説明

伝送線路基板及び高周波部品の測定装置

【課題】マイクロストリップ線路を構成する伝送線路基板を用いて高周波部品の特性を測定する際に、伝送線路基板とコプレーナプローブとの接続部分で高周波信号の伝送特性が劣化するのを防止できる伝送線路基板及び測定装置を提供する。
【解決手段】伝送線路基板2において、コプレーナプローブ50を接続するための測定用端子部20には、信号導体線16を挟むように、グランド導体22、及び、グランド導体22とグランド層12とを接続する導電性スルーホール24が設けられるが、信号導体線16の先端部分は、両側の導電性スルーホール24同士を接続する線分との交点位置で切断され、その先端部分にコプレーナプローブ50を接続できるようにされている。この結果、コプレーナプローブ50を接続した際に測定用端子部で生じる伝送特性が劣化するのを防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミリ波帯の高周波信号を処理する高周波部品の特性を測定するのに好適な伝送線路基板及び高周波部品の測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ミリ波帯の高周波信号を処理する高周波部品(増幅回路やフィルタ回路、或いはダイオード等の各種半導体素子)の特性を測定する際には、測定対象となる高周波部品と、測定装置から引き出された測定用のコプレーナプローブとを接続するために、マイクロストリップ線路若しくはグランド付きコプレーナ線路を構成する伝送線路基板が用いられる(例えば、特許文献1等参照)。
【0003】
このうち、マイクロストリップ線路を構成する伝送線路基板10は、図7(a)、(b)に例示するように、裏面にグランド層12が形成された誘電体基板14の表面に、高周波信号伝送用の信号導体線16を形成した構成となっている。
【0004】
また、伝送線路基板10において、信号導体線16にて構成されるマイクロストリップ線路の一端側には、信号導体線16(詳しくはその端部)と、誘電体基板14の信号導体線16と同一面上に信号導体線16(詳しくはその端部)を挟むように形成された一対のグランド導体22と、この一対のグランド導体22と誘電体基板14裏面のグランド層12とを各々接続する一対の導電性スルーホール24と、からなる測定用端子部20が設けられている。
【0005】
そして、このように構成された伝送線路基板10を用いて、高周波部品40の特性を測定する際には、通常、上記のように構成された一対の伝送線路基板10と、導電性金属からなる基台30が使用される。
【0006】
この基台30は、測定対象となる高周波部品40と一対の伝送線路基板10とを同時に載置して、一対の伝送線路基板10を高周波部品40への高周波信号の入出力経路として利用するためのものである。
【0007】
そして、一対の伝送線路基板10は、裏面側のグランド層12が基台に接触(詳しくは導通)し、且つ、各伝送線路基板10に形成されたマイクロストリップ線路の測定用端子部20とは反対側端部が、基台30における高周波部品40の載置部32を挟んで互いに対向するよう、基台30に積層される。
【0008】
また、高周波部品40の特性を実際に測定する際には、各伝送線路基板10に形成されたマイクロストリップ線路の測定用端子部20とは反対側端部と、基台30上の高周波部品40の高周波信号の入/出力端子とを、ワイヤボンディング34等で電気的に接続し、更に、各伝送線路基板10に形成された測定用端子部20における信号導体線16と一対のグランド導体22とに、夫々、測定用のコプレーナプローブ50の電極を押し当てることで、各コプレーナプローブ50に接続された測定装置に、一対の伝送線路基板10を介して、高周波部品40を接続する。
【0009】
また、このように一対の伝送線路基板10を使って高周波部品40の特性を測定する際には、測定装置で得られた測定結果から、伝送線路基板10の特性を相殺できるように測定装置を校正する必要がある。そして、測定装置を校正する際には、図7(c)に示す校正用の伝送線路基板11が使用される。
【0010】
この校正用の伝送線路基板11は、高周波部品40を測定する際に一対の測定用端子20間に形成される伝送経路と同じ長さのマイクロストリップ線路を形成するものであり、上述した測定用の伝送線路基板10と略同様に構成される。
