説明

代謝障害の診断及び治療方法

本発明は、組織カリクレイン(TK)と、場合によっては糖尿病薬とを含む、薬剤組成物、被験対象から得られた生物試料中のTK及びインスリンの濃度を決定することによる代謝障害のスクリーニング方法、代謝障害の治療又は予防用の治療薬のスクリーニング方法、並びにTKを含む薬剤組成物を用いて代謝障害を治療又は予防する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2006年7月26日に出願された米国仮特許出願第60/820,379号、及び2007年4月3日に出願された米国仮特許出願第60/909,829号の優先権を主張するものである。これらの開示を参照により本明細書に組み入れる。
【0002】
本発明は、代謝障害、特にインスリン抵抗性及び糖尿病を診断する方法、並びにそれを治療するための化合物に関する。
【背景技術】
【0003】
カリクレインは、動物の血しょう及び組織に広範に分布するプロテアーゼの一群であり、カリクレイン−キニン系と称する酵素反応系に関与することが知られている。カリクレイン−キニン系は、生体内での機能調節に重要な役割を果たす。
【0004】
2つのタイプのカリクレイン、すなわち、組織又は腺性カリクレイン及び血しょうカリクレインが存在する。組織カリクレインと血しょうカリクレインのどちらもキニン生成に関与するが、2種類の酵素は、その起始遺伝子、分子量、アミノ酸配列、基質及びペプチド生成物を含めて、多数の点で異なる。
【0005】
組織カリクレイン−キニン系は、一連の酵素反応を含む。組織カリクレイン−キニン系内では、組織カリクレインは、低分子量キニノーゲンを開裂させてカリジン(リシル−ブラジキニン)の放出をもたらすセリンプロテアーゼであると考えられる。次いで、カリジンは、ブラジキニンに転化され得る。研究によれば、組織カリクレインは、(以下、HMWKと略記する)高分子量キニノーゲンも開裂させ得る(Moreau, M.E,, Garbacki, N., Molinaro, G., Brown, N.J., and Marceau, F.(2005) The Kallikrein−Kinin System: Current and Future Pharmacological Targets. J Pharmacol Sci. 99:6−38)。
【0006】
カリクレイン−キニン系は、レニン−アンジオテンシン系などの種々の他の酵素反応系、血液凝固系、線維素溶解系、補体系、並びにプロスタグランジン、ロイコトリエン及びトロンボキサンに主に関連したカテコールアミンとアラキドン酸のカスケードと密接な関係にある。したがって、カリクレイン−キニン系は、血圧調節作用及び血液凝固−線維素溶解−補体系作用に密接に関連する。アラキドン酸カスケードによって生成される種々の生理活性物質による生体防御及び末梢循環の改善作用も、血しょうカリクレイン−キニン系に関連する。
【0007】
ブラジキニンなどのキニンは、カリクレイン−キニン系で生成される。キニンは、末梢血管の拡張による血圧降下の誘導、血管透過性の促進、平滑筋の収縮又は弛緩、とう痛の誘導、炎症の誘導、白血球遊走、副腎皮質からのカテコールアミンの遊離などの種々の生理作用を示す。
【0008】
ブラジキニンは、インスリン感受性を増大させることが知られており、糖尿病の治療薬として示唆された。例えば、米国特許第4,146,613号は、スルホニル(sulfyl)尿素とブラジキニンを含む経口投与抗糖尿病薬を教示する。米国特許第4,150,121号は、ブラジキニンとインスリンを含む糖尿病治療用注射組成物を教示する。
【0009】
カリクレイン−キニン系は、インスリン制御下にあることも示唆されている(Ottlecz, A., Koltai, M. and Gecse, A.(1979). Plasmakinin System in Alloxan Diabetic Rats. Current concepts in kinin research. Proceedings of the Satellite Symposium of the 7th International Congress of Pharmacology.(pp 57−64) Oxford, England: Pergamon Press)。これらの著者は、インスリンが欠乏しているアロキサン誘導性I型糖尿病ラットが、血しょうと組織の両方において高いキニノーゲンレベルを有することを示している。
【0010】
しかし、本発明者らの最近の研究まで、インスリン抵抗性、糖尿病などの代謝障害治療のために、低及び/又は高分子量キニノーゲンを開裂させる能力のある組織カリクレイン又はカリクレインの使用を企図したものはない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第4,146,613号
【特許文献2】米国特許第4,150,121号
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Moreau, M.E,, Garbacki, N., Molinaro, G., Brown, N.J., and Marceau, F.(2005) The Kallikrein−Kinin System: Current and Future Pharmacological Targets. J Pharmacol Sci. 99:6−38
【非特許文献2】Ottlecz, A., Koltai, M. and Gecse, A.(1979). Plasmakinin System in Alloxan Diabetic Rats. Current concepts in kinin reserch. Proceedings of the Satellite Symposium of the 7th International Congress of Pharmacology.(pp 57−64) Oxford, England: Pergamon Press
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
第1の態様において、本発明は、(a)被験対象から採取された生物試料中のバイオマーカーの濃度を決定し、前記バイオマーカーが、組織カリクレイン(KLK1)、その変種若しくはその生物活性断片、キニノーゲン又はこれらの組合せからなる群から選択される段階と、(b)バイオマーカー濃度を基準バイオマーカー値範囲と比較する段階とを含み、決定されたバイオマーカー濃度が基準バイオマーカー値範囲外であることによって、個体が代謝障害に罹患していると確認される、代謝障害のスクリーニング方法を提供する。
【0014】
本発明の一実施形態において、代謝障害のスクリーニング方法は、(c)被験対象から採取された生物試料中のインスリンの濃度を決定する段階と、(d)インスリン濃度を基準インスリン値範囲と比較する段階とを更に含み、決定されたバイオマーカー濃度が基準バイオマーカー値範囲よりも高く、かつ決定されたインスリン濃度が基準インスリン値範囲よりも低いことによって、個体が1型糖尿病に罹患していると確認される。
【0015】
本発明の別の一実施形態において、代謝障害のスクリーニング方法は、(c)被験対象から採取された生物試料中のインスリンの濃度を決定する段階と、(d)インスリン濃度を基準インスリン値範囲と比較する段階とを更に含み、決定されたバイオマーカー濃度が基準バイオマーカー値範囲よりも低く、かつ決定されたインスリン濃度が基準インスリン値範囲よりも高いことによって、個体が2型糖尿病に罹患していると確認される。
【0016】
本発明の更に別の一実施形態において、キニノーゲンは高分子量キニノーゲンである。
【0017】
本発明の別の一実施形態において、キニノーゲンは低分子量キニノーゲンである。
【0018】
本発明の更に別の一実施形態において、被験対象はヒトである。
【0019】
本発明の別の一実施形態において、生物試料は血液である。
【0020】
本発明の別の一実施形態において、生物試料は尿である。
【0021】
本発明の別の一実施形態において、バイオマーカーの濃度は、免疫測定法、液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、質量分析法及びこれらの組合せからなる群から選択される方法を用いて決定される。
【0022】
本発明の更に別の一実施形態において、インスリン濃度は、免疫測定法、液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、質量分析法及びこれらの組合せからなる群から選択される方法を用いて決定される。
【0023】
第2の態様において、本発明は、組織カリクレイン(KlK1)、その変種又はその生物活性断片と、薬学的に許容される担体とを含む、薬剤組成物を提供する。
【0024】
本発明の別の一実施形態において、組織カリクレイン(KLK1)はブタ組織カリクレインである。
【0025】
本発明の別の一実施形態において、組織カリクレイン(KLK1)はヒト組織カリクレインである。
【0026】
一態様において、本発明は、ACE阻害薬と、コリン作動薬と、薬学的に許容される担体とを含む、薬剤組成物を提供する。
【0027】
本発明の一実施形態において、ACE阻害薬は、ベナゼプリル、カプトプリル、シラザプリル、エナラプリル、エナラプリラート、フォシノプリル、リシノプリル、モエキシプリル、ペリンドプリル、キナプリル、ラミプリル、トランドラプリル及びこれらの混合物からなる群から選択される。
