説明

人工浮島

【課題】水面積に対する人工浮島の面積率が小さくても植物プランクトンの増殖を有効に抑制して水質浄化機能を高めることの可能な人工浮島を提供する。
【解決手段】植生基盤10と、この植生基盤10を水に浮かせた状態に支持する支持手段20,30とからなる人工浮島1であって、前記植生基盤10に、植物プランクトンの増殖を抑制するアレロパシー物質を放出する抽水植物40を植栽したことを特徴とする。この人工浮島1によれば、遮光機能に加え、人工浮島1の植生基盤10に植栽された抽水植物40がその根茎41から放出するアレロパシー物質によって、アオコの発生原因となる藍藻類のMicrocystisの増殖が有効に抑制される機能、比表面積が大きい多孔質の植生基盤への植物プランクトンや懸濁物質の付着、接触沈殿機能、動物プランクトンの増加による植物プランクトンの捕食機能による複合的な浄化機能によって、水面積に対して5%程度の面積の人工浮島で、植物プランクトンの増殖を抑制して水質を浄化することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物を栽培した人工浮島を用いて植物プランクトンの増殖を抑制することにより水質を浄化する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、湖沼などの水質を浄化する方法として、植栽した人工浮島を用いる技術が知られている。
【0003】
この種の人工浮島に植栽する抽水植物としては、景観や流域で採取可能かにより選定されており、具体的には、キショウブ、ハナショウブ、カキツバタ、セキショウ、ヨシ、ガマ、ミクリなどが好適に用いられている。
【0004】
また従来、この種の人工浮島の構造は、浮体(フロート)と植生基盤とを分離した構造か一体化した構造の2種類に分類される。このうち、浮体と植生基盤とを分離した構造のものは、例えば下記の特許文献1に開示されているように、植生基盤の周囲に中空パイプ又は水に浮く素材のフレーム状のフロートを設け、このフロートにネットを設置して、フロート内の植生基盤を支持する方法や、あるいは、下記の特許文献2に開示されているように、発砲スチロールや中空コンクリート箱などの浮体上に土壌やヤシ繊維などの植生基盤を設ける方法が知られている。
【0005】
また、フロートと植生基盤を一体とする方法は、例えば下記の非特許文献1,2のように、ヤシ繊維などの軽量な植生基盤内に発泡スチロールなどのフロートを設置する方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−79652号公報
【特許文献2】特開平6−343358号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】パンフレット「バイオコズモ」,ゼニヤ海洋サービス(株)
【非特許文献2】パンフレット「ビオシスアイランド」,トスコ(株),2000年4月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の人工浮島による植物プランクトンの増殖抑制機能は、水面を遮蔽することによる遮光効果を利用することが主体であり、植物の種類や植生基盤構造に対する植物プランクトンの増殖抑制をはじめとした水質浄化機能が充分考慮されていなかった。このため、湖沼等の植物プランクトンの増殖を有効に抑制するためには水面積の15〜30%以上の面積の人工浮島が必要であった。
【0009】
また、従来の人工浮島は、植生基盤が水面から露出する構造のものが多いため、夏季に植生基盤の表面が高温となり、抽水植物の生育に悪影響が出ることがあった。あるいは特許文献1のような構造の場合も、フロートで囲まれた植生基盤の表面の水温が夏季に上昇し、植物の生育に悪影響が出るおそれがあった。
【0010】
本発明は、以上のような点に鑑みてなされたものであって、その技術的課題とするところは、水面積に対する人工浮島の面積率が小さくても植物プランクトンの増殖を有効に抑制して水質浄化機能を高めることの可能な人工浮島を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した技術的課題を有効に解決するための手段として、請求項1の発明に係る人工浮島は、植生基盤と、この植生基盤を水に浮かせた状態に支持する支持手段とからなる人工浮島であって、前記植生基盤に、植物プランクトンの増殖を抑制するアレロパシー物質を放出する抽水植物を植栽したことを特徴とするものである。ここでいうアレロパシー物質は、アオコの発生原因となる藍藻類のMicrocystisの増殖を抑制する作用を有するものであって、発明者の研究により、特に、ヒメガマ、ヨシ、クサヨシ、マコモ、フトイ、カンガレイ、カキツバタ、ハナショウブ、カサスゲから選択される抽水植物の放出するアレロパシー物質が、Microcystisの増殖の抑制に有効であることが確認された。
