説明

人体貼付用粘着剤用共重合体エマルション、人体貼付用粘着剤組成物及び人体貼付用貼付材。

【課題】 人体貼付に適する粘着力、凝集力、タック等の粘着基本特性を備え、貼付中の違和感が少なく、かつ長期間貼付した際にも汗や体液への耐性があり、更に剥離時に貼付部位への粘着層の残留がない人体貼付用貼付材を提供する。それを得るための粘着剤組成物、更に、この粘着剤組成物を得るための共重合体エマルションを提供する。
【解決手段】 アクリル酸メチル5〜35重量%、炭素数4〜12のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル60〜90重量%、並びにアクリル酸及び/又はメタクリル酸2〜15重量%を含有してなる単量体混合物を乳化共重合して得られる共重合体を含有してなる人体貼付用粘着剤用共重合体エマルション。この共重合体エマルションを含有してなる人体貼付用粘着剤組成物。基材と、その少なくとも一方の表面に上記人体貼付用粘着剤組成物を用いて形成された粘着層とを有してなる人体貼付用貼付材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療、家庭又はスポーツの分野で使用される粘着テープ又はシート等の人体貼付用貼付材、そのために用いられる粘着剤組成物及びこの粘着剤組成物を得るための共重合体エマルションに関する。
【背景技術】
【0002】
医療、家庭又はスポーツの分野において、傷や捻挫等の疾患の処置、ガーゼやカテーテル等の医療材料の固定等に合成樹脂フィルムや繊維布帛を基材とする粘着テープ又はシート(以下、総称して「粘着テープ」という。)が使用されている。従来、粘着テープには、有機溶剤系粘着剤が多用されていた。しかし、近年の環境問題や、安全性、省資源化の観点から、有機溶剤系粘着剤組成物から水系粘着剤への移行が趨勢となっている。ところが、有機溶剤系粘着剤に比べて水系粘着剤は、耐水性が劣る。そのため、水系粘着剤を使用して得た粘着テープは、皮膚からの汗や、創傷やカテーテル穿刺部からの滲出液の影響により、貼付中に不意に剥がれてしまう恐れがあった。また、粘着剤の基材に対する接着性や凝集力が水分により低下し、粘着テープの剥離時に皮膚に糊残りを生じるという問題もあった。
【0003】
特許文献1には、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主原料モノマーとして用いてなる乳化重合物100重量部と(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主原料モノマーとして用いてなる溶液重合物5〜50重量部との混合物よりなる水性エマルション型アクリル系粘着剤、及び、この粘着剤からなる粘着層を基材の片面又は両面に形成してなる医療用粘着テープ又はシートが提案されている。
この粘着剤は、確かに、環境問題、安全性等の点で、有機溶剤系粘着剤よりも優れたものになるが、水系粘着剤と有機溶剤系粘着剤とを併用しなければならないので、製造工程が煩雑になる。また、この粘着剤を用いて得られる粘着テープは、上記の使用中の剥がれや糊残りの問題を十分に解決できるものではない。
工業分野においては、水系粘着剤組成物の耐水性を向上させる方法として、乳化剤として反応性乳化剤を用いる方法、水系エマルションの粒子径を小さくする方法、耐水性に優れる特定の単量体を導入する方法等が知られている。
しかしながら、人体貼付用粘着剤には、粘着力、凝集力、タックといった基本的な粘着特性に加え、貼付時に皮膚に対する違和感がないことが必要であり、また、上記したように、長期間貼付しても汗や体液によって不意に剥がれてしまわないこと、剥離時に糊残りしないこと、等の医療用製品特有の要求特性を満足させることが必要である。
これまで、このような人体貼付用粘着剤に対する要求特性を十分に満足させるものは知られていない。
【0004】
【特許文献1】特開平9−249855号公報(第2−3頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、人体貼付に適する粘着力、凝集力、タック等の粘着基本特性を備え、貼付中の違和感が少なく、かつ長期間貼付した際にも汗や体液への耐性があり、更に剥離時に貼付部位への粘着層の残留(所謂「糊残り」)がない人体貼付用貼付材を提供することにある。
本発明の他の目的は、この人体貼付用貼付材を得るための粘着剤組成物を提供することにある。
本発明の更に他の目的は、この粘着剤組成物を得るための共重合体エマルションを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討を進めた結果、特定の組成を有する単量体混合物を乳化重合して得られる共重合体エマルションを用いれば、上記目的を達成しうることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0007】
