説明

仮設足場の施工システム

【課題】足場内の所望の建物形成域内に建物建設部材を運搬し得るようにした施工システムを提供する。
【解決手段】建築しようとする建物周囲に施工した外部足場と、該外部足場に形成した建物建設部材を搬入する搬入口と、先端が搬入口から足場上部内に位置する第1の固定レールと、該第1の固定レールと一緒に連結路となる連結レールを形成し得る移動レールと、該移動レールを足場上部両側部でスライド移動し得るように保持する対向した第2の固定レールとを具備し、前記建物建設部材を上下動し得るように保持した吊り具を上記第1の固定レールから前記移動レールに移動させ、建物建設部材を足場内の所望の建物建設域内に運搬し得るように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、クレーンを用いなくとも建物の構築ができる仮設足場の施工システムに係り、詳記すれば足場内の所望の建物形成域内に建物建設部材を運搬し得るように構成した施工システムに関する。
【背景技術】
【0002】
建物建設部材の搬送及び取り付けは、従来、大型クレーンを用いて行っていた。しかしながら、特に都心などの建築現場では、大型クレーンが入り込む場所が確保し難い問題があった。そればかりか、仮設足場に屋根部を形成すると、クレーンを用いて建物外壁を構築できない問題があった。屋根部が邪魔をして、外壁(パネル)を基礎上のアンカーボルトに落として嵌合装着させることができないからである。
【0003】
このような問題点を解消するため本出願人は、吊り具を足場内周のレール上で移動し得るようにした仮設足場の施工システムを開発し、先に特許出願した(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003-56177 しかしながら、上記システムは、雨天時でも作業ができるという点で画期的なものであったが、建物建設部材を建設予定の建物の外周にしか運搬できなかった。運搬できない部分には、ロープ等の手段を用いて行ったが、これでは作業能率が悪く到底実施し得なかった。そのため、この方法は現在全く実施されていない。
【0004】
また、雨天時でも作業ができる屋根部を具備した仮設足場は公知である。しかしながら、従来の屋根部は、建築現場全体を覆うことができないとか、屋根部を形成するのが厄介であるとか、屋根部の取り外しが容易でない等の問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明のうち請求項1に記載の発明は、足場内の所望の建物形成域内に建物建設部材を運搬し得るようにした施工システムを提供することを目的とする。
【0006】
また、請求項7に記載の発明は、上記目的に加えて、容易に屋根部を形成することができ、しかも容易に屋根部を取り外すことができる屋根部を具備した仮設足場の施工システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的に沿う本発明のうち請求項1に記載の発明は、建築しようとする建物周囲に施工した外部足場と、該外部足場に形成した建物建設部材を搬入する搬入口と、先端が搬入口から前記外部足場上部内に位置する第1の固定レールと、該第1の固定レールと一緒に連結路となる連結レールを形成し得る移動レールと、該移動レールを足場上部両側部でスライド移動し得るように保持する対向した第2の固定レールとを具備し、前記建物建設部材を上下動し得るように保持した吊り具を、上記第1の固定レールから前記移動レールに移動させ、建物建設部材を足場内の所望の建物建設域内に運搬し得るように構成したことを特徴とする。
【0008】
前記第1の固定レール及び移動レールは、長尺の金属製厚板の中央に長尺の金属製厚板を立設した逆T字状に形成するのが強度上の理由から好ましく(請求項2)、前記移動レールの立設した金属製厚板上端には、補強用ロッドを固定するのが、更に変形が効果的に防止し得ることから好ましい(請求項3)。
【0009】
前記第2の固定レールは、フランジ面が上下になるようなH型鋼に形成され、前記移動レール両側端の立設した金属製厚板上端に直接若しくは前記補強用ロッドを介して固定された溝形部材内の対向するころで、前記H型鋼のウェブを挟持するように固定するのが良い(請求項4)。
【0010】
前記吊り具は、上端に前記第1の固定レールと移動レール上をスライド移動するローラーを具備し、該ローラーは前記立設した金属製厚板を挟持するように固定し、吊り具上端は前記第2の固定レールの下を通過し得る高さとするのが好ましい(請求項5)。
【0011】
前記移動レールと一緒になって前記連結路を形成する第1の固定レールの端部両水平方向には、前記吊り具の落下を防止するストッパーを設けるのが好ましい(請求項6)。
【0012】
前記外部足場の上端を斜面に形成し、該斜面の上端に屋根部材を巻回したロールを固定し、斜面の下端に雨樋を設け、該雨樋に巻き戻した屋根部材先端を固定することによって、屋根部を容易に形成することができる(請求項7)。
