような基材を反応させて、ジエチルエーテル、エチレン、及びメタンを含む生成物の混合物を得ることが開示されているが、選択率は低い。
【0008】
国際公開第2003/040037号においては、結晶質で微孔質の金属アルミノリン酸塩(ELAPO)、特に0.03〜017のSi/Al比を有するSAPO−タイプのゼオライト、例えばSAPO−5、SAPO−11、SAPO−20、SAPO−18、及びSAPO−34が、吸着剤、或いはメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、C〜C20アルコール、メチルエチルエーテル、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ホルムアルデヒド、ジメチルカーボネート、ジメチルケトン、及び/又は酢酸を含む酸素化供給材料からオレフィンを製造するための触媒として有用であることが開示されている。少なくとも1つのモレキュラーシーブの連晶相を含むシリコアルミノホスフェートモレキュラーシーブを用いることも同様に開示されている。このプロセスにおいては、含酸素物質を含む供給材料を、反応器の反応区域において、軽質オレフィン、特にエチレン及びプロピレンを製造するのに有効な条件下でモレキュラーシーブを含む触媒と接触させることが報告されている。Janssenらの米国特許第6,812,372号を参照。かかる含酸素供給材料としては酢酸が挙げられるが、開示されているものは明らかにメタノール又はジメチルエーテルのいずれかに限定されている。Vaughnらの米国特許第6,509,290号(含酸素供給材料をオレフィンに転化することが更に開示されている)も参照。
【0009】
テトラブチルスズをシリカ上に担持されている二酸化ルテニウムと反応させることによって、2元金属ルテニウム−スズ/シリカ触媒が製造されている。これらの触媒は、それらのスズ/ルテニウムの含量比(Sn/Ru)に基づいて異なる選択率を示すことが報告されている。具体的には、酢酸エチルの水素化分解に関する選択率は、触媒におけるSn/Ru比によって大きく異なることが報告されている。例えば、SiO上のルテニウム単独を用いると、反応は選択的でなく、メタン、エタン、一酸化炭素、二酸化炭素、並びにエタノール、及び酢酸が生成する。これに対して、低いスズ含量を用いると、触媒は完全に酢酸の生成に対して選択的であり、一方、より高いSn/Ru比においては、エタノールが唯一検出される生成物であることが報告されている。Loessardら, Studies in Surface Science and Catalysis (1989), Volume Date 1988, 48 (Struct. React. Surf.), 591-600を参照。
【0010】
また、酢酸の接触還元も研究されている。例えば、Hindermannら, J. Chem. Res., Synopses (1980), (11), 373においては、鉄及びアルカリ促進鉄(alkali-promoted iron)上での酢酸の接触還元が開示されている。彼らの研究において、彼らはアルカリ促進鉄上での酢酸の還元は、温度によって少なくとも2つの異なる経路を取ることを見出した。例えば、彼らは、350℃においてはPiria反応が支配的であり、アセトン及び二酸化炭素が与えられたことを見出し、また、彼らは分解生成物であるメタン及び二酸化炭素を観察し、これに対してより低い温度では分解生成物は減少した。他方において、300℃においては通常の還元反応が観察され、アセトアルデヒド及びエタノールが生成された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第4,620,050号明細書
【特許文献2】米国特許第4,270,015号明細書
【特許文献3】米国特許第4,399,305号明細書
【特許文献4】国際公開第2003/040037号
【特許文献5】米国特許第6,812,372号明細書
【特許文献6】米国特許第6,509,290号明細書
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Bull. Soc. Chim. Belg. (1985), 94 (2), 9305
【非特許文献2】Studies in Surface Science and Catalysis (1989), Volume Date 1988, 48 (Struct. React. Surf.), 591-600
【非特許文献3】J. Chem. Res., Synopses (1980), (11), 373