かくして、本発明によれば、アクリル酸メチル、炭素数4〜12のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル、並びにアクリル酸及び/又はメタクリル酸を含有してなる単量体混合物を乳化共重合して得られる共重合体を含有してなる人体貼付用粘着剤用共重合体エマルションが提供される。
本発明の人体貼付用粘着剤用共重合体エマルションは、アクリル酸メチル5〜35重量%、炭素数4〜12のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル60〜90重量%、並びにアクリル酸及び/又はメタクリル酸2〜15重量%を含有してなる単量体混合物を乳化共重合して得られる共重合体を含有してなるものであることが好ましい。
また、本発明の人体貼付用粘着剤用共重合体エマルションにおいて、アクリル酸及びメタクリル酸の量が合計で2〜15重量%であることが好ましく、単量体混合物におけるアクリル酸とメタクリル酸との重量比率(アクリル酸/メタクリル酸)が、1/99〜50/50の範囲内にあることがより好ましい。
本発明の人体貼付用粘着剤用共重合体エマルションにおいて、エマルション中の共重合体粒子の平均粒子径が0.08〜0.20μmの範囲内にあることが好ましい。
【0008】
また、本発明によれば、上記本発明の人体貼付用粘着剤用共重合体エマルションを含有してなる人体貼付用粘着剤組成物が提供される。
本発明の人体貼付用粘着剤組成物において、粘着力が5〜15N/25mmの範囲内にあり、浸水粘着力が5〜12N/25mmの範囲内にあることが好ましい。
また、本発明の人体貼付用粘着剤組成物において、浸水粘着力変化率の絶対値が0〜60%の範囲内にあることが好ましい。
更に、本発明によれば、基材と、その少なくとも一方の表面に本発明の人体貼付用粘着剤組成物を用いて形成された粘着層とを有してなる人体貼付用貼付材が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の人体貼付用貼付材は、貼付する身体各部位に対して良好な接着性や皮膚伸展に対する追従性を有し、更に貼付部位から発生する汗や滲出液に対しても十分な耐性を有し、しかも剥離時には組成物の貼付部位への残留がなく基材への良好な接着性を維持したまま剥離することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の人体貼付用粘着剤用共重合体エマルションは、アクリル酸メチル、炭素数4〜12のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル、並びにアクリル酸及び/又はメタクリル酸を含有してなる単量体混合物を乳化共重合して得られる共重合体を含有してなる。
本発明の人体貼付用粘着剤用共重合体エマルションを得るための単量体混合物は、アクリル酸メチルを必須成分とする。単量体混合物におけるアクリル酸メチルの含有量は、好ましくは5〜35重量%、より好ましくは10〜30重量%である。
アクリル酸メチルを使用することにより、得られる共重合体エマルションを含有してなる粘着剤組成物の発汗時の粘着力、凝集力、基材との接着性等が改善される。
アクリル酸メチルの含有量が、上記下限より低いと、得られる共重合体エマルションを含有してなる粘着剤組成物の浸水粘着力や耐白化性等の耐水性が低下したり剥離時に粘着剤組成物が貼付部位に残留したりする恐れがあり、また、上記上限より高いと、粘着剤組成物のタックが低下したり、粘着剤組成物が硬くなったりする恐れがあり、これから形成される人体貼付用貼付材の貼付時に皮膚伸展に対する追従性が低下し、違和感を生じる可能性がある。
【0011】
本発明においては、乳化共重合単量体として、アクリル酸メチルに、炭素数4〜12のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルを併用することが必須である。
炭素数4〜12のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルの使用量は、全単量体に対して、60〜90重量%であることが好ましく、65〜85重量%であることがより好ましい。
炭素数4〜12のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルの使用量が60重量%より少ないと、得られる共重合体エマルションを含有してなる粘着剤組成物と基材との接着性が低下する恐れがあり、90重量%よりより多いと凝集力が低下する恐れがある。
【0012】
