説明

人工魚礁

【課題】滑動及び転倒を防止することができる人工魚礁を提供する。
【解決手段】砂地の海底面21に設ける人工魚礁1において、縦,横梁材3,4を有し内部に収納枠部6を有する枠体5と、この枠体5の底部に設けられ枠体5の外側に張り出す面材11とを備える。海底に定置した人工魚礁1は潮流の影響により振動を起し、枠体5の一辺5Aを軸とし、他辺が上方に浮き上がる上昇力Fを受ける。これに対し、底部に張り出して設けた面材11と海底面21との間が減圧状態となって面材11が海底面21に吸着し、前記上昇力Fを抑制することができる。また、人工魚礁1を海底面21に設置すると、潮流などにより、面材11下部の海底面21の砂22が吸い出され、面材11箇所がすり鉢状に掘られ、面材11が周囲の海底面21より低くなり、人工魚礁1の滑動が防止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部に蝟集空間を有する人工魚礁の安定性向上に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の漁場造成は、着底式の魚礁・増殖礁・浮魚礁等の構造物を海底に設置し、魚類の蝟集・保護育成を主たる目的とし、一定の成果を挙げてきた。しかし、漁法の発達による乱獲で資源の減少を招いたが、最近資源の回復を目指す湧昇流施設が注目されている。
【0003】
海底から海面に向かって流れるいわゆる湧昇流の効果を主とする魚礁は、燐酸塩、硝酸塩等の栄養塩を太陽光の届く上層に押し上げ、これにより太陽光による光合成作用を促進してプランクトンの増殖を促進し、このプランクトンを餌とする小魚,小魚を餌とする中魚、さらに大魚という食物連鎖を形成して良好な漁場を得るために有効である。このような、海流や潮流の水平流を鉛直方向の湧昇流とするために現在海底に山状の障害物を形成するマウンド魚礁(例えば特許文献1)が用いられている。
【0004】
このマウンド魚礁としては、例えば、火力発電所などから排出される石炭灰などをコンクリートとともに固めて方形のコンクリート成形体とし、このコンクリート成形体を海底に数十〜数百メートルの長さ及び2〜30メートルの高さに積み重ねたものであるが、このようなマウンド魚礁は、湧昇流を起こすことにより前述の通り魚類等の増殖に寄与するものであるが、それ自身増殖礁としての機能は備えていないので、必ずしも魚類の棲息に好適なものではなかった。また、石炭灰を使用しているので環境に対する影響が皆無であるとはいえない。
【0005】
マウンド礁で湧昇流を起こすためには、マウンドの山の高さが必要である。水深100メートル前後の大水深域で、山を築くための投石等の投入は正確性に欠け、高い山を築くことは極めて困難であり、且つ工期も長くコストも高い。また、効率よく高い山が築けて湧昇効果が大きい程、山の頂部の潮流速は早くなり、流体力による頂部ブロックの崩壊の危険性もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭56−99736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
湧昇流施設の湧昇効果を高めるため枠組み構造体からなる人工魚礁に面材を付与すると、波や潮流により魚礁にかかる流体力が大きくなり、人工魚礁の滑動・転倒等安定性が悪くなる。
【0008】
また、既存人工魚礁についても、魚類の蝟集効果向上のため補強部材として面材や筒状部材等が取り付けられ、魚礁の機能向上が図られるが、魚礁の安定性が悪くなる。
【0009】
そこで、本発明は上記した問題点に鑑み、補助部材を取り付けた人工魚礁及び湧昇流機能を付与した人工魚礁の波や潮流に対する、滑動や転倒の安全性を改善することができる人工魚礁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に係る発明は、砂地の海底面に設ける人工魚礁において、縦,横梁材を有し内部に蝟集空間を有する魚礁本体と、この魚礁本体の底部に設けられ前記魚礁本体の外側に張り出す張出部とを備えることを特徴とする。