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記から、既存のプロセスはエチレンへの必要な選択率を有しないか、または、既存の技術は、高価で且つ/若しくはエチレン以外の製品の製造に使用される、酢酸以外の出発物質を用いることが条件になっていることが明らかである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
酢酸からエチレンを選択的に生成させる方法は、第1の反応区域において、酢酸及び水素を含む供給流を、昇温温度において好適な水素化触媒を含む第1の触媒組成物と接触させて、好ましくは酢酸、エタノール、及び酢酸エチルを含む中間体混合物を生成させ;次に第2の反応区域において、水素化混合物を好適な脱水及び/又は分解触媒上で反応させてエチレンを生成させる;ことを含む。
【0015】
以下において、図1を参照して本発明を詳細に記載する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、層状固定床反応器の概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下において、例証及び例示のみの目的のための数多くの態様を参照して本発明を詳細に記載する。特許請求の範囲において示す本発明の精神及び範囲内の特定の態様に対する修正は、当業者に容易に明らかとなるであろう。
【0018】
下記においてより具体的に定義しない限りにおいて、用語はその通常の意味で与えられる。%などの用語は、他に断りのない限りにおいてモルパーセントを指す。
「転化率」は、供給流中の酢酸を基準とするモル%として表す。
【0019】
「選択率」は、転化した酢酸を基準とするモル%として表す。例えば、転化率が50モル%であり、転化した酢酸の50モル%がエチレンに転化している場合には、本発明者らはエチレン選択率が50%であると言う。エチレン選択率は、ガスクロマトグラフィー(GC)のデータから下式:
【0020】
【化1】

【0021】
の通りに計算する。
理論に縛られることは意図しないが、本発明による酢酸のエチレンへの転化は、次の化学式:
【0022】
【化2】

【0023】
【化3】

【0024】
【化4】

【0025】
【化5】

【0026】
の1以上にしたがって進行すると考えられる。
本発明方法は、当業者が容易に認めるように固定床反応器又は流動床反応器を用いて種々の形態で実施することができる。断熱反応器を用いることができ、或いは熱伝達媒体を備えたシェルアンドチューブ反応器を用いることができる。いずれの場合においても、2つの反応区域は固定床反応器内に異なる層を有する単一の容器内に収容することができ、或いは2つの反応区域は2つの別々の区域を与えるバッフル及び分離器を有する単一容器の流動床システム内に収容することができる。或いは、異なる反応区域を収容するために2つの容器を用いることができる。いずれの場合においても、2つの区域を有する複式反応器を平行して運転することができ、例えば都合がよければ、平行に配列されている層状の固定床を有する複式管状反応器を用いることができる。
【0027】
図1に、層状の固定床10を有する管状反応器を図示する。床10は容器12内の固定床であり、混合区域又は層14、第1の反応区域又は層16、任意的に追加される分離器区域又は層18、第2の反応区域又は層20、及びスペーサー区域又は層22を構成する不活性粒子状材料の層を含む。酢酸、水素、及び場合によっては不活性キャリアガスを含む反応混合物を、混合区域14への加圧流24として床10に供給する。流れは次に、(差圧を用いて)第1の反応区域又は層16に供給される。反応区域16は、好適な水素化触媒を含む第1の触媒組成物を含み、ここで水素化された酢酸の中間体が生成する。好適には、第1の触媒組成物は粒子状形態である。
【0028】
水素化の後、混合物は、任意的に追加される分離器区域18を通って、好適な脱水及び/又は分解触媒を含む第2の触媒組成物を含む第2の反応区域又は層20に進む。
区域20においては、酢酸エチル及びエタノールのような水素化された酢酸の中間体を脱水及び/又は分解してエチレンを生成させ、生成物をスペーサー区域22に送り、最終的には容器12への導入圧よりも低い圧力で生成物流26として床10から排出する。
【0029】
層14、18、及び22は任意的に追加されるものであり、図1に示す構成において好適な寸法の不活性粒子状材料から形成することができる。他の配置又は構成においては、同等の手段は、当業者に認められるように、混合、分離、熱伝達などを促進するのに有効な任意の好適なデザインのものであってよい。
