説明

人工衛星用アンテナ

【課題】 伸展時における衛星軌道への悪影響を及ぼさず、かつ、伸展後における硬化の問題のない、軽量な人工衛星搭載用アンテナを提供する。
【解決手段】 本願の人工衛星搭載用アンテナは、STEMタイプの外殻構造1と、外殻構造1の伸展のためのアクチュエータとして機能するインフレータブル構造2とを備える。外殻構造1の中空円筒部分にインフレータブル構造2のチューブ6を挿入するよう配置する。チューブ6内に供給するガス圧力によりチューブ6を膨張させチューブ6の膨張力を駆動力として外殻構造1を伸展する。本発明によりSTEMタイプおよびインフレータブル構造の両アンテナが有するメリット兼ねそなえ、両アンテナの有するデメリットを回避する人工衛星搭載用アンテナを提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工衛星に搭載されるアンテナに関し、特に、スピン安定方式の人工衛星において、そのスピン軸方向に伸展するアンテナに適用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
人工衛星には、地磁気等を測定する目的や通信目的にためにアンテナが搭載される。一般に人工衛星搭載用のアンテナは、打ち上げ時の加速度に耐え得るよう収納可能な構造が採用され、軌道上で人工衛星が安定した後にアンテナを伸展させる。アンテナを伸展させる方式として以下のような方式が知られている。
【0003】
人工衛星がスピン安定方式である場合、スピン面に平行な方向に伸展させるアンテナとしてワイヤアンテナが採用できる。ワイヤアンテナは、人工衛星の周面に一端を固定し、他端に質量体を備えた金属等導電性のワイヤをアンテナとするものである。ワイヤアンテナではスピンに起因する遠心力を利用してラジアル方向に伸展できるため、伸展のための駆動装置(アクチュエータ)が不要であり、アンテナ構造の簡略化・軽量化を図ることができる。近年の衛星小型化の流れを考慮すれば、軽量化のメリットは極めて大きい。
【0004】
スピン面に垂直な方向(スピン軸方向)に伸展するアンテナとしては、STEM(Storable Tubular Extendible Member)タイプ、多段円筒タイプ、あるいはインフレータブル構造のアンテナが知られている。STEMタイプについてはたとえば非特許文献1に、多段円筒タイプについてはたとえば非特許文献に、インフレータブル構造についてはたとえば非特許文献3に開示がある。これらスピン軸方向に伸展させるアンテナでは、スピンによる遠心力が利用できないため、伸展のための自力展開機能を備える必要がある。
【非特許文献1】斎藤,笠羽,前沢,小島,"SCOPE 計画衛星システム検討概要",宇宙科学シンポジウム(第3回),1月9-10日,宇宙科学研究所
【非特許文献2】M.W. Thomson, "Deployable and Retractable Telescoping Tubular Structure Development", 28 th Aerospace Mechanisms Symposium, May 18-20 1994.
【非特許文献3】D. Lichodziejewski, G. Veal, R. Helms, R. Freeland,M. Kruer "Inflatable Rigidizable Solar Array for Small Satellite", 44 th IAA/ASME/ASCE/AHS Structures,Structural Dynamics, and Materials Conference, 7-10 April 2003,Norfork Virginia, AIAA2003-1898.
