説明

人工海底山脈

【課題】大水深海域においても有効な湧昇流を発生させることが可能な人工海底山脈を提供する。
【解決手段】多数個のブロック体を海底に堆積し、当該海域の潮流、海流、内部波を利用して周辺海域の水塊を鉛直混合する人工海底山脈Mであって、ブロック体等で構成される3つ以上の円錐体c1,c2,c3を、各円錐体の頂点間距離Lを円錐体の底面半径rの0.75〜2倍に設定する。各円錐体の間に形成される逆三角形の空隙と、各円錐体による円錐面とによって有効な湧昇フラックスが得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は海底に構築して補償深度付近の海水の鉛直混合を促進するための人工海底山脈に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、海底に山脈状の構造物を人工的に構築して潮流や海流などの自然エネルギーを利用し、補償深度以深の海水に豊富に含まれる栄養塩類を太陽光が届き植物プランクトンが増殖する海の表層付近(補償深度)まで湧昇させて海域を肥沃化し、魚介類の餌となる植物プランクトンを増殖させる技術が提供されている。このような構築物を本明細書では人工海底山脈と称する。しかし、所望の湧昇効果を得るには大水深海域においては人工海底山脈をより大規模にする必要があり、構築に際しての負担が大きいため出来る限り小規模な構造物によって補償深度付近で最大の湧昇効果、すなわち海水の鉛直混合が期待できる人工海底山脈が要求される。
【0003】
この種の人工海底山脈として、例えば特許文献1,2に記載のものがある。特許文献1のものは、潮流を横切る方向に所定の高さで配置した一対の円錐体の各頂点を水平方向に直線的に延長した峰部を有する構造である。特許文献2のものは同じく一対の円錐体の各頂点を結ぶ峰部の高さを頂点よりも低い高さに構成したものである。いずれの人工海底山脈も斜面を上方に越えた流れが人工海底山脈峰部の水平な直線部から剥離することによって作られる水平軸を持つ渦、および人工海底山脈の側面を迂回した流れが人工海底山脈の側面で剥離する時に発生する鉛直軸を持つ渦、さらにこれらの2種の渦が人工海底山脈の後流にできる反流域で合体することによって間欠的に大きな湧昇渦を発生させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2607979号公報
【特許文献2】特許第2992940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、現地観測結果および解析により密度成層の強い大水深海域では、水深、流況、成層状況、人工海底山脈の高さ、形状によって発生する内部波の波長、波高などが変化し、さらに流向・流速が潮汐などの影響で時刻とともに変化するため内部波の波長、波高が時間的に変化することが明らかになってきた。ここで、密度成層とは、表層海水は水温が高く塩分濃度が低いため低密度であり、逆に底層海水は低水温かつ高塩分濃度なので密度が連続的に層を成していることである。一般的に密度成層状態では海水が鉛直混合しにくいが、流れが海底構造物などに衝接することによる内部波の発生などにより表層付近でも鉛直混合が起こることが判ってきた。そして、このように表層と底層で水塊の密度差が大きく、密度、栄養塩類の鉛直分布を含む海域条件が様々に変化する大水深海域で鉛直混合を誘起する効率的な人工海底山脈が要求されるようになってきた。特許文献1,2の人工海底山脈では、密度成層のないあるいは弱い海域条件において水平渦を効率的に発生させるために人工海底山脈の形状として流れにほぼ直交し直線状に延びる水平な峰部を持たせることで湧昇渦を有利に誘起できたが、本発明者の検討によれば密度成層が強い大水深海域では顕著な湧昇渦が確認できなかった。密度成層が強い状態では底層の重い海水が構造物を乗り越え易くすることで効果的に内部波を発生させることができ、これによって鉛直混合を活発化できることが判明した。
【0006】
本発明の目的は、密度成層の強い大水深海域においても有効な鉛直混合を誘起させることが可能な人工海底山脈を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、多数個の石炭灰等のリサイクル材を用いたブロック体、普通コンクリートブロック体、廃材を利用したブロック体や石材など(以下、ブロック体等と称する)を海底に堆積し、当該海域の潮流、海流、内部波を利用して周辺海域の海水を鉛直混合する人工海底山脈であって、ブロック体等で構成される3つ以上の円錐体を直線配置してなり、隣接する円錐体の頂点間距離は当該円錐体の底面半径の0.75〜2倍であることを特徴とする。
