説明

人工股関節置換手術支援システム

【課題】人工股関節置換手術に関し、術前に患者の個人差を適正に反映して骨盤臼蓋のリーミング動作を正確に決定し、決定した内容を術中に正確に再現可能とする。
【解決手段】患者の寛骨臼形状の外周球面と3D術前計画で決定した穿孔方向の貫通孔10A,10Bを形成したRP造型による略半球状の臼蓋カップモデル10と、腸骨固定用ガイドピン41,42と、臼蓋カップモデル10に組合可能な、ピン41,42を貫通孔10A,10Bの軸と平行に装着させる貫通孔20A,20Bを形成したRP造型によるカップリムモデル20と、貫通孔20A,20Bに装着したピン41,42を保持するガイドピン保持ガイド部32、及び貫通孔10Aに先端を挿入してドリル46を貫装するシャフト部31を備え、2つのモデル10,20に装着するパラレルガイド30と、ピン41,42に沿って移動し、半球状リーマ52の先端中央より突出したガイド突起部53の突出長を示すインジケータ54を備えた臼蓋リーマ50とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に骨盤臼蓋側の人工股関節コンポーネントの設置に好適な人工股関節置換手術支援システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、医療用ナビゲーションシステムと称される医療機器を用い、3次元空閑地腕の手術中の患者位置と手術器具の位置関係を複数のCCDカメラを搭載したカメラユニットにより赤外線情報等で認識して表示することで、術前の計画に基づいて人工関節設置のための手術を実行する技術が確立されている。
【0003】
しかしながら、医療用ナビゲーションシステムはそれ自体が高額であり、且つ手術室レベルで各機器を設置しなければならないなど、大規模なシステム展開となるため、導入が可能な施設が限定される。
【0004】
上記医療用ナビゲーションシステムとは別に、人工関節設置のために患者の関節部形状に合致した形状のガイド部材を作成し、そのガイド部材に備えられるガイドピン保持部に応じて1本のガイドピンを患者の関節部近傍に設置し、設置したガイドピンを指標として人工関節設置のための施術を実行する技術が考えられている。(非特許文献1)
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】THE INTERNATIONAL JOURNAL OF MEDICAL ROBOTICS AND COMPUTER ASSISTED SURGERY, Int J Med Robotics Comput Assist Surg 2009;5:164-169.Tailor-made surgical guide based on rapid prototyping technique for cup insertion in total hip arthroplasty, Takehito Hananouchi, et al.Published online 26 February 2009 in Wiley InterScience (www.interscience.wiley.com). DOI: 10.1002/rcs.243
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記非特許文献に記載された技術は、ガイド部材により設置した1本のガイドピンを指標とした上で人工関節の設置、具体的には股関節の骨盤側臼蓋に対するリーミング等を行なうものである。しかしながら、上記ガイドピンはあくまでも設置の位置と方向とを施術者(執刀医師)に対して示す指標であり、ガイドピン設置後はガイド部材を取り外した上でリーミング等が行なわれる。そのため、3次元空間内において人工関節設置のために施術者がリーミング等の動作を行なう正確な位置及び方向が、上記ガイドピンを基準とした数値で与えられるようなものではなく、施術者の手術の習熟度に左右される。
【0007】
