説明

人工股関節用コンポーネント

【課題】大腿骨の頸部における応力集中を緩和することができ、大腿骨の頸部骨折の発生を抑制する。
【解決手段】骨頭球殻部11は、臼蓋101aに配置される殻状部材102の内面102aに対して摺接する球状外面11aが形成されている。軸状部12は、骨頭球殻部11の内側における球状外面11aの頭頂部分の裏側に対応する位置から突出するように延び、大腿骨100に埋植される。そして、骨頭球殻部11は、頭頂部分側とは反対側の周縁部分11bにおいてその端部11c側に向かって、軸状部12の突出方向と垂直な断面における厚みが徐々に減少するように、周縁部分11bにおける内壁11d側が球状外面11a側に向かって削がれた形状に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工股関節において用いられ、大腿骨の骨頭表面を置換するように配置される表面置換型の人工股関節用コンポーネントに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、変形性股関節症や慢性関節リウマチなどの疾患によって股関節における大腿骨の摺動部分に異常が認められた患者に対して、人工股関節が適用される手術が行われている。このような手術においては、骨盤側の処置が必要な場合には、臼蓋に対して半球殻状の殻状部材が配置される。一方、大腿骨には、上記の殻状部材の内面に対して摺接する球状外面が形成されるとともに一部が大腿骨に埋植される人工股関節用コンポーネントが配置される。また、骨盤側の処置が不要な場合には、この人工股関節用コンポーネントは、球状外面が臼蓋に対して摺接するように配置されることになる。
【0003】
人工股関節を適用する手術においては、例えば骨頭部分の損傷の程度が軽度の場合には、手術の際における骨頭部分の切除量の少量化等を図る観点から、大腿骨の骨頭表面を置換するように配置される表面置換型の人工股関節用コンポーネントが用いられる。特許文献1の図4及び特許文献2の図1においては、このような表面置換型の人工股関節用コンポーネントが開示されている。いずれの人工股関節用コンポーネントとも、前述の球状外面が形成された半球殻状の骨頭球殻部とその内側から突出するように延びる軸状部とが設けられ、軸状部が大腿骨に埋植される。
【0004】
【特許文献1】特開2001−137267号公報
【特許文献2】特開昭53−146498号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1及び特許文献2に開示されたような表面置換型の人工股関節用コンポーネントでは、骨頭球殻部における頭頂部分側とは反対側の周縁部分の端部が、大腿骨の頸部に隣接して配置されることになる。このことから、上記のような表面置換型の人工股関節用コンポーネントが配置された大腿骨の頸部においては、人工股関節用コンポーネントに荷重が作用した際に骨頭球殻部の周縁部分の端部の近傍において応力集中が生じ易いと考えられ、頸部骨折が発生し易い虞がある。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みることにより、大腿骨の頸部における応力集中を緩和することができ、大腿骨の頸部骨折の発生を抑制することができる表面置換型の人工股関節用コンポーネントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための第1発明に係る人工股関節用コンポーネントは、人工股関節において用いられ、大腿骨の骨頭表面を置換するように配置される表面置換型の人工股関節用コンポーネントであって、臼蓋に配置される半球殻状の殻状部材の内面に対して又は臼蓋に対して摺接する球状外面が形成された半球殻状の骨頭球殻部と、前記骨頭球殻部の内側における前記球状外面の頭頂部分の裏側に対応する位置から突出するように延びるとともに、大腿骨に埋植される軸状部と、を備えている。そして、第1発明に係る人工股関節用コンポーネントは、前記骨頭球殻部は、頭頂部分側とは反対側の周縁部分においてその端部側に向かって、前記軸状部の突出方向と垂直な断面における厚みが徐々に減少するように、前記周縁部分における内壁側及び前記球状外面側のうちの少なくとも一方が他方に向かって削がれた形状に形成されていることを特徴とする。
【0008】
