説明

人工呼吸器による補助呼吸中の人の血行に対するストレスを評価するための装置

本発明は、各呼吸周期内の血行値の、少なくとも1つの最小振幅および最大振幅から、それぞれの場合に、人工呼吸の人の各呼吸周期の吸気相および呼気相を検知するのに適した検知手段と、前記呼吸周期内で発生する前記血行値の振幅の変動を計算するためのコンピューティング・デバイスとを備える装置に関する。本発明は、コンピューティング・デバイスが、血行値の各振幅を吸気相または呼気相に割り当て、吸気相に割り当てられた振幅から血行値の一方の極端な振幅と、呼気相に割り当てられた振幅から血行値の他方の極端な振幅とを決定し、呼吸周期の2つの相における極端な振幅間の振幅変動から、補助呼吸によって引き起こされる血行力学的ストレスが高すぎるかどうか確かめるように設定されていることによって特徴付けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前提部分による装置に関する。
【背景技術】
【0002】
機械的換気を受ける患者の血行力学的状態を評価するためのデバイスが、EP−A 1 813 187から知られている。このデバイスは、血行力学的変数の呼吸変動図をもたらすように設定されており、この呼吸変動図に基づいて、血行力学的パラメータの値を各機械的呼吸周期について推定することを、また、これらの推定値の、血行力学的解析に対する適性の評価の数値化を可能にする。この解析の目的は、輸液療法に対する患者の反応を評価することができるようになることである。
【0003】
たとえば患者が心臓不整脈を患っている場合、または患者が不規則な呼吸パターン、すなわち不規則な呼吸頻度または不規則な一回換気量を有する場合、不安定な値が発生する。
【0004】
値の適正は、不整脈に基づいて評価される。これは、血行力学的変数の、パルスからパルスまでのピーク間の時間間隔を記録することによって、またはECGによって決定されることが好ましい。血行力学的パラメータの値が適切である時間間隔は、平均時間間隔からの所定の差のある最大値を有する。より大きな差を有する時間間隔の場合、血行力学的パラメータの値が解析から除外される。
【0005】
また、値の適正さは、不規則な呼吸パターンを決定することに基づいて評価される。これは、血行力学的パラメータの値のパターンに基づいて決定される。血行力学的パラメータの値は機械的呼吸周期パターンに割り当てられるのであるが、その呼吸周期の差が所定の値を超えた場合、それらの血行力学的パラメータの値は解析から除外される。
【0006】
好ましい血行力学的パラメータは、正規化された動脈血圧PPの変動である。本明細書及び出願日当時における知られている教示によれば、正規化された動脈血圧PPnの変動PPVにより、輸液療法に対する心臓容積の反応に関する情報が得られる。この変動PPVは、以下の式に従って決定される。
【0007】
【数1】

【0008】
述べられているデバイスは、ベンチレータに直接接続させることができる。次いで、ベンチレータは、一回換気量および/または気道圧および/または気道流量の測定信号をデバイスに送る。このデバイスは、パルスオキシメトリ・プレチスモグラフィ波形を血行力学的変数として、またその変動を血行力学的パラメータとして使用することができる。関連の研究結果が発表された時点で、この発明者は、これらのパルスオキシメトリ信号が有意なものであるかどうか記録していなかった(「Changes in Arterial Pressure during Mechanical Ventilation」Frederic Michard、Anaesthesiology 2005年、vol.103:419〜428)。
【0009】
