付着または非付着の鳥類細胞系を用いた、ポックスウィルスの作製法
本発明は、鳥類胚性幹細胞にウィルス粒子を接種し、細胞溶解が起こり、新しく作製されたウィルス粒子が該培地中に放出されるまで該細胞を基礎培地で培養する段階を含む、ワクシニアウィルスなどのポックスウィルスを複製する方法に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞をウィルス粒子に感染させる段階を含む、鳥類細胞系、特に鳥類胚性幹細胞を用いて生のまたは弱毒化したポックスウイルス、特に天然のまたは改変されたワクシニアウィルスを作製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
歴史的には、ワクシニアウィルスを用いて天然痘に対する免疫化に成功しており、WHOにより1980年にそれを根絶させた事が公知である。それ以後、予防接種は行われていない。今日、このウイルスの復活は、無防備な集団にとって壊滅的でありうる潜在的脅威と考えられる。問題は天然痘ワクチンがわずか1500万用量しか米国において利用できないことであり、FDAはガイドラインを発行し、かつ天然痘に対する単位投与量のワクチンを大量に製造するという契約を結んでいる。さらなる情報は、以下でアクセス可能である。
http://www.bt.cdc. gov/Agent/Smallpox/SmallpoxConsensus.pdf
【0003】
しかしながら、製造の高速化は新規の製造方法および適切な細胞系を必要とする。本発明では、本発明者らは製薬会社によるワクチン製造のための基材として使用することが可能な鳥類種に由来する、新規の細胞系(付着性または非付着性)を記載する。これらの新規の細胞は鳥類胚に由来し、現在使用される卵または一次胚線維芽細胞に取って代わる可能性がある。
【0004】
伝統的に、ワクチンは、弱めたまたは不活性の型である感染因子を使用することにより、疾患に対する免疫を誘発する。今日、ヒト細胞における複製の欠如および免疫応答の良好な誘導のような弱毒化したポックスウイルス特性は、ベクターとして例えばMVA(Modified Virus Ankara)を使用する新規のワクチンの開発戦略を可能にする。MVAは、天然痘に対する安全なワクチンとして、その疾患の根絶より前に最初に開発された、ワクシニアウィルス(VV)の高程度に弱められた株である。MVAは、一次ニワトリ胚線維芽細胞(CEF)で570を超える連続継代を行うことによりアンカラ株から得られ、この順応の結果、親株と比較していくつかの大きなゲノム欠失を含む。MVAは、大部分の哺乳類の細胞系においてもはや自己複製をすることができず、動物において非病原性である。さらに重要なことに、免疫が抑制された個体を含む100,000人を超える人間に天然痘ワクチンとしてMVAが投与された際、深刻な合併症は報告されなかった。分子生物学の古典的技術によって、治療的な関心対象である特定のペプチドまたはタンパク質をコードする外来性DNAを含む組換えMVAを得ることが可能である。これらの組換えウイルスは、注射の後、インビボで、腫瘍抗原などの特異抗原に対する免疫系を刺激することが可能である。現時点では、ワクチンベクターのこれらの新しい世代は、人間または動物の感染症に対して、および多種多様な種類の腫瘍(黒色腫、前立腺癌、乳癌、肺癌、卵巣癌、肝癌など)に対抗するために開発されているかまたは開発されうる。
【0005】
Drexler I.ら(1998 J. Gen Virol. 79:347-352)は、高程度に弱毒化された改変ワクシニアウィルスアンカラ(MVA)は胎児ハムスターの腎臓細胞(ウイルス増殖のための潜在的宿主)内では自己複製するが、様々なヒトの形質転換細胞および一次細胞内では自己複製しない事を観察した。従って、MVAの宿主の範囲は制限される。さらに、この高程度に弱毒化されたポックスウィルス株は、増殖性感染を引き起こさない(Moss B. Dev Biol Stand 1994:55-63)。例えば、Blanchard TJ.ら(1998 J.Gen. Virol. 79:1159-1167)は、改変ワクシニアウィルスアンカラがヒト細胞における限られた複製を経て、いくつかの免疫調節性タンパク質を欠失していることを報告した。加えて、産生量は、天然痘ワクチン量産化の経済的な実行可能性と釣り合わなければならない。
【0006】
MVAおよびワクチン接種を受けた個体において誘発された強力な細胞性および体液性の免疫応答のゆるぎない安全記録は、人間および動物の感染症に対する、特にHIVおよび癌に対する免疫化のための組換えベクターとしてMVAを使用する事に大きな科学的および工業的関心を呼び起こした。CEFに適応させた場合、MVAはこの種の細胞において、高いタイターまでに増殖することができ、かつ組換えMVAワクチン候補の現在の臨床的バッチは一次CEFで作製される。しかしながら、CEFの確立は一次組織培養の調製における経験を必要とし、かつ特別な病原体のない状況下に保たれたニワトリ由来の卵に依存する。さらに、生産プロセスは非常に面倒であり標準化するのが困難である。その理由は、一次細胞はほんのわずかな継代のみで生存し、従って発育卵から連続的に調製されなければならないためである。ワクチンの製作者は第I期およびII期の臨床試験のためのMVA材料バッチの作製のためにはこのような限界では処理できるが、第III期臨床試験のための、かつ最終的には後の製品商業化のためのCEFに基づく生産工程の拡大には重大な障害のままである。
【発明の開示】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、上記の問題を取り除き、かつ規制機関の要求を満たすワクシニアウィルスを複製するための細胞系を提供することである。これが、本発明の目的である。
【0008】
理想的には、この種の細胞系は完全に規制を遵守しなければならず、細胞は、公知の歴史によって十分に特徴づけられる。さらにこの細胞系は、非腫瘍形成性であり、遺伝的に改変がなく、長期培養下で安定であるべきである。この細胞系は、ウイルスを複製することが可能であり、無血清培地における安定した付着性および懸濁性の増殖に適応すると思われる。この点において、本発明者らは、ウイルスを複製するための鳥類細胞の使用法を調査した。本発明者は、本出願人らの同時係属出願PCT/FR03/00735(WO03/076601)において詳述される確立された新規の鳥類胚由来幹細胞系は、ポックスウィルス、特にワクシニアウィルスなどのオルソポックスウイルス属の複製に特に適している事を報告する。
【0009】
無制限の細胞増殖がワクチンの量産化工程のために必要であるので、本発明者らはウイルス複製に関する鳥類胚由来幹細胞能力の検討を選択する。しかしながら、長期間インビトロにおいて、鳥類胚由来幹細胞を維持するために、Painら(1996, Development 122:2339-2348)、US 6,114,168、およびEP 787 180に記載されるような特定の培養および維持条件を観察する事が必要であり、かつこれらの培養条件は大変なコストを必要とする。問題は、細胞分化および老化などの障害を回避すると同時に、経済的な培地で培養中の鳥類胚由来幹細胞の維持を可能とする事であった。本発明の文脈において、成長因子、血清、および/またはフィーダー層の除去が鳥類胚由来幹細胞集団の分離につながることが判明しており、これらは基礎培地中で際限なく増殖することが可能である。
【0010】
また、ほとんどの場合非付着細胞である造血幹細胞は別として、従来の技術に従って得られた細胞は付着性の表現型を示す。しかしながら、非付着細胞が、ウィルスワクチンの工業生産のためには好ましい。この表現型は、解離のためのタンパク質分解酵素の使用を回避する取り扱いの容易さから、かつインビトロで培養される非付着細胞によって達成される高い細胞密度から都合がよい。本発明は、自然発生的に非付着性となることができる、または非付着性がフィーダー層の除去によって得られる、鳥類胚由来幹細胞系の作製を記載する。懸濁液中のそれらの増殖のため、これらの系はバイオリアクタでのワクチン工業生産に完全に適している。
【0011】
基礎培地における成長のそれらの特性に加え、これらの細胞系は、現行の方法によって得られる収率と等しいか、または現行の方法によって得られた収率よりもさらに高い収率で特定のウイルスの複製を可能にし、これはこれらの細胞を、ワクチンの量産化にとって特に有用にすることが発見された。
【0012】
説明
従って、第1の局面において、本発明はウイルス、より具体的には天然型のまたは組換え型のワクシニアウィルスなどのワクシニアウィルスを鳥類胚由来幹細胞において、自己複製する方法に関する。本発明の方法は、該鳥類胚由来幹細胞にウィルス粒子を接種する段階、および該細胞を、細胞溶解が起こり、新しく作製されたウィルス粒子が該培地において、放出されるまで、成長因子、フィーダー細胞および/または動物性血清において、剥奪される培地で培養する段階を含む。本発明の鳥類幹細胞の接種は、0.001〜0.5の、好ましい態様においては0.01〜0.5の、そして最も好ましい態様においては0.01〜0.1のm.o.i. (感染効率(multiplicity of infection))により実施される。本方法は、ワクチン、特にポックスウイルス科、特に天然痘に対するワクチンの製造に有用である。
【0013】
該鳥類胚由来幹細胞系は、以下からなる方法によって入手可能である:
a) 鳥類細胞、好ましくは鳥類胚細胞を、それらの増殖を可能とする全ての因子、および好ましくは不活化されたフィーダー層を含み、かつ血清で補足された完全培地で培養する段階、
b) 該因子、血清、および/またはフィーダー層の漸進的なまたは完全な除去を得るように培地を改変することによって継代する段階、
c) 外因性成長因子および/もしくは不活性フィーダー層が存在しない、ならびに/または血清レベルが低いかもしくは血清を含まない基礎培地において増殖可能である、付着性のまたは非付着性の鳥類細胞系を確立する段階。
【0014】
段階c)の基礎培地がなお、低レベル(すなわち約2%またはそれ以下)の血清を含む場合、該方法は任意で、以下から選択される培地中に外因性成長因子も、不活性フィーダー層も含まずかつ血清レベルの低い基礎培地を変更する追加的な段階d)を含む:
- 血清により補足された基礎培地(i)、および無血清培地で希釈され、その後、連続した継代の間、本基礎培地(i)で該鳥類細胞を培養する基礎培地であって、外因性成長因子も、不活性フィーダー層も含まずかつ血清レベルの低い該基礎培地が完全に消失するまで、無血清培地の比率が漸進的に増加する基礎培地(i); - 血清により補足された無血清培地(SFM)(ii)であって、その後、連続した継代の間、該鳥類細胞を該培地(ii)で培養し、無血清培地を得るまで、血清の比率が漸進的に低下する無血清培地;
- 無血清培地(SFM)(iii)であって、その後、該鳥類細胞を培地(iii)で培養し、次に無血清培地で維持した場合、該鳥細胞が培地の変更に順応した無血清培地。
【0015】
本明細書において、使用する「鳥類の」という用語は、例えばニワトリ、シチメンチョウ、カモ、ガチョウ、ウズラ、キジ、オウム、アトリ科、タカ、カラス、ダチョウ、エミュー、およびヒクイドリなどの生物だがこれらに限定されない、分類学上のクラス「ava」の生物の任意の種、亜種、またはレースを意味することを意図する。本用語は、セキショクヤケイ(Gallus gallus)またはニワトリ(例えばホワイトレグホン、ブラウンレグホン、バードロック(Barred-Rock)、サセックス、ニューハンプシャー、ロードアイランド、オーストラロープ(Ausstralorp)、ミノルカ(Minorca)、アムロックス(Amrox)、カリフォルニアグレイ、イタリアンパーティッジカラード(Italian Partidge-colored)の様々な系統、ならびに一般に飼育されるシチメンチョウ、キジ、ウズラ、カモ、ダチョウ、および他の家禽の系統を含む。好ましい態様において、本発明の鳥類細胞はニワトリ細胞である。
【0016】
本明細書において、使用する「それらの増殖を可能にしている因子」という用語は、培養中の鳥類細胞の生存および増殖に必要な成長因子を意味する。本発明によれば、成長因子は栄養因子およびサイトカインを含む。栄養因子は、主にSCF、IGF-1、およびbFGFである。サイトカインは主に、その作用がgp130タンパク質、例えばLIF、インターロイキン11、インターロイキン6、インターロイキン6受容体、CNTF、オンコスタチン、およびカルディオトロフィン(cardiotrophin)と関連する受容体を介するサイトカインである。
【0017】
段階a)の鳥類細胞は、鳥類胚細胞の中から、より好ましくは鳥類胚性幹細胞および鳥類一次細胞の中から選択される細胞である。好ましい態様において、本細胞は鳥類胚、好ましくはニワトリ胚から得られたX期の分離胚葉細胞の集団懸濁液から単離された全能性または多能性の鳥類胚性幹細胞である(EYAL-GILADIの分類:EYAL- GILADIおよびKOCHAN、1976、「From cleavage to primitive streack formation: a complementary normal table and a new look at the first stages of the development in the chick」。「General Morphology」 Dev. Biol. 49: 321-337を参照)。これらの鳥類ES細胞は、39℃で48〜72時間の培養を含む遅い倍加時間によって特徴づけられる。
【0018】
本発明の方法の、段階b)の培地の改変は、成長因子、血清、および/またはフィーダー層の漸進的なまたは完全な除去を得るために、同時に、連続して、または別々に行うことができる。培地の離脱順序は、以下から選択してもよい:
- フィーダー層/血清/成長因子、
- フィーダー層/成長因子/血清、
- 血清/成長因子/フィーダー層、
- 血清/フィーダー層/成長因子、
- 成長因子/血清/フィーダー層、
- 成長因子/フィーダー層/血清。
【0019】
好ましい態様において、離脱順序は、成長因子/フィーダー層/血清である。
【0020】
特定の態様では、本発明は、確立された系が、不活性フィーダー層の不在下で増殖する付着性幹細胞である、前記した方法に関する。この点で、前記した方法では、工程b)は培地の成分(成長因子単独、または血清単独、または成長因子そして次に血清、または血清そして次に成長因子)の除去にある。
【0021】
別の態様では、本発明は、確立された系が、外因性成長因子を含まない培地の懸濁液中で増殖する非付着性幹細胞である、前記で定義された方法に関する。この点で、前記した方法では、工程b)はフィーダー層の漸進的なまたは全体的な除去、そして随意に、次の培地の別の成分(成長因子または血清)の除去にある。
【0022】
別の態様では、本発明は、確立された系が、血清を含まない培地(血清不含培地)の懸濁液中で増殖する非付着性幹細胞である、前記した方法に関する。
【0023】
別の態様では、本発明は、確立された系が、外因性成長因子および血清を含まない培地の懸濁液中で増殖する非付着性幹細胞である、前記で定義した方法に関する。
【0024】
別の代替法においては、工程b)は、成長因子の漸進的または全体的な除去、随意に、次の血清の漸進的な除去にある。
【0025】
別の代替法においては、工程b)は、成長因子および/または血清の漸進的または全体的な除去、随意に、次のフィーダー層の除去にある。
【0026】
加えて、確立された系は血清枯渇培地、特に血清を含まない培地で増殖する細胞でよい。「血清枯渇」という表現は、時間をかけて展開する血清の濃度の漸減的な低下を意味すると理解される。この方法により、安定した系が得られるまで、これらの新しい漸増的に激変する条件に適合でき、血清枯渇培地または完全な血清不含培地で成長することができるクローンを選択することが可能になる。
【0027】
より正確に言うと、本方法の段階a)は、完全培地中の約7×104/cm2〜8×104/cm2の鳥類細胞による培養フラスコへの接種を含む。好ましくは、接種は約7.3×104/cm2(4×106の細胞/55cm2または4×106の細胞/100mmシャーレ)により行われる。
【0028】
「完全培地」は、成長因子および動物性血清により補足された基礎培地を意味する。完全培地の例は、Painら(1996, Development 122:2339-2348)、EP787,180、およびUS6,114,168、US5,340,740、US6,656,479、およびUS5,830,510に記載されている。本発明によれば、「基礎培地」は、それ自体が少なくとも細胞の生存、さらにより優れたものは細胞の増殖を可能にする古典的培地配合を有する培地を意味する。基礎培地の例は、BME (basal Eagle-Medium)、MEM (minimum Eagle Medium)、medium 199、DMEM (Dulbecco's modified Eagle Medium)、GMEM (Glasgow modified Eagle medium)、DMEM-HamF12、Ham-F12、およびHam-F10、Iscoveの変法ダルベッコ培地、MacCoyの5A培地、RPMI 1640である。基礎培地は、無機塩(例えば、CaCl2、KCl、NaCl、NaHCO3、NaH2PO4、MgSO4、...)、アミノ酸、ビタミン(チアミン、リボフラビン、葉酸、D-Ca パントテン酸、...)、および他の成分(例えばグルコース、β-メルカプトエタノール、ピルビン酸ナトリウム)を含む。
【0029】
概略的に成長因子の2つのファミリー:サイトカインおよび栄養因子を区別することは可能である。サイトカインは、主にその作用がgp130タンパク質と関連する受容体を介するサイトカインである。従って、LIF、インターロイキン11、インターロイキン6、インターロイキン6受容体、CNTF、オンコスタチン、およびカルディオトロフィンは、特異鎖の受容体レベルでの動員による作用、および後者と単量体型または時にはヘテロ二量体型でのgp130タンパク質との組合せの、類似した様式を有する。栄養因子は、主にSCF、IGF-1、およびbFGFである。より好ましくは、完全培地は、基礎培地、インシュリン成長因子1(IGF-1)、繊毛様神経栄養因子(CNTF)、インターロイキン6(IL-6)、インターロイキン6受容体(IL-6R)、幹細胞因子(SCF)、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、任意でインターロイキン11(IL-11)、および動物性血清を含む。鳥類細胞、好ましくは、段階a)の鳥類胚細胞は、完全培地中で数継代の間培養される。本培地は、以下の群より選択される成長因子の少なくとも1つにより補足される:LIF、IGF-1、CNTF、IL-6、IL-6R、SCF、bFGF、IL-11、オンコスタチン、カルディオトロフィン。
【0030】
好ましい態様によれば、完全培地は、IGF-1、CNTF、IL-6、IL-6R、SCF、bFGF、任意でIL-11により補足された基礎培地である。基礎培地中の成長因子、IGF-1、CNTF、IL-6、IL-6R、SCF、bFGF、任意でIL-11の濃度は、約0.01〜10ng/ml、好ましくは0.1〜5ng/ml、およびより好ましくは約1ng/mlからなる。
【0031】
約3〜10継代の後、完全培地の成長因子(段階b)を枯渇させる。好ましくは、各々の成長因子に対して、枯渇は一段階、1つの継代からもう1つの継代の際に直接行われる。あるいは、成長因子の枯渇は、完全培地中の成長因子濃度の漸進的な減少によって、徐々に実施される。より好ましい態様では、成長因子枯渇は、少なくとも2つの成長因子に対して同時に実施される。好ましい態様において、成長因子の枯渇は、以下の2回の枯渇により行われる。第1に、SCF、IL6、IL6R、任意でIL-11を、完全培地から直接除去し、その後鳥類細胞を、IGF1およびCNTF、任意でIL-11を含み、かつ動物性血清で補充された完全培地中で、少なくとも1継代の間培養状態で維持する。第2に、IGF1およびCNTF、任意でIL-11を、培地から直接的に除去する。この培地は最終的に、血清のみで補充された基礎培地を含む。通常、培地は約20〜30継代で成長因子が完全に枯渇する。
【0032】
