伝送路分析のための方法
【課題】通信伝送路の伝送特性の推定において、時間または空間分解能の増加を達成する。
【解決手段】PSDマスクによって許容されるPSDを使用して、DSL帯域計画の阻止帯でFDR SELT測定が行われる。隣接する通過帯域及び追加の複数帯域で追加の測定も行うことができ、その結果を組み合わせて、広帯域測定結果を作成する。時間領域に変換されると(例えば、回線インパルス応答を生成するための逆フーリエ変換による)、より大きい時間分解能(このため、より大きい空間分解能)が達成される。AGC較正エラーを補償するために、異なるAGCステップを使用する測定をスケーリングして、相互に円滑に適合させることができる。測定値がオーバラップする場合、オーバラップの領域内の測定結果を様々な方法で組み合わせて、雑音の影響を制限し、ある測定から次の測定への円滑な遷移を作成することができる。
【解決手段】PSDマスクによって許容されるPSDを使用して、DSL帯域計画の阻止帯でFDR SELT測定が行われる。隣接する通過帯域及び追加の複数帯域で追加の測定も行うことができ、その結果を組み合わせて、広帯域測定結果を作成する。時間領域に変換されると(例えば、回線インパルス応答を生成するための逆フーリエ変換による)、より大きい時間分解能(このため、より大きい空間分解能)が達成される。AGC較正エラーを補償するために、異なるAGCステップを使用する測定をスケーリングして、相互に円滑に適合させることができる。測定値がオーバラップする場合、オーバラップの領域内の測定結果を様々な方法で組み合わせて、雑音の影響を制限し、ある測定から次の測定への円滑な遷移を作成することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伝送路分析の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
VDSL2などのDSL(デジタル加入者回線)技術では、サービスに使用可能なスペクトルの使用は、通常、規格の一部である帯域計画(band plan)によって管理される。この計画は、ループのそれぞれの側について、どの帯域(周波数間隔)を伝送に使用する予定であるか(通過帯域)と、どれを使用しない予定であるか(阻止帯(stop band))を指定する。PSD(電力スペクトル密度)マスクは、その帯域に許可された伝送出力を指定する。
【0003】
通常、アップストリーム帯域(upstream band)である一部の帯域はCPE(契約者宅内設備)による伝送のために予約され、ダウンストリーム帯域(downstream band)であるその他の帯域は中央局でDSLAM(デジタル加入者回線アクセス・マルチプレクサ)による伝送のために予約される。従って、ループの一方の側用の帯域計画では通過帯域である帯域は、ループのもう一方の側用の帯域計画では阻止帯になる。
【0004】
まったく伝送に使用する予定のない帯域が存在する可能性もある(例えば、中央局側用の帯域計画で阻止帯であると同時に顧客側用の帯域計画でも阻止帯である)。これは、他のシステムへの干渉を防止するためである可能性がある。
【0005】
設定、即ち、伝送が行われるループ上の位置及び状況に応じて、種々の帯域計画を使用することができる。例えば、PSDマスクは、(当然)ループの顧客側及び中央局側で異なるが、顧客と中央局との間の全域にわたる銅線接続とは対照的に、顧客側に近いファイバで供給されるキャビネットなど、異なる適用例ではPSDマスクが異なる可能性もある。また、帯域計画及びPSDマスクは、他の機器との間の干渉を制限するために設計された規制要件に応じて、異なるマーケット間又はオペレータ間でも異なる可能性がある。
【0006】
一般に、他の周波数帯では通常出力で送信しながら、一部の周波数帯では完全に静音になるように(即ち、まったく無出力で送信するように)送信機を設計することは不可能である。特に、通常伝送出力で通過帯域内で送信する場合、必ず隣接阻止帯にサイドローブ及び相互変調積が発生し、即ち、伝送に使用する予定のない帯域内への出力の漏れが発生することになる。このため、PSDマスクは阻止帯でも特定の小伝送出力を可能にする。
【0007】
単一端線路試験、即ち、SELTは、回線の一方の側のみでアクションを必要とする、伝送路(ループ)をテストするための方法である。典型的に、ある種の信号が回線に送信され、エコーなどの結果信号が受信される。送信信号と受信信号との関係から、回線とその特性に関する情報を推論することができる。
【0008】
TDR(時間領域反射率測定)SELTでは、短時間のパルスが回線に送信される。その結果のエコーは時間の関数として記録される。回線の欠陥はエコー曲線のピークとして見ることができ、曲線上の時間の位置は回線上のどこに欠陥が位置するかに関する情報を提供する。
【0009】
FDR(周波数領域反射率測定)SELTは、多くの周波数を含み、ある程度固定した信号が特定の時間の間、回線に印加される方法である。その結果の反射信号は周波数の関数として記録される(即ち、周波数の関数としての振幅及び位相)。
【0010】
次に、エコー周波数応答を得るために、周波数の関数としての受信信号を周波数の関数としての送信信号で割る。種々の回線特性を表すために、様々な調整及びその他の操作を行うことができる。逆フーリエ変換の使用により、回線のインパルス応答を数学的に生成することができる。
【0011】
測定を行う場合、障害及びその他の回線アーチファクトの位置及びその他の特徴をより良く解決できるように、精度を高めたいという要求が生じる場合が多い。
【0012】
EP1111808A1には、特別に設計されたTDRパルスのエッジ領域によって、対応する時間領域エコーを追加して広帯域インパルス応答測定値を生成することが可能になる、TDR(時間領域反射率測定)方法が記載されている。これは、回線上の第1の欠陥のみではなくそれ以上のものを検出する方法の問題を解決すると言われている。
【0013】
ITU−T規格G.993.2及びG.992.5には、それぞれ、VDSL2規格とADSL2+規格が記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
VDSL2などの技術に使用する予定のDSL回線上でFDR SELT測定を行う場合、通過帯域の1つで信号を送信し、結果信号を受信することができる。
【0015】
精度を高めるために、強い信号と大きい帯域幅で測定を行うことが望ましい。しかし、伝送帯域幅及び信号電力は帯域計画及び関連のPSDマスクによって制限される。
【課題を解決するための手段】
【0016】
依然として規格に従って又は実質的に従って伝送PSDを保持しながら、規格の意図とは反対に、伝送に使用する予定のない帯域(阻止帯)で送信することにより、特定の利点を達成することができる。
【0017】
これに関連してPSDが実質的に規格に従っているということは、電力がPSDマスク制限をいくらか超える可能性があるが、依然として、例えば、他のシステムへの受け入れがたい干渉を起こさないように十分低く、依然として、通過帯域で許可され、正規伝送に使用されるPSDレベルより非常に低いことを意味する。
【0018】
帯域計画によっては、どの通過帯域よりも著しく広い阻止帯が存在する可能性がある。例えば、一部のVDSL2帯域計画では、他のシステムへの受け入れがたい干渉から保護するために、8〜30MHzのスペクトルはダウンストリーム伝送にもアップストリーム伝送にも使用する予定はない。
【0019】
PSDマスクに適合するか又は少なくとも実質的に適合するPSDを使用して、このような帯域内でFDR SELT試験信号を送信することにより、依然として受け入れがたい干渉を発生せずに通過帯域が使用されていた場合より大きい帯域幅を有する測定を行うことができる。時間領域で回線特性を推定すべき場合、より大きい帯域幅によって分解能が改善される。
【0020】
信号(及びこれ故にエコー)は極めて弱いので、信号対雑音比(SNR)は、PSDマスクによりかなり強い信号が許可される通過帯域でより強い信号を送信する時ほど良好にはならない。この不利点は、少なくとも一部は、より長い時間の間、信号を送信することによって(及びSNRを改善するためにエコーを平均することによって)補償することができる。
【0021】
この信号は好ましくは、PSDマスクが可能な限り良好なSNRを得るために可能なほど強いものであるが、他の状況がそれを要求する場合には、当然のことながら、より弱い信号を使用することもできる。
【0022】
種々の帯域での測定を組み合わせることは、時間領域での分解能を改善するためのもう1つの方法である。しかし、すべての通過帯域において最大許容PSDで単純に送信し、次にこれらの測定結果を組み合わせると、阻止帯によって引き起こされた測定内のギャップにより、時間領域にサイドローブを発生させることになる。連続周波数帯における測定が要求されていたであろう。
【0023】
広範囲の周波数にわたる通常の連続測定(すべて低出力になるか又はその範囲の阻止帯部分のPSDマスクに違反するであろう)の代わりに、好ましくは特定の帯域の最大許容PSDを使用して異なる帯域で測定を行い、その結果を周波数領域で連結することができる。
【0024】
少なくとも阻止帯における測定と隣接通過帯域における測定が要求され、その結果を連結することができる。
【0025】
1つの通過帯域のみに関する測定又は複数の通過帯域(即ち、不連続)における連結測定と比較すると、このような測定はより高い雑音レベルを有するが、かなり優れた時間分解能を有する。
【0026】
ある帯域における測定の結果は通常、その周波数領域でのエコー関数(echo function)として表され、即ち、受信信号と送信信号との商が周波数の関数として表される。原則として、その商は使用するPSDによって影響されず、このため、結果は直接組み合わせることができる。
【0027】