【0008】
本発明において、海底山脈を構成する複数の円錐体は隣接する円錐体の頂点間距離を相違させてもよい。
【0009】
また、本発明の人工海底山脈は、複数の人工海底山脈を直線上に複数配列した人工海底山脈群として構成してもよく、この場合、隣接する人工海底山脈の対向する端部に配置される円錐体の頂点間距離は円錐体の底面半径の2〜4.5倍とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、人工海底山脈を構成する3つ以上の円錐体の頂点間距離を円錐体の底面半径の0.75〜2倍に設定しているので、円錐体間に形成される逆三角形の空隙と複数の円錐面とによって潮流、海流、内部波が衝接し人工海底山脈を乗り越えるときに複雑な流れや渦が発生し、人工海底山脈の上流側および下流側の上方まで到達する内部波が発生し、その影響がさらに上方に伝播するため、連続的な強い密度成層状態にある大水深海域においても補償深度付近で有効な鉛直混合が誘起される。この鉛直混合により補償深度以深に豊富に存在する栄養塩類が補償深度以浅に供給されることで海域が肥沃化する。
【0011】
また、本発明において人工海底山脈を構成する円錐体の頂点間距離を相違させることで複雑な流れによる渦の発生を促進させることができ、さらに有効な鉛直混合を誘起することができる。また、複数の人工海底山脈を配列して人工海底山脈群を構成することによってもさらに有効な鉛直混合を誘起することができる。
【0012】
既往の経験から人工海底山脈の機能として、ここで述べた鉛直混合機能だけではなく、魚礁としての機能が大きいことが知られている。魚礁機能としては蝟集した多様な種類の魚介類が、大型回遊魚などの外敵から身を守るための様々な大きさの逃避空間を持つことが好ましいことが分かっている。また、蝟集する魚介類の餌となる生物がブロック体等の表面に付着して増殖するために海水交換の良い付着基質材を提供することが良いとされている。本発明の人工海底山脈は同一体積(工事費はブロック体等の体積に比例すると考えられている)であれば、特許文献1,2の人工海底山脈より表面積が20%程度大きくなり、より複雑な形状となるので、光や流れに対する陰影の多様性が増し、有効な多くの付着面を提供できるのでより多くの餌料生物を増殖することができる。一方、施工では特許文献1,2のように連続した水平な直線状の峰を持つ山脈は、ブロック体等の投下位置を常に微調整しながら投下する必要があった。しかし、本発明の人工海底山脈では、山脈を構成する円錐体の頂点位置と形状を集中管理し、頂点位置および高さが設計通りとなるよう管理することで、大水深での施工をより容易かつ効率的にできる。また、人工海底山脈の設計において円錐体の数、頂点間距離を変えることで体積当りの湧昇フラックスの効率を高く保ちつつ、要求される総湧昇フラックスを満足する最小体積の人工海底山脈を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施形態1の人工海底山脈の概念構成図及びその正面図。
【図2】円錐体の個数と人工海底山脈の湧昇フラックスの関係を示す図。
【図3】円錐体の頂点間距離と人工海底山脈の湧昇フラックスの関係を示す図。
【図4】実施形態1の変形例の人工海底山脈の概念構成図。
【図5】実施形態2の人工海底山脈の概念構成図及びその正面図。
【図6】実施形態2の頂点間距離と湧昇フラックスの関係を示す図。
【図7】実施形態3の人工海底山脈の変形例の概念構成図。
【図8】実施形態4の人工海底山脈の概念構成図。
【図9】実施形態4の隣接する人工海底山脈間距離と湧昇フラックスの関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(実施形態1)
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1(a)は実施形態1の人工海底山脈の概念構成図、同図(b)は正面図である。人工海底山脈M1は3つの底面が真円形をした円錐体c1,c2,c3を対象海域の潮流、海流、内部波の方向にほぼ直交する直線上に並べて、しかも隣接する円錐体c1,c2,c3の裾部を互いに接触させ、あるいは後述する寸法で重合させた構成である。ここで、3つの円錐体c1,c2,c3は必ずしも真円形をした円錐体でなくてもよく、これに近い形であればよい。また、3つの円錐体c1,c2,c3はここでは同じ頂点高さHでかつ同じ底面半径rの円錐体となるように形成するが、実際には多少の誤差があってもよい。そして、3つの円錐体c1,c2,c3は、隣接する円錐体の頂点間距離Lが円錐体の底面半径rの0.75〜2倍の距離Lで配設された構成とされている。