本発明は上記のような実情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、人工股関節置換手術に関し、術前に患者の個人差を適正に反映して、骨盤臼蓋におけるリーミング動作等の位置、方向、及び掘削量等を正確に決定し、決定した内容を術中に正確に再現して手術操作の管理が実施可能な人工股関節置換手術支援システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、人工関節置換手術対象の患者の股関節臼蓋形状に合致した外周球面を有し、上記臼蓋に対する3次元術前計画で決定した穿孔方向の貫通孔、及び下記カップリムモデルを当接するドック部をそれぞれ形成した、3次元造型により製作した略半球状の臼蓋カップモデルと、患者の腸骨に固定するための複数本のガイドピンと、上記略半球状の臼蓋カップモデルのドック部に組合せ可能な、上記患者の股関節臼蓋リム部形状に合致した下面部を有し、上記複数本のガイドピンを上記臼蓋カップモデルの貫通孔の軸方向と平行になるように装着させる複数の貫通孔を形成した、上記ドック部と当接する円弧状の下端縁を設置レベルとして誘導する、3次元造型により製作したカップリムモデルと、上記カップリムモデルの複数の貫通孔に装着される上記複数本のガイドピンを保持するガイドピン保持ガイド部、及び上記臼蓋カップモデルの貫通孔に先端が挿入され、ドリルを貫装するシャフト部を備え、上記臼蓋カップモデル及びカップリムモデルに対して装着するパラレルガイドと、上記患者腸骨に取付けられた複数のガイドピンに沿って移動し、弾性体に付勢されたガイド突起部を半球状リーマの先端中央より突出させ、リーミングに伴って縮減する上記ガイド突起部の突出長を示すインジケータを備えた臼蓋リーマと、上記患者腸骨に取付けられた複数のガイドピンに沿って移動し、上記臼蓋リーマによって形成された半球状孔部に、上記臼蓋に対する3次元術前計画で決定した人工股関節の一部である臼蓋カップシェルを打ち込むインパクタとを有したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、人工股関節置換手術に関し、術前に患者の個人差を適正に反映して、骨盤臼蓋におけるリーミング動作等の位置、方向、及び掘削量等を正確に決定し、決定した内容を術中に正確に再現して手術操作の管理が実施可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態に係る臼蓋カップモデルの基本的な構成を示す図で、図1(A)が上面図、図1(B)が同図(A)のI−I線に沿った断面図。
【図2】本発明の一実施形態に係る臼蓋カップモデルとカップリムモデルを組み合わせた構成を示す斜視図。
【図3】本発明の一実施形態に係る臼蓋カップモデルとカップリムモデルを骨モデルに設置した状態を示す斜視図。
【図4】本発明の一実施形態に係る臼蓋カップモデルとカップリムモデルを骨モデルに設置した状態を示す斜視図。
【図5】本発明の一実施形態に係る臼蓋カップモデル及びカップリムモデルを組み付けたパラレルガイドの外観構成を示す斜視図。
【図6】本発明の一実施形態に係るドリル穿孔時の、臼蓋カップモデル及びカップリムモデルを組み付けたパラレルガイドの状態を示す斜視図。
【図7】本発明の一実施形態に係る臼蓋リーマの構成を説明する斜視図。
【図8】本発明の一実施形態に係る臼蓋リーマ及びインパクタの構成を説明する斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下本発明を、股関節骨盤側の臼蓋に設置する人工関節に適用した人工股関節置換手術支援システムの一実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、手術時に患者の臼蓋に一時的に設置する臼蓋カップモデル10の基本構成を示す。図1(A)は略半球状の臼蓋カップモデル10の裁断面である上面構成を、図1(B)は図1(A)のI−I線に沿った臼蓋カップモデル10の断面構成を示す。
【0012】
同図に示すように臼蓋カップモデル10は、略半球状の中心軸位置が2段構成の貫通孔となっている。上記裁断面側のより大径の貫通孔部10Aは、所定の径及び深さを有し、、例えば直径8.1[mm]、深さ10.2[mm]であるものとする。また、外周曲面側のより小径の貫通孔部10Bは、径のみが定まっており、例えば5.0[mm]であるものとする。