【0011】
つまり、校正用の伝送線路基板11は、裏面にグランド層12が形成された誘電体基板14の表面に上記長さの信号導体線16を形成することで、マイクロストリップ線路を形成し、その両端に、夫々、信号導体線16を挟んで一対のグランド導体22と一対の導電性スルーホール24を設けることで、測定用端子部20を形成した構成(換言すれば、高周波部品40の測定時に測定用端子部20間に形成される伝送線路における高周波部品40をマイクロストリップ線路に置き換えた構成)となっている。
【0012】
従って、この伝送線路基板11の両端の測定用端子部20に、測定用プローブであるコプレーナプローブ50を押し当てて、伝送線路基板11の伝送特性を測定装置で測定すれば、高周波部品40を設けていない基準伝送線路の伝送特性を測定できることになり、その測定した伝送特性を基準として高周波部品40の特性を測定すれば、高周波部品40単独の特性を測定できることになる。
【0013】
なお、図7において、(a)は、測定用の伝送線路基板10を基板表面からみた平面図、(b)は、測定用の伝送線路基板10を信号導体線16に沿って切断した状態を表す断面図、(c)は、校正用の伝送線路基板11を基板表面からみた平面図である。
【特許文献1】特許第3827485号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
このように、高周波部品の特性を、マイクロストリップ線路を介して測定する際には、マイクロストリップ線路が形成された伝送線路基板10、11が使用され、伝送線路基板10、11には、コプレーナプローブ50を接続するための測定用端子部20が形成されている。
【0015】
ところで、従来、測定用端子部20は、図7(c)から明らかなように、信号導体線16の軸方向先端位置と、グランド導体22の同方向先端位置とを一致させて、測定時には、その先端部分(図に示す黒色部分)にコプレーナプローブ50の各電極を接続するように構成されていた。
【0016】
このため、グランド導体22において、コプレーナプローブ50の接続点と導電性スルーホール24とが離れ、コプレーナプローブ50から誘電体基板14裏面のグランド層12までの距離がミリ波帯の高周波信号にとっては長くなり、伝送損失が増加するという問題があった。
【0017】
一方、この問題を防止するために、図7(c)に斜線で示すように、グランド導体22へのコプレーナプローブ50の接続点を、導電性スルーホール24に近づけることが考えられる。
【0018】
しかし、このようにすると、信号導体線16とコプレーナプローブ50との接続点が、信号導体線16の先端から内側に移動するので、その接続点から先端までがオープンスタブとなって、高周波信号の反射等が発生し、伝送特性を劣化させてしまうという問題がある。
【0019】
本発明は、こうした問題に鑑みなされたものであり、マイクロストリップ線路を構成する伝送線路基板を用いて高周波部品の特性を測定する際に、伝送線路基板とコプレーナプローブとの接続部分で高周波信号の伝送特性が劣化するのを防止することのできる伝送線路基板及び高周波部品の測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
かかる目的を達成するためになされた請求項1に記載の発明は、
誘電体基板と、該誘電体基板の表面に形成された信号導体線と、前記誘電体基板の前記信号導体線とは反対側の裏面に形成されたグランド層とからなるマイクロストリップ線路を備えると共に、
前記マイクロストリップ線路の少なくとも一方の端部位置に、
前記信号導体線と、前記誘電体基板の前記信号導体線と同一面上で前記信号導体線を挟むように形成された一対のグランド導体と、前記誘電体基板を貫通して前記一対のグランド導体と前記グランド層とを各々接続する一対の導電性スルーホールとからなる測定用端子部を備え、
該測定用端子部を構成する前記信号導体線と一対のグランド導体とに測定用のコプレーナプローブを押し当て、高周波信号の伝送特性を測定するのに使用される伝送線路基板であって、
前記測定用端子部において、前記信号導体線の軸方向先端は、前記一対の導電性スルーホール同士を接続する線分との交点位置で切断されていることを特徴とする。
