説明

人体患部実体モデルの製造方法

【課題】価格の高い光硬化性樹脂を型枠の製造のみに用いてその使用量を低減し、しかも実際の患部に対応して物性の調整の自由度を拡大した人体患部の実体モデルの製造方法を提供する。
【解決手段】 損傷を受けた人体硬組織をMRI又はCTスキャンして、該硬組織全体にわたる多数の二次元断層画像データを得、次いでこの画像データに基づき、液体光硬化性樹脂中、各二次元断層画像の外郭部を含む所定幅の帯域に活性線を照射して、各断層画像の外郭部形状に対応する内側面をもつ硬化体を形成し、得られた各硬化体を順次積層することにより、前記硬組織の外郭部形状に対応する内壁面をもつ光硬化性樹脂硬化体からなる型枠を作成し、次いでこの型枠に固化可能な流動性成形材料を流し込み、固化させたのち、型枠から固化成形体を取りはずすことにより製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者本人の磁気共鳴映像法(MRI)やコンピューター断層撮影(CT)スキャンで得られた断層データからの情報を用い、光造形法を利用して成形する新規な人体患部実体モデルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液状光硬化性樹脂を用いた三次元光造形法(ステレオリソグラフィー)は、IT技術の台頭と三次元CAD(Computer Aided Design)システムの普及とともに各産業分野において急速に応用が進んでいる。
【0003】
この光造形法は、例えば所定の物体についてコンピューター上でCADシステムにより立体モデルを設計し、これをコンピューター上で一定の間隔でスライスしてその断面のデータを作成し、この断面データに基づき、容器に収容した液状光硬化性樹脂の液面の所定の域に活性線照射して硬化させ、断面データに対応する樹脂硬化層を形成させたのち、その硬化部分を沈下させて、新しく生じた液面の次の断面データに対応する域に活性線照射を行うという操作を順次繰り返して樹脂硬化層を次々と積層することにより、設計したとおりの三次元立体モデルを形成させる方法である(例えば特許文献1、2参照)。
【0004】
この方法は、MRIやCTスキャンで得られた患者の患部のモデルを作成するのに利用すれば、医者は三次元的に人体内の患部を再現しうるので、外部からの診察では発見できない腫瘍や骨の異常を容易に見出すことができ、それに基づいて難しい手術の除去部分の検討や手術のシミュレーションを行うことができることから、最近では医療分野において注目されるようになった。
【0005】
そして、このような光造形法を用いた人体患部モデル、その製造方法又は製造装置として、これまでに内臓又は器官類の断層形状測定装置により得られた二次元断層画像データに基づいて、光硬化性樹脂中にレーザー光を照射して各断層形状に合致する硬化層を形成し、これらを順次積層して立体モデルを形成させる方法(特許文献3参照)、被検体について多断層の断層像を収集する断層撮影装置と、それにより得られる各断層像間を補間する手段と、前記断層像を二値化して二値画像を作成する手段と、この二値画像から三次元画像を作成する手段と、この三次元画像の孤立部分にサポート部材を追加する手段と、このサポート部材を追加した三次元画像からモデル作成用データを生成する手段と、このデータから層状のモデルを作成し、積層することにより立体モデルを造形する造形装置を備えた立体モデル作成装置(特許文献4参照)、ヘリカルCTスキャナ画像又はMRIスキャナで撮影されたスライス画像を正確に並べて積層して、三次元データとして組み立てたのち、所定の領域をスレッショルド値を指定して切り出し、対象となる画像領域を抽出し、この抽出された領域をブロックごとに分離し、上記のスレッショルド値に基づいて抽出された領域の三次元連続性を確認してマスク領域を切り出し、スライス画像上で切り出したマスク領域を積層して三次元モデルを作成し、この三次元モデルのスライス画像を単位厚さに敷設された粉末材料上にレーザー描画し、このレーザー描画された粉末材料を固化して順次積層した医療用立体モデル(特許文献5参照)などが提案されている。
【0006】
他方、上記のようにスライス層を積層する光造形方法において、内部を網目構造でサポートした光造形物の立体構造データを作成し、これに基づいて射出成形用金型のマスターモデルを製造することも知られている。
【0007】
しかしながら、一般に光硬化性樹脂は、価格が高く、各人ごとに製作しなければならない実体モデル全体に光硬化性樹脂を用いれば、患者個人の負担が大きくなるのを免れない上に、光硬化性樹脂として用いられる高分子化合物の種類には限りがあり、その物性も制限があるので、手術シミュレーション用として用いる場合、実際の患部の物性とはかけ離れたものを取り扱わなければならないという欠点がある。
【0008】
