説明

人体モデルに基づく装着型支援システム

【課題】 本発明は、スポーツやリハビリテーション等に用いる装着型支援システムを提供する。
【解決手段】本発明によれば,人間と床の接触力(床反力)を計測するセンサと、人間の膝や足,膝,腰,腕等の関節角度を計測するセンサシステムから得られる情報を,装着型支援システムの計算機内に構築された人間のモデルに適応し,人間の運動状態における生体情報を推定する。さらに、その推定値に基づき、各関節に装着された駆動装置の駆動モーメントを制御する装着型支援システムを構築できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スポーツやリハビリテーション等に用いる装着型支援システムに関する。
【背景技術】
【0002】
現在,先進国の間では,少子高齢化が急速に進んでおり,特に,我が国では,2015年に総人口の約4分の1が65歳以上の高齢者になるとみられている。これにより,労働人口の減少は避けることができず,なにより,介護などの仕事に従事する人の不足も避けることはできないであろう。このような時代背景に対して,近年,高齢者の介護や高齢者の自立を促すためのシステムとして,介護者のパワーをアシストするシステムや入浴の補助を行うシステム,食事支援機器や歩行支援機等さまざまな福祉・介護機器が開発されている。本発明は,その中でも特に,複数のセンサを用いて,センサ情報に基づき,人間の運動や生体情報を取得・推定し,その運動を支援するシステムを提案するものである。
【0003】
従来,人間の運動を推定し何らかの装具によってその運動を支援するシステムとしては,装着型の歩行支援機や外骨格型のパワーアシストスーツ等が開発されてきた。
【非特許文献1】H.Kawamoto et al., Power AsiistMethod for HAL-3 Estimating Operator's IntentionBased on Motion Information, Proceedings of the 12th International IEEE Workshopon Robot and Human Interactive Communication, RO-MAN 2003,p.2A2,(2003)
【非特許文献2】K. Kiguchi et al., A 3DOF Exoskeltonfor Upper-Limb Motion Assist-Consideration of the Effect of Bi-Articular Muscles, Proceedings of IEEE InternationalConference on Robotics and Automation,pp.2424-2429,(2004)
【非特許文献3】小山猛ほか, 介護用ヒューマン・アシスト・システム (第12報,アシスト効果向上のための制御系設計),日本機会学会ロボティクス・メカトロニクス講演会’03講演論文集,2A1-3F-D6,(2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これらのシステムでは,人間の筋力を推定する必要があり,その推定には表面筋電位や筋肉表面硬さの変化といった生体信号を用いる。しかし,関節の運動は,それをとりまくすべての筋力の合力と,重力,慣性力,外力等が複雑に関係して生成されるので,数種類の筋肉からの情報を基に支援デバイスを制御することは容易ではない。なぜなら,少ない情報から支援モーメント等を決定するため,その適切さや正確さに問題がでてくるからである。
また,人間が運動を生成してから発生する筋電位等を用いた場合,どうしても支援モーメントを導出し,それを何らかの装具によって発生するまでには時間遅れが生じてしまい,高速な運動の支援は難しくなる。その他,筋電を計測するためのシステムも大掛かりなものとなり,実際にこのようなシステムを実用化するためには多くの問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明では,人間と床の接触力(床反力)を計測するセンサや人間の膝や足,膝,腰,腕等の関節角度を計測するセンサシステム等から得られる情報を,計算機内に構築された人間のモデルに適応することにより,表面筋電位や筋表面の硬さといった生体信号を直接用いることなく,人間のある運動状態における足,膝,腰,腕等の各関節に加わる関節モーメントをはじめとした生体情報を推定するシステムを構築する。
【発明の効果】
【0006】