【0013】
上記のように構成すると、屋根部を取り外す時は、ロールには屋根部材の後端が固定されているので、ロールを転がすだけで、屋根部材を巻回したロールが雨樋内に位置するようになり、屋根部を極めて容易に取り外すことができる。
【発明の効果】
【0014】
この発明のうち請求項1に記載の発明によれば、仮設足場に屋根部を形成した状態で、足場内の所望の建物形成域内に建物建設部材を運搬することができるので、極めて能率的に建設作業を行うことができる。
【0015】
また、請求項7に記載の発明によれば、上記利点に加えて、容易に屋根部を形成することができ、しかも容易に屋根部を取り外すことができる利点が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0017】
図1に示すように、建築物の基礎の外周に間隔づけて、外部足場1が先行施工され、該外部足場1の一端には、搬入口2が形成されている。搬入口2上端には、足場1上部内に位置する直線状固定レール3が固定されている。直線状固定レール3先端は、建築する建物外壁よりは、当然手前になっている。
【0018】
図2に示すように、第1の固定レール3先端には、固定レール3先端から左右の両水平方向に移動する移動レール4が配設されている。
【0019】
第1の固定レール3及び移動レール4は、それぞれ長尺の金属製厚板5,5´の中央に長尺の金属製厚板6,6´を立設した逆T字状に形成され、金属製厚板6,6´上端には、クランプ7,7´によって補強用ロッド8,8´が固定されている。このように補強用ロッド8,8´を固定することによって、重量のある物体を吊り下げても、第1の固定レール3及び移動レール4の変形が効果的に防止される。尚、移動レール4には、3本の補強用ロッド8´が固定されているが、これは1本であっても差し支えない。
【0020】
しかしながら、金属製の厚いT字形材を使用するとか、金属製厚板5の長さ方向両側端を若干上方に曲げるようにしても、固定レール3及び移動レール4の曲げは防止できるので、補強用ロッドは1本であっても差し支えない。
【0021】
足場1内両側部の固定レール3及び移動レール4と直交する方向には、前記移動レール4をスライド自在に保持する対向する第2の固定レール9,9´が固定されている。
【0022】
対向する第2の固定レール9,9´は、長尺のH型鋼20,20´のフランジ面21,21と21´,21´が上下となるように形成され、前記移動レール4両側端に固定された対向するローラー10,10´で前記H型鋼のウェブ22,22´両側面を挟持している。
【0023】
ローラー10,10´は、補強用ロッド8´の両端上に固定した溝形部材11,11´の両側壁に複数のころ12,12´を、回動自在に固定することにより構成され、ころ12,12´で前記H型鋼のウェブ22,22´の両側面をスライド自在に挟持している。
【0024】
第1の固定レール3及び移動レール4上には、建物建設部材を運搬する吊り具13が走行し得るように固定されている。吊り具13下端には、上下動し得るウインチ14が固定され、ウインチ14で建物建設部材を吊り下げ運搬するようになっている。
【0025】
吊り具13は、上端の溝形部材15の両側壁に固定した複数のコロ12aで、金属製厚板6,6´の両側部をスライドし得るように挟持し、前記固定レール3と移動レール4上を走行し得るようになっている。
【0026】
吊り具13の上端は、固定レール9´を支持する溝形部材11´の下端を通過し得る高さとなっているのは勿論である。即ち、溝形部材11´を直接金属製厚板6´上に固定する場合は、金属製厚板6´の高さ以下に、補強用ロッド8´上に固定する場合は、補強用ロッド8´以下の高さとなっている。
【0027】
移動レール4の前記連結路を形成する第1の固定レール3側の端部の両水平方向には、吊り具13の落下を防止するストッパー壁16が固定されている。これは必ずしも必要ではないが、このように構成すると、誤って吊り具13が落下するのを防止することができる。尚、移動レール4の他端には、適当なストッパーを設けておけばよいので、特にストッパー壁16は設けなくとも良い。
【0028】
図1及び図4に示すように、斜面に形成された外部足場の上端に、屋根部材17a,17b,17cを巻回したロール18a,18b,18cを固定し、斜面の下端に雨樋19を設けている。このようにロールを3本設けているのは、1本では、大きくなりすぎて、取り付け、取り外しが極めて困難となるからである。
【0029】
図1に示すように、両側部のロール18a,18cは、同一軸心上にあるが、中央のロール18bは、両側部のロールの後方に位置している。このように構成することによって、図4に示すように、屋根部材17a,17b,17cを巻き戻して先端を雨樋19に固定して屋根部を形成するときに、接合部に重合部が形成され、雨漏りの量を少なくすることができる。
