説明

伸びフランジ性および耐疲労特性に優れた高強度熱延鋼板およびその製造方法

【課題】引張強さ:780MPa以上の高強度と、優れた伸びフランジ性と優れた耐疲労特性を兼備する高強度熱延鋼板を提供する。
【解決手段】C:0.05〜0.15%、Si:0.2〜1.2%、Mn:1.0〜2.0%、P:0.04%以下、S:0.005%以下、Ti:0.05〜0.15%、Al:0.005〜0.10%、N:0.007%以下を含む組成の鋼素材に、1150〜1350℃、好ましくは1200℃超1350℃以下、に加熱したのち、850〜950℃、好ましくは900℃超950℃以下の仕上温度で終了する熱間圧延を施し、該熱間圧延終了後、30℃/s以上の平均冷却速度で530℃まで冷却し、ついで100℃/s以上の平均冷却速度で、巻取温度:300〜500℃まで冷却し、該巻取温度で巻き取る。これにより、0.02%以上の固溶Tiを含み、平均粒径が5μm以下、好ましくは3.0μm超のベイナイト相単相の組織、または平均粒径が5μm以下、好ましくは3.0μm超のベイナイト相を面積率で90%以上と、該ベイナイト相以外の、平均粒径が3μm以下の第二相とからなる組織を有し、伸びフランジ性と耐疲労特性とを兼備する引張強さ:780MPa以上の高強度熱延鋼板となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の構造部品やトラックのフレーム等に好適な、高強度熱延鋼板に係り、とくに、伸びフランジ性と耐疲労特性の向上に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境保全の観点から、自動車の燃費向上が重要な課題となっている。このため、使用する材料を高強度化し、部材の薄肉化を図り、車体自体を軽量化しようとする動きが活発化している。これまで、自動車部品用として、引張強さ440MPa級、540MPa級の各種熱延鋼板が使用されているが、さらに最近では、780MPa級以上の高強度熱延鋼板の要望が高くなっている。一方、鋼板の高強度化に伴い、一般的には、成形性が低下する。そのため、自動車部品用として要求される伸びフランジ性(穴拡げ性ともいう)の向上に関し、種々の検討がなされている。
【0003】
例えば特許文献1には、C:0.05〜0.15%、Si:1.50%以下、Mn:0.5〜2.5%、P:0.035%以下、S:0.01%以下、Al:0.02〜0.15%、Ti:0.05〜0.2%を含む鋼スラブを、Ar3変態点以上の仕上げ温度で熱間圧延したのち、30℃/s以上の冷却速度で400〜550℃の温度域まで冷却しコイル状に巻取り、巻取り後のコイルを平均冷却速度で50〜400℃/hで300℃以下まで冷却し、60〜95体積%のベイナイトと、さらにフェライトまたはフェライトとマルテンサイトを含む組織からなる熱延鋼板とする、高強度熱延鋼板の製造方法が記載されている。特許文献1に記載された技術によれば、板厚2mm程度で、引張強さ:780MPa以上を有し、穴拡げ率60%以上となる、穴拡げ加工性に優れた高強度熱延鋼板が得られるとしている。
【0004】
また、特許文献2には、C:0.03〜0.25%、Si:2.0%以下、Mn:2.0%以下、P:0.1%以下、S:0.007%以下、Al:0.07%以下、Cr:1.0%以下を含み、{(Si+20P)/(Mn+Cr)}:0.6〜1.5を満足する組成と、フェライトと第2相からなり、第2相の硬さHv:200〜600、第2相の体積率:5〜40%、第2相の粒径:25μm以下で、フェライトの硬さと体積率の積と、第2相の硬さと体積率との積の和が特定範囲となる関係を満足する、高強度熱延鋼板が記載されている。特許文献2に記載された技術によれば、疲労強度と伸びフランジ性が共に優れた490MPaを超える高強度熱延鋼板が得られるとしている。
【0005】
また、特許文献3には、C:0.04〜0.15%、Si:0.05〜1.5%、Mn:0.5〜2.0%、P:0.06%以下、S:0.005%以下、Al:0.10%以下、Ti:0.05〜0.20%を含む鋼片を、800〜1000℃の仕上げ温度で熱間圧延したのち、55℃/s以上の冷却速度で冷却し、引続き500℃以下の温度域を120℃/s以上の冷却速度で核沸騰冷却となる条件で冷却し、350〜500℃で巻き取る、780MPa以上の引張強さを有する高強度熱延鋼板の製造方法が記載されている。特許文献3に記載された技術によれば、95%超のベイナイトと不可避的に生じる5%未満の他の相からなる組織を有し、加工後の伸びフランジ性に優れ、鋼板内材質変動が安定して小さい780MPa以上の引張強さを有する高強度熱延鋼板が得られるとしている。
【0006】
また、特許文献4には、C:0.05〜0.30%、Si:1.0%以下、Mn:1.5〜3.5%、P:0.02%以下、S:0.005%以下、Al:0.150%以下、N:0.0200%以下を含み、かつNb:0.003〜0.20%、Ti:0.005〜0.20%のいずれか1種または2種を含有する鋼スラブを、1200℃以下に加熱したのち、仕上圧延開始温度を950〜1050℃、仕上圧延終了温度を800℃以上とする熱間圧延を施し、圧延終了後2s以内に冷却を開始し、平均冷却速度20〜150℃/sで巻取温度まで連続的に冷却し、300〜550℃で巻き取る、伸びフランジ性に優れた高強度熱延鋼板の製造方法が記載されている。特許文献4に記載された技術で製造された熱延鋼板は、引張強さ780MPa以上の高強度で、平均粒径が3.0μm以下の微細ベイナイトを主体とする組織を有し、混粒がなく、粒径10μm超の粗大粒が存在しない組織であるため、伸びフランジ性に優れるとしている。