【0013】
臼蓋カップモデル10は、図面状では外周曲面が真球のそれのような滑らかな曲面として表しているが、実際の製品では、術前計画の段階で患者個々の臼蓋形状に合致した大きさ及び凹凸形状を有するものとする。
【0014】
また、臼蓋カップモデル10の裁断面上には、後述するカップリムモデル20を当接して組み合わせるための略扇形状のドック部10Cが裁断面上に突出するように一体にして形成される。このドック部10Cは、中心角、幅、及び突出嚠喨(厚さ)が統一されており、例えば中心角が90°、幅が28[mm]、突出量が10[mm]であるものとする。
【0015】
さらに、図示する如く臼蓋カップモデル10の両側部は、貫通孔部10A,10Bを挟んで該貫通孔部10A,10Bの軸方向と平行な円弧状の曲面に沿って両側部を切り欠いた形状とする。
【0016】
そして、上記切り欠いた部分を除いて、上記臼蓋カップモデル10の裁断面端部には、幅と厚さが一定、例えば共に2[mm]のフランジ状のリム部10D,10Eを形成する。このリム部10D,10Eも、患者個々の臼蓋形状に合致して、必要により部分的に波欠如した構成となり得る。
【0017】
上記臼蓋カップモデル10は、上述した如く患者の臼蓋に合致した形状及び大きさを有するものとして、術前にラピッドプロトタイピング(Rapid Prototyping(RP):3次元造型)技術により3Dプリンタを用いて、例えばアクリル系光硬化樹脂、ABS樹脂、スターチ、または石膏等で製作される。
【0018】
なお、患者患部のX線CT画像やMRI画像等、複数の2次元画像データから関節部の3次元画像データを構築し、その上で人工関節のコンポーネントのサイズ、及び設置するために最適な施術の位置や方向等を決定する技術自体については、例えば特開2009−082444号公報や特開2009−195490号公報をはじめ、コンピュータ支援整形外科では周知の技術であるものとして、詳細な説明は省略する。
【0019】
本発明でも、上記臼蓋カップモデル10は、患者の臼蓋部分の3次元画像データに対して人工関節のコンポーネントである臼蓋カップのサイズ、及び当該臼蓋カップの軸方向を決定した上で、中心軸である貫通孔部10A,10Bの方向及び位置と、当該軸方向に垂直な裁断面とを決定する。
【0020】
この臼蓋カップモデル10と組み合わせる治具の1つとして、カップリムモデル20を用いる。
図2は、臼蓋カップモデル10とカップリムモデル20とを組み合わせて示す、部分的に透過状態とした斜視図である。図示する如く臼蓋カップモデル10は、上記臼蓋カップモデル10のドック部10Cの突出量、例えば10[mm]と同じ厚さの板状構造を有し、上記リム部10D上面及びドック部10Cの円弧状の外周面に当接された状態で臼蓋カップモデル10と組み合わされる。
【0021】
カップリムモデル20には、一対のガイドピン用貫通孔20A,20Bが板面と垂直な軸方向で形成される他、上記ガイドピン用貫通孔20A,20Bの略中央に把持用貫通孔20Cが形成され、さらにガイドピン用貫通孔20A,20Bの中点を挟んで上記ドック部10Cとは反対側に仮止め用貫通孔20Dが形成される。
【0022】
ガイドピン用貫通孔20A,20B、及び把持用貫通孔20Cは、いずれも板面と垂直な軸方向で形成されるため、各貫通孔の軸はカップリムモデル20を臼蓋カップモデル10に組み合わせた状態では臼蓋カップモデル10の貫通孔部10A,10Bと平行となるように設定される。
【0023】
一方、仮止め用貫通孔20Dは、板面と垂直な方向に対して意図して斜めになる軸方向で形成される。
【0024】
カップリムモデル20の図示する下面側、上記リム部10Dと当接される近傍部分は必要により患者個々の臼蓋周囲のリム(周状に盛り上がった骨)形状に合致した形状に形成される。
【0025】
上記ガイドピン用貫通孔20A,20Bの位置は、施術者である医師が、術前に患者の臼蓋を含む骨盤の3次元画像データと臼蓋カップモデル10及びカップリムモデル20の3次元形状データとによるマッチングを行ない、固定に適した腸骨位置を決定することで決定される。