【0012】
請求項2の発明に係る人工浮島は、請求項1に記載の構成において、支持手段が所要数のフロートからなることを特徴とするものである。
【0013】
請求項3の発明に係る人工浮島は、請求項1に記載の構成において、支持手段が植生基盤と水底との間を繋留する繋留具又は繋留杭からなることを特徴とするものである。
【0014】
請求項4の発明に係る人工浮島は、請求項1に記載の構成において、植生基盤が、三次元網目構造で、比表面積が1,000〜2,000m2/m3,連続空隙率が80%以上の多孔質材からなることを特徴とするものである。
【0015】
請求項5の発明に係る人工浮島は、請求項1に記載の構成において、植生基盤が、7.5〜20cmの厚さに形成されたことを特徴とするものである。
【0016】
請求項6の発明に係る人工浮島は、請求項1に記載の構成において、植生基盤を、表面が5cm〜15cmの水深となるように水没させると共に植生基盤上を水が流通可能としたことを特徴とするものである。
【0017】
請求項7の発明に係る人工浮島は、請求項1に記載の構成において、植生基盤が、支持手段に固定されたフレームにネットを張った構造の支持体で支持されたことを特徴とするものである。
【0018】
請求項8の発明に係る人工浮島は、請求項1に記載の構成において、植生基盤への抽水植物の植栽が、織布又は不織布からなるポットに充填された土壌に苗株を植え付けた構造のポット苗を植生基盤に設置することによりなされたものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
請求項1〜3の発明に係る人工浮島によれば、人工浮島による遮光機能に加え、人工浮島の植生基盤に植栽された抽水植物がその根茎から放出するアレロパシー物質によって、アオコの発生原因となる藍藻類のMicrocystisの増殖が有効に抑制されるため、水質を浄化することができる。
【0020】
請求項4の発明に係る人工浮島によれば、植生基盤を、比表面積が1,000〜2,000m2/m3,連続空隙率が80%以上の多孔質材からなる三次元網目構造としたことによって、抽水植物の根茎が発達しやすく、根茎から発生するアレロパシー物質を水中に放出しやすく、水が根茎に接触しやすくなるため、請求項1による効果を向上することができる。また、植物プランクトンや懸濁物質の付着、接触沈殿機能、動物プランクトンの増加による植物プランクトンの捕食機能が得られるため、アレロパシー効果との複合的な浄化機能によって、水面積に対して5%(従来の人工浮島の1/6〜1/3)程度の面積の人工浮島で、植物プランクトンの増殖を抑制して水質を浄化することができる。
【0021】
請求項5の発明に係る人工浮島によれば、植生基盤を、7.5〜20cmの厚さに形成したことによって、地下茎が発達して群落を形成する抽水植物の生育に適したものとなるほか、植物プランクトンの接触沈殿効果や、植物プランクトンを捕食する動物プランクトンの増加に適するので、請求項1による効果を向上することができる。
【0022】
請求項6の発明に係る人工浮島によれば、植生基盤を、その表面が5cm〜15cmの水深となるように水没させると共に植生基盤上で水が流通可能とすることによって、夏季の植生基盤又は表面水温の上昇を抑制すると共に、陸上雑草の繁茂による抽水植物の生育阻害を防止することができるため、請求項1による効果を向上することができる。
【0023】
請求項7の発明に係る人工浮島によれば、植生基盤が、支持手段に固定されたフレームにネットを張った構造の支持体で支持されたことによって、植物プランクトン等の懸濁物を含んだ水を効率よく植生基盤材に接触させることができ、アレロパシー物質が水中に放出されやすくなるほか、前記懸濁物が植生基盤材の表面に付着し沈降しやすい大きさに凝集してその沈降を促進させることができるので、請求項1による効果を向上することができる。
【0024】
請求項8の発明に係る人工浮島によれば、抽水植物の苗株が生育しやすくなるので、請求項1による効果を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る人工浮島の第一の形態を示す平面図である。
