説明

仮設橋の架設方法

【課題】災害時や有事において、河川や濠に迅速に架設して車両等の通行を可能にするための仮設橋の架設方法を提供する。
【解決手段】圧縮ストラット1をロッドごとに分離してテンションスリング2とガスチューブ3と共に畳み込んで、折り畳み支持体を形成した後、折り畳み支持体を架設地点に搬送し、折り畳み支持体のアンカー部4に牽引ワイヤを掛けて、牽引ワイヤを巻き上げて畳み込み支持体を展開し剛性化して此岸21と対岸22の間に渡し、両端のアンカー部4を両岸の地面に固定することにより、仮設橋20を架設する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、災害時や有事など必要な場合に、河川や濠に迅速に橋を渡して車両等の通行を可能にするための仮設橋の架設方法に関する。
【背景技術】
【0002】
陸上自衛隊には、有事において部隊の移動の支障となる河川や堀、地峡に仮設橋を架けて車両や人員を対岸に渡すための架設用機材や架設用車両が配備されている。また、大震災や巨大な津波等により既設の橋梁が倒壊、流失した場合などには、初期の救助活動の経路を確保するために、架設用車両を用いて緊急に仮設橋を架設して利用する。
【0003】
従来の仮設橋として、例えば特許文献1に応急橋及びその架設方法が開示されている。図10に示すとおり、特許文献1に記載された応急橋は、架設ノーズ、橋梁主桁と道床からなる橋節を複数連結して架橋するものである。橋梁の運搬、架設を担う架設車には、架設腕と支持装置が備わっている。
【0004】
開示の方法では、架設碗が先ず架設ノーズを対岸まで順次接続しながら繰り出して対岸に到達させ、接地させる。続いて橋節を連結しながら、架設ノーズに支持させて対岸まで繰り出し、両端を着地させて応急橋を完成する。複数の架設車により架設ノーズと橋節の部材を輸送し、現地で連結しながら長大な仮設橋を構成できるようになっている。
【0005】
この方法によれば、主桁より軽量な架設ノーズを対岸まで繰り出して仮の支持橋を架設するため、片岸から片持ちで架設する場合でも、架設車に掛かる反力を比較的小さくすることができる。また、安定化のため車両の重量を増したり、巨大なカウンターウエイトを用いたりしなくても架設作業を行うことができる。
【0006】
なお、従来の応急橋梁では、橋脚を河床から立ち上げて橋梁を支持していたため、河床の地盤強度が不足する場合は架設できなかったり、河川の流速に影響されたりする問題があった。しかし、特許文献1に記載の応急橋では、橋脚が不要であるため、このような問題が生じない。
【0007】
一方、橋梁の自重と橋梁を渡る車両の荷重を支持する必要から、橋梁主桁の重量や桁高が大きくなる問題があった。例えば、特許文献1に記載の技術を発展させて製品化した機動支援橋(陸上自衛隊保有)は、最大スパン60mの橋梁を架設するために総重量25トンの架設車が必要になっている。
【0008】
特許文献2には、別の手法による非常用橋の架設方法が開示されている。図11、図12に示したとおり、河川の片岸に、送り出し架設用の補助橋および、駆動ピニオンを備えた送り出し装置を設置し、補助橋を支える転倒防止用支えを後方に固定する。送り出し装置により補助橋を対岸まで繰り出して接地させ、本橋架設用の仮設橋を確保する。
【0009】
その後、転倒防止用支えを取り外して支え台に取り替えると共に、送り出し装置を対岸に移動して補助橋の先端に取り付ける。また、補助橋の末端に本橋を接続する。その後、送り出し装置により補助橋を対岸側に引き抜くと、それに伴って末端に接続された本橋が対岸側に繰り寄せられ、応急橋が河川上に架け渡される。本橋の両岸側に本橋脚と本橋スロープを取り付け、架設が完了する。
【0010】
特許文献2に開示された技術によれば、特許文献1に開示された応急橋梁に比べ、より簡素な構造により橋梁を架設することができる。しかし、本橋の機械的強度で荷重を支持しなければならないことに変わりはなく、本橋の剛性を確保するために橋梁主桁の重量や桁高が大きくなる問題は解決されない。
【0011】
そこで、本願発明者は、総重量が小さい仮設橋を形成する部材として、特許文献3に公開された空気的構造要素に着目した。
図13に示したとおり、特許文献3に開示された空気的構造要素は、円筒形の空気チューブに1本の圧縮ストラットと少なくとも1対の張力ワイヤが配された形態である。圧縮ストラットは空気チューブとほぼ同長の棒体であり、空気チューブの上部表面に固定されている。1対の張力ワイヤは、両端の結節点で圧縮ストラットと接続され、それぞれ右回りと左回りで空気チューブを対称的に取り巻いている。