【0030】
本発明方法の第1工程における酢酸のエタノールへの水素化において、当業者に公知の種々の水素化触媒を用いることができる。好適な水素化触媒は、好適な担体上の金属触媒であるものである。かかる触媒の例として、限定なしに以下の触媒:銅、ニッケル、アルミニウム、クロム、亜鉛、及びこれらの混合物;を挙げることができる。通常は、好適な担体上の単一金属又は2元金属触媒を、水素化触媒として用いることができる。したがって、銅単独か、或いはこれとアルミニウム、クロム、又は亜鉛との組み合わせのいずれかが特に好ましい。
【0031】
当該技術において公知の種々の触媒担体を用いて本発明の触媒を担持することができる。かかる担体の例としては、限定なしに、酸化鉄、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化マグネシウム、ケイ酸カルシウム、炭素、黒鉛、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0032】
本発明の一態様においては、担持水素化触媒の具体例としては、酸化鉄、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化マグネシウム、ケイ酸カルシウム、炭素、黒鉛、及びこれらの混合物が挙げられる。特に、上述したように、酸化鉄上に担持されている銅、及び銅−アルミニウム触媒が好ましい。
【0033】
幾つかの商業的に入手できる触媒としては、以下のもの:Sud ChemieによってT-4489の名称で販売されている銅−アルミニウム触媒;T-2130、T-4427、及びT-4492の名称で販売されている銅−亜鉛触媒;T-4419及びG-99Bの名称で販売されている銅−クロム触媒;並びにNiSAT 310、C47-7-04、G-49、及びG-69の名称で販売されているニッケル触媒(全てSud Chemieによって販売されている);が挙げられる。T-4489の名称で販売されている銅−アルミニウム触媒が特に好ましい。
【0034】
本発明においては、担体上の金属装填量はあまり重要ではなく、約3重量%〜約10重量%の範囲で変化させることができる。担体の重量を基準として約4重量%〜約6重量%の金属装填量が特に好ましい。したがって、例えば酸化鉄上に担持されている4〜6重量%の銅が特に好ましい触媒である。
【0035】
金属の含浸は、当該技術において公知の任意の方法を用いて行うことができる。通常は、含浸の前に、担体を120℃において乾燥し、約0.2〜0.4mmの範囲の寸法分布を有する粒子に成形する。場合によっては、担体をプレスし、粉砕し、所望の寸法分布に篩別することができる。担体材料を所望の寸法分布に成形する任意の公知の方法を用いることができる。
【0036】
例えばα−アルミナ又は酸化鉄のような低い表面積を有する担体に関しては、所望の金属装填量が得られるように、完全な湿潤又は過剰の液体含浸が得られるまで金属溶液を過剰に加える。
【0037】
上述したように、幾つかの水素化触媒は2元金属のものである。一般にかかる場合においては、1つの金属が促進剤金属として作用し、他の金属が主金属(main metal)である。例えば、銅、ニッケル、コバルト、及び鉄は、本発明の水素化触媒を製造するための主金属であると考えられる。主金属は、タングステン、バナジウム、モリブデン、クロム、又は亜鉛のような促進剤金属と組み合わせることができる。しかしながら、時には主金属を促進剤金属として作用させることもでき、その逆も成り立つことを注意すべきである。例えば、鉄を主金属として用いる場合には、ニッケルを促進剤金属として用いることができる。同様に、クロムは、銅と組み合わせて主金属として用いることができ(即ち、主2元金属としてCu−Cr)、これはセリウム、マグネシウム、又は亜鉛のような促進剤金属と更に組み合わせることができる。
【0038】
2元金属触媒は、一般に2工程で含侵させる。まず「促進剤」金属を、次に「主」金属を加える。それぞれの含侵の後に、乾燥及びカ焼を行う。2元金属触媒はまた、共含侵によって製造することもできる。上記のような3元金属Cu/Cr含有触媒の場合には、「促進剤」金属の添加から開始して逐次含侵を用いることができる。第2の含侵工程には、2つの主金属、即ちCu及びCrの共含侵を含ませることができる。例えば、SiO上のCu−Cr−Ceは、まず硝酸セリウムを含侵させ、次に銅及びクロムの硝酸塩を共含侵させることによって製造することができる。ここでも、それぞれの含侵工程の後に乾燥及びカ焼を行う。殆どの場合においては、含侵は金属硝酸塩溶液を用いて行うことができる。しかしながら、カ焼によって金属イオンを放出する種々の他の可溶性塩を用いることもできる。含侵のために好適な他の金属塩の例としては、金属水酸化物、金属酸化物、金属酢酸塩、アンモニウム金属酸化物、例えば7モリブデン酸アンモニウム6水和物、金属酸、例えば過レニウム酸溶液、金属シュウ酸塩などが挙げられる。
