説明

伝動ベルト

【課題】騒音抑制効果に優れ、しかも、その騒音抑制効果の持続性にも優れた伝動ベルトを提供することにある。
【解決手段】無機充填材を含有するゴム組成物によって伝動面が形成された伝動ベルトであって、前記無機充填材には、水酸基または水分子を有する親水性無機物あるいは水と反応して前記親水性無機物となる親水性無機物前駆体が用いられてなる親水性無機充填材が用いられ、前記ゴム組成物には、ゴム100重量部に対して前記親水性無機充填材が5重量部以上含有されていることを特徴とする伝動ベルトを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伝動ベルトに関し、より詳しくは、伝動面がゴム組成物で形成された伝動ベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンやモーターなどの回転動力を伝達する手段として、動力源側と被回転物側との回転軸にプーリーなどを固定させて設け、それぞれのプーリーに伝動ベルトを掛け渡す方法などが広く用いられている。
このような伝動ベルトは、運転中に被水した時などにスティック−スリップなどと呼ばれる現象を引き起こすことが知られており、プーリーとの間にスリップを生じてスリップ音を発生させることが知られている。
このような伝動ベルトのスリップ音は、装置の騒音の原因となることから、従来、種々の対策が検討されている。その対策の一つとして、例えば、伝動面の表面に短繊維を突出させる方法が知られており、下記特許文献1乃至4には、綿などの天然繊維が含有されるゴム組成物を用いて伝動ベルトの伝動面を形成させ、この天然繊維を伝動面から突出させることが記載されている。
また、特許文献2には、天然繊維に加えナイロン繊維を併用することが記載され、特許文献5には、このような天然繊維に代えてポリアミド短繊維を用いることが記載されたりしている。
さらに、特許文献6乃至8には、短繊維としてアラミド繊維を用いることも記載されている。
また、このような短繊維を伝動面の表面に突出させる方法以外のスリップ音対策として、特許文献9には、ポリアミド樹脂パウダーを含有するゴム組成物を用いて伝動ベルトの伝動面を形成させることが記載されており、特許文献10には、多孔質アクリル短繊維を含有するゴム組成物を用いて伝動ベルトの伝動面を形成させることが記載されている。
【0003】
しかし、このような従来の伝動ベルトにおいては、スティック−スリップによる騒音の発生が十分抑制されていないという問題を有している。しかも、伝動ベルトの伝動面から突出された短繊維は、伝動ベルトの運転に伴い伝動ベルトの表面から脱落し易く、伝動ベルトの運転時間の経過とともに騒音抑制効果が低下してしまうという問題を有している。
すなわち、従来の伝動ベルトは、騒音抑制効果が十分高められておらず、また、その効果の持続性も十分ではないという問題を有している。
【0004】
【特許文献1】特開2004−125012号公報
【特許文献2】特開2003−202055号公報
【特許文献3】特開2001−165244号公報
【特許文献4】特開2001−254782号公報
【特許文献5】特開2004−257459号公報
【特許文献6】特開2004−150524号公報
【特許文献7】特開平7−151191号公報
【特許文献8】特開2002−227934号公報
【特許文献9】特開2004−232743号公報
【特許文献10】特開2004−176904号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、上記問題点に鑑み、騒音抑制効果に優れ、しかも、その騒音抑制効果の持続性にも優れた伝動ベルトを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前記課題を解決すべく、伝動ベルトの伝動面の性状と被水などによるスティック−スリップとの関係について鋭意検討を行ったところ、伝動ベルトの伝動面の水に対する濡れ性を高めることで被水などによるスティック−スリップを抑制させ得ることを見出し本発明の完成に到ったのである。
すなわち、本発明は、無機充填材を含有するゴム組成物によって伝動面が形成された伝動ベルトであって、前記無機充填材には、水酸基または水分子を有する親水性無機物あるいは水と反応して前記親水性無機物となる親水性無機物前駆体が用いられてなる親水性無機充填材が用いられ、前記ゴム組成物には、ゴム100重量部に対して前記親水性無機充填材が5重量部以上含有されていることを特徴とする伝動ベルトを提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、水酸基または水分子を有する親水性無機物あるいは水と反応して前記親水性無機物となる親水性無機物前駆体が用いられてなる親水性無機充填材が、伝動ベルトの伝動面を形成するゴム組成物にゴム100重量部に対して5重量部以上含有されていることから伝動ベルトの伝動面の水に対する濡れ性を高めて被水などによるスティック−スリップを抑制させ得る。