【0005】
STEMタイプのアンテナは、短冊状あるいはテープ状のシートを短辺方向において湾曲するよう形成し、自由自立状態で中空円筒状になるよう構成したものである。ベリリウム銅合金のようにばね定数の高い導電性の金属材料を採用し、自由自立状態である程度の機械的強度が保持されるようにする。このフリースタンド状態では湾曲して円筒状になるシートを応力に抗して短辺方向に展開し、シートを長辺方向でロールに巻きつけることにより収納状態を実現する。これを伸展する場合、シートをロールから送り出す機構を別途設け、この送り出しによってロールから離れた部分が内部応力により短辺方向に湾曲し、機械的強度を有する中空円筒状態になってアンテナとして機能するようになる。
【0006】
多段円筒タイプのアンテナは、導電性の金属材料等で構成した複数の円筒を同軸に配置し、内側の円筒から隣接する外側の円筒を順に外部に送り出すことによって伸展を図るアンテナである。STEMタイプと同様に円筒を外部に送り出す機構が必要になる。
【0007】
インフレータブル構造のアンテナは、極めて軽量で柔軟なチューブの内部にガスを送り込み、ガス圧によってチューブを膨張させて伸展を実現するアンテナである。この構造のアンテナの場合、その使用状態においてチューブ内部にガスを存在させることは好ましくないので、伸展後にチューブを硬化させ、内部ガスを除去する必要がある。チューブの硬化には硬化剤が利用される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記したSTEMタイプおよび多段円筒タイプのアンテナでは、円筒構造のアンテナを採用するため、展開後はもとより、展開途中においても機械的強度が維持できる。しかし、シートあるいは同心円筒を送り出すための送り出し機構が必要であり、これら送り出し機構にはモータ等比較的質量の大きな部品を利用せざるを得ないので、アンテナ機構全体の質量が大きくなってしまう問題がある。また、アンテナ材料として金属材料を使用するので、やはり重量が大きくなる。このため、アンテナ機構全体の質量が相対的に小さくなる1200kg級の人工衛星には実用化できるものの、100kg級の小型人工衛星には相対的質量が大きくなって衛星の飛行安定性が確保できない可能性がある。
【0009】
インフレータブル構造のアンテナは、その伸展機構としてガス圧力を利用し、また、アンテナ材料として軽量なチューブを利用する。このため、アンテナ機構全体の重量を著しく軽量化できる可能性が高く、100kg級の小型人工衛星に適用する技術として有望である。しかし、インフレータブル構造のアンテナはその展開中においては柔軟な状態であり、展開中の挙動が衛星の軌道安定性に悪影響を及ぼす可能性がある。また、展開後の硬化方法等にも解決すべき課題が多く、実用化には至っていない状況である。
【0010】
本発明の目的は、伸展時における衛星軌道への悪影響を及ぼさず、かつ、伸展後における硬化の問題のない、軽量な人工衛星搭載用アンテナを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本明細書で開示する発明は、以下の通りである。すなわち、スピン安定方式の人工衛星に搭載され、前記人工衛星の打ち上げ時には収納されており、軌道安定後に前記衛星のスピン軸方向に伸展するよう構成された人工衛星搭載用アンテナであって、
強度維持部材、および、前記強度維持部材に貼り合わされた導電部材を有し、その伸展状態において中空の円筒形状をなす外殻構造と、
一端が封止され他端が開口されたチューブ、および、前記チューブの前記開口に挿入されたガス導入管を有し、前記ガス導入管の外周で前記チューブの前記開口が封止されているインフレータブル構造と、
前記ガス導入管にガスを供給するガス供給手段と、を有し、
前記ガス導入管を介して前記チューブの内部に前記ガスを供給することにより、前記チューブを前記外殻構造の中空部分に伸展させ、前記チューブの伸展に伴って前記外殻構造を前記衛星の前記スピン軸方向に伸展させる人工衛星用アンテナである。
【0012】
つまり、アンテナの伸展時および伸展後における機械的強度は外殻構造により確保し、外殻構造の伸展機構(アクチュエータ)としてインフレータブル構造を利用する。アクチュエータにインフレータブル構造を利用するので、従来のSTEMタイプおよび多段円筒タイプが必要とする送り出し機構を設ける必要がなく、質量面における問題を回避できる。一方、インフレータブル構造はアクチュエータにのみ利用するので、展開時の柔軟性や展開後の硬化方法が問題になることもない。
【0013】
前記した外殻構造は、伸展状態においてはその内部応力によって短辺方向にカールしており、収納状態においては前記短辺方向の前記カールを展開し長辺方向でロールに巻き取られている短冊状またはテープ状のフィルムまたはシートであるSTEMタイプの外殻構造を適用できる。あるいは、外殻構造は、複数の中空円筒構造物が同軸に配置され、伸展状態において前記中空円筒構造物の端部が結合される多段円筒タイプの外殻構造を適用できる。