【0039】
本発明方法の他の形態においては、本発明方法の第2工程において任意の公知の脱水触媒を用いることができる。通常は、脱水触媒としてゼオライト触媒を用いる。少なくとも約0.6nmの孔径を有する任意のゼオライトを用いることができるが、かかるゼオライトの中で、モルデナイト、ZSM−5、ゼオライトX、及びゼオライトYからなる群から選択される脱水触媒が好ましく用いられる。
【0040】
大孔モルデナイトの製造は、例えば米国特許第4,018,514号、及びD. DOMINE及びJ. QUOBEXのMol. Sieves Pap. Conf., 1967, 78, Soc. Chem. Ind. Londonに記載されている。
【0041】
ゼオライトXは例えば米国特許第2,882,244号に、ゼオライトYは米国特許第3,130,007号に記載されている。
種々のゼオライト及びゼオライトタイプの材料が、化学反応を触媒することに関して当該技術において公知である。例えば、Argauerの米国特許第3,702,886号においては、種々の炭化水素転化プロセスを触媒するのに有効である「ゼオライトZSM−5」として特徴づけられる合成ゼオライトの種類が開示されている。
【0042】
本発明の手順のために好適なゼオライトは、塩基性形態、部分的か又は完全に酸性化の形態、或いは部分的に脱アルミニウム化した形態であってよい。
「H−ZSM−5」又は「H−モルデナイト」ゼオライトとして特徴づけられる本発明方法における活性触媒は、対応する「ZSM−5」ゼオライト又は「モルデナイト」ゼオライトから、当該技術において周知の技術を用いてこのゼオライトのカチオンの殆ど、一般には少なくとも約80%を水素イオンで置換することによって製造される。これらのゼオライト触媒は、実質的に結晶質のアルミノシリケートであるか、或いは中性形態で明確な結晶構造のシリカ及びアルミナの組み合わせである。本発明の目的のために特に好ましい種類のゼオライト触媒においては、これらのゼオライトにおけるAlに対するSiOのモル比は、約10〜60の比の範囲内である。
【0043】
上述したように、エチレンは、脱水、及び酢酸エチルをエチレン及び酢酸に分解又は「クラッキング」することによって製造される。これは、所望の場合には分解触媒を用いる接触反応であってよい。好適な分解触媒としては、上述の米国特許第4,399,305号(その開示事項は参照により本明細書に援用されるものとする)に開示されているペルフルオロスルホン酸樹脂のようなスルホン酸樹脂が挙げられる。また、米国特許第4,620,050号(その開示事項も参照により本明細書に援用されるものとする)に記載されているように、ゼオライトもまた分解触媒として好適である。したがって、本発明の高効率プロセスにおいて、ゼオライト触媒を用いて、同時にエタノールをエチレンに脱水し且つ酢酸エチルをエチレンに分解することができる。
【0044】
酢酸のエチレンへの選択率は、好適には10%より大きく、例えば少なくとも20%、少なくとも40%、少なくとも60%、又は少なくとも80%である。副生成物の混合比によって中程度の選択率で運転することが望ましい可能性があるが、但しCOのような望ましくない生成物への選択率は低いままである。
【0045】
好ましくは、本発明方法の目的のためには、好適な水素化触媒は、酸化鉄上の銅か、或いはSud ChemieによってT-4489の商品名で販売されている銅−アルミニウム触媒のいずれかであり、脱水触媒はH−モルデナイトである。本発明方法のこの態様においては、酸化鉄担体上又は2元金属銅−アルミニウム触媒中の銅の装填量は、通常は約3重量%〜約10重量%の範囲であり、好ましくは、これは約4重量%〜約6重量%の範囲である。
【0046】
本発明の1つの態様においては、水素化及び脱水触媒は層状であることが好ましい。好ましくは、触媒床の最上層は水素化触媒であり、底層は脱水触媒である。
本発明方法の他の形態においては、水素化及び脱水は、触媒床を横切る圧力損失を克服するのに丁度十分な圧力において行う。
【0047】