【0011】
また、請求項2に係る発明は、前記張出部と魚礁本体との間に補強斜材を設けたことを特徴とする。
【0012】
また、請求項3に係る発明は、前記魚礁本体は、高さが底部の幅の1.5倍以上であることを特徴とする。
【0013】
また、請求項4に係る発明は、前記張出部は、前記底部の周囲に設けた面材と、この面材に設けた壁部とを有する箱状部分を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の構成によれば、海底に定置した人工魚礁は大きな波や速い潮流の影響により振動を起し、枠体の一辺を軸とし、他辺が上方に浮き上がる上昇力を受ける。これに対し、底部を張出部である枠材により広げた場合、回転半径が大きくなり、魚礁の転倒安全性が増す。また、張出部が面材の場合では海底の砂泥と密着し、面材が上昇しようした時、面材と海底との間が減圧状態となり、魚礁の転倒安定性が増し、さらに、魚礁周辺の海底が洗掘・埋設の繰り返しにより砂泥が面材上に堆積して荷重となって、魚礁の転倒が防止され安定化させる効果がある。また、張出部が面材を付与した枠材の場合、枠材の上昇圧力が海水により抑圧され、魚礁の転倒安全性が増す。
【0015】
また、請求項2の構成によれば、補強斜材により張出部の強度が増し安定する。
【0016】
また、請求項3の構成によれば、幅より高さの比率が大きな人工魚礁において、その安定化を図ることができる。
【0017】
また、請求項4の構成によれば、面材の内周及び外周に壁部を設けることで箱状部分が形成され、この箱状部分内に洗掘された砂泥が堆積し、魚礁の転倒安定性を一層向上させる効果がある。さらに、魚礁本体の周囲が、波や潮流で洗掘・埋設を繰り返すことで、魚礁周囲がすり鉢状となり、魚礁の滑動が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施例1を示す設置状態の断面図である。
【図2】同上、沈設途中の断面図である。
【図3】同上、魚礁本体の平面図である。
【図4】同上、枠部の平面図である。
【図5】本発明の実施例2を示す設置状態の断面図である。
【図6】同上、面材を備えた枠部の平面図である。
【図7】本発明の実施例3を示す設置状態の要部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明における好適な実施の形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を限定するものではない。また、以下に説明される構成の全てが、本発明の必須要件であるとは限らない。各実施例では、従来とは異なる人工魚礁を採用することにより、従来にない人工魚礁が得られ、その人工魚礁を夫々記述する。
【実施例1】
【0020】
以下、本発明の人工魚礁を添付図面を参照して説明する。図1〜図4は、本発明の実施例1を示し、同図に示すように、人工魚礁1は、鋼材からなる横梁材3および縦梁材4を立体状に組んだ魚礁本体たる鋼製の枠体5を備えている。この枠体5の内部には上下及び左右に隣接した蝟集空間たる複数の収納枠部6が形成され、この収納枠部6は潮流が通過可能な通水性を有する。また、湧昇効果を高めるため、枠体5の外周に前記収納枠部6を塞ぐように面材を設けてもよい。
【0021】
本実施例では、例えば、枠体5の高さは、枠体5の下部の幅Wの1.5倍以上である。
【0022】
前記枠体5の底部には、張出部たる複数の枠材7が設けられ、この枠材7は、鋼材などからなり、前記枠体5の周囲から張り出して設けられ、それら複数の枠材7の先端を枠材8により連結し、それら枠材7,8と枠体5底部の横枠材3とにより複数の枠部9を形成している。この例では、枠体5の底部の全周に枠部9を設けており、前記枠材8は、枠体5の底部形状と略相似形の周囲形状を有する。
【0023】
また、枠部9の先端側と前記枠体5との間に複数の補強斜材12を斜設し、それら補強斜材12は枠体5の周囲に略等間隔で、枠材7の位置に対応して設けられている。
【0024】