受信機のAGCレベルが正確に分かっていない場合、種々の帯域による測定結果は、帯域のエッジで相互に完全に適合しない可能性があり、そのため、組み合わせた測定の時間分解能を低下させる可能性のあるサイドローブを発生させる可能性がある。
【0028】
これは、様々な調整技法によって対処することができる。例えば、それぞれの通過帯域内に少し広がるように、阻止帯用の測定信号をその帯域より少し広くすることができる。次に、オーバラップ領域内で最良適合を達成するように、その測定をスケーリングすることができる。次に、そのオーバラップ領域内の通過帯域測定結果と阻止帯測定結果はさらに、相互に正確に適合するようにすることができる。
【0029】
もう1つの手法は、低出力(例えば、阻止帯レベル)で広い周波数範囲(例えば、トランシーバによってサポートされる範囲全体)について測定を行い、次に通過帯域で高出力測定を行うことである。次に、それらが共通して有する周波数に関する広帯域測定結果に対する最良適合を達成するように、通過帯域測定結果のそれぞれをスケーリングすることができる。次に、高出力通過帯域結果及び広帯域結果の阻止帯部分から組み合わせた結果を作成することができる。
【0030】
本発明の利点の1つは、時間及び/又は空間分解能の増加を達成できることである。
【0031】
他の利点の1つは、他のシステム又は回線への重大な干渉なしにより高い分解能の測定を行うことができることである。
【0032】
もう1つの利点は、規格要件に違反せずにより高い分解能の測定を行うことができることである。
【0033】
さらにもう1つの利点は、適用可能なPSDマスクのPSD制限を除き、帯域エッジ又はそれ以外の場所で送信信号のPSD曲線の形状について特別な要件がまったくないことである。
【0034】
さらにもう1つの利点は、送信信号をある程度固定した信号にすることができ、時間につれて平均することによる雑音低減が容易に実現されることである。
【0035】
さらに他の利点の1つは、標準的なDSLトランシーバによって測定を行えることである。特別な試験装置用の金属導体によるアクセスは不要である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】VDSL2帯域計画のPSDマスクを示している。
【図2】オーバラップしていないが隣接する帯域(1つの阻止帯と1つの通過帯域)におけるエコー測定のPSDの例を示している。
【図3】xTUから50メートルのところに不良スプライス(2オームの直列抵抗)がある長さ500メートルのケーブルについてSELT測定をシミュレートするためのセットアップを示している。また、この図は、送信信号(T)と、受信反射(Ri)の一部を示す信号グラフも示している。
【図4】帯域DS1のみを使用する、エコー対距離のグラフを示している。
【図5】受信帯域での測定を含み、17MHz帯域全体を使用する、エコー対距離のグラフを示している。
【図6】すべての送信帯域を使用し、受信帯域内でS11(f)をゼロに設定する、エコー対距離のグラフを示している。
【図7】受信帯域での測定を含むが、一部の受信帯域でのAGCエラーを含み、17MHz帯域全体を使用する、エコー対距離のグラフを示している。
【図8】2つの帯域間のエッジにステップがある、測定済み周波数領域エコーのグラフを示している。
【図9】図8のステップがどのように訂正されたかを表示するグラフを示している。
【図10】測定方法の流れ図を示している。
【図11】測定方法の流れ図を示している。
【発明を実施するための形態】
【0037】
雑音及びエコー測定を使用する単一端線路試験(SELT)ツールは、通信システムにおける通信を禁止するか又は激しく妨害する問題を診断する際に非常に強力なものになり得る。高分解能結果は広い測定帯域幅を必要とし、良好な信号対雑音比を達成するために、測定時間を抑えるために、高い伝送電力スペクトル密度(PSD)が要求される。しかし、原則として、SELTツールは、システムの通常動作に使用されるものと同じ帯域計画及びPSDマスクに適合する必要がある。
【0038】
通常、同じアクセス・ネットワーク内に存在する複数の通信規格(例えば、ADSL2の付録A及びMの両方)間の互換性を保証するために、DSL帯域計画に加えて、地域規制のPSDマスクも存在する。いかなるシステムも規制制限に違反することは許されず、規制制限によって許される場合、あるシステムが他のシステムの標準的な帯域計画及びPSDマスクに違反することは可能である。
【0039】
これらのPSDマスクは、以下の目的のために必要である。
− 遠端漏話(FEXT)レベルを制限し、その結果、近隣回線上の通信を保護する(例えば、同じか又はその他のDSLタイプ、POTS、ISDN)。
− 送信帯域と受信帯域がオーバラップしている時に近端漏話(NEXT)レベルを制限する(エコー消去システムの共通問題並びに異なるシステムが同じケーブル・バインダで混合される場合)。
− 受信帯域内に漏れる送信帯域からの相互変調積及びサイドローブなどの帯域外輻射を制限する(主に周波数分割二重システムの場合)。
【0040】
DSL技術の場合、PSD制限マスクは、送信帯域と受信帯域の両方について最大PSDを指定する(スペクトル漏れ)。このマスクは、xTU−R及びxTU−O側について別個のものである。既存のADSL SELTツールは中央局(CO)配備を予定しており、フラットPSDによって測定及び分析が単純化されるので、典型的に約−40dBm/HzでフラットPSDを使用する。
【0041】
このような信号は、アップストリーム(阻止帯)に関してCO側ADSL PSD制限マスクに違反し、近隣回線のアップストリームでビット・エラーを引き起こす可能性がある。しかし、このスペクトルを使用するシステムが他にも存在するが、この手法は必ず実行可能であるわけではなく、より高い周波数の場合、例えば、US0以外のVDSL2アップストリーム帯域の場合、この手法は確かに実行不能であるので、これは依然として規制制限により許可される可能性がある。
【0042】
通信受信機のダイナミックレンジはアナログデジタル変換器内の有効ビット数によって制限されるので、ダイナミックレンジを最も良く利用するレベルに入力信号を適合させるために自動利得制御(AGC)が使用される場合が多い。
【0043】
時間分解能は測定帯域幅に反比例し、これは、高い分解能を達成するためには、大きい帯域幅について測定を実行しなければならないことを意味する。しかし、時間領域分析に広帯域信号を使用する場合、周波数領域、即ち、帯域内の非測定周波数にギャップがないことが重要である。このようなギャップは、時間領域で正弦関数によるたたみ込みに変換する長方形の窓による乗算のように見える可能性がある(sinc(x)≡sin(nx)/(nx))。このようなたたみ込みは、正弦関数の高いサイドローブ・レベルによる過剰な「リンギング」を引き起こし、強いエコーによるサイドローブはより弱いエコーの主ローブを隠す可能性がある。ギャップは別として、周波数領域における任意のタイプのステップ又は急激な傾斜の変化は、同様の結果を引き起こすであろう。
【0044】
例えば、VDSL2における問題は、伝送帯域が受信帯域によって分離された複数の帯域に分割されることである(伝送ギャップ)。典型的なVDSL2トランシーバは17〜30MHzの帯域幅に対応可能であるが、例えば、FDR単一端線路試験(SELT)をVDSL2 DSLAM内の第1のダウンストリーム帯域(DS1)のみに制限することは、通常、3MHz未満の測定帯域幅を意味することになり、即ち、2.2MHzをあまり大きく超えない周波数がADLS2+に使用可能になる。達成された分解能は、この場合、達成可能な分解能の20%未満になる(3MHz/17MHz)。DS1の代わりに他のダウンストリーム帯域(例えば、DS2、DS3)を使用すると、使用した帯域がより広い場合、わずかに良好な時間分解能が得られるが、その改善は下限に近いものであり、高周波により減衰が増加し、結果としてSNRの低減に至る。また、FDR測定結果の時間領域分析の際に複数のダウンストリーム帯域を同時に使用することは、上述の周波数ギャップのために些細なことではない。
【0045】
(しかし、例えば、伝送路(障害あり/障害なし)のモデル内のパラメータを測定済み周波数帯の測定結果に適合させることなど、周波数領域手法は依然として使用することができるであろう。)
【0046】
もう1つの問題は、複数の測定を連結することにより広帯域FDRエコー測定を実行すると、異なるAGC設定を受信機内で適用することができ、結果として、AGC利得ステップが完全に分かっていない場合に連結した信号内に不連続が発生する。これにより、通常はそれほど厳しくない場合でも、周波数領域ギャップと同様の結果が発生することになる。
【0047】
これらの問題は、使用可能なスペクトルの異なる(オーバラップするか又は隣接する)部分を使用し、適用可能なPSD制限に違反しないPSDレベルを使用して、伝送に使用する予定のない帯域についても複数のFDRエコー測定を実行することによって解決することができる。次に、これらの測定は、帯域エッジで連続エコーを保証するために適切にスケーリングされ、時間領域で高い分解能及び低いサイドローブ・レベルで広帯域エコー測定を形成するように連結される。必要であれば、SNRを改善するために、反復測定が実行され、平均される。
【0048】
モデムは受信帯域又は予定の伝送帯域の外側のその他の帯域で伝送することになっていないが、上述の通り、送信帯域(通過帯域)からのスペクトル漏れのために、これらの帯域(阻止帯)で特定の伝送PSDレベルが許可されなければならない。伝送PSDが制限以下に保持される場合、近隣回線を妨害せずに受信帯域で伝送することが可能でなければならない。当然のことながら、SNRは典型的に、送信帯域の場合よりかなり低くなる。
【0049】
VDSL2内の予定の伝送帯域の外側のPSD制限は、典型的に約−100dBm/Hzであり、時にはかなり低くなるが、十分に長い測定時間により、依然として有用なエコーを獲得することができる。