【0021】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の伝送線路基板において、前記測定用端子部における一対のグランド導体は、前記一対の導電性スルーホールと略同心の矩形形状であり、前記信号導体線と隣接する角部には、信号導体線との間隔が大きくなるよう切り欠きが形成されていることを特徴とする。
【0022】
また次に、請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の伝送線路基板において、前記マイクロストリップ線路の両端に、前記測定用端子部を備えたことを特徴とする。
【0023】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の伝送線路基板において、前記測定用端子部は、前記マイクロストリップ線路の一端側に設けられ、前記マイクロストリップ線路の他端側は、導電部材を介して測定対象物を接続できるように開放されていることを特徴とする。
【0024】
また更に、請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の伝送線路基板において、測定対象物を接続可能に開放された前記マイクロストリップ線路の他端側には、導電部材を介して測定対象物を接続したときの入出力インピーダンスを整合させる整合回路が形成されていることを特徴とする。
【0025】
一方、請求項6に記載の発明は、測定対象物である高周波部品を載置可能な導電性の基台を備えると共に、請求項4又は請求項5に記載の伝送線路基板を一対備え、
前記各伝送線路基板のグランド層が前記基台に接触し、且つ、前記各伝送線路基板に形成されたマイクロストリップ線路の測定用端子部とは反対側端部が、前記基台における前記高周波部品の載置部を挟んで互いに対向するよう、前記各伝送線路基板を前記基台に積層してなる高周波部品の測定装置であって、
前記載置部に載置された高周波部品の前記基台とは反対側面と、前記各伝送線路基板の前記基台とは反対側面とが、略同一平面上となるよう、前記載置部の底面を前記載置部周囲の基台表面よりも低くしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
請求項1に記載の伝送線路基板には、上述した従来の伝送線路基板と同様、マイクロストリップ線路が形成されており、マイクロストリップ線路の少なくとも一方の端部位置には、信号導体線と、一対のグランド導体と、導電性スルーホールとからなる測定用端子部が設けられている。
【0027】
そして、この測定用端子部において、信号導体線の軸方向先端は、一対の導電性スルーホール同士を接続する線分との交点位置で切断されている。
このため、請求項1に記載の伝送線路基板によれば、コプレーナプローブの各電極(詳しくは中心電極とその両側の外側電極)の配列方向と信号導体線の軸心方向とが直交するようにコプレーナプローブを配置して、コプレーナプローブの中心電極を信号導体線の先端部分に当接させれば、コプレーナプローブの外側電極は、グランド導体の導電性スルーホールとの近傍位置に当接されることになる。
【0028】
よって、請求項1に記載の伝送線路基板によれば、グランド導体において、コプレーナプローブの接続点と導電性スルーホールとの間を短くして、測定用端子部において生じる高周波信号の伝送損失を抑えることができ、しかも、信号導体線においては、コプレーナプローブとの接続点から外側に延びてオープンスタブとなる部分をなくし、高周波信号の反射等による特性劣化を防止できる。
【0029】
従って、請求項1に記載の伝送線路基板によれば、測定用端子部での高周波信号の伝送特性が劣化するのを防止し、高周波部品の特性を測定するのに最適な伝送線路基板を実現できる。
【0030】
次に、請求項2に記載の伝送線路基板においては、グランド導体が導電性スルーホールと略同心の矩形形状になっており、信号導体線と隣接する角部には、信号導体線との間隔が大きくなるよう切り欠きが形成されている。
【0031】
このため、請求項2に記載の伝送線路基板によれば、グランド導体と信号導体線との結合を防止して、測定用端子部での高周波信号の伝送特性が劣化するのを防止できる。
また次に、請求項3に記載の伝送線路基板においては、マイクロストリップ線路の両端に、測定用端子部が設けられている。従って、この請求項3に記載の伝送線路基板は、図7(c)に例示した校正用の伝送線路基板として使用することができる。
