交通情報推定装置、交通情報推定のためのコンピュータプログラム、及び交通情報推定方法
【課題】道路リンクの交通情報に基づいて、推定対象道路リンクの交通情報を推定するための新たな技術を提供する。
【解決手段】複数の道路リンクL1〜L10の速度情報を取得し、取得した速度情報に基づいて、一つの道路リンクの交通情報から他の道路リンクの交通情報を推定するための推定情報、及び、道路リンクそれぞれの交通情報同士の相関を求める。前記相関が所定レベル以上認められる道路リンクを選定グループとして選定する。推定部11は、道路リンクの交通情報が取得されると、当該道路リンクを含む前記選択グループ内にある他の道路リンクの交通情報を、前記推定情報に基づいて推定する。
【解決手段】複数の道路リンクL1〜L10の速度情報を取得し、取得した速度情報に基づいて、一つの道路リンクの交通情報から他の道路リンクの交通情報を推定するための推定情報、及び、道路リンクそれぞれの交通情報同士の相関を求める。前記相関が所定レベル以上認められる道路リンクを選定グループとして選定する。推定部11は、道路リンクの交通情報が取得されると、当該道路リンクを含む前記選択グループ内にある他の道路リンクの交通情報を、前記推定情報に基づいて推定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交通情報を推定するための交通情報推定装置、交通情報推定のためのコンピュータプログラム、及び交通情報推定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
道路の交通情報をドライバーに提供する技術として、財団法人道路交通情報通信システムセンターによるVICS(Vehicle Information and Communication System:なお、「VICS」は上記財団法人の登録商標)が広く知られている。
このVICSは、各種の路側センサ(車両感知器やループコイル等)から収集した車両台数や車両速度等よりなる定点観測情報に基づいて、各路線での渋滞やリンク旅行時間を含む交通情報を集計し、その交通情報を、ビーコンによる狭域通信やFM放送等の広域通信によってドライバーに提供するものである。
【0003】
また、道路の交通情報をドライバーに提供する他の技術として、プローブカーを利用した交通情報推定システム(以下、プローブシステムという。)も知られている。
このプローブシステムは、例えば特許文献1および2に示すように、実際に道路を走行する車両(プローブ車両)を移動体センサとして利用するものであり、現時点の車両位置や時刻等のプローブ情報を無線通信によって各プローブ車両から収集し、道路の交通情報を生成するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−151496号公報
【特許文献2】特開2005−4467号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、VICS及びプローブシステムを利用したとしても、VICS及びプローブシステムのいずれからもデータが得られていない道路リンクについては、交通情報を得ることができない。
【0006】
そこで、本発明は、道路リンクの交通情報に基づいて、交通情報が得られていない他の道路リンクである推定対象道路リンクの交通情報を推定するための新たな技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明は、道路リンクの交通情報に基づいて、他の道路リンクの交通情報を推定する推定部を備えた交通情報推定装置であって、複数の道路リンクの交通情報を取得する取得部と、前記取得部が取得した前記交通情報に基づいて、一つの道路リンクの交通情報から他の道路リンクの交通情報を推定するための推定情報、及び、前記道路リンクそれぞれの交通情報同士の相関を求める算出部と、前記相関が所定レベル以上認められる道路リンクを選定グループとして選定する選定部とを備え、前記推定部は、道路リンクの交通情報が取得されると、当該道路リンクを含む前記選択グループ内にある他の道路リンクの交通情報を、前記推定情報に基づいて推定することを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、選定部は、道路リンクそれぞれの交通情報同士の相関が所定レベル以上認められる道路リンクを選定グループとして選定するので、当該選定グループに含まれている道路リンクの交通情報同士の相関は高いと言える。
したがって、ある道路リンクの交通情報が取得されると、推定部が、当該道路リンクを含む前記選択グループ内にある他の道路リンクの交通情報を、前記推定情報に基づいて推定するので、推定される他の道路リンクの交通情報の信頼性は高い。
【0009】
(2)また、前記交通情報推定装置において、前記推定情報は、プローブ車両より送信され前記取得部が取得したプローブ情報に基づいて求められ、前記推定部が他の道路リンクの交通情報の推定を行うために、取得される道路リンクの道路情報は、プローブ車両より送信されたプローブ情報に基づくものとすることができる。
この場合、プローブ車両より送信され前記取得部が取得したプローブ情報に基づいて、前記推定情報は求められ、さらに、プローブ車両より送信されたプローブ情報に基づいて、推定部により道路リンクの交通情報の推定が行われる。
このため、例えば、道路に設置された路側センサが用いられて収集した定点観測情報(例えばVICS情報)を取得することができない場合であっても、プローブ車両より送信されたプローブ情報に基づいて、道路リンクの交通情報の推定が可能となる。
【0010】
(3)また、前記取得部は、前記交通情報として、プローブ車両より送信されたプローブ情報から得たプローブ交通情報の他に、道路に設置された路側センサが用いられて収集した定点観測情報から得た定点交通情報を取得可能である場合は、前記算出部は、前記プローブ交通情報及び前記定点交通情報それぞれに基づいて前記推定情報と前記相関とを求め、前記推定部は、前記プローブ交通情報による前記相関と前記定点交通情報による前記相関とを比較して、相関が高い方の推定情報に基づいて前記推定を行う構成とするのが好ましい。
このように、前記プローブ交通情報の他に、前記定点交通情報を取得できた場合、推定部は、プローブ交通情報による相関と定点交通情報による相関とを比較して、相関が高い方の推定情報に基づいて前記推定を行うので、推定される道路情報の信頼性をより一層高くすることができる。
【0011】
(4)また、前記交通情報推定装置は、前記推定部によって交通情報が推定される他の道路リンクの数に関する指標に応じて、前記所定レベルを調整する調整部を更に備えているのが好ましい。
この場合、前記推定部によって交通情報が推定される道路リンクの数を多くしたい場合や、当該数よりも相関のレベル(つまり相関の強さ)を優先させたい場合等の状況に応じて、前記調整部は前記所定レベルを調整することができる。
【0012】
(5)また、本発明は、コンピュータを、前記(1)〜(4)のいずれか一つに記載の交通情報推定装置として機能させるためのコンピュータプログラムである。
【0013】
(6)また、本発明は、道路リンクの交通情報に基づいて、他の道路リンクの交通情報を推定する交通情報推定方法であって、複数の道路リンクの交通情報を取得するステップと、取得した前記交通情報に基づいて、一つの道路リンクの交通情報から他の道路リンクの交通情報を推定するための推定情報、及び、前記道路リンクそれぞれの交通情報同士の相関を求めるステップと、前記相関が所定レベル以上認められる道路リンクを選定グループとして選定するステップと、道路リンクの交通情報が取得されると、当該道路リンクを含む前記選択グループ内にある他の道路リンクの交通情報を、前記推定情報に基づいて推定するステップとを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ある道路リンクの交通情報が取得されると、当該道路リンクを含む選択グループに含まれていて相関が高い関係にある他の道路リンクの交通情報を、推定情報に基づいて推定するので、推定される他の道路リンクの交通情報の信頼性は高くなる。この結果、現在の交通状態の把握、さらには将来の交通状態の予測の精度も高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】交通情報システムの全体構成図である。
【図2】交通情報推定装置の構成図である。
【図3】取得部の機能の一部を説明している説明図である。
【図4】プローブ情報から道路リンクの旅行速度を算出する方法の説明図である。
【図5】交通情報推定装置による交通情報推定方法を示しているフロー図である。
【図6】第一の中間データベースの説明図である。
【図7】第一の中間データベースから1組の道路リンクの速度情報を取り出して説明している説明図である。
【図8】第二の中間データベースの説明図である。
【図9】道路リンクの例を示す図である。
【図10】回帰直線、寄与度等を求める方法を説明する図である。
【図11】回帰直線、寄与度等を求める方法を説明する図である。
【図12】第二の中間データベースの説明図である。
【図13】寄与度行列情報の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
[1.全体構成]
図1は、本発明の交通情報推定装置1を含む交通情報システムを示している。この交通情報システムは、交通情報推定装置1のほか、車載装置2を搭載したプローブ車両3、車載装置2と無線通信する路側通信機4、路側センサ5及びVICSセンター6を含む。
【0017】
前記交通情報推定装置1は、例えば交通情報システムが備えている中央制御装置の様々な機能のうちの一機能を指しており、交通情報推定装置1は、VICS情報及びプローブ情報等の交通情報(観測情報)を取得し、車両に提供するための提供用の交通情報を生成する機能を有している。なお、交通情報推定装置1は、交通情報に基づいて、信号機制御や交通管制等の各種の交通用処理を行ってもよい。
【0018】
交通情報推定装置1は、処理装置及び記憶装置を有するコンピュータによって構成することができる。記憶装置には、コンピュータを、以下の交通情報推定装置1として機能させるためのコンピュータプログラムが記憶されている。このコンピュータプログラムは、前記処理装置によって実行され、前記処理装置が前記記憶装置等に対し入出力を行うことで、交通情報推定装置1としての機能を実現する。なお、以下に説明する交通情報推定装置1が備えている各機能部である後述の推定部11及び入力情報処理部16(取得部21、算出部22、選定部23、調整部24(図2参照))は、特に断らない限り、前記コンピュータプログラムによって実現されるものである。
【0019】
図1において、前記車載装置2は、プローブ車両3の観測情報としてプローブ情報を生成し、路側通信機4に無線送信する。プローブ情報は、プローブ車両3の位置、当該位置の通過速度及びプローブ車両3の車両ID等を含む交通情報である。なお、プローブ車両3の位置は、車載装置2が有するGPS受信機によって受信したGPS信号に基づいて算出され、プローブ車両3の速度は車載の速度センサによって算出される。
【0020】
前記路側通信機4は、車載装置2との間で無線通信によって情報の送受信を行う。具体的には、路側通信機4は、車載装置2が送信した観測情報としてのプローブ情報を受信し、交通情報推定装置1に転送する。また、路側通信機4は、交通情報推定装置1から、車両への提供用の交通情報を取得し、その交通情報を車載装置2に送信することができる。なお、路側通信機4と交通情報推定装置1との間は、通信回線によって接続されている。
【0021】
前記路側センサ5は、例えば、直下を通行する車両を超音波感知する車両感知器や、インダクタンス変化で車両を感知するループコイル、或いは、カメラの映像を画像処理して交通量や車両速度を計測する画像感知器よりなる。路側センサ5は、観測情報として交差点に流入する車両台数や車両速度等を計測することができ、このような観測情報を取得する目的で、高速道路や主要な幹線道路等に設置されている。
【0022】
そして、路側センサ5によって取得された観測情報は、通信回線を介して、VICSセンター6のサーバに送信され、このサーバでは、路側センサ5の観測情報に基づいて、VICS情報を生成する。このVICS情報は、通信回線を介して、交通情報推定装置1に送信される。
【0023】
交通情報推定装置1に送信されるVICS情報は、各道路リンクでの渋滞状況やリンク旅行時間を含む交通情報である。VICS情報は、路側センサ5から5分ごとに観測情報が取得される都度、情報更新されるため、時間的に高密度な情報が得られる。しかし、路側センサ5はすべての道路に設置されているわけではなく(主要道路でも20%以下)、エリアカバー率が低い。
一方、前記プローブ情報は、道路を走行するプローブ車両3から取得するため、エリアカバー率を高くすることが可能である。ただし、プローブ車両3となるための車載装置2の普及率がまだ低いため、時間的に低密度のデータしか得られない。
【0024】
本実施形態の交通情報システムでは、所定エリア内の道路に複数の道路リンクL1〜L10が設定されており(図9参照)、これら複数の道路リンクL1〜L10が一つの管理グループGとして管理されている。この場合、前記管理グループGに含まれている複数の道路リンクL1〜L10の内の、路側センサ5が設置されていてVICS情報が得られる道路リンクについては、VICS情報の更新単位時間ごとに常に交通情報(VICS情報)が得られる。一方、路側センサ5が設置されておらず、VICS情報が得られない道路リンクについては、VICS情報の更新単位時間ごとにみると、プローブ情報が交通情報として得られる道路リンクと、プローブ情報も得られない道路リンクとが混在することになる。
【0025】
[2.交通情報推定装置の詳細]
本実施形態に係る交通情報推定装置1は、VICS情報もプローブ情報も得られない道路リンクの交通情報を推定して、当該道路リンクの交通情報を補完することで、所定エリア内(前記管理グループG内)の全道路リンクL1〜L10の交通情報を取得する。このように、VICS情報もプローブ情報も得られない道路リンクの交通情報を補完することで、より精度が高い交通情報を車両(ナビゲーションシステム)に提供したり、精度良く交通管制を行ったりすることが可能となる。
なお、以下では、VICS情報もプローブ情報も得られず交通情報を推定して補完する道路リンクを、「推定対象道路リンク」という。
【0026】