【0050】
一例として、図1はVDSL2帯域計画B7−9を示している[G.993.2、改正1]。
【0051】
これは、3つのダウンストリーム帯域(DS1〜DS3)と4つのアップストリーム帯域(US0〜US3)を有するが、使用した周波数スケール用としては狭すぎるので、最低帯域(US0:25〜138kHz)は同図には示されていない。
【0052】
最も広い伝送帯域はDS1であり、これは約3MHzの幅がある。
【0053】
いくつかのADSL SELT実現例では、現在、すでに、ダウンストリーム周波数(例えば、−40dBm/Hz)の場合と同じフラットPSDを有するADSLアップストリーム周波数で伝送している。これは、オペレータが通常、これらの周波数で漏話を発生するISDN及びSHDSLなどの他のシステムを有し、漏話結合が低いので、それらが実際にADSLダウンストリームPSDマスクに違反するが、何らかの通信ネットワークでは可能であることを意味する。しかし、この手法は必ず実行可能であるわけではなく、より高い周波数の場合、例えば、US0以外のVDSL2アップストリーム帯域の場合、この手法は確かに実行不能である。
【0054】
本発明では、送信帯域について通常のFDRエコー測定を実行する時の周波数のギャップは、スペクトル漏れについて予定されるPSD制限を使用して、受信帯域についてもエコー測定を実行することにより、軽減することができる。原則として、送信帯域及び受信帯域は(例えば、阻止帯域より通過帯域の方が出力がかなり大きく、例えば、数桁高い、単一試験信号により)同時に測定することができるが、トランシーバのダイナミックレンジを最も良く利用するために(しかも、送信信号と近隣帯域からのスペクトル漏れの組み合わせにより、受信帯域PSDマスクに違反しないために)、好ましくは受信帯域測定と送信帯域測定が個別に実行される。また、同時測定の場合、より強い通過帯域信号からのスペクトル漏れが阻止帯内のより弱い信号に干渉し、すでに低いSNRをさらに低減することになる。
【0055】
この一例は図2に示されており、同図はオーバラップしていないが隣接する帯域におけるエコー測定を示している。ここでは、1つの阻止帯と1つの通過帯域が測定される。図示の例では、−100dBm/HzのPSDですべての周波数について測定し、次に通過帯域内でより高いPSDでもう一度測定することも可能であるだろう。
【0056】
本発明によって達成された分解能の増強を示すために、図3に示すように、xTUから50メートルのところに不良ケーブル・スプライス(2オームの直列抵抗)がある長さ500メートルのETSI0.5mmケーブルについてFDR SELT測定によるシミュレーションを実行した。
【0057】
また、図3は、送信信号(T)と、受信反射(Ri)の一部を示す信号グラフも示している。
【0058】
周波数領域エコーU(f)は以下のように計算される。
【数1】
ここで、R(f)は受信信号であり、T(f)は送信信号である。受信信号R(f)を送信信号T(f)で割ることにより、エコーは原則として、使用するPSDに影響されず、このため、図2の大きいPSD差は自動的に補償される。図3に示されているように、受信信号は、送信機から受信機への移動経路に応じて異なる遅延を備えたいくつかの異なる成分Ri(f)の合計である。さらに、T(f)は送信PSDレベルを含むので、その結果のエコーは理想的には、SNRとは別に、使用するPSD曲線とは無関係でなければならず、これはPSDに比例することになる。次に、較正したエコー応答又は入力反射減衰量S11(f)を得るために、未較正のエコー周波数応答U(f)はトランシーバ内の任意の(直線)ひずみについて訂正される。この較正手順は、WO2004/100512A1(米国特許第7,069,165号、欧州特許第1625735号)にすでに記載されているので、ここでは繰り返さない。さらに、時間領域エコー応答S11(t)を得るために、例えば、カイザー窓(Kaiser window)などの適切な窓関数による乗算によって反射減衰量S11(f)をフィルタリングし、次に逆離散フーリエ変換を適用する。t=2d/v、d=距離、及びv=伝搬速度という代入を実行することにより、S11’(d)=S11(2d/v)というエコー対距離の関数について近似値を得る。
【0059】
エコー測定を実行する時に図1に示されているPSDを備えた帯域DS1におけるエコー測定を使用すると、DSLAMとケーブルとの間のインピーダンス不連続による強いエコーによって反射がかき消されるので、不良スプライスの存在を明らかにしないS11’(d)の結果が得られる。これは図4に示されており、同図は帯域DS1(約3MHz)のみを使用する、エコー対距離を示している。50メートルの距離にある不良スプライスは、近端エコーの主ローブ幅のために解決することができない。
【0060】
しかし、図1による17MHzの全帯域及びPSDレベルでエコー測定を実行すると、図5に示されているように、50メートルの距離にある不良スプライスが明確に分かる。同図は、受信帯域での測定を含み、17MHz帯域全体を使用する、エコー対距離を示している。
【0061】
500メートルのところにある遠端エコーは、広帯域信号の強い減衰のためにかなり弱くなっている。また、受信帯域でSNRがかなり低くなっているので、雑音フロアは劇帝に増加している。依然として、多帯域信号は、送信機に近い問題を検出するために非常に有用である。また、多帯域方法における雑音フロアは、フィルタリングによってある程度まで低下させることができる。このフィルタリングはすべての帯域に適用しなければならないわけではなく、必要な信号について最も雑音の多い帯域のみをフィルタリングすることは有益である可能性があり、このような帯域は典型的に受信帯域になるであろう。これにより、増加した分解能のほとんどを依然として保持しながら、雑音を低減することが可能になるであろう。
【0062】
また、受信帯域エコー測定が結果を本当に改善することを示すために、送信帯域間のギャップを一定値で充填しようと試み、例えば、このような帯域でエコーをゼロに設定しようと試みた。これは、雑音レベルを低く保持することになるが、その代わりに、図6に示されているように、サイドローブ・レベルが劇的に増加することになる。同図は、すべての送信帯域を使用し、受信帯域内でS11(f)をゼロに設定する、エコー対距離を示している。50メートルの距離にある不良スプライスは、0メートルのところにある近端エコーのサイドローブ・レベルが高いために見ることはできない。
【0063】
これまでの結果は、測定した帯域を連結する時に連続エコーを形成するために、異なる帯域で測定したエコーを適切にスケーリングするための何らかの方法又は理想的なAGCを仮定している。そうでない場合には、すべての帯域を測定したが、受信帯域のうちの2つの帯域のエコーに、AGC利得が完全に分かっているわけではないことに対応する乱数を掛けた、図7と同様の結果を得ることができる。この場合、サイドローブは、不良スプライスを見にくくすることになる。図7は、受信帯域での測定を含むが、一部の受信帯域でのAGCエラーを含み、17MHz帯域全体を使用する、エコー対距離を示している。50メートルのところにある不良スプライスはサイドローブと区別することができない。
【0064】
上記の例ではAGCエラーの問題が誇張されているが、この問題は、図1に示されているように、送信帯域と受信帯域との間の広範囲のPSDレベルで発生する可能性がないわけではない。これに対するいくつかの解決策としては以下のものを含む。
− オーバラップ(隣接帯域)なしで測定し、異なる帯域の適切なスケーリングにより、測定したエコー応答が連続していることを確認する。
− オーバラップ(隣接帯域)なしで測定し、多項式又はその他のデータ・モデルを使用して測定データを帯域エッジに適合させ、近隣帯域に向かって外挿して、1つ又は複数の周波数で帯域間の人為的なオーバラップを作成する。
− 測定した帯域が必ず少なくともわずかにオーバラップすることを確認し、このオーバラップを使用して、例えば、最小自乗適合により測定のスケーリングを調整する。
− 選択したAGCレベルと実際のAGCレベルとの間のエラーを改善するために、受信機内の異なるAGCレベルを較正する。
− 単一結果に連結しなければならないすべての測定について同じAGC設定を使用する(結果的に、受信機のダイナミックレンジの不正利用になる可能性がある)。
【0065】
この問題が周波数領域でどのように見えるかという一例は図8に示されており、DS3とUS3が接する14MHzのところに大きいステップがある。このステップはAGCの不十分な較正によって引き起こされたものである。
【0066】
未較正エコー応答(UER(f))が連続的になるようにUS3測定を調整した時の結果は図9で見ることができ、同図は、帯域間の滑らかな遷移、即ち、連続UER(f)を得るために、最後の帯域でエコー応答のレベルを調整することによって訂正されたステップを示している。
【0067】
オーバラップによる測定の変形例は、トランシーバが測定可能な範囲全体、例えば、17〜30MHzの全体を含む第1の測定を行うことである。(より小さい範囲は可能であるが、これは少なくとも部分的に1つの阻止帯と1つの通過帯域を含まなければならない。)
【0068】
第1の測定は好ましくは、最低許容PSDを有する帯域内で最大許容PSDであるフラットPSDレベルで行われる。即ち、この測定は、阻止帯許容PSD、典型的には−100dBm/Hzを使用する。
【0069】
次に、これらの帯域で許容されるPSDを使用して、通過帯域で追加の測定が行われる。
【0070】
次に、両方の測定に存在する周波数のうち、少なくとも一部について、好ましくはすべてについて、追加の測定結果と第1の測定結果の間で最良適合が得られるように、追加の測定のそれぞれをスケーリングする。
【0071】