この発明によると、骨頭球殻部は、周縁部分においてその端部側に向かって、軸状部の突出方向と垂直な断面における厚みが徐々に減少するように、周縁部分における内壁側及び球状外面側のうちの少なくとも一方が他方に向かって削がれた形状に形成されている。このため、人工股関節用コンポーネントに荷重が作用した際に、骨頭球殻部の周縁部分に隣接する大腿骨の頸部において発生する応力が、周縁部分の内壁側及び球状外面側の少なくとも一方が削がれた形状の部分に隣接する領域の全体に亘ってより分散され易くなる。このため、大腿骨の頸部における応力が、骨頭球殻部の周縁部分の端部の近傍において集中してしまうことを抑制することができる。これにより、大腿骨の頸部骨折の発生を抑制することができる。
【0009】
従って、本発明によると、大腿骨の頸部における応力集中を緩和することができ、大腿骨の頸部骨折の発生を抑制することができる表面置換型の人工股関節用コンポーネントを提供することができる。
【0010】
第2発明に係る人工股関節用コンポーネントは、第1発明の人工股関節用コンポーネントにおいて、前記骨頭球殻部の周辺部分は、その端部が周方向に沿って延びる刃先状に形成されていることを特徴とする。
【0011】
この発明によると、骨頭球殻部の周縁部分の端部が刃先状に形成されているため、骨頭球殻部の周縁部分ではその端部側に向かって軸状部突出方向と垂直な断面の厚みが更に緩やかに変化することになる。このため、大腿骨の頸部における骨頭球殻部の周縁部分の端部の近傍での応力の変化が更に緩やかになり、大腿骨の頸部における応力が骨頭球殻部の周縁部分の端部の近傍に集中してしまうことを更に緩和することができ、大腿骨の頸部骨折の発生を更に抑制することができる。
【0012】
第3発明に係る人工股関節用コンポーネントは、第1発明又は第2発明の人工股関節用コンポーネントにおいて、前記骨頭球殻部の周縁部分は、内壁側及び前記球状外面側のうちの少なくとも一方が他方に向かって凹むように削がれた形状に形成されていることを特徴とする。
【0013】
この発明によると、骨頭球殻部の周縁部分の内壁側及び球状外面側のうちの少なくとも一方が他方に向かって凹むように削がれて形成されているため、骨頭球殻部の周縁部分では、その凹んだ形状の部分からその端部にかけて軸状部突出方向と垂直な断面の厚みが緩やかに変化することになる。このため、骨頭球殻部の周縁部分に隣接する大腿骨の頸部における応力が、周縁部分の端部の近傍からより離れた領域に効率よく分散されることになる。これにより、大腿骨の頸部における応力が骨頭球殻部の周縁部分の端部の近傍に集中してしまうことを更に効率よく緩和することができ、大腿骨の頸部骨折の発生を更に抑制することができる。
【0014】
第4発明に係る人工股関節用コンポーネントは、第1発明乃至第3発明のいずれかの人工股関節用コンポーネントにおいて、前記軸状部は、前記骨頭球殻部の内側から突出する先端側に向かってその突出方向と垂直な断面における断面積が減少するように、側面部分の少なくとも一部がテーパ状に先細るように形成されていることを特徴とする。
【0015】
この発明によると、軸状部には、その先端側に向かって断面積が減少するように、側面部分にテーパ状の先細り形状に形成されたテーパ状部分が設けられている。このため、大腿骨の頸部における応力が、骨頭球殻部の周縁部分の内壁側の削がれた形状の部分に隣接する領域で分散されるとともに、軸状部の先細り形状のテーパ状部分に隣接する領域でも分散され、大腿骨の頸部における応力分散効果を更に高めることができる。これにより、大腿骨の頸部における応力が骨頭球殻部の周縁部分の端部の近傍に集中してしまうことを更に緩和することができ、大腿骨の頸部骨折の発生を更に抑制することができる。
【0016】
第5発明に係る人工股関節用コンポーネントは、第4発明の人工股関節用コンポーネントにおいて、前記軸状部の側面部分は、テーパ状に形成された部分が、前記骨頭球殻部の周縁部分の端部に対向する位置よりも当該軸状部の突出方向における先端側に配置されていることを特徴とする。
【0017】
