説明

伸縮継手の水平切断方法

【課題】水を使用することなくダイヤモンドワイヤソーの冷却と切り粉の除去をおこない、後処理を不要とする。
【解決手段】伸縮継手1を囲む溝2を回転ブレードで形成する。ダイヤモンドワイヤソー5を溝2の内部に配設し溝2やピットにシートを被せて大気から遮蔽する。ワイヤソー駆動装置7によってダイヤモンドワイヤソー5を走行駆動して床版を水平切断すると共に、吸引機9で溝2の内の空気を吸引して秒速20m以上の空気流をおこし、ダイヤモンドワイヤソー5に付着した切り粉を吸引除去すると共にダイヤモンドワイヤソー5を冷却する。除去された切り粉は集塵装置91で吸引して周囲に散逸しないように処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、老朽化等により交換が必要となった高架道路や橋梁等の伸縮継手をダイヤモンドワイヤソーによって水平切断する撤去工法において、コンクリートや鋼材の切断の際に不可欠な冷却水を使用することなく切断する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
老朽化したり、損傷した橋梁の伸縮継手を補修・交換するために伸縮継手を解体撤去する必要がある。
伸縮継手を撤去するには、伸縮継手と一体化されているコンクリート床版を切断して撤去しなければならない。従来、コンクリート床版の切断には、円形ブレードやダイヤモンドワイヤソーを使用する工法が採用されており、伸縮継手を包囲する溝を形成し、この溝にダイヤモンドワイヤソーを配設してコンクリート床版と共に伸縮継手部材やアンカー筋を水平切断する工法が低騒音・低振動の工法として注目を浴びている。
【0003】
この工法は、特許文献1(特許第3968380号公報)にあるように、伸縮継手の周囲のコンクリート床版を回転ブレード等で切断して伸縮継手を囲む溝を形成し、更に溝の内側に、伸縮継手に平行にトラブル時に使用する補助溝を形成し、溝の角部をコアドリルで切断し、円筒形コアを残置し角部の溝を曲線にしてダイヤモンドワイヤソーの走行を円滑にして床版を水平切断撤去する方法である。
また、特許文献2(特開2009−255403号公報)には、ダイヤモンドワイヤソーにドライアイス粒子を高速で吹き付け、ダイヤモンドワイヤソーに付着した切り粉を除去すると共にダイヤモンドワイヤソーを冷却することによって冷却水を不要とし、切断によって発生する切り粉を集塵装置で吸引して周囲に散逸しないように処理する水を使用しないドライなダイヤモンドワイヤソー工法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3968380号公報
【特許文献2】特開2009−255403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ダイヤモンドワイヤソーを使用する場合、冷却水をダイヤモンドワイヤソーに注水して冷却しているが、この冷却水が周囲に飛散して周囲を汚染するので飛散を阻止する手段を講じなければならず、また、切り粉を含んだ冷却水が周囲に流出しないように現場養生が必要である。更に、切り粉が冷却水に混合された泥水を産業廃棄物として処分しなければならず、コストがかかるという問題があった。
ドライアイス粒子をダイヤモンドワイヤソーに吹き付ける工法は、ドライアイス源となる炭酸ガスを供給するための液化炭酸ガス容器や、また、ドライアイス粒子を高速で供給するためのエアコンプレッサー等を含む空気供給装置が必要であり、装置の維持管理と、ドライアイスの原料の供給が必要なのでコストがかかるという問題があった。
【0006】
本発明は、冷却水を使用することなく、また、コストがかかるドライアイスを使用することなく床版をドライで切断できるようにし、その結果、泥水処理を不要として伸縮継手の切断撤去を簡略化すると共に、コスト低減と工期短縮を目指すものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
伸縮継手を囲む溝をコンクリート床版に形成し、この溝内にダイヤモンドワイヤソーを設置し、走行させてコンクリート床版及び伸縮継手を水平切断撤去する方法であって、ダイヤモンドワイヤソーを走行させる溝に空気吸引装置を連結して溝内に秒速20m以上の空気流を発生させることによってダイヤモンドワイヤソーを冷却し、冷却水を使用することなくコンクリート床版の切断を可能としたものである。
また、ダイヤモンドワイヤソーを設置した溝及び案内プーリ等を設置するために溝に連結して設けたピットなどの大気に開放された開口をシートや板で遮蔽することによって溝内に高速の空気流を発生しやすくしてダイヤモンドワイヤソーを冷却して切断するものである。