【0032】
一方、請求項4に記載の伝送線路基板においては、測定用端子部がマイクロストリップ線路の一端側に設けられており、マイクロストリップ線路の他端側は、導電部材を介して測定対象物を接続できるように開放されている。従って、この請求項4に記載の伝送線路基板は、図7(a)、(b)に例示した測定用の伝送線路基板として使用することができる。
【0033】
また次に、請求項5に記載の伝送線路基板においては、測定対象物を接続可能に開放されたマイクロストリップ線路の他端側には、導電部材を介して測定対象物を接続したときの入出力インピーダンスを整合させる整合回路が形成されている。
【0034】
このため、マイクロストリップ線路の測定用端子部とは反対側端部にワイヤボンディング等で測定対象物を接続する際、その接続部で生じる伝送インピーダンスの不整合を防止し、高周波信号の伝送特性が劣化するのを防止できる。
【0035】
よって、請求項5に記載の伝送線路基板によれば、測定対象物である高周波部品の特性をより高精度に測定できることになる。
一方、請求項6に記載の発明は、請求項4又は請求項5に記載の伝送線路基板を用いて高周波部品の特性を測定するための測定装置であり、図7(a)、(b)に示した従来装置と同様、高周波部品を載置(換言すれば固定)するための導電性の基台を備える。
【0036】
この基台には、高周波部品の載置部が形成されており、その載置部を挟んで一対の伝送線路基板が積層される。つまり、この一対の伝送線路基板は、グランド層が基台に接触し、且つ、マイクロストリップ線路の測定用端子部とは反対側端部が高周波部品の載置部を挟んで互いに対向するよう、基台に積層される。
【0037】
そして、特に、高周波部品が搭載される載置部の底部は、高周波部品の基台とは反対側面と、伝送線路基板の基台とは反対側面とが、略同一平面上となるように、載置部周囲の基台表面よりも低く形成されている。
【0038】
この結果、高周波部品とその両側の伝送線路基板とを接続するのに用いられるワイヤ等の導電性部材の伝送線路基板からの高さを低くし、その長さを短くすることができる。よって、請求項6に記載の測定装置によれば、高周波部品と伝送線路基板との接続部で生じる高周波信号の伝送特性の劣化を抑えて、高周波部品の特性の測定精度を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下に本発明の実施形態について説明する。
図1は、図7に対応して本実施形態の測定用及び校正用の伝送線路基板2、4を示したものであり、(a)は、測定用の伝送線路基板2を基板表面からみた平面図、(b)は、測定用の伝送線路基板2を信号導体線16に沿って切断した状態を表す断面図、(c)は、校正用の伝送線路基板4を基板表面からみた平面図である。
【0040】
図1から明らかなように、本実施形態の測定用及び校正用の伝送線路基板2、4は、基本的には図7に示した従来の伝送線路基板10、11と同様に構成されており、従来の伝送線路基板10、11と異なる点は、下記の3点である。
【0041】
そこで、本実施形態では、伝送線路基板2、4における下記の3点以外の構成については、図1に図7と同一符号を付与して説明を省略し、下記の3点にて得られる本実施形態特有の効果及びその効果を裏付けるために行った実験結果について説明する。
(従来との相違点1)
測定用及び校正用の伝送線路基板2、4において、測定用端子部20における信号導体線16の軸方向先端は、図1(c)から明らかなように、信号導体線16の両側に位置する導電性スルーホール24同士(より好ましくは導電性スルーホール24の中心軸同士)を接続する線分との交点位置で切断されており、その先端部分にコプレーナプローブ50を接続できるようにされている(図1(c)の黒色部分参照)。
(従来との相違点2)
測定用の伝送線路基板2において、測定対象物である高周波部品40を接続できるように開放された、マイクロストリップ線路の測定用端子部20とは反対側端部には、信号導体線16の開放端にワイヤボンディング34で高周波部品40を接続したときの入出力インピーダンスを整合させるための整合回路28が形成されている。そして、この整合回路28は、信号導体線16のパターン幅を狭くし、その部分にオープンスタブ18を形成することで、構成されている。