炭素数4〜12のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルの具体例としては、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸n−アミル、(メタ)アクリル酸イソアミル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル等の直鎖アルキル基や分岐アルキル基等を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルが挙げられる。
これらの(メタ)アクリル酸エステルのアルキル基は、水酸基、ハロゲン原子等の置換基を有していてもよい。
これらの単量体は、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
これらのうち、アクリル酸ブチル及びアクリル酸2−エチルヘキシルが好ましく、アクリル酸2−エチルヘキシルが特に好ましい。この2種類の単量体のいずれかを使用すると、得られる共重合体エマルションを含有してなる粘着剤組成物が皮膚表面温度付近で皮膚に対する良好な柔らかさ及び追従性を示す。
【0013】
本発明においては、乳化共重合単量体としてアクリル酸及び/又はメタクリル酸を使用することが必須である。
アクリル酸及び/又はメタクリル酸の使用量は、合計で、単量体混合物に対して2〜15重量%であることが好ましく、2〜7重量%であることがより好ましい。この使用量が2重量%より低いと、乳化重合の重合安定性が低下し、得られる共重合体エマルションを含有してなる粘着剤組成物が皮膚に対して十分な接着性を示さない恐れがあり、15重量%より多いと、粘着剤が硬くなり、粘着テープの貼付時に皮膚伸展に対する追従性が低下し、違和感を生じる恐れがある。
【0014】
本発明においては、アクリル酸及びメタクリル酸を併用することが好ましい。両者を併用することにより、得られる共重合体エマルションを含有してなる粘着剤組成物が皮膚との間で良好な接着性を発揮し、この粘着剤組成物から貼付材を形成した時に粘着層が基材や皮膚から流動し(はみ出し)難くなる。このような特性を得るためには、使用するアクリル酸とメタクリル酸との重量比率が、1/99〜50/50の範囲内にあることが好ましく、10/90〜40/60の範囲内にあることがより好ましい。
【0015】
本発明の人体貼付用粘着剤用共重合体エマルションを得るに当たって、単量体として、アクリル酸メチル、炭素数4〜12のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル、並びにアクリル酸及びメタクリル酸のほかに、これらの単量体と共重合可能な単量体を併用することができる。
このような単量体としては、置換基を有していてもよい炭素数1のアルキル基を有するメタクリル酸エステル;置換基を有していてもよい炭素数2〜3のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル;アクリル酸及びメタクリル酸以外のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸及びその誘導体;α,β−エチレン性不飽和カルボン酸アミド及びその誘導体;架橋性単量体;α,β−エチレン性不飽和ニトリル;カルボン酸ビニルエステル;芳香族ビニル化合物;共役ジエン等を挙げることができる。
【0016】
これらの単量体の具体例としては、メタクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸トリエチレングリコール;クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸、イタコン酸メチル、マレイン酸ブチル、フマール酸プロピル;(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリアリルイソシアヌレート;(メタ)アクリロニトリル;酢酸ビニル;スチレン;ブタジエン;等を挙げることができる。
これらの単量体は、1種類を単独で使用しても2種類以上を併用してもよい。
これらの単量体の使用量は、本発明の効果を損なわない限りにおいて限定はないが、単量体混合物の好ましくは20重量%以下、より好ましくは10重量%以下である。
【0017】
なお、本発明において、(メタ)アクリル酸エステルは、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルの総称であり、同様に、(メタ)アクリル酸は、アクリル酸及びメタクリル酸の総称である。
【0018】
本発明の人体貼付用粘着剤用共重合体エマルションは、上記単量体混合物を乳化共重合することによって得ることができる。乳化共重合に用いる重合副資材の種類や量及び重合条件に特に限定はない。