【発明の効果】
【0008】
ダイヤモンドワイヤソーを設置する溝に吸引装置を連結して溝内に高速の空気流を起こすことによってダイヤモンドワイヤソーを冷却してダイヤモンドワイヤソーの温度上昇を防止する。冷却水を使用することなくダイヤモンドワイヤソーを冷却することができるので、切り粉を含んだ汚泥水の処理が不要となり、かつ、吸引によって生じた空気流に乗って移動する切り粉を集塵装置に導くことにより切り粉を簡単に処分することができるので、処理費用が格段に低くなり、施工コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の伸縮継手水平切断撤去工程概念図。
【図2】本発明のワイヤソー切断機の設置説明図。
【図3】吸引補助具を設けた変換プーリの正面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1(1)に示すように、撤去する伸縮継手1の周囲に幅15mm程度の溝2を回転ブレードで床版及び伸縮継手1を切断して形成する。市販のブレード単独では幅15mmもの溝を切断形成することができないので、ブレードを複数枚重ねることにより必要な幅の溝2を形成するか、ダイヤモンドワイヤソー5を収容可能な幅を単独で切断することができる特殊サイズのブレードを使用する。
ブレードを重ね合わせる場合、ブレード間に銅製のスペーサを介在させることによって消音効果が得られる。
【0011】
撤去する伸縮継手1の大きさ(深さ)に応じて回転ブレードの直径を選択して切断深さを調整する。また、円形である回転ブレードの特性上、切断端部に向かって切断深さが浅くなるので、伸縮継手1に平行な方向の溝2と直角方向の溝2の交差部20においては、交差部20を越える余切り21を設ける。
溝2は橋軸に直角な方向(伸縮継手1に平行)に2本と橋軸方向に溝2本を形成するので四角形となる。幅員が大きな場合は、ダイヤモンドワイヤソー5の長さがあまり長くならないように適宜の位置に伸縮継手1を切断する切断溝を形成して四角形の大きさを調節するのが好ましい。
【0012】
ダイヤモンドワイヤソー5を収容して床版等を水平切断する溝2の内側に、必要に応じて伸縮継手1に平行(橋軸に直角方向)に、また、橋軸方向にも補助溝(図示しない)を形成する。これらの補助溝は、ダイヤモンドワイヤソー5による切断中に床版内に設置されている鉄筋やアンカーなどに引っかかってダイヤモンドワイヤソー5が走行不能に陥るなどのトラブルが生じた際、溝2と補助溝を利用して床版コンクリートを破砕したり、ジャッキを使用して隙間を拡げるなどしてダイヤモンドワイヤソー5の噛みこみトラブルを解消するものであり、補助溝の幅は溝2より狭いものでよい。
【0013】
伸縮継手1を包囲する溝2の角部をコアドリルによって複数回にわたって円形溝22を近接させて形成して溝2の深さまでコア抜きをおこない、複数の円形溝22を連接状態に各角部に形成する。コアドリルは単一のコアドリルを使用してもよく、また、径の異なるコアドリルを組み合わせて使用してもよい。
【0014】
図1(2)に示すように、角部に近い円形溝22にバールや楔を差し込んで破壊して撤去し、溝2に繋がる斜線で示すコーナー空間4を形成し、その他の円筒形コア3の円筒面がコーナー空間4側に露出するようにする。円筒面が露出し、ダイヤモンドワイヤソー5がこの面に沿って走行開始当初に走行するので、ダイヤモンドワイヤソー5の動き始めが円滑となる。
【0015】
ダイヤモンドワイヤソー5を切断溝2の内部に配設した状態を図1(3)に示す。従来の水平切断撤去工法に比較して、角部のダイヤモンドワイヤソー5の曲線が緩やかであり、ダイヤモンドワイヤソー5の走行開始が円滑におこなわれる。
【0016】
溝2の中間部や角部に、ダイヤモンドワイヤソー5の走行方向を変換する変換プーリを収容するピット(図示しない)を形成する。また、ダイヤモンドワイヤソー5をガイドするプーリ(図示しない)を設置するためのピットを必要に応じて設ける。
ピットの形成は、溝2に沿って2〜4cm間隔に溝2と同じ深さの複数の切断溝を平行に形成し、更に、この複数の切断溝に直角にピットの端部位置に切断溝を形成し、これらの切断溝に楔やバールを差し込んで力を加えることによって細片に細分化された床版コンクリートを撤去してピットを形成する。また、小径のコアドリルによって円形溝を連設して設けて楔やバールを円形溝に差し込み、円筒形のコアを撤去することによってもピットを形成することができる。
【0017】
ピットに近接する位置の床版S上にワイヤソー切断機7を設置し、ピット内にワイヤソー切断機7の駆動プーリ71から繰り出されるダイヤモンドワイヤソー5を水平方向に方向転換する変換プーリ8を設置し、ダイヤモンドワイヤソー5を溝2の内側に配設して一周させてワイヤソー切断機7に戻し、駆動プーリ71の回転駆動力によってダイヤモンドワイヤソー5を走行させて床版のコンクリートを切断する。