【0026】
したがって、カップリムモデル20の、臼蓋カップモデル10の裁断面の径方向に沿った長さは、患者個々の臼蓋部付近の骨形状と施術者の意志によって決定される。
【0027】
このように、このカップリムモデル20も上記臼蓋カップモデル10と同様に、術前にラピッドプロトタイピング(3次元造型)技術により3Dプリンタを用いて、例えばアクリル系光硬化樹脂、ABS樹脂、スターチ、または石膏等で製作される。
【0028】
なお、この図2では、臼蓋カップモデル10の貫通孔部10Aに対し、ドック部10Cを形成した方向とは180°反対の方向を中心として、図示するように回転防止用の矩形状の溝10Fを形成している。この溝10Fは、後述するパラレルガイドのシャフト部先端形状に合致し、該シャフト部先端をこの貫通孔部10A及び溝10Fに挿入した場合に、臼蓋カップモデル10に対してパラレルガイドの角度が回転するのを防止する。
【0029】
図3及び図4は、上記臼蓋カップモデル10及びカップリムモデル20を、該当患者の左寛骨臼蓋部分の骨モデルPV11と共に製作した例を示す。(これらの図は、それぞれ石膏で製作したモデルの写真を図面化したものである)
これらの図に示すように、骨モデルPV11の臼蓋部分には、全周ではないが、各図で左下側のみが欠けた逆C字状に盛り上がったリム部RM11が形成されている。ここでは、臼蓋カップモデル10のリム部10Eの一部が、上記骨側のリム部RM11と干渉するためにその一部(図の左側)のみを形成するものとしている。
【0030】
加えて、カップリムモデル20の下面側で骨モデルPV11と接する部分が、上述したように骨モデルPV11のリム部RM11の形状に合致した形状を有している。
【0031】
これらの点も加味して、臼蓋カップモデル10及びカップリムモデル20を組み合わせたモデルを、骨モデルPV11の臼蓋部分に確実に設置することが可能となる。
【0032】
このように、手術に先立って臼蓋カップモデル10及びカップリムモデル20のみならず、患者の骨モデルPV11も合わせて製作し、臼蓋カップモデル10及びカップリムモデル20を設置することで、臼蓋カップモデル10の貫通孔部10A,10Bにより、人工関節のコンポーネント(臼蓋カップ)を設置するためのリーミング工程に先立つドリリング(穿孔)工程の誘導を確実に実施可能となることが術前に検証できる。
【0033】
図5は、上記臼蓋カップモデル10及びカップリムモデル20を組み付けたパラレルガイド30の構成を示す斜視図である。パラレルガイド30は、シャフト部31を中心に、下端側に取り付けたガイドピン保持部32と、上端側に取り付けたグリップ部33を有する。
【0034】
シャフト部31は、使用するドリルの外径に合わせた内径を有するパイプシャフトを主構成要素とする。シャフト部31の下端側、ガイドピン保持部32より突出した先端部外面には、臼蓋カップモデル10の上記溝10Fに合致した矩形形状の回転止め31Aが形成される。このガイドピン保持部32より先に突出した、回転止め31Aを形成した部分の軸長は、上記臼蓋カップモデル10のドック部10C及びカップリムモデル20の厚さと、上記臼蓋カップモデル10の貫通孔部10Aの深さとを合わせた数値となる。
【0035】
ガイドピン保持部32は、上記回転止め31A及びシャフト部31に固定された固定部32Aと、この固定部32Aに沿って、シャフト部31の軸方向と直交する方向に自在にスライドするスライド部32Bとを有する。
【0036】
スライド部32Bは、後述する2本のガイドピン41,42を上記カップリムモデル20のガイドピン用貫通孔20A,20Bに貫通させた状態で保持するためのピンホルダ部32C,32Dを有する。
【0037】
すなわち、臼蓋カップモデル10の径方向の大きさ、及び臼蓋カップモデル10と組み合わされるカップリムモデル20の長さに応じて固定部32Aに対するスライド部32Bの位置を調整することで、ピンホルダ部32C,32Dとカップリムモデル20のガイドピン用貫通孔20A,20Bの軸位置を一致させることにより、ガイドピン41,42を取付けることが可能となる。