【0014】
前記強度維持部材は、繊維強化プラスチック(FRP)またはポリイミドその他のプラスチック材料を適用でき、前記導電体は、金属不織布とすることができる。強度維持部材にFRP、ポリイミドフィルム等のプラスチックを採用して更なる軽量化を実現でき、金属不織布によってアンテナに必要とされる導電性を確保できる。
【発明の効果】
【0015】
本願の発明によれば、外殻構造により伸展時および伸展後における機械的強度が確保されるので、伸展時における衛星軌道への悪影響を及ぼさず、かつ、伸展後における硬化の問題のない、軽量な人工衛星搭載用アンテナが提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1は、本発明の一実施の形態である人工衛星搭載用アンテナの主要部の一例を示した分解斜視図である。また、図2は、図1の人工衛星搭載用アンテナの主要部を示した側面図である。本実施の形態の人工衛星搭載用アンテナは、外殻構造1とインフレータブル構造2を有する。図2に示すように、インフレータブル構造2の少なくとも先端部分は、外殻構造1の中空円筒部分に挿入される。
【0017】
外殻構造1は、その収納状態においてロール3に巻き取られているシートである。外殻構造1は、短辺方向で湾曲する内部応力を有しており、図示するようにロール3から離れた部分では円筒形状にカールする。なお、本実施の形態において外殻構造1(シート)はその全部がロール3に巻き取られているわけではなく、先端部分4にはインフレータブル構造2の(後に説明する)チューブが当接する端面5を有する。端面5では、外殻構造1が中空円筒形状に巻いて固定され、端面5がロール3から離れるに従いロール3から離れた外殻構造1がその内部応力によって端面5の近傍のように中空円筒形状を為すようになる。
【0018】
インフレータブル構造2は、チューブ6とガス導入管7とを有する。チューブ6は、一端が封止され他端に開口を有し、膨らんだ状態では円筒形状を呈する。チューブ6は、ポリエチレン、ゴム等の柔軟な有機フィルムで構成され、ガス導入管7の外周に被せて収納することができる。チューブ6の開口にはガス導入管7が挿入され、開口はシール部材8によってガス導入管7の外周に封止される。ガス導入管7、シール部材8の材料は、適切な機械的強度および封止性能が確保される限り任意である。なお、ガス導入管7にはバルブ9を介してガスボンベ10が接続され、ガスボンベ10から二酸化炭素、窒素、アルゴン等希ガスあるいは不活性ガスが供給される。
【0019】
このような人工衛星搭載用アンテナの伸展動作を説明する。まず、外殻構造1がロール3に巻き取られており、インフレータブル構造2のチューブがガス導入管7の外周に被せられた状態でアンテナ収納状態である。この状態から、バルブ9を開くと、ガスボンベ10からガス導入管7を通ってチューブ6の内部にガスが供給される。ガス導入管7の外周に被せられていたチューブ6は、ガスの圧力を受けて伸張し、矢印11の方向に膨張を開始する。チューブ6の先端が外殻構造1の端面5に到達すると、端面5はチューブ6からの圧力を受けて外殻構造1を矢印11の方向に伸展する。図2は伸展開始の初期段階を図示したものである。設計の長さ(たとえば5m)伸張した段階で伸展が完了する。
【0020】
図3は、外殻構造1の一例を示した一部断面図である。外殻構造は、強度維持部材12、導電部材13および接着部材14からなる複合部材である。強度維持部材12には、たとえばポリイミドフィルム、繊維強化プラスチック(FRP)のフィルムを例示できる。フィルムの厚さはたとえば0.1mmである。導電部材13には、たとえば金属不織布、金属箔等を例示できる。接着部材14は、強度維持部材12と導電部材13とを張り合わせるためのものであるが、強度維持部材12と導電部材13とが一体として形成できるような場合には特に必要ではない。
【0021】
たとえば、強度維持部材12をポリイミドフィルム、導電部材13を金属不織布にする場合、熱硬化性の接着剤を用いて両材料を張り合わせ、円筒表面に巻き付けた上で熱を加え接着を実現することができる。この場合、外殻構造1のロールは製造過程で作り込まれることとなり、応力は接着部材14によって発生することになる。あるいは、強度維持部材12をFRP、導電部材13を金属不織布にする場合、繊維材料(ファイバ)と不織布とを円筒外周に巻き付けた上で、不飽和ポリエステル樹脂等のFRP材料を塗布し所定の硬化工程を経て外殻構造1を製造できる。この場合、接着部材は特に必要でなく、また、カールのための応力はFRP材料によって得られることになる。
【0022】