【0028】
本発明の別の一実施形態において、コリン作動薬は、アセチルコリン、メタコリン、ベタネコール、BIBN 99、DIBD、SCH−57790、SCH−217443、SCH−72788、アレコリン、アレコリン類似体、キサノメリン、アルバメリン、ミラメリン、RU 47213、サブコメリン、PD−151832、CDD−0034−C、CDD−0102、スピロピペリジン、スピロキヌクリジン、ムスカリン、シス−ジオキソラン、RS86、AF−30、オクビメリン、AF150(S)、AF267B、SDZ 210−086、YM−796、アセチルコリンの硬質類似体、アセクリジン、タルサクリジン、オキソトレモリン、オキソトレモリン類似体、ピロカルピン、ピロカルピン類似体、チオピロカルピン及びこれらの混合物からなる群から選択される。
【0029】
更に別の一態様において、本発明は、(a)組織カリクレイン(KLK1)、その変種又は生物活性断片と、(b)少なくとも1種類の糖尿病薬と、(c)薬学的に許容される担体とを含む、薬剤組成物を提供する。
【0030】
本発明の一実施形態において、少なくとも1種類の糖尿病薬は、抗酸化剤、インスリン、インスリン類似体、αアドレナリン受容体拮抗物質、βアドレナリン受容体拮抗物質、非選択的アドレナリン受容体拮抗物質、スルホニル尿素、ビグアナイド剤、安息香酸誘導体、αグルコシダーゼ阻害薬、チアゾリジンジオン、ホスホジエステラーゼ阻害薬、コリンエステラーゼ拮抗物質、グルタチオン増加化合物、インクレチン又はインクレチン模倣物(mimetic)からなる群から選択される。
【0031】
更に別の一態様において、インクレチン又はインクレチン模倣物は、グルカゴン様ペプチド1(GLP−1)、グルカゴン様ペプチド2(GLP−2)、グルカゴン様ペプチド類似体又はエクセナチドからなる群から選択される。
【0032】
更に別の一態様において、本発明は、本発明による薬剤組成物の治療有効量を代謝障害の予防又は治療を必要とする対象に投与することを含む、代謝障害を予防又は治療する方法を提供する。
【0033】
更に別の一態様において、本発明は、組織カリクレイン(KLK1)、その変種又はその生物活性断片の治療有効量を投与することを含む、代謝障害を予防又は治療する方法を提供する。
【0034】
本発明の一実施形態において、代謝障害を予防又は治療する方法は、KLK1の治療有効量を投与することを含む。
【0035】
更に別の一態様において、本発明は、代謝障害の治療及び予防を必要とする患者における代謝障害を治療及び予防するための組織カリクレイン(KLK1)、その変種又はその生物活性断片の使用を提供する。
【0036】
更に別の一態様において、本発明は、代謝障害の治療及び予防用医薬品であって、組織カリクレイン(KLK1)、その変種又はその生物活性断片の治療有効量を含む医薬品を調製するための組織カリクレイン(KLK1)、その変種又はその生物活性断片の使用を提供する。
【0037】
本発明の一実施形態において、KLK1は、代謝障害を治療及び予防するための医薬品の調製に使用される。
【0038】
更に別の一態様において、本発明は、代謝障害の治療及び予防を必要とする患者における代謝障害を治療及び予防するためのACE阻害薬及びコリン作動薬の使用を提供する。
【0039】
本発明の一実施形態において、ACE阻害薬は、ベナゼプリル、カプトプリル、シラザプリル、エナラプリル、エナラプリラート、フォシノプリル、リシノプリル、モエキシプリル、ペリンドプリル、キナプリル、ラミプリル、トランドラプリル及びこれらの混合物からなる群から選択される。
【0040】
本発明の別の一実施形態において、コリン作動薬は、アセチルコリン、メタコリン、ベタネコール、BIBN 99、DIBD、SCH−57790、SCH−217443、SCH−72788、アレコリン、アレコリン類似体、キサノメリン、アルバメリン、ミラメリン、RU 47213、サブコメリン、PD−151832、CDD−0034−C、CDD−0102、スピロピペリジン、スピロキヌクリジン、ムスカリン、シス−ジオキソラン、RS86、AF−30、オクビメリン、AF150(S)、AF267B、SDZ 210−086、YM−796、アセチルコリンの硬質類似体、アセクリジン、タルサクリジン、オキソトレモリン、オキソトレモリン類似体、ピロカルピン、ピロカルピン類似体、チオピロカルピン及びこれらの混合物からなる群から選択される。
【0041】
更に別の一態様において、本発明は、(a)本発明による薬剤組成物の個々の剤形と、(b)剤形の投与を必要とする対象に薬剤組成物を投与するための説明書とを含む、代謝障害の治療及び予防用キットを提供する。
【0042】
更に別の一態様において、本発明は、(a)組織カリクレイン(KLK1)の個々の剤形と、(b)剤形の投与を必要とする対象に剤形を投与するための説明書とを含む、代謝障害の治療及び予防用キットを提供する。
【0043】
更に別の一態様において、本発明は、(a)特異的結合及び/又は相互作用を可能にする条件下で、カリクレインプロモーターの制御下にあるレポーター構築物を試験分子若しくは化合物又は試験分子若しくは化合物のライブラリーと接触させる段階と、(b)レポーター構築物の発現レベルを検出する段階とを含み、対照に比べた発現レベルの変化が潜在的治療活性を示す、KLK1又はその変種若しくは生物活性断片をコードするポリヌクレオチド配列の異常発現に起因する代謝障害を治療又は予防するための治療薬のスクリーニング方法を提供する。
【0044】
一態様において、本発明は、(a)特異的結合及び/又は相互作用を可能にする条件下で、組織カリクレイン(KLK1)、その変種又はその生物活性断片を試験分子若しくは化合物又は試験分子若しくは化合物のライブラリーと接触させる段階と、(b)特異的結合及び/又は相互作用のレベルを検出する段階とを含み、対照に比べた相互作用レベルの変化が潜在的治療活性を示す、組織カリクレイン(KLK1)、その変種又はその生物活性断片の生物活性の変化に起因する代謝障害を治療又は予防するための治療薬のスクリーニング方法を提供する。
【0045】
本発明の一実施形態において、代謝障害は、インスリン抵抗性、糖尿病前症、糖尿病、耐糖能障害、糖代謝障害、高血糖、高インスリン血症及びX症候群からなる群から選択される。
【0046】
本発明の別の一実施形態において、試験分子又は化合物のライブラリーは、DNA分子、ペプチド、作動物質、拮抗物質、モノクローナル抗体、免疫グロブリン、低分子の薬物及び薬剤からなる群から選択される。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】種々のM2ムスカリン性拮抗物質の化学構造を示す図である。
【図2】種々のアレコリン(areoline)類似体ムスカリン性作動物質の化学構造を示す図である。
【図3】ムスカリン活性を有する種々のスピロピペリジン及びスピロキヌクリジンの化学構造を示す図である。
【図4】ムスカリン活性を有するアセチルコリンの種々の硬質類似体の化学構造を示す図である。
【図5】種々のオキソトレモリン及びピロカルピン ムスカリン性作動物質の化学構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
本発明者らは、今回、カリクレイン−キニン系が、インスリン応答性の調節に明白な独立した役割を果たすことを確認した。本発明者らは、カリクレイン−キニン系の変化、特に組織カリクレイン−キニン系の変化が、肝臓ムスカリンコリン作動拮抗によって更に調節されない、インスリン感受性の障害をもたらすことを確認した。本発明者らは、さらに、インスリン非感受性が組織カリクレインの発現及び/又は生物活性の変化と相関することも確認した。したがって、本発明は、いかなる特別な作用モデルや機序に限定されないが、カリクレイン−キニン系、特に組織カリクレイン−キニン系は、インスリン感受性を調節すると考えられる。
【0049】
「組織カリクレイン」又は「KLK1」は、リシル−ブラジキニンへのキニノーゲンの開裂によって高血圧を抑制するその役割が第一に注目されるセリンプロテアーゼである(Yousef et al., Endocrine Rev. 2001;22:184−204)。KLKファミリーには多数の酵素があるので、本発明者らは、その認識されている高血圧調節における役割に加えて、KLK1が広範な又は複数の標的に作用する酵素であるようにみえ、したがってインスリン感受性及びグルコース制御に重要な役割を特異的に果たし得ると考えた。本明細書では「組織カリクレイン」又は「KLK1」という用語は、以下の用語、すなわち、カリクレイン(callicrein)、グルモリン(glumorin)、パドレアチン(padreatin)、パズチン(padutin)、カリジノゲナーゼ、ブラジキニノゲナーゼ(bradykininogenase)、すい臓カリクレイン、オノクレイン(onokrein)P、ジリミナール(diliminal)D、デポー−パズチン(depot−Padutin)、ウロカリクレイン(urokallikrein)又は尿カリクレインと同義である。
【0050】
組織カリクレインは、以下の配列(配列番号1)
NP_001001911 GI:50054435 イノシシ
1−17 シグナルペプチド
18−24 プロペプチド
25−263 成熟ペプチド