出版物「Does the Pleth Variability Index Indicate the Respiratory−Induced Variation in the Plethysmogram and Arterial Pressure Waveforms?」Maxime Cannessonら、ANESTHESIA & ANALGESIA vol.106、No.4、2008年4月、1190〜1194頁から、プレチスモグラムの振幅の変動が所与の期間、すなわち呼吸周期内で測定される最小振幅および最大振幅から計算されることを、当業者なら理解できる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明の目的は、機械的換気を受ける人に対する血行力学的ストレスを評価するための装置であって、その評価と実際のストレスとの相関が高い装置を提案することである。具体的には、非侵襲的な手段によって人に対する血行力学的ストレスを確実に決定することができる装置が生み出される。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的は、請求項1による装置によって達成される。本発明による装置は、機械的換気を受ける人の血行に対するストレスを非侵襲的かつ連続的に評価することができる。そのためには、本装置は、呼吸周期と、その呼吸周期内の、血行を表す血行値の変動とを決定するためのデバイスを有する。この連続的に計算された変動を、血行に対するストレスの尺度として使用し、それを絶えず表示することができ、また、機械的換気を受ける人の血行の監視として使用することができる。さらに、この変動を使用して、自動的な装置設定の変更を制御し、したがってそれらの設定を患者に合わせて絶えず調整することができる。
【0012】
本発明による装置は、人の呼吸周期、特に各呼吸周期の吸気相および呼気相を検知するのに適した、知られているような検知手段であって、それぞれの場合に、1つの呼吸周期内での血行値(Z)についての、少なくとも1つの最小(ZAmin)振幅および少なくとも1つの最大(ZAmax)振幅を検知するのに適した検知手段を備える。また、この装置は、知られている、前記呼吸周期内で発生する血行値の振幅の変動(ZAV)を計算するためのコンピューティング・デバイスを有する。
【0013】
本発明による装置は、コンピューティング・デバイスが血行値の各振幅を吸気相または呼気相に割り当てるように設定されていることを特徴とする。また、コンピューティング・デバイスは、吸気相に割り当てられた振幅から血行値の一方の極端な、たとえば最大の振幅と、呼気相に割り当てられた振幅から血行値の他方の極端な、たとえば最小の振幅とを決定するように構成されている。また、コンピューティング・デバイスは、呼吸周期の2つの相における極端な振幅間の振幅変動から、補助呼吸によって引き起こされる血行力学的ストレスが高すぎるかどうか推定するように構成されている。
【0014】
本発明のより具体的な目的の範囲内において、血行値がパルスオキシメトリ・プレチスモグラフィ測定値POPであれば好ましい。しかし、侵襲的な測定が受け入れられる、またはどうしても必要とされる場合、血行値がこの測定から推定されてもよい。しかし、本発明の、血行値の振幅の最大値および最小値の選択により、パルス・オキシメータ信号のプレチスモグラフィ波形の適切さをも高めることができることが判明している。
【0015】
従来、当業者は、人工呼吸の患者における血行値、たとえば動脈血圧の振幅の最大値が常に吸気相内にあり、その振幅の最小値が常に呼気相内にあると仮定していた(「Using heart−lung interactions to assess fluid responsiveness during mechanical ventilation」の図5に関する備考、Crit Care 2000、4:282〜289、2000年9月1日参照)。パルスオキシメトリ・プレチスモグラフィ波形と心拍出量との相関を、機械的呼吸の生体に関して、出願人がテストで観察した。上述の仮定が必ずしも正しくないことが判明した。機械的呼吸の人の場合には、血行値のより大きな振幅が、吸気相内より呼気相内で発生しうる(図1)。
【0016】