しかも、伝動面を形成するゴム組成物に含有される親水性無機充填材は、短繊維のように伝動面から突出させる必要が無いことから、短繊維などを用いた場合のように伝動ベルトの運転中に伝動面からの脱落が生じるおそれを抑制させ得る。
したがって、伝動ベルトを騒音抑制効果に優れ、しかも、その騒音抑制効果の持続性にも優れたものとし得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に、本発明の好ましい実施の形態についてVリブドベルトを例に説明する。
まず、本実施形態のVリブドベルトは、無端状に形成されている。そして、ベルト断面は、図1に示すように内周側ほど狭幅となる台形に形成されたリブ6がベルト幅方向に3つ設けられている。
このVリブドベルト1の内周側、すなわち、プーリーに当接する伝動面側には、圧縮層5が形成され、該圧縮層5の外周側に接着層3が形成され、該接着層3の外周側にはVリブドベルト1の最外層となるカバー層2が形成されている。
前記圧縮層5は、無機充填材を含有するゴム組成物によって形成されており、前記接着層3は、Vリブドベルト1の幅方向に一定の間隔を設けて複数本の抗張体4がゴムに埋設されることにより形成されている。また、前記カバー層2は、ゴムシートが用いられて形成されている。
【0009】
この圧縮層のゴム組成物に含有される無機充填材としては、水酸基または水分子を有する親水性無機物あるいは水と反応して前記親水性無機物となる親水性無機物前駆体が用いられてなる親水性無機充填材が用いられる。
なお、水酸基または水分子を有することは無機充填材を例えば120℃で24時間充分に乾燥させた後にKBrペレット法もしくはATR法によりフーリエ変換赤外分光スペクトル(FT−IR)を測定した際に水酸基帰属の3000〜3400cm-1付近の吸収ピークもしくは、H2O帰属の3650cm-1付近の吸収ピークが観測されることで確認できる。
また、水と反応して前記親水性無機物となるとは常温で水と接触して親水性無機物に変化することを意図しており、例えば、無機充填材に水を加えた後に120℃で24時間充分に乾燥させたものを前述のごとくFT−IR測定することで親水性無機物前駆体であるかどうかを判別することができる。
【0010】
この親水性無機物としては、例えば、金属水酸化物のような水酸基を有する無機物、含水珪酸などの結合水を有する無機物などを挙げることができ、これらの無機物を単独または複数種類混合して用いることができる。
【0011】
この水酸基を有する無機物としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化亜鉛、ハイドロタルサイトなどを用いることができる。
【0012】
また、結合水を有する無機物としては、塩基性炭酸マグネシウムなどの金属炭酸塩、含水珪酸、珪酸アルミニウム類(カオリンクレー、セリサイト、マイカ、含水珪酸アルミニウム、ゼオライト、ベントナイト、パイロフィライトなど)やタルクなどの珪酸マグネシウム類、合成ワラストナイトのような珪酸カルシウム類を例示することができる。
【0013】
前記親水性無機物前駆体としては、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウムなどの金属酸化物のような水と反応して水酸基を形成する無機物を用いることができる。
【0014】
このような無機物が用いられてなる親水性無機充填材のなかでも、水酸化アルミニウムが用いられた親水性無機充填材は、他の親水性無機充填材に比べて伝動ベルトのスティック−スリップを抑制させる効果に優れており、しかも、安価で伝動ベルトのコストを低減させ得る点においても優れている。
【0015】
また、これらの親水性無機充填材は、ゴム組成物に一般的に用いられる充填剤と同様の粒径、形状のものを用いることができる。
【0016】
なお、このように親水性無機充填材の粒径や形状は、上記のごとく特に限定されるものではないが、ゴム組成物に対する含有量としては、ゴム100重量部に対して5重量部以上とされる。
ゴム100重量部に対する親水性無機充填材の含有量がこのような範囲とされるのは、ゴム100重量部に対する親水性無機充填材の含有量が5重量部未満の場合には、スティック−スリップを抑制させる効果が十分なものとならず、伝動ベルトの騒音抑制効果が十分なものとならないためである。また一方で親水性無機充填材の含有量をそれ以上増大させても親水性無機充填材の含有量の増大に見合うスティック−スリップを抑制効果の向上が得られないばかりか、伝動ベルトの耐磨耗性を低下させるおそれがあることから、ゴム100重量部に対する親水性無機充填材の含有量は100重量部以下であることが好ましい。