最良適合は、最小自乗又はその他の何らかの方法によるものである可能性がある。
【0072】
含まれる周波数範囲全体に関する単一の連結したエコー周波数応答結果は、オーバラップの領域内にある低出力(例えば、低SNR)結果の部分を単純に廃棄し、次に残りのデータを連結することによって生成することができる。
【0073】
より精巧な方法は、含まれる周波数範囲全体に関する単一の連結したエコー周波数応答結果を作成するために、加重平均を使用して、好ましくは、高いSNRを有する結果、例えば、通過帯域測定について高い重みを使用して、第1及び第2の両方の測定に存在する周波数について両方の測定の結果を組み合わせることである。これは、雑音の影響を低減することになる。
【0074】
さらに、オーバラップの領域のエッジで不連続(例えば、雑音によって引き起こされたもの)を防止するために、オーバラップ領域のエッジ付近で別の方法で加重平均の重みを選択することができる。低出力測定へのエッジでは、その測定に関する重みは1に設定され(従って、高出力測定に関する重みはゼロに設定される)、次にその重みは、オーバラップの領域内に移動する時に徐々に(例えば、周波数につれて直線的に)SNRベースの重み付けへと変更される。
【0075】
高出力測定が低出力測定(例えば、それぞれの阻止帯測定が阻止帯とそれぞれの隣接する通過帯域のうちのわずかな部分とを含むケース)によって完全にオーバラップされない変形例では、オーバラップの領域は一方の側に低出力測定へのエッジを有し、もう一方の側に高出力測定へのエッジを有することになる。この場合、重みは好ましくは、低出力測定の場合にその測定へのエッジにおいて1に設定され、高出力測定の場合にその測定へのエッジにおいて1に設定される。いずれの場合も、重みは、オーバラップの領域内に移動する時に徐々にSNRベースの重み付けへと変更される。
【0076】
ある変形例では、重み付けは、それぞれ低出力及び高出力の結果についてエッジからエッジへ1−0から0−1へ周波数につれて直線的に変更される。即ち、低出力測定へのエッジではその測定が使用され、高出力測定へのエッジではその測定が使用され、それらの間では一方からもう一方への漸進的な変化が存在する。
【0077】
エコー周波数応答がこのように入手されると、それは、上記で説明した通り、例えば、逆フーリエ変換により回線インパルス応答を生成するために、さらに使用することができる。
【0078】
図10及び図11は、上記で開示されている測定方法の他の図を示している。
【0079】
図10のステップ100では、第1のFDR SELT測定が阻止帯で行われる。ステップ104では、測定結果から回線特性が推定される。回線特性は、エコー周波数応答である場合もあれば、回線インパルス応答又は障害の位置などのその他の何らかの特性である場合もある。
【0080】
図11のステップ110では、図10のステップ100のように、第1の測定が阻止帯で行われる。ステップ111では、1回又は複数回の追加の測定が行われる(阻止帯である場合もあれば、阻止帯ではない場合もある)。任意選択のステップ112では、相互に円滑に適合するように、測定結果が調整及び/又はスケーリングされる。ステップ113では、単一結果を形成するように、測定結果が連結される。ステップ114では、単一結果から回線特性が推定される。
【0081】
結果
この多帯域技法は、使用する帯域計画に応じて、約5〜10倍、VDSL2 FDR SELT適用例の時間分解能を改善することができるが、連結前に異なる帯域からのエコーを適切にスケーリングすることが条件である。典型的な分解能の改善は5〜6倍になるが、約3MHzのDS1帯域幅を備えた17MHz帯域計画で30MHzが可能なハードウェアを使用する場合、10という分解能の改善も適用できるであろう。改善された分解能により、伝送路上の問題、特に、SELTを実行するxTUに近い問題についてより詳細な情報が可能になる。これは、CO内のDSLAMから数十メートルの範囲内にコネクタ又はケーブル・スプライスが存在することが多いので、重要なことである。この接続が劣化する場合、本発明により、問題はかなり早期に見えるようになる。
【0082】
ダウンストリーム電力バックオフ(DPBO)機能はストリート・キャビネット及びその他の遠隔地内で適用しなければならないので、本発明の重要性は、このような位置でのSELTの場合にかなり高くなるであろう。DPBOは、遠隔地にある機器によって発生された過剰な漏話からCO内で発生するxDSL回線を保護するために必要である。DPBOで適用されたPSD成形により、送信帯域が効果的に狭くなり、その結果、分解能が低下するが、これは本発明によって軽減することができる。さらに、本発明は、xTU−O内のSELTに限定されず、例えば、xTU−R SELT(CPE SELT)で使用することもできる。
【0083】
このようなCPE SELTは、POTS/DSLスプリッタが存在するかどうかを調べ、スプリッタがまったくない場合に、顧客の構内の電話回線(家庭内配線)を特徴付けるためにも利用できるであろう。
【0084】
略語
ADSL 非対称デジタル加入者回線
AGC 自動利得制御
CO 中央局
CPE 契約者宅内設備
DPBO ダウンストリーム電力バックオフ
FEXT 遠端漏話
NEXT 近端漏話
PSD 電力スペクトル密度
FDR 周波数領域反射率測定法
SELT 単一端線路試験
SNR 信号対雑音比
VDSL2 超高速デジタル加入者回線
xTU xDSLトランシーバ・ユニット
xTU−O ループのオペレータ側にあるxTU(CO、キャビネットなど)
xTU−R ループの遠隔側にあるxTU(加入者側)
【技術分野】
【0001】
本発明は、伝送路分析の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
VDSL2などのDSL(デジタル加入者回線)技術では、サービスに使用可能なスペクトルの使用は、通常、規格の一部である帯域計画(band plan)によって管理される。この計画は、ループのそれぞれの側について、どの帯域(周波数間隔)を伝送に使用する予定であるか(通過帯域)と、どれを使用しない予定であるか(阻止帯(stop band))を指定する。PSD(電力スペクトル密度)マスクは、その帯域に許可された伝送出力を指定する。
【0003】
通常、アップストリーム帯域(upstream band)である一部の帯域はCPE(契約者宅内設備)による伝送のために予約され、ダウンストリーム帯域(downstream band)であるその他の帯域は中央局でDSLAM(デジタル加入者回線アクセス・マルチプレクサ)による伝送のために予約される。従って、ループの一方の側用の帯域計画では通過帯域である帯域は、ループのもう一方の側用の帯域計画では阻止帯になる。
【0004】
まったく伝送に使用する予定のない帯域が存在する可能性もある(例えば、中央局側用の帯域計画で阻止帯であると同時に顧客側用の帯域計画でも阻止帯である)。これは、他のシステムへの干渉を防止するためである可能性がある。
【0005】
設定、即ち、伝送が行われるループ上の位置及び状況に応じて、種々の帯域計画を使用することができる。例えば、PSDマスクは、(当然)ループの顧客側及び中央局側で異なるが、顧客と中央局との間の全域にわたる銅線接続とは対照的に、顧客側に近いファイバで供給されるキャビネットなど、異なる適用例ではPSDマスクが異なる可能性もある。また、帯域計画及びPSDマスクは、他の機器との間の干渉を制限するために設計された規制要件に応じて、異なるマーケット間又はオペレータ間でも異なる可能性がある。
【0006】
一般に、他の周波数帯では通常出力で送信しながら、一部の周波数帯では完全に静音になるように(即ち、まったく無出力で送信するように)送信機を設計することは不可能である。特に、通常伝送出力で通過帯域内で送信する場合、必ず隣接阻止帯にサイドローブ及び相互変調積が発生し、即ち、伝送に使用する予定のない帯域内への出力の漏れが発生することになる。このため、PSDマスクは阻止帯でも特定の小伝送出力を可能にする。
【0007】
単一端線路試験、即ち、SELTは、回線の一方の側のみでアクションを必要とする、伝送路(ループ)をテストするための方法である。典型的に、ある種の信号が回線に送信され、エコーなどの結果信号が受信される。送信信号と受信信号との関係から、回線とその特性に関する情報を推論することができる。
【0008】
TDR(時間領域反射率測定)SELTでは、短時間のパルスが回線に送信される。その結果のエコーは時間の関数として記録される。回線の欠陥はエコー曲線のピークとして見ることができ、曲線上の時間の位置は回線上のどこに欠陥が位置するかに関する情報を提供する。
【0009】
FDR(周波数領域反射率測定)SELTは、多くの周波数を含み、ある程度固定した信号が特定の時間の間、回線に印加される方法である。その結果の反射信号は周波数の関数として記録される(即ち、周波数の関数としての振幅及び位相)。
【0010】
次に、エコー周波数応答を得るために、周波数の関数としての受信信号を周波数の関数としての送信信号で割る。種々の回線特性を表すために、様々な調整及びその他の操作を行うことができる。逆フーリエ変換の使用により、回線のインパルス応答を数学的に生成することができる。
【0011】
測定を行う場合、障害及びその他の回線アーチファクトの位置及びその他の特徴をより良く解決できるように、精度を高めたいという要求が生じる場合が多い。
【0012】
EP1111808A1には、特別に設計されたTDRパルスのエッジ領域によって、対応する時間領域エコーを追加して広帯域インパルス応答測定値を生成することが可能になる、TDR(時間領域反射率測定)方法が記載されている。これは、回線上の第1の欠陥のみではなくそれ以上のものを検出する方法の問題を解決すると言われている。
【0013】