血行値の振幅の変動と心拍出量とのより高い相関は、最大振幅を吸気相内だけで、また最小振幅を呼気相内だけで引き出すことによって達成することができる。各最大振幅または最小振幅を吸気相または呼気相に割り当てることは、呼吸の2つの相間における胸部内の圧力状態の変化と一致する。この割当ての結果として、たとえば患者の移動により、最小振幅と最大振幅が同じ呼吸相内で生じる場合に発生する状況を見つけるのを人工的に助けるフィルタ機能が組み込まれる。そのような状況は、実際には非常に頻繁に起こりうるため、この割当てに基づく計算は、最小振幅と最大振幅が同じ呼吸相に関連付けられることを許す計算に比べて、はるかにロバストである。
【0017】
コンピューティング・ユニットは、各呼吸相の2つの起こりうる極端な振幅の一方だけでなく、両方を決定することが有利である。したがって、有利な実施形態では、コンピューティング・ユニットは、呼気相および吸気相のどちらにおいてもそれぞれ最小振幅および最大振幅を決定するように構成されている。また、コンピューティング・ユニットは、これらの4つの値から、より具体的には吸気相内の最小振幅と呼気相内の最大振幅との間、および吸気相内の最大振幅と呼気相内の最小振幅との間で、1呼吸周期あたりの両方の振幅変動を計算するように設定されている。
【0018】
この場合、コンピューティング・ユニットは、その呼吸周期内の2つの計算された振幅変動のうち大きい方を、血行力学的ストレスにとって有意なものとして取り上げるように適切に構成されている。能動的に呼吸する患者の場合、変動が、受動的な患者の場合における変動の正反対であることが判明することがある(図2参照)。そのとき、2つの変動の大きい方は、呼気相内の最大振幅と吸気相内の最小振幅との間の変動である。
【0019】
したがって、この種の装置は、呼気相に割り当てられた振幅から呼吸中の血行値の最大振幅および最小振幅と、吸気相に割り当てられた振幅から血行値の最大振幅および最小振幅とを決定するように、また、これらの振幅における分散から、その人に対する血行力学的ストレスを表す値(α)を計算するように構築されることになる。パルス・オキシメータ信号のプレチスモグラフィ波形を処理するこの種の装置は、能動的に呼吸する患者と受動的な人工呼吸の患者の血行力学的状態を評価することを可能にするので、独自のものである。
【0020】
コンピューティング・ユニットは、呼吸中に、値(α)が連続的かつ非侵襲的に計算され表示されるように構成される。αによって患者の血行に対するストレスを決定するために、外的な刺激、操作、または通常の呼吸の変化は必要とされない。
【0021】
機械的呼吸の人に関しては、血行に対する呼吸の作用を制御下においておくことが第一に重要なことである。したがって、コンピューティング・デバイスが、ある呼吸周期の血行値の振幅の変動を、調整された呼気終末圧PEEPを決定するための基礎として使用するように、また、機械的呼吸に使用すべきこのPEEPを渡すように構成されている装置が好ましい。この装置が所与のPEEPによる心拍出量の作用を、プレチスモグラフィ・パルス・オキシメータ信号の変化に基づいて推測することが可能である場合、呼吸の作用は、PEEPを最適化することによって最適化することができる。そのためには、血行値の振幅の最大許容変動に関する限界値は、固定され、コンピューティング・ユニットによって使用されることが有利である。これらの限界値は、年齢依存、体質依存となるように、かつ/または好ましくは肺(たとえばコンプライアンス)および血管(たとえば動脈硬化)に依存するものとなるように固定とすることができる。
【0022】
コンピューティング・ユニットは、ある呼吸周期の血行値の振幅の変動に基づいて、また記憶された限界値との比較によって、PEEPを増大させることができるか、それとも減少させなければならないか判断するように適切に構築されている。
【0023】
このPEEP判断は、PEEP判断に考慮されている連続する呼吸周期の血行値Zの振幅ZAの平均変動に基づくことが有利である。好ましい平均化は、複数の決定済み変動ZAVからメジアンZAVmedを形成することである。使用される考慮中の呼吸周期の数は、コンピューティング・ユニット内に記憶されるが、変更することができる。
【0024】
血行力学的ストレスを評価するために、または適切なPEEPを決定するために使用される、ある呼吸周期の血行値Zの振幅ZAの変動ZAVは、特に以下の式、すなわち