【図2】図1のII−II’断面図である。
【図3】図1のIII−III’断面図である。
【図4】植生基盤への抽水植物の苗株の植え付け方法を示す説明図である。
【図5】本発明に係る人工浮島の第二の形態を示す平面図である。
【図6】図5のV−V’断面図である。
【図7】本発明に係る人工浮島の第三の形態を示す平面図である。
【図8】図7のVII−VII’断面図である。
【図9】図7のVIII−VIII’断面図である。
【図10】本発明に係る人工浮島の第四の形態を示す平面図である。
【図11】本発明に係る人工浮島の第五の形態を示す平面図である。
【図12】抽水植物によるアレロパシー効果を確認するための室内試験の方法を示す説明図である。
【図13】アレロパシー効果を確認するための室内試験の結果を示す説明図である。
【図14】アレロパシー効果を確認するための現地調査の結果を示す説明図である。
【図15】抽水植物の苗株の植え付けに際して、土壌の有無が抽水植物の生育に及ぼす影響を把握するための屋外栽培試験の結果を示す説明図である。
【図16】抽水植物の苗株の植え付けに際して、土壌の有無が抽水植物の生育に及ぼす影響を把握するための現地調査による試験の結果を示す説明図である。
【図17】現地調査による人工浮島の下の新生堆積物を調査した結果を示す説明図である。
【図18】現地調査による人工浮島の下の新生堆積物を調査した結果を示す説明図である。
【図19】植物プランクトンの捕食・分解効果のある動物プランクトンの増加について現地調査した結果を示す説明図である。
【図20】本発明の人工浮島による実証試験開始後のChl-a濃度の経時変化を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明に係る人工浮島の好ましい実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。まず図1〜図3は、第一の形態を示すものである。
【0027】
図1〜図3に示されるように、第一の形態による人工浮島1は、植生基盤10と、この植生基盤10を水に浮かせる水上フロート21及び水中フロート22からなるフロート20と、このフロート20を前記植生基盤10に連結する固定部材30からなる。すなわち、植生基盤10は、固定部材30を介して水上フロート21及び水中フロート22により適当な水深d(図3参照)で水Wに浮いた状態に支持されており、植生基盤10には、植物プランクトンの増殖を抑制するアレロパシー物質を放出する抽水植物40が植栽されている。
【0028】
人工浮島1による水質浄化に有効な作用としては、遮光作用のほか、植生基盤10に植栽した抽水植物40によるアレロパシー作用や、植物プランクトン等の懸濁物質の接触沈殿作用、及び動物プランクトンの増加による植物プランクトンの捕食・分解作用が挙げられる。
【0029】
これらの作用を最大限に発揮させるため、本発明では、アオコの発生原因となる藍藻類のMicrocystisの増殖を抑制するアレロパシー物質を放出する抽水植物40を選定し、植生基盤10に植栽する。Microcystisの増殖を抑制するアレロパシー効果を有する抽水植物40としては、ヒメガマ,ヨシ,クサヨシ,マコモ,フトイ,カンガレイ,カキツバタ,ハナショウブ,カサスゲなどがあり、これらの中から、浄化対象水域で入手して移植可能なものや、圃場等で栽培して使用する。
【0030】
植生基盤10としては、比表面積の大きい多孔質材を使用することにより、水中の懸濁物質が付着する面積が増え、付着した懸濁物が沈降しやすい大きさに凝集するので、沈降を促進することができる。具体的には、植生基盤10には、比表面積が1,000〜2,000m2/m3、連続空隙率が80%以上で、対候性の高いポリエステル製又は塩化ビニール製の繊維からなるマット状のものを使用する。
【0031】
また、植生基盤10への抽水植物40の植栽は、図4に示されるように、織布又は不織布からなるポット11に市販の園芸用土などからなる土壌12を充填して、この土壌12に抽水植物の苗株40aを植え付け、これを図1に示されるように植生基盤10に縦横に設置することによりなされる。これは、ポット11を用いて植え付けることによって、植生基盤10の活着率が格段に向上するからである。植え付けられた抽水植物40は、図2及び図3に示されるように、根茎41が前記ポット11を通して植生基盤10へ、さらには植生基盤10から水中へ伸びていくことができる。