また、このような親水性無機充填材は、シランカップリング剤で表面処理されたものを用いることが好ましく、前記シランカップリング剤としては、官能基としてビニル基、メルカプト基、スルフィド基、メタクリル基、アミノ基、エポキシ基などを有するものが例示でき、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビス−〔3−(トリエトキシシリル)−プロピル〕テトラスルフィドなどを用いることができる。
【0017】
このような親水性無機充填材を含有させる圧縮層のゴム組成物に用いるゴムとしては、例えば、天然ゴム、ポリイソプレンゴム、エポキシ化天然ゴム、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム、ポリブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴム、水素化アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴム、エチレン−α−オレフィンエラストマー、ブチルゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、アルキル化クロロスルホン化ポリエチレン、塩素化ポリエチレンなどを単独あるいは複数混合して用いることができる。
なかでも、エチレン−α−オレフィンエラストマーは、耐熱性、耐寒性に優れ、比較的安価であることから好適である。
【0018】
このエチレン−α−オレフィンエラストマーとしては、例えば、エチレン−プロピレンコポリマー、エチレン−プロピレン−ジエンターポリマー、エチレン−オクテンコポリマー、エチレン−ブテンコポリマーを用いることができ、中でも、エチレン−プロピレン−ジエンターポリマーが低コストでしかも加工性に優れ、架橋効率が高い点において好適である。
【0019】
また、前記ゴム組成物には、本発明の効果を損ねない範囲において、伝動ベルトのゴム組成物に通常用いられる親水性無機充填材以外の無機充填剤、カーボンブラック、可塑剤、老化防止剤、加工助剤、加硫剤、加硫促進剤、架橋助剤、短繊維などを含有させることができる。
【0020】
前記加硫剤としては、硫黄や有機過酸化物を用いることができ、この有機過酸化物としては、例えば、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、1,1−t−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ−(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ−t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、ビス(t−ブチルパーオキシ−ジイソプロピル)ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシ−2−エチル−ヘキシルカーボネートなどを用いることができる。
【0021】
前記加硫促進剤としては、チアゾール系、チウラム系、スルフェンアミド系のものを用いることができ、チアゾール系加硫促進剤としては、2−メルカプトベンゾチアゾール、2−メルカプトチアゾリン、ジベンドチアジル・ジスルフィド、2−メルカプトベンゾチアゾールの亜鉛塩などを例示することができ、前記チウラム系加硫促進剤としては、テトラメチルチウラム・モノスルフィド、テトラメチルチウラム・ジスルフィド、テトラエチルチウラム・ジスルフィド、N,N’−ジメチル−N,N’−ジフェニルチウラム・ジスルフィドなどを例示することができ、前記スルファミド系加硫促進剤としては、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド、N,N’−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミドなどを例示することができる。
また、その他の加硫促進剤としてビスマレイミド、エチレンチオウレアなども用いることができる。
これらの加硫促進剤は、単独で用いてもよく、2種類以上混合して用いてもよい。
【0022】