好ましい態様において、フィーダ細胞の剥奪は成長因子の剥奪の後に実施される。フィーダ細胞の剥奪は、漸進的に、かつ数継代に渡って実施される。鳥類細胞はここで、段階a)における濃度よりも低い濃度、約4×104細胞/cm2〜5×104細胞/cm2でフラスコに接種される。フィーダ細胞は、約4.2×104細胞/cm2でフラスコに接種される。漸進的に、フラスコのフィーダ細胞濃度を減少させる。実際的には、同一の濃度のフィーダ細胞が2〜4継代に使用され、その後、より低い濃度のフィーダ細胞がさらなる2〜4継代に使用され、以降も同様である。フラスコはその後、約4.2×104フィーダ細胞/cm2で接種され、次いで約2.2×104フィーダ細胞/cm2で接種され、次いで約1.8×104フィーダ細胞/cm2で接種され、次いで約1.4×104フィーダ細胞/cm2で接種され、次いで約1.1×104フィーダ細胞/cm2で接種され、次いで約0.9×104フィーダ細胞/cm2で接種され、次いで約0.5×104フィーダ細胞/cm2で接種される。その後、フラスコは6.5×104鳥類細胞/cm2〜7.5×104鳥類細胞/cm2によって、かつフィーダ細胞なしで接種される。鳥類細胞はフラスコ中のフィーダ細胞濃度の減少の結果良好な状態ではないという仮説のため、その後鳥類細胞は、フィーダ細胞剥奪を続行するために、事前に同一のフィーダ細胞濃度でさらなる継代のために培養される。
【0033】
他の好ましい態様において、血清剥奪は、成長因子およびフィーダ細胞の剥奪後に実施される。基礎培地は、以下から選択される培地により変更される:
- 血清により補足され、新しい無血清培地(ii)で希釈された基礎培地(i)。その後、鳥類細胞は培地(i)における連続した継代を通して培養され、本培地では、血清で補足された基礎培地が完全に消失するまで、無血清培地の割合が漸進的に増加する(漸進的希釈)、
- 血清により補足された新しい無血清培地(ii)。その後、鳥類細胞は培地(ii)における連続した継代を通して培養され、本培地では、無血清培地を得るまで血清の割合は漸進的に低下する(漸進的離脱)、
- 血清により補足されていない、新しい無血清培地(ii)。その後、鳥類細胞は直接的に無血清培地(ii)中に存在する(直接的離脱)。
【0034】
好ましい態様において、血清の剥奪は漸進的な離脱により実施される。
【0035】
第1の態様において、血清剥奪の方法。
【0036】
本発明によれば、「無血清培地」(SFM)はすぐに使用できる細胞培養用培地を意味し、言い換えると、これは細胞の生存および細胞増殖を可能にする血清の添加を必要をしない。本培地は、必要な化学的に定義されたものではなく、例えば植物に由来する様々な起源の加水分解物を含んでもよい。好ましくは、該SFMは、すなわち動物起源またはヒト起源の成分を含まない(FAO状態:「free of animal origin)とみなされる「非動物起源」である。SFMにおいて、天然型血清タンパクは組換え型タンパク質に置換される。あるいは、本発明に記載のSFM培地はタンパク質を含まない(PF培地:「タンパク質不含培地(protein free medium)」)および/または化学的に定義される(CDM培地:「ケミカリー・ディファインド培地(chemically defined medium)」)。SFM培地は、次のいくつかの利点を示す:(i)第1に、このような培地の規格に適合している(実際、BSE、ウイルスなどの外因性の作用因子による汚染の危険がない)、(ii) 浄化工程の最適化、(iii) より良好に定義された培地のため、本方法におけるより良好な再現性。市販のSFM培地の例は、次の通りである:VP SFM(InVitrogen Ref 11681-020、カタログ2003)、Opti Pro、InVitrogen Ref 12309-019、カタログ2003、Episerf、InVitrogen Ref 10732-022、カタログ2003、プロ293S-CDM(Cambrex ref 12765Q、カタログ2003)、LC17(Cambrex Ref BESP302Q)、プロCHO 5-CDM、Cambrex ref 12-766Q、カタログ2003、HyQ SFM4CHO(Hyclone Ref SH30515-02)、HyQ SFM4CHO-Utility(Hyclone ref SH30516.02)、HyQ PF293(Hyclone Ref SH30356.02)、HyQ PF Vero(Hyclone Ref SH30352.02)、Ex cell 293培地(JRH Biosciences ref 14570-1000M)、Ex cell 325 PF CHO タンパク質不含培地(JRH Biosciences ref 14335-1000M)、Ex cell VPRO培地(JRH Biosciences ref 14560-1000M)、Ex cell 302無血清培地(JRH Biosciences ref 14312-1000M)。
【0037】
本発明は、無血清培地中で増殖することが可能である鳥類細胞系、好ましくは非形質転換細胞系を得る方法にも関し、それらの細胞系は、任意でフィーダ細胞を含む完全培地で培養される。該方法は、以下の段階を含む:
- 完全培地中で、かつ任意でフィーダー層と共に鳥類細胞、好ましくは非形質転換細胞を培養する段階。鳥類細胞は、EB1、EB14、もしくはS86N45(EB45とも命名される)などの本発明の方法における鳥類樹立細胞系、またはDF1(US5,672,485およびUS6,207,415)などの他の鳥類胚由来細胞系である、上記段階a)の鳥類細胞であってもよい。
- 血清の完全離脱を得るために培地を改変または変更するか、または血清を漸進的または直接的に除去させることによる、培養の少なくとも1回の継代段階。
- 無血清培地中で増殖することが可能な付着性または非付着性の鳥類細胞系を確立する段階。
【0038】
本発明は、その動物性血清により補足された基礎細胞培養用培地から無血清培地への継代は、基礎培地からの血清の単純な除去により実施されものではなく、無血清培地(SFM)でなければならない培地の種類の変更を必要とするという知見に依存する。さらに、鳥類細胞系が成長因子またはフィーダ細胞によって、増殖させることが必要である場合、血清離脱は、好ましくは成長因子および/またはフィーダ細胞の離脱の後で実施される。
【0039】
フィーダ細胞は、好ましくは照射またはマイトマイシンによる化学的な処理によって不活性化された動物細胞である。本フィーダは、SCFなどの成長因子を発現するために遺伝子が改変されていてもよい。好ましくは、フィーダ細胞はSTO(アメリカンタイプカルチャーコレクションATCC番号CRL-1503)などのマウス線維芽細胞系である。
【0040】
上記の方法はさらに、段階c)において得られる細胞が、ヒトまたは動物の治療を目的としたワクチンの製造に適するクローンを得るための大規模な生産に使用される培地中での選択または適応に供される段階を含んでもよい。
【0041】
本方法は、相当な期間にわたるインビトロでの培養中に維持される新規の鳥類胚由来細胞系の確立につながる。都合のよいことに、段階c)で得られる細胞系由来の細胞は、少なくとも50日、100日、150日、300日または好ましくは少なくとも600日間増殖できる。得られる細胞系が極めてより長い時間の後でもなお生きているので、600日は時間の限界とはならない。それ故、これらの系は、外因性成長因子、血清、および/または不活性フィーダー層を含まない基礎培地において、際限なく増殖することが可能であることと考えられる。より高いまたはより低い程度の同じ形態学的なおよび表現型の特徴を保持すると共に、「系」という表現はインビトロでの培養中に際限なく増殖できる細胞の任意の集団を意味すると理解される。もちろん、前記の方法は、確立された系から得られる細胞に由来する細胞クローンを得ることを可能にする。これらのクローンは、それらが分裂によって得られる細胞と遺伝的に同一である細胞である。
【0042】
樹立細胞系およびその由来細胞(段階cまたはd)は、好ましくは胚由来鳥類幹細胞系であり、より正確に言うと、それらの細胞は多能性の鳥類胚由来幹細胞である。本発明の方法によって入手可能である鳥類胚由来幹細胞は、39℃で約24時間またはそれ以下の倍加時間を用いる、小さく、丸く、個別化した細胞である。本発明の方法によって入手可能である細胞は、少なくともp60、少なくともp70、少なくともp80、少なくともp90、少なくともp100、少なくともp110、少なくともpl20、もしくは少なくともpl30継代目、またはそれ以降の細胞である。本発明に記載の鳥類胚由来幹細胞は、少なくとも以下の特徴の1つを有する:
- 高い核‐細胞質比、
- 内因性アルカリホスファターゼ活性、
- 内因性テロメラーゼ活性、
- 抗体SSEA-1(TEC01)、SSEA-3、およびEMA-1の群より選択される特異抗体による反応性。
- 本発明の方法の段階a)の鳥類細胞の倍加時間(39℃で48〜72h)よりも短い倍加時間(同じ培養条件で約24時間またはそれ以下)。
- これらの細胞系およびこれらに由来する細胞は、基礎培地、特に当業者によって一般に使用される様々な添加物で補充されるDMEM、GMEM、HamF12、またはMcCoyなどの培地中で少なくとも50日、100日、150日、300日、または好ましくは少なくとも600日間増殖できること。添加物の中で、可欠アミノ酸、ビタミン、およびピルビン酸ナトリウムが言及されてもよい。しかしながら、本細胞は、グルタミンのない基礎培地中で増殖することが可能である。
- これらの細胞系およびこれらに由来する細胞は、付着細胞または懸濁細胞のいずれかとして増殖する特徴を有すること。
好ましくは、本発明の細胞は上記の全ての特性を有する。
【0043】
本発明の鳥類樹立細胞系およびこれらに由来する細胞は、組換えペプチドおよびタンパク質(すなわち抗体、ホルモン類、サイトカイン...)、ウイルス、ウィルスベクター、ウィルス粒子、およびウィルスワクチンなどの生物学的製剤の製造のために有用である。
【0044】
より正確に言うと、本発明の鳥類樹立細胞系およびこれらに由来する細胞は、癌および感染症などの疾患に対する生のまたは弱毒化した、組換え型または非組換え型のワクチンの製造のための、ウイルスならびに/または関連したベクターおよび粒子の複製に有用である。ウイルス、関連するウィルスベクター、ウィルス粒子、およびウィルスワクチンは、好ましくはアデノウィルス、ヘパドナウイルス、ヘルペスウィルス、オルトミクソウィルス、パポーバウィルス、パラミクソウィルス、ピコルナウィルス、ポックスウィルス、レオウィルス、およびレトロウィルスの群より選択される。好ましい態様において、ウイルス、関連するウィルスベクター、ウィルス粒子、およびウィルスワクチンは、ポックスウィルスの一ファミリーに、および好ましくは、コルドポックスウイルス(chordopoxviridae)に属する。より好ましくは、ウイルスまたは関連するウィルスベクター、ウィルス粒子、および、ウィルスワクチンは、鶏痘ウィルス、カナリア痘ウィルス(すなわちALVAC)、ジュンコ痘ウイルス、ミナフ(mynah)ポックスウイルス、鳩痘ウィルス、オウム痘ウイルス(psittacinepoxvirus)、ウズラ痘ポックスウイルス(quailpoxvirus)、スズメ痘ウイルス(sparrowpoxvirus)、ムクドリ痘ウィルス(starling poxvirus)、シチメンチョウ痘ウィルス(turkey poxvirus)の中で選択されるアビポックスウイルスである。他の好ましい態様によれば、ウイルスは、ワクシニアウィルスである。
【0045】
他の態様において、ウイルス、関連するウィルスベクター、ウィルス粒子、およびワクチンは、オルトミクソウィルスの一ファミリー、特にインフルエンザウィルス、およびパラミクソウィルスの一ファミリー、特にはしか、耳下腺炎、および風疹ウィルスに属する。
【0046】
本発明はまた、本発明の鳥類樹立細胞系において発現および/または製造される生物学的製剤、特にタンパク質およびワクチンにも関する。
【0047】
好ましい態様において、本発明は、培養中に際限なく増殖することができ、かつオルソポックスウイルス属ファミリーの生のまたは弱毒化したウイルス、とりわけ生のまたは弱毒化したワクシニアウィルスおよび組換えワクシニアウィルスを複製する上記の特徴を有する、遺伝的に、生物学的に、または化学的に改変されていない、本発明の付着性のまたは非付着性の鳥類樹立細胞系の使用に関する。
【0048】
本発明は、上記の方法に記載の段階c)またはd)において確立される付着性のまたは非付着性の細胞系を培養する段階、該細胞にウィルス粒子を接種し、細胞溶解が起こるまで上記のように該細胞を基礎培地で培養する段階、および該培地中に放出される新しく作製されたウィルス粒子を回収する段階を含む、生のまたは弱毒化したワクチンを製造するための、上記の付着性のまたは非付着細胞の使用を意図する。本発明は、ATCC(ATCC番号VR-1508)NYVAC(Tartagliaら、1992、Virology 188:217-232)、LC16m8(Sugimoto et Yamanouchi、1994、Vaccine 12:675-681)、CVI78(Kempeら、1968、Pediatrics 42:980-985)から得ることができる、オルソポックスウイルス属の一ファミリー、特にワクシニアウィルスである、Lister-Elstreeワクシニアウィルスファミリー、改変されたワクシニアウィルスアンカラ(MVA)などの改変されたワクシニアウィルス、および他の組換えワクシニアウィルスに属している弱毒ウィルスの作製のために特に有用である。都合のよいことに、確立された系に由来する細胞は、改変されたワクシニアウィルスおよび/または組換えワクシニアである生のワクシニアウィルスまたは弱毒ウィルスを作製するために感染させる。該細胞は、当業者が利用できる任意の技術によって、感染させてもよい。
【0049】
あるいは、確立された系に由来する細胞は、改変されたワクシニアウィルスおよび/または組換えワクシニアである生のワクシニアウィルスまたは弱毒ウィルスを作製するためにトランスフェクトまたは改変される。該細胞は、当業者が利用できる任意の技術、任意のベクター、プラスミド、ウイルス、または特にレトロウィルスもしくは組換えレトロウィルスを用いた形質転換による、特に非相同または相同の、定方向の、および/または条件つきの遺伝子組換え(Cre-LoxまたはFLP-FRTシステム)により改変されてもよい。
【0050】
ある特定の態様において、本発明は、上記の方法の段階c)またはd)において確立される付着性のまたは非付着性の細胞系を培養する段階、該細胞にウィルス粒子を接種し、細胞溶解が起こるまで上記のように該細胞を基礎培地で培養する段階、および該培地中に放出される新しく作製されたウィルス粒子を回収する段階を含む、天然痘に対するワクチンなどの生のまたは弱毒化したワクチンを作製する方法を目的とする。本発明は、ATCC(ATCC番号VR-1508)、NYVAC(Tartagliaら、1992、Virology、188:217-232)、LCl6m8(Sugimoto et Yamanouchi、1994、Vaccine、12:675-681)、CVI78(Kempeら、1968、Pediatrics、42:980-985)から得ることができるポックスウィルスの一ファミリー、特にワクシニアウィルスである、Lister-Elstreeワクシニアウィルス系統、改変されたワクシニアウィルスアンカラ(MVA)などの改変されたワクシニアウィルス、および他の組換えワクシニアウィルスに属している弱毒ウィルスの作製のために特に有用である。例えば、天然痘に対するワクチンなどのMVAを使用できる。
【0051】
第2の特定の態様において、本発明は、疾患に対するワクチン、好ましくは後天性のまたは感染性の疾患に対するワクチンなどの、生のまたは弱毒化したワクチンを作製する方法を目的とし、該方法は、上記の方法の段階c)またはd)において確立される付着性のまたは非付着性の細胞系を培養する段階、該細胞にウィルス組換え粒子を接種し、細胞溶解が起こるまで上記したように該細胞を基礎培地で培養する段階、および該培地中に放出される新しく作製されたウィルス組換え粒子を回収する段階を含む。例えば、以下に対する抗原を発現する組換えMVAを使用することができる:
- 例えば、限定されるものではないが、前立腺癌、膵臓癌、結直腸癌、肺癌、乳癌、黒色腫などの後天性疾患、
- 例えば、限定されるものではないが、エイズ(HIVウイルス)、A型肝炎、B型肝炎、C型肝炎、マラリア、狂犬病、黄熱、日本脳炎、耳下腺炎、はしか、風疹などの感染症。
【0052】
上記の方法により作製されるワクチンは、本発明の一部である。
【0053】
本明細書の残りの部分に対して、参照は、下記の図の説明に対して行われる。
【0054】
実施例
実施例1:付着性細胞の生成および確立
卵を開き、開きながら卵黄を卵白から分離する。直接かもしくはパスツールピペットを用いて、または予め穴開け器を用いて穴の開いた輪の形に切り抜いた小型の吸収性の濾紙(Whatmann 3M紙)を用いて、卵黄から胚を除去する。穴の直径は約5mmである。これらの小型の輪を、乾式加熱を用いてオーブン中約30分間滅菌する。この小型の紙の輪を卵黄の表面に置き、そして胚を中央にし、胚をこのように紙の輪により取り囲む。次いで後者を小型のはさみを用いて切除し、そして除去した全体を、PBSまたは生理食塩水で満たしたペトリ皿に置く。このように輪により取り除いた胚を溶媒中で過剰な卵黄を除くよう清浄し、そしてこのように過剰のビテリンを含まない胚盤を、パスツールピペットを用いて収集する。
【0055】
双方の場合、胚を生理的溶媒(1X PBS、トリス・グルコース、溶媒等)を含有するチューブの中に置く。次いで胚を機械的に解離し、そして「フィーダー」上で規定の培地に接種する。培養に用いられる好ましい条件の中で、優先されるものは、初期濃度12〜8%のウシ胎児血清、1%の非必須アミノ酸、1%の市販品の混合ビタミン、最終濃度1mMのピルビン酸ナトリウム、最終濃度0.2mMのβ-メルカプトエタノール、最終濃度2.9mMのグルタミンと、抗生物質の最初の混合物、最終濃度10ng/mlのゲンタマイシン、最終濃度100単位/mlのペニシリンおよび最終濃度100μg/mlのストレプトマイシンを含有する混合物とを補充した基礎培地、MacCoy培地またはDF12培地から成る培地である。細胞の第1継代の後、速やかに抗生物質の混合物の培地への添加を止める。「速やかに」という表現は一般に最初の3〜5継代の後を意味すると理解される。ヌクレオシドの混合物は添加してもよく、この混合物は前記のように調製される(Painら(1996))。これらの同一条件下で試験した基礎培地の中で、類似の結果が得られたものは、HamF12、Glasgow MEMおよびDMEM培地であり、後者は最終濃度8mg/lでビオチンを補充する。比較のために、ビオチン濃度は、MacCoy培地中0.2mg/l、HamF12中0.0073mg/lおよび市販のDMEMおよびGMEM培地培地中0である。
【0056】
培地に添加した成長因子およびサイトカインは、最終濃度1ng/mlのマウスSCF、最終濃度1〜5ng/mlのIGF-1、最終濃度1ng/mlのCNTF、最終濃度1ng/mlのIL-6、および最終濃度0.5ng/ml〜1ng/mlの可溶性IL-6受容体などの組換え体である因子およびサイトカインであるのが好ましい。いくつかの実験では、第1継代の間にいくつかの別の因子を添加することができる。例えば3または10継代までに、bFGFを最終濃度1ng/mlで、そしてIL-11を最終濃度1ng/mlで培地に添加することができる。
【0057】
この培地に系として確立されたマウス線維芽細胞、STO細胞から成る不活性化された「フィーダー」上で接種を行う。これらの細胞は、STO細胞で成長因子、例えば鳥類SCFの構成的な発現を可能にする単純な発現ベクターをトランスフェクトした場合もある。このように、この「フィーダー」は可溶性であり、そして/または細胞の原形質膜に付着する形態の因子を生成する。
【0058】
