説明

伝動用ベルト

【課題】特に耐磨耗性および耐熱耐久性に優れた伝動用ベルトを提供する。
【解決手段】短繊維とゴムが複合されたゴム組成物を用いた伝動用ベルトであって、該短繊維が、繰り返し単位の95モル%以上が下記式(1)で示されるポリケトンで構成される繊維であり、かつRFL処理されていることを特徴とする伝動用ベルト。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は伝動用ベルトに関し、特に耐磨耗性および耐熱耐久性に優れた伝動用ベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
本出願人は、先に特許文献1において、ポリケトンで構成される繊維(以下、ポリケトン繊維という)の短繊維や長繊維がベルト等のゴム補強材として有用であることを提案したが、特に伝動ベルトにおける耐磨耗性および耐熱耐久性の向上という要求については、何ら検討されてなかった。
【0003】
【特許文献1】特開2005−105470号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、かかる要求に応えた伝動用ベルトを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は下記の通りである。
(1)短繊維とゴムが複合されたゴム組成物を用いた伝動用ベルトであって、該短繊維が、繰り返し単位の95モル%以上が下記式(1)で示されるポリケトンで構成される繊維であり、かつRFL処理されていることを特徴とする伝動用ベルト。
【化1】

(2)短繊維が、繊維長が0.5〜10mm、繊維長Lと繊維径Dの比L/Dが30〜1670の短繊維であることを特徴とする上記(1)に記載の伝動用ベルト。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、特に耐磨耗性および耐熱耐久性に優れた伝動用ベルトを提供することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明について以下に具体的に説明する。
本発明のポリケトン繊維を構成するポリケトンは、繰り返し単位の95モル%以上、好ましくは98モル%以上、特に99.6モル%以上が、上記式(1)で示されるものであり、5モル%未満の範囲で、上記式(1)以外の繰り返し単位、例えば、下記式(2)に示すもの等を含有していても良い。
【化2】

但し式中、Rは、エチレン以外の炭素数1〜30の有機基であり、例えば、プロピレン、ブチレン、1−フェニルエチレン等の基であり、Rの水素原子の一部または全部が、ハロゲン基、エステル基、アミド基、水酸基、エーテル基で置換されていてもよい。もちろん、Rは二種以上であってもよく、例えば、プロピレン基と1−フェニルエチレン基が混在していてもよい。
【0008】
ポリケトンの固有粘度[η]は、好ましくは1dl/g以上、より好ましくは2dl/g以上、特に好ましくは4dl/g以上であり、好ましくは20dl/g以下、より好ましくは15dl/g以下、特に好ましくは10dl/g以下である。
尚、固有粘度[η]は次の定義式に基づいて求められる値である。
【数1】