図2の構成図において、交通情報推定装置1は、前記管理グループG内にある推定対象道路リンクの交通情報を推定する推定部11と、この推定を行うために前記管理グループG内の道路リンクL1〜L10の交通情報等を蓄積する第一の中間データベース12a及び第二の中間データベース12bと、推定部11によって推定した交通情報等を蓄積するための推定データベース(交通情報データベース)13とを備えている。
前記推定部11は、後にも説明するが、管理グループG内にある推定対象道路リンクの交通情報を、当該管理グループG内にあって交通情報を取得できた道路リンク(関連道路リンク)の当該交通情報に基づいて推定する。
【0027】
また、交通情報推定装置1は、前記コンピュータプログラムによって実現される機能部として、当該交通情報推定装置1が取得したVICS情報及びプローブ情報(以下、両情報を総称する場合、「入力情報」という)に対する処理を行う入力情報処理部16を備えている。
入力情報処理部16は、取得部21、算出部22、選定部23及び調整部24を備えている。これらの各機能の詳細については、後に説明するが、取得部21は、管理グループG内にある複数の道路リンクL1〜L10の交通情報を、前記入力情報に基づいて取得することができる。そして、算出部22は、取得部21が取得した交通情報に基づいて、管理グループG内の一つの道路リンクの交通情報から他の道路リンクの交通情報を推定するための推定情報としての回帰直線、及び、管理グループG内の複数の道路リンクそれぞれの交通情報同士の相関(相関の強さ)を求める。なお、この相関は、以下の実施形態では回帰直線の寄与度である。選定部23は、所定の道路リンクを管理グループGの中から選定グループとして選定する。そして、調整部24は、推定部11によって交通情報が推定される推定対象道路リンクの数に関する指標に応じて、後述の閾値αを調整する機能を有している。
【0028】
前記取得部21が有する機能の一部を説明する。取得部21は、前記入力情報から、各道路リンクの「旅行速度」を生成する処理を行う。生成した「旅行速度」は、第一の中間データベース12aに与えられる。図3は、取得部21のこの機能を説明している説明図である。
【0029】
取得部21は、取得したVICS情報から「旅行速度」を生成するVICS情報処理部17と、取得したプローブ情報から「旅行速度」を生成するプローブ情報処理部18とを備えている。
VICS情報処理部17は、ある道路リンクに関して得られたVICS情報に含まれるリンク旅行時間から、当該道路リンクの旅行速度を算出する。すなわち、旅行速度を算出しようとする道路リンクのリンク長を、当該道路リンクのリンク旅行時間で除することで、旅行速度[km/h]を算出する。なお、管理グループG内の全道路リンクL1〜L10のリンク長は、予め、交通情報推定装置1に設定されている。
【0030】
プローブ情報処理部18は、ある道路リンクにおいて得られたプローブ情報に含まれる位置及び時刻に基づいて、当該道路リンクの旅行速度[km/h]を算出する。図4は、プローブ情報から道路リンクの旅行速度[km/h]を算出する方法を示している。
図4に示すように、L1〜L4及びL10までの5個の連続した道路リンクが存在する場合において、道路リンクL3の図右方(矢印A方向)への旅行速度を算出するためには、プローブ車両3が、進行方向一つ手前の道路リンクL2(第1位置)に位置している間に送信した第1プローブ情報pr1と、当該プローブ車両3が移動して進行方向一つ先の道路リンクL4(第2位置)に位置している間に送信した第2プローブ情報pr2とを用いる。
【0031】
第1プローブ情報pr1が示す位置及び第2プローブ情報pr2が示す位置によって、第1プローブ情報pr1を発信した第1位置と第2プローブ情報pr2を発信した第2位置との間の距離Dが求まる。また、第1プローブ情報pr1が示す時刻及び第2プローブ情報pr2が示す時刻によって、第1位置から第2位置まで移動するのに要した時間Tが求まる。前記距離Dを前記時間Tで除することにより、第1位置から第2位置までの間の区間(通常の速度算出区間)の旅行速度が求まる。通常は、この旅行速度を、第1位置と第2位置との間にある道路リンクL3におけるリンク旅行速度とみなす。
【0032】
ただし、第1位置と第2位置との間の距離D(通常の速度算出区間の距離)が、設定された最小距離(例えば、1km)以下である場合には、速度算出区間が長くなるように、道路リンクL3のリンク旅行速度の算出に用いるプローブ情報として別のものを選択する。具体的には、通常の速度算出区間の距離Dが最小距離以下である場合、プローブ情報処理部18は、車両3が、車両進行方向にみてさらに一つ手前の道路リンクL1(手前位置)に位置するときに送信されたプローブ情報pr0と、道路リンクL4に位置するときに送信されたプローブ情報pr2とを用いることができる。これにより、手前位置から第2位置までの間の拡張された速度算出区間についての旅行速度が求まり、この旅行速度を、手前位置から第2位置までの間にある道路リンクL3のリンク旅行速度とみなす。
【0033】
通常の速度算出区間の距離Dが短い場合に、拡張された速度算出区間を用いる理由は次の通りである。すなわち、速度算出区間が短いと、速度算出区間を移動するのに要する時間は、交通信号による停止時間による影響を大きく受ける。つまり、速度算出区間を通過するのに要する時間が、例えば、2分であるとしても、車両が実際に走行していた時間は1分で、残りの1分は信号による待ち時間ということが生じ得る。一方、同じ速度算出区間を通過する別の車両は、信号による停止がなく、速度算出区間を通過するのに要する時間が1分ということがありえる。このように、速度算出区間が短いと、信号待ちの影響による誤差が大きくなり、正確な速度算出が困難となる。
【0034】
逆に、十分に距離が長く、多くの交通信号(交差点)を通過する必要があるような速度算出区間である場合には、確率上、いずれかの交通信号による待ち時間が、ほぼ全ての車両に均等に生じるため、信号待ちの影響による誤差は小さい。
【0035】
そこで、本実施形態のように、通常の速度算出区間の距離Dが短い場合には、拡張された速度算出区間で速度を算出することで、速度をより精度良く算出することができる。
なお、通常の速度算出区間の距離Dが短い場合であっても、車両台数が多い(例えば、10台以上)の場合には、速度算出区間を通過するのに要する時間を複数の車両からのプローブ情報で平均化することにより、誤差を小さくできる。したがって、通常の速度算出区間の距離Dが、設定された最小距離以下であり、かつ、単位時間あたりのプローブ車両の数(プローブ情報の数)が設定された最小数以下である場合に限って、拡張された速度算出区間での速度算出をおこなってもよい。
【0036】
なお、上記の例では、拡張された速度区間として、手前位置(道路リンクL1)から第2位置(道路リンクL4)までとしたが、この第2位置に代えて、第2位置よりも進行方向にみてさらに先の位置(道路リンクL10)としてもよい。また、拡張された速度区間を、第1位置(道路リンクL2)と先の位置(道路リンクL10)との間としてもよい。
以上の取得部21の機能により、プローブ情報に基づいて道路リンクL1〜L10それぞれの旅行速度を取得することが可能となる。なお、この旅行速度の情報を、以下では「速度情報」と呼んで説明する。
【0037】
[3.交通情報推定装置による処理内容]
[3.1 推定処理の概要]
図5は、交通情報推定装置1による交通情報推定方法を示している。まず、前記のように取得部21が取得した速度情報に基づいて、当該取得部21は、第一の中間データベース12aを生成する(ステップS1)。
すなわち、交通情報推定装置1が、プローブ情報、及び、VICS情報を取得可能であれば当該VICS情報を取得すると、図3において説明したように、取得部21が当該VICS情報及び当該プローブ情報から、各道路リンクの速度情報を生成する。
ただし、管理グループG内の全ての道路リンクL1〜L10において、車載装置2を搭載したプローブ車両3が走行しているとは限らないので、ステップS1では、速度情報が取得できる道路リンクは通常、管理グループG内の全道路リンクL1〜L10のうちの一部であり、速度情報が得られない道路リンクがある。
【0038】
また、取得部21のプローブ情報処理部18(図3参照)は、管理グループG内の道路リンクL1〜L10それぞれの速度情報(V1〜V10)を、図6の第一の中間データベース12aの説明図に示しているように、複数のタイムスロットt1〜t20毎に取得し、各速度情報を第一の中間データベース12aに蓄積させる。また、VICS情報を取得した場合は、当該VICS情報に基づく速度情報(U1,U2)を第一の中間データベース12aに蓄積させる。
図6では、t1からt20までのタイムスロットからなり、1タイムスロットはVICS情報の更新周期と同じであり、例えば5分である。プローブ情報処理部18によってタイムスロット毎に取得された速度情報が、当該タイムスロットでの速度情報(実測値)となる。なお、1タイムスロットに同じ道路リンクで複数の速度情報が取得された場合は、その平均値が当該1タイムスロットの速度情報となる。図6では、道路リンクLiの速度情報をVi(i=1〜10)として示している。
【0039】
続いて、推定部11は、図5のステップS1で作成された第一の中間データベース12aの内容に基づいて、速度情報を取得できなかった道路リンク(推定対象道路リンク)についての速度情報を推定するための処理を行う(図5のステップS2)。なお、この推定するための処理には、ステップS2−1〜ステップS2−4が含まれている。この推定するための処理については、後に説明する。
そして、推定対象道路リンクの推定した速度情報を、推定データベース13(図2参照)にセットし、推定データベース13を更新する(ステップS3)。
前記ステップS2により、ステップS1で速度情報が取得できなかった推定対象道路リンクの速度情報(推定値)も得られる。以上より、推定データベース13は、実測値と推定値とが混在したものとなる。
【0040】
以上のステップS1〜ステップS3の処理は、1タイムスロット経過毎に繰り返し実行される。なお、図6の第一の中間データベース12aでは、新しい1タイムスロットでの速度情報が取得されると当該速度情報を次々に追加するようにして更新してもよいが、新しい1タイムスロットでの速度情報が取得されると、この新しい速度情報を追加する代わりに、最も古い1タイムスロットで速度情報を削除して更新してもよい。
【0041】
[3.2 推定するための処理の具体例(その1:第一の実施形態)]
図5のステップS1から再度説明すると、取得部21(図2参照)のプローブ情報処理部18は、タイムスロット毎に(5分毎に)管理グループG内にある道路リンクL1〜L10の交通情報として速度情報を取得する。すなわち、あるタイムスロットにおいて、ある道路リンクに存在しているプローブ車両3の車載装置2がプローブ情報を送信し、路側通信機4が当該プローブ情報を受信し、プローブ情報処理部18がさらに当該プローブ情報を受信した場合、当該プローブ情報処理部18は、このプローブ情報に含まれている情報から、当該道路リンクにおける速度情報を生成する。そして、プローブ情報処理部18は、生成して取得した各速度情報を、第一の中間データベース12a(図6参照)に蓄積する。
【0042】
そして、前記算出部22(図2参照)は、プローブ情報処理部18が取得した速度情報に基づいて、すなわち第一の中間データベース12aの情報に基づいて、管理グループG内の2つで1組の道路リンクの内の一方の道路リンクの交通情報から他方の道路リンクの交通情報を推定するための推定情報として回帰直線を求める(図5のステップS2−1)。
なお、本実施形態(図9)では、管理グループGに含まれている道路リンクは10個である。このため、この10個の道路リンクL1〜L10から、2つで1組とする道路リンクを選択すると、その組み合わせは45通りが考えられる。
【0043】
そこで、このステップS2−1では、前記45通りの組み合わせ毎に、同一のタイムスロットで共に取得できた速度情報の組を抽出する。この具体例を、図6に示している第一の中間データベース12aを参照しながら、図7により説明する。なお、図6及び図7では、道路リンクLiの速度情報をVi(i=1〜10)として示している。
図7には、前記45通りの組み合わせの内の、代表として、道路リンクL1とL2との組、道路リンクL1とL3との組、道路リンクL2とL3との組、道路リンクL3とL4との組、及び、道路リンクL4とL5との組を示している。例えば、道路リンクL1とL2との組み合わせでは、20のタイムスロットの中から6個のデータ組が抽出され、道路リンクL1とL3との組み合わせでは、20のタイムスロットの中から8個のデータ組が抽出される。
【0044】
なお、プローブ情報は常に取得されるものではないため、図6に示しているように、一つのタイムスロットで、全ての道路リンクL1〜L10の速度情報が取得できるとは限らない。このため、一つのタイムスロットで、プローブ情報から速度情報を取得できた道路リンクは、全数の10よりも少なく、図6には空欄が存在している。
【0045】
このようにして、45通りの組み合わせ毎の速度情報についてのデータ組が抽出されると、このステップS2−1では、さらに、前記算出部22(図2参照)によって、回帰直線を求める(ステップS2−1)。
なお、前記のとおり、10個の道路リンクL1〜L10から、2つで1組とする道路リンクを選択すると、その組み合わせは45通りであり、この場合、45通りの前記回帰直線を求めることが考えられるが、例えば、2つ道路リンクL1,L2の内の一方の道路リンクL1の交通情報から他方の道路リンクL2の交通情報を推定するために用いられる回帰直線と、これとは反対に、他方の道路リンクL2の交通情報から一方の道路リンクL1の交通情報を推定するために用いられる回帰直線とは、異なる。このため、回帰直線を求めるための道路リンクの組み合わせは全部で90(45×2)通りとなり、90通りの組み合わせ毎の回帰直線を求める必要がある。
【0046】
前記回帰直線は、組み合わせ毎に抽出された前記データ組(例えば、図7において、道路リンクL1と道路リンクL2との組み合わせの場合、実測値である6個のデータ組)に基づいて、最小自乗法により次のようにして求められる。
【0047】
道路リンクLaと道路リンクLbとの組み合わせについて、図10により説明する。図10(A)において、道路リンクLaの速度情報(実測値)をx[km/h]とし、道路リンクLbの速度情報(実測値)をy[km/h]とする。速度情報(xi、yi)として、第一の中間データベース12aからデータ組として(x1、yi)、(x2、y2)、(x3、y3)のn=3個のデータが抽出できたとする。
