説明

亜臨界水処理装置、亜臨界水処理方法、及び該方法で得られる畜水産飼料又は工業原料

【課題】亜臨界水処理方法において、反応器で処理液中の有機物が分解された低分子化された物質と処理液が降温することにより、配管内で凝集、沈殿して生じる配管の閉塞リスクを低下させる。
【解決手段】処理すべき原料を、水が亜臨界状態となっている反応器4内に入れて、前記原料内に含まれている有機物を低分子の物質に分解し、水と亜臨界水処理により分解された物質を含む処理液を、前記反応器4から水が亜臨界水となっている状態で、直接、背圧弁5を介して常温常圧のフラッシュタンク6内に送って急激に減圧することにより、前記処理液中の水分を蒸発させて、処理液中の水分に対する低分子物質の濃度を増加させるとともに、前記分解された物質をほぐす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、食品、食品残渣又は食品製造副産物等を亜臨界水によって処理する亜臨界水処理装置、亜臨界水処理方法、及び該方法で得られる畜水産飼料又は工業原料に関し、例えば、食品、食品残渣(各種の余剰食品、調理残渣、食べ残し残渣、売れ残り食品残渣等)、食品製造副産物(米ぬか、酒粕、醤油かす、畜産の内臓、皮、食肉、魚くず等、食品製造で得られる副産物や加工屑)、その他食品以外の物を、水が亜臨界状態(亜臨界水状態)となっている反応器内に入れて、原料内に含まれている有機物を低分子の物質に分解し、畜産又は水産用飼料原料として利用する亜臨界水処理装置、亜臨界水処理方法、及び該方法で得られる畜水産飼料又は工業原料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スーパー、コンビニエントストア等の売れ残り食品、家庭、レストラン等からの廃棄される食品残渣の効率的な有効利用が検討されている。例えば、食品残渣を、養豚などの飼料に利用する技術が期待されている。すでに、これらを乾燥、もしくは 発酵させ、飼料化することが試みられている。
【0003】
近年、亜臨界状態を利用して各種の物を処理する亜臨界水処理方法が知られている。例えば、植物、畜産物、魚介類またはそれらの廃棄物、あるいは生ゴミや家畜の糞などの汚物を含むバイオマス資源を有効利用するための処理システム及び処理方法において、バイオマス資源を加熱し、メタンガスと、残渣を含む消化液とを生成し、消化液を、高温高圧雰囲気下で加熱し、メタンガス、有機酸、油、及び残渣を含む水溶液を生成する亜臨界装置が知られている(特許文献1参照)。
【0004】
また、ビール製造用麦芽を、亜臨界状態または超臨界状態の二酸化炭素により脂質を除去処理することが知られている(特許文献2参照)。大豆蛋白溶液と亜臨界状態の二酸化炭素を連続的に接触保持して蛋白画分を回収し、色調、風味に優れかつ物性機能も優れた大豆蛋白を得る方法が知られている(特許文献3参照)。
【0005】
さらに、米胚芽、胚芽を含む米糠、胚芽米、小麦胚芽および小麦胚芽の脂質を亜臨界ないし超臨界状態の二酸化炭素で抽出分離し、胚芽食品の風味を向上し、食味、消化、調理加工、管理等の総合面で広く食品分野へ応用することを可能にした脱脂食品素材を提供するという点が記載されている(特許文献4参照)。なお、半導体製造技術分野において、亜臨界二酸化炭素を利用して、塵や夾雑物を洗浄し除去する技術も知られている。
【0006】
上記のとおり、二酸化炭素を亜臨界状態として、そこに廃棄物等を入れて脱脂する方法が知られている。しかしながら、これは、亜臨界状態の二酸化炭素を利用し、5MPa〜100MPaの圧力を要するため、その設備が簡単ではなく、コストも高くなるという問題がある。
【0007】
本発明者らは、このような問題を解決するための開発をした結果、水は 亜臨界状態になると誘電率が下がり、有機溶媒のような状態になるので、原料 水溶液中の油分を効率的に除去することができるという知見を得た。
【0008】
このような知見に基づき、本発明者らは、原料である食品残渣を、水の亜臨界状態(亜臨界水状態)を利用し、原料の水溶液中の油分を効率的に除去し、しかも高温高圧下におき、加水分解を起こさせることで、細菌学的に滅菌し、かつ細菌性毒素等の無毒化を可能とする食品から油を分離する方法をすでに提案している(特願2008−144620号参照)。
【0009】
要するに、亜臨界水処理方法は、反応器内で水を高温・高圧下にした際に発生する加水分解作用や脂質抽出作用を利用し、有機物の低分子化や抽出を行うものである。亜臨界水処理の後工程は目的に応じて、乾燥、液体利用、精製工程等が利用されている。