>gi|50054435|ref|NP_001001911.1|カリクレイン1[イノシシ]
【0051】
【化1】

又は(配列番号2)を有する。
【0052】
NP_002248 GI4504875 ホモサピエンス
1−18 シグナルペプチド
19−24 プロペプチド
25−262 成熟ペプチド
>gi|4504875|ref|NP_002248.1|カリクレイン1プレプロタンパク質[ホモ サピエンス]
【0053】
【化2】

【0054】
診断学
本発明者らは、カリクレイン−キニン系、特に組織カリクレイン−キニン系の変化が、1型及び2型糖尿病などの代謝障害において認められるインスリン感受性の低下の原因であることを確認した。特に、本発明者らは、組織カリクレインの発現及び/又は生物活性の変化がインスリン感受性の低下と強く相関することを確認した。したがって、カリクレイン及びその基質キニノーゲンは、低インスリン感受性を特徴とする代謝障害をスクリーニングするためのバイオマーカーとして使用することができる。
【0055】
本明細書では「バイオマーカー」とは、その有無によって正常からの生理の変化を示す分子を指す。
【0056】
本明細書では「代謝障害」とは、インスリン感受性及び/又はグルコース利用の障害に直接的又は間接的に起因する任意の代謝障害を指す。代謝障害の例としては、インスリン抵抗性、糖尿病前症、糖尿病、糖不耐性障害、糖代謝障害、高血糖、高インスリン血症及びX症候群が挙げられるが、これらだけに限定されない。
【0057】
本明細書では「スクリーニング」とは、上述したように、1種類以上のバイオマーカーの発現を特徴とする障害の存在について対象を評価するのに用いられる手順を指す。スクリーニング手順は、個体のグループ又は集団内の個体のどれが特別な障害に罹患しているかを判定するのに有用かつ有益である限り、偽陽性も偽陰性も含まない必要はない。本明細書に開示するスクリーニング方法は、診断及び/又は予後の方法であり得、及び/又は患者療法のモニターに使用することができる。
【0058】
本明細書では「診断法」は、特別な障害に罹患した対象を特定するのに実施されるスクリーニング手順を指す。
【0059】
「予後の方法」とは、疾患の経過を少なくとも部分的に予測するのを助けるのに用いられる方法を指す。或いは、予後の方法を疾患の重症度の評価に使用することができる。例えば、本明細書に開示するスクリーニング手順を実施して、罹患した個体を特定し、疾患の重症度を評価し、及び/又は疾患の将来の経過を予測することができる。かかる方法は、治療処置の必要性、実施すべき治療タイプなどの評価に有用であり得る。また、予後の方法は、特別な障害であると以前に診断された対象に対して、疾患がどのように進行するかをより深く洞察することがその特定の対象にとって望ましいときに、実施することができる(例えば、特定の患者が、特定の薬物療法に有利に反応する可能性、又は臨床試験を実施する目的で患者を明確な異なる亜集団に分類若しくは区別することが望ましいとき)。
【0060】
本明細書では「濃度を定量化する」又は「濃度を決定する」という用語は、示した試料中の分析物の濃度又はレベルの測定を指す。典型的には、定量化又は決定段階の結果として、絶対的又は相対的数値が、試料中の分析物の濃度に割り当てられる。以下により詳細に記述するように、当分野で公知の任意の適切な方法を使用して、本発明に従って生物試料中の1種類以上のバイオマーカーの濃度を定量化又は決定することができる。
【0061】
バイオマーカーの濃度を「定量化する」又は「決定する」方法は、やはり以下により詳細に記述するように、定量的及び又は半定量的方法の両方を包含する。
【0062】
「定量的」方法は、生物試料中の分析物の濃度に絶対的又は相対的数値を割り当てる方法である。
【0063】
「半定量的」方法は、分析物の濃度がしきい値レベルを超えることを示すが、絶対的又は相対的数値を割り当てない方法である。
【0064】
一般に、本明細書に開示する方法は、獣医学と医学の両方の適用分野を有する。したがって、対象は、ヒト、サル、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ウサギ、げっ歯類、トリなどであり得る。しかし、典型的には、本発明による対象はヒト対象である。
【0065】
本明細書では、「生物試料」は、1種類以上のバイオマーカーが検出され得る、(培養細胞及び組織を含めた)任意の適切な体液、細胞又は組織を含み得る。好ましくは、生物試料は血液又は尿である。
【0066】
本発明は、変化したインスリン感受性と相関するバイオマーカーを検出することによって代謝障害をスクリーニングする方法を提供する。本発明者らは、組織カリクレイン及びキニノーゲンのレベルが、変化したインスリン感受性と強く相関することを確認した。したがって、本発明は、これらのバイオマーカーの検出を含む、インスリン抵抗性及び糖尿病を含めて、ただしこれらだけに限定されない代謝障害をスクリーニングする方法を提供する。
【0067】
スクリーニング方法は、(a)被験対象から採取された生物試料中のバイオマーカーの濃度を決定し、前記バイオマーカーが、組織カリクレイン又はその変種又は及び生物活性断片、キニノーゲン、又はこれらの組合せからなる群から選択される段階と、(b)バイオマーカー濃度を基準バイオマーカー値範囲と比較する段階とを含み、決定されたバイオマーカー濃度が基準バイオマーカー値範囲外であることによって、個体が代謝障害に罹患していると確認される。
【0068】
スクリーニング方法は、組織カリクレイン及び低分子量キニノーゲンと高分子量キニノーゲンの両方の使用を包含する。好ましい一実施形態において、バイオマーカーは、好ましくは、組織カリクレインである。別の好ましい一実施形態において、バイオマーカーは、好ましくは、高分子量キニノーゲンである。
【0069】
基準値は、当分野で公知の統計法を用いて、正常インスリン感受性及びインスリン感受性障害を有する対象におけるバイオマーカーレベルを測定することによって決定することができる。
【0070】
本発明者らは、1型糖尿病が、より高レベルのカリクレイン−キニン活性及び低レベルのインスリンを特徴とするのに対して、2型糖尿病が、より低レベルのカリクレイン−キニン活性及び高レベルのインスリンを特徴とすることを確認した。したがって、本発明は、さらに、1型と2型の糖尿病を区別してスクリーニングする方法も提供する。本発明のこの実施形態において、好ましいバイオマーカーは、組織カリクレインであり、スクリーニング方法は、被験対象から採取された生物試料中のインスリンの濃度を決定する段階と、インスリン濃度を基準インスリン値範囲と比較する段階とを更に含む。
【0071】
本発明は、さらに、任意のバイオマーカーの異常レベルを特徴とする障害に罹患したと陽性診断された被験対象の臨床経過をモニターする方法にも使用される。任意のバイオマーカーのレベルは、罹患した対象の臨床状態と相関し得る。すなわち、組織カリクレインの低い発現は、インスリン抵抗性の重症度の増加と相関し得る。したがって、バイオマーカーレベルは、治療効力、及び患者の臨床症状の指標として使用することができる。
【0072】
したがって、本発明は、さらに、1種類以上のバイオマーカーのレベルを特徴とする障害を有する対象の臨床状態をモニターする方法も包含する。対象の臨床症状をモニターして、治療計画、例えば薬物又は食餌療法の効力を決定することができる。例えば、現行の治療計画が有効でないことをバイオマーカーレベルが示唆している場合、手直しされた治療コースを開始する決定をすることができる。或いは、対象の状態をモニターして、対象の治療を開始又は再開するかどうかを決定することができる。
【0073】
本明細書に開示する進歩的スクリーニング方法は、バイオマーカーの有無を検出し、(上述したように)生物試料中のバイオマーカーの濃度を決定する、任意の適切な方法によって実施することができる。説明のための方法としては、クロマトグラフィー法(例えば、高速液体クロマトグラフィー)、免疫測定法(例えば、イムノアフィニティークロマトグラフィー、免疫沈降、放射性免疫測定法、免疫蛍光アッセイ、免疫細胞化学アッセイ、免疫ブロット、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)など)、液体クロマトグラフィー−質量分析法、ガスクロマトグラフィー−質量分析法、飛行時間型質量分析法、タンデム型質量分析法、及びこれらの質量分析法技術と免疫精製の組合せが挙げられるが、これらだけに限定されない。
【0074】
好ましい方法は、単純、迅速、正確、高感度であり、好ましくは、バイオマーカー以外の分子からの妨害信号を最小化する。集団検診方法として用いるときには、方法は、既存のスクリーニングアッセイと両立でき、自動化、及び試料の高処理スクリーニングに適応可能であることが更に好ましい。
【0075】
方法は、完全に手作業であり得、或いは好ましくは、部分的又は完全に自動化されている。多数の試料を評価するスクリーニングプログラム(例えば、地域検診(community screening)プログラム)は、一般に、試料の高処理を容易にするために少なくとも部分的に自動化される。典型的には、例えば、データは、自動システムによって取り込まれ、解析される。他の好ましい高処理方法においては、点状の生物試料(例えば、血液、尿)のアレイ又はマイクロアレイを同時に分析することができる。
【0076】