この場合、分散Sx2は、図10(B)の式(1)により表され、共分散Sxy2は、式(2)により表される。
【0048】
そして、道路リンクLaの速度情報x[km/h]から、道路リンクLbの速度情報y[km/h]を求める場合の回帰直線Yは、図11(A)の式(3)によって表される。
一方、道路リンクLbの速度情報y[km/h]から、道路リンクLaの速度情報x[km/h]を求める場合の回帰直線Xは、図11(B)の式(4)によって表される。
なお、この場合の相関係数rxyは、図11(A)の式(5)及び図11(B)の式(6)によって表される。
以上の算出部22の処理により、管理グループG内の道路リンク間の回帰直線Y及び回帰直線Xが求められ(90通り)、これら回帰直線Y,Xの情報(回帰直線Y,Xを特定する情報、例えば傾き及び切片)は、前記第二の中間データベース12b(図2参照)に蓄積される。
【0049】
さらに、前記算出部22は、90通りの組み合わせ毎の回帰直線Y,Xを求めると、管理グループG内の2つで1組の道路リンクそれぞれの速度情報同士についての相関として前記回帰直線Y,Xの寄与度(寄与率又は決定係数ともいう)についても、組み合わせ毎に求める(図5のステップS2−2)。
前記回帰直線Yの寄与度R2は、図11(A)の式(7)によって表され、前記回帰直線Xの寄与度R2は、図11(B)の式(8)によって表される。寄与度は、一般的に、(目的変数の予測値の分散)/(目標変数の実測値の分散)の式によって求められる。
【0050】
以上の算出部22による演算が、90通りの全組み合わせについて実行され、求められた寄与度は、前記回帰直線Y,Xの情報(図8では図示せず)と共に、図8に示しているように第二の中間データベース12bに蓄積される。なお、図8では、この寄与度R2に関する行列の他に、後に説明するが、VICS情報から得られた道路リンクの速度情報(U1,U2)についての回帰直線の寄与度についても、蓄積されている場合を示している。
【0051】
そして、前記選定部23(図2参照)は、前記相関が所定レベル以上認められる道路リンクを選定グループとして選定する。すなわち、選定部23は、この第二の中間データベース12bを参照して、回帰直線の寄与度が所定レベル(閾値α)に達している道路リンクを、管理グループGの中から選定グループとして選定する処理を行う(図5のステップS2−3)。
【0052】
具体的に説明すると、前記閾値αは交通情報推定装置1に設定されている値であり、例えば0.8とする。そして、推定部11が推定対象道路リンクの速度情報を推定するために、例えば、交通情報推定装置1において、前記関連道路リンクとして道路リンクL2と道路リンクL8との速度情報(プローブ情報)が実測値として取得されたとすると、選定部23は、速度情報を取得できた前記道路リンク(関連道路リンク)L2との関係において、すなわち図8の道路リンクL2の速度情報を意味するV2行で、寄与度が閾値α=0.8以上となっている道路リンクL1,L3,L4を、道路リンクL2を含めて第一の選定グループg1として選定する。すなわち、第一の選定グループg1は、道路リンクL1,L2,L3,L4となる。
さらに、選定部23は、速度情報を取得できた前記道路リンク(関連道路リンク)L8との関係において、すなわち図8の道路リンクL8の速度情報を意味するV8行で、寄与度が閾値α=0.8以上となっている道路リンクL9を、道路リンクL8を含めて第二の選定グループg2として選定する。
【0053】
そして、前記関連道路リンクとして道路リンクL2の速度情報V2が実測値として取得されていることから、推定部11は、当該道路リンクL2を含む前記第一の選択グループg1内の残りとなる道路リンクL1,L3,L4(推定対象道路リンク)の速度情報V1,V3,V4を、道路リンクL2の速度情報V2と道路リンクL1,L3,L4の速度情報V1,V3,V4とに関する各回帰直線に基づいて推定する。
また、前記関連道路リンクとして道路リンクL8の速度情報V8が実測値として取得されていることから、推定部11は、当該道路リンクL8を含む前記第二の選択グループg2内の残りとなる道路リンクL9(推定対象道路リンク)の速度情報V9を、道路リンクL8の速度情報V8と道路リンクL9の速度情報V9とに関する各回帰直線に基づいて推定する(ステップS2−4)。
なお、前記各回帰直線は、前記ステップS2−1で求められており、その情報は寄与度と共に(当該寄与度と対応付けられて)前記第二の中間データベース12bに蓄積されている。
【0054】
以上のように、前記選定部23は、関連道路リンク(L2及びL8)の速度情報との関係において、寄与度が所定レベルに達している(前記閾値α=0.8以上となる)相関にある道路リンク(L1,L3,L4及びL9)を管理グループGの中から選定グループ(g1及びg2)として選定しているので、当該関連道路リンク(L2及びL8)の速度情報(V2及びV8)と、選定グループ(g1及びg2)に含まれている道路リンク(L1,L3,L4及びL9)の速度情報(V1,V3,V4及びV9)とに関する回帰直線の寄与度は、前記所定レベル(0.8以上)に達していると言える。
【0055】
したがって、前記関連道路リンク(L2及びL8)の速度情報(V2及びV8)が取得されると、推定部11は、当該関連道路リンク(L2及びL8)の速度情報(V2及びV8)と、前記選択グループ(g1及びg2)に含まれていて寄与度が所定レベル(0.8以上)に達している道路リンク(L1,L3,L4及びL9)の速度情報(V1,V3,V4及びV9)とについての回帰直線に基づいて、道路リンク(L1,L3,L4及びL9)の道路情報(V1,V3,V4及びV9)の推定を行うことができると共に、その推定される道路リンクの速度情報の信頼性は高い。
【0056】
そして、前記取得部21(プローブ情報処理部18)によってプローブ情報から取得された実測値である前記関連道路リンク(L2及びL8)の速度情報(V2及びV8)と、この速度情報に基づいて推定された推定対象道路リンク(L1,L3,L4及びL9)の速度情報(V1,V3,V4及びV9)とが、推定データベース13に新たに蓄積され、更新される(図5のステップS3)。なお、新たに推定されていない道路リンク(L5,L6,L7,L10)の速度情報(V5,V6,V7,V10)については、更新が行われなくてよい。
以上より、推定データベース13の速度情報は、実測値と推定値とが混在したものとなるが、推定値は前記のとおり信頼性が高いため、この推定データベース13の情報を交通情報システムに用いることで、現在の交通状態の把握や、将来の交通状態の予測が可能となり、しかもその精度を高めることが可能となる。
【0057】
また、前記実施形態では、前記推定対象道路リンクの速度情報の推定には、プローブ車両より送信されたプローブ情報に基づく速度情報のみが用いられている。
すなわち、前記回帰直線は、プローブ車両3より送信されたプローブ情報から得た速度情報(プローブ交通情報)に基づいて求められている。そして、推定部11が、推定対象道路リンクの交通情報の推定を行うために、取得された前記関連道路リンクの速度情報は、プローブ車両3より送信されたプローブ情報から得た速度情報(プローブ交通情報)に基づくものである。
【0058】
このように、回帰直線及び寄与度を求める処理及び推定処理は、プローブ車両3より送信されたプローブ情報から得た速度情報のみによって実行されているため、道路に設置された前記路側センサ5(図1参照)が用いられて収集した定点観測情報(すなわちVICS情報)を取得することができない場合であっても、推定対象道路リンクの交通情報の推定が可能となっている。
【0059】
しかし、図2及び図3に示している入力情報処理部16の取得部21は、プローブ情報処理部18の他にVICS情報処理部17も有していて、管理グループG内の道路リンクのいずれかに道路センサ5が設置されている場合、プローブ情報処理部18によって、プローブ車両3より送信されたプローブ情報から得た速度情報(プローブ交通情報)が取得できる他に、VICS情報処理部17によれば、VICS情報から得た速度情報(定点交通情報)も取得可能となる。なお、VICS情報から得た速度情報(U1,U2)は、図6で示しているプローブ情報から得た速度情報(V1〜V10)の場合と同様に、第一の中間データベース12aに蓄積させる。
【0060】
そして、この場合、前記算出部22は、この第一の中間データベース12aに蓄積されている前記プローブ交通情報に基づいて、前記説明と同様にして、回帰直線及び当該回帰直線の寄与度を求める処理を行い、また、前記定点交通情報に基づいて、前記説明と同様にして、回帰直線及び当該回帰直線の寄与度を求める処理を行う。そして、この寄与度を、第二の中間データベース12b(図8参照)に蓄積させる。なお、図8では、VICS情報から得た道路リンクの速度情報についての寄与度は、U1行とU2行とに表されている。
【0061】
そして、この場合、推定部11は、プローブ交通情報による相関と、定点交通情報による相関とを比較して、相関が高い方(相関が強い方)の回帰直線に基づいて推定を行う。すなわち、プローブ交通情報による寄与度と、定点交通情報による寄与度とを比較して、高い方の寄与度を有する回帰直線に基づいて推定処理が行われる。
具体的に説明すると、第一の地点に設置された路側センサ5から、VICS情報が取得されると、VICS情報処理部17によって当該VICS情報から定点交通情報が得られる。そして、この定点交通情報に基づいて対応道路リンクと、各道路リンクとの回帰直線及びその寄与度が求められる。
【0062】
そして、この寄与度を示しているU1行において、寄与度が前記閾値α(0.8)以上である道路リンクの速度情報は、道路リンクL1の速度情報V1である。そこで、前記第一の地点の路側センサ5によって定点交通情報が取得されると、推定部11は、当該定点交通情報と前記回帰直線とに基づいて、道路リンクL1の速度情報V1を推定可能となる。
【0063】
しかし、この場合の寄与度は0.92である。これに対し、既に説明したように、道路リンクL2の速度情報(プローブ情報)が実測値として取得された場合では、当該道路リンクL2との関係において、道路リンクL1の速度情報V1を推定するための回帰直線の寄与度は0.98である。
そこで、推定部11は、高い方の寄与度を有する回帰直線に基づいて、道路リンクL1の速度情報V1を推定する処理を行う。すなわち、プローブ情報から得た速度情報と、当該プローブ情報から得た回帰直線とに基づいて推定処理を行い、VICS情報に基づいて推定処理は行わない。
【0064】
一方、第二の地点に設置された路側センサ5から、VICS情報が取得されると、VICS情報処理部17によって当該VICS情報から定点交通情報が得られる。そして、この定点交通情報に基づいて対応道路リンクと、各道路リンクとの回帰直線及びその寄与度が求められる。
そして、この寄与度を示しているU2行において、寄与度が前記閾値α(0.8)以上である道路リンクの速度情報は、道路リンクL4の速度情報V4である。そこで、前記第二の地点の路側センサ5によって定点交通情報が取得されると、推定部11は、当該定点交通情報と前記回帰直線とに基づいて、道路リンクL4の速度情報V4を推定可能となる。
【0065】
この場合の寄与度は、0.91である。これに対し、既に説明したように、道路リンクL2の速度情報(プローブ情報)が実測値として取得された場合では、当該道路リンクL2との関係において、道路リンクL4の速度情報V4を推定するための回帰直線の寄与度は0.86である。
したがって、推定部11は、高い方の寄与度を有する回帰直線に基づいて、道路リンクL4の速度情報V4を推定する処理を行う。すなわち、VICS情報からえた速度情報と、当該VICS情報から得た回帰直線とに基づいて推定処理を行い、プローブ情報に基づいて推定処理は行わない。
【0066】
このように、プローブ情報から得た速度情報(プローブ交通情報)の他に、VICS情報から得た速度情報(定点交通情報)を取得できた場合、推定部11は、プローブ交通情報による寄与度と定点交通情報による寄与度とを比較して、寄与度が高い方の回帰直線に基づいて推定処理を行う。このため、推定される道路情報の信頼性をより一層高くすることができる。
【0067】
以上より、前記閾値αが0.8に設定されている場合、管理グループG内にある道路リンクの数は10個であるのに対し、推定部11によって推定することができた道路リンクは、L1,L3,L4,L9の4個である。また、プローブ情報(実測値)が得られた関連道路リンクは2個である。したがって、管理グループGに存在している全ての道路リンクL1〜L10の内の、実測と推定とによって速度情報が求められた道路リンクの総数nは6個(n=6)であり、全体(N=10)の60%となる。この60%の値(n/N)はカバー率Fと呼ぶ。
【0068】
前記カバー率Fと選定グループの数Kとの比F/Kは、推定部11によって速度情報が推定される推定対象道路リンクの数に関する指標として用いることができる。カバー率Fが大きくても、選定グループの数Kが多いと、比F/Kは小さくなり、この場合では、前記カバー率Fを達成するために必要となる関連道路リンクの速度情報の数が、多くなることを意味している。逆に、選定グループの数Kが少ないと、比F/Kは大きくなり、この場合では、前記カバー率Fを達成するために必要となる関連道路リンクの速度情報の数は、少なくて済むということを意味している。
すなわち、比F/Kは、推定グループの数Kと同数の速度情報(プローブ情報)が実測値として道路リンクから取得された場合、前記カバー率Fを達成することができる確率を意味している。
前記の場合、カバー率Fは60%(0.6)であり、選定グループ数Kは2であるため、前記確率を意味する比F/Kは0.3となる。この比F/Kが高い程、効率よく道路リンクの速度情報の推定が可能となると言える。
【0069】
そこで、本発明の交通情報推定装置1では、推定部11によって速度情報が推定される推定対象道路リンクの数に関する指標としての前記確率(比F/K)に応じて、前記調整部24(図2参照)が、前記閾値αを調整することができる。すなわち、調整部24は、前記確率が、交通情報推定装置1に設定されている判定値と比較して、小さい場合、当該調整部24は、前記閾値αを小さくするように変更する。また、比較の結果大きい場合、調整部24は、前記閾値αを大きくするように変更してもよい。なお、この具体例は、後に説明する。