【0010】
ところで、亜臨界水状態を利用して各種の物を処理する処理方法として、バッチ式と連続式がある。バッチ式亜臨界水処理方法は、図示しないが、反応器と、冷却器(熱交換器)と、背圧弁と、乾燥機とからなる。しかしながら、より高品質のものがとれる連続式の亜臨界水処理の検討が盛んである。
【0011】
図4(a)は、従来の連続式亜臨界水処理装置の一例を示すフロー図である。この従来例1の亜臨界水処理装置20では、押し込みポンプ2、熱交換器兼一次プレヒータ21、二次プレヒータ22、反応器4、背圧弁5、調整タンク23、送液ポンプ7、及び乾燥機8からなる。反応器4で亜臨界水処理された処理液は、熱交換器兼一次プレヒータ21で冷却されて、背圧弁5を介して調整タンク内に送られ、さらに、送液ポンプ7によって乾燥機8に送られる。押し込みポンプ2及び反応器4のすぐ下流に、それぞれ圧力計1、圧力計2が取り付けられている。
【0012】
図4(b)は、連続式亜臨界水処理装置の別の一例を示すフロー図であり、上記本発明者らが提案した連続式亜臨界水処理方法で利用したものとほぼ同様の装置である。この図4(b)に示す例を、従来例2とする、この従来例2の亜臨界水処理装置30は、従来例1とほぼ同じ構成であり、その説明は省略するが、従来例1のように熱交換器兼一次プレヒータ21の熱交換器で処理液を冷却する構成ではなく、処理液は、冷却タンク31で冷却する構成としている。
【0013】
さらに、亜臨界状態とした処理物を常圧にする際に、加熱しながら行い乾燥を行う発明が知られている(特許文献5参照)。この方法は、亜臨界反応後に生成もしくは残留する固形状有価物を乾燥することを目的としている。具体的には処理後に生成もしくは残存する固形物を固形物分離機で分離し、それを加熱しながら常圧に戻すことで乾燥させようとするものである。亜臨界水処理自体が連続かバッチ方式かに関わらず、乾燥工程はバッチ式となる。また、対象物を大気圧に戻すときには気化熱で温度が下がるが、大気圧での沸騰温度以上にするためには加熱をし続けなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2005−052692号公報
【特許文献2】特開平5−137555号公報
【特許文献3】特開2006−006185号公報
【特許文献4】特開平9−107920号公報
【特許文献5】特開2006−10270号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
亜臨界水処理方法は、水を反応場とするので、当然、水を含んだ状態で反応させる。また、原料が固形状のものでも、分散または水溶化させる必要がある。反応時の適当な含水率は70%以上と考えられている。実際はこの処理液を乾燥して乾燥物を利用する場合が多いが、この多量の水分を乾燥させる必要があるため、大きなエネルギーコストがとなる。また、乾燥させない場合でも、体積を減らすため、もしくは輸送コストを下げるため、後工程での濃縮が必要となる。
【0016】
このコスト及び濃縮の問題点を解決するためには、可能な限り含水率を低めて、亜臨界水処理する方法や、亜臨界水処理に投じた熱エネルギーを熱交換器により熱回収する方法が検討されている。含水率を低める方法は、強力な粉砕工程、固形物状の原料もトラブル無く送液できる高性能耐圧ポンプが必要であり、また、何より熱伝導性が低くなるために、不均一防止策と焦付き防止策を考慮せねばならず、コスト面を考えると解決困難であり、現実的とはいえない。
【0017】
亜臨界水処理に投じた熱エネルギーを回収するためには、図4(a)に示す従来例1のように、熱交換器兼一次プレヒータ21を用いるのが定石であるが、本発明者らは亜臨界水処理においては、この熱交換器兼一次プレヒータ21を用いる方法は不適切な場合が多いことを見出した。
【0018】
即ち、亜臨界水処理液は原料がマイルドに低分子化したものである。熱交換器兼一次プレヒータ21内の配管は細く、しかも曲げられていることが多いので、未分解物が流れ込んだ際に閉塞の危険性が高まる。また、たとえ、未分解物回収機構を備え、未分解物による影響を防いだとしても、熱交換器兼一次プレヒータ21内での冷却によって、処理液中のペプチド、オリゴ糖の凝集・沈着が起こり、配管が閉塞するという問題がある。
【0019】