ITU−T規格G.993.2及びG.992.5には、それぞれ、VDSL2規格とADSL2+規格が記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
VDSL2などの技術に使用する予定のDSL回線上でFDR SELT測定を行う場合、通過帯域の1つで信号を送信し、結果信号を受信することができる。
【0015】
精度を高めるために、強い信号と大きい帯域幅で測定を行うことが望ましい。しかし、伝送帯域幅及び信号電力は帯域計画及び関連のPSDマスクによって制限される。
【課題を解決するための手段】
【0016】
依然として規格に従って又は実質的に従って伝送PSDを保持しながら、規格の意図とは反対に、伝送に使用する予定のない帯域(阻止帯)で送信することにより、特定の利点を達成することができる。
【0017】
これに関連してPSDが実質的に規格に従っているということは、電力がPSDマスク制限をいくらか超える可能性があるが、依然として、例えば、他のシステムへの受け入れがたい干渉を起こさないように十分低く、依然として、通過帯域で許可され、正規伝送に使用されるPSDレベルより非常に低いことを意味する。
【0018】
帯域計画によっては、どの通過帯域よりも著しく広い阻止帯が存在する可能性がある。例えば、一部のVDSL2帯域計画では、他のシステムへの受け入れがたい干渉から保護するために、8〜30MHzのスペクトルはダウンストリーム伝送にもアップストリーム伝送にも使用する予定はない。
【0019】
PSDマスクに適合するか又は少なくとも実質的に適合するPSDを使用して、このような帯域内でFDR SELT試験信号を送信することにより、依然として受け入れがたい干渉を発生せずに通過帯域が使用されていた場合より大きい帯域幅を有する測定を行うことができる。時間領域で回線特性を推定すべき場合、より大きい帯域幅によって分解能が改善される。
【0020】
信号(及びこれ故にエコー)は極めて弱いので、信号対雑音比(SNR)は、PSDマスクによりかなり強い信号が許可される通過帯域でより強い信号を送信する時ほど良好にはならない。この不利点は、少なくとも一部は、より長い時間の間、信号を送信することによって(及びSNRを改善するためにエコーを平均することによって)補償することができる。
【0021】
この信号は好ましくは、PSDマスクが可能な限り良好なSNRを得るために可能なほど強いものであるが、他の状況がそれを要求する場合には、当然のことながら、より弱い信号を使用することもできる。
【0022】
種々の帯域での測定を組み合わせることは、時間領域での分解能を改善するためのもう1つの方法である。しかし、すべての通過帯域において最大許容PSDで単純に送信し、次にこれらの測定結果を組み合わせると、阻止帯によって引き起こされた測定内のギャップにより、時間領域にサイドローブを発生させることになる。連続周波数帯における測定が要求されていたであろう。
【0023】
広範囲の周波数にわたる通常の連続測定(すべて低出力になるか又はその範囲の阻止帯部分のPSDマスクに違反するであろう)の代わりに、好ましくは特定の帯域の最大許容PSDを使用して異なる帯域で測定を行い、その結果を周波数領域で連結することができる。
【0024】
少なくとも阻止帯における測定と隣接通過帯域における測定が要求され、その結果を連結することができる。
【0025】
1つの通過帯域のみに関する測定又は複数の通過帯域(即ち、不連続)における連結測定と比較すると、このような測定はより高い雑音レベルを有するが、かなり優れた時間分解能を有する。
【0026】
ある帯域における測定の結果は通常、その周波数領域でのエコー関数(echo function)として表され、即ち、受信信号と送信信号との商が周波数の関数として表される。原則として、その商は使用するPSDによって影響されず、このため、結果は直接組み合わせることができる。
【0027】
受信機のAGCレベルが正確に分かっていない場合、種々の帯域による測定結果は、帯域のエッジで相互に完全に適合しない可能性があり、そのため、組み合わせた測定の時間分解能を低下させる可能性のあるサイドローブを発生させる可能性がある。
【0028】
これは、様々な調整技法によって対処することができる。例えば、それぞれの通過帯域内に少し広がるように、阻止帯用の測定信号をその帯域より少し広くすることができる。次に、オーバラップ領域内で最良適合を達成するように、その測定をスケーリングすることができる。次に、そのオーバラップ領域内の通過帯域測定結果と阻止帯測定結果はさらに、相互に正確に適合するようにすることができる。
【0029】
もう1つの手法は、低出力(例えば、阻止帯レベル)で広い周波数範囲(例えば、トランシーバによってサポートされる範囲全体)について測定を行い、次に通過帯域で高出力測定を行うことである。次に、それらが共通して有する周波数に関する広帯域測定結果に対する最良適合を達成するように、通過帯域測定結果のそれぞれをスケーリングすることができる。次に、高出力通過帯域結果及び広帯域結果の阻止帯部分から組み合わせた結果を作成することができる。
【0030】
本発明の利点の1つは、時間及び/又は空間分解能の増加を達成できることである。
【0031】
他の利点の1つは、他のシステム又は回線への重大な干渉なしにより高い分解能の測定を行うことができることである。
【0032】
もう1つの利点は、規格要件に違反せずにより高い分解能の測定を行うことができることである。
【0033】
さらにもう1つの利点は、適用可能なPSDマスクのPSD制限を除き、帯域エッジ又はそれ以外の場所で送信信号のPSD曲線の形状について特別な要件がまったくないことである。
【0034】
さらにもう1つの利点は、送信信号をある程度固定した信号にすることができ、時間につれて平均することによる雑音低減が容易に実現されることである。
【0035】
さらに他の利点の1つは、標準的なDSLトランシーバによって測定を行えることである。特別な試験装置用の金属導体によるアクセスは不要である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】VDSL2帯域計画のPSDマスクを示している。
【図2】オーバラップしていないが隣接する帯域(1つの阻止帯と1つの通過帯域)におけるエコー測定のPSDの例を示している。
【図3】xTUから50メートルのところに不良スプライス(2オームの直列抵抗)がある長さ500メートルのケーブルについてSELT測定をシミュレートするためのセットアップを示している。また、この図は、送信信号(T)と、受信反射(Ri)の一部を示す信号グラフも示している。
【図4】帯域DS1のみを使用する、エコー対距離のグラフを示している。
【図5】受信帯域での測定を含み、17MHz帯域全体を使用する、エコー対距離のグラフを示している。
【図6】すべての送信帯域を使用し、受信帯域内でS11(f)をゼロに設定する、エコー対距離のグラフを示している。
【図7】受信帯域での測定を含むが、一部の受信帯域でのAGCエラーを含み、17MHz帯域全体を使用する、エコー対距離のグラフを示している。
【図8】2つの帯域間のエッジにステップがある、測定済み周波数領域エコーのグラフを示している。
【図9】図8のステップがどのように訂正されたかを表示するグラフを示している。
【図10】測定方法の流れ図を示している。
【図11】測定方法の流れ図を示している。
【発明を実施するための形態】
【0037】
雑音及びエコー測定を使用する単一端線路試験(SELT)ツールは、通信システムにおける通信を禁止するか又は激しく妨害する問題を診断する際に非常に強力なものになり得る。高分解能結果は広い測定帯域幅を必要とし、良好な信号対雑音比を達成するために、測定時間を抑えるために、高い伝送電力スペクトル密度(PSD)が要求される。しかし、原則として、SELTツールは、システムの通常動作に使用されるものと同じ帯域計画及びPSDマスクに適合する必要がある。
【0038】
通常、同じアクセス・ネットワーク内に存在する複数の通信規格(例えば、ADSL2の付録A及びMの両方)間の互換性を保証するために、DSL帯域計画に加えて、地域規制のPSDマスクも存在する。いかなるシステムも規制制限に違反することは許されず、規制制限によって許される場合、あるシステムが他のシステムの標準的な帯域計画及びPSDマスクに違反することは可能である。
【0039】
これらのPSDマスクは、以下の目的のために必要である。
− 遠端漏話(FEXT)レベルを制限し、その結果、近隣回線上の通信を保護する(例えば、同じか又はその他のDSLタイプ、POTS、ISDN)。
− 送信帯域と受信帯域がオーバラップしている時に近端漏話(NEXT)レベルを制限する(エコー消去システムの共通問題並びに異なるシステムが同じケーブル・バインダで混合される場合)。
− 受信帯域内に漏れる送信帯域からの相互変調積及びサイドローブなどの帯域外輻射を制限する(主に周波数分割二重システムの場合)。
【0040】
DSL技術の場合、PSD制限マスクは、送信帯域と受信帯域の両方について最大PSDを指定する(スペクトル漏れ)。このマスクは、xTU−R及びxTU−O側について別個のものである。既存のADSL SELTツールは中央局(CO)配備を予定しており、フラットPSDによって測定及び分析が単純化されるので、典型的に約−40dBm/HzでフラットPSDを使用する。
【0041】
このような信号は、アップストリーム(阻止帯)に関してCO側ADSL PSD制限マスクに違反し、近隣回線のアップストリームでビット・エラーを引き起こす可能性がある。しかし、このスペクトルを使用するシステムが他にも存在するが、この手法は必ず実行可能であるわけではなく、より高い周波数の場合、例えば、US0以外のVDSL2アップストリーム帯域の場合、この手法は確かに実行不能であるので、これは依然として規制制限により許可される可能性がある。
【0042】