【0038】
ガイドピン保持部32の上端側には、後述するドリルをシャフト部31内に挿入した状態で保持するためのドリルホルダ部31Bを設ける。このドリルホルダ部31Bを操作し、臼蓋カップモデル10及びカップリムモデル20を組み付けたパラレルガイド30のシャフト部31にドリルを挿入させ、該ドリルの先端が臼蓋カップモデル10の貫通孔部10B側の先端面と一致した状態でドリルホルダ部31Bを締め付けてドリルの位置を一時的に保持することにより、該ドリルの穿孔開始位置を保持できる。
【0039】
グリップ部33は、シャフト部31に取付けられ、患者骨盤の臼蓋部への臼蓋カップモデル10、カップリムモデル20等の取付け、ドリル穿孔時のパラレルガイド30の制振等のハンドリングで把持する部分である。
【0040】
次に、図6によりドリル穿孔時の、臼蓋カップモデル10及びカップリムモデル20を組み付けたパラレルガイド30の状態を示す。
【0041】
図6においては、上記図5で示した状態のパラレルガイド30を、患者の骨盤臼蓋部に設置した状態を示す。その際には、予めガイドピン保持部32から下方に突出するガイドピン41,42の長さを、3次元術前計画で定めておいた患者の骨盤腸骨の表面までの長さに調節した上でピンホルダ部32C,32Dにより固定しておく。
【0042】
次いで、臼蓋カップモデル10を患者の骨盤臼蓋に押し当てて両者の形状が合致する位置に調整する。その調整後、カップリムモデル20の仮止め用貫通孔20Dに、例えば3.2[mm]径の固定ピン43を挿入し、上記ガイドピン41,42及び臼蓋カップモデル10の貫通孔部10A,10Bの各軸方向に対して斜めとなる軸方向で患者腸骨に打ち込むことで、臼蓋カップモデル10及びカップリムモデル20を組み付けたパラレルガイド30を仮止めする。
【0043】
さらに、すでにパラレルガイド30のガイドピン保持部32のピンホルダ部32C,32Dとカップリムモデル20のガイドピン用貫通孔20A,20Bに装着されている2本のガイドピン41,42を、順次ピンホルダ部32C,32Dでの固定を解除した上で患者の腸骨に打ち込んで固定する。
【0044】
その状態で、図6に示す自動ストッパ付きのドリル46の先端をドリルホルダ部31Bより挿入し、当該ドリル46の先端が臼蓋カップモデル10の貫通孔部10Bの先端側、患者臼蓋内の表面に接する位置となるように調整して、ドリルホルダ部31Bで固定する。ここで合わせて、当該ドリルの自動ストッパを、術前計画で決定した人工関節コンポーネントである臼蓋カップのサイズ(深さ)に合わせて調整しておく。
【0045】
その後、ドリルホルダ部31Bでの固定を解除し、パラレルガイド30のグリップ部33を強固にホールドしながら、ドリル46により患者の骨盤臼蓋底中央に、予定されるカップサイズに応じた深さまで穿孔、掘削してパイロットホールを形成する。
【0046】
ドリル46による穿孔が終了し、患者骨盤(腸骨)にガイドピン41,42、及びピン43により固定されたカップリムモデル20のみを残して、臼蓋カップモデル10とパラレルガイド30、及びドリル46を骨盤臼蓋から除去する。
【0047】
次に図7によりリーミング工程で使用する臼蓋リーマ50の構成を説明する。
臼蓋リーマ50は、多段構成の円柱状のリーマボディ51の図中では下端側に位置する先端にリーマヘッド52を交換自在に設ける。
【0048】
このリーマヘッド52は、臼蓋リーマ50の軸方向と垂直な面に沿って回転するべく、半球状の外周曲面に掘削のための凹凸が形成されており、リーマ工程の当初に、例えば最小半径40[mm]のものを用い、その後、徐々に同一形状(半球状)で半径の大きいものに順次交換しながらリーミング工程を継続することにより、術前計画で決定した大きさまで骨盤臼蓋部分を半球状に掘削する。
【0049】
いずれのサイズのリーマヘッド52を用いる場合も、リーマヘッド52の先端中央には突起アンカー部53が突出形成される。
この突起アンカー部53は、リーマボディ51内部に設けられた、例えばコイルばねによる弾性体に付勢されてリーマヘッド52の先端から突出するもので、リーミング工程において臼蓋底部に当接され、押圧されることで縮減する。