【0025】
【数2】

に従って、または以下の式、すなわち
【0026】
【数3】

によるパルスオキシメトリ信号に特に基づいて適切に正規化され、一般化される。
【0027】
上記の値に100を乗ずることによって百分率を使用することもできる。
【0028】
2つの値ZAV1およびZAV2、またはPOPV1およびPOPV2から値の大きい方が取り上げられる。高い方の値は、呼吸によって引き起こされる血行力学的ストレスが受け入れられるものか、それとも高すぎるかに関する宣言に関連するものとして取り上げられる。そのためには、高い方の値を、PEEPに依存する定数kと比較する。符号を考慮したときその値がkより高い場合、血行力学的ストレスは高すぎる。符号を考慮したときその値がkより低い、またはkに等しい場合、ストレスは、適度なものの境界内にある。本発明の好ましい実施形態は、表示手段をも備える。これらの表示手段は振幅変動を示し、または、呼吸によって引き起こされる血行力学的ストレスがその人にとって高すぎるか否かを示す振幅変動からの推定を示す。計算された振幅変動、またはまたは振幅変動からの推定を、記憶された限界値と比較することができ、この限界値を超えた場合、それを視覚的信号または音響信号として表示することができる。その結果、たとえば医療従事者は、その患者の血行力学的状態について絶えず情報を受ける。したがって、医療従事者は、血行の好ましくない変化が発生したとき、早めに警告を受ける。任意選択で、表示手段は、これらの変数のうちの1つの傾向を示すことができる。また、表示手段は、複数の上述の値を表示することもできる。
【0029】
本発明による装置は、人工呼吸器とすることができる。この場合、呼吸周期および呼吸相を検知するための検知手段が人工呼吸器に組み込まれる。人工呼吸器は、血行値を決定するためのセンサとしてパルス・オキシメータを備えることが有利である。
【0030】
しかし、この装置は、呼吸機能のない監視用デバイスとすることもできる。そのときには、この装置は、監視用デバイスと、パルス・オキシメータと、監視用デバイスに接続された、呼吸周期および呼吸相を検知するための検知手段とを備える。
【0031】
最小振幅および最大振幅を決定するには不十分なパルスが吸気相または呼気相内にある状況が発生する可能性がある。使用可能な結果を得るために、示されている状況に対応する1つの可能性は、複数の吸気相および複数の呼気相にわたって1つの最大値と1つの最小値だけを引き出すこと、ならびに複数の呼吸周期内のこの変動を評価に使用し、その患者に対する血行力学的ストレスを決定することにある。具体的には、振幅のない呼吸相を考慮しない。そのためには、コンピューティング・ユニットが、複数の呼吸周期にわたる振幅をそれぞれ吸気相または呼気相に割り当てること、およびこの複数の呼吸周期の吸気相に割り当てられた振幅から振幅の一方の極端な値を、また呼気相に割り当てられた振幅から他方の極端な値を決定することが必要である。
【0032】
本発明はまた、方法に関する。この方法には、以下の既知ステップ、すなわち、
− 人の呼吸周期と、各呼吸周期の吸気相および呼気相とを検知するステップと、
− それぞれの場合に、単一の呼吸周期内での血行値についての、少なくとも1つの最小振幅および少なくとも1つの最大振幅を検知するステップと、
− 前記呼吸周期内で発生する血行値の振幅の変動を計算するステップであって、この変動が患者の血行力学的状態を表す、ステップと
が含まれている。
【0033】
この方法は、血行値の各振幅を吸気相または呼気相に割り当てるステップと、その後での、特定の呼吸相内で血行値の最大振幅および最小振幅を決定するステップとを、特徴とするものである。人工呼吸器圧力で人工呼吸を受ける人の場合、血行値の最大振幅は、吸気相に割り当てられた振幅から決定され、血行値の最小振幅は、呼気相に割り当てられた振幅から決定される。一方、能動的に呼吸する人の場合、血行値の最大振幅は、逆に呼気相に割り当てられた振幅から決定され、血行値の最小振幅は、吸気相に割り当てられた振幅から決定される。
【0034】