通信受信機のダイナミックレンジはアナログデジタル変換器内の有効ビット数によって制限されるので、ダイナミックレンジを最も良く利用するレベルに入力信号を適合させるために自動利得制御(AGC)が使用される場合が多い。
【0043】
時間分解能は測定帯域幅に反比例し、これは、高い分解能を達成するためには、大きい帯域幅について測定を実行しなければならないことを意味する。しかし、時間領域分析に広帯域信号を使用する場合、周波数領域、即ち、帯域内の非測定周波数にギャップがないことが重要である。このようなギャップは、時間領域で正弦関数によるたたみ込みに変換する長方形の窓による乗算のように見える可能性がある(sinc(x)≡sin(nx)/(nx))。このようなたたみ込みは、正弦関数の高いサイドローブ・レベルによる過剰な「リンギング」を引き起こし、強いエコーによるサイドローブはより弱いエコーの主ローブを隠す可能性がある。ギャップは別として、周波数領域における任意のタイプのステップ又は急激な傾斜の変化は、同様の結果を引き起こすであろう。
【0044】
例えば、VDSL2における問題は、伝送帯域が受信帯域によって分離された複数の帯域に分割されることである(伝送ギャップ)。典型的なVDSL2トランシーバは17〜30MHzの帯域幅に対応可能であるが、例えば、FDR単一端線路試験(SELT)をVDSL2 DSLAM内の第1のダウンストリーム帯域(DS1)のみに制限することは、通常、3MHz未満の測定帯域幅を意味することになり、即ち、2.2MHzをあまり大きく超えない周波数がADLS2+に使用可能になる。達成された分解能は、この場合、達成可能な分解能の20%未満になる(3MHz/17MHz)。DS1の代わりに他のダウンストリーム帯域(例えば、DS2、DS3)を使用すると、使用した帯域がより広い場合、わずかに良好な時間分解能が得られるが、その改善は下限に近いものであり、高周波により減衰が増加し、結果としてSNRの低減に至る。また、FDR測定結果の時間領域分析の際に複数のダウンストリーム帯域を同時に使用することは、上述の周波数ギャップのために些細なことではない。
【0045】
(しかし、例えば、伝送路(障害あり/障害なし)のモデル内のパラメータを測定済み周波数帯の測定結果に適合させることなど、周波数領域手法は依然として使用することができるであろう。)
【0046】
もう1つの問題は、複数の測定を連結することにより広帯域FDRエコー測定を実行すると、異なるAGC設定を受信機内で適用することができ、結果として、AGC利得ステップが完全に分かっていない場合に連結した信号内に不連続が発生する。これにより、通常はそれほど厳しくない場合でも、周波数領域ギャップと同様の結果が発生することになる。
【0047】
これらの問題は、使用可能なスペクトルの異なる(オーバラップするか又は隣接する)部分を使用し、適用可能なPSD制限に違反しないPSDレベルを使用して、伝送に使用する予定のない帯域についても複数のFDRエコー測定を実行することによって解決することができる。次に、これらの測定は、帯域エッジで連続エコーを保証するために適切にスケーリングされ、時間領域で高い分解能及び低いサイドローブ・レベルで広帯域エコー測定を形成するように連結される。必要であれば、SNRを改善するために、反復測定が実行され、平均される。
【0048】
モデムは受信帯域又は予定の伝送帯域の外側のその他の帯域で伝送することになっていないが、上述の通り、送信帯域(通過帯域)からのスペクトル漏れのために、これらの帯域(阻止帯)で特定の伝送PSDレベルが許可されなければならない。伝送PSDが制限以下に保持される場合、近隣回線を妨害せずに受信帯域で伝送することが可能でなければならない。当然のことながら、SNRは典型的に、送信帯域の場合よりかなり低くなる。
【0049】
VDSL2内の予定の伝送帯域の外側のPSD制限は、典型的に約−100dBm/Hzであり、時にはかなり低くなるが、十分に長い測定時間により、依然として有用なエコーを獲得することができる。
【0050】
一例として、図1はVDSL2帯域計画B7−9を示している[G.993.2、改正1]。
【0051】
これは、3つのダウンストリーム帯域(DS1〜DS3)と4つのアップストリーム帯域(US0〜US3)を有するが、使用した周波数スケール用としては狭すぎるので、最低帯域(US0:25〜138kHz)は同図には示されていない。
【0052】
最も広い伝送帯域はDS1であり、これは約3MHzの幅がある。
【0053】
いくつかのADSL SELT実現例では、現在、すでに、ダウンストリーム周波数(例えば、−40dBm/Hz)の場合と同じフラットPSDを有するADSLアップストリーム周波数で伝送している。これは、オペレータが通常、これらの周波数で漏話を発生するISDN及びSHDSLなどの他のシステムを有し、漏話結合が低いので、それらが実際にADSLダウンストリームPSDマスクに違反するが、何らかの通信ネットワークでは可能であることを意味する。しかし、この手法は必ず実行可能であるわけではなく、より高い周波数の場合、例えば、US0以外のVDSL2アップストリーム帯域の場合、この手法は確かに実行不能である。
【0054】
本発明では、送信帯域について通常のFDRエコー測定を実行する時の周波数のギャップは、スペクトル漏れについて予定されるPSD制限を使用して、受信帯域についてもエコー測定を実行することにより、軽減することができる。原則として、送信帯域及び受信帯域は(例えば、阻止帯域より通過帯域の方が出力がかなり大きく、例えば、数桁高い、単一試験信号により)同時に測定することができるが、トランシーバのダイナミックレンジを最も良く利用するために(しかも、送信信号と近隣帯域からのスペクトル漏れの組み合わせにより、受信帯域PSDマスクに違反しないために)、好ましくは受信帯域測定と送信帯域測定が個別に実行される。また、同時測定の場合、より強い通過帯域信号からのスペクトル漏れが阻止帯内のより弱い信号に干渉し、すでに低いSNRをさらに低減することになる。
【0055】
この一例は図2に示されており、同図はオーバラップしていないが隣接する帯域におけるエコー測定を示している。ここでは、1つの阻止帯と1つの通過帯域が測定される。図示の例では、−100dBm/HzのPSDですべての周波数について測定し、次に通過帯域内でより高いPSDでもう一度測定することも可能であるだろう。
【0056】
本発明によって達成された分解能の増強を示すために、図3に示すように、xTUから50メートルのところに不良ケーブル・スプライス(2オームの直列抵抗)がある長さ500メートルのETSI0.5mmケーブルについてFDR SELT測定によるシミュレーションを実行した。
【0057】
また、図3は、送信信号(T)と、受信反射(Ri)の一部を示す信号グラフも示している。
【0058】
周波数領域エコーU(f)は以下のように計算される。
【数1】
ここで、R(f)は受信信号であり、T(f)は送信信号である。受信信号R(f)を送信信号T(f)で割ることにより、エコーは原則として、使用するPSDに影響されず、このため、図2の大きいPSD差は自動的に補償される。図3に示されているように、受信信号は、送信機から受信機への移動経路に応じて異なる遅延を備えたいくつかの異なる成分Ri(f)の合計である。さらに、T(f)は送信PSDレベルを含むので、その結果のエコーは理想的には、SNRとは別に、使用するPSD曲線とは無関係でなければならず、これはPSDに比例することになる。次に、較正したエコー応答又は入力反射減衰量S11(f)を得るために、未較正のエコー周波数応答U(f)はトランシーバ内の任意の(直線)ひずみについて訂正される。この較正手順は、WO2004/100512A1(米国特許第7,069,165号、欧州特許第1625735号)にすでに記載されているので、ここでは繰り返さない。さらに、時間領域エコー応答S11(t)を得るために、例えば、カイザー窓(Kaiser window)などの適切な窓関数による乗算によって反射減衰量S11(f)をフィルタリングし、次に逆離散フーリエ変換を適用する。t=2d/v、d=距離、及びv=伝搬速度という代入を実行することにより、S11’(d)=S11(2d/v)というエコー対距離の関数について近似値を得る。
【0059】
エコー測定を実行する時に図1に示されているPSDを備えた帯域DS1におけるエコー測定を使用すると、DSLAMとケーブルとの間のインピーダンス不連続による強いエコーによって反射がかき消されるので、不良スプライスの存在を明らかにしないS11’(d)の結果が得られる。これは図4に示されており、同図は帯域DS1(約3MHz)のみを使用する、エコー対距離を示している。50メートルの距離にある不良スプライスは、近端エコーの主ローブ幅のために解決することができない。
【0060】
しかし、図1による17MHzの全帯域及びPSDレベルでエコー測定を実行すると、図5に示されているように、50メートルの距離にある不良スプライスが明確に分かる。同図は、受信帯域での測定を含み、17MHz帯域全体を使用する、エコー対距離を示している。
【0061】
500メートルのところにある遠端エコーは、広帯域信号の強い減衰のためにかなり弱くなっている。また、受信帯域でSNRがかなり低くなっているので、雑音フロアは劇帝に増加している。依然として、多帯域信号は、送信機に近い問題を検出するために非常に有用である。また、多帯域方法における雑音フロアは、フィルタリングによってある程度まで低下させることができる。このフィルタリングはすべての帯域に適用しなければならないわけではなく、必要な信号について最も雑音の多い帯域のみをフィルタリングすることは有益である可能性があり、このような帯域は典型的に受信帯域になるであろう。これにより、増加した分解能のほとんどを依然として保持しながら、雑音を低減することが可能になるであろう。
【0062】