重合開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩やアゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物を用いることができる。また、レドックス系重合触媒を用いてもよい。レドックス系重合触媒の具体例としては、t−ブチルハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物とロンガリット、メタ重亜硫酸ナトリウム等の還元剤との組み合わせ;過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムとロンガリット、チオ硫酸ナトリウム及びアスコルビン酸の組み合わせ等が挙げられる。
【0019】
乳化剤としては、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルフォン酸塩、アルキルエーテルジスルフォン酸塩、脂肪酸塩及びナフタレンスルフォン酸ホルマリン縮合物等のアニオン性界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル類、ソルビタン高級脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビタン高級脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレン高級脂肪酸エステル類及びグリセリン高級脂肪酸エステル類等のノニオン性界面活性剤;等が挙げられる。また、カチオン性界面活性剤を使用してもよい。
【0020】
本発明において、乳化剤として、分子内に重合性不飽和結合と界面活性を発揮する構造とを有する、所謂共重合性乳化剤を使用することが好ましい。このとき、アニオン界面活性剤等を併用してもよい。
共重合性乳化剤の具体例としては、アルキルアリルスルホコハク酸ナトリウム、メタクリロイルオキシポリオキシアルキレン硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルアリルフェノールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルフェノールエーテル硫酸エステル塩等を挙げることができる。これらの反応性乳化剤は、必要に応じ、複数のものを組み合わせて使用してもよい。
共重合性乳化剤の使用量は、単量体混合物全量に対して、0.5〜5重量%の範囲内であることが好ましい。この範囲の使用量であるとき、共重合体エマルションは安定性に優れ、得られる共重合体エマルションを含有してなる粘着剤組成物の耐水性(浸水粘着力、浸水粘着力変化率及び耐白化性)が優れたものとなる。
【0021】
乳化共重合に際して、連鎖移動剤を使用することが好ましい。連鎖移動剤としては、特に限定されないが、アルキルメルカプタン、チオグリコール、2−メルカプトプロピオン酸等のメルカプタン化合物を例示することができる。その使用量も特に限定されないが、全単量体に対して0.05〜0.2重量%であることが好ましい。この範囲内で使用すると、得られる共重合体エマルションを含有してなる粘着剤組成物の皮膚貼付時の凝集力が十分な水準となり、タックや粘着力も優れたものとなる。
【0022】
乳化共重合に際して、単量体の添加方法は、特に限定されない。
全単量体を一括して添加してもよく、全単量体を2以上の部分に分割して、逐次重合させてもよい。更に、重合初期に単量体の一部を重合器に添加して、残りを逐次添加する方法によってもよい。また、逐次添加に際して、単量体組成は、均一であっても、時間に応じて変化させてもよい。
重合終了後、必要に応じて、残留単量体の除去、pH調整、濃縮等の後処理を行う。その方法も特に限定されない。
【0023】
本発明の人体貼付用粘着剤用共重合体エマルションは、共重合体の平均粒子径が0.08〜0.20μmの範囲内にあることが好ましい。平均粒子径がこの範囲内にあるときに、エマルションの安定性に優れ、これを含有してなる粘着剤組成物の耐水性が優れたものとなる。
【0024】
本発明の人体貼付用粘着剤組成物は、アクリル酸メチル、炭素数4〜12のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル、並びにアクリル酸及び/又はメタクリル酸を含有してなる単量体混合物を乳化共重合して得られる共重合体を含有してなる本発明の人体貼付用粘着剤用共重合体エマルションを含有してなる。
この粘着剤組成物は、本発明の人体貼付用粘着剤用共重合体エマルションに、必要に応じて、増粘剤、粘着付与剤、可塑剤、薬剤、着色剤、充填剤、その他の添加剤を配合することによって得ることができる。
【0025】
本発明の人体貼付用水性エマルション型粘着剤組成物は、後述する試験方法に基づき以下の特性を有することが好ましい。