本発明の他の実施形態は、上述の既知ステップにおいて、人の呼吸のために、呼吸周期の血行値の振幅の変動を、呼気終末圧PEEPの上限を決定するための基礎として使用することを特徴とする方法にある。
【0035】
以下、本発明について、図を参照して詳細に述べる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】機械的呼吸の人の関連流れ図を有するパルス・オキシメータのプレチスモグラムである。
【図2】機械的呼吸の人の場合と、能動的に呼吸する血行力学的に不安定な患者の場合の、圧力グラフおよびプレチスモグラムの比較の図である。
【図3】本方法の流れ図である。
【図4】本発明による人工呼吸器に接続された人の図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
図1に概略図で示されている、陽圧呼吸によって機械的呼吸する人の呼吸周期は、呼吸ガスの流動曲線によって示されている。実線は、吸気相の開始を表し、破線は、呼気相の開始を表す。パルス・オキシメータのプレチスモグラムが、この流動曲線にかぶせられている。プレチスモグラフィ波形は、流動曲線と相関関係にある。同様に、圧力曲線(ここでは図示せず)とも相関関係にあり、この圧力曲線は、呼吸ガスの圧力または胸郭の内圧に基づくものである。
【0038】
プレチスモグラムは、重ね合わされた波を有する波形を示す。波の一方はパルス頻度を示し、他方は呼吸頻度を示す。パルス頻度におけるプレチスモグラムの最大値は、呼吸頻度においては呼気相の期間中および吸気相の開始時に増大し、吸気相の期間中および呼気相の開始時に再び減少する。しかし、この増大および減少は、最小値の場合、同時に発生しない。パルス頻度において発生する最小値と最大値の間の振幅は一定でなく、呼吸圧、特にPEEPに、また、人工呼吸の人の血行力学的安定性に依存する。振幅の変動は、血行力学的に不安定な人の場合、血行力学的に安定な人より大きい。より高いPEEPの場合、振幅の変動は、より低いPEEPの場合より大きい。振幅の変動が、輸液療法に対する患者の感受性に関する情報をもたらす動脈血圧の振幅の場合と同様に、プレチスモグラムにおける振幅のこの変動は、機械的呼吸による患者に対する血行力学的ストレスに関する情報をもたらす。
【0039】
従来の仮定とは逆に、機械的呼吸の呼吸周期内の最大振幅は、必ずしも吸気相内になく、ときには最小振幅も吸気相内にありうることが判明している。図1では、たとえば絶対最大振幅(POPexp−max)と絶対最小振幅(POPexp−min)が共に、呼気相内にある。本発明によれば、人の血行力学的評価のために形成される変動を生み出すために両絶対値が使用されるわけではない。その代わりに、吸気内の最大振幅POPinsp−maxと、この場合には絶対最小振幅と同一である呼気内の最小振幅POPexp−minとが使用される。個々の相に基づいて値を使用することにより、絶対最大振幅および絶対最小振幅だけを使用するより良好な、プレチスモグラムの振幅の変動と心拍出量との相関が生成される。
【0040】
図1に示されている場合では、瞬間的な、不完全な呼吸周期が右側に示されている。POPVは呼吸周期の終了時に計算され、その結果、図の瞬間には、POPV計算は、少なくとも左側に示されている最後から2番目の呼吸周期の間、存続する。
【0041】
図2は、6つのグラフを示している。すなわち、左側では、それぞれ互いに重なり合っている3つの概略グラフが機械的呼吸の患者に関係し、右側では、3つの概略グラフが自発的かつ能動的に呼吸する人に関係している。上のグラフは、3つの呼吸周期にわたる気道圧Pawを示し、中央のグラフは、これらの3つの呼吸周期にわたる胸郭内圧Pit、たとえば胸膜内圧を概略的に示す。下のグラフは、同じ呼吸周期にわたるパルスオキシメトリ・プレチスモグラムPOPを示す。これらの関連付けられたグラフ内の3つの曲線は、時間で相関されている。吸気相Inspと呼気相Expの間の限界は、3つのグラフすべてを横断して延びる破線によって示されている。
【0042】
