説明

亜鉛系めっき鋼板用の表面処理液ならびに亜鉛系めっき鋼板およびその製造方法

【課題】プレス成形後の外観、耐食性に優れているだけでなく、高温および高温高湿環境下の油保持性にも優れた亜鉛系めっき鋼板を提供する。
【解決手段】表面に、Zr付着量が10〜200mg/mの皮膜を有する亜鉛系めっき鋼板であって、該皮膜は、水溶性ジルコニウム化合物(A)と、水分散性微粒子シリカ(B)と、シランカップリング剤(C)と、バナジン酸化合物(D)と、リン酸化合物(E)と、ニッケル化合物(F)と、アクリル樹脂エマルション(G)と、オルガノポリシロキサン化合物(H)とを、特定の比率に調整した表面処理液を塗布し、加熱乾燥して得たものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種モーターのモーターケース(軸受を保持するための軸受ホルダ部を備えたモーターケース)等、高温および高温高湿環境下の油保持性が必要とされる用途に用いて好適な亜鉛めっき鋼板およびその製造方法に関するものである。また、本発明は、高温および高温高湿環境下での油保持性を得るのに有用な表面処理液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、自動車や、AV・OA機器分野等で使用されている各種モーターのモーターケースの軸受は、亜鉛系めっき鋼板の表面に防錆皮膜を形成して塑性加工を行ったものが広く用いられている。
これら軸受は、転がり軸受とすべり軸受とに大別されるが、近年、自動車に用いられる電装モーター、HDDなどの電子記録機器、およびコピー機などの電子機器に用いられる各種モーターの軸受等は、その多くがすべり軸受を用いている。
【0003】
すべり軸受は、軸受部に潤滑油を給油することで軸が回転する際に、潤滑油に油圧が発生し、その油圧によって回転軸と軸受の接触・凝着を防ぐものである。この潤滑油の作用により、モーターの振動や騒音を防止することが可能となる。
自動車、OA・AV機器などで使用される各種モーターの軸受(軸受部材)は、モーターケースに形成された軸受ホルダ部に保持・固定される構造が一般的である。このようなモーターの軸受部における潤滑油の滲み出しを防止するために、従来の研究対象は、専ら軸受材料や軸受部および軸受部周辺の構造などの改善に向けられてきた。
例えば、特許文献1および2では、それらを改善することにより、軸受部からの潤滑油の滲み出しを防止する方法が開示されている。しかし、それら構造の改善だけでは、滲み出し防止効果は必ずしも十分なものとはいえなかった。
【0004】
また、モーターケースは、亜鉛系めっき鋼板表面に防錆皮膜を形成した表面処理鋼板を塑性加工したものが広く用いられているが、軸受材料の軸受部から潤滑油が滲み出した場合、潤滑油は軸受(軸受部材)から軸受ホルダ部周辺のモーターケース内面に滲み出して拡がっていく。そのため、軸受部の潤滑性が不足して、回転軸と軸受の接触・凝着が起こりやすくなり、モーターの振動や騒音の原因となっていた。
ここに、特許文献3および特許文献4には、耐食性、耐黒変性、プレス成形後の外観や耐食性に優れた表面処理亜鉛系めっき鋼板が提案されている。しかしながら、これらの鋼板は、油保持性の効果はほとんど期待できないか、常温では一定の効果があったとしても、高温あるいは高温多湿といった過酷な環境下では、常温の場合と比べるとその効果は限定的なものでしかなかった。
特許文献5には、ケイ素化合物の1つとして、また特許文献6には、ケイ素化合物の必須成分として、オルガノポリシロキサン化合物を含有する皮膜がそれぞれ提案されているが、これらは鋼板の油保持性の改善を目的としたものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−238934号公報
【特許文献2】特開平9−210065号公報
【特許文献3】特開2009−35758号公報
【特許文献4】特開2008−169470号公報
【特許文献5】特開2009−287049号公報
【特許文献6】特開2010−70786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記した現状に鑑み開発されたもので、プレス成形後の外観、耐食性に優れるのは言うまでもなく、高温および高温高湿環境下での油保持性にも優れ、特にモーターケースなどのような軸受を保持するための軸受ホルダ部を備えた部品に適用した場合に、軸受部の潤滑油不足を生じるような潤滑油の滲み出しを効果的に防止することができる亜鉛系めっき鋼板をその製造方法と共に提供することを目的とする。
また、本発明は、高温および高温高湿環境下での油保持性に優れた表面処理皮膜を得るのに好適な表面処理液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは、上記した問題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、軸受部から潤滑油が滲み出すのは、軸受ホルダ部を含めたモーターケース内面(表面処理鋼板表面)に、潤滑油ぬれ性があるためであって、この表面性状のために軸受内の潤滑油が周辺のケース内面に次々と滲み出し、ぬれ拡がっていくことが原因の一つであることを新たに見出した。
そして、この解決策として、軸受ホルダ部を含めたモーターケース内面(表面処理鋼板表面)の潤滑油ぬれ性を低いレベルに抑えることにより、軸受からモーターケース内面への潤滑油の浸透を抑えることで、潤滑油を軸受内に封じ込めることができ、その結果、軸受部の潤滑油不足を生じるような潤滑油の滲み出しを効果的に抑制できることを併せて見出した。
そしてさらに、水溶性ジルコニウム化合物をベースとする溶液中に、所定量のオルガノポリシロキサン化合物を含有させた表面処理液を亜鉛系めっき鋼板の表面に塗布・乾燥した表面処理鋼板が、所期した目的の達成のためには極めて有用であることを知見し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.水溶性ジルコニウム化合物(A)と、水分散性微粒子シリカ(B)と、シランカップリング剤(C)と、バナジン酸化合物(D)と、リン酸化合物(E)と、ニッケル化合物(F)と、アクリル樹脂エマルション(G)と、オルガノポリシロキサン化合物(H)とを、下記(1)〜(8)の条件を満足する範囲で含有することを特徴とする亜鉛系めっき鋼板用の表面処理液。