【0012】
特許文献3に開示された空気的構造要素は、圧縮ストラットの圧縮力および張力ワイヤの張力とバランスさせて荷重を支持し座屈に抵抗する。例えば図14に示すように、圧縮ストラットの中央に上方から荷重Fmが掛かった場合、空気チューブが変形するため張力ワイヤが引張り力Fzで引っ張られて圧縮力Fsが結節から圧縮ストラットに加えられる。この圧縮力Fsと引張り力Fz、および荷重Fmと結節に掛かる支持力Faのベクトル成分が常にゼロに釣り合うことから、空気的構造要素全体として、大きな剛性と座屈抵抗を備え、荷重を支持できる。
【0013】
この構成により、圧縮ストラットが必要とする機械的剛性は、圧縮ストラットが単独で荷重に抗する場合に比べて著しく小さくなる。したがって、圧縮ストラットを例えばアルミ合金で組成するなど、軽量で小断面のものとすることができる。
【0014】
その他の部材についても重量物を使用するものではないため、全体の重量は従来型の応急橋梁に比べて著しく小さくなる。さらに、空気チューブは圧縮空気を抜けば折り畳むことができるし、張力ワイヤも巻き取ることができるため、嵩張らず、保管・運搬コストを大幅に節約できる。
特許文献3開示の空気的構造要素を利用した橋梁では、図15に表したように、複数の空気的構造要素を並置し結節部分にヨークと呼ばれる結節部材を配して横方向に連結し、上面に木製の板などの床版パネルを配設して橋梁とすることができる。
【0015】
また、特許文献3開示の空気的構造要素を発展させたものとして、同発明者による特許文献4に流体力を使ったアーチ型支持体が開示されている。特許文献4開示のアーチ型支持体は、図16に図示したとおり、中央で太く両端部に向かってテーパ状になった側面舟形の空気チューブの上面に道路構造体を、下面に引張要素を備えた形状になっている。
【0016】
特許文献4開示のアーチ型支持体によれば、特許文献3に開示された空気的構造要素に比べて高い荷重支持能力を持つことに加え、圧縮ストラットの代わりに床版パネルなどの道路構成体を使ってそのまま車両走行路面とするなど、材料消費が少なく、重量、桁高を抑えるという面で有利である。
しかし、特許文献3、特許文献4のいずれにおいても、橋梁に適用するときの構造的技術について架設された状態は開示されているが、空気的構造要素ないしアーチ型支持体の特性を生かした効率的な架設方法および手順について開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開平7−259013号公報
【特許文献2】特開平4−169611号公報
【特許文献3】特許第3906079号公報
【特許文献4】特表2006−528288号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、有事や災害時に利用する仮設橋について、軽量で運搬及び架設が容易な仮設橋の架設方法、特に、空気的構造要素の特性を活用した緊急の仮設橋の架設方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記課題を解決する本発明の仮設橋の架設方法は、ガスチューブと圧縮ストラットとテンションスリングとアンカー部を備えた支持体であって、圧縮ストラットは複数のロッドを繋いで形成されガスチューブの上部に配置され、テンションスリングは圧縮ストラットの端点同士を結合し、ガスチューブは圧縮ストラットとテンションスリングの間に配置され、支持体の橋軸方向両端部にアンカー部を備えて、ガスチューブを膨張させることにより剛性化する支持体を使って荷重を支持するようにした仮設橋を此岸と対岸の間に架設する方法であって、圧縮ストラットをテンションスリングとガスチューブと共にロッド単位で畳み込んで、折り畳み支持体を形成する畳み込み工程と、折り畳み支持体を架設地点に搬送する運搬工程と、折り畳み支持体のアンカー部に接続した牽引手段により折り畳み支持体を橋軸方向に展開して此岸と対岸の間に渡す展開工程と、ガスチューブにガスを供給して支持体を剛性化する剛性化工程と、両端部のアンカー部を地面に固定する固定工程とを含むことを特徴とする。
【0020】
圧縮ストラットは、ガスチューブの表面に軸に沿って設置され、両端部間をテンションスリングで結ばれている。テンションスリングは、端部が圧縮ストラットの端部に結合されていて、ガスチューブの膨張に伴い圧縮ストラットの軸方向に圧縮力を発生する構成を有するものであって、たとえば、ガスチューブの胴を廻るように巻き付いた適度な長さのケーブルやベルト、あるいはガスチューブの軸方向に展伸するケーブルやベルトで、ガスチューブがガスにより膨張すると緊張して、圧縮ストラットの両端に圧縮ストラットの軸方向に圧縮させる力を掛けて剛性化する機能を有する。