POPを示すグラフは、プレチスモグラフィ波形を示す。その中で、吸気相内の最大振幅POPinsp−max、および呼気相内の最小振幅POPexp−minが、縦線で陰影付けされた帯によって示されている。機械的呼吸の人および血行力学的に不安定な人の場合、POPinsp−maxからPOPexp−minを引いた差が、大きく、かつ正である。しかし、能動的に呼吸し血行力学的に不安定な人の場合、約ゼロの値が生成される。一方、最小振幅POPinsp−minが吸気相内で決定され、最大振幅POPexp−maxが呼気相内で決定される場合、比較的高い、しかし負の値が、POPinsp−minからPOPexp−maxを引いたものから再び生成される。これらの最後の2つの振幅は、横線で陰影付けされた帯によって示されている。本発明者らの考えでは、その人が能動的であるか、それとも受動的であるかにかかわらず、上述の振幅の変動が大きいほど、より有意である。
【0043】
図3に示されている流れ図は、本装置のコンピューティング・ユニットによって実行される判断方法の進行を示す。各呼吸周期において、最初に吸気相I、次いで呼気相Eが検出される。プレチスモグラムが同時に示される。単純な実施形態では、次いで呼気相I内の最大振幅POPinsp−max、および呼気相E内の最小振幅POPexp−minが決定され、そこから、たとえば式2aに従って、POPV、すなわちこれらの振幅の変動が決定される。次いで、この変動がPEEP依存の定数kと比較される。POPVが、POPVに関する限界値を表すこの定数k未満である場合、使用されるPEEPを増大させることができる。POPVがk以上である場合、PEEPを減少させなければならない。PEEPが中に残されるk周りの領域を決定することも可能である。
【0044】
好ましい実施形態では、最大振幅と最小振幅が共に、各相において決定され、それぞれの場合に、吸気相内の最大振幅または最小振幅から呼気相内の最小振幅または最大振幅を引いたものが計算される。次いで、振幅の、大きい方の変動が決定され、大きい方の振幅の符号が考慮される。次いで、手順は上述の通りであり、振幅の、大きい方の変動の正の値または負の値が使用される。振幅の変動を、現在調整されているPEEPに依存する定数kと比較することにより、必要な場合PEEPを増大させることができるか(括弧で括られた矢印)、またはPEEPを減少させなければならないかが示される。しかし、能動的に呼吸する人の場合における振幅の負の変動は、PEEPを減少させる理由にならない。というのは、この値は常にk未満であるからである。
【0045】
図4に示されている人工呼吸器11は、人工呼吸の人13に接続されている。y字形の呼吸管15が、一方で、人工呼吸器11の圧力側または吸気弁の下流の出力17をマウスピース19に、また他方で、マウスピース19を人工呼吸器11内の呼気弁に対するコネクタ21に接続する。バルブ、ならびに圧力および/または流量センサ、たとえば23が、人工呼吸器内、および呼吸管15内に配置される。これらは、吸気相および呼気相に関する情報、またそれらと共に呼吸周期に関する情報をもたらす。この人工呼吸器は、呼吸周期と調和して呼吸するのに必要とされる圧力および分量をもたらす。
【0046】
パルス・オキシメータ25が患者13の手に配置され、人工呼吸器11に接続される。オキシメータからの信号は、人工呼吸器11のコンピュータによって、呼吸相に関する情報と時間で相関され、それらの周波数および振幅が解析される。使用可能な最小振幅および最大振幅が2つの呼吸相から決定され、後続の使用に適した振幅の変動POPVが、式2a/2b、および得られた2つの振幅の変動の比較に従って決定される。得られたPOPVおよび限界値kに基づいて、既存のPEEPを増大させることができるか、それとも最大値にあるか、それとも減少させなければならないかについて判断がなされる。この判断はまた、任意選択で、人工呼吸器内で取り込まれる値または個々の患者特有の値に基づくものであり、あるいは、限界値kは、任意選択で、これらの患者特有の値に従って固定される。
【0047】