また、調整部24によって、指標としての前記確率(比F/K)に応じて閾値αを低下させる場合の他に、指標を選定グループの数Kとして、当該数Kが判定値以下となるまで閾値αを低下させてもよく、又は、指標を前記カバー率Fとして、当該カバー率Fが判定値以下となるまで閾値αを低下させてもよい。
【0070】
[3.3 推定するための処理の具体例(その2)]
交通情報推定装置1による推定処理の他の形態(第二の実施形態)を説明する。この第二の実施形態においても、交通情報推定装置1の構成は前記第一の実施形態と同じであるが、この形態では、第二の中間データベース12bの作成方法が少し異なる。図12は、第二の中間データベース12bの説明図である。第二の実施形態では、この第二の中間データベース12bを生成するために、図13に示している元の寄与度行列情報12cを生成する。図12、図13において、異なる道路リンクに対する「−」はプローブ情報が同時に取得されなかったことを示す。
【0071】
先ず、前記取得部21(図2参照)により、第一の中間データベース12aへ速度情報を蓄積させる。そして、前記算出部22(図2参照)は、この第一の中間データベース12aの情報に基づいて、管理グループG内の2つで1組の道路リンクそれぞれの速度情報同士の回帰直線及び寄与度(元の寄与度)を、90通りの組み合わせ毎に求める。これらの方法は、前記第一の実施形態と同じである。この結果が、図13に示している元の寄与度行列情報となる。
【0072】
そして、この第二の実施形態では、算出部22は転置行列の平均を求める。例えば、V5行−V1列にある寄与度(0.33)と、V1行−V5列にある寄与度(0.23)との平均を求める〔(0.33+0.22)/2=0.28〕。この平均値(0.28)が、道路リンクL1と道路リンクL5との回帰直線の真の寄与度となり、残りの各組み合わせについても同様に求める。この結果(真の寄与度)を、第二の中間データベース12bに蓄積させる(図12参照)。
なお、この第二の中間データベース12bには、前記第一の実施形態と同様に、二つの道路リンクの組み合わせ毎の回帰直線についての情報も蓄積されている。
【0073】
そして、前記選定部23(図2参照)は、相関が所定レベル以上認められる道路リンクを選定グループとして選定する。すなわち、第二の中間データベース12bを参照して、前記寄与度が閾値α以上となる回帰直線を有する関係にある道路リンクを、管理グループGの中から選定グループとして選定する処理を行う。
【0074】
前記閾値αは交通情報推定装置1に設定されている値であり、例えば0.99とする。この場合、図12によれば、寄与度が0.99以上となる組み合わせは、道路リンクL1の速度情報V1と道路リンクL2の速度情報V2との組み合わせ、及び、道路リンクL2速度情報V2と道路リンクL3の速度情報V3との組み合わせである。
そこで、寄与度が閾値α(0.99)に達している回帰直線を有する関係にある道路リンクは、L1とL2との組み合わせと、L2とL3との組み合わせとなり、これら道路リンクL1,L2,L3を、選定グループとして選定する。なお、このグループ化の処理については、寄与度が閾値αに達している回帰直線を有する関係にある2つの道路リンク(L1とL2)の内の少なくとも一方(L2)との関係において、寄与度が閾値αに達している回帰直線を有する道路リンク(L3)も、同じグループとして選定される。
すなわち、道路リンクL1,V2,V3間では、速度情報の相関が強いため(寄与度が0.99以上であるため)一つの選定グループg1として、選定部23は選定する。
【0075】
この場合、前記選定グループg1には、道路リンクL1,V2,V3が含まれていて、この内の、関連道路リンクとして選定グループg1の内の一つである道路リンクL1の速度情報(プローブ情報)が実測値V1として取得されると、当該速度情報V1と、前記選択グループg1に含まれている残りの道路リンクL2,L3の速度情報V2,V3との、各回帰直線に基づいて、推定対象道路リンクの道路情報として、道路リンクL2,L3の速度情報V2,V3の推定を行う。
【0076】
このように前記閾値αが0.99に設定されている場合、管理グループG内にある道路リンクの数は10個であるのに対し、推定部11によって推定することができた道路リンクは、L2,L3の2個である。また、プローブ情報(実測値)が得られた関連道路リンクは1個である。したがって、管理グループGに存在している全ての道路リンクL1〜L10の内の、実測と推定とによって速度情報が求められた道路リンクの総数nは3個(n=3)であり、カバー率F(=n/N)は30%となる。
【0077】
また、前記のとおり、前記カバー率Fと選定グループの数Kとの比F/Kは、推定部11によって速度情報が推定される推定対象道路リンクの数に関する指標であって、推定グループの数Kと同数の速度情報(プローブ情報)が実測値として道路リンクから取得された場合、前記カバー率Fを達成することができる確率を意味している。
前記の場合、カバー率Fは30%(0.3)であり、選定グループ数Kは1であるため、前記確率を意味する比F/Kは0.3となる。この比F/Kが高い程、効率よく道路リンクの速度情報の推定が可能となると言える。
【0078】
そこで、前記調整部24(図2参照)は、前記指標として用いた確率(比F/K)に応じて、前記閾値αを調整する。
具体的には、調整部24は、前記確率(比F/K)と、交通情報推定装置1に設定されている比較値とを比較して、前記比F/Kが小さい場合は、調整部24は、前記閾値αを小さくするように変更する。また、比較の結果大きい場合は、調整部24は、前記閾値αを大きくするように変更する。
【0079】
そこで、調整部24は、比F/Kが小さいと判定した場合、前記閾値αを0.99から0.8に小さくするように調整する。この場合、図12によれば、寄与度が0.8以上となる組み合わせは、道路リンクL1の速度情報V1と道路リンクL2の速度情報V2との組み合わせ、道路リンクL1の速度情報V1と道路リンクL3の速度情報V3との組み合わせ、道路リンクL2の速度情報V2と道路リンクL3の速度情報V3との組み合わせ、道路リンクL2の速度情報V2と道路リンクL4の速度情報V4との組み合わせ、及び、道路リンクL3の速度情報V3と道路リンクL4の速度情報V4との組み合わせであり、これら前記道路リンクL1,L2,L3,L4を、第一の選定グループg1として選定部23は選定する。これら道路リンクL1,L2,L3,L4間では、いずれか2つの組み合わせで速度情報同士の相関が強いため(回帰直線の寄与度が0.8以上であるため)、一つの選定グループg1内にあると言える。
【0080】
また、図12によれば、寄与度が0.8以上となる組み合わせは、道路リンクL5の速度情報V5と道路リンクL6の速度情報V6との組み合わせ、及び、道路リンクL6の速度情報V6と道路リンクL7の速度情報V7との組み合わせがあり、これら前記道路リンクL5,L6,L7を、第二の選定グループg2として選定部23は選定する。
さらに、図12によれば、寄与度が0.8以上となる他の組み合わせは、道路リンクL8の速度情報V8と道路リンクL9の速度情報V9との組み合わせ、及び、道路リンクL9の速度情報V9と道路リンクL10の速度情報V10との組み合わせがあり、これら前記道路リンクL8,L9,L10を、第三の選定グループg3として選定部23は選定する。
【0081】
この場合、前記第一の選定グループg1には、道路リンクL1,L2,L3,L4が含まれていて、この内の、関連道路リンクの速度情報として第一の選定グループg1の内の一つである道路リンクL1の速度情報V1(プローブ情報)が実測値として取得されると、当該速度情報V1と、前記第一の選択グループg1に含まれている残りの道路リンクL2,L3,L4の速度情報V2,V3,V4との、各回帰直線に基づいて、推定対象道路リンクの道路情報として、道路リンクL2,L3,L4の速度情報V2,V3,V4の推定を行う。
同様にして、第二の選定グループg2において、例えば、道路リンクL5の速度情報V5が実測値として取得されると、道路リンクL6,L7の速度情報V6,V7の推定を行う。
さらに同様に、第三の選定グループg3において、例えば、道路リンクL8の速度情報V8が実測値として取得されると、道路リンクL9,L10の速度情報V9,V10の推定を行う。
【0082】
このように前記閾値αを0.8に調整した場合、推定部11によって推定することができた道路リンクは、L2,L3,L4,L6,L7,L9,L10の7個である。また、プローブ情報(実測値)が得られた関連道路リンクは3個である。したがって、管理グループGに存在している全ての道路リンクL1〜L10の内の、実測と推定とによって速度情報が求められた道路リンクの総数nは10個(n=10)であり、カバー率F(=n/N)は100%となる。
【0083】
この場合、前記カバー率Fと選定グループの数Kとの比F/Kは、カバー率Fが100%(1.0)であり、選定グループ数Kが3であるため、比F/Kは0.33となる。この比(F/K)は、閾値αが0.99であった場合(0.3)よりも高くなっている。
【0084】
このように、調整部24によって前記閾値αを低下させる調整を行うことにより、前記確率(推定グループの数Kと同数の速度情報(プローブ情報)が実測値として道路リンクから推定グループそれぞれにおいて一つずつ取得された場合、カバー率Fを達成することができる確率)を高めることができる。この結果、道路情報の推定を効率よく行うことが可能となる。
また、カバー率Fについて見ると、寄与度の閾値αを低くすると、速度情報同士の相関の強さが多少低下するが、推定グループの数が多いことから、速度情報(プローブ情報)を取得することができる機会が少なくても、比較的多くの道路リンクの速度情報を推定することができる。反対に、寄与度の閾値αが高くなると、推定グループの数が減るが、速度情報同士の相関が強くなることから、推定される速度情報の信頼性は高い。
したがって、速度情報(プローブ情報)を取得することができる機会が多い管理グループでは、寄与度の閾値αを高めに設定するのが好ましく、速度情報(プローブ情報))を取得することができる機会が少ない管理グループでは、寄与度の閾値αを低く設定するのが好ましく、速度情報(プローブ情報)の取得可能数の状況に応じて管理グループ毎に閾値αを設定及び調整すればよい。
【0085】
また、この第二の実施形態においても、前記第一の実施形態と同様に、推定部11は、前記プローブ交通情報による相関と、定点交通情報による相関とを比較して、相関が高い方の回帰直線に基づいて推定処理を行ってもよい。
【0086】
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0087】
例えば、推定対象道路リンクの速度情報を推定するために用いられる道路リンク(関連道路リンク)は、推定対象道路リンクに接続されているものに限らず、推定対象道路リンクとは離れているが、速度情報の時間的変化の仕方に関連性があるような道路リンク(例えば、推定対象道路リンクと並行する道路リンク)であってもよい。
【0088】
さらに、本実施形態では、関連道路リンクの速度情報として、時間的に同一のタイムスロット(時間帯)にある速度情報だけを用いたが、異なる時間帯の速度情報を用いてもよい。例えば、推定対象道路リンクから遠く離れた道路リンクの場合、その道路リンクにおける交通状況が、推定対象道路リンクに反映されまでには時間遅れがある。そこで、遠く離れた道路リンクの場合、例えば、1時間前の速度情報を推定に用いることで、より適切な推定が行える。
【0089】
さらに、本実施形態の交通情報推定装置1の推定部11が推定の対象とする交通情報は、速度情報に限らず、これに加えて/代えて、渋滞情報等他の交通情報とすることもできる。また、前記推定情報は回帰直線(線形回帰)以外であってもよく、他の関数(曲線)であってもよい。また、前記相関は回帰直線の寄与度以外の指標であってもよい。
【符号の説明】
【0090】
1:交通情報推定装置、 11:推定部、 21:取得部、 22:算出部、 23:選定部、 24:調整部、 L1〜L10:道路リンク
【技術分野】
【0001】
本発明は、交通情報を推定するための交通情報推定装置、交通情報推定のためのコンピュータプログラム、及び交通情報推定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
道路の交通情報をドライバーに提供する技術として、財団法人道路交通情報通信システムセンターによるVICS(Vehicle Information and Communication System:なお、「VICS」は上記財団法人の登録商標)が広く知られている。
このVICSは、各種の路側センサ(車両感知器やループコイル等)から収集した車両台数や車両速度等よりなる定点観測情報に基づいて、各路線での渋滞やリンク旅行時間を含む交通情報を集計し、その交通情報を、ビーコンによる狭域通信やFM放送等の広域通信によってドライバーに提供するものである。
【0003】
また、道路の交通情報をドライバーに提供する他の技術として、プローブカーを利用した交通情報推定システム(以下、プローブシステムという。)も知られている。
このプローブシステムは、例えば特許文献1および2に示すように、実際に道路を走行する車両(プローブ車両)を移動体センサとして利用するものであり、現時点の車両位置や時刻等のプローブ情報を無線通信によって各プローブ車両から収集し、道路の交通情報を生成するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−151496号公報
【特許文献2】特開2005−4467号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、VICS及びプローブシステムを利用したとしても、VICS及びプローブシステムのいずれからもデータが得られていない道路リンクについては、交通情報を得ることができない。
【0006】