細胞のこの培地への直接的な最初の接種の後、翌日新しい培地を添加すること、または培地を部分的に交換し、そして次に、さらに翌日初代細胞に関して観察された付着細胞の比率に依存して部分的または完全に交換することができる。場合に応じて約4〜7日後、最初の培養を解離し、そして新たな皿の同一の初期培地中不活性化されたフィーダー上に移す。3〜5継代の後、抗生物質に対する抵抗性をコードする発現ベクター、例えばネオマイシン、ヒグロマイシン、ピューロマイシン等に対する抵抗性に関する遺伝子でトランスフェクトされていないか、またはトランスフェクトされたSTO細胞の不活性フィーダー上で細胞を培養する。約20継代の後、細胞から成長因子およびサイトカインを漸進的に剥奪する。「漸次的な除去」という表現は培地からの成長因子毎または成長因子群毎の除去を意味すると理解される。第一の態様では、1継代でまず最初にSCFを除去し、そして次に、2または3継代後に例えばIGF-1などのその他の成長因子を除去する。細胞が形態学的な変化または増殖の平均速度の変動を呈さない場合、その他の因子、例えばCNTFおよびIL-6を次に除去する。第二の好ましい態様において、成長因子の除去は、成長因子群毎に行われる。SCF、IL6R、およびIL11からなる第一の成長因子群を除去し、次にIGF1およびCNTFからなる第二群を除去する。第三の態様において、この除去もまた激変的である場合がある。この場合、全ての因子を一度に全て除去する。次いで細胞を観察し、そして数日過ぎただけで、増殖速度が変更される。後者の溶液が一般的に実行されるものである。
【0059】
種々の単離体がこのように得られ、そして非常に長い期間維持される。「非常に長い期間」という表現は最低50日間、好ましくは200〜400日間を超える期間、時間の制限なしに数週間のオーダーの期間を意味すると理解される。600日間を超える期間観察する。
【0060】
用いた支持体に関わらず、付着する全ての細胞をタンパク質溶解性解離酵素、例えばプロナーゼ、コラゲナーゼ、ディスパーゼ、トリプシン等で解離する。好ましくは、動物起源のいずれかの潜在的夾雑物を避けるために細菌起源のタンパク質溶解性酵素を用いる。これらの細胞は図8の写真により例で説明される特定の形態、すなわち小型のサイズで、核原形質比率が大きく、明確に見える少なくとも1つの核小体を有する核および非常に小型の原形質を有する胚性幹細胞の特徴を有する。これらの細胞は多かれ少なかれ緻密な固体の塊の形態で成長する特徴がある。付着性および非付着性細胞は、Painら(1996)および米国特許第6,114,168号および欧州特許第787180号にて前記したように、多くの抗体と交差反応を呈する。内因性テロメラーゼ活性成分もまた存在し、そしてこれらの細胞の「幹」特性において重要な因子である。
【0061】
異なる単離体の細胞が得られ、そして長期間維持される。表1にこれらの単離体のいくつかの特徴を説明する。
【0062】
(表1)
【0063】
「停止」という用語は細胞の増殖の終末に相当するのではなく、実験者による意図的な細胞培養の停止に相当することに留意されたい。世代数nは式:X=2nにより得られるか、またはXは細胞の理論的累積数である。細胞を各継代でおよび各接種の間計数するので、この数字を利用することができる。このように培養の完全な履歴を利用することができる。S86N45細胞はまたEB45と命名された。
【0064】
実施例2:細胞の継代
幹細胞、特に体性幹細胞および胚性幹細胞の1つの特徴は、かなりの期間インビトロで増殖できる能力である。細胞を増殖し、そして継代するために、培地を交換し、そしてその継代の数時間前に新しい培地で置き換える。図1に示した曲線は細胞成長および確立のプロファイルを説明している。
【0065】
実施例3:倍化時間および平均分裂時間
3.1
培養において確立された細胞および前記の実施例で提示した細胞で開始して、平均分裂時間を算出することができる。得られた独立した全ての単離体に関して、増殖の速度が連続継代の間わずかに増加し、従って、細胞の確立の間の平均分裂時間の変動を引き起こす。付着相では、細胞をまず、不活性フィーダー層に接種し、そして一定の初期接種密度、100mm皿(55cm2皿)あたり1〜2×106細胞で規則的に継代する。表2は3つの確立された細胞型に関し、倍化時間(d)および平均分裂時間(MDT時間)を培養時間の関数として説明する。確立の間に平均倍化時間の低下が観察される。
【0066】
(表2)
以下の式を用いて、示された日数で平均倍化時間(d)が確立される。
d=(1/Log2×(LogX2/X1))×1/(T2-T1)
(式中、X2およびX1は時間T2およびT1での細胞の全数である。)この式は実施例1で提示した式X=2nによる、世代数Nの直接的な算出結果である。次いで平均分裂時間(MDT)が24時間をdで割ることにより時間で得られる。
*この確立の間、フィーダーの存在しないプラスチック支持体上でValo細胞を継代する。倍化時間は低下し、そして次に細胞がこの新しい環境に再度慣れた場合に再度上昇する。
【0067】
3.2
ニワトリは、39℃の体温を有する。S86N45(EB45)細胞およびEB14細胞の細胞増殖動態の分析は、従ってまず最初に39℃で実施された。これらの状況下で、細胞は、通常15〜20時間の間に含まれる非常に短い世代時間によって、特徴づけられた(図2)。
【0068】
実施例4:細胞培養温度
39℃のS86N45(EB45)細胞およびEB14細胞の非常に迅速な周期(cycling)は、効率的なMVAウイルスの作製に対して最適以下のものでありうる。従って、37℃および35℃の細胞増殖もまた分析した(図3)。予想通り、細胞循環は37℃で減少する。このような状況は、原則としてウイルス増殖に比較的適切でなければならず、従って、後述するMVA実験において、選択される。非常に縮小した動態で、S86N45(EB45)細胞およびEB14細胞が35℃でも増殖できる点に注意することが妥当である。低温(35℃、および、さらには33℃)に対するS86N45細胞およびEB14細胞の順応は、生の弱毒化した感熱性ウィルスワクチンの製造のために特に有用である。
【0069】
実施例5:系の増殖に関する血清のレベルの調節
5.1 低血清濃度の培地
これらの系を得る間に用いた培地は種々の添加剤、例えば非必須アミノ酸、ビタミンおよびピルビン酸ナトリウムを補充した基礎培地(DMEM、GMEM、HamF12、McCoy等)を含む通常の培地である。この複合培地は、依然培養の中心成分であるウシ胎児血清を含むが、植物成分などの異なる起源の成分であっても漸次的に用いることができる。調節し、そして細胞を比較的低い比率のウシ胎児血清に慣れさせる方法が提示されている。このように低いパーセンテージの血清で、細胞を高増殖(分裂時間>1)で維持することが可能である(例えばS86N16細胞の場合で2%)。
【0070】
図4に示す曲線は規定の細胞型:S86N16細胞に関する血清の相対的な低下を説明する。倍化時間および平均分裂時間をも算出し、そして表3に示した。平均分裂時間は血清の相対的な低下の関数として増加することに留意されたい。それにも関わらず、記載した条件下での暫時培養の後に回復相が観察される。それにも関わらず、この時間は24時間未満のままであり(d>1)、これは既に相対的に低い2%の血清濃度であっても、産業用の観点で非常に有利な増殖を既に示している。この時間を増加させ、そしてなおさらに培養条件を最適化するために、代謝に関する他の改善を用いることが想定できる。
【0071】
(表3)S86N16細胞についての倍加時間および平均分裂時間
【0072】
継代p204とp179の間で10%、p198とp176の間で7.5%、p224とp201の間で3.75%、並びにp216とp199の間で2%の条件に関して例を挙げる。
【0073】
5.2 無血清培地への順応、およびバイオリアクタ中の増殖
主なさらなる改善は、無血清培地へのS86N45(EB45)細胞およびEB14細胞の順応によって成し遂げられた。いくつかの配合が試験され、S86N45(EB45)細胞およびEB14細胞の効率的な増殖を可能にする2、3の無血清培地の配合が確認された(図5)。
【0074】
加えて、血清含有培地および無血清培地におけるEB14細胞の培養は、効率的な増殖が2Lのバイオリアクタにおいて再現的に証明されたため、さらに増加する可能性があった(図6)。さらに、EB14細胞はまた3Lの撹拌槽バイオリアクタにおいて効率的に増殖し、200万細胞/mlを超える密度に達することが可能である。
【0075】
実施例6:フィーダー層の細胞の剥奪
最初の培養条件の下では不活性化された細胞の層の存在は前記したような胚性幹細胞を得るために必要であると思われる。多くの継代の後、このフィーダー層はもはや必要ではないように思われる。「培養処理された」プラスチックのみが重要であるように思われる。実際に、いくつかの真核細胞の特徴の1つは付着形態で増殖することである。細胞の付着性を促進するために、用いられる種々のプラスチック材料を「培養」処理する。その製造過程でプラスチックの表面に電荷を付加する処理が行われ、この電荷が細胞の細胞外マトリックスの付着性を促進する。対照的に、しばしば細菌学的品質のプラスチックと称される細胞培養未処理プラスチックは、特定のフィーダーの添加による表面処理をされていない。そこへの細胞の付着は一般に非常に困難で、不可能でさえあるか、または次に形態学的、および挙動においてしばしば激変的な変化を誘起する。この2つのプラスチックの品質の間の相違により、そこで実施される接種に依存して、異なる挙動の細胞を得ることが可能になる。不活性化された「フィーダー」の培養の漸次的な剥奪により、数継代の後に、「培養処理された」プラスチック上に直接接種された幹細胞の均一な培養を得ることが可能になる。
【0076】
S86N16細胞の場合における、不活性化された「フィーダー」の存在下および不在下で維持された細胞に関する比較成長曲線を図3に示す。この細胞の適合は、最初に「フィーダー」上で維持された細胞の幹細胞特性を喪失しないように漸進的である。このように漸進的な剥奪が行われる。プラスチック上で増殖する細胞を得ることは除去方法が達成したことである。表4では、分裂時間は細胞のその環境に対する感受性を示している。血清の漸進的な除去の場合のように、定義された条件下での数継代の後、細胞に及ぼす回復効果を伴って適合が得られる。
【0077】
(表4)
【0078】
3つの条件1.2×106、0.5×106および0.3×106のフィーダー細胞に関して継代p154とp131の間、並びにプラスチック単独の条件に関してp161とp139の間で例を挙げる。
【0079】
実施例7:成長因子における細胞の剥奪
初期培養条件下では成長因子の存在は必須である。因子の2つのファミリー:サイトカインおよび栄養性因子を概要的に区別することができる。
【0080】
サイトカインはその作用がgp130タンパク質に関連の受容体を介する主要なサイトカインである。従って、LIF、インターロイキン11、インターロイキン6、CNTF、オンコスタチン、およびカルジオトロフィンは特異鎖の受容体のレベルでの補充および後者と単量体またはしばしばヘテロ二量体形態のgp130タンパク質との組み合わせを伴う類似の作用様式を有している。数例では、受容体の可溶性形態の組み合わせ、とりわけインターロイキン6およびCNTFの受容体に関して記載された形態により、観察される増殖効果を上昇させることが可能である。少なくとも1つのこれらのサイトカインの添加が胚性幹細胞を得るのに必要であるように思われることは以前に示されている。
【0081】
栄養性因子は主にSCF、IGF-1およびbFGFであり、これらを前記したように培養の開始時にも用いる。その存在はまた細胞を得るためおよび増幅するためにも必要である。
【0082】
これらの成長因子を漸進的に低下させることにより、数継代後に外因性成長因子を添加しないで胚性または体性幹細胞の増殖を可能にする培養条件を得ることができる。これらの細胞を特徴付けるために用いた異なるマーカーは因子なしで維持された細胞に関していつも陽性である。
【0083】
実施例8:用いる培地の比較
異なる培地に接種すると、細胞は同一頻度で得られない。培地の成分の比較により、特定の成分の1つを同定することは困難である。全体比較により細胞の生理学における改善が可能になる可能性が高いようである。好ましい培地の中で、Ham F12培地、MacCoy培地、DMEM培地、DMEM-F12培地およびビオチン富化DEME培地が注目される。このような単離体で開始する場合、これらの異なる培地で適合試験を実施する。
【0084】
実施例9:非付着細胞の確立
幹細胞は、連続継代の間、細菌学用の皿へ直接高密度で接種することにより、数継代後にその基材から剥離するようになり、そして懸濁液中、小型の規則的な凝集体の形態で増殖する胚性細胞を得ることが可能になる。この増殖はより多くの希釈、機械的解離によって、かつタンパク質溶解酵素を用いることなく、数継代にわたって促される。培養の攪拌は一般に行われるが、非付着性細胞を得るために区別する因子を意味しない。付着性細胞と同様に、これらの細胞は幹細胞の特徴的な形態、すなわち小型のサイズ、核原形質比率が大きく、明確に見える少なくとも1つの核小体を有する核および小型の原形質を有する。これらの細胞は多かれ少なかれ緻密な小型の凝集体の形態で成長する特徴がある(図8)。これらの非付着性細胞は、Painら(1996)にて前記したように、多くの抗体と交差反応を呈する。これらの細胞はまた内因性テロメラーゼ活性に関して陽性である(EB1、EB4およびEB5細胞に関して実施例10で示すように)。非付着相では、細胞は異なる培地中で高増殖性を呈する。初期接種密度および非常に規則的な新しい培地の供給はmlあたり1×106細胞を越える範囲の高密度を提供する。表5は数個の単離体の主要な特徴をまとめている(親細胞、懸濁液に作製する初期継代、懸濁液中の培養を維持する日数、維持の自発的な停止の前に得られた継代および世代の数)。従って、懸濁液にするための継代は単離体毎(単離体EB1およびEB14参照)および増殖速度(単離体EB3およびEB14参照)によって変動し得る。
【0085】
(表5)
【0086】
「開始」という用語は、細胞が非付着下に置かれたことに相当すると留意されたい。
【0087】
本発明者らは、非付着細胞をフィーダー層の有無に関わらず増殖する付着細胞からいつなんどきでも数継代後に入手可能であることも見出した。
【0088】
実施例10:確立された細胞の特徴付け
長時間培養を維持した幹細胞を前記したのと同一の規準で特徴付けした(Painら(1996))。このように、図9a〜9bの写真で説明した内因性アルカリ性ホスファターゼ活性、内因性テロメラーゼ活性(図9c)、ならびに特異抗体、例えば抗体SSEA-1(TEC-01)およびEMA-1との反応性の定期的な検出が可能である。
【0089】
細胞の確立の間の重要な規準の1つはテロメラーゼの存在である。TRAP検出キット(テロメラーゼPCR ERISA、Roche)を用いて培養物中に細胞を維持している間に種々の試験を実施した。培養中の種々の継代の後、細胞は陽性に検出される。従って、S86N16細胞、S86N45(EB45)細胞に関して、並びに非付着形態でそこから誘導されたEB1、EB4およびEB5細胞に関してテロメラーゼ活性が検出される(表6参照)。1次培養で維持したCEF(ニワトリ胚線維芽細胞)を陰性と考える。OD<0.2の閾値は陰性閾値としてキットにより推奨されている閾値である。全ての分析を2000細胞の等価物で実施した。
【0090】
(表6)種々の継代での種々の系におけるテロメラーゼ活性のアッセイ法
*CEP:ニワトリ胚線維芽細胞
【0091】
特に重要なことに、本発明の細胞はいくつかの基本的な「幹細胞」特徴を維持した。これらは、マウス、ニワトリ、およびヒト胚性幹細胞(例えば:アルカリホスファターゼ、SSEA-l、EMA-l、テロメラーゼ)に存在することが公知である一連の幹細胞特異的なマーカーを発現する(図9)。予想通り、これらのマーカーの発現は、レチノイン酸(RA)またはDMSOの添加による、細胞分化の実験的誘導時に失われる(表7および図9c)。それらは、インビトロで際限なく複製し(図I)、いくつかの候補細胞系は、分化などの特定の障害もなく1年を超えて培養された。
【0092】
(表7)ES細胞特異的マーカー
「マーカー発現は、レチノイン酸によって、分化時に減少する」
マーカーであるSSEA1およびEMA1は、標識された細胞の割合で表される。
【0093】
実施例11:細胞のトランスフェクションおよび誘導
長期間の成長を維持した幹細胞を種々の発現プラスミドでトランスフェクトする。鳥類幹細胞をトランスフェクトできることが示されている(Painら(1996))。特に非付着細胞をトランスフェクトし、そして種々の分類系により安定してトランスフェクトされた細胞を同定することが可能になる(細胞分類、限界希釈等)。幹細胞の未分化段階でこれらの遺伝的修飾を行うことができる。一度この修飾が得られると、次いで細胞は自発的にまたは分化インデューサーの添加により分化を誘起される。この場合、レチノイン酸を10-8M〜10-6Mの濃度で、またはジメチルスルホキシドを最終1〜2%で、または酪酸ナトリウムを10-4〜10-8Mの濃度で、またはフォルボールエステル(TPA、PMA等)もしくはリポ多糖類(LPS)を最終1〜5μg/mlで用いることができる。別の例では、細胞は懸濁液中で胚様体を形成でき、それらを構成する細胞の解離または非解離の後、胚様体はプラスチックへの付着を引き起こすことができる。これらの分化した細胞は次いで増殖するが、長期間にわたる増殖に関しては能力がさらに限定されている。細胞の増殖に影響する遺伝子における遺伝的修飾を標的化することにより、これらの分化した細胞を長期間増殖させることができるようになる。
【0094】
実施例12:非付着性鳥類細胞系(EB1)をウイルスで感染させるためのプロトコール
細胞の増幅
5% 血清を含有する培地、好ましくはMacCoyの5A、HAMF12、またはDMEM培地またはいずれかその他の目的の培地に、一般に初期容量50mlで0.2×106細胞/mlの濃度でEB1またはEB14細胞を接種する。これを攪拌しながら7.5% CO2、39℃で培養中で維持する。3〜4日間、毎日新しい培地を加え、その間最終培養容量100〜250mlで1〜3×106細胞/mlの細胞濃度に到達させるために増幅を持続させる。
【0095】
懸濁液中の細胞を収集し、そしておよそ1000rpmで10分間遠心分離する。ペレットを1X PBS(リン酸バッファー) 20〜50mlに再懸濁する。次いで細胞を計数し、遠心分離し、そしてペレット化した細胞を最終濃度3〜5×106細胞/mlで血清不含培地に取る。次いでこれらの条件下でチューブあたり3〜5×106細胞入った数個のチューブを用意する。
【0096】
ウイルスおよび感染の準備
既知のタイターを有するウイルスストックを37℃で急速に解凍し、そして血清不含培地で最終感染に必要な濃度の10倍〜1000倍のタイターで希釈する。ウイルスの型に従って0.01〜0.5のm.o.i.(感染の多重度)で目的のウイルスで細胞を感染させ、これは細胞ペレットにウイルス懸濁液0.1〜10(容量/容量)%を添加することを含む。ウイルスに最適な温度、一般に33〜37℃で1時間インキュベートした後、細胞を再度遠心分離し、そして培地を注意深く除去する。次の工程で初期ウイルスの効果を制限するためにこの工程はしばしば必要であることが判っている。可能性の1つは細胞を再度遠心分離せずに血清含有培地(5% 血清)で、最終濃度0.2〜1×106細胞/mlで直接希釈することであり、そして再度インキュベートする。
【0097】
上清および細胞の収集
インキュベーションの2〜4日後、ウイルスの動態および特定のウイルスの細胞変性効果の可能性に依存して、細胞または細胞性細片を含有する培地を収集する。ウイルスに依存して、ペレットまたは上清のみが目的であり、そしてウイルス粒子を含有する。細胞を収集し、そして遠心分離する。収集した上清を再度2500rpmで5〜10分間遠心分離し、そして-80℃で保存した後、粒子を精製する。タイター測定するためにアリコートを収集する。細胞ペレットを血清不含培地5mlに取り、超音波処理し、そして2500rpmで5〜10分間遠心分離する。得られた上清を精製およびアリコートのタイター測定まで-80℃で保存する。
【0098】
ウイルス感染および生成効率を実施した種々の条件間で比較する。細胞変性効果を有するウイルスに関しては、一般に溶解プラーク技術によりタイター測定を実施する。
【0099】
実施例13:付着性鳥類細胞系(S86N45)をウイルスで感染させるためのプロトコール
細胞の調製
感染の48時間前に細胞を培地、好ましくは5% 血清を含有するMacCoyの5A、HAMF12、またはDMEM培地またはいずれかその他の目的の培地に0.03〜0.06×106細胞/cm2の濃度でT150フラスコに接種する。これを39℃および7.5% CO2で維持する。
【0100】
感染