上記のような構成を有するガスチューブと圧縮ストラットとテンションスリングで形成される支持体は、座屈に対して高い抵抗力を有する強固な支持体となる。
【0021】
本発明の仮設橋の架設方法では、一端側のアンカー部を此岸で地面に固定した後に、他端側のアンカー部に接続した牽引手段により、折り畳み支持体を展開するようにすることができる。
なお、牽引手段を巻き揚げ機に繋いだ牽引ワイヤで構成することができる。牽引ワイヤを利用する場合は、一端側のアンカー部を此岸で地面に固定した後に、他端側のアンカー部に掛けた牽引ワイヤを対岸に設置した巻き揚げ機で巻き上げることにより、折り畳み支持体を展開する。
また、両端のアンカー部のそれぞれに牽引ワイヤを掛けて、それぞれの牽引ワイヤを此岸と対岸のそれぞれに設けた巻き揚げ機に繋いだ上で、折り畳み支持体を吊り下げて架設地点の上に移動させて、両端のアンカー部に止めた牽引ワイヤをそれぞれ巻き上げることにより、折り畳み支持体を展開して両岸の間に渡すようにしてもよい。
【0022】
本発明の仮設橋の架設方法によれば、空気的構造要素あるいは流体力を用いた支持体で円柱形やアーチ形に形成される支持体(以下、支持体という)が軽量で、圧縮ストラットをロッドに分離し、ガスチューブからガスを抜いてロッドごとに畳み込むことにより小さくなるので、比較的小型で運搬力が小さい車両によっても、適宜な施工場所に運搬することができる。また、仮設橋の架設地点において、牽引ワイヤをウインチで巻き上げることで支持体を簡単に展開することができ、此岸と対岸の間に跨った状態になったところで分離したロッドを再結合させて圧縮ストラットを形成し、ガスチューブにガスを充填することにより、支持体の剛性が高まり圧縮ストラットが荷重で変形しにくくなって、安定した橋梁構造体として両岸の間に架設させることができるようになる。
【0023】
さらに、圧縮ストラットの上にデッキパネルを並べて、渡橋する車両などを支えるようにすることができる。また、デッキパネルを圧縮ストラットのロッドとして同様に扱って、デッキパネルを突き合わせ接合することにより圧縮ストラットを形成し、圧縮ストラットで直接に車両等を支持するようにすることもできる。
なお、ロッドは、互いに分離するもので、架設時に端同士を突き合わせ接続させることにより圧縮ストラットを形成するものであってもよい。また、ロッドごとの端部がヒンジで結合され、橋軸に垂直な橋軸直角軸周りに回動して、ロッドで形成される圧縮ストラットが折り畳めるようになっていてもよい。
【0024】
なお、支持体は、ほぼ円筒形をなすガスチューブで構成され、対称的に配置され対となったテンションスリングがガスチューブの周りを互いに反対方向に螺旋を描いて緊縛するようにして形成されたものであってもよい。円筒形の支持体を複数平行に設置して、その上を跨るようにしてデッキパネルを水平に配置してもよい。
また、支持体は、ガスチューブの稜線上に圧縮ストラットを配置し、ガスチューブの下側の底に沿ってテンションスリングを配置して、圧縮ストラットの端部にテンションスリングを結合し、圧縮ストラットとテンションスリングの間にガスチューブが挟まるように配置した構造を持ち、ガスチューブを膨張させることにより、中央部の高さが高く両端で低くなるアーチ形をなし、変位及び座屈に対して耐性を高めたものであってもよい。
【発明の効果】
【0025】
本発明の仮設橋の架設方法によれば、比較的軽量な支持体を展開して此岸と対岸の間に渡すことにより橋梁とするので、災害や有事において仮設橋を迅速かつ簡単に架設して車両等の通行を可能にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る仮設橋の架設方法を説明する手順図である。
【図2】本発明の第1実施例に係る仮設橋の架設方法を説明する工程図である。
【図3】第1実施例の仮設橋の架設方法を説明する手順図である。
【図4】第1実施例において使用する折り畳み支持体の1例を示す側面図である。
【図5】本発明に適用した支持体における断面力図である。
【図6】従来のケーブルトラス桁における断面力図である。
【図7】圧縮ストラットが連続的なバネに支持されている状態を示す概念図である。
【図8】本発明の第2実施例に係る仮設橋の架設方法を説明する工程図である。
【図9】第2実施例の仮設橋の架設方法を説明する手順図である。