【0007】
また、特許文献5には、C:0.05〜0.20%、Si:0.05〜0.50%、Mn:1.0〜3.5%、P:0.05%以下、S:0.01%以下、Nb:0.005〜0.30%、Ti:0.001〜0.100%、Cr:0.01〜1.0%、Al:0.1%以下を含み、かつ0.05≦(%Si+%P)/(%Cr+%Ti+%Nb+%Mn)≦0.5 の関係を満たして含有する鋼スラブを、鋳造後、直ちに又は一旦冷却して、1100〜1300℃に加熱したのち、仕上圧延終了温度を950〜800℃として熱間圧延し、圧延終了後0.5s以内に冷却を開始して、30℃/s以上の冷却速度で冷却を行い、500〜300℃で巻き取る、加工性に優れた超高強度熱延鋼判の製造方法が記載されている。特許文献5に記載された技術で製造された熱延鋼板は、引張強さ980MPa以上の高強度で、体積分率で60%以上90%未満のベイナイトを主相とし、パーライト、フェライト、残留オーステナイト、マルテンサイトのうちの少なくとも1種を第二相とする組織を有し、しかもベイナイト相の平均粒径が4μm未満である組織を有し、加工性に優れるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−274318号公報
【特許文献2】特開平4−329848号公報
【特許文献3】特開2009−280900号公報
【特許文献4】特開2000−109951号公報
【特許文献5】特開2000−282175号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載された技術は、Pのフェライト粒界への偏析を低減することにより、靭性を向上させ、すなわち破面遷移温度を低くして伸びフランジ性を向上させている。しかしながら、特許文献1に記載された技術ではフェライトを含まない場合、あるいはフェライトが極めて少ない場合には、伸びフランジ性の向上が極めて困難であるという問題があった。また、特許文献2に記載された技術では、軟質なフェライト相を60%以上含むため、最近の780MPa以上という高強度化要求に対応する高強度を安定して確保できず、鋼板強度が不足するという問題があった。また、特許文献3に記載された技術では、引張強さ:780MPa以上という高強度は確保できるが、ベイナイト相の組織制御が不十分であるために、自動車部品用として十分な耐疲労特性を具備するまでに至っていないという問題があった。
【0010】
また、特許文献4に記載された技術では、極めて微細なベイナイト組織が得られるが、スラブ加熱中にNb、Tiを未固溶状態のままで残存するため、固溶Ti、Nb量を十分に確保することができず、耐疲労特性が不足する場合があった。また、特許文献5に記載された技術では、ベイナイト相以外の組織が、少なくとも10%超存在するため、組織の均一化が不十分で、伸びフランジ性が不足する場合があった。
【0011】
本発明は、かかる従来技術の問題を解決し、引張強さ:780MPa以上という高強度を有し、さらに優れた伸びフランジ性と優れた耐疲労特性を兼備する高強度熱延鋼板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記した目的を達成するために、引張強さ:780MPa以上という高強度を維持した状態で、伸びフランジ性と疲労特性に及ぼす各種要因について鋭意研究した。その結果、平均粒径5μm以下の微細なベイナイト相の単相組織、またはこのような微細なベイナイト相を主相とし、第二相として、平均粒径3μm以下の微細な、パーライト、マルテンサイト、残留オーステナイトのうちのいずれか、あるいはそれらを混合して分散させた、組織としたうえで、固溶Tiを0.02%以上残存させることにより、引張強さ:780MPa以上という高強度を維持したまま、伸びフランジ性に加えて耐疲労特性が顕著に向上することを新規に見出した。
【0013】
微細なベイナイト相としたうえで、固溶Tiを存在させることにより、伸びフランジ性に加えて耐疲労特性が向上する機構について、現在までのところ必ずしも明確になってはいないが、本発明者らは次のように考えている。
所定量以上の固溶Tiが存在することにより、伸びフランジ加工時に発生したクラックの先端、あるいは疲労クラックの先端の応力・歪の集中した領域に、応力誘起あるいは歪誘起により、TiC、あるいはTiとCのクラスターが形成しやすくなり、それらの形成によりクラックの進展が抑制されると考えられる。これにより、伸びフランジ性に加えて耐疲労特性が顕著に向上するものと考えている。
【0014】
本発明は、かかる知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨は次のとおりである。
(1)質量%で、C:0.05〜0.15%、Si:0.2〜1.2%、Mn:1.0〜2.0%、P:0.04%以下、S:0.005%以下、Ti:0.05〜0.15%、Al:0.005〜0.10%、N:0.007%以下を含み、固溶Tiが0.02%以上で、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成と、さらに平均粒径が5μm以下のベイナイト相単相からなる組織とを有することを特徴とする伸びフランジ性および耐疲労特性に優れることを特徴とする高強度熱延鋼板。