既知のタイターのウイルスストックを37℃で急速に解凍し、そして血清不含培地で最終感染に必要な濃度の10倍〜1000倍のタイターで希釈する。ウイルスの型に従って0.01〜0.5のm.o.i.(感染の多重度)で目的のウイルスで細胞を感染させ、これは細胞単層にウイルス懸濁液0.1〜10(容量/容量)%を添加することを含む。感染は一般に0%血清含有培地で最小の培地(75cm2フラスコで5〜10ml)で実施する。ウイルスに最適な温度、一般に33〜37℃で1時間インキュベートした後、5% 培地を20mlフラスコに加える。特別な場合に、細胞の付着する可能性のある粒子を除去するために細胞をPBSで洗浄することができる。細胞変性ウイルスの場合、感染の良好な進行を示す細胞溶解の出現をモニター観察するために感染後毎日細胞を観察する。
【0101】
上清および細胞の収集
インキュベーションの2〜4日後、ウイルスの動態および特定のウイルスの細胞変性効果の可能性に依存して、上清、細胞および細胞性細片を含有する培地を収集する。ウイルスに依存して、ペレットまたは上清のみが目的であり、そしてウイルス粒子を含有する。細胞を収集し、そして遠心分離する。収集した上清を再度2500rpmで5〜10分間遠心分離し、そして-80℃で保存した後、粒子を精製する。タイター測定するためにアリコートを収集する。細胞ペレットを血清不含培地5mlに取り、超音波処理し、そして2500rpmで5〜10分間遠心分離する。得られた上清を精製およびアリコートのタイター測定まで-80℃で保存する。
【0102】
ウイルス感染および生成効率を実施した種々の条件間で比較する。細胞変性効果を有するウイルスに関しては、一般に溶解プラーク技術によりタイター測定を実施する。
【0103】
実施例14:EB45系およびEB14系の付着性および非付着性の鳥類幹細胞における、改変されたワクシニアウィルスアンカラ(MVA)の複製
一連の実験は、それらのMVA感染に対する感受性、MVA増殖の動態、およびウィルス産生量をそれぞれ決定するために、EB45(S86N45)細胞およびEB14細胞について実施された。これらの研究において、使用するMVAウイルスは、リポータGFPタンパク質(MVA-GFP)を発現する組換えMVAベクターまたは非組換えMVAウイルスであった。新たに調製されたニワトリ胚線維芽細胞(CEF)は、対照細胞として全ての実験に含まれた。
【0104】
14.1 安全性の考察
MVAウイルス(0.5mlのバイアルにおいて、タイター2,5 ×107 TCID50/ml)は、冷凍された条件下で得た。安全上の理由から、MVAウイルスおよび感染細胞は管理された条件(-80度冷凍庫)下で保たれ、汚染されたプラスチック製物質は1時間を超えてハイポクロリド溶液に入れられ、その後全てのかつ完全なオートクレーブ失活のためのバッグへ入れられた。
【0105】
14.2 ウイルスの作製
14.2.1 付着性S86N45(EB45)細胞
20mLの培地で、1×106の付着細胞を、感染の前日に100mmシャーレに蒔く。24時間後、培地を廃棄し、細胞を接種材料(0.01または0.1 TCID/細胞の感染効率の、2mL 無血清培地)と一緒に37℃でインキューベートする。1時間後、接種材料を廃棄し、20mLの予め暖めた培地を細胞に加え、インキュベーションを5%CO2、37℃に保つ。ウイルス調製のため、感染細胞をスクラッパー(scrapper)によって収集し、50mLのFalcon(商標)チューブに移し、室温で1200RPMで遠心分離した。上澄(細胞外ウイルス、EV)を集め、細胞ペレット(細胞内のウイルス、IV)を1mLまたは2mLの培地に希釈した。EVおよびIVサンプルをどちらも3回の解凍−凍結サイクルにかけ、その後超音波処理する。室温で10分間、2500rpmでの遠心分離の後、EVおよびIVサンプルを等分し、タイター測定まで-80℃に維持した。
【0106】
14.2.2 EB14細胞懸濁液
培地中0.01 TCID/細胞または0.1 TCID/細胞のmoiで、0,4×106/mLのEB14細胞を、ウィルス接種材料添加の前日、125mLのスピナーボトル(spinner bottle)中の40mLの培地(16×106細胞)に接種する。ウイルスのインキュベーションの1時間後、80mLの予め暖めた培地を加える。インキュベーションは、所望の回転条件および5% CO2下で37℃に維持した。その後感染細胞を感染後様々な時間で収集し、50mLのFalcon(商標)チューブに移し、室温で1200 RPMで遠心分離した。上澄(細胞外ウイルス、EV)を集め、細胞ペレット(細胞内ウイルス、IV)を5mLまたは10mLの培地に希釈した。EVおよびIVサンプルをどちらも3回の解凍-凍結サイクルにかけ、その後、それらを超音波処理した。室温で10分間、2500rpmでの遠心分離の後、EVおよびIVサンプルを等分し、タイター測定まで-80℃に維持した。
【0107】
14.3 ウイルスタイター測定
14.3.1 TCID50エンドポイント希釈法によるMVAのタイター測定
MVAウイルスのタイター測定は、CEFまたはDF-1細胞におけるTCID50エンドポイント希釈法により行う。分析は、感染の発生に充分な用量の感染性ウイルスをサンプルが含むことを決定する。TCID50は、細胞培養物の累積的な数の半数において、細胞変性効果(CPE)をもたらした希釈として決定される。1つのウィルスサンプルタイターのために、1つのP96平底プレート(flat bottom)が必要である。簡潔には、15000 CEF細胞/100μLが1ウェル当たりに接種される。11個のウェルの8列に接種する。8本の列は、ウィルスサンプルの段階的な10倍希釈の高さを表す(すなわち、10-2〜10-9)。各々の階段希釈について、1mLの混合が無血清培地中で行われ、100μLの混合物は10個の対応する希釈ウェルに分配され、第11番目の列はコントロールである非感染ウェルである。P96プレートは、5%CO2、37℃でインキューベートされる。5〜10日後、ウィルスタイターは、陽性CPEウェルを記録することにより、Reed-Muench法により算出される。
【0108】
14.4 MVA感染に対する感受性およびタイター測定の結果
14.4.1
MVA感染に対するEB45(S86N45)細胞およびEB14細胞の固有の感受性は、まず組換えMVA-GFPベクターを使用して調査された。本特異的ベクターは、感染細胞のモニタリングおよび定量化を単純化するためのこれらの研究のために選択された。EBx細胞およびCEF細胞は従って異なる感染効率(moi)で処理され、細胞は感染の数日後、蛍光顕微鏡法、およびフルオロサイトメトリー(fluorocytometry)により分析された。
【0109】
図10および11に示すように、0.1 TCID50/細胞という低さのmoiを使用する場合であっても、感染48時間後なお生存可能である全ての付着性EB45細胞はリポータGFPタンパク質を強く発現した。注目すべきは、図10もまた、CEF細胞と比較した場合に非常に小さいサイズのEB45細胞およびEB14細胞を示すことである。
【0110】
要するに、これらの結果は、MVA感染に対する付着性のEB45細胞およびEB14細胞の高い感受性を明確に示す。
【0111】
14.4.2
以下の表8は、実験において実施した様々なMVA-GFP感染において得られた結果の一覧を示す。全てのサンプルは2回タイター測定した。
【0112】
(表8)タイター測定の結果
【0113】
14.3 EB14細胞およびEB45細胞におけるMVA増殖
EB14細胞および付着性EB45細胞懸濁液におけるMVA増殖は、MVA-GFP複製の動態の定量分析により決定された。EB45細胞をシャーレのDMEM-F12培地中で増殖させ、moi 0.1で感染させた。一方、EB14細胞を、moi 0.2での感染の24時間前に、120mlのスピナーフラスコ中のDMEM-F12培地で培養した。その後感染細胞の割合を、感染後様々な時間で、FACS分析によって定量化した。図12および13に示すように、なお生存可能である全ての細胞は、感染の48時間後(EB45)または72時間後(EB14)にGFPを発現する。
【0114】
14.4 血清添加培地中で増殖した付着性EB45細胞のウイルス収率
14.4.1
付着性のEB45細胞のウィルス生産性は、DMEM-F12中で増殖した細胞を使用して分析した。MVAがDMEM-F12中のEB45において非常に効率よく複製され、コントロールであるCEF細胞によって得た収率よりも高い収率を達成することが見いだされた(図14)。
【0115】
14.4.2
一連のさらなる実験において、非組換えMVAウイルス(ATCC由来)が、CEF細胞およびEB45細胞の複製比較研究のために使用された。MVA-GFPベクターを用いた前の結果を確認し、より高い産生量が、このMVAウイルスによって再び得られた(図15)。
【0116】
要するに、これらの結果はMVA感染に対する高い感受性、および付着性のEB45細胞の効率的なウイルス作製を証明し、これはニワトリ胚線維芽細胞において、より高い。さらに、全てのこれらの実験は、標準的な条件下で実施された。従って、実験条件を最適化した際、かつ特に最適な細胞培地を用いる事によって、さらに高いウイルス収率が達成される可能性があると主張することは妥当である。
【0117】
14.5 血清添加培地において増殖した懸濁EB14細胞のウイルス収率
EB14細胞のウィルス生産性は、DMEM-F12培地中で増殖する細胞を使用して、スピナーフラスコ中で決定した。0.1の感染の多重度を使用している第1の一連の実験の結果は、図16に示される。これらのデータは、付着細胞によって得られる前の結果を支持し、ニワトリ胚線維芽細胞によって得られる収率よりも2倍高い収率である100 TCID50/細胞に近い収率で組換えMVAウイルスを効率的に作製する、EB14細胞懸濁液の能力を確認する。
【0118】
14.6 無血清培地において、増殖した懸濁EB14細胞のウイルス収率
理想的には、ウィルスワクチン製造は、バイオリアクタの無血清培地中で増殖する懸濁細胞で実施されなければならない。無血清培地のMVAの製造を調査するために一連の実験を開始し、ここで、EBl4懸濁細胞は、2つの異なる感染の多重度(0.01および0.1)で、スピナーフラスコの無血清培地中でMVA-GFPベクターに感染させた。細胞のFACS分析は、2つの実験条件のEB14細胞の効率的な感染を確認する(図17)。さらに、予想通りこれらの実験は、0.1のmoiを使用する場合に感染がより急速であること、一方、0.01の1moiでは細胞がより長く生存可能であり、かつより長い間ウイルス後代を作製することが可能であることを示す(データ未提示)。
【0119】
ウイルス収率の分析は、効率的なMVA作製が無血清培地かつタンパク質不含培地中で懸濁状態で増殖する懸濁EBl4細胞によって成し遂げられることを確認する(図18)。CEF細胞によっては通常得られない収率よりも高いウイルス収率が、日常的に得られる。さらに、感染性粒子の分布の分析は、大部分のビリオンが細胞の中で保持されかつ画分のみが上澄に分泌されることを示す(図18)。
【0120】
EB14およびS86N45細胞は、懸濁液中または付着細胞としてのいずれかで無血清培地中で効率的に増殖できる、十分に特徴づけられた非遺伝子工学による鳥類胚性幹細胞である。本発明者らは、本細胞が組換え型および非組換え型の改変されたワクシニアウィルスアンカラの感染および増殖に対して高い感受性であることを証明し、かつ、結果が、ウィルス作製がコントロールCEF細胞よりも少なくとも2〜3倍高いことを示す。要するに、これらの特徴は、本発明の細胞、主にEB14およびEB45を、MVAベースベクターの製造のための、現行の卵ベースのまたはCEFベースの製造システムに取って代わる、大いに有望な細胞基材であるとみなす。
【0121】
参照文献
【図面の簡単な説明】
【0122】
【図1】細胞の長期間の複製を示している本発明の1細胞系の増殖曲線を示す。
【図2】S86N45(EB45)(付着性)細胞およびEB14(懸濁)細胞の集団倍加時間を示す。
【図3】S86N45(EB45)細胞の増殖動態における温度の影響を示す。
【図4】血清除去のある、細胞の長期間の複製を示している本発明の一細胞系の増殖曲線(最高2%の血清)を示す。
【図5】無血清培地(SFM)における増殖に対するS86N45(EB45)細胞およびEB14細胞の順応を示す。
【図6】2Lのバイオリアクタの無血清培地におけるEB14懸濁細胞の培養を示す。
【図7】フィーダー層除去のある、細胞の長期間の複製を示している本発明の一細胞系(S86N16)の増殖曲線を示す。
【図8】鳥類幹細胞に特徴的な形態を示している写真を示す。N:核、n:核小体、およびC:細胞原形質。(S86N99分離株、拡大率40倍、ソニーCyber-shotデジタルカメラによって、撮影した写真)
【図9】付着性の、または懸濁液中の鳥類幹細胞系のアルカリホスファターゼ活性を示している写真を示す。固定(0.1%のホルムアルデヒド/0.5%のグルタルアルデヒド、4℃で30分)の後、細胞は1×PBS中で2回すすぎ、NBT/BCIP(ニトロブルーテトラゾリウムクロリド0.375mg/ml、5-ブロモ4-クロロ-3-インドリルホスファート0.188mg/ml、トリス0.1M pH 9.5、MgCl2 0.05M、Nacl 0.1M)溶液中で37℃で10〜30分間インキューベートする。反応を2回の1×PBSによる洗浄によって停止し、写真を撮影した。図9Aは、フィーダまたは因子無しで培養した系である付着性の系S86N45 p87によって得られる内因性アルカリホスファターゼ活性の、特徴的な青紫色の呈色反応を例示する(拡大率40倍、ソニーCyber-shotデジタルカメラ)。図9Bは、フィーダまたは因子のない懸濁液で培養された、懸濁液中で8継代から維持されるEB14系、S86N45細胞に由来する系によって得られる内因性アルカリホスファターゼ活性の、特徴的な青紫色の呈色反応を例示する(拡大率20倍、ソニーCyber-shotデジタルカメラ)。図9Cは、S86N45(EB45)細胞特異的マーカーを示す。
【図10】CEF細胞および付着性S86N45(EB45)細胞のウィルス感受性を示す(感染後72時間−MOI 0.1)。
【図11】様々な感染の多重度(MOI)での、CEF細胞および付着性S86N45(EB45)細胞のウィルス感受性を示す(感染後48時間)。
【図12】付着性S86N45(EB45)細胞におけるMVA-GFP増殖の動態を示す。
【図13】懸濁EB14細胞におけるMVA-GFP増殖の動態を示す。
【図14】DMEM-F12培地において増殖したS86N45(EB45)細胞におけるMVA-GFP複製を示す。
【図15】DMEM-F12培地において増殖したS86N45(EB45)細胞における野生型MVAウイルスの複製を示す(MOI:0.1)。
【図16】血清添加培地における、懸濁EB14細胞におけるMVA複製を示す(MOI:0.2)。
【図17】無血清培地において増殖した懸濁EB14細胞におけるMVA複製を示す(MOI:0.01)。
【図18】無血清培地において増殖した懸濁EB14細胞におけるMVA収率を示す(MOI:0.01)。
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞をウィルス粒子に感染させる段階を含む、鳥類細胞系、特に鳥類胚性幹細胞を用いて生のまたは弱毒化したポックスウイルス、特に天然のまたは改変されたワクシニアウィルスを作製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
歴史的には、ワクシニアウィルスを用いて天然痘に対する免疫化に成功しており、WHOにより1980年にそれを根絶させた事が公知である。それ以後、予防接種は行われていない。今日、このウイルスの復活は、無防備な集団にとって壊滅的でありうる潜在的脅威と考えられる。問題は天然痘ワクチンがわずか1500万用量しか米国において利用できないことであり、FDAはガイドラインを発行し、かつ天然痘に対する単位投与量のワクチンを大量に製造するという契約を結んでいる。さらなる情報は、以下でアクセス可能である。
http://www.bt.cdc. gov/Agent/Smallpox/SmallpoxConsensus.pdf
【0003】
しかしながら、製造の高速化は新規の製造方法および適切な細胞系を必要とする。本発明では、本発明者らは製薬会社によるワクチン製造のための基材として使用することが可能な鳥類種に由来する、新規の細胞系(付着性または非付着性)を記載する。これらの新規の細胞は鳥類胚に由来し、現在使用される卵または一次胚線維芽細胞に取って代わる可能性がある。
【0004】
伝統的に、ワクチンは、弱めたまたは不活性の型である感染因子を使用することにより、疾患に対する免疫を誘発する。今日、ヒト細胞における複製の欠如および免疫応答の良好な誘導のような弱毒化したポックスウイルス特性は、ベクターとして例えばMVA(Modified Virus Ankara)を使用する新規のワクチンの開発戦略を可能にする。MVAは、天然痘に対する安全なワクチンとして、その疾患の根絶より前に最初に開発された、ワクシニアウィルス(VV)の高程度に弱められた株である。MVAは、一次ニワトリ胚線維芽細胞(CEF)で570を超える連続継代を行うことによりアンカラ株から得られ、この順応の結果、親株と比較していくつかの大きなゲノム欠失を含む。MVAは、大部分の哺乳類の細胞系においてもはや自己複製をすることができず、動物において非病原性である。さらに重要なことに、免疫が抑制された個体を含む100,000人を超える人間に天然痘ワクチンとしてMVAが投与された際、深刻な合併症は報告されなかった。分子生物学の古典的技術によって、治療的な関心対象である特定のペプチドまたはタンパク質をコードする外来性DNAを含む組換えMVAを得ることが可能である。これらの組換えウイルスは、注射の後、インビボで、腫瘍抗原などの特異抗原に対する免疫系を刺激することが可能である。現時点では、ワクチンベクターのこれらの新しい世代は、人間または動物の感染症に対して、および多種多様な種類の腫瘍(黒色腫、前立腺癌、乳癌、肺癌、卵巣癌、肝癌など)に対抗するために開発されているかまたは開発されうる。
【0005】
Drexler I.ら(1998 J. Gen Virol. 79:347-352)は、高程度に弱毒化された改変ワクシニアウィルスアンカラ(MVA)は胎児ハムスターの腎臓細胞(ウイルス増殖のための潜在的宿主)内では自己複製するが、様々なヒトの形質転換細胞および一次細胞内では自己複製しない事を観察した。従って、MVAの宿主の範囲は制限される。さらに、この高程度に弱毒化されたポックスウィルス株は、増殖性感染を引き起こさない(Moss B. Dev Biol Stand 1994:55-63)。例えば、Blanchard TJ.ら(1998 J.Gen. Virol. 79:1159-1167)は、改変ワクシニアウィルスアンカラがヒト細胞における限られた複製を経て、いくつかの免疫調節性タンパク質を欠失していることを報告した。加えて、産生量は、天然痘ワクチン量産化の経済的な実行可能性と釣り合わなければならない。
【0006】
MVAおよびワクチン接種を受けた個体において誘発された強力な細胞性および体液性の免疫応答のゆるぎない安全記録は、人間および動物の感染症に対する、特にHIVおよび癌に対する免疫化のための組換えベクターとしてMVAを使用する事に大きな科学的および工業的関心を呼び起こした。CEFに適応させた場合、MVAはこの種の細胞において、高いタイターまでに増殖することができ、かつ組換えMVAワクチン候補の現在の臨床的バッチは一次CEFで作製される。しかしながら、CEFの確立は一次組織培養の調製における経験を必要とし、かつ特別な病原体のない状況下に保たれたニワトリ由来の卵に依存する。さらに、生産プロセスは非常に面倒であり標準化するのが困難である。その理由は、一次細胞はほんのわずかな継代のみで生存し、従って発育卵から連続的に調製されなければならないためである。ワクチンの製作者は第I期およびII期の臨床試験のためのMVA材料バッチの作製のためにはこのような限界では処理できるが、第III期臨床試験のための、かつ最終的には後の製品商業化のためのCEFに基づく生産工程の拡大には重大な障害のままである。
【発明の開示】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、上記の問題を取り除き、かつ規制機関の要求を満たすワクシニアウィルスを複製するための細胞系を提供することである。これが、本発明の目的である。
【0008】