【図10】従来技術に係る応急橋の架設用車両と架設方法を説明する側面図である。
【図11】従来技術に係る非常用橋の架設方法における補助橋の送り出し工程を説明する図面である。
【図12】従来技術に係る非常用橋の架設方法における本橋の送り出し工程を説明する図面である。
【図13】従来技術に係る空気的構造要素の例を示す斜視図である。
【図14】従来技術に係る空気的構造要素における作用力に関する説明図である。
【図15】従来技術に係る空気的構造要素を利用した橋梁の例を示す一部切り欠き斜視図である。
【図16】従来技術に係るアーチ型支持体を適用した橋梁の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1は本発明の仮設橋の架設方法を包括的に説明する手順図である。
本発明の仮設橋の架設方法は、流体力を用いた支持体を活用して軽量で組立容易な橋梁を迅速に架橋する方法である。
【0028】
本発明の仮設橋の架設方法における架設手順は、図1に示すように、初めに、圧縮ストラット、テンションスリング、ガスチューブ、アンカー部を組み上げて支持体を形成する。このとき、畳み込み工程により、圧縮ストラットをロッドに分解して、支持体をロッド単位で蛇腹状に折り畳むことにより、折り畳み支持体とする(S1)。
【0029】
次に、運搬工程で、折り畳み支持体を此岸の仮設橋架設位置に運搬し、展開工程で、折り畳み支持体を牽引ワイヤで引いて展開して此岸と対岸の間に渡し(S2)、剛性化工程で、ガスチューブに圧縮空気などのガスを供給して膨らますことにより、圧縮ストラットの両端を結ぶテンションスリングに張力が掛かり、圧縮ストラットに圧縮力が掛かるようにして、支持体を硬直化させて剛性化する(S3)。
ガスチューブは、空気の他に、窒素、アルゴン、炭酸ガスなどの不活性ガスや、入手や輸送が簡単で経済的なガスを充填して、膨張させるようにしてもよい。
さらに、固定工程で、支持体両端のアンカー部を地面に固定することにより、仮設橋の設置を完了する(S4)。
【0030】
なお、ガスチューブの膨張は折り畳み支持体の展開と連動して行ってもよい。また、一方の岸におけるアンカー部を、折り畳み支持体の展開前に地面に固定して、固定されたアンカー部を支持体を展開するときの支持点とすることもできる。
【実施例1】
【0031】
図2は本発明の第1実施例に係る仮設橋の架設方法を説明する工程図、図3は第1実施例を説明する手順図である。本実施例では、デッキパネルをガスチューブの上に並べて接合し圧縮ストラットの機能を持たせるようにしている。図4は、本実施例において使用する折り畳み支持体の1例を示す側面図である。
【0032】
本発明第1実施例に係る仮設橋の架設方法は、初めに、圧縮ストラット、テンションスリング、ガスチューブ、アンカー部を一体に組み上げて、圧縮ストラットをロッドごとに折り畳み支持体10を形成する(S11)。空気を使って膨張させる場合は、ガスチューブを空気チューブと呼んでもよい。空気を膨張媒体として使えば、簡単なポンプを使うことで気軽にガスチューブを膨張させることができ、また大気を汚染することがないから直接大気に放出することにより簡単にガスチューブを痩せさせることができる。
折り畳み支持体は、図4の側面図に例示したように、圧縮ストラット1をロッド(ここではデッキパネル6)ごとに分解して、ガスチューブ3のガスが抜けた状態にした支持体10をロッド単位で蛇腹状に折り畳むことにより形成される。
【0033】
ガスチューブ3は、ガスが抜けて萎んだ状態で、圧縮ストラット1とテンションスリング2の間に挟まっている。搬送中や展開中にガスチューブ3が垂れないように、適当な間隔で圧縮ストラット1に止めておくことが好ましい。なお、支持体10が折り畳まれているときとガスチューブ3が膨らんでいるときでは、ガスチューブ3が圧縮ストラット1に当たる位置がずれてもよいので、ガスチューブ3と圧縮ストラット1のデッキパネル6とは緩く係合させておけばよい。ガスチューブ3は、搬送中や展開中に垂れないように、ハンガー5を用いて適当な間隔で圧縮ストラット1に止めておくことができる。
【0034】
テンションスリング2は、両端でアンカー部4に結合されたベルトである。テンションスリング5も、搬送中や展開中に垂れないように適宜の間隔で圧縮ストラット1やガスチューブ3に止めておくことが好ましい。また、ハンガー5を利用して、ガスチューブ3と一緒に吊下してもよい。
圧縮ストラット1の端部に配置されるデッキパネル6は1端がアンカー部4に固定される。
【0035】