反応は、気体状態又は液体状態において、広範囲の条件下で行うことができる。好ましくは、反応は気相中で行う。例えば約200℃〜約375℃、好ましくは約250℃〜約350℃の範囲の反応温度を用いることができる。圧力は一般に反応に対して重要ではなく、大気圧以下、大気圧、又は大気圧以上の圧力を用いることができる。しかしながら、殆どの場合においては、反応圧は約1〜30絶対気圧の範囲である。
【0048】
反応は、1モルのエタノールを製造するために酢酸1モルあたり2モルの水素を消費するが、供給流中の酢酸と水素との実際のモル比は広範囲の限界値の間、例えば約100:1〜1:100の間で変化させることができる。しかしながら、この比は約1:20〜1:2の範囲であることが好ましい。
【0049】
本発明方法に関して用いられる原材料は、天然ガス、石油、石炭、バイオマスなどの任意の好適な源から誘導することができる。メタノールのカルボニル化、アセトアルデヒドの酸化、エチレンの酸化、酸化発酵、及び嫌気発酵などによって酢酸を製造することは周知である。石油及び天然ガスはより高価になってきているので、代替の炭素源から酢酸並びにメタノール及び一酸化炭素のような中間体を製造する方法により興味が持たれている。任意の好適な炭素源から誘導することができる合成ガス(シンガス)からの酢酸の製造が特に興味深い。例えば、Vidalinの米国特許第6,232,352号(その開示事項は参照により本明細書に援用されるものとする)においては、酢酸を製造するためにメタノールプラントを改造する方法が教示されている。メタノールプラントを改造することによって、新しい酢酸プラントのためのCO製造に関連する大きな設備コストが大きく減少するか又は大きく排除される。シンガスの全部又は一部をメタノール合成ループから迂回させ、分離器ユニットに供給してCO及び水素を回収し、これを次に酢酸を製造するために用いる。酢酸に加えて、このプロセスを用いて本発明に関して用いられる水素を製造することもできる。
【0050】
Steinbergらの米国再発行特許発明第35,377号(これも参照として本明細書に援用されるものとする)においては、石油、石炭、天然ガス、及びバイオマス材料のような炭素質材料を転化させることによってメタノールを製造する方法が与えられている。このプロセスは、固体及び/又は液体の炭素質材料を水素添加ガス化してプロセスガスを得て、これを更なる天然ガスで蒸気熱分解して合成ガスを生成することを含む。シンガスをメタノールに転化させ、これを酢酸にカルボニル化することができる。この方法では更に、上述のように本発明に関して用いることができる水素が生成する。Gradyらの米国特許第5,821,111号(ガス化によって廃バイオマスを合成ガスに転化させる方法が開示されている)、及びKindigらの米国特許第6,685,754号(これらの開示事項は参照により本明細書に援用されるものとする)も参照。
【0051】
酢酸は、反応温度において気化させて、次に、非希釈状態か、或いは窒素、アルゴン、ヘリウム、二酸化炭素などのような比較的不活性のキャリアガスで希釈して、水素と一緒に供給することができる。
【0052】
或いは、Scatesらの米国特許第6,657,078号(その開示事項は参照により本明細書に援用されるものとする)に記載されている種類のメタノールカルボニル化ユニットのフラッシュ容器からの粗生成物として、蒸気形態の酢酸を直接回収することができる。粗蒸気生成物は、酢酸及び軽質留分を凝縮するか、又は水を除去する必要なしに本発明の反応区域に直接供給することができ、これによって全体の処理コストが節約される。
【0053】
接触又は滞留時間も、酢酸の量、触媒、反応器、温度、及び圧力のような変数によって広範囲に変化させることができる。通常の接触時間は、固定床以外の触媒系を用いる場合には1秒以下乃至数時間超の範囲であり、好ましい接触時間は、少なくとも気相反応に関しては約0.5〜100秒の間である。
【0054】
通常は、触媒は、例えば、通常は蒸気形態の反応物質が触媒の上又は触媒を通して通過する細長いパイプ又はチューブの形状の固定床反応器内で用いる。所望の場合には、流動床又は沸騰床反応器のような他の反応器を用いることができる。幾つかの場合においては、水素化及びゼオライト触媒をガラスウールのような不活性材料と組み合わせて用いて、触媒床を通る反応物質流の圧力損失、及び反応物質化合物と触媒粒子との接触時間を調節することが有利である。
【0055】