次に、前記構成につき、その作用を説明する。人工魚礁1を起重機船のクレーンブームに吊り上げ、設置場所において、人工魚礁1を海底に沈設する。このようにして人工魚礁1を砂地の海底面21に設置すると、外側に枠材7,8が張り出しているため、安定して接地することができる。
【0025】
ここで、人工魚礁1は外力又は波力の影響により振動を起す。例えば図1に示すように、矢印Yの向きの潮流を人工魚礁1が受けると、枠体5の一辺5Aを軸とし、他辺が上方に浮き上がる上昇力Fが発生するが、外側に枠材7,8が張り出しているため、前記上昇力Fに対向することができる。
【0026】
このように本実施例では、砂地の海底面21に設ける人工魚礁において、縦,横梁材3,4を有し内部に蝟集空間たる収納枠部6を有する魚礁本体たる枠体5と、この枠体5の底部に設けられ枠体5の外側に張り出す張出部たる枠材7,8とを備えるから、海底に定置した人工魚礁は大きな波や速い潮流の影響により振動を起し、枠体5の一辺5Aを軸とし、他辺が上方に浮き上がる上昇力Fを受ける。これに対し、底部を張出部である枠材7,8により広げた場合、回転半径が大きくなり、魚礁の転倒安全性が増す。
【0027】
また、このように本実施例では、張出部たる枠材7,8と魚礁本体たる枠体5との間に補強斜材12を設けたから、補強斜材12により枠材7,8の強度が増し安定する。
【0028】
また、このように本実施例では、魚礁本体たる枠体5は、高さが底部の幅Wの1.5倍以上であるから、幅Wより高さの比率が大きな高層の人工魚礁1において、その安定化を図ることができる。
【実施例2】
【0029】
図5及び図6は本発明の実施例2を示し、上記実施例1と同一部分に同一符号を付し、その詳細な説明を省略して詳述すると、前記枠体5の底部には、前記枠部9内に面材11が設けられ、この面材11は、枠体5の周囲から外側に張り出して設けられ、下面が略水平な平坦に形成されている。前記面材11は鋼板やコンクリート版からなり、このコンクリート版は鉄筋又は無筋コンクリートからなる。尚、枠体5の底部内に前記面材11を設けてもよいが、沈設時などを考慮して設けていない。また、前記面材11の上面と前記枠体5との間に複数の前記補強斜材12を設け、図3に示すように、それら補強斜材12は枠体5の周囲に略等間隔で、縦梁材4位置に対応して設けられている。尚、枠部9を設けずに面材11のみを設けてもよい。
【0030】
次に、前記構成につき、その作用を説明する。人工魚礁1を起重機船のクレーンブームに吊り上げ、設置場所において、人工魚礁1を海底に沈設する。この場合、底部内には面材11が無いから、人工魚礁1をスムーズに沈めていくことができる。このようにして人工魚礁1を砂地の海底面21に設置すると、外側に面材11が張り出しているため、安定して接地することができる。
【0031】
ここで、人工魚礁1は潮流の影響により振動を起す。例えば図1に示すように、矢印Yの向きの潮流を人工魚礁1が受けると、枠体5の一辺5Aを軸とし、他辺が上方に浮き上がる上昇力Fが発生するが、外側に面材11が張り出しているため、前記上昇力Fに対向することができる。また、海底においては、面材11の上面に水圧が加わるため、面材11が海底面21に押し付けられた状態となり、面材11と海底面21との間が減圧状態となり、前記上昇力Fを効果的に抑制することができる。
【0032】
また、砂地の海底面21に人工魚礁1を設置すると、潮流などにより、面材11下部の海底面21の砂が吸い出され、図1に示すように、面材11箇所が鉢状に掘られ、面材11が周囲の海底面21より低くなり、これにより人工魚礁の滑動が防止される。
例えば、砂22が掘られることにより面材11は周囲より例えば40〜50cm程度低くなる。尚、これには、人工魚礁1は鋼材などからなる重量物であるから、自重により沈む量も含まれる。また、面材11の下方の砂が掘られ、同時に面材11の上に砂22が堆積してウエートとなり、人工魚礁1の安定性が向上する。
【0033】