図2(a)に示したように、折り畳み支持体10は、トラック11などで現場まで運搬され、此岸21の架橋位置に降ろされる(S12)。対岸22にウインチ13を備えた牽引トラック14を配置し、ウインチ13から延ばされた牽引ワイヤ12を対岸22に渡される方のアンカー部4に結びつける(S12)。
図2(b)に示したように、此岸側のアンカー部4を地面に固定する(S13)。さらに、図2(c)に示すように、対岸用のアンカー部4に掛けた牽引ワイヤ12を対岸22の牽引トラック14のウインチ13で巻き取って、折り畳み支持体10を伸展させる(S14)。
【0036】
図2(d)に示すように、折り畳み支持体10が完全に展開され、対岸側のアンカー部4部分が対岸22の所定位置に到達したら、対岸側のアンカー部4を対岸22の地面に止める(S15)。
アンカー部4は、アンカーボルトなどを使って地面に固定することができるが、予め地面に固定された部材に適宜の方法で係合させることで支持体10の先端部を地面に固定するようにしてもよい。また、支持体の先端に位置するロッドやデッキパネルの端部にボルト孔を設けてアンカー部とすることもできる。
【0037】
アンカー部4を対岸22の地面に止めた状態では、展開された折り畳み支持体10は、デッキパネル6同士が端縁を突き合わせた状態でアンカー部4に挟まれた圧縮ストラット1となり、ガスチューブ3がガスが抜けて薄くなった状態で圧縮ストラット1の下に配置され、ベルト状のテンションスリング2が緊張しないようにハンガー5などによりところどころで支持された状態でアンカー部4の間に渡されている。
【0038】
デッキパネル6同士は、折り畳み支持体10を展開する工程で端縁の面で突き合わせながら連接することにより、一体化した圧縮ストラット1を形成する。圧縮ストラット1の関節部を形成するデッキパネル6の端縁の突き合わせ面は、平面であっても、相互に圧接する凹面と凸面の組み合わせであってもよい。また、ボルトや係合ピンで隣同士を縫い合わせたりして、突き合わせ位置がずれないようにすることもできる。なお、突き合わせ面同士を蝶番で繋いで、折り畳みと展開が円滑にできるようにしてもよい。
【0039】
さらに、圧縮ストラット1は、ロッドあるいはデッキパネル6のそれぞれに橋軸方向に貫通する案内孔を設けて、橋軸方向に並べたロッド等の案内孔にワイヤやチェーンなどの締付綱を直列に通しておいて、締付綱を引き絞ることによりロッド等同士を一体の圧縮ストラット1とすることができ、締付綱を緩めることによりロッド等ごとに折り畳むことができるようにしたものであってもよい。
締付綱を用いて伸屈をするようにした折り畳み支持体についても、折り畳み支持体を展開する時にはアンカー部に結索された牽引ワイヤにより支持体の先端を所望の位置に案内することが好ましい。
【0040】
ここで、図外のガスボンベでガスチューブ3にガスを吹き込むと、図2(e)に示すように、テンションスリング2の張力により圧縮ストラット1に圧縮力が作用して硬直化し大きな剛性と座屈抵抗力を有するアーチ形の支持体10が形成されて、剛性化した支持体10の上にデッキパネル6を敷設した、大きな荷重に耐えられる橋梁20が完成する(S16)。安全のために、橋の両脇に手すりを設けてもよい。
また、支持体10を形成する圧縮ストラット1として、デッキパネル6を直接利用したが、アルミ合金などでできた細いロッドを連結したより軽量の棒状体を用い、剛性化させた支持体10の上にデッキパネル6を並べて設置することで仮設橋20とするようにしてもよい。
【0041】
本実施例においては、支持体10として、図13に示した基本的な円柱形の支持体を用いた。円柱型支持体では、支持体端部における上面と底面の高さの差が大きいので、アンカー部に当たる固定部材で傾斜を緩める工夫や、取付道路の路面を支持体の上面に合わせる工夫などが必要になる。また、円柱型支持体を使う場合は、複数の支持体を並列に並べて、その上にデッキパネルを並べるようにすることにより、路面の橋軸直角方向を水平に維持することが好ましい。
【0042】
本実施例の仮設橋の架設方法に使用する支持体は、デッキパネルに掛かる荷重による曲げモーメントを、圧縮ストラットの圧縮力とテンションスリングの引張力に変換して、荷重に対する抗力を発生するもので、軽量ながら大きな荷重に耐えられる。
図5,6に、本発明の仮設橋の架設方法に使用する支持体と、一般的なケーブルトラス桁をモデル的に比較する断面力図を示した。図5は本発明に適用した円柱型支持体の断面力図、図6は比較のために示したケーブルトラス桁モデルの断面力図である。
【0043】