理想的には、この種の細胞系は完全に規制を遵守しなければならず、細胞は、公知の歴史によって十分に特徴づけられる。さらにこの細胞系は、非腫瘍形成性であり、遺伝的に改変がなく、長期培養下で安定であるべきである。この細胞系は、ウイルスを複製することが可能であり、無血清培地における安定した付着性および懸濁性の増殖に適応すると思われる。この点において、本発明者らは、ウイルスを複製するための鳥類細胞の使用法を調査した。本発明者は、本出願人らの同時係属出願PCT/FR03/00735(WO03/076601)において詳述される確立された新規の鳥類胚由来幹細胞系は、ポックスウィルス、特にワクシニアウィルスなどのオルソポックスウイルス属の複製に特に適している事を報告する。
【0009】
無制限の細胞増殖がワクチンの量産化工程のために必要であるので、本発明者らはウイルス複製に関する鳥類胚由来幹細胞能力の検討を選択する。しかしながら、長期間インビトロにおいて、鳥類胚由来幹細胞を維持するために、Painら(1996, Development 122:2339-2348)、US 6,114,168、およびEP 787 180に記載されるような特定の培養および維持条件を観察する事が必要であり、かつこれらの培養条件は大変なコストを必要とする。問題は、細胞分化および老化などの障害を回避すると同時に、経済的な培地で培養中の鳥類胚由来幹細胞の維持を可能とする事であった。本発明の文脈において、成長因子、血清、および/またはフィーダー層の除去が鳥類胚由来幹細胞集団の分離につながることが判明しており、これらは基礎培地中で際限なく増殖することが可能である。
【0010】
また、ほとんどの場合非付着細胞である造血幹細胞は別として、従来の技術に従って得られた細胞は付着性の表現型を示す。しかしながら、非付着細胞が、ウィルスワクチンの工業生産のためには好ましい。この表現型は、解離のためのタンパク質分解酵素の使用を回避する取り扱いの容易さから、かつインビトロで培養される非付着細胞によって達成される高い細胞密度から都合がよい。本発明は、自然発生的に非付着性となることができる、または非付着性がフィーダー層の除去によって得られる、鳥類胚由来幹細胞系の作製を記載する。懸濁液中のそれらの増殖のため、これらの系はバイオリアクタでのワクチン工業生産に完全に適している。
【0011】
基礎培地における成長のそれらの特性に加え、これらの細胞系は、現行の方法によって得られる収率と等しいか、または現行の方法によって得られた収率よりもさらに高い収率で特定のウイルスの複製を可能にし、これはこれらの細胞を、ワクチンの量産化にとって特に有用にすることが発見された。
【0012】
説明
従って、第1の局面において、本発明はウイルス、より具体的には天然型のまたは組換え型のワクシニアウィルスなどのワクシニアウィルスを鳥類胚由来幹細胞において、自己複製する方法に関する。本発明の方法は、該鳥類胚由来幹細胞にウィルス粒子を接種する段階、および該細胞を、細胞溶解が起こり、新しく作製されたウィルス粒子が該培地において、放出されるまで、成長因子、フィーダー細胞および/または動物性血清において、剥奪される培地で培養する段階を含む。本発明の鳥類幹細胞の接種は、0.001〜0.5の、好ましい態様においては0.01〜0.5の、そして最も好ましい態様においては0.01〜0.1のm.o.i. (感染効率(multiplicity of infection))により実施される。本方法は、ワクチン、特にポックスウイルス科、特に天然痘に対するワクチンの製造に有用である。
【0013】
該鳥類胚由来幹細胞系は、以下からなる方法によって入手可能である:
a) 鳥類細胞、好ましくは鳥類胚細胞を、それらの増殖を可能とする全ての因子、および好ましくは不活化されたフィーダー層を含み、かつ血清で補足された完全培地で培養する段階、
b) 該因子、血清、および/またはフィーダー層の漸進的なまたは完全な除去を得るように培地を改変することによって継代する段階、
c) 外因性成長因子および/もしくは不活性フィーダー層が存在しない、ならびに/または血清レベルが低いかもしくは血清を含まない基礎培地において増殖可能である、付着性のまたは非付着性の鳥類細胞系を確立する段階。
【0014】
段階c)の基礎培地がなお、低レベル(すなわち約2%またはそれ以下)の血清を含む場合、該方法は任意で、以下から選択される培地中に外因性成長因子も、不活性フィーダー層も含まずかつ血清レベルの低い基礎培地を変更する追加的な段階d)を含む:
- 血清により補足された基礎培地(i)、および無血清培地で希釈され、その後、連続した継代の間、本基礎培地(i)で該鳥類細胞を培養する基礎培地であって、外因性成長因子も、不活性フィーダー層も含まずかつ血清レベルの低い該基礎培地が完全に消失するまで、無血清培地の比率が漸進的に増加する基礎培地(i); - 血清により補足された無血清培地(SFM)(ii)であって、その後、連続した継代の間、該鳥類細胞を該培地(ii)で培養し、無血清培地を得るまで、血清の比率が漸進的に低下する無血清培地;
- 無血清培地(SFM)(iii)であって、その後、該鳥類細胞を培地(iii)で培養し、次に無血清培地で維持した場合、該鳥細胞が培地の変更に順応した無血清培地。
【0015】
本明細書において、使用する「鳥類の」という用語は、例えばニワトリ、シチメンチョウ、カモ、ガチョウ、ウズラ、キジ、オウム、アトリ科、タカ、カラス、ダチョウ、エミュー、およびヒクイドリなどの生物だがこれらに限定されない、分類学上のクラス「ava」の生物の任意の種、亜種、またはレースを意味することを意図する。本用語は、セキショクヤケイ(Gallus gallus)またはニワトリ(例えばホワイトレグホン、ブラウンレグホン、バードロック(Barred-Rock)、サセックス、ニューハンプシャー、ロードアイランド、オーストラロープ(Ausstralorp)、ミノルカ(Minorca)、アムロックス(Amrox)、カリフォルニアグレイ、イタリアンパーティッジカラード(Italian Partidge-colored)の様々な系統、ならびに一般に飼育されるシチメンチョウ、キジ、ウズラ、カモ、ダチョウ、および他の家禽の系統を含む。好ましい態様において、本発明の鳥類細胞はニワトリ細胞である。
【0016】
本明細書において、使用する「それらの増殖を可能にしている因子」という用語は、培養中の鳥類細胞の生存および増殖に必要な成長因子を意味する。本発明によれば、成長因子は栄養因子およびサイトカインを含む。栄養因子は、主にSCF、IGF-1、およびbFGFである。サイトカインは主に、その作用がgp130タンパク質、例えばLIF、インターロイキン11、インターロイキン6、インターロイキン6受容体、CNTF、オンコスタチン、およびカルディオトロフィン(cardiotrophin)と関連する受容体を介するサイトカインである。
【0017】
段階a)の鳥類細胞は、鳥類胚細胞の中から、より好ましくは鳥類胚性幹細胞および鳥類一次細胞の中から選択される細胞である。好ましい態様において、本細胞は鳥類胚、好ましくはニワトリ胚から得られたX期の分離胚葉細胞の集団懸濁液から単離された全能性または多能性の鳥類胚性幹細胞である(EYAL-GILADIの分類:EYAL- GILADIおよびKOCHAN、1976、「From cleavage to primitive streack formation: a complementary normal table and a new look at the first stages of the development in the chick」。「General Morphology」 Dev. Biol. 49: 321-337を参照)。これらの鳥類ES細胞は、39℃で48〜72時間の培養を含む遅い倍加時間によって特徴づけられる。
【0018】
本発明の方法の、段階b)の培地の改変は、成長因子、血清、および/またはフィーダー層の漸進的なまたは完全な除去を得るために、同時に、連続して、または別々に行うことができる。培地の離脱順序は、以下から選択してもよい:
- フィーダー層/血清/成長因子、
- フィーダー層/成長因子/血清、
- 血清/成長因子/フィーダー層、
- 血清/フィーダー層/成長因子、
- 成長因子/血清/フィーダー層、
- 成長因子/フィーダー層/血清。
【0019】
好ましい態様において、離脱順序は、成長因子/フィーダー層/血清である。
【0020】
特定の態様では、本発明は、確立された系が、不活性フィーダー層の不在下で増殖する付着性幹細胞である、前記した方法に関する。この点で、前記した方法では、工程b)は培地の成分(成長因子単独、または血清単独、または成長因子そして次に血清、または血清そして次に成長因子)の除去にある。
【0021】
別の態様では、本発明は、確立された系が、外因性成長因子を含まない培地の懸濁液中で増殖する非付着性幹細胞である、前記で定義された方法に関する。この点で、前記した方法では、工程b)はフィーダー層の漸進的なまたは全体的な除去、そして随意に、次の培地の別の成分(成長因子または血清)の除去にある。
【0022】
別の態様では、本発明は、確立された系が、血清を含まない培地(血清不含培地)の懸濁液中で増殖する非付着性幹細胞である、前記した方法に関する。
【0023】
別の態様では、本発明は、確立された系が、外因性成長因子および血清を含まない培地の懸濁液中で増殖する非付着性幹細胞である、前記で定義した方法に関する。
【0024】
別の代替法においては、工程b)は、成長因子の漸進的または全体的な除去、随意に、次の血清の漸進的な除去にある。
【0025】
別の代替法においては、工程b)は、成長因子および/または血清の漸進的または全体的な除去、随意に、次のフィーダー層の除去にある。
【0026】
加えて、確立された系は血清枯渇培地、特に血清を含まない培地で増殖する細胞でよい。「血清枯渇」という表現は、時間をかけて展開する血清の濃度の漸減的な低下を意味すると理解される。この方法により、安定した系が得られるまで、これらの新しい漸増的に激変する条件に適合でき、血清枯渇培地または完全な血清不含培地で成長することができるクローンを選択することが可能になる。
【0027】
より正確に言うと、本方法の段階a)は、完全培地中の約7×104/cm2〜8×104/cm2の鳥類細胞による培養フラスコへの接種を含む。好ましくは、接種は約7.3×104/cm2(4×106の細胞/55cm2または4×106の細胞/100mmシャーレ)により行われる。
【0028】
「完全培地」は、成長因子および動物性血清により補足された基礎培地を意味する。完全培地の例は、Painら(1996, Development 122:2339-2348)、EP787,180、およびUS6,114,168、US5,340,740、US6,656,479、およびUS5,830,510に記載されている。本発明によれば、「基礎培地」は、それ自体が少なくとも細胞の生存、さらにより優れたものは細胞の増殖を可能にする古典的培地配合を有する培地を意味する。基礎培地の例は、BME (basal Eagle-Medium)、MEM (minimum Eagle Medium)、medium 199、DMEM (Dulbecco's modified Eagle Medium)、GMEM (Glasgow modified Eagle medium)、DMEM-HamF12、Ham-F12、およびHam-F10、Iscoveの変法ダルベッコ培地、MacCoyの5A培地、RPMI 1640である。基礎培地は、無機塩(例えば、CaCl2、KCl、NaCl、NaHCO3、NaH2PO4、MgSO4、...)、アミノ酸、ビタミン(チアミン、リボフラビン、葉酸、D-Ca パントテン酸、...)、および他の成分(例えばグルコース、β-メルカプトエタノール、ピルビン酸ナトリウム)を含む。
【0029】
概略的に成長因子の2つのファミリー:サイトカインおよび栄養因子を区別することは可能である。サイトカインは、主にその作用がgp130タンパク質と関連する受容体を介するサイトカインである。従って、LIF、インターロイキン11、インターロイキン6、インターロイキン6受容体、CNTF、オンコスタチン、およびカルディオトロフィンは、特異鎖の受容体レベルでの動員による作用、および後者と単量体型または時にはヘテロ二量体型でのgp130タンパク質との組合せの、類似した様式を有する。栄養因子は、主にSCF、IGF-1、およびbFGFである。より好ましくは、完全培地は、基礎培地、インシュリン成長因子1(IGF-1)、繊毛様神経栄養因子(CNTF)、インターロイキン6(IL-6)、インターロイキン6受容体(IL-6R)、幹細胞因子(SCF)、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、任意でインターロイキン11(IL-11)、および動物性血清を含む。鳥類細胞、好ましくは、段階a)の鳥類胚細胞は、完全培地中で数継代の間培養される。本培地は、以下の群より選択される成長因子の少なくとも1つにより補足される:LIF、IGF-1、CNTF、IL-6、IL-6R、SCF、bFGF、IL-11、オンコスタチン、カルディオトロフィン。
【0030】
好ましい態様によれば、完全培地は、IGF-1、CNTF、IL-6、IL-6R、SCF、bFGF、任意でIL-11により補足された基礎培地である。基礎培地中の成長因子、IGF-1、CNTF、IL-6、IL-6R、SCF、bFGF、任意でIL-11の濃度は、約0.01〜10ng/ml、好ましくは0.1〜5ng/ml、およびより好ましくは約1ng/mlからなる。
【0031】
約3〜10継代の後、完全培地の成長因子(段階b)を枯渇させる。好ましくは、各々の成長因子に対して、枯渇は一段階、1つの継代からもう1つの継代の際に直接行われる。あるいは、成長因子の枯渇は、完全培地中の成長因子濃度の漸進的な減少によって、徐々に実施される。より好ましい態様では、成長因子枯渇は、少なくとも2つの成長因子に対して同時に実施される。好ましい態様において、成長因子の枯渇は、以下の2回の枯渇により行われる。第1に、SCF、IL6、IL6R、任意でIL-11を、完全培地から直接除去し、その後鳥類細胞を、IGF1およびCNTF、任意でIL-11を含み、かつ動物性血清で補充された完全培地中で、少なくとも1継代の間培養状態で維持する。第2に、IGF1およびCNTF、任意でIL-11を、培地から直接的に除去する。この培地は最終的に、血清のみで補充された基礎培地を含む。通常、培地は約20〜30継代で成長因子が完全に枯渇する。
【0032】
好ましい態様において、フィーダ細胞の剥奪は成長因子の剥奪の後に実施される。フィーダ細胞の剥奪は、漸進的に、かつ数継代に渡って実施される。鳥類細胞はここで、段階a)における濃度よりも低い濃度、約4×104細胞/cm2〜5×104細胞/cm2でフラスコに接種される。フィーダ細胞は、約4.2×104細胞/cm2でフラスコに接種される。漸進的に、フラスコのフィーダ細胞濃度を減少させる。実際的には、同一の濃度のフィーダ細胞が2〜4継代に使用され、その後、より低い濃度のフィーダ細胞がさらなる2〜4継代に使用され、以降も同様である。フラスコはその後、約4.2×104フィーダ細胞/cm2で接種され、次いで約2.2×104フィーダ細胞/cm2で接種され、次いで約1.8×104フィーダ細胞/cm2で接種され、次いで約1.4×104フィーダ細胞/cm2で接種され、次いで約1.1×104フィーダ細胞/cm2で接種され、次いで約0.9×104フィーダ細胞/cm2で接種され、次いで約0.5×104フィーダ細胞/cm2で接種される。その後、フラスコは6.5×104鳥類細胞/cm2〜7.5×104鳥類細胞/cm2によって、かつフィーダ細胞なしで接種される。鳥類細胞はフラスコ中のフィーダ細胞濃度の減少の結果良好な状態ではないという仮説のため、その後鳥類細胞は、フィーダ細胞剥奪を続行するために、事前に同一のフィーダ細胞濃度でさらなる継代のために培養される。
【0033】
他の好ましい態様において、血清剥奪は、成長因子およびフィーダ細胞の剥奪後に実施される。基礎培地は、以下から選択される培地により変更される:
- 血清により補足され、新しい無血清培地(ii)で希釈された基礎培地(i)。その後、鳥類細胞は培地(i)における連続した継代を通して培養され、本培地では、血清で補足された基礎培地が完全に消失するまで、無血清培地の割合が漸進的に増加する(漸進的希釈)、
- 血清により補足された新しい無血清培地(ii)。その後、鳥類細胞は培地(ii)における連続した継代を通して培養され、本培地では、無血清培地を得るまで血清の割合は漸進的に低下する(漸進的離脱)、
- 血清により補足されていない、新しい無血清培地(ii)。その後、鳥類細胞は直接的に無血清培地(ii)中に存在する(直接的離脱)。
【0034】
好ましい態様において、血清の剥奪は漸進的な離脱により実施される。
【0035】
第1の態様において、血清剥奪の方法。
【0036】
本発明によれば、「無血清培地」(SFM)はすぐに使用できる細胞培養用培地を意味し、言い換えると、これは細胞の生存および細胞増殖を可能にする血清の添加を必要をしない。本培地は、必要な化学的に定義されたものではなく、例えば植物に由来する様々な起源の加水分解物を含んでもよい。好ましくは、該SFMは、すなわち動物起源またはヒト起源の成分を含まない(FAO状態:「free of animal origin)とみなされる「非動物起源」である。SFMにおいて、天然型血清タンパクは組換え型タンパク質に置換される。あるいは、本発明に記載のSFM培地はタンパク質を含まない(PF培地:「タンパク質不含培地(protein free medium)」)および/または化学的に定義される(CDM培地:「ケミカリー・ディファインド培地(chemically defined medium)」)。SFM培地は、次のいくつかの利点を示す:(i)第1に、このような培地の規格に適合している(実際、BSE、ウイルスなどの外因性の作用因子による汚染の危険がない)、(ii) 浄化工程の最適化、(iii) より良好に定義された培地のため、本方法におけるより良好な再現性。市販のSFM培地の例は、次の通りである:VP SFM(InVitrogen Ref 11681-020、カタログ2003)、Opti Pro、InVitrogen Ref 12309-019、カタログ2003、Episerf、InVitrogen Ref 10732-022、カタログ2003、プロ293S-CDM(Cambrex ref 12765Q、カタログ2003)、LC17(Cambrex Ref BESP302Q)、プロCHO 5-CDM、Cambrex ref 12-766Q、カタログ2003、HyQ SFM4CHO(Hyclone Ref SH30515-02)、HyQ SFM4CHO-Utility(Hyclone ref SH30516.02)、HyQ PF293(Hyclone Ref SH30356.02)、HyQ PF Vero(Hyclone Ref SH30352.02)、Ex cell 293培地(JRH Biosciences ref 14570-1000M)、Ex cell 325 PF CHO タンパク質不含培地(JRH Biosciences ref 14335-1000M)、Ex cell VPRO培地(JRH Biosciences ref 14560-1000M)、Ex cell 302無血清培地(JRH Biosciences ref 14312-1000M)。
【0037】
本発明は、無血清培地中で増殖することが可能である鳥類細胞系、好ましくは非形質転換細胞系を得る方法にも関し、それらの細胞系は、任意でフィーダ細胞を含む完全培地で培養される。該方法は、以下の段階を含む:
- 完全培地中で、かつ任意でフィーダー層と共に鳥類細胞、好ましくは非形質転換細胞を培養する段階。鳥類細胞は、EB1、EB14、もしくはS86N45(EB45とも命名される)などの本発明の方法における鳥類樹立細胞系、またはDF1(US5,672,485およびUS6,207,415)などの他の鳥類胚由来細胞系である、上記段階a)の鳥類細胞であってもよい。
- 血清の完全離脱を得るために培地を改変または変更するか、または血清を漸進的または直接的に除去させることによる、培養の少なくとも1回の継代段階。
- 無血清培地中で増殖することが可能な付着性または非付着性の鳥類細胞系を確立する段階。
【0038】