この発明によると、軸状部の側面部分における先細り形状のテーパ状部分が、骨頭球殻部の周縁部分の端部に対向する位置よりも軸状部の先端側に配置されている。即ち、軸状部の突出方向に対して垂直な方向において、骨頭球殻部の周縁部分と軸状部のテーパ状部分とが重なることがない。このため、骨頭球殻部の周縁部分で大腿骨の頸部の応力を分散する効果と軸状部のテーパ状部分で大腿骨の応力を分散する効果とが同じ領域に重複して作用してしまうことが抑制され、大腿骨の頸部の応力を上記の周縁部分に対応する領域と上記のテーパ状部分に対応する領域とに亘って更に効率よく分散させることができる。これにより、大腿骨の頸部における応力が骨頭球殻部の周縁部分の端部の近傍に集中してしまうことを更に効率よく緩和することができ、大腿骨の頸部骨折の発生を更に抑制することができる。また、軸状部の突出方向に対して垂直な方向において骨頭球殻部の周縁部分と軸状部のテーパ状部分とが重なることがないため、軸状部の突出方向に垂直な方向での骨頭球殻部及び軸状部の合計の断面積が、骨頭球殻部の周縁部分の端部の近傍において大きく変化してしまうことも防止できる。このため、大腿骨の頸部の応力が骨頭球殻部の周縁部分の端部の近傍で急に変化して応力集中が生じてしまうことも抑制されることになる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によると、大腿骨の頸部における応力集中を緩和することができ、大腿骨の頸部骨折の発生を抑制することができる表面置換型の人工股関節用コンポーネントを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しつつ説明する。尚、本発明は、人工股関節において用いられ、大腿骨の骨頭表面を置換するように配置される表面置換型の人工股関節用コンポーネントとして広く適用することができるものである。
【0020】
図1は、本発明の一実施の形態に係る人工股関節用コンポーネント1を示す斜視図である。図2は、人工股関節用コンポーネント1が人工股関節において用いられた状態を示す断面図であって、大腿骨100及び骨盤101の断面の一部とともに示している(図2では、骨盤101については断面状態を示す斜線の図示を省略している)。図1及び図2に示すように、人工股関節用コンポーネント1は、人工股関節において用いられ、骨頭球殻部11と軸状部12とを備えて構成されている。この人工股関節用コンポーネント1は、生体埋植用に医療機器としての認可承認を得たチタン合金、コバルトクロム合金、ステンレス鋼などの金属により形成されている。尚、本実施形態では、人工股関節用コンポーネント1が骨盤101の臼蓋101aに配置される半球殻状の殻状部材102とともに人工股関節を構成する場合を例にとって説明する。
【0021】
図3は、人工股関節用コンポーネント1の断面図である。図1乃至図3に示すように、人工股関節用コンポーネント1の骨頭球殻部11は、臼蓋101aに配置される殻状部材102の内面102aに対して摺接する球状外面11aが形成された半球殻状の形状に形成されている。この骨頭球殻部11は、大腿骨100の骨頭部分100aの表面を覆うように配置される。
【0022】
また、図4は、図3におけるA−A線矢視断面図(図4(a))、B−B線矢視断面図(図4(b))、及びC−C線矢視断面図(図4(c))をそれぞれ示したものである。図3及び図4に示すように、骨頭球殻部11は、球状外面11aの頭頂部分側とは反対の周縁部分11b(図3にて破線で囲んで示す部分)における内壁11d側が球状外面11a側に向かって凹むように削がれた形状に形成されている。これにより、骨頭球殻部11は、その周縁部分11bにおいてその端部11c側に向かって、後述する軸状部12の突出方向と垂直な断面における厚みが徐々に減少するように形成されている。尚、図1及び図3によく示すように、骨頭球殻部11の周縁部分11bは、その端部11cが周方向に沿って延びる刃先状に形成されている。
【0023】
図1乃至図3に示すように、人工股関節用コンポーネント1の軸状部12は、骨頭球殻部11の内側における球状外面11aの頭頂部分の裏側に対応する位置から突出するように延びるように形成されている。そして、この軸状部12は、大腿骨100の骨頭部分100aに埋植される。また、図3によく示すように、軸状部12には、その側面部分において、骨頭球殻部11の内側から突出する先端側に向かってテーパ状に先細るように形成されたテーパ状部分12aが設けられている。このため、軸状部12は、突出する先端側に向かってその突出方向と垂直な断面における断面積が減少するように形成されている。そして、軸状部12の側面部分は、テーパ状に形成されたテーパ状部分12aが、骨頭球殻部11の周縁部分11bの端部11cに対向する位置よりも軸状部12の突出方向における先端側に配置されている。