【0050】
このリーマヘッド52先端における突起アンカー部53の突出/縮減長が、リーマボディ51を挟んで反対側の上端側に設けられたインジケータ54で表示される。
【0051】
さらにリーマボディ51には、ガイドピンリファレンススコープ55及びグリップ部56が装着される。
【0052】
ガイドピンリファレンススコープ55は、コ字状の金属片で構成され、平行な一対の2辺55A,55Bをリーマボディ51に着脱自在に挟み込むことで、該2辺55A,55Bに挟まれた残る1辺55Cの位置とリーマボディ51との距離を調整可能にしている。
【0053】
1辺55Cの上記2辺55A,55Bを設けていない側の該側面には、上記ガイドピン41,42の間隔に合致したガイド溝が形成されている。
【0054】
すなわち、ガイドピン41,42の軸方向と垂直となる面上における、患者骨盤の臼蓋底部にドリリングによる穿孔したパイロットホールとガイドピン41,42との距離に合わせて、ガイドピンリファレンススコープ55をリーマボディ51に挟み込んで固定し、臼蓋リーマ50の突起アンカー部53を上記パイロットホールに挿入した状態でガイドピンリファレンススコープ55のガイド溝をガイドピン41,42に当接させることにより、臼蓋リーマ50の軸方向とガイドピン41,42の各軸方向とが正確に平行に位置することとなる。
【0055】
したがってリーミング工程の当初に、最小径のリーマヘッド52を臼蓋リーマ50に装着してリーミングを実施する過程においては、施術者がグリップ部56を把持し、ガイドピンリファレンススコープ55の1辺55Cがガイドピン41,42に沿って移動するように臼蓋リーマ50を下方に押しつけることにより、上記パイロットホールに突起アンカー部53が挿入された状態で順次リーミングが実施される。
【0056】
この場合、リーマヘッド52の先端から突出している突起アンカー部53の突出長がそのまま機械的にインジケータ54で表示される。そのため、突起アンカー部53の突出長が「0(ゼロ)」になった状態、すなわち、パイロットホール底部までのリーミングが完了した状態で、当該リーマヘッド52を用いたリーミングの完了タイミングを判断できる。
【0057】
図8(A)は、こうしたリーミング工程中で使用する臼蓋リーマ50の状態を、骨モデルPV12、カップリムモデル20、ガイドピン41,42と共に示すものである。同図(A)では、特にインジケータ54部分を拡大して示す。
【0058】
インジケータ54では、リーマボディ51の上端側に設けられた2箇所のくびれ部分54A,54B部間に軸方向に沿って形成された窓54C内を、スライダ54Dが移動する。
【0059】
ここでは、くびれ部分54A,54Bの幅とスライダ54Dの中央に設けたラインの幅とを一致させているため、リーマヘッド52先端の突起アンカー部53の突出長を、視覚的にきわめて正確にインジケータ54で再現して表示できる。
【0060】
リーマヘッド52をより大きいサイズのものに交換して上記と同様にリーミングを行なう過程においても、リーマヘッド52がその直前に掘削した臼蓋底部に達するまでは、突起アンカー部53の突出長に応じたインジケータ54での表示が同様に有効となる。
【0061】
さらに、リムモデル20の円弧状の面の下縁端を臼蓋カップサイズと一致させた構造のため、リーミングを行なう際の方向と深さ、及びサイズの目安となる。
【0062】
しかして、3次元術前計画で決定した人工関節コンポーネントである臼蓋カップのサイズに適応したサイズのリーマヘッド52でのリーミングを完了した時点で、リーミング工程を終了する。
【0063】
リーミング工程の終了に伴って、臼蓋リーマ50を骨盤臼蓋から除去する。
【0064】
図8(B)は、リーミング工程に続くカップ打ち込み工程で使用するインパクタ60の外観構成を、骨モデルPV12、カップリムモデル20、ガイドピン41,42と共に示すものである。
【0065】
インパクタ60は、多段構成の円柱状のインパクタボディ61の図中では下端側に位置する先端に、打ち込み対象の臼蓋カップシェル71を取付ける。