また、受信帯域エコー測定が結果を本当に改善することを示すために、送信帯域間のギャップを一定値で充填しようと試み、例えば、このような帯域でエコーをゼロに設定しようと試みた。これは、雑音レベルを低く保持することになるが、その代わりに、図6に示されているように、サイドローブ・レベルが劇的に増加することになる。同図は、すべての送信帯域を使用し、受信帯域内でS11(f)をゼロに設定する、エコー対距離を示している。50メートルの距離にある不良スプライスは、0メートルのところにある近端エコーのサイドローブ・レベルが高いために見ることはできない。
【0063】
これまでの結果は、測定した帯域を連結する時に連続エコーを形成するために、異なる帯域で測定したエコーを適切にスケーリングするための何らかの方法又は理想的なAGCを仮定している。そうでない場合には、すべての帯域を測定したが、受信帯域のうちの2つの帯域のエコーに、AGC利得が完全に分かっているわけではないことに対応する乱数を掛けた、図7と同様の結果を得ることができる。この場合、サイドローブは、不良スプライスを見にくくすることになる。図7は、受信帯域での測定を含むが、一部の受信帯域でのAGCエラーを含み、17MHz帯域全体を使用する、エコー対距離を示している。50メートルのところにある不良スプライスはサイドローブと区別することができない。
【0064】
上記の例ではAGCエラーの問題が誇張されているが、この問題は、図1に示されているように、送信帯域と受信帯域との間の広範囲のPSDレベルで発生する可能性がないわけではない。これに対するいくつかの解決策としては以下のものを含む。
− オーバラップ(隣接帯域)なしで測定し、異なる帯域の適切なスケーリングにより、測定したエコー応答が連続していることを確認する。
− オーバラップ(隣接帯域)なしで測定し、多項式又はその他のデータ・モデルを使用して測定データを帯域エッジに適合させ、近隣帯域に向かって外挿して、1つ又は複数の周波数で帯域間の人為的なオーバラップを作成する。
− 測定した帯域が必ず少なくともわずかにオーバラップすることを確認し、このオーバラップを使用して、例えば、最小自乗適合により測定のスケーリングを調整する。
− 選択したAGCレベルと実際のAGCレベルとの間のエラーを改善するために、受信機内の異なるAGCレベルを較正する。
− 単一結果に連結しなければならないすべての測定について同じAGC設定を使用する(結果的に、受信機のダイナミックレンジの不正利用になる可能性がある)。
【0065】
この問題が周波数領域でどのように見えるかという一例は図8に示されており、DS3とUS3が接する14MHzのところに大きいステップがある。このステップはAGCの不十分な較正によって引き起こされたものである。
【0066】
未較正エコー応答(UER(f))が連続的になるようにUS3測定を調整した時の結果は図9で見ることができ、同図は、帯域間の滑らかな遷移、即ち、連続UER(f)を得るために、最後の帯域でエコー応答のレベルを調整することによって訂正されたステップを示している。
【0067】
オーバラップによる測定の変形例は、トランシーバが測定可能な範囲全体、例えば、17〜30MHzの全体を含む第1の測定を行うことである。(より小さい範囲は可能であるが、これは少なくとも部分的に1つの阻止帯と1つの通過帯域を含まなければならない。)
【0068】
第1の測定は好ましくは、最低許容PSDを有する帯域内で最大許容PSDであるフラットPSDレベルで行われる。即ち、この測定は、阻止帯許容PSD、典型的には−100dBm/Hzを使用する。
【0069】
次に、これらの帯域で許容されるPSDを使用して、通過帯域で追加の測定が行われる。
【0070】
次に、両方の測定に存在する周波数のうち、少なくとも一部について、好ましくはすべてについて、追加の測定結果と第1の測定結果の間で最良適合が得られるように、追加の測定のそれぞれをスケーリングする。
【0071】
最良適合は、最小自乗又はその他の何らかの方法によるものである可能性がある。
【0072】
含まれる周波数範囲全体に関する単一の連結したエコー周波数応答結果は、オーバラップの領域内にある低出力(例えば、低SNR)結果の部分を単純に廃棄し、次に残りのデータを連結することによって生成することができる。
【0073】
より精巧な方法は、含まれる周波数範囲全体に関する単一の連結したエコー周波数応答結果を作成するために、加重平均を使用して、好ましくは、高いSNRを有する結果、例えば、通過帯域測定について高い重みを使用して、第1及び第2の両方の測定に存在する周波数について両方の測定の結果を組み合わせることである。これは、雑音の影響を低減することになる。
【0074】
さらに、オーバラップの領域のエッジで不連続(例えば、雑音によって引き起こされたもの)を防止するために、オーバラップ領域のエッジ付近で別の方法で加重平均の重みを選択することができる。低出力測定へのエッジでは、その測定に関する重みは1に設定され(従って、高出力測定に関する重みはゼロに設定される)、次にその重みは、オーバラップの領域内に移動する時に徐々に(例えば、周波数につれて直線的に)SNRベースの重み付けへと変更される。
【0075】
高出力測定が低出力測定(例えば、それぞれの阻止帯測定が阻止帯とそれぞれの隣接する通過帯域のうちのわずかな部分とを含むケース)によって完全にオーバラップされない変形例では、オーバラップの領域は一方の側に低出力測定へのエッジを有し、もう一方の側に高出力測定へのエッジを有することになる。この場合、重みは好ましくは、低出力測定の場合にその測定へのエッジにおいて1に設定され、高出力測定の場合にその測定へのエッジにおいて1に設定される。いずれの場合も、重みは、オーバラップの領域内に移動する時に徐々にSNRベースの重み付けへと変更される。
【0076】
ある変形例では、重み付けは、それぞれ低出力及び高出力の結果についてエッジからエッジへ1−0から0−1へ周波数につれて直線的に変更される。即ち、低出力測定へのエッジではその測定が使用され、高出力測定へのエッジではその測定が使用され、それらの間では一方からもう一方への漸進的な変化が存在する。
【0077】
エコー周波数応答がこのように入手されると、それは、上記で説明した通り、例えば、逆フーリエ変換により回線インパルス応答を生成するために、さらに使用することができる。
【0078】
図10及び図11は、上記で開示されている測定方法の他の図を示している。
【0079】
図10のステップ100では、第1のFDR SELT測定が阻止帯で行われる。ステップ104では、測定結果から回線特性が推定される。回線特性は、エコー周波数応答である場合もあれば、回線インパルス応答又は障害の位置などのその他の何らかの特性である場合もある。
【0080】
図11のステップ110では、図10のステップ100のように、第1の測定が阻止帯で行われる。ステップ111では、1回又は複数回の追加の測定が行われる(阻止帯である場合もあれば、阻止帯ではない場合もある)。任意選択のステップ112では、相互に円滑に適合するように、測定結果が調整及び/又はスケーリングされる。ステップ113では、単一結果を形成するように、測定結果が連結される。ステップ114では、単一結果から回線特性が推定される。
【0081】
結果
この多帯域技法は、使用する帯域計画に応じて、約5〜10倍、VDSL2 FDR SELT適用例の時間分解能を改善することができるが、連結前に異なる帯域からのエコーを適切にスケーリングすることが条件である。典型的な分解能の改善は5〜6倍になるが、約3MHzのDS1帯域幅を備えた17MHz帯域計画で30MHzが可能なハードウェアを使用する場合、10という分解能の改善も適用できるであろう。改善された分解能により、伝送路上の問題、特に、SELTを実行するxTUに近い問題についてより詳細な情報が可能になる。これは、CO内のDSLAMから数十メートルの範囲内にコネクタ又はケーブル・スプライスが存在することが多いので、重要なことである。この接続が劣化する場合、本発明により、問題はかなり早期に見えるようになる。
【0082】
ダウンストリーム電力バックオフ(DPBO)機能はストリート・キャビネット及びその他の遠隔地内で適用しなければならないので、本発明の重要性は、このような位置でのSELTの場合にかなり高くなるであろう。DPBOは、遠隔地にある機器によって発生された過剰な漏話からCO内で発生するxDSL回線を保護するために必要である。DPBOで適用されたPSD成形により、送信帯域が効果的に狭くなり、その結果、分解能が低下するが、これは本発明によって軽減することができる。さらに、本発明は、xTU−O内のSELTに限定されず、例えば、xTU−R SELT(CPE SELT)で使用することもできる。
【0083】
このようなCPE SELTは、POTS/DSLスプリッタが存在するかどうかを調べ、スプリッタがまったくない場合に、顧客の構内の電話回線(家庭内配線)を特徴付けるためにも利用できるであろう。
【0084】
略語
ADSL 非対称デジタル加入者回線
AGC 自動利得制御
CO 中央局
CPE 契約者宅内設備
DPBO ダウンストリーム電力バックオフ
FEXT 遠端漏話
NEXT 近端漏話
PSD 電力スペクトル密度
FDR 周波数領域反射率測定法
SELT 単一端線路試験
SNR 信号対雑音比
VDSL2 超高速デジタル加入者回線
xTU xDSLトランシーバ・ユニット
xTU−O ループのオペレータ側にあるxTU(CO、キャビネットなど)
xTU−R ループの遠隔側にあるxTU(加入者側)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
通信伝送路の伝送特性を推定するための方法であって、
第1の周波数領域反射率測定SELT測定を行うステップであって、
前記伝送路に第1の信号を送信するステップと、
前記伝送路から結果の第2の信号を受信するステップと、
前記第1の信号と前記第2の信号との関係に依存する前記伝送路の特性を推定するステップと