1つの好ましい態様においては、酢酸及び水素の供給流を、約250℃〜350℃の範囲の温度において、酸化鉄上に担持されている銅、又は銅−アルミニウム触媒から選択される水素化触媒と接触させて、酢酸、エタノール、及び酢酸エチルを含む中間体混合物を生成させ;そして同時に、かかる混合物を、H−モルデナイトゼオライト又はナトリウムYゼオライトから選択される脱水触媒上で反応させてエチレンを生成させる;ことを含む、酢酸からエチレンを選択的に生成する方法も提供される。
【0056】
本発明方法のこの態様においては、好ましい水素化触媒は酸化鉄上の5重量%銅、又は銅−アルミニウム触媒中の5重量%銅であり、脱水触媒はH−モルデナイトである。本発明方法のこの態様においては、水素化及び脱水触媒は固定床内で層状であり、反応を、気相中、約300℃〜350℃の範囲の温度、及び約1〜30絶対気圧の範囲の圧力において行い、反応物質の接触時間を約0.5〜100秒の範囲とすることが好ましい。
【実施例】
【0057】
以下の実施例によって、本発明方法において用いる種々の触媒を製造するために用いる手順を記載する。
実施例A
酸化鉄上5重量%銅の製造:
約0.2mmの均一な粒径分布の粉末化し篩別した酸化鉄(100g)を、オーブン内、窒素雰囲気下で120℃において一晩乾燥し、次に室温に冷却した。これに、蒸留水(100mL)中の硝酸銅(17g)の溶液を加えた。得られたスラリーを、オーブン内で110℃に徐々に加熱(>2時間、10℃/分)して乾燥した。次に、含浸した触媒混合物を500℃においてカ焼した(6時間、1℃/分)。
【0058】
実施例B
H−モルデナイトゼオライトの製造:
アンモニウム形態のモルデナイトを500〜550℃において4〜8時間カ焼することによって、H−モルデナイトゼオライトを製造した。ナトリウム形態のモルデナイトを前駆体として用いる場合には、カ焼の前にナトリウムモルデナイトをアンモニウム形態にイオン交換した。
【0059】
生成物のガスクロマトグラフィー(GC)分析:
オンラインGCによって生成物の分析を行った。1つの炎イオン化検出器(FID)及び2つの熱伝導度型検出器(TCD)を備えた3チャンネルの小型GCを用いて、反応物質及び生成物を分析した。フロントチャンネルには、FID及びCP-Sil 5(20m)+WaxFFap(5m)カラムを取り付け、これを用いて
アセトアルデヒド;
エタノール;
アセトン;
酢酸メチル;
酢酸ビニル;
酢酸エチル;
酢酸;
エチレングリコールジアセテート;
エチレングリコール;
エチリデンジアセテート;
パラアルデヒド;
を定量した。
【0060】
ミドルチャンネルには、TCD及びPorabond Qカラムを取り付け、これを用いて
CO
エチレン;
エタン;
を定量した。
【0061】
バックチャンネルには、TCD及びMolsieve 5Aカラムを取り付け、これを用いて
ヘリウム;
水素;
窒素;
メタン;
一酸化炭素;
を定量した。
【0062】
反応の前に、個々の化合物をスパイクすることによって異なる成分の保持時間を求め、公知の組成の較正用ガス又は公知の組成の液体溶液のいずれかを用いてGCを較正した。これによって、種々の成分に関する応答係数を決定することができた。
【0063】
実施例1
用いた触媒は、酸化鉄上銅触媒、Sud Chemieから購入したT-4489、及び米国特許第4,018,514号にしたがって製造したナトリウムアルミノシリケートモルデナイト触媒中のゼオライトの重量を基準として500ppm以外のナトリウムイオンを水素イオンで置換することによって製造したH−モルデナイトゼオライト、或いはシリカとアルミナとの比が好ましくは約15:1〜約100:1の範囲である同等物であった。好適な触媒は、約20:1のシリカとアルミナとの比を有するZeolyst Internationalから入手できるCBV21Aである。
【0064】
30mmの内径を有し、制御された温度に昇温することができるステンレススチール製の管状反応器内に、最上層として30mLの酸化鉄上5重量%銅触媒、及び底層として20mLのH−モルデナイトを配置した。充填後の合計の触媒床の長さは約70mmであった。
【0065】
供給液は実質的に酢酸から構成されていた。反応供給液を蒸発させ、水素及びキャリアガスとしてヘリウムと一緒に、2500hr−1の平均合計気体空間速度(GHSV)で、300℃の温度及び100psigの圧力において反応器に充填した。供給流は、約6.1モル%〜約7.3モル%の酢酸、及び約54.3モル%〜約61.5モル%の水素を含んでいた。供給流を、まず水素化触媒(最上)層に供給して、水素化された酢酸の中間体を有する流れが次に脱水触媒層と接触するようにした。反応器からの蒸気流出流の一部を、流出流の内容物の分析のためにガスクロマトグラフに通した。酢酸の転化率は65%であり、エチレン選択率は85%であった。アセトンへの選択率は3%であり、酢酸エチルへの選択率は2%であり、エタノールへの選択率は0.6%であった。二酸化炭素は比較的低く、転化した酢酸のCOへの測定された選択率は4%であった。