この点について、より詳細に説明すると、次のとおりである。即ち、亜臨界水処理方法は有機物を水と二酸化炭素にまで酸化分解してしまう超臨界水処理とは違って、マイルドな加水分解作用を持つため、得られた生成物を資源(食品、飼料等)として回収できることが、最大の長所の一つである。
【0020】
しかし、マイルドな加水分解作用ゆえに、原料が昇温、亜臨界反応と進んでも未分解物が残存することがある。また、基本的に蛋白成分、脂質成分、繊維成分は低分子化されるが、生成物であるポリペプチド、油脂類、多糖類、オリゴ糖が凝集沈殿を形成することもある。この未分解物や凝集沈殿物が連続式亜臨界水処理装置において、被処理液が反応器に向けて送られる一次プレーヒータにおける閉塞の引き金となることがある。
【0021】
即ち、プレヒータでの被処理液の昇温工程では、被処理液は室温から所定の温度に昇温されていくので、その過程に原料の熱凝固点があると、熱凝固物によるプレヒータ配管内での閉塞の原因となり、凝固箇所で圧力が多少上昇する。
【0022】
このプレヒータ配管内での閉塞については、プレヒータ配管内で加温し続け凝固物の加水分解や熱分解におり水溶化し、また凝固箇所で圧力を上回る性能をもったポンプを使用して連続的に運転し続けることが可能であるが、それだけコストがかかり、好ましくはない。
【0023】
また、反応器内で亜臨界水処理のされた水及び低分子化された物質を含む処理液は、熱交換器兼一次プレヒータ21によって降温され、低分子化された物質が反応器から背圧弁にかけての配管等に付着して閉塞を生じさせる原因となり、これはきわめて厄介な問題である。
【0024】
連続式亜臨界水処理方法は、昇温、冷却に時間がかかるため、一度、安定に運転を始めた場合は、できるかぎり長く運転できることが求められており、洗浄のために運転を止めることができない。一旦、閉塞が発生すれば運転を止めなければならず、稼働率が下がるため、閉塞を見越して、反応器から背圧弁にかけての配管を並列にし、圧力が上昇し始めたところで、ラインを切り替え、運転を続行するという方法が実施されているが、初期投資、スペースの問題で好ましくない。また、熱回収装置を設置する場合、並列化はコスト的に事実上不可能である。
【0025】
図4(b)に示す従来例2では、反応器4からの処理液を冷却タンク31で冷却するが、このような従来例2でも、配管内での詰まりが問題となり、また冷却タンク31を別途設けなくてはならないという設備上の問題がある。
【0026】
また、特許文献5記載の発明は、亜臨界水処理された物を加熱しながら常圧に戻して乾燥するので、加熱のためのエネルギーを要するという問題がある。かつ、固形物の乾燥システムとしてはバッチ方式であり、連続運転のためには少なくとも2ラインの設置が必要で、コスト的にも問題である。
【0027】
本発明は、上記従来の問題点を解決することを目的とし、上記閉塞の問題が発生しない、亜臨界水処理装置、及び該装置による連続式亜臨界水処理方法を実現することを課題とする。なお、生産性と熱効率は落ちるが、当然、バッチ方式でも同様に使用できる。
【0028】
さらに、処理原料の一例である植物中のセルロースは、地球上に存在する糖質源の三割を占めながら、利用性の悪さから未利用で廃棄されているものが多い。リグニン等の難分解性物質が鎧のように覆っていることが原因といわれている。この利用性を上げるために、高温・高圧下で加水分解作用をもつ亜臨界水処理を用いて、利用効率の増加を期待した研究が行われているが、300℃近くの温度を必要としたり、強酸や強アルカリの併用を必要とするので、特に食品用途では実用化できなかった。本発明は、この点も解決する亜臨界水処理装置、亜臨界水処理方法、及び該方法で得られる畜水産飼料又は工業原料を実現しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0029】
本発明は上記課題を解決するために、亜臨界水処理工程で亜臨界水処理された処理液を、亜臨界状態のまま背圧弁を通過させることにより、配管内の閉塞を防止し、長時間運転を可能にすることを特徴とする亜臨界水処理方法を提供する。
【0030】
本発明は上記課題を解決するために、処理すべき原料を、水が亜臨界状態となっている反応器内に入れて、前記原料内に含まれている有機物を低分子の物質に分解する亜臨界水処理方法において、水と亜臨界水処理により分解された物質を含む処理液を、前記反応器から水が亜臨界水となっている状態で、直接、背圧弁を介して常温常圧のフラッシュタンク内で急激に減圧することにより、前記処理液中の水分を蒸発させて、処理液中の水分に対する低分子物質の濃度を増加させることを特徴とする亜臨界水処理方法を提供する。