そこで、本発明は、道路リンクの交通情報に基づいて、交通情報が得られていない他の道路リンクである推定対象道路リンクの交通情報を推定するための新たな技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明は、道路リンクの交通情報に基づいて、他の道路リンクの交通情報を推定する推定部を備えた交通情報推定装置であって、複数の道路リンクの交通情報を取得する取得部と、前記取得部が取得した前記交通情報に基づいて、一つの道路リンクの交通情報から他の道路リンクの交通情報を推定するための推定情報、及び、前記道路リンクそれぞれの交通情報同士の相関を求める算出部と、前記相関が所定レベル以上認められる道路リンクを選定グループとして選定する選定部とを備え、前記推定部は、道路リンクの交通情報が取得されると、当該道路リンクを含む前記選択グループ内にある他の道路リンクの交通情報を、前記推定情報に基づいて推定することを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、選定部は、道路リンクそれぞれの交通情報同士の相関が所定レベル以上認められる道路リンクを選定グループとして選定するので、当該選定グループに含まれている道路リンクの交通情報同士の相関は高いと言える。
したがって、ある道路リンクの交通情報が取得されると、推定部が、当該道路リンクを含む前記選択グループ内にある他の道路リンクの交通情報を、前記推定情報に基づいて推定するので、推定される他の道路リンクの交通情報の信頼性は高い。
【0009】
(2)また、前記交通情報推定装置において、前記推定情報は、プローブ車両より送信され前記取得部が取得したプローブ情報に基づいて求められ、前記推定部が他の道路リンクの交通情報の推定を行うために、取得される道路リンクの道路情報は、プローブ車両より送信されたプローブ情報に基づくものとすることができる。
この場合、プローブ車両より送信され前記取得部が取得したプローブ情報に基づいて、前記推定情報は求められ、さらに、プローブ車両より送信されたプローブ情報に基づいて、推定部により道路リンクの交通情報の推定が行われる。
このため、例えば、道路に設置された路側センサが用いられて収集した定点観測情報(例えばVICS情報)を取得することができない場合であっても、プローブ車両より送信されたプローブ情報に基づいて、道路リンクの交通情報の推定が可能となる。
【0010】
(3)また、前記取得部は、前記交通情報として、プローブ車両より送信されたプローブ情報から得たプローブ交通情報の他に、道路に設置された路側センサが用いられて収集した定点観測情報から得た定点交通情報を取得可能である場合は、前記算出部は、前記プローブ交通情報及び前記定点交通情報それぞれに基づいて前記推定情報と前記相関とを求め、前記推定部は、前記プローブ交通情報による前記相関と前記定点交通情報による前記相関とを比較して、相関が高い方の推定情報に基づいて前記推定を行う構成とするのが好ましい。
このように、前記プローブ交通情報の他に、前記定点交通情報を取得できた場合、推定部は、プローブ交通情報による相関と定点交通情報による相関とを比較して、相関が高い方の推定情報に基づいて前記推定を行うので、推定される道路情報の信頼性をより一層高くすることができる。
【0011】
(4)また、前記交通情報推定装置は、前記推定部によって交通情報が推定される他の道路リンクの数に関する指標に応じて、前記所定レベルを調整する調整部を更に備えているのが好ましい。
この場合、前記推定部によって交通情報が推定される道路リンクの数を多くしたい場合や、当該数よりも相関のレベル(つまり相関の強さ)を優先させたい場合等の状況に応じて、前記調整部は前記所定レベルを調整することができる。
【0012】
(5)また、本発明は、コンピュータを、前記(1)〜(4)のいずれか一つに記載の交通情報推定装置として機能させるためのコンピュータプログラムである。
【0013】
(6)また、本発明は、道路リンクの交通情報に基づいて、他の道路リンクの交通情報を推定する交通情報推定方法であって、複数の道路リンクの交通情報を取得するステップと、取得した前記交通情報に基づいて、一つの道路リンクの交通情報から他の道路リンクの交通情報を推定するための推定情報、及び、前記道路リンクそれぞれの交通情報同士の相関を求めるステップと、前記相関が所定レベル以上認められる道路リンクを選定グループとして選定するステップと、道路リンクの交通情報が取得されると、当該道路リンクを含む前記選択グループ内にある他の道路リンクの交通情報を、前記推定情報に基づいて推定するステップとを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ある道路リンクの交通情報が取得されると、当該道路リンクを含む選択グループに含まれていて相関が高い関係にある他の道路リンクの交通情報を、推定情報に基づいて推定するので、推定される他の道路リンクの交通情報の信頼性は高くなる。この結果、現在の交通状態の把握、さらには将来の交通状態の予測の精度も高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】交通情報システムの全体構成図である。
【図2】交通情報推定装置の構成図である。
【図3】取得部の機能の一部を説明している説明図である。
【図4】プローブ情報から道路リンクの旅行速度を算出する方法の説明図である。
【図5】交通情報推定装置による交通情報推定方法を示しているフロー図である。
【図6】第一の中間データベースの説明図である。
【図7】第一の中間データベースから1組の道路リンクの速度情報を取り出して説明している説明図である。
【図8】第二の中間データベースの説明図である。
【図9】道路リンクの例を示す図である。
【図10】回帰直線、寄与度等を求める方法を説明する図である。
【図11】回帰直線、寄与度等を求める方法を説明する図である。
【図12】第二の中間データベースの説明図である。
【図13】寄与度行列情報の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
[1.全体構成]
図1は、本発明の交通情報推定装置1を含む交通情報システムを示している。この交通情報システムは、交通情報推定装置1のほか、車載装置2を搭載したプローブ車両3、車載装置2と無線通信する路側通信機4、路側センサ5及びVICSセンター6を含む。
【0017】
前記交通情報推定装置1は、例えば交通情報システムが備えている中央制御装置の様々な機能のうちの一機能を指しており、交通情報推定装置1は、VICS情報及びプローブ情報等の交通情報(観測情報)を取得し、車両に提供するための提供用の交通情報を生成する機能を有している。なお、交通情報推定装置1は、交通情報に基づいて、信号機制御や交通管制等の各種の交通用処理を行ってもよい。
【0018】
交通情報推定装置1は、処理装置及び記憶装置を有するコンピュータによって構成することができる。記憶装置には、コンピュータを、以下の交通情報推定装置1として機能させるためのコンピュータプログラムが記憶されている。このコンピュータプログラムは、前記処理装置によって実行され、前記処理装置が前記記憶装置等に対し入出力を行うことで、交通情報推定装置1としての機能を実現する。なお、以下に説明する交通情報推定装置1が備えている各機能部である後述の推定部11及び入力情報処理部16(取得部21、算出部22、選定部23、調整部24(図2参照))は、特に断らない限り、前記コンピュータプログラムによって実現されるものである。
【0019】
図1において、前記車載装置2は、プローブ車両3の観測情報としてプローブ情報を生成し、路側通信機4に無線送信する。プローブ情報は、プローブ車両3の位置、当該位置の通過速度及びプローブ車両3の車両ID等を含む交通情報である。なお、プローブ車両3の位置は、車載装置2が有するGPS受信機によって受信したGPS信号に基づいて算出され、プローブ車両3の速度は車載の速度センサによって算出される。
【0020】
前記路側通信機4は、車載装置2との間で無線通信によって情報の送受信を行う。具体的には、路側通信機4は、車載装置2が送信した観測情報としてのプローブ情報を受信し、交通情報推定装置1に転送する。また、路側通信機4は、交通情報推定装置1から、車両への提供用の交通情報を取得し、その交通情報を車載装置2に送信することができる。なお、路側通信機4と交通情報推定装置1との間は、通信回線によって接続されている。
【0021】
前記路側センサ5は、例えば、直下を通行する車両を超音波感知する車両感知器や、インダクタンス変化で車両を感知するループコイル、或いは、カメラの映像を画像処理して交通量や車両速度を計測する画像感知器よりなる。路側センサ5は、観測情報として交差点に流入する車両台数や車両速度等を計測することができ、このような観測情報を取得する目的で、高速道路や主要な幹線道路等に設置されている。
【0022】
そして、路側センサ5によって取得された観測情報は、通信回線を介して、VICSセンター6のサーバに送信され、このサーバでは、路側センサ5の観測情報に基づいて、VICS情報を生成する。このVICS情報は、通信回線を介して、交通情報推定装置1に送信される。
【0023】
交通情報推定装置1に送信されるVICS情報は、各道路リンクでの渋滞状況やリンク旅行時間を含む交通情報である。VICS情報は、路側センサ5から5分ごとに観測情報が取得される都度、情報更新されるため、時間的に高密度な情報が得られる。しかし、路側センサ5はすべての道路に設置されているわけではなく(主要道路でも20%以下)、エリアカバー率が低い。
一方、前記プローブ情報は、道路を走行するプローブ車両3から取得するため、エリアカバー率を高くすることが可能である。ただし、プローブ車両3となるための車載装置2の普及率がまだ低いため、時間的に低密度のデータしか得られない。
【0024】
本実施形態の交通情報システムでは、所定エリア内の道路に複数の道路リンクL1〜L10が設定されており(図9参照)、これら複数の道路リンクL1〜L10が一つの管理グループGとして管理されている。この場合、前記管理グループGに含まれている複数の道路リンクL1〜L10の内の、路側センサ5が設置されていてVICS情報が得られる道路リンクについては、VICS情報の更新単位時間ごとに常に交通情報(VICS情報)が得られる。一方、路側センサ5が設置されておらず、VICS情報が得られない道路リンクについては、VICS情報の更新単位時間ごとにみると、プローブ情報が交通情報として得られる道路リンクと、プローブ情報も得られない道路リンクとが混在することになる。
【0025】
[2.交通情報推定装置の詳細]
本実施形態に係る交通情報推定装置1は、VICS情報もプローブ情報も得られない道路リンクの交通情報を推定して、当該道路リンクの交通情報を補完することで、所定エリア内(前記管理グループG内)の全道路リンクL1〜L10の交通情報を取得する。このように、VICS情報もプローブ情報も得られない道路リンクの交通情報を補完することで、より精度が高い交通情報を車両(ナビゲーションシステム)に提供したり、精度良く交通管制を行ったりすることが可能となる。
なお、以下では、VICS情報もプローブ情報も得られず交通情報を推定して補完する道路リンクを、「推定対象道路リンク」という。
【0026】
図2の構成図において、交通情報推定装置1は、前記管理グループG内にある推定対象道路リンクの交通情報を推定する推定部11と、この推定を行うために前記管理グループG内の道路リンクL1〜L10の交通情報等を蓄積する第一の中間データベース12a及び第二の中間データベース12bと、推定部11によって推定した交通情報等を蓄積するための推定データベース(交通情報データベース)13とを備えている。
前記推定部11は、後にも説明するが、管理グループG内にある推定対象道路リンクの交通情報を、当該管理グループG内にあって交通情報を取得できた道路リンク(関連道路リンク)の当該交通情報に基づいて推定する。
【0027】
また、交通情報推定装置1は、前記コンピュータプログラムによって実現される機能部として、当該交通情報推定装置1が取得したVICS情報及びプローブ情報(以下、両情報を総称する場合、「入力情報」という)に対する処理を行う入力情報処理部16を備えている。
入力情報処理部16は、取得部21、算出部22、選定部23及び調整部24を備えている。これらの各機能の詳細については、後に説明するが、取得部21は、管理グループG内にある複数の道路リンクL1〜L10の交通情報を、前記入力情報に基づいて取得することができる。そして、算出部22は、取得部21が取得した交通情報に基づいて、管理グループG内の一つの道路リンクの交通情報から他の道路リンクの交通情報を推定するための推定情報としての回帰直線、及び、管理グループG内の複数の道路リンクそれぞれの交通情報同士の相関(相関の強さ)を求める。なお、この相関は、以下の実施形態では回帰直線の寄与度である。選定部23は、所定の道路リンクを管理グループGの中から選定グループとして選定する。そして、調整部24は、推定部11によって交通情報が推定される推定対象道路リンクの数に関する指標に応じて、後述の閾値αを調整する機能を有している。
【0028】
前記取得部21が有する機能の一部を説明する。取得部21は、前記入力情報から、各道路リンクの「旅行速度」を生成する処理を行う。生成した「旅行速度」は、第一の中間データベース12aに与えられる。図3は、取得部21のこの機能を説明している説明図である。
【0029】
取得部21は、取得したVICS情報から「旅行速度」を生成するVICS情報処理部17と、取得したプローブ情報から「旅行速度」を生成するプローブ情報処理部18とを備えている。
VICS情報処理部17は、ある道路リンクに関して得られたVICS情報に含まれるリンク旅行時間から、当該道路リンクの旅行速度を算出する。すなわち、旅行速度を算出しようとする道路リンクのリンク長を、当該道路リンクのリンク旅行時間で除することで、旅行速度[km/h]を算出する。なお、管理グループG内の全道路リンクL1〜L10のリンク長は、予め、交通情報推定装置1に設定されている。
【0030】
プローブ情報処理部18は、ある道路リンクにおいて得られたプローブ情報に含まれる位置及び時刻に基づいて、当該道路リンクの旅行速度[km/h]を算出する。図4は、プローブ情報から道路リンクの旅行速度[km/h]を算出する方法を示している。
図4に示すように、L1〜L4及びL10までの5個の連続した道路リンクが存在する場合において、道路リンクL3の図右方(矢印A方向)への旅行速度を算出するためには、プローブ車両3が、進行方向一つ手前の道路リンクL2(第1位置)に位置している間に送信した第1プローブ情報pr1と、当該プローブ車両3が移動して進行方向一つ先の道路リンクL4(第2位置)に位置している間に送信した第2プローブ情報pr2とを用いる。
【0031】