パルス・オキシメータのプレチスモグラフィ信号および呼吸相に基づいて、それに応じて心拍出量が呼吸によって非常に激しく影響を受けていることが判明した場合、プレチスモグラムの波形がもはやそれを必要としなくなるまでPEEPが減少される。しかし、患者が血行力学的に不安定である場合、PEEPはプレチスモグラフィ波形にわずかに影響を及ぼすにすぎず、呼吸技術に関する考慮すべき点のためにそれが望ましい場合、現在適用されているPEEPよりPEEPを増大させることができる。
【0048】
胸郭内の変化する圧力による血行力学的ストレスの、本発明の解析とは関係なしに、PEEP判断、呼吸周期のトリガ、ならびに換気およびO2供給の有効性の検出の場合には、既知のプロセスおよび既知のデバイスを使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検知手段であって、
−人工呼吸の人の各呼吸周期の吸気相および呼気相、
−それぞれの場合における、各呼吸周期内の血行値の、少なくとも1つの最小振幅および1つの最大振幅、
を検知するのに適した検知手段と、
コンピューティング・デバイスであって、
−前記呼吸周期内で発生する前記血行値の振幅の変動
を計算するコンピューティング・デバイスと
を備える装置であって、前記コンピューティング・デバイスが、
前記血行値の各振幅を吸気相または呼気相に割り当て、
吸気相に割り当てられた振幅から前記血行値の一方の極端な振幅と、呼気相に割り当てられた振幅から前記血行値の他方の極端な振幅とを決定し、
前記呼吸周期の前記2つの相における前記極端な振幅間の振幅変動から、補助呼吸によって引き起こされる血行力学的ストレスが高すぎるかどうか推定する
ように設定されていることを特徴とする装置。
【請求項2】
前記コンピューティング・ユニットが、呼気相および吸気相のどちらにおいても、それぞれの場合に最大振幅と、それぞれの場合に最小振幅とを決定するように、また、一方の相内の最大振幅と他方の相内の最小振幅との間で両方の振幅変動を決定するように設定されていることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記コンピューティング・ユニットが、決定された振幅変動の符号を考慮してそれらの振幅変動のうち大きい方を、前記人に対する血行力学的ストレスに関連するものとして取り上げるように構成されていることを特徴とする請求項2に記載の装置。
【請求項4】
振幅変動、および/または呼吸によって引き起こされる血行力学的ストレスが前記人にとって高すぎるか否かを示す振幅変動からの推定、および/またはこれらの変数のうちの少なくとも1つの傾向を表示するための表示手段を特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の装置。
【請求項5】
前記コンピューティング・デバイスが、ある呼吸周期の前記血行値の振幅の変動に基づいて、人工呼吸器の呼気終末圧PEEPを増大させることができるか、それとも減少させなければならないか判断するように構成されていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
前記血行値の振幅の、大きい方の変動が、PEEP判断の場合に符号を考慮するとき考慮されることを特徴とする請求項2および請求項5に記載の装置。
【請求項7】
PEEP判断が、PEEP判断に考慮されている連続する呼吸周期の前記血行値Zの振幅ZAの、複数、特に11個の変動ZAVのメジアンZAVmedに基づくことを特徴とする請求項5または請求項6に記載の装置。
【請求項8】
ある呼吸周期の前記血行値Zの振幅ZAの変動ZAVが、特に式
【数1】

または
【数2】

に従って正規化されることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の装置。
【請求項9】
前記血行値Zが、パルスオキシメトリ・プレチスモグラフィ測定値POPであることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の装置。
【請求項10】
前記呼吸相を検知するための前記検知手段が人工呼吸器内で一体化されることを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の装置。