共に、長さLの圧縮ストラットの両端にテンションスリングが接続されている。円柱型支持体では2本のテンションスリングが高さDの空気チューブに螺旋状に巻き付けられている。ケーブルトラス桁では、多数の鉛直ストラットの先端にテンションスリングが接続され、吊下されている。
【0044】
橋長Lに対して桁高Dが十分に小さい場合(γ=L/D>>1)、支持体とケーブルトラス桁において、荷重qが印加された場合のテンションスリングにかかる引張力Tは共に下の式(1)で近似できる。
(1) T=1/8・qLγ
【0045】
テンションスリングは両端で圧縮ストラットに接続しているため、引張力Tにより、圧縮ストラットに圧縮力Pが発生する。圧縮力Pが座屈抗力を超えると圧縮ストラットが座屈する。ケーブルトラス桁において、座屈抗力Pbは下の式(2)で示される。
(2) Pb=(n+1)πEI/L
【0046】
ここで、Iは圧縮ストラットの断面2次モーメント、Eは弾性係数、nは鉛直ストラットの本数である。式(2)に表されるように、座屈抗力は鉛直ストラットの設置間隔L/(n+1)の2乗に反比例する。したがって、座屈抗力を増強するためには鉛直ストラットの本数を増やさなくてはならない。しかし、鉛直ストラットの本数を増すと橋梁の自重が大きくなり、荷重に抗する余力が小さくなるジレンマがある。
【0047】
これに対し、流体力を用いた支持体では圧縮ストラットがガスチューブに密着して保持されているため、無数の鉛直ストラットに支持されていると考えることができ、鉛直ストラットの本数nへの依存から解放される。したがって、軽量のガスチューブを配することで、鉛直ストラットが不要になり、橋梁の自重を著しく軽量にすることができる。
【0048】
支持体では、図7に示すように、圧縮ストラットが連続的なバネに支持されていると仮定すると、バネ定数kを用いて、
(3) Pb=2√(kEI)
と表すことができる。すなわち、ガスチューブが全長に渡って圧縮ストラットを支持するため、圧縮ストラットの座屈抗力は橋長Lにも影響されない。
【0049】
支持体では、仮想バネのバネ定数kはガスチューブのガス圧に依存している。バネ定数kをガスチューブのガス圧pを用いてk=πpとすると、
(4) Pb=2√(πpEI)
となる。
断面2次モーメントIとガス圧pを適切に選択すると、座屈抗力Pbは圧縮ストラットの降伏荷重より大きくなる。したがって、圧縮ストラットに関して、座屈抗力を考慮せず、降伏荷重まで圧縮力をかけることが可能になるため、長手の圧縮ストラットにおいても、材質・形状の自由度が大きくなる。すなわち、圧縮ストラットに掛かる横方向の応力を考慮する必要が無いため、圧縮ストラットの断面積を小さくすることができ、非常に軽量に構成することができる。
【0050】
流体力を用いた支持体では、ガスチューブのガス圧が重要なパラメータとなる。
圧縮ストラットおよびテンションスリングを装着しない単純な円筒形ガスチューブの場合、面積当たりの荷重qに対して必要となるガス圧pは式(5)で表される。
(5) p=2/π・qγ
【0051】
γはガスチューブの太さに対する長さの比を表す(γ=L/D)。ガスチューブに必要となるガス圧pはガスチューブの形状γに強く依存し、橋梁に使用する細長形状においては、ガス圧pを相当程度高くしなければならない。例えば、γ=30のガスチューブにおいては、q=1kN/mの荷重に耐えるために、約570kN/mのガス圧が必要になる。
【0052】
一方、本発明で適用する支持体に使用したガスチューブでは、荷重qに抗するために必要なガス圧pは式(6)で与えられる。
(6) p=π/2・q
【0053】
例えば、q=1kN/mの荷重に耐えるために必要なガス圧pは約5kN/m(50mBar)である。このように、支持体に適用したガスチューブは、スパンによらず、低いガス圧で荷重に抗することができる。流体力を用いた支持体では、荷重に対する抗力を圧縮ストラットとテンションスリングが担っており、ガス圧はテンションスリングにプレテンションを与える作用と、圧縮ストラットを固定する作用を担っているため、細長いガスチューブでも低いガス圧で十分に実用に耐えうる。また、空気ポンプを用いて空気を封入する方法を利用することもできる。
【0054】
必要なガス圧が数100mBarと小さいため、ガスチューブ布素材に機密性が特に高いものを使用する必要が無く、安価に入手できる材質のものでよい。また、ガスチューブが損傷した場合も、破裂のおそれが無く、損傷部位から空気などのガスが漏れるだけである。そのため、ガスチューブは特殊な素材を使用する必要がなく、薄く、軽量、安価に作成することができる。また、損傷した場合も、損傷部分をパッチで塞ぐか、漏れ出すガス量以上のガスをボンベや空気ポンプなどで加給することで対処できる。そのため、安全性が高く、維持が容易である。