式中のt及びTは、それぞれヘキサフルオロイソプロパノール(セントラル硝子(株)社製)及び該ヘキサフルオロイソプロパノールに溶解したポリケトンの希釈溶液の25℃での粘度管の流過時間である。Cは、上記希釈溶液の濃度であり、ヘキサフルオロイソプロパノール100ml中のポリケトンの質量(g)である。
ポリケトンには、必要に応じて、酸化防止剤、ラジカル抑制剤、他のポリマー、艶消し剤、紫外線吸収剤、難燃剤、金属石鹸等の添加剤を含有させてもよい。
【0009】
次に、ポリケトン繊維の好ましい特性としては、引張強度は10cN/dtex以上、特に好ましくは15cN/dtex以上であり、30cN/dtex以下であり、引張伸度は3%以上、より好ましくは3.5%以上、特に好ましくは4%以上であり、15%以下、より好ましくは10%以下、さらに好ましくは8%以下、特に好ましくは6%以下であり、引張弾性率は100cN/dtex以上、より好ましくは200cN/dtex以上、特に好ましくは300cN/dtex以上であり、1000cN/dtex以下である。
ポリケトン繊維の形態は、短繊維であり、長さ方向に均一なものや太細のあるものでもよく、繊維の断面形状は、丸型、三角、L型、T型、Y型、W型、八葉型、扁平(扁平度1.3〜4程度のもので、W型、I型、ブーメラン型、波型、串団子型、まゆ型、直方体型等がある)、ドッグボーン型等の多角形型、多葉型、中空型や不定形なものなどでもよい。
【0010】
本発明は、かかるポリケトン繊維の短繊維とゴムが複合されたゴム組成物を用いた伝動用ベルトであって、この短繊維が、RFL処理されていることを特徴とするものであり、RFL処理されたポリケトン短繊維を用いることにより耐熱耐久性が大きく向上するものである。
RFL処理とは、レゾルシンとホルマリンとラテックスを含む混合液で処理することをいい、RFL樹脂の好ましい付着量は、繊維に対して1〜10質量%、特に2〜7質量%の範囲が好ましい。
好ましいホルマリン(F)とレゾルシン(R)とのモル比(F/R)は1.0〜2.2、特に好ましくは1.0〜1.9、全ラテックスの固形分質量(L)に対するレゾルシンおよびホルマリン総質量(RF)の割合(RF/L)は5〜25質量%、特に5〜17質量%が好ましく、さらに、水酸化ナトリウムおよび水酸化アンモニウムの総量とレゾルシン(R)とのモル比(NaOH+NH4 OH/R)は、0.21以下が好ましい。
【0011】
ラテックスの種類は複合するゴムに対応したラテックスが好ましく、例えば、スチレン−ブタジエン−ビニルピリジン三元共重合体、クロルスルホン化ポリエチレン(CSM)、アルキル化クロルスルホン化ポリエチレン(ACSM)、水素添加アクリロニトリルゴム(HNBR)、エピクロルヒドリン、天然ゴム、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム、オレフィン−ビニルエステル共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン系ゴム(EPDM)等のラテックスが挙げられる。
又、RFL処理に先立って、エポキシやイソシアネート化合物で前処理してもよい。
RFL処理の方法としては、ポリケトン繊維の短繊維に施してもよいが、好ましくは、ポリケトン繊維の長繊維を必要に応じて撚糸した状態でRFL処理し、次いで、カットして短繊維を得る。撚数は、下記の式で示される撚係数(K1)で100〜700の甘撚が好ましいが、30000程度までの中撚から強撚でもよい。
T1=K1/D1/2
T1=撚数(T/m)、D=RFL処理に供給する糸条の繊度(dtex)
【0012】
本発明において、ポリケトン短繊維の繊維長は、0.5〜10mmが好ましく、1mm以上、より好ましくは1.5mm以上、特に好ましくは2mm以上であり、9mm以下、より好ましくは8mm以下、特に好ましくは7mm以下である。繊維長が、0.5mm未満や10mm超では、充分な耐磨耗性が得られないことがある。
又、好ましい繊維長Lと繊維径Dの比L/Dは、30以上、より好ましくは50以上、特に好ましくは100以上であり、1670以下、より好ましくは1500以下、特に好ましくは1000以下である。30未満や1670超では、充分な耐磨耗性が得られないことがある。
好ましい単糸繊度は、0.01〜10dtex、より好ましくは0.1〜10dtex、特に好ましくは0.5〜5dtexである。
【0013】
ゴム組成物におけるポリケトン短繊維の好ましい含有量は、ゴム100質量部あたり、3〜50質量部、より好ましくは5〜40質量部、特に好ましくは5〜30質量部の範囲であり、3質量部未満では、充分な耐磨耗性や耐熱耐久性が得られないことがあり、50質量部超ではゴムの加工性が困難となることがある。