【0015】
(2)(1)において、前記平均粒径が5μm以下に代えて、平均粒径が3.0超〜5μmとすることを特徴とする高強度熱延鋼板。
(3)(1)において、前記ベイナイト相単相からなる組織に代えて、組織全体に対する面積率で90%以上のベイナイト相と、該ベイナイト相以外の第二相とからなり、前記ベイナイト相の平均粒径が5μm以下、前記第二相の平均粒径が3μm以下である組織とすることを特徴とする高強度熱延鋼板。
【0016】
(4)(3)において、前記ベイナイト相の平均粒径が5μm以下に代えて、前記ベイナイト相の平均粒径が3.0超〜5μmとすることを特徴とする高強度熱延鋼板。
(5)(1)ないし(4)のいずれかにおいて、前記組成に加えてさらに、質量%で、Sb:0.001〜0.020%を含有する組成とすることを特徴とする高強度熱延鋼板。
(6)(1)ないし(5)のいずれかにおいて、前記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:0.05〜0.20%、Ni:0.05〜0.50%、Mo:0.05〜0.50%、Cr:0.05〜0.50%、B:0.0005〜0.0050%、Nb:0.01〜0.10%、V:0.01〜0.20%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成とすることを特徴とする高強度熱延鋼板。
【0017】
(7)(1)ないし(6)のいずれかにおいて、前記組成に加えてさらに、質量%で、Ca:0.0001〜0.0050%、REM:0.0005〜0.0100%のうちから選ばれた1種または2種を含有する組成とすることを特徴とする高強度熱延鋼板。
(8)質量%で、C:0.05〜0.15%、Si:0.2〜1.2%、Mn:1.0〜2.0%、P:0.04%以下、S:0.005%以下、Ti:0.05〜0.15%、Al:0.005〜0.10%、N:0.007%以下を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する鋼素材に、熱間圧延を施し熱延板とするにあたり、前記鋼素材を1150〜1350℃に加熱したのち、前記熱間圧延を、850〜950℃の仕上温度で終了する熱間圧延とし、該熱間圧延終了後、30℃/s以上の平均冷却速度で530℃まで冷却し、ついで100℃/s以上の平均冷却速度で、巻取温度:300〜500℃まで冷却し、該巻取温度で巻き取ることを特徴とする伸びフランジ性および耐疲労特性に優れた高強度熱延鋼板の製造方法。
【0018】
(9)(8)において、前記鋼素材を1150〜1350℃に加熱したのち、前記熱間圧延を、850〜950℃の仕上温度で終了する熱間圧延に代えて、前記鋼素材を1200℃超1350℃以下に加熱したのち、前記熱間圧延を、900℃超950℃以下の仕上温度で終了する熱間圧延とすることを特徴とする高強度熱延鋼板の製造方法。
(10)(8)または(9)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、Sb:0.001〜0.020%を含有する組成とすることを特徴とする高強度熱延鋼板の製造方法。
【0019】
(11)(8)ないし(10)のいずれかにおいて、前記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:0.05〜0.20%、Ni:0.05〜0.50%、Mo:0.05〜0.50%、Cr:0.05〜0.50%、B:0.0005〜0.0050%、Nb:0.01〜0.10%、V:0.01〜0.20%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成とすることを特徴とする高強度熱延鋼板の製造方法。
(12)(8)ないし(11)のいずれかにおいて、前記組成に加えてさらに、質量%で、Ca:0.0001〜0.0050%、REM:0.0005〜0.0100%のうちから選ばれた1種または2種を含有する組成とすることを特徴とする高強度熱延鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、引張強さ:780MPa以上という高強度を維持したまま、伸びフランジ性に加えて耐疲労特性が向上した熱延鋼板を、容易に製造でき、産業上格段の効果を奏する。また、本発明になる高強度熱延鋼板を自動車の構造部品や、トラックのフレーム等に適用すれば、安全性を確保しつつ車体重量を軽減でき、環境負荷を低減することが可能となるという効果もある。
【発明を実施するための形態】
【0021】
まず、本発明鋼板の組成限定の理由について説明する。以下、とくに断わらない限り質量%は単に%で記す。
C:0.05〜0.15%
Cは、鋼の強度を増加させ、また、ベイナイトの生成を促進する元素であり、また、Tiと結合してTi炭化物として析出強化にも寄与する。このような効果を得るためには、0.05%以上含有する必要がある。一方、0.15%を超えて含有すると、溶接性が低下する。このため、Cは0.05〜0.15%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.07〜0.12%である。
【0022】
Si:0.2〜1.2%