【0066】
また、このインパクタボディ61には、ガイドピンリファレンススコープ62及びグリップ部63が装着される。
【0067】
ガイドピンリファレンススコープ62は、上記ガイドピンリファレンススコープ55と同様の構成であり、その説明は省略する。
【0068】
すなわち、上記インパクタ60の取付に関する主要部は、図示するように、上記臼蓋リーマ50と多くの部品を共有するもので、これら部品を共有化することで、インパクタ60に対するガイドピンリファレンススコープ62(55)の位置調整等の手間を省略できる。
【0069】
カップ打ち込み工程の当初に、臼蓋カップシェル71を臼蓋位置に設置した上でインパクタ60を設置する。このとき、施術者がグリップ部63を把持し、ガイドピンリファレンススコープ62がガイドピン41,42に沿って移動するようにインパクタ60を下方に押しつけることにより、臼蓋カップシェル71を正しい方向から打ち込むことができる。
【0070】
上記臼蓋カップシェル71は、3次元術前計画で決定したサイズのものが用いられる。
【0071】
ここで臼蓋カップシェル71は、人工関節コンポーネントである臼蓋カップの外殻を構成するもので、ここでは図示しない外面部に形成された多数のスパイク部を、上記インパクタ60による打ち込みにより骨盤臼蓋部に上記臼蓋リーマ50で形成した半球状の孔部に食い込ませることで、固定化される。
【0072】
この打ち込まれた臼蓋カップシェル71に対して、図示しない樹脂製のライナーを装着することで、ツーピース構造を採る臼蓋側の人工関節コンポーネントの設置が完了する。
【0073】
なお、上記インパクタ60による打ち込みに際しては、リムモデル20の下端縁と臼蓋カップシェル71の外周が一致するレベルまで打ち込むことで、臼蓋カップシェル71の方向と深さのレベルを確認できる。
【0074】
以上詳述した如く本実施形態によれば、人工股関節置換手術に関し、術前に患者の個人差を適正に反映して、骨盤臼蓋におけるリーミング動作等の位置、方向、及び掘削量等を正確に決定し、決定した内容を術中に正確に再現して手術操作の管理が実施することが可能となる。
【0075】
なお上記実施形態では、2本の平行なガイドピン41,42を用いて誘導を行なう場合について説明したが、本発明はガイドピンの本数を2本に限定するものではなく、3本維持用用いるものとしても良い。
【0076】
また上記実施形態では、臼蓋カップモデル10にリム部10D,10Eを設けるものとしたが、これにより患者の骨盤臼蓋の形状との適合性を向上させ、ドリル位置の精度をより高くできる。
【0077】
さらに上記実施形態では、臼蓋カップモデル10が略半球状の形状から両側部を切り欠いた形状としたため、施術者が臼蓋カップモデル10を設置する際に臼蓋内面を視認し易くできる。
【0078】
また上記実施形態では、カップリムモデル20の臼蓋カップモデル10の裁断面径方向の長さを任意に設定可能とし、パラレルガイド30のガイドピン保持部32におけるスライド部32Bの調整により対応するものとしたので、術前計画において施術者がガイドピン41,42を設置する位置を患者骨盤の形状から任意に選択する自由度を上げて、より精度の高い施術が期待できる。
【0079】
さらに上記実施形態では、リムモデル20の下縁の円弧状の下縁端がカップサイズと臼蓋リーマ50でのリーミングレベル、及びインパクタ60でのカップ打ち込み量レベルを示す。これにより、リーミング量と方向、あるいはカップ打ち込み量と方向の確認を非常に視認し易い形態で提供できる。
【0080】
その他、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、上述した実施形態で実行される機能は可能な限り適宜組み合わせて実施しても良い。上述した実施形態には種々の段階が含まれており、開示される複数の構成要件による適宜の組み合せにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、効果が得られるのであれば、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【符号の説明】