【0032】
ここで、植生基盤10の連続空隙率が80%未満であったり空隙サイズが細か過ぎたりした場合は、沈降した汚泥が植生基盤10内に堆積して目詰まりを起こすのに対し、連続空隙率を80%以上とすることにより、植生基盤10内の汚泥の堆積を防止し、水Wとの接触効率を維持することができる。また、連続空隙率80%以上を確保でき、植生基盤10の強度が抽水植物40の倒伏に耐える繊維強度を考慮すると、植生基盤10の樹脂量は16kg/m3以上とすることが必要である。また、その場合の比表面積は1,000m2/m3である。つまり、比表面積が1,000m2/m3未満である場合は、植生基盤10が軟らか過ぎて、成長した抽水植物40が風荷重により倒伏するおそれがある。また逆に、比表面積が2,000m2/m3を超えると、植生基盤10の連続空隙サイズが細かくなりすぎ、懸濁物が目詰まりしやすくなる。したがって、植生基盤10には、比表面積が1,000〜2,000m2/m3、連続空隙率が80%以上のものを使用する。
【0033】
フロート20(水上フロート21及び水中フロート22)は、例えば、塩化ビニール製のパイプ、あるいは繊維強化プラスチックからなるパイプ等で形成されたものであって、中空であるため浮力が十分に大きいものとなっている。このうち水上フロート21は、図1に示されるように、平面形状が正方形又は長方形状を呈する植生基盤10の互いに対向する2辺に沿って、その長さと略同等の長さのものが一対配置されており、水中フロート22は水上フロート21と略直交するように延び、図2及び図3に示されるように、植生基盤10の下側で水中に没した状態に一対配置されている。
【0034】
固定部材30は、植生基盤10の外周部を支持する溶融亜鉛メッキ鋼製の外周フレーム31と、この外周フレーム31の下面に平面的に張られ、ポリエチレン等の合成樹脂製や防錆塗装した鋼製あるいはステンレス製などの目合25〜100mmのネット32と、このネット32が下方へ撓まないように外周フレーム31の下面に架設された溶融亜鉛メッキ鋼製の所要数の梁状フレーム33と、外周フレーム31に水上フロート21を取り付ける溶融亜鉛メッキ鋼製の水上フロート取付部材34と、梁状フレーム33の下側に水中フロート22を取り付ける溶融亜鉛メッキ鋼製の水中フロート取付部材35とを備える。そしてこのような構造の固定部材30で植生基盤10を支持することで、植生基盤10が水中に没した状態に設置され、植物プランクトン等の懸濁物を含んだ水Wを効率よく植生基盤10に接触できるようになっている。
【0035】
また、水上フロート21が配置されていない側から、浄化対象の水域の水Wが植生基盤10上に自由に流通することができるため、水中の植物プランクトン等の懸濁物質が植生基盤10の表面に沈降すると共に、繁茂した抽水植物40に付着・沈降する作用が促進される。
【0036】
好ましくは、植生基盤10の上面が水深5〜15cmとなるようにする。これは、水深dが15cmを超えると抽水植物40の生育に悪影響が出やすくなり、5cm未満では、植生基盤10の上面を水Wが流れにくくなって、水中の植物プランクトン等の懸濁物質が植生基盤10に沈降して抽水植物40に付着・沈降する作用が得られなくなったり、夏季に植生基盤10上の水温が上昇して抽水植物40の生育に悪影響が出るおそれがあるからである。
【0037】
以上のような構成を備える第一の形態の人工浮島1によれば、自然湖沼、ため池、都市公園等の閉鎖性水域で、アオコ形成藍藻類のMicrocystis等の植物プランクトンが異常増殖することによって、水質が汚濁している状況に対して、効率よく水質の浄化を図ることができる。これは、植生基盤10に植栽した抽水植物40の根茎41から水中へ放出されるアレロパシー物質が、前記Microcystis等の植物プランクトンの増殖を抑制すると共に、前記植物プランクトン等の懸濁物質が植生基盤10に沈降して抽水植物40に付着・沈降し、このためアオコなどの発生が抑えられるからである。しかも、比表面積の大きい三次元網目構造体からなる植生基盤10の表面や空隙内にミジンコやワムシ等の動物プランクトンや、バクテリアが棲息し、これらの微小動物が植物プランクトン等を捕食し、分解する機能が向上するからである。
【0038】
したがって、浄化対象となる閉鎖性水域の水面積の5%〜10%の面積の人工浮島1でも、透明度を改善し、有機汚濁を防止すると共に、栄養塩濃度を低減することができる。
【0039】