本発明は、その動物性血清により補足された基礎細胞培養用培地から無血清培地への継代は、基礎培地からの血清の単純な除去により実施されものではなく、無血清培地(SFM)でなければならない培地の種類の変更を必要とするという知見に依存する。さらに、鳥類細胞系が成長因子またはフィーダ細胞によって、増殖させることが必要である場合、血清離脱は、好ましくは成長因子および/またはフィーダ細胞の離脱の後で実施される。
【0039】
フィーダ細胞は、好ましくは照射またはマイトマイシンによる化学的な処理によって不活性化された動物細胞である。本フィーダは、SCFなどの成長因子を発現するために遺伝子が改変されていてもよい。好ましくは、フィーダ細胞はSTO(アメリカンタイプカルチャーコレクションATCC番号CRL-1503)などのマウス線維芽細胞系である。
【0040】
上記の方法はさらに、段階c)において得られる細胞が、ヒトまたは動物の治療を目的としたワクチンの製造に適するクローンを得るための大規模な生産に使用される培地中での選択または適応に供される段階を含んでもよい。
【0041】
本方法は、相当な期間にわたるインビトロでの培養中に維持される新規の鳥類胚由来細胞系の確立につながる。都合のよいことに、段階c)で得られる細胞系由来の細胞は、少なくとも50日、100日、150日、300日または好ましくは少なくとも600日間増殖できる。得られる細胞系が極めてより長い時間の後でもなお生きているので、600日は時間の限界とはならない。それ故、これらの系は、外因性成長因子、血清、および/または不活性フィーダー層を含まない基礎培地において、際限なく増殖することが可能であることと考えられる。より高いまたはより低い程度の同じ形態学的なおよび表現型の特徴を保持すると共に、「系」という表現はインビトロでの培養中に際限なく増殖できる細胞の任意の集団を意味すると理解される。もちろん、前記の方法は、確立された系から得られる細胞に由来する細胞クローンを得ることを可能にする。これらのクローンは、それらが分裂によって得られる細胞と遺伝的に同一である細胞である。
【0042】
樹立細胞系およびその由来細胞(段階cまたはd)は、好ましくは胚由来鳥類幹細胞系であり、より正確に言うと、それらの細胞は多能性の鳥類胚由来幹細胞である。本発明の方法によって入手可能である鳥類胚由来幹細胞は、39℃で約24時間またはそれ以下の倍加時間を用いる、小さく、丸く、個別化した細胞である。本発明の方法によって入手可能である細胞は、少なくともp60、少なくともp70、少なくともp80、少なくともp90、少なくともp100、少なくともp110、少なくともpl20、もしくは少なくともpl30継代目、またはそれ以降の細胞である。本発明に記載の鳥類胚由来幹細胞は、少なくとも以下の特徴の1つを有する:
- 高い核‐細胞質比、
- 内因性アルカリホスファターゼ活性、
- 内因性テロメラーゼ活性、
- 抗体SSEA-1(TEC01)、SSEA-3、およびEMA-1の群より選択される特異抗体による反応性。
- 本発明の方法の段階a)の鳥類細胞の倍加時間(39℃で48〜72h)よりも短い倍加時間(同じ培養条件で約24時間またはそれ以下)。
- これらの細胞系およびこれらに由来する細胞は、基礎培地、特に当業者によって一般に使用される様々な添加物で補充されるDMEM、GMEM、HamF12、またはMcCoyなどの培地中で少なくとも50日、100日、150日、300日、または好ましくは少なくとも600日間増殖できること。添加物の中で、可欠アミノ酸、ビタミン、およびピルビン酸ナトリウムが言及されてもよい。しかしながら、本細胞は、グルタミンのない基礎培地中で増殖することが可能である。
- これらの細胞系およびこれらに由来する細胞は、付着細胞または懸濁細胞のいずれかとして増殖する特徴を有すること。
好ましくは、本発明の細胞は上記の全ての特性を有する。
【0043】
本発明の鳥類樹立細胞系およびこれらに由来する細胞は、組換えペプチドおよびタンパク質(すなわち抗体、ホルモン類、サイトカイン...)、ウイルス、ウィルスベクター、ウィルス粒子、およびウィルスワクチンなどの生物学的製剤の製造のために有用である。
【0044】
より正確に言うと、本発明の鳥類樹立細胞系およびこれらに由来する細胞は、癌および感染症などの疾患に対する生のまたは弱毒化した、組換え型または非組換え型のワクチンの製造のための、ウイルスならびに/または関連したベクターおよび粒子の複製に有用である。ウイルス、関連するウィルスベクター、ウィルス粒子、およびウィルスワクチンは、好ましくはアデノウィルス、ヘパドナウイルス、ヘルペスウィルス、オルトミクソウィルス、パポーバウィルス、パラミクソウィルス、ピコルナウィルス、ポックスウィルス、レオウィルス、およびレトロウィルスの群より選択される。好ましい態様において、ウイルス、関連するウィルスベクター、ウィルス粒子、およびウィルスワクチンは、ポックスウィルスの一ファミリーに、および好ましくは、コルドポックスウイルス(chordopoxviridae)に属する。より好ましくは、ウイルスまたは関連するウィルスベクター、ウィルス粒子、および、ウィルスワクチンは、鶏痘ウィルス、カナリア痘ウィルス(すなわちALVAC)、ジュンコ痘ウイルス、ミナフ(mynah)ポックスウイルス、鳩痘ウィルス、オウム痘ウイルス(psittacinepoxvirus)、ウズラ痘ポックスウイルス(quailpoxvirus)、スズメ痘ウイルス(sparrowpoxvirus)、ムクドリ痘ウィルス(starling poxvirus)、シチメンチョウ痘ウィルス(turkey poxvirus)の中で選択されるアビポックスウイルスである。他の好ましい態様によれば、ウイルスは、ワクシニアウィルスである。
【0045】
他の態様において、ウイルス、関連するウィルスベクター、ウィルス粒子、およびワクチンは、オルトミクソウィルスの一ファミリー、特にインフルエンザウィルス、およびパラミクソウィルスの一ファミリー、特にはしか、耳下腺炎、および風疹ウィルスに属する。
【0046】
本発明はまた、本発明の鳥類樹立細胞系において発現および/または製造される生物学的製剤、特にタンパク質およびワクチンにも関する。
【0047】
好ましい態様において、本発明は、培養中に際限なく増殖することができ、かつオルソポックスウイルス属ファミリーの生のまたは弱毒化したウイルス、とりわけ生のまたは弱毒化したワクシニアウィルスおよび組換えワクシニアウィルスを複製する上記の特徴を有する、遺伝的に、生物学的に、または化学的に改変されていない、本発明の付着性のまたは非付着性の鳥類樹立細胞系の使用に関する。
【0048】
本発明は、上記の方法に記載の段階c)またはd)において確立される付着性のまたは非付着性の細胞系を培養する段階、該細胞にウィルス粒子を接種し、細胞溶解が起こるまで上記のように該細胞を基礎培地で培養する段階、および該培地中に放出される新しく作製されたウィルス粒子を回収する段階を含む、生のまたは弱毒化したワクチンを製造するための、上記の付着性のまたは非付着細胞の使用を意図する。本発明は、ATCC(ATCC番号VR-1508)NYVAC(Tartagliaら、1992、Virology 188:217-232)、LC16m8(Sugimoto et Yamanouchi、1994、Vaccine 12:675-681)、CVI78(Kempeら、1968、Pediatrics 42:980-985)から得ることができる、オルソポックスウイルス属の一ファミリー、特にワクシニアウィルスである、Lister-Elstreeワクシニアウィルスファミリー、改変されたワクシニアウィルスアンカラ(MVA)などの改変されたワクシニアウィルス、および他の組換えワクシニアウィルスに属している弱毒ウィルスの作製のために特に有用である。都合のよいことに、確立された系に由来する細胞は、改変されたワクシニアウィルスおよび/または組換えワクシニアである生のワクシニアウィルスまたは弱毒ウィルスを作製するために感染させる。該細胞は、当業者が利用できる任意の技術によって、感染させてもよい。
【0049】
あるいは、確立された系に由来する細胞は、改変されたワクシニアウィルスおよび/または組換えワクシニアである生のワクシニアウィルスまたは弱毒ウィルスを作製するためにトランスフェクトまたは改変される。該細胞は、当業者が利用できる任意の技術、任意のベクター、プラスミド、ウイルス、または特にレトロウィルスもしくは組換えレトロウィルスを用いた形質転換による、特に非相同または相同の、定方向の、および/または条件つきの遺伝子組換え(Cre-LoxまたはFLP-FRTシステム)により改変されてもよい。
【0050】
ある特定の態様において、本発明は、上記の方法の段階c)またはd)において確立される付着性のまたは非付着性の細胞系を培養する段階、該細胞にウィルス粒子を接種し、細胞溶解が起こるまで上記のように該細胞を基礎培地で培養する段階、および該培地中に放出される新しく作製されたウィルス粒子を回収する段階を含む、天然痘に対するワクチンなどの生のまたは弱毒化したワクチンを作製する方法を目的とする。本発明は、ATCC(ATCC番号VR-1508)、NYVAC(Tartagliaら、1992、Virology、188:217-232)、LCl6m8(Sugimoto et Yamanouchi、1994、Vaccine、12:675-681)、CVI78(Kempeら、1968、Pediatrics、42:980-985)から得ることができるポックスウィルスの一ファミリー、特にワクシニアウィルスである、Lister-Elstreeワクシニアウィルス系統、改変されたワクシニアウィルスアンカラ(MVA)などの改変されたワクシニアウィルス、および他の組換えワクシニアウィルスに属している弱毒ウィルスの作製のために特に有用である。例えば、天然痘に対するワクチンなどのMVAを使用できる。
【0051】
第2の特定の態様において、本発明は、疾患に対するワクチン、好ましくは後天性のまたは感染性の疾患に対するワクチンなどの、生のまたは弱毒化したワクチンを作製する方法を目的とし、該方法は、上記の方法の段階c)またはd)において確立される付着性のまたは非付着性の細胞系を培養する段階、該細胞にウィルス組換え粒子を接種し、細胞溶解が起こるまで上記したように該細胞を基礎培地で培養する段階、および該培地中に放出される新しく作製されたウィルス組換え粒子を回収する段階を含む。例えば、以下に対する抗原を発現する組換えMVAを使用することができる:
- 例えば、限定されるものではないが、前立腺癌、膵臓癌、結直腸癌、肺癌、乳癌、黒色腫などの後天性疾患、
- 例えば、限定されるものではないが、エイズ(HIVウイルス)、A型肝炎、B型肝炎、C型肝炎、マラリア、狂犬病、黄熱、日本脳炎、耳下腺炎、はしか、風疹などの感染症。
【0052】
上記の方法により作製されるワクチンは、本発明の一部である。
【0053】
本明細書の残りの部分に対して、参照は、下記の図の説明に対して行われる。
【0054】
実施例
実施例1:付着性細胞の生成および確立
卵を開き、開きながら卵黄を卵白から分離する。直接かもしくはパスツールピペットを用いて、または予め穴開け器を用いて穴の開いた輪の形に切り抜いた小型の吸収性の濾紙(Whatmann 3M紙)を用いて、卵黄から胚を除去する。穴の直径は約5mmである。これらの小型の輪を、乾式加熱を用いてオーブン中約30分間滅菌する。この小型の紙の輪を卵黄の表面に置き、そして胚を中央にし、胚をこのように紙の輪により取り囲む。次いで後者を小型のはさみを用いて切除し、そして除去した全体を、PBSまたは生理食塩水で満たしたペトリ皿に置く。このように輪により取り除いた胚を溶媒中で過剰な卵黄を除くよう清浄し、そしてこのように過剰のビテリンを含まない胚盤を、パスツールピペットを用いて収集する。
【0055】
双方の場合、胚を生理的溶媒(1X PBS、トリス・グルコース、溶媒等)を含有するチューブの中に置く。次いで胚を機械的に解離し、そして「フィーダー」上で規定の培地に接種する。培養に用いられる好ましい条件の中で、優先されるものは、初期濃度12〜8%のウシ胎児血清、1%の非必須アミノ酸、1%の市販品の混合ビタミン、最終濃度1mMのピルビン酸ナトリウム、最終濃度0.2mMのβ-メルカプトエタノール、最終濃度2.9mMのグルタミンと、抗生物質の最初の混合物、最終濃度10ng/mlのゲンタマイシン、最終濃度100単位/mlのペニシリンおよび最終濃度100μg/mlのストレプトマイシンを含有する混合物とを補充した基礎培地、MacCoy培地またはDF12培地から成る培地である。細胞の第1継代の後、速やかに抗生物質の混合物の培地への添加を止める。「速やかに」という表現は一般に最初の3〜5継代の後を意味すると理解される。ヌクレオシドの混合物は添加してもよく、この混合物は前記のように調製される(Painら(1996))。これらの同一条件下で試験した基礎培地の中で、類似の結果が得られたものは、HamF12、Glasgow MEMおよびDMEM培地であり、後者は最終濃度8mg/lでビオチンを補充する。比較のために、ビオチン濃度は、MacCoy培地中0.2mg/l、HamF12中0.0073mg/lおよび市販のDMEMおよびGMEM培地培地中0である。
【0056】
培地に添加した成長因子およびサイトカインは、最終濃度1ng/mlのマウスSCF、最終濃度1〜5ng/mlのIGF-1、最終濃度1ng/mlのCNTF、最終濃度1ng/mlのIL-6、および最終濃度0.5ng/ml〜1ng/mlの可溶性IL-6受容体などの組換え体である因子およびサイトカインであるのが好ましい。いくつかの実験では、第1継代の間にいくつかの別の因子を添加することができる。例えば3または10継代までに、bFGFを最終濃度1ng/mlで、そしてIL-11を最終濃度1ng/mlで培地に添加することができる。
【0057】
この培地に系として確立されたマウス線維芽細胞、STO細胞から成る不活性化された「フィーダー」上で接種を行う。これらの細胞は、STO細胞で成長因子、例えば鳥類SCFの構成的な発現を可能にする単純な発現ベクターをトランスフェクトした場合もある。このように、この「フィーダー」は可溶性であり、そして/または細胞の原形質膜に付着する形態の因子を生成する。
【0058】
細胞のこの培地への直接的な最初の接種の後、翌日新しい培地を添加すること、または培地を部分的に交換し、そして次に、さらに翌日初代細胞に関して観察された付着細胞の比率に依存して部分的または完全に交換することができる。場合に応じて約4〜7日後、最初の培養を解離し、そして新たな皿の同一の初期培地中不活性化されたフィーダー上に移す。3〜5継代の後、抗生物質に対する抵抗性をコードする発現ベクター、例えばネオマイシン、ヒグロマイシン、ピューロマイシン等に対する抵抗性に関する遺伝子でトランスフェクトされていないか、またはトランスフェクトされたSTO細胞の不活性フィーダー上で細胞を培養する。約20継代の後、細胞から成長因子およびサイトカインを漸進的に剥奪する。「漸次的な除去」という表現は培地からの成長因子毎または成長因子群毎の除去を意味すると理解される。第一の態様では、1継代でまず最初にSCFを除去し、そして次に、2または3継代後に例えばIGF-1などのその他の成長因子を除去する。細胞が形態学的な変化または増殖の平均速度の変動を呈さない場合、その他の因子、例えばCNTFおよびIL-6を次に除去する。第二の好ましい態様において、成長因子の除去は、成長因子群毎に行われる。SCF、IL6R、およびIL11からなる第一の成長因子群を除去し、次にIGF1およびCNTFからなる第二群を除去する。第三の態様において、この除去もまた激変的である場合がある。この場合、全ての因子を一度に全て除去する。次いで細胞を観察し、そして数日過ぎただけで、増殖速度が変更される。後者の溶液が一般的に実行されるものである。
【0059】
種々の単離体がこのように得られ、そして非常に長い期間維持される。「非常に長い期間」という表現は最低50日間、好ましくは200〜400日間を超える期間、時間の制限なしに数週間のオーダーの期間を意味すると理解される。600日間を超える期間観察する。
【0060】
用いた支持体に関わらず、付着する全ての細胞をタンパク質溶解性解離酵素、例えばプロナーゼ、コラゲナーゼ、ディスパーゼ、トリプシン等で解離する。好ましくは、動物起源のいずれかの潜在的夾雑物を避けるために細菌起源のタンパク質溶解性酵素を用いる。これらの細胞は図8の写真により例で説明される特定の形態、すなわち小型のサイズで、核原形質比率が大きく、明確に見える少なくとも1つの核小体を有する核および非常に小型の原形質を有する胚性幹細胞の特徴を有する。これらの細胞は多かれ少なかれ緻密な固体の塊の形態で成長する特徴がある。付着性および非付着性細胞は、Painら(1996)および米国特許第6,114,168号および欧州特許第787180号にて前記したように、多くの抗体と交差反応を呈する。内因性テロメラーゼ活性成分もまた存在し、そしてこれらの細胞の「幹」特性において重要な因子である。
【0061】
異なる単離体の細胞が得られ、そして長期間維持される。表1にこれらの単離体のいくつかの特徴を説明する。
【0062】
(表1)
【0063】
「停止」という用語は細胞の増殖の終末に相当するのではなく、実験者による意図的な細胞培養の停止に相当することに留意されたい。世代数nは式:X=2nにより得られるか、またはXは細胞の理論的累積数である。細胞を各継代でおよび各接種の間計数するので、この数字を利用することができる。このように培養の完全な履歴を利用することができる。S86N45細胞はまたEB45と命名された。
【0064】
実施例2:細胞の継代
幹細胞、特に体性幹細胞および胚性幹細胞の1つの特徴は、かなりの期間インビトロで増殖できる能力である。細胞を増殖し、そして継代するために、培地を交換し、そしてその継代の数時間前に新しい培地で置き換える。図1に示した曲線は細胞成長および確立のプロファイルを説明している。
【0065】
実施例3:倍化時間および平均分裂時間
3.1
培養において確立された細胞および前記の実施例で提示した細胞で開始して、平均分裂時間を算出することができる。得られた独立した全ての単離体に関して、増殖の速度が連続継代の間わずかに増加し、従って、細胞の確立の間の平均分裂時間の変動を引き起こす。付着相では、細胞をまず、不活性フィーダー層に接種し、そして一定の初期接種密度、100mm皿(55cm2皿)あたり1〜2×106細胞で規則的に継代する。表2は3つの確立された細胞型に関し、倍化時間(d)および平均分裂時間(MDT時間)を培養時間の関数として説明する。確立の間に平均倍化時間の低下が観察される。
【0066】
(表2)
以下の式を用いて、示された日数で平均倍化時間(d)が確立される。
d=(1/Log2×(LogX2/X1))×1/(T2-T1)
(式中、X2およびX1は時間T2およびT1での細胞の全数である。)この式は実施例1で提示した式X=2nによる、世代数Nの直接的な算出結果である。次いで平均分裂時間(MDT)が24時間をdで割ることにより時間で得られる。
*この確立の間、フィーダーの存在しないプラスチック支持体上でValo細胞を継代する。倍化時間は低下し、そして次に細胞がこの新しい環境に再度慣れた場合に再度上昇する。
【0067】
3.2
ニワトリは、39℃の体温を有する。S86N45(EB45)細胞およびEB14細胞の細胞増殖動態の分析は、従ってまず最初に39℃で実施された。これらの状況下で、細胞は、通常15〜20時間の間に含まれる非常に短い世代時間によって、特徴づけられた(図2)。
【0068】
実施例4:細胞培養温度
39℃のS86N45(EB45)細胞およびEB14細胞の非常に迅速な周期(cycling)は、効率的なMVAウイルスの作製に対して最適以下のものでありうる。従って、37℃および35℃の細胞増殖もまた分析した(図3)。予想通り、細胞循環は37℃で減少する。このような状況は、原則としてウイルス増殖に比較的適切でなければならず、従って、後述するMVA実験において、選択される。非常に縮小した動態で、S86N45(EB45)細胞およびEB14細胞が35℃でも増殖できる点に注意することが妥当である。低温(35℃、および、さらには33℃)に対するS86N45細胞およびEB14細胞の順応は、生の弱毒化した感熱性ウィルスワクチンの製造のために特に有用である。
【0069】
実施例5:系の増殖に関する血清のレベルの調節
5.1 低血清濃度の培地