(従来との相違点3)
一対の伝送線路基板2が積層され、その間に高周波部品40が載置される、測定装置の基台30において、高周波部品40を載置するための載置部32の底面が、載置部32周囲の基台表面よりも低くなっている。これは、載置部32に高周波部品40を載置した際に、高周波部品40の基台30からの高さと、伝送線路基板2の基台30からの高さとを一致させて、これら各部40、2の基台とは反対側の面を略同一平面上にするためである。
(相違点1による効果)
本実施形態のように、測定用端子部20における信号導体線16の軸方向先端を、その両側の導電性スルーホール24同士を接続する線分との交点位置までにした際には、コプレーナプローブ50の各電極(詳しくは中心電極とその両側の外側電極)の配列方向と信号導体線16の軸心方向とが直交するようにコプレーナプローブ50を配置して、コプレーナプローブ50の中心電極を信号導体線16の先端部分に当接させれば、コプレーナプローブ50の外側電極が、グランド導体22の導電性スルーホール24との近傍位置に当接されることになる。
【0042】
このため、本実施形態の伝送線路基板2、4によれば、グランド導体22において、コプレーナプローブ50の接続点と導電性スルーホール24との間を短くして、測定用端子部20において生じる高周波信号の伝送損失を抑えることができ、しかも、信号導体線16においては、コプレーナプローブ50との接続点から外側に延びてオープンスタブとなる部分をなくし、高周波信号の反射等による特性劣化を防止できる。
【0043】
従って、本実施形態の伝送線路基板2、4によれば、測定用端子部20での高周波信号の伝送特性が劣化するのを防止し、高周波部品の特性を測定するのに最適な伝送線路基板を実現できる。
(実験結果1)
次に、この相違点1による効果を裏付けるために、測定用端子部20を図2(a)に示すように構成した本実施形態の校正用伝送線路基板4と、同じく測定用端子部20を図2(b)に示すように構成した従来の校正用伝送線路基板11とを使用し、両端の測定用端子部20へコプレーナプローブ50を介して測定装置を接続して、一方の測定用端子部20からミリ波帯(55GHz〜100GHz)の高周波信号を入力し、他方の測定用端子部20から高周波信号を取り出したときの入力リターンロス及び通過ロスを測定した。
【0044】
その測定結果を、図3(a)、(b)に示す。なお、この測定に用いた誘電体基板14の厚みは、50μmであり、その表裏面の信号導体線16、グランド導体22、グランド層12の厚みは、3.3μmである。
【0045】
そして、この測定結果から、測定用端子部20における信号導体線16の軸方向先端部分を、従来のようにグランド導体22の端部位置に合わせるのではなく、本実施形態のように導電性スルーホール24同士を接続する線分位置に合わせるようにすれば、測定用端子部20での高周波信号の反射を抑え、且つ、マイクロストリップ線路での高周波信号の通過ロスを抑えて、高周波信号の良好な伝送特性が得られる伝送線路基板を実現できることが判る。
【0046】
なお、図2に示すように、この実験例では、信号導体線16の幅、及び、信号導体線16とグランド導体22との間隔を、50μmとし、グランド導体22を1辺が400μmの正方形とし、このグランド導体22と同軸上に、直径200μmの導電性スルーホール24を形成した測定用端子部20を有する伝送線路基板4、11を使用したが、これら各部の寸法等は用途に合わせて適宜設定すればよく、本実施形態の伝送線路基板2、4は、図2(a)に示すものに限定されるものではない。
【0047】
また、図2(a)において、本実施形態の測定用端子部20では、信号導体線16の軸方向先端部分を、導電性スルーホール24の中心同士を接続する線分よりも25μmだけ外側に延ばしているが、これは、測定時にコプレーナプローブ50の電極を押し当てた際の滑りを考慮してのことであり、信号導体線16の軸方向先端部分は、導電性スルーホール24の中心同士を接続する線分との交点位置に一致させてもよく、或いは、導電性スルーホール24の径の分だけ、更に外側に延ばしてもよい。
(相違点2による効果)