次に、図5及び図6は、本発明に係る人工浮島の第二の形態を示すものである。この第二の形態による人工浮島1も、植生基盤10と、この植生基盤10を水Wに浮かせるフロート20と、このフロート20を前記植生基盤10に連結する固定部材30からなる。すなわち、植生基盤10は、固定部材30を介してフロート20により適当な水深で水Wに浮いた状態に支持されており、植生基盤10には、植物プランクトンの増殖を抑制するアレロパシー物質を放出する抽水植物40が植栽されている。
【0040】
フロート20は、植生基盤10の外周縁に沿ってその上部を枠状に延びる水上フロート23及び水中フロート24からなり、上下に適当な間隔をもってバンド25で互いに結合されている。
【0041】
水中フロート24には、図6に示されるように、固定部材30として硬質のネットで形成したかご36が取り付けられており、植生基盤10は、このかご36内に設置されている。すなわち植生基盤10はフロート20の浮力によって、かご36を介して支持されることで、植生基盤10が水中に没した状態に設置され、植物プランクトン等の懸濁物を含んだ水Wを効率よく植生基盤10に接触できるようになっている。
【0042】
そしてこの場合、図6に示されるように水中フロート24は水没した状態にあり、水上フロート23との間の隙間δから、浄化対象の水域の水Wが植生基盤10上に自由に流通することができるようになっており、この場合も、植生基盤10の上面が水面下5〜15cmとなるようにする。このため、水中の植物プランクトン等の懸濁物質が植生基盤10の表面に沈降すると共に、繁茂した抽水植物40に付着・沈降する作用が促進される。
【0043】
なお、植生基盤10は、先に説明した第一の形態と同様のものであり、抽水植物40の植栽方法なども、第一の形態と同様に行うことができる。したがって、第一の形態と同様の作用・効果が実現できる。
【0044】
次に、図7〜図9は、本発明に係る人工浮島の第三の形態を示すものである。この第三の形態において先に説明した第一の形態と異なるところは、フロート20における水上フロート21が、平面形状が正方形又は長方形状を呈する植生基盤10の四隅近傍に配置されたことにある。その他の部分の構成は、基本的に第一の形態と略同等であり、第一の形態と同様の作用・効果が実現できる。
【0045】
次に図10は、本発明に係る人工浮島の第四の形態を示すものである。上述の各形態では、フロート20が水上フロート21(23)及び水中フロート22(24)からなるものであるのに対し、第四の形態ではフロート20が水中フロート22のみからなり、水底(池や沼の底部地盤)Gに打ち込んだアンカー51と、下端がこのアンカー51繋着され上端が固定部材30に繋着された繋留ロープ52とからなる繋留具50を介して、適当な水深d(先に説明したように、5〜15cm)で水Wに浮いた状態に繋留している。その他の部分は、基本的に第一の形態と略同様に構成することができる。
【0046】
また図11は、本発明に係る人工浮島の第五の形態を示すものである。この形態は、上記第四の形態における繋留具50に代えて、水底Gに打ち込んだ繋留杭60によって、植生基盤10を介して、適当な水深dで水Wに浮いた状態に繋留している。その他の部分は、基本的に第一の形態と略同様に構成することができる。
【0047】
そして、これら第四又は第五の形態によれば、繋留具50又は繋留杭60によって水底Gからの浮上高さが一定に保たれるので、水位が一定の池沼において、植生基盤10の上面の水深dを一定とする手段として好適に採用可能である。
【0048】
本発明の人工浮島による効果を確認するための種々の実証試験を行ったので、以下に説明する。
【0049】
実証試験1:
抽水植物によるアレロパシー効果を確認するための室内試験を行った。この試験では、抽水植物としてキショウブ、ハナショウブ、カキツバタ、セキショウ、カンガレイ、フトイ、クサヨシ、マコモ、マツカサススキ、ヒメガマの10種類を用いた。
【0050】
試験の方法は、図12に示されるように、バケツ101内に水103を入れ、その上に植生基盤102を設置し、抽水植物104をポット植えにより栽培した後、バケツ101及び植生基盤102を洗浄し、バケツ101内の培地(水103)を交換してビニールハウス内で1週間栽培した。1週間後、前記水103を0.25μmの濾紙で濾過した水を使用し、バイオアッセイ手法によりアオコ形成藍藻類のMicrocystisの比増殖速度を調査することによって、アレロパシーによる増殖抑制効果があるかを確認した。