本発明の一実施形態において、MS/MSは、上記進歩的方法の実施に好ましい方法である。三連四重極質量分析計を用いた混合物分析用MS/MSの概念は、Yost and Enke, Tandem quadrupole mass spectrometry. In: Tandem Mass Spectrometry, F.W. McLafferty(Ed.), Wiley & Sons, New York,(1983), pp.175−195から生じた。類似の構造タイプの化合物を選択的に検出するために、共通生成イオンに断片化する分子種を同定するプレカーサーイオンスキャン機能、又は共通断片を失うイオンを同定するコンスタントニュートラルロススキャン機能、又は選択された前駆及び生成イオンのみを検出するマルチプルリアクションモニタリングを使用する。ワークアップ及び分析前に、安定同位体標識類似体などの適切な内部標準を生物学的マトリックスに添加すると、標的分析物の正確な定量化が容易になる。
【0077】
三連四重極質量分析法、及び四重極と飛行時間型の質量分析計を組み合わせたハイブリッド型質量分析法を含めて、ただしこれらだけに限定されない当分野で公知の任意の適切なMS/MS方法を使用することができる。イオントラップ及びイオンサイクロトロン共鳴質量分析計を使用することもできる。
【0078】
或いは、免疫測定法によって、抗体を用いて、1種類以上のバイオマーカーの有無を検出することもできる。本明細書では「抗体」という用語は、IgG、IgM、IgA、IgD及びIgEを含めて、免疫グロブリンの全タイプを指す。抗体は、モノクローナルでもポリクローナルでもよく、(例えば)マウス、ラット、ウサギ、ウマ又はヒトを含めて、任意の起源の種であり得、又はキメラ抗体であり得る。例えば、M. Walker et al., Molec. Immunol. 26, 403−11(1989)を参照されたい。抗体は、Reading 米国特許第4,474,893号、又はCabilly他、米国特許第4,816,567号に開示された方法に従って作製された組換えモノクローナル抗体であり得る。抗体は、Segal他、米国特許第4,676,980号に開示された方法に従って作製された特異抗体によって、化学的に構築することもできる。
【0079】
濃度又は特定のバイオマーカーを定量化するために、バイオマーカーに特異的なモノクローナル抗体を、プレート、管、ビーズ、粒子などの固体表面に付着させることができる。好ましくは、抗体をマルチウェルELISAプレートのウェル表面に付着させる。血液試料100μlを固相抗体に添加する。試料を室温で2時間温置する。次に、試料流体の上澄みを移し、固相を緩衝剤で洗浄して、結合していない材料を除去する。(対象ポリペプチド/タンパク質上の異なる決定基に対する)二次モノクローナル抗体100μlを固相に添加する。この抗体を検出分子(例えば、125I、酵素、蛍光団又は発色団)で標識し、二次抗体を含む固相を室温で2時間温置する。二次抗体の上澄みを移し、固相を緩衝剤で洗浄して、結合していない材料を除去する。試料中に存在するバイオマーカーの量に比例する結合標識の量を定量する。当分野で公知である他のタイプの免疫測定法を使用することもできる。
【0080】
インスリン濃度を測定することが望ましい場合、任意の適切な上記方法を使用することができる。好ましくは、血しょうインスリンを放射性免疫測定法によって分析することができる。かかる方法は、当分野で周知である。
【0081】
薬物スクリーニング
本発明は、さらに、インスリン非感受性を特徴とする代謝障害の治療及び予防用の治療薬をスクリーニングする方法も提供する。スクリーニング方法は、カリクレイン−キニン系の変化、特に組織カリクレイン発現及び/又は生物活性の変化が、低インスリン感受性と強く相関するという本発明者らの発見に基づく。
【0082】
「試験分子又は化合物のライブラリー」という句は、本明細書では、DNA分子、ペプチド、作動物質、拮抗物質、モノクローナル抗体、免疫グロブリン及び/又は薬剤を含むライブラリーを含む。これらのライブラリーは、新しい、又は既知の、分子又は化合物を含み得る。また、本明細書では「モノクローナル抗体」及び「免疫グロブリン」という用語は、その断片又は誘導体を含む。
【0083】
本明細書では「レポーター構築物」という用語は、別の配列にインフレームで連結されて、その生成物が容易に分析されるコード単位を与える標的遺伝子を包含する。レポーター遺伝子の例としては、βガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、緑色蛍光タンパク質(GFP)、高感度緑色蛍光タンパク質(EGFP)、Ds Red蛍光タンパク質、遠赤外蛍光タンパク質(Hc−red)、分泌型アルカリホスファターゼ(SEAP)、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)、ネオマイシンなどが挙げられるが、これらだけに限定されない。
【0084】
本発明による試験化合物は、生物学的ライブラリー、空間的にアドレス指定可能な(aptially addressable)並列固相又は溶液相ライブラリー、逆重畳(deconvolution)を必要とする合成ライブラリー法、「1ビーズ1化合物(one−bead−one−compound)」ライブラリー法、及びアフィニティークロマトグラフィー選択を用いた合成ライブラリー法を含めて、当分野で公知のコンビナトリアルライブラリー法における多数の手法のいずれかを用いて得ることができる。生物学的ライブラリー手法は、ペプチドライブラリーに限定され、他の4つの手法は、化合物のペプチド、非ペプチドオリゴマー又は低分子ライブラリーに適用可能である(Bindseil et al. (2001) Drug Discov. Today 6, 840−847、Grabley et al. (2000) Ernst Schering Res. Found. Workshop, pp.217 252、Houghten et al. (2000) Drug Discov. Today 5, 276 285、Rader, C. (2001) Drug Discov. Today 6, 36 43)。
【0085】
分子ライブラリーの合成方法の例は、当分野では、例えば、DeWitt et al. (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90, 6909−6913、Erb et al. (1994) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91, 11422−11426、Gallop et al. (1994) J. Med. Chem. 37, 1233−1251、Gordon et al. (1994) J. Med. Chem. 37, 1385 1401に見いだすことができる。
【0086】
化合物ライブラリーは、溶液状態で(例えば、Houghten (1992) Biotechniques 13, 412−421)、又はビーズ上(Lam et al. (1991) Nature 354, 82−84)、チップ上(Fodor et al. (1993) Nature 364, 555−556)、細菌上(1993年6月に発行された米国特許第5,223,409号)、胞子上[(1996年11月に発行された)米国特許第5,571,698号、(1995年4月に発行された)同5,403,484号及び(1993年6月に発行された)同5,223,409号]、プラスミド上(Cull et al. (1992) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89, 1865−1869)若しくはファージ上(Scott and Smith (1990) Science. 249, 386−390、Devlin et al. (1990) Science. 249, 404−406、Cwirla et al. (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87, 6378 6382、Felici et al. (1991) J. Mol. Biol. 222, 301−310)に、存在し得る。
【0087】
一態様において、本発明は、(a)特異的結合及び/又は相互作用を可能にする条件下で、組織カリクレインプロモーターの制御下にあるレポーター構築物を試験分子若しくは化合物又は試験分子若しくは化合物のライブラリーと接触させる段階と、(b)レポーター構築物の発現レベルを検出する段階とを含み、対照に比べた発現レベルの変化が潜在的治療活性を示す、組織カリクレインをコードするポリヌクレオチド配列の異常発現に起因する代謝障害を治療又は予防するための治療薬のスクリーニング方法を提供する。
【0088】
組織カリクレインプロモーターは、好ましくはcDNAの5’末端を含む、カリクレインcDNAを用いてゲノムライブラリーをスクリーニングすることによって単離することができる。好ましい一実施形態において、カリクレインプロモーターは組織カリクレインプロモーターである。組織カリクレインの遺伝子は、ヒトを含めた幾つかの種において特定された(NCBI Accession No. AAB34120参照)。
【0089】