【0015】
このような人工海底山脈M1を構築する方法として、例えば、底開バージなどの作業船を海上で位置決めし、この位置で所定量のブロック体等を順次投下して海底に堆積させ、円錐体c1を形成する。次いで、円錐体の頂点間距離だけ離れた位置に作業船を移動して位置決めし、この位置で同様にブロック体等を所定回投下して海底に堆積させ、円錐体c3を形成する。その後、同様にして円錐体c1とc3の中間の所定位置に円錐体c2を構築することにより形成できる。なお、円錐体構築の順番はこれに拘束されるものではない。なお、隣接する円錐体が重複した部分は図のように正確な円錐体とはならないこともあるが、重要なのは頂点間距離と頂点の高さが設計通りになることである。特に大水深ではブロック体等が投下後、着床するまで流れの影響をより強く受け流されるが、円錐体頂点に正確にブロック体等が着床するよう投下位置を制御することで高精度の施工が可能である。
【0016】
このように、実施形態1の人工海底山脈M1は、3つの円錐体c1,c2,c3の頂点の間に逆三角形状の複雑な曲面を持つ立体空隙が形成され、また、人工海底山脈M1の裾面、すなわち側面は全てが円錐面で構成されることになる。そのため、3つの円錐体c1,c2,c3の配列方向とは垂直な方向の潮流、海流が人工海底山脈M1に衝接して遮られ、各円錐体c1,c2,c3の凸凹な円錐体の裾面に沿って上昇して人工海底山脈を越えることで複雑な流れや渦が発生しこれが有効な内部波を誘起する。また自然に発生した内部波が人工海底山脈M1に衝接した場合には内部波が人工海底山脈M1によって砕波し混合を促進することも期待できる。人工海底山脈M1によって発生する渦は、特許文献1,2のような成層が無いか弱い一様流とは渦のでき方が異なる。人工海底山脈M1を流れが越える時にできる流れや渦の変化により人工海底山脈上流から下流にかけて上方に有効な内部波が発生し、その影響がさらに上下流及び上方に伝播するため、密度成層の強い大水深海域においても有効な鉛直混合が誘起される。
【0017】
ここで、図2に直線上に配列し、裾部が互いに接し、あるいは重合するように構成した複数の円錐体からなる人工海底山脈の単位体積当たりの湧昇フラックス(以下、単に湧昇フラックスと称する)をシミュレーションした結果を示す。湧昇フラックスとは、流動計算全領域における各水深の水平断面を上下方向に通過する栄養塩類を表し、表層で低く底層まで直線的に濃度が高くなるマーカーを配置し、各水平断面で鉛直方向に移動するマーカーの量を長時間平均したものである。図2では、隣接する頂点間距離Lを円錐体底面半径rの0.5倍、1倍、1.25倍、1.5倍、2倍、3倍の6つの場合、すなわち0.5r,1r,1.25r,1.5r,2r,3rの場合について、それぞれ直線配列する円錐体の数を1〜5個まで変化させた湧昇フラックスを示している。このシミュレーションにおいて、特許文献1,2で得られるレベルの湧昇フラックス下限閾値とした場合、頂点間距離Lが1.25rから2rの範囲であれば、円錐体の個数を3以上にすれば湧昇フラックスが閾値を超えることが判る。
【0018】
また、海底山脈を構成するブロック体等を少なくするために円錐体の個数を3〜5個に限定した場合に、隣接する円錐体の頂点間距離Lを相違させた場合の湧昇フラックスをシミュレーションした結果を図3に示す。このシミュレーションによれば、頂点間距離Lが0.75rよりも小さいもの、あるいは2rよりも大きいものでは湧昇フラックスは閾値より小さいが0.75rから2rでは湧昇フラックスが閾値より大きくなる。特に、頂点間距離Lが1.25rのときに湧昇フラックスが最大になることが判る。
【0019】
実施形態1では3個の円錐体を直列に重複して配列しているが、図2及び図3のシミュレーション結果から、円錐体は3個以上であれば閾値を越えた湧昇フラックスを得ることができる。したがって、本発明においては、例えば、図4のように4個の円錐体c1〜c4を直線上に配列した構成の人工海底山脈M2であってもよい。また、図示は省略するが5個の円錐体、あるいは6個以上の円錐体を配列した構成であってもよい。これらいずれの場合においても頂点間距離Lを0.75r〜2r場合の範囲に設定することが好ましい。
【0020】
(実施形態2)