【0051】
この試験の結果、図13に示されるように、マツカサススキ、キショウブ、セキショウを栽培した水では、アレロパシー効果のないことが確認されている対照植物との比較において、アオコ形成藍藻類の比増殖速度の有意な低下はみられないが、ヒメガマ、クサヨシ、ハナショウブ、フトイ、マコモ、カキツバタ、カンガレイを栽培した水では比増殖速度が有意に低下することが確認された。とくに、フトイは著しいアレロパシー効果を有することがわかった。
【0052】
実証試験2:
抽水植物によるアレロパシー効果を確認するための現地試験を行った。試験の方法は、蓮田市山ノ神沼に設置した隔離水界(1,000m2,平均水深:約1.2m)内に設置した人工浮島の抽水植物の根茎付近、人工浮島のない隔離水界内、及び隔離水界外の池沼で採水し、実施例1と同様にバイオアッセイ手法によりアオコ形成藍藻類のMicrocystisの比増殖速度を調査することによって、アレロパシーによる増殖抑制効果を確認した。なお、人工浮島としては、ヨシを植栽したもの、ヒメガマを植栽したもの、マコモを植栽したもの、カサスゲを植栽したものの4種類の人工浮島を用いた。
【0053】
この試験の結果、図14に示されるように、4種類の抽水植物を植栽した人工浮島のいずれにもアレロパシー効果が確認され、人工浮島のない水域や隔離水界外では効果が見られなかった。そしてこれら4種類の抽水植物のうち、カサスゲが最も大きなアレロパシー効果を有するという結果が得られた。
【0054】
実証試験3
地下茎の発達に適した植生基盤の厚さを調査するため、屋外に設置したプール(2m×3m,水深約50cm)に、厚さが10cm,15cm,20cmでそれぞれ平面形状が30cm×30cmの正方形の植生基盤に抽水植物をポット植えし、栽培試験を行った。抽水植物は、カンガレイ、フトイ、ヨシ、ヒメガマ、マコモの5種類とした。
【0055】
試験結果、抽水植物の根茎は、種類により植生基盤の側面から出ているものが見られ、植生基盤表面からの深度でヨシは12〜15cm,ヒメガマは10〜15cm,マコモは5〜16cmの深さで根茎が成長することがわかった。すなわち試験結果から、地下茎が発達する抽水植物の根茎は、5cm〜16cmの深度に分布することがわかった。したがって、植生基盤の厚さは、植物の種類に応じて7.5cm(植物ポット苗の大きさ以上)〜20cm(基盤表面から地下茎が発達する深度)程度とすることが好ましいことが確認された。
【0056】
実証試験4:
抽水植物の苗株の植え付けに際して、土壌の有無が抽水植物の生育に及ぼす影響を把握するための屋外栽培試験を行った。試験の方法は、屋外に設置したプール(2m×3m,水深:約50cm)に、土壌を充填したヤシ繊維ポットに抽水植物の苗株を植え付けたポット苗と、ポット及び土壌なしの苗株をそれぞれ植生基盤材に設置し、苗株の成長量を測定した。抽水植物は、カンガレイ、フトイ、マコモ、キショウブの4種類とした。
【0057】
試験の結果、植栽して2年経過後の植物体の乾燥重量(各2株の平均値)を測定したところ、図15に示されるように、ヤシポットに土壌を充填して植栽した苗株は、土壌なしの場合と比較して地上部、根茎いずれも成長量に著しい差が見られ、苗株に土壌ポットが有効であることが確認された。
【0058】
実証試験5:
また、実際の池沼の植生浮島に抽水植物の苗株を植え付けるに際して、土壌の有無が抽水植物の生育に有効かを確認するための現地調査による試験を行った。この試験では、蓮田市山ノ神沼に設置した隔離水界(1,000m2,平均水深:約1.2m)内に設置した人工浮島の抽水植物の活着率を調査した。なお、人工浮島としては、ヨシを植栽したもの、ヒメガマを植栽したもの、マコモを植栽したもの、カサスゲを植栽したものの4種類の人工浮島を用いた。
【0059】
試験の結果、図16に示されるように、抽水植物は4種類とも土壌ポットで植栽した方が活着率はよく、土壌を用いないものはマコモ以外の植物の活着率が極端に悪化することがわかった。
【0060】
実証試験6:
浮泥が堆積し微細藻類(優占種Chroococcus sp.)が異常増殖した富栄養池沼である蓮田市山ノ神沼内に、遮水シートで締め切った隔離水域(15m2)を5基設置し、それぞれの隔離水域に、表1のように、構造の異なる人工浮島(1.5m2/1基)を設置し(人工浮島には比表面積が1,556m2/m3、連続空隙率98%、厚さが7.5cmと15cmのポリエステル製の植生基盤を用いた)、各人工浮島の下の新生堆積物を調査した。新生堆積物の調査は、週2回の頻度で約2ヶ月間実施し、セディメントトラップ内の水質と調査時に採取した隔離水界内の水質との差より測定した。