【0031】
前記処理液をフラッシュタンク内で急激に減圧する際に、処理液中の水分に対する低分子物質の濃度を増加させるとともに、前記分解された又は未分解の物質をほぐすことを特徴とする。
【0032】
温度と圧力は140−300℃、飽和水蒸気圧以上、好ましくは160−280℃、0.2−13MPa、より好ましくは170−230℃、1−7MPaであることが好ましい。
【0033】
上記亜臨界水処理時に、分解補助剤としてアルカリ又は酸を使用することが好ましい。
【0034】
前記処理液は、処理前のpHは2〜12、より好適には3〜11の範囲が好ましい。
【0035】
前記原料は、食品、食品残渣、食品製造副産物、廃建材、間伐材又は稲わらであることが好ましい。
【0036】
亜臨界水処理方法は、畜産又は水産用飼料又は工業原料を得ることに適用できる。
【0037】
亜臨界水処理を行う際は、分解補助剤として酸、アルカリ等を添加することもできる。
これにより、より低温で同じ分解度を得ることができる。処理前のpHで2〜12の範囲、より好適には3〜11の範囲が望ましい。
【0038】
本発明は上記課題を解決するために、水が亜臨界状態となっている反応器と、該反応器に背圧弁を介して接続された常温常圧のフラッシュタンクとを備えた亜臨界水処理装置において、前記反応器で亜臨界水処理された処理液を、亜臨界状態のまま背圧弁を通過させることにより、配管内の閉塞を防止し、長時間運転を可能にすることを特徴とする亜臨界水処理装置を提供する。
【0039】
本発明は上記課題を解決するために、水が亜臨界状態となっている反応器と、該反応器に背圧弁を介して接続された常温常圧のフラッシュタンクとを備えた亜臨界水処理装置において、前記反応器は、処理すべき原料を入れて、前記原料内に含まれている有機物を低分子の物質に分解する亜臨界水処理を行い、水と亜臨界水処理により分解された物質を含む処理液を、前記反応器から水が亜臨界水となっている状態で、直接、前記背圧弁を介してフラッシュタンク内で急激に減圧することにより、前記処理液中の水分を蒸発させて、処理液中の水分に対する低分子物質の濃度を増加させるとともに、前記分解された又は未分解の物質をほぐすことを特徴とする亜臨界水処理装置を提供する。
【発明の効果】
【0040】
本発明は、次のような顕著な効果が生じる。
(1)本発明は熱交換器兼一次プレヒータのような熱交換器を通さず、処理液(反応水溶液)を亜臨界水状態のまま常圧に排出させるので、水の分子運動が盛んで、かつ、誘電率が下がっており、エタノールのような有機溶媒作用もあり、ペプチド、オリゴ糖等の凝集、沈殿が抑制される亜臨界水状態のままで背圧弁を通過させることができ、それらの凝集、沈殿を防止し、配管の閉塞リスクを低下させ、低温で固化する油脂なども問題なく処理できる。
【0041】
(2)本発明によれば、反応液である亜臨界水の温度を利用して、処理液を濃縮することができる。その濃縮率は反応液温が190℃の際に、処理液重量の10%を飛ばす(濃縮する)ことができる。また、濃縮後の液体も90〜100℃なので、そのまま乾燥機に投入することで、乾燥コストを抑えることができる。
【0042】
(3)本発明では亜臨界水状態の処理液を背圧弁から排出させ、高温高圧から一気に常圧、100℃にまで変化するので、物理的な作用が加わり、植物中の食物繊維のようにセルロースとリグニンが絡み合った構造を解きほぐす効果がある。従って、例えば処理物を飼料として用いた場合は粗繊維の消化率があがり、バイオエタノール発酵原料の前処理として用いる場合は、セルラーゼが効きやすくなり、発酵原料であるグルコースの収率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】水の亜臨界状態を説明する温度圧力線図である。
【図2】(a)は、本発明の亜臨界水処理方法を実施する亜臨界水処理装置の全体構成及びフローを示す図であり、(b)は、発明のフラッシュタンクによる作用を説明する模式図である。
【図3】従来例2の運転時間の圧力変動を示す試験結果である。
【図4】(a)は、従来例1の亜臨界水処理方法を実施する亜臨界水処理装置の全体構成及びフローを示す図であり、(b)は、従来例2の亜臨界水処理方法を実施する亜臨界水処理装置の全体構成及びフローを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