【0066】
実施例2
用いた触媒は、実施例Aの手順にしたがって製造した酸化鉄上5重量%銅、及び実施例1において上述したようにナトリウムアルミノシリケートモルデナイト触媒中のゼオライトの重量を基準として500ppm以外のナトリウムイオンを水素イオンで置換することによって製造したH−モルデナイトゼオライトであった。
【0067】
2,500hr−1の平均合計気体空間速度(GHSV)の気化酢酸、水素、及びヘリウムの供給流を用いて、350℃の温度及び100psigの圧力において、実施例1に示す手順を実質的に繰り返した。得られた供給流は、約7.3モル%の酢酸及び約54.3モル%の水素を含んでいた。蒸気流出流の一部を、流出流の内容物の分析のためにガスクロマトグラフに通した。酢酸の転化率は8%であり、エチレン選択率は18%であった。
【0068】
一般的に言えば、およそ10%より高いエチレンへの選択率が非常に望ましく、エタノール又は酢酸エチルのような他の副生成物は未反応の酢酸と一緒に反応器に再循環することができ、更に他の副生成物は再処理するか、又は燃料価のために用いることができると認められる。10%未満、好ましくは5%以下のCOへの選択率が望ましい。
【0069】
比較例1〜5
これらの例は、エチレンが生成されなかったか及び/又は非常に低いレベルのエチレンが検出された種々の触媒上での酢酸と水素の反応を示す。
【0070】
これらの例の全てにおいて、表1に示す異なる触媒を用いた他は実施例1に示す手順に実質的にしたがった。表1に要約するように、これらの比較例の全てにおいて、1つの単一の触媒層のみを用いた。反応温度、及びエチレンへの選択率も表1にまとめる。
【0071】
【表1】

【0072】
これらの例においては、アセトアルデヒド、エタノール、酢酸エチル、エタン、一酸化炭素、二酸化炭素、メタン、イソプロパノール、アセトン、及び水などの種々の他の生成物が検出された。
【0073】
幾つかの上述の例によって本発明を示したが、本発明はこれらによって限定されると解釈すべきではない。むしろ、本発明はこれまでに開示されている一般的な分野を包含する。本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、種々の修正及び具現化を行うことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の反応区域において、酢酸及び水素を含む供給流を、昇温温度において、好適な水素化触媒を含む第1の触媒組成物と接触させて中間体水素化混合物を生成させ;そして、第2の反応区域において、かかる中間体混合物を、好適な脱水触媒及び場合によっては分解触媒を含む第2の触媒組成物上で反応させてエチレンを生成させる;ことを含む、酢酸からエチレンを選択的に生成する方法。
【請求項2】
第1及び第2の反応区域が、それぞれ、固定床内の第1の触媒組成物の第1の層、及び第2の触媒組成物の第2の層を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第1及び第2の反応区域が別々の容器内である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
消費された酢酸を基準とするエチレンへの選択率が少なくとも20%である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
消費された酢酸を基準とするエチレンへの選択率が少なくとも40%である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
消費された酢酸を基準とするエチレンへの選択率が少なくとも60%である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
消費された酢酸を基準とするエチレンへの選択率が少なくとも80%である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
第1の反応区域における水素化を担体上の水素化触媒上で行い、触媒が、銅、ニッケル、アルミニウム、クロム、亜鉛、パラジウム、又はこれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