次いで、典型的には20から約500塩基対長の、前記カリクレインプロモーターの一部を、プラスミド中のレポーター遺伝子、例えば、βガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、緑色蛍光タンパク質(GFP)、高感度緑色蛍光タンパク質(EGFP)、Ds−Red蛍光タンパク質、遠赤外蛍光タンパク質(Hc−red)、分泌型アルカリホスファターゼ(SEAP)、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)、ネオマイシン遺伝子の上流にクローン化する。次いで、このレポーター構築物を細胞、例えばほ乳動物細胞に移入する。移入細胞をマルチウェルプレートのウェルに散布し、種々の濃度の試験分子又は化合物をウェルに添加する。数時間温置後、レポーター構築物の発現レベルを当分野で公知の方法に従って測定する。試験分子又は化合物なしで温置した移入細胞と比較した、試験分子又は化合物と一緒に温置した移入細胞中のレポーター構築物の発現レベルの差は、試験分子又は化合物がカリクレインの発現を調節する能力のあることを示す。
【0090】
別の一態様において、本発明は、(a)特異的結合及び/又は相互作用を可能にする条件下で、組織カリクレイン又はその活性断片を試験分子若しくは化合物又は試験分子のライブラリーと接触させて、結合した複合体を用意する段階と、(b)組織カリクレイン基質を結合複合体に添加し、カリクレイン活性を測定する段階とを含み、対照に比べたカリクレイン活性レベルの変化が潜在的治療活性を示す、組織カリクレインの生物活性の変化に起因する代謝障害を治療又は予防するための治療薬のスクリーニング方法を提供する。
【0091】
好ましい一実施形態において、基質はキニノーゲンである。使用するキニノーゲンのタイプは、使用するカリクレインのタイプに応じて決まる。合成基質を含めて、当分野で公知の他のカリクレイン基質も、方法の実施に使用することができる。
【0092】
方法は、内在性組織カリクレインを含む、血液、血しょう、尿試料などの生物試料を用いて、実施することができる。或いは、方法は、機能的カリクレインを発現するように形質転換された宿主細胞を用いて実施することができる。使用するカリクレインが組織カリクレインである場合、組織カリクレインの生物活性断片を発現することが好ましい。
【0093】
本発明の別の一実施形態において、精製組織カリクレイン又はその生物活性断片を含む無細胞系を使用して、スクリーニング方法を実施することができる。カリクレイン又はカリクレイン断片を固体マトリックス上に固定することが望ましい場合もある。
【0094】
薬剤組成物
組織カリクレイン又は活性断片を含む組成物
「生物活性断片」という用語は、完全長KLK1ポリペプチドの活性を保持する、KLK1ポリペプチドのより小さい部分を指す。
【0095】
出発又は基準ポリペプチドの「変種」又は「変異体」は、1)出発又は基準ポリペプチドのアミノ酸配列とは異なるアミノ酸配列を有するポリペプチド、及び2)自然又は人為的(人工的)変異誘発によって出発又は基準ポリペプチドから誘導されるポリペプチドである。かかる変種は、例えば、当該ポリペプチドのアミノ酸配列内の残基からの欠失、及び/又は残基への挿入、及び/又は残基の置換を含む。変種アミノ酸は、本明細書においては、(もとの抗体又は抗原結合断片のアミノ酸などの)出発又は基準ポリペプチド配列中の対応する位置のアミノ酸とは異なるアミノ酸を指す。最終構築物が所望の機能的特性を有することを前提に、欠失、挿入及び置換の任意の組合せを実施して、最終の変種又は変異体構築物に到達することができる。アミノ酸変化は、グリコシル化部位の数又は位置の変化など、ポリペプチドの翻訳後プロセスも変え得る。
【0096】
本発明の別の一態様において、カリクレイン−キニン系、特に組織カリクレインの補足的内在性(supplement endogenous)レベルを調節する薬剤組成物を提供する。薬剤組成物は、インスリン感受性を特徴とする代謝障害の治療及び予防に、より好ましくは組織カリクレイン発現及び/又は生物活性の障害を特徴とする代謝障害の治療及び予防に、特に有用である。
【0097】
薬剤組成物は、組織カリクレイン又はその生物活性断片と、薬学的に許容される担体とを含む。
【0098】
本発明の好ましい一実施形態において、薬剤組成物は、組織カリクレインの未変性活性型、又は未変性活性組織カリクレインのプロテアーゼ活性を実質的に保持するその断片を含む。かかる生物活性断片としては、未変性タンパク質のアミノ酸を含むポリペプチドが挙げられる。
【0099】
ACE阻害薬とコリン作動薬とを含む組成物
本明細書に記載の科学文献及び研究によれば、ブラジキニンは、インスリン感受性を増大させ得る。ACE阻害薬は、ブラジキニン(及び関連種)の分解を防止し、続いてやはりインスリン感受性を増大させることが判明した。本発明者らは、コリン作動薬を使用すると、カリクレイン−キニン系が活性化されることを示した。総合して、ACE阻害薬とコリン作動薬は、インスリン感受性をかなり増大させる。
【0100】
本発明は、インスリン非感受性を特徴とする代謝障害の治療及び予防に有用である更なる薬剤組成物を提供する。薬剤組成物は、ACE阻害薬と、コリン作動薬と、薬学的に許容される担体とを含む。薬剤組成物は、カリクレイン−キニンと肝臓副交感神経系の複合調節によって、ACE阻害薬又はコリン作動薬の単独投与に比べて、インスリン応答性の相乗的改善が得られるという本発明者らの発見に基づく。
【0101】
任意の適切なACE阻害薬を使用して、本発明を実施することができる。適切なACE阻害薬の例としては、ベナゼプリル、カプトプリル、シラザプリル、エナラプリル、エナラプリラート、フォシノプリル、リシノプリル、モエキシプリル、ペリンドプリル、キナプリル、ラミプリル、トランドラプリル又はこれらの混合物が挙げられるが、これらだけに限定されない。好ましい一実施形態において、ACE阻害薬はエナラプリル又はリシノプリルである。
【0102】
任意の適切なコリン作動薬を使用して、本発明を実施することができる。適切なコリン作動薬の例としては、アセチルコリン、メタコリン、ベタネコール、BIBN 99(図1)、DIBD(図1)、SCH−57790(図1)、SCH−217443(図1)、SCH−72788(図1)、アレコリン(図2)、アレコリン類似体(図2)、キサノメリン(図2)、アルバメリン(図2)、ミラメリン(図2)、RU 47213(図2)、サブコメリン(図2)、PD−151832(図2)、CDD−0034−C(図2)、CDD−0102(図2)、スピロピペリジン(図3)、スピロキヌクリジン(図3)、ムスカリン(図3)、シス−ジオキソラン(図3)、RS86(図3)、AF−30(図3)、オクビメリン(図3)、AF150(S)(図3)、AF267B(図3)、SDZ 210−086(図3)、YM−796(図3)、アセチルコリンの硬質類似体(図4)、アセクリジン(図4)、タルサクリジン(図4)、オキソトレモリン(図5)、オキソトレモリン類似体(図5)、ピロカルピン(図5)、ピロカルピン類似体(図5)又はチオピロカルピン(図5)が挙げられるが、これらだけに限定されない。任意のこれらの化合物のニトロシル化体を使用することもできる。本発明の一実施形態において、コリン作動薬は、好ましくはアセチルコリン、より好ましくはベタネコールである。
【0103】
組織カリクレインと公知の糖尿病薬とを含む組成物
本発明は、インスリン非感受性を特徴とする代謝障害の治療及び予防に有用である更なる薬剤組成物を提供する。本発明は、a)組織カリクレインと、b)少なくとも1種類の糖尿病薬と、c)薬学的に許容される担体とを含む、新規薬剤組成物を提供する。
【0104】
本明細書では「糖尿病薬」という用語は、インスリン抵抗性及び糖尿病の治療又は予防に有用であることが当分野で知られている任意の組成物を指す。本発明の実施に使用することができる糖尿病薬の例としては、以下が挙げられるが、これらだけに限定されない。
【0105】
(a)ビタミンE、ビタミンC、イソフラボン、亜鉛、セレン、エブセレン、カロテノイドなどの抗酸化剤、
(b)レギュラーインスリン、レンテインスリン、セミレンテインスリン、ウルトラレンテインスリン、NPH、Humalogなどのインスリン又はインスリン類似体、
(c)プラゾシン、ドキサゾシン、フェノキシベンザミン、テラゾシン、フェントラミン、ラウオルシン、ヨヒンビン、トラゾリン、タムスロシン、テラゾシンなどのαアドレナリン受容体拮抗物質、
(d)アセブトロール、アテノロール、ベタキソロール、ビソプロロール、カルテオロール、エスモロール、メトプロロール、ナドロール、ペンブトロール、ピンドロール、プロプラノロール(propanolol)、チモロール、塩酸ドブタミン、アルプレノロール、ブノロール、ブプラノロール、カラゾロール、エパノロール、モロプロロール(moloprolol)、オクスプレノロール、パマトロール、タリノロール、チプレノロール、トラモロール、トリプロロールなどのβアドレナリン受容体拮抗物質、
(e)カルベジロール、ラベタロール(labetolol)などの非選択的アドレナリン受容体拮抗物質、
(f)トラザミド、トルブタミド(tolubtuamide)、クロルプロパミド、アセトヘキサミドなどの第一世代スルホニル尿素、
(g)グリブリド、グリピジド、グリメピリドなどの第二世代スルホニル尿素、
(h)メトホルミンなどのビグアナイド剤、
(i)レパグリニド(replaglinide)などの安息香酸誘導体、
(j)アカルボース、ミグリトールなどのαグルコシダーゼ阻害薬、
(k)ロシグリタゾン、ピオグリタゾン、トログリタゾンなどのチアゾリジンジオン、