第1プローブ情報pr1が示す位置及び第2プローブ情報pr2が示す位置によって、第1プローブ情報pr1を発信した第1位置と第2プローブ情報pr2を発信した第2位置との間の距離Dが求まる。また、第1プローブ情報pr1が示す時刻及び第2プローブ情報pr2が示す時刻によって、第1位置から第2位置まで移動するのに要した時間Tが求まる。前記距離Dを前記時間Tで除することにより、第1位置から第2位置までの間の区間(通常の速度算出区間)の旅行速度が求まる。通常は、この旅行速度を、第1位置と第2位置との間にある道路リンクL3におけるリンク旅行速度とみなす。
【0032】
ただし、第1位置と第2位置との間の距離D(通常の速度算出区間の距離)が、設定された最小距離(例えば、1km)以下である場合には、速度算出区間が長くなるように、道路リンクL3のリンク旅行速度の算出に用いるプローブ情報として別のものを選択する。具体的には、通常の速度算出区間の距離Dが最小距離以下である場合、プローブ情報処理部18は、車両3が、車両進行方向にみてさらに一つ手前の道路リンクL1(手前位置)に位置するときに送信されたプローブ情報pr0と、道路リンクL4に位置するときに送信されたプローブ情報pr2とを用いることができる。これにより、手前位置から第2位置までの間の拡張された速度算出区間についての旅行速度が求まり、この旅行速度を、手前位置から第2位置までの間にある道路リンクL3のリンク旅行速度とみなす。
【0033】
通常の速度算出区間の距離Dが短い場合に、拡張された速度算出区間を用いる理由は次の通りである。すなわち、速度算出区間が短いと、速度算出区間を移動するのに要する時間は、交通信号による停止時間による影響を大きく受ける。つまり、速度算出区間を通過するのに要する時間が、例えば、2分であるとしても、車両が実際に走行していた時間は1分で、残りの1分は信号による待ち時間ということが生じ得る。一方、同じ速度算出区間を通過する別の車両は、信号による停止がなく、速度算出区間を通過するのに要する時間が1分ということがありえる。このように、速度算出区間が短いと、信号待ちの影響による誤差が大きくなり、正確な速度算出が困難となる。
【0034】
逆に、十分に距離が長く、多くの交通信号(交差点)を通過する必要があるような速度算出区間である場合には、確率上、いずれかの交通信号による待ち時間が、ほぼ全ての車両に均等に生じるため、信号待ちの影響による誤差は小さい。
【0035】
そこで、本実施形態のように、通常の速度算出区間の距離Dが短い場合には、拡張された速度算出区間で速度を算出することで、速度をより精度良く算出することができる。
なお、通常の速度算出区間の距離Dが短い場合であっても、車両台数が多い(例えば、10台以上)の場合には、速度算出区間を通過するのに要する時間を複数の車両からのプローブ情報で平均化することにより、誤差を小さくできる。したがって、通常の速度算出区間の距離Dが、設定された最小距離以下であり、かつ、単位時間あたりのプローブ車両の数(プローブ情報の数)が設定された最小数以下である場合に限って、拡張された速度算出区間での速度算出をおこなってもよい。
【0036】
なお、上記の例では、拡張された速度区間として、手前位置(道路リンクL1)から第2位置(道路リンクL4)までとしたが、この第2位置に代えて、第2位置よりも進行方向にみてさらに先の位置(道路リンクL10)としてもよい。また、拡張された速度区間を、第1位置(道路リンクL2)と先の位置(道路リンクL10)との間としてもよい。
以上の取得部21の機能により、プローブ情報に基づいて道路リンクL1〜L10それぞれの旅行速度を取得することが可能となる。なお、この旅行速度の情報を、以下では「速度情報」と呼んで説明する。
【0037】
[3.交通情報推定装置による処理内容]
[3.1 推定処理の概要]
図5は、交通情報推定装置1による交通情報推定方法を示している。まず、前記のように取得部21が取得した速度情報に基づいて、当該取得部21は、第一の中間データベース12aを生成する(ステップS1)。
すなわち、交通情報推定装置1が、プローブ情報、及び、VICS情報を取得可能であれば当該VICS情報を取得すると、図3において説明したように、取得部21が当該VICS情報及び当該プローブ情報から、各道路リンクの速度情報を生成する。
ただし、管理グループG内の全ての道路リンクL1〜L10において、車載装置2を搭載したプローブ車両3が走行しているとは限らないので、ステップS1では、速度情報が取得できる道路リンクは通常、管理グループG内の全道路リンクL1〜L10のうちの一部であり、速度情報が得られない道路リンクがある。
【0038】
また、取得部21のプローブ情報処理部18(図3参照)は、管理グループG内の道路リンクL1〜L10それぞれの速度情報(V1〜V10)を、図6の第一の中間データベース12aの説明図に示しているように、複数のタイムスロットt1〜t20毎に取得し、各速度情報を第一の中間データベース12aに蓄積させる。また、VICS情報を取得した場合は、当該VICS情報に基づく速度情報(U1,U2)を第一の中間データベース12aに蓄積させる。
図6では、t1からt20までのタイムスロットからなり、1タイムスロットはVICS情報の更新周期と同じであり、例えば5分である。プローブ情報処理部18によってタイムスロット毎に取得された速度情報が、当該タイムスロットでの速度情報(実測値)となる。なお、1タイムスロットに同じ道路リンクで複数の速度情報が取得された場合は、その平均値が当該1タイムスロットの速度情報となる。図6では、道路リンクLiの速度情報をVi(i=1〜10)として示している。
【0039】
続いて、推定部11は、図5のステップS1で作成された第一の中間データベース12aの内容に基づいて、速度情報を取得できなかった道路リンク(推定対象道路リンク)についての速度情報を推定するための処理を行う(図5のステップS2)。なお、この推定するための処理には、ステップS2−1〜ステップS2−4が含まれている。この推定するための処理については、後に説明する。
そして、推定対象道路リンクの推定した速度情報を、推定データベース13(図2参照)にセットし、推定データベース13を更新する(ステップS3)。
前記ステップS2により、ステップS1で速度情報が取得できなかった推定対象道路リンクの速度情報(推定値)も得られる。以上より、推定データベース13は、実測値と推定値とが混在したものとなる。
【0040】
以上のステップS1〜ステップS3の処理は、1タイムスロット経過毎に繰り返し実行される。なお、図6の第一の中間データベース12aでは、新しい1タイムスロットでの速度情報が取得されると当該速度情報を次々に追加するようにして更新してもよいが、新しい1タイムスロットでの速度情報が取得されると、この新しい速度情報を追加する代わりに、最も古い1タイムスロットで速度情報を削除して更新してもよい。
【0041】
[3.2 推定するための処理の具体例(その1:第一の実施形態)]
図5のステップS1から再度説明すると、取得部21(図2参照)のプローブ情報処理部18は、タイムスロット毎に(5分毎に)管理グループG内にある道路リンクL1〜L10の交通情報として速度情報を取得する。すなわち、あるタイムスロットにおいて、ある道路リンクに存在しているプローブ車両3の車載装置2がプローブ情報を送信し、路側通信機4が当該プローブ情報を受信し、プローブ情報処理部18がさらに当該プローブ情報を受信した場合、当該プローブ情報処理部18は、このプローブ情報に含まれている情報から、当該道路リンクにおける速度情報を生成する。そして、プローブ情報処理部18は、生成して取得した各速度情報を、第一の中間データベース12a(図6参照)に蓄積する。
【0042】
そして、前記算出部22(図2参照)は、プローブ情報処理部18が取得した速度情報に基づいて、すなわち第一の中間データベース12aの情報に基づいて、管理グループG内の2つで1組の道路リンクの内の一方の道路リンクの交通情報から他方の道路リンクの交通情報を推定するための推定情報として回帰直線を求める(図5のステップS2−1)。
なお、本実施形態(図9)では、管理グループGに含まれている道路リンクは10個である。このため、この10個の道路リンクL1〜L10から、2つで1組とする道路リンクを選択すると、その組み合わせは45通りが考えられる。
【0043】
そこで、このステップS2−1では、前記45通りの組み合わせ毎に、同一のタイムスロットで共に取得できた速度情報の組を抽出する。この具体例を、図6に示している第一の中間データベース12aを参照しながら、図7により説明する。なお、図6及び図7では、道路リンクLiの速度情報をVi(i=1〜10)として示している。
図7には、前記45通りの組み合わせの内の、代表として、道路リンクL1とL2との組、道路リンクL1とL3との組、道路リンクL2とL3との組、道路リンクL3とL4との組、及び、道路リンクL4とL5との組を示している。例えば、道路リンクL1とL2との組み合わせでは、20のタイムスロットの中から6個のデータ組が抽出され、道路リンクL1とL3との組み合わせでは、20のタイムスロットの中から8個のデータ組が抽出される。
【0044】
なお、プローブ情報は常に取得されるものではないため、図6に示しているように、一つのタイムスロットで、全ての道路リンクL1〜L10の速度情報が取得できるとは限らない。このため、一つのタイムスロットで、プローブ情報から速度情報を取得できた道路リンクは、全数の10よりも少なく、図6には空欄が存在している。
【0045】
このようにして、45通りの組み合わせ毎の速度情報についてのデータ組が抽出されると、このステップS2−1では、さらに、前記算出部22(図2参照)によって、回帰直線を求める(ステップS2−1)。
なお、前記のとおり、10個の道路リンクL1〜L10から、2つで1組とする道路リンクを選択すると、その組み合わせは45通りであり、この場合、45通りの前記回帰直線を求めることが考えられるが、例えば、2つ道路リンクL1,L2の内の一方の道路リンクL1の交通情報から他方の道路リンクL2の交通情報を推定するために用いられる回帰直線と、これとは反対に、他方の道路リンクL2の交通情報から一方の道路リンクL1の交通情報を推定するために用いられる回帰直線とは、異なる。このため、回帰直線を求めるための道路リンクの組み合わせは全部で90(45×2)通りとなり、90通りの組み合わせ毎の回帰直線を求める必要がある。
【0046】
前記回帰直線は、組み合わせ毎に抽出された前記データ組(例えば、図7において、道路リンクL1と道路リンクL2との組み合わせの場合、実測値である6個のデータ組)に基づいて、最小自乗法により次のようにして求められる。
【0047】
道路リンクLaと道路リンクLbとの組み合わせについて、図10により説明する。図10(A)において、道路リンクLaの速度情報(実測値)をx[km/h]とし、道路リンクLbの速度情報(実測値)をy[km/h]とする。速度情報(xi、yi)として、第一の中間データベース12aからデータ組として(x1、yi)、(x2、y2)、(x3、y3)のn=3個のデータが抽出できたとする。
この場合、分散Sx2は、図10(B)の式(1)により表され、共分散Sxy2は、式(2)により表される。
【0048】
そして、道路リンクLaの速度情報x[km/h]から、道路リンクLbの速度情報y[km/h]を求める場合の回帰直線Yは、図11(A)の式(3)によって表される。
一方、道路リンクLbの速度情報y[km/h]から、道路リンクLaの速度情報x[km/h]を求める場合の回帰直線Xは、図11(B)の式(4)によって表される。
なお、この場合の相関係数rxyは、図11(A)の式(5)及び図11(B)の式(6)によって表される。
以上の算出部22の処理により、管理グループG内の道路リンク間の回帰直線Y及び回帰直線Xが求められ(90通り)、これら回帰直線Y,Xの情報(回帰直線Y,Xを特定する情報、例えば傾き及び切片)は、前記第二の中間データベース12b(図2参照)に蓄積される。
【0049】
さらに、前記算出部22は、90通りの組み合わせ毎の回帰直線Y,Xを求めると、管理グループG内の2つで1組の道路リンクそれぞれの速度情報同士についての相関として前記回帰直線Y,Xの寄与度(寄与率又は決定係数ともいう)についても、組み合わせ毎に求める(図5のステップS2−2)。
前記回帰直線Yの寄与度R2は、図11(A)の式(7)によって表され、前記回帰直線Xの寄与度R2は、図11(B)の式(8)によって表される。寄与度は、一般的に、(目的変数の予測値の分散)/(目標変数の実測値の分散)の式によって求められる。
【0050】
以上の算出部22による演算が、90通りの全組み合わせについて実行され、求められた寄与度は、前記回帰直線Y,Xの情報(図8では図示せず)と共に、図8に示しているように第二の中間データベース12bに蓄積される。なお、図8では、この寄与度R2に関する行列の他に、後に説明するが、VICS情報から得られた道路リンクの速度情報(U1,U2)についての回帰直線の寄与度についても、蓄積されている場合を示している。
【0051】
そして、前記選定部23(図2参照)は、前記相関が所定レベル以上認められる道路リンクを選定グループとして選定する。すなわち、選定部23は、この第二の中間データベース12bを参照して、回帰直線の寄与度が所定レベル(閾値α)に達している道路リンクを、管理グループGの中から選定グループとして選定する処理を行う(図5のステップS2−3)。
【0052】
具体的に説明すると、前記閾値αは交通情報推定装置1に設定されている値であり、例えば0.8とする。そして、推定部11が推定対象道路リンクの速度情報を推定するために、例えば、交通情報推定装置1において、前記関連道路リンクとして道路リンクL2と道路リンクL8との速度情報(プローブ情報)が実測値として取得されたとすると、選定部23は、速度情報を取得できた前記道路リンク(関連道路リンク)L2との関係において、すなわち図8の道路リンクL2の速度情報を意味するV2行で、寄与度が閾値α=0.8以上となっている道路リンクL1,L3,L4を、道路リンクL2を含めて第一の選定グループg1として選定する。すなわち、第一の選定グループg1は、道路リンクL1,L2,L3,L4となる。
さらに、選定部23は、速度情報を取得できた前記道路リンク(関連道路リンク)L8との関係において、すなわち図8の道路リンクL8の速度情報を意味するV8行で、寄与度が閾値α=0.8以上となっている道路リンクL9を、道路リンクL8を含めて第二の選定グループg2として選定する。
【0053】