図2にワイヤソー切断機7から溝2にダイヤモンドワイヤソー5が配設される状態を模式的に示す。
【0018】
ダイヤモンドワイヤソー5が配設された溝2に吸引機9を連結し、吸引機9によって溝2内の空気を吸い込んで溝内に空気流を起こさせ、溝内の空気流を秒速20m以上、より好ましくは秒速25m以上とする。空気流の速度が秒速20m以上となるように吸引機の能力を決定する。1台の能力では十分でない場合は、吸引機を複数台使用する。
【0019】
溝内の空気流の速度が20m以上に達していないと、ダイヤモンドワイヤソー5の冷却が十分おこなわれず、配筋量の多い床版等を長時間連続して切断しているとダイヤモンドワイヤソーの温度が上昇し100℃を超えるので好ましくない。
空気流の速度を秒速20m以上とすることによってダイヤモンドワイヤソー5は十分冷却され、100℃を超える温度には達せず、連続的に切断が可能となり、効率よく切断作業をおこなうことができる。空気流の速度を秒速25m程度に上げると、ダイヤモンドワイヤソー5の温度は80℃程度に抑えられるのでより好ましい。
【0020】
図3に示すように、ダイヤモンドワイヤソー5を水平方向に方向転換する変換プーリ8に、ダイヤモンドワイヤソー5の導出口82と吸引器9を接続する接続口81を有する吸引補助具80を取り付けることによって、吸引を効果的におこなうことができる。
この変換プーリ8は、鋼管または形鋼材の先端にプーリ8がキャスターのように旋回可能に取り付けてあり、ワイヤソー切断機7の駆動プーリ71から送り出されてくるダイヤモンドワイヤソー5の走行方向を水平方向に変換するものである。
【0021】
吸引機9を作動させて溝内に空気流を生起させた場合、溝2やピットの上面が大気に開放されたままであると、開放部から大気が溝内に流入するため、溝全体において十分な空気流の速度が得られず、ダイヤモンドワイヤソーを冷却する効果が損なわれ、エネルギーを無駄に消費してしまうので、溝2やピットなどの大気に開放された部分をシート、板、充填物で遮蔽するのが好ましい。
【0022】
ダイヤモンドワイヤソー5を水平に溝2の中を走行させ、伸縮継手1の周囲のコンクリート床版及び伸縮継手、アンカー筋を水平切断することによって生じる切り粉は、溝2の内部に生じた空気流に乗って運ばれ、吸引機9に接続された集塵機91に導いて集塵する。
溝で囲まれた部分の水平切断が完了したら、溝2の内部の伸縮継手1を周囲の床版コンクリートと共に引き上げて撤去する。水平切断領域が大きい場合は、適宜の大きさに切断して撤去する。
集塵機91に集めた切り粉は適宜処分することができるので、冷却水を使用してダイヤモンドワイヤソーを冷却した場合のように、汚泥水を処理する必要がなく、現場が清潔に維持される。
【符号の説明】
【0023】
1 伸縮継手
2 切断溝
21 余切り
22 円形切断溝
3 円筒形コア
4 コーナー空間
5 ダイヤモンドワイヤソー
S 床版

【特許請求の範囲】
【請求項1】
伸縮継手を囲む溝をコンクリート床版に形成し、この溝内にダイヤモンドワイヤソーを設置すると共に溝に吸引装置を連結し、吸引装置で溝内の空気を吸引することによって溝内に秒速20m以上の空気流を生起させてダイヤモンドワイヤソーを冷却し、ダイヤモンドワイヤソーを駆動させながら吸引装置のフィルターに切り粉を集塵する伸縮継手の水平切断方法。
【請求項2】
請求項1において、溝及または溝の途中に設けた大気に開放された部分を遮蔽して大気との連通を断ってある伸縮継手の水平切断方法。
【請求項3】
請求項1また2において、吸引装置がダイヤモンドワイヤソーの変換プーリに設けた吸引補助具を介して溝に連結してある伸縮継手の水平切断方法。

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2012−140783(P2012−140783A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−293429(P2010−293429)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【特許番号】特許第4810634号(P4810634)
【特許公報発行日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【出願人】(510303958)株式会社ナイステック (1)
【出願人】(508117525)株式会社 アクティブ (5)
【出願人】(306033025)日本鉄塔工業株式会社 (19)
【Fターム(参考)】