また、これまで用いられている光硬化性樹脂は、歯科の技工や整形外科の手術、特に人工関節置換術の場合、オシレーターを用いた骨切り、ハンマーを用いたピンの打ち付け操作を行うと、モデル自体がその操作により破壊され、現実に即したリハーサルを行うことができない。
他方、内部を網目構造に形成した実体モデルでは、強度が不足して手術シミュレーションには不適であるし、骨切りやピン止めを必要とする場合には使用できないという欠点がある。
【0009】
【特許文献1】特開昭56−144478号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献2】特開2001−79855号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献3】特開平5−11689号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献4】特開平6−98897号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献5】特開2002−40928号公報(特許請求の範囲その他)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような事情のもとで、価格の高い光硬化性樹脂を型枠の製造のみに用いてその使用量を低減し、しかも実際の患部に対応して物性の調整の自由度を拡大した人体患部の実体モデルの製造方法を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、光硬化性樹脂の使用量を低減し、かつ患部の状態に対応して物性を変化させうる人体患部実体モデルを実現するために種々研究を重ねた結果、光硬化性樹脂を型枠の作成のみに用い、成形材料を患部の物性に対応した所望の物性を有する多種多様の材料で構成し得るようにすることにより、その目的を達成しうることを見出し、この知見に基づいて本発明をなすに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、損傷を受けた人体硬組織をMRI又はCTスキャンして、該硬組織全体にわたる多数の二次元断層画像データを得、次いでこの画像データに基づき、液体光硬化性樹脂中、各二次元断層画像の外郭部を含む所定幅の帯域に活性線を照射して、各断層画像の外郭部形状に対応する内側面をもつ硬化体を形成し、得られた各硬化体を順次積層することにより、前記硬組織の外郭部形状に対応する内壁面をもつ光硬化性樹脂硬化体からなる型枠を作成し、次いでこの型枠に固化可能な流動性成形材料を流し込み、固化させたのち、型枠から固化成形体を取りはずすことを特徴とする人体患部実体モデルの製造方法を提供するものである。
【0013】
このように、本発明方法においては、人体患部実体モデルの製造のために、光造形法を利用して作成した特殊な型枠が用いられる。
図1は、この型枠の1例を示す断面図であり、このものは、光造形法により人体患部の外郭部形状に一致して形成された内壁面1を含む所要の厚さの硬化体ブロック2から構成されている。このブロック2には、成形材料を注入するための注入口3が設けられている。この外郭面の状態については特に制限はない。
【0014】
この型枠は、光硬化性樹脂の硬化体によって形成されている。この本発明で用いられる光硬化性樹脂には、ラジカル重合反応タイプとカチオン重合反応タイプの2種類があり、前者の代表的なものとしては、ウレタンアクリレート系硬化性樹脂が、また、後者の代表的なものとしては、エポキシ系光硬化性樹脂がある。
【0015】
上記のウレタンアクリレート系光硬化性樹脂の例としては、エチレングリコールとアジピン酸とのエステルにトリレンジイソシアナートを反応させて得られるプレポリマーと、2‐ヒドロキシエチルアクリレートとの反応生成物、ポリエチレングリコールとトリレンジイソシアナートを反応させて得られるプレポリマーと2‐ヒドロキシエチルアクリレートとの反応生成物、ヒドロキシエチルフタリルメタクリレートとキシレンジイソシアナートとの縮合物と2‐ヒドロキシエチルアクリレートとの反応生成物、1,2‐ポリブチジエングリコールとトリレンジイソシアナートとの縮合物と2‐ヒドロキシエチルメタクリレートとの反応生成物、トリメチロールプロパン−プロピレングリコールとトリレンジイソシアナートの縮合物と2‐ヒドロキシエチルアクリレートとの反応生成物などがある。この種のウレタンアクリレート系光硬化剤は、例えばTSR−1938M(帝人製機製)として市販されている。
【0016】
また、エポキシ系光硬化性樹脂の例としては、ビスフェノールAのエピクロロヒドリン付加物とアクリル酸との反応生成物、フェノールノボラック樹脂のエピクロロヒドリン付加物とアクリル酸との反応生成物などがある。この種のエポキシ系光硬化性樹脂は、旭電化工業株式会社から「HS−681」として、ジェイ・エス・アール(JSR)社から「SCR−8100」シリーズとして、バンチコ(Vantico)社から「SL−7540」として、それぞれ市販されている。