そして、前記関連道路リンクとして道路リンクL2の速度情報V2が実測値として取得されていることから、推定部11は、当該道路リンクL2を含む前記第一の選択グループg1内の残りとなる道路リンクL1,L3,L4(推定対象道路リンク)の速度情報V1,V3,V4を、道路リンクL2の速度情報V2と道路リンクL1,L3,L4の速度情報V1,V3,V4とに関する各回帰直線に基づいて推定する。
また、前記関連道路リンクとして道路リンクL8の速度情報V8が実測値として取得されていることから、推定部11は、当該道路リンクL8を含む前記第二の選択グループg2内の残りとなる道路リンクL9(推定対象道路リンク)の速度情報V9を、道路リンクL8の速度情報V8と道路リンクL9の速度情報V9とに関する各回帰直線に基づいて推定する(ステップS2−4)。
なお、前記各回帰直線は、前記ステップS2−1で求められており、その情報は寄与度と共に(当該寄与度と対応付けられて)前記第二の中間データベース12bに蓄積されている。
【0054】
以上のように、前記選定部23は、関連道路リンク(L2及びL8)の速度情報との関係において、寄与度が所定レベルに達している(前記閾値α=0.8以上となる)相関にある道路リンク(L1,L3,L4及びL9)を管理グループGの中から選定グループ(g1及びg2)として選定しているので、当該関連道路リンク(L2及びL8)の速度情報(V2及びV8)と、選定グループ(g1及びg2)に含まれている道路リンク(L1,L3,L4及びL9)の速度情報(V1,V3,V4及びV9)とに関する回帰直線の寄与度は、前記所定レベル(0.8以上)に達していると言える。
【0055】
したがって、前記関連道路リンク(L2及びL8)の速度情報(V2及びV8)が取得されると、推定部11は、当該関連道路リンク(L2及びL8)の速度情報(V2及びV8)と、前記選択グループ(g1及びg2)に含まれていて寄与度が所定レベル(0.8以上)に達している道路リンク(L1,L3,L4及びL9)の速度情報(V1,V3,V4及びV9)とについての回帰直線に基づいて、道路リンク(L1,L3,L4及びL9)の道路情報(V1,V3,V4及びV9)の推定を行うことができると共に、その推定される道路リンクの速度情報の信頼性は高い。
【0056】
そして、前記取得部21(プローブ情報処理部18)によってプローブ情報から取得された実測値である前記関連道路リンク(L2及びL8)の速度情報(V2及びV8)と、この速度情報に基づいて推定された推定対象道路リンク(L1,L3,L4及びL9)の速度情報(V1,V3,V4及びV9)とが、推定データベース13に新たに蓄積され、更新される(図5のステップS3)。なお、新たに推定されていない道路リンク(L5,L6,L7,L10)の速度情報(V5,V6,V7,V10)については、更新が行われなくてよい。
以上より、推定データベース13の速度情報は、実測値と推定値とが混在したものとなるが、推定値は前記のとおり信頼性が高いため、この推定データベース13の情報を交通情報システムに用いることで、現在の交通状態の把握や、将来の交通状態の予測が可能となり、しかもその精度を高めることが可能となる。
【0057】
また、前記実施形態では、前記推定対象道路リンクの速度情報の推定には、プローブ車両より送信されたプローブ情報に基づく速度情報のみが用いられている。
すなわち、前記回帰直線は、プローブ車両3より送信されたプローブ情報から得た速度情報(プローブ交通情報)に基づいて求められている。そして、推定部11が、推定対象道路リンクの交通情報の推定を行うために、取得された前記関連道路リンクの速度情報は、プローブ車両3より送信されたプローブ情報から得た速度情報(プローブ交通情報)に基づくものである。
【0058】
このように、回帰直線及び寄与度を求める処理及び推定処理は、プローブ車両3より送信されたプローブ情報から得た速度情報のみによって実行されているため、道路に設置された前記路側センサ5(図1参照)が用いられて収集した定点観測情報(すなわちVICS情報)を取得することができない場合であっても、推定対象道路リンクの交通情報の推定が可能となっている。
【0059】
しかし、図2及び図3に示している入力情報処理部16の取得部21は、プローブ情報処理部18の他にVICS情報処理部17も有していて、管理グループG内の道路リンクのいずれかに道路センサ5が設置されている場合、プローブ情報処理部18によって、プローブ車両3より送信されたプローブ情報から得た速度情報(プローブ交通情報)が取得できる他に、VICS情報処理部17によれば、VICS情報から得た速度情報(定点交通情報)も取得可能となる。なお、VICS情報から得た速度情報(U1,U2)は、図6で示しているプローブ情報から得た速度情報(V1〜V10)の場合と同様に、第一の中間データベース12aに蓄積させる。
【0060】
そして、この場合、前記算出部22は、この第一の中間データベース12aに蓄積されている前記プローブ交通情報に基づいて、前記説明と同様にして、回帰直線及び当該回帰直線の寄与度を求める処理を行い、また、前記定点交通情報に基づいて、前記説明と同様にして、回帰直線及び当該回帰直線の寄与度を求める処理を行う。そして、この寄与度を、第二の中間データベース12b(図8参照)に蓄積させる。なお、図8では、VICS情報から得た道路リンクの速度情報についての寄与度は、U1行とU2行とに表されている。
【0061】
そして、この場合、推定部11は、プローブ交通情報による相関と、定点交通情報による相関とを比較して、相関が高い方(相関が強い方)の回帰直線に基づいて推定を行う。すなわち、プローブ交通情報による寄与度と、定点交通情報による寄与度とを比較して、高い方の寄与度を有する回帰直線に基づいて推定処理が行われる。
具体的に説明すると、第一の地点に設置された路側センサ5から、VICS情報が取得されると、VICS情報処理部17によって当該VICS情報から定点交通情報が得られる。そして、この定点交通情報に基づいて対応道路リンクと、各道路リンクとの回帰直線及びその寄与度が求められる。
【0062】
そして、この寄与度を示しているU1行において、寄与度が前記閾値α(0.8)以上である道路リンクの速度情報は、道路リンクL1の速度情報V1である。そこで、前記第一の地点の路側センサ5によって定点交通情報が取得されると、推定部11は、当該定点交通情報と前記回帰直線とに基づいて、道路リンクL1の速度情報V1を推定可能となる。
【0063】
しかし、この場合の寄与度は0.92である。これに対し、既に説明したように、道路リンクL2の速度情報(プローブ情報)が実測値として取得された場合では、当該道路リンクL2との関係において、道路リンクL1の速度情報V1を推定するための回帰直線の寄与度は0.98である。
そこで、推定部11は、高い方の寄与度を有する回帰直線に基づいて、道路リンクL1の速度情報V1を推定する処理を行う。すなわち、プローブ情報から得た速度情報と、当該プローブ情報から得た回帰直線とに基づいて推定処理を行い、VICS情報に基づいて推定処理は行わない。
【0064】
一方、第二の地点に設置された路側センサ5から、VICS情報が取得されると、VICS情報処理部17によって当該VICS情報から定点交通情報が得られる。そして、この定点交通情報に基づいて対応道路リンクと、各道路リンクとの回帰直線及びその寄与度が求められる。
そして、この寄与度を示しているU2行において、寄与度が前記閾値α(0.8)以上である道路リンクの速度情報は、道路リンクL4の速度情報V4である。そこで、前記第二の地点の路側センサ5によって定点交通情報が取得されると、推定部11は、当該定点交通情報と前記回帰直線とに基づいて、道路リンクL4の速度情報V4を推定可能となる。
【0065】
この場合の寄与度は、0.91である。これに対し、既に説明したように、道路リンクL2の速度情報(プローブ情報)が実測値として取得された場合では、当該道路リンクL2との関係において、道路リンクL4の速度情報V4を推定するための回帰直線の寄与度は0.86である。
したがって、推定部11は、高い方の寄与度を有する回帰直線に基づいて、道路リンクL4の速度情報V4を推定する処理を行う。すなわち、VICS情報からえた速度情報と、当該VICS情報から得た回帰直線とに基づいて推定処理を行い、プローブ情報に基づいて推定処理は行わない。
【0066】
このように、プローブ情報から得た速度情報(プローブ交通情報)の他に、VICS情報から得た速度情報(定点交通情報)を取得できた場合、推定部11は、プローブ交通情報による寄与度と定点交通情報による寄与度とを比較して、寄与度が高い方の回帰直線に基づいて推定処理を行う。このため、推定される道路情報の信頼性をより一層高くすることができる。
【0067】
以上より、前記閾値αが0.8に設定されている場合、管理グループG内にある道路リンクの数は10個であるのに対し、推定部11によって推定することができた道路リンクは、L1,L3,L4,L9の4個である。また、プローブ情報(実測値)が得られた関連道路リンクは2個である。したがって、管理グループGに存在している全ての道路リンクL1〜L10の内の、実測と推定とによって速度情報が求められた道路リンクの総数nは6個(n=6)であり、全体(N=10)の60%となる。この60%の値(n/N)はカバー率Fと呼ぶ。
【0068】
前記カバー率Fと選定グループの数Kとの比F/Kは、推定部11によって速度情報が推定される推定対象道路リンクの数に関する指標として用いることができる。カバー率Fが大きくても、選定グループの数Kが多いと、比F/Kは小さくなり、この場合では、前記カバー率Fを達成するために必要となる関連道路リンクの速度情報の数が、多くなることを意味している。逆に、選定グループの数Kが少ないと、比F/Kは大きくなり、この場合では、前記カバー率Fを達成するために必要となる関連道路リンクの速度情報の数は、少なくて済むということを意味している。
すなわち、比F/Kは、推定グループの数Kと同数の速度情報(プローブ情報)が実測値として道路リンクから取得された場合、前記カバー率Fを達成することができる確率を意味している。
前記の場合、カバー率Fは60%(0.6)であり、選定グループ数Kは2であるため、前記確率を意味する比F/Kは0.3となる。この比F/Kが高い程、効率よく道路リンクの速度情報の推定が可能となると言える。
【0069】
そこで、本発明の交通情報推定装置1では、推定部11によって速度情報が推定される推定対象道路リンクの数に関する指標としての前記確率(比F/K)に応じて、前記調整部24(図2参照)が、前記閾値αを調整することができる。すなわち、調整部24は、前記確率が、交通情報推定装置1に設定されている判定値と比較して、小さい場合、当該調整部24は、前記閾値αを小さくするように変更する。また、比較の結果大きい場合、調整部24は、前記閾値αを大きくするように変更してもよい。なお、この具体例は、後に説明する。
また、調整部24によって、指標としての前記確率(比F/K)に応じて閾値αを低下させる場合の他に、指標を選定グループの数Kとして、当該数Kが判定値以下となるまで閾値αを低下させてもよく、又は、指標を前記カバー率Fとして、当該カバー率Fが判定値以下となるまで閾値αを低下させてもよい。
【0070】
[3.3 推定するための処理の具体例(その2)]
交通情報推定装置1による推定処理の他の形態(第二の実施形態)を説明する。この第二の実施形態においても、交通情報推定装置1の構成は前記第一の実施形態と同じであるが、この形態では、第二の中間データベース12bの作成方法が少し異なる。図12は、第二の中間データベース12bの説明図である。第二の実施形態では、この第二の中間データベース12bを生成するために、図13に示している元の寄与度行列情報12cを生成する。図12、図13において、異なる道路リンクに対する「−」はプローブ情報が同時に取得されなかったことを示す。
【0071】
先ず、前記取得部21(図2参照)により、第一の中間データベース12aへ速度情報を蓄積させる。そして、前記算出部22(図2参照)は、この第一の中間データベース12aの情報に基づいて、管理グループG内の2つで1組の道路リンクそれぞれの速度情報同士の回帰直線及び寄与度(元の寄与度)を、90通りの組み合わせ毎に求める。これらの方法は、前記第一の実施形態と同じである。この結果が、図13に示している元の寄与度行列情報となる。
【0072】
そして、この第二の実施形態では、算出部22は転置行列の平均を求める。例えば、V5行−V1列にある寄与度(0.33)と、V1行−V5列にある寄与度(0.23)との平均を求める〔(0.33+0.22)/2=0.28〕。この平均値(0.28)が、道路リンクL1と道路リンクL5との回帰直線の真の寄与度となり、残りの各組み合わせについても同様に求める。この結果(真の寄与度)を、第二の中間データベース12bに蓄積させる(図12参照)。
なお、この第二の中間データベース12bには、前記第一の実施形態と同様に、二つの道路リンクの組み合わせ毎の回帰直線についての情報も蓄積されている。
【0073】
そして、前記選定部23(図2参照)は、相関が所定レベル以上認められる道路リンクを選定グループとして選定する。すなわち、第二の中間データベース12bを参照して、前記寄与度が閾値α以上となる回帰直線を有する関係にある道路リンクを、管理グループGの中から選定グループとして選定する処理を行う。
【0074】
前記閾値αは交通情報推定装置1に設定されている値であり、例えば0.99とする。この場合、図12によれば、寄与度が0.99以上となる組み合わせは、道路リンクL1の速度情報V1と道路リンクL2の速度情報V2との組み合わせ、及び、道路リンクL2速度情報V2と道路リンクL3の速度情報V3との組み合わせである。
そこで、寄与度が閾値α(0.99)に達している回帰直線を有する関係にある道路リンクは、L1とL2との組み合わせと、L2とL3との組み合わせとなり、これら道路リンクL1,L2,L3を、選定グループとして選定する。なお、このグループ化の処理については、寄与度が閾値αに達している回帰直線を有する関係にある2つの道路リンク(L1とL2)の内の少なくとも一方(L2)との関係において、寄与度が閾値αに達している回帰直線を有する道路リンク(L3)も、同じグループとして選定される。
すなわち、道路リンクL1,V2,V3間では、速度情報の相関が強いため(寄与度が0.99以上であるため)一つの選定グループg1として、選定部23は選定する。
【0075】