Siは、固溶して鋼の強度の増加に寄与する元素であり、このような効果を得るためには、0.2%以上の含有を必要とする。一方、1.2%を超える含有は、鋼板の表面性状を著しく低下させ、化成処理性や耐食性の低下に繋がる。このため、Siは0.2〜1.2%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.3〜0.9%である。
【0023】
Mn:1.0〜2.0%
Mnは、固溶して鋼の強度を増加させるとともに、焼入れ性向上を介してベイナイトの生成を促進する元素である。このような効果を得るためには、1.0%以上の含有を必要とする。一方、2.0%を超える含有は、中心偏析を助長し、鋼板の成形性を低下させる。このため、Mnは1.0〜2.0%の範囲に限定した。なお、好ましくは1.2〜1.8%である。
【0024】
P:0.04%以下
Pは、固溶して鋼の強度を増加させる作用を有するが、粒界、とくに旧オーステナイト粒界に偏析し、低温靭性や加工性の低下を招く。このため、本発明ではPは極力低減することが望ましいが、0.04%までの含有は許容できる。なお、好ましくは0.03%以下である。
【0025】
S:0.005%以下
Sは、MnやTiと結合し硫化物を形成して、鋼板の加工性を低下させる。このため、Sは極力低減することが望ましいが、0.005%までの含有は許容できる。なお、好ましくは0.003%以下、さらに好ましくは0.001%以下である。
Ti:0.05〜0.15%、固溶Ti:0.02%以上
Tiは、炭化物を形成し、析出強化により鋼の強度増加に寄与する元素である。また、Tiは、オーステナイト粒の微細化にも寄与し、最終的に得られる鋼板組織を微細化し、伸びフランジ性、耐疲労特性の向上に寄与する。このような効果を得るためには0.05%以上の含有を必要とする。一方、0.15%を超える過剰な含有は、上記した効果が飽和するうえ、粗大な析出物の増加を招き、穴拡げ加工性や耐疲労特性の低下を招く。このため、Tiは0.05〜0.15%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.06〜0.12%である。
【0026】
また、添加したTiの一部を、固溶Tiとして0.02%以上存在させることにより、伸びフランジ性や耐疲労特性の一層の向上が期待できる。所定量以上の固溶Tiが存在することにより、伸びフランジ加工時に発生したクラックの先端、あるいは疲労クラックの先端の応力・歪の集中した領域に、応力誘起または歪誘起により、TiC、あるいはTiとCのクラスターが形成しやすくなり、それらの形成によりクラックの進展が抑制されると考えられる。
【0027】
固溶Tiを0.02%以上安定して確保するためには、0.05%以上のTi含有に加えて、C含有量との関係で、(Ti/48)/(C/12)を0.15以上の範囲に調整することが好ましい。ここで、Ti、Cはそれぞれの含有量(質量%)である。Tiに対してCが多すぎ、(Ti/48)/(C/12)が0.15未満では、TiがTiCとして析出しやすくなり固溶Tiの確保が難しくなる。このため、(Ti/48)/(C/12)は、0.15以上とすることが好ましい。なお、Tiに対してCが少なすぎ、(Ti/48)/(C/12)が0.60を超えると、固溶Tiは確保しやすくなるが、固溶Cが減少して、ベイナイト相の強度が低下し、所望の強度を確保することが難しくなるため、より好ましくは0.15〜0.60であり、さらに好ましくは、(Ti/48)/(C/12)は0.18〜0.35である。
【0028】
また、固溶Tiが0.02%未満では、加工時に発生したクラックや疲労クラックの進展を抑制する効果が低減し、所望の伸びフランジ性、耐疲労特性の向上が望めない。なお、固溶Tiが0.10%を超えて多量に存在すると、焼入れ性が大きくなりすぎて、マルテンサイト相が生成しやすくなり、加工性が低下するため、固溶Tiは0.10%以下とすることが好ましい。
【0029】
Al:0.005〜0.10%
Alは、脱酸剤として作用し、鋼の清浄度を向上させるのに、有効な元素である。このような効果を得るためには0.005%以上含有する必要がある。一方、0.10%を超える多量の含有は、酸化物系介在物の著しい増加を招き、鋼板の疵発生の原因となる。このため、Alが0.005〜0.10%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.03〜0.07%である。
【0030】
N:0.007%以下
Nは、Ti等の窒化物形成元素と結合し、窒化物として析出するが、とくにTiとは高温で結合し、粗大な窒化物となりやすく、伸びフランジ加工時や疲労試験時にクラックの起点となりやすく、本発明ではできるだけ低減することが望ましい。このため、本発明では、Nは0.007%以下に限定した。なお、好ましくは0.005%以下、より好ましくは0.003%以下である。
【0031】
上記した成分が基本の成分であるが、これら基本の成分に加えてさらに、選択元素として、必要に応じて、Sb:0.001〜0.020%、および/または、Cu:0.05〜0.20%、Ni:0.05〜0.50%、Mo:0.05〜0.50%、Cr:0.05〜0.50%、B:0.0005〜0.0050%、Nb:0.01〜0.10%、V:0.01〜0.20%のうちから選ばれた1種または2種以上、および/または、Ca:0.0001〜0.0050%、REM:0.0005〜0.0100%のうちから選ばれた1種または2種、を含有してもよい。
【0032】
Sb:0.001〜0.020%