【0017】
これらの光硬化性樹脂は、紫外線、電子線、i線、ArFエキシマレーザー、KrFエキシマレーザーなどの活性線を照射することにより容易に硬化して、自己支持性の外殻部分を構成することができる。
【0018】
本発明の方法で用いる硬化体ブロックは、後続の成形材料の注入に際し、十分に耐え得る程度の強度を与える厚さを有する必要がある。この厚さは人体患部実体モデルのサイズにより変わるので、それに対応して増減させる必要があるが、通常3〜30mm、好ましくは5〜20mmの範囲内で選択される。
【0019】
次に、本発明方法において、この型枠に注入される成形材料としては、固化可能な流動性バインダー単独、又はこれと固体充填材との複合材料が用いられる。
本発明者らは先に、光硬化体からなる外殻部分と充填時に流動化状態となり得る固体物質からなる心材部分で構成した人体患部実体モデルを提案したが、このものは、光硬化体を構成成分としているため、実際に特定の患部に適合した物性のモデルを作成する際に選択し得る材料が制限されるのを免れず、そのため実物と同じ物性のモデルを製造することが困難であった。
【0020】
これに対し、本発明方法により得られる人体患部実体モデルにおいては、広範囲の成形材料を選ぶことができるため、人体患部の硬質組織に近い物性をもった実体モデルを製造することができる。
【0021】
本発明方法における固化可能な流動性成形材料としては、例えば流動性バインダー単独又は流動性バインダーと固体充填材との複合材料が用いられる。
この流動性バインダーとしては、型枠に注入する際には流動性を有するが、注入後には硬化して所要の物性をもつ硬化体を形成するものであればどのようなものでもよい。
このようなものの例としては、熱可塑性樹脂、常温硬化性樹脂、熱硬化性樹脂、ホットメルト系接着剤、固化性液状界面活性剤、石油ワックス類、セッコウ、モルタル類などを挙げることができる。
【0022】
上記の熱可塑性樹脂としては、例えばポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリアクリレート系樹脂、ポリメタクリレート系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、フッ素ゴム系樹脂、ポリアクリロ系樹脂、ポリビニルエーテル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリジエン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ケイ素系樹脂、ウレタンエラストマー、アクリルニトリルゴム、シリコーンゴム、天然ゴムなどがある。
【0023】
また、上記の熱硬化性樹脂又は常温硬化性樹脂としては、例えばフェノール系樹脂、フラン系樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ系樹脂などがあるが、アクリルポリオール又はポリエステルウレタン系樹脂、ポリプロピレン変性アクリルポリオールウレタン系樹脂、アクリル−キレート硬化型樹脂、エポキシペンダントアクリル系樹脂、ウレタン化油系樹脂のような100℃以下の高めた温度又は常温で硬化反応が進行するものが好ましい。
【0024】
次に、上記のホットメルト系接着剤としては、例えばオレフィン系ホットメルト接着剤、ポリエステル系ホットメルト接着剤、ポリアミド系ホットメルト接着剤、湿気硬化型ホットメルト接着剤、UV、EB硬化型ホットメルト接着剤などがある。
【0025】
さらに、上記の固化性液状界面活性剤としては、例えばα‐オレフィンスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸及びその塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルエーテル硫酸エステル塩、メチルタウリン酸塩、アラニネート及びその塩、スルホコハク酸塩、エーテルスルホン酸塩、硫酸化油、エーテルカルボン酸塩などがある。
【0026】
そのほか、高級アルコール、ポリオキシアルキレングリコール、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸ポリエチレンオキシド、高級アルキルメラミン、高級アルキルジアミン系、エチレンオキシド付加脂肪酸メチルエステル、高級アミドエチレンオキシド付加体、高級アルキルアミンオキシド、高級アルキルアンモニウムハライド、エチレンオキシド付加型第四アンモニウムハライド、ベタイン型界面活性剤、カチオン性セルロース誘導体などがある。
【0027】
そのほか、石油ワックス類としては、例えばパラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロタムなどが用いられる。
【0028】