【0055】
本実施例に用いた支持体は、アルミ合金の圧縮ストラットと、鋼製ワイヤーロープのテンションスリングと、PVCコーティングポリエステルのガスチューブで形成することができる。本実施例の架設方法で架設する仮設橋は、例えば20mのもので数10〜100ton程度の荷重に耐えることができる。それにもかかわらず、1本の支持体が20mで130kg程度と非常に軽量であり、3本の支持体と床版パネル等を含む橋梁全体の自重も500〜700kgである。同様の最大荷重を持つ従来のトラス橋に比べて10分の1以下の重量でしかない。
【0056】
したがって、本実施例の仮設橋の架設方法は、橋梁の展開を簡単、スムーズに行うことができ、作業環境が劣悪な状況でも速やかに仮設橋を架設することができる。また、使用する部材が軽量であり、必要とするガス圧あるいは空気圧も低いため、橋梁の展開に必要となるウインチや空気ポンプなども小型のもので十分である。したがって、架設に必要な部材、工具の総重量が小さく、運搬が非常に容易であるうえ、複数の橋梁に亘る資材を搬送することも苦にならない。
なお、本実施例の仮設橋の架設方法により、円柱型支持体を用いた仮設橋を架設することもできることはいうまでもない。
【実施例2】
【0057】
図8は本発明の第2実施例の展開工法に係る仮設橋の架設方法の作業手順を示す工程図、図9はその手順を説明する手順図である。
本実施例の仮設橋の架設方法は、第1実施例の方法と比較すると、折り畳み支持体を空中に支えて両岸から牽引ワイヤを引いて展開することが相違するだけで、折り畳み支持体の準備工程や支持体を展開して両岸に渡した後の工程に異なる点はない。図8は、第1実施例と異なる部分について図示するものである。
【0058】
本実施例の仮設橋の架設方法は、図9の手順図に示すように、ロッドで構成される圧縮ストラット、テンションスリング、ガスチューブ、アンカー部を一体に組み上げて、図4に例示したような、ロッドごとに折り畳んだ折り畳み支持体10を形成する(S21)。
【0059】
折り畳み支持体10は、ヘリコプター31などから輸送用ワイヤ32で吊り下げられ、架設地点に輸送され、図8(a)に示すように、架橋位置上空に保持される(S22)。このとき、此岸21に設置されたワイヤ巻き揚げ機33から延ばされた牽引ワイヤ34を折り畳み支持体の此岸用アンカー部4に結びつけておく。
なお、折り畳み支持体10は、トラックなどで渡河位置に運搬し、クレーンで吊り下げて架設地点上に支持するようにしてもよい。
【0060】
さらに、対岸用アンカー部4に付けた牽引ワイヤ36を対岸に設置したワイヤ巻き揚げ機35に繋ぐ(S23)。
次に、図8(b)に示されるように、此岸21と対岸22のワイヤ巻き揚げ機33,35で両側の牽引ワイヤ34,36を巻いて、牽引ワイヤのゆるみを取りながら、ヘリコプター31やクレーンに吊された折り畳み支持体10を架設地点(スパン中央)の上空に移動させる(S24)。
【0061】
輸送ワイヤ32で吊しながら牽引ワイヤ34,36を巻き揚げて、両側からの引張力により折り畳み支持体10が空中に維持できるようになったら、図8(c)に示すように、輸送ワイヤ32を解除し、さらに図8(d)に示すように、折り畳み支持体10の両側から牽引ワイヤ34,36を巻き上げて、折り畳み支持体10を展開する(S25)。なお、折り畳み支持体10を展開しきるまで、ヘリコプター31やクレーンで空中に支持するようにしてもよい。
【0062】
展開した折り畳み支持体10を此岸21と対岸22の間を跨ぐように配置した後は、アンカー部4を所定位置の地面に固定する(S26)。
そこで、第1実施例と同じ工程に従い、展開した支持体のガスチューブ3にガスボンベからガスを供給し、あるいは空気ポンプで圧縮空気を吹き込むと、ベルト状のテンションスリング2の張力により圧縮ストラット1に圧縮力が作用して剛性化し、剛性と座屈抵抗を有する支持体が形成され、大きな荷重に耐えられる仮設橋20が完成する(S27)。
【0063】
本実施例においても、第1実施例と同じように、橋の両脇に手すりを設けてもよい。
また、支持体を形成する圧縮ストラット1として、アルミ合金などでできた細いロッドを連結したより軽量の棒状体を用い、剛性化させた支持体の上にデッキパネル6を並べて設置するようにしてもよい。
【0064】