これらの系を得る間に用いた培地は種々の添加剤、例えば非必須アミノ酸、ビタミンおよびピルビン酸ナトリウムを補充した基礎培地(DMEM、GMEM、HamF12、McCoy等)を含む通常の培地である。この複合培地は、依然培養の中心成分であるウシ胎児血清を含むが、植物成分などの異なる起源の成分であっても漸次的に用いることができる。調節し、そして細胞を比較的低い比率のウシ胎児血清に慣れさせる方法が提示されている。このように低いパーセンテージの血清で、細胞を高増殖(分裂時間>1)で維持することが可能である(例えばS86N16細胞の場合で2%)。
【0070】
図4に示す曲線は規定の細胞型:S86N16細胞に関する血清の相対的な低下を説明する。倍化時間および平均分裂時間をも算出し、そして表3に示した。平均分裂時間は血清の相対的な低下の関数として増加することに留意されたい。それにも関わらず、記載した条件下での暫時培養の後に回復相が観察される。それにも関わらず、この時間は24時間未満のままであり(d>1)、これは既に相対的に低い2%の血清濃度であっても、産業用の観点で非常に有利な増殖を既に示している。この時間を増加させ、そしてなおさらに培養条件を最適化するために、代謝に関する他の改善を用いることが想定できる。
【0071】
(表3)S86N16細胞についての倍加時間および平均分裂時間
【0072】
継代p204とp179の間で10%、p198とp176の間で7.5%、p224とp201の間で3.75%、並びにp216とp199の間で2%の条件に関して例を挙げる。
【0073】
5.2 無血清培地への順応、およびバイオリアクタ中の増殖
主なさらなる改善は、無血清培地へのS86N45(EB45)細胞およびEB14細胞の順応によって成し遂げられた。いくつかの配合が試験され、S86N45(EB45)細胞およびEB14細胞の効率的な増殖を可能にする2、3の無血清培地の配合が確認された(図5)。
【0074】
加えて、血清含有培地および無血清培地におけるEB14細胞の培養は、効率的な増殖が2Lのバイオリアクタにおいて再現的に証明されたため、さらに増加する可能性があった(図6)。さらに、EB14細胞はまた3Lの撹拌槽バイオリアクタにおいて効率的に増殖し、200万細胞/mlを超える密度に達することが可能である。
【0075】
実施例6:フィーダー層の細胞の剥奪
最初の培養条件の下では不活性化された細胞の層の存在は前記したような胚性幹細胞を得るために必要であると思われる。多くの継代の後、このフィーダー層はもはや必要ではないように思われる。「培養処理された」プラスチックのみが重要であるように思われる。実際に、いくつかの真核細胞の特徴の1つは付着形態で増殖することである。細胞の付着性を促進するために、用いられる種々のプラスチック材料を「培養」処理する。その製造過程でプラスチックの表面に電荷を付加する処理が行われ、この電荷が細胞の細胞外マトリックスの付着性を促進する。対照的に、しばしば細菌学的品質のプラスチックと称される細胞培養未処理プラスチックは、特定のフィーダーの添加による表面処理をされていない。そこへの細胞の付着は一般に非常に困難で、不可能でさえあるか、または次に形態学的、および挙動においてしばしば激変的な変化を誘起する。この2つのプラスチックの品質の間の相違により、そこで実施される接種に依存して、異なる挙動の細胞を得ることが可能になる。不活性化された「フィーダー」の培養の漸次的な剥奪により、数継代の後に、「培養処理された」プラスチック上に直接接種された幹細胞の均一な培養を得ることが可能になる。
【0076】
S86N16細胞の場合における、不活性化された「フィーダー」の存在下および不在下で維持された細胞に関する比較成長曲線を図3に示す。この細胞の適合は、最初に「フィーダー」上で維持された細胞の幹細胞特性を喪失しないように漸進的である。このように漸進的な剥奪が行われる。プラスチック上で増殖する細胞を得ることは除去方法が達成したことである。表4では、分裂時間は細胞のその環境に対する感受性を示している。血清の漸進的な除去の場合のように、定義された条件下での数継代の後、細胞に及ぼす回復効果を伴って適合が得られる。
【0077】
(表4)
【0078】
3つの条件1.2×106、0.5×106および0.3×106のフィーダー細胞に関して継代p154とp131の間、並びにプラスチック単独の条件に関してp161とp139の間で例を挙げる。
【0079】
実施例7:成長因子における細胞の剥奪
初期培養条件下では成長因子の存在は必須である。因子の2つのファミリー:サイトカインおよび栄養性因子を概要的に区別することができる。
【0080】
サイトカインはその作用がgp130タンパク質に関連の受容体を介する主要なサイトカインである。従って、LIF、インターロイキン11、インターロイキン6、CNTF、オンコスタチン、およびカルジオトロフィンは特異鎖の受容体のレベルでの補充および後者と単量体またはしばしばヘテロ二量体形態のgp130タンパク質との組み合わせを伴う類似の作用様式を有している。数例では、受容体の可溶性形態の組み合わせ、とりわけインターロイキン6およびCNTFの受容体に関して記載された形態により、観察される増殖効果を上昇させることが可能である。少なくとも1つのこれらのサイトカインの添加が胚性幹細胞を得るのに必要であるように思われることは以前に示されている。
【0081】
栄養性因子は主にSCF、IGF-1およびbFGFであり、これらを前記したように培養の開始時にも用いる。その存在はまた細胞を得るためおよび増幅するためにも必要である。
【0082】
これらの成長因子を漸進的に低下させることにより、数継代後に外因性成長因子を添加しないで胚性または体性幹細胞の増殖を可能にする培養条件を得ることができる。これらの細胞を特徴付けるために用いた異なるマーカーは因子なしで維持された細胞に関していつも陽性である。
【0083】
実施例8:用いる培地の比較
異なる培地に接種すると、細胞は同一頻度で得られない。培地の成分の比較により、特定の成分の1つを同定することは困難である。全体比較により細胞の生理学における改善が可能になる可能性が高いようである。好ましい培地の中で、Ham F12培地、MacCoy培地、DMEM培地、DMEM-F12培地およびビオチン富化DEME培地が注目される。このような単離体で開始する場合、これらの異なる培地で適合試験を実施する。
【0084】
実施例9:非付着細胞の確立
幹細胞は、連続継代の間、細菌学用の皿へ直接高密度で接種することにより、数継代後にその基材から剥離するようになり、そして懸濁液中、小型の規則的な凝集体の形態で増殖する胚性細胞を得ることが可能になる。この増殖はより多くの希釈、機械的解離によって、かつタンパク質溶解酵素を用いることなく、数継代にわたって促される。培養の攪拌は一般に行われるが、非付着性細胞を得るために区別する因子を意味しない。付着性細胞と同様に、これらの細胞は幹細胞の特徴的な形態、すなわち小型のサイズ、核原形質比率が大きく、明確に見える少なくとも1つの核小体を有する核および小型の原形質を有する。これらの細胞は多かれ少なかれ緻密な小型の凝集体の形態で成長する特徴がある(図8)。これらの非付着性細胞は、Painら(1996)にて前記したように、多くの抗体と交差反応を呈する。これらの細胞はまた内因性テロメラーゼ活性に関して陽性である(EB1、EB4およびEB5細胞に関して実施例10で示すように)。非付着相では、細胞は異なる培地中で高増殖性を呈する。初期接種密度および非常に規則的な新しい培地の供給はmlあたり1×106細胞を越える範囲の高密度を提供する。表5は数個の単離体の主要な特徴をまとめている(親細胞、懸濁液に作製する初期継代、懸濁液中の培養を維持する日数、維持の自発的な停止の前に得られた継代および世代の数)。従って、懸濁液にするための継代は単離体毎(単離体EB1およびEB14参照)および増殖速度(単離体EB3およびEB14参照)によって変動し得る。
【0085】
(表5)
【0086】
「開始」という用語は、細胞が非付着下に置かれたことに相当すると留意されたい。
【0087】
本発明者らは、非付着細胞をフィーダー層の有無に関わらず増殖する付着細胞からいつなんどきでも数継代後に入手可能であることも見出した。
【0088】
実施例10:確立された細胞の特徴付け
長時間培養を維持した幹細胞を前記したのと同一の規準で特徴付けした(Painら(1996))。このように、図9a〜9bの写真で説明した内因性アルカリ性ホスファターゼ活性、内因性テロメラーゼ活性(図9c)、ならびに特異抗体、例えば抗体SSEA-1(TEC-01)およびEMA-1との反応性の定期的な検出が可能である。
【0089】
細胞の確立の間の重要な規準の1つはテロメラーゼの存在である。TRAP検出キット(テロメラーゼPCR ERISA、Roche)を用いて培養物中に細胞を維持している間に種々の試験を実施した。培養中の種々の継代の後、細胞は陽性に検出される。従って、S86N16細胞、S86N45(EB45)細胞に関して、並びに非付着形態でそこから誘導されたEB1、EB4およびEB5細胞に関してテロメラーゼ活性が検出される(表6参照)。1次培養で維持したCEF(ニワトリ胚線維芽細胞)を陰性と考える。OD<0.2の閾値は陰性閾値としてキットにより推奨されている閾値である。全ての分析を2000細胞の等価物で実施した。
【0090】
(表6)種々の継代での種々の系におけるテロメラーゼ活性のアッセイ法
*CEP:ニワトリ胚線維芽細胞
【0091】
特に重要なことに、本発明の細胞はいくつかの基本的な「幹細胞」特徴を維持した。これらは、マウス、ニワトリ、およびヒト胚性幹細胞(例えば:アルカリホスファターゼ、SSEA-l、EMA-l、テロメラーゼ)に存在することが公知である一連の幹細胞特異的なマーカーを発現する(図9)。予想通り、これらのマーカーの発現は、レチノイン酸(RA)またはDMSOの添加による、細胞分化の実験的誘導時に失われる(表7および図9c)。それらは、インビトロで際限なく複製し(図I)、いくつかの候補細胞系は、分化などの特定の障害もなく1年を超えて培養された。
【0092】
(表7)ES細胞特異的マーカー
「マーカー発現は、レチノイン酸によって、分化時に減少する」
マーカーであるSSEA1およびEMA1は、標識された細胞の割合で表される。
【0093】
実施例11:細胞のトランスフェクションおよび誘導
長期間の成長を維持した幹細胞を種々の発現プラスミドでトランスフェクトする。鳥類幹細胞をトランスフェクトできることが示されている(Painら(1996))。特に非付着細胞をトランスフェクトし、そして種々の分類系により安定してトランスフェクトされた細胞を同定することが可能になる(細胞分類、限界希釈等)。幹細胞の未分化段階でこれらの遺伝的修飾を行うことができる。一度この修飾が得られると、次いで細胞は自発的にまたは分化インデューサーの添加により分化を誘起される。この場合、レチノイン酸を10-8M〜10-6Mの濃度で、またはジメチルスルホキシドを最終1〜2%で、または酪酸ナトリウムを10-4〜10-8Mの濃度で、またはフォルボールエステル(TPA、PMA等)もしくはリポ多糖類(LPS)を最終1〜5μg/mlで用いることができる。別の例では、細胞は懸濁液中で胚様体を形成でき、それらを構成する細胞の解離または非解離の後、胚様体はプラスチックへの付着を引き起こすことができる。これらの分化した細胞は次いで増殖するが、長期間にわたる増殖に関しては能力がさらに限定されている。細胞の増殖に影響する遺伝子における遺伝的修飾を標的化することにより、これらの分化した細胞を長期間増殖させることができるようになる。
【0094】
実施例12:非付着性鳥類細胞系(EB1)をウイルスで感染させるためのプロトコール
細胞の増幅
5% 血清を含有する培地、好ましくはMacCoyの5A、HAMF12、またはDMEM培地またはいずれかその他の目的の培地に、一般に初期容量50mlで0.2×106細胞/mlの濃度でEB1またはEB14細胞を接種する。これを攪拌しながら7.5% CO2、39℃で培養中で維持する。3〜4日間、毎日新しい培地を加え、その間最終培養容量100〜250mlで1〜3×106細胞/mlの細胞濃度に到達させるために増幅を持続させる。
【0095】
懸濁液中の細胞を収集し、そしておよそ1000rpmで10分間遠心分離する。ペレットを1X PBS(リン酸バッファー) 20〜50mlに再懸濁する。次いで細胞を計数し、遠心分離し、そしてペレット化した細胞を最終濃度3〜5×106細胞/mlで血清不含培地に取る。次いでこれらの条件下でチューブあたり3〜5×106細胞入った数個のチューブを用意する。
【0096】
ウイルスおよび感染の準備
既知のタイターを有するウイルスストックを37℃で急速に解凍し、そして血清不含培地で最終感染に必要な濃度の10倍〜1000倍のタイターで希釈する。ウイルスの型に従って0.01〜0.5のm.o.i.(感染の多重度)で目的のウイルスで細胞を感染させ、これは細胞ペレットにウイルス懸濁液0.1〜10(容量/容量)%を添加することを含む。ウイルスに最適な温度、一般に33〜37℃で1時間インキュベートした後、細胞を再度遠心分離し、そして培地を注意深く除去する。次の工程で初期ウイルスの効果を制限するためにこの工程はしばしば必要であることが判っている。可能性の1つは細胞を再度遠心分離せずに血清含有培地(5% 血清)で、最終濃度0.2〜1×106細胞/mlで直接希釈することであり、そして再度インキュベートする。
【0097】
上清および細胞の収集
インキュベーションの2〜4日後、ウイルスの動態および特定のウイルスの細胞変性効果の可能性に依存して、細胞または細胞性細片を含有する培地を収集する。ウイルスに依存して、ペレットまたは上清のみが目的であり、そしてウイルス粒子を含有する。細胞を収集し、そして遠心分離する。収集した上清を再度2500rpmで5〜10分間遠心分離し、そして-80℃で保存した後、粒子を精製する。タイター測定するためにアリコートを収集する。細胞ペレットを血清不含培地5mlに取り、超音波処理し、そして2500rpmで5〜10分間遠心分離する。得られた上清を精製およびアリコートのタイター測定まで-80℃で保存する。
【0098】
ウイルス感染および生成効率を実施した種々の条件間で比較する。細胞変性効果を有するウイルスに関しては、一般に溶解プラーク技術によりタイター測定を実施する。
【0099】
実施例13:付着性鳥類細胞系(S86N45)をウイルスで感染させるためのプロトコール
細胞の調製
感染の48時間前に細胞を培地、好ましくは5% 血清を含有するMacCoyの5A、HAMF12、またはDMEM培地またはいずれかその他の目的の培地に0.03〜0.06×106細胞/cm2の濃度でT150フラスコに接種する。これを39℃および7.5% CO2で維持する。
【0100】
感染
既知のタイターのウイルスストックを37℃で急速に解凍し、そして血清不含培地で最終感染に必要な濃度の10倍〜1000倍のタイターで希釈する。ウイルスの型に従って0.01〜0.5のm.o.i.(感染の多重度)で目的のウイルスで細胞を感染させ、これは細胞単層にウイルス懸濁液0.1〜10(容量/容量)%を添加することを含む。感染は一般に0%血清含有培地で最小の培地(75cm2フラスコで5〜10ml)で実施する。ウイルスに最適な温度、一般に33〜37℃で1時間インキュベートした後、5% 培地を20mlフラスコに加える。特別な場合に、細胞の付着する可能性のある粒子を除去するために細胞をPBSで洗浄することができる。細胞変性ウイルスの場合、感染の良好な進行を示す細胞溶解の出現をモニター観察するために感染後毎日細胞を観察する。
【0101】
上清および細胞の収集
インキュベーションの2〜4日後、ウイルスの動態および特定のウイルスの細胞変性効果の可能性に依存して、上清、細胞および細胞性細片を含有する培地を収集する。ウイルスに依存して、ペレットまたは上清のみが目的であり、そしてウイルス粒子を含有する。細胞を収集し、そして遠心分離する。収集した上清を再度2500rpmで5〜10分間遠心分離し、そして-80℃で保存した後、粒子を精製する。タイター測定するためにアリコートを収集する。細胞ペレットを血清不含培地5mlに取り、超音波処理し、そして2500rpmで5〜10分間遠心分離する。得られた上清を精製およびアリコートのタイター測定まで-80℃で保存する。
【0102】
ウイルス感染および生成効率を実施した種々の条件間で比較する。細胞変性効果を有するウイルスに関しては、一般に溶解プラーク技術によりタイター測定を実施する。
【0103】
実施例14:EB45系およびEB14系の付着性および非付着性の鳥類幹細胞における、改変されたワクシニアウィルスアンカラ(MVA)の複製
一連の実験は、それらのMVA感染に対する感受性、MVA増殖の動態、およびウィルス産生量をそれぞれ決定するために、EB45(S86N45)細胞およびEB14細胞について実施された。これらの研究において、使用するMVAウイルスは、リポータGFPタンパク質(MVA-GFP)を発現する組換えMVAベクターまたは非組換えMVAウイルスであった。新たに調製されたニワトリ胚線維芽細胞(CEF)は、対照細胞として全ての実験に含まれた。
【0104】
14.1 安全性の考察
MVAウイルス(0.5mlのバイアルにおいて、タイター2,5 ×107 TCID50/ml)は、冷凍された条件下で得た。安全上の理由から、MVAウイルスおよび感染細胞は管理された条件(-80度冷凍庫)下で保たれ、汚染されたプラスチック製物質は1時間を超えてハイポクロリド溶液に入れられ、その後全てのかつ完全なオートクレーブ失活のためのバッグへ入れられた。
【0105】
14.2 ウイルスの作製
14.2.1 付着性S86N45(EB45)細胞
20mLの培地で、1×106の付着細胞を、感染の前日に100mmシャーレに蒔く。24時間後、培地を廃棄し、細胞を接種材料(0.01または0.1 TCID/細胞の感染効率の、2mL 無血清培地)と一緒に37℃でインキューベートする。1時間後、接種材料を廃棄し、20mLの予め暖めた培地を細胞に加え、インキュベーションを5%CO2、37℃に保つ。ウイルス調製のため、感染細胞をスクラッパー(scrapper)によって収集し、50mLのFalcon(商標)チューブに移し、室温で1200RPMで遠心分離した。上澄(細胞外ウイルス、EV)を集め、細胞ペレット(細胞内のウイルス、IV)を1mLまたは2mLの培地に希釈した。EVおよびIVサンプルをどちらも3回の解凍−凍結サイクルにかけ、その後超音波処理する。室温で10分間、2500rpmでの遠心分離の後、EVおよびIVサンプルを等分し、タイター測定まで-80℃に維持した。
【0106】
14.2.2 EB14細胞懸濁液
培地中0.01 TCID/細胞または0.1 TCID/細胞のmoiで、0,4×106/mLのEB14細胞を、ウィルス接種材料添加の前日、125mLのスピナーボトル(spinner bottle)中の40mLの培地(16×106細胞)に接種する。ウイルスのインキュベーションの1時間後、80mLの予め暖めた培地を加える。インキュベーションは、所望の回転条件および5% CO2下で37℃に維持した。その後感染細胞を感染後様々な時間で収集し、50mLのFalcon(商標)チューブに移し、室温で1200 RPMで遠心分離した。上澄(細胞外ウイルス、EV)を集め、細胞ペレット(細胞内ウイルス、IV)を5mLまたは10mLの培地に希釈した。EVおよびIVサンプルをどちらも3回の解凍-凍結サイクルにかけ、その後、それらを超音波処理した。室温で10分間、2500rpmでの遠心分離の後、EVおよびIVサンプルを等分し、タイター測定まで-80℃に維持した。
【0107】
14.3 ウイルスタイター測定
14.3.1 TCID50エンドポイント希釈法によるMVAのタイター測定
MVAウイルスのタイター測定は、CEFまたはDF-1細胞におけるTCID50エンドポイント希釈法により行う。分析は、感染の発生に充分な用量の感染性ウイルスをサンプルが含むことを決定する。TCID50は、細胞培養物の累積的な数の半数において、細胞変性効果(CPE)をもたらした希釈として決定される。1つのウィルスサンプルタイターのために、1つのP96平底プレート(flat bottom)が必要である。簡潔には、15000 CEF細胞/100μLが1ウェル当たりに接種される。11個のウェルの8列に接種する。8本の列は、ウィルスサンプルの段階的な10倍希釈の高さを表す(すなわち、10-2〜10-9)。各々の階段希釈について、1mLの混合が無血清培地中で行われ、100μLの混合物は10個の対応する希釈ウェルに分配され、第11番目の列はコントロールである非感染ウェルである。P96プレートは、5%CO2、37℃でインキューベートされる。5〜10日後、ウィルスタイターは、陽性CPEウェルを記録することにより、Reed-Muench法により算出される。