(1)水分散性微粒子シリカ(B)の固形分(B)と水溶性ジルコニウム化合物(A)のZr換算量(AZr)との質量比(B)/(AZr)=0.3〜1.2
(2)シランカップリング剤(C)と水溶性ジルコニウム化合物(A)のZr換算量(AZr)との質量比(C)/(AZr)=0.6〜2.5
(3)バナジン酸化合物(D)のV換算量(D)と水溶性ジルコニウム化合物(A)のZr換算量(AZr)との質量比(D)/(AZr)=0.04〜0.15
(4)リン酸化合物(E)のP換算量(E)と水溶性ジルコニウム化合物(A)のZr換算量(AZr)との質量比(E)/(AZr)=0.11〜0.55
(5)ニッケル化合物(F)のNi換算量(FNi)と水溶性ジルコニウム化合物(A)のZr換算量(AZr)との質量比(FNi)/(AZr)=0.015〜0.065
(6)表面処理液の全固形分における、アクリル樹脂エマルション(G)の固形分(G)の含有量が0.5〜10質量%
(7)表面処理液の全固形分における、オルガノポリシロキサン化合物(H)の固形分(H)の含有量が0.55〜6.5質量%
(8)水分散性微粒子シリカ(B)、シランカップリング剤(C)およびオルガノポリシロキサン化合物(H)の各Si換算の合計量(Si)と水溶性ジルコニウム化合物(A)のZr換算量(AZr)との質量比(Si)/(AZr)=0.23〜1.0
【0009】
2.前記表面処理液がさらにワックス(I)を、下記(9)の条件を満足する範囲で含有することを特徴とする前記1に記載の亜鉛系めっき鋼板用の表面処理液。

(9)表面処理液の全固形分における、ワックス(I)の固形分(I)の含有量が2.5〜10質量%
【0010】
3.前記1または2に記載の表面処理液を、亜鉛系めっき鋼板の表面に塗布し、ついで加熱乾燥し、片面当たりのZr付着量を10〜200mg/mとすることを特徴とする亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
【0011】
4.亜鉛系めっき鋼板の表面に、ジルコニウム化合物(a)と、微粒子シリカ(b)と、シランカップリング剤由来成分(c)と、バナジン酸化合物(d)と、リン酸化合物(e)と、ニッケル化合物(f)と、アクリル樹脂(g)と、オルガノポリシロキサン化合物由来成分(h)とを、下記(11)〜(15)の条件を満足する範囲で含有し、片面当たりのZr付着量が10〜200mg/mである皮膜を有することを特徴とする亜鉛系めっき鋼板。

(11)バナジン酸化合物(d)のV換算量(d)とジルコニウム化合物(a)のZr換算量(aZr)との質量比(d)/(aZr)=0.04〜0.15
(12)リン酸化合物(e)のP換算量(e)とジルコニウム化合物(a)のZr換算量(aZr)との質量比(e)/(aZr)=0.11〜0.55
(13)ニッケル化合物(f)のNi換算量(fNi)とジルコニウム化合物(a)のZr換算量(aZr)との質量比(fNi)/(aZr)=0.015〜0.065
(14)皮膜固形分の合計量における、アクリル樹脂(g)の含有量が0.5〜10質量%
(15)微粒子シリカ(b)、シランカップリング剤由来成分(c)およびオルガノポリシロキサン化合物由来成分(h)の各Si換算の合計量(Si)とジルコニウム化合物(a)のZr換算量(aZr)との質量比(Si)/(aZr)=0.23〜1.0
【0012】
5.前記皮膜がさらにワックス(i)を、下記(16)の条件を満足する範囲で含有することを特徴とする前記4に記載の亜鉛系めっき鋼板。