Sbは、熱間圧延のための加熱時に、表層に濃化する傾向を有する元素であり、表面近傍におけるSi、Mn等の酸化物の生成を抑制し、鋼板の表面性状を改善し、表面からの疲労クラックの生成を抑制し、耐疲労特性の向上に寄与する。このような効果を得るためには0.001%以上含有する必要があるが、0.020%を超えて含有しても、効果が飽和し、経済的に不利となる。このため、含有する場合には、Sbは0.001〜0.020%の範囲に限定することが好ましい、なお、より好ましくは0.003〜0.010%である。
【0033】
Cu:0.05〜0.20%、Ni:0.05〜0.50%、Mo:0.05〜0.50%、Cr:0.05〜0.50%、B:0.0005〜0.0050%、Nb:0.01〜0.10%、V:0.01〜0.20%のうちから選ばれた1種または2種以上
Cu、Ni、Mo、Cr、B、Nb、Vはいずれも、鋼板の高強度化に寄与する元素であり、必要に応じて選択して含有できる。
【0034】
Cuは、固溶して鋼の強度を増加させるとともに、焼入れ性向上を介してベイナイト相を形成しやすくする。このような効果を得るために、0.05%以上含有することが好ましいが、0.20%を超える含有は、表面性状の低下を招く。このため、含有する場合には、Cuは0.05〜0.20%の範囲に限定することが好ましい。
Niは、固溶して鋼の強度を増加させるとともに、焼入れ性向上を介してベイナイト相を形成しやすくする。このような効果を得るために、0.05%以上含有することが好ましいが、0.50%を超える含有は、マルテンサイト相が生成しやすくなり、加工性が低下する。このため、含有する場合は、Niは0.05〜0.50%の範囲に限定することが好ましい。
Moは、炭化物の形成による析出強化や、焼入れ性向上を介して鋼の強度を増加させるとともに、ベイナイト相を形成しやすくし、伸びフランジ性や、耐疲労特性を向上させる。このような効果を得るために、0.05%以上含有することが好ましいが、0.50%を超えて含有すると、マルテンサイト相が生成しやすくなり、加工性が低下する。このため、含有する場合には、Moは0.05〜0.50%の範囲に限定することが好ましい。
【0035】
Crは、焼入れ性向上を介して鋼の強度を増加させるとともに、ベイナイト相を形成しやすくし、伸びフランジ性や、耐疲労特性を向上させる。このような効果を得るために、0.05%以上含有することが好ましいが、0.50%を超えて含有すると、マルテンサイト相が生成しやすくなり、加工性が低下する。このため、含有する場合には、Crは0.05〜0.50%の範囲に限定することが好ましい。
【0036】
Bは、オーステナイト(γ)粒界に偏析し、粒界からのフェライト生成や成長を抑制し、焼入れ性向上を介して鋼の強度増加に寄与する元素である。このような効果を得るためには、0.0005%以上含有することが好ましいが、0.0050%を超える含有は、加工性が低下する。このため、含有する場合には、Bは0.0005〜0.0050%の範囲に限定することが好ましい。
【0037】
Nbは、炭化物や窒化物の形成を介して、鋼の強度増加に寄与する元素である。このような効果を得るためには、0.01%以上含有することが好ましいが、0.10%を超える含有は、延性や穴拡げ加工性を低下させる。このため、含有する場合には、Nbは0.01〜0.10%の範囲に限定することが好ましい。
Vは、炭化物や窒化物の形成を介して、鋼の強度増加に寄与する元素である。このような効果を得るためには、0.01%以上含有することが好ましいが、0.20%を超える含有は、延性や穴拡げ加工性を低下させる。このため、含有する場合には、Vは0.01〜0.20%の範囲に限定することが好ましい。
【0038】
Ca:0.0001〜0.0050%、REM:0.0005〜0.0100%のうちから選ばれた1種または2種
Ca、REMはいずれも、硫化物の形態を球状に制御し、伸びフランジ性を向上させる作用を有する元素であり、必要に応じて含有できる。このような効果を得るためには、Ca:0.0001%以上、REM:0.0005%以上、それぞれ含有することが好ましいが、Ca:0.0050%、REM:0.0100%を超える多量の含有は、介在物等の増加を招き、表面欠陥、内部欠陥の多発を生じ易くする。このため、含有する場合には、Ca:0.0001〜0.0050%、REM:0.0005〜0.0100%の範囲にそれぞれ限定することが好ましい。
【0039】
上記した成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物である。
つぎに、本発明鋼板の組織限定理由について説明する。
本発明鋼板の組織は、微細なベイナイト相単相とする。あるいはベイナイト単相組織に代えて、組織全体に対する面積率で90%以上の微細なベイナイト相を主相とし、主相と微細な第二相からなる組織とすることが好ましい。本発明でいう微細なベイナイト相とは、平均粒径が5μm以下のベイナイト相をいう。なお、好ましくは、ベイナイト相の平均粒径は3.0μm超5μm以下である。これにより、引張強さ:780MPa以上の高強度と、伸びフランジ性、耐疲労特性とを兼備する熱延鋼板とすることができる。
【0040】