担体が、酸化鉄、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化マグネシウム、ケイ酸カルシウム、炭素、黒鉛、及びこれらの混合物からなる群から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
水素化触媒が、酸化鉄上に担持されている銅、銅−アルミニウム触媒、銅−亜鉛触媒、銅−クロム触媒、及びニッケル触媒からなる群から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
水素化触媒が、酸化鉄上に担持されている銅、又は銅−アルミニウム触媒から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
第2の触媒組成物が、H−モルデナイト、ZSM−5、ゼオライト−X、及びゼオライト−Yからなる群から選択されるゼオライト触媒を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
ゼオライトが約10〜60の範囲のシリカ/アルミナ比(SiO/Al)を有する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
中間体混合物がエタノール及び酢酸エチルを含み、第2の触媒組成物が分解触媒を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
水素化触媒が酸化鉄上の銅であり、脱水触媒がH−モルデナイトである、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
酸化鉄上の銅の装填量が約3重量%〜約10重量%の範囲である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
酸化鉄上の銅の装填量が約4重量%〜約6重量%の範囲である、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
水素化触媒が銅−アルミニウム触媒であり、脱水触媒がH−モルデナイトである、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
銅−アルミニウム触媒に関する銅の装填量が約3重量%〜約10重量%の範囲である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
銅−アルミニウム触媒に関する銅の装填量が約4重量%〜約6重量%の範囲である、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
水素化及びエチレンへの転化を、気相中、約200℃〜375℃の範囲の温度において行う、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
水素化及びエチレンへの転化を、気相中、約250℃〜350℃の範囲の温度において行う、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
供給流が不活性キャリアガスを含む、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
反応物質が約100:1〜1:100の範囲のモル比の酢酸及び水素から構成され、反応区域の温度が約250℃〜350℃の範囲であり、反応区域の圧力が約1〜30絶対気圧の範囲である、請求項21に記載の方法。
【請求項25】
反応物質が約1:20〜1:2の範囲のモル比の酢酸及び水素から構成され、反応区域の温度が約300℃〜350℃の範囲であり、反応区域の圧力が約1〜30絶対気圧の範囲である、請求項21に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2011−529495(P2011−529495A)
【公表日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−521094(P2011−521094)
【出願日】平成21年7月20日(2009.7.20)
【国際出願番号】PCT/US2009/004191
【国際公開番号】WO2010/014148
【国際公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【出願人】(500175107)セラニーズ・インターナショナル・コーポレーション (77)
【Fターム(参考)】