【0024】
上述した人工股関節用コンポーネント1が人工股関節に適用される場合には、図2に示すように、軸状部12が大腿骨100に対して骨頭部分100aから頸部100bにかけて挿入されるように埋植されるとともに、骨頭球殻部11が骨頭部分100aの表面を覆うように配置される。このとき、骨頭球殻部11の周縁部分11bは大腿骨100の頸部100bに隣接するように配置される。また、人工股関節用コンポーネント1と大腿骨100との間には、適宜、骨セメント103が充填される。このため、周縁部分11bの内壁11dと大腿骨100の頸部100bの周囲との間の隙間には、骨セメント103が充満した状態となっている。このように大腿骨100に対して配置された人工股関節用コンポーネント1は、その球状外面11aにおいて、骨盤101の臼蓋101aに配置された殻状部材102の内面102aと摺接することになる。尚、骨頭球殻部11の周縁部分11bの内壁11d側が球状外面11a側に向かって削がれた形状に形成されているため、人工股関節用コンポーネント1を上記のように人工股関節において配置する場合には、人工股関節用コンポーネント1と大腿骨100との間で余った分量の骨セメント103は、内壁11dと頸部100bの周囲との間から容易に排出されることになる。
【0025】
次に、本実施形態に係る人工関節用コンポーネント1が人工股関節において用いられる場合における効果を検証するため、大腿骨100の頸部100bに発生する応力について有限要素法を用いて解析した結果について説明する。尚、人工股関節用コンポーネント1が人工股関節に用いられる場合についての応力解析に加え、比較のため、従来技術に対応する人工股関節用コンポーネントが人工股関節において用いられる場合についての応力解析も行った。
【0026】
図5は、従来技術に対応する人工股関節用コンポーネント110を示す断面図である。人工股関節用コンポーネント110は、球状外面111aが形成された半球殻状の骨頭球殻部111と、骨頭球殻部111の内側から突出するように延びる軸状部112とが設けられている。しかし、本実施形態の人工股関節用コンポーネント1とは異なり、人工股関節用コンポーネント110では、骨頭球殻部111の周縁部分111b(図中破線で囲んで示す部分)の内壁は、軸状部112の突出方向とほぼ平行に直線状に延びるように形成されている。このため、骨頭球殻部111の周縁部分111bは厚みが厚く形成されており、更に、その端部111cは、軸状部112の突出方向に対してほぼ垂直な端面として形成され、周縁部分111bにおいてほぼ直角な段状に形成されている。これにより、骨頭球殻部111は、その周縁部分111bの端部111cにおいて、軸状部112の突出方向と垂直な断面の断面積が突然ゼロになって急激に変化するように構成されている。
【0027】
図6は、従来技術に対応する人工股関節用コンポーネント111が人工股関節に用いられた場合についての応力解析結果を示す図であって、大腿骨100及び人工股関節用コンポーネント111の切欠き断面として示す図である。この図6では、大腿骨100の切欠き断面について、人工股関節用コンポーネント110に所定の荷重が作用した場合において発生する応力の分布を応力の大きさの範囲で5段階に分けてハッチングを変更して図示している。一方、図7は、人工股関節用コンポーネント1が人工股関節に用いられた場合についての応力解析結果を示す図であって、大腿骨100及び人工股関節用コンポーネント1の切欠き断面として示す図である。図7についても、図6と同様に、大腿骨100の切欠き断面について、人工股関節用コンポーネント1に所定の荷重が作用した場合において発生する応力の分布を応力の大きさの範囲で5段階に分けてハッチングを変更して図示している。尚、図6及び図7において両端矢印で示すように、応力の大きさがレベル1の領域はその応力の大きさが所定の値以下の領域であり、応力の大きさがレベル2の領域はその応力の大きさがレベル1の応力値を超える所定の範囲の領域である。同様に、応力の大きさがレベル3の領域はその応力の大きさがレベル2の応力値を超える所定の範囲の領域で、応力の大きさがレベル4の領域はその応力の大きさがレベル3の領域の応力値を超える所定の範囲の領域である。また、応力の大きさがレベル5の領域はその応力の大きさがレベル4の応力値を超える領域である。