主相と第二相からなる組織の場合には、主相としての微細なベイナイト相が90%未満では、所望の高強度と良好な伸びフランジ性を安定して確保できない。また、ベイナイト相の平均粒径が5μmを超えて大きくなると、優れた伸びフランジ性と優れた耐疲労特性とを兼備できなくなる。このようなことから、主相である微細なベイナイト相は、90%以上、平均粒径5μm以下に限定した。なお、ベイナイト相の平均粒径は、3.0μm超5μm以下とすることが好ましい。ベイナイト相の平均粒径を、3.0μm超5μm以下とすることにより、平均粒径が3.0μm以下である場合に比べて、疲労亀裂がより大きく迂回して進展するため、疲労亀裂の進展速度が小さくなり、耐疲労特性がさらに向上する。なお、好ましくはベイナイト相は95%以上、さらに好ましくはベイナイト相単相である。
【0041】
主相以外の第二相としては、マルテンサイト、パーライト、残留オーステナイトのいずれか、あるいはそれらの混合を含んでも良い。本発明では、第二相は、平均粒径が3μm以下の微細な組織とする。第二相の平均粒径が3μmを超えて大きくなると、主相と第二相との界面からクラックが発生しやすくなり、伸びフランジ性や耐疲労特性が低下する。このため、第二相の平均粒径は3μm以下に限定した。なお、好ましくは、第二相の平均粒径は2μm以下である。また、微細な第二相は、組織全体に対する面積率で10%以下であるが、さらに伸びフランジ性を向上させるうえでは5%以下に限定することがさらに好ましい。
【0042】
なお、第二相としては、マルテンサイト、パーライト、残留オーステナイトのいずれか、あるいはそれらの混合とすることが好ましいが、第二相には、上記した相以外に組織全体に対する面積率で3%以下であれば、フェライト、セメンタイトが存在してもよい。この場合も、上記した理由により、第二相の平均粒径は3μm以下の微細な組織とする。
つぎに、本発明鋼板の好ましい製造方法について説明する。
【0043】
本発明では、固溶Ti量以外、上記した組成を有する鋼素材を出発素材とする。
なお、鋼素材の製造方法はとくに限定する必要はなく、上記した組成を有する溶鋼を転炉や電気炉等で溶製し、好ましくは真空脱ガス炉にて二次精錬を行って、連続鋳造法等の鋳造方法で、スラブ等の鋼素材とする、常用の方法がいずれも適用可能である。
まず、鋼素材に、熱間圧延を施し熱延板とし、熱間圧延終了後、530℃までの前段冷却と、530℃〜巻取温度までの後段冷却を施し、コイル状に巻き取る。
熱間圧延のための加熱温度は、1150〜1350℃とする。
【0044】
鋼素材(スラブ)中では、Tiなどの炭化物、窒化物形成元素は、ほとんどが粗大な炭化物、窒化物として存在している。固溶Tiや、微細な析出物として、熱延鋼板の高強度化等に利用するために、これら粗大な炭化物、窒化物を一旦固溶させておくことが必要である。そのため、本発明では、鋼素材をまず1150℃以上に加熱する。一方、加熱温度を1350℃を超えて高温にすると、スケール発生量が多くなり、スケール噛み込み等により、表面品質が低下する。このため、鋼素材の加熱温度は1150〜1350℃の範囲に限定した。なお、好ましくは1200〜1300℃である。固溶Ti量を確実に確保するためには、鋼素材の加熱温度はより好ましくは1200℃超である。
【0045】
熱間圧延は、仕上温度を850〜950℃として熱間圧延を終了する圧延とする。
仕上温度が850℃未満では、フェライト+オーステナイトの二相域圧延となり、加工組織が残存することになるため、伸びフランジ性、耐疲労特性が低下する。一方、仕上温度が950℃を超えて高くなると、オーステナイト粒が成長し、冷却後得られる熱延板の組織が粗大化する。このようなことから、仕上温度は850〜950℃の範囲に限定した。なお、好ましくは880〜930℃である。また、仕上温度を900℃超とすることにより、オーステナイトの粒成長が顕著となり、焼入れ性が増大し、ベイナイト相の組織分率が増加し、かつ組織がより均一化して、伸びフランジ性がより一層向上する。これによりさらに、ベイナイトの平均粒径も3.0μm超5μm以下に調整しやすくなり、耐疲労特性も向上する。このようなことから、仕上温度を900℃超950℃以下とすることがより好ましい。
【0046】
熱間圧延終了後、ついで、前段冷却として、530℃までを30℃/s以上の平均冷却速度で冷却する。
熱間圧延終了から530℃までの冷却は、所望の微細なベイナイト組織を確保するために非常に重要となる。530℃までの平均冷却速度が30℃/s未満では、フェライトの生成が著しく進行したり、パーライトが生成したり、さらにはTiCの析出が著しく、所望の固溶Tiを確保できなくなり、伸びフランジ性と耐疲労特性が低下する。このため、熱間圧延終了後530℃までを、平均冷却速度30℃/s以上で冷却することに限定した。一方、530℃までの平均冷却速度が55℃/s以上となると、未再結晶オーステナイトからの変態が多くなり、圧延方向に伸長したフェライトやベイナイトが増加して加工性が低下しやすくなる。このため、この温度領域の平均冷却速度は、55℃/s未満とすることが好ましい。
【0047】
530℃まで冷却された熱延板はついで、後段冷却として、530℃〜巻取温度までの温度域を、100℃/s以上の平均冷却速度で急速冷却される。本発明では、この後段冷却(急速冷却)中にベイナイト変態させて、微細なベイナイト相を生成させ、かつ、平均粒径5μm以下の微細なベイナイト相とする。このような微細なベイナイト相単相とすることが、優れた伸びフランジ性や優れた耐疲労特性を兼備させるために好ましい。ベイナイト相単相とすることができなくとも、上記した平均冷却速度で冷却すれば、上記した微細なベイナイト相を主相とし、第二相を平均粒径3μm以下の微細な第二相とすることができる。このため、530℃から巻取温度までの冷却は、100℃/s以上の平均冷却速度での急冷とする。これにより、第二相の生成による、伸びフランジ性や耐疲労特性の低下を抑制できる。一方、530℃から巻取温度までの後段冷却の平均冷却速度が180℃/sを超えると、冷却速度の制御が難しくなる。このため、この後段冷却の平均冷却速度は100〜180℃/sに限定することが好ましい。なお、より好ましくは120℃/s以上である。