なお、図16に概念的に表示した扁平舟形形状のアーチ型支持体は、円柱型支持体より耐荷重性能が高く、例えば20mの橋梁で数100tonの荷重に耐えることができる。本発明においても、円柱型支持体に代えてアーチ型支持体を使うことができる。本発明に使用するアーチ型支持体は、支持体のガスチューブ上面にデッキパネルを並べた圧縮ストラットと、下面にテンションスリングが接面しており、長手方向断面が舟形の形状になったものであってよい。アンカー部はそれ自体に傾斜面が設けられており、傾斜面が踏掛け板の役割も果たすことができる。アーチ型支持体を使って形成される仮設橋は、耐荷重性能が高いため、大型重機や主力戦車を渡すことができ利用範囲が広い。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の仮設橋の架設方法は、軽量の空気チューブ橋を簡易、迅速に展開することができるため、災害時や有事などに河川や濠に橋を渡して車両等の通行を可能にするための仮設橋の架設方法に利用することができる。
【符号の説明】
【0066】
1 圧縮ストラット
2 テンションスリング
3 ガスチューブ
4 アンカー部
5 ハンガー
6 デッキパネル
10 支持体
11 トラック
12 牽引ワイヤ
13 ウインチ
14 トラック
20 仮設橋
21 此岸
22 対岸
31 ヘリコプター
32 輸送ワイヤ
33 ワイヤ巻き揚げ機
34 牽引ワイヤ
35 ワイヤ巻き揚げ機
36 牽引ワイヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスチューブと圧縮ストラットとテンションスリングとアンカー部を備えて該ガスチューブをガスで膨張させて剛性化する支持体であって、前記圧縮ストラットは、複数のロッドを繋いで形成され、前記ガスチューブの上部に配置され、前記テンションスリングは前記圧縮ストラットの端点同士を結合し、前記ガスチューブを前記圧縮ストラットと前記テンションスリングの間に配置し、該支持体の橋軸方向両端部にアンカー部を備えて、前記支持体を使って荷重を支持するようにした仮設橋を此岸と対岸の間に架設する方法であって、
前記圧縮ストラットを前記テンションスリングと前記ガスチューブと共に前記ロッド単位で畳み込んで、折り畳み支持体を形成する畳み込み工程と、
前記折り畳み支持体を架設地点に搬送する運搬工程と、
前記アンカー部に接続した牽引手段により前記折り畳み支持体を橋軸方向に展開して此岸と対岸の間に渡す展開工程と、
前記支持体を剛性化する剛性化工程と、
前記アンカー部を地面に固定する固定工程とを含む、
仮設橋の架設方法。
【請求項2】
前記展開工程と前記固定工程における手順は、一端側の前記アンカー部を此岸で地面に固定し、他端側の前記アンカー部に接続した牽引手段により、前記折り畳み支持体を橋軸方向に展開することを特徴とする、請求項1記載の仮設橋の架設方法。
【請求項3】
前記運搬工程と前記畳み込み工程と前記展開工程における手順は、前記両端のアンカー部のそれぞれに牽引手段を接続し、
前記折り畳み支持体を吊り下げて架設地点の上空に停止させて、
前記牽引手段により前記折り畳み支持体を橋軸方向に展開することを特徴とする、請求項1記載の仮設橋の架設方法。
【請求項4】
前記ロッドがデッキパネルで構成される、請求項1から3のいずれか1項に記載の仮設橋の架設方法。
【請求項5】
前記圧縮ストラットの上にデッキパネルを並べて床版とする、請求項1から3のいずれか1項に記載の仮設橋の架設方法。
【請求項6】
前記支持体は、前記ガスチューブを橋軸直角方向に2本以上配置した、請求項1から5のいずれか1項に記載の仮設橋の架設方法。
【請求項7】
前記支持体は、前記圧縮ストラットの下側で端部の間に前記テンションスリングを渡して、両者の間に前記ガスチューブが挟まった構成で、該ガスチューブを膨張させることにより、スパン中央部の高さが高く両端で低くなるアーチ形をなすことを特徴とする、請求項1から5のいずれか1項に記載の仮設橋の架設方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の仮設橋の架設方法により架設された仮設橋。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate


【公開番号】特開2013−53446(P2013−53446A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−191925(P2011−191925)
【出願日】平成23年9月2日(2011.9.2)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】