(16)皮膜固形分の合計量に対し、ワックス(i)の固形分(i)の含有量が2.5〜10質量%
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、プレス成形後の外観、耐食性に優れているのは言うまでもなく、特に高温および高温高湿環境下での油保持性に優れた亜鉛系めっき鋼板を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を具体的に説明する。
本発明の表面処理鋼板のベースとなる亜鉛系めっき鋼板としては、そのめっき皮膜中に亜鉛を含有する鋼板であればよく、特に制限はないが、溶融亜鉛めっき鋼板(GI)又はこれを合金化した合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)等の亜鉛めっき鋼板、Zn−Niめっき鋼板、Zn−Al合金めっき鋼板(例えば、Zn−5質量%Al合金めっき鋼板、Zn−55質量%Al合金めっき鋼板)、およびZn−Al−Mgめっき鋼板(例えばZn−6質量%Al−3質量%Mg合金めっき鋼板、Zn−11質量%Al−3質量%Mg合金めっき鋼板)などを挙げることができる。
【0015】
また、上記した各亜鉛系めっき鋼板のめっき層に、少量の異種金属元素または不純物としてニッケル、コバルト、マンガン、鉄、モリブデン、タングステン、チタン、クロム、アルミニウム、マグネシウム、鉛、アンチモン、錫、銅の1種または2種以上を含有しためっき鋼板を表面処理鋼板のベースとなる亜鉛系めっき鋼板として用いることもできる。また、上記のようなめっきのうち、同種または異種のものを2層以上めっきした、複層めっき鋼板も用いることができる。
【0016】
次に、本発明にかかる亜鉛系めっき鋼板用の表面処理液について説明する。
本発明の表面処理液は、水を溶媒とし、この溶媒中に水溶性ジルコニウム化合物(A)と、水分散性微粒子シリカ(B)と、シランカップリング剤(C)と、バナジン酸化合物(D)と、リン酸化合物(E)と、ニッケル化合物(F)と、アクリル樹脂エマルション(G)と、オルガノポリシロキサン化合物(H)とを含有させたものであり、さらに必要に応じて、ワックス(I)を含有させることもできる。
【0017】
上記の成分中、水溶性ジルコニウム化合物は、皮膜の骨格を形成する成分であり、得られる皮膜に対し、耐食性の向上やプレス成形後の良好な外観などの付与効果がある。
ここに、水溶性ジルコニウム化合物(A)としては、硝酸ジルコニウム、オキシ硝酸ジルコニウム、酢酸ジルコニル、硫酸ジルコニル、炭酸ジルコニルアンモニウム、炭酸ジルコニルカリウム、および炭酸ジルコニルナトリウムなどが挙げられ、これらのうちから選んだ1種以上を用いることができる。
また、ジルコンフッ化水素酸やその塩などのような無機フッ素含有化合物を含んだものでも良く、液が相溶する限り使用可能である。
【0018】
前記の成分中、水分散性微粒子シリカは、主に得られる皮膜に対し、耐食性の向上やプレス成形後の良好な外観などの付与効果がある。
ここに、水分散性微粒子シリカ(B)としては、粒径や種類などに特に制限はないが、コロイダルシリカや乾式シリカを用いることができる。コロイダルシリカとしては、例えば、日産化学(株)製のスノーテックスO、C、N、20、OS、OXS(登録商標)などが挙げられ、また、乾式シリカとしては日本アエロジル(株)製のAEROSIL50、130、200、300、380(登録商標)などが挙げられ、これらのうちから選んだ1種以上を用いることができる。
【0019】
水分散性微粒子シリカ(B)の配合割合は、水分散性微粒子シリカ(B)の固形分(B)と水溶性ジルコニウム化合物(A)のZr換算(AZr)との質量比(B)/(AZr)で0.3〜1.2の範囲とする。というのは、(B)/(AZr)が0.3未満では耐食性やプレス後の外観が低下し、一方、(B)/(AZr)が1.2を超えると皮膜形成が困難となり、耐食性が低下するからである。好ましい質量比(B)/(AZr)は0.4〜0.9の範囲である。
【0020】
前記の成分中、シランカップリング剤(C)は、上述した水溶性ジルコニウム化合物(A)と、水分散性微粒子シリカ(B)と架橋反応を起こし、三次元架橋反応構造を有する皮膜を形成する。このため、得られる皮膜の耐食性、油保持性などを向上させる効果を皮膜に付与する。特に、それぞれの単独物質の使用では得られない、優れた耐食性を示す皮膜を製造することができる。
ここに、シランカップリング剤(C)としては、例えば、ビニルメトキシシラン、ビニルエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、β-(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルメチルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルトリエトキシシラン、γ-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルメチルトリメトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、γ-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、γ-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、γ-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、およびN-(ビニルベンジルアミン)-β-アミノエチル-γ-アミノプロピルトリメトキシシランなどが挙げられ、これらのうちから選んだ1種以上を用いることができる。
【0021】
シランカップリング剤(C)の配合割合は、シランカップリング剤(C)と水溶性ジルコニウム化合物(A)のZr換算(AZr)との質量比(C)/(AZr)で0.6〜2.5の範囲とする。というのは、質量比(C)/(AZr)が0.6未満ではプレス後の外観や油保持性が低下し、一方、2.5を超えると皮膜形成が困難となり、耐食性が低下し、処理液の安定性も低下するからである。好ましい質量比(C)/(AZr)は0.8〜1.8の範囲である。なお、本発明におけるシランカップリング剤(C)は、固形分100%である。
【0022】
前記の成分中、バナジン酸化合物は、後述するリン酸化合物と難溶性の塩を形成するため、皮膜中にリン酸化合物を固定化し、皮膜の耐食性向上に効果がある。
ここに、バナジン酸化合物(D)としては、例えば、メタバナジン酸アンモニウム、およびメタバナジン酸ナトリウムが挙げられ、これらのうちから選んだ1種以上を用いることができる。
【0023】
バナジン酸化合物(D)の配合割合は、バナジン酸化合物(D)のV換算量(D)と水溶性ジルコニウム化合物(A)のZr換算(AZr)との質量比(D)/(AZr)で0.04〜0.15の範囲とする。というのは、質量比(D)/(AZr)が0.04未満では耐食性が低下し、一方、0.15を超えるとプレス後の外観が低下するからである。好ましい質量比(D)/(AZr)は0.06〜0.14の範囲である。
【0024】
前記の成分中、リン酸化合物は、亜鉛系めっき鋼板のめっき皮膜と反応し、難溶性の塩を形成するため、皮膜の耐食性向上に有効な成分である。
ここに、リン酸化合物(E)は、液に相溶するものであれば特に制限はなく、この水溶性リン酸化合物としては、例えば、リン酸、第一リン酸塩、第二リン酸塩、第三リン酸塩、ピロリン酸、ピロリン酸塩、トリポリリン酸、トリポリリン酸塩、などの縮合リン酸塩、亜リン酸、亜リン酸塩、次亜リン酸、次亜リン酸塩、およびホスホン酸またはホスホン酸塩等が挙げられる。さらに、ホスホン酸塩としては、例えばニトリロトリスメチレンホスホン酸、ホスフォノブタントリカルボン酸、エチレンジアミンテトラメリレンホスホン酸、メチルジホスホン酸、メチレンホスホン酸、エチリデンジホスホン酸、1-ヒドロキシメタン-1.1-ジホスホン酸、およびこれらのアンモニウム塩、アルカリ金属塩などが挙げられる。これらリン酸化合物のうちから選んだ1種以上を用いることができる。
【0025】
リン酸化合物(E)の配合割合は、リン酸化合物(E)のP換算量(E)と水溶性ジルコニウム化合物(A)のZr換算量(AZr)との質量比(E)/(AZr)で0.11〜0.55の範囲とする。というのは、質量比(E)/(AZr)が0.11未満では耐食性が低下し、一方、0.55を超えるとプレス後の外観が低下するからである。好ましい質量比(E)/(AZr)は0.20〜0.37の範囲である。
【0026】
前記の成分中、ニッケル化合物は、亜鉛系めっき鋼板のめっき皮膜上に置換析出し、難溶性の塩を形成するため、皮膜の耐食性向上に有効な成分である。
ここに、ニッケル化合物(F)としては、液に相溶するものであれば特に制限はなく、例えば、硝酸ニッケル、硫酸ニッケル、炭酸ニッケル、塩化ニッケル、およびリン酸ニッケルなどが挙げられ、これらのうちから選んだ1種以上を混合して用いることができる。
【0027】