粘着力は、5〜15N/25mmの範囲内にあることが好ましい。粘着力がこの範囲内にあるときに、皮膚貼付時に剥がれることがなく、皮膚障害を与えることなく皮膚から貼付材を除去することができる。なお、ここでいう粘着力とは、後述する実施例の[粘着力]の試験方法による測定値を示す。
【0026】
また、浸水粘着力が5〜12N/25mmの範囲内にあることが好ましい。浸水粘着力がこの範囲内にあるときに、発汗した場合や貼付材の上に水等が掛かった場合でも貼付材が剥がれることがなく、貼付材を皮膚乾燥時に除去しようとした場合でも皮膚刺激を与える恐れがない。なお、ここでいう浸水粘着力とは、後述する実施例の[浸水粘着力]の試験方法による測定値を示す。
【0027】
更に、0.9%NaCl水溶液浸漬前後の粘着力変化率(「浸水粘着力変化率」という。)の絶対値が0〜60%の範囲内にあることが好ましい。このような範囲であれば、粘着剤が汗や滲出液と接触しても、皮膚や基材に対する良好な接着性を維持できる。なお、ここでいう浸水粘着力変化率とは、後述する実施例の[浸水粘着力変化率]の試験方法による測定値を示す。
【0028】
更に、凝集力が300分以上であることが好ましい。凝集力が300分未満であると、粘着層が基材や皮膚から流動し(はみ出し)易く、貼付材の剥離時に皮膚に粘着層が残留する可能性がある。なお、ここでいう凝集力とは、後述する実施例の[凝集力]の試験方法による測定値を示す。
【0029】
更に、本発明の粘着剤組成物は、そのタックが#3〜#26であることが好ましい。タックがこの範囲内にあるときに、皮膚に容易に貼付することができ、貼付材が手にまとわりつくようなことがなく、操作性にすぐれたものとなる。なお、ここでいうタックとは、後述する実施例の[タック]の試験方法による測定値を示す。
【0030】
上記の粘着剤組成物の各特性は、共重合体の単量体組成、エマルション中の共重合体粒子の平均粒子径、共重合性乳化剤の使用等により適宜調整することができる。
【0031】
本発明の人体貼付用貼付材は、基材と、その少なくとも一方の表面に本発明の人体貼付用粘着剤組成物を用いて形成された粘着層とを有してなる。
基材の材質としては、従来、この分野で使用されているものであれば特に限定されず、和紙、クレープ紙、不織布、プラスチックフィルム等を挙げることができる。中でも、他の材料と接着や熱シールによって組み合わせることが容易なポリオレフィン系又はポリエステル系の基材が好ましい。
本発明において、基材は、伸縮性や柔軟性に富み、通気性及び透湿性を有することが好ましい。
【0032】
ポリオレフィン系基材の材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン・エチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレン・メチルアクリレート共重合体(EMA)、エチレン・メチルメタクリレート共重合体(EMMA)、エチレン・メタクリル酸重合体(EMAA)、エチレン・アクリル酸共重合体(EAA)等や、これらの混合物が挙げられる。
ポリエステル系基材の材料としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等が挙げられる。
【0033】
エマルション型粘着剤組成物は、レーヨンや綿のような親水性の基材に対しては、接着性が良好であるが、ポリオレフィン系、ポリエステル系のような疎水性の基材に対する接着性は余りよくないと言われている。しかし、本発明の粘着剤組成物は、共重合体エマルションの必須構成単量体としてアクリル酸メチル等を使用することによって、これらの基材との接着性が改良されている。
【0034】
基材の少なくともその一方の面に本発明の粘着剤組成物からなる粘着層を形成することによって、本発明の貼付材を得ることができる。粘着層形成の方法は、特に限定されない。
貼付材の形態は、特に限定されないが、粘着テープ又はシートの形態を例示することができる。
【実施例】
【0035】
以下に、実施例により本発明を説明する。なお、各例中の部及び%は特に断りのない限り、質量基準である。
また、各特性の評価方法は、以下のとおりである。
【0036】
[試験片の作成]
粘着剤組成物を、ポリエステルフィルム(東レ社製、商品名「ルミラー」)25μmに対して乾燥後の厚みが25μmとなるように塗布し、オーブンにより乾燥して粘着シートの検体を作成する。
【0037】
[粘着力]
JIS Z0237に規定する『粘着力』の試験に準ずる。ベークライト板(厚さ20mm×巾40mm×長さ150mm、二村化学社製)を被着体として用意し、酢酸エチルを染み込ませた布で表面を清拭する。巾25mm×長さ約200mmに切り出した試験片を被着体に貼り合わせ、JIS K6253に規定するスプリング硬さ80±5HS、厚さ約6mmのゴム層で被覆された巾約45mm直径約95mm、質量約2,000gの圧着装置を用いて、試験片を300mm/分の速度で1往復させて圧着する。23℃、65%RHの環境に20分間放置した後、JIS B7721に規定する材料試験器を用いて300mm/分の速度で試験片を180°方向に折り返して引き剥がす。試験を3回繰り返して、測定値を平均する。