次に、この流動性バインダーとともに複合材料を形成するために用いられる固体充填材は、有機質、無機質のいずれでもよい。また、形状としては、球状、柱状、繊維状など流動性バインダー中に分散して複合体を形成し得るものであればどのような形状でもよい。
【0029】
有機質充填材の例としては、木粉、殻粉、木綿繊維、パルプ粉などの天然有機物粉粒体や、芳香族ポリアミド繊維のようなプラスチック粉粒体などを挙げることができる。また、無機質充填材の例としては、シリカ、ケイソウ土、アルミナ、軽石粉、炭酸カルシウム、タルク、クレー、マイカ、モンモリロナイト、ベントナイト、ガラスビーズ、ガラスバルーン、カーボンブラック、グラファイト、炭素繊維、ガラス繊維、ウイスカー、鉄粉、鉛粉、アルミニウム粉などのセラミックス粉粒体、金属粉粒体、鉱物粉粒体等を挙げることができる。
【0030】
これらの固体充填材は、単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。特にリン酸カルシウム、アルミナ、シリコンカーバイド、ジルコニア、チタニア、カーボンなど通常生体材料として慣用されているものを用いるのが好ましい。
【0031】
これらの固体充填材のサイズは、通常10μmないし3mm、好ましくは50μmないし1mmの範囲で選ばれる。
上記の流動性バインダーと固体充填材との混合割合は、質量比で99:1ないし30:70、好ましくは90:1ないし50:50の範囲内で選ばれる。
【0032】
本発明においては、このような流動性バインダー、固体充填材の種類及びこれらの成分の混合割合を適当に選ぶことによって、人工関節置換や骨軟骨欠損の治療に先立って、それらの硬質組織に近い物性の実体モデルを作成し、骨切り、ピン打ち付けなど現実に即したリハーサルを行うことができる。
本発明方法で用いる固化可能な流動性成形材料には、所望に応じ、防腐剤、難燃剤などを配合することができる。また、この成形材料に着色剤を加えることにより、例えば患部を明確に識別し得る着色実体モデルを製造することもできる。
【0033】
本発明方法で用いる型枠は、例えば次の図2に示す手順に従って行う三次元光造形法によって製造することができる。
すなわち、人体患部をMRI又はCTスキャンして得たデータをCADに入力して立体モデルを設計し、この立体モデルデータを立体造形用データフォーマットに変換し、次いで光造形装置内での配置や積層方向のような処理条件を決定したのち、所定の間隔にスライスしてその断面のデータを作成する。
【0034】
次いで、この断面データに基づき、図2(イ)に示すように容器4に光硬化性樹脂5を収容し、各断面画像の輪郭部に相当する帯域の光硬化性樹脂の表面を活性線例えばレーザ光で走査し、被照射部分の樹脂を硬化させて、断面データの輪郭部に対応する樹脂硬化層6を支持台7の上に形成させる。
【0035】
次に支持台7を上記スライスの間隔に対応する距離まで沈下させ、同じ操作を行い、最初の樹脂硬化層6の上に2段目の樹脂硬化層6´を成形させる(ロ)。この際の活性線の照射は、機械シャッター、光変調器、光学レンズを通し、X方向、Y方向の2個のスキャナミラーで照射位置を制御しながら支持台7上に行う。
【0036】
上記の活性線光源、光変調器、スキャナミラーは、コンピューターでコントロールし、それと同期して支持台7が制御される。
このようにして、各断面データの輪郭部全体に対応する硬化層8を形成させることにより(ハ)、型枠が得られる。
【0037】
次に、このようにして得た型枠の開口部分から、流動状態の成形材料を流し込み、加熱反応、硬化反応、水硬反応などにより固体化させ、所望の人体患部実体モデルを製造する。
【発明の効果】
【0038】
本発明によると、価格の高い光硬化性樹脂の使用量を少なくして、低コストとすることができる上に、使用目的に応じた要求物性をもつ実体モデルを任意に提供しうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
次に実施例により、本発明を実施するための最良の形態を説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【実施例1】
【0040】
光造形システム[シーメット社製、製品名「ラピッド・マイスター(Rapid Meister)6000S」]を用い、径25mm、長さ200mmの円筒容器中に、エポキシ系光硬化性樹脂(帝人製機社製、製品名「TRS821」)を満たして、下肢骨の型枠を作製した。
次いで、この型枠にパラフィン(融点68〜70℃)、ホットメルト接着剤A(東洋紡製、製品名「GT1200」)及びホットメルト接着剤B(城端ブレード社製)を成形材料としてそれぞれ注入し、3種のサンプルを製造した。
これらのサンプルについて、オシレーターを用いて骨切りのシミュレーションを行ったところ、パラフィンのサンプルが最も骨切りの感触は良好であった。
ホットメルト接着剤Aのサンプルは、骨切りの際、摩擦熱により溶融したが、切り出し面は平坦であった。
ホットメルト接着剤Bのサンプルは、骨切りの際、摩擦熱により溶融し、しかも切り出し面は粗化した。