ニッケル化合物(F)の配合割合は、ニッケル化合物(F)のNi換算量(FNi)と水溶性ジルコニウム化合物(A)のZr換算量(AZr)との質量比(FNi)/(AZr)で0.015〜0.065の範囲とする。というのは、質量比(FNi)/(AZr)が0.015未満では耐食性が低下し、0.065を超えても耐食性が低下するからである。好ましい質量比(FNi)/(AZr)は0.023〜0.049の範囲である。
【0028】
前記の成分中、アクリル樹脂エマルションは、皮膜の骨格を形成する成分であり、得られる皮膜の耐食性向上などに有効な成分である。
ここに、アクリル樹脂エマルション(G)としては、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、およびスチレン等のビニル系モノマーを乳化重合した水系エマルション樹脂であって、相溶性があれば、乳化剤の有無や乳化剤の種類に特に制限はないが、なかでもノニオン系乳化剤は好適に使用できる。また、ノニオン系乳化剤の中でも、ポリエチレンオキサイドやポリプロピレンオキサイドをその構造に持つものは、特に好適に使用できる。
【0029】
アクリル樹脂エマルション(G)の固形分(G)の配合割合は、表面処理液の全固形分に対し、0.5〜10質量%の範囲とする。というのは、0.5質量%未満では耐食性が低下し、一方、10質量%を超えると有機成分の増加によりプレス成形後の外観が低下するおそれがあるからである。好ましい配合割合は1〜9質量%の範囲であり、より好ましくは2〜8質量%の範囲である。
【0030】
なお、ノニオン系アクリル樹脂エマルションとしては、一般にFOXの式と呼ばれている次式(1)で求められるガラス転移温度(Tg)が、10〜30℃の範囲となるものを使用することが好ましい。
1/Tg=Σ(Wi/Tgi)・・・式(1)
ここで、Wiは、成分iの質量分率であり、また、Tgiは、成分iのTg(K)である。
というのは、ノニオン系アクリル樹脂エマルションのTgが10℃以上であれば、プレス後の外観が低下することなく、一方、Tgが30℃以下であれば、耐食性が低下することがないからである。
【0031】
本発明において、オルガノポリシロキサン化合物は、発明の目的である高温および高温高湿環境化での油保持性を発現させるのに重要な物質である。
ここに、オルガノポリシロキサン化合物(H)としては、液に配合可能であれば特に制限はなく、適当な乳化剤を用いて機械乳化や乳化重合したものを使用することが可能である。
例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリブトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ペンチルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、ドデシルトリメトキシシラン、テトラデシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、3,3,3−トリフロロプロピルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン等のアルコキシシランや、
メチルハイドロジェンシリコーンオイル、ジメチルシリコーンオイル、ジエチルシリコーンオイル、ジイソプロピルシリコーンオイル、ジブチルシリコーンオイル、ジアミルシリコーンオイル、ジヘキシルシリコーンオイル、ジラウリルシリコーンオイル、ジステアリルシリコーンオイル、
メチルフェニルシリコーンオイル、ジフェニルシリコーンオイル、エチルフェニルシリコーンオイル、イソプロピルフェニルシリコーンオイル、ブチルフェニルシリコーンオイル、アミルフェニルシリコーンオイル、ヘキシルフェニルシリコーンオイル、ラウリルフェニルシリコーンオイル、ステアリルフェニルシリコーンオイル等が挙げられる。
本発明では、これらのうちから選んだ1種以上を用いることができる。
【0032】
なかでも、25℃における粘度が1〜100,000mm/sのオルガノポリシロキサンがとりわけ好適である。というのは、25℃における粘度が1mm/s以上であれば油保持性が十分となり、一方、100,000mm/s以下であれば、液に相溶するからである。
【0033】
オルガノポリシロキサン化合物(H)の固形分(H)の配合割合は、表面処理液の全固形分に対し、0.55〜6.5質量%の範囲とする。というのは、0.55質量%未満では油保持性が低下し、一方、6.5質量%を超えると効果が飽和するだけでなく、耐食性も低下するからである。好ましい配合割合は0.7〜4.6質量%の範囲である。
【0034】
水分散性微粒子シリカ(B)、シランカップリング剤(C)およびオルガノポリシロキサン化合物(H)のSi換算量の合計(Si)は水溶性ジルコニウム化合物(A)のZr換算量(AZr)との質量比(Si)/(AZr)で0.23〜1.0の範囲とする。というのは、質量比(Si)/(AZr)が0.23未満では耐食性やプレス成形後の外観が低下し、一方、1.0を超えると耐食性が低下するからである。好ましい質量比(Si)/(AZr)は0.30〜0.67の範囲である。
【0035】
本発明においては、プレス成形後の耐食性を改善するために、表面処理液にさらにワックス(I)を含有させることができる。
このワックス(I)としては、液に相溶するものであれば特に制限はない。
例えば、ポリエチレンなどのポリオレフィンワックス、モンタンワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、カルナバワックス、ラノリン系ワックス、およびフッ素系ワックスなどが挙げられ、これらのうちから選んだ1種以上を用いることができる。
【0036】
ワックス(I)を含有させる場合の固形分(I)の配合割合は、表面処理液の全固形分に対し、2.5〜10質量%の範囲が望ましい。というのは、2.5質量%以上であればプレス成形後の外観が低下せず、一方、10質量%以下であれば耐食性が低下しないからである。好ましい配合割合は3.4〜7.1質量%の範囲である。
【0037】
なお、本発明の表面処理液のpHは特に制限はされないが、処理剤の安定性の面からpH6〜11程度とすることが好ましい。というのは、処理剤のpHが6以上であれば処理剤の安定性が低下せず耐食性が低下しない、一方、pHが11以下であればめっき皮膜中の亜鉛のエッチングが適正で、耐食性が低下することがないからである。より好ましくは、pH8〜10である。
なお、このpHに調整するのに用いられるアルカリとしてはアンモニア、アミンが好ましく、一方、酸としてはリン酸化合物が好ましい。
【0038】
本発明の表面処理液の濃度であるが、亜鉛系めっき鋼板への塗布性および含Zr処理皮膜の形成性が損なわれなければ、特に限定はないが、溶媒である水に対して、固形分で1〜20質量%程度の範囲が好適である。
【0039】
上記した表面処理液を、亜鉛系めっき鋼板の表面に塗布し、加熱乾燥させることによって表面処理皮膜が形成される。この加熱乾燥後の表面処理皮膜の付着量は、皮膜中のジルコニウム化合物のZr換算で10〜200mg/mの範囲とすることが肝要である。というのは、付着量が10mg/m未満では十分な耐食性および高温での油保持性が得られず、一方、200mg/mを超えると皮膜が厚いために、プレス成形後の外観と耐食性が低下するからである。好ましい付着量は30〜150mg/mの範囲である。
また、この表面処理液は、亜鉛系めっき鋼板に対して、1度の塗布だけでなく、複数回の塗布をすることもできる。
【0040】
上記した表面処理液を、亜鉛系めっき鋼板の表面に塗布し、加熱乾燥して表面処理皮膜を形成するには、通常公知の方法を用いることができる。
塗布法としては、ロールコーター(3ロール方式、2ロール方式)、スクイズコーターなどいずれの方法でも良い。また、スクイズコーターなどによる塗布処理や、浸漬処理、スプレー処理でも良く、さらにその後に、エアーナイフ法やロール絞り法により塗布量の調整、外観の均一化、膜厚の均一化を行ってもよい。
【0041】
加熱乾燥の際の加熱手段としては、特に制限はないが、ドライヤー、熱風炉、高周波誘導加熱炉、赤外線炉などを用いることができる。加熱処理の乾燥温度は到達板温で50〜250℃とすることが好ましい。というのは、250℃以下であれば皮膜にクラックが入ることがなく耐食性を低下させない。一方、50℃以上であれば皮膜中の水分残存が多くなく、耐食性が低下しないからである。好ましくは60〜180℃である。
【0042】
かくして、上記の処理により、含Zr皮膜を有し、高温および高温高湿環境下での油保持性に優れた亜鉛系めっき鋼板を得ることができる。
【0043】
次に、本発明の亜鉛系めっき鋼板について説明する。かかる鋼板は、前述した表面処理液を用い、同じく前述した亜鉛系めっき鋼板の製造方法によって得ることができる。
かくして得られた亜鉛系めっき鋼板は、その表面に、ジルコニウム化合物(a)と、微粒子シリカ(b)と、シランカップリング剤由来成分(c)と、バナジン酸化合物(d)と、リン酸化合物(e)と、ニッケル化合物(f)と、アクリル樹脂(g)と、オルガノポリシロキサン化合物由来成分(h)とを下記の範囲で含有するものであり、片面当たりのZr付着量は10〜200mg/mとする。さらに必要に応じて、ワックス(i)の固形分(i)を下記の範囲で含有させることもできる。
【0044】