この粘着力は、5〜15N/25mmの範囲内にあるのがよい。
【0038】
[浸水粘着力]
試験片の粘着剤表面を暴露した状態で、37℃に調整した0.9%NaCl水溶液に浸漬する。この水溶液の温度を37℃に保持したまま3時間試験片を浸漬した後、取り出して、前記[粘着力]の試験の被着体と同様にして用意した被着体に、同様の方法で貼り合わせる。23℃、65%RHの環境に20分間放置した後、JIS B7721に規定する材料試験器を用いて300mm/分の速度で試験片を180°方向に折り返して引き剥がす。測定を3回繰り返して、平均値を求める。
この浸水粘着力は、5〜12N/25mmの範囲内にあるのがよい。
【0039】
[浸水粘着層残留率]
また、上記浸水粘着力試験において、試験片を被着体から引き剥がしたときの試験片からの粘着層の剥離の程度を、全試験片面積に対する剥離面積の比率で示す。この比率が低い方がよい。
【0040】
[耐白化性]
上記浸水粘着力試験において、浸漬試験片を取り出した直後の白化の状態を観察し、以下の基準で判定する。白化の程度が低い方が好ましい。
○:全く白化していない。
△:試験片が全面に僅かに白化している。
×:試験片全面に白化している。
【0041】
[浸水粘着力変化率]
また、0.9%NaCl水溶液浸漬前後の粘着力の変化率を下式により算出する。
浸水粘着力変化率(%)=[(粘着力−浸水粘着力)/(粘着力)]×100
浸水粘着力変化率は、その絶対値が小さい方がよい。
【0042】
[凝集力]
JIS Z0237に規定する『保持力』の試験に準ずる。清浄にしたSUS304鋼板に、巾25mm×長さ約60mmに切り出した試験片を、25mm×25mmの面積が接触するように貼り付ける。被着体を内部温度40℃に設定した恒温槽付きクリープ試験機(シンコー科学社製)に設置し、被着体からはみ出した試験片端部に1kgの分銅を吊す。試験片が被着体から落下するまでの時間を測定する。
凝集力は、数値が大きい方がよい。
【0043】
[タック]
JIS Z0237に規定する『傾斜式ボールタック』の試験に準ずる。傾斜角度を30℃に設定し、JIS G4805に規定する高炭素クロム軸受鋼鋼材を試験片の上で転がしJIS B1501に規定するボールの読みにしたがって、停止したボールの番号を記録する。
タックは、ボールの番号が大きい方がタックが大きいことを示す。
【0044】
[皮膚貼付評価]
(剥離面積率)
目付け44g/mのポリエステル不織布(デュポン社製、商品名「ソンタラ#8010」)に粘着剤組成物を塗布し、オーブンにより乾燥して、粘着層の乾燥塗布量が50g/mの粘着シートを作成する。この粘着シートから25mm×75mmの試験片を切り出して、被験者8名の背中に貼付する。8時間経過後に皮膚から剥がれた部分の面積を測定して、試験片の全面積に対する割合を算出し、被験者8名についてのこの割合の平均値を剥離面積率(%)とする。
剥離面積率は、小さい方がよい。
(貼付中の違和感)
また、被験者が貼付中に違和感を覚えたかどうかについて聴取し、違和感を覚えた被験者の人数を記録する。
【0045】
[実施例1]
アクリル酸2−エチルヘキシル82部、アクリル酸メチル10部、メタクリル酸メチル4部、アクリル酸1部、メタクリル酸3部、これら全単量体100部に対してチオグリコール酸オクチル0.1部、反応性アンモニア中和型アニオン性界面活性剤(第一工業製薬社製、商品名「アクアロンKH−10」)2部をイオン交換水32部に溶解したものを加えて攪拌して乳化し、乳化物を得、これを滴下ロートに入れた。
撹拌機、冷却管、温度計及び上記滴下ロートを取り付けた4つ口フラスコに、イオン交換水75部及びアニオン性乳化剤ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩(日本乳化剤社製、商品名「RA−9607」)0.2部を仕込み、フラスコ内部を窒素ガスで置換し、撹拌しながら内温を80℃まで昇温し、過硫酸カリウム0.1部を含有する3%水溶液を添加した。
5分後、上記滴下ロートから上記乳化物の滴下を開始し、これと並行して過硫酸カリウム0.35部を含有する3%水溶液を別の滴下口から3時間掛けて滴下した。
内温を80℃に保ったまま、上記乳化物滴下終了60分後に1%t−ブチルハイドロパーオキサイド水溶液2部及び1%ロンガリット水溶液2部を3回に分けて30分おきに添加した。
更に撹拌を続けながら80℃で60分間熟成した後、冷却し、アンモニア水で中和し、固形分45%のアクリル系共重合体エマルション(人体貼付用粘着剤用共重合体エマルション)を得た。粒径測定装置(日機装社製、商品名「マイクロトラック」)で測定した平均粒子径は、0.1μmであった。