(l)アナグレライド、タダラフィル(tadalfil)、ジピリダモール、ダイフィリン、バルデナフィル、シロスタゾール、ミルリノン、テオフィリン、カフェインなどのホスホジエステラーゼ阻害薬、
(m)ドネペジル、タクリン、エドロフォニウム、デメカリウム、ピリドスチグミン、ザナペジル、Phospholine、メトリホナート、ネオスチグミン、ガランタミン(galathamine)などのコリンエステラーゼ(cholineresterase)拮抗物質、
(n)N−アセチルシステイン、システインエステル、L−2−オキソチアゾリジン−4−カルボキシラート(carboxolate)(OTC)、ガンマグルタミルシステイン及びそのエチルエステル、グルタチオン(glytathtione)エチルエステル、グルタチオンイソプロピルエステル、リポ酸、システイン、メチオニン、S−アデノシルメチオニンなどのグルタチオン増加化合物、並びに
(o)DAC:GLP−1(CJC−1131)、リラグルチド、ZP10、BIM51077、LY315902、LY307161(SR)、エクセナチドなどのGLP−1、GLP−2、グルカゴン様ペプチド類似体のようなインクレチン又はインクレチン模倣物。
【0106】
薬剤組成物は、組織カリクレインを用いて調製することができる。組織カリクレインは、ブタ組織カリクレイン又はヒト組織カリクレインであり得る。好ましくは、薬剤組成物は、高又は低分子量キニノーゲンを開裂させるカリクレインを用いて調製される。
【0107】
製薬処方及び調製方法
本発明に従って使用される薬剤組成物は、賦形剤と薬学的に使用することができる調製物に活性化合物を加工するのを容易にする助剤とを含む1種類以上の生理的に許容される担体を用いて、従来様式で処方することができる。適切な処方は、選択する投与経路に応じて決まる。
【0108】
適切な投与経路としては、例えば、経口、直腸、経粘膜、経皮又は腸管内の投与;筋肉内、皮下、髄内注射、並びに鞘内、直接の脳室内、静脈内、腹腔内、鼻腔内又は眼内注射を含めた非経口送達が挙げられる。
【0109】
注射の場合、本発明の薬剤は、水溶液中で、好ましくはハンクス液、リンゲル液、生理食塩水緩衝剤などの生理的に適合する緩衝剤中で、処方することができる。経粘膜投与の場合、透過する障壁に適切な浸透剤を処方に使用する。かかる浸透剤は、一般に当分野で公知である。
【0110】
経口投与の場合、化合物は、活性化合物を当分野で周知の薬学的に許容される担体と組み合わせることによって、容易に処方することができる。かかる担体によって、本発明の化合物を、治療患者による経口摂取用の錠剤、丸剤、糖衣錠剤、カプセル剤、液剤、ゲル剤、シロップ剤、スラリー剤、懸濁液剤などとして処方することができる。経口用薬剤は、固体賦形剤から得ることができ、生成した混合物を粉砕してもよく、必要に応じて、適切な助剤を添加後、顆粒混合物を加工して、錠剤、又は糖衣錠剤の核を得ることができる。適切な賦形剤は、特に、ラクトース、スクロース、マンニトール又はソルビトールを含めた糖などの充填剤、セルロース調製物(例えば、トウモロコシデンプン、コムギデンプン、コメデンプン、ジャガイモデンプン、ゼラチン、トラガカントゴム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム及び/又はポリビニルピロリドン(PVP)など)である。必要に応じて、架橋ポリビニルピロリドン、寒天、アルギン酸又はアルギン酸ナトリウムなどのその塩などの崩壊剤を添加することができる。
【0111】
糖衣錠剤の核は、適切なコーティングが施されている。この目的のために、濃縮糖液を使用することができる。濃縮糖液は、アラビアゴム、タルク、ポリビニルピロリドン、Carbopolゲル、ポリエチレングリコール、及び/又は二酸化チタン、ラッカー溶液、及び適切な有機溶媒又は溶媒混合物を含んでいてもよい。識別のために、又は活性化合物用量の異なる組合せを特徴づけるために、色素又は顔料を錠剤又は糖衣錠剤コーティングに添加することができる。
【0112】
経口的に使用することができる薬剤としては、ゼラチンでできた押しばめ式のカプセル剤、ゼラチンと可塑剤(グリセリン、ソルビトールなど)でできた密封軟カプセル剤などが挙げられる。押しばめ式カプセル剤は、ラクトースなどの充填剤、デンプンなどの結合剤、及び/又はタルク、ステアリン酸マグネシウムなどの潤滑剤を含む混合物であって、場合によっては安定剤を含む混合物中に、活性成分を含むことができる。軟カプセルでは、活性化合物を脂肪油、流動パラフィン、液状ポリエチレングリコールなどの適切な液体に溶解又は懸濁させることができる。また、安定剤を添加することもできる。経口投与用製剤はすべて、かかる投与に適切な投与量とすべきである。
【0113】
口腔投与の場合、組成物は、従来の様式で処方された錠剤又は舐剤の形をとり得る。
【0114】
吸入投与の場合、本発明に従って使用される化合物は、加圧容器又はネブライザーから、適切な噴霧剤、例えば、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素又は他の適切なガスを使用して、エアロゾル噴霧の形で好都合には送達される。加圧エアロゾルの場合には、単位用量は、計量された量を送達する弁を備えることによって、決定することができる。化合物とラクトース、デンプンなどの適切な粉末基剤との混合粉末を含む、例えば吸入器又は散布器用ゼラチンの、カプセル剤及びカートリッジを処方することができる。
【0115】
非経口投与用化合物は、注射によって、例えば、大量瞬時投与又は連続注入によって、処方することができる。注射用製剤は、添加された防腐剤と一緒に、単位剤形、例えば、アンプル又は多数回投与容器中に存在し得る。組成物は、油性又は水性ビヒクル中の懸濁液剤、溶液剤又は乳濁液剤のような形をとり得、懸濁剤、安定化剤及び/又は分散剤などの調合(formulatory)剤を含み得る。
【0116】
非経口投与用製薬処方は、水溶性の形の活性化合物水溶液を含む。さらに、活性化合物の懸濁液剤は、適切な油性注射懸濁液剤として調製することができる。適切な親油性溶媒又はビヒクルとしては、ゴマ油などの脂肪油、オレイン酸エチル、トリグリセリドなどの合成脂肪酸エステル、リポソームなどが挙げられる。水性注射懸濁液剤は、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトール、デキストランなど、懸濁液剤の粘度を増加させる物質を含み得る。場合によっては、懸濁液剤は、適切な安定剤、又は化合物の溶解性を増大させて高濃縮溶液の調製を可能にする薬剤も含むことができる。
【0117】
或いは、活性成分は、使用前に適切なビヒクル(例えば、発熱物質を含まない滅菌水)で構成(constitution)するための粉末の形であり得る。
【0118】
化合物は、例えばカカオ脂、他のグリセリドなどの従来の坐剤基剤を含む、坐剤、保留かん腸などの直腸組成物中に処方することもできる。
【0119】
上記処方に加えて、化合物は、デポ製剤として処方することもできる。かかる長時間作用性製剤は、移植(例えば、皮下又は筋肉内)又は筋肉内注射によって投与することができる。したがって、例えば、化合物は、適切なポリマー性若しくは疎水性材料(例えば、許容される油中の乳濁液として)又はイオン交換樹脂を用いて、又はやや難溶性の誘導体、例えば、やや難溶性の塩として、処方することができる。
【0120】
本発明の疎水性化合物用薬剤担体は、ベンジルアルコール、非極性界面活性剤、水混和性有機ポリマー及び水相を含む共溶媒系である。当然のことながら、共溶媒系の割合は、その溶解性及び毒性特性を損なわずに、かなり変動し得る。また、共溶媒成分の素性(identity)も変動し得る。
【0121】
或いは、他の疎水性薬剤化合物用送達系を使用することができる。
【0122】
リポソーム及び乳濁液は、疎水性薬物用送達ビヒクル又は担体の周知の例である。通常はより大きな毒性を犠牲にするが、ジメチルスルホキシドなどのある種の有機溶媒を使用することもできる。さらに、化合物は、治療薬を含む固体疎水性ポリマーの半透性マトリックスなどの徐放系を用いて、送達することもできる。種々の徐放性材料が確立され、当業者に周知である。徐放性カプセル剤は、その化学的性質に応じて、化合物を数週間から100日以上放出することができる。治療試薬の化学的性質及び生物学的安定性に応じて、タンパク質安定化の追加の戦略を使用することができる。
【0123】
薬剤組成物は、適切な固体又はゲル相の担体又は賦形剤も含み得る。
【0124】
かかる担体又は賦形剤の例としては、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、種々の糖、デンプン、セルロース誘導体、ゼラチン、及びポリエチレングリコールなどのポリマーが挙げられるが、これらだけに限定されない。
【0125】
本発明の化合物の多くは、薬学的に適合する対イオンとの塩として提供することができる。薬学的に適合する塩は、塩酸、硫酸、酢酸、乳酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸などを含めて、ただしこれらだけに限定されない多数の酸と形成され得る。塩は、対応する遊離塩基の形である水性又は他のプロトン性溶媒により可溶性である傾向にある。
【0126】
治療方法
更に別の一態様において、本発明は、上記本発明による薬剤組成物のいずれかの治療有効量を代謝障害の治療及び予防を必要とする対象に投与することを含む、代謝障害を治療及び予防する方法を提供する。