を含む、前記第1のSELT測定を行うステップを含み、
前記第1のSELT測定がPSDマスクに従って又は実質的に従って第1の阻止帯で行われ、
前記第1の信号がDSL帯域計画の第1の阻止帯で送信され、前記第1の信号が、前記帯域計画に関連し、前記第1の信号の前記送信が行われる特定の設定に適用可能なPSDマスクに従って又は実質的に従ってPSDを有することを意味することを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記第1の阻止帯に隣接する第1の通過帯域で第2の周波数領域反射率測定SELT測定を行うステップであって、前記測定が前記伝送路に信号を送信することを含む、追加のステップ
を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記第1及び第2のSELT測定の結果を連結して、前記第1及び第2の測定の周波数範囲の全体又は少なくとも一部を含む連続周波数範囲について単一測定結果を形成する、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記第2のSELT測定のために送信される前記信号の出力が、前記第1のSELT測定のために送信される前記信号の出力より数桁分大きい、請求項2又は3記載の方法。
【請求項5】
前記第2の測定のために送信される前記信号のPSDが、前記帯域計画の前記PSDマスクに従って、それが送信される前記帯域について許容される最大値であるか、又は前記帯域計画の前記PSDマスクより低いPSDを指定する規制制限に従った最大値である、請求項3又は4記載の方法。
【請求項6】
個々の測定結果のエッジ領域が、連続連結測定を作成するために、隣接測定結果の対応するエッジ領域に適合する、請求項3、4、又は5記載の方法。
【請求項7】
前記適合が最小自乗適合を使用して行われる、請求項6記載の方法。
【請求項8】
それぞれの隣接測定結果に円滑に適合するように、それぞれの個々のSELT測定結果がスケーリングされる、請求項3乃至5のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記個々のSELT測定に関する倍率の設定が、最小自乗適合を使用して選択される、請求項8記載の方法。
【請求項10】
SELT測定がいくつかの阻止帯及びいくつかの通過帯域で行われ、単一測定結果を形成するために、前記測定結果が連結される、請求項1乃至9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記信号を送信するために使用される送信機が含むことができる周波数範囲の実質的に全体を含むように、数回のSELT測定が行われ、連結される、請求項1乃至10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
US0以外のVDSL2帯域で使用される、請求項1乃至11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記第1のSELT測定が、少なくとも1つの阻止帯及び少なくとも1つの通過帯域を部分的に又は全体的に含む周波数範囲を含む、請求項1乃至12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
1回又は複数回の追加のSELT測定が前記少なくとも1つの通過帯域で行われ、
両方の測定の前記測定結果に存在する周波数について、前記追加の測定結果と前記第1の測定結果との間の最良適合を達成するように、前記追加のSELT測定結果のそれぞれ1つがスケーリングされる、請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記通過帯域で送信される前記信号の前記一部の前記出力が前記阻止帯で送信される前記信号の前記一部の前記出力より数桁分大きい、請求項13記載の方法。
【請求項16】
請求項1記載の前記測定が請求項2の前記測定と同時に行われる、請求項2記載の方法。
【請求項1】
通信伝送路の伝送特性を推定するための方法であって、
第1の周波数領域反射率測定SELT測定を行うステップであって、
前記伝送路に第1の信号を送信するステップと、
前記伝送路から結果の第2の信号を受信するステップと、
前記第1の信号と前記第2の信号との関係に依存する前記伝送路の特性を推定するステップと
を含む、前記第1のSELT測定を行うステップを含み、
前記第1のSELT測定がPSDマスクに従って又は実質的に従って第1の阻止帯で行われ、
前記第1の信号がDSL帯域計画の第1の阻止帯で送信され、前記第1の信号が、前記帯域計画に関連し、前記第1の信号の前記送信が行われる特定の設定に適用可能なPSDマスクに従って又は実質的に従ってPSDを有することを意味することを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記第1の阻止帯に隣接する第1の通過帯域で第2の周波数領域反射率測定SELT測定を行うステップであって、前記測定が前記伝送路に信号を送信することを含む、追加のステップ
を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記第1及び第2のSELT測定の結果を連結して、前記第1及び第2の測定の周波数範囲の全体又は少なくとも一部を含む連続周波数範囲について単一測定結果を形成する、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記第2のSELT測定のために送信される前記信号の出力が、前記第1のSELT測定のために送信される前記信号の出力より数桁分大きい、請求項2又は3記載の方法。
【請求項5】
前記第2の測定のために送信される前記信号のPSDが、前記帯域計画の前記PSDマスクに従って、それが送信される前記帯域について許容される最大値であるか、又は前記帯域計画の前記PSDマスクより低いPSDを指定する規制制限に従った最大値である、請求項3又は4記載の方法。
【請求項6】
個々の測定結果のエッジ領域が、連続連結測定を作成するために、隣接測定結果の対応するエッジ領域に適合する、請求項3、4、又は5記載の方法。
【請求項7】
前記適合が最小自乗適合を使用して行われる、請求項6記載の方法。
【請求項8】
それぞれの隣接測定結果に円滑に適合するように、それぞれの個々のSELT測定結果がスケーリングされる、請求項3乃至5のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記個々のSELT測定に関する倍率の設定が、最小自乗適合を使用して選択される、請求項8記載の方法。
【請求項10】
SELT測定がいくつかの阻止帯及びいくつかの通過帯域で行われ、単一測定結果を形成するために、前記測定結果が連結される、請求項1乃至9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記信号を送信するために使用される送信機が含むことができる周波数範囲の実質的に全体を含むように、数回のSELT測定が行われ、連結される、請求項1乃至10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
US0以外のVDSL2帯域で使用される、請求項1乃至11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記第1のSELT測定が、少なくとも1つの阻止帯及び少なくとも1つの通過帯域を部分的に又は全体的に含む周波数範囲を含む、請求項1乃至12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
1回又は複数回の追加のSELT測定が前記少なくとも1つの通過帯域で行われ、
両方の測定の前記測定結果に存在する周波数について、前記追加の測定結果と前記第1の測定結果との間の最良適合を達成するように、前記追加のSELT測定結果のそれぞれ1つがスケーリングされる、請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記通過帯域で送信される前記信号の前記一部の前記出力が前記阻止帯で送信される前記信号の前記一部の前記出力より数桁分大きい、請求項13記載の方法。
【請求項16】
請求項1記載の前記測定が請求項2の前記測定と同時に行われる、請求項2記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公表番号】特表2012−510757(P2012−510757A)
【公表日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−538591(P2011−538591)
【出願日】平成21年11月27日(2009.11.27)
【国際出願番号】PCT/SE2009/051349
【国際公開番号】WO2010/064977
【国際公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【出願人】(598036300)テレフオンアクチーボラゲット エル エム エリクソン(パブル) (2,266)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年11月27日(2009.11.27)
【国際出願番号】PCT/SE2009/051349
【国際公開番号】WO2010/064977
【国際公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【出願人】(598036300)テレフオンアクチーボラゲット エル エム エリクソン(パブル) (2,266)
【Fターム(参考)】
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