尚、本発明でおいては、ゴムに複合する繊維は、ポリケトン短繊維100%が好ましいが、必要に応じて、70%以下(複合する繊維全量に対しての割合)、より好ましくは50%以下、特に30%以下の範囲内でポリケトン短繊維以外の繊維を用いても良く、ポリエステル繊維やポリアミド繊維、アクリル繊維、ガラス繊維、全芳香族ポリエステル繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、ポリイミド繊維、アラミド繊維(パラ系、メタ系)、ポリビニルアルコール繊維、ポリ(p−フェニレンベンゾビスオキサゾール)繊維、超高分子量ポリオレフィン繊維等公知の繊維を混用してもよい。
【0014】
次に、ゴムとしては、例えば、クロロプレンゴム、天然ゴム、ニトリルゴム、スチレン・ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、エチレン・プロピレンゴム、クロルスルホン化ポリエチレンゴム(CSM)、アルキル化クロルスルホン化ポリエチレンゴム(ACSM)、アクリルゴム、ウレタンゴム、水素添加アクリロニトリルゴム(HNBR)、エチレン−α−オレフィンエラストマーを主体とする組成物、例えば、エチレン−プロピレン−ジエン系ゴム(EPDM)、エチレン−プロピレンコポリマー(EPM)、エチレン−ブテンコポリマー(EBM)、エチレン−オクテンコポリマー(EOM)、これらのハロゲン置換物(特に塩素置換物)、これらの2種以上の混合物等が挙げられる。エチレン−α−オレフィンエラストマーを主体とする組成物は、水素添加アクリロニトリルゴム(HNBR)を含んでも良く、又、必要に応じて、カーボンブラック、シリカ等の増強剤、炭酸カルシウム、タルク等の充填剤、可塑剤、安定剤、加工助剤、着色剤等を含有してもよい。
【0015】
本発明において、伝動用ベルトとしては、Vベルト、平ベルト、歯付ベルトが好適であり、Vベルトは、Vリブドベルト、ローエッジタイプVベルト、ラップドタイプVベルト、が好ましい。又、本発明のゴム組成物を用いた圧縮ゴム層を有する摩擦伝動ベルトでもよく、さらに、摩擦伝動ベルトは、接着ゴム層を有するものでもよい。例えば、圧縮ゴム層と、圧縮ゴム層に接する接着ゴム層と、接着ゴム層に接する上帆布層とから構成され、さらに、接着ゴム層中にベルトの長手方向に沿って芯線が埋設されたものがある。
ここで、圧縮ゴム層を形成するためのゴムと、接着ゴム層を形成するためのゴムは同様のものを用いてもよく、又、接着ゴム層にもポリケトン短繊維を含有させてもよく、カレンダー列理方向をベルトの長さ方向とする場合やベルトの幅方向とする場合に応じて、ゴム100質量部あたりの含有量を適宜選定すればよい。
上帆布層としては、例えば、綿、ポリアミド、ポリエステル、アラミド繊維に加えてポリケトン繊維を用いた織物を用いることができる。芯線としては、例えば、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)、ポリアミド(ナイロン6、66等)、ポリビニルアルコール、アラミド芯線に加えてポリケトン芯線を用いることができる。
【0016】
本発明の伝動用ベルトは、従来公知の製法により製造することができ、例えば、Vリブドベルトの場合、成形ドラムの周面にゴムコート帆布と、接着ゴム層用のゴム組成物未加硫シートを巻きつけ、その上に芯線をスピニングし、さらに、その上に、接着ゴム層用のゴム組成物未加硫シートを巻きつけた後、圧縮ゴム層用のゴム組成物未加硫シートを巻きつけて積層体とする。ついで、この積層体を加硫して得られた環状物を切削砥石にて表面にリブを形成し、所定幅に裁断すればよい。
例えば、屋外で強い紫外線を受けることによってポリケトン繊維の引張強度等の低下が懸念される時は、繊維の形態で紫外線吸収剤(例えば、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、ヒンダードアミン系の一種又は二種以上の組み合わせがある。)及び/又は紫外線遮蔽剤(例えば、酸化チタン、酸化鉄、酸化セリウム等の微粒子があり、平均粒径は0.01〜0.6μmが好ましい。)を含有させてもよい。含有させる方法としては、例えば、繊維に紫外線吸収剤及び/又は紫外線遮蔽剤を含有した樹脂やフィルムを付与又は被覆する方法が挙げられ、紫外線吸収剤及び/又は紫外線遮蔽剤の含有量は、樹脂やフィルムの質量に対して0.001〜10質量%が好ましい。
【実施例】
【0017】
以下に本発明を実施例などに基づいて更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例などにより何ら限定されるものではない。
本発明における測定方法及び評価方法は以下の通りである。
(1)引張強度、引張伸度、引張弾性率
JIS−L−1013に準じて測定する。
サンプル長:20cm、引張速度:20cm/分で測定し、20回測定した時の平均値を求める。