本発明に係る亜臨界水処理装置、亜臨界水処理方法、及び該方法で得られる畜水産飼料又は工業原料を実施するための最良の形態を実施例に基づいて説明する。
【0045】
水の温度を374℃、圧力を22MPa(この温度、圧力を「臨界点」という。)まで上げると、超臨界という液体でも気体でもない状態となる。臨界点よりやや低い温度の水の領域を亜臨界水という。図1は、水の温度−圧力線図であり、この図1において、斜線は、水が亜臨界水となる領域(亜臨界領域)を示す。
【0046】
亜臨界領域では、水のイオン積が250℃付近で最大値を示し、[H+]と[OH−]が常温の約30倍となるので、加水分解力が増大する。かつ、水の誘電率が下がり、水が有機溶媒の性質に近くなる。この結果、水と油が混合(混和)しやすくなる。従って、水の亜臨界状態に食品残渣を置くと、水と食品残渣中の油が混合し、この結果、食品から油分を抽出することが可能となる。
【0047】
また、亜臨界領域では、高い熱と高い圧力(140−373℃、飽和水蒸気圧以上)により、蛋白質などの高分子物質が、ペプチド、アミノ酸などの低分子物質に分解する。従って、水の亜臨界状態に食品残渣を置くと、有機物が低分子化してペプチド、アミノ酸となる。このように低分子化された蛋白質は、消化が良い食品、飼料となる。
【0048】
本発明は、上記原理を利用し、原料として、食品、食品残渣、食品製造副産物から油分を抽出するとともに、食品残渣中の有機物をペプチド、アミノ酸等の低分子化された蛋白質として、消化が良い食品、飼料とする亜臨界水処理装置及び亜臨界水処理方法に適用できる。また、原料として、廃建材、間伐材又は稲わらから、畜水産飼料、工業原料等を生産する方法にも適用できる。
【0049】
本発明に係る亜臨界水処理方法を行う亜臨界水処理装置1の全体的な構成を2(a)に示す。亜臨界水処理装置1は、押し込みポンプ2、プレヒータ3、反応器4、フラッシュタンク6、送液ポンプ7及び乾燥機8が直列的に順次接続されて構成される。反応器4は、背圧弁5を介してフラッシュタンク6に接続されている。図2に示す実施の形態では、背圧弁5をフラッシュタンク6内に配置しているが、背圧弁5をフラッシュタンク6外に隣接して配置してもよい。
【0050】
図2(a)に示す亜臨界水処理装置1において、処理されるべき対象となる原料である食品残渣は、押し込みポンプ2で水とともに、プレヒータ3を通過して反応器4内に圧送される。なお、亜臨界水処理される前の処理液のpHは、2〜12、より好適には3〜11の範囲が好ましい。また、この亜臨界水処理時には、分解補助剤としてアルカリ又は酸を使用することが好ましい。
【0051】
反応器4は、亜臨界水処理工程を行う。即ち、反応器4内では、上記のように、高い熱と高い圧力(140−373℃、飽和水蒸気圧以上)の下で、水の亜臨界状態(亜臨界水状態)に保たれ、蛋白質などの高分子物質が、ペプチド、アミノ酸などの低分子物質に分解する。この反応器内の温度と圧力は、好ましくは、140−300℃、0.1−15MPa、より好ましくは160−280℃、0.2−13MPa、より好ましくは170−230℃、1−7MPaである。
【0052】
本発明の最も特徴的な構成は、このように、亜臨界水処理工程で亜臨界水処理され、亜臨界状態に保持したまま(高温、高圧のまま)、背圧弁を通過させることにより、分解された物質を含む処理液(水溶液)が、フラッシュタンク6内に送られ放出される点である。
【0053】
フラッシュタンク6内は、常温かつ常圧の状態とされている。従って、亜臨界水状態で処理液は、フラッシュタンク6内で背圧弁5を通過して一気に常圧下に置かれるために急激に減圧され、処理液中の水分が蒸発し、気化熱が奪われて降温し、処理液中の水分に対する低分子物質の濃度が高くなり、処理液が濃縮される。
【0054】
上記のとおり、亜臨界水処理工程で高温高圧とされた後に、フラッシュタンク6内で背圧弁5を通過して一気に常圧下に置かれ急激に減圧されることにより、結晶構造をとったり(セルロース等)、鎧のように覆い被さる分子(リグニン等)により、加水分解を受けづらく分解されないものも、結晶構造が崩れたり、覆い被さっているものがとれることが期待できる。その結果、処理液の消化性が高まる(飼料利用)、または処理液中のセルロース分子にセルラーゼが効きやすくなる(バイオエタノール発酵原料の糖化)。
【0055】
この濃縮された処理液は、送液ポンプ7で乾燥機8に送られて、乾燥物として取り出される。なお、押し込みポンプ2及び反応器4のすぐ下流に、それぞれ圧力計9、圧力計10が取り付けられている。