本実施形態の測定用の伝送線路基板2においては、マイクロストリップ線路を構成する信号導体線16の測定用端子部20とは反対側端部に、オープンスタブ18等からなる整合回路28が形成されていることから、その端部にワイヤボンディング34等によって高周波部品40を接続したときに生じる伝送インピーダンスの不整合を防止し、その接続点で高周波信号の伝送特性が劣化するのを防止できる。よって、本実施形態の伝送線路基板2を使用すれば、高周波部品40の特性を高精度に測定できる。
(相違点3による効果)
本実施形態の測定装置を構成する基台30においては、一対の伝送線路基板2の間に形成される載置部32の底面が、高周波部品40を載置した際に高周波部品40の基台30からの高さと、伝送線路基板2の基台30からの高さとが一致するように(換言すればこれら各部40、2の基台30とは反対側の面が略同一平面となるように)、載置部32周囲の基台表面よりも低くなっていることから、高周波部品40とその両側の伝送線路基板2とを接続するのに用いられるワイヤ等の導電性部材の伝送線路基板2からの高さを低くし、その長さを短くすることができる。
【0048】
このため、本実施形態の測定装置によれば、高周波部品40と伝送線路基板2との接続部で生じる高周波信号の伝送特性の劣化を抑えて、高周波部品40の特性の測定精度を向上できる。
(実験結果2)
次に、この相違点3による効果を裏付けるために、図4(a)に示すように構成した本実施形態の測定用伝送線路基板2を、表面が平坦な基台30に積層して、基台30に別途積層された高周波部品40とワイヤボンディング34で接続し、図4(b)に示すように、そのワイヤボンディング34によるワイヤの伝送線路基板2表面からの高さHを、80μm、115μm、150μmと変化させて、その接続部でのミリ波帯(60GHz〜90GHz)の高周波信号の入力リターンロス及び通過ロスを測定した。
【0049】
その測定結果を、図5(a)、(b)に示す。
そして、この測定結果から、基台30上で伝送線路基板2と高周波部品40とを接続するのに用いられるワイヤ等の導電部材は、伝送線路基板2からの高さHをできるだけ低くして、その長さを短くとよいことが判る。
【0050】
そして、このためには、本実施形態のように、高周波部品40の載置部32の底面を低くして、載置部32に載置された高周波部品40とその両側の伝送線路基板2とに段差ができないようにすればよいことになる。
【0051】
なお、図4(a)から明らかなように、この測定に用いた伝送線路基板2の測定用端子部20各部の寸法、及び、誘電体基板14等の厚みは、実験結果1で説明したものと同じであり、整合回路28のオープンスタブ18の長さ及び幅は、夫々、585μm、78μmであり、信号導体線16においてオープンスタブ18が接続される部分の幅は32μmであるが、これら各部の寸法等は用途に合わせて適宜設定すればよく、本実施形態の伝送線路基板2は、図4(a)に示すものに限定されるものではない。
【0052】
以上本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内にて、種々の態様をとることができる。
例えば、上記実施形態では、伝送線路基板2、4に形成される測定用端子部20において、一対のグランド導体22は矩形形状であるものとして説明したが、例えば、図6に示すように、4つの角部のうち、信号導体線16と隣接する角部には、円弧或いは直線で切り欠き部23を形成するようにしてもよい。
【0053】
そして、このようにすれば、グランド導体22と信号導体線16との間隔を大きくして、グランド導体22と信号導体線16とが高周波的に結合するのを防止することができ、延いては、測定用端子部20での高周波信号の伝送特性が劣化するのを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】実施形態の伝送線路基板及び測定装置の構成を表す平面図及び断面図である。
【図2】実験1で用いた校正用伝送線路基板の測定用端子部の構成を表す説明図である。
【図3】図2に示す伝送線路基板を用いて測定用端子部の入力リターンロス及び通過ロスを測定した測定結果を表す説明図である。
【図4】実験2で用いた測定用伝送線路基板の構成及び高周波部品との接続を表す説明図である。
【図5】図4に示す伝送線路基板と高周波部品との接続部の入力リターンロス及び通過ロスを測定した測定結果を表す説明図である。