【0108】
14.4 MVA感染に対する感受性およびタイター測定の結果
14.4.1
MVA感染に対するEB45(S86N45)細胞およびEB14細胞の固有の感受性は、まず組換えMVA-GFPベクターを使用して調査された。本特異的ベクターは、感染細胞のモニタリングおよび定量化を単純化するためのこれらの研究のために選択された。EBx細胞およびCEF細胞は従って異なる感染効率(moi)で処理され、細胞は感染の数日後、蛍光顕微鏡法、およびフルオロサイトメトリー(fluorocytometry)により分析された。
【0109】
図10および11に示すように、0.1 TCID50/細胞という低さのmoiを使用する場合であっても、感染48時間後なお生存可能である全ての付着性EB45細胞はリポータGFPタンパク質を強く発現した。注目すべきは、図10もまた、CEF細胞と比較した場合に非常に小さいサイズのEB45細胞およびEB14細胞を示すことである。
【0110】
要するに、これらの結果は、MVA感染に対する付着性のEB45細胞およびEB14細胞の高い感受性を明確に示す。
【0111】
14.4.2
以下の表8は、実験において実施した様々なMVA-GFP感染において得られた結果の一覧を示す。全てのサンプルは2回タイター測定した。
【0112】
(表8)タイター測定の結果
【0113】
14.3 EB14細胞およびEB45細胞におけるMVA増殖
EB14細胞および付着性EB45細胞懸濁液におけるMVA増殖は、MVA-GFP複製の動態の定量分析により決定された。EB45細胞をシャーレのDMEM-F12培地中で増殖させ、moi 0.1で感染させた。一方、EB14細胞を、moi 0.2での感染の24時間前に、120mlのスピナーフラスコ中のDMEM-F12培地で培養した。その後感染細胞の割合を、感染後様々な時間で、FACS分析によって定量化した。図12および13に示すように、なお生存可能である全ての細胞は、感染の48時間後(EB45)または72時間後(EB14)にGFPを発現する。
【0114】
14.4 血清添加培地中で増殖した付着性EB45細胞のウイルス収率
14.4.1
付着性のEB45細胞のウィルス生産性は、DMEM-F12中で増殖した細胞を使用して分析した。MVAがDMEM-F12中のEB45において非常に効率よく複製され、コントロールであるCEF細胞によって得た収率よりも高い収率を達成することが見いだされた(図14)。
【0115】
14.4.2
一連のさらなる実験において、非組換えMVAウイルス(ATCC由来)が、CEF細胞およびEB45細胞の複製比較研究のために使用された。MVA-GFPベクターを用いた前の結果を確認し、より高い産生量が、このMVAウイルスによって再び得られた(図15)。
【0116】
要するに、これらの結果はMVA感染に対する高い感受性、および付着性のEB45細胞の効率的なウイルス作製を証明し、これはニワトリ胚線維芽細胞において、より高い。さらに、全てのこれらの実験は、標準的な条件下で実施された。従って、実験条件を最適化した際、かつ特に最適な細胞培地を用いる事によって、さらに高いウイルス収率が達成される可能性があると主張することは妥当である。
【0117】
14.5 血清添加培地において増殖した懸濁EB14細胞のウイルス収率
EB14細胞のウィルス生産性は、DMEM-F12培地中で増殖する細胞を使用して、スピナーフラスコ中で決定した。0.1の感染の多重度を使用している第1の一連の実験の結果は、図16に示される。これらのデータは、付着細胞によって得られる前の結果を支持し、ニワトリ胚線維芽細胞によって得られる収率よりも2倍高い収率である100 TCID50/細胞に近い収率で組換えMVAウイルスを効率的に作製する、EB14細胞懸濁液の能力を確認する。
【0118】
14.6 無血清培地において、増殖した懸濁EB14細胞のウイルス収率
理想的には、ウィルスワクチン製造は、バイオリアクタの無血清培地中で増殖する懸濁細胞で実施されなければならない。無血清培地のMVAの製造を調査するために一連の実験を開始し、ここで、EBl4懸濁細胞は、2つの異なる感染の多重度(0.01および0.1)で、スピナーフラスコの無血清培地中でMVA-GFPベクターに感染させた。細胞のFACS分析は、2つの実験条件のEB14細胞の効率的な感染を確認する(図17)。さらに、予想通りこれらの実験は、0.1のmoiを使用する場合に感染がより急速であること、一方、0.01の1moiでは細胞がより長く生存可能であり、かつより長い間ウイルス後代を作製することが可能であることを示す(データ未提示)。
【0119】
ウイルス収率の分析は、効率的なMVA作製が無血清培地かつタンパク質不含培地中で懸濁状態で増殖する懸濁EBl4細胞によって成し遂げられることを確認する(図18)。CEF細胞によっては通常得られない収率よりも高いウイルス収率が、日常的に得られる。さらに、感染性粒子の分布の分析は、大部分のビリオンが細胞の中で保持されかつ画分のみが上澄に分泌されることを示す(図18)。
【0120】
EB14およびS86N45細胞は、懸濁液中または付着細胞としてのいずれかで無血清培地中で効率的に増殖できる、十分に特徴づけられた非遺伝子工学による鳥類胚性幹細胞である。本発明者らは、本細胞が組換え型および非組換え型の改変されたワクシニアウィルスアンカラの感染および増殖に対して高い感受性であることを証明し、かつ、結果が、ウィルス作製がコントロールCEF細胞よりも少なくとも2〜3倍高いことを示す。要するに、これらの特徴は、本発明の細胞、主にEB14およびEB45を、MVAベースベクターの製造のための、現行の卵ベースのまたはCEFベースの製造システムに取って代わる、大いに有望な細胞基材であるとみなす。
【0121】
参照文献
【図面の簡単な説明】
【0122】
【図1】細胞の長期間の複製を示している本発明の1細胞系の増殖曲線を示す。
【図2】S86N45(EB45)(付着性)細胞およびEB14(懸濁)細胞の集団倍加時間を示す。
【図3】S86N45(EB45)細胞の増殖動態における温度の影響を示す。
【図4】血清除去のある、細胞の長期間の複製を示している本発明の一細胞系の増殖曲線(最高2%の血清)を示す。
【図5】無血清培地(SFM)における増殖に対するS86N45(EB45)細胞およびEB14細胞の順応を示す。
【図6】2Lのバイオリアクタの無血清培地におけるEB14懸濁細胞の培養を示す。
【図7】フィーダー層除去のある、細胞の長期間の複製を示している本発明の一細胞系(S86N16)の増殖曲線を示す。
【図8】鳥類幹細胞に特徴的な形態を示している写真を示す。N:核、n:核小体、およびC:細胞原形質。(S86N99分離株、拡大率40倍、ソニーCyber-shotデジタルカメラによって、撮影した写真)
【図9】付着性の、または懸濁液中の鳥類幹細胞系のアルカリホスファターゼ活性を示している写真を示す。固定(0.1%のホルムアルデヒド/0.5%のグルタルアルデヒド、4℃で30分)の後、細胞は1×PBS中で2回すすぎ、NBT/BCIP(ニトロブルーテトラゾリウムクロリド0.375mg/ml、5-ブロモ4-クロロ-3-インドリルホスファート0.188mg/ml、トリス0.1M pH 9.5、MgCl2 0.05M、Nacl 0.1M)溶液中で37℃で10〜30分間インキューベートする。反応を2回の1×PBSによる洗浄によって停止し、写真を撮影した。図9Aは、フィーダまたは因子無しで培養した系である付着性の系S86N45 p87によって得られる内因性アルカリホスファターゼ活性の、特徴的な青紫色の呈色反応を例示する(拡大率40倍、ソニーCyber-shotデジタルカメラ)。図9Bは、フィーダまたは因子のない懸濁液で培養された、懸濁液中で8継代から維持されるEB14系、S86N45細胞に由来する系によって得られる内因性アルカリホスファターゼ活性の、特徴的な青紫色の呈色反応を例示する(拡大率20倍、ソニーCyber-shotデジタルカメラ)。図9Cは、S86N45(EB45)細胞特異的マーカーを示す。
【図10】CEF細胞および付着性S86N45(EB45)細胞のウィルス感受性を示す(感染後72時間−MOI 0.1)。
【図11】様々な感染の多重度(MOI)での、CEF細胞および付着性S86N45(EB45)細胞のウィルス感受性を示す(感染後48時間)。
【図12】付着性S86N45(EB45)細胞におけるMVA-GFP増殖の動態を示す。
【図13】懸濁EB14細胞におけるMVA-GFP増殖の動態を示す。
【図14】DMEM-F12培地において増殖したS86N45(EB45)細胞におけるMVA-GFP複製を示す。
【図15】DMEM-F12培地において増殖したS86N45(EB45)細胞における野生型MVAウイルスの複製を示す(MOI:0.1)。
【図16】血清添加培地における、懸濁EB14細胞におけるMVA複製を示す(MOI:0.2)。
【図17】無血清培地において増殖した懸濁EB14細胞におけるMVA複製を示す(MOI:0.01)。
【図18】無血清培地において増殖した懸濁EB14細胞におけるMVA収率を示す(MOI:0.01)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鳥類胚由来幹細胞にウィルス粒子を接種する段階、および細胞溶解が起こり、新しく作製されたウィルス粒子が培地中に放出されるまで、該細胞を基礎培地で培養する段階を含む、天然型または組換え型であるワクシニアウィルスなどのポックスウィルスおよび組換え派生物を複製する方法。
【請求項2】
接種が、0.01〜0.5のm.o.i.(感染効率)で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ワクシニアウィルスが、改変ワクシニアウイルスアンカラ(MVA)または組換えワクシニアウィルスなどの改変ワクシニアウイルスである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
天然痘に対するワクチンを製造するための、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
鳥類胚由来幹細胞系が以下の段階からなる方法によって入手可能である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法:
a) それらの増殖を可能にしている全ての因子および不活性フィーダー層を含む培地において、鳥類胚細胞を培養する段階、
b) 該因子の、血清の、および/または、フィーダー層の漸進的なまたは完全な除去を得るために培地を改変することによって継代する段階、
c) 外因性成長因子、血清、および/または不活性フィーダー層の非存在下で基礎培地中での増殖が可能である付着細胞系または非付着細胞系を確立する段階。
【請求項6】
段階c)において得られた鳥類幹細胞が少なくとも600日の間増殖可能である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
鳥類幹細胞が鳥類胚性幹細胞または鳥類体性幹細胞である、請求項5〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
段階b)が、培地成分(成長因子単独、または血清単独、または成長因子の次に血清、または血清の次に成長因子)の除去状態にある、請求項5〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
段階b)が、フィーダー層の漸進的なまたは完全な除去状態にあり、その後任意で培地の他の成分(成長因子および血清)の除去状態にある、請求項5〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
鳥類細胞系が、外因性成長因子を含まない培地において懸濁状態で増殖する非付着幹細胞である、請求項5〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
鳥類細胞系が、血清(無血清培地)を含まない培地において懸濁状態で増殖する非付着幹細胞である、請求項5〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
鳥類細胞系が、外因性成長因子および血清を含まない培地において懸濁状態で増殖する非付着幹細胞である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
鳥類細胞系が以下の特性のうちの少なくとも1つを有する、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法:
- 高い核‐細胞質比、
- 内因性アルカリホスファターゼ活性、
- 内因性テロメラーゼ活性、
- 抗体SSEA-1(TEC01)、SSEA-3、およびEMA-1の群より選択される特異抗体との反応性。
【請求項14】
鳥類細胞系が、基礎培地、特に可欠アミノ酸、ビタミン、およびピルビン酸ナトリウムなどの添加物で補足されたDMEM、GMEM、HamF12、またはMcCoyなどの培地で培養される、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
請求項5〜14のいずれか一項において定義される方法に従って、段階c)において確立される付着細胞系または非付着細胞系を培養する段階、該細胞にウィルス粒子を接種する段階、および細胞溶解が起こり、新しく作製されたウィルス粒子が該培地中に放出されるまで、上記のように該細胞を基礎培地で培養する段階を含む、天然痘に対するワクチンなどの生のまたは弱毒化したワクチンを製造する方法。
【請求項16】
オルソポックスウイルス属、特にワクシニアウィルス、改変ワクシニアウイルスアンカラ(MVA)のような改変ワクシニアウィルス、および組換えワクシニアウィルスのファミリーに属する生ワクチンまたは弱毒ワクチンを製造するための、請求項10〜12のいずれか一項において定義されるような非付着細胞の使用。
【請求項17】
天然痘に対するワクチンを製造するための、請求項16に記載の使用。
【請求項18】
癌に対するワクチンを製造するための、請求項16に記載の使用。
【請求項1】
鳥類胚由来幹細胞にウィルス粒子を接種する段階、および細胞溶解が起こり、新しく作製されたウィルス粒子が培地中に放出されるまで、該細胞を基礎培地で培養する段階を含む、天然型または組換え型であるワクシニアウィルスなどのポックスウィルスおよび組換え派生物を複製する方法。
【請求項2】
接種が、0.01〜0.5のm.o.i.(感染効率)で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ワクシニアウィルスが、改変ワクシニアウイルスアンカラ(MVA)または組換えワクシニアウィルスなどの改変ワクシニアウイルスである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
天然痘に対するワクチンを製造するための、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
鳥類胚由来幹細胞系が以下の段階からなる方法によって入手可能である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法:
a) それらの増殖を可能にしている全ての因子および不活性フィーダー層を含む培地において、鳥類胚細胞を培養する段階、
b) 該因子の、血清の、および/または、フィーダー層の漸進的なまたは完全な除去を得るために培地を改変することによって継代する段階、
c) 外因性成長因子、血清、および/または不活性フィーダー層の非存在下で基礎培地中での増殖が可能である付着細胞系または非付着細胞系を確立する段階。
【請求項6】
段階c)において得られた鳥類幹細胞が少なくとも600日の間増殖可能である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
鳥類幹細胞が鳥類胚性幹細胞または鳥類体性幹細胞である、請求項5〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
段階b)が、培地成分(成長因子単独、または血清単独、または成長因子の次に血清、または血清の次に成長因子)の除去状態にある、請求項5〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
段階b)が、フィーダー層の漸進的なまたは完全な除去状態にあり、その後任意で培地の他の成分(成長因子および血清)の除去状態にある、請求項5〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
鳥類細胞系が、外因性成長因子を含まない培地において懸濁状態で増殖する非付着幹細胞である、請求項5〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
鳥類細胞系が、血清(無血清培地)を含まない培地において懸濁状態で増殖する非付着幹細胞である、請求項5〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
鳥類細胞系が、外因性成長因子および血清を含まない培地において懸濁状態で増殖する非付着幹細胞である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
鳥類細胞系が以下の特性のうちの少なくとも1つを有する、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法:
- 高い核‐細胞質比、
- 内因性アルカリホスファターゼ活性、
- 内因性テロメラーゼ活性、
- 抗体SSEA-1(TEC01)、SSEA-3、およびEMA-1の群より選択される特異抗体との反応性。
【請求項14】
鳥類細胞系が、基礎培地、特に可欠アミノ酸、ビタミン、およびピルビン酸ナトリウムなどの添加物で補足されたDMEM、GMEM、HamF12、またはMcCoyなどの培地で培養される、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
請求項5〜14のいずれか一項において定義される方法に従って、段階c)において確立される付着細胞系または非付着細胞系を培養する段階、該細胞にウィルス粒子を接種する段階、および細胞溶解が起こり、新しく作製されたウィルス粒子が該培地中に放出されるまで、上記のように該細胞を基礎培地で培養する段階を含む、天然痘に対するワクチンなどの生のまたは弱毒化したワクチンを製造する方法。
【請求項16】
オルソポックスウイルス属、特にワクシニアウィルス、改変ワクシニアウイルスアンカラ(MVA)のような改変ワクシニアウィルス、および組換えワクシニアウィルスのファミリーに属する生ワクチンまたは弱毒ワクチンを製造するための、請求項10〜12のいずれか一項において定義されるような非付着細胞の使用。
【請求項17】
天然痘に対するワクチンを製造するための、請求項16に記載の使用。
【請求項18】
癌に対するワクチンを製造するための、請求項16に記載の使用。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公表番号】特表2006−527995(P2006−527995A)
【公表日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−520937(P2006−520937)
【出願日】平成16年7月22日(2004.7.22)
【国際出願番号】PCT/IB2004/002621
【国際公開番号】WO2005/007840
【国際公開日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【出願人】(504341128)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年7月22日(2004.7.22)
【国際出願番号】PCT/IB2004/002621
【国際公開番号】WO2005/007840
【国際公開日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【出願人】(504341128)
【Fターム(参考)】
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