【0127】
別の一態様において、本発明は、組織カリクレイン又はその変種若しくは生物活性断片の治療有効量を代謝障害の治療及び予防を必要とする対象に投与することを含む、代謝障害を治療及び予防する方法を提供する。本発明の好ましい一実施形態において、カリクレインは活性型の組織カリクレインである。
【0128】
別の一態様において、本発明は、組織カリクレインの治療有効量及び少なくとも1種類の糖尿病薬の投与を含む、代謝障害を治療及び予防する方法を提供する。
【0129】
本発明の別の一態様において、糖尿病薬はGLP−1である。
【0130】
本発明による薬剤組成物を用いて治療及び予防することができる代謝障害の例としては、インスリン抵抗性、糖尿病前症、糖尿病、耐糖能障害、糖代謝障害、高血糖、高インスリン血症及びX症候群が挙げられるが、これらだけに限定されない。
【0131】
薬理活性剤の「有効量」又は「治療有効量」とは、無毒であるが、所望の効果をもたらす薬物又は薬剤の十分な量を意味する。本発明の併用療法、例えば、組織カリクレインとACE阻害薬とコリン作動薬の同時投与においては、組合せの1成分の「有効量」は、組合せの他の成分と併用したときに、所望の効果を与えるのに有効な該化合物の量である。「有効な」量は、個体の年齢及び全身状態、特定の活性薬剤、特定の複数の活性薬剤などに応じて、対象ごとに変動する。したがって、正確な「有効量」を明示することは必ずしも可能ではない。しかし、任意の個々の症例における適切な「有効」量は、当業者が定常的な実験法によって決定することができる。
【0132】
本発明によって包含される任意の活性薬剤の治療有効量は、当業者に、また、本明細書の開示に照らして、明白である幾つかの要因に依存する。特にこれらの要因としては、投与する化合物の素性、処方、使用する投与経路、患者の性別、年齢及び体重、治療する症状の重症度、胃腸管、肝胆道系及び腎臓系に影響を及ぼす合併症の存在などが挙げられる。投与量及び毒性を決定する方法は、当分野で周知であり、試験は、一般に動物において開始され、次いで有意な動物毒性が認められない場合には、ヒトにおいて開始される。投与量の妥当性は、Lautt et al, 1998に記載のRIST手順、又は標準正常血糖クランプ手順を用いてインスリン抵抗性をモニターすることによって、評価することができる。投与した用量がインスリン抵抗性を正常レベル又は容認できるレベルに低下させない場合、少なくとも3日の治療後に用量を増加することができる。特に肝機能に関して、患者の薬物副作用及び毒性の徴候を監視すべきである。
【0133】
治療及び予防の方法が組織カリクレインの投与を含む場合、好ましい単位投与量は、0.1から100単位/日、より好ましくは1から10単位/日である。
【0134】
治療及び予防の方法がACE阻害薬とコリン作動薬の投与を含む場合、各成分を単一製剤として同時に投与することができ、又は別々の製剤として連続的に投与することができる。
【0135】
ACE阻害薬の治療に有効な単位用量は、使用する特定のACE阻害薬に応じて変動する。ACE阻害薬の適切な投与量範囲は当分野で公知である。使用するACE阻害薬がリシノプリルである場合、好ましい単位投与量は、1から100mg/日、より好ましくは20mg/日である。使用するACE阻害薬がカプトプリルである場合、好ましい単位投与量は、1から150mg/日である。使用するACE阻害薬がエナラプリルである場合、好ましい単位投与量は、1から100mg/日である。ACE阻害薬がラミプリルである場合、好ましい単位投与量は、1.25から100mg/日である。ACE阻害薬がトランドラプリルである場合、好ましい単位投与量は、1から4mg/日である。
【0136】
コリン作動薬の治療有効用量は、使用する特定のコリン作動薬に応じても変動する。コリン作動薬がアセチルコリン又はベタネコールである場合、投与量は、0.001mg/kgから100mg/kg、好ましくは0.001mg/kgから1mg/kgである。
【0137】
本発明を説明のための実施形態に関連して記述したが、本発明は、これらの厳密な実施形態に限定されず、種々の変化及び改変が当業者によってなされ得ることを理解されたい。かかる変化及び改変はすべて、添付の特許請求の範囲に包含されるものとする。
【0138】
実施例
【実施例1】
【0139】
カリクレイン療法は、糖尿病動物モデルにおいてインスリン応答性を回復させる。
【0140】
5週齢で得られた(Charles River、St−Constant、Canadaから入手した)14匹のスプレーグドーリーラットの同腹仔を個々におりに収容する。動物を温度22℃+/−1℃、恒湿及び気流条件に順応させる。動物に高スクロース食を与える。実験前2週間、動物に水道水を自由に摂らせ、制限食を与え、体重及び食物摂取を一日おきに記録する。高スクロース食は、62.5%(wt/wt)スクロース、6.5%トウモロコシ油、20%タンパク質(カゼイン、精製高窒素)、0.3%dl−メチオニン、1%混合ビタミン、4.7%混合ミネラル及び5%セルロースからなる。高スクロース食のエネルギー密度は16.81kJ/gである。この高スクロース食は、インスリン抵抗性を誘導する。動物を試験前に12時間絶食させる。動物7匹にボーラスIV注射によって最高1単位のカリクレインを投与し、無処置動物に食塩水をボーラスIV注射する。正常血糖クランプ手順を実施して、血液試料を採取する。
【0141】
分析法 − ラットに麻酔をかけ、血しょうグルコース及びインスリン評価用に静脈血試料を採取し、迅速に遠心分離する。血しょうを即時に分析し、又は−20℃で貯蔵し、3日以内に検査する。落ち着いた無拘束の鎮静剤未投与ラットにおいて、安静時心拍数、血圧及び局所血流を30分間記録する。
【0142】
正常血糖クランプ法 − すべてのラットにブタのレギュラーインスリンを16mU・kg−1・min−1の速度で2時間注入する。インスリン注入開始から10分後、動脈血グルコースを10分間隔で頻繁に測定することによって、クランプ前レベルに血糖を維持するように可変の速度で200g/Lグルコース溶液を注入する。正常血糖高インスリンクランプを2時間実施し、血液試料を用いて血圧、心拍数及び局所血流を連続的に測定する。クランプの最後の1時間に正常血糖を維持するのに必要なグルコース量は、インスリン感受性の指標として使用される定常状態インスリン濃度に対応する。この指標は、曲線下面積として測定される。
【0143】
結果及び考察 − 対照動物は、同じ耐糖能を維持し、曲線下面積は不変である。カリクレイン処理ラットは、増大したインスリン感受性のために、それよりも大きい曲線下面積を有する。
【実施例2】
【0144】
組織カリクレインとグルカゴン様ペプチド1(GLP−1)の併用療法は、動物モデルにおいて、グルコース投与後に血しょうグルコースを相乗的に低下させる。
【0145】
200+/−10gの5匹の雄性ウィスターラットの群を使用した。絶食させた動物に、グルコース投与の1時間前に、薬剤若しくはプラセボ(GLP−1、1nmole/kg、iv)を注射し、及び/又は薬剤若しくはプラセボ(組織カリクレイン(SIGMA)、200U)を胃管によって補給した。経口グルコース投入(2g/kg)直前に血液試料を採取した。グルコース投与から90分後に第2の血液試料を採取した。血清グルコース試料を酵素法(ムタロターゼ(Mutaratase)−GOD)によって各時点で評価した。
【0146】
結果及び考察 − GLP−1単独で処理した動物に、最適以下の投与量のGLP−1を投与した。予想どおりに、GLP−1単独で処理した動物は、プラセボ処理動物と同様に、グルコース投与に反応した(表1参照)。組織カリクレイン単独で処理した動物にも、最適以下の投与量を投与した。予想どおりに、組織カリクレイン単独で処理した動物は、プラセボ処理動物と同様に、グルコース投与に反応した(表1参照)。これに対し、同じ投与量のGLP−1と組織カリクレインの組合せで処理した動物は、プラセボ処理動物よりも有意に低い血糖値を示した(表1参照)。これらの結果は、組織カリクレインとGLP−1が一緒に相乗的に作用して、血糖値を低下させることを示している。
【0147】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)被験対象から採取された生物試料中のバイオマーカーの濃度を決定し、前記バイオマーカーが、組織カリクレイン、その変種、その生物活性断片、キニノーゲン又はこれらの組合せからなる群から選択される段階と、
(b)バイオマーカー濃度を基準バイオマーカー値範囲と比較する段階と
を含み、
決定されたバイオマーカー濃度が基準バイオマーカー値範囲外であることによって、個体が代謝障害に罹患していると確認される、
代謝障害のスクリーニング方法。
【請求項2】
キニノーゲンが高分子量キニノーゲンである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
代謝障害がインスリン抵抗性である、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
代謝障害が糖尿病である、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
(c)被験対象から採取された生物試料中のインスリンの濃度を決定する段階と、
(d)インスリン濃度を基準インスリン値範囲と比較する段階と