【0046】
得られたアクリル系共重合体エマルション(人体貼付用粘着剤用共重合体エマルション)に、消泡剤及びレベリング剤を、加え、更にアンモニア水でpHを8.0に調整し、更に粘度調整剤で18,000mPa・s(BL型粘度計、#4ローター使用、12rpm)に調整し、人体貼付用粘着剤組成物を得た。
この人体貼付用粘着剤組成物を、ポリエステルフィルム(東レ社製、商品名「ルミラー」)25μmに対して乾燥後の厚みが25μmとなるように塗布し、オーブンにより乾燥して粘着シート(人体貼付用貼付材)を得た。
この粘着シートについて、各特性を評価した。結果を表1に示す。
【0047】
[実施例2〜3及び比較例1〜2]
単量体組成を表1に示すように変更したほかは、実施例1と同様にして、人体貼付用粘着剤用共重合体エマルション及び人体貼付用粘着剤組成物を得た。結果を表1に示す。
表1に示す人体貼付用粘着剤組成物を用いて、実施例1と同様にして、粘着シート(人体貼付用貼付材)を得た。
この粘着シートについて、実施例1と同様に各特性を評価した。結果を表1に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
表1から分かるように、共重合体の単量体成分としてアクリル酸メチルを使用しなかった場合(比較例1)は、浸水粘着力が大きく、浸水時の粘着力変化率も大きい。また、粘着層が90%以上残留して白化の程度も大きい。更に、皮膚貼付時の剥離面積率も大きい。
アクリル酸メチルに代えて、実施例2におけるアクリル酸メチルとほぼ同量のメタクリル酸メチルを使用すると(比較例2)、浸水粘着力、耐白化性等の耐水性は改良されるが、タックが低く、皮膚貼付時の剥離面積率が大きく、また、違和感を覚える被験者が多い等の問題があることが分かる。
【0050】
これらに対して、本発明(実施例1〜3)においては、全ての評価試験項目において良好な結果が得られている。特に、浸水時の粘着力変化率も小さく、白化も起こらず、被着体への粘着層の残留も全くないか僅かである。従って本発明の人体貼付用粘着剤組成物は、水の影響下でも粘着力の変化が少なく、良好な耐水性を有することが分かる。また、皮膚に対しても、剥がれや違和感はなく、良好な貼付結果を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル酸メチル、炭素数4〜12のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル、並びにアクリル酸及び/又はメタクリル酸を含有してなる単量体混合物を乳化共重合して得られる共重合体を含有してなる人体貼付用粘着剤用共重合体エマルション。
【請求項2】
アクリル酸メチル5〜35重量%、炭素数4〜12のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル60〜90重量%、並びにアクリル酸及び/又はメタクリル酸2〜15重量%を含有してなる単量体混合物を乳化共重合して得られる共重合体を含有してなる請求項1に記載の人体貼付用粘着剤用共重合体エマルション。
【請求項3】
アクリル酸及びメタクリル酸の量が合計で2〜15重量%である請求項2に記載の人体貼付用粘着剤用共重合体エマルション。
【請求項4】
単量体混合物におけるアクリル酸とメタクリル酸との重量比率(アクリル酸/メタクリル酸)が、1/99〜50/50の範囲内にある請求項3に記載の人体貼付用粘着剤用共重合体エマルション。
【請求項5】
エマルション中の共重合体粒子の平均粒子径が0.08〜0.20μmの範囲内にある請求項1〜4のいずれかに記載の人体貼付用粘着剤用共重合体エマルション。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の人体貼付用粘着剤用共重合体エマルションを含有してなる人体貼付用粘着剤組成物。
【請求項7】
粘着力が5〜15N/25mmの範囲内にあり、浸水粘着力が5〜12N/25mmの範囲内にある請求項6に記載の人体貼付用粘着剤組成物。
【請求項8】
浸水粘着力変化率の絶対値が0〜60%の範囲内にある請求項7に記載の人体貼付用粘着剤組成物。
【請求項9】
基材と、その少なくとも一方の表面に請求項6〜8のいずれかに記載の人体貼付用粘着剤組成物を用いて形成された粘着層とを有してなる人体貼付用貼付材。

【公開番号】特開2007−63384(P2007−63384A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−250418(P2005−250418)
【出願日】平成17年8月31日(2005.8.31)
【出願人】(000151380)アルケア株式会社 (88)
【Fターム(参考)】