説明

人工股関節用大腿骨コンポーネント

【課題】人工股関節用の大腿骨コンポーネントにおいて、ステム部と骨頭部との間に伝わる力を緩和することを課題とする。
【解決手段】人工股関節用大腿骨コンポーネントXを、嵌入孔が設けられた球状体からなる骨頭部10と、先端に前記嵌入孔に嵌め入れて固定する当該嵌入孔に嵌る大きさ及び形状を有する係合ネック22が形成された、大腿骨に埋め込まれるステム部20と、相対する前記嵌入孔内面と前記係合ネック外面との間の少なくとも一部に狭持される薄い、粘弾性体又は前記骨頭部及びステム部より弾性変形しやすい弾性体からなる緩衝部材30とから構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工股関節において大腿骨側に取り付けられる構成部分に関する。
【背景技術】
【0002】
人工股関節は、骨盤側に設けられる人工骨頭の受けとなるカップ状の臼蓋コンポーネントと、大腿骨側に設けられる人工の骨頭を有する大腿骨コンポーネントとから構成される。また、場合によっては、臼蓋軟骨をそのまま用い、大腿骨コンポーネントのみを置換する場合もある。
図8に大腿骨コンポーネントAが大腿骨Fに固定された状態を示す縦断面図を示す。大腿骨コンポーネントは、骨頭としての機能を果たす球状体からなる骨頭部Hと、大腿骨Fに埋め込まれ、骨頭部の土台となるステム部Sとから構成される。
ステム部Sの先端側には円錐台状の突起Saが設けられるとともに、骨頭部Hには、突起Saに嵌る形状を有する孔Haが設けられ、ステム部Sと骨頭部Hとは突起Saに穴Haが嵌合することで固定されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ステム部Sと骨頭部Hとはともに硬質の素材により形成され、これらが嵌合により直接接触して固定されているために、骨頭部Hにかかる力は、ほぼすべてステム部Sに伝わる。このような大腿骨Fに埋め込まれるステム部Sにかかる力は、ステム部Sと大腿骨Fとの接着面において、接着の緩みや、マイクロモーションを誘発し、ステム部Sの磨耗や折損の一因となったり、大腿部痛や大腿骨骨折の一因となったりしていると考えられる。
逆に、ステム部Sにかかる力も骨頭部Hに減衰することなく伝達するため、これも人工股関節置換術後の患者に対する臼蓋コンポーネントの緩みの一因となったり、人工骨頭置換術後の患者に対する臼蓋軟骨の変形や変形間接症の一因となったりしていると考えられる。
本発明は、このような観点に立ち、人工股関節の大腿骨コンポーネントにおいて、ステム部と骨頭部との間に伝わる力を緩和することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために、本発明は次のような構成を有する。
請求項1に記載の発明は、嵌入孔が設けられた球状体からなる骨頭部と、先端に前記嵌入孔に嵌め入れて固定する当該嵌入孔に嵌る大きさ及び形状を有する係合ネックが形成された、大腿骨に埋め込まれるステム部と、相対する前記嵌入孔内面と前記係合ネック外面との間の少なくとも一部に狭持される薄い、粘弾性体又は前記骨頭部及びステム部より弾性変形しやすい弾性体からなる緩衝部材とを有する人工股関節用大腿骨コンポーネントである。
請求項2に記載の発明は、前記人工股関節用大腿骨コンポーネントにおいて、前記緩衝部材は少なくとも前記係合ネックの側周面を一周するように設けられるものである。
請求項3に記載の発明は、前記人工股関節用大腿骨コンポーネントにおいて、前記緩衝部材は少なくとも前記嵌入孔の底面に設けられるものである。
請求項4に記載の発明は、前記人工股関節用大腿骨コンポーネントにおいて、前記緩衝部材には抗生物質が添加されるものである。
請求項5に記載の発明は、前記人工股関節用大腿骨コンポーネントと、前記骨頭部を回動可能に保持するカップを有する臼蓋コンポーネントとからなる人工股関節である。
【発明の効果】
【0005】