【図6】測定用端子部の変形例を表す説明図である。
【図7】従来の伝送線路基板及び測定装置の構成を表す平面図及び断面図である。
【符号の説明】
【0055】
2,4,10,11…伝送線路基板、12…グランド層、14…誘電体基板、16…信号導体線、18…オープンスタブ、20…測定用端子部、22…グランド導体、23…切り欠き部、24…導電性スルーホール、28…整合回路、30…基台、32…載置部、34…ワイヤボンディング、40…高周波部品、50…コプレーナプローブ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体基板と、該誘電体基板の表面に形成された信号導体線と、前記誘電体基板の前記信号導体線とは反対側の裏面に形成されたグランド層とからなるマイクロストリップ線路を備えると共に、
前記マイクロストリップ線路の少なくとも一方の端部位置に、
前記信号導体線と、前記誘電体基板の前記信号導体線と同一面上で前記信号導体線を挟むように形成された一対のグランド導体と、前記誘電体基板を貫通して前記一対のグランド導体と前記グランド層とを各々接続する一対の導電性スルーホールとからなる測定用端子部を備え、
該測定用端子部を構成する前記信号導体線と一対のグランド導体とに測定用のコプレーナプローブを押し当て、高周波信号の伝送特性を測定するのに使用される伝送線路基板であって、
前記測定用端子部において、前記信号導体線の軸方向先端は、前記一対の導電性スルーホール同士を接続する線分との交点位置で切断されていることを特徴とする伝送線路基板。
【請求項2】
前記測定用端子部において、前記一対のグランド導体は、前記一対の導電性スルーホールと略同心の矩形形状であり、前記信号導体線と隣接する角部には、信号導体線との間隔が大きくなるよう切り欠きが形成されていることを特徴とする請求項1に記載の伝送線路基板。
【請求項3】
前記マイクロストリップ線路の両端に、前記測定用端子部を備えたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の伝送線路基板。
【請求項4】
前記測定用端子部は、前記マイクロストリップ線路の一端側に設けられ、前記マイクロストリップ線路の他端側は、導電部材を介して測定対象物を接続できるように開放されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の伝送線路基板。
【請求項5】
測定対象物を接続可能に開放された前記マイクロストリップ線路の他端側には、導電部材を介して測定対象物を接続したときの入出力インピーダンスを整合させる整合回路が形成されていることを特徴とする請求項4に記載の伝送線路基板。
【請求項6】
測定対象物である高周波部品を載置可能な導電性の基台を備えると共に、請求項4又は請求項5に記載の伝送線路基板を一対備え、
前記各伝送線路基板のグランド層が前記基台に接触し、且つ、前記各伝送線路基板に形成されたマイクロストリップ線路の測定用端子部とは反対側端部が、前記基台における前記高周波部品の載置部を挟んで互いに対向するよう、前記各伝送線路基板を前記基台に積層してなる高周波部品の測定装置であって、
前記載置部に載置された高周波部品の前記基台とは反対側面と、前記各伝送線路基板の前記基台とは反対側面とが、略同一平面上となるよう、前記載置部の底面を前記載置部周囲の基台表面よりも低くしたことを特徴とする高周波部品の測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−8275(P2010−8275A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−168874(P2008−168874)
【出願日】平成20年6月27日(2008.6.27)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、文部科学省、「安全・安心科学技術プロジェクト」委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000113665)マスプロ電工株式会社 (395)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】