【0048】
巻取温度は、300〜500℃とする。
巻取温度が300℃未満では、マルテンサイトや残留オーステナイトの生成量が多くなりすぎて、微細なベイナイト相を100%(単相)、あるいは面積率で90%以上とすることが難しくなり、所望の組織を確保できず、伸びフランジ性、耐疲労特性が低下する。一方、巻取温度が500℃を超えて高くなると、パーライトが増加するために、伸びフランジ性と疲労特性が著しく低下する。このため、巻取温度は300〜500℃に限定した。なお、ベイナイト相の微細化という観点から、好ましくは350℃以上450℃以下である。
【0049】
なお、巻取り後、熱延板には、常法により酸洗を施して、スケールを除去してもよい。また、さらに調質圧延を施しても、あるいはさらに、溶融亜鉛めっき、電気亜鉛めっきや化成処理を施しても良い。
以下、実施例にしたがい、さらに本発明について説明する。
【実施例】
【0050】
表1に示す組成の鋼を転炉で溶製し、連続鋳造法によりスラブ(鋼素材)とした。ついで、これらの鋼素材に、表2に示す条件で加熱し、表2に示す仕上温度で圧延を終了する熱間圧延を行い、熱延板(板厚:6.0〜2.6mm)とし、熱間圧延終了後、これら熱延板に、表2に示す条件の前段冷却と後段冷却とを施し、表2に示す巻取温度で巻取った。なお、前段冷却は、熱間圧延終了後、仕上温度から530℃までの冷却であり、後段冷却は530℃から巻取温度までの冷却である。表中の冷却速度はそれぞれの冷却温度領域での平均冷却速度で示す。
【0051】
得られた熱延板を酸洗したのち、試験片を採取し、組織観察、固溶Ti量の測定、組織観察、引張試験、穴拡げ試験、疲労試験を実施した。なお、鋼板No.2(板厚:6.0mm)については、得られた熱延板から、酸洗を施さずに試験片を採取した。試験方法は次の通りとした。
(1)組織観察
得られた熱延板から、組織観察用試験片を採取し、圧延方向に平行な断面を研磨し、腐食液(3%ナイタール液)で腐食し組織を現出した。板厚1/4位置について走査型電子顕微鏡(倍率:3000倍)を用いて観察し、各3視野撮像し、画像処理により、各相の面積率(組織分率)を測定した。また、同じ走査型電子顕微鏡写真に、板厚方向に対して45°の傾きを有する長さ:80mmの直線を直交するように2本引き、該直線が、各相の各粒と交叉する線分の長さをそれぞれ測定して、得られた線分の長さの平均値を求め、各相(ベイナイト相、第二相)の平均粒径とした。
(2)固溶Ti量の測定
得られた熱延板から、分析用試験片(大きさ:50mm×100mm)を採取し、表面から板厚方向1/4までを機械研削にて削除し、電解用試験片とした。これら試験片を、10%AA系電解液(10vol%アセチルアセトン−1mass%塩化テトラメチルアンモニウム・メタノール)中で、電流密度20mA/cm2で定電流電解し、約0.2gを電解した。得られた電解液をろ過した後、ICP発光分光分析装置を用いて分析し、電解液中のTi量を測定した。得られた電解液中のTi量を電解重量で除して、固溶Ti量(質量%)とした。なお、電解重量は、電解後の電解用試験片を洗浄し,付着した析出物を取り除いた後に、重量を測定して、電解前の試験片重量から差し引くことにより、算出した。
(3)引張試験
得られた熱延板から、引張方向が圧延方向と直角方向となるように、JIS 5号試験片(GL:50mm)を採取し、JIS Z 2241に準拠して引張試験を行ない、引張特性(降伏強さYS、引張強さTS、伸びEl)を求めた。
(4)穴拡げ試験(伸びフランジ性評価試験)
得られた熱延板から、穴拡げ試験用試験片(大きさ:130×130mm)を採取し、鉄連規格JFST 1001に準じて、試験片中央に10mmφのポンチ穴を打抜いた後、該穴に60°円錐ポンチを押し上げるように挿入して、亀裂が板厚を貫通した時点での穴径dmmをもとめ、次式で穴拡げ率λ(%)を算出した。
λ(%)={(d−10)/10}×100
(5)疲労試験
得られた熱延板から、試験片の長さ方向が、圧延方向と直角方向となるように、JIS Z 2275に規定される1号試験片(R:42.5mm,b:20mm)を採取し、平面曲げ疲れ試験を実施した。応力負荷は両振りとし、繰返し回数:10回まで行ない、破断しない応力の上限を疲労限(σf)とし、TSに対する疲労限の比σf/TSで、疲労特性を評価した。
【0052】
得られた結果を表3に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

【0055】
【表3】

【0056】
本発明例はいずれも、引張強さTS:780MPa以上の高強度を有し、さらに穴拡げ率λが60%以上と優れた伸びフランジ性と、さらにσf/TSが0.55以上と優れた耐疲労特性とを兼備する、高強度熱延鋼板となっている。とくに、熱間圧延の仕上温度を900℃超とすることにより、伸びフランジ性と耐疲労特性がより向上する。一方、本発明の範囲を外れる比較例は、引張強さTSが780MPa未満であるか、穴拡げ率λが60%未満であるか、σf/TSが0.55未満であるかして、所望の高強度、伸びフランジ性、耐疲労特性を兼備するまでに至っていない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C:0.05〜0.15%、 Si:0.2〜1.2%、