【0028】
図6に示すように、人工股関節コンポーネント111が用いられた場合は、大腿骨100の頸部100bでは、骨頭球殻部111の周縁部分111bの端部111cの近傍において、レベル5の応力値にまで達する領域が大きな領域として発生し、応力集中が生じている。一方、人工股関節用コンポーネント1が用いられた場合は、大腿骨100の頸部100bでは、骨頭球殻部11の周縁部分11bの端部11cの近傍においては、レベル4の応力値の領域しか発生しておらず、応力集中が大幅に緩和されることが確認された。
【0029】
以上説明した人工股関節用コンポーネント1によると、骨頭球殻部11は、周縁部分11bにおいてその端部11c側に向かって、軸状部12の突出方向と垂直な断面における厚みが徐々に減少するように、周縁部分11bにおける内壁11d側が球状外面11a側に向かって削がれた形状に形成されている。このため、人工股関節用コンポーネント1に荷重が作用した際に、骨頭球殻部11の周縁部分11bに隣接する大腿骨100の頸部100bにおいて発生する応力が、周縁部分11bの内壁11d側の削がれた形状の部分に骨セメント103を介して隣接する領域の全体に亘ってより分散され易くなる。このため、大腿骨100の頸部100bにおける応力が、骨頭球殻部11の周縁部分11bの端部11cの近傍において集中してしまうことを抑制することができる。これにより、大腿骨100の頸部骨折の発生を抑制することができる。
【0030】
従って、本実施形態によると、大腿骨の頸部における応力集中を緩和することができ、大腿骨の頸部骨折の発生を抑制することができる表面置換型の人工股関節用コンポーネント1を提供することができる。
【0031】
また、人工股関節用コンポーネント1によると、骨頭球殻部11の周縁部分11bの端部11cが刃先状に形成されているため、骨頭球殻部11の周縁部分11bではその端部11c側に向かって軸状部12の突出方向と垂直な断面の厚みが更に緩やかに変化することになる。このため、大腿骨100の頸部100bにおける骨頭球殻部11の周縁部分11bの端部11cの近傍での応力の変化が更に緩やかになり、大腿骨100の頸部100bにおける応力が骨頭球殻部11の周縁部分11bの端部11cの近傍に集中してしまうことを更に緩和することができ、大腿骨100の頸部骨折の発生を更に抑制することができる。
【0032】
また、人工股関節用コンポーネント1によると、骨頭球殻部11の周縁部分11bの内壁11d側及び球状外面11a側のうちの少なくとも一方が他方に向かって凹むように削がれて形成されている。このため、骨頭球殻部11の周縁部分11bでは、その内壁11dにおける凹んだ形状の部分からその端部11cにかけて軸状部12の突出方向と垂直な断面の厚みが緩やかに変化することになる。これにより、骨頭球殻部11の周縁部分11bに骨セメント103を介して隣接する大腿骨100の頸部100bにおける応力が、周縁部分11bの端部11cの近傍からより離れた領域に効率よく分散されることになる。従って、大腿骨100の頸部100bにおける応力が骨頭球殻部11の周縁部分11bの端部11cの近傍に集中してしまうことを更に効率よく緩和することができ、大腿骨100の頸部骨折の発生を更に抑制することができる。
【0033】
また、人工股関節用コンポーネント1によると、軸状部12には、その先端側に向かって断面積が減少するように、側面部分にテーパ状の先細り形状に形成されたテーパ状部分12aが設けられている。このため、大腿骨100の頸部100bにおける応力が、骨頭球殻部11の周縁部分11bの内壁11d側の削がれた形状の部分に骨セメント103を介して隣接する領域で分散されるとともに、軸状部12の先細り形状のテーパ状部分12aに隣接する領域でも分散され、大腿骨100の頸部100bにおける応力分散効果を更に高めることができる。これにより、大腿骨100の頸部100bにおける応力が骨頭球殻部11の周縁部分11bの端部11cの近傍に集中してしまうことを更に緩和することができ、大腿骨100の頸部骨折の発生を更に抑制することができる。
【0034】