このように本実施例では、砂地の海底面21に設ける人工魚礁1において、縦,横梁材3,4を有し内部に蝟集空間たる収納枠部6を有する枠体5と、この枠体5の底部に設けられ枠体5の外側に張り出す張出部たる面材11とを備えるから、海底に定置した人工魚礁は大きな波や速い潮流の影響により振動を起し、枠体5の一辺5Aを軸とし、他辺が上方に浮き上がる上昇力Fを受ける。これに対し、底部を張出部である面材11により広げたから、面材11が海底面21の砂泥と密着し、面材11が上昇しようした時、面材11と海底面21との間が減圧状態となり、魚礁の転倒安定性が増し、さらに、魚礁周辺の海底が洗掘・埋設の繰り返しにより砂泥が面材11上に堆積して荷重となって、魚礁の転倒が防止され安定化させる効果がある。
【0034】
また、海底面21が砂地であるから、人工魚礁1を海底面21に設置すると、潮流などにより、面材11下部の海底面21の砂22が吸い出され、面材11箇所がすり鉢状に掘られ、面材11が周囲の海底面21より低くなり、人工魚礁1の滑動が防止される。
【0035】
実施例上の効果として、面材11の面積が枠体5の底面の面積以上であるから、安定性に優れたものとなる。
【実施例3】
【0036】
図7は本発明の実施例2を示し、上記実施例1と同一部分に同一符号を付し、その詳細な説明を省略して詳述すると、上記各実施例と同一部分に同一符号を付し、その詳細な説明を省略して詳述すると、この例では、前記面材11の内周及び外周に内周壁部13及び外周壁部14を設け、それら面材11、内周壁部13及び外周壁部14により箱状部分15を形成している。
【0037】
このように本実施例では、底部の周囲に設けた面材11と、この面材11に設けた壁部たる内周壁部13及び外周壁部14とを有する箱状部分15を備えるから、この箱状部分15内に洗掘された砂泥が堆積し、魚礁の転倒安定性を一層向上させる効果がある。さらに、魚礁本体の周囲が、波や潮流で洗掘・埋設を繰り返すことで、魚礁周囲がすり鉢状となり、魚礁の滑動が抑制される。
【0038】
また、実施例上の効果として、張出部は、底部の周囲を囲む面材11と、この面材11の内周及び外周に設けた内周及び外周壁部13,14とを備えるから、枠体5の全周を箱状部分15で囲むことができる。
【0039】
尚、本発明は、本実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。例えば、魚礁本体は、縦,横梁材以外でも、斜材を備えるものでもよい。また、魚礁本体の材質、形状、外形寸法等などの基本的構造は適宜選定すればよい。また、蝟集空間に収納籠などを配置するようにしてもよい。さらに、面材の下面に滑り止め用の凹凸を形成してもよい。
【符号の説明】
【0040】
1 人工魚礁
3 横梁材
4 縦梁材
5 枠体(魚礁本体)
5A 一辺
6 収納枠部(蝟集空間)
11 面材
12 補強斜材
F 上昇力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
砂地の海底面に設ける人工魚礁において、縦,横梁材を有し内部に蝟集空間を有する魚礁本体と、この魚礁本体の底部に設けられ前記魚礁本体の外側に張り出す張出部とを備えることを特徴とする人工魚礁。
【請求項2】
前記張出部と魚礁本体との間に補強斜材を設けたことを特徴とする請求項1記載の人工魚礁。
【請求項3】
前記魚礁本体は、高さが底部の幅の1.5倍以上であることを特徴とする請求項2記載の人工魚礁。
【請求項4】
前記張出部は、前記底部の周囲に設けた面材と、この面材に設けた壁部とを有する箱状部分を備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の人工魚礁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−135787(P2011−135787A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−296185(P2009−296185)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(501221164)日本漁場システム株式会社 (2)
【Fターム(参考)】