説明

人工神経再生管及びその製造方法

【課題】末梢神経が事故や手術で切断、切除された場合、神経再生チューブを用いることによって生体神経の再生を図り、さらにカウザルギー(灼熱痛)や複合性局所疼痛症候群(CRPS)の除去等をも提供することを課題とする。
【解決手段】生体内において神経が繋がる時間及び人工チューブが溶解する時間的な問題点を解決するため、当該チューブの表面をPGA(ポリグリコール酸)で組成し、またチューブ内部は、豚の表皮から採取できるコラーゲンを熱脱水架橋処理(摂氏150度を24時間以上)し、さらに上記PGAの縫合糸を京都西陣織の技術をマイクロサージャリー技術に応用した製法を採用し、チューブ内部のコラーゲン層は、酸素抽出により得られた抗原性を持たないコラーゲンを熱コントロールのみで3次元構造に加工成形することとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工チューブを用いて生体の神経を再生させるための医療機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の生体の神経再生医療における人工チューブは、末梢神経が事故や手術で切断、切除された場合、体内の他の場所から神経を取って移植することが行われてきたが、長さや太さがうまく合わず、十分な機能を果たせないことも多かった(自家移植)。
【0003】
また、従来の再生医療の目的は、体性幹細胞を骨髄から摘出し、血管や神経に分化させ、当該再生物を生体内に戻すことにより、人体の自己修繕機能を期待して臓器や神経を作り上げるということであり、倫理的な問題点も多く指摘してきた。
【0004】
これらの事情から神経の再生を目的とした人工チューブが開発されたが、それらのチューブを体内に入れた場合、当該チューブが体内に残留、または溶解する時間が遅すぎる等の理由から、神経の正常な機能を阻害し、神経作用の十分な復元をなすことが極めて困難であり、術後の患者がカウザルギー(灼熱痛)や複合性局所疼痛症候群(CRPS)と呼ばれる痛みに長年苦しめられるなどの問題点も臨床例として多数指摘されていた。
【0005】
その他、神経が欠落した箇所(ギャップ)の長さによって対応できない製品も多く、再生医療現場の需要に十分応えているとは言い難い状況であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許公開2008−200299
【特許文献2】特許公開2005−237476
【特許文献3】特許公開2005−143979
【特許文献4】特許公開2003−19196
【特許文献5】特許公開2002−78792
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記のような従来の再生医療における人工チューブの組成物の改善、及び当該チューブの持つ問題点を解決しようとするものであり、チューブを組成する成分及び組成方法をより人体に親和性のあるものに改良し、さらなる再生医療の効果を目指すこととを目的とするものである。
【0008】
生体における神経欠損部架橋材料である人工神経に求められる特徴は、▲1▼生体適合性がよく、内腔への瘢痕組織の侵入を防げること、▲2▼生体吸収性が神経欠損部の架橋形成まで残存すること、▲3▼再生神経が接着できるよう表面積が大きく、軸索の伸張しやすい表面状態をもつこと、▲4▼圧迫されても狭窄しない力学強度と弾性があること、▲5▼直系と壁の厚さ、長さが自由に採型できること、▲6▼老廃物を破棄し酸素や栄養を補給できるよう物質透過性がよく、内腔へ血管が侵入可能であることが条件とされているところ、本発明は、これらの諸条件も満たすものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
生体内において神経が繋がる時間及び人工チューブが溶解する時間的な問題点を解決するため、当該チューブの表面をPGA(ポリグリコール酸)で組成し、またチューブ内部は、豚の表皮から採取できるコラーゲンを熱脱水架橋処理(摂氏150度を24時間以上)したものとした。
【0010】
上記PGAの縫合糸を京都西陣織の技術をマイクロサージャリー技術に応用した製法を採用した。
【0011】
チューブ内部のコラーゲン層は、酸素抽出により得られた抗原性を持たないコラーゲンを熱コントロールのみで3次元構造に加工成形することとした。
【発明の効果】
【0012】
当該チューブを利用することによって患者は、自身の神経の再生が活性化されるため、神経機能の回復制度が高く、副作用や拒絶反応が殆どみられず、CRPSや灼熱痛などの神経起因の痛みの緩和及び除去も期待できる。
【0013】
チューブ製法に西陣織技術を採用したことにより、チューブの耐久制度及び溶解時間の調整が可能となり、ギャップ対応が5ミリメートルから150ミリメートルまで幅広く適用でき、自家移植に対応せざるを得ないような長さのギャップにも適用が可能となった。
【0014】
また、PGAの機能が西陣織技術におけるチューブ製法と相まって、生体内に長期間当該チューブが残留することなく、結合組織の防壁としての過度の役割を防止することが可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0015】
この発明の好ましい実施形態として、人工チューブの直系を0.7ミリメートルから13ミリメートル程度とし、切断された神経を当該チューブの両側から挿入する形態が挙げられる。
【0016】
事故等で切断された神経は、両端の形状が一定ではないため、先ず神経の正常な形状部分のみを残し、その余を切断し、正常な形状として残留した神経同士を当該チューブで繋ぎ断絶された神経同士が当該チューブ内で結合するための「場」を提供するための手術を施すことで上記の効果が期待できる。
【実施例】
【0017】
2002年3月から臨床実験として、約30例の患者に本発明を使用した結果、極めて良好な結果を得ることができた。
【0018】
例えば、直腸癌の手術で合併切除された下腿の閉鎖神経25ミリメートルの接合例では、1ヶ月で運動と知覚を回復し、外傷例では、手指の神経接合部に激痛が続いていた患者の場合、手術後に疼痛は即刻消失し、1ヶ月程度の後には知覚運動が回復している。
【産業上の利用可能性】
【0019】
事故や手術で神経を切断・損傷して、その機能を失う患者は国内だけでも毎年25万人にものぼり、これだけの患者に対してCRPSや灼熱痛の緩和・除去及び神経接合による知覚運動の回復といった効果が得られるようになれば、患者の生活改善に大いに役立つことが期待され、以て産業上の利用性がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工チューブの表面をPGA(ポリグリコール酸)で組成し、またチューブ内部は、豚の表皮から採取できるコラーゲンを熱脱水架橋処理(摂氏150度を24時間以上)したものとしたこと。
【請求項2】
人工チューブにおけるPGAの縫合糸を京都西陣織の技術を用いたこと。
【請求項3】
人工チューブ内部のコラーゲン層は、酸素抽出により得られた抗原性を持たないコラーゲンを熱コントロールのみで3次元構造に加工成形することとしたこと。

【公開番号】特開2011−255123(P2011−255123A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−141025(P2010−141025)
【出願日】平成22年6月4日(2010.6.4)
【出願人】(505130628)
【Fターム(参考)】