を更に含み、
決定されたバイオマーカー濃度が基準バイオマーカー値範囲よりも高く、かつ決定されたインスリン濃度が基準インスリン値範囲よりも低いことによって、個体が1型糖尿病に罹患していると確認される、
請求項4に記載の方法。
【請求項6】
(c)被験対象から採取された生物試料中のインスリンの濃度を決定する段階と、
(d)インスリン濃度を基準インスリン値範囲と比較する段階と
を更に含み、
決定されたバイオマーカー濃度が基準バイオマーカー値範囲よりも低く、かつ決定されたインスリン濃度が基準インスリン値範囲よりも高いことによって、個体が2型糖尿病に罹患していると確認される、
請求項4に記載の方法。
【請求項7】
被験対象がヒトである、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
生物試料が血液である、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
生物試料が尿である、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
バイオマーカー濃度が、免疫測定法、液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、質量分析法及びこれらの組合せからなる群から選択される方法を用いて決定される、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
インスリン濃度が、免疫測定法、液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、質量分析法及びこれらの組合せからなる群から選択される方法を用いて決定される、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
組織カリクレイン、その変種又はその生物活性断片と、薬学的に許容される担体とを含む、薬剤組成物。
【請求項13】
組織カリクレインがブタ組織カリクレイン又はヒト組織カリクレインである、請求項12に記載の薬剤組成物。
【請求項14】
ACE阻害薬と、コリン作動薬と、薬学的に許容される担体とを含む、薬剤組成物。
【請求項15】
コリン作動薬が、アセチルコリン、メタコリン、ベタネコール、BIBN 99、DIBD、SCH−57790、SCH−217443、SCH−72788、アレコリン、アレコリン類似体、キサノメリン、アルバメリン、ミラメリン、RU 47213、サブコメリン、PD−151832、CDD−0034−C、CDD−0102、スピロピペリジン、スピロキヌクリジン、ムスカリン、シス−ジオキソラン、RS86、AF−30、オクビメリン(ocvimeline)、AF150(S)、AF267B、SDZ 210−086、YM−796、アセチルコリンの硬質類似体(rigid analogue)、アセクリジン(acclidine)、タルサクリジン(tasaclidine)、オキソトレモリン、オキソトレモリン類似体、ピロカルピン、ピロカルピン類似体、チオピロカルピン及びこれらの混合物からなる群から選択される、請求項14に記載の薬剤組成物。
【請求項16】
(a)組織カリクレイン、その変種又はその生物活性断片と、(b)少なくとも1種類の糖尿病薬と、(c)薬学的に許容される担体とを含む、薬剤組成物。
【請求項17】
少なくとも1種類の糖尿病薬が、抗酸化剤、インスリン、インスリン類似体、αアドレナリン受容体拮抗物質、βアドレナリン受容体拮抗物質、非選択的アドレナリン受容体拮抗物質、スルホニル尿素、ビグアナイド剤、安息香酸誘導体、αグルコシダーゼ阻害薬、チアゾリジンジオン、ホスホジエステラーゼ阻害薬、コリンエステラーゼ拮抗物質、グルタチオン増加化合物、インクレチン及びインクレチン模倣物(mimetic)からなる群から選択される、請求項16に記載の薬剤組成物。
【請求項18】
インクレチン又はインクレチン模倣物が、グルカゴン様ペプチド−1(GLP−1)、グルカゴン様ペプチド−2(GLP−2)、グルカゴン様ペプチド類似体及びエクセナチドからなる群から選択される、請求項17に記載の薬剤組成物。
【請求項19】
組織カリクレインがブタ組織カリクレイン又はヒト組織カリクレインである、請求項15に記載の薬剤組成物。
【請求項20】
請求項13から19のいずれか一項に記載の薬剤組成物の治療有効量を、代謝障害の予防又は治療を必要とする対象に投与することを含む、代謝障害を予防又は治療する方法。
【請求項21】
組織カリクレイン又はその変種若しくは生物活性断片の治療有効量を投与することを含む、代謝障害を予防又は治療する方法。
【請求項22】
代謝障害が、インスリン抵抗性、糖尿病前症、糖尿病、耐糖能障害、糖代謝障害、高血糖、高インスリン血症及びX症候群からなる群から選択される、請求項18から21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
代謝障害の治療及び予防を必要とする患者における代謝障害を治療及び予防するための組織カリクレイン、その変種又はその生物活性断片の使用。
【請求項24】
代謝障害の治療及び予防用医薬品であって、組織カリクレイン、その変種又はその生物活性断片の治療有効量を含む医薬品を調製するための組織カリクレイン、その変種又はその生物活性断片の使用。
【請求項25】
代謝障害の治療及び予防を必要とする患者における代謝障害を治療及び予防するためのACE阻害薬及びコリン作動薬の使用。
【請求項26】
コリン作動薬が、アセチルコリン、メタコリン、ベタネコール、BIBN 99、DIBD、SCH−57790、SCH−217443、SCH−72788、アレコリン、アレコリン類似体、キサノメリン、アルバメリン、ミラメリン、RU 47213、サブコメリン、PD−151832、CDD−0034−C、CDD−0102、スピロピペリジン、スピロキヌクリジン、ムスカリン、シス−ジオキソラン、RS86、AF−30、オクビメリン、AF150(S)、AF267B、SDZ 210−086、YM−796、アセチルコリンの硬質類似体、アセクリジン、タルサクリジン、オキソトレモリン、オキソトレモリン類似体、ピロカルピン、ピロカルピン類似体、チオピロカルピン及びこれらの混合物からなる群から選択される、請求項25に記載の使用。
【請求項27】
代謝障害が、インスリン抵抗性、糖尿病前症、糖尿病、耐糖能障害、糖代謝障害、高血糖、高インスリン血症及びX症候群からなる群から選択される、請求項23から26のいずれか一項に記載の使用。
【請求項28】
(a)請求項13から19のいずれか一項に記載の薬剤組成物の個々の剤形と、
(b)薬剤組成物の投与を必要とする対象に薬剤組成物を投与するための説明書と
を含む、代謝障害の治療及び予防用キット。
【請求項29】
(a)組織カリクレインの個々の剤形と、
(b)薬剤組成物の投与を必要とする対象に剤形を投与するための説明書と
を含む、代謝障害の治療及び予防用キット。
【請求項30】
代謝障害が、インスリン抵抗性、糖尿病前症、糖尿病、耐糖能障害、糖代謝障害、高血糖、高インスリン血症及びX症候群からなる群から選択される、請求項28及び29のいずれか一項に記載のキット。
【請求項31】
(a)特異的結合及び/又は相互作用を可能にする条件下で、組織カリクレインプロモーターの制御下にあるレポーター構築物を試験分子若しくは化合物又は試験分子若しくは化合物のライブラリーと接触させる段階と、
(b)レポーター構築物の発現レベルを検出する段階と
を含み、
対照に比べた発現レベルの変化が潜在的治療活性を示す、
カリクレインをコードするポリヌクレオチド配列の異常発現に起因する代謝障害を治療又は予防するための治療薬のスクリーニング方法。
【請求項32】
(a)特異的結合及び/又は相互作用を可能にする条件下で、組織カリクレイン、その変種又はその生物活性断片を試験分子若しくは化合物又は試験分子若しくは化合物のライブラリーと接触させる段階と、
(b)特異的結合及び/又は相互作用のレベルを検出する段階と
を含み、
対照に比べた相互作用レベルの変化が潜在的治療活性を示す、
組織カリクレインの生物活性の変化に起因する代謝障害を治療又は予防するための治療薬のスクリーニング方法。
【請求項33】
代謝障害が、インスリン抵抗性、糖尿病前症、糖尿病、耐糖能障害、糖代謝障害、高血糖、高インスリン血症及びX症候群からなる群から選択される、請求項31又は32に記載の方法。
【請求項34】
試験分子又は化合物のライブラリーが、DNA分子、ペプチド、作動物質、拮抗物質、モノクローナル抗体、免疫グロブリン、低分子の薬物及び薬剤からなる群から選択される、請求項31から33のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2009−544630(P2009−544630A)
【公表日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−521075(P2009−521075)
【出願日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際出願番号】PCT/CA2007/001321
【国際公開番号】WO2008/011713
【国際公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(509024352)デイアメデイカ・インコーポレイテツド (2)
【Fターム(参考)】