【実施例2】
【0041】
光造形システム(ディーメック社製、製品名「SCS−8000」)と、光硬化性樹脂(ジェイ・エス・アール社製、製品名「SCR11120」)を用い、78歳女性の高度外反膝症患者のCT画像から下肢の型枠を作製した。
次いで、この型枠にホットメルト系接着剤A(東洋紡社製、製品名「GT1200」)を注入し、硬化させて実体モデルを製造した。
この実体モデルを用いて、術前手術シミュレーションを行ったのち、手術したところ、順調な術後経過が認められた。
本例は15年前に行われた同側の人工股関節置換手術の設置位置が不適当で外反膝となった例であり、本来、股関節の再置換を行った後で膝関節置換を施さなければならないにもかかわらず、膝関節置換のみで下肢長軸のアライメントを整えることに成功した難治例である。
【実施例3】
【0042】
実施例2と同じ光造形システム及び光硬化性樹脂を用いて交通事故により欠損した骨欠損部の型枠を作製した。次いでこの型枠にゼラチンゲルとヒドロキシアパタイトの質量比50:50の混合物を流し込み、加熱して水を除去することにより硬化させたところ、骨欠損部の形状を忠実に再現した実体モデルが得られた。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明によると、患者の手術のシミュレーション用として実体に近い物性をもつ患部実体モデルを製造することができ、手術前の患部検査及び手術の予行を行うサンプルとして好適である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明方法で用いる型枠の断面図。
【図2】本発明方法で用いる型枠の製造手順を示す説明図。
【符号の説明】
【0045】
1 型枠
2 実体モデル
3 注入口
4 製造用容器
5 光硬化性樹脂
6,6´光硬化性樹脂硬化体
7 支持台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
損傷を受けた人体硬組織をMRI又はCTスキャンして、該硬組織全体にわたる多数の二次元断層画像データを得、次いでこの画像データに基づき、液体光硬化性樹脂中、各二次元断層画像の外郭部を含む所定幅の帯域に活性線を照射して、各断層画像の外郭部形状に対応する内側面をもつ硬化体を形成し、得られた各硬化体を順次積層することにより、前記硬組織の外郭部形状に対応する内壁面をもつ光硬化性樹脂硬化体からなる型枠を作成し、次いでこの型枠に固化可能な流動性成形材料を流し込み、固化させたのち、型枠から固化成形体を取りはずすことを特徴とする人体患部実体モデルの製造方法。
【請求項2】
型枠の厚さが3〜30mmである請求項1記載の人体患部実体モデルの製造方法。
【請求項3】
型枠を構成する光硬化性樹脂硬化体がウレタンアクリレート系樹脂硬化体である請求項1又は2記載の人体患部実体モデルの製造方法。
【請求項4】
型枠を構成する光硬化性樹脂硬化体がエポキシ系樹脂硬化体である請求項1又は2記載の人体患部実体モデルの製造方法。
【請求項5】
固化可能な流動性成形材料が、流動性バインダーのみからなる請求項1ないし4のいずれかに記載の人体患部実体モデルの製造方法。
【請求項6】
流動性バインダーが熱可塑性樹脂の中から選ばれた少なくとも1種である請求項5記載の人体患部実体モデルの製造方法。
【請求項7】
流動性バインダーが常温硬化性又は熱硬化性樹脂の中から選ばれた少なくとも1種である請求項5記載の人体患部実体モデルの製造方法。
【請求項8】
流動性バインダーがホットメルト系接着剤の中から選ばれた少なくとも1種である請求項5記載の人体患部実体モデルの製造方法。
【請求項9】
流動性バインダーが固化しうる液体状界面活性剤の中から選ばれた少なくとも1種である請求項5記載の人体患部実体モデルの製造方法。
【請求項10】
流動性バインダーが固化しうる石油ワックス類の中から選ばれた少なくとも1種である請求項5記載の人体患部実体モデルの製造方法。
【請求項11】
固化可能な流動性成形材料が、流動性バインダーと固体充填材との複合体からなる請求項1ないし4のいずれかに記載の人体患部実体モデルの製造方法。
【請求項12】
固体充填材がプラスチック粉粒体、セラミックス粉粒体及び金属粉粒体の中から選ばれた少なくとも1種である請求項11記載の人体患部実体モデルの製造方法。
【請求項13】
着色している請求項1ないし12のいずれかに記載の人体患部実体モデルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−343434(P2006−343434A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−167523(P2005−167523)
【出願日】平成17年6月7日(2005.6.7)
【出願人】(593232206)学校法人桐蔭学園 (33)
【Fターム(参考)】