【0056】
以上が、本発明に係る亜臨界水処理装置及び該装置で行う亜臨界水処理方法の概要であるが、本発明の特徴を、模式的に描いた図2(b)においてさらに説明する。本発明の方法では、反応器4による亜臨界水処理工程において、高温・高圧下で亜臨界水処理され、この亜臨界水状態に保持された処理液を、従来例2のように熱交換器兼一次プレヒータ21を通して下げることなく、直ちに背圧弁5を通しフラッシュタンク6内で減圧する。
【0057】
要するに、本発明に係る亜臨界水処理装置及び該装置で行う亜臨界水処理方法は、亜臨界水処理のために投じた熱エネルギーを、亜臨界水処理された処理液を従来例1のように、熱交換器兼一次プレヒータ21を通して、原料の予熱に費やすことなく、処理液中の水分の蒸発に必要な気化熱として消費し、処理液を濃縮する点を特徴とするものである。
【0058】
その際、亜臨界水状態にある処理液の熱エネルギーが、水の蒸発における気化熱として奪われるので、水温が、例えば200℃近くから100℃まで落ちる。その差温分の熱エネルギーが水の蒸発(気化熱)に利用される。フラッシュタンク6には、排気ファン11が設置されており、排気ファン11によって、フラッシュタンク6内で発生した蒸気を取り除く。この取り除かれた蒸気分に応じて処理液が濃縮されることになる。
【0059】
そして、本発明に係る亜臨界水処理装置及び該装置で行う亜臨界水処理方法では、上記のとおり熱交換器兼一次プレヒータ21を通さず、反応水溶液を亜臨界水状態のままフラッシュタンク6内で急激に減圧するので、配管内等での閉塞が生じるリスクがない。なぜなら、亜臨界水状態は、水の分子運動が盛んで、かつ、誘電率が下がっており、エタノールのような有機溶媒作用もあり、ペプチド、オリゴ糖等の凝集、沈殿が抑制される。
【0060】
従って、熱交換器兼一次プレヒータ21を介さずに亜臨界水状態のままで背圧弁5を通過させることが、それらの凝集、沈殿を防止し、配管の閉塞リスクを低下させる。また、当然、低温で固化する油脂なども問題なく処理できる。従って、本発明の方法によれば、熱交換器兼一次プレヒータ21によって、処理液からの熱をプレヒータ3の熱源として回収する従来の亜臨界水処理方法で生じる配管内での閉塞の問題が解決できる。
【0061】
従来の亜臨界水処理方法や装置では、含水率が多いサンプルを乾燥させる際の乾燥機の初期投資とランニングコストが問題となっていた。しかし、本発明によれば、上記のとおり反応液の温度を利用して、濃縮することができ、そのまま乾燥機に投入することで、乾燥コストを抑えることができる。例えば、その濃縮率は、反応液温が190℃の際に、処理液重量の10%を蒸発させ、しかも濃縮後の液体も90〜100℃なので、乾燥コストも低減可能となる。
【0062】
また、本発明に係る亜臨界水処理装置及び該装置で行う亜臨界水処理方法では、フラッシュタンク内へ排出の際には、反応器内では亜臨界水状態の処理液を、背圧弁5を介して急激に減圧し、高温高圧(例.200℃、3Mpa)環境から一気に常圧で、100℃程度に急激に変化させるので、その変化により物理的な作用が生じ、植物中の食物繊維のようにセルロースとリグニンが絡み合った構造を解きほぐす効果がある。
【0063】
従って、例えば処理物を飼料として用いた場合は粗繊維の消化率があがり、バイオエタノール発酵原料の前処理として用いる場合は、セルラーゼが効きやすくなり、発酵原料であるグルコースの収率が向上する。
【実施例1】
【0064】
(連続運転試験)
本発明に係る亜臨界水処理装置で行う連続式亜臨界水処理方法と従来例2の方法について、それぞれ連続運転試験を行い、両者の連続運転可能時間を比較した。試験条件は、両方とも、反応温度は180℃、反応時間は10分、4Mpaで行った。安全弁は7MPaで作働する。原料はと畜場で採取した豚血液を用いた。従来例2の冷却水温度は、70℃±10℃となるように調整した。
【0065】
試験結果、本発明の方法では、運転開始後、120時間経過しても、圧力値の変動も無く、安定的に運転することができた。しかし、従来例2では、図3に試験結果(運転時間と圧力計1、2の圧力変動の試験データ)を示すが、運転開始5時間後には圧力計2の圧力上昇が観察され、時間とともに圧力が上昇し、12時間後に完全に閉塞すると同時に、安全弁(図示せず)が作動し、運転終了した。なお、従来例1の方法でも同様の試験を行ったが、従来例2とほぼ同様な圧力変動を示し、連続運転は不可能であった。
【0066】