【表1】

【0061】
新生堆積物速度は、水質の影響を強く受けることから、水質と堆積物速度との比を堆積物速度指数SVI(水質(g・m-3)/堆積物速度(g・m-2・d-1):単位水量の物質を堆積するのに必要な日数(d・m-1))として、浮島構造の違いによる懸濁物質の沈降促進効果を評価した。その結果、SS(懸濁物質)及びChl-a(クロロフィル−a)のSVIと隔離水界内の濃度との関係を図17及び図18に示すように、各試験区の近似曲線を比較すると、SS及びChl-a共に人工浮島なし(1区)と比較して2区〜5区ではSVIが削減され、沈降促進効果が見られた。特に、吊り接触材(5区)のSVI削減効果が高かった。人工浮島が多孔質樹脂マットからなる植生基盤を用いた2区〜4区では、SSについては植生基盤を水面に設置した4区のSVI削減効果が高かったが、Chl-aは水没させた2区及び3区のSVI削減効果が高かった。また、植生基盤の厚さが15cmの3区の方が、7.5cmの2区と比較してSVI削減効果がいずれの項目も若干高かったが、顕著な効果の差異は見られなかった。
【0062】
すなわち、植生基盤の厚さが7.5cmと15cmのいずれの人工浮島を設置した場合も、人工浮島のない隔離水域(1区)と比較して新生堆積物速度は増加したが、植生基盤の厚さが2倍違うにも拘わらず、新生堆積物速度に大きな差異は見られなかった。このことから、植生基盤の密度(比表面積)及び植生基盤の厚さは、単位面積当たりの基盤密度が高すぎても基盤内に懸濁物が蓄積し、接触沈殿が起きにくくなり、単位面積当たりの基盤密度が低すぎても効果が低下することが確認された。このことから、植生基盤の比表面積は1,000〜2,000m2/m3が適切と考えられ、植生基盤の厚さが7.5cmを超える場合は考慮する必要はないことがわかる。
【0063】
実証試験7:
また、動物プランクトンの増加による植物プランクトンの捕食・分解効果について検証した。その方法としては、蓮田市山ノ神沼内に、下記のような1区〜5区の隔離水域(1,000m2)を設け、2区〜5区については、植生基盤の厚さ及び植栽条件のなるポリエステル製多孔質マット(比表面積1,556m2/m3,連続空隙率98%,45cm×50cm)を植生基盤表面の水深が約5cmになるように設置し、約1年後の夏に回収して植生基盤内の動物プランクトンを洗い出し、目合0.1mmのプランクトンネットで捕集した動物プランクトンを全量定量分析し、植生基盤の厚さ及び植物の有無による動物プランクトンの現存量の差異を調査した。
1区:浮島なし
2区:植生基盤75mm厚
3区:植生基盤150mm厚
4区:植生基盤75mm厚,マコモ4株植栽
5区:植生基盤75mm厚,ヨシ4株植栽
【0064】
調査の結果、図19に示されるように、人工浮島の植生基盤内には、人工浮島がない水域(1区)と比較して動物プランクトンが種類・個体数いずれも著しく増加した。また、植生基盤の厚さが75mm(2区)と150mm(3区)とでは、全個体数密度に大きな差は見られず、植生基盤が厚い150mmのほうが甲殻類(ミジンコなど)及び貧毛類が多くなる傾向が見られた。ヨシ及びマコモを植栽したものは、苗ポットの容積分、植生基盤の容積が減少したことも考えられるが、その分を考慮しても植生基盤だけの場合と比較して少なくなる傾向が見られた。
【実施例】
【0065】
本発明の人工浮島による効果を確認するため、アオコ形成藍藻類のMicrocystisが優占化した富栄養池沼である埼玉県蓮田市山ノ神沼において、小規模隔離水界を用いた実証試験を実施した。ここでは、抽水植物の有無、植栽種、及び人工浮島の遮蔽率(水面積に対する人工浮島の面積の割合)と植物プランクトンの増殖抑制効果について得られた知見を示す。
【0066】
山ノ神沼に遮水シートによる隔離水界(3.87m×3.87m=15m2,水深約1m)を9基配置し、各隔離水界内に、表2に示すように、人工浮島を設置しない試験区のほか、2008年8月9日から11月3日まで、遮蔽率及び植栽種の異なる人工浮島を設置した試験区を設定した。植栽種のうち、先に説明した実証試験1のとおり、マコモとヒメガマはアレロパシー効果のある植物であり、セキショウは、アレロパシー効果のない植物である。
【表2】

【0067】