【0030】
雨樋19は、中央の雨樋19bが両側部の雨樋19a及び19cより突出しているが、雨樋19a,19b,19cの溝は連通している。雨樋19端部の集水孔に集められた雨水は、集水孔に連結された縦樋20から地面に落下するようになっている。
【0031】
工事終了後、屋根部材17a,17b,17cを取り外す時は、巻心23を取り外し、これを屋根部の斜面に転がすだけで、屋根部材17a,17b,17cは巻心23に巻かれて、それぞれ雨樋19a,19b,19c中に落下するので、屋根部の取り外しが極めて容易となる。
【0032】
本発明の施工システムを使用して建物の内壁及び外壁を構築するには、まず第1の固定レール4上の吊り具13のウインチ14でパネルを吊り下げ、電動若しくは手動で第1の固定レール3から移動レール4に移動させる。それから、移動レール4を所定の場所に移動させて、基礎上のアンカーボルトの真上からパネルを落として、パネルをアンカーボルトに嵌合させる。それから、移動レール4を固定レール3と同一直線上の連結路が形成される図1〜図4に示す位置に移動させる。電動で移動させる場合には、レーザー若しくは赤外線センサー等を使用して、移動レールの位置決めをすればよい。
【0033】
次いで、ウインチ14で、次の建設部材を吊り下げ、同様にして何回も繰り返し建設部材を運んで、1階の外壁、柱、間仕切り等を形成した後、床を載せて、順次下から上の階への建物の構築をし、最後に屋根を形成する。
【0034】
上記のように、本発明によれば、建物建設部材の全てを吊り具で運ぶことができるので、足場に屋根部を設けても支障なく建物の建設をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一実施例を示す斜視図である。
【図2】本発明の固定レールと移動レールの連結時の状態を示す図である。
【図3】図2の連結部の拡大図である。
【図4】本発明の屋根部を形成する状態を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0036】
1・………外部足場
2・………搬入口
3・………第1の固定レール
4・………移動レール
8,8´・………補強用ロッド
9,9´・………第2の固定レール
10,10´・………ローラー
13・………吊り具
14・………ウインチ
16・………ストッパー壁
17a,17b,17c・………屋根部材
18a,18b,18c・………屋根部材を巻回したロール
19a,19b,19c・………雨樋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築しようとする建物周囲に施工した外部足場と、該外部足場に形成した建物建設部材を搬入する搬入口と、先端が搬入口から前記外部足場上部内に位置する第1の固定レールと、該第1の固定レールと一緒に連結路となる連結レールを形成し得る移動レールと、該移動レールを足場上部両側部でスライド移動し得るように保持する対向した第2の固定レールとを具備し、前記建物建設部材を上下動し得るように保持した吊り具を、上記第1の固定レールから前記移動レールに移動させ、建物建設部材を足場内の所望の建物建設域内に運搬し得るように構成したことを特徴とする仮設足場の施工システム。
【請求項2】
前記第1の固定レール及び移動レールは、長尺の金属製厚板の中央に長尺の金属製厚板を立設した逆T字状に形成されている請求項1記載の施工システム。
【請求項3】
前記移動レールの立設した金属製厚板上端には、補強用ロッドが固定されている請求項2記載の施工システム。
【請求項4】
前記第2の固定レールは、フランジ面が上下になるようなH型鋼に形成され、前記移動レール両側端の立設した金属製厚板上端に直接若しくは前記補強用ロッドを介して固定された溝形部材内の対向するころで、前記H型鋼のウェブを挟持するように構成されている請求項2又は3記載の施工システム。
【請求項5】
前記吊り具は、上端に前記第1の固定レールと移動レール上をスライド移動するローラーを具備し、該ローラーは前記立設した金属製厚板を挟持するように固定され、吊り具上端は前記第2の固定レールの下を通過し得る高さとなっている請求項4記載の施工システム。
【請求項6】
前記移動レールと一緒になって前記連結路を形成する第1の固定レールの端部両水平方向には、前記吊り具の落下を防止するストッパーを設ける請求項1〜5のいずれかに記載の施工システム。
【請求項7】
前記外部足場の上端を斜面に形成し、該斜面の上端に屋根部材を巻回したロールを固定し、斜面の下端に雨樋を設け、該雨樋に巻き戻した屋根部材先端を固定して屋根部を形成する請求項1〜6のいずれかに記載の施工システム。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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