上記従来例2の圧力変動の試験データより、圧力計2と背圧弁5の間での閉塞が予想された。その間の配管を切断して調べたところ、冷却タンク内の配管が、満遍なく閉塞していた。閉塞物を確認したところ、血液由来のペプチド凝集物であった。なお、許容可能な冷却温度を確かめるために、従来例2の背圧弁5手前の温度が150℃になるようにして、連続運転可能時間を測定した。+3時間の効果はあったが、15時間後に同様に、冷却管内での閉塞による目詰まりが発生した。
【実施例2】
【0067】
(連続運転試験)
本発明に係る亜臨界水処理装置で行う連続式亜臨界水処理方法と従来例2の方法について、それぞれ連続運転試験を行い、両者の連続運転可能時間を比較した。試験条件は、両方とも、反応温度は200℃、反応時間は10分、4MPaで行った。安全弁は8MPaで作働するものを用いた。原料はと畜場で採取した豚内臓(脂分を含む)を粉砕機、サイレントカッターで粉砕し、固形分を20%に調整した懸濁液を用いた。
【0068】
この試験においても、本発明の連続式亜臨界水処理方法では、運転開始後、120時間経過しても圧力値の変動も無く、安定的に運転することができた。他方、従来例1の方法では、原料由来の脂分(原料固形分の約半分)が多く、熱交換器兼一次プレヒータ21で温度が下がりすぎると簡単に固化し、簡単に閉塞してしまった。熱交換器兼一次プレヒータ21での温度を調整すれば、72時間は連続運転が可能であった。閉塞した箇所は、実施例1と同様であった。
【実施例3】
【0069】
(濃縮効果試験)
本発明に係る亜臨界水処理装置で行う亜臨界水処理方法の濃縮効果を確認するため、反応液重量(kg)、従来例1の調整タンクで得られる処理液の重量(kg)、本発明フラッシュタンク6で得られる処理液の重量(kg)を測定した。
【0070】
本発明の方法によれば、下記の表1のように、処理液量を13%減少させることができるので、その分、システムに必要な乾燥機の能力を低下させることができる。また、その分濃縮されているので、乾燥機に投入する熱エネルギーの削減も可能になる。フラッシュタンク6内を減圧させれば、当然、更に数%の濃縮が可能である。
【0071】
【表1】

【実施例4】
【0072】
(製造品消化率試験)
豚の粗繊維消化率への本発明の効果を調べるために消化試験を行った。方法は「未利用有機資源の飼料利用ハンドブック(サイエンスフォーラム)」(阿部亮ら、サイエンスフォーラム、2000年)記載のインデックス法により行った。供試豚は健康で、3週齢で離乳した豚を用い、豚舎内で単飼とした。一群を10頭とした。供試品は脱皮大豆粕とし、従来例1で製造したものと本発明の方法で製造したものを比較した。なお、本発明の方法としては処理前のpHを9.5に調整したもの(表2の本発明方法イ参照)と無調整(pH6.58)(表2の本発明方法ア参照)の二種類を評価した。
【0073】
試験条件は、両方とも、亜臨界水処理の反応条件は180℃、12分、2Mpaで揃えた。飼料への配合率は10%とした。供試品を配合した試験飼料は飼料標準に示されている各栄養素の要求量を満たすようにし、粗蛋白質、粗脂肪、粗繊維の各成分は、乾物中でそれぞれ25,10,10%となるようにした。試験飼料は2mmのメッシュを通過したものを使用した。
【0074】
試験飼料中の酸化クロムの濃度は0.1%とした。供試品の試験飼料への配合率は5%とした。糞は試験食摂取、二週間後に採取した。採取糞は、約60℃で乾燥し、風乾後1mm程度に粉砕して分析に供した。飼料および糞の成分(粗蛋白質)、酸化クロムについて分析した。酸化クロムは比色法により分析した。試験飼料の各成分の消化率(%)は下記により計算した。試験結果は、次の表2に示すとおりである。
【0075】
粗蛋白消化率(%)=100×(1−(飼料中酸化クロム%/糞中酸化クロム%)×(糞中粗繊維%/飼料中粗繊維%))
【0076】
【表2】

【0077】
以上、本発明に係る亜臨界水処理方法の最良の形態を実施例に基づいて説明したが、本発明は特にこのような実施例に限定されることなく、特許請求の範囲記載の技術的事項の範囲内でいろいろな実施例があることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明に係る亜臨界水処理装置、亜臨界水処理方法、及び該方法で得られる畜水産飼料又は工業原料によれば、原料として、食品、コンビニエントストアや家庭において生じた食品残渣(各種の余剰食品、調理残渣、食べ残し残渣、売れ残り食品残渣等)、食品製造副産物(米ぬか、酒粕、醤油かす、畜産の内臓、皮、食肉、魚くず等、食品製造で得られる副産物や加工屑)、その他、食品以外でも脱脂を要する物品についての油の分離に適用可能である。そして、油を分離した食品残渣は乾燥し粉粒として、飼料等として利用可能である。