【0081】
10…臼蓋カップモデル、10A…(大径)貫通孔部、10B…(小径)貫通孔部、10C…ドック、10D,10E…リム部、10F…溝、20…カップリムモデル、20A,20B…ガイドピン用貫通孔、20C…把持用貫通孔、20D…仮止め用貫通孔、30…パラレルガイド、31…シャフト部、31A…回転止め、31B…ドリルホルダ部、32…ガイドピン保持部、32A…固定部、32B…スライド部、32C,32D…ピンホルダ部、33…グリップ部、41,42…ガイドピン、43…固定ピン、46…(自動ストッパ付き)ドリル、50…臼蓋リーマ、51…リーマボディ、52…リーマヘッド、53…突起アンカー部、54…インジケータ、54A,54B…くびれ部分、54C…窓、54D…スライダ、55…ガイドピンリファレンススコープ、56…グリップ部、60…インパクタ、61…インパクタボディ、62…ガイドピンリファレンススコープ、63…グリップ部、71…臼蓋カップシェル、PV11,PV12…骨モデル、RM11…(臼蓋の)リム部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工関節置換手術対象の患者の股関節臼蓋形状に合致した外周球面を有し、上記臼蓋に対する3次元術前計画で決定した穿孔方向の貫通孔、及び下記カップリムモデルを当接するドック部をそれぞれ形成した、3次元造型により製作した略半球状の臼蓋カップモデルと、
患者の腸骨に固定するための複数本のガイドピンと、
上記略半球状の臼蓋カップモデルのドック部に組合せ可能な、上記患者の股関節臼蓋リム部形状に合致した下面部を有し、上記複数本のガイドピンを上記臼蓋カップモデルの貫通孔の軸方向と平行になるように装着させる複数の貫通孔を形成した、上記ドック部と当接する円弧状の下端縁を設置レベルとして誘導する、3次元造型により製作したカップリムモデルと、
上記カップリムモデルの複数の貫通孔に装着される上記複数本のガイドピンを保持するガイドピン保持ガイド部、及び上記臼蓋カップモデルの貫通孔に先端が挿入され、ドリルを貫装するシャフト部を備え、上記臼蓋カップモデル及びカップリムモデルに対して装着するパラレルガイドと、
上記患者腸骨に取付けられた複数のガイドピンに沿って移動し、弾性体に付勢されたガイド突起部を半球状リーマの先端中央より突出させ、リーミングに伴って縮減する上記ガイド突起部の突出長を示すインジケータを備えた臼蓋リーマと、
上記患者腸骨に取付けられた複数のガイドピンに沿って移動し、上記臼蓋リーマによって形成された半球状孔部に、上記臼蓋に対する3次元術前計画で決定した人工股関節の一部である臼蓋カップシェルを打ち込むインパクタと
を有したことを特徴とする人工股関節置換手術支援システム。
【請求項2】
上記臼蓋カップモデルは、上記患者の股関節臼蓋リム部の形状に合致した少なくとも部分的なリム当接部を形成したことを特徴とする請求項1記載の人工股関節置換手術支援システム。
【請求項3】
上記臼蓋カップモデルは、貫通孔を挟んで貫通孔と平行な面に沿って両側部を切り欠いた形状とすることを特徴とする請求項1記載の人工股関節置換手術支援システム。
【請求項4】
上記カップリムモデルは、上記臼蓋に対する3次元術前計画で決定した上記複数のガイドピン固定位置に対応して、上記臼蓋カップモデルとの組合せ状態で該カップモデル裁断面の径方向の長さが決定され、
上記パラレルガイドのガイドピン保持ガイドは、上記カップリムモデルの長さに合わせて、上記シャフト部の軸と直交する方向沿った位置を調整可能とする
ことを特徴とする請求項1記載の人工股関節置換手術支援システム。
【請求項5】
上記カップリムモデルの円弧状の下端縁は、上記臼蓋リーマのリーミングレベルと方向、及び上記インパクタの打ち込みレベルと方向を示すことを特徴とする請求項1記載の人工股関節置換手術支援システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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