前記架橋助剤としては、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、1,2ポリブタジエン、不飽和カルボン酸の金属塩、オキシム類、グアニジン、トリメチロールプロパントリメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、N−N’−m−フェニレンビスマレイミド、硫黄などを用いることができる。
【0023】
前記短繊維としては、例えば、ポリエステル繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリアミド繊維、綿繊維、絹繊維、麻繊維、羊毛繊維、セルロース繊維、芳香族ポリアミド繊維、全芳香族ポリエステル繊維、ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール繊維、炭素繊維、ポリケトン繊維、玄武岩繊維などを用いることができ、中でも、ポリアミド繊維、綿繊維、芳香族ポリアミド繊維、ポリビニルアルコール繊維が好ましい。
【0024】
このような圧縮層のゴム組成物に含有される各種材料は、ニーダー、バンバリーミキサー、ロール、二軸混練機などの一般的なゴムの混練手段にて混練することができる。また、この混練手段により混練された未加硫ゴム組成物を、カレンダーロールなどのシーティング手段によりシート化させて、円筒金型上に前記カバー層のゴムシートや接着層のゴムおよび抗張体などとともに積層して、加硫缶などを用いて架橋一体化させた筒型予備成形体に研削砥石などを用いて所定のリブを形成させた後に、所定リブ数に切り出してVリブドベルトとすることができる。
【0025】
このとき用いるカバー層のゴムシートに代えてゴムコート帆布を用いることもでき、このカバー層のゴムシート、ゴムコート帆布や接着層のゴムおよび抗張体には、伝動ベルトに用いられる一般的なゴム、帆布、および抗張体を用いることができる。
なお、本実施形態においては、Vリブドベルトを例に説明したが、本発明においては伝動ベルトをVリブドベルトに限定するものではなく、一般的なVベルト、平ベルト、丸ベルトなどの伝動ベルトに用いることができる。
【実施例】
【0026】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1〜26、比較例1〜2)
(配合)
各実施例、比較例の伝動ベルトを形成する圧縮層、接着層、カバー層のゴムには表1に示すとおりほぼ同一配合のものを用いた。
なお、表1中の圧縮層、カバー層の配合については親水性無機充填材以外の配合を記載しており、各実施例、比較例に用いる親水性無機充填材の種類と量は表2のとおりである。
【0027】
【表1】

※EPDM(エチレン-フ゜ロヒ゜レン-シ゛エンターホ゜リマー):JSR社製、商品名「EP24」
ステアリン酸:新日本理化社製、商品名「ステアリン酸50S」
酸化亜鉛:堺化学工業社製、商品名「酸化亜鉛3種」
老化防止剤1:大内新興化学工業社製、商品名「ノクラック224」
老化防止剤2:大内新興化学工業社製、商品名「ノクラックCD」
カーボンブラック:東海カーボン社製、商品名「シーストSO」
オイル:出光興産社製、商品名「PW−90」
加硫剤(シ゛クミルハ゜ーオキサイト゛):日本油脂社製、商品名「パークミルD」
短繊維:旭化成社製、商品名「ナイロン6,6 タイプT−5」
【0028】
【表2】

※1 表1に対する配合量を重量部で示す。
※2 親水性無機充填材以外に、ゴム中にシランカップリング剤(日本ユニカー社製、商品名「A172」)が2重量部配合されている。
※3 シランカップリング剤処理水酸化アルミニウム。
※4 親水性無機充填材を添加していないことを示す。
【0029】
(圧縮層ゴム物性評価)
(物性評価用シートの作成)
まず、各実施例、比較例の伝動ベルトに用いる圧縮層の配合に基づき材料を配合し、バンバリーミキサーにより混練し、カレンダーロールにより0.8mm厚さの未加硫シートを作成した。次いで、この未加硫シートを3枚重ね合わせて170℃×20分の熱プレスを行い2.2mm厚さの物性評価用シートを作成した。
【0030】
(物性評価)
各物性評価用シートから、カレンダー列理方向と直角の方向にJIS3号ダンベル試験片を切り出しJIS K 6251に準拠して引張り試験を実施し、10%モジュラス値、引張り破断強さ、破断伸びの測定を実施した。また、タイプAデュロメータを用いてデュロメータ硬さの測定も実施した。結果を表3に示す。
【0031】
【表3】

【0032】
(騒音抑制性能評価)
(Vリブドベルトの作成)
まず、各実施例、比較例の伝動ベルトに用いる圧縮層、接着層、カバー層の配合に基づき材料を配合し、バンバリーミキサーにより混練し、カレンダーロールにより圧縮層用未加硫シート(0.8mm厚さ)、接着層用未加硫シート(0.4mm厚さ)、カバー層用未加硫シート(0.6mm厚さ)を作成した。