請求項1に記載の発明は、ステム部の係合ネックと、骨頭部の嵌入孔との相対する面の少なくとも一部に粘弾性体からなる緩衝部材が狭持されるので、この接触面においては、ステム部と骨頭部間の間に伝わる力は、粘弾性体又は弾性体からなる緩衝部材が弾性変形やクリープ変形をすることにより緩和される。これにより、ステム部と大腿骨との接着の緩みやマイクロモーションが抑制され、ステム部の磨耗・折損、大腿部痛、大腿骨骨折、大腿骨の変形、臼蓋コンポーネントの緩み、臼蓋軟骨の変形等を抑制することができる。
請求項2に記載の発明は、緩衝部材を係合ネックの周面を一周するように設けることで、係合ネックの側方から加わる全方位の力を緩和することができる。
請求項3に記載の発明は、緩衝部材を嵌入孔の底面に設けることで、係合ネックの中心軸方向に加わる力を緩和することができる。
請求項4に記載の発明は、緩衝部材に抗生物質を添加することで、人工股関節置換術又は人工骨頭置換術をセメントレスにて施術する場合でも、周囲の組織や組織液及び血液中への抗生物質の長時間に渡る徐放が行なわれ、術後の感染症の発生を抑制することができる。
請求項5に記載の発明は、人工股関節において、上記のような効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】実施形態に係る人工股関節用大腿骨コンポーネントの縦断面図である。
【図2】実施形態に係る人工股関節用大腿骨コンポーネントの先端部分の拡大縦断面図である。
【図3】実施形態に係る人工股関節用大腿骨コンポーネントの先端部分の拡大分解縦断面図である。
【図4】緩衝部材の第1の変形例を示す人工股関節用大腿骨コンポーネントの先端部分の拡大縦断面図である。
【図5】緩衝部材の第2の変形例を示す人工股関節用大腿骨コンポーネントの先端部分の拡大縦断面図である。
【図6】緩衝部材の第3の変形例を示す人工股関節用大腿骨コンポーネントの先端部分の拡大縦断面図である。
【図7】緩衝部材の第4の変形例を示す人工股関節用大腿骨コンポーネントの先端部分の拡大縦断面図である。
【図8】従来の人工股関節用大腿骨コンポーネントの装着状態を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
図1に本実施形態に係る人工股関節用大腿骨コンポーネントX(以下、大腿骨コンポーネントXと称する)の縦断面図を示す。大腿骨コンポーネントXは、骨頭部10、ステム部20、緩衝部材30とから構成される。図2に大腿骨コンポーネントXの先端部分の拡大縦断面図を示し、図3に大腿骨コンポーネントXの先端部分の拡大分解縦断面図を示す。
骨頭部10は球体状の金属やセラミック等から構成され、下面側に内部に向かって縮径する円錐台の外面に合致する内壁が形成された嵌入孔11が設けられている。なお、大腿骨コンポーネントXは、骨頭部10を回動可能に保持するカップを有する従来の臼蓋コンポーネントと組み合わせることで人工股関節を構成することができる。
ステム部20は金属からなり、棒状体からなる大腿骨に埋め込まれて固定されるステム本体21と、ステム本体21の先端に大腿骨の骨頭が存する角度に合致する方向に突出するように設けられる係合ネック22とから構成される。係合ネック22は骨頭部10の嵌入孔11の内周面に相似でやや小さい外面を有する円錐台状に形成される。
【0008】
緩衝部材30は粘弾性体からなる上方に向かって縮径する上面が閉じられた円筒状の部材である。緩衝部材30は粘弾性体の他に、骨頭部10及びステム部20よりも弾性変形しやすい弾性体から形成してもよい。緩衝部材30に用いられる具体的な素材としては、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレン、エラストマー、ポリウレタン、ウレタンゲルなどが例示される。緩衝部材30の内面はステム部20の係合ネック22の外面とほぼ合致する形状を有し、緩衝部材30の外面の先端側は骨頭部10の嵌入孔11の内周面とほぼ合致する形状を有する。これにより、緩衝部材30は係合ネック22の外面に嵌合固定され、骨頭部10の嵌入孔11は緩衝部材30の外面に嵌合固定されることとなる。即ち、緩衝部材30は、嵌入孔11と係合ネック22との間に狭持される。また、緩衝部材30は、成形硬化前に抗生物質が添加されている。緩衝部材30は、硬化した状態のものを係合ネック22及び嵌入孔11に嵌めてもよく、また、ゲル状物、粘土状物、液状物から硬化する素材を用いる場合は、硬化前のゲル状又は粘土状のものを係合ネック22の外面や嵌入孔11の内面に塗るか、硬化前の液状のものを嵌入孔11に入れ、その後、両者を嵌め合わせて硬化させることで形状を成形すると同時に係合ネック22と嵌入孔11との間に狭持固定されるようにしてもよい。