(11)バナジン酸化合物(d)のV換算量(d)とジルコニウム化合物(a)のZr換算量(aZr)との質量比(d)/(aZr)=0.04〜0.15
(12)リン酸化合物(e)のP換算量(e)とジルコニウム化合物(a)のZr換算量(aZr)との質量比(e)/(aZr)=0.11〜0.55
(13)ニッケル化合物(f)のNi換算量(fNi)とジルコニウム化合物(a)のZr換算量(aZr)との質量比(fNi)/(aZr)=0.015〜0.065
(14)皮膜固形分の合計量における、アクリル樹脂(g)の含有量が0.5〜10質量%
(15)微粒子シリカ(b)、シランカップリング剤由来成分(c)およびオルガノポリシロキサン化合物由来成分(h)の各Si換算の合計量(Si)とジルコニウム化合物(a)のZr換算量(aZr)との質量比(Si)/(aZr)=0.23〜1.0
(16)皮膜固形分の合計量に対し、ワックス(i)の固形分(i)の含有量が2.5〜10質量%
【0045】
なお、上記した成分の限定理由は、それぞれ前述した表面処理液にかかるそれぞれの成分の含有量および質量比の限定理由と同じである。
【0046】
ここに、本発明に従う亜鉛系めっき鋼板が、高温および高温高湿環境下での油保持性に優れる理由については必ずしも明らかではないが、発明者らは以下のように考えている。
まず、表面処理皮膜と潤滑油の親和力が大きくなることで、油保持性が向上すると考えられる。
特に、オルガノポリシロキサン化合物を配合した場合、オルガノポリシロキサン化合物のアルキル基が潤滑油と高い親和力を呈するため、油保持性が良好になると考えられる。また、オルガノポリシロキサン化合物はシランカップリング剤がシロキサン結合を形成することによっても、高温および高温高湿環境下でのオルガノポリシロキサン化合物の効果が向上するものと思われる。
【0047】
また、水溶性ジルコニウムは、微粒子シリカやシランカップリング剤と結合し、皮膜のバインダーとして働くと考えられる。このように形成された無機質な皮膜は、有機高分子のように加工品や金型に付着や蓄積することが少ない。
さらに、ワックスを含有させた場合、皮膜が受ける応力が緩和されるため、プレス成形後の外観、および耐食性を向上させることができる。
【0048】
上記した表面処理皮膜の付着量は、皮膜中のジルコニウム化合物のZr換算で10〜200mg/mの範囲とすることが肝要であり、その理由は、前述のとおりである。
【実施例1】
【0049】
次に、実施例および比較例により本発明の効果を説明するが、本実施例はあくまで本発明を説明する一例に過ぎず、本発明を限定するものではない。
【0050】
1.試験板の作成方法
(1)供試材(素材)
以下の市販の材料を供試材として使用した。
(i)電気亜鉛めっき鋼板(EG):板厚=0.8mm、亜鉛目付量=20/20(g/m
(ii)溶融亜鉛めっき鋼板(GI):板厚=0.8mm、亜鉛目付量=60/60(g/m
なお、例えば、電気亜鉛めっき鋼板において、亜鉛目付量=20/20(g/m)とは、鋼板の両面のそれぞれに20(g/m)のめっきを有することを意味する。
【0051】
(2)前処理(洗浄)
試験片の作製方法としては、まず上記の供試材の表面を、日本パーカライジング製パルクリーンN364Sを用いて処理し、表面上の油分や汚れを取り除いた。次に、水道水で水洗して金属材料表面が100%水で濡れることを確認したあと、更に純水を流しかけ、100℃に熱したオーブンで水分を乾燥する方法を用いた。
【0052】
(3)本発明の表面処理液
表1−1、表1−2および表1−3に示す組成(質量比)になる種々の亜鉛系めっき鋼板用の表面処理液を作製した。なお、表面処理液中における固形分濃度は、5質量%とした。
【0053】
【表1−1】