図5は実施形態2の人工海底山脈M3の概念構成図である。基本的な構成は実施形態1と同じであるが、ここでは人工海底山脈M3を構成している3つの円錐体c1,c2,c3のうち、円錐体c1とc2の頂点間距離Laと、円錐体c2とc3の頂点間距離Lbとを相違させている。なお、各円錐体c1,c2,c3の高さHと底面半径rはいずれも同じである。また、頂点間距離La,Lbはそれぞれ実施形態1と同様に0.75r〜2rの範囲内である。
【0021】
図6はこれら頂点間距離LaとLbの比La/Lbを0.5から2まで変化させたときの湧昇フラックスをシミュレーションした図である。ここで、La/Lbが1のときは、頂点間距離LaとLbが同じで均等間隔となる。このシミュレーションによれば、La/Lbを変化させると、湧昇フラックスは頂点間距離Lが等間隔の実施形態1の人工海底山脈M1の場合よりも若干低下するもの、向上するものがあるが何れも閾値は下回らない。このことから、頂点間距離LaとLbを不等寸法にすると人工海底山脈M3を越える流れが複雑になり、この影響を受けて内部波が変化する。これによって湧昇フラックスも変化し人工海底山脈M1の湧昇フラックスを超える場合もあり、特にLa/Lbが1.2または0.83近傍のとき、例えばLaとLbの一方が1.25rで他方が1.5rの時に湧昇フラックスが最大となることが判る。
【0022】
実施形態2の人工海底山脈M3では、隣接する円錐体の頂点間距離の違いによって、3個の円錐体の間に形成される空隙の形状が実施形態1のような左右対称の逆三角形にはならない。そのため、この空隙の形状が実施形態1の人工海底山脈M1とは相違していることが要因となり鉛直混合の効果が相違し、当該人工海底山脈M1よりも高い効果が得られる場合があることが判った。
【0023】
(実施形態3)
実施形態1,2では、人工海底山脈を構成する複数の円錐体の頂点高さHと底面半径rをそれぞれ等しくしているが、複数の円錐体の頂点高Hを相違させるようにしてもよい。例えば、図7(a)の例では、3個の円錐体c1,c2,c3を配列して実施形態3の人工海底山脈M4aを構成しているが、ここでは両外側の2個の円錐体c1,c3の頂点高さを中央側の1個の円錐体c2の頂点高さよりも高くしている。また、図7(b)の例では、4つの円錐体c1,c2,c3,c4を配列して実施形態3の人工海底山脈M4bを構成しているが、ここでは両外側の2つの円錐体c1,c4の頂点高さを中央側の2つの円錐体c2,c3の頂点高さよりも低くしている。なお、各円錐体の底面半径rは同じなので、頂点高さの異なる円錐体は円錐面の斜面勾配が相違することになる。
【0024】
また、実施形態3では、複数の円錐体の底面半径rを相違させるようにしてもよい。図示は省略するが、例えば、図1の人工海底山脈M1に適用した場合には、3個の円錐体c1,c2,c3のうち、両外側の2個の円錐体c1,c3の底面半径raを中央側の1個の円錐体c2の底面半径rbよりも大きくすることになる。なお、このように、隣接する円錐体の底面半径が相違する場合には隣接する異なる底面半径の円錐体の各半径の平均半径raを用いる。例えば、一つの円錐体の半径をr1、隣接する円錐体の半径をr2としたときには、平均半径raは(r1+r2)/2となる。したがって、実施形態1における好ましい頂点間距離Lは0.75ra〜2raになる。
【0025】
このような頂点間距離L、頂点高さH、底面半径rの異なる円錐体は、海上から投下するブロック体等の構成材料の種類による形状差、個数、投下する際の作業船の大きさや配置角度、投下位置、ワイヤー等で拘束したブロック体等の区画を開放するタイミング、投下時の潮流速度、方向、風向・風速、波浪を考慮して制御することで構築することが可能である。
【0026】
(実施形態4)
図8は実施形態4の概念構成図である。この実施形態4では実施形態1〜3の人工海底山脈を1つの山脈として構成し、この山脈を2つ直線上に並べて配置して山脈群を構成している。ここでは、図4に示した実施形態1の変形例としての4つの円錐体c1〜c4で構成される人工海底山脈M2を1個の山脈とし、2個の人工海底山脈M2a,M2bを直線上に配置して1つの山脈群として構成している。すなわち、2つの人工海底山脈M2a,M2bはそれぞれ各円錐体の頂点間距離Lを0.75r〜2rに形成したものである。
【0027】
図9は直線配置した人工海底山脈M2a,M2bの隣接する側の端部に配置される円錐体の相互間の頂点間距離Lmと湧昇フラックスの関係を示すシミュレーション図である。ここでは頂点間距離が1r、1.25r、2rの3つの場合を示している。このシミュレーションから、人工海底山脈M2a,M2bとの頂点間距離Lmは、各人工海底山脈M2a,M2bを構成する円錐体の頂点間距離を2rとしたときに、頂点間距離Lmを4.5rよりも大きくすると閾値よりも低下するが、それ以外の場合には閾値よりも大きくなることが判る。このことから、頂点間距離Lmを4.5rよりも小さくすることが好ましい。すなわち、頂点間距離Lmが4.5rを超えると山脈群を構成する意味合いが小さくなり、また、頂点間距離Lmを2rよりも小さくすると実施形態1〜3の人工海底山脈と等価な構成となり山脈群としての意味は小さくなる。