次いで、円筒状成形ドラムにカバー層用未加硫シート1プライを巻き付けた上に、接着層用未加硫シート1プライを巻き付け、抗張体(心線)をらせん状にスピニングし、さらに圧縮層用未加硫シートを4プライ巻きつけて未加硫積層体を作成する。
なお、このとき圧縮層用未加硫シートとカバー層用未加硫シートは、伝動ベルトの幅方向がカレンダー列理方向となるように円筒状成形ドラムに巻き付け、接着層用未加硫シートは伝動ベルトの周方向がカレンダー列理方向となるように円筒状成形ドラムに巻き付けて未加硫積層体を作成した。
また、前記抗張体には、1100dtex/2×3の構成のポリエチレンテレフタレート製の心線にレゾルシノールホルムアルデヒドラテックス(RFL)処理したものを用いた。なお、この心線は、下撚りがS撚りで撚りピッチ16回/10cm、上撚りがZ撚りで撚りピッチ10回/10cmのものを用いた。
その後、この未加硫積層体を加硫缶中で加硫し、脱型して筒状予備成形体を得る。そして、この筒状予備成形体の表面に研削砥石を用いてリブ形状を形成し3リブ分の幅で切り出して図1と略同一の断面形状を有するVリブドベルトを作成した。
なお、このVリブドベルトの総厚さ(図1のh1)は、4.3mmでリブ高さ(図1のh2)は、2.0mm、ベルト周長1740mmであった。
【0033】
(騒音評価)
騒音評価の方法は、図2に示すように各実施例、比較例のVリブドベルトを4個のプーリーに架け渡して実施した。すなわち、直径140mmの駆動プーリー11と、発電機を取り付けた直径60mmの従動プーリー12と、直径75mmの無負荷のプーリー2個13,13’とを用い、駆動プーリー11を800rpmで回転させ、発電機の負荷を60Aとし、無負荷のプーリー13,13’により伝動ベルト1を1リブあたり5kgfの張力に調節して運転させ、駆動プーリー11の入り側に500ミリリットルの水を一度にかけて、異常音が発生するかどうかを発電機を取り付けた従動プーリー12近傍で測定した。
なお測定においては、騒音計を用いて注水前後のベルト騒音を測定し、その差が1dB以下の場合か、もしくは、注水前よりも1dBを超える騒音が注水後に発生した場合でも、その1dBを超える騒音の発生時間が1秒間以内であった場合を「異常音発生無し」と判定し、1dBを超える音が1秒間を超える時間観測された場合を「異常音発生有り」として判定した。
結果、全ての実施例の伝動ベルトにおいては異常音が測定されず、比較例1、2のいずれの伝動ベルトとも異常音が測定された。このことからも、表面に水酸基または水分子を有する親水性無機物あるいは水と反応して前記親水性無機物となる親水性無機物前駆体が用いられてなる親水性無機充填材が、伝動ベルトの伝動面を形成するゴム組成物にゴム100重量部に対して5重量部以上含有されていることで伝動ベルトの伝動面の水に対する濡れ性を高めて被水などによるスティック−スリップを抑制させ得ることがわかる。
【0034】
(耐熱走行試験)
さらに、図3に示すように各実施例、比較例のVリブドベルトを4個のプーリーに架け渡して耐熱走行試験を実施した。すなわち、直径120mmの駆動プーリー21と、同じく直径120mmの従動プーリー22と、直径70mmの従動プーリー23と、直径55mmのアイドラープーリー24を用い、駆動プーリー21を4900rpmで回転させ、アイドラープーリー24に85kgfの張力を加え85℃の雰囲気中で伝動ベルト1を走行させ、300時間後の磨耗減量を測定した。
また、磨耗減量の測定後は、再び耐熱走行試験を実施し、圧縮層にクラックが発生するまでの耐熱走行試験開始時からの累積走行時間を測定した。
なお、前記磨耗減量は、下記の式により算出した。結果を表4に示す。
磨耗減量(%)=(M0−M300)÷M0×100(%)
(ただし式中の、M0は、走行前の伝動ベルト重量、M300は300時間走行後の伝動ベルト重量を表す。)
【0035】
【表4】

【0036】
表4中に見られる実施例26の結果からもわかるように、ゴム100重量部に対する親水性無機充填材の含有量を100重量部以下とすることで伝動ベルトの耐磨耗性低下のおそれを抑制させ得る。
また、表4中における水酸化アルミニウム20重量部を含有するゴム組成物で伝動面が形成されている実施例2、5、6の結果からも明らかなように、ゴムにシランカップリング剤を混合して含有させた実施例5と、シランカップリング剤により表面処理された水酸化アルミニウムを用いた実施例6とは、実施例2に比べて優れた(小さな)磨耗減量の値を示しており、ゴム組成物にシランカップリング剤が混合されていることで伝動ベルトの耐磨耗性を向上させ得ることがわかる。
【0037】