【請求項11】
前記人工呼吸器と、前記人工呼吸器に接続されたパルス・オキシメータとを含むことを特徴とする請求項10に記載の装置。
【請求項12】
前記コンピューティング・デバイスが、複数の吸気相および呼気相にわたって振幅の1つの最大値および1つの最小値だけを決定するように、またこれらの呼吸内の振幅の変動を評価に使用するように設定されていることを特徴とする請求項11に記載の装置。
【請求項13】
前記コンピューティング・デバイスが、
複数の呼吸周期からの振幅を吸気相または呼気相に割り当てるように、また
複数の吸気相に割り当てられた振幅から前記血行値の一方の極端な振幅を、また複数の呼気相に割り当てられた振幅から前記血行値の他方の極端な振幅を決定するように
設定されていることを特徴とする請求項1から請求項12のいずれか一項に記載の装置。
【請求項14】
監視用デバイスと、前記監視用デバイスに接続されたパルス・オキシメータと、前記監視用デバイスに接続された、前記呼吸相を検知するための検知手段とを含むことを特徴とする請求項1から請求項13のいずれか一項に記載の装置。
【請求項15】
機械的呼吸の人の各呼吸周期の吸気相および呼気相を検知するのに適した検知手段と、
それぞれの場合に、1つの呼吸周期での血行値についての、少なくとも1つの最小振幅および少なくとも1つの最大振幅を検知するためのパルス・オキシメータと、
前記呼吸周期内で発生する前記血行値の振幅の変動を計算するためのコンピューティング・デバイスと
を備える装置であって、
前記コンピューティング・デバイスが、使用すべき機械的呼吸の呼気終末圧PEEPを指定するように、ある呼吸周期の前記血行値の振幅の変動を、前記呼気終末圧PEEPの増大または減少に関する判断のための基礎として使用するように、設定されていることを特徴とする装置。
【請求項16】
前記コンピューティング・デバイスが、
前記血行値の各振幅を吸気相または呼気相に割り当て、
前記血行値の最大振幅を、吸気相に割り当てられた振幅から決定し、前記血行値の最小振幅を、呼気相に割り当てられた振幅から決定するように
設定されていることを特徴とする請求項15に記載の装置。
【請求項17】
人の各呼吸周期の吸気相および呼気相を検知すること、
それぞれの場合に、1つの呼吸周期内での血行値についての、少なくとも1つの最小振幅および少なくとも1つの最大振幅を検知すること、
前記呼吸周期内で発生する前記血行値の振幅の変動を計算すること
を含む方法であって、
前記血行値の各振幅を吸気相または呼気相に割り当てること、および
吸気相に割り当てられた振幅から前記血行値の一方の極端な振幅を、また呼気相に割り当てられた振幅から前記血行値の他方の極端な振幅を決定すること
を特徴とする方法。
【請求項18】
機械的呼吸の人の各呼吸周期の吸気相および呼気相を検知すること、
それぞれの場合に、1つの呼吸周期内での血行値についての、少なくとも1つの最小振幅および少なくとも1つの最大振幅を検知すること、
前記呼吸周期内で発生する前記血行値の振幅の変動を計算すること
を含む方法であって、
前記人の呼吸のために、ある呼吸周期の前記血行値の振幅の変動を、前記呼気終末圧PEEPの増大または減少に関する判断のための基礎として使用することを特徴とする方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公表番号】特表2011−519294(P2011−519294A)
【公表日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−505342(P2011−505342)
【出願日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際出願番号】PCT/CH2009/000132
【国際公開番号】WO2009/129641
【国際公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(508180482)ハミルトン・メディカル・アーゲー (7)
【Fターム(参考)】