Mn:1.0〜2.0%、 P:0.04%以下、
S:0.005%以下、 Ti:0.05〜0.15%、
Al:0.005〜0.10%、 N:0.007%以下
を含み、固溶Tiが0.02%以上で、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成と、さらに平均粒径が5μm以下のベイナイト相単相からなる組織とを有することを特徴とする伸びフランジ性および耐疲労特性に優れることを特徴とする高強度熱延鋼板。
【請求項2】
前記平均粒径が5μm以下に代えて、平均粒径が3.0超〜5μmとすることを特徴とする請求項1に記載の高強度熱延鋼板。
【請求項3】
前記ベイナイト相単相からなる組織に代えて、組織全体に対する面積率で90%以上のベイナイト相と、該ベイナイト相以外の第二相とからなり、前記ベイナイト相の平均粒径が5μm以下、前記第二相の平均粒径が3μm以下である組織とすることを特徴とする請求項1に記載の高強度熱延鋼板。
【請求項4】
前記ベイナイト相の平均粒径が5μm以下に代えて、前記ベイナイト相の平均粒径が3.0超〜5μmとすることを特徴とする請求項3に記載の高強度熱延鋼板。
【請求項5】
前記組成に加えてさらに、質量%で、Sb:0.001〜0.020%を含有する組成とすることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の高強度熱延鋼板。
【請求項6】
前記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:0.05〜0.20%、Ni:0.05〜0.50%、Mo:0.05〜0.50%、Cr:0.05〜0.50%、B:0.0005〜0.0050%、Nb:0.01〜0.10%、V:0.01〜0.20%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成とすることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の高強度熱延鋼板。
【請求項7】
前記組成に加えてさらに、質量%で、Ca:0.0001〜0.0050%、REM:0.0005〜0.0100%のうちから選ばれた1種または2種を含有する組成とすることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の高強度熱延鋼板。
【請求項8】
質量%で、
C:0.05〜0.15%、 Si:0.2〜1.2%、
Mn:1.0〜2.0%、 P:0.04%以下、
S:0.005%以下、 Ti:0.05〜0.15%、
Al:0.005〜0.10%、 N:0.007%以下
を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する鋼素材に、熱間圧延を施し熱延板とするにあたり、
前記鋼素材を1150〜1350℃に加熱したのち、前記熱間圧延を、850〜950℃の仕上温度で終了する熱間圧延とし、
該熱間圧延終了後、30℃/s以上の平均冷却速度で530℃まで冷却し、ついで100℃/s以上の平均冷却速度で、巻取り温度:300〜500℃まで冷却し、該巻取温度で巻き取ることを特徴とする伸びフランジ性および耐疲労特性に優れた高強度熱延鋼板の製造方法。
【請求項9】
前記鋼素材を1150〜1350℃に加熱したのち、前記熱間圧延を、850〜950℃の仕上温度で終了する熱間圧延に代えて、前記鋼素材を1200℃超1350℃以下に加熱したのち、前記熱間圧延を、900℃超950℃以下の仕上温度で終了する熱間圧延とすることを特徴とする請求項8に記載の高強度熱延鋼板の製造方法。
【請求項10】
前記組成に加えてさらに、質量%で、Sb:0.001〜0.020%を含有する組成とすることを特徴とする請求項8または9に記載の高強度熱延鋼板の製造方法。
【請求項11】
前記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:0.05〜0.20%、Ni:0.05〜0.50%、Mo:0.05〜0.50%、Cr:0.05〜0.50%、B:0.0005〜0.0050%、Nb:0.01〜0.10%、V:0.01〜0.20%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成とすることを特徴とする請求項8ないし10のいずれかに記載の高強度熱延鋼板の製造方法。
【請求項12】
前記組成に加えてさらに、質量%で、Ca:0.0001〜0.0050%、REM:0.0005〜0.0100%のうちから選ばれた1種または2種を含有する組成とすることを特徴とする請求項8ないし11のいずれかに記載の高強度熱延鋼板の製造方法。

【公開番号】特開2012−12701(P2012−12701A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−115595(P2011−115595)
【出願日】平成23年5月24日(2011.5.24)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】