【0028】
実施形態4では、配列された2つの人工海底山脈M2a,M2bのそれぞれにおいて実施形態1のように有効な鉛直混合が誘起されるとともに、2つの人工海底山脈M2a,M2bの間にも逆三角形の空隙が形成され、かつ円錐体の傾斜面が形成されるので、この領域においてもM2a,M2bによる流れや渦の変化が有効に作用することになる。そのため、人工海底山脈群が構成される人工海底山脈の配列方向の広い領域にわたって鉛直混合が発生し、効率の高い人工海底山脈M2a,M2bの単体よりさらに優れた相乗効果を発揮することが判った。このように本発明は密度成層の強い大水深海域においても補償深度付近で有効な鉛直混合を誘起する人工海底山脈を提供することができる。
【0029】
実施形態4においても、実施形態3のような頂点間距離Lや頂点高さHの異なる円錐体で構成される人工海底山脈を複数個直線配置して人工海底山脈群を構成することが可能である。
【0030】
実施形態1〜4において、湧昇フラックスが最大になる人工海底山脈を構築する際には、例えば、対象海域の水深、流況、密度分布、栄養塩素濃度分布等を入力データとし、円錐体の数、頂点間距離、円錐体の頂点高さ、底面半径、斜面勾配、人工海底山脈群を構成する山脈数、山脈相互間の距離等をパラメータとし、補償深度付近の水平断面で人工海底山脈の単位体積当たりの鉛直混合量が最大で、かつ補償深度付近での総鉛直混合量が最大になるものを解析的に演算することで最大効果を発揮する人工海底山脈が得られる。この場合、補償深度を挟む水深帯の鉛直混合量を積分したものを総鉛直混合量とし、さらに潮汐による往復流を考慮して人工海底山脈の形状、規模として最適なものを演算するようにしてもよい。
【0031】
実施形態1〜4では海底面上に直接ブロック体等を堆積して人工海底山脈を構築しているが、海底面が軟弱な場合には堆積したブロック体等が埋没して予定した構成の人工海底山脈を構築することが難しい場合がある。そのような場合には、人工海底山脈を構築する際の予備工事として、あらかじめ海底にコンクリートブロックや石材、その他の部材を均して敷設して基盤を形成し、この基盤上に人工海底山脈を構築することが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は海底に構築した人工海底山脈であれば適用でき、特にその構築方法の如何にかかわらず採用することが可能である。
【符号の説明】
【0033】
M1〜M4 人工海底山脈
M2a,M2b 人工海底山脈群
c1〜c4 円錐体
L 頂点間距離
H 頂点高さ
r 底面半径




【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数個のブロック体等を海底に堆積し、当該海域の潮流、海流、内部波を利用して周辺海域の海水を鉛直混合する人工海底山脈であって、前記ブロック体等で構成される3つ以上の円錐体を直線配置してなり、隣接する円錐体の頂点間距離は当該円錐体の底面半径の0.75〜2倍であることを特徴とする人工海底山脈。
【請求項2】
前記3つ以上の円錐体の頂点間距離を相違させていることを特徴とする請求項1に記載の人工海底山脈。
【請求項3】
請求項1または2に記載の人工海底山脈を直線上に複数配列して人工海底山脈群を構成することを特徴とする人工海底山脈。
【請求項4】
配列した複数の人工海底山脈の隣接する端部に配置される円錐体の頂点間距離を当該円錐体の底面半径の2〜4.5倍としたことを特徴とする請求項3に記載の人工海底山脈。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−69052(P2011−69052A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−218680(P2009−218680)
【出願日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【特許番号】特許第4633848号(P4633848)
【特許公報発行日】平成23年2月16日(2011.2.16)
【出願人】(509265933)株式会社人工海底山脈研究所 (2)
【Fターム(参考)】