【0054】
【表1−2】

【0055】
【表1−3】

【0056】
表1−1、表1−2および表1−3に示した化合物は次のとおりである。
<水溶性ジルコニウム化合物(A)>
A1:炭酸ジルコニルナトリウム
A2:炭酸ジルコニルアンモニウム
【0057】
<水分散性微粒子シリカ(B)>
B1:スノーテックスN(登録商標)
B2:スノーテックスO(登録商標)
【0058】
<シランカップリング剤(C)>
C1:γ-アミノプロピルトリエトキシシラン
C2:γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン
【0059】
<バナジン酸化合物(D)>
D1:メタバナジン酸ナトリウム
D2:メタバナジン酸アンモニウム
【0060】
<リン酸化合物(E)>
E1:1-ヒドロキシメタン-1.1-ジホスホン酸
E2:リン酸
【0061】
<ニッケル化合物(F)>
F1:硝酸ニッケル六水和物
F2:硫酸ニッケル六水和物
【0062】
<アクリル樹脂エマルション(G)>
G1:スチレン-エチルメタアクリレート−n−ブチルアクリレート−アクリル酸
(Tg:18℃)
G2:メチルメタクリレート−2−エチルヘキシルアクリレート−アクリル酸
(Tg:14℃)
G3:スチレン-エチルメタアクリレート−n−ブチルアクリレート−アクリル酸
(Tg:5℃)
G4:スチレン-エチルメタアクリレート−n−ブチルアクリレート−アクリル酸
(Tg:40℃)
【0063】
<オルガノポリシロキサン化合物(H)>
H1:メチルフェニルシリコーンオイル(粘度100mm/s)
H2:ジメチルシリコーンオイル(粘度0.65mm/s)
H3:メチルフェニルシリコーンオイル(粘度500,000mm/s)
【0064】
<ワックス(I)>
I1:ポリエチレンワックス(ケミパールW900(登録商標))
【0065】
(4)処理方法
上記の表面処理液を、バーコーターを用いて各試験板上に塗装し、その後、水洗することなく、そのままオーブンに入れ、表2−1および表2−2に示す乾燥温度で乾燥し、表2−1および表2−2に併記した量の皮膜を形成した。
この表面処理皮膜の付着量は表面処理液の濃度により調整し、皮膜の付着量はZrを蛍光X線分析装置により、Zr付着量が既知の標準板より得られた検量線を用いて定量した。
乾燥条件は、オーブンの温度とオーブンに入れている時間とで調節した。なお、乾燥温度は試験板表面の到達温度を示す。バーコート塗装の具体的な方法は、以下のとおりである。
【0066】
処理剤を試験板に滴下して、#3〜5のバーコーターで塗装した。その際、使用したバーコーターの番線番号と処理剤の濃度とにより、所定の皮膜量となるように調整した。
試験水準毎の試験板の種類、塗装方法、皮膜形成時の乾燥温度を表2−1および表2−2に示す。また、得られた亜鉛めっき鋼板皮膜の組成およびZr付着量を表3−1および表3−2に示す。
【0067】
【表2−1】