図4は、本実施の形態の人工衛星搭載用アンテナを人工衛星に搭載した状態を示した斜視図である。本実施の形態の人工衛星搭載用アンテナは、矢印15の方向に回転する小型人工衛星16の中心に配置され、外殻構造1はスピン軸方向(矢印17)の方向に伸展する。図4は外殻構造1が伸展を完了した状態を示している。なお、図4において、図1および2に示した人工衛星搭載用アンテナを2台、外殻構造1の伸展方向が互いに反対になるよう配置した状態を示している。
【0023】
本実施の形態の人工衛星搭載用アンテナによれば、外殻構造1を有するので、伸展完了後はもとより、伸展の途中においても十分な機械的強度が保証される。このため、従来のインフレータブル構造アンテナに存在したような伸展途中での柔軟性の問題や硬化の問題は存在しない。また、本実施の形態の人工衛星搭載用アンテナでは、外殻構造1の伸展アクチュエータにインフレータブル構造2を利用する。このため、重量の大きいモータ等の部品を用いないで外殻構造1の伸展が可能である。この結果、100kg級の小型人工衛星においても十分な軌道安定性が確保できる程度にアンテナ構造の全体を軽量化できる。
【0024】
以上、本発明を具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。たとえば、上記した実施の形態では、外殻構造1としてSTEMタイプを例示したが、図5に示すような複数の円筒部材18を同心に配置する多段円筒タイプを外殻構造に採用することも可能である。なお、図5では伸展状態を示しており、各円筒部材18の電気的接触や円筒部材18の分離の防止は、ジャンクション部19に適切な接続構造を備えて実現できることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本願発明は、人工衛星搭載用アンテナに関する発明であり、人工衛星分野全般、航空宇宙産業に適用することが可能な発明である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施の形態である人工衛星搭載用アンテナの主要部の一例を示した分解斜視図である。
【図2】図1の人工衛星搭載用アンテナの主要部を示した側面図である。
【図3】外殻構造1の一例を示した一部断面図である。
【図4】本発明の一実施の形態である人工衛星搭載用アンテナを人工衛星に搭載した状態を示した斜視図である。
【図5】外殻構造の他の例を示した斜視図である。
【符号の説明】
【0027】
1…外殻構造、2…インフレータブル構造、3…ロール、4…先端部分、5…端面、6…チューブ、7…ガス導入管、8…シール部材、9…バルブ、10…ガスボンベ、12…強度維持部材、13…導電部材、14…接着部材、16…小型人工衛星、18…円筒部材、19…ジャンクション部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スピン安定方式の人工衛星に搭載され、前記人工衛星の打ち上げ時には収納されており、軌道安定後に前記衛星のスピン軸方向に伸展するよう構成された人工衛星搭載用アンテナであって、
強度維持部材、および、前記強度維持部材に貼り合わされた導電部材を有し、その伸展状態において中空の円筒形状をなす外殻構造と、
一端が封止され他端が開口されたチューブ、および、前記チューブの前記開口に挿入されたガス導入管を有し、前記ガス導入管の外周で前記チューブの前記開口が封止されているインフレータブル構造と、
前記ガス導入管にガスを供給するガス供給手段と、
を有し、
前記ガス導入管を介して前記チューブの内部に前記ガスを供給することにより、前記チューブを前記外殻構造の中空部分に伸展させ、前記チューブの伸展に伴って前記外殻構造を前記衛星の前記スピン軸方向に伸展させる人工衛星用アンテナ。
【請求項2】
前記外殻構造は、伸展状態においてはその内部応力によって短辺方向にカールしており、収納状態においては前記短辺方向の前記カールを展開し長辺方向でロールに巻き取られている短冊状またはテープ状のフィルムまたはシートである請求項1記載の人工衛星用アンテナ。
【請求項3】
前記外殻構造は、複数の中空円筒構造物が同軸に配置され、伸展状態において前記中空円筒構造物の端部が結合される多段円筒構造体である請求項1記載の人工衛星用アンテナ。
【請求項4】
前記強度維持部材は、繊維強化プラスチック(FRP)またはポリイミドその他のプラスチック材料からなる請求項1〜3の何れか一項に記載の人工衛星用アンテナ。
【請求項5】
前記導電体は、金属不織布である請求項1〜4の何れか一項に記載の人工衛星用アンテナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−130988(P2006−130988A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−319761(P2004−319761)
【出願日】平成16年11月2日(2004.11.2)
【出願人】(502294172)株式会社ウェルリサーチ (5)
【出願人】(591051874)サカセ・アドテック株式会社 (5)
【Fターム(参考)】