上記推定システムを用いるといくつかの形態で人間の運動の支援を行うことができる。例えば,人間の歩行の支援を実現するために装着型の歩行支援機を考えよう。装着型の歩行支援機は,図1に示すように,リンクとギアおよび人間の脚部を支援するためのモータやサーボブレーキから構築されたシステムである。このようなシステムでは,通常リンクの動きなどをエンコーダやポテンショメータと呼ばれる回転角度センサ等を用いて人間の関節角度等を計算することができる。また,足裏には力覚センサや圧力センサを取り付け,人間が脚部を通して床に加える力(床反力)を計測することができる。
【0007】
このようなシステムを実際に人間の脚部に装着することにより,それらに搭載されたセンサから,人間の各関節の関節角度,角速度等や床反力を求め,それらの情報を計算機内に構築された人体モデルに適用することにより,各関節等に働く関節モーメントを求めることができる。そして,それらの情報を基に,利用者の支援すべき関節モーメント(例えば重力の影響を小さくするための支援モーメント)を計算し,その支援モーメントを装着型歩行支援システムに搭載されたモータやサーボブレーキを用いて目的のモーメントを出力し,実際に人間の運動を支援することが可能となる。
【0008】
このようなシステムが実現できると,筋電位等を用いた方法と違い,人間のモデルに基づいて支援モーメントを決定するため,支援の時間遅れ等がなく高速な運動支援が可能となり,また,人間のモデルの精度を上げることによって,支援システムの性能を飛躍的に向上させることができる。本システムの応用範囲としては,高齢者や障害者の歩行の支援や,持久力を必要とするスポーツ(例えばスキー等)に用いることにより,長時間の運動を可能にすることができる。
【0009】
また,上記のような装着型支援システム等を用いなくとも,靴に力覚センサや圧力センサを埋め込むことにより床反力を計測し,人間の運動・動作を計測するモーションキャプチャシステム等を利用することができれば,それらから得られる情報より,計算機内に構築された人体モデルを用いて人間の関節モーメント等の生体情報を推定することが可能となる。
【0010】
ここで,スポーツやリハビリテーション等によって実現される様々な運動において,上記推定システムによって推定された関節モーメント等の生体情報から,現在の人間の運動が適切であるのか異常な状態であるのかなどを判断することが可能となる。このとき,その判断情報を音や光を使って人間に伝えると,例えばスポーツ等ではプロ選手の運動やそれに伴う重心移動といった細かな生体情報と自分自身の運動等の比較等を行うことができるようになる。障害によっては、この伝達手段は音や光に限ることなく、振動であったり、皮膚に何らかの刺激を与える方法であってもよい。また,リハビリテーション等においても,理想の運動と現在の運動との比較や,過剰な関節モーメント等を必要とする無理な動作を抑制するシステム等を構築することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の実施例による歩行中の人体モデルを図2に示すが、ここではリンクモデルで近似している。本モデルは,直方体の足部リンク,円錐台の下腿部リンク及び大腿部リンク,円錐台を組み合わせた胴体部と楕円体の頭部を結合した上体部リンクからなる。また,それら各リンクをつなぐ関節は,前額水平軸回りの回転のみ可能なヒンジジョイントとする。尚,各リンクの重量や長さ,形状は被験者の実測値,人体各部の重量分布および体格調査書に基づいて決定する。
【0012】
次に,歩行時の脚の状態に応じた支援力/モーメントを導出する本発明に係る制御アルゴリズムについて説明する。歩行は矢状平面上の運動として近似できることが知られている。また,図2に示すように,つま先を通る矢状平面をOi−Zi−Xiとし,原点Oiをつま先に,Zi軸を地面に対して垂直方向に,Xi軸を地面に対して平行とする座標系を設定し、リンクごとに並進成分および回転成分についての運動方程式を導出する。
【0013】
右足部リンクおよび右下腿部リンクの運動方程式を連立させることで右膝関節モーメントτkrを,左足部リンクおよび左下腿部リンクの運動方程式を連立させることで左膝関節モーメントτklをそれぞれ算出する。算出された膝関節モーメントは式1となる。ここで添え字iはi=rのとき右脚を、i=lのとき左脚を表している。
【0014】
また,IfiおよびIsiは足部リンクおよび下腿部リンクの慣性モーメントを,XsiおよびXfiはそれぞれ下腿部リンクおよび足部リンク重心の並進移動量を,Isiは下腿部リンクのリンク長を,Iaiはつま先から足関節までの長さを,GfiおよびGsiは足部リンクおよび下腿部リンクの重心位置をそれぞれ表している。また,gは重力加速度をτGRFiは床反力によるモーメントを表している。
【0015】
【化1】

【0016】
ここで,式(1)により算出された膝関節モーメントの重力項および床反力項に基づいて支援膝関節モーメントτsiを以下のように設計する。
【0017】
【化2】

【0018】