【0068】
【表2−2】

【0069】
【表3−1】

【0070】
【表3−2】

【0071】
(5)評価試験の方法
(5−1)耐食性評価
上記の方法で作製した試験板を70×150mmに切り出し、裏面と端部をビニールテープでシールして以下の試験を行った。評価は、錆び発生面積率を目視にて判定した。
塩水噴霧試験(SST:JIS−Z−2371に準ずる):
SST72時間後の白錆び発生面積率を目視にて、下記判定基準で評価した。
判定基準:
◎ :錆び発生面積率5%未満
○ :錆び発生面積率5%以上20%未満
○−:錆び発生面積率20%以上30%未満
△ :錆び発生面積率30%以上40%未満
× :錆び発生面積率40%以上
【0072】
(5−2)高温環境下の油保持性
上記した試験板を、40℃での動粘度が51〜69mm/s、100℃での動粘度が11.1〜14.9mm/sの潤滑油(NOKクリューバー(株)製「ALL TIME J 652」)を容器に入れ、鉛直に立てた試験材の下端部を容器内の潤滑油に浸した状態で85℃で3日間放置し、潤滑剤の滲み拡がり高さを測定した。その判定基準は、以下のとおりである。
◎ :滲み拡がり高さ0.5cm未満
○ :滲み拡がり高さ0.5cm以上、1.0cm未満
○−:滲み拡がり高さ1.0cm以上、1.5cm未満
△ :滲み拡がり高さ1.5cm以上、3.0cm未満
× :滲み拡がり高さ3.0cm以上
【0073】
(5−3)高温高湿環境下の油保持性
上記した試験板を、40℃での動粘度が51〜69mm/s、100℃での動粘度が11.1〜14.9mm/sの潤滑油(NOKクリューバー(株)製「ALL TIME J 652」)を容器に入れ、鉛直に立てた試験材の下端部を容器内の潤滑油に浸した状態で60℃、相対湿度90%の環境下で3日間放置し、潤滑剤の滲み拡がり高さを測定した。その評価基準は、以下のとおりである。
◎ :滲み拡がり高さ0.5cm未満
○ :滲み拡がり高さ0.5cm以上、1.0cm未満
○−:滲み拡がり高さ1.0cm以上、1.5cm未満
△ :滲み拡がり高さ1.5cm以上、3.0cm未満
× :滲み拡がり高さ3.0cm以上
【0074】
(5−4)プレス成形(連続高速プレス)後外観
各試験板に潤滑油を塗油した状態で、下記プレス条件の多段絞り成形を行い、金型に付着する汚れを拭き取ることなく10回連続で成形した後、10個目の成形材表面に付着した剥離カスの程度と、成形材表面の黒ずみ(黒化)の程度を目視で観察し、評価した。
〔プレス条件〕
亜鉛系めっき鋼板の板厚:0.8mm、成形速度:450mm/秒、ブランク径Φ90mm
(1段目)ポンチ径Φ49mm、ポンチとダイスのクリアランス1.0mm
(2段目)ポンチ径Φ39mm、ポンチとダイスのクリアランス0.8mm
(3段目)ポンチ径Φ32mm、ポンチとダイスのクリアランス0.8mm
(4段目)ポンチ径Φ27.5mm、ポンチとダイスのクリアランス0.8mm
(5段目)ポンチ径Φ24.4mm、ポンチとダイスのクリアランス0.8mm
【0075】
判定方法は、以下のとおりとした。
◎ :潤滑油に蓄積された剥離カスが成形材表面にほとんど付着しておらず、成形材表面の黒ずみも確認されない。
○ :潤滑油に蓄積された剥離カスが成形材表面に極わずかに付着しているが、成形材表面の黒ずみは確認されない。
○−:潤滑油に蓄積された剥離カスが成形材表面にわずかに付着しており、成形材表面に軽微な黒ずみが観察される。
△ :潤滑油に蓄積された剥離カスが成形材表面に少量付着しており、成形材表面に黒ずみがやや多く観察される。
× :潤滑油に蓄積された剥離カスが成形材表面に多量に付着しており、成形材表面に黒ずみが顕著に観察される。
【0076】
得られた表面処理亜鉛系めっき鋼板の品質(耐食性、油保持性とプレス後の外観)についての調査結果を、表4−1および表4−2に示す。
【0077】
【表4−1】