なお、実施例1乃至26の配合におけるエチレン−プロピレン−ジエンターポリマー(JSR社製、商品名「EP24」)に代えて、各種ゴムを用いて同様に騒音抑制性能評価ならびに耐熱走行試験を行ったところ実施例1乃至26と同様の傾向が確認された。
このベースゴムをエチレン−プロピレン−ジエンターポリマーから各種ゴムに代えて評価した際の配合を表5に示す。なお、表中の数値は重量部を表している。
【0038】
【表5】

※天然ゴム:Thai Thevee Rubber社製、商品名「RSS3」
BR(フ゛タシ゛エンコ゛ム):JSR社製、商品名「BR01」
CR(クロロフ゜レンコ゛ム):昭和ネオプレン社製、商品名「ショウプレンGS」
ACSM(アルキル化クロロスルホン化ホ゜リエチレン):東ソー社製、商品名「エクストスET-8010」
NBR(アクリロニトリル-フ゛タシ゛エン共重合体コ゛ム):日本ゼオン社製、商品名「Nipol 1041」
HNBR(水素化アクリロニトリル-フ゛タシ゛エン共重合体コ゛ム):日本ゼオン社製、商品名「セ゛ットホ゜ール2020」
ステアリン酸:新日本理化社製、商品名「ステアリン酸50S」
酸化亜鉛:堺化学工業社製、商品名「酸化亜鉛3種」
酸化マグネシウム:協和化学工業社製、商品名「キョーワマグ150」
カーボンブラック:東海カーボン社製、商品名「シーストSO」
オイル2:旭電化工業社製、商品名「アデカサイザーRS107」
加硫促進剤(テトラメチルチウラムシ゛スルフィト゛):大内新興化学社製、商品名「ノクセラーTT」
架橋助剤(N,N'-シ゛フェニルク゛アニシ゛ン):大内新興化学社製、商品名「ノクセラーD」
加硫剤(シ゛クミルハ゜ーオキサイト゛):日本油脂社製、商品名「パークミルD」
短繊維:旭化成社製、商品名「ナイロン6,6 タイプT−5」
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】一実施形態の伝動ベルトを示す断面図。
【図2】騒音評価試験方法を示す概略図。
【図3】耐熱走行試験方法を示す概略図。
【符号の説明】
【0040】
1:伝動ベルト、2:カバー層、3:接着層、5:圧縮層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機充填材を含有するゴム組成物によって伝動面が形成された伝動ベルトであって、
前記無機充填材には、水酸基または水分子を有する親水性無機物あるいは水と反応して前記親水性無機物となる親水性無機物前駆体が用いられてなる親水性無機充填材が用いられ、前記ゴム組成物には、ゴム100重量部に対して前記親水性無機充填材が5重量部以上含有されていることを特徴とする伝動ベルト。
【請求項2】
前記ゴム組成物のゴムには、エチレン−α−オレフィンエラストマーが用いられている請求項1に記載の伝動ベルト。
【請求項3】
前記エチレン−αオレフィンエラストマーがエチレン−プロピレン−ジエンターポリマーである請求項2に記載の伝動ベルト。
【請求項4】
前記親水性無機物として含水珪酸が用いられている請求項1乃至3のいずれかに記載の伝動ベルト。
【請求項5】
前記親水性無機物として珪酸アルミニウム類、珪酸マグネシウム類および珪酸カルシウム類のいずれかの珪酸塩鉱物が用いられている請求項1乃至3のいずれかに記載の伝動ベルト。
【請求項6】
前記親水性無機物として水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化亜鉛およびハイドロタルサイトのいずれかの金属水酸化物が用いられている請求項1乃至3のいずれかに記載の伝動ベルト。
【請求項7】
前記親水性無機物前駆体として酸化カルシウム、酸化マグネシウムおよび酸化アルミニウムのいずれかの金属酸化物が用いられている請求項1乃至3のいずれかに記載の伝動ベルト。
【請求項8】
前記親水性無機物として塩基性炭酸マグネシウムが用いられている請求項1乃至3のいずれかに記載の伝動ベルト。
【請求項9】
前記ゴム組成物には、シランカップリング剤が含有されている請求項1乃至8のいずれかに記載の伝動ベルト。
【請求項10】
シランカップリング剤により表面処理された親水性無機充填剤が前記ゴム組成物に用いられることにより前記ゴム組成物にシランカップリング剤が含有されている請求項9に記載の伝動ベルト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−120526(P2007−120526A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−309685(P2005−309685)
【出願日】平成17年10月25日(2005.10.25)
【出願人】(000005061)バンドー化学株式会社 (429)
【Fターム(参考)】