【0018】
(2)耐摩耗性および耐熱耐久性
(耐摩耗性)
下記配合割合にて、バンバリーミキサーを用いて、ゴム組成物を作製し、カレンダーにより圧延して、1.1mm厚の未加硫ゴムシートを得た。得られた未加硫ゴムシートを5枚重ねて、170℃、20分間、プレス加硫して、5mm×5mmの摩耗面を有する直方体の加硫ゴムを作成した。
ピンオンディスク摩耗試験により、表面粗さ(Rz)9.6μmのFC材を相手材とし、面圧1.2MPa、すべり速度0.15m/s、雰囲気温度100℃で、24時間摩耗試験を行い、下記式により10〜20時間の区間での比摩耗量を求めた。
比摩耗量(10-6mm3 /Nm)=単位時間当たりの摩耗体積/(単位時間当たりの摩耗距離×荷重)
【0019】
(耐熱耐久性)
常法に従い、下記配合割合にて、ベルト幅10mm、厚さ5mmの平ベルトを作製し、一対の回転するプーリー間を走行させてクラック発生時間を測定した。尚、雰囲気温度90℃、プーリー回転数5500rpm、85kgfの張力付与下で平ベルトを走行させた。
<配合割合>
HNBR 100質量部
酸化亜鉛 5質量部
硫黄 1質量部
カーボンブラック 60質量部
軟化剤 5質量部
老化防止剤 4質量部
加硫促進剤 2質量部
実施例の短繊維 10質量部
【0020】
[実施例1]
1670dtex/1250fのポリケトン繊維のマルチフィラメント(旭化成せんい(株)社製;商標サイバロン;引張強度18cN/dtex、引張伸度5%、引張弾性率350cN/dtex)を撚糸(10T/m)した後に、下記組成のRFL液にポリケトン繊維を浸漬して、絞液後(ピックアップ率5%)、乾燥し、200℃で3分間熱処理した。
RFL処理されたポリケトン繊維(繊維に対するRFL樹脂の付着量3.5質量%)を3.5mm長さにカットし、ポリケトン短繊維を配合するゴム組成物用の短繊維として用いた。用いた短繊維のL/D比は、318であった。
耐磨耗性および耐熱耐久性を評価した結果は、比摩耗量5.2、クラック発生時間410時間と、耐磨耗性および耐熱耐久性ともに優れたものであった。
<RFL液>
レゾルシン 11質量部
ホルマリン(37%) 8質量部
苛性ソーダ 0.2質量部
スチレン・ブタジエン・ビニルピリジン三元共重合体(40%) 84質量部
クロルスルフォン化ポリエチレンゴムラテックス(40%) 56質量部
水 121.5質量部
【0021】
[比較例1]
実施例1において、RFL処理を施さなかった以外は実施例1と同様に耐磨耗性および耐熱耐久性を評価した結果は、比摩耗量5.3、クラック発生時間350時間と、特に耐熱耐久性が実施例1に対比して劣ったものであった。
【0022】
[実施例2〜7]
実施例1において、L/Dを変化させたポリケトン短繊維を用いた以外は、実施例1と同様に耐磨耗性および耐熱耐久性を評価した結果は、L/D=30では、比摩耗量5.4、クラック発生時間390時間(実施例2)、L/D=208では、比摩耗量5.2、クラック発生時間410時間(実施例3)、L/D=611では、比摩耗量5.2、クラック発生時間420時間(実施例4)、L/D=1670では、比摩耗量5.4、クラック発生時間400時間(実施例5)であり、耐磨耗性および耐熱耐久性ともに優れたものであった。
一方、L/D=18では、比摩耗量5.5、クラック発生時間380時間(実施例6)、L/D=2000では、比摩耗量5.6、クラック発生時間380時間(実施例7)と、特に耐磨耗性が実施例1〜5に対比して劣る傾向にあった。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明は、特に耐磨耗性および耐熱耐久性に優れた伝動用ベルトに関するものであり、特に、Vベルト、平ベルト、歯付ベルトが好適であり、 Vベルトは、Vリブドベルト、ローエッジタイプVベルト、ラップドタイプVベルト、が好ましい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
短繊維とゴムが複合されたゴム組成物を用いた伝動用ベルトであって、該短繊維が、繰り返し単位の95モル%以上が下記式(1)で示されるポリケトンで構成される繊維であり、かつRFL処理されていることを特徴とする伝動用ベルト。
【化1】

【請求項2】
短繊維が、繊維長が0.5〜10mm、繊維長Lと繊維径Dの比L/Dが30〜1670の短繊維であることを特徴とする請求項1に記載の伝動用ベルト。

【公開番号】特開2009−63114(P2009−63114A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−232561(P2007−232561)
【出願日】平成19年9月7日(2007.9.7)
【出願人】(303046303)旭化成せんい株式会社 (548)
【Fターム(参考)】