【0079】
また、セルロース系原料からのバイオエタノール製造時に、本発明を利用する場合は、原料の前処理法として用い、本発明で得られる液は糖化原料液(工業原料、例:アルコール発酵原液)となる。原料として、廃建材、間伐材又は稲わらから、畜水産飼料、工業原料等を生産する方法にも適用できる。
【符号の説明】
【0080】
1、20、30 亜臨界水処理装置
2 押し込みポンプ
3 プレヒータ
4 反応器
5 背圧弁
6 フラッシュタンク
7 送液ポンプ
8 乾燥機
9、10 圧力計
11 排気ファン
21 熱交換器兼一次プレヒータ
22 二次プレヒータ
23 調整タンク
31 冷却タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜臨界水処理工程で亜臨界水処理された処理液を、亜臨界状態のまま背圧弁を通過させることにより、配管内の閉塞を防止し、長時間運転を可能にすることを特徴とする亜臨界水処理方法。
【請求項2】
処理すべき原料を、水が亜臨界状態となっている反応器内に入れて、前記原料内に含まれている有機物を低分子の物質に分解する亜臨界水処理方法において、
水と亜臨界水処理により分解された物質を含む処理液を、前記反応器から水が亜臨界水となっている状態で、直接、背圧弁を介して常温常圧のフラッシュタンク内で急激に減圧することにより、前記処理液中の水分を蒸発させて、処理液中の水分に対する低分子物質の濃度を増加させることを特徴とする亜臨界水処理方法。
【請求項3】
前記処理液をフラッシュタンク内で急激に減圧する際に、処理液中の水分に対する低分子物質の濃度を増加させるとともに、前記分解された又は未分解の物質をほぐすことを特徴とする請求項2記載の亜臨界水処理方法。
【請求項4】
前記反応器内の温度と圧力は140−300℃、0.1−15MPa、好ましくは160−280℃、0.2−13MPa、より好ましくは170−230℃、1−7MPaであることを特徴とする請求項2又は3記載の亜臨界水処理方法。
【請求項5】
上記亜臨界水処理時に、分解補助剤としてアルカリ又は酸を使用することを特徴とする請求項2、3又は4記載の亜臨界水処理方法。
【請求項6】
前記処理液は、処理前のpHは2〜12、より好適には3〜11の範囲が好ましい請求項1又は2記載の亜臨界水処理方法。
【請求項7】
前記原料は、食品、食品残渣、食品製造副産物、廃建材、間伐材又は稲わらであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の亜臨界水処理方法。
【請求項8】
請求項2〜7のいずれかに記載の亜臨界水処理方法により得られた畜水産飼料又は工業原料。
【請求項9】
水が亜臨界状態となっている反応器と、該反応器に背圧弁を介して接続された常温常圧のフラッシュタンクとを備えた亜臨界水処理装置において、
前記反応器で亜臨界水処理された処理液を、亜臨界状態のまま背圧弁を通過させることにより、配管内の閉塞を防止し、長時間運転を可能にすることを特徴とする亜臨界水処理装置。
【請求項10】
水が亜臨界状態となっている反応器と、該反応器に背圧弁を介して接続された常温常圧のフラッシュタンクとを備えた亜臨界水処理装置において、
前記反応器は、処理すべき原料を入れて、前記原料内に含まれている有機物を低分子の物質に分解する亜臨界水処理を行い、
水と亜臨界水処理により分解された物質を含む処理液を、前記反応器から水が亜臨界水となっている状態で、直接、前記背圧弁を介してフラッシュタンク内で急激に減圧することにより、前記処理液中の水分を蒸発させて、処理液中の水分に対する低分子物質の濃度を増加させるとともに、前記分解された又は未分解の物質をほぐすことを特徴とする亜臨界水処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−172793(P2010−172793A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−15885(P2009−15885)
【出願日】平成21年1月27日(2009.1.27)
【出願人】(594158426)食肉生産技術研究組合 (15)
【Fターム(参考)】