ここでα(0=<α<=1)は支援率とする。支援率αとは算出した膝関節モーメントの重力項および床反力項のどの程度を支援するかを決定するパラメータで,これが大きければ大きいほど支援関節モーメントτsiも大きくなる。このパラメータを調整することにより,装着者毎の歩行能力に見合った支援を行う。このアルゴリズムを装着型歩行支援機に適用すれば実際に歩行時の脚の運動に見合った支援膝関節モーメントが算出できる。
【0019】
本発明の実施例における制御系を図1に示す装着型歩行支援機に適用すれば、本発明の実施例における人体モデルにおいて,床反力情報に基づいて算出された支援膝関節モーメントを用いることにより,歩行時の脚の運動を妨げない自然な歩行支援が可能となる。
【0020】
次に、本発明の他の実施例である装着型歩行支援機について説明する。人体脚部に装着して歩行支援を行うもので,ギア方式デュアルヒンジと呼ばれる膝関節部を持つ膝装具,ボールねじとDCモータからなるバックドライバブルな直動アクチュエータおよびセンサ類から構成されている。直動アクチュエータで発生した推力を,膝装具のフレームに作用し,膝関節支援モーメントを人間の膝関節に伝達する構造となっている。
センサとしては,床反力計測用に靴底の拇指球および踵に当たる部分に感圧センサ,関節角計測用に足関節,膝関節および股関節にポテンショメータを配している。
【0021】
この本発明の実施例のモデル図を図3に示す。装着者の身体計測値から装着者の体をリンクモデルに近似し、その後,トレッドミル上で歩行動作を行う。ここでは、装着型歩行支援機の都合上両足部リンクの傾きはθtiを90[deg]とする。また,床反力は両足靴底の
拇指球および踵にある感圧センサにより計測する。
【0022】
本実施例においては支援率を0.1,トレッドミル上の歩行速度を健常者の平均的な歩行速度のおよそ半分に当たる2.0km/hとした。このときの,右脚の関節角度,床反力および支援関節モーメントを図4示すが、関節角度および,床反力に応じた支援関節モーメントが発生していることがわかる。また,図4から発生した支援関節モーメントが装着者の歩行を滑らかに支援していることがわかる。
【0023】
以上のように、本発明によれば,人間と床の接触力(床反力)を計測するセンサや人間の膝や足,膝,腰,腕等の関節角度を計測するセンサシステム等から得られる情報を,計算機内に構築された人間のモデルに適応することにより,人間のある運動状態における生体情報を推定する装着型支援システムを構築できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の装着型支援システムの1実施継体による装着型歩行支援機。
【図2】人体リンクモデル
【図3】身体計測器
【図4】歩行中の関節角度(角度)、床反力(GRF)および支援関節モーメント(サポートトルク)の時間変化。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人間が床と接触している床反力情報と,人間の膝や足,膝,腰,腕等の各関節角度とにより,人間のある運動状態における足,膝,腰,腕等の各関節に加わる関節モーメントを推定・制御することを特徴とする装着型支援システム。
【請求項2】
人間のモデルを構築する人体モデル計算システムと,人間が床と接触している情報を取得する床反力計測センサと,人間の膝や足,膝,腰,腕等の各関節の角度を計測するセンサとから構成され,前記床反力と前記各関節角度を前記人体モデル計算システムにより,人間のある運動状態における足,膝,腰,腕等の各関節に加わる関節モーメントを推定・制御することを特徴とする請求項1記載の装着型支援システム。
【請求項3】
前記膝や足,膝,腰,腕等の各関節に回転駆動力を与える駆動装置と、前記駆動装置の駆動力を制御する為の制動装置とを備えたことを特徴とする請求項1記載の装着型支援システム。
【請求項4】
上記人間のある運動状態における足,膝,腰,腕等の各関節に加わる関節モーメントの情報に基づき、関節の状態を装着型支援システムの装着者に伝えることを特徴とする請求項1記載の装着型支援システム。
【請求項5】
請求項4において前記伝える手段は、音、光、振動あるいは皮膚等への刺激であることを特徴とする請求項4記載の装着型支援システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−75456(P2006−75456A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−264978(P2004−264978)
【出願日】平成16年9月13日(2004.9.13)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】