なお、人工浮島の植生基盤は、表面の水深が5〜10cmになるように設置した。また、植生基盤の多孔質材は、ポリエステル製三次元網目構造で、比表面積1,556m2/m3,連続空隙率98%の材料を使用し、植栽方法は、マコモ及びヒメガマは土壌ポット苗を使用し、セキショウは、土壌ポット植えすると生育不良を起こすため、苗のみを直接植生基盤に植え付ける方法で実施した。
【0068】
なお、各試験区は、山ノ神沼の水位変動により隔離水界内外で水が出入りした。大雨で隔離水界が水没した後、水位が安定した9月5日から11月3日までの水位変動による隔離水界内の水交換率は、日平均1.5%であった。
【0069】
図20は、実証試験開始後のChl-a濃度の経時変化を示すものである。この図20からわかるように、植栽しない人工浮島を設置した2区及び3区は、いずれも浮島なし(1区)と比較して減少傾向が見られ、遮蔽率10%の植生基盤のほうが遮蔽率5%の植生基盤よりChl-a濃度が低減された。また、同じ遮蔽率の試験区を比較すると、アレロパシー効果を有するマコモ及びヒメガマを植栽した試験区は、植栽しない人工浮島を設置した2区及び3区と比較してChl-a濃度が低減し、遮蔽率5%の植生基盤を有する人工浮島でも植物プランクトンの増殖を抑制できる結果が得られた。一方、アレロパシー効果のないセキショウを植栽した人工浮島を設置した8区及び9区については、植栽しない人工浮島を設置した2区及び3区と比較して遮蔽率5%(8区)で大差は見られず、遮蔽率10%(9区)では逆に増加傾向が見られた。
【0070】
したがって、この実証試験の結果、アレロパシー効果を有する抽水植物のマコモ、ヒメガマを植栽した人工浮島を用いれば、実証試験6で確認された植生基盤による懸濁物質の付着・接触沈殿効果や、実証試験7で確認された動物プランクトンの増加による植物プランクトンの捕食・分解効果などとの複合作用によって、水面積に対して5%の人工浮島の面積(遮蔽率)、言い換えれば従来の人工浮島の1/6〜1/3程度の面積でも植物プランクトンの増殖を抑制できることが確認された。
【符号の説明】
【0071】
1 人工浮島
10 植生基盤
20 フロート
21,23 水上フロート
22,24 水中フロート
30 固定部材
40 抽水植物
41 根茎
50 繋留具
60 繋留杭

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植生基盤と、この植生基盤を水に浮かせた状態に支持する支持手段とからなる人工浮島であって、前記植生基盤に、植物プランクトンの増殖を抑制するアレロパシー物質を放出する抽水植物を植栽したことを特徴とする人工浮島。
【請求項2】
支持手段が所要数のフロートからなることを特徴とする請求項1に記載の人工浮島。
【請求項3】
支持手段が植生基盤と水底との間を繋留する繋留具又は繋留杭からなることを特徴とする請求項1に記載の人工浮島。
【請求項4】
植生基盤が、三次元網目構造で、比表面積が1,000〜2,000m2/m3,連続空隙率が80%以上の多孔質材からなることを特徴とする請求項1に記載の人工浮島。
【請求項5】
植生基盤が、7.5〜20cmの厚さに形成されたことを特徴とする請求項1に記載の人工浮島。
【請求項6】
植生基盤を、表面が5cm〜15cmの水深となるように水没させると共に植生基盤上を水が流通可能としたことを特徴とする請求項1に記載の人工浮島。
【請求項7】
植生基盤が、支持手段に固定されたフレームにネットを張った構造の支持体で支持されたことを特徴とする請求項1に記載の人工浮島。
【請求項8】
植生基盤への抽水植物の植栽が、織布又は不織布からなるポットに充填された土壌に苗株を植え付けた構造のポット苗を植生基盤に設置することによりなされたものであることを特徴とする請求項1に記載の人工浮島。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2010−213578(P2010−213578A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−60693(P2009−60693)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【特許番号】特許第4456654号(P4456654)
【特許公報発行日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(302060926)株式会社フジタ (285)
【Fターム(参考)】