この場合、前記選定グループg1には、道路リンクL1,V2,V3が含まれていて、この内の、関連道路リンクとして選定グループg1の内の一つである道路リンクL1の速度情報(プローブ情報)が実測値V1として取得されると、当該速度情報V1と、前記選択グループg1に含まれている残りの道路リンクL2,L3の速度情報V2,V3との、各回帰直線に基づいて、推定対象道路リンクの道路情報として、道路リンクL2,L3の速度情報V2,V3の推定を行う。
【0076】
このように前記閾値αが0.99に設定されている場合、管理グループG内にある道路リンクの数は10個であるのに対し、推定部11によって推定することができた道路リンクは、L2,L3の2個である。また、プローブ情報(実測値)が得られた関連道路リンクは1個である。したがって、管理グループGに存在している全ての道路リンクL1〜L10の内の、実測と推定とによって速度情報が求められた道路リンクの総数nは3個(n=3)であり、カバー率F(=n/N)は30%となる。
【0077】
また、前記のとおり、前記カバー率Fと選定グループの数Kとの比F/Kは、推定部11によって速度情報が推定される推定対象道路リンクの数に関する指標であって、推定グループの数Kと同数の速度情報(プローブ情報)が実測値として道路リンクから取得された場合、前記カバー率Fを達成することができる確率を意味している。
前記の場合、カバー率Fは30%(0.3)であり、選定グループ数Kは1であるため、前記確率を意味する比F/Kは0.3となる。この比F/Kが高い程、効率よく道路リンクの速度情報の推定が可能となると言える。
【0078】
そこで、前記調整部24(図2参照)は、前記指標として用いた確率(比F/K)に応じて、前記閾値αを調整する。
具体的には、調整部24は、前記確率(比F/K)と、交通情報推定装置1に設定されている比較値とを比較して、前記比F/Kが小さい場合は、調整部24は、前記閾値αを小さくするように変更する。また、比較の結果大きい場合は、調整部24は、前記閾値αを大きくするように変更する。
【0079】
そこで、調整部24は、比F/Kが小さいと判定した場合、前記閾値αを0.99から0.8に小さくするように調整する。この場合、図12によれば、寄与度が0.8以上となる組み合わせは、道路リンクL1の速度情報V1と道路リンクL2の速度情報V2との組み合わせ、道路リンクL1の速度情報V1と道路リンクL3の速度情報V3との組み合わせ、道路リンクL2の速度情報V2と道路リンクL3の速度情報V3との組み合わせ、道路リンクL2の速度情報V2と道路リンクL4の速度情報V4との組み合わせ、及び、道路リンクL3の速度情報V3と道路リンクL4の速度情報V4との組み合わせであり、これら前記道路リンクL1,L2,L3,L4を、第一の選定グループg1として選定部23は選定する。これら道路リンクL1,L2,L3,L4間では、いずれか2つの組み合わせで速度情報同士の相関が強いため(回帰直線の寄与度が0.8以上であるため)、一つの選定グループg1内にあると言える。
【0080】
また、図12によれば、寄与度が0.8以上となる組み合わせは、道路リンクL5の速度情報V5と道路リンクL6の速度情報V6との組み合わせ、及び、道路リンクL6の速度情報V6と道路リンクL7の速度情報V7との組み合わせがあり、これら前記道路リンクL5,L6,L7を、第二の選定グループg2として選定部23は選定する。
さらに、図12によれば、寄与度が0.8以上となる他の組み合わせは、道路リンクL8の速度情報V8と道路リンクL9の速度情報V9との組み合わせ、及び、道路リンクL9の速度情報V9と道路リンクL10の速度情報V10との組み合わせがあり、これら前記道路リンクL8,L9,L10を、第三の選定グループg3として選定部23は選定する。
【0081】
この場合、前記第一の選定グループg1には、道路リンクL1,L2,L3,L4が含まれていて、この内の、関連道路リンクの速度情報として第一の選定グループg1の内の一つである道路リンクL1の速度情報V1(プローブ情報)が実測値として取得されると、当該速度情報V1と、前記第一の選択グループg1に含まれている残りの道路リンクL2,L3,L4の速度情報V2,V3,V4との、各回帰直線に基づいて、推定対象道路リンクの道路情報として、道路リンクL2,L3,L4の速度情報V2,V3,V4の推定を行う。
同様にして、第二の選定グループg2において、例えば、道路リンクL5の速度情報V5が実測値として取得されると、道路リンクL6,L7の速度情報V6,V7の推定を行う。
さらに同様に、第三の選定グループg3において、例えば、道路リンクL8の速度情報V8が実測値として取得されると、道路リンクL9,L10の速度情報V9,V10の推定を行う。
【0082】
このように前記閾値αを0.8に調整した場合、推定部11によって推定することができた道路リンクは、L2,L3,L4,L6,L7,L9,L10の7個である。また、プローブ情報(実測値)が得られた関連道路リンクは3個である。したがって、管理グループGに存在している全ての道路リンクL1〜L10の内の、実測と推定とによって速度情報が求められた道路リンクの総数nは10個(n=10)であり、カバー率F(=n/N)は100%となる。
【0083】
この場合、前記カバー率Fと選定グループの数Kとの比F/Kは、カバー率Fが100%(1.0)であり、選定グループ数Kが3であるため、比F/Kは0.33となる。この比(F/K)は、閾値αが0.99であった場合(0.3)よりも高くなっている。
【0084】
このように、調整部24によって前記閾値αを低下させる調整を行うことにより、前記確率(推定グループの数Kと同数の速度情報(プローブ情報)が実測値として道路リンクから推定グループそれぞれにおいて一つずつ取得された場合、カバー率Fを達成することができる確率)を高めることができる。この結果、道路情報の推定を効率よく行うことが可能となる。
また、カバー率Fについて見ると、寄与度の閾値αを低くすると、速度情報同士の相関の強さが多少低下するが、推定グループの数が多いことから、速度情報(プローブ情報)を取得することができる機会が少なくても、比較的多くの道路リンクの速度情報を推定することができる。反対に、寄与度の閾値αが高くなると、推定グループの数が減るが、速度情報同士の相関が強くなることから、推定される速度情報の信頼性は高い。
したがって、速度情報(プローブ情報)を取得することができる機会が多い管理グループでは、寄与度の閾値αを高めに設定するのが好ましく、速度情報(プローブ情報))を取得することができる機会が少ない管理グループでは、寄与度の閾値αを低く設定するのが好ましく、速度情報(プローブ情報)の取得可能数の状況に応じて管理グループ毎に閾値αを設定及び調整すればよい。
【0085】
また、この第二の実施形態においても、前記第一の実施形態と同様に、推定部11は、前記プローブ交通情報による相関と、定点交通情報による相関とを比較して、相関が高い方の回帰直線に基づいて推定処理を行ってもよい。
【0086】
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0087】
例えば、推定対象道路リンクの速度情報を推定するために用いられる道路リンク(関連道路リンク)は、推定対象道路リンクに接続されているものに限らず、推定対象道路リンクとは離れているが、速度情報の時間的変化の仕方に関連性があるような道路リンク(例えば、推定対象道路リンクと並行する道路リンク)であってもよい。
【0088】
さらに、本実施形態では、関連道路リンクの速度情報として、時間的に同一のタイムスロット(時間帯)にある速度情報だけを用いたが、異なる時間帯の速度情報を用いてもよい。例えば、推定対象道路リンクから遠く離れた道路リンクの場合、その道路リンクにおける交通状況が、推定対象道路リンクに反映されまでには時間遅れがある。そこで、遠く離れた道路リンクの場合、例えば、1時間前の速度情報を推定に用いることで、より適切な推定が行える。
【0089】
さらに、本実施形態の交通情報推定装置1の推定部11が推定の対象とする交通情報は、速度情報に限らず、これに加えて/代えて、渋滞情報等他の交通情報とすることもできる。また、前記推定情報は回帰直線(線形回帰)以外であってもよく、他の関数(曲線)であってもよい。また、前記相関は回帰直線の寄与度以外の指標であってもよい。
【符号の説明】
【0090】
1:交通情報推定装置、 11:推定部、 21:取得部、 22:算出部、 23:選定部、 24:調整部、 L1〜L10:道路リンク
【特許請求の範囲】
【請求項1】
道路リンクの交通情報に基づいて、他の道路リンクの交通情報を推定する推定部を備えた交通情報推定装置であって、
複数の道路リンクの交通情報を取得する取得部と、
前記取得部が取得した前記交通情報に基づいて、一つの道路リンクの交通情報から他の道路リンクの交通情報を推定するための推定情報、及び、前記道路リンクそれぞれの交通情報同士の相関を求める算出部と、
前記相関が所定レベル以上認められる道路リンクを選定グループとして選定する選定部と、
を備え、
前記推定部は、道路リンクの交通情報が取得されると、当該道路リンクを含む前記選択グループ内にある他の道路リンクの交通情報を、前記推定情報に基づいて推定することを特徴とする交通情報推定装置。
【請求項2】
前記推定情報は、プローブ車両より送信され前記取得部が取得したプローブ情報に基づいて求められ、
前記推定部が他の道路リンクの交通情報の推定を行うために、取得される道路リンクの道路情報は、プローブ車両より送信されたプローブ情報に基づくものである請求項1に記載の交通情報推定装置。
【請求項3】
前記取得部は、前記交通情報として、プローブ車両より送信されたプローブ情報から得たプローブ交通情報の他に、道路に設置された路側センサが用いられて収集した定点観測情報から得た定点交通情報を取得可能であり、
前記算出部は、前記プローブ交通情報及び前記定点交通情報それぞれに基づいて前記推定情報と前記相関とを求め、
前記推定部は、前記プローブ交通情報による前記相関と前記定点交通情報による前記相関とを比較して、相関が高い方の推定情報に基づいて前記推定を行う請求項1に記載の交通情報推定装置。
【請求項4】
前記推定部によって交通情報が推定される他の道路リンクの数に関する指標に応じて、前記所定レベルを調整する調整部を更に備えている請求項1〜3のいずれか一項に記載の交通情報推定装置。
【請求項5】
コンピュータを、請求項1〜4のいずれか一項に記載の交通情報推定装置として機能させるためのコンピュータプログラム。
【請求項6】
道路リンクの交通情報に基づいて、他の道路リンクの交通情報を推定する交通情報推定方法であって、
複数の道路リンクの交通情報を取得するステップと、
取得した前記交通情報に基づいて、一つの道路リンクの交通情報から他の道路リンクの交通情報を推定するための推定情報、及び、前記道路リンクそれぞれの交通情報同士の相関を求めるステップと、
前記相関が所定レベル以上認められる道路リンクを選定グループとして選定するステップと、
道路リンクの交通情報が取得されると、当該道路リンクを含む前記選択グループ内にある他の道路リンクの交通情報を、前記推定情報に基づいて推定するステップと、
を含むことを特徴とする交通情報推定方法。
【請求項1】
道路リンクの交通情報に基づいて、他の道路リンクの交通情報を推定する推定部を備えた交通情報推定装置であって、
複数の道路リンクの交通情報を取得する取得部と、
前記取得部が取得した前記交通情報に基づいて、一つの道路リンクの交通情報から他の道路リンクの交通情報を推定するための推定情報、及び、前記道路リンクそれぞれの交通情報同士の相関を求める算出部と、
前記相関が所定レベル以上認められる道路リンクを選定グループとして選定する選定部と、
を備え、
前記推定部は、道路リンクの交通情報が取得されると、当該道路リンクを含む前記選択グループ内にある他の道路リンクの交通情報を、前記推定情報に基づいて推定することを特徴とする交通情報推定装置。
【請求項2】
前記推定情報は、プローブ車両より送信され前記取得部が取得したプローブ情報に基づいて求められ、
前記推定部が他の道路リンクの交通情報の推定を行うために、取得される道路リンクの道路情報は、プローブ車両より送信されたプローブ情報に基づくものである請求項1に記載の交通情報推定装置。
【請求項3】
前記取得部は、前記交通情報として、プローブ車両より送信されたプローブ情報から得たプローブ交通情報の他に、道路に設置された路側センサが用いられて収集した定点観測情報から得た定点交通情報を取得可能であり、
前記算出部は、前記プローブ交通情報及び前記定点交通情報それぞれに基づいて前記推定情報と前記相関とを求め、
前記推定部は、前記プローブ交通情報による前記相関と前記定点交通情報による前記相関とを比較して、相関が高い方の推定情報に基づいて前記推定を行う請求項1に記載の交通情報推定装置。
【請求項4】
前記推定部によって交通情報が推定される他の道路リンクの数に関する指標に応じて、前記所定レベルを調整する調整部を更に備えている請求項1〜3のいずれか一項に記載の交通情報推定装置。
【請求項5】
コンピュータを、請求項1〜4のいずれか一項に記載の交通情報推定装置として機能させるためのコンピュータプログラム。
【請求項6】
道路リンクの交通情報に基づいて、他の道路リンクの交通情報を推定する交通情報推定方法であって、
複数の道路リンクの交通情報を取得するステップと、
取得した前記交通情報に基づいて、一つの道路リンクの交通情報から他の道路リンクの交通情報を推定するための推定情報、及び、前記道路リンクそれぞれの交通情報同士の相関を求めるステップと、
前記相関が所定レベル以上認められる道路リンクを選定グループとして選定するステップと、
道路リンクの交通情報が取得されると、当該道路リンクを含む前記選択グループ内にある他の道路リンクの交通情報を、前記推定情報に基づいて推定するステップと、
を含むことを特徴とする交通情報推定方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
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【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2011−76410(P2011−76410A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−227800(P2009−227800)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】
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