また、人工股関節用コンポーネント1によると、軸状部12の側面部分における先細り形状のテーパ状部分12aが、骨頭球殻部11の周縁部分11bの端部11cに対向する位置よりも軸状部12の先端側に配置されている。即ち、軸状部12の突出方向に対して垂直な方向において、骨頭球殻部11の周縁部分11bと軸状部12のテーパ状部分12aとが重なることがない。このため、骨頭球殻部11の周縁部分11bで大腿骨100の頸部100bの応力を分散する効果と軸状部12のテーパ状部分12aで大腿骨100の頸部100bの応力を分散する効果とが同じ領域に重複して作用してしまうことが抑制され、大腿骨100の頸部100bの応力を上記の周縁部分11bに対応する領域と上記のテーパ状部分12aに対応する領域とに亘って更に効率よく分散させることができる。これにより、大腿骨100の頸部100bにおける応力が骨頭球殻部11の周縁部分11bの端部11cの近傍に集中してしまうことを更に効率よく緩和することができ、大腿骨100の頸部骨折の発生を更に抑制することができる。また、軸状部12の突出方向に対して垂直な方向において骨頭球殻部11の周縁部分11bと軸状部12のテーパ状部分12aとが重なることがないため、軸状部12の突出方向に垂直な方向での骨頭球殻部11及び軸状部12の合計の断面積が、骨頭球殻部11の周縁部分11bの端部11cの近傍において大きく変化してしまうことも防止できる。このため、大腿骨100の頸部100bの応力が骨頭球殻部11の周縁部分11bの端部11cの近傍で急に変化して応力集中が生じてしまうことも抑制されることになる。
【0035】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能なものである。例えば、次のように変更して実施してもよい。
【0036】
(1)本実施形態では、骨頭球殻部の球状外面が臼蓋に配置される殻状部材の内面に対して摺接する場合を例にとって説明したが、この通りでなくてもよく、球状外面が直接に臼蓋に対して摺接するものであってもよい。
【0037】
(2)本実施形態では、骨頭球殻部の周縁部分の内壁側が球状外面側に向かって凹むように削がれた形状に形成されている場合を例にとって説明したが、この通りでなくてもよい。周縁部分における内面側及び球状外面側のうちの少なくとも一方が他方に向かって削がれた形状に形成されていればよい。即ち、内面側が球状外面側に向かって、又は球状外面側が内面側に向かって、或いは内面側及び球状外面側が互いに他方に向かって、削がれた形状に形成されていればよい。また、凹むように削がれた形状に形成されているものに限らず、断面において直線状となるように削がれた形状に形成されているものであってもよい。
【0038】
図8は、変形例に係る人工股関節用コンポーネント2を示す断面図である。人工股関節用コンポーネント2は、本実施形態の人工股関節用コンポーネント1と同様に骨頭球殻部21と軸状部12とを備えて構成されているが、骨頭球殻部21の構成において人工股関節用コンポーネント1と異なっている。尚、人工股関節用コンポーネント2において人工股関節用コンポーネント1と同様に構成される要素については図面において同一の符号を付して説明を省略する。
【0039】
図8に示すように、人工股関節用コンポーネント2の骨頭球殻部21は、本実施形態の骨頭球殻部11と同様に、臼蓋に配置される殻状部材の内面に対して摺接する球状外面21aが形成された半球殻状の形状に形成されている。しかし、骨頭球殻部21は、球状外面21aの頭頂部分側とは反対の周縁部分21b(図8にて破線で囲んで示す部分)における内壁21dが円筒体の内周面のように直線状に延びるように形成されている。そして、周縁部分21bにおいては、球状外面21a側が内壁21d側に向かって削がれた形状に形成されている。これにより、骨頭球殻部21は、その周縁部分21bにおいてその端部21c側に向かって、軸状部12の突出方向と垂直な断面における厚みが徐々に減少するように形成されている。尚、周縁部分21bにおいては、その球状外面21a側が軸状部12の突出方向と平行な断面において直線状となるように削がれた形状に形成されることで、球状外面21a側が内壁21d側に向かって削がれた形状に形成されている。
【0040】
(3)本実施形態では、軸状部の先端側に先細り形状のテーパ状部分が設けられている場合を例にとって説明したが、この通りでなくもよく、軸状部の先端側が他の形態の先細り形状に形成されていてもよく、また、軸状部の先端側に先細り形状の部分が設けられていなくてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、人工股関節において用いられ、大腿骨の骨頭表面を置換するように配置される表面置換型の人工股関節用コンポーネントとして、広く適用することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の一実施の形態に係る人工股関節用コンポーネントを示す斜視図である。
【図2】図1に示す人工股関節用コンポーネントが人工股関節において用いられた状態を示す断面図であって、大腿骨及び骨盤の断面の一部とともに示す図である。
【図3】図1に示す人工股関節用コンポーネントの断面図である。
【図4】図3におけるA−A線矢視断面図(図4(a))、B−B線矢視断面図(図4(b))、及びC−C線矢視断面図(図4(c))をそれぞれ示したものである。
【図5】従来技術に対応する人工股関節用コンポーネントを示す断面図である。
【図6】図5に示す人工股関節用コンポーネントが人工股関節に用いられた場合についての応力解析結果を示す図である。
【図7】図3に示す人工股関節用コンポーネントが人工股関節に用いられた場合についての応力解析結果を示す図である。
【図8】変形例に係る人工股関節用コンポーネントの断面図である。
【符号の説明】
【0043】
1 人工股関節用コンポーネント
11 骨頭球殻部
11a 球状外面
11b 周縁部分
11c 端部
11d 内壁
12 軸状部
12a テーパ状部分
100 大腿骨
100a 骨頭部分
101a 臼蓋
102 殻状部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工股関節において用いられ、大腿骨の骨頭表面を置換するように配置される表面置換型の人工股関節用コンポーネントであって、
臼蓋に配置される半球殻状の殻状部材の内面に対して又は臼蓋に対して摺接する球状外面が形成された半球殻状の骨頭球殻部と、
前記骨頭球殻部の内側における前記球状外面の頭頂部分の裏側に対応する位置から突出するように延びるとともに、大腿骨に埋植される軸状部と、
を備え、
前記骨頭球殻部は、頭頂部分側とは反対側の周縁部分においてその端部側に向かって、前記軸状部の突出方向と垂直な断面における厚みが徐々に減少するように、前記周縁部分における内壁側及び前記球状外面側のうちの少なくとも一方が他方に向かって削がれた形状に形成されていることを特徴とする、人工股関節用コンポーネント。
【請求項2】
請求項1に記載の人工股関節用コンポーネントであって、
前記骨頭球殻部の周辺部分は、その端部が周方向に沿って延びる刃先状に形成されていることを特徴とする、人工股関節用コンポーネント。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の人工股関節用コンポーネントであって、
前記骨頭球殻部の周縁部分は、内壁側及び前記球状外面側のうちの少なくとも一方が他方に向かって凹むように削がれた形状に形成されていることを特徴とする、人工股関節用コンポーネント。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の人工股関節用コンポーネントであって、
前記軸状部は、前記骨頭球殻部の内側から突出する先端側に向かってその突出方向と垂直な断面における断面積が減少するように、側面部分の少なくとも一部がテーパ状に先細るように形成されていることを特徴とする、人工股関節用コンポーネント。
【請求項5】
請求項4に記載の人工股関節用コンポーネントであって、
前記軸状部の側面部分は、テーパ状に形成された部分が、前記骨頭球殻部の周縁部分の端部に対向する位置よりも当該軸状部の突出方向における先端側に配置されていることを特徴とする、人工股関節用コンポーネント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−142379(P2010−142379A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−321660(P2008−321660)
【出願日】平成20年12月17日(2008.12.17)
【出願人】(504418084)日本メディカルマテリアル株式会社 (106)
【Fターム(参考)】