【0078】
【表4−2】

【0079】
表4−1および表4−2に示したとおり、本発明に従う成分になる表面処理液を用いて含Zr皮膜を有した亜鉛系めっき鋼板は、いずれもが耐食性およびプレス成形後の外観が良好であるだけでなく、高温および高温高湿環境下での油保持性に優れていることが判る。
これに対し、比較例は、いずれも、耐食性、プレス成形後の外観および油保持性のいずれか一つまたは一つ以上で劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明によれば、高温および高温高湿環境下の油保持性に優れた亜鉛系めっき鋼板を提供することができる。これにより、軸受に対する回転軸の円滑な摺動を長時間確保でき、もって、自動車や、AV・OA機器分野等で使用されている各種モーターの振動や騒音の低減化と長寿命化を図ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性ジルコニウム化合物(A)と、水分散性微粒子シリカ(B)と、シランカップリング剤(C)と、バナジン酸化合物(D)と、リン酸化合物(E)と、ニッケル化合物(F)と、アクリル樹脂エマルション(G)と、オルガノポリシロキサン化合物(H)とを、下記(1)〜(8)の条件を満足する範囲で含有することを特徴とする亜鉛系めっき鋼板用の表面処理液。

(1)水分散性微粒子シリカ(B)の固形分(B)と水溶性ジルコニウム化合物(A)のZr換算量(AZr)との質量比(B)/(AZr)=0.3〜1.2
(2)シランカップリング剤(C)と水溶性ジルコニウム化合物(A)のZr換算量(AZr)との質量比(C)/(AZr)=0.6〜2.5
(3)バナジン酸化合物(D)のV換算量(D)と水溶性ジルコニウム化合物(A)のZr換算量(AZr)との質量比(D)/(AZr)=0.04〜0.15
(4)リン酸化合物(E)のP換算量(E)と水溶性ジルコニウム化合物(A)のZr換算量(AZr)との質量比(E)/(AZr)=0.11〜0.55
(5)ニッケル化合物(F)のNi換算量(FNi)と水溶性ジルコニウム化合物(A)のZr換算量(AZr)との質量比(FNi)/(AZr)=0.015〜0.065
(6)表面処理液の全固形分における、アクリル樹脂エマルション(G)の固形分(G)の含有量が0.5〜10質量%
(7)表面処理液の全固形分における、オルガノポリシロキサン化合物(H)の固形分(H)の含有量が0.55〜6.5質量%
(8)水分散性微粒子シリカ(B)、シランカップリング剤(C)およびオルガノポリシロキサン化合物(H)の各Si換算の合計量(Si)と水溶性ジルコニウム化合物(A)のZr換算量(AZr)との質量比(Si)/(AZr)=0.23〜1.0
【請求項2】
前記表面処理液がさらにワックス(I)を、下記(9)の条件を満足する範囲で含有することを特徴とする請求項1に記載の亜鉛系めっき鋼板用の表面処理液。

(9)表面処理液の全固形分における、ワックス(I)の固形分(I)の含有量が2.5〜10質量%
【請求項3】
請求項1または2に記載の表面処理液を、亜鉛系めっき鋼板の表面に塗布し、ついで加熱乾燥し、片面当たりのZr付着量を10〜200mg/mとすることを特徴とする亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
【請求項4】
亜鉛系めっき鋼板の表面に、ジルコニウム化合物(a)と、微粒子シリカ(b)と、シランカップリング剤由来成分(c)と、バナジン酸化合物(d)と、リン酸化合物(e)と、ニッケル化合物(f)と、アクリル樹脂(g)と、オルガノポリシロキサン化合物由来成分(h)とを、下記(11)〜(15)の条件を満足する範囲で含有し、片面当たりのZr付着量が10〜200mg/mである皮膜を有することを特徴とする亜鉛系めっき鋼板。

(11)バナジン酸化合物(d)のV換算量(d)とジルコニウム化合物(a)のZr換算量(aZr)との質量比(d)/(aZr)=0.04〜0.15
(12)リン酸化合物(e)のP換算量(e)とジルコニウム化合物(a)のZr換算量(aZr)との質量比(e)/(aZr)=0.11〜0.55
(13)ニッケル化合物(f)のNi換算量(fNi)とジルコニウム化合物(a)のZr換算量(aZr)との質量比(fNi)/(aZr)=0.015〜0.065
(14)皮膜固形分の合計量における、アクリル樹脂(g)の含有量が0.5〜10質量%
(15)微粒子シリカ(b)、シランカップリング剤由来成分(c)およびオルガノポリシロキサン化合物由来成分(h)の各Si換算の合計量(Si)とジルコニウム化合物(a)のZr換算量(aZr)との質量比(Si)/(aZr)=0.23〜1.0
【請求項5】
前記皮膜がさらにワックス(i)を、下記(16)の条件を満足する範囲で含有することを特徴とする請求項4に記載の亜鉛系めっき鋼板。

(16)皮膜固形分の合計量に対し、ワックス(i)の固形分(i)の含有量が2.5〜10質量%

【公開番号】特開2012−26033(P2012−26033A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−138319(P2011−138319)
【出願日】平成23年6月22日(2011.6.22)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】