【0009】
次に、以上のような構成を有する大腿骨コンポーネントXの作用効果について説明する。大腿骨コンポーネントXの使用方法は、従来の大腿骨コンポーネントの人工股関節置換術や人工骨頭置換術等における使用方法と同じであり、大腿骨から骨頭部分を切除して髄腔を整えてステム本体21を大腿骨に挿入して固定する。なお、緩衝部材30と骨頭部10は、大腿骨に挿入固定する前に係合ネック22に固定しておいてもよく、ステム部20を大腿骨に固定した後に、係合ネック22に固定してもよい。
このようにして、大腿骨に固定された大腿骨コンポーネントXは、骨頭部10からステム部20へ伝わる力及びステム部20から大腿骨部20へ伝わる力が、緩衝部材30の弾性変形やクリープ変形により緩和されるので、ステム部Sの磨耗や折損、大腿部痛、大腿骨骨折、臼蓋コンポーネントの緩み、臼蓋軟骨の変形などの発生を抑制することができる。
【0010】
なお、上記実施形態では緩衝部材30は、係合ネック22の上面および側周面全体に渡って設けられているが、緩衝部材30の形状は種々の変形が可能である。例えば、図4に示す大腿骨コンポーネントXaのように係合ネック22の側周面のみに緩衝部材30を設けるような構成としてもよく、図5に示す大腿骨コンポーネントXbのように係合ネック22の上面のみに緩衝部材30を設けるような構成としてもよい。また、側周面を構成する緩衝部材30の長さも適宜変更することができ、図6、図7に示す大腿骨コンポーネントXc、Xdのように、骨頭部10の嵌入孔11内に収まるような長さとしてもよい。
【符号の説明】
【0011】
X、Xa、Xb、Xc、Xd 人工股関節用大腿骨コンポーネント
10 骨頭部
11 嵌入孔
20 ステム部
21 ステム本体
22 係合ネック
30 衝撃吸収材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
嵌入孔が設けられた球状体からなる骨頭部と、
先端に前記嵌入孔に嵌め入れて固定する当該嵌入孔に嵌る大きさ及び形状を有する係合ネックが形成された、大腿骨に埋め込まれるステム部と、
相対する前記嵌入孔内面と前記係合ネック外面との間の少なくとも一部に狭持される薄い、粘弾性体又は前記骨頭部及びステム部より弾性変形しやすい弾性体からなる緩衝部材と
を有する人工股関節用大腿骨コンポーネント。
【請求項2】
前記緩衝部材は少なくとも前記係合ネックの側周面を一周するように設けられるものである請求項1に記載の人工股関節用大腿骨コンポーネント。
【請求項3】
前記緩衝部材は少なくとも前記嵌入孔の底面に設けられるものである請求項1又は2のいずれか1項に記載の人工股関節用大腿骨コンポーネント。
【請求項4】
前記緩衝部材には抗生物質が添加されるものである請求項1から3のいずれか1項に記載の人工股関節用大腿骨コンポーネネント。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の人工股関節用大腿骨コンポーネントと、前記骨頭部を回動可能に保持するカップを有する臼蓋コンポーネントとからなる人工股関節。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−115356(P2012−115356A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−265989(P